説明

ポリイミド前駆体の製造方法、及びそれを用いたポリイミドの製造方法

【課題】低線熱膨張や高いガラス転移温度を示す骨格を有しつつも、イミド化後に不純物の残留の少ないポリイミドとなるポリイミド前駆体をワンポットで簡便に安価に合成できるポリイミド前駆体の製造方法を提供する。
【解決手段】1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンを重合するポリイミド前駆体の製造方法であって、ビニルエーテル化合物を含む溶液中で重合することを特徴とする、ポリイミド前駆体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性を有する絶縁材料や、感光性ポリイミドの主成分として好適に利用することが出来る、ポリイミド前駆体の製造方法、及び、それを用いたポリイミドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工が容易、軽量などの特性から身の回りのさまざまな製品に用いられている。1955年に米国デュポン社で開発されたポリイミドは、耐熱性に優れることから航空宇宙分野などへの適用が検討されるなど、開発が進められてきた。以後、多くの研究者によって詳細な検討がなされ、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すことが明らかとなり、航空宇宙分野にとどまらず、電子部品の絶縁材料等への適用が進められた。現在では、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとしてさかんに利用されてきている。
【0003】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリイミド前駆体は熱や水に対し不安定な場合が多く、保存安定性がよくない。
ポリアミック酸は、一般に酸二無水物とジアミンを溶液中で混合し合成されるが、酸無水物基とアミノ基からなる付加反応は可逆反応である為、付加反応に平行して分解反応も進行している。この付加反応は発熱反応であることから、一般にポリアミック酸は低温で保管することにより、分子量の低下を抑制している。ポリアミック酸溶液が水分を含んでいる場合、ある一定の確率で逆反応により生成した酸無水物基がその水分と反応しジカルボン酸となる。ジカルボン酸になるとアミノ基との付加反応は進行せず、その部分は失活してしまう。その為、ポリアミック酸は保管とともに分子量が低下する。(非特許文献1)
【0004】
この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入し、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合にはポリイミド前駆体を用いる方式に比べ耐薬品性や、基板との密着性に劣る傾向にある。そのため、目的に応じてポリイミド前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0005】
さらに、ポリアミック酸のカルボキシル基をエステル化したポリイミド前駆体も提案されている。カルボキシル基をエステル化すると、逆反応が進行しない。その為、分子量の低下が見られず、保存安定性が良好となる。(特許文献1)
しかし、ポリアミック酸は1段階で合成が可能であるのに対して、特許文献1のようなポリアミック酸エステルは、ジハーフエステル化合物を合成しその後にジアミンとジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤を用いて脱水縮合するため、2段階の反応になることと縮合剤を除去するための精製が必要であり、製造コストがかかるという課題がある。
さらには、エステル結合は熱分解しにくいため、300℃以上の熱処理によってポリイミド前駆体からポリイミドへとイミド化した後にも、エステル部位由来の分解残渣が残存してしまい、線熱膨張係数や湿度膨張係数などのポリイミドの特性を低下させてしまう原因となっていた。
【0006】
特許文献2及び特許文献3では、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物の主成分としてγ−ブチロラクトンやシクロペンタノン溶媒中で、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸を重合した後、重合溶液にビニルエーテル化合物を添加し、ポリアミック酸のカルボキシル基とビニルエーテル化合物を反応させた化合物が開示されている。
上記手法は、重合からビニルエーテル化合物との反応までワンポット(1pot)で行うことが可能な方法であるが、この方法を用いて合成可能なのは、γ−ブチロラクトンやシクロペンタノンに対して溶解するようなポリアミック酸に限定されてしまう。このような溶解性を有するポリアミック酸は、線熱膨張係数が高くなったり、ガラス転移温度が低くなるような、構造単位を有している。一般に低線熱膨張や高いガラス転移温度を示すピロメリット酸や3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物由来の構造を有するポリアミック酸は、γ−ブチロラクトンやシクロペンタノンに対する溶解性に乏しく、析出してしまう為、重合反応が均一に進行せず、この方法では目的のポリイミド前駆体を得ることは出来ないと言う課題があった。
通常これらの低線熱膨張や高いガラス転移温度を示すポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、n-メチルピロリドンやジメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドといったアミド系のような溶解性の高いアミド系溶媒で重合されている。しかしながら、これらのアミド系溶媒中だと、ポリアミック酸とビニルエーテルとの反応は収率良く進行せず、反応率が低いため、ワンポットでの合成は難しいという課題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−293204公報
【特許文献2】特開2002−121382号公報
【特許文献3】特開2001−194784号公報
【非特許文献1】Kreuz, J. A., ”J Polym Sci Part A: Polym Chem”, 1990, 28, p.3787.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、低線熱膨張や高いガラス転移温度を示す骨格を有しつつも、イミド化後に不純物の残留の少ないポリイミドとなるポリイミド前駆体をワンポットで簡便に安価に合成できるポリイミド前駆体の製造方法、及び、当該ポリイミド前駆体の製造方法を用いたポリイミドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法は、1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンを重合するポリイミド前駆体の製造方法であって、ビニルエーテル化合物を含む溶液中で重合することを特徴とする。
高い耐熱性や低線熱膨張を示す構造を有するポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、その化学構造に由来して、例えばγ−ブチロラクトンやシクロペンタノン等の非アミド系溶媒に対する溶解性に乏しく重合反応が均一に進行しないため、従来溶解性の高いアミド系溶媒で重合されている。一方で、ポリアミック酸のヘミアセタールエステル化はアミド系溶媒中で行うと反応率が悪かった為、ポリアミック酸の重合とヘミアセタールエステル化を同一の溶媒系では行えなかった。
それに対し、本発明においては、ビニルエーテル化合物存在下で、1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンの重合を行うことで、溶解性が比較的高い低分子の段階で重合と平行してヘミアセタールエステル化を行い、溶解性を向上させつつ重合を進めることにより、アミド系溶媒を利用することなくワンポットで、ポリイミド前駆体を得ることが可能となった。
【0010】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中に前記酸二無水物を分散、または溶解させた状態を形成し、その後、前記ジアミンを添加し、重合することが、副反応の抑制の観点から好ましい。
【0011】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中に前記酸二無水物を分散、または溶解させた状態を形成し、その後、前記ジアミンを溶解させた溶液を添加し、重合することが、副反応の抑制の観点から好ましい。
【0012】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、ラクトン類及びエステル類より選択される1種以上の溶媒を含むことが、安全性や安定性の観点から好ましい。
【0013】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、前記酸二無水物と前記ジアミン由来以外の活性水素を含まないことが、副反応を抑制する観点から好ましい。
【0014】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中で、0℃〜45℃で反応を行うことが好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が著しく遅くなり生産性が悪化する。また、45℃を超える場合は、ヘミアセタールエステル結合が熱分解するなど、副反応が起こりやすくなり、収率が低下する。
【0015】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液の水分含有量が1重量%以下であることが、副反応の抑制の観点から好ましい。
【0016】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を製造することが好ましい。
【0017】
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0018】
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Rは1価の有機基である。R、R、R、Rはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0019】
上記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、ポリアミック酸のカルボキシル基がビニルエーテル化合物との反応により、ヘミアセタールエステル構造になっている。
発明者は、上記ポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル結合について詳細に検討を行うことにより、ビニルエーテル化合物によって、ヘミアセタールエステル結合を介してポリイミド前駆体へと導入された保護基は、実用上十分な熱安定性と高い保存安定性を有すること、さらには、ヘミアセタールエステル結合は加熱によって速やかに分解するため、イミド化のポリイミドにその分解物の残存が極めて少ないことを見出した。
【0020】
ビニルエーテル化合物より得られる芳香族ヘミアセタールエステル結合は、200℃以下の加熱により、ポリアミック酸とビニルエーテル、または、アセトアルデヒド、アルコールなどに分解する。ヘミアセタールエステル結合の熱分解によって発生するこれらの化合物は、200℃以下に沸点を持つ常温で液体の場合が多く、加熱の過程でその大部分が揮発する。さらに、イミド化に要する250℃以上の加熱によって、ほぼ全てが膜中より放散されると推測される。その為、最終的に得られたポリイミド膜は、ビニルエーテル由来の残存物はほとんどなく、純粋なポリイミド膜に非常に近いものが得られる。
これにより、保存時はカルボキシル基が保護され安定な状態であるにもかかわらず、イミド化後はほぼ純粋なポリイミドとなるポリイミド前駆体を得ることができる。
【0021】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、製造されるポリイミド前駆体の重量平均分子量又は数平均分子量が2000〜1000000であることが、得られるポリイミド膜の機械的特性などの観点から好ましい。重量平均分子量又は数平均分子量が、2000より小さいと得られるポリイミドの機械的強度が低下し、1000000より大きいと溶解性が低下し高濃度の溶液を得にくいことから好ましくない。
【0022】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記式(2)中のR、R、Rが水素である構造、すなわち、下記式(1’)で表されるポリイミド前駆体を製造することが好ましい。
【0023】
【化3】

(式(1’)中、R、R、R、R、R10は、それぞれ式(1)又は式(2)と同様である。)
【0024】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、のRが、炭素数2〜30の有機基であり、活性水素を含有しないことが、保存安定性の点から好ましい。
【0025】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記式(2)中のRが、エーテル結合を含有することが、基板への密着性や保存安定性、耐はじき性、分解物の揮発性の観点から好ましい。
【0026】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、ポリマーの末端を、酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止することが保存安定性の観点から好ましい。活性水素を有するアミノ基などが末端の場合、ヘミアセタールエステル結合の分解を促進してしまい、結果的に保存安定性を低下させる恐れがある。
【0027】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記式(1)中のRが、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の骨格であることが、ヘミアセタール結合を形成する反応が触媒を用いずとも室温で速やかに進行するため、合成が容易であることから好ましい。
【0028】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
上記のような構造を有するポリイミド前駆体は、高耐熱、低線熱膨張率を示すポリイミドの前駆体であるばかりではなく、芳香族カルボン酸を有している為、室温でビニルエーテル化合物と反応し、ヘミアセタールエステル結合を生成することが可能である。さらには、上記のような芳香族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合は、脂肪族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合よりも、より低温の加熱により熱分解する為、イミド化時の加熱の際により速やかに分解し、最終的に得られるポリイミド中のビニルエーテル由来の分解物が少ない。その為、上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、少なくとも前記式(1)中のRのうち33%以上含有すれば目的を達成できる。
【0031】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0032】
【化5】

(R10は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0033】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上するだけでなく。その為、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。
【0034】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(5)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0035】
【化6】

(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0036】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上するばかりでなく、低い線熱膨張係数を達成できる。
【0037】
本発明に係るポリイミド前駆体は、前記本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法によって製造されたポリイミド前駆体である。
【0038】
また、本発明のポリイミドの製造方法は、前記本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法によって製造されたポリイミド前駆体を脱水縮合することからなる。
【発明の効果】
【0039】
以上に述べたように、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、保存安定性が良好であり、イミド化後の不純物の残存が非常に少ないポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体を、より簡便に低コストで得ることができる。
また、本発明のポリイミドの製造方法は、イミド化後の不純物の残存が非常に少ないポリイミドを、より簡便に低コストで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法は、1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンを重合するポリイミド前駆体の製造方法であって、ビニルエーテル化合物を含む溶液中で重合することを特徴とする。
カルボン酸、特に芳香族カルボン酸とビニルエーテルは、非アミド系溶媒中で室温で混合されると反応し、収率良くヘミアセタールエステル結合を形成する。
一方で、高い耐熱性や低線熱膨張を示す構造を有するポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、その化学構造に由来して、例えばγ−ブチロラクトンやシクロペンタノン等の非アミド系溶媒に対する溶解性に乏しく重合反応が均一に進行しないため、従来、ポリアミック酸の重合とヘミアセタールエステル化を同一の溶媒系では行えなかった。
【0041】
そこで、発明者は鋭意検討の結果、以下のような手法を見出すにいたった。
非アミド系溶媒に貧溶なポリアミック酸は、ビニルエーテル化合物と反応しカルボキシル基がヘミアセタールエステル化されるに従って、非アミド系溶媒に対して溶解性が徐々に向上し、ある一定割合以上のカルボキシル基がヘミアセタールエステル化された時点で、それまで溶解しなかった非アミド系溶媒や、非アミド系溶媒とビニルエーテルの混合溶液に対して溶解するようになる。
この現象を利用し、ビニルエーテル化合物存在下で、1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンの重合を行うことで、酸二無水物とジアミンを反応してカルボキシル基が生じると、一部は溶液より析出するが、溶解している一部の反応物は溶液中で、そのカルボキシル基とビニルエーテル化合物が反応し、ヘミアセタールエステル結合が生成され、溶解性が向上する。すると徐々に析出したアミック酸が、ビニルエーテル化合物と反応して徐々に溶解していき、全てのアミック酸がヘミアセタールエステル化されると全てが溶解するようになる。
【0042】
一般に、高分子は分子量が低いものほど溶解性が高い場合が多く、カルボキシル基などの極性の高い構造を有する繰り返し単位が連続するものが、低極性の溶媒に溶解する際はこの傾向が強い。
つまり、本発明の手法は、比較的溶解性の高い低分子のアミック酸の段階から徐々に、ヘミアセタールエステル化反応を進行させつつ、重合反応を行うことで、非アミド系溶媒に対する溶解性の低い化学構造の場合においても、ワンポットでヘミアセタールエステル化されたポリイミド前駆体を得ることが出来る。
【0043】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法に適用可能な酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、
【0044】
2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0045】
最終的に得られるポリイミド膜の耐熱性、線熱膨張係数や、前駆体への保護反応の反応性などの観点から好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が挙げられる。
なかでも、ヘミアセタールエステル結合の安定性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が特に好ましい。
【0046】
併用する酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、ポリイミド前駆体の透明性が向上する。また、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミドの線熱膨張係数が小さくなるので好ましい。なかでも、ヘミアセタールエステル結合の安定性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、が特に好ましい。
【0047】
酸二無水物として脂環骨格を有する場合、ポリイミド前駆体の透明性が向上するため、高感度の感光性樹脂組成物となる。さらに、ヘミアセタールエステル結合を形成する反応の際に加熱や触媒が必要となる場合があるが、安定性の比較的高いヘミアセタールエステル結合を形成することが可能であるので保存安定性を重視する場合は好ましい。
【0048】
一方、芳香族のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示す感光性樹脂組成物となる。さらにヘミアセタールエステル結合を形成する反応が室温で進行するため、非常に容易に目的のポリイミド前駆体を得ることが出来る。さらに、より低温で分解するため、イミド化後の膜に分解物が残りにくいというメリットがある。
【0049】
次に、本発明のポリイミド前駆体の製造方法に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、
3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0050】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0051】
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、
1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0052】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、最終的に得られるポリイミドは低膨張率となる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(6)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0053】
【化7】

(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0054】
さらに、上記式(6)において、他のベンゼン環との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、最終的に得られるポリイミドを光導波路、光回路部品として用いる場合には、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると1μm以上の波長の電磁波に対しての透過率を向上させることができる。
【0055】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、最終的に得られるポリイミドの弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
【0056】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0057】
本発明の製造方法は、反応溶液に、重合させる上記酸二無水物とジアミンの他、ビニルエーテル化合物を含んでいれば目的を達成することができる。目的に応じて、反応溶媒全てがビニルエーテル化合物であっても良いし、溶質の溶解性によって、反応溶媒はビニルエーテル化合物とビニルエーテル化合物以外の溶媒とが混合されていても良い。
反応溶媒全体(ジアミン、酸無水物等の25℃で固体の物質を除く、反応溶液中の液体成分の総重量)に対するビニルエーテルの含有量は、1重量%〜100重量%が好ましく、5重量%〜100重量%がさらに好ましく10重量%〜100重量%がさらに好ましい。中でも特に、ビニルエーテル化合物は、ビニルエーテル化合物以外の溶媒を含む場合には、ビニルエーテル化合物以外の溶媒100重量部に対して、55重量部以上含まれていることがポリイミド前駆体の反応率の点から好ましい。
【0058】
上記酸二無水物由来のカルボキシル基とビニルエーテル化合物との反応は以下のように進行し、下記式(7)のようなヘミアセタールエステル結合が形成される。
【0059】
【化8】

(式(7)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Rは1価の有機基である。R、R、R、Rはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0060】
、R、Rは、水素、または、置換または無置換のアルキル基、アリル基、アリール基が好ましい。特に原料入手の容易性から、水素であることが好ましい。また、1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基は含まないことが好ましい。
この場合の活性水素を有する置換基とは、ヘミアセタールエステル結合と交換反応可能な置換基を示し、具体的には水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基などが挙げられる(化学辞典 東京化学同人)。
【0061】
上記式(7)のRは、炭素数が1以上の1価の有機基である。Rは、炭化水素骨格を有する基が例示される。それらは、ヘテロ原子等の炭化水素以外の結合や置換基を含んでいてもよいし、そのようなヘテロ原子の部分が芳香環に組み込まれて複素環となっていても良い。炭化水素骨格を有する基としては、例えば、直鎖又は分岐鎖或いは脂環式の飽和又は不飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、さらには、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有する基(例えば、−(R−O)n−R’、ここでR及びR’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、nは1以上の整数;−R”−(O−R”’)、ここでR”及びR”’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、mは1以上の整数、−(O−R”’)はR”の末端とは異なる炭素に結合している;などが挙げられる。)、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にチオエーテル結合を含有する基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格上にハロゲン原子、シアノ基、シリル基、ニトロ基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基等のヘテロ原子又はヘテロ原子を含有する基が結合してなるさまざまな基が挙げられる。
【0062】
1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基を含むと、ヘミアセタールエステル結合が分解しやすくなることから保存安定性が低下するので、上記式(7)のRは、活性水素を含有しないことが好ましい。
更に、上記式(7)のRは、反応性を有するエチレン性不飽和結合などが含まれる場合には、ポリイミド前駆体の保存安定性が悪くなる傾向がある。そのため、反応性を有する不飽和結合を含有する場合であっても少量であることが好ましく、上記式(7)のR中に反応性を有する不飽和結合を含有する繰り返し単位は、得られるポリイミド前駆体の全繰り返し単位中に35モル%以下であることが好ましい。一方、ヘミアセタールエステル結合が切断された後のRの分解物をポリイミド膜中に残存し難くする点からは、上記式(7)のRには反応性を有する不飽和結合は含有しないことが好ましい。
【0063】
上記式(7)のRは、特に基板への密着性や保存安定性、耐はじき性、分解物の揮発性の観点から、炭化水素骨格中にエーテル結合を含有することが好ましい。ポリオキシアルキレン骨格を含んでいても良い。ポリオキシアルキレン骨格を含む場合のオキシアルキレンの繰り返し数は15以下であることが分解物の揮発性の点から好ましい。
【0064】
ヘミアセタールエステル結合は、加熱によりカルボン酸とその他の生成物に分解するが、その分解温度は、一般に上記式中のRにおいて、酸素原子と結合する炭素が、3級炭素<2級炭素<1級炭素の置換基の順で高くなる。
一方、ヘミアセタールエステル結合を得るためのビニルエーテル化合物とカルボン酸の反応は、一般に上記式中のRにおいて、酸素原子と結合する炭素が1級炭素<2級炭素<3級炭素の置換基の順で高い反応率を示す。
【0065】
従って、上記式(7)のRにおいて、酸素原子と結合する炭素が1級炭素の場合、ポリイミド前駆体の安定性が高く、より長期の保存に耐えられる。さらには、成膜時などのプロセス中での加熱温度をより高く設定できるため、プロセス中での安定性が向上する。
上記式(7)のRにおいて、酸素原子と結合する炭素が3級炭素の場合、ポリイミド前駆体が若干不安定になるものの、より低温の加熱によりヘミアセタールエステル結合が分解する。その為、イミド化の為の加熱の過程でよりスムーズにヘミアセタールエステル結合の分解、及び、分解物の揮発が起こり、より短時間の加熱においても最終的に得られるポリイミド膜中の保護基由来の分解物の残存成分の量をより少なく、多くの場合は実質的にゼロにすることが出来る。また、短い反応時間でヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体を得たい場合には、Rは3級の置換基であることが好ましい。
上記式(7)のRにおいて、酸素原子と結合する炭素が2級炭素の場合、上記の1級炭素の場合と3級炭素の場合の間の特性を示し、ポリイミド前駆体の保存安定性、保護基の脱離性、及びヘミアセタールエステル結合への反応性のバランスの取れた感光性樹脂組成物とすることが可能である。
【0066】
前記式(7)中のRは、炭素数が2〜30であることが、分解物の揮発性の点から好ましく、炭素数が2〜15であることが更に好ましい。
【0067】
前記式(7)中のRの構造において特に好ましい組み合わせは、酸素原子と結合する炭素が1級炭素、または2級炭素であり、さらに、直鎖または分岐または環状の飽和炭化水素骨格中にエーテル結合を1つ以上含み、且つ、活性水素を含まない構造である。
【0068】
前記式(7)中のRとしては特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシロキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基、ブトキシプロピル基、シクロヘキシロキシプロピル基、等が挙げられる。
【0069】
ビニルエーテル化合物は、所望のへミアセタールエステル結合の構造に合わせて適宜選択して用いられる。例えば具体的には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、トリシクロデカニルビニルエーテル、トリシクロデカニルメチルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルメチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;エチレングリコールメチルビニルエーテル、エチレングリコールエチルビニルエーテル、エチレングリコールプロピルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリエチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルビニルエーテル、プロピレングリコールメチルビニルエーテル、プロピレングリコールエチルビニルエーテル、プロピレングリコールプロピルビニルエーテル、プロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールエチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールオクチルビニルエーテル、ブチレングリコールメチルビニルエーテル、ブチレングリコールエチルビニルエーテル、ブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールオクチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
なお、上記のビニルエーテル化合物のうち、ポリオキシアルキレン残基を含む場合のお気しアルキレン残基の繰り返し数は、15以下となることが分解後の揮発性の点から好ましい。
【0070】
ビニルエーテル化合物以外の溶媒として使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独若しくは組み合わせて用いられる。
【0071】
これらの中でも、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、上記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、ラクトン類及びエステル類より選択される1種以上の溶媒を含むことが好ましい。
ヘミアセタールエステル化反応はアミド系溶媒中では収率が低いため、非アミド系溶媒を用いることが好ましい。発明者は、鋭意検討の結果、芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物は室温で撹拌するのみで得られることを見出したが、その際に、脱水条件の下、ラクトン類及びスルホキシド類のような窒素原子を含有しない溶媒を用いることでカルボキシル基とビニルエーテル化合物の反応収率を劇的に向上させることに成功し、ポリアミック酸のカルボキシル基を完全にヘミアセタールエステル結合としたポリイミド前駆体を製造することが可能となった。
ポリアミック酸などのポリイミド前駆体を溶解させる可能性がある非アミド系溶媒としては、γ−ブチロラクトンなどのエステル結合を含むラクトン類やジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒が知られている。ジメチルスルホキシドは、高い溶解性を有する一方で、酸化され難く変異原性も確認されているため、溶媒としての安定性や安全性に課題がある。一方で、エステル類やラクトン類は、ジメチルスルホキシドに比べて溶解性は劣る場合が多いが、変異原性は確認されておらず、安全性が高い。また、ポリアミック酸のカルボキシル基がヘミアセタールエステル化されるとエステル類、とくにラクトン類に対する溶解性が向上するため、実用上十分な濃度の溶液を調整可能となる。
【0072】
ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−ヘキサノラクトン、δ−ヘキサノラクトンなどが挙げられ、スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0073】
本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、上記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、前記酸二無水物と前記ジアミン由来以外の活性水素を含まないことが、副反応を抑制する観点から好ましい。
発明者の検討結果によれば、その反応は、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している溶媒中や、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している化合物と共存下ではヘミアセタールエステル結合を得る収率が低い傾向があった。また、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を用いた際も収率が低くなったことから、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を含む場合も好ましくない。
ヘミアセタールエステル結合は、水酸基やアミノ基等の活性水素を有する化合物によって分解されてしまう為、反応溶液中にはカルボキシル基以外の活性水素を有する化合物は存在しない方が、より短時間で、理想的に反応が進行する。
【0074】
本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、上記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、特に、水を含まないことが好ましい。ヘミアセタールエステル結合は、水酸基などの活性水素を有する化合物と共存するとそれらとの交換反応が起こる場合がある。通常ヘミアセタール結合はヘミアセタールエステル結合よりも安定であるため、水酸基含有化合物が共存すると、ヘミアセタールエステル結合が水酸基により消費され、カルボン酸が生成される。ヘミアセタールエステル結合の分解反応の速度は、その化学構造により異なり、ヘミアセタールエステル結合を生成する反応の速度が速いほど、分解の速度も速い傾向がある。
上記ビニルエーテル化合物を含む溶液中の水分含有量は1重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましい。さらには、実質的に水分を含まないことがもっとも好ましい。なおここで”実質的に水を含まない”とは、水による反応収率の低下が観察されないほど上記ビニルエーテル化合物を含む溶液中の水の含有量が少ないことをいう。具体的には、上記ビニルエーテル化合物を含む溶液中の含水率が0.005重量%未満程度、更に0.001重量%未満である状態をいう。
【0075】
本発明のポリイミド前駆体の製造方法において、ビニルエーテル化合物を含む溶液中で1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンを重合すれば、加える順序は特に限定されず、用いられるビニルエーテル化合物や混合される溶媒と溶質の溶解性等を考慮して、適宜選択される。
【0076】
本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中に前記酸二無水物を分散、または溶解させた状態を形成し、その後、前記ジアミンを添加するか、或いは、前記ジアミンを溶解させた溶液を添加し、重合することが好ましい。このようにすることで、反応溶液中にアミノ基が存在する時間を短くすることができることからより理想に近い反応が進行する。
酸無水物とアミノ基によるアミド化反応は比較的反応速度が速いため、ジアミンを添加すると速やかにアミド化反応が進行する。反応溶液中のジアミンの量が酸二無水物の量よりも少ない場合は、反応により生成したアミック酸の末端は酸無水物基となっているため、ヘミアセタールエステル結合は分解しないことから好ましい。
【0077】
一般に酸二無水物は、溶解性が低く、非アミド系溶媒中であると、ジアミンとの反応は、わずかに溶解した酸二無水物との溶液中での反応、もしくは、分散された固体状態の酸二無水物とジアミン溶液との固−液反応となる。
上記の手順によって、ジアミンを添加するとアミック酸が生成し、多くの場合、反応溶液から析出する。
その後、その沈殿したアミック酸が徐々に反応溶液中のビニルエーテル化合物によってヘミアセタールエステル化されることにより、反応溶液に溶解していき、徐々に重合が進行していくものと推測される。
【0078】
後からジアミン又はジアミン溶液を添加する場合における、ジアミンの添加方法は特に限定されないが、必要量全体を一度に添加してしまうと反応熱により反応溶液の温度が上昇してしまう恐れがあるので、時間をかけて徐々に添加するか、または、何度かに分割し、添加するほうが好ましい。
【0079】
ヘミアセタールエステル化反応はとても水分に対して敏感な反応であるため、反応はできる限り水分の混入を防止できるような手法で行うことが好ましい。その為には、固体の状態であるジアミンを反応容器の開口部より添加するよりも、予め脱水した溶媒に溶解させ溶液の状態で滴下した方が、より水分の混入を防ぐことができ、さらには、添加量を制御しやすいことから好ましい。
【0080】
後からジアミン溶液を添加する場合における、ジアミン溶液中のジアミンの濃度は、適宜選択されるが、0.1重量%〜50重量%の範囲が好ましく、1重量%から40重量%の範囲がさらに好ましい。
ジアミンの濃度が0.1重量%未満の場合、反応溶液の濃度が希釈され反応速度が低下したり、高分子量のポリイミド前駆体が得られない恐れがある。50重量%を超える濃度だと、添加量の微妙な制御が難しくなるという問題がある。
【0081】
また、本発明のポリイミド前駆体の製造方法においては、ビニルエーテル化合物を含む溶液中にジアミンを分散、または溶解させた状態を形成し、その後、酸二無水物や他の成分を添加し重合しても良い。
上記のように、理想的な反応を進行させるには、後からジアミンを添加する方法の方が好ましいが、ビニルエーテル化合物を過剰に含む反応系の場合、ジアミン溶液に対して酸二無水物を添加する方法においても、目的にポリイミド前駆体を得ることができる。
ジアミンのアミノ基によりヘミアセタールエステル結合が分解されたとしても、ビニルエーテル化合物が過剰に存在する場合は、すぐにヘミアセタールエステル結合が再生する。しかも、多くの場合、ジアミンは酸二無水物と反応すると溶解性が低下し、反応溶液から析出するため、ある一定量以上、酸二無水物を添加した後には、反応溶液中のジアミンの濃度は極端に低下するため、実用上問題ない範囲のポリイミド前駆体を得ることが可能である。
【0082】
酸二無水物の添加方法は特に限定されないが、必要量全体を一度に添加してしまうと反応熱により反応溶液の温度が上昇してしまう恐れがあるので、時間をかけて徐々に添加するか、または、何度かに分割し、添加するほうが好ましい。
【0083】
本発明のポリイミド前駆体の製造方法においては、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中で、0℃〜45℃で反応を行うことが好ましく、さらに5〜35℃が好ましく、更に10〜30℃が好ましい。ここでの反応は、ヘミアセタールエステル化反応、及び酸二無水物とジアミンとの重合反応である。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が著しく遅くなり生産性が悪化する。また、45℃を超える場合は、ヘミアセタールエステル結合が熱分解するなど、副反応が起こりやすくなり、収率や保護率が低下する。
【0084】
本発明の製造方法によって得られたポリイミド前駆体は、重量平均分子量、数平均分子量のいずれかが2000〜1000000であることが好ましい。3,000〜700,000の範囲であることがさらに好ましく、5,000〜100,000の範囲であることがさらに好ましい。
平均分子量が、2000未満の場合、最終的に得られるポリイミドの機械的強度が低下する。平均分子量が1000000より大きい場合は、溶解性が低下し高濃度の溶液を得られない、また、溶液の粘度が高くなり加工適正が悪化するなどの問題がある。
この場合の平均分子量とは、公知の手法により得られる分子量であり、重量平均分子量または、数平均分子量のいずれかのことをいう。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値が例示され、数平均分子量は1H-NMRスペクトルから求めた末端部の繰り返し単位由来のピークと非末端部の繰り返し単位由来のピークの積分比から求める方法などが例示される。
【0085】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法においては、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を製造することが好ましい。
【0086】
【化9】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0087】
【化10】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Rは1価の有機基である。R、R、R、Rはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0088】
本発明者は、イミド化後にカルボキシル基の保護成分由来の残留物が少なく、室温における保存安定性が良好なポリイミド前駆体を得ることを目的として、加熱により容易に解裂し、カルボキシル基を生成するヘミアセタールエステル結合に着目し研究を進めたところ以下のような知見を得た。
ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は一般に室温において加水分解されやすく分子量低下が起こることが知られている。これは、ポリアミック酸を得る重付加反応が平衡反応であることに由来するといわれている。つまり、ポリアミック酸のアミド結合は常に、酸無水物とアミノ基に解裂したり再結合したりを繰り返している。そうして系中に含まれる酸無水物基が、同じく系中の水分と反応しジカルボン酸となると、上記の平衡反応の系からはずれ、アミド結合が切れる方向へ(ポリアミック酸の分子量が小さくなる方向へ)平衡が移動するからだといわれている。
その為、同じくポリイミドの前駆体であるポリアミック酸エステルは、カルボン酸がエステル化されている為、分子鎖が切れる逆反応は進行せず、分子量の低下が見られない。
【0089】
これらの知見から発明者は、ポリアミック酸のカルボキシル基をヘミアセタールエステル化することで保存安定性を付与し、一方で、イミド化に伴う加熱の過程でヘミアセタールエステル結合が熱分解しポリアミック酸へ戻り、カルボキシル基保護成分が揮発すれば、カルボキシル基保護成分由来の残存物が膜中にないポリイミドを創出できるのではないかと考え、鋭意検討し本発明にいたった。
【0090】
特にヘミアセタールエステル結合は、エステル結合に比べ加熱のみで容易に熱分解することから、より低温の加熱によって結合の解裂が起こる。ポリイミド前駆体の多くは、一般に加熱に伴い140℃付近の温度から徐々にイミド化が進行して行くと言われており、イミド化率の上昇に伴い膜のガラス転位温度(Tg)が上昇していく。Tgが上昇すると、分子鎖の振動が抑制されるため、膜内部からの物質の揮発が困難になる。その点、ヘミアセタールエステル結合の場合は、場合により、室温付近から分解する為、イミド化率が低い状態で分解反応が起こる。そのため、ヘミアセタールエステル結合をポリイミド前駆体に組み合わせた場合は、分解成分の揮発性が良好であり、ポリイミド前駆体からポリイミドにする際の加熱の過程で、分解成分が揮発し、ポリイミド膜中に残存するヘミアセタールエステル結合部位由来の分解物がほとんどないという特徴を有する。
【0091】
以上のことから、本発明におけるヘミアセタールエステル結合によってポリイミド前駆体主鎖と結合して後に脱離させたい部位(以後、保護部位、という)は、分子量が小さく、分解後の構造の揮発性が高いほうが分解物のポリイミド膜への残存を抑制する点から好ましい。
さらに保護部位Rは、反応性を有するエチレン性不飽和結合などが含まれる場合には、保存安定性が悪くなる傾向がある。そのため、反応性を有する不飽和結合を含有する場合であっても少量であることが好ましく、上記式(2)のR中に反応性を有する不飽和結合を含有する繰り返し単位は、式(1)で表される全繰り返し単位中に35モル%以下であることが好ましい。一方、ヘミアセタールエステル結合が切断された後のRの分解物をポリイミド膜中に残存し難くする点からは、上記式(2)のRには反応性を有する不飽和結合は含有しないことが好ましい。
【0092】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0093】
【化11】

【0094】
上記のような構造を有するポリイミド前駆体は、高耐熱、低線熱膨張率を示すポリイミドの前駆体であるばかりではなく、芳香族カルボン酸を有していることになる為、室温でビニルエーテル化合物との反応が収率良く行われて、ヘミアセタールエステル結合が生成される。さらには、上記のような芳香族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合は、脂肪族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合よりも、より低温の加熱により熱分解する為、イミド化時の加熱の際により速やかに分解し、最終的に得られるポリイミド中のビニルエーテル由来の分解物が少ない。その為、上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、少なくとも前記式(1)中のRのうち33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0095】
また、前記ポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0096】
【化12】

(R10は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0097】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上する。その為、上記式(4)で表わされる構造の含有量は、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(4)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0098】
中でも、前記ポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(5)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0099】
【化13】

(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0100】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上するばかりでなく、低線熱膨張率を達成できる。その為、上記式(5)で表わされる構造の含有量は、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(5)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0101】
また、式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に上記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。上記式(2)のR、R、R、Rは、前述した上記式(7)のR、R、R、Rと同様であることが好ましいので、ここでの説明は省略する。
【0102】
また、本発明のポリイミド前駆体の製造方法においては、ポリマーの末端を、酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止することが、保存安定性の点から好ましい。
酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止する方法としては、例えば、アミン末端のポリイミド前駆体の場合は、無水酢酸でアミド化する方法や、フタル酸無水物や2,3−ナフタル酸無水物などの酸無水物で末端をアミック酸とする方法などが挙げられる。
末端が、芳香族カルボン酸であれば活性水素を持っていても、室温でビニルエーテルと反応しヘミアセタールエステル化されるので、この場合は、保存安定性を低下させない。
【0103】
本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法は、ポリイミド前駆体の原材料である酸二無水物とジアミンの他にビニルエーテル化合物と、必要に応じて溶媒だけを用いてもよいが、さらに適宜、界面活性剤等のその他の成分を配合してもよい。
【0104】
次に、本発明に係るポリイミドの製造方法は、前記本発明に係るポリイミド前駆体の製造方法によって製造されたポリイミド前駆体を脱水縮合することからなる。
ポリイミド前駆体を脱水してイミド化を行う方法としては、公知の手法を適宜用いることができる。例えば、加熱によりイミド化を行う手法や、無水酢酸やジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水触媒などを用いてイミド化を行う手法などがあるが、ポリイミドの膜や成形体とするときは、通常は加熱することでイミド化を行うことが好ましい。
【0105】
例えば、本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体を用いてポリイミドの膜を製造する場合、まず第一に、本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体を含む樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥させてポリイミド前駆体の膜を得る。このとき、基板とはポリイミド膜を形成したい対象物であり、銅やステンレス等の金属や、シリコンや金属酸化物、金属窒化物などの無機物、ポリイミドや、ポリベンゾオキサゾールなどの有機物などが例示されるが、本発明においては基板によって密着性等が若干変化するものの、パターン形成や得られる膜の特性については、本質的には変化しないので基板は特に限定されない。
塗布方法についても、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法などの手法が挙げられるが、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。本発明のパターン形成方法は、どの塗布方法で得られた膜においても用いることが出来る。
乾燥は、ホットプレートやオーブンなど、適宜、公知の加熱手法を用いることが出来る。
【0106】
加熱によるイミド化においては、オーブンやホットプレートなどにより加熱することでイミド化を行う場合が多い。
一般にポリアミック酸は150℃程度から徐々にイミド化が進行し、200℃以上の温度においてほぼイミド化が完了すると言われている。ただし、より高度な信頼性を求める場合には、より完全にイミド化を進行させることが必要であり、その場合は、最終的に得られるポリイミド膜のTg以上の温度での加熱が理想的である。しかし、一般には300℃〜400℃の温度で加熱すれば十分実用的な信頼性を示すポリイミド膜が得られる。
【0107】
本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体の場合、ヘミアセタールエステル結合が、150℃程度でほぼ完全に分解することから、150℃以下の温度での加熱時間を長くすることで、保護基由来の成分のより完全な脱離を促進することが出来る。加熱時間は長ければ長いほどポリイミド中の残存物を減らす観点からは好ましいが、生産性とのバランスをとる上で40℃以上150℃以下の範囲の温度で通算1分〜180分で加熱されることが好ましく、5分〜120分の加熱が行われることが、より好ましい。
【0108】
さらにその後、イミド化を完全に進行させるために、目的に応じて180℃〜450℃、好ましくは200℃〜400℃の範囲で加熱を行う。好ましくは、加熱温度の最高温度が251℃以上400℃以下である。
特に100℃以上の温度を加える際には、ポリイミドや基板の酸化を防止するため窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、ポリイミド中への残存物を減らすためには、減圧下で行うことが好ましい。
【0109】
本発明に係るポリイミドの製造方法においては、本発明の目的と効果を妨げない限り、加工特性や各種機能性を付与するために、前記本発明に係る製造方法によって製造されたポリイミド前駆体の他に、様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0110】
その他の任意成分の配合割合は、任意成分の性質により適宜選択され特に限定されないが、固形分全体に対し、0.1重量%〜30重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、30重量%を超えると、最終的に得られる樹脂硬化物の特性が最終生成物に反映されにくい。
【0111】
本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、その前駆体のヘミアセタールエステル化部位の脱離性が優れるため保護成分由来の分解残渣の含有が少ない。その為、ポリイミドの耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の本来の特性も損なわれず、良好である。
例えば、本発明の製造方法により製造されたポリイミドの窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。
ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
【0112】
本発明の製造方法により製造されたポリイミドのガラス転移温度は、耐熱性の観点から260℃以上であることが好ましい。半田リフローの工程がある電子部材などでは、重要である。光導波路のように熱成形プロセスが考えられる用途においては、120℃〜400℃程度のガラス転移温度を示すことが好ましく、200℃〜370℃程度のガラス転移温度を示すことがさらに好ましい。
ここで本発明におけるガラス転移温度は、本発明の製造方法により製造されたポリイミドをフィルム形状にすることが出来る場合には、動的粘弾性測定によって、tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))のピーク温度から求められる。動的粘弾性測定としては、例えば、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。ポリイミドをフィルム形状にできない場合には、示差熱分析装置(DSC)のベースラインの変曲点の温度で判断する。
【0113】
本発明の製造方法により製造されたポリイミドは寸法安定性の観点から、線熱膨張係数は60ppm以下が好ましく、0ppm〜40ppmの範囲がさらに好ましい。半導体素子等の製造プロセスにおいてシリコンウェハ上に膜を形成する場合には、密着性、基板のそりの観点から0ppm〜25ppmの範囲がさらに好ましい。ここで、本発明における線熱膨張係数とは、本発明の製造方法により製造されたポリイミドのフィルムの熱機械的分析装置(TMA)によって求めることができる。熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0114】
本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、同様に寸法安定性の観点から、湿度膨張係数は40ppm以下が好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。理想的には10ppm〜0ppmが好ましい。
ここで、本発明における湿度膨張係数とは、本発明の製造方法により製造されたポリイミドのフィルムの湿度可変機械的分析装置(S−TMA)によって求めることができる。湿度可変機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310改(リガク社製))によって、温度を25℃で一定とし、湿度を20%RHの環境下でサンプルが安定となった状態で、湿度を50%Rhに変化させ、それが安定となった際のサンプル長の変化を、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値を、サンプル長で割った値が湿度膨張係数である。評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0115】
以上に述べたように、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、ビニルエーテル化合物存在下で、1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンの重合を行うことで、溶解性が比較的高い低分子の段階で重合と平行してヘミアセタールエステル化を行い、溶解性を向上させつつ重合を進めることにより、アミド系溶媒を利用することなくワンポットで、ポリイミド前駆体を得ることが可能となる。本発明のポリイミド前駆体の製造方法を用いれば、高い耐熱性及び低線熱膨張を示す構造を有するポリイミド前駆体であっても収率良く製造できる。本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、簡便に安価な原料で合成することが可能であるヘミアセタールエステル結合を有することで、保存安定性が高いポリイミド前駆体を得ることができる。加えて、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、イミド化後の不純物の残存が非常に少ないポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体を、より簡便に低コストで得ることができる。ヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体は、ヘミアセタールエステル結合が容易に分解し且つヘミアセタールエステル結合の分解によって発生したポリアミック酸以外の分解物の揮発性が高いことにより、最終的に得られるポリイミド膜中への残存物がほとんどないからである。
さらには、用いるポリイミド前駆体の骨格に限定されず適用が可能である。
【0116】
本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体は、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、光回路部品、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0117】
本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体は、広範な構造のポリイミド前駆体を選択できる為、それによって得られる硬化物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等のポリイミドが特徴的に有する機能を付与することが可能であることから、ポリイミドが適用されている公知の全ての部材用のフィルム、塗膜又は3次元構造物として好適である。
本発明の製造方法により製造されたポリイミド前駆体は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の特性が有効とされる広範な分野・製品、例えば、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0118】
(実施例1)
200mlの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、室温(25℃)へ戻し、空気中の水分に対して十分注意しながら、3,3’,4,4’−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA) 5.88g(20mmol)、シクロヘキシルビニルエーテル(CVE) 30g、予め脱水されたγ−ブチロラクトン 25gを添加し、窒素気流下室温で撹拌した。
そこへ、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA) 4.0g (20mmol)を、予め脱水されたγ−ブチロラクトン 20gに溶解させた溶液を、30分かけて徐々に滴下した。滴下終了後は、沈殿物が析出したがそのまま室温で撹拌を続けると、析出物は完全に溶解した。そのまま、168時間撹拌し反応を終了させた。
その溶液の一部を、脱水されたジエチルエーテルによって再沈殿により精製し、白色固体を得た。その白色固体の重ジメチルスルホキシド溶液を1H−NMRにより分析したところ、全てのカルボキシル基がCVEによって保護されたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸)であることが確認された。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。H−NMRスペクトルの末端基由来のピークの積分比と繰り返し単位のジフェニルエーテル部位のピークの積分値の比より求められた、数平均分子量は、9200であった。(ポリイミド前駆体1)
【0119】
(実施例2〜3)
実施例1と同様の条件で、シクロヘキシルビニルエーテルを表1に示す他のビニルエーテル化合物に変化させて合成を行った。いずれの実験もゲル化は起こらずポリイミド前駆体2〜3の白色個体を得た。反応時間は、ポリイミド前駆体2、及びポリイミド前駆体3のそれぞれが、220時間、及び150時間だった。
【0120】
【表1】

【0121】
また同時に実施例1〜3で半分残した反応液を反応液1〜3とし、室温で保管後200時間までゲル化や沈殿物の生成等の変化はなかった。
【0122】
(比較例1)
100mlの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、ジメチルアセトアミド溶媒で重合し、アセトンのよって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸 NMRから求めた数平均分子量Mn=12000)の白色固体 0.99g、シクロヘキシルビニルエーテル(CVE) 5g、乾燥させたγ−ブチロラクトン5mlを投入した。乾燥させた窒素気流下室温で、88時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の半分を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、下記式で表されるBPDA−ODAのシクロヘキシルビニルエーテル保護体(ポリイミド前駆体1)の白色固体を定量的に得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。(比較ポリイミド前駆体1)
【0123】
<熱分解性評価>
ポリイミド前駆体1、比較ポリイミド前駆体1の2重量%重ジメチルスルホキシド溶液(非脱水)を用いて、加熱した際の保護率を測定した。保護率は、各温度においてNMRチューブ中において5分加熱を行ったのち、合成例1と同様に1H−NMRを用い、そのピークの積分比より求めた。
その結果、いずれのサンプルにおいても80℃において保護基がほぼ完全に分解し、ポリアミック酸へと変化したことが確認された。
これらの結果より、本発明の製造方法を用いても、ポリアミック酸を合成した後にビニルエーテル化合物を用いてヘミアセタールエステル化を行う方法を用いても、特性に変わりがないポリイミド前駆体を得られることがわかった。
【0124】
<赤外分光評価>
ポリイミド前駆体1および比較例1の製造に用いたBPDA−ODAのそれぞれを、窒素雰囲気下、350℃ 1時間(室温からの昇温速度 10℃/min)で熱処理したサンプルについて、各々赤外分光スペクトルを測定したところ、ベースラインが若干ずれていたものの、主要なピークは全て同じ波数であり、ほぼ同じスペクトルを示した。
【0125】
<イミド化後のガラス転移温度>
上記反応液1を、ガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、乾燥させた後、剥離し、膜厚15μmのフィルムを得た。
同様に、BPDA−ODAの15重量%NMP溶液をガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、剥離し、膜厚12μmのフィルムを得た。
上記の2種のサンプルを、窒素雰囲気下、350℃ 1時間加熱し(昇温速度 10℃/分)、ポリイミド前駆体1、BPDA−ODA、(それぞれ厚み8μm±1μm)、それぞれのイミド化物のフィルムを得た。
【0126】
上記のフィルムを、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minで動的粘弾性測定を行った。
その結果、ポリイミド前駆体1のイミド化後のガラス転移温度は、257℃であり、BPDA−ODAのイミド化後のフィルムは、258℃であった。
【0127】
<イミド化後の線熱膨張係数>
上記ガラス転移温度測定用に作製したフィルム2種を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線熱膨張係数は、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって測定した。測定条件は、評価サンプルの観測長を15mm、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とした。
その結果、ポリイミド前駆体1のイミド化後の線熱膨張係数は、44.2ppm、BPDA−ODAのイミド化後のフィルムは、43.9ppmであった。
【0128】
<イミド化後の湿度膨張係数>
上記ガラス転移温度測定用に作製したフィルム2種を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。湿度膨張係数は、湿度可変機械的分析装置Thermo Plus TMA8310改(リガク社製)によって測定した。温度を25℃で一定とし、湿度を20%RHの環境下でサンプルが安定となった状態で、湿度を50%Rhに変化させ、それが安定となった際のサンプル長の変化を、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値を、サンプル長で割った値を湿度膨張係数とした。評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とした。
その結果、ポリイミド前駆体1のイミド化後の湿度膨張係数は、21.9ppmであり、BPDA−ODAのフィルムは、21.8ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の酸二無水物と1種以上のジアミンを重合するポリイミド前駆体の製造方法であって、ビニルエーテル化合物を含む溶液中で重合することを特徴とする、ポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中に前記酸二無水物を分散、または溶解させた状態を形成し、その後、前記ジアミンを添加し、重合することを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中に前記酸二無水物を分散、または溶解させた状態を形成し、その後、前記ジアミンを溶解させた溶液を添加し、重合することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、ラクトン類及びエステル類より選択される1種以上の溶媒を含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記ビニルエーテル化合物を含む溶液が、前記酸二無水物と前記ジアミン由来以外の活性水素を含まないことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中で、0℃〜45℃で反応を行うことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記ビニルエーテル化合物を含む溶液の水分含有量が1重量%以下であることを特徴とする、請求項1乃至6いずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項8】
下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を製造することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Rは1価の有機基である。R、R、R、Rはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【請求項9】
製造されるポリイミド前駆体の重量平均分子量又は数平均分子量が2000〜1000000であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項10】
前記式(2)中のR、R、Rが水素である、請求項8又は9に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項11】
前記式(2)中のRが、炭素数2〜30の有機基であり、活性水素を含有しないことを特徴とする、請求項8乃至10のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項12】
前記式(2)中のRが、エーテル結合を含有する、請求項8乃至11のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項13】
重合体の末端が、酸無水物基、または活性水素を含まない構造であることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項14】
前記式(1)中のRが、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の骨格であることを特徴とする、請求項8乃至13のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項15】
前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造である、請求項8乃至14のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【化3】

【請求項16】
前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(4)で表わされるいずれかの構造である、請求項8乃至15のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【化4】

(R10は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【請求項17】
前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(5)で表わされるいずれかの構造である、請求項8乃至16のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【化5】

(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。R11及びR12は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【請求項18】
前記請求項1乃至17のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法によって製造されたポリイミド前駆体。
【請求項19】
前記請求項1乃至17のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法によって製造されたポリイミド前駆体を脱水縮合することからなる、ポリイミドの製造方法。

【公開番号】特開2009−242549(P2009−242549A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90341(P2008−90341)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】