説明

ポリアミド樹脂及びそれを用いたポリアミド成形品

【課題】 透明性及び機械的強度を損なうことなく、260℃のリフロー温度に耐える耐熱性を備える架橋ポリアミド成形品、及びこれに用いるポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 少なくとも脂環式ジアミンを含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分とを縮合重合したポリアミド樹脂であって、前記ジアミン成分として不飽和ジアミンを含有し、及び/又は前記ジカルボン酸成分として不飽和ジカルボン酸を含有し、さらに該不飽和ジアミンと該不飽和ジカルボン酸の合計は、全ジアミン成分と全ジカルボン酸成分の合計に対して1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする、ポリアミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等に用いられ、リフロー実装に対応できる耐熱性を有する透明な樹脂成形品、及びこれに用いるポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板への電子部品の実装は、リフローはんだ等による自動実装が広く用いられている。しかし、カメラモジュールなどの光学用途の電子部品では、レンズが透明性の熱可塑性樹脂で形成されているため、230℃以上に達するリフローはんだ実装では耐熱性が不足し、レンズが変形してしまう問題がある。このようなレンズを含むカメラモジュールを実装する際には、手はんだでの実装や、回路基板上にカメラモジュールを接合するためのコネクターをはんだリフローで予め自動実装しておき、このコネクターにカメラモジュールを差し込む方法も提案されている。しかしながら、この方法ではコネクターによりカメラモジュール部全体の高さが増加してしまう問題があり、また工程の増加によるコストアップが問題となるため、リフロー温度に耐える透明なレンズ材料が望まれている。
【0003】
リフロー温度に耐え得る透明性樹脂としては、特定の分子構造を有するポリカーボネート樹脂が使用されている。例えば、特許文献1にはフルオレン骨格を分子内に導入したポリカーボネートが提案されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂はガラス転移温度が最も高いものでも215℃であり、鉛フリー化によってリフロー温度が高温化すると耐熱性が不十分である。
【0004】
一方、LEDパッケージの封止樹脂にはシリコーン樹脂が用いられている。シリコーン樹脂は透明性ではんだリフローに対応できる耐熱性も兼ね備えている。しかし、シリコーン樹脂は弾性率が低いなど機械的強度が低いために、作業中に外傷を受けやすい問題があり、レンズ等に使用した場合は取り扱いが困難となる。また、シリコーン樹脂は熱硬化性であるため、射出成形で成形した場合の成形サイクルが長くなる問題があり、量産性を考えると、射出成形で成形でき、機械的強度の高い熱可塑性樹脂を適用することが好ましい。しかしながら、機械的強度、透明性、はんだリフロー実装に耐える耐熱性を兼ね備える樹脂は知られていない。
【0005】
透明性という観点では、特許文献2に、脂環式ジアミンと芳香族ジカルボン酸に、ラクタムまたはω−アミノカルボン酸または脂肪族ジカルボンと脂肪族ジアミンのポリアミド共重合体が開示されている。このポリアミド共重合体は透明であることが開示されており、芳香族ジカルボン酸の種類、ω−アミノカルボン酸または脂肪族ジカルボンと脂肪族ジアミンの種類や共重合比率によりガラス転移温度の異なる共重合ポリアミドが得られることが開示されている。しかしこのポリアミド共重合体においてもガラス転移温度は160℃〜230℃であるため、260℃の耐リフロー性という点では不十分である。
【0006】
樹脂の耐熱性を向上するためには、電離放射線を照射して樹脂を架橋することが有効である。特許文献3には、主鎖もしくは側鎖にオレフィン性二重結合を有する芳香族ポリアミドが放射線照射により架橋することが開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の樹脂は機械的強度が低く、オレフィン性二重結合を有しないポリアミド樹脂とブレンドし、さらにガラス繊維を配合して補強している。またこのようなブレンド樹脂では透明性も悪くなると予想される。
【0007】
【特許文献1】特開2005−60628号公報
【特許文献2】特許第3741762号公報
【特許文献3】特開平6−49354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に鑑み、透明性及び機械的強度を損なうことなく、260℃のリフロー温度に耐える耐熱性を備える架橋ポリアミド成形品、及びこれに用いるポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題について鋭意検討した結果、下記の要件を満たすポリアミド樹脂の成形品に電離放射線を照射して架橋すれば、高い透明性を維持しつつ、260℃での耐リフロー性を有する樹脂成型品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、少なくとも脂環式ジアミンを含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分とを縮合重合したポリアミド樹脂であって、前記ジアミン成分として不飽和ジアミンを含有し、及び/又は前記ジカルボン酸成分として不飽和ジカルボン酸を含有し、さらに該不飽和ジアミンと該不飽和ジカルボン酸の合計は、全ジアミン成分と全ジカルボン酸成分の合計に対して1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする、ポリアミド樹脂である(請求項1)。
【0011】
ジアミン成分として脂環式ジアミンを使用することで、透明性と機械的強度を両立することができる。さらに、不飽和二重結合を有する不飽和ジアミン及び/又は不飽和ジカルボン酸を使用することにより、電離放射線の架橋によって樹脂を架橋し、260℃のリフロー温度に耐えられる耐熱性が得られる。
【0012】
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸等が例示できる。ジカルボン酸成分として脂肪族ジカルボン酸を使用すると、充分な機械的強度が得られると共に、柔軟性の付与も可能であり、好ましい(請求項2)。
【0013】
また、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を使用すると、更に機械的強度に優れるポリアミド樹脂が得られ好ましい(請求項3)。
【0014】
ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を使用する場合、ジカルボン酸成分としてさらに脂肪族ジアミン及び/又は脂環式ジアミンを含有しても良い(請求項4)。この場合、脂肪族ジカルボン酸と脂環式ジカルボン酸の合計は、ジカルボン酸成分全体に対して1モル%以上20モル%以下とすることが好ましく、より好ましい範囲は2モル%以上10モル%以下である。このような構成とすることで、機械的強度を向上したり、屈折率を調整したりすることができる。
【0015】
前記ジアミン成分は、さらに芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンを含有しても良い(請求項5)。この場合、芳香族ジアミンと脂肪族ジアミンの合計は、ジアミン成分全体に対して1モル%以上20モル%以下とすることが好ましく、より好ましい範囲は2モル%以上10モル%以下である。このような構成とすることで、機械的強度を向上することができ、さらに屈折率を調整することができる。
【0016】
さらに、上記のポリアミド樹脂100質量部に対して1〜10質量部の多官能性モノマーを加えたポリアミド樹脂組成物としても良い(請求項6)。多官能性モノマーを配合することにより、低線量の照射であっても耐熱性の良い成形品を得ることができる。
【0017】
また、本発明は、上記のポリアミド樹脂組成物を成形したポリアミド成形品、及び該ポリアミド成形品に電離放射線を照射して架橋した架橋ポリアミド成形品を提供する。本発明の架橋ポリアミド成形品は、耐熱性が高く、260℃という高温のリフローに耐えることができると共に、高い透明性を有している。
【0018】
さらに、本発明は、上記の架橋ポリアミド成形品であって、260℃での貯蔵弾性率が2×10Pa以上であることを特徴とする架橋ポリアミド成形品を提供する。260℃での貯蔵弾性率が2×10Pa以上であることで、リフロー温度でも変形することがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、透明性、機械的強度、及び260℃のリフロー温度に耐え得る耐熱性を有する樹脂成型品及びそれに用いる樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のポリアミド樹脂の原料として使用する脂環式ジアミンは透明性の発現に必要であり、例えば、ビス−(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)−2,2’−ジメチルプロパン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、これらの誘導体などが例示できる。これらの脂環式ジアミンは1種類を使用しても良いし、異なる脂環式ジアミンの混合物を使用することも可能である。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂の原料として使用するジカルボン酸成分としては、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、芳香族カルボン酸等を使用することができる。
【0022】
芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、3−t−ブチルイソフタル酸またはフェノキシテレフタル酸のような置換テレフタル酸、イソフタル酸、多環式ジカルボン酸等が例示できる。多環式ジカルボン酸としては、例えば4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、3,3’−スルホジフェニルジカルボン酸、4,4’−スルホジフェニルジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸を例示する事ができる。またこれらの誘導体を使用することも可能である。これらのうち、テレフタル酸およびイソフタル酸が特に好ましい。芳香族ジカルボン酸は1種類を使用しても良いし、異なる芳香族ジカルボン酸の混合物を使用することも可能である。
【0023】
またジカルボン酸成分である芳香族ジカルボン酸の一部を、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂環式ジアミンに置き換えても良い。この場合、脂肪族ジカルボン酸と脂環式ジカルボン酸の合計はジカルボン酸成分全体に対して1〜20モル%とすることが好ましく、より好ましい範囲は1〜15モル%、さらに好ましい範囲は2〜10モル%である。脂肪族ジカルボン酸を20モル%以上使用すると透明性や機械的強度が低くなる。また脂環式ジカルボン酸を20モル%以上使用すると機械的強度が損なわれる。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ブラシル酸、トリメチルアジピン酸、シスおよび/またはトランス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シスおよび/またはトランス−シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸などが例示でき、その誘導体を使用することも可能である。また異なるジカルボン酸の混合物を使用することも可能である。
【0025】
ジカルボン酸成分の全てを脂肪族ジカルボン酸としても良い。この場合、芳香族ジカルボン酸を用いたものに比べて機械的強度はやや低下するが、使用に耐えうる機械的強度は得られ、さらに柔軟性を付与することができる。
【0026】
耐熱性を付与させるため、上記のジアミン成分、ジカルボン酸成分に加えて、不飽和ジアミン及び/又は不飽和ジカルボン酸をポリアミド樹脂の原料として使用する。不飽和ジアミン、不飽和ジカルボン酸の一方を使用しても良いし両方を併用しても良い。不飽和ジアミンと不飽和ジカルボン酸の合計は、全ジアミン成分と全ジカルボン酸成分の合計(全単量体の合計)に対して1〜20モル%とする必要がある。1モル%未満では、電離放射線の照射後の成形品の架橋度が上がらず、耐熱性(耐リフロー性)が低下する。また20モル%を超えると、成形品の架橋度は向上するが、ガラス転移温度が大幅に低下し、リフロー加工中に変形しやすくなる。
【0027】
不飽和ジアミンとしては、1,5−ジアミノ−2−ペンテン、1,4−ジアミノ−2−ブテン、1,6−ジアミノ−2−ヘキセン、1,6−ジアミノ−3−ヘキセン、2,7−ジアミノ−2,7−ジメチル−4−オクテン、1,9−ジアミノ−2,7−ノナジエン及び1,10−ジアミノ−2,8−デカジエンなどが例示でき、その誘導体を使用することも可能である。異なる不飽和ジアミンの混合物を使用することも可能である。これらのうち、1,6−ジアミノ−2−ヘキセン、1,6−ジアミノ−3−ヘキセンおよび2,7−ジアミノ−2,7−ジメチル−4−オクテンが特に好ましく使用できる。
【0028】
また、不飽和ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メサコン酸、2−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸、3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸及び4−オクテン−1,8−ジカルボン酸、メタセシス反応によって脂肪酸エステルから得られる長鎖ジカルボン酸として9−オクタデセン−1,18−ジカルボン酸(オレイン酸から得られる)、10−エイコセン−1,20−ジカルボン酸(リシノール酸から得られる)などが例示でき、その誘導体を使用することも可能である。異なる不飽和ジカルボン酸の混合物を使用することも可能である。これらのうち、3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸、4−オクテン−1,8−ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸が特に好ましく使用できる。
【0029】
ジアミン成分である脂環式ジアミンの一部を、芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンに置き換えても良い。この場合、芳香族ジアミンと脂肪族ジアミンの合計はジアミン成分全体に対して1〜20モル%とすることが好ましく、より好ましい範囲は1〜15モル%、さらに好ましい範囲は2〜10モル%である。脂肪族ジアミンを20モル%以上使用すると、透明性や機械的強度が損なわれる。また芳香族ジアミンを20モル%以上使用すると透明性、照射架橋性、射出成形性が低下する。
【0030】
脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンとしては、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、m−キシリレンジアミンなどが例示でき、その誘導体を使用することも可能である。また異なるジアミンの混合物を使用することも可能である。
【0031】
また、機械的特性や耐熱性、架橋性を阻害しない範囲であり、アミン−カルボン酸量が略当モル量であることを維持する比率であれば、ラクタム、アミノカルボン酸を使用することもできる。ラクタム、アミノカルボン酸としては、例えば、δ−バレロラクタム、ε−カプロ20ラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタムおよびラウロラクタムなどが例示でき、5−アミノペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、11−アミノウンデカン酸、ω−アミノカルボン酸などが例示できる。
【0032】
ジアミン成分とジカルボン酸成分は、アミン−カルボン酸が略当モル量となる比率で用い、ジアミン成分とジカルボン酸成分を縮合重合してポリアミド樹脂を得る。
【0033】
ポリアミドの重合は、特許文献2など既知の方法を使用することができる。すなわち、加圧および減圧が可能な反応容器内に触媒として少量のHPO水溶液、安息香酸とともに、前記記載のジアミン成分、ジカルボン酸成分を必要量添加し、水を加えた後加熱して撹拌する。その後、オートクレーブ内にて高温高圧条件で反応させる。その後減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドを抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
【0034】
さらに、上記のポリアミド樹脂に多官能性モノマーを配合したポリアミド樹脂組成物として使用することができる。多官能性モノマーを配合することで、低線量の照射でも耐熱性の良い樹脂成形品を得ることができる。多官能性モノマーの含有量はポリアミド樹脂100質量部に対して1〜10質量部とすることが好ましい。多官能性モノマーの含有量が10重量部を超えると透明性の低下や加工性の低下などの問題が生じる可能性がある。
【0035】
多官能性モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等、アリル系モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。特にトリアリルイソシアヌレート(TAIC)やトリメチロールプロパントリメタクリレートが好適に用いられる。
【0036】
なお、本発明のポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物には、その特性を阻害しない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、潤滑剤、可塑剤、着色剤、補強剤、充填剤、難燃剤、離型剤等を添加しても良い。潤滑剤および離型剤としては、長鎖脂肪酸、例えばパルミチン酸またはステアリン酸および該長鎖脂肪酸の塩またはアルキルエステルおよびN−アルキルアミド、ステアリルアルコール並びにペンタエリトリットールと長鎖脂肪酸とのエステルが例示できる。これら添加剤の混合には単軸押出機や二軸押出機等の既知の混合装置を使用することができる。
【0037】
上記のポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物は射出成形や押出成形等の方法によって成形され、ポリアミド成形品を得ることができる。またポリアミド成形品に加速電子線、ガンマ線などの電離放射線を照射することによりポリアミド樹脂が架橋され、架橋ポリアミド成形品が得られる。電離放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空で行うのが望ましい。電離放射線の照射によって生成した活性種が空気中の酸素と結合して失活すると架橋効率が低下するためである。
【0038】
電離放射線の照射量は40kGy以上600kGy以下であることが好ましい。より好ましい範囲は200kGy以上500kGy以下である。多官能性モノマーの量によっては電離性放射線の照射量が40kGy未満であってもポリアミド樹脂の架橋は認められるが、確実に架橋効果を発現させるためには照射量を400kGy以上とする必要がある。一方、電離放射線の照射量が600kGyを超えると、ポリアミド樹脂や酸化防止剤の照射崩壊による着色が発生する可能性がある。
【0039】
本発明の架橋ポリアミド成形品は、各種光学成形品、レンズ、プリズム、光ファイバ、光学フィルム、液晶ディスプレイ、液晶テレビのバックライト方式の光拡散板、及びスキャナーの導光板など、透明性及び耐熱性が要求される電子部品に使用することができる。
【0040】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
脂環式ジアミンとしてビス−(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸、不飽和ジアミンとして1,6−ジアミノ−3−ヘキセンを45:50:5のモル比率で反応容器に添加し、さらに少量のHPO水溶液、安息香酸、適量の水を加えた後、80℃で強力に撹拌する。その後、オートクレーブ内にて20bar285℃にて3時間加圧し、さらに280℃にて3時間の減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドをストランドで抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
本ポリアミド樹脂に酸化防止剤を添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を240kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置しても変形が見られず、耐熱性は十分である。得られた成形品は透明であり、また電子線照射の前後で透過率の低下も見られない。260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以上であり、ゲル分率は72%である。なお、ゲル分率は以下の方法により測定する。
【0042】
(ゲル分率の測定)
試料の乾燥質量を計った後、200メッシュのステンレス金網に包み、N−N’−ジメチルホルムアミド(DMF)の中で48時間煮沸した後に、DMFに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得る。ゲル分を50℃で24時間乾燥してゲル中のDMFを除去した後乾燥質量を測定し、下記式に基づいてゲル分率を測定する。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥質量/試料の乾燥質量)×100
【0043】
(実施例2)
実施例1と同等の合成方法で作製したポリアミド樹脂に対して酸化防止剤と多官能性モノマー(TAIC)を添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。多官能性モノマーの添加量はポリアミド樹脂100質量部に対して5質量部である。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を50kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置しても変形が見られず、耐熱性は十分である。また成形品は透明であり、電子線照射の前後での透過率の低下も見られない。260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以上であり、ゲル分率は94%である。
【0044】
(実施例3)
脂環式ジアミンとしてビス−(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、脂肪族ジアミンとして1,4−ジアミノブタン、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸、不飽和ジアミンとして1,6−ジアミノ−3−ヘキセンを40:5:50:5のモル比率で反応容器に添加し、さらに少量のHPO水溶液、安息香酸、適量の水を加えた後、80℃で強力に撹拌する。その後、オートクレーブ内にて20bar285℃にて3時間加圧し、さらに280℃にて3時間の減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドをストランドで抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
本ポリアミド樹脂に酸化防止剤のみ添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を240kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置しても変形が見られず、耐熱性は十分である。また成形品は透明であり、電子線照射の前後での透過率の低下も見られない。また260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以上であり、ゲル分率は65%である。
【0045】
(実施例4)
脂環式ジアミンとしてビス−(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸、不飽和ジカルボン酸としてフマル酸、を50:45:5のモル比率で反応容器に添加し、さらに少量のHPO水溶液、安息香酸、適量の水を加えた後、80℃で強力に撹拌する。その後、オートクレーブ内にて20bar285℃にて3時間加圧し、さらに280℃にて3時間の減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドをストランドで抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
本ポリアミド樹脂に酸化防止剤のみ添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を240kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置しても変形が見られず、耐熱性は十分である。また成形品は透明であり、電子線照射の前後での透過率の低下も見られない。また260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以上であり、ゲル分率は67%である。
【0046】
(実施例5)
脂環式ジアミンとしてビス−(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸、不飽和ジカルボン酸としてフマル酸、を50:40:5:5のモル比率で反応容器に添加し、さらに少量のHPO水溶液、安息香酸、適量の水を加えた後、80℃で強力に撹拌する。その後、オートクレーブ内にて20bar285℃にて3時間加圧し、さらに280℃にて3時間の減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドをストランドで抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
本ポリアミド樹脂に酸化防止剤のみ添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を240kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置しても変形が見られず、耐熱性は十分である。また成形品は透明であり、電子線照射の前後での透過率の低下も見られない。また260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以上であり、ゲル分率は61%である。
【0047】
(実施例6)
脂環式ジアミンとして1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸、不飽和ジカルボン酸としてフマル酸、を50:45:5のモル比率で反応容器に添加し、さらに少量のHPO水溶液、安息香酸、適量の水を加えた後、80℃で強力に撹拌する。その後、オートクレーブ内にて20bar285℃にて3時間加圧し、さらに280℃にて3時間の減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドをストランドで抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
本ポリアミド樹脂に酸化防止剤のみ添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を240kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置しても変形が見られず、耐熱性は十分である。また成形品は透明であり、400nmにおける透過率は90%である。電子線照射の前後で透過率の低下は見られない。また260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以上であり、ゲル分率は76%である。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同等の方法で作成した試験プレートに照射架橋を施さず各種試験を実施したところ、260℃恒温槽内に60秒放置後に溶融が発生した。260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以下であり、ゲル分率は0%である。
【0049】
(比較例2)
脂環式ジアミンとしてビス−(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸を50:50のモル比率で反応容器に添加し、さらに少量のHPO水溶液、安息香酸、適量の水を加えた後、80℃で強力に撹拌する。その後、オートクレーブ内にて20bar285℃にて3時間加圧し、さらに280℃にて3時間の減圧・脱気の後、ポリアミドの透明ストランドをストランドで抽出する。冷却後ペレット化し、ポリアミド樹脂を得る。
本ポリアミド樹脂に酸化防止剤のみ添加し、二軸混合機(池貝(株)製PCM−30)にて混練後、作製ペレットを用いて射出成形を実施し(日精樹脂(株)製「ES400」)、10mm×10mm×0.4mmのプレート(ポリアミド成形品)を作製する。本プレートに加速電圧3MeVの電子線を240kGy照射して架橋ポリアミド成形品を得る。この成形品は260℃恒温槽内に60秒放置後溶融が発生し、耐熱性が不十分である。また260℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa以下であり、ゲル分率は18%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも脂環式ジアミンを含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分とを縮合重合したポリアミド樹脂であって、
前記ジアミン成分として不飽和ジアミンを含有し、及び/又は前記ジカルボン酸成分として不飽和ジカルボン酸を含有し、さらに該不飽和ジアミンと該不飽和ジカルボン酸の合計は、全ジアミン成分と全ジカルボン酸成分の合計に対して1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする、ポリアミド樹脂。
【請求項2】
前記ジカルボン酸成分として、脂肪族ジカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
前記ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
前記ジカルボン酸成分は、さらに脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂環式ジカルボン酸を含有し、脂肪族ジカルボン酸と脂環式ジカルボン酸の合計が、ジカルボン酸成分全体に対して1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする、請求項3に記載のポリアミド樹脂。
【請求項5】
前記ジアミン成分は、さらに芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンを含有し、芳香族ジアミンと脂肪族ジアミンの合計が、ジアミン成分全体に対して1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂と、前記ポリアミド樹脂100質量部に対して1〜10質量部の多官能性モノマーとを含有することを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂又は請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物を成形したポリアミド成形品。
【請求項8】
請求項7に記載のポリアミド成形品に電離放射線を照射して架橋した、架橋ポリアミド成形品。
【請求項9】
260℃での貯蔵弾性率が2×10Pa以上であることを特徴とする、請求項8に記載の架橋ポリアミド成形品。

【公開番号】特開2009−149842(P2009−149842A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161080(P2008−161080)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】