説明

ポリアミン化合物を製造する方法

下記式(II)を有する化合物を製造する方法:
【化1】


式中、RおよびRは独立してメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってCもしくはCシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基を形成している。本方法はRCHNO、グルタルアルデヒドおよびアミンを一緒にすることを含む。この化合物はコーティング組成物および他の用途におけるpH調節のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、コーティング組成物および他の用途におけるpH調節のために有用なポリアミン化合物、例えば、ビス−AMP化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AMP(2−アミノ−2−メチルプロパノール)はコーティング組成物およびpH調節を必要とする他の配合物のpH調節のために使用される。この目的に有用であるが、標準的なVOC(揮発性有機化合物)試験で測定して、より低い揮発性を有する化合物が望まれる。ベンソン(Benson)らJ.Org.Chem.,1988,53,3036−3045は式(I)
【化1】

を有する化合物を開示するが、この文献は単にこの化合物を生物学的活性物質の製造のための中間体として使用するだけであり、この化合物が産業用配合物のpH調節に有用であり得たことを開示も示唆もしていない。さらに、ニトロ化合物前駆体からの式(I)の化合物への収率は非常に低く、この化合物を産業的な使用には魅力的でない選択肢にしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ベンソン(Benson)らJ.Org.Chem.,1988,53,3036−3045
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明により取り組まれる課題はコーティング組成物および他の用途におけるpH調節に有用な低VOCポリアミン化合物を見いだすことであり、かつこの化合物およびその前駆体を製造するための改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(II)を有する化合物を製造する方法に関する:
【化2】

式中、RおよびRは独立してメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってCもしくはCシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基を形成している。この方法は、RCHNO、グルタルアルデヒドおよびC−C12トリアルキルアミンを一緒にすることを含む。式(II)の化合物は脂肪族ニトロ基を還元できる還元剤と接触させられて式(I):
【化3】

の化合物を製造することができる。
【0006】
本発明はさらに、7未満のpHを有するコーティング組成物に、7.5〜9.5の最終pHを生じさせるのに充分な量の式(I)(式(I)中、RおよびRは独立してメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってCもしくはCシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基を形成している)の化合物を添加することを含む、水性コーティング組成物におけるpHを調節する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
他に示されない限りは、全てのパーセンテージは重量パーセンテージ(重量%)である。百万分率での濃度(ppm)は重量/体積基準で計算される。「水性」組成物は水を少なくとも30重量%、あるいは水を少なくとも35重量%、あるいは水を少なくとも38重量%含む組成物である。好ましくは、水性組成物は5重量%を超えて有機溶媒を含まない。他に特定されない限りは、「アルキル」基は線状もしくは分岐の配置の1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。アルケニル基は1以上の二重結合、好ましくは1つの二重結合を有するアルキル基である。「シクロアルキル」もしくは「シクロアルケニル」基は少なくとも1つの環を含むアルキルもしくはアルケニル基である。
【0008】
本発明のある実施形態においては、Rはメチルであり、Rはメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってCシクロアルキル基を形成しているか;あるいはRはメチルであり、Rはメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってシクロヘキシル基を形成しているか;あるいはRはメチルであり、およびRはメチルもしくはエチルであるか;あるいはRおよびRはメチルである。
【0009】
本発明の化合物(II)を製造するための改良された方法はRCHNO、グルタルアルデヒドおよびC−C12トリアルキルアミンを一緒にすることを含む。このトリアルキルアミン中のアルキル基はヒドロキシ基を含んでいても良い。本発明のある実施形態においては、C−C12トリアルキルアミンはトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジ−イソプロピルエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル−2−アミノ−2−メチルプロパノール(DMAMP)およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるか;あるいはトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、DMAMPおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。RおよびRについての選択肢は上に示される通りである。特に好ましいニトロ化合物、RCHNOは2−ニトロプロパン、2−ニトロブタンおよびニトロシクロヘキサンである。
【0010】
本発明のある実施形態においては、化合物(II)から化合物(I)への還元は脂肪族ニトロ基を還元できる試薬を用いて達成されうる。この還元剤の例には、触媒、例えば、ラネーニッケル、白金もしくはパラジウムベースの触媒(元素形態のまたは酸化物としてのPtもしくはPdであって、担体、例えば炭素を有するかもしくは有さない)と組み合わせた水素ガス;並びに他の還元剤、例えば、金属/酸組み合わせ、例えば、鉄/酢酸;並びに、水素化アルミニウム、例えば、VITRIDEが挙げられる。好ましい還元剤には以下の触媒:ラネーニッケル、白金もしくはパラジウムのいずれか:と組み合わせた水素ガスが挙げられる。ニトロ基の水素化の条件は周知であり、例えば、約100〜1000psi(690kPa〜6900kPa)の圧力での約20〜80℃の温度範囲であり、これらは当業者によって容易に調節されうる。
【0011】
7未満の当初pHを有する水性コーティング組成物または他の水性組成物におけるpHを調節するのに式(I)の化合物が使用される場合には、添加される化合物(I)の量は、当初pH、所望の最終pH、および組成物中に存在する他の成分に応じて明らかに変動しうる。しかし、当業者は化合物(I)の必要な量を容易に決定できる。アクリルラテックスコーティング組成物においては、典型的には、化合物(I)の量は、コーティング組成物中のカルボン酸基の全重量の10重量%〜125重量%、あるいは25重量%〜100重量%の範囲であろう。本発明のある実施形態においては、水性組成物の当初pHは2〜7、あるいは2.5〜6である。目標pH値は好ましくは7.8〜9.3、あるいは8〜9.2である。本発明のある実施形態においては、水性コーティング組成物はアクリルもしくはメタクリル酸と、アクリルもしくはメタクリル酸C−Cアルキルとのコポリマーを含むアクリルラテックスである。本発明のある実施形態においては、アクリルラテックスは40〜65重量%、あるいは45〜62重量%、あるいは45〜55重量%のポリマー固形分を含む。
【実施例】
【0012】
2,8−ジメチル−2,8−ジニトロノナン−3,7−ジオール(1)の製造
【化4】

【0013】
攪拌棒、滴下漏斗および窒素出口を備えた3ッ口丸底フラスコに2−ニトロプロパン(50g、0.57mol)および50mLのメタノールを入れた。この混合物が10分間攪拌され、トリエチルアミン(2.8g、5mol%)が添加された。この淡黄色溶液がさらに15分間攪拌された。上記混合物に、50%グルタルアルデヒド溶液(56.7g、0.28mol)が90分間の期間にわたって滴下漏斗から滴下添加された。この添加の完了後、この溶液は室温で48時間攪拌された。この溶液は150mLの氷水を収容していた分離漏斗に注ぎ込まれた。2相が分離され、水相はジエチルエーテル(2×50mL)で抽出された。一緒にされた有機相は水(2×50mL)で洗浄され、無水硫酸マグネシウムで乾燥させられ、ろ過された。溶媒はロータリーエバポレータによって除去され、粘稠残留物が20mLの酢酸エチルで希釈され、氷浴中で冷却された。フラスコの底に白色沈殿物が徐々に形成し、吸引ろ過によって分離された。この白色粉体は空気乾燥させられ、次いで真空、60℃で、1時間の間乾燥させられた。真空乾燥後の収率は所望の化合物23.3g(30%)であった。H NMR(DMSO−d):δ1.43(ブロードs,18H)、δ3.80(m,2H)、およびδ5.31(d,2H,J=7.2Hz)。13C NMR(DMSO−d):δ19.4、22.5、22.8、30.5、74.9および92.1ppm。HPLC保持時間は3.99分であり、固体について記録された融点は136〜138℃であった。この分子は非常に嵩高であったので、設定された条件でのGC/MSで検出できなかった。この収率はベンソンらJ.Org.Chem.1988,53,3036−3045で得られた(23%)のよりも有意に高かった。この文献においては、炭酸カリウムが塩基として使用された。
【0014】
生成物混合物の残部は、環式生成物の6−(2−ニトロプロパン−2−イル)−テトラヒドロ−2H−ピラン−2−オールと同定された。2つのキラル中心の存在のせいで、この生成物のいくつかのジアステレオマー混合物が形成されていた。この生成物は16.9分の保持時間を有するGCによって特定された。この分子イオンピークm/z142(ピラノールからNOフラグメントを引いた分子量)がGC/MSにおいて観察された。
【0015】
2,8−ジアミノ−2,8−ジメチルノナン−3,7−ジオール(3)の製造:
【化5】

【0016】
2リットルの攪拌PARRオートクレーブにRaNi3111(72.1g)および300mLのメタノールが入れられる。このオートクレーブは密閉され、50psiNの加圧、次いで5psiまでの排気の3サイクルでパージされる。これはHガスを用いても繰り返される。パージ後、オートクレーブの圧力はH450psiまで上げられる。次いで、密閉された反応器は600rpmで攪拌され、そしてこの時点でヒーターのスイッチが入れられる。温度が60℃に到達したら、この圧力は600psiまで上げられる。この時点で、RaNiを収容しているこのオートクレーブに、600mLのメタノール中に溶解された2,8−ジメチル−2,8−ジニトロノナン−3,7−ジオールが、ポンプによって5mL/分で添加される。添加完了後、ポンプは停止させられ、オートクレーブの内容物は60℃で1時間攪拌され、次いで45℃でさらに0.5時間攪拌される。オートクレーブ中の内容物は室温まで冷却され、残留水素は排気され、そして反応器が開けられる。生成物は吸引ろ過によってRaNiから濾別されて、ロータリーエバポレータによって過剰のメタノールが除去される。このプロセスは98g(83%)の粘稠オイルを生じさせた。GC/MS分析は、[MH]m/z219を有する所望の生成物が75%存在していたことを示した。
【0017】
生成物の残りは6−(2−アミノプロパン−2−イル)−テトラヒドロ−2H−ピラン−2−オールおよび6−メチル−6−ニトロヘプタン−1,5−ジオールであった。これらは、ヘンリー(Henry)反応中に副生成物として形成された環式ニトロアルコールの還元形態および開環形態である。これら生成物の両方の存在はGC/MSによって確認された。
【0018】
コーティングのための原料についてのVOC試験手順
コーティングのための原料のVOC(揮発性有機化合物)含量は、不揮発性材料(NVM)含量および水含量を測定し、次いでその残部をVOCとして計算することにより決定される。これら測定は、米国においてコーティング配合物のVOC含量を決定するために使用される方法であるUSEPA試験方法24によって特定される手順に従って行われる。
【0019】
NVMはASTM D2369(コーティングの揮発性物質含量についての標準試験方法)に記載される試験手順に従って決定される。直径58mmのアルミニウム秤量皿が強制ドラフトオーブン内で110℃で少なくとも30分間あらかじめ乾燥させられ、次いで、使用までデシケータ内に格納される。この皿の重量が記録される(全ての重量は0.0001gまで測定される)。サンプルは二枚の皿に分配(NVM60重量%を超えるサンプルについては0.3±0.1g、NVM60%未満のサンプルについては0.5±0.1g)され、正確なサンプル重量が記録される。各皿に3±1mLの精製水が分配され、そしてサンプルと混合され、この皿の底を覆う様に拡げられる。この皿は強制ドラフトオーブン内1時間、110±5℃で乾燥させられ、次いで再秤量される。差によって不揮発性物質含量が計算され、重量パーセントとして報告される。化合物1のVOCは7.6%であった(例えば、揮発性物質でない材料の量は、当初に使用された全材料の85%に達した)。これは、100%であるAMPのVOC含量と対照的である。
【0020】
自動滴定装置において0.1NのHCl滴定剤を用い、電位差プローブを用いて、水系滴定が行われる。滴定装置はpH対滴定剤体積曲線からpKaを決定する。このpKaは、グルト−ビス−AMPに対応する最初の中和終点までの半分の滴定剤体積でのpHに等しい。終点はこの曲線における変曲点である。ビス−AMP類似体について記録されたpKa値は9.85であった。AMPのpKaは9.72であり、よって、化合物1の中和能力が同様であると期待された。
【0021】
化合物3およびAMPは以下に記載される典型的なコーティング配合物に組み込まれた。
【0022】
【表1】

【0023】
アミンが粘稠または固体であった場合には、そのアミンの水中10%溶液が添加された;アミンの量は、そのアミンがニートで使用された場合と同じであった。
1.POLYPHOBE(ポリフォーブ)TR−116:高効率レオロジー調節剤
2.POLYPHOBE(ポリフォーブ)TR−117:レオロジー調節剤
3.TAMOL(タモール)1124:分散剤
4.STRODEX(ストロデックス)PK−95G:エマルションのための分散/湿潤剤として使用される酸無水物界面活性剤
5.TRITON(トライトン)CF−10:非イオン性界面活性剤
6.RHODOLINE(ロドライン)643:オールベースの脱泡剤
7.TIPURE(タイピュア)R−706:二酸化チタン顔料
8.POLYGLOSS(ポリグロス)90:水系および溶媒系コーティングの双方において、容易な分散および向上した光沢を提供するように設計された超微粒子サイズで高光沢のカオリン
9.UCARラテックス300:ビニルアクリルポリマー
【0024】
配合物のpHは化合物3については9.8であり、AMPについては9.4であった。
【0025】
配合物は光沢および不透明度について試験された。60°での光沢はビック−ガードナーマイクロ−トリ−光沢計で、ASTM D523に従って測定された。不透明度は3ミル湿潤膜厚さの膜を不透明度チャートに適用することにより測定された。結果は以下の通りであった。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHNO、グルタルアルデヒドおよびC−C12トリアルキルアミンを一緒にすることを含む、式(II)を有する化合物を製造する方法:
【化1】

式中、RおよびRは独立してメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってCもしくはCシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基を形成している。
【請求項2】
がメチルであり、Rがメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとが一緒になってシクロヘキシル基を形成している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
がメチルであり、かつRがメチルもしくはエチルである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脂肪族ニトロ基を還元できる還元剤と式(II)の化合物とを接触させて式(I):
【化2】

の化合物を生じさせることをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
がメチルであり、かつRがメチルもしくはエチルである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
7未満のpHを有する水性コーティング組成物に、7.5〜9.5の最終pHを生じさせるのに充分な量の式(I)
【化3】

(式中、RおよびRは独立してメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとは一緒になってCもしくはCシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基を形成している)の化合物を添加することを含む、コーティング組成物におけるpHを調節する方法。
【請求項7】
がメチルであり、Rがメチルもしくはエチルであるか、またはRとRとが一緒になってシクロヘキシル基を形成している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水性コーティング組成物が、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの組み合わせの重合単位を含むアクリルラテックスである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
がメチルであり、かつRがメチルもしくはエチルである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アクリルラテックスの当初pHが2〜7である請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2013−507388(P2013−507388A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533352(P2012−533352)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/052004
【国際公開番号】WO2011/044478
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【出願人】(591252611)アンガス ケミカル カンパニー (32)
【Fターム(参考)】