説明

ポリイミド前駆体、ポリイミド前駆体樹脂組成物、及び電子部品

【課題】最終的に得られるポリイミドの化学構造を問わず、簡便に合成できて安価に入手可能で、保存安定性が高く、イミド化後に不純物の残留の少ないポリイミドとなり、さらには、加熱によって塩基性溶液に対する溶解性をより安定的に制御できるポリイミド前駆体、及び当該ポリイミド前駆体を用いた保存安定性が高いポリイミド前駆体樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表わされる繰り返し単位からなるポリイミド前駆体である。


(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基である。RおよびRはそれぞれ独立に特定の式の構造を有する1価の有機基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性を有する絶縁材料や、感光性ポリイミドの主成分として好適に利用することが出来る、ポリイミド前駆体、及び、それを含む樹脂組成物、並びにそれを用いた電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリイミド前駆体は熱や水に対し不安定な場合が多く、保存安定性がよくない。
ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は一般に室温において加水分解されやすく分子量低下が起こることが知られている。これは、ポリアミック酸を得る重付加反応が平衡反応であることに由来するといわれている。つまり、ポリアミック酸のアミド結合は常に、酸無水物とアミノ基に解裂したり再結合したりを繰り返している。そうして系中に含まれる酸無水物基が、同じく系中の水分と反応しジカルボン酸となると、上記の平衡反応の系からはずれ、アミド結合が切れる方向へ(ポリアミック酸の分子量が小さくなる方向へ)平衡が移動するからだといわれている(非特許文献1)。
【0003】
この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入し、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合にはポリイミド前駆体を用いる方式に比べ耐薬品性や、基板との密着性に劣る傾向にある。そのため、目的に応じてポリイミド前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0004】
さらに、ポリアミック酸のカルボキシル基をエステル化したポリイミド前駆体も提案されている。カルボキシル基をエステル化すると、逆反応が進行しない。その為、分子量の低下が見られず、保存安定性が良好となる(特許文献1)。
しかし、ポリアミック酸は1段階で合成が可能であるのに対して、特許文献1のようなポリアミック酸エステルは、ジハーフエステル化合物を合成しその後にジアミンとジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤を用いて脱水縮合するため、2段階の反応になることと縮合剤を除去するための精製が必要であり、製造コストがかかるという課題がある。
さらには、エステル結合は熱分解しにくいため、300℃以上の熱処理によってポリイミド前駆体からポリイミドへとイミド化した後にも、エステル部位由来の分解残渣が残存してしまい、線熱膨張係数や湿度膨張係数などのポリイミドの特性を低下させてしまう原因となっていた。
【0005】
特許文献2及び特許文献3には、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物の主成分としてポリイミド前駆体のカルボキシル基にビニルエーテル化合物を反応させた化合物が開示されている。特許文献2及び特許文献3のポリイミドは、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する骨格を結合させたポリイミド前駆体に、光ラジカル発生剤を混合することで露光部に架橋構造を形成してパターン形成を行うことを目的としたものなので、カルボキシル基にビニルエーテル化合物を反応させて、反応性基が導入されている。
【0006】
一方、一般的なポリアミック酸は、カルボキシル基を骨格中に多く含むためアルカリ水溶液に対する溶解性が大きく、露光部と未露光部のアルカリ水溶液に対する溶解速度の差を大きく出来ず、パターン形成が難しいという課題があった。そこで、特許文献4では、加熱処理により部分的にイミド化したポリアミック酸とジアゾキノン増感剤からなる感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物が開示されている。並びに、加熱処理により部分的にイミド化したポリアミック酸の代わりに、部分的にカルボキシル基がエステル化されたポリアミック酸や部分的にカルボキシル基を有機塩基により中和したポリアミック酸を用いた感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物も開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−293204公報
【特許文献2】特開2002−121382号公報
【特許文献3】特開2001−194784号公報
【特許文献4】特開昭62−135824号公報
【非特許文献1】Kreuz, J. A., ”J Polym Sci Part A: Polym Chem”, 1990, 28, p.3787.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2では、ビニルエーテル化合物の導入率(カルボキシル基のビニルエーテル化合物による保護率)が確認されておらず、カルボキシル基の保護率が管理できないという問題があった。また、特許文献3では、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有するポリイミド前駆体を含む感光性樹脂組成物であるため、光開始剤としてアミンが含まれており、またカルボキシル基濃度が25モル%以上であった。ネガ型感光性ポリイミドとするために、ポリイミド前駆体に導入されるビニルエーテル由来の部位の50%以上にエチレン性不飽和結合を含む反応性基が導入されていることにより、ゲル化の進行がしやすく保存安定性の悪いポリイミド前駆体となっていた。加えて、反応性基を多量に含有しているため、前駆体からポリイミドへ変化させる、加熱によるイミド化の過程で、反応性基が重合し、分解しにくくなる為、イミド化後もビニルエーテル由来の部位の分解残渣がポリイミド膜中に残存し、アウトガスの原因となったり、線熱膨張係数や吸湿性を悪化させる原因となっていた。
【0009】
また、特許文献4のような加熱処理により部分的にイミド化したポリアミック酸を用いた場合、簡便な方法で現像液に対する溶解性を小さくできるメリットはある。しかしながら、合わせて使用するジアゾキノンの耐熱性の観点から加熱条件が限定され、、その条件ではイミド化率に大きく影響を及ぼす膜中の残留溶媒等の管理が難しいために、パターンが安定的に形成できないという課題があった。また、特許文献4のようなエステル化による方法は、特許文献1の場合と同様に、合成が複雑で数段階必要な為、コストアップの原因となる、さらに有機アミンによる中和については、もともと保存安定性に劣るポリアミック酸がさらにアミンの作用により加水分解されやすくなり、分子量低下が顕著となる、といった課題を抱えている。従って、現像液に対する溶解性をより安定的に制御できるポリイミド前駆体が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、最終的に得られるポリイミドの化学構造を問わず、簡便に合成できて安価に入手可能で、保存安定性が高く、イミド化後に不純物の残留の少ないポリイミドとなり、さらには、加熱によって塩基性溶液に対する溶解性をより安定的に制御できるポリイミド前駆体、及び当該ポリイミド前駆体を用いた保存安定性が高いポリイミド前駆体樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るポリイミド前駆体は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含む。
【0012】
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0013】
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、Aにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aは、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含み、Aのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0014】
本発明の、上記式(1)で表わされる繰り返し単位からなるポリイミド前駆体は、ポリアミック酸のカルボキシル基が1級のビニルエーテル化合物などとの反応により、ヘミアセタールエステル構造になっている。上記ポリイミド前駆体の主鎖とヘミアセタールエステル結合を介して結合する置換基Aは、2種以上の異なる化学構造を有する1価の有機基の組み合わせからなり、反応性基を有する有機基が35モル%以下となるように選択される。
発明者は、上記ポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル結合について詳細に検討を行うことにより、上記式(1)のR3、R4に対応し反応性基を有する有機基が35モル%以下となるようなビニルエーテル化合物によって、ヘミアセタールエステル結合を介してポリイミド前駆体へと導入された保護基は、高い熱安定性と保存安定性を有すること、さらには、ヘミアセタールエステル結合は加熱によって速やかに分解するため、イミド化後のポリイミドにその分解物の残存が極めて少ないことを見出した。これにより、保存時はカルボキシル基が保護され安定な状態であるにもかかわらず、イミド化後はほぼ純粋なポリイミドとなるポリイミド前駆体を得ることができる。
【0015】
ポリアミック酸とビニルエーテルとの反応性や、それらの反応によって形成されるヘミアセタールエステル結合の熱安定性は、ヘミアセタールエステル結合に結合する置換基の化学構造によって決まる。本発明のように、ヘミアセタールエステル結合に結合する置換基Aのうちエーテル酸素原子に結合する炭素の級数が異なるものを2種以上含むポリイミド前駆体は、2種以上のヘミアセタールエステル結合の熱分解温度の違いが比較的大きい。そのため、熱分解温度の異なる置換基の導入比率に伴って、加熱による部分的なヘミアセタールエステル結合の分解の分解率の制御を安定的に行いやすくなる。
【0016】
また、本発明者は、前記ポリイミド前駆体は、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物を混合し室温で攪拌するのみで得られること、脱水条件の下、ラクトン類及びスルホキシド類のような窒素原子を含有しない溶媒を用いることでポリアミック酸とビニルエーテル化合物の反応収率を劇的に向上させることを見出した。このように、本発明の前記ポリイミドは低コストで非常に簡便に入手することが可能である。
【0017】
上記ポリイミド前駆体の一つとしては、前記式(2)中のR、R、Rが水素である構造、すなわち、下記式(1’)で表されるポリイミド前駆体を用いることができる。
【0018】
【化3】

(式(1’)中、R、R、Aは、それぞれ式(1)又は式(2)と同様である。)
【0019】
本発明のポリイミド前駆体においては、前記式(2)中のAが、活性水素を含有しない炭素数1〜30の有機基であることが、保存安定性の点から好ましい。
【0020】
本発明のポリイミド前駆体においては、前記式(2)中のAが、エーテル結合を含有することが、基板への密着性や保存安定性、耐はじき性、分解物の揮発性の観点から好ましい。
【0021】
本発明のポリイミド前駆体は、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、当該溶媒に完全に溶解しないポリアミック酸と、ビニルエーテル化合物とを反応させて得られたものであることが好ましい。通常、剛直な骨格を有する線膨張係数が低いポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒に完全に溶解しない。このようなポリアミック酸であっても、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で適宜反応温度を調整してビニルエーテル化合物と反応を行うと、ポリアミック酸のカルボキシル基を100%へミアセタールエステル結合とした本発明のポリイミド前駆体を調製することが可能である。本発明のポリイミド前駆体はラクトン類及びスルホキシド類に良好に溶解するため、ポリアミック酸のカルボキシル基をへミアセタールエステル結合としていく過程で当初溶解していない固形分(ポリアミック酸)が徐々に溶解していく。また、このような条件で調製されたポリイミド前駆体は、合成の容易さ、構造選択の幅の広さの点から好ましい。
【0022】
本発明のポリイミド前駆体は、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸と2種以上のビニルエーテル化合物とを、ビニルエーテル化合物の1種類ずつを段階的に反応させて得られたものであることが、精密に2種以上のビニルエーテル化合物の導入率を制御できる点から好ましい。
【0023】
また、本発明のポリイミド前駆体は、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物とを、反応温度が5℃〜35℃で反応させて得られたものであることが、ポリイミド前駆体を安定的に調製することが可能な点から好ましい。
【0024】
本発明のポリイミド前駆体においては、重量平均分子量または、数平均分子量のいずれかが3000〜1000000であることが、得られるポリイミド膜の機械的特性などの観点から好ましい。重量平均分子量または、数平均分子量のいずれかが3000より小さいと本発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドの機械的強度が低下し、1000000より大きいと溶解性が低下し高濃度の溶液を得にくいことから好ましくない。
【0025】
本発明のポリイミド前駆体においては、ポリマーの末端が、酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止されていることが保存安定性の観点から好ましい。活性水素を有するアミノ基などが末端の場合、ヘミアセタールエステル結合の分解を促進してしまい、結果的に保存安定性を低下させる恐れがある。
【0026】
本発明のポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRが、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の骨格であることが、ヘミアセタール結合を形成する反応が触媒を用いずとも室温で速やかに進行するため、合成が容易であることから好ましい。
【0027】
本発明の前記ポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
上記のような構造を有するポリアミック酸は、高耐熱、低線熱膨張率を示すポリイミドの前駆体であるばかりではなく、芳香族カルボン酸を有している為、室温でビニルエーテル化合物と反応し、ヘミアセタールエステル結合を生成することが可能である。さらには、上記のような芳香族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合は、脂肪族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合よりも、より低温の加熱により熱分解する為、イミド化時の加熱の際により速やかに分解し、最終的に得られるポリイミド中のビニルエーテル由来の分解物が少ない。その為、上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、少なくとも前記式(1)中のRのうち33%以上含有すれば目的を達成できる。
【0030】
本発明の前記ポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0031】
【化5】

(R14は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R15及びR16は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0032】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上する。その為、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。
【0033】
本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、前記本発明に係るポリイミド前駆体とビニルエーテル化合物を含有する。ビニルエーテル化合物と共存させることにより、前記ポリイミド前駆体の保存安定性が向上する。
【0034】
本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物においては、酸性物質、及び、アミンを実質的に含まないことが保存安定性の点から好ましい。
【0035】
本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物においては、更に溶媒を含み、当該溶媒100重量部に対して前記ビニルエーテル化合物が55重量部以上の割合で含まれていることが、保存安定性の点から好ましい。
【0036】
本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物は、電子部品用絶縁材料として好適に用いられる。
【0037】
本発明の電子部品は、上記本発明のポリイミド前駆体及び/又はその熱硬化物、或いは、上記本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物及び/又はその熱硬化物により少なくとも一部分が形成されている電子部品である。
【発明の効果】
【0038】
以上に述べたように、本発明のポリイミド前駆体は、保存安定性が良好であり、イミド化後の不純物の残存が非常に少ないポリイミドを得ることができる。本発明のポリイミド前駆体は、ポリアミック酸と2種以上のビニルエーテル化合物の混合体と室温で混合したり、ポリアミック酸に2種以上のビニルエーテルを段階的に添加するのみで簡便に合成可能である。
本発明のポリイミド前駆体においては、2種以上の化学構造を有する保護基がヘミアセタールエステル結合を介して結合している為、適宜加熱によってヘミアセタールエステル結合の分解による脱保護反応を選択的に行うことが可能である。従って、塩基性溶液に対する溶解性をより安定的に制御できる。
また、ポリイミド前駆体はヘミアセタールエステル結合を有していれば、広範な構造のポリイミド前駆体を選択できる為、構造選択の幅が広い。従って、そのイミド環化物の特性を生かすことの出来る分野に広く応用される。
本発明に係るポリイミド前駆体は、窒素原子を含まない溶媒を選択し、ビニルエーテル化合物を含有することで、保存安定性が極めて良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明に係るポリイミド前駆体は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含む。
【0040】
【化6】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0041】
【化7】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、Aにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aは、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含み、Aのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0042】
本発明者は、ポリアミック酸のカルボキシル基をヘミアセタールエステル化することで保存安定性を付与し、一方で、イミド化に伴う加熱の過程でヘミアセタールエステル結合が熱分解しポリアミック酸へ戻り、カルボキシル基保護成分が揮発すれば、カルボキシル基保護成分由来の残存物が膜中にないポリイミドを創出できるのではないかと考え、鋭意検討し本発明にいたった。
【0043】
加えて、感光性ポリイミド樹脂組成物中の1成分としてポリイミド前駆体を用いるとき、その現像液、特に塩基性溶液に対する溶解速度の制御を安定的に行う為、ポリイミド前駆体、特にポリアミック酸中のカルボキシル基の量を調整する必要があることから、さらに詳細な検討を行い、ヘミアセタールエステル結合の熱分解温度が、ヘミアセタールエステル結合に連結する置換基の構造によって異なることを見出した。
上記の実験結果を元に、2種以上の構造の異なる置換基をヘミアセタールエステル結合により導入されたポリイミド前駆体が、その導入された置換基それぞれの構造に由来する分解温度によって、段階的に分解することを、そのポリイミド前駆体の合成方法と共に見出した。
さらには、そのポリイミド前駆体を適切な条件で加熱することにより、ヘミアセタールエステル結合を介して導入された置換基の導入率に従い、所望の割合でヘミアセタールエステル結合の分解率を安定的に制御し、塩基性溶液に対する溶解速度を制御できることも確認した。
【0044】
ビニルエーテルより得られる芳香族ヘミアセタールエステル結合は、180℃以下の加熱により、ポリアミック酸とビニルエーテル、または、アセトアルデヒド、アルコールなどに分解する。ヘミアセタールエステル結合の熱分解によって発生するこれらの化合物は、180℃以下に沸点を持つ常温で液体の場合が多く、加熱の過程でその大部分が揮発する。ポリイミド前駆体の多くは、一般に加熱に伴い140℃付近の温度から徐々にイミド化が進行して行くと言われており、イミド化率の上昇に伴い膜のガラス転位温度(Tg)が上昇していく。Tgが上昇すると、分子鎖の振動が抑制されるため、膜内部からの物質の揮発が困難になる。その点、ヘミアセタールエステル結合の場合は、場合により、室温付近から分解する為、イミド化率が低い状態で分解反応が起こる。そのため、ヘミアセタールエステル結合をポリイミド前駆体に組み合わせた場合は、分解成分の揮発性が良好であり、ポリイミド前駆体からポリイミドにする際の加熱の過程で、分解成分が揮発し、ポリイミド膜中に残存するヘミアセタールエステル結合部位由来の分解物がほとんどないという特徴を有する。その為、最終的に得られたポリイミド膜は、ビニルエーテル由来の残存物はほとんどなく、純粋なポリイミド膜に非常に近いものが得られる。
【0045】
以上のことから、本発明におけるヘミアセタールエステル結合によってポリイミド前駆体主鎖と結合して後に脱離させたい部位(以後、保護部位、という)は、分子量が小さく、分解後の構造の揮発性が高いほうが分解物のポリイミド膜への残存を抑制する点から好ましい。
さらに保護部位Aのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。従って、ポリイミド前駆体を合成中や保存時のゲル化を抑制でき、さらには、膜中への残存物を抑制できるので好ましい。中でも、膜中への残存物をなくす点からは、保護部位には実質的に架橋性(反応性)部位を含まない方が好ましい。
【0046】
前記ポリイミド前駆体は、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物を混合し室温で攪拌するのみで得られる為、低コストで非常に簡便に入手することが可能である。芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物の反応は、脂肪族カルボン酸との場合と挙動が若干異なる。脂肪族カルボン酸とビニルエーテル化合物との反応は加熱や酸触媒が必要な場合が多いが、発明者は、鋭意検討の結果、芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物は室温で攪拌するのみで得られることを見出した。さらに、その際に窒素原子を含有しない溶媒を用い、更に温度を制御することで劇的にポリアミック酸とビニルエーテル化合物の反応収率を向上させることに成功し、ポリアミック酸のカルボキシル基を完全にヘミアセタールエステル結合とすることが可能となった。
前記ポリイミド前駆体は、2種以上の異なる化学構造を有するビニルエーテル化合物を混合し、一度に添加しても、2種以上の異なる化学構造を有するビニルエーテル化合物を2回以上に分け段階的に添加しても合成が可能である。一度にビニルエーテルの混合体を添加する方法は、その反応性と各々の保護基の導入率を考慮し、その配合を決める必要があるが、より簡便に合成が可能であり、段階的に添加する方法は、より精密に導入率を制御できるという利点がある。
【0047】
ポリアミック酸とビニルエーテル化合物との反応は、ビニルエーテル化合物のエーテル結合に結合する炭素が第3級炭素原子(以下、単に「3級」という場合がある)のものは反応性が高く、第2級炭素原子(以下、単に「2級」という場合がある)、第1級炭素原子(以下、単に「1級」という場合がある)となるにつれて、反応性が低下する。
逆に熱安定性は、ヘミアセタールエステル結合のエーテル酸素に結合する炭素原子が1級の炭素の場合比較的熱安定性が高く、2級、3級となるにつれて、一般に熱分解温度が低下する傾向にある。また、同じ級数のものでも、その化学構造によって熱分解温度が変化する。また、出発物質のポリアミック酸のカルボキシル基の電子密度が高い方が低い場合に比べて形成されたヘミアセタールエステル結合は安定となる。
本発明において、ビニルエーテル化合物のエーテル結合に結合する炭素原子(または、式(2)のAにおいて酸素原子と結合している炭素原子)について、第1級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が0個又は1個の場合をいい、第2級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が2個の場合をいい、第3級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が3個の場合をいう。
本発明のポリイミド前駆体の保護基の組み合わせとしては、1級と2級など、少なくとも級数の異なるものを組み合わせるので、熱分解温度の差を大きくしやすいため、よりヘミアセタールエステル結合の分解率の制御が容易となる。
【0048】
また、ポリアミック酸、特に芳香族ポリアミック酸は溶解性に乏しいため、アミド系の高極性溶媒に溶解させる場合が多い。しかし、アミド系の溶媒は揮発性に乏しく水分を吸収しやすいため、取り扱いが難しいという課題があった。高濃度のポリアミック酸溶液が水分を吸収すると、ポリアミック酸の溶解性が低下し析出する。
それに対して、本発明のポリイミド前駆体は、ヘミアセタールエステル結合によりカルボキシル基が保護されている事により、比較的極性の低い溶媒に対しても溶解する。特にエステル結合を含む溶媒に対する溶解性が向上する。そのため、高濃度の塗膜形成用溶液を調製することも可能である。
【0049】
次に、本発明のポリイミド前駆体の構造について詳細に説明する。
本発明のポリイミド前駆体は、上記式(1)で表わされる繰り返し単位を含む。
【0050】
上記式(1)において、一般に、Rは、テトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、Rはジアミン由来の構造である。
本発明のポリイミド前駆体に適用可能な酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、
【0051】
2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0052】
最終的に得られるポリイミド膜の耐熱性、線熱膨張係数や、前駆体への保護反応の反応性などの観点から好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が挙げられる。
なかでも、ヘミアセタールエステル結合の安定性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が特に好ましい。
【0053】
併用する酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、ポリイミド前駆体の透明性が向上する。また、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミドの線熱膨張係数が小さくなるので好ましい。なかでも、ヘミアセタールエステル結合の安定性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、が特に好ましい。
【0054】
酸二無水物として脂環骨格を有する場合、ポリイミド前駆体の透明性が向上するため、高感度のポリイミド前駆体樹脂組成物となる。さらに、ヘミアセタールエステル結合を形成する反応の際に加熱や触媒が必要となる場合があるが、安定性の比較的高いヘミアセタールエステル結合を形成することが可能であるので保存安定性を重視する場合は好ましい。
【0055】
一方、芳香族のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示すポリイミド前駆体となる。さらにヘミアセタールエステル結合を形成する反応が室温で進行するため、非常に容易に目的のポリイミド前駆体を得ることが出来る。さらに、より低温で分解するため、イミド化後の膜に分解物が残りにくいというメリットがある。従って、本発明のポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0056】
【化8】

【0057】
上記のような構造を有するポリイミド前駆体は、高耐熱、低線熱膨張率を示すポリイミドの前駆体であるばかりではなく、芳香族カルボン酸を有している為、室温でビニルエーテル化合物と反応し、ヘミアセタールエステル結合を生成することが可能である。さらには、上記のような芳香族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合は、脂肪族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合よりも、より低温の加熱により熱分解する為、イミド化時の加熱の際により速やかに分解し、最終的に得られるポリイミド中のビニルエーテル由来の分解物が少ない。その為、上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、少なくとも前記式(1)中のRのうち33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0058】
一方、本発明のポリイミド前駆体に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、
3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0059】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0060】
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、
1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0061】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、最終的に得られるポリイミドは低膨張率となる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(5)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0062】
【化9】

(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。R17及びR18は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0063】
さらに、上記式(5)において、他のベンゼン環との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、最終的に得られるポリイミドを光導波路、光回路部品として用いる場合には、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると1μm以上の波長の電磁波に対しての透過率を向上させることができる。
【0064】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、最終的に得られるポリイミドの弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
【0065】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0066】
また、前記ポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0067】
【化10】

(R14は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R15及びR16は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0068】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上する。その為、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(4)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0069】
一方、式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0070】
【化11】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、Aにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aは、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含み、Aのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0071】
上記式(2)で表されるヘミアセタールエステル結合は、例えば以下のようなカルボキシル基とビニルエーテル化合物との反応により得ることができる。
【0072】
【化12】

【0073】
つまり、ヘミアセタールエステル結合をカルボン酸とビニルエーテル化合物の付加反応により形成する場合、上記式(2)のAはビニルエーテル化合物の構造によって決まる。上記式(2)で表される構造は、ジヒドロピラン等の環状ビニルエーテル化合物を用いて形成しても良い。この場合には反応性が悪く、反応時間が長くなる一方、熱分解温度は比較的高くなる。そのため、非環状ビニルエーテル化合物と環状ビニルエーテル化合物を混合して用いると、熱分解温度が異なるヘミアセタールエステル結合を形成しやすいという利点がある。
【0074】
、R、Rは、水素、または、置換または無置換のアルキル基、アリル基、アリール基が好ましい。特に原料入手の容易性から、水素であることが好ましい。また、1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基は含まないことが好ましい。
この場合の活性水素を有する置換基とは、ヘミアセタールエステル結合と交換反応可能な置換基を示し、具体的には水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基などが挙げられる(化学辞典 東京化学同人)。
【0075】
ヘミアセタールエステル結合は、加熱によりカルボン酸とその他の生成物に分解するが、その分解温度は一般に、上記式(2)中のAが式(2)の酸素原子と結合する炭素が、第3級炭素原子<第2級炭素原子<第1級炭素原子の置換基の順で高くなる。一方、ヘミアセタールエステル結合を得るためのビニルエーテル化合物とカルボン酸の反応は、一般に上記式中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が第1級炭素原子<第2級炭素原子<第3級炭素原子の置換基の順で高い反応率を示す。
【0076】
上記式(2)のAは、炭素数が1以上の1価の有機基であり、Aにおいて式(2)の酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aは、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含み、Aのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。
このように、本発明のポリイミド前駆体は、ヘミアセタールエステル結合に結合する置換基Aのうちヘミアセタールエステル結合のエーテル酸素原子に結合する炭素の級数が異なるものを2種以上含むので、原料のビニルエーテル化合物の反応性の違いや、ヘミアセタールエステル結合の熱分解温度の違いが比較的大きくなる。従って、本発明によれば、異なる2種以上のヘミアセタールエステル結合の導入比率の制御を安定的に行いやすい。また、加熱によるヘミアセタールエステル結合の分解率の制御をより安定的に行うことが可能となる。すなわち、保護部位の化学構造によりヘミアセタールエステル結合の分解温度が異なることから、ポリイミド前駆体が2種以上のヘミアセタールエステル結合を有していた場合、より低温で分解するヘミアセタールエステル結合の化学構造に対応した温度で加熱する事によって、ヘミアセタールエステル結合の分解率をそのヘミアセタールエステル結合の導入率に対応した形で段階的に制御することが可能となる。
【0077】
すなわち、ポリイミド前駆体が2種以上のヘミアセタールエステル結合を有していた場合、同じ条件で加熱したときにおける分解率の差が大きい条件で加熱を行うことで、より低温で分解するヘミアセタールエステル結合の部位のみを選択的に分解することができる。上記A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせる際には、例えば、同一加熱条件における少なくとも2種のヘミアセタール結合の分解率の差が、30%以上であるように選択することが好ましく、50%以上であるように選択することがさらに好ましく、70%以上であるように選択することがよりさらに好ましい。
上記の加熱条件は、ポリイミド前駆体の1wt%重DMSO溶液をNMRチューブ中で加熱した場合や、厚み800μmの無アルカリガラス上に塗布し、ホットプレートによって加熱した場合などが例示され、分解率の測定方法は、NMRによるヘミアセタールエステル結合由来の水素のピークと芳香環やアミド基の水素のピークの積分比や、IRスペクトルによる、ビニルエーテル由来のピークの積分比などから求められる。
【0078】
このように、熱分解温度の違いが比較的大きいヘミアセタールエステル結合を組み合わせた場合、耐熱性の低い保護部位の導入率によって、加熱後のカルボキシル基の割合を制御することが可能となる。ポリイミド前駆体においてカルボキシル基の割合は、塩基性溶液に対する溶解速度を決める重要な要因のひとつであり、再現性良くカルボキシル基の割合を制御できることで、良好なパターンを安定的に得られる為、実用性が向上する。
【0079】
前述のように、一般にAの酸素原子と結合する炭素が1級(A1)の場合は熱安定性が高く、2級(A2)、3級(A3)の順で熱安定性が低くなる。従って、例えば、1級(A1)と2級(A2)及び/又は3級(A3)との組み合わせとなるように保護部位を組み合わせることによって、加熱による選択的な保護部位の分解が可能となり、より安定的なパターン形成が出来るようになる。
【0080】
Aにおいて酸素原子と結合している炭素原子が第1級炭素原子である有機基群A1は、例えば下記式(6−1)及び式(6−1’)で表される有機基を含み、第2級炭素原子である有機基群A2は、例えば下記式(6−2)で表される有機基を含み、第3級炭素原子である有機基群A3は、例えば下記式(6−3)で表される有機基を含む。
【0081】
【化13】

(式(6−1)〜(6−3)中、R、R、R10、R11、R12、及びR13は1価の有機基であり、Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換基を有してもよいベンゾイルオキシ基、アルキルチオ基、置換基を有しても良いフェニルチオ基、又はアルコキシ基である。R、及びXはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良く、R、R10及びXはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良く、R11、R12、及びR13はそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0082】
上記式(6−1)〜(6−3)において、R、R、R10、R11、R12、及びR13は1価の有機基であり、式(6−1)〜(6−3)中の炭素原子と炭素原子で結合している。R、R、R10、R11、R12、及びR13は、炭化水素骨格を有する基が例示される。それらは、ヘテロ原子等の炭化水素以外の結合や置換基を含んでいてもよいし、そのようなヘテロ原子の部分が芳香環に組み込まれて複素環となっていても良い。炭化水素骨格を有する基としては、例えば、直鎖又は分岐鎖或いは脂環式の飽和又は不飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、さらには、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有する基(例えば、−(R−O)n−R’、ここでR及びR’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、nは1以上の整数;−R”−(O−R”’)、ここでR”及びR”’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、mは1以上の整数、−(O−R”’)はR”の末端とは異なる炭素に結合している;などが挙げられる。)、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にチオエーテル結合を含有する基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格上にハロゲン原子、シアノ基、シリル基、ニトロ基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基等のヘテロ原子又はヘテロ原子を含有する基が結合してなるさまざまな基が挙げられる。
【0083】
1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基を含むと、ヘミアセタールエステル結合が分解しやすくなることから保存安定性が低下するので、上記式(2)中のAは、活性水素を含有しないことが好ましい。
更に、上記式(2)中のAは、反応性を有するエチレン性不飽和結合などの反応性基が含まれる場合には、保存安定性が悪くなる傾向がある。さらには、イミド化後のポリイミドに分解残渣が残存しやすくなる。そのため、反応性を有する不飽和結合を含有する場合であっても少量であることが好ましく、上記式(2)のAのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。ヘミアセタールエステル結合が切断された後のAの分解物をポリイミド膜中に、より残存し難くする点からは、上記式(2)のAには反応性基は含有しないことが好ましい。なお、上記反応性基には、エチレン性不飽和結合のほか、グリシジル基やオキセタニル基、イソシアヌル基が含まれる。
【0084】
上記式(2)中のAは、特に基板への密着性や保存安定性、耐はじき性、分解物の揮発性の観点から、炭化水素骨格中にエーテル結合を含有することが好ましい。ポリオキシアルキレン骨格を含んでいても良い。ポリオキシアルキレン骨格を含む場合のオキシアルキレンの繰り返し数は15以下であることが分解物の揮発性の点から好ましい。
【0085】
前記式(2)中のAは、炭素数が1〜30であることが、分解物の揮発性の点から好ましく、炭素数が2〜15であることが更に好ましい。
前記式(2)において、Aとしては特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシロキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基、ブトキシプロピル基、シクロヘキシロキシプロピル基、2-テトラヒドロピラニル基、等が挙げられる。
【0086】
前記式(6−1)〜(6−3)において、R、R、R10、R11、R12、及びR13としては特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシロキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基、ブトキシプロピル基、シクロヘキシロキシプロピル基、2-テトラヒドロピラニル基、等が挙げられる。また、前記式(2)おいてAとRが連結した構造として、RやRに相当する置換基が2-テトラヒドロピラニル基となったものなどが挙げられる。
【0087】
また、R及びR10がそれぞれ互いに結合して環状構造を示している例としては、シクロヘキシル基などが挙げられ、R11、R12、及びR13もそれぞれ互いに結合して環状構造を示している例としては、アダマンチル基などが挙げられる。
【0088】
一方、上記式(6−1)〜(6−3)において、Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換基を有してもよいベンゾイルオキシ基、アルキルチオ基、置換基を有しても良いフェニルチオ基、又はアルコキシ基である。アルコキシカルボニル基(−COOR)、アシルオキシ基(−OCOR)、アルコキシ基(−OR)に結合した炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖或いは脂環式の飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、前記式(2)のAが2−テトラヒドロピラニル基となるように、上記Rと互いに結合して環状エーテル構造を示していても良い。
原料入手の容易性からは、上記式(6−1)〜(6−3)のXはそれぞれ水素又はアルコキシ基であることが好ましい。
【0089】
本発明のポリイミド前駆体を製造する方法としては、例えば、酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を合成し、それにビニルエーテル化合物の2種以上の混合物を反応させる方法や、ポリアミド酸やその溶液に段階的に1種ずつ異種のビニルエーテルを添加する方法、酸無水物を分散させた2種以上のビニルエーテルとラクトン系溶媒からなる溶液に、ジアミンを添加し重合する方法、またはその手法で段階的にビニルエーテルを添加する方法などが挙げられるがこれに限定されない。テトラカルボン酸に2等量のビニルエーテル化合物を反応させ、ジカルボキシジヘミアセタールエステル化合物をとした後、ジアミンと脱水縮合反応によってポリマー化しても良い。
【0090】
上記ポリイミド前駆体は、一般に、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物から得られるが、発明者の検討結果によれば、その反応は、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している溶媒中や、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している化合物と共存下ではヘミアセタールエステル結合を得る収率が低い傾向があった。また、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を用いた際も収率が低くなったことから、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を含む場合も好ましくない。
【0091】
一般に低線熱膨張係数を示すポリイミドは、芳香族ポリイミドである場合が多く、その前駆体である芳香族ポリアミック酸は、N−メチルピロリドンやジメチルアセトアミドのような窒素原子を含有するアミド系溶媒には高い溶解度を示すが、非アミド系溶媒のような窒素原子を含有しない溶媒には溶解性が低い場合が多い。特に、低膨張性を実現できる、Rが上記式(3)で表わされるいずれかの構造であり、且つRが上記式(5)で表わされるいずれかの構造であるような芳香族ポリアミック酸は、ラクトン類やスルホキシド類のような非アミド系溶媒には完全に溶解しない。特に、本発明において良好な溶媒としているラクトン類、特にγ―ブチロラクトンに対して完全に溶解しない。ここで完全に溶解しないとは、反応時や塗膜形成時に必要な濃度、例えば23℃で溶媒中16.5重量%の濃度でポリアミック酸が完全に溶解できない状態をいう。
上述した特許文献3のような従来技術では、芳香族ポリアミック酸を溶媒中に溶解させた状態でビニルエーテル化合物と反応を行うようにしている。そのため従来は、低膨張性を実現できる、Rが上記式(3)で表わされるいずれかの構造であり且つRが上記式(5)で表わされるいずれかの構造であるような芳香族ポリアミック酸由来の100%ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を合成できていない。
【0092】
しかし、本発明に用いられるヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体は、カルボキシル基がヘミアセタールエステル化されることによって、溶解性が向上し非アミド系溶媒のような窒素原子を含有しない溶媒に対しても高い溶解性を示す。
その為、上記のポリアミック酸とビニルエーテル化合物との反応は窒素原子を含有しない溶媒で行うと反応効率が良好となるが、その場合は、当初、上述のように線膨張係数が低いポリイミドを達成するポリアミック酸は完全には溶けていない場合が多い。しかし、本発明においては、ポリアミック酸の反応の進行とともにポリイミド前駆体が反応溶媒に溶解して行き、最終的には完全に溶解するようにして調製した。
【0093】
本発明のポリイミド前駆体を安定的に調製することが可能な点から、ポリアミック酸とビニルエーテルとの反応溶媒としては、窒素原子を含有しない非アミド系溶媒の中でもラクトン類、スルホキシド類を用いることが好ましい。ジメチルスルホキシドは、高い溶解性を有する一方で、酸化され難く変異原性も確認されており、溶媒としての安定性や安全性に課題があるため、中でもラクトン類が特に好ましい。ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−ヘキサノラクトン、δ−ヘキサノラクトンなどが挙げられ、スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0094】
また、本発明のポリイミド前駆体を安定的に調製することが可能な点から、ポリアミック酸とビニルエーテルの反応時の温度としては、5〜35℃が好ましく、更に10〜30℃が好ましい。これよりも反応温度が高い場合には、ヘミアセタールエステル結合の分解等の副反応が進行することから、100%へミアセタールエステル結合としたポリイミド前駆体を得られない傾向がある。
なお、本発明に用いられるポリイミド前駆体は、低沸点の非アミド系溶媒に対して高い溶解性を示すので、塗布などのプロセスにおいて操作性が向上する。
【0095】
ビニルエーテル化合物は、所望のへミアセタールエステル結合の構造に合わせて適宜選択して用いられる。例えば、上記A1を誘導する1級のビニルエーテル化合物としては具体的には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルメチルビニルエーテル、トリシクロデカニルメチルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルメチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;エチレングリコールメチルビニルエーテル、エチレングリコールエチルビニルエーテル、エチレングリコールプロピルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリエチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルビニルエーテル、プロピレングリコールメチルビニルエーテル、プロピレングリコールエチルビニルエーテル、プロピレングリコールプロピルビニルエーテル、プロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールエチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールオクチルビニルエーテル、ブチレングリコールメチルビニルエーテル、ブチレングリコールエチルビニルエーテル、ブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールオクチルビニルエーテル、2−ビニロキシテトラヒドロピラン等の直鎖、分岐鎖又は脂環式の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。そのほかに、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン等の環状ビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0096】
上記A2を誘導する2級のビニルエーテル化合物としては、例えば具体的には、イソプロピルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、sec−ペンチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、トリシクロデカニルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;1−メトキシエチルビニルエーテル、1−エトキシエチルビニルエーテル、1−メチル−2−メトキシエチルビニルエーテル、1−メチル−2−エトキシエチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
【0097】
上記A3を誘導する3級のビニルエーテル化合物としては、例えば具体的には、tert−ブチルビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテル、等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;1−メチルシクロヘキシルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;1,1−ジメチル−2−メトキシエチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
なお、上記1級、2級、及び3級のビニルエーテル化合物のうち、ポリオキシアルキレン残基を含む場合のオキシアルキレン残基の繰り返し数は、15以下となることが分解後の揮発性の点から好ましい。
【0098】
また、本発明のポリイミド前駆体においては、ポリマーの末端が、酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止されていることが、保存安定性の点から好ましい。
酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止する方法としては、例えば、アミン末端のポリイミド前駆体の場合は、無水酢酸でアミド化する方法や、フタル酸無水物や2,3−ナフタル酸無水物などの酸無水物で末端をアミック酸とする方法などが挙げられる。
末端が、芳香族カルボン酸であれば活性水素を持っていても、室温でビニルエーテルと反応しヘミアセタールエステル化されるので、この場合は、保存安定性を低下させない。
【0099】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量、または数平均分子量は、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜700,000の範囲であることがさらに好ましく、7,000〜100,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量または数平均分子量が3,000未満であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、加熱処理等を施しポリイミドとした際の膜の強度も低くなる。一方、重量平均分子量または数平均分子量が1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている分子量とは、公知の手法により得られる分子量であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値が例示され、数平均分子量は1H-NMRスペクトルから求めた末端部の繰り返し単位由来のピークと非末端部の繰り返し単位由来のピークの積分比から求める方法などが例示される。
【0100】
次に、本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、前記本発明に係るポリイミド前駆体と、ビニルエーテル化合物とを含有するものである。
本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物は、ビニルエーテル化合物を含有することから、保存安定性が飛躍的に向上する。この場合、ポリイミド前駆体の2種以上のヘミアセタールエステル結合の構造に対応する2種以上のビニルエーテル化合物を含有することが、保護率の安定性の観点から好ましい。
【0101】
上記ポリイミド前駆体を単離すると、保存の過程で時間の経過とともに空気中の水分等の作用により加水分解され、徐々にポリアミック酸へ戻り得る。特に、比較的安定な脂肪族カルボン酸とビニルエーテル化合物からなる脂肪族ヘミアセタールエステル結合と異なり、芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物の反応などから得られる芳香族ヘミアセタールエステル結合は、両者を混合するだけで室温で反応が進行する反面、単体で存在すると空気中の水分などと反応し加水分解される場合が多い。
しかし、ヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体はビニルエーテル化合物と共存させることで、加水分解によって生成したカルボン酸が、再度、ヘミアセタールエステル化される。すなわち、合成直後のヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体と同様、実質的に全てのカルボキシル基がヘミアセタールエステル化されたポリイミド前駆体となる。その為、上記ポリイミド前駆体はビニルエーテル化合物と共存させることにより樹脂組成物としての保存安定性が良好となる。
【0102】
さらにビニルエーテル化合物と共存していると、ポリアミック酸と同時に生成するアセトアルデヒドも酸化され難く、酢酸になり難くなる。さらに、アルコールも、他のヘミアセタールエステル結合と交換反応によってアセタール化合物となる為、結果的に樹脂組成物中に、活性水素を含まない状態となる。
【0103】
従って、活性水素を含む化合物の量に対して、過剰のビニルエーテル化合物が含まれている場合には、活性水素によって形成されたポリアミック酸が、速やかにヘミアセタールエステル結合となるために、実質的に上記樹脂組成物の特性は変化しない。
このサイクルが続くことで、空気中などから樹脂組成物中に混入した水分などが消費され、ヘミアセタールエステル結合が再生されることから、良好な溶液安定性を示す。
【0104】
ビニルエーテル化合物の含有量としては、溶剤を含むポリイミド前駆体樹脂組成物全体中に1重量%〜90重量%であることが好ましく5重量%〜70重量%であることがさらに好ましい。またビニルエーテル化合物は、溶媒を含む場合には、溶媒100重量部に対して、55重量部以上含まれていることがポリイミド前駆体の保存安定性の点から好ましい。溶媒を含まない場合には、ビニルエーテル化合物が溶媒の代わりになる。
ビニルエーテル化合物の量が多ければ多いほど保存安定性が良好となる一方、特に芳香族骨格を多く含んだポリイミド前駆体を用いた場合には、溶解性が低下する傾向ある。
その為、保存安定性を良好にする観点では、ポリイミド前駆体樹脂組成物中の固形分が析出しない範囲でビニルエーテル化合物の量が出来るだけ多い方がよい。
ビニルエーテル化合物の選択によっては、溶剤の代わりになる場合もあるため、含有量はビニルエーテル化合物の種類によって適宜選択される。
【0105】
本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物において、上記本発明に係るポリイミド前駆体は、別々に合成した2種以上のポリイミド前駆体を混合して用いても良い。更に、目的に応じて、1級のビニルエーテル化合物のみを用いて合成されたポリイミド前駆体や2級のビニルエーテル化合物のみを用いて合成されたポリイミド前駆体や3級のビニルエーテル化合物のみを用いて合成されたポリイミド前駆体を適宜混合して用いても良い。
【0106】
本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物において、上記ポリイミド前駆体の固形分は、得られる膜の膜物性、特に膜強度や耐熱性の点から、溶剤を含む樹脂組成物全体中に、0.1重量%〜80重量%であることが好ましく、0.5重量%〜50重量%であることがさらに好ましい。固形分濃度が0.1重量%よりも小さい場合は、得られる塗膜の膜厚が薄く、表面に凹凸のある基板に対しての追従性が低下し、塗布むらが発生しやすい。一方、固形分濃度が80重量%より大きい場合は、粘度が大きくなり塗布途中での溶媒の揮発等による膜厚むらが発生しやすくなる。
また、本発明に係る樹脂組成物において、上記ポリイミド前駆体の固形分は、得られる膜物性、特に膜強度や耐熱性の点から、樹脂組成物中の溶剤と後述するビニルエーテル化合物を除いた固形分全体に対し、30重量%以上、50重量%以上含有することが好ましい。
【0107】
本発明の樹脂組成物には、活性水素を含まないことが好ましく、活性水素を含有する化合物を含まないことが好ましい。特に、水を含まないことが好ましい。これらを含むと、ヘミアセタールエステル結合が徐々に分解し、保存安定性が低下する。
ヘミアセタールエステル結合は、水酸基などの活性水素を有する化合物と共存するとそれらとの交換反応が起こる場合がある。通常ヘミアセタール結合はヘミアセタールエステル結合よりも安定であるため、上記ポリイミド前駆体と水酸基含有化合物が共存すると、ヘミアセタールエステル結合が水酸基により消費されポリアミック酸が生成する。つまり、上記ポリイミド前駆体は水酸基など活性な水素を有する化合物と共存させると安定性が低下する。ヘミアセタールエステル結合の分解反応の速度は、その化学構造により異なり、ヘミアセタールエステル結合を生成する反応の速度が速いほど、分解の速度も速い傾向がある。
【0108】
また保存安定性を良好にする観点から、樹脂組成物中の水分含有量は1重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましい。さらには、実質的に水分を含まないことがもっとも好ましい。なおここで”実質的に水を含まない”とは、水による保存安定性の低下が観察されないほど組成物中の水の含有量が少ないことをいう。具体的には、組成物中の含水率が0.005重量%未満程度、更に0.001重量%未満である状態をいう。
【0109】
さらに、ヘミアセタールエステル結合はスルホン酸や塩基の存在下、加水分解が触媒的に進行する。その為、樹脂組成物中に強酸性物質や塩基を実質的に含まないことで、へミアセタールエステル結合を含む本発明のポリイミド前駆体の保存安定性を向上させることが出来る。樹脂組成物中に強酸性物質や塩基が含まれると、ポリイミド前駆体がポリアミック酸へと分解していき、更に分子量が低下していきやすい。
なおここで” 強酸性物質や塩基を実質的に含まない”とは、強酸性物質や塩基による保存安定性の低下が観察されないほど組成物中の強酸性物質や塩基の含有量が少ないことをいう。具体的には、組成物中の強酸性物質又は塩基含有率が0.005重量%未満程度、更に0.001重量%未満である状態をいう。
【0110】
樹脂組成物を溶解、分散又は希釈する溶剤としては各種の汎用溶剤を用いることが出来る。また、ポリイミド前駆体を調製した時の反応溶媒をそのまま用いても良い。これらは単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。ただ、樹脂組成物の保存安定性を高めるためには、活性水素を含まない溶媒を用いることが好ましい。さらに、同様の目的から骨格中にアミド結合など窒素原子を含有しない溶媒であることが好ましい。また、窒素原子を含有する溶媒を含まないことが好ましい。
また、ポリイミド前駆体の合成反応により得られた溶液をそのまま用い、必要に応じて他の成分を混合しても良い。
本発明の樹脂組成物に含まれるビニルエーテル化合物は、その構造の選択により、当該溶剤の代わりになる場合もある。その場合には、ポリイミド前駆体樹脂組成物を溶解、分散又は希釈するための溶剤は含まれなくても良い。
【0111】
使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独若しくは組み合わせて用いられる。
この中でも、保存安定性が高く、溶解性に優れ高濃度の溶液を調製できる観点から、ラクトン類、スルホキシド類を用いることが好ましい。
【0112】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリイミド前駆体とビニルエーテル化合物と、必要に応じて溶媒だけの単純な混合物であってもよいが、さらに適宜、界面活性剤等のその他の成分を配合して、樹脂組成物を調製してもよい。
【0113】
本発明に係る樹脂組成物には、本発明の目的と効果を妨げない限り、加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0114】
その他の任意成分の配合割合は、任意成分の性質により適宜選択され特に限定されないが、樹脂組成物の溶剤とビニルエーテル化合物を除いた固形分全体に対し、0.1重量%〜30重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、30重量%を超えると、最終的に得られる樹脂硬化物の特性が最終生成物に反映されにくい。
【0115】
本発明に係る樹脂組成物は、さまざまなコーティングプロセスや成形プロセスに用いられて、膜(フィルム)や3次元的形状の成形体を作製することができる。
【0116】
本発明の樹脂組成物より得られるポリイミドは、その前駆体のヘミアセタールエステル化部位の脱離性が優れるため保護成分由来の分解残渣の含有が少ない。その為、ポリイミドの耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の本来の特性も損なわれておらず、良好である。
例えば、本発明の樹脂組成物から得られるポリイミドの窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。
ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
【0117】
本発明の樹脂組成物から得られるポリイミドのガラス転移温度は、耐熱性の観点から260℃以上であることが好ましい。半田リフローの工程がある電子部材などでは、重要である。光導波路のように熱成形プロセスが考えられる用途においては、120℃〜400℃程度のガラス転移温度を示すことが好ましく、200℃〜370℃程度のガラス転移温度を示すことがさらに好ましい。
ここで本発明におけるガラス転移温度は、樹脂組成物から得られるポリイミドをフィルム形状にすることが出来る場合には、動的粘弾性測定によって、tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))のピーク温度から求められる。動的粘弾性測定としては、例えば、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。樹脂組成物から得られるポリイミドをフィルム形状にできない場合には、示差熱分析装置(DSC)のベースラインの変曲点の温度で判断する。
【0118】
本発明の樹脂組成物から得られるポリイミドは寸法安定性の観点から、線熱膨張係数は60ppm以下が好ましく、0ppm〜40ppmの範囲がさらに好ましい。半導体素子等の製造プロセスにおいてシリコンウェハ上に膜を形成する場合には、密着性、基板のそりの観点から0ppm〜25ppmの範囲がさらに好ましい。ここで、本発明における線熱膨張係数とは、本発明で得られるポリイミド前駆体樹脂組成物から得られるポリイミドのフィルムの熱機械的分析装置(TMA)によって求めることができる。熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0119】
本発明の樹脂組成物から得られるポリイミドは、同様に寸法安定性の観点から、湿度膨張係数は40ppm以下が好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。理想的には10ppm〜0ppmが好ましい。
ここで、本発明における湿度膨張係数とは、本発明で得られる樹脂組成物から得られるポリイミドのフィルムの湿度可変機械的分析装置(S−TMA)によって求めることができる。湿度可変機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310改(リガク社製))によって、温度を25℃で一定とし、湿度を20%RHの環境下でサンプルが安定となった状態で、湿度を50%Rhに変化させ、それが安定となった際のサンプル長の変化を、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値を、サンプル長で割った値が湿度膨張係数である。評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0120】
本発明に係る樹脂組成物からなる膜又は成形体は、公知の方法により作製することができる。例えば膜は、本発明の樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥させて得ることができる。このとき、基板とはポリイミド膜を形成したい対象物であり、銅やステンレス等の金属や、シリコンや金属酸化物、金属窒化物などの無機物、ポリイミドや、ポリベンゾオキサゾールなどの有機物などが例示されるが、本発明においては基板によって密着性等が若干変化するものの、パターン形成や得られる膜の特性については、本質的には変化しないので基板は特に限定されない。
塗布方法についても、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法などの手法が挙げられるが、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。本発明のパターン形成方法は、どの塗布方法で得られた膜においても用いることが出来る。
乾燥は、ホットプレートやオーブンなど、適宜、公知の加熱手法を用いることが出来る。
【0121】
本発明のポリイミド前駆体は、公知の手法によってポリイミドとすることが可能である。通常は、オーブンやホットプレートなどにより加熱することでイミド化を行う場合が多い。
一般にポリアミック酸は150℃程度から徐々にイミド化が進行し、200℃以上の温度においてほぼイミド化が完了すると言われている。ただし、より高度な信頼性を求める場合には、より完全にイミド化を進行させることが必要であり、その場合は、最終的に得られるポリイミド膜のTg以上の温度での加熱が理想的である。しかし、一般には300℃〜400℃の温度で加熱すれば十分実用的な信頼性を示すポリイミド膜が得られる。
【0122】
本発明の樹脂組成物の場合、ヘミアセタールエステル結合が、180℃程度でほぼ完全に分解することから、180℃以下の温度での加熱時間を長くすることで、保護基由来の成分のより完全な脱離を促進することが出来る。加熱時間は長ければ長いほどポリイミド中の残存物を減らす観点からは好ましいが、生産性とのバランスをとる上で40℃以上180℃以下の範囲の温度で通算1分〜180分で加熱されることが好ましく、5分〜120分の加熱が行われることが、より好ましい。
【0123】
さらにその後、イミド化を完全に進行させるために、目的に応じて180℃〜450℃、好ましくは200℃〜400℃の範囲で加熱を行う。好ましくは、加熱温度の最高温度が251℃以上400℃以下である。
特に100℃以上の温度を加える際には、ポリイミドや基板の酸化を防止するため窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、ポリイミド中への残存物を減らすためには、減圧下で行うことが好ましい。
【0124】
以上に述べたように、本発明に係るポリイミド前駆体は、簡便に安価な原料で合成することが可能であるヘミアセタールエステル結合を有することで、保存安定性が高い。加えて、ヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体は、ヘミアセタールエステル結合が容易に分解し且つヘミアセタールエステル結合の分解によって発生したポリアミック酸以外の分解物の揮発性が高いことにより、最終的に得られるポリイミド膜中への残存物がほとんどない。さらには、ヘミアセタールエステル化は種々の骨格へ適用可能であるので、用いるポリイミド前駆体の骨格の選択の幅が広い。
【0125】
本発明に係るポリイミド前駆体および樹脂組成物は、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、光回路部品、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
加熱によって保護基の分解率を選択的に制御できることから、塩基性溶液への溶解性を調整することが可能である為、塩基性溶液で現像を行う感光性樹脂組成物、特にポジ型感光性樹脂組成物の構成成分としての利用に好適である。
【0126】
本発明に係るポリイミド前駆体および樹脂組成物は、広範な構造のポリイミド前駆体を選択できる為、それによって得られる硬化物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等のポリイミドが特徴的に有する機能を付与することが可能であることから、ポリイミドが適用されている公知の全ての部材用のフィルム、塗膜又は3次元構造物として好適である。
本発明に係るポリイミド前駆体および樹脂組成物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の特性が有効とされる広範な分野・製品、例えば、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として好適に用いられる。中でも、本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物は、電子部品用絶縁材料として好適に用いられる。
【0127】
また、本発明においては、本発明に係るポリイミド前駆体及び/又はその熱硬化物、或いは、ポリイミド前駆体樹脂組成物及び/又はその熱硬化物により少なくとも一部分が形成されている電子部品が提供される。ここでその熱硬化物とは、ポリイミド前駆体が熱により一部又は完全にポリイミド化されて硬化した物をいう。電子部品としては、例えば、多層・単層の(フレキシブル)プリント配線版、半導体装置、液晶やプラズマ等の画像表示装置、各種電池(1次電池、2次電池、燃料電池)、ハードディスドライブ用サスペンション等の一般に電子回路を有する物品が挙げられる。その他、本発明においては光回路や導波路等の光部品も、電子部品と組み合わせて用いられる場合が多く、上記電子部品と同様の長期の信頼性が必要とされることから、電子部品に含む。
【実施例】
【0128】
(実施例1)
100mlの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、ジメチルアセトアミド溶媒で重合し、アセトンによって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸)の白色固体 1.98g、2−ビニロキシテトラヒドロピラン(THPVE:1級ビニルエーテル化合物、A1を誘導) 5g、乾燥させたγ−ブチロラクトン10mlを投入した。乾燥させた窒素気流下、室温(25℃)で、44時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、BPDA−ODAのビニルエーテル部分保護体の白色固体を得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が55%であることを確認した。そこでさらに、反応液に対してシクロヘキシルビニルエーテル(CVE:2級ビニルエーテル化合物、A2を誘導)を5g添加し、室温(25℃)で24時間攪拌した。反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、(ポリイミド前駆体1)の白色固体を得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。保護された置換基の割合はCVE/THPVE=35%/65%であった。GPCにより求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は18600であった。
本発明における、重量平均分子量はサンプルを0.5重量%の濃度のN−メチルピロリドン(NMP)溶液とし、展開溶媒は、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr−NMP溶液を用い、東ソー社製GPC装置(HLC−8120 使用カラム TSK gels α−M ;東ソー製 ×2)を用い、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行った。重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプルを基準に求めた。
【0129】
(実施例2〜3)
実施例1と同じ手順で、CVEの添加のタイミングを変化させることで、ポリイミド前駆体2及び3を得た。
得られたポリイミド前駆体2及び3についての反応時間、保護率及び重量平均分子量を、ポリイミド前駆体1と共に、表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
(実施例4)
100mLの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、ジメチルアセトアミド溶媒で重合し、アセトンのよって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸)の白色固体 1.98g、2−ビニロキシテトラヒドロピラン(THPVE) 5g、シクロヘキシルビニルエーテル(CVE)5g、乾燥させたγ−ブチロラクトン10mlを投入した。乾燥させた窒素気流下室温(25℃)で、44時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、BPDA−ODAのビニルエーテル保護体の白色固体を得た。(ポリイミド前駆体4)の白色固体を得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。保護された置換基の割合はCVE/THPVE=77%/23%であった。GPCにより求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は18200であった。
【0132】
(実施例5〜6)
実施例4と同じ手順で、CVEのかわりに、tert−ブチルビニルエーテル(t−BVE:3級ビニルエーテル化合物、A3を誘導)をそれぞれ用いることで、ポリイミド前駆体5を得た。
また、実施例4と同じ手順で、THPVEの代わりに、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(THP:1級ビニルエーテル化合物、A1を誘導)を用い、を用いることで、ポリイミド前駆体6を得た。
得られたポリイミド前駆体5〜6についての反応時間、保護率及び重量平均分子量を、ポリイミド前駆体4と共に、表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
(参考例1)
100mlの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、ジメチルアセトアミド溶媒で重合し、アセトンのよって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸)の白色固体 1.98g、n−ブチルビニルエーテル(n−BVE) 5g、下記式で表されるVEEA(日本触媒社製)5g(モル比でn−BVE:VEEA=65:35)、乾燥させたγ−ブチロラクトン10mlを投入した。乾燥させた窒素気流下室温で、44時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、BPDA−ODAのビニルエーテル保護体の白色固体を得た。(ポリイミド前駆体8)H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。保護された置換基の割合はn−BVE/VEEA=65%/35%であった。
【0135】
【化14】

【0136】
実施例1〜6及び参考例1の反応液を、ポリイミド前駆体樹脂組成物1〜7とした。当該ポリイミド前駆体樹脂組成物1〜7は、室温で保管後400時間までゲル化や沈殿物の生成等の変化はなかった。
【0137】
(比較例1)
参考例1と同様の条件で、用いるビニルエーテルを、VEEA(日本触媒製)を10gのみに変更して反応を行った。(比較ポリイミド前駆体樹脂組成物1)その結果、200時間後に反応液がゲル化した。
【0138】
(比較例2)
参考例1と同様の条件で、n−ブチルビニルエーテル(n−BVE) 3.5g、VEEA(日本触媒社製)6.5g(モル比で1:1)に変更して反応を行った。(比較ポリイミド前駆体樹脂組成物2)の白色固体を得た。保護率は100%であり保護された置換基の割合はn−BVE/VEEA=50%/50%であった。その結果、290時間後に反応液がゲル化した。
【0139】
(比較例3〜4)
実施例1のポリイミド前駆体において、使用したビニルエーテル化合物を、シクロヘキシルビニルエーテル(CVE)100%として、比較例3の比較ポリイミド前駆体3を得た。実施例1のポリイミド前駆体において、使用したビニルエーテル化合物を、2−ビニロキシテトラヒドロピラン(THPVE)100%として、比較例4の比較ポリイミド前駆体4を得た。
【0140】
(参考例2)
実施例4と同様の条件で、溶媒を、乾燥させたn−メチルピロリドンに変更して反応を行ったところ、保護率が23%となった。
【0141】
(参考例3)
実施例4と同様の条件で、溶媒を、乾燥させたジメチルアセトアミドに変更して反応を行ったところ、保護率が26%となった。
【0142】
(参考例4)
実施例4と同様の条件で、溶媒を乾燥させたテトラヒドロフラン:メタノール=4:1に変更して反応を行ったところ、反応開始後170時間後に保護率が67%であった。
【0143】
<熱分解性評価>
ポリイミド前駆体1、比較ポリイミド前駆体3および4の0.5重量%重ジメチルスルホキシド溶液(非脱水)を用いて、加熱した際の保護率を測定した。保護率は、各温度においてNMRチューブ中において5分加熱を行ったのち、実施例1と同様にH−NMRを用い、そのピークの積分比より求めた。加熱温度と各ポリイミド前駆体の保護率の関係を表したグラフを図1に示す。
この結果より、2種類のヘミアセタール結合を有するポリイミド前駆体1は、80℃から90℃にかけて段階的に脱保護反応(ヘミアセタール結合の分解)が進行していることが確認された。
【0144】
<赤外分光評価>
ポリイミド前駆体1およびBPDA−ODAのそれぞれを、窒素雰囲気下、350℃ 1時間(室温からの昇温速度 10℃/min)で熱処理したサンプルについて、各々赤外分光スペクトルを測定したところ、ベースラインが若干ずれていたものの、主要なピークは全て同じ波数であり、ほぼ同じスペクトルを示した。このことから、本発明のポリイミド前駆体は、イミド化後の不純物の残存がほとんどないことがわかった。
【0145】
<イミド化後のガラス転移温度>
上記ポリイミド前駆体樹脂組成物1を、ガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、乾燥させた後、剥離し、それぞれ膜厚20μmのフィルムを得た。
同様に、BPDA−ODAの15重量%NMP溶液をガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、剥離し、それぞれ膜厚15μmのフィルムを得た。
上記の2種のサンプルを、窒素雰囲気下、350℃ 1時間加熱し(昇温速度 10℃/分)、ポリイミド前駆体1、BPDA−ODA(それぞれ厚み11μm±1μm)、それぞれのイミド化物のフィルムを得た。
【0146】
上記のフィルムを、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minで動的粘弾性測定を行った。
その結果、ポリイミド前駆体1のイミド化後のガラス転移温度は、263℃、BPDA−ODAのイミド化後のフィルムは、258℃であった。
【0147】
<イミド化後の線熱膨張係数>
上記ガラス転移温度測定用に作製したフィルム4種を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線熱膨張係数は、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって測定した。測定条件は、評価サンプルの観測長を15mm、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とした。
その結果、ポリイミド前駆体1のイミド化後の線熱膨張係数は、45.5ppm、BPDA−ODAのイミド化後のフィルムは、43.9ppm、であった。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】加熱温度と各ポリイミド前駆体の保護率の関係を表したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含むポリイミド前駆体。
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、Aにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aは、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含み、Aのうち反応性基を有する有機基は35モル%以下である。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【請求項2】
前記式(2)中のR、R、Rが水素である、請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
前記式(2)中のAが、活性水素を含有しない炭素数1〜30の有機基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体。
【請求項4】
前記式(2)中のAが、エーテル結合を含有する、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項5】
ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、当該溶媒に完全に溶解しないポリアミック酸と、2種以上のビニルエーテル化合物とを、反応させて得られたものである、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項6】
ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸と2種以上のビニルエーテル化合物とを、ビニルエーテル化合物の1種類ずつを段階的に反応させて得られたものである、請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項7】
ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸と2種以上のビニルエーテル化合物とを、反応温度が5℃〜35℃で反応させて得られたものである、請求項1乃至6のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項8】
重量平均分子量又は数平均分子量が3000〜1000000である、請求項1乃至7のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項9】
ポリマーの末端が、酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止されている、請求項1乃至8のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項10】
前記式(1)中のRが、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の骨格である、請求項1乃至9のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項11】
前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造である、請求項1乃至10のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【化3】

【請求項12】
前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(4)で表わされるいずれかの構造である、請求項1乃至11のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【化4】

(R14は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R15及びR16は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【請求項13】
前記請求項1乃至12のいずれかに記載のポリイミド前駆体とビニルエーテル化合物を含有する、ポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項14】
酸性物質、及び、アミンを実質的に含まない、請求項13に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項15】
更に溶媒を含み、当該溶媒100重量部に対して前記ビニルエーテル化合物が55重量部以上含まれている、請求項13又は14に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項16】
電子部品用絶縁材料として用いられる、請求項13乃至15のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項17】
前記請求項1乃至12のいずれかに記載のポリイミド前駆体及び/又はその熱硬化物、或いは、前記請求項13乃至16のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物及び/又はその熱硬化物により少なくとも一部分が形成されている電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−83920(P2010−83920A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251425(P2008−251425)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】