説明

ポリアミドイミド樹脂溶液とその製造方法、樹脂組成物及び塗料組成物

【課題】 分子量分布が狭く、比較的高分子量のポリアミドイミド樹脂を安定して低コストで合成することができ、かつ、エナメル線等への絶縁塗料として利用した際に、耐摩耗性及び電気絶縁性に優れるポリアミドイミド樹脂溶液を製造することのできるポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体(a)と2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する化合物(b)とを、γ−ブチロラクトン及びN,N−ジメチルアセトアミド溶媒中で反応させるポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法、この方法によって得られるポリアミドイミド樹脂溶液を含む樹脂組成物、及び、この樹脂組成物をバインダーとして用いた塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂溶液とその製造方法、樹脂組成物及び塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れているため、各種の基材のコート剤として広く使用され、例えば、エナメル線用ワニス、耐熱塗料などとして使用されている。近年、エナメル線を使用する電気メーカーでは、機器の製造工程の合理化のため、自動高速巻線機を導入しているが、巻線加工時にエナメル線に対して伸長、摩擦、衝撃、屈曲等の厳しいストレスが加わるようになり、エナメル線に対してより機械的強度及び電気絶縁的特性が要求されている。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂は、一般的に、トリメリット酸とジフェニルメタンジイソシアネート等をN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系の極性溶媒で一段合成することにより得ることができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−137794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系の極性溶媒中で合成したポリアミドイミド樹脂は分子量分布が広いため塗装の際に絶縁性が低下及びコストが高い欠点があった。
本発明は、上記課題を解決するものであり、分子量分布が狭く、比較的高分子量のポリアミドイミド樹脂を安定して低コストで合成することができるポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法を提供するものである。また、本発明は、機械的特性及び絶縁特性を保持したポリアミドイミド樹脂を含有するポリアミドイミド樹脂溶液を提供するものである。また、本発明のポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として利用し、電気絶縁性及び耐摩耗性に優れるエナメル線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、合成時に用いる溶剤としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)を利用することにより上記課題を解決することを見出した。
すなわち、本発明は以下に関する。
1. 酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体(a)と二価のアミノ基又はイソシアネート基を有する化合物(b)とを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)の合成溶媒中で反応させることを特徴とするポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【0007】
2. (a)成分が、酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体であり、(b)成分が、2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物であり、ポリアミドイミド樹脂が芳香族ポリアミドイミド樹脂である項1記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【0008】
3. (a)成分が、下記一般式(I)又は(II)で示される酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体であり、(b)成分が、下記一般式(III)、(IV)又は(V)で示される2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物であり、ポリアミドイミド樹脂が芳香族ポリアミドイミド樹脂である項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【0009】
【化1】

(Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

[式中、Rはアルキル基、水酸基又はアルコキシ基であり、Rはアミノ基またはイソシアネート基である。]
【0014】
4. ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が10000〜30000である項1〜3いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
5. ポリアミドイミド樹脂の分子量分布が1.5〜2.0である項1〜4いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
6. 項1〜5いずれかに記載の方法で製造されたポリアミドイミド樹脂溶液。
【0015】
7. 項6に記載のポリアミドイミド樹脂溶液を含む樹脂組成物。
8. 項7に記載の樹脂組成物をバインダーとして用いた塗料組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法により、分子量分布が狭く作業性が良好なポリアミドイミド樹脂溶液が得られる。また、ポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法によれば、従来の製造方法によって得られるポリアミドイミド樹脂と比較して、同等以上の電気絶縁性を有するポリアミドイミド樹脂が得られる。また、得られたN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)系の樹脂溶液は、従来のポリアミドイミド樹脂ワニスと比較して耐摩耗性が良好であり、コーティング用途、各種保護・被覆材等のバインダー樹脂等として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法に用いられる酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体(a)及び2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する化合物(b)としては、互いに反応してポリアミドイミド樹脂を形成するものであれば特に制限はない。ただし、本発明の方法は、吸湿性の低いN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)に対する溶解性が比較的低い芳香族ポリアミドイミド樹脂の合成に特に好適であることから、(a)成分として、酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体(芳香族トリカルボン酸無水物)を、(b)成分として、2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物(芳香族ジアミン化合物又は芳香族ジイソシアネート化合物)を用いることが好ましい。
【0018】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、(a)下記一般式(I)又は(II)で示される酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体を、(b)下記一般式(III)、(IV)、(V)で示される二価のアミノ基又はイソシアネート基を有する化合物の少なくとも1種と反応させて得られる芳香族系樹脂からなることが好ましい。
【0019】
(a)成分の例として、酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体としては、例えば一般式(I)及び(II)で示す化合物が挙げられ、イソシアネート基又はアミノ基と反応する酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体であればよく、特に制限はない。耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。これらの酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体は、目的に応じて単独又は混合して用いられる。
【0020】
【化6】

(Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)
【0021】
【化7】

【0022】
また、これらのほかに必要に応じて、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−スルホニルジフタル酸二無水物、m−ターフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等)などを使用することができる。
【0023】
(b)成分の例として、2価のアミノ基を有する芳香族化合物(芳香族ジアミン化合物)及び2価のイソシアネート基を有する芳香族化合物(芳香族ジイソシアネート化合物)としては、例えば下記一般式(III)、(IV)及び(V)で示す化合物が挙げられこれらの2価のアミノ基を有する芳香族化合物(芳香族ジアミン化合物)及び2価のイソシアネート基を有する芳香族化合物(芳香族ジイソシアネート化合物)は、目的に応じて単独又は混合して用いられる。
【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

[式中、Rはアルキル基(例えば、炭素数1〜20のアルキル基)、水酸基又はアルコキシ基(例えば炭素数1〜20のアルコキシ基)であり、Rはアミノ基またはイソシアネート基である。]
【0027】
一般式(III)、(IV)、(V)で示される芳香族ジアミン化合物及び芳香族ジイソシアネート化合物として、例えば、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノビフェニル、3,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメトキシビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメトキシビフェニル、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン、4,4′−ジイソシアナトビフェニル、3,3′−ジイソシアナトビフェニル、3,4′−ジイソシアナトビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジメトキシビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジメトキシビフェニル、1,5−ジイソシアナトナフタレン、2,6−ジイソシアナトナフタレン等を使用することができる。これらを単独でもこれらを組み合わせて使用することもできる。
【0028】
また、その他の芳香族ジアミン化合物及び芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4′−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジイソシアナトジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4′−イソシアナトフェノキシ)フェニル]プロパン等を挙げることができる。
【0029】
必要に応じて、(b)成分の一部としてヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジアミノイソホロン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,4−ジアミノトランスシクロヘキサン、水添m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアナトイソホロン、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,4−ジイソシアナトトランスシクロヘキサン、水添m−キシリレンジイソシアネート等の脂肪族、脂環式イソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートを使用することもできる。
【0030】
本発明における(c)芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート等を使用することができる。これらを単独でもこれらを組み合わせて使用することもできる。必要に応じてこの一部としてヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族、脂環式イソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートを使用することもできる。
【0031】
また、経日変化を避けるために必要な場合ブロック剤でイソシアネート基を安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としてはアルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。
【0032】
耐熱性、溶解性、機械特性、コスト面等のバランスを考慮すれば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0033】
本発明では、(a)成分と(b)成分を反応させる際に、溶媒として、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)を用いることを特徴とする。(a)成分と(b)成分を判のさせる際に、溶媒としてDMACを用いることで、分子量分布が狭く、比較的高分子量のポリアミドイミド樹脂を安定して低コストで合成することができる。
【0034】
(c)芳香族ポリイソシアネートの配合割合は、(a)と(b)のカルボキシル基、水酸基及び酸無水物基の総数に対する(d)のイソシアネート基の総数の比が0.6〜1.4となるようにすることが好ましく、0.7〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.8〜1.2となるようにすることが特に好ましい。0.6未満は樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向があり、1.4を超えると、発泡反応が激しくなり、樹脂の安定性が悪くなる傾向がある。
【0035】
また、合成溶媒の反応時の使用量は、(a)成分と(b)成分の合計量100重量部にあたり、100〜300重量部とすることが好ましく、150〜250重量部とすることがより好ましい。混合溶媒の使用量が150重量部未満であると、発泡反応が激しくなり、合成容器からふき出す傾向があり、250重量部を超えると、合成時間が長くなる傾向があり、また、樹脂濃度が低くなるため、塗料化した際に厚膜化しにくくなる傾向がある。
また、所定の数平均分子量のポリアミドイミド樹脂の合成を確認して加熱を停止した後には、必要に応じ、反応溶液中にN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)を添加し、得られるポリアミドイミド樹脂溶液中の混合溶媒の量を、(a)成分と(b)成分の合計量100重量部にあたり、180〜300重量部、好ましくは195〜245重量部となるように調整してもよい。得られるポリアミドイミド樹脂溶液中の混合溶媒の量が(a)成分と(b)成分の合計量100重量部にあたり、260重量部未満であると、樹脂溶液がゲル化するなど、安定性が悪くなる傾向があり、330重量部を超えると、塗膜化する際に厚膜化しにくくなる傾向がある。
【0036】
本発明のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法は、例えば次の手順で実施することができる。
(1)(a)成分(酸成分)及び(b)成分(ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物成分)とを一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(2)(a)成分と(b)の過剰量とを反応させて末端にイソシアネート基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、(a)成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(3)(a)成分の過剰量と(b)成分を反応させて末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、(a)成分と(b)成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
【0037】
反応温度は80〜150℃が好ましく、90〜130℃がより好ましい。反応時間は、目的とするポリアミドイミド樹脂溶液中のポリアミドイミド樹脂の分子量によって異なるが、通常、3〜12時間が好ましく、4〜9時間がより好ましい。
【0038】
本発明の製造方法によって得られるポリアミドイミド樹脂溶液中のポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が10,000〜30,000であることが好ましく、12,000〜25,000であることがより好ましい。数平均分子量が10,000未満であると、塗料としたときの成膜性が悪くなる傾向があり、30,000を超えると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向にあり、又、塗料やワニスが吸湿白化しやすく作業性に劣る。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、12,000〜25,000にすることがより好ましい。なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0039】
本発明の樹脂組成物をバインダー成分として用い、さらに必要に応じてフッ素樹脂化合物、着色剤等の添加剤を添加しN,N−ジメチルアセトアミド、N,N′−ジメチルホルムアミド、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの溶媒に溶解され、適当な粘度に調整して塗料組成物とすることができる。塗料とする場合、一般に固形分は10〜50重量%とされる。
【0040】
本発明のポリアミドイミド樹脂溶液、樹脂組成物及び塗料組成物は、260〜520℃で20分〜50分の熱処理で乾燥・硬化することができる。低温で硬化させると溶剤が残り、基材を保護する塗膜特性が劣る可能性がある。また、260℃未満の硬化では、塗膜の硬化が不十分で、極性溶媒に溶解又は膨じゅんする可能性がある。加熱時間は20分未満であると塗膜に残存溶媒がのこり、基材に塗布された塗膜の特性が劣ることがあり、50分を超えると、長期に熱を加えることにより、塗料として固体潤滑剤等を加えたときに副反応を起こすことがあり、塗膜の特性を劣化させることがある。
【0041】
得られた塗料を被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に機械的特性及び絶縁的特性に優れた塗膜を形成することができる。被塗物としては、銅線等の金属線が挙げられ、これに前記塗料を塗布、焼き付けを行うことにより絶縁性及び耐摩耗性に優れたエナメル線が得られる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
実施例1
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)、N,N−ジメチルアセトアミド543.8gを仕込み130℃まで昇温し、約3時間反応させる。分子量16000となったら加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分33.8重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0044】
実施例2
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)、N,N−ジメチルアセトアミド543.8gを仕込み130℃まで昇温し、約3.5時間反応させる。分子量16700となったら加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分34.3重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0045】
実施例3
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)、N,N−ジメチルアセトアミド543.8gを仕込み130℃まで昇温し、約4時間反応させる。分子量17900となったら加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分33.6重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0046】
実施例4
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)、N,N−ジメチルアセトアミド543.8gを仕込み130℃まで昇温し、約5時間反応させる。分子量18700となったら加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分33.7重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0047】
比較例1
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン250.3g(1.00モル)及びN−メチル−2−ピロリドン361.9gを仕込み、130℃まで昇温し、4時間反応させて、分子量16500の不揮発分重量32.2重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0048】
比較例2
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み、130℃まで昇温し、5時間反応させ、分子量18000の不揮発分重量31.9重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0049】
試験例
実施例1〜3及び比較例1、2で得られたポリアミドイミド樹脂溶液を用いて下記に示す
焼付け条件に従って直径1.0mmの銅線に塗布し、焼付けを行い、エナメル線を製造した。
〔焼付条件〕
塗装回数:ダイス8回
焼付け炉:熱風式竪炉(炉長5m)
炉温:入口/出口=320℃/430℃
線速:12m/分
【0050】
得られたエナメル線皮膜は、いずれも外観上良好であった。各エナメル線皮膜の特性を下記の方法により試験し、結果を表1に示した。
(1)外観:目視により、樹脂組成物ワニスの外観及び塗膜の濁り、表面の肌荒れを調べた。
(2)可撓性:JIS C3003.8.1(1)に準じて調べた。
(3)絶縁破壊電圧:JIS C3003.11.(2)に準じて調べた。
(4)一方向式耐摩耗性:JIS C3003.10に準じて行った。
(5)耐軟化温度:JIS C3003.12(2)に準じて行った。
(6)分子量分布:ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定される。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示した結果から、本発明の実施例1〜4で得られたポリアミドイミド樹脂溶液は、分子量分布が通常のポリアミドイミドワニスである比較例1〜2より狭くなっている。また得られたポリアミドイミド樹脂溶液の樹脂濃度は33重量%以上であるので、塗装した際に厚く皮膜が作製されやすい。本発明のポリアミドイミド樹脂組成物を用いて得られたエナメル線(実施例1〜4)は、比較例1〜2のものと比べて、絶縁破壊電圧及び耐摩耗性に優れており、しかも耐軟化温度も良好であることが分かる。従って、本発明のポリアミドイミド樹脂は、これまでのポリアミドイミドと同様の特性を有し。さらに、本発明は、これまで使用されてきたN−メチル−2−ピロリドンを使用しないので、毒性がなく、作業性向上を図ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体(a)と2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する化合物(b)とを、N,N−ジメチルアセトアミド溶媒中で反応させることを特徴とするポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項2】
(a)成分が、酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体であり、(b)成分が、2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物であり、ポリアミドイミド樹脂が芳香族ポリアミドイミド樹脂である請求項1記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項3】
(a)成分が、下記一般式(I)又は(II)で示される酸無水物基を有する3価の芳香族カルボン酸の誘導体であり、(b)成分が、下記一般式(III)、(IV)又は(V)で示される2価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物であり、ポリアミドイミド樹脂が芳香族ポリアミドイミド樹脂である請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【化1】

(Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

[式中、Rはアルキル基、水酸基又はアルコキシ基であり、Rはアミノ基またはイソシアネート基である。]
【請求項4】
反応温度が80℃〜140℃である請求項1〜3いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項5】
反応時間が3〜12時間である請求項1〜4いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項6】
ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が10000〜30000である請求項1〜5いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の方法で製造されたポリアミドイミド樹脂溶液。
【請求項8】
請求項7に記載のポリアミドイミド樹脂溶液を含む樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物を導体上に塗布、焼付けてなるエナメル線。

【公開番号】特開2011−225741(P2011−225741A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97799(P2010−97799)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】