説明

ポリイミド樹脂、及びポリイミド樹脂膜

【課題】 液晶表示装置の広い視野角と、画面の着色防止とを実現するため、位相差フィルム用途に有用なポリイミド樹脂を提供することである。
【解決手段】 本発明のポリイミド樹脂は、その重合原料である酸二無水物として、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)を必須成分として含むことを特徴とし、その他酸二無水物として、4,4´−オキシビスフタル酸無水物(ODPA)、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物のいずれか1種又は複数種を併用して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂、及びポリイミド樹脂膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、光学補償を目的とした位相差板が使用されている。従来、位相差板としては、延伸処理した高分子フィルムを用いられることが多かったが、面内最大屈折率(nx)と厚み方向屈折率(nz)の差を大きくすれば、以下の数式1で計算される厚み方向の位相差値Rthを膜厚(d)が薄くても発現することができ、位相差フィルムが薄型化できることが提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。
【0003】
【数1】

ポリイミド樹脂膜は配向性が高く、複屈折(面内屈折率と厚み方向屈折率の差)が大きく発現する特徴を持っており、位相差フィルム用途に好適に用いられる。しかし、液晶表示装置の画面の表示特性が改善できない場合もあった。
【特許文献1】特開2003−344856号公報
【特許文献2】特表平8−511812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記状況を鑑み為されたものであって、液晶表示装置の広い視野角と、画面の着色防止とを実現するため、位相差フィルム用途に有用なポリイミド樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明の、主として下記一般式1、及び一般式2の構造からなり、これらの含有比率をそれぞれx1、x2として表した時に、x1:y1=5:95〜95:5であることを特徴とするポリイミド樹脂が、位相差フィルム用途に有用なポリイミド樹脂であることを見出した。
【0006】
【化6】

【0007】
【化7】

(Arは、脂肪族基又は芳香族基である。また、R1は、下記一般式群1に示す構造から選ば れる少なくとも一種の構造である。)
【0008】
【化8】

また、前記Arは、一般式1、及び一般式2の両方の構造において、各々その少なくとも一部は下記一般式3の構造を有することが好ましい。
【0009】
【化9】

さらに、前記Arは、前記一般式3以外に、主として下記一般式群2に示す構造から選ばれる少なくとも一種の構造を有し、かつ、一般式3の構造をx2とし、前記一般式群2から選ばれる少なくとも1種の構造をy2としたとき、これらの構造の構成比が、x2:y2=5:95〜95:5であることが好ましい。
【0010】
【化10】

(R2は、フッ素、塩素、臭素のいずれかのハロゲン基、またはアルキル基である。)
本発明のポリイミド樹脂膜は、主として上述した本発明のポリイミド樹脂からなり、δnd446.7/δnd547.9の値と、Rth446.7/Rth547.9の値と、が異なる値であることを特徴とする。
【0011】
(但し、δnd446.7、δnd547.9は、それぞれ波長446.7nm、547.9nmにおける、面内の最大の屈折率差と厚みの積を表し、Rth446.7、Rth547.9は、それぞれ波長446.7nm、547.9nmにおける、厚み方向位相差を表す。)
また、前記δnd446.7/δnd547.9の値は、前記Rth446.7/Rth547.9の値よりも大きいことが好ましい。
【0012】
さらに、前記Rth446.7/Rth547.9の値は、1.09よりも小さいことが好ましい。
【0013】
このような本発明のポリイミド樹脂膜は、厚さ5μmにおける波長450nmの光の光透過率が80%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
光学補償を目的とした位相差フィルム用途において、本発明のポリイミド樹脂、及び主としてこの樹脂からなるポリイミド樹脂膜を使用することで、液晶表示装置の広い視野角と、画面の着色防止とを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るポリイミド樹脂の要旨とするところは、主骨格が主として下記一般式1、及び一般式2の構造からなるポリイミド樹脂である。
【0016】
【化11】

【0017】
【化12】

(Arは、脂肪族基又は芳香族基である。また、R1は、下記一般式群1に示す構造から選ばれる少なくとも一種の構造である。)
【0018】
【化13】

本発明のポリイミド樹脂は、一般式1の構造をx1とし、一般式2の構造をy1としたとき、これらの構造の構成比がx1:y1=5:95〜95:5である。この構成比は、x1:y1=55:45〜90:10とすることが好ましい。構成比がx1:y1=80:20よりもx1が大きくy1が小さい場合、複屈折が小さくなり、構成比がx1:y1=55:45よりもx1が小さくy1が大きい場合、ポリイミド樹脂を膜状に成形した場合の透明性が乏しくなる。
【0019】
また、本発明のポリイミド樹脂中は、上記Arが一般式1、及び一般式2の両方の構造において各々その少なくとも一部は下記一般式3の構造とすることが好ましく、また、両方の構造の残りの部分は主に下記一般式群2に示す構造から選ばれる少なくとも一種の構造とすることが好ましい。
【0020】
【化14】

【0021】
【化15】

(R2は、フッ素、臭素、塩素のいずれかのハロゲン基、またはアルキル基である。)
また、本発明のポリイミド樹脂において、一般式3の構造をx2とし、一般式群2から選ばれる少なくとも1種の構造をy2としたとき、これらの構造の構成比をx2とy2で表した場合、x2:y2=5:95〜95:5とすることが好ましく、x2:y2=30:70〜80:20とすることがさらに好ましい。
【0022】
このような本発明のポリイミド樹脂は、その重合原料である酸二無水物として、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)を必須成分として含むことを特徴とし、その他酸二無水物として、4,4´−オキシビスフタル酸無水物(ODPA)、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物のいずれか1種又は複数種を併用して用いる。この中でも、併用して用いる酸二無水物としては、4,4´−オキシビスフタル酸無水物(ODPA)、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、9,9−ビス(3,4ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物を用いることが好ましく、4,4´−オキシビスフタル酸無水物(ODPA)、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を用いることがさらに好ましく、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を用いることが特に好ましい。
【0023】
また、上記の他にも併用して用いることのできる酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,5−ジフルオロピロメリット酸二無水物、2−フルオロピロメリット酸二無水物、2,5−ビストリフルオロメチルピロメリット酸二無水物、2−トリフルオロメチルピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2´−置換−3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(4−トリメリット酸モノエステル酸フェニル)プロパン酸二無水物、2,2−ビス(4−トリメリット酸モノエステル酸フェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、p−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−置換フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4´−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、1,4−ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,6−ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)等が挙げられる。
【0024】
本発明のポリイミド樹脂の重合原料であるジアミン類としては、ポリイミド樹脂膜に複屈折と透明性を付与できるものであれば特に限定されない。例えば、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル(TFMB)、4,4´−ジアミノ−ベンゾフェノン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン(BFAF)、9,9−ビス(4−アミノ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、3,4´−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0025】
中でも2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル(TFMB)、4,4´−ジアミノ−ベンゾフェノン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン(BFAF)、9,9−ビス(4−アミノ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、ビス(4−アミノフェニル)スルホンが好ましく、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル(TFMB)、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン(BFAF)が特に好ましい。
【0026】
また、本発明のポリイミド樹脂の重量平均分子量は、GPCのPEG(ポリエチレングリコール)換算で測定した値が30,000以上200,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が30,000未満であれば、耐久性に問題が生じることがある。また、重量平均分子量が200,000以上であれば有機溶媒への溶解性が低下するため、本発明のポリイミド樹脂を、可溶性ポリイミド樹脂として有機溶媒へ溶解させて使用する場合に困難が生ずることがある。
【0027】
さらに、本発明のポリイミド樹脂のイミド化率は80%以上であることが好ましい。80%未満であれば、透明性と位相差発現能の面で好ましくない。好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。
【0028】
また、本発明のポリイミド樹脂は、フィルム等の成形体として用いる際には、その残溶媒量が1%未満とすることが、その成形体の安定性の点から好ましい。
【0029】
発明のポリイミド樹脂は、成形体としてポリイミド樹脂膜として用いることができる。このような本発明のポリイミド樹脂膜は、好ましい膜厚が1μm〜50μmの膜形状であり、また、単体でフィルム状であってもコーティング層であっても良い。さらに、本発明のポリイミド樹脂膜を光学フィルムとして用いる場合には、厚さ5μmにおける波長450nmの光透過率が80%以上であることが、光がポリイミド樹脂膜を効率良く透過するので好ましい。
【0030】
コーティング層として本発明のポリイミド樹脂膜を用いる場合、それを支持する支持体としては、ガラス等の無機材料や、ポリカーボネート、PMMA、セルロース、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック材料を用いることができる。この支持体として、ポリカーボネート、PMMA、セルロース、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック材料を用いる場合、ポリイミド樹脂は有機溶媒に溶解させたポリイミド樹脂溶液をキャストしてポリイミド樹脂膜の状態にして用いることが好ましい。
【0031】
キャスト用有機溶媒とは、高分子から成る支持体にポリイミド樹脂溶液をキャストし、乾燥させるポリイミド樹脂膜形成工程において、ポリイミド樹脂を溶解しキャスト用ポリイミド樹脂溶液とするための有機溶媒である。
【0032】
キャスト用有機溶媒は、ポリイミド樹脂を溶解させる溶媒であれば特に限定されない。例えば、NMP(N−メチルピロリドン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミオ)等のアミド系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等を用いることができる。またポリイミド樹脂を溶解可能な範囲であれば、ポリイミド樹脂を溶解させない非溶媒又は溶解させにくい貧溶媒を混合溶媒として適時使用しても良い。
【0033】
上述したキャスト用有機溶媒の内、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等は、ポリイミド樹脂膜形成工程において、高分子から成る支持体フィルムの基材を傷めない点で好ましく、その中でも、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒がさらに好ましい。
【0034】
本発明のポリイミド樹脂膜の複屈折は、面内屈折率と厚み方向屈折率の差であり、0.02以上、0.15以下が好ましい。ポリイミド樹脂膜の複屈折が0.02未満であれば、位相差フィルム用途で用いる場合、特性発現に必要となる膜の厚みが厚くなり、着色が問題となることがある。複屈折が0.15を超えれば、均一に複屈折特性発現が求められる用途でポリイミド樹脂膜の厚み制御が難しいことがある。
【0035】
本発明のポリイミド樹脂膜の波長400〜800nmにおける、δnd446.7/δnd547.9とRth446.7/Rth547.9との値は異なることが視野角拡大と画面の着色防止の点から好ましい。ここでいう、δndは正面の位相差を表しており、446.7及び547.9は、位相差の測定波長である。また、Rthは厚み位相差を表しており、446.7及び547.9は、厚み位相差の測定波長である。
【0036】
また、本発明のポリイミド樹脂膜の波長400〜800nmにおける、δnd446.7/δnd547.9の値が、Rth446.7/Rth547.9の値よりも大きいことが視野角拡大と画面の着色防止の点からさらに好ましい。
【0037】
さらに、ポリイミド樹脂膜の波長400〜800nmにおける、Rth446.7/Rth547.9の値が1.09よりも小さいことが視野角拡大と画面の着色防止の点から、さらに好ましい。
【0038】
次に、本発明のポリイミド樹脂の製造方法について説明する。ポリイミド樹脂の製造方法は、一般的には(1)ポリアミド酸の重合(2)ポリアミド酸のイミド化(3)ポリイミド樹脂の抽出の三工程を含むので、それぞれについて一例を述べる。
【0039】
(1)ポリアミド酸の重合
ポリアミド酸の製造方法は下記方法に特定されるものではなく、種々の方法を用いることが可能である。その一例を以下に示す。
【0040】
ジアミンを溶解した重合用溶媒である有機溶媒中に、酸二無水物を分散し、攪拌することで完全に溶解させ重合させる方法、酸二無水物を重合用溶媒である有機溶媒中に溶解及び/または分散させた後、ジアミンを用いて重合させる方法、酸二無水物とジアミンの混合物を重合用溶媒である有機溶媒中で反応させて重合する方法などがあるが、公知の重合方法を用いればよい。
【0041】
反応時間は、約1時間から5時間までで反応させることが好ましいが、ポリアミド酸溶液の粘度が、5Pa・s以上になるまで反応を行うことが好ましく、さらに好ましくは10Pa・s以上、最も好ましくは20Pa・s以上まで反応を行うころとが好ましい。ポリアミド酸溶液の粘度が20Pa・s以上であるとポリアミド酸溶液からポリイミド樹脂へと成形する際に取扱う上で最も好ましい。上記粘度は、23℃に保温された水浴中で23℃に保温し、B型粘度計で、ローターはNo.7を回転数は4rpmで測定することができる。
【0042】
反応装置には、反応温度を制御するための温度調製装置を備えていることが好ましく、反応溶液温度として60℃以下が好ましく、さらに、40℃以下であることが反応を制御する点で好ましい。
【0043】
ポリアミド酸の重合に使用される重合用溶媒である有機溶媒としては、ポリアミド酸を溶解しポリアミド酸の重合反応が進行すれば特に制限されない。例えばテトラメチル尿素、N,N−ジメチルエチルウレアのようなウレア類、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォンのようなスルホキシドあるいはスルホン類、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ―ブチルラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、またはホスホリルアミド類の非プロトン性溶媒、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化アルキル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、フェノール、クレゾールなどのフェノール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p−クレゾールメチルエーテルなどのエーテル類が挙げられることができ、通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組合わせて用いても良い。これらのうちDMF、DMAc、NMPなどのアミド類が好ましく使用される。また、最終的に得られるポリイミド樹脂も十分溶解し得る有機溶媒が好ましい。
【0044】
ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の重量%は、有機溶媒中にポリアミド酸が5〜50wt%、好ましくは10〜40wt%溶解されているのが取り扱い面から好ましい。
【0045】
ポリアミド酸溶液の製造反応に用いられる酸二無水物類とジアミン類の使用モル比率は、次式で算出した場合に、0.9以上、1.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.95以上、1.3以下であることが好ましく、特に好ましくは、0.98以上、1.2以下であることがポリアミック酸溶液から得られるポリイミド樹脂中の未反応の酸二無水物やジアミンを減少させる上で好ましい。
【0046】
(2)ポリアミド酸のイミド化
ポリアミド酸を含む溶液をイミド化して可溶性のポリイミド樹脂を含む溶液を製造する方法について記載する。ポリアミド酸を含む溶液をイミド化する方法には、熱的に脱水閉環する熱的イミド化法と、脱水剤を用いる化学的イミド化法がある。
【0047】
熱的イミド化はイミド化反応時に生成する水と共沸するトルエン等の共沸溶媒をポリアミド酸溶液に添加後、加熱して行うことが一般的である。熱的イミド化法ではイミド化促進剤を併用することができる。
【0048】
本願発明では、ポリアミド酸をイミド化する際の条件を特定の条件とすることにより、分子量を低下させることなく、得られるポリイミド樹脂のイミド化率を向上させることができる。すなわち、ポリアミド酸を含む溶液を、三級アミンをイミド化促進剤として用いてイミド化することが好ましい。このようなイミド化促進剤としては、三級アミンであれば特に限定されず用いることが出来るが、特にピリジン、キノリン、イソキノリンなどの複素環式第3級アミン類などが好ましい。
【0049】
また、イミド化する際の温度は40℃〜イミド化で使用する有機溶媒の沸点以下で、加熱時間は0.5〜20時間であることが好ましい。温度が40℃以下だとイミド化率が低くなることがあるので好ましくない。イミド化する際の温度は50℃〜イミド化で使用する有機溶媒の沸点で行うことが好ましいが、150℃以下で加熱することはポリイミド樹脂の着色を防ぐためには好ましい。
【0050】
化学的イミド化では、脱水剤として、無水酢酸などの脂肪族酸無水物や芳香族酸無水物などを用いる。この中で、無水酢酸を用いることがポリイミド樹脂の抽出工程に適しているという点から好ましい。
【0051】
(3)ポリイミド樹脂の抽出
ポリイミド樹脂の析出方法は、上記(1)(2)のようにして得られたポリイミド樹脂を含む溶液から、ポリイミド樹脂を析出する方法であって、公知の方法が種々に選択できるが、ポリイミド樹脂、脱水剤、イミド化促進剤などを含有するポリイミド樹脂の溶液をポリイミド樹脂の貧溶媒中に投入すること、もしくはポリイミド樹脂の溶液に貧溶媒を投入することでポリイミド樹脂を固形状態で得ることで達成することがができる。ポリイミド樹脂の溶液に貧溶媒を投入する方法としては、液滴で投入する方法や糸状に投入する方法などがあるが、貧溶媒中にポリイミド樹脂が沈殿するのであれば、特に制限されない。本発明のポリイミド樹脂とは、糸状、粉末状、フレーク状、種々の形態を含む固形物状態のものであり、沈殿したポリイミド樹脂を必要があれば粉砕することで所望の固形物を得ることができる。
【0052】
本発明で用いられるポリイミド樹脂の貧溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解する溶媒として使用した有機溶剤と混和するものが好ましく特に限定されるものではないが、例えば水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、2−ブチルアルコール、2−プロピルアルコール、2−ヘキシルアルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、フェノール、t−ブチルアルコールなどが挙げられる。上記アルコールの中でもイソプロピルアルコール、2−ブチルアルコール、2−ペンチルアルコール、フェノール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、t−ブチルアルコール等の2級又は3級アルコールが、得られるポリイミド樹脂のイミド化率を高位に安定化させるという観点から好ましく、2−プロピルアルコールがさらに好ましい。貧溶媒量はポリイミド樹脂の溶液の2倍以上、さらに好ましくは3倍以上の量で抽出することが好ましい。
【0053】
ポリイミド樹脂の溶媒からポリイミド樹脂を得るには前記の抽出だけでは、乾燥後に所望の形状のポリイミド樹脂を得ることが難しいことがある。これはポリイミド樹脂に溶媒が多く含有していることによるものであり、ポリイミド樹脂を前記貧溶媒で洗浄することで有機溶剤をほんど含有しない所望のポリイミド樹脂を得ることができる。
【0054】
以上のようにして得られたポリイミド樹脂から貧溶媒を取り除くために乾燥することが好ましいが、その方法は、真空乾燥によってもよいし熱風乾燥によってもよい。ただし、光学用途に用いる場合、乾燥時の着色が問題となる場合があるので、200℃以下で行うことが望ましい。
【実施例】
【0055】
ポリイミド樹脂の原料である酸二無水物、及びジアミンにつき、その種類、及び量を変えて種種ポリイミド樹脂を得て、さらに、このポリイミド樹脂から延伸ポリイミド膜を作成し、種種の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

以下、表1に示す各実施例・比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
本実施例では、反応容器としてガラス製セパラブルフラスコを備え、該セパラブルフラスコ内の攪拌装置として2枚のパドル翼を備え、冷却装置として20.9kJ/minの冷却能力を持つ装置を備えた反応装置を用いてポリアミック酸を合成した。
【0058】
合成手順としては、重合用溶媒にジアミンを溶解させた後、酸二無水物を添加し、重合反応を進行させた。重合反応中は、水分の混入を防ぐ為に、シリカゲル中を通過させて脱水を行った窒素ガスを0.05L/minで流して重合反応を行った。
【0059】
具体的には、まず、上記セパラブルフラスコに、重合用溶媒としてN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)212.1gを仕込み、これに、ジアミンとして2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル(TFMB)40.0g(0.125モル)を溶解した。
【0060】
次に、この溶液に、酸二無水物として3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)12.1g(0.037モル)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)38.8g(0.087モル)、つまり(BTDA:6FDA=3:7)を添加・攪拌して完全に溶解させた。
【0061】
完全に溶解した後、2時間攪拌させた。この時、反応溶液における芳香族ジアミン化合物及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して30重量%となっている。
【0062】
上記溶液にイミド化触媒としてピリジンを20g(イミド化促進剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=2)添加して、完全に分散させる。分散させた溶液中に脱水剤として無水酢酸を1分間に1gの速度で15.3g(脱水剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=1.2)を添加してさらに30分間攪拌した。攪拌後に、内部温度を100℃に上昇させて5時間加熱攪拌を行った。
【0063】
反応溶液を200回転で撹拌している所に、0.5Lの2−プロピルアルコールを滴下し、ポリイミド樹脂スラリーを得た。得られたポリイミド樹脂スラリーは、1Lの2−プロピルアルコールで5回洗浄した。
【0064】
その後、このポリイミド樹脂スラリーを真空乾燥装置で100℃に加熱乾燥してポリイミド樹脂を得た。このようにして得たポリイミド樹脂につき、重量平均分子量を測定した。また、以下に記載の方法を用いて延伸ポリイミド膜を作成し、さらにこの延伸ポリイミド膜につき、その波長分散、及び画質評価を評価した。
【0065】
(延伸ポリイミド膜の作成)
ポリイミド樹脂を固形成分濃度10%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)に溶かした溶液を、バーコーターでPETフィルム上に塗布した後、50℃×2分間乾燥させた。その後、形成されたポリイミド樹脂膜をPETフィルムから剥がし、幅50mm×長さ100mmの原反フィルムとして切りだした。この原反フィルムの長さ方向先端に350gの錘をつるし、その状態で熱風オーブンで160℃×10分間乾燥させることで、厚さ5μmの延伸ポリイミド樹脂膜を得た。
【0066】
(波長分散)
得られた延伸ポリイミド樹脂膜の波長分散特性をKobra−WR(王子計測社製)で測定し、δnd446.7/δnd547.9、及びRth446.7/Rth547.9の値を得た。
【0067】
(分子量)
表2に記載の装置、及び条件で、重量平均分子量(Mw)を測定し、分子量とした。
【0068】
【表2】

(画質評価)
延伸ポリイミド樹脂膜を偏光板に貼り合わせた後、パネルに組み込んで画質の評価を実施した。画質の評価は、良いものを○として、改善が不足しているものを△にした。評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
酸二無水物として6FDA44.4g(0.100モル)、及び4,4´−オキシビスフタル酸無水物(ODPA)7.7g(0.025モル)、つまり(6FDA:ODPA=8:2)を用い、ジアミンとしてTFMB40.0gを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミド樹脂を合成し、このポリイミド樹脂、及び延伸ポリイミド膜を評価した。
【0070】
(実施例3)
酸二無水物として6FDA55.5g(0.125モル)を用い、ジアミンとしてTFMB20.0g(0.063モル)、及び9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン(BFAF)24.0g(0.063モル)、つまり(TFMB:BFAF=5:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミド樹脂を合成し、このポリイミド樹脂、及び延伸ポリイミド膜を評価した。
【0071】
(実施例4)
酸二無水物として6FDA44.4g(0.100モル)、及び4,4´−オキシビスフタル酸無水物(ODPA)7.7g(0.025モル)を用い、ジアミンとしてTFMB20.0(0.063モル)g、及び9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン(BFAF)24.0g(0.063モル)を用いた、つまり(6FDA:ODPA=8:2/TFMB:BFAF=5/5)としたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミド樹脂を合成し、このポリイミド樹脂、及び延伸ポリイミド膜を評価した。
【0072】
(比較例1)
酸二無水物として6FDA55.5(0.125モル)gを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミド樹脂を合成し、このポリイミド樹脂、及び延伸ポリイミド膜を評価した。
【0073】
表1に示すように、各実施例では画質評価の結果が良かったのに比べて、比較例では画質評価の結果が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として下記一般式1、及び一般式2の構造からなり、これらの含有比率をそれぞれx1、x2として表した時に、x1:y1=5:95〜95:5であることを特徴とするポリイミド樹脂。
【化1】

【化2】

(Arは、脂肪族基又は芳香族基である。また、R1は、下記一般式群1に示す構造から選ばれる少なくとも一種の構造である。)
【化3】

(R2は、フッ素、臭素、塩素のいずれかのハロゲン基、またはアルキル基である。)
【請求項2】
前記Arが、一般式1、及び一般式2の両方の構造において、各々その少なくとも一部は下記一般式3の構造を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【化4】

【請求項3】
前記Arが、前記一般式3以外に、主として下記一般式群2に示す構造から選ばれる少なくとも一種の構造を有し、かつ、一般式3の構造をx2とし、該一般式群2から選ばれる少なくとも1種の構造をy2としたとき、これらの構造の構成比が、x2:y2=5:95〜95:5であることを特徴とする請求項2に記載のポリイミド樹脂。
【化5】

(R2は、フッ素、塩素、臭素のいずれかのハロゲン基、またはアルキル基である。)
【請求項4】
δnd446.7/δnd547.9の値と、Rth446.7/Rth547.9の値と、が異なる値であることを特徴とする、主として請求項1から3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂からなるポリイミド樹脂膜(但し、δnd446.7、δnd547.9は、それぞれ波長446.7nm、547.9nmにおける、面内の最大の屈折率差と厚みの積を表し、Rth446.7、Rth547.9は、それぞれ波長446.7nm、547.9nmにおける、厚み方向位相差を表す。)。
【請求項5】
前記δnd446.7/δnd547.9の値が、前記Rth446.7/Rth547.9の値よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項6】
前記Rth446.7/Rth547.9の値が、1.09よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項7】
厚さ5μmにおける波長450nmの光の光透過率が80%以上であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂膜。

【公開番号】特開2007−91828(P2007−91828A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281206(P2005−281206)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】