説明

ボールネジ機構の劣化検査方法

【課題】ボールネジ機構を分解することなく、稼働中であってもグリース中の鉄粉濃度を正確に測定できる劣化検査方法を提供する。
【解決手段】ボールナット(6)の下方部(11)には、吸引管(17)を介して定量吸引ポンプ(18)を接続する。上方部(10)には定量グリース吐出バルブ(31)を接続する。前記吸引管(17)に鉄粉濃度計(37)を設ける。
ボールナット(6)内のグリースを少なくとも1/3以上残して、定量吸引ポンプ(18)で排出し、実質的に同量の新しいグリースを定量グリース吐出バルブ(31)により給脂する。前記吸引管(17)内のグリース中の鉄粉濃度を鉄粉濃度計(37)によって測定してボールネジ機構(2)の劣化状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構における、ボールネジ機構の劣化状態あるいは摩耗状態を検査する劣化検査方法およびボールネジ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーボモータで駆動される工作機械、生産機械等には、複数のボールネジ機構が設けられている。ボールネジ機構は、周知のように、ボールネジと、複数個のボールを介して前記ボールネジに螺合しているボールナットとから構成されている。したがって、ボールナットの回転を規制してボールネジを回転駆動すると、ボールナットが軸方向に駆動される。例えば、電動射出成形機には、一対の金型を型締する型締装置、型締された金型に溶融された樹脂を射出する射出装置等が備えられており、これらの装置にもボールネジ機構が設けられている。トグル式型締装置の場合、ボールネジに螺合するボールナットは、トグル機構を構成するクロスヘッドに固定されている。従って、ボールネジを例えばサーボモータにより回転駆動するとクロスヘッドが軸方向に駆動されて、型開閉されることになる。射出装置は、加熱シリンダ、この加熱シリンダの内部に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ等からなり、加熱シリンダの前方には射出ノズルが設けられている。このようなスクリュの後端部は、所定の機構を介して連結板に接続され、連結板にはボールネジと螺合しているボールナットが固定されている。従って、ボールネジを回転駆動すると、連結板と共にスクリュが軸方向に駆動され、加熱シリンダ内の溶融樹脂が射出ノズルから射出されることになる。
【0003】
このようなボールネジ機構は、内部に封入されているグリースによって潤滑されているが、ボールネジ機構においてはボールとネジ軸転動面とは金属接触しており、ころがり寿命による各部の摩耗、劣化は避けられない。例えば、グリースが適切に交換されていないとグリースが劣化して潤滑が不十分になってしまい、ボールネジ機構が早期に摩耗あるいは劣化してしまう。しかしながら、グリースが定期的に交換されて適切に潤滑が維持されていても、長期間稼動されていると摩耗や疲労によって少しずつ劣化する。適切に潤滑が維持されているボールネジ機構は初期の段階ではほとんど劣化しないが、稼動時間が累積してくるとボール表面に微細な傷が生じ始める。さらに、稼動時間が累積してくると劣化が進み、ボールが摩耗したり、ボールネジやボールナットの表面が鱗状に剥離する、いやゆるピーリングやフレーキングが発生してしまう。さらにこのような状態を放置していると機械にダメージを与える重大な故障が発生してしまうので、ボールネジ機構の劣化状態を推定してメンテナンス等を実施する必要がある。このようなボールネジ機構の劣化の兆候はグリースに現れる。例えば、ボール表面に微細な傷が生じ始めると、グリースに微量の鉄粉が含まれるようになり、さらに劣化が進むとグリース中の鉄粉濃度は高くなる。従って、グリース中の鉄粉の濃度を検査すればボールネジ機構の劣化の状態を推測することができ、従来から機械の定期点検時等にグリースを採取し、所定の検査機器によって鉄粉濃度を測定したり、熟練した技術者によって目視確認されている。そして、測定されたグリース中の鉄粉濃度が所定の濃度を超えると、点検が頻繁に実施されるようになったり、グリースは頻繁に交換され、さらに鉄粉濃度が高くなるとボールネジ機構は精密検査に付され、適宜部品が交換されることになる。
【0004】
【特許文献1】特開2008−134136号公報
【0005】
本発明の直接的な文献ではないが、特許文献1には、軸受内に封入されているグリースの劣化状態を測定するグリース劣化検出装置が記載されている。特許文献1に記載のグリース劣化検出装置においては、軸受内に所定の容量のグリースポケットが設けられ、このグリースポケット内に発光素子と受光素子とからなるセンサが設けられている。発光素子から発光された光はグリースを透過するときに減衰するので、受光素子で検出される光の強さを測定すれば所定の演算によってグリース中の鉄粉濃度が得られる。これにより、グリースの劣化状態を推測することが可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、定期点検時等にグリースを採取し鉄粉濃度を測定しても、ボールネジ機構の劣化状態を推定することはできる。しかしながら、解決すべき問題点も見受けられ、例えばグリースの採取方法に問題が認められる。従来周知のボールナットは、シールが十分では無いので、ボールナット内に所定の給脂口からグリースが給脂されると共に、封入されているグリースは少しずつ漏出するようになっており、漏出したグリースはボールネジの露出している部分に付着することになる。従って、ボールネジに付着したグリースを採取すれば鉄粉濃度を測定することはできる。しかしながら、このようにボールネジに付着しているグリースはボールネジが高速で回転すると飛散してしまい所定量の採取は困難であるし、漏出直後のグリースである保証も無いので、ボールナット内のグリース中の鉄粉濃度は正確には測定できない。ボールネジ機構を分解して内部のグリースを直接採取する方法もある。近年、ネジ溝の形状が改良されたボールネジと、このようなネジ溝に密着してグリースの漏出を実質的に防止するシールを備えたボールナットとからなるボールネジ機構が開発されてきており、このようなボールネジ機構に対しても分解してグリースを採取する方法は適用可能である。この方法によると、グリース中の鉄粉濃度は正確に測定することはできる。しかしながら、ボールネジ機構の分解は機械を停止して実施しなければならないので作業が煩雑で工数もかかるし、24時間の稼動が求められている機械に対しては実施できない。
【0007】
特許文献1に記載のグリース劣化検出装置をボールネジ機構に適用することができれば、ボールネジ機構が稼動中であっても正確にグリース中の鉄粉濃度が測定でき、ボールネジ機構の劣化状態を推定することができる。しかしながら、特許文献1に記載のグリース劣化検出装置は、風車の主軸軸受のような大型の軸受に設けられる装置であって、内部にセンサを設置できるような容量の比較的大きなグリースポケットを設けることが前提になっている。電動射出成形機等の生産機械に設けられているボールネジ機構には、このようなグリースポケットを設けることは難しい。
【0008】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、ボールネジ機構の劣化検査方法および劣化検査装置を備えたボールネジ機構を提供することを目的としており、具体的には、検査のためにボールネジ機構を分解する必要もなく、ボールネジ機構に格別にグリースポケットを設ける必要もなく、機械の稼働中であってもグリース中の鉄粉濃度を正確に測定できる、ボールネジ機構の劣化検査方法および劣化検査装置を備えたボールネジ機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、ボールナット内に封入されている、所定期間経過したグリースの所定量を残存させてグリースを強制的に排出し、そして実質的に同量の新しいグリースを供給するとき、排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定してボールネジ機構の劣化状態を検査するように構成される。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構において、前記ボールナット内に封入されているグリースの所定量を残存させて前記ボールナットの下方部からグリースを強制的に排出し、そして排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入してグリースを交換するとき、前記排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定して前記ボールネジ機構の劣化あるいは摩耗状態を検査するように構成される。請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の劣化検査方法において、前記ボールナット内のグリースを排出する吸引管中のグリース中の鉄粉濃度を磁気バランス式電磁誘導法により測定するように、そして請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の劣化検査方法において、ボールネジ機構が駆動されているときに、グリースの前記排出と前記注入と前記鉄粉濃度の測定を実施するように構成される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構において、
前記ボールナット内に封入されているグリースを排出するグリース排出手段と、前記グリース排出手段により排出される排出量と実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入するグリース注入手段と、グリース中の鉄粉濃度を測定する鉄粉濃度測定手段とを備え、前記鉄粉濃度測定手段は、前記グリース排出手段から排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定するように配置されている。請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のボールネジ機構において、前記グリース排出手段は前記ボールナットの下方部の吸引管を介して接続されえいる吸引ポンプからなり、前記前記鉄粉濃度測定手段は磁気バランス式電磁誘導法により鉄粉濃度を測定するようになっている鉄粉濃度計からなり、前記鉄粉濃度計は、前記吸引管中のグリース中の鉄粉濃度を測定するように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によると、ボールナット内に封入されているグリースの所定量を残存させてボールナットの下方部から所定量のグリースを強制的に排出し、そして排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入するとき、前記排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定して前記ボールネジ機構の劣化あるいは摩耗状態を検査するので、ボールネジ機構の劣化状態あるいは摩耗状態の検査はボールネジ機構を分解して実施する必要もないし、ボールナット内に格別にグリースポケットを設けてセンサを設置する必要もない。また、鉄粉濃度が測定されるグリースは直前までボールナット内に封入されていたグリースであることが保証されているので、ボールネジ機構の劣化状態を正確に推測することができる。さらには、グリースを排出するときに所定量を残存させるので、排出するグリースに空気が巻き込まれることはなく、正確に鉄粉濃度を測定することができる。すなわち、グリースに空気が含まれないので、測定対象のグリースの容量は正確であり鉄粉濃度を正確に測定することができる。さらには、グリースを排出するとき、ボールナット内のグリースの所定量を残存させるので、グリースを交換して鉄粉濃度を測定していても、その間最低のグリース量は確保されており、潤滑に支障を来すことはなくボールネジ機構を稼働させることができる。すなわち、24時間の連続稼動が要求されていても、稼動中に安全にボールネジ機構の劣化状態を検査することができる。また、他の発明によれば、グリース中の鉄粉濃度は磁気バランス式電磁誘導法で測定するように構成されているので、グリース中の鉄粉濃度を正確に検査することが可能であり、ボールネジ機構の劣化状態を正確に推定することができる。他の発明によると、鉄粉濃度測定手段はグリース排出手段から排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定するように配置されているので、あるいは鉄粉濃度計は前記吸引管中のグリース中の鉄粉濃度を測定するようになっているので、狭いスペースにも劣化検査装置すなわち鉄粉濃度計を設けることができる。また、吸引管中のグリース中の鉄粉を測定するようになっているので、グリース中に雰囲気中の鉄粉が混入することもなく、グリース中の鉄粉のみを正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係るボールネジ機構の劣化検査装置1は、グリース交換装置3が設けられている所定の構造を有するボールネジ機構2側に設けられている。初に、ボールネジ機構2とグリース交換装置3について説明する。ボールネジ機構2は、ボールネジ5と、このボールネジ5に複数個のボールを介して螺合しているボールナット6とからなっている。図1に示されている実施の形態によると、ボールナット6は、所定の部材7に固定されて回転が規制され、ボールネジ5が回転駆動され、軸方向に往復動的に駆動されるようになっている。このようなボールナット6の両端部には、ボールネジ5のネジ溝に密着する構造を有するグリース漏出防止シール9、9が設けられている。このシール9、9によりボールナット6の内部に封入されているグリースは、実質的に外部には漏出しない。さらに、ボールナット6の外周面の上部には、図には示されていないが内部まで達するグリース注入孔が明けられ、このグリース注入孔にグリースを外部から給脂する給脂口10が設けられている。同様にボールナット6の外周面の下部にも、図には示されていないが内部まで達するグリース排出孔が明けられ、このグリース排出孔にはグリースを外部に排出する排出口11が設けられている。
【0014】
グリース交換装置3は、概略的には、ボールナット6内に封入されている古いグリースを強制的に吸引して外部に排出する排出装置13と、新しいグリースをボールナット6内に給脂する給脂装置14と、排出装置13と給脂装置14とに指令を出力するコントローラ15とからなっている。排出装置13は、排出口11からグリースを吸引する吸引管17と、吸引管17に接続され、グリースを強制的に吸引するエア駆動式のピストンポンプ18と、ピストンポンプ18の排出管20に介装されている逆止弁22とから構成されている。ピストンポンプ18は、シリンダ23と、シリンダ23内に設けられエアで駆動されるピストン24とからなり、シリンダ23の先端部には逆止弁構造25が設けられている。ピストンあるいはピストンロッド24を往復動的に駆動するエア式ピストンシリンダユニット、このピストンシリンダユニットに圧縮空気を給排する空気圧回路等は、図1には示されていない。ピストンポンプ18は、上記のように構成されているので、ピストン24を所定距離だけ後方に引くと、シリンダ23内は負圧になって、逆止弁構造25の弁が開いて所定量のグリースがシリンダ23内に強制的に吸引され、ピストン24を前方に駆動すると、シリンダ23内が加圧されて弁が閉じ、シリンダ23内のグリースは排出管20から排出される。
【0015】
給脂装置14は、従来周知のように、新しいグリースを加圧して圧送するグリースポンプ27と、グリースポンプ27の吐出口に接続されている圧送管28と、圧送管28に接続されグリースを分配するジャンクション、すなわち集中ブロック30と、集中ブロック30に取り付けられ定量のグリースを吐出する、複数個の従来周知の定量グリース吐出バルブ31、31、…と、定量グリース吐出バルブ31と給脂口10とを接続している給脂管32とからなっている。グリースポンプ27には、新しいグリースが供給可能な状態に維持されており、信号ライン35を介してコントローラ15が接続され、コントローラ15からの指令で駆動されるようになっている。
【0016】
本実施の形態に係るボールネジ機構の劣化検査装置1は、いわゆる磁気バランス式電磁誘導法により鉄粉濃度を計測する鉄粉濃度計37からなり、吸引管17に設けられている。磁気バランス式電磁誘導法は、従来周知のように等しいインダクタンスからなる一対の励磁コイルのうち、一方の励磁コイルの内部に試料を入れて、両方の励磁コイルに交流電流を通電したときに誘導起電力に差が生じる現象を利用して鉄粉量を測定する方法である。このような誘導起電力の電圧差を所定の検出コイルによって検出すれば、試料中に含まれる鉄粉量を正確に測定することができる。従って、測定対象のグリースの容量が正確であれば鉄粉濃度を正確に測定することができる。吸引管17は、鉄粉濃度計37に設けられている一対の励磁コイルのうち一方の励磁コイルを貫通するように設けられている。後で説明するように吸引管17内には空気は混入しない。吸引管17内はグリースで満たされて、測定対象のグリースの容量は一定であり、吸引管17内のグリース中の鉄粉濃度が正確に測定できることになる。吸引管17は磁力を透過する樹脂製管路からなり、管内部のグリース中の鉄粉濃度が正確に測定できるようになっている。鉄粉濃度計37は信号ライン38を介してコントローラ15に接続され、グリース交換装置3と連動して駆動されるようになっている。
【0017】
本実施の形態に係るボールネジ機構2の作用について説明する。ボールネジ機構2は、図1においてボールナット6の一部が断面で示されているように、ボールナット6の内部の空隙の40〜60%だけグリース40が封入されて、適切に潤滑されている。機械の稼動時間が所定時間、例えば数ヶ月を経過したら、グリースを交換する。コントローラ15はピストンポンプ18に指令を出力する。そうすると、ピストン24は設定距離だけ矢印Y1の方向に、図示されないエアシリンダ等により駆動される。シリンダ23内は負圧になって、逆止弁構造の弁25が開いて、ボールナット6の内部のグリース40が吸引管17を経由してシリンダ23内に所定量が吸引される。このとき、ボールナット6の内部には、吸引前のグリース量の少なくとも1/3以上、好ましくは1/2以上のグリース40が残存するように実施する。このような量を残して吸引するので、シリンダ23内に吸引されるグリース中には空気はほとんど巻き込まれていない。吸引されるグリースに空気は含まれておらず、ピストン24を引く距離は一定であるので、吸引されるグリースは定量になる。次に、コントローラ15はピストンポンプ18に指令を出力する。そうすると、ピストン24は矢印Y2の方向に駆動され、グリースは逆止弁22を経由して使用済みグリース溜39に排出される。吸引管17にはボールナット6内から吸引されたグリース40が残っている。
【0018】
コントローラ15はグリースポンプ27を起動する。そうすると、グリースは圧送管28を経由して集中ブロック30に圧送される。集中ブロック30において分配されたグリースは定量グリース吐出バルブ31から吐出される。吐出量は定量であり、排出装置13で排出されたグリース量と実質的に同量である。吐出されたグリースは給脂管32および給脂口10を経由してボールナット6内に注入される。これにより、グリースの交換は完了する。なお、集中ブロック30には複数個の定量グリース吐出バルブ31、31、…が接続されているので、図に示されていない他のボールネジ機構にも同時に給脂することができる。
【0019】
コントローラ15は鉄粉濃度計37に指令を出力する。吸引管17内は、ボールナット6内から新しく吸引されたグリース40で満たされている。指令が出力されると、鉄粉濃度計37は、磁気バランス式電磁誘導法によって吸引管17内のグリース中の鉄粉濃度を測定して、鉄粉濃度を所定のインジケータ等に表示する。測定対象のグリースは、直前までボールナット6内に封入されていたグリース40であるので、ボールネジ機構2の劣化状態を正確に推定することができる。測定された鉄粉濃度からボールネジ機構2の劣化状態を推定することができ、以下のように対応することができる。
(1)グリース中の鉄粉濃度が0.05%wt以下のとき:
ボールネジ機構2は正常な状態であり劣化していない。ボールネジ機構2のメンテナンスは不要である。
(2)グリース中の鉄粉濃度が0.05〜0.1%wtのとき:
ボールネジ機構2のボール表面に傷が発生している。必要に応じてボールネジ機構2の検査を実施する。
(3)グリース中の鉄粉濃度が0.1%wt以上のとき:
ボールネジ機構2のボールは摩耗している。ボールネジ5やボールナット6にはピーリングやフレーキングが発生している可能性がある。機械を停止してボールネジ機構2を精密検査して劣化あるいは摩耗した部品を交換する。または、以後グリースの交換と鉄粉濃度の測定を高頻度で実施してボールネジ機構2の劣化の進行状況を監視する。
【0020】
グリースがボールナット6内から排出された直後であっても、グリースはボールナット6内に少なくとも1/3以上残存しているし、給脂も速やかに実施されるので、その間の潤滑には支障がなく機械を停止する必要はない。従って、グリースの交換と鉄粉濃度の測定は稼動中でも実施できる。グリースは1/3以上、好ましくは1/2以上残存した状態で交換されるので、新しいグリースと古いグリースは混ざってしまう。従って、交換直後のグリースにも所定の鉄粉が含まれた状態になってしまい、次回のグリースの交換時に測定される鉄粉濃度には、このような鉄粉も含まれてしまうことになる。つまり、計測される鉄粉濃度は、前回のグリースの交換時から次回のグリースの交換時までの間に発生した鉄粉による鉄粉濃度であるという保証が無いので、ボールネジ機構2の劣化状態が正確に推定できない可能性はある。しかしながら、古いグリースが残存して新しいグリースと混ざってしまっても、実質的には問題は無い。すなわち、ボールネジ機構2がほとんど劣化していないときには古いグリースの中にもほとんど鉄粉が含まれていないので測定される鉄粉濃度は低く問題がない。また、ボールネジ機構2の劣化が始まると、劣化の進行速度は加速することはあっても減速することはないので、測定される鉄粉濃度は前回よりも大きくなって、前回のグリースの交換時に残存してしまった鉄粉量を無視することができる。
【0021】
グリースの排出と給脂とは、実質的に同量になるように実施し、ボールナット6内に封入されているグリース量が変動しないように交換しているが若干の誤差が生じて、グリース量が変動してしまい潤滑に問題が生じる可能性もある。しかしながら、ボールネジ機構の寿命は数年であるので、数ヵ月毎にグリースの交換を実施しても、ボールネジを交換するまでに実施するグリースの交換回数は多くはない。従って、グリースの交換の度に排出量と給脂量との誤差が累積しても、ボールナット6内に封入されているグリース量の変動は小さく、潤滑には支障を来たすようなことはない。
【0022】
本発明の実施の形態に係るボールネジ機構2の劣化検査装置1は、上記実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、鉄粉濃度計37は、磁気バランス式電磁誘導法により鉄粉濃度を計測する鉄粉濃度計からなるように説明されているが、吸引管17のグリース中に一対の電極を差込みグリースの導電性を計測して鉄粉濃度を推定するようにしても良い。また、特許文献1に記載されているように、発光素子と受光素子とを設けて、グリース中を透過した光の減衰量から鉄粉濃度を推定するようにしても良い。さらには、格別に警報機等を設けて、鉄粉濃度計37において計測された鉄粉濃度が所定の濃度を超えたら警報を発するように実施することもできる。グリース交換装置3についても変形が可能である。例えば、グリース交換装置3においては定量のグリースが排出されると共に、定量のグリースが給脂されるように説明されているが、定量でなく可変量でもよく、排出されるグリースと実質的に同量のグリースが給脂されていれれば問題がない。また、ボールナット6への新しいグリースの供給は、上方部から供給されるようになっているが、下方から供給するようにしても良い。このときは、切替弁を設けるなどして、給排口を共用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態を模式的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ボールネジ機構の劣化検査装置
2 ボールネジ機構 3 グリース交換装置
5 ボールネジ 6 ボールナット
9 グリース漏出防止シール 10 給脂口
11 排出口 15 コントローラ 18 ピストンポンプ 27 グリースポンプ 30 集中ブロック 31 定量グリース吐出バルブ 37 鉄粉濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構において、
前記ボールナット内に封入されているグリースの所定量を残存させて前記ボールナットの下方部からグリースを強制的に排出し、そして排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入してグリースを交換するとき、前記排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定して前記ボールネジ機構の劣化あるいは摩耗状態を検査する、ボールネジ機構の劣化検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化検査方法において、前記ボールナット内のグリースを排出する吸引管中のグリース中の鉄粉濃度を磁気バランス式電磁誘導法により測定することを特徴とする、ボールネジ機構の劣化検査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の劣化検査方法において、ボールネジ機構が駆動されているときに、グリースの前記排出と前記注入と前記鉄粉濃度の測定を実施することを特徴とする、ボールネジ機構の劣化検査方法。
【請求項4】
ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構において、
前記ボールナット内に封入されているグリースを排出するグリース排出手段と、前記グリース排出手段により排出される排出量と実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入するグリース注入手段と、グリース中の鉄粉濃度を測定する鉄粉濃度測定手段とを備え、
前記鉄粉濃度測定手段は、前記グリース排出手段から排出されるグリース中の鉄粉濃度を測定するように配置されていることを特徴とする、ボールネジ機構。
【請求項5】
請求項4に記載のボールネジ機構において、前記グリース排出手段は前記ボールナットの下方部の吸引管を介して接続されえいる吸引ポンプからなり、前記前記鉄粉濃度測定手段は磁気バランス式電磁誘導法により鉄粉濃度を測定するようになっている鉄粉濃度計からなり、
前記鉄粉濃度計は、前記吸引管中のグリース中の鉄粉濃度を測定するようになっていることを特徴とする、ボールネジ機構。

【図1】
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【公開番号】特開2010−54199(P2010−54199A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216068(P2008−216068)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】