説明

ポリイミド、ポリイミドフィルム、及びそれらの製造方法

【課題】脂肪族テトラカルボン酸二無水物を用いた場合であっても、高い反応性でイミド化することができ、非着色性、低吸水性、透明性、成形性(具体的には、フィルム状に成形する際の容易さ、及び、プロセス負荷の小ささ)に優れたフィルムを与えうるポリイミドの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリイミドの製造方法は、(A)脂肪族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)芳香族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化するものである。本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、得られたポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から有機溶媒を蒸発除去させることにより除去してフィルムを得る工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド、該ポリイミドを用いて製造されるフィルム(ポリイミドフィルム)、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとから得られる全芳香族ポリイミドは、分子の剛直性や、分子が共鳴安定化していること、強い化学結合を有すること等に起因して、優れた耐熱性、機械的特性、電気特性、耐酸化・加水分解性を有しており、電気、電池、自動車および航空宇宙産業などの分野において、フィルム、コーティング剤、成型部品、絶縁材料などとして幅広く使用されている。
一方、光学部材に使用される材料には、優れた耐熱性、機械的特性等に加えて、無色透明性、易成形(成型)性、光学特性(高屈折率等)に優れることが必要とされる。
ここで、例えば、Kapton(東レ・デュポン社製)に代表される全芳香族ポリイミドフィルムは、上述のとおり、優れた耐熱性等を有し、電気等の分野には適するものの、着色性が高く、また、成形性が低いことから、光学材料としての使用には制限があるという問題がある。
すなわち、上記フィルムは、分子間あるいは分子内の電荷移動相互作用に由来する可視光領域の吸収により、黄色から褐色に着色しているという問題がある。また、上記フィルムは、フィルム状に成形するのに、高温での熱処理を要するなど、プロセス負荷が高く成形性が低いという問題がある。具体的には、上記フィルムを形成するポリイミドは、有機溶媒に対する溶解性が低く、当該ポリイミドをそのまま用いてフィルムを形成することができない。そのため、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸の溶液を用い、基板への塗布などによりフィルム状の塗膜とした後、該塗膜を400℃程度の高温で熱処理することにより、塗膜中のポリアミック酸をイミド化し、ポリイミドからなるフィルムを得る必要がある。
このような問題を解決するために、非着色性や透明性を向上させたり、有機溶媒に対する可溶性を付与して成形性を向上させてなるポリイミドが種々提案されている。
例えば、透明性の改良されたポリイミドとして、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族(脂環式)テトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとから得られるポリイミドが提案されている(非特許文献1)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明のポリイミドの製造方法に用いる(A)成分及び(B)成分について説明する。
[(A)成分]
(A)成分は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物である。
ここで、反応性誘導体とは、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に変化しうる化合物であり、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物の当該無水物に代えて2つのカルボキシル基を有する化合物、これら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がエステル化されたエステル化物である化合物、またはこれら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がクロル化された酸クロライド等が好適に用いられる。
【0010】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体としては、例えば、5員環無水物骨格を有する化合物や6員環無水物骨格を有する化合物、およびこれらの反応性誘導体などを挙げることができる。
具体的には、下記(a)〜(c)が挙げられる。
(a)5員環の酸無水物骨格を2つ有し、かつ、6員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(b)6員環の無水物骨格を2つ有し、かつ、5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(c)5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体
さらに、上記(a)成分の具体例としては、下記(a−1)〜(a−2)が挙げられる。
(a−1)5員環の酸無水物骨格を有し、かつ架橋環構造を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(a−2)5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、該架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が酸無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体
上記(a−1)成分(5員環の酸無水物骨格を有し、かつ架橋環構造を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジクロロ−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、下記式(2)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0011】
なお、下記式(2)で表される化合物、およびこれらの反応性誘導体としては、下記式(6)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【化2】

【化3】

【0012】
また、上記(a−2)成分(5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、ノルボルニル基、ビシクロ〔2.2.2〕オクチル基等を有する無水物が挙げられる。例えば、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシノルボルナン−2:3,5:6−ジ無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0013】
6員環無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体としては、例えば、上記(b)成分(6員環の酸無水物骨格を2つ有し、かつ5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)や、上記(c)成分(5員環の酸無水物骨格及び6員環の無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)が挙げられる
上記(b)成分(6員環の酸無水物骨格を2つ有し、かつ5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、例えば下記式(1)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられ、具体的な化合物としては下記式(3)〜(5)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0014】
【化4】

【化5】

【0015】
上記(c)成分(5員環の酸無水物骨格及び6員環の無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、例えば、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
これらのアシル化合物は1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0016】
(A)成分の反応性誘導体としては、無水物(脂肪族テトラカルボン酸二無水物)が好ましく用いられる。無水物を(A)成分として用いると、無水物ではないものを用いる場合に比して、温和かつハンドリング性良く、ポリアミック酸を合成することができる。
また、(A)成分としては、上述の脂肪族テトラカルボン酸二無水物の中でも、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましく用いられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物を(A)成分として用いると、透明性、非着色性、耐熱性等に特に優れたポリイミドフィルムを得ることができる。
さらに、(A)成分としては、6員環の酸無水物骨格を有する化合物、もしくは、架橋環構造を構成する少なくとも二つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物が好ましく用いられる。6員環の酸無水物骨格を有する化合物、もしくは、架橋環構造を構成する少なくとも二つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物を(A)成分として用いると、生成するポリイミドの有機溶媒に対する溶解性を改良可能であり、製膜工程でのプロセス負荷を低減できる。また、これらのポリイミドからは、透明性、非着色性、耐熱性等に特に優れたフィルムを得ることができる。
【0017】
[(B)成分]
(B)成分は、芳香族ジアミンである。
(B)成分の具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−ODA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン、1,3−ビス[2−(4−アミノフェノキシエトキシ)]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)フルオレン、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3、3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(P−TPEQ)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4―(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ベンジジン、ビス(2,2’−トリフルオロメチル)ベンジジン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、3,3−ジメトキシ−4,4−ジアミノビフェニル、3,3−ジメチル−4,4−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、o−トリジンスルホン等が挙げられる。これら芳香族ジアミンは、一種単独であるいは2種以上混合して用いることができる。
【0018】
次に、本発明のポリイミドの製造方法について説明する。
本発明のポリイミドの製造方法は、上記(A)アシル化合物と上記(B)芳香族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化する工程を含む。具体的には、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程(a)と、前記ポリアミック酸の少なくとも一部を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化する工程(b)とを含む。
【0019】
[工程(a)]
工程(a)は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて得られるポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程である。
(A)成分と(B)成分とを反応させる際の具体的な方法としては、少なくとも1種の(B)芳香族ジアミンを有機溶媒に溶解した後、得られた溶液に、少なくとも1種の(A)アシル化合物を添加し、0〜100℃の温度で、1〜60時間撹拌する方法が挙げられる。
上記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等の非プロトン系極性溶媒;クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒;等が挙げられる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、反応液中の芳香族ジアミンとアシル化合物の合計量は、反応液全量の5〜30質量%であることが好ましい。
【0020】
(A)アシル化合物と(B)芳香族ジアミンとの割合は、成分(B)のアミノ基1当量に、成分(A)の酸無水物基が0.8〜1.2当量となる割合が好ましく、1.0〜1.1当量となる割合がより好ましい。成分(B)のアミノ基1当量に対して、成分(A)の酸無水物基の量が0.8当量未満、若しくは1.2当量を超えると、分子量が低くなりフィルムを形成することが困難なことがある。
なお、ポリアミック酸とは、酸無水物基とアミノ基とが反応して生じる、−CO−NH−、及び、−CO−OHを含む構造を有する酸、または、その誘導体(具体的には、例えば、CO−NH−、及び、−CO−OR(ただし、Rはアルキル基等である。)を含む構造を有するもの)をいう。ポリアミック酸は、加熱等によって、−CO−NH−のHと、−CO−OHのOHとが脱水して、環状の化学構造(−CO−N−CO−)を有するポリイミドとなる。
【0021】
[工程(b)]
工程(b)は、前記工程(a)で得られたポリアミック酸の少なくとも一部を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化して、ポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を得る工程である。
具体的なイミド化の方法としては、脱水剤を用いる方法(化学イミド化)や、160℃〜350℃(ただし、溶液では160〜220℃、キャストフィルムでは300℃以上での処理が一般的である。)で熱処理する方法(熱イミド化)が挙げられる。
化学イミド化における脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物、もしくは相当する酸クロライド類、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等が挙げられる。脱水剤の添加量は、目的とするイミド化率に応じて適宜変えることができるが、通常アシル化合物1モルに対して、1〜10モルの範囲であり、2〜10モルの範囲であることが好ましい。
【0022】
なお、化学イミド化は、10℃〜120℃の温度で行うことができ、25℃〜90℃の温度で行うことが好ましい。温度が120℃を超えると、着色が抑制できない場合があり、温度が10℃よりも低い場合には、反応速度が低く、イミド化に時間がかかることがある。
熱イミド化の場合には、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いて水を共沸除去することができる。
イミド化の方法としては、より低温での加熱によってイミド化を行うことができることなどから、化学イミド化が好ましい。
【0023】
イミド化の際、脂環族三級モノアミンをイミド化触媒として用いる。脂環族三級モノアミン化合物をイミド化の際に用いるとイミド化反応が促進されるのは、脂環族三級モノアミン化合物が有する窒素原子上の孤立電子対が高い求核性を有するためと考えられる。
上記脂環族三級モノアミンとしては、下記式(7)で表される化合物が好適に用いられる。
【化6】

(一般式(7)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Xは酸素原子又は硫黄原子、lは0又は1、m及びnは、各々独立して、0〜2の整数である。)
式(7)中、Rは、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。また、m、nは、好ましくは0又は1である。さらに、m+nは1〜3であることが好ましい。
上記式(7)で表される化合物の好適な例としては、N−メチルピペリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリンなどが挙げられる。
【0024】
イミド化触媒として脂環族三級モノアミンを用いることにより、脂肪族化合物を(A)成分として用いても、高い反応性(イミド化の反応速度)でイミド化することができ、より低温でのイミド化や、イミド化に要する時間の短縮などを達成することができる。そして、その結果、得られるポリイミドの着色を低減することが可能となる。
上記(a−1)成分(5員環の酸無水物骨格を有し、架橋環構造を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)を(A)成分として用いた場合には、90℃を超える高温条件下においても従来達成できなかったような高いイミド化率(例えば95%以上)を、90℃以下の低温条件下において達成することができる。該イミド化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上である。
また、上記(b)成分(6員環の酸無水物骨格を有し、かつ5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)及び上記(c)成分(5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)のような6員環無水物骨格を有する化合物、あるいは上記(a−2)成分(5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体)のように架橋環構造を構成する少なくとも二つの炭素が無水物骨格を形成する化合物といった、特にイミド化が進みにくい化合物を(A)成分として用いた場合には、60℃以下の低温条件下においても従来達成できなかったような高いイミド化率(例えば85%以上)を達成することができる。該イミド化率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
脂環族三級モノアミンは、アシル化合物1モルに対して0.01〜10モルの範囲で用いることが好ましく、0.1〜5モルの範囲で用いることが特に好ましい。
なお、イミド化の際には、必要に応じて、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、イミダゾール等の他の塩基性化合物を併用することもできる。
【0025】
なお、イミド化は、ポリアミック酸の少なくとも一部、好ましくは75モル%以上、より好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上をイミド化するように行われる。
得られたポリイミド及び有機溶媒を含む溶液は、そのまま使用することもできるが、ポリイミドを固体分として単離した後、有機溶媒に再溶解して用いることもできる。なお、再溶解する有機溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものが挙げられる。ポリイミドを単離する方法としては、ポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を、メタノール等のポリイミドに対する貧溶媒に投じてポリイミド等を沈殿させ、濾過・洗浄・乾燥等によりポリイミド等を固体分として分離する方法が挙げられる。このような操作をすることにより、イミド化の際に使用した脱水触媒(イミド化触媒)の除去も図ることができる。
得られたポリイミドは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が、50,000〜1,000,000であることが好ましく、80,000〜800,000であることがより好ましく、100,000〜600,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、機械特性を十分に発現することができる。
【0026】
次に本発明のポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、上記ポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程(c)と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発させて除去して、ポリイミドフィルムを得る工程(d)とを含む。
[工程(c)]
工程(c)は、上記ポリイミドと有機溶媒と含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程である。
上記基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、SUS板、銅箔等が挙げられる。
ポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を基板上に塗布する方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ドクターブレードを用いる方法等を使用することができる。
塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜250μmである。
【0027】
[工程(d)]
工程(d)は、塗膜から有機溶媒を蒸発させて除去して、ポリイミドフィルムを得る工程である。
具体的には、塗膜を加熱することにより、該塗膜中の有機溶媒を蒸発させて除去する。
上記加熱の条件は、有機溶媒が蒸発すればよく特に限定されないが、例えば60〜250℃で1〜5時間である。なお、加熱は二段階で行ってもよい。例えば、100℃で30分間加熱した後、150℃で1時間加熱するなどである。また、必要に応じて、窒素雰囲気下、もしくは減圧下にて乾燥を行ってもよい。
本工程では、有機溶媒を除去することができればよく、イミド化を行う必要がないため、従来技術に比して低温でフィルムを得ることができる。そのため、光学部材を形成する他の部材が耐熱性の低いものであっても、該部材に直接、ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を塗布して、有機溶媒を蒸発除去することにより、フィルムを形成することができる。
得られたフィルムは、基板から剥離して、あるいは剥離せずにそのまま用いることができる。
【0028】
本発明のポリイミドフィルムは、上記(A)成分と(B)成分とを反応させて得られるポリイミド等を主体とする。
ここで、例えば、(A)成分が2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物であり、(B)成分が2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンである場合には、ポリアミック酸は下記式(8)〜式(11)で表される繰り返し単位の少なくとも1つを有する。
【0029】
【化7】

【0030】
さらに、この場合、成分(A)と成分(B)とが反応してなるポリイミドは、例えば下記式(12)又は(13)で表される繰り返し単位を有する。
【化8】

【0031】
本発明のフィルムの厚みは、1〜250μm、好ましくは5〜200μmである。また、本発明のフィルムを基材として使用する場合には10〜150μmであることが特に好ましい。
本発明のフィルムは、厚さが20μmである場合に、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは89%以上の全光線透過率を有する。
本発明のフィルムのYI値(イエローインデックス)は、例えば、JIS K7105透明度試験法に準じて測定することができ、厚さが20μmである場合に、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.1以下、さらに好ましくは1.5以下である。
本発明のフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が、250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましい。このようなガラス転移温度を有することにより、優れた耐熱性を得ることができる。
本発明のフィルムは、吸水率が5質量%未満であることが好ましく、2.5質量%未満であることが好ましく、2.4質量%以下であることがより好ましく、2.2質量%以下であることが特に好ましい。なお、上記吸水率は、下記の実施例に示す測定方法で測定された吸水率である。
本発明のフィルムは、発光ダイオード周辺材料、太陽電池周辺材料、フラットディスプレー周辺材料、電子回路周辺材料に使用することができる。具体的には、耐熱透明フィルム、導電性透明フィルム等の光学部材に使用することができる。また、電子回路周辺材料としては、プリント配線基板用基板として使用することもでき、フレキシブルプリント配線用基板、リジットプリント配線用基板、光電子プリント配線用基板、COF(Chip on Film)用基板、TAB(Tape Automated Bonding)用基板を挙げることができる。プリント配線用基板として用いる場合には、例えば、配線用の銅層を設けることもできる。本発明のフィルムに銅層を設ける方法としては、ラミネート法、メタライジング法等を挙げることができる。ラミネート法の場合には、例えば、本発明のフィルムに銅箔を熱プレスすることで銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。メタライジング法の場合には、例えば、本発明のフィルムの金属との親和性を発現させるために表面改質を行った後に、蒸着法またはスパッタリング法によって、ポリイミドと結合するNi系の金属層と湿式電気めっきに必要なシード層を形成する。そして、湿式めっき法により所定の膜厚の銅層を設けることで、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
【0032】
また、工程(a)、(b)により得られた、ポリイミド等及び有機溶媒を含むポリイミド系溶液は、ポリイミド系樹脂組成物として、発光ダイオード周辺材料、太陽電池周辺材料、フラットディスプレー周辺材料、電子回路周辺材料等に用いることもできる。具体的には、封止剤、レンズ材、プリント配線基板形成用材料、液晶配向膜形成用材料等に用いることができる。例えば、プリント配線基板形成用材料として用いる場合には、キャスティング法によりプリント配線用基板を製造することができる。具体的には、銅箔の上に前記ポリイミド系樹脂組成物を塗布した後に、熱処理することで、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
なお、前記ポリイミド系樹脂組成物には、共溶媒として、沸点が150℃以下の有機溶媒を使用することができる。該有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、ポリイミド系樹脂組成物中のポリアミック酸及び/又はポリイミドの濃度は、反応液全量の5〜30質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
[実施例1]
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(6.47g、15.8mmol)添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)(90.0g)を加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(3.53g、15.8mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けポリアミック酸溶液を得た。
次に、得られたポリアミック酸溶液に対し、N−メチルピペリジン(1.9ml)、無水酢酸(4.5ml)を加え、75℃で4時間攪拌しイミド化を行った。室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末を得た(収量9.20g、収率97.5質量%)。
次いで、得られたポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、20質量%の樹脂溶液を得た。そして、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて該樹脂溶液を塗布し、100℃で30分間、さらに150℃で60分間乾燥後、PET基板より剥離した。その後、さらに180℃減圧下で8時間乾燥して、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、閉環率(イミド化率)および重量平均分子量を下記の方法により評価した。また、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を、下記の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0034】
(1)閉環率(イミド化率)
ポリイミドの閉環率は、1H−NMRを使用して測定した。溶媒にはd−DMSOを用いた。アミック酸部のアミドのピーク積分値(9.8〜10.3ppm)と芳香族ジアミンのピーク積分値(6.5〜7.5ppm)の比率から閉環率を算出した。
(2)重量平均分子量
ポリアミック酸、イミド化後のポリマーのそれぞれに対して重量平均分子量の測定を行った。重量平均分子量は、TOSOH社製HLC−8020型GPC装置を使用し、溶媒には、臭化リチウムおよび燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
(3)全光線透過率、YI値(初期)
JIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、フィルム(5cm角)の全光線透過率、フィルム形成直後のYI値(イエローインデックス)を、スガ試験機株式会社製SC−3H型ヘイズメーターを用いて測定した。
(4)耐熱試験後のYI値
得られたフィルム(5cm角)を、150℃に保持した熱風式乾燥機中に100時間入れて、耐熱加速試験を行った。該試験後のフィルムのYI値を上記(3)と同様の方法により測定した。
(5)耐UV試験後のYI値
得られたフィルム(5cm角)を、紫外線蛍光ランプUVA−351を光源とするQUV試験機(促進耐候性試験機)に1週間入れて、耐UV加速試験を行った。該試験後のフィルムのYI値を上記(3)と同様の方法により測定した。
(6)吸水試験
得られたフィルムを3cm×4cmの大きさに3枚切り出し、減圧乾燥下180℃で8時間乾燥させた。フィルムの質量を測定した後、蒸留水に25℃で24時間フィルムを浸漬させた。浸漬後フィルム表面の水滴をふき取り、浸漬前後の質量変化から吸水率(質量%)を算出した。
吸水率の算出式は、次のとおりである。
吸水率(%)={[(浸漬後の質量)÷(浸漬前の質量)]−1}×100
【0035】
[実施例2]
イミド化反応の温度を40℃、反応時間を48時間とした以外は実施例1と同様にして白色粉末からなるポリマー(収量9.20g、収率97.5質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物の代わりに、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物を3.79g(15.8mmol)用い、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、6.21g(15.1mmol)、1.8ml、4.3mlに変更したこと以外は実施例1と同様にして白色粉末からなるポリマー(収量9.20g、収率97.3質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例4]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物の代わりに、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物を4.27g(14.0mmol)用い、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、5.73g(14.0mmol)、1.7ml、及び2.9mlに変更したこと以外は実施例1と同様にして白色粉末からなるポリマー(収量9.21g、収率97.0質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
得られたポリアミック酸溶液に、ピリジン(7.6ml)、無水酢酸(4.5ml)を加え、110℃で4時間攪拌しイミド化を行ったこと以外は実施例1と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量9.19g、収率97.4質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
イミド化反応の温度を75℃とした以外は比較例1と同様にして白色粉末からなるポリマー(収量9.19g、収率97.4質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例3]
イミド化反応時に添加する触媒をトリエチルアミン(9.7ml)とした以外は比較例1と同様して淡黄色粉末からなるポリマー(収量9.19g、収率97.4質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例4]
イミド化反応の反応温度を75℃とした以外は比較例3と同様して淡黄色粉末からなるポリマー(収量9.19g、収率97.4質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例5]
得られたポリアミック酸溶液に、ピリジン(7.3ml)、無水酢酸(4.3ml)を加え、75℃で4時間攪拌しイミド化を行ったこと以外は、実施例3と同様にして白色粉末からなるポリマー(収量9.14g、収率96.7質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例6]
得られたポリアミック酸溶液に、ピリジン(6.7ml)、無水酢酸(3.9ml)を加え、75℃で4時間攪拌しイミド化を行ったこと以外は、実施例3と同様にして白色粉末からなるポリマー(収量9.20g、収率98.7質量%)、及びフィルムを得た。
得られたポリマーの閉環率(イミド化率)、重量平均分子量、フィルムの全光線透過率、YI値(初期、耐熱試験後、耐UV試験後)、及び吸水性を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から、本発明によると、特定の触媒を用いているので従来に比して低温でイミド化しうることがわかる。また、得られたポリイミドは、有機溶媒に対して優れた溶解性を有するため、高温(例えば、400℃程度)で熱処理をすることなく、フィルムを形成することができる。さらに、表1から、本発明のフィルム(実施例1〜4)は、透明性(全光線透過率)が高く、また、フィルム形成直後、耐熱試験後、及び耐UV試験後のいずれにおいても黄変が少なく、さらには吸水率が低いことがわかる。一方、イミド化触媒として本発明以外のものを用いた比較例1〜6では、YI値(フィルム形成直後、耐熱試験後、耐UV試験後)が高く、吸水率が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)芳香族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化することを特徴するポリイミドの製造方法。
【請求項2】
上記脂環族三級モノアミンが下記式(7)で表される化合物である請求項1に記載のポリイミドの製造方法。
【化1】

(式(7)中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、Xは酸素原子又は硫黄原子、lは0又は1、m及びnは、各々独立して、0〜2の整数である。)
【請求項3】
上記(A)成分が、5員環及び/又は6員環の酸無水物骨格を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物である請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項4】
さらに、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸のいずれかの酸無水物、これらの酸無水物に相当する酸クロライド類、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の脱水剤を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で得られたポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発除去させることにより除去してフィルムを得る工程とを含む、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
(A)(a−1)5員環の酸無水物骨格を有し、かつ6員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有しない化合物、及び/又は、これらの反応性誘導体であるアシル化合物と(B)芳香族ジアミンとを反応させて得られるポリイミドであって、イミド化率が95%以上であり、かつ、厚み20μmのフィルムを形成した際のJIS K7105透明度試験法に準じて測定したイエローインデックスが1.5以下であることを特徴とするポリイミド。
【請求項7】
(A)下記(a−2)成分、(b)成分、及び(c)成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のアシル化合物と(B)芳香族ジアミンとを反応させて得られるポリイミドであって、イミド化率が85%以上であり、かつ、厚み20μmのフィルムを形成した際のJIS K7105透明度試験法に準じて測定したイエローインデックスが1.5以下であることを特徴とするポリイミド。
(a−2)5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、該架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が酸無水物骨格を形成し、6員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(b)6員環の酸無水物骨格を有し、かつ、5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(c)5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体
【請求項8】
イミド化率が100%であると仮定した場合に、イミド基濃度が2.5〜5.5mmol/gとなる請求項6又は7に記載のポリイミド。
【請求項9】
ポリスチレン換算の重量平均分子量が50,000〜1,000,000である請求項6〜8のいずれか1項に記載のポリイミド。
【請求項10】
25℃で24時間浸漬した場合の吸水率が、5質量%未満である請求項6〜9のいずれか1項に記載のポリイミド。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載のポリイミド、及び有機溶媒を含有するポリイミド系樹脂組成物。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれか1項に記載のポリイミドからなるポリイミドフィルム。
【請求項13】
光学部材用である請求項12に記載のフィルム。
【請求項14】
プリント配線用基板用である請求項12に記載のフィルム。

【公開番号】特開2009−263654(P2009−263654A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83495(P2009−83495)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】