説明

ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線

【課題】平角導体の全周にわたって均一な厚さの絶縁被膜を形成でき、作業性・生産性がよい絶縁被膜を提供する絶縁塗料と、この塗料を塗布・焼付された絶縁電線を提供する。
【解決手段】4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とするイソシアネート成分およびトリメリット酸無水物を主成分とする酸成分を合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂を、130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分とする溶媒成分に溶解させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であって、前記溶媒成分の70〜100質量%が前記環状ケトン類であり、前記イソシアネート成分(A)と前記酸成分(B)とを合わせた配合量に対する前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(a)と前記トリメリット酸無水物(b)とを合わせた配合量との比率(a+b)/(A+B)が、モル比で85〜100モル%であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線に係り、特に、モータや変圧器等の電気機器のコイル用として好適なポリアミドイミド樹脂絶縁塗料およびそれを用いて導体上に絶縁被膜を形成した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、モータや変圧器等の電気機器のコイルとして、絶縁電線(エナメル線)が広く用いられている。この絶縁電線は、コイルの用途、形状に応じた断面形状を有する導体の周囲に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の樹脂を有機溶剤に溶解させて調製した絶縁塗料を塗布、焼付けして形成した1層または複数層の絶縁被膜を備える。
【0003】
近年のモータ等の電気機器では、小型化、高出力化に伴い、高い占積率が求められているため、断面形状が円形状の導体上に絶縁被膜を形成した絶縁電線から高い占積率で巻線ができる断面形状が平角形状の導体(平角導体)上に絶縁被膜を形成した絶縁電線が使用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
図1および図2は、平角形状の断面を有する平角導体上に絶縁被膜を形成した絶縁電線を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、平角導体11を用いた絶縁電線10では、占積率を増大させるために、絶縁被膜12の厚さが四隅に設けられた角部13および平坦部14を含む全周にわたって均一であることが求められている。しかし、従来では、図2に示すように、平角導体21上に絶縁被膜22を形成する際、平角導体21上に塗布した絶縁塗料が焼付けされて絶縁被膜が形成されるまでの間に、絶縁塗料の表面張力によって平角導体21の角部23から平坦部24にかけて絶縁塗料が流れてしまい、角部23上の絶縁被膜の厚さが平坦部24などの部分の厚さよりも薄くなってしまうことがあった。このような問題に対して、例えば、平角導体として、角部を多角形状にした断面多角形状の平角導体を用いることにより、絶縁被膜を全周にわたって均一にする手段が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−14066号公報
【特許文献2】特開2004−134113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の断面多角形状の平角導体では、一般の平角形状から多角形状にするための特別な伸線ダイスや伸線工程が必要になること、断面多角形状の平角導体上に絶縁塗料を塗布するための特別な塗装ダイスや塗装工程が必要になることなどから、絶縁電線を製造する上で手間な作業が多くなり、作業性が悪い。また、それに伴い絶縁電線の価格の高騰を招くおそれがある。
【0007】
特に、最近では、更なる占積率の向上のために、角部の曲げ半径Rをより小さくした平角導体(例えば、曲げ半径Rが0.4mm未満の平角導体)を用いた絶縁電線が望まれている。このような曲げ半径Rの小さい平角導体は、従来よりも角部における絶縁塗料の表面張力が大きくなって絶縁塗料の平坦部への流れ出しが多くなるため、さらに絶縁被膜の厚さが不均一になってしまう。
【0008】
従って、本発明の目的は、平角導体の全周にわたって均一な厚さの絶縁被膜を形成でき、作業性・生産性がよい絶縁被膜を提供する絶縁塗料と、この塗料を塗布・焼付された絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、上記目的を達成するため、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とするイソシアネート成分およびトリメリット酸無水物を主成分とする酸成分を合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂を、130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分とする溶媒成分に溶解させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であって、前記溶媒成分の70〜100質量%が前記環状ケトン類であり、前記イソシアネート成分(A)と前記酸成分(B)とを合わせた配合量に対する前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(a)と前記トリメリット酸無水物(b)とを合わせた配合量との比率(a+b)/(A+B)が、モル比で85〜100モル%であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を提供することにある。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係るポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記環状ケトン類は、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘプタノンのうちの少なくとも1つからなる。
(2)前記イソシアネート成分は、70〜100モル%の前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、0〜30モル%の前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート以外の他のイソシアネート類とからなる。
(3)前記酸成分は、80〜100モル%の前記トリメリット酸無水物と、0〜20モル%のテトラカルボン酸二無水物類、あるいはトリカルボン酸類とからなる。
【0011】
また、本願発明は、上記目的を達成するため、平角導体上に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とするイソシアネート成分およびトリメリット酸無水物を主成分とする酸成分を合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂を、130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分とする溶媒成分に溶解させて得られ、前記溶媒成分の70〜100質量%が前記環状ケトン類であり、前記イソシアネート成分(A)と前記酸成分(B)とを合わせた配合量に対する前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(a)と前記トリメリット酸無水物(b)とを合わせた配合量との比率(総合配合比率)(a+b)/(A+B)が、モル比で85〜100モル%であるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、直接または他の絶縁被膜を介して塗布、焼付けして形成された絶縁被膜を有することを特徴とする絶縁電線を提供することにある。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係る絶縁電線において、前記絶縁被膜の表面に、潤滑性絶縁被膜を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、平角導体の全周にわたって均一な厚さの絶縁被膜を形成でき、作業性・生産性がよい絶縁被膜を提供する絶縁塗料と、この塗料を塗布・焼付された絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】平角形状の断面を有する平角導体上に絶縁被膜を形成した絶縁電線を模式的に示す断面図である。
【図2】平角形状の断面を有する平角導体上に絶縁被膜を形成した絶縁電線を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
(溶媒成分)
本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、溶媒成分は、全溶媒成分の70〜100質量%が130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類であることが好ましい。このような環状ケトン類からなる溶媒成分とすることにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の乾燥性を向上させる(乾燥する速さを速くする)ことができる。これにより、例えば、平角導体上に環状ケトン類を主成分としたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布した場合に、平角導体の角部に塗布されたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が平坦部に流れ始める前に、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が乾燥し始める(平坦部に流れ難くなる)ため、平角導体の平坦部上に形成された絶縁被膜の厚さが厚くなり、角部上に形成された絶縁被膜の厚さが薄くなるなど、平角導体上の絶縁被膜の厚さが不均一になってしまうことを防ぐことができる。その結果、通常に用いられている平角導体上に均一な厚さの絶縁被膜を有する絶縁電線を提供することができ、絶縁被膜の厚さが均一となることで、絶縁破壊電圧や耐部分放電性などの電気的な絶縁性能を確保、乃至向上させた絶縁電線を再現性よく提供することができる。また、特別な形状を有する平角導体等を用いることがないので、作業性・生産性のよい絶縁電線を提供することができる。
【0017】
なお、本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の溶媒成分としては、環状ケトン類が全溶媒成分の70〜100質量%、望ましくは85〜100質量%であることが好ましい。また、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の溶解性を向上させることを目的として、例えば、NMPやDMAC、DMF、DMIなどから選ばれる1つ以上を全溶媒成分の30質量%以下の範囲で環状ケトン類と併用してもよい。さらに、希釈用途として芳香族アルキルベンゼン類などを併用しても良い。
【0018】
(ポリアミドイミド樹脂)
本発明のポリアミドイミド樹脂は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を主成分とするイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物(TMA)を主成分とする酸成分との主に2成分の合成反応により得られるものである。このようなポリアミドイミド樹脂は、アミド結合とイミド結合の間にある分子構造単位が比較的規則的に並んで形成され、水素結合やπ−π相互作用などで僅かながら結晶性を有する。例えば、分子骨格中に配向性を持ちやすいビフェニル構造などを導入すると、NMP溶媒であってもその樹脂の溶解性は低下し、場合によっては析出することもある。
【0019】
本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、環状ケトン類を主成分とする溶媒成分に対するイソシアネート成分および酸成分を合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂の溶解性を向上させるために、ポリアミドイミド樹脂として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)以外の他のイソシアネート成分、あるいはトリメリット酸無水物(TMA)以外の他の酸成分をMDIおよびTMAと併用させたポリアミドイミド樹脂を使用して、ポリアミドイミド樹脂の原料に依存する比較的規則的な配列を乱し、結晶性を低減することが好ましい。
【0020】
(他のイソシアネート成分)
ポリアミドイミド原料に依存する比較的規則的な配列を乱して結晶性を低減するために用いる4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)以外の他のイソシアネート成分としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H−MDI)、キシシレンジイソシアネート(XDI)、水添XDIなどの脂肪族ジイソシアネート類や、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルスルホンジイソシアネート(SDI)などの芳香族ジイソシアネート類などを併用することが好ましい。また、このような他のイソシアネート成分として、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの多官能イソシアネートやポリメリックイソシアネート、TDIなどの多量体などでも良く、また、TDIやMDIの異性体を含むものも同じ効果をもたらすことができる。
【0021】
但し、MDIとTMAとを合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂において、200℃以上の耐熱性や機械的特性などの優れた特性レベルを維持させるためには、芳香族ジイソシアネート類が望ましいが、基本構造の変更を最小限にとどめ、かつ、溶解性を向上させるために、ポリメリックMDIや液状のモノメリックMDIを併用することが特に望ましい。他のイソシアネート成分を併用する場合、その配合量については、モル比で全イソシアネート成分の2〜30モル%が望ましく、2〜15モル%がなお望ましい。また溶解性の向上には連結基にスルホン基のあるSDIが有効である。
【0022】
(他の酸成分)
ポリアミドイミド樹脂の原料に依存する比較的規則的な配列を乱して結晶性を低減するために用いるトリメリット酸無水物(TMA)以外の他の酸成分としては、テトラカルボン酸類、あるいはトリカルボン酸類が挙げられる。
【0023】
テトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物類やブタンテトラカルボン酸二無水物や5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物類などが挙げられる。
【0024】
また、トリカルボン酸類としては、例えば、トリメシン酸やトリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート(CIC酸)などのトリカルボン酸類などが挙げられる。
【0025】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の特性の維持の観点からは、芳香族テトラカルボン酸二無水物類が望ましく、溶解性が良好であることからDSDAやBTDAがなお望ましい。また、可とう性を付与する目的などでエステル基をもつテトラカルボン酸二無水物類を併用しても良いが、耐熱性や加水分解性の低下を招くため、少量の併用にとどめておくことが望ましい。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物類およびトリカルボン酸類を併用する場合の配合量としては、モル比で全酸成分の2〜20モル%が望ましく、2〜10モル%がなお望ましい。
【0027】
(MDIとTMAの配合比率)
本発明のポリアミドイミド樹脂では、イソシアネート成分(A)と酸成分(B)とを合わせた配合量に対する4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(a)とトリメリット酸無水物(b)とを合わせた配合量との比率(a+b)/(A+B)が、モル比で85〜100モル%であることが好ましい。
【0028】
なお、数種類のイソシアネート成分および数種類の酸成分を共重合させてポリアミドイミド樹脂を合成する際には、イソシアネート成分中の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の配合量はモル比で70〜98モル%が望ましく、85〜98モル%がなお望ましい。同様に、酸成分中のトリメリット酸無水物(TMA)の配合量はモル比で、80〜98モル%が望ましく、90〜98モル%がなお望ましい。
【0029】
(反応触媒)
ポリアミドイミド樹脂の合成時においては、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良いが、塗料の安定性を阻害しないものが望ましい。
【0030】
[実施例]
本発明の絶縁電線は、図1に示すように、平角形状の平角導体11上に本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成した絶縁被膜12を有する絶縁電線である。なお、本発明の絶縁電線は、平角導体11と、絶縁被膜12との間あるいは絶縁被膜12と図示していない他の絶縁被膜との間に、平角導体11と絶縁被膜12との間あるいは絶縁被膜12と他の絶縁被膜との密着性を向上させるための密着性付与絶縁被膜や、可とう性を向上させるための可とう性付与絶縁被膜を形成してもよい。また、本発明の絶縁電線は、絶縁被膜12の周囲に潤滑性を付与するための潤滑性付与絶縁被膜を形成してもよい。これらの他の絶縁被膜、潤滑性絶縁被膜は、絶縁塗料を塗布、焼付けすることによって形成してもよいし、押出機を用いた押出成形によって形成してもよい。
【0031】
(絶縁電線の製造方法)
各実施例、比較例の絶縁電線を以下のようにして製造した。
まず、表1に示すような組成のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の原料を攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えたフラスコに投入し、窒素雰囲気中で攪拌しながら約1時間で140℃まで加熱した。平均分子量約22000のポリアミドイミド樹脂溶液が得られるように、この温度で2時間反応させた後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の樹脂分100質量部に対して、溶媒成分が300質量部となるように溶剤希釈にて作製した。
【0032】
次に、得られたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、2.0×3.0mm、角部のR=0.3mmの寸法を有する断面が平角形状の平角導体上に絶縁被膜の厚さが50μmとなるように塗布、焼付けし、絶縁被膜を形成して絶縁電線を得た。
【0033】
(実施例1)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDI、酸成分として192.0g(1.00モル)のTMA及び溶剤として800gのシクロヘキサノンと200gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロヘキサノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、100.0モル%とした。
【0034】
(実施例2)
イソシアネート成分として212.5g(0.85モル)のMDIと42.5g(0.17モル)の液状モノメリックMDI、酸成分として172.8g(0.90モル)のTMAと35.8g(0.10モル)のDSDA及び溶剤として850gのシクロヘプタノンと150gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロヘプタノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、86.7モル%とした。
【0035】
(実施例3)
イソシアネート成分として230.0g(0.92モル)のMDIと28.7g(0.08モル)のポリメリックMDI、酸成分として172.8g(0.90モル)のTMAと32.2g(0.10モル)のBTDA及び溶剤として850gのシクロヘキサノンと150gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロヘキサノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、91.0モル%とした。
【0036】
(実施例4)
イソシアネート成分として212.5g(0.85モル)のMDIと42.5g(0.17モル)の液状モノメリックMDI、酸成分として172.8g(0.90モル)のTMAと32.2g(0.10モル)のBTDA及び溶剤として850gのシクロペンタノンと150gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロペンタノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、86.7モル%とした。
【0037】
(実施例5)
イソシアネート成分として187.5g(0.75モル)のMDIと52.5g(0.15モル)のポリメリックMDIと20.7g(0.11モル)のXDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのシクロヘキサノン及び触媒として0.5gの1,2ジメチルイミダゾールを投入し、合成を行った後、シクロヘキサノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、86.8モル%とした。
【0038】
(実施例6)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDI、酸成分として153.6g(0.80モル)のTMAと35.8g(0.10モル)のDSDAと23.0g(0.07モル)のCIC酸及び溶剤として950gのシクロヘキサノンと50gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロヘキサノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、90.0モル%とした。
【0039】
(実施例7)
イソシアネート成分として245.0g(0.98モル)のMDIと7.0g(0.02モル)のポリメリックMDI、酸成分として188.2g(0.98モル)のTMAと7.2g(0.02モル)のDSDA及び溶剤として650gのシクロヘキサノンと350gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロヘキサノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、98.0モル%とした。
【0040】
(比較例1)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDI、酸成分として192.0g(1.00モル)のTMA及び溶剤として800gのNMPと200gのγ−ブチロラクトンを投入し、合成を行った後、NMPで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、100.0モル%とした。
【0041】
(比較例2)
イソシアネート成分として230.0g(0.92モル)のMDIと28.7g(0.08モル)のポリメリックMDI、酸成分として134.4g(0.70モル)のTMAと96.6g(0.30モル)のBTDA及び溶剤として850gのシクロヘキサノンと150gのNMPを投入し、合成を行った後、シクロヘキサノンで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。MDIとTMAの総合配合比率は、80.1モル%とした。
【0042】
上記のように作製した絶縁電線(実施例1〜7および比較例1〜2)に対して、次のような試験を行った。絶縁被膜の寸法は、作製した絶縁電線を、該絶縁電線を固定するための樹脂中に埋め込み、樹脂に埋め込まれた絶縁電線の先端部分の断面を樹脂と共に研磨し、研磨して露出した断面から絶縁被膜の寸法を測定した。また、耐熱性試験は、JIS C 3003に準拠して軟化温度を測定し、軟化温度が400℃以上のものを合格、400℃未満のものを不合格として評価した。また、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の性状は、作製したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の外観を目視にて観察し、褐色透明で異常のないものを合格、白濁などが発生しているものを不合格として評価した。
【0043】
各種測定評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、全溶媒成分の70〜100質量%が130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類であるとともに、MDIとTMAの総合配合比率が85〜100モル%である実施例1〜7のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、300日以上の常温安定性を有するとともに、角部上に形成された絶縁被膜の厚さと平坦部上に形成された絶縁被膜の厚さとがほぼ同じ厚さであり、全周にわたって絶縁被膜の厚さが均一な絶縁電線が得られたことがわかる。
【0046】
一方、比較例1は、300日以上の常温安定性を有するものの、角部上に形成された絶縁被膜が平坦部上に形成された絶縁被膜に比べて薄くなってしまい、全周にわたって均一な厚さの絶縁被膜が得られていないことがわかる。MDIとTMAの総合配合比率が80.1モル%である比較例2では、イミド比率が高くなりすぎたため、溶解性が悪化し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の外観が白濁してしまったため、絶縁被膜を形成しないこととした。
【0047】
以上より、本発明によれば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とするイソシアネート成分およびトリメリット酸無水物を主成分とする酸成分を合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂を、130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分とする溶媒成分に溶解させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であって、溶媒成分の70〜100質量%が前記環状ケトン類であり、イソシアネート成分(A)と酸成分(B)とを合わせた配合量に対する4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(a)とトリメリット酸無水物(b)とを合わせた配合量との比率(a+b)/(A+B)が、モル比で85〜100モル%であるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料としたことにより、特別な塗装ダイスや塗装工程を要することのない従来の塗装方式によって、平角導体の全周にわたって均一な厚さの絶縁被膜を形成できる。すなわち、本発明によれば、平角導体の全周にわたって均一な厚さを有し、作業性・生産性がよい絶縁被膜を提供することができるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料と、このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼付された絶縁電線を提供することができる。
【0048】
また、最近では、絶縁被膜を形成するための絶縁塗料において、溶媒成分の主成分として使用されているNMPやDMFなどが環境や人体等に対して有害となる可能性があることが懸念されている。本発明の絶縁塗料(ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)では、溶媒成分の主成分を環状ケトン類とすることにより、有害となる可能性のあるNMPやDMFなどを低減することができるため、環境等に対しての影響を低減したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料および絶縁電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0049】
10、20 絶縁電線
11、21 平角導体
12、22 絶縁被膜
13、23 角部
14、24 平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とするイソシアネート成分およびトリメリット酸無水物を主成分とする酸成分を合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂を、130℃から180℃の範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分とする溶媒成分に溶解させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であって、
前記溶媒成分の70〜100質量%が前記環状ケトン類であり、
前記イソシアネート成分(A)と前記酸成分(B)とを合わせた配合量に対する前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(a)と前記トリメリット酸無水物(b)とを合わせた配合量との比率(a+b)/(A+B)が、モル比で85〜100モル%であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項2】
前記環状ケトン類は、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘプタノンのうちの少なくとも1つからなる請求項1記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項3】
前記イソシアネート成分は、70〜100モル%の前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、0〜30モル%の前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート以外の他のイソシアネート類とからなることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項4】
前記酸成分は、80〜100モル%の前記トリメリット酸無水物と、0〜20モル%のテトラカルボン酸二無水物類、あるいはトリカルボン酸類とからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項5】
平角導体上に、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成された絶縁被膜を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
前記絶縁被膜の表面に、潤滑性絶縁被膜を有する請求項5記載の絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−187262(P2011−187262A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50137(P2010−50137)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】