説明

ポリイミドフィルムおよびフレキシブル回路基板

【課題】接着性、ハンドリング性、フレキシビリティ、寸法安定性および耐熱性に優れたポリイミドフィルムの提供。
【解決手段】0.1〜10モル%のカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、10〜30モル%のパラフェニレンジアミンおよび60〜89.9モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン成分と、10〜50モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および50〜90モル%のピロメリット酸二無水物を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とから合成されたポリアミック酸を前駆体とすることを特徴とするポリイミドフィルム。このポリイミドフィルムは剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度が特定の範囲に制御されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムおよび該ポリイミドフィルムを用いたフレキシブル回路基板に関するものである。更に詳しくは、吸水率を増加することなく、ハンドリング性が良く、フレキシビリティが高い上に熱可塑性ポリイミドを介して金属箔と熱圧着した場合に極めて大きな剥離強度を得ることのできるポリイミドフィルム、および該ポリイミドフィルムを利用したフレキシブル回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、通常、主鎖に環状イミド結合を有するポリマーを指し、芳香族ポリイミドは、芳香環の共役による剛直な分子構造と、極性の高いイミド結合による分子鎖間の強固な結合力を有するため、高い耐熱性、機械特性、耐化学薬品性を持つ。現在工業的に利用されている一般的な合成方法としては、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを等モルで重合させ、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を得て、その溶液を乾燥させて所望のフィルムやコーティングとし、加熱または触媒等を用いてイミド化するというものである。こうして得られるポリイミドは、その特性から、成形加工して複写機の軸受けや自動車のタイヤホイール等の構造材に、またフィルムとしてフレキシブルプリント基板、電線の絶縁被覆材等に広く使用されている。
【0003】
中でも、成長著しいエレクトロニクスの分野では不可欠な材料であり、銅箔などの金属箔と、熱可塑性ポリイミドを介して積層したフレキシブル回路基板用のベースフィルムとして、高い絶縁性と耐熱性を有する材料として優れた効果を発揮している。しかし、高密度回路の形成に当たってポリイミドフィルムには金属箔との高度な剥離強度が要求されているところ、必ずしも充分とは言えないために、微小パターン形成時に断線したり、長期的に使用された際に剥離することがあり、長期信頼性に欠けるという問題があった。この欠点を改良するために、ポリイミドフィルムに対するさまざまな電気、物理あるいは化学的処理が試みられたり、接着剤として機能する熱可塑性ポリイミドを改質する方法が試みられている。
【0004】
すなわち、ポリイミドフィルムの接着力を改質する方法としては、例えば、熱可塑性ポリイミドにジアミン成分として1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを用い、これを接着剤として用いる方法(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この場合には、優れた耐熱性、接着性を有しているものの、良好な接着状態を得るためには、接着温度を高温に設定する必要があるという問題があった。
【0005】
また、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成される非熱可塑性ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施す方法(例えば、特許文献2参照)も知られているが、この場合には、プラズマ処理を施すことによって工程数が増えるばかりか、プラズマ処理によってフィルム表面に導入された水酸基や、カルボン酸基などの親水基も、環境内の空気(は疎水性であるため)との接触によってフィルム基材の内層方向に埋没してしまい、プラズマ処理後時間が経過するにつれて接着力が低下してしまうという問題があった。
【0006】
また、ポリイミドフィルムの表面処理として接着剤フィルムを接着する前に、シラン系カップリング剤を塗布したポリイミドフィルム(例えば、特許文献3参照)も知られている。しかし、この場合には、シラン系カップリング剤を塗布する工程が増え、シラン系カップリング剤のpHの調整に注意しなければ(低pHでは分子内の水素結合で環状分子が生成するためであり、一方高pHでは屈曲構造をとるため樹脂との相互作用が弱くなるためと考えられているが)、接着力が低下してしまうという問題があった。
【0007】
ポリイミドフィルムは、上記剥離強度の他に、電子部品の高機能化に伴う寸法安定性が要求され、このため吸水率が低いことが好ましい。吸水によるサイズ変化、形状変化を最小限にすることによって寸法安定性を保ち得るからである。しかし、剥離強度を充分に向上させるためには金属箔との間に介されるフィルムとの親和性を向上させることが必要であるが、このような親和性は通常、水酸基、カルボキシル基などの親水性基であることから、剥離強度の向上とともに吸水性も上昇する傾向があり(従って寸法安定性は低下する方向である)、両者を同時に満足させるようなフィルムは未だ完成されているとは言い難いのである。
【特許文献1】特開昭61−143477号公報
【特許文献2】特開平5−222219号公報
【特許文献3】特開平6−336533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果なされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性ポリイミドを介して金属箔と接着した場合に、吸水率を増加することなく極めて大きな剥離強度を発揮することのできるポリイミドフィルムを得ることにある。
【0009】
さらに、本発明の目的は、前記ポリイミドフィルムを用いて薄く、軽く、柔軟性に富み、小型化と多機能化を両立するフレキシブル回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、下記一般式(I)で表されるカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを0.1〜10モル%の割合で含有する芳香族ジアミンと、芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とから合成されたポリアミック酸を前駆体とすることを特徴とするポリイミドフィルムが、熱可塑性ポリイミドを介して銅箔と熱圧着した際に、剥離強度が10N/cm以上であることを見いだし、本発明に至った。
【化1】

(ただし、式中のm、nは0を含む4以下の整数であり、(m+n)は1以上の整数である)
(剥離強度:接着剤フィルムであるカプトンR(デュポン社の登録商標)100KJを用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、280℃、40kg/cmで30分間加熱圧着し、得られた積層体をJIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした強さを剥離強度とする。)
【0011】
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族ジアミンとして0.1〜10モル%のカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(前記式(I))、10〜30モル%のパラフェニレンジアミンおよび60〜89.9モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体として10〜50モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および50〜90モル%のピロメリット酸二無水物とから合成されたポリアミック酸を前駆体とすることを特徴とする。
【0012】
前記カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンが、下記一般式(II)で表される3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンであることが好ましい。
【化2】

【0013】
また、下記の方法により測定される本発明のポリイミドフィルムの諸物性として、ヤング率が5GPa以上6GPa以下、線膨張係数が10×10−6/℃以上20×10−6/℃以下、吸水率が2.0重量%以下、ガラス転移温度が300℃以上であることなどは、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0014】
(ヤング率:JISK7113に準じ、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度300mm/分にて得られる張力−歪み曲線において初期立ち上がり部の勾配から求める)
【0015】
(線膨張係数:島津社製TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定する)
【0016】
(吸水率:ポリイミドフィルムを蒸留水に48時間浸析後、表面の水分をふき取り、加熱重量減分析により室温から200℃まで10℃/分の昇温速度で加熱された際に、50℃から200℃の間の重量減少率を吸水率とする。)
【0017】
(ガラス転移温度:セイコーインスツルメンツ社製粘弾性測定装置EXSTER6000により、温度範囲室温から500℃、昇温速度2℃/min、周波数10Hzの条件で測定した損失弾性率のピークから求める)
【0018】
そして、本発明のフレキシブル回路基板は、前記特徴的構造と好ましい諸物性を有するポリイミドフィルムに熱可塑性ポリイミドを介して金属箔を圧着してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリイミドフィルムは特定の芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とから構成されるので、熱可塑性ポリイミドを介して金属箔に圧着された際に10N/cm以上の剥離強度を有し、さらにヤング率が適度な範囲にあってハンドリング性およびフレキシビリティに優れる。また線膨張係数や吸水率が低いので寸法安定性に優れ、ガラス転移温度が高いため耐熱性に優れたポリイミドフィルムを得ることができる。このポリイミドフィルムはフレキシブル回路基板用ベースフィルムとして使用された際に長期的に寸法安定性および剥離強度を維持することができる。
【0020】
また、ポリイミドフィルムの剥離強度を向上させるための処理に、多くの試薬、時間、労力などを必要とせず、大量生産に適し、低コストでかつ高品質の高剥離強度ポリイミドを製造することができ、前記ポリイミドフィルムを用いて薄く、軽く、柔軟性に富み、小型化と多機能化を両立するフレキシブル回路基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に詳述する。
本発明のポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミック酸から得られる。ポリアミック酸は、周知の通り芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とを略等モル反応させることにより得られるが、本発明においては、特に芳香族ジアミンに下記式(I)で表されるカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを含有することが必須の条件である。この芳香族ジアミンを含有しない場合には、得られるポリイミドフィルムが、目的とする剥離強度を示さないからである。従来の代表的ポリイミドには芳香族ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを使用していた。この化合物は、2つのアミノ基が結合に関与するためにポリマー形成後は芳香環に置換基が残らず、接着剤フィルムとの接着力において、フリーのカルボキシ基を有する本発明のカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンの方が優れているのである。
【化3】

(ただし、式中のm、nは0を含む4以下の整数であり、(m+n)は1以上の整数である)
【0022】
前記芳香族ジアミンとして使用されるカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンは、0.1〜10モル%の割合で含有され、好ましくは1〜5モル%である。含有量が前記範囲を越えると、組み合わされる他の芳香族ジアミンや芳香族テトラカルボン酸二無水物にもよるが、得られるポリイミドフィルムの吸水率が高くなって所望の寸法安定性を得難くなるからであり、また前記範囲未満であると目的とする剥離強度が得難くなるからである。なお、この場合のモル%は、全芳香族ジアミンを100モル%としたときのカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンの占める割合を指す。
【0023】
前記カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンのカルボキシル基の置換基数は1つ以上であり多置換であってもかまわない。置換基数が3より多い場合には置換基数2の場合に比して相対的に使用量を少なくすることが望ましい。このカルボキシ基は接着強度を向上させるものであるが、同時にポリイミドフィルムを親水化するものでもあるため、吸水率の増加によって寸法安定性に影響を及ぼすおそれがあるからである。さらに、カルボキシル基の置換位置は任意の位置であり、その具体例としては2,6’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび2,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンが挙げられる。しかし、合成面での簡便さの観点から3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(下記式(II))を用いることは好ましい条件である。
【化4】

【0024】
前記ポリアミック酸の合成には、前記カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン以外に、パラフェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを含有することが特に好ましい。これらの芳香族ジアミン成分を含有することによって、得られるポリイミドフィルムのヤング率、線膨張係数、吸水率、ガラス転移温度等の各物性値が、所望の範囲にすることが容易になるからである。
【0025】
前記パラフェニレンジアミンの添加量は、10〜30モル%、好ましくは15〜20モル%の範囲で含有させることが望ましい。前記範囲を越えて使用するとヤング率が高くなりすぎて得られるポリイミドフィルムのフレキシビリティを損なうおそれがあるため好ましくなく、また前記範囲未満であるとパラフェニレンジアミンを添加することにより目的とする効果が発現し難くなって、組み合わせる意義がなくなるからである。
【0026】
また、前記4,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、ポリイミドとして最初に工業的に実用化されたカプトン(デュポン社の登録商標)に使用された芳香族ジアミンであり、現在でもポリイミド系材料を構成する芳香族ジアミンの主成分である。その添加量は60〜89.9モル%、好ましくは、75〜84モル%である。前記範囲は、他の上記2成分の使用量とのかね合いで芳香族ジアミン全体で100モル%になるように任意に設定することができる。また、前記カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンと構造上類似し、ポリアミック酸の合成においても両者が均等に反応することにより、ポリアミック酸分子鎖にランダムにカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン単位が分散することとなって、フィルムに成形した後の接着力も均質なものが得られるという効果も期待できる。
【0027】
前記以外の芳香族ジアミン類として以下の化合物を一種以上適宜組み合わせて使用することもできる。具体的には、メタフェニレンジアミン、ベンジジン、パラキシリレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメトキシベンジジン、1,4−ビス(3メチル−5アミノフェニル)ベンゼン、2,6’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニルおよびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられる。これらのうち2,6’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニルおよび/または、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニルを用いると、ポリイミドフィルムの剥離強度を向上させる効果がある。これらの芳香族ジアミン類は本発明においてはあくまで任意成分であり、基本的には上記3成分(カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、パラフェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)により構成される。
【0028】
次にポリアミック酸のもう一つの構成成分である芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体について説明する。本発明においては、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体として特に好ましい化合物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、およびピロメリット酸二無水物である。
【0029】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、得られるポリイミドフィルムのガラス転移温度に影響すると考えている。この成分の使用濃度は10〜50モル%、好ましくは25〜40モル%である。他の芳香族ジアミン類との組み合わせにもよるが、前記範囲未満であると、吸水率が大きくなる傾向があり、前記範囲を越えて使用するとガラス転移温度が低くなる傾向がある。なおこの場合のモル%は、全芳香族テトラカルボン酸無水物を100モル%としたときの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の占める割合を指す。
【0030】
またピロメリット酸二無水物については、前記4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせにおいてポリイミドとして最初に工業化されたカプトンに使用された芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、現在でもポリイミド系材料を構成する酸無水物の主成分である。その添加量は、50〜90モル%、好ましくは60〜75モル%である。前記範囲は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の添加量とのかね合いで芳香族テトラカルボン酸二無水物全体で100モル%になるように任意に設定することができる。
【0031】
前記以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物として以下の化合物を一種以上適宜組み合わせて使用することもできる。具体的には、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸およびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられる。これらの芳香族ジアミン類は本発明においてはあくまで任意成分であり、基本的には上記2成分(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物)により構成される。
【0032】
前記ポリアミック酸を構成する芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとは、それぞれのモル数が実質上等しくなる割合で重合されるが、その一方が10モル%の範囲内で他方に対して過剰に配合されることが好ましく、5モル%の範囲内で他方に対して過剰に配合されることがより好ましい。過剰に配合された成分は後に未反応モノマーとして残留することになるが、少ない方の成分が略完全に重合に利用される為、後のフィルム形成過程で残留成分を容易に除去できるからである。過剰に配合する成分としては、その他の芳香族ジアミンの方を選択するのが好ましい。特にその他の芳香族ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテルは工業的に大量に生産され、コスト的にも、入手のし易さの点でも、あるいは残留成分の除去の容易性の点でも有利である。
【0033】
次に、本発明のポリイミドフィルムの前駆体である前記ポリアミック酸の重合について説明する。重合反応に際しては、反応系の各成分を溶解する有機溶媒を使用することが好ましい。溶媒はすべての反応成分およびポリアミック酸生成物と実質上非反応性であることが望ましく、そのような溶媒として、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−,m−,またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。これらのうち、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが重合反応および後のフィルム成形工程において操作性、コストなどの点で好ましい。
【0034】
前記有機溶媒の使用量は、反応成分(芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン)として5〜40重量%で含有するのが好ましく、10〜30重量%で含有するのがより好ましい。この濃度に設定することにより、得られるポリアミック酸の分子量が最適に制御できるからである。本発明においてポリアミック酸溶液を得るための反応手順としては、有機溶媒中に芳香族ジアミンを添加し溶解したのち、別途準備した芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機溶媒に溶解した溶液を添加する方法、または有機溶媒中に芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加し溶解したのち、別途準備した芳香族ジアミンを有機溶媒に溶解した溶液を添加する方法、後に添加する成分を固体状態で添加する方法などいずれの方法でも可能である。このとき芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの添加量は、前記の通り一方を多く添加することも、或いは実質的に等モルとすることもできる。通常の重合反応は、カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミンを前記溶媒に溶解しておき、これに、芳香族テトラカルボン酸二無水物を(直接固体であるいは前記溶媒に溶解させて溶液として)添加する方法が採用される。
【0035】
前記重合反応は、不活性雰囲気中で前記の添加方法に従ってゆっくりと撹拌および/または混合しながら、0〜80℃の温度の範囲で、10分〜30時間連続して進めるのが好ましく、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。また本発明で複数種の芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを使用する場合にあっては、それぞれのモノマーを溶解させた溶液を交互に添加することによってブロックポリマーを生成することもできる。本発明においては、使用する各成分に由来する機能(諸物性)をそれぞれ有効に発現させるためにブロックポリマーとして形成することが好ましい。一般にランダムポリマーは組み合わされたモノマーを平均した物性を示すので、機能面で平均化されて特有な効果を表し難いからである。さらに、重合反応中に真空脱泡することは、重合反応の進行を阻害する酸素などを除去し溶液内を均一化するので、良質なポリアミック酸の溶液を製造するために有効な方法である。
【0036】
また、重合反応の前に芳香族ジアミンに少量の末端封止剤として、例えばアニリン、4−アミノビフェニル、2−ナフチルアミン、無水フタル酸、3,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物などを添加することができる。これらの添加量は、芳香族ジアミンおよび芳香族テトラカルボン酸二無水物の全モル数に対し、1〜10モル%の範囲で添加することによって、分子量の調整など重合反応の制御を行ってもよい。
【0037】
次に、本発明のポリイミドフィルムの製造方法について説明する。本発明のポリイミドフィルムは前記構造のポリアミック酸を前駆体とするフィルムをイミド化することにより得られる。前記の通り、芳香族ポリイミドは、芳香環の共役による剛直な分子構造と、極性の高いイミド結合による分子鎖間の強固な結合力を有するので、一般的には熱可塑性を有さず、また溶媒に対して難溶性であるため、成形に際しては前駆体であるポリアミック酸を利用するのである。ポリアミック酸の溶液は、重合反応系の溶液をそのまま使用しても良いし、一旦ポリアミック酸を精製して未反応モノマーを除去し、フィルム形成用の溶媒に再溶解させて調製することもできる。本発明のフィルム形成用のポリアミック酸溶液の粘度は、安定した送液のため、ブルックフィールド粘度計による測定値で10〜2000Pa・sの範囲が好ましく、100〜1000Pa・sの範囲がより好ましい。この範囲の粘度がフィルム形成に際し均一な膜厚を形成し、溶液をキャストした際の適度な広がりが得られるからである。なお、溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0038】
前記ポリアミック酸の溶液を例えば加熱ドラム(ベルト)上にキャストし、70℃〜120℃の熱風で有機溶媒を乾燥する。こうして自己支持性のポリアミック酸フィルムを得たのち、加熱ドラムより剥離して、適当な金枠に端部を固定し、その後、200℃以上500℃以下の温度、好ましくは200℃〜400℃で徐々に加熱して、1〜5時間、好ましくは2〜3時間かけて熱処理を行うことによりポリイミドフィルムを得る。加熱により脱水・環化(イミド化)を進行させると同時に残留モノマーや溶媒を除去することもできるからである。なお前記フィルムは、キャスト後の乾燥工程において、加熱ドラムより剥離する前の溶媒含有量を5%以上40%以下とすることが重要である。これ以上に溶媒を含有していると、剥離操作の際にフィルムの表面にしわ等が発生するおそれがあるからである。また、溶媒含有量が少なすぎると、剥離性が悪くなるからである。
【0039】
さらにまた、ガラス、金属、高分子フィルムなど平面を有し、ポリアミック酸をこの上にキャストさせた場合に、キャストされたポリアミック酸を支持することができるものであれば、前記加熱ドラムの代わりに使用することもできる。
【0040】
本発明においてキャストとは、ポリアミック酸を支持体上に展開することを意味する。キャストの一例としては、バーコート、スピンコート、あるいは任意の空洞形状を有するパイプ状物質からポリアミック酸を押し出し、支持体上に展開する方法が挙げられる。
【0041】
イミド化は、前記加熱による方法以外にも、脱水剤と触媒を用いて閉環する化学的閉環法、あるいはその両者を併用した閉環法のいずれで行ってもよい。化学的閉環法で使用する脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、フタル酸無水物などの酸無水物などが挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。脱水剤の濃度範囲はイミド基に対し200〜400モル%が好ましい。前記以上の濃度であっても反応に寄与しない成分濃度が増すだけであり、前記以下の濃度では、充分な効果を発揮しないからである。また、触媒としては、ピリジン、ピコリン、キノリンなどの複素環式第3級アミン類、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン類などが挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。これらの触媒添加量は、使用する触媒によって一概には決定できないが、例えばβ−ピコリンを使用する場合にはイミド基に対し200〜400モル%の濃度範囲で使用される。なお、化学的閉環法による場合にイミド化を完了させたのちに300℃〜500℃で熱処理することによりフィルムの物性をより向上させることができる。
【0042】
また、上記キャストに先立って0.02〜10重量%となるように錫(II)塩または錫(IV)塩をポリアミック酸溶液に添加することができる。これによりさらなる接着性の改善が期待できるからである。
【0043】
本発明のポリイミドフィルムの厚みは3〜250μmであることが望ましい。すなわち、厚みが3μm未満では形状を保持することが困難となり、また250μmを越えると屈曲性に欠けるため、フレキシブル回路基板用途には適用しにくくなるからである。また、ポリイミドフィルムは、延伸および未延伸のものをいずれも使用することができる。さらに、加工性改善などを目的として10重量%以下の無機質または有機質の添加物、例えば酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびポリイミドフィラーなどの化学的に不活性な有機フィラーや無機フィラー添加することも可能である。
【0044】
こうして形成された本発明のポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミドを介して銅箔と熱圧着した際の剥離強度が10N/cm以上であり、ヤング率が5GPa以上6GPa以下の範囲にあってハンドリング性およびフレキシビリティに優れ、また線膨張係数が10×10−6/℃以上20×10−6/℃以下であって寸法安定性に優れ、さらにガラス転移温度が300℃以上であって耐熱性に優れることから、フレキシブル回路基板用ベースフィルムとして極めて有用である。
【0045】
ここで、本発明でいう剥離強度とは、ポリイミドフィルムを一旦銅箔に熱圧着して製品とした後、そこから引き剥がす際に必要な力を(詳細には下記実施例参照)測定したものであり、剥離強度が10N/cm以上であることが好ましいのである。これ以下の強度であっても必ずしも使用できない訳ではないが、長期使用にともない銅箔の剥がれを生ずるおそれがあり好ましくない。なお、剥離強度は、ポリイミドフィルムに対し必要に応じてプラズマ処理、コロナ処理などの電気処理や、物理、化学処理を行うことによって、さらに向上させることが可能である。しかしながら、本発明では、前記処理を全く処理を施さない状態で、測定した値を剥離強度と定義する。この値はポリイミドフィルムが本質的に有する剥離強度を的確に再現するからである。
【0046】
ヤング率は、縦弾性係数ともいい、一方向に引っ張ったり圧縮したときの伸びと力の関係から求められる定数である。そして、ヤング率が大きいほど硬い物質であるといえる。応力(単位面積当たりの力)とひずみ(伸び)の関係は、[応力 σ]= [ヤング率 E]×[ひずみ ε]である。本発明では、JISK7113に準じて(詳細には下記実施例参照)測定した張力−ひずみ曲線において初期立ち上がり部の勾配から求めている。ヤング率は5GPa以上6GPa以下であることが好ましい要件であり、5GPa未満ではハンドリング性を、6GPaより大きい場合はフレキシブル性を損なうため好ましくない。
【0047】
また、線膨張係数は温度の上昇に対応して長さが変化する割合をいうが、本発明では下記方法により測定した値をいい、10×10−6/℃以上20×10−6/℃以下の範囲にあることを好ましい物性値としている。通常樹脂と金属では、樹脂の方が線膨張係数が大きいため、本発明の一つの目的であるフレキシブル回路基板として使用する際に、金属箔との線膨張係数の差が大きいと剥離強度が大きくても、基板の形状にひずみを生じ易くなって好ましくないからである。具体的には銅の線膨張係数は、約17×10−6/℃を示すので、本発明のポリイミドフィルムもそれに近い範囲を目標とした。
【0048】
吸水率とは、一般的には湿潤状態の試料の表面水を完全に拭い去って表面乾燥飽和水状態とし、さらに100〜110℃の温度で定重量となるまで乾燥し絶対乾燥状態とし、試料の絶対乾燥状態の重量をA、表面乾燥飽和水状態の重量をBとした時、吸水率=(B−A)÷A×100% で表される。本発明では、下記方法により測定した値をいい、2.0重量%以下であることを好ましい物性値としている。吸水すると通常膨潤するのでサイズが大きくなり、ポリイミドフィルムと熱圧着される金属箔は吸水しないので、両者の間にサイズ差が生じ、線膨張係数が低くても、吸水率が大きいと寸法安定性を損なうので好ましくないからである。
【0049】
ガラス転移点は、一般に、非晶質固体を加熱した場合に、低温では結晶なみに堅く流動性がなかった固体が、ある狭い温度範囲で急速に剛性と粘度が低下し流動性が増す温度があり、このような温度をガラス転移点という。ガラス転移点を測定する主な方法は次のものである。(1)試料の温度をゆっくりと上昇または下降させながら力学的物性の変化を測定する(TMAなど)、(2)試料の温度をゆっくりと上昇または下降させながら吸熱や発熱を測定する(DSC)。(3)試料に加える周期的力の周波数を変えながらその応答を測定する(メカニカルスペクトロスコピー(動的粘弾性測定))、などである。これらの方法のうち本発明では(3)の方法を基本に測定(詳細には下記実施例参照)した。そして、本発明のポリイミドフィルムはそのガラス転移温度が、300℃以上が好ましい物性値としている。300℃未満の場合は、熱可塑性ポリイミドを介して金属箔と熱圧着する際に熱変形するおそれがあり好ましくないからである。ガラス転移温度は高いほど好ましいが、現実には400℃以上であると測定が困難になる。
【0050】
本発明のフレキシブル回路基板は、上記のポリイミドフィルムをベースフィルムとし、これに熱可塑性ポリイミドを介して金属箔を圧着することによって得られるが、ここで用いられる熱可塑性ポリイミドとしては、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、シリコーン変性ポリイミド、カルボニル結合型ポリイミド、長鎖エーテル結合型ポリイミド、脂環式ポリイミド、フッ素変性ポリイミド、スルホン結合型ポリイミドなどが挙げられ、特に限定するものではない。
【0051】
また、熱可塑性ポリイミドを介して本発明のポリイミドフィルムと熱圧着される金属箔は銅箔であることが好ましいが、アルミニウムなど他の金属箔でもかまわない。
【0052】
本発明では上記ポリイミドフィルムが優れた物性を有することから、これを熱可塑性ポリイミドを介して金属箔と加熱・圧着してフレキシブル回路基板用ベースフィルムとして用いることにより、長期安定性に優れ、高い剥離強度を維持し、耐熱性に優れるという性能を発揮する。
【実施例】
【0053】
以下の実施例によって本発明の効果をより具体的に説明する。なお、実施例中の各物性値は、以下の方法により測定した値である。
[剥離強度]
接着剤フィルムであるカプトンR(デュポン社の登録商標)100KJを用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、280℃、40kg/cm2で30分間加熱圧着し、得られた積層体をJIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした値である。ここで使用するポリイミドフィルムのサンプル形状は、厚み約20〜50μm、長さ150mm、幅10mmのものを使用した。
【0054】
[ヤング率]
ヤング率は、JISK7113に準じて、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度100mm/分にて得られる張力−歪み曲線において、初期立ち上がり部の勾配から求めた。ここで使用するポリイミドフィルムのサンプル形状は前記同様、厚み約20〜50μm、長さ150mm、幅10mmのものを使用した。
【0055】
[線膨張係数]
線膨張係数は、島津社製熱機械分析装置TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定した値である。ここで使用するポリイミドフィルムのサンプル形状は、厚み約20〜50μm、長さ13mm、幅5mmのものを使用した。
【0056】
[吸水率]
ポリイミドフィルムを蒸留水に48時間浸析後、表面の水分をふき取り、加熱重量減分析により室温から200℃まで10℃/分の昇温速度で加熱された際に、50℃から200℃の間の重量減少率を吸水率とする。ここで使用するポリイミドフィルムのサンプル形状は、厚み約20〜50μm、長さ100mm、幅5mmのものを使用した。
【0057】
[ガラス転移温度] ガラス転移温度は、セイコーインスツルメンツ社製粘弾性測定装置EXSTER6000により、温度範囲室温から500℃、昇温速度2℃/min、周波数10Hzの条件で測定した損失弾性率のピークから求めた。ここで使用するポリイミドフィルムのサンプル形状は、厚み約20〜50μm、長さ50mm、幅5mmのものを使用した。
【0058】
[実施例1]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン1.27g(4.4mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物0.96g(4.4mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン3.20g(29.6mmol)とピロメリット酸二無水物6.34g(29.3mmol)を固体(粉末)状態で数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル22.84g(114.0mmol)を固体(粉末)状態で入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物8.72g(29.2mmol)を固体(粉末)状態で数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物16.55g(75.9mmol)を固体(粉末)状態で数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)12.45gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0059】
DCスターラーを備えた300mlセパラブルフラスコ中に、上記で得られたポリアミック酸溶液200.00gを入れ、−10℃で1時間冷却した。これにβ−ピコリン24.0gと無水酢酸26.0gを加え、真空下で30分撹拌した。このポリアミック酸混合物の一部をガラス板上に取り、アプリケータを用いて均一な膜を形成した。これを90℃で15分時間熱処理を行い、得られたフィルムをガラス板から引き剥がした。さらに200℃30分、300℃30分、350℃5分で熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0060】
[実施例2]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン2.07g(7.2mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物1.56g(7.2mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン2.35g(21.7mmol)とピロメリット酸二無水物4.69g(21.5mmol)を数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル23.19g(116.8mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物12.78g(43.4mmol)を数回に分けて投入し、30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物13.32g(61.1mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)13.69gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0061】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0062】
[実施例3]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン2.96g(10.33mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物2.23g(10.2mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン2.71g(25.1mmol)とピロメリット酸二無水物5.42g(24.9mmol)を数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル22.47g(112.2mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物10.86g(36.9mmol)を数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物13.28g(60.9mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)12.96gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0063】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0064】
[比較例1]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、パラフェニレンジアミン3.12g(28.8mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物6.22g(28.5mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル23.08g(115.24mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物12.72g(43.2mmol)を数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物14.83g(68.0mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)14.62gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0065】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0066】
[比較例2]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン2.06g(7.2mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物1.56g(7.1mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン0.78g(7.2mmol)とピロメリット酸二無水物1.56g(7.1mmol)を数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル25.99g(129.8mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物8.49g(28.83mmol)を数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物19.53g(89.5mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)14.36gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0067】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0068】
[比較例3]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン1.33g(4.7mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物1.00g(4.6mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン6.71g(62.0mmol)とピロメリット酸二無水物13.39g(61.4mmol)を数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル17.70g(88.38mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.12g(31.0mmol)を数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物10.63g(48.7mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)12.89gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0069】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0070】
[比較例4]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン2.34g(8.2mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物1.78g(8.1mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン2.22g(20.5mmol)とピロメリット酸二無水物4.42g(20.3mmol)を数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル21.60g(107.9mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物26.1g(88.7mmol)を数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物1.55g(7.1mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)15.24gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0071】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0072】
[比較例5]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン1.78g(6.2mmol)とN,N’−ジメチルアセトアミド223.00gとを入れ、ピロメリット酸二無水物1.34g(6.2mmol)を数回に分けて投入し窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。次に、これにパラフェニレンジアミン4.20g(38.8mmol)とピロメリット酸二無水物8.38g(38.42mmol)を数回に分けて投入した。さらに、これに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル22.07g(110.2mmol)を入れ、30分攪拌した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物1.37g(4.65mmol)を数回に分けて投入し、さらに30分攪拌した後、ピロメリット酸二無水物20.75g(95.2mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)13.68gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0073】
得られたポリアミック酸から実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を測定した結果を表1に示した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果から明らかなように、本発明の0.1〜10モル%の3,3’−カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、10〜30モル%のパラフェニレンジアミンおよび60〜89.9モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン成分と、10〜50モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および50〜90モル%のピロメリット酸からなるポリイミドフィルム(実施例1〜3)は、比較例1の3,3’−カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを使用しないポリイミドフィルムに比較して、剥離強度が10N/cm以上と著しく改質されたものである。
【0076】
また、表1の結果から明らかなように、本発明例1〜3のポリイミドフィルムは、比較例2のパラフェニレンジアミンの含有量の少ないポリイミドフィルムに比較してヤング率、線膨張係数が著しく改質されたものが得られている。
【0077】
さらに、本発明例1〜3のポリイミドフィルムは、比較例3のパラフェニレンジアミンの含有量が多く、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの含有量が少ないポリイミドフィルムに比較して、線膨張係数および吸水率の物性値が優れたものである。
【0078】
また本発明例1〜3のポリイミドフィルムは、比較例4のピロメリット酸二無水物の含有量が少ないポリイミドフィルムに比較して、ヤング率とガラス転移温度に優れたものが得られている。
【0079】
さらにまた本発明例1〜3のポリイミドフィルムは、比較例5の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が少ないポリイミドフィルムに比較して、ヤング率と吸水率に優れたものが得られている。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明によれば、熱可塑性ポリイミドを介して銅箔と熱圧着した際の剥離強度が10N/cm以上であり、ヤング率が5GPa以上6GPa以下の範囲にあってハンドリング性およびフレキシビリティに優れ、また線膨張係数が10×10−6/℃以上20×10−6/℃以下、吸水率が2.0重量%以下であって寸法安定性に優れ、さらにガラス転移温度が300℃以上であって耐熱性に優れたポリイミドフィルムを得ることができ、長期信頼性に優れたフレキシブル回路基板を与えることができる。
【0081】
また、本発明によれば、ポリイミドフィルムの剥離強度、ヤング率、線膨張係数、吸水率およびガラス転移温度を制御するための処理に、多くの試薬、時間、労力などを必要とせず、大量生産に適し、低コストでかつ高品質のポリイミドフィルムを効率的に製造することができるため、この分野へ与える貢献度が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリイミドを介して銅箔と熱圧着した際に、下記の方法により測定した剥離強度が10N/cm以上であって、
下記一般式(I)で表されるカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを0.1〜10モル%の割合で含有する芳香族ジアミンと、芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とから合成されたポリアミック酸を前駆体とすることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

(ただし、式中のm、nは0を含む4以下の整数であり、(m+n)は1以上の整数である)
(剥離強度:接着剤フィルムであるカプトンR(デュポン社の登録商標)100KJを用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、280℃、40kg/cmで30分間加熱圧着し、得られた積層体をJIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした強さを剥離強度とする。)
【請求項2】
前記芳香族ジアミンとして、0.1〜10モル%のカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、10〜30モル%のパラフェニレンジアミンおよび60〜89.9モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体として、10〜50モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および50〜90モル%のピロメリット酸二無水物とから合成されたポリアミック酸を前駆体とすることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記カルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンが下記一般式(II)で表される3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンであることを特徴とする請求項1または2記載記載のポリイミドフィルム。
【化2】

【請求項4】
下記方法で測定したヤング率が5GPa以上6GPa以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
(ヤング率:JISK7113に準じ、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度300mm/分にて得られる張力−歪み曲線において初期立ち上がり部の勾配から求める)
【請求項5】
下記方法で測定した線膨張係数が10×10−6/℃以上20×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
(線膨張係数:島津社製TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定する)
【請求項6】
下記方法で測定した吸水率が2.0重量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
(吸水率:ポリイミドフィルムを蒸留水に48時間浸析後、表面の水分をふき取り、加熱重量減分析により室温から200℃まで10℃/分の昇温速度で加熱された際に、50℃から200℃の間の重量減少率を吸水率とする。)
【請求項7】
下記方法で測定したガラス転移温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
(ガラス転移温度:セイコーインスツルメンツ社製粘弾性測定装置EXSTER6000により、温度範囲室温から500℃、昇温速度2℃/min、周波数10Hzの条件で測定した損失弾性率のピークから求める)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムに熱可塑性ポリイミドを介して金属箔を圧着してなることを特徴とするフレキシブル回路基板。

【公開番号】特開2008−248067(P2008−248067A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90656(P2007−90656)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】