説明

ポリイミド前駆体、その組成物及びポリイミド積層板

【課題】銅箔に近い熱膨張係数を有し、かつ銅箔との接着性に優れたポリイミドの前駆体、その組成物、及びポリイミド積層板を提供する。
【解決手段】ポリイミド前駆体及びその組成物、ポリイミド積層板が提供される。ポリイミド前駆体及びその組成物は、特定比率のジアミンモノマーと酸二無水物モノマーから調製される。この組成物は銅箔上に塗布され、硬化されて、所望の熱膨張係数(CTE)を有し、かつフィルムの平坦性、寸法安定性、剥離強度、引張強度、伸びなどが所望の特性を示すポリイミド積層板が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔に近い熱膨張係数を有するポリイミドの前駆体と、その組成物を提供する。該ポリイミド前駆体及びその組成物は、銅張ポリイミド積層板、特にフレキシブルプリント回路基板の製造に適している。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂はきわめて高い熱安定性を有し、現在、電子材料として広く使用されている。特に、消費者向けの電気製品(例えば、ノートブックコンピュータ、携帯電話、デジタルカメラなど)のように、フレキシブルプリント回路基板を用いる製品に広く用いられている。なぜなら、生活の利便性に対する要求によって電気製品はより小さく、より軽く、より薄くなる方向へと発展してきており、フレキシブルプリント回路基板の開発もそれに対応して、より軽く、より薄い、無接着剤型の銅張ポリイミド積層板へと移行する必要があったからである。
【0003】
通常のポリイミドは銅箔との接着性が低いため、従来の銅張ポリイミド積層板では、ポリイミドフィルムと銅箔とを結合するために接着剤を必要とする。しかし、使用される接着剤の耐熱性が低いため、接着剤を用いた積層板の用途は使用温度によって制限される。さらに、このような積層板は製造工程が比較的複雑である。製造工程を簡略化しコストを下げる目的で、ポリイミドフィルムを直接銅箔に結合して無接着剤型銅張ポリイミド積層板を製造することもできる。この方法を用いると、耐熱性の低い接着剤を使用する必要がないため、銅張ポリイミド積層板の耐熱性及び耐候性が向上する。
【0004】
このような無接着剤型銅張ポリイミド積層板は、ポリアミック酸を前駆体として製造される。例えば、芳香族系酸二無水物モノマーと、芳香族系ジアミンモノマーを極性非プロトン性溶媒中で反応させ、ポリアミック酸溶液を調製する。次に、このポリアミック酸溶液を銅箔の表面に塗布し、加熱して溶液中に含まれる溶媒を除去する。続いて、高温でポリアミック酸をイミド化すれば、銅箔の表面にポリイミドフィルムを形成することができる。
【0005】
フレキシブルプリント回路基板の製造プロセスでは、回路基板は製造装置の多数のスロットチャネルを通過する。回路基板に反りが生ずると、その回路基板は装置のスロットチャネルをスムーズに通過できないため、プロセス全体を止めてしまうおそれがある。このためフレキシブルプリント回路基板の製造過程においては、初期の銅張積層板と、エッチング処理を受けたフレキシブルプリント回路基板の両方が、平坦に保たれていなければならない。しかし、無接着剤型ポリイミドフレキシブルプリント回路基板が薄くなるほど、わずかな残存応力によって基板が反ってしまう。反りの主な原因は、フレキシブルプリント回路基板における、ポリイミドフィルムと銅箔との間の熱膨張係数の違いにある。とりわけ、エッチング工程の後では、ポリイミドフィルムと銅箔との間に生じた応力がより重大な影響を及ぼす。このような反りは、フレキシブルプリント回路基板の寸法安定性にも影響を及ぼす。
【0006】
さらに、回路設計やフレキシブルプリント回路基板の製造プロセスは徐々に微細化しているため、ポリイミドフレキシブルプリント回路基板の寸法安定性を保つことが重要である。特にフレキシブルプリント回路基板のビアホールのアライメントには、回路基板の寸法安定性が重要である。フレキシブルプリント回路基板の寸法安定性が十分でないと、製造工程において生じるより大きな熱応力によって、ビアホールが損傷を受けるおそれがある。回路基板の寸法安定性が改善されれば、より平坦性のよいポリイミドフレキシブルプリント回路基板を製造することが可能となる。また、エッチング工程の後でも反りが生じないため、フレキシブルプリント回路基板の製造における全ての要求事項が満たされ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無接着剤型銅張ポリイミド積層板は接着剤を使用しないため、耐熱性と機械的特性については、要求事項を満たし得る材料である。これらに加えて平坦性が良好な基板を得るためには、ポリイミド樹脂の熱膨張係数が、銅箔の熱膨張係数と近いことが必要となる。このためには、ポリイミド樹脂の合成において適切なモノマーの組み合わせを選択する必要がある。しかし、従来技術によって得られる平坦性と寸法安定性に優れたポリイミドフィルムは概して銅箔との接着性が低く、剥離強度が十分でない。
【0008】
ここまで述べた通り、本技術分野においては、寸法安定性が良好で銅箔と近い熱膨張係数を有し、かつ、良好な接着性を示す銅張ポリイミド積層板が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の目的は、ジアミンモノマーと、酸二無水物モノマーとの重合によって得られるポリイミド前駆体を提供することである。ここで、ジアミンモノマーは、式(1)によって表される化合物を少なくとも一種類と、式(2)によって表される化合物を少なくとも一種類含有し、酸二無水物モノマーは、式(3)によって表される化合物を少なくとも一種類と、式(4)で表される化合物を少なくとも一種類含有する。ここで、式(2)で表される化合物の総量に対する式(1)で表される化合物の総量のモル比は約1.0〜5.0であり、式(4)で表される化合物の総量に対する式(3)で表される化合物の総量のモル比は約0.01〜2.0である。
【化1】

(上記式(1)において、各Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。iは1、2、3、又は4である。)
【化2】

(上記式(2)において、nは0又は1であり、各Rはそれぞれ独立して−CH−、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−又は−C(CF−を表し、各Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−OH、−COOH、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。)
【化3】

(上記式(3)において、各Yはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。kは1又は2である。)
【化4】

(上記式(4)において、mは0又は1であり、各Rはそれぞれ独立して−CH−、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−又は−C(CF−を表し、各Wはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−OH、−COOH、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。)
【0010】
本発明の第二の目的は、溶液中に本発明のポリイミド前駆体を含有し、全固形分が約10〜45質量%の範囲であるポリイミド前駆体組成物を提供することである。
【0011】
本発明の第三の目的は、本発明のポリイミド前駆体組成物を硬化させることによって形成される、熱膨張係数が約16〜18ppm/℃の範囲のポリイミドを提供することである。
【0012】
本発明の第四の目的は、銅箔と、本発明のポリイミド前駆体組成物を硬化させることによって形成され該銅箔上に配置されたフィルムとを備え、該フィルムはポリイミドフィルムであり、該ポリイミドフィルムの熱膨張係数は約16〜18ppm/℃の範囲である、積層板を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリイミド前駆体は、ジアミンモノマーと、酸二無水物モノマーとを適切な方法で重合させることにより得られる。本発明に用いられるジアミンモノマーの種類は限定されないが、一般的には芳香族系ジアミンが用いられる。本発明に用いられるジアミンモノマーは、式(1)によって表される化合物を少なくとも一種類含有する。
【化5】

上記式(1)において、各Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。好ましくは、Rはフッ素原子又はメチル基である。iは1、2、3、又は4である。
【0014】
式(1)で表される化合物は、例えば、パラ−フェニレンジアミン(p−PDA)、テトラフルオロフェニレンジアミン(TFPD)、2,5−ジメチルフェニレンジアミン、3,5−ジアミノベンゾトリフルオライド、テトラフルオロ−メタ−フェニレンジアミン、メタ−フェニレンジアミン、2,4−トリルジアミン、2,5−トリルジアミン、2,6−トリルジアミン、2,4−ジアミノ−5−クロロトルエン、2,4−ジアミノ−6−クロロトルエン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。好ましくは、式(1)で表される化合物は、下記の化合物及びそれらの組み合わせから選択される。
下記式で表されるパラ−フェニレンジアミン(p−PDA)、
【化6】

下記式で表されるテトラフルオロフェニレンジアミン(TFPD)、
【化7】

下記式で表される2,5−ジメチルフェニレンジアミン。
【化8】

【0015】
本発明に用いられるジアミンモノマーは、さらに、下記式(2)で表される化合物を少なくとも一種類含有する。
【化9】

上記式(2)において、nは0又は1である。各Rはそれぞれ独立して−CH−、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−又は−C(CF−を表す。好ましくは、各Rは−CH−又は−O−である。各Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−OH、−COOH、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。好ましくは、Xは−C2a+1又は−C2b+1であって、かつa、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。
【0016】
式(2)で表される化合物は、例えば、4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)、メタ−ジメチル−パラ−ジアミノビフェニル(DMDB)、メタ−ビス(トリフルオロメチル)−パラ−ジアミノビフェニル(TFMB)、オルト−ジメチル−パラ−ジアミノビフェニル(o−TLD)、3,3’−ジクロロベンジジン(DCB)、2,2’−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−オキシ−ビス[3−(トリフルオロメチル)アニリン]、4,4’−メチレンビス(オルト−クロロアニリン)、3,3’−スルホニルジアニリン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、5,5’−メチレンビス(2−アミノフェノール)、4,4’−オキシ−ビス(2−クロロアニリン)、4,4’−チオビス(2−メチルアニリン)、4,4’−チオビス(2−クロロアニリン)、4,4’−スルホニルビス(2−メチルアニリン)、4,4’−スルホニルビス(2−クロロアニリン)、5,5’−スルホニルビス(2−アミノフェノール)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレンジアニリン(MDA)、4,4’−チオジアニリン、4,4’−スルホニルジアニリン、4,4’−イソプロピリデンジアニリン、3,3’−ジカルボキシベンジジン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。好ましくは、式(2)で表される化合物は、下記の化合物及びそれらの組み合わせから選択される。
下記式で表される4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)、
【化10】

下記式で表されるメタ−ジメチル−パラ−ジアミノビフェニル(DMDB)、
【化11】

下記式で表されるメタ−ビス(トリフルオロメチル)−パラ−ジアミノビフェニル(TFMB)、
【化12】

下記式で表されるオルト−ジメチル−パラ−ジアミノビフェニル(o−TLD)、
【化13】

下記式で表される4,4’−メチレンジアニリン(MDA)。
【化14】

【0017】
本発明に用いられる酸二無水物モノマーは、一般的には脂肪族系、芳香族系のどちらであってもよいが、芳香族系酸二無水物が好ましい。本発明に用いられる酸二無水物モノマーは、下記式(3)で表される化合物を少なくとも一種類含有する。
【化15】

上記式(3)において、各Yはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−C2a+1又は−C2b+1を表す。好ましくは、Yは水素原子又は−C2b+1であり、bは1、2、3、又は4である。a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4であり、kは1又は2である。
【0018】
式(3)で表される化合物は、好ましくは、例えば下記の化合物及びその組み合わせからなる群の中から選択される。
下記式で表されるピロメリット酸二無水物(PMDA)、
【化16】

下記式で表される1−(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−ベンゼン テトラカルボン酸二無水物(P3FDA)、
【化17】

下記式で表される1,4−ビス(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−ベンゼン テトラカルボン酸二無水物(P6FDA)。
【化18】

これらの中では、ピロメリット酸二無水物が最も好ましい。
【0019】
本発明に用いられる酸二無水物モノマーは、さらに、式(4)で表される化合物を少なくとも一種類含有する。
【化19】

上記式(4)において、mは0又は1である。各Rはそれぞれ独立して−CH−、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−又は−C(CF−を表す。好ましくは、Rは−O−、−CO−、又は−C(CF−である。各Wはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−OH、−COOH、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。好ましくは、Wは水素原子である。
【0020】
式(4)で表される化合物は、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物(6FDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−オキシ−ジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−イソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’−イソプロピリデンジフタル酸二無水物、4,4’−オキシ−ジフタル酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−メチレンジフタル酸二無水物、4,4’−チオジフタル酸二無水物、及びこれらの組み合わせから選択することができる。好ましくは、式(4)で表される化合物は、下記の化合物及びその組み合わせからなる群の中から選択される。
下記式で表される3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、
【化20】

下記式で表される4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物(6FDA)、
【化21】

下記式で表されるベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、
【化22】

下記式で表される4,4’−オキシ−ジフタル酸二無水物(ODPA)。
【化23】

【0021】
本発明に係るポリイミド前駆体の一の実施形態においては、該前駆体は、以下の化合物群の重合によって提供される。
式(1)で表される化合物として、下記式で表されるパラ−フェニレンジアミン(p−PDA)。
【化24】

式(2)で表される化合物として、下記式で表される4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)、
【化25】

又は下記式で表されるメタ−ジメチル−パラ−ジアミノビフェニル(DMDB)。
【化26】

式(3)で表される化合物として、下記式で表されるピロメリット酸二無水物(PMDA)。
【化27】

式(4)で表される化合物として、下記式で表される3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、
【化28】

又は下記式で表されるベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)。
【化29】

【0022】
本発明に係るポリイミド前駆体は、式(2)で表される化合物に対する式(1)で表される化合物の量、並びに式(4)で表される化合物に対する式(3)で表される化合物の量が、特定の範囲にコントロールされている。良好な接着性を得るためには、式(2)で表される化合物の総量に対する式(1)で表される化合物の総量のモル比は約1.0〜5.0の範囲であり、式(4)で表される化合物の総量に対する式(3)で表される化合物の総量のモル比は約0.01〜2.0の範囲である。好ましくは、式(2)で表される化合物の総量に対する式(1)で表される化合物の総量のモル比は約1.0〜3.0の範囲であり、式(4)で表される化合物の総量に対する式(3)で表される化合物の総量のモル比は約0.1〜1.0の範囲である。各モル比を上記の範囲内にすることで、本発明に係るポリイミド前駆体の硬化物の熱膨張係数が、約16〜18ppm/℃の範囲となる。
【0023】
本発明によれば、ジアミンモノマーと酸二無水物モノマーを重合させる際、酸二無水物モノマーの総量に対するジアミンモノマーの総量のモル比は、一般に約0.9〜1の範囲である。
【0024】
さらに、本発明は、本発明のポリイミド前駆体を含有する、固形分が多く溶媒の少ないポリイミド前駆体組成物を提供する。この組成物によれば、ソフトベーキング時間を短縮し、かつ、ソフトベーキング温度を低くすることができるため、大量の溶媒が蒸発することによって起きる体積減少が小さくなる。また、フィルムを形成する際の乾燥速度も速くすることができ、製品に要求される厚みを得るために必要な塗布回数も少なくすることができる。上述の固形分は、ポリイミド前駆体組成物に対して一般に約10〜45質量%であり、好ましくは約20〜45質量%である。
【0025】
用いる溶媒は特に限定されないが、極性を有する非プロトン性溶媒が好ましい。以下に限定されるものではないが、非プロトン性溶媒は、例えばN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びこれらの組み合わせから選択することができる。これらの中では、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が好ましい。
【0026】
実用的な条件では、本発明のポリイミド前駆体組成物は、必要に応じて当業者に知られた添加剤をさらに含有していてもよい。例えば、シランカップリング剤、レベリング剤、安定剤、触媒及び/又は消泡剤やそれに類するものを含有していてもよい。
【0027】
本発明の好ましい実施形態の一つにおいては、ポリイミド前駆体組成物はパラ−フェニレンジアミン(p−PDA)、4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含有する。4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)の総量に対するパラ−フェニレンジアミン(p−PDA)の総量のモル比が約1.0〜5.0であって、かつ、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の総量に対するピロメリット酸二無水物(PMDA)の総量のモル比が約0.01〜2.0であるポリイミド前駆体組成物を硬化させると、熱膨張係数が約16〜18ppm/℃の範囲であるポリイミド樹脂が得られる。この熱膨張係数の範囲は、銅箔の熱膨張係数17ppm/℃に近い値である。しかも、このポリイミド樹脂は、銅箔の表面に良好な接着性を示す。
【0028】
本発明はさらに、本発明のポリイミド前駆体組成物を硬化させることによって形成され、16〜18ppm/℃の熱膨張係数を有するポリイミドを提供する。硬化は、一般に加熱処理によって行われる。加熱処理は、窒素等の不活性ガス中において、多段階加熱で行われることが好ましい。例えば、まず低温下(すなわち、ソフトベーキング工程)でゆっくりと減圧することによりポリイミド前駆体組成物に含まれる溶媒が除去される。次に温度を徐々に上げることでイミド化が進行し、ポリイミドが形成される(硬化)。この方法によれば、急速な加熱によるポリイミドの急激な応力変化が原因で起こる反り変形を防ぐことができる。
【0029】
本発明はさらに、フレキシブルプリント回路基板の製造に用いられる積層板を提供する。本発明の積層板は、銅箔と、この銅箔上に配置されたフィルムとを備え、本発明のポリイミド前駆体組成物を硬化させることによって形成される。このフィルムはポリイミドフィルムであり、その熱膨張係数は約16〜18ppm/℃である。本発明の積層板は、ポリイミドフィルムと銅箔との結合に接着剤を使用しておらず、無接着剤型銅張積層板に分類される。このフィルムは、その熱膨張係数が銅箔の熱膨張係数に近く、良好な寸法安定性を有し、かつ銅箔への良好な接着性を示す。本発明の積層板は、IPC−TM−650(2.2.4)に基づいて測定された寸法安定性が約0.050%未満であり、IPC−TM−650(2.4.9)に基づいて測定された剥離強度が約0.8kgf/cm以上である。このため、本発明の積層板は、応用可能性が高い。
【0030】
本発明の積層板に用いる銅箔は特に限定されず、コストや最終製品の機能を考慮して、適切な銅箔が選択される。たとえば、圧延軟銅箔(Ra銅箔)、電解銅箔(ED銅箔)、高温高延伸性電解銅箔(HTE電解銅箔)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。これらの中では、高い伸び性と優れた耐屈曲性を有し、マット面の表面欠陥が少なく、結晶が小さく、表面粗さが低く、かつ強度の高い圧延軟銅箔が好ましい。圧延軟銅箔は電解銅箔に比べて非常に高価であるが、圧延軟銅箔は、高密度で、薄く、かつ信頼性が高いプリント回路基板に適している。
【0031】
フレキシブルプリント回路基板製造用の本発明のポリイミド積層板は、本技術分野における当業者に知られた方法によって製造することができる。例えば、パラ−フェニレンジアミン(p−PDA)、4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)をモノマーとして用いる場合、ポリイミド積層板は次のような工程を含む方法によって製造することができる。
(1)ピロメリット酸二無水物(PMDA)モノマーが溶媒に溶解され、そこに、有機アルコールが加えられて反応が起こり、末端基として有機アルコールを有する酸二無水物モノマーが調製される。有機アルコールは、ヒドロキシル基を有する化合物の中から選択することができるが、一般的にはモノオール、ジオール、又はポリオールといった有機アルコールから選択される。この中では化学式ROHで表されるモノオールであって、Rは炭素数1〜14のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、アラルキル基、又はエチレン性不飽和基であるものが好ましい。
(2)パラ−フェニレンジアミン(p−PDA)モノマー、4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)モノマー、及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)がステップ(1)で得られた混合物に順番に加えられる。続いて共重合が行われ、全固形分が約10〜45質量%のポリアミック酸溶液(すなわち、これは本発明に係るポリイミド前駆体組成物である)が調製される。
(3)ステップ(2)において得られたポリイミド前駆体組成物は、銅箔基板に塗布される。多段階加熱によって硬化され、本発明に係るポリイミドフィルム積層板が得られる。
ポリイミド前駆体組成物を銅箔に塗布する方法は、例えば、二層エクストルージョンコーティング、ローラーコーティング、マイクログラビアコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、カーテンコーティング等、本技術分野における当業者に公知の方法を用いることができる。これらの中では、二層エクストルージョンコーティングが好ましい。
【0032】
上述のステップ(3)において、温度はおよそ200〜400℃の範囲に制御される。硬化時間は、およそ450〜600分である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示しながら本発明について更に詳述するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
(試験方法)
寸法安定性の評価は、IPC−TM−650(2.2.4)に従って行った。二次元精密測定テーブル(X−Yテーブル)を用い、異なる温度変化の下での、処理前と処理後のポリイミド積層板の寸法変化率を測定した。以下の例においては、試験温度は80℃及び150℃とした。
【0034】
剥離強度は、IPC−TM−650(2.4.9)に従い、汎用張力計を用いてポリイミドと銅箔との90°剥離強度を測定することにより評価した。
【0035】
引張強度及び伸びは、IPC−TM−650(2.4.19)に従って測定した。汎用張力計を用いて測定することにより、ポリイミド積層板の機械的特性を調べた。
【0036】
ガラス転移温度と熱膨張係数の測定は、IPC−TM−650(2.4.24)に従って行った。測定には熱機械測定装置(TMA)を用い、ポリイミド積層板と銅箔との熱膨張係数の違いを評価した。
【0037】
(実施例1)
窒素雰囲気下、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が溶媒として入った容積1Lの反応器にピロメリット酸二無水物(PMDA)14.48gを入れ、撹拌した。これを50℃に加熱してから、無水アルコール0.54gを加え、1時間かけて反応を完結させた。反応終了後、室温まで冷却した後、パラ−フェニレンジアミン(p−PDA)51.69gと、4,4’−オキシ−ジアニリン(ODA)37.22gを加え、1時間反応させた。最後に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)175.80gを加え、5時間撹拌した。全固形分28質量%の高固形分ポリアミック酸溶液を得た。各成分の含有量を表1に示す。
【0038】
得られたポリアミック酸溶液を、銅箔の表面に均一に塗布し、以下に示す多段階乾燥プロセスによって処理することで、無接着剤型ポリイミド積層板を得た。
(1)室温から60℃まで30分かけて昇温させた後、60℃を30分間維持した。
(2)60℃から150℃まで90分かけて昇温させた後、150℃を30分間維持した。
(3)150℃から250℃まで100分かけて昇温させた後、250℃を30分間維持した。
(4)250℃から350℃まで100分かけて昇温させた後、350℃を120分間維持した。
(5)350℃から室温まで、4時間かけて冷却した。
【0039】
得られたポリイミド積層板の外観は平坦であり、エッチング試験後においても、端部の反りは見られなかった。このポリイミド積層板の剥離強度、寸法安定性、引張強度、ガラス転移温度、熱膨張係数を、上述の試験方法によって測定した。結果を表2に示す。
【0040】
(実施例2〜8)
用いる原料の比率を表1に示した通り変更した他は、実施例1と同様の手順を繰り返した。得られたポリイミド積層板の物理的特性を、表2に示す。
【0041】
(比較例A〜D)
用いる原料の比率を表1に示した通り変更した他は、実施例1と同様の手順を繰り返した。得られたポリイミド積層板の物理的特性を、表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1及び表2から分かるように、本発明に係るポリイミド積層板は、銅箔に近い熱膨張係数を有するのみならず、良好な剥離強度及び引張強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンモノマーと酸二無水物モノマーとの重合によって得られ、
前記ジアミンモノマーは式(1)で表される化合物を少なくとも一種類と、式(2)で表される化合物を少なくとも一種類含有し、
前記酸二無水物モノマーは式(3)で表される化合物を少なくとも一種類と、式(4)で表される化合物を少なくとも一種類含有し、
式(2)で表される化合物の総量に対する、式(1)で表される化合物の総量のモル比は約1.0〜5.0の範囲であり、
式(4)で表される化合物の総量に対する、式(3)で表される化合物の総量のモル比は約0.01〜2.0の範囲である、ポリイミド前駆体。
【化1】

(式(1)において、各Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4であり、iは1、2、3、又は4である。)
【化2】

(式(2)において、nは0又は1であり、各Rはそれぞれ独立して−CH−、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−又は−C(CF−を表し、各Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−OH、−COOH、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。)
【化3】

(式(3)において、各Yはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4であり、kは1又は2である。)
【化4】

(式(4)において、mは0又は1であり、各Rはそれぞれ独立して−CH−、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−又は−C(CF−を表し、各Wはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、−OH、−COOH、−C2a+1又は−C2b+1を表し、a、bはそれぞれ独立して1、2、3、又は4である。)
【請求項2】
前記式(2)で表される化合物の総量に対する、前記式(1)で表される化合物の総量のモル比は約1.0〜3.0の範囲である、請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物は、下記式で表される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体。
【化5】

【化6】

【化7】

【請求項4】
前記式(2)で表される化合物は、下記式で表される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1乃至3の何れか一項に記載のポリイミド前駆体。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【請求項5】
前記式(3)で表される化合物は、下記式で表される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1乃至4の何れか一項に記載のポリイミド前駆体。
【化13】

【化14】

【化15】

【請求項6】
前記式(4)で表される化合物は、下記式で表される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1乃至5の何れか一項に記載のポリイミド前駆体。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【請求項7】
前記ジアミンモノマーはパラ−フェニレンジアミン及び4,4’−オキシ−ジアニリンを含有し、
前記酸二無水物モノマーはピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含有する、請求項1乃至6の何れか一項に記載のポリイミド前駆体。
【請求項8】
前記酸二無水物モノマーの総量に対する前記ジアミンモノマーの総量のモル比は約0.9〜1の範囲である、請求項1乃至7の何れか一項に記載のポリイミド前駆体。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載のポリイミド前駆体を溶媒中に含有し、
全固形分は約10〜45質量%である、ポリイミド前駆体組成物。
【請求項10】
さらに極性非プロトン性溶媒を含有する、請求項9に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のポリイミド前駆体組成物を硬化させて得られ、
熱膨張係数が約16〜18ppm/℃の範囲である、ポリイミド。
【請求項12】
銅箔と、
請求項9又は10に記載のポリイミド前駆体組成物を硬化させることによって形成され前記銅箔上に配置されたフィルムとを備え、
前記フィルムは熱膨張係数が約16〜18ppm/℃の範囲のポリイミドフィルムである、積層板。
【請求項13】
前記銅箔は、圧延軟銅箔、電解銅箔、高温高延伸性電解銅箔、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の積層板。
【請求項14】
IPC−TM−650(2.2.4)に規定された方法に従って測定された寸法変化率が0.050%未満である、請求項12又は13に記載の積層板。
【請求項15】
IPC−TM−650(2.4.9)に規定された方法に従って測定された剥離強度が0.8kgf/cm以上である、請求項12乃至14の何れか一項に記載の積層板。
【請求項16】
前記フィルムは、前記銅箔の表面に前記ポリイミド前駆体組成物が塗布されて形成されたものであって、
前記塗布の方法は、ローラーコーティング、マイクログラビアコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、カーテンコーティング、二層エクストルージョンコーティング及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12乃至15の何れか一項に記載の積層板。

【公開番号】特開2010−90358(P2010−90358A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138859(P2009−138859)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(598170187)エターナル ケミカル シーオー.,エルティーディー. (13)
【氏名又は名称原語表記】ETERNAL CHEMICAL CO.,LTD.
【Fターム(参考)】