説明

ポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法、金属薄膜、ポリイミド配線板の製造方法およびポリイミド配線板

【課題】還元剤溶液の濃度が高い場合でも、安定してポリイミド樹脂上に金属を析出させ得るポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1のアルカリ性溶液によるポリイミド樹脂表面への改質層形成工程;金属イオン含有溶液による前記改質層への金属イオン吸着工程;および改質層表面が酸性である前記ポリイミド樹脂を還元剤溶液により処理して、改質層に吸着した前記金属イオンを還元する還元工程;を含み、金属イオン吸着工程で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が酸性である場合は、該ポリイミド樹脂を還元工程に供するか、または第1の酸性溶液により改質層を処理する第1の酸性溶液処理工程に供した後、還元工程に供し、金属イオン吸着工程で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が中性またはアルカリ性である場合は、該ポリイミド樹脂を上記第1の酸性溶液処理工程に供した後、還元工程に供するポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法、金属薄膜、ポリイミド配線板の製造方法およびポリイミド配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの携帯情報機器に代表される電子機器は、小型化および軽量化が要求されている。この要求に伴って、電子機器に搭載されるプリント配線板として、可撓性を有するフレキシブルプリント配線板(FPC(Flexible Printed Circuit))や、ガラスエポキシ基板などの硬質基板とFPCとを組み合わせたリジット−フレキシブル配線板などの使用量が増加している。FPCの基板材料としては、耐熱性、電気絶縁性、機械的強度に優れるポリイミド基板が広く用いられている。
【0003】
ポリイミド樹脂を用いたFPCへの配線形成方法としては、従来、基板材料の表面全体に薄い導電層を、スパッタリング、真空蒸着法、無電解めっき、または金属箔の接着等により設け、エッチングにより所定形状にパターニングした後に電解めっきを施すことにより所定の厚みで配線パターンを形成するサブトラクティブ法が用いられている。しかしながら、プリント配線板の高密度化に伴い、より微細な配線パターンが要求されているため、オーバーエッチングの発生や、接着剤の密着性が悪いという問題があるサブトラクティブ法に替わる配線形成方法が検討されている。
【0004】
その手法の一つとして、ダイレクトメタライゼーション法を利用したセミアディティブ法がある。このダイレクトメタライゼーション法を用いると、金属薄膜とポリイミドにナノスケールでアンカリングすることにより密着性を改善することができる。全体のプロセスは、ポリイミド樹脂表面に金属薄膜を形成し、その金属薄膜を給電層として電解めっきを行なって作製した銅張2層基板を用いて、フレキシブルプリント配線板を作製するものである(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
前記ダイレクトメタライゼーション法の詳細プロセスは、まず、KOHやNaOHなどのアルカリ性溶液にポリイミド樹脂を浸漬し、ポリイミド樹脂表面を加水分解して、改質層を形成する。この改質層は、イミド環が開環したことによって、カルボキシル基を有するポリアミック酸、あるいはポリアミック酸塩の構造を有する。次に、ポリイミド樹脂を金属イオン含有溶液に浸漬して、カルボキシル基に金属イオンを吸着させて金属塩を形成する。そして、この金属塩を還元剤溶液に浸漬し、金属薄膜を得る。その後、上記ダイレクトメタライゼーション法により形成された金属薄膜をシード層として、電気化学的手法(電解めっき、無電解めっき)を用いて、前記金属薄膜上に金属を増膜し、セミアディティブ法により配線パターンを形成する。
【特許文献1】特開2001−73159号公報
【特許文献2】特開2004−6584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法には、以下の問題点があった。
上記ポリイミド樹脂上への金属薄膜形成方法における還元工程について、量産時における還元剤溶液の安定性向上のため、もしくは、還元工程の時間短縮のため、還元剤溶液濃度を高くして還元を行う場合には、還元剤溶液のpHが高くなる。例えば、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を使用する場合には、濃度を0.05mol/Lとすると、該還元剤溶液のpHは9.8となる。ダイレクトメタライゼーション法では、改質層に存在するポリアミック酸塩を還元剤溶液に浸漬して金属粒子として析出させるが、高pHの溶液中では金属イオンが酸化物を形成してしまう。例えば、上記水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を用いた場合の例では、pHが高い溶液(例えば、pH8以上)中では、水素化ホウ素イオン(BH)の分解が遅くなり、pHの低下が遅く、高pHの状態が長くなるために金属イオンが酸化物を形成しやすくなる。ポリイミド樹脂上に酸化物が形成された場合には金属薄膜の電気伝導率を確保することができないため、増膜するための電気化学的手法(電解めっき、無電解めっき)のシード層として金属薄膜を用いることができない。
【0007】
そこで、緩衝剤を添加することにより還元剤溶液のpHを下げる手法が用いられる場合があるが、制御できるpHの範囲は限られている。例えば、上記のように還元剤として0.05mol/Lの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を用いた場合、緩衝剤として、ほう酸塩(B(OH)+NaOH)を使用することにより制御できるpHの範囲は、8.7〜9.7程度である。また、前記緩衝剤濃度を高くするのに伴い、電子の金属イオンへの吸着を、不純物であるほう酸イオン(主にBO2−)が妨げることで還元速度が遅くなってしまう。
【0008】
本発明は、還元剤溶液の濃度が比較的高い場合においても、増膜可能な金属薄膜を比較的迅速にポリイミド樹脂表面に製造する方法、該方法を採用したポリイミド配線板の製造方法、ならびにそれらの方法により製造された金属薄膜およびポリイミド配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
第1のアルカリ性溶液によるポリイミド樹脂表面への改質層形成工程;
金属イオン含有溶液による前記改質層への金属イオン吸着工程;および
改質層表面が酸性である前記ポリイミド樹脂を還元剤溶液により処理して、改質層に吸着した前記金属イオンを還元する還元工程;
を含み、
金属イオン吸着工程で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が酸性である場合は、該ポリイミド樹脂を還元工程に供するか、または第1の酸性溶液により改質層を処理する第1の酸性溶液処理工程に供した後、還元工程に供し、
金属イオン吸着工程で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が中性またはアルカリ性である場合は、該ポリイミド樹脂を上記第1の酸性溶液処理工程に供した後、還元工程に供することを特徴とするポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法に関する。
【0010】
本発明はまた、上記金属薄膜の製造方法により製造された金属薄膜に関する。
【0011】
本発明はまた、金属薄膜の製造方法により金属薄膜を形成した後に、
配線パターンを形成する配線形成工程を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法および該方法により製造されたポリイミド配線板に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法によれば、還元時のポリイミド樹脂上への酸化物の形成を防止できるため、緩衝剤の使用を回避できる。そのため、増膜可能な金属薄膜を比較的迅速にポリイミド樹脂表面に製造できる。その結果として、ポリイミド配線板を高い生産性および信頼性で得ることができる。
また、本発明のポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法によれば、還元剤溶液の濃度が高い場合においても、ポリイミド樹脂表面に金属薄膜を安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法は、いわゆる直接めっき法(ダイレクトメタライゼーション法)を用いている。
【0014】
本発明のポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法は、詳しくは、
(1)第1のアルカリ性溶液によるポリイミド樹脂表面への改質層形成工程;
(2)金属イオン含有溶液による前記改質層への金属イオン吸着工程;
(3)第1の酸性溶液による前記改質層の第1の酸性溶液処理工程;および
(4)改質層表面が酸性である前記ポリイミド樹脂を還元剤溶液により処理して、改質層に吸着した前記金属イオンを還元する還元工程;
を含むことを特徴とし、
特に金属イオン吸着工程(2)で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が酸性である場合は、第1の酸性溶液処理工程(3)を省略し、該ポリイミド樹脂を還元工程(4)に供してもよい。
【0015】
以下、本発明を図1〜図8を参照して説明する。図1は、本発明に係るポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法の製造工程を示すフロー図の一例であり、図2〜図8は、製造工程を説明するためのポリイミド樹脂(基板)の断面模式図の一例である。
【0016】
(1)改質工程
本発明において、直接めっき法を用いるに際し、金属薄膜製造のためにポリイミド樹脂表面を開環処理する必要がある。詳しくは図2に示すようなポリイミド樹脂1を第1のアルカリ性溶液に浸漬することで、図3に示すように表面に改質層2を形成し、水洗する。この工程により、ポリイミド樹脂表面におけるポリイミド分子のイミド環が加水分解によって開環し、カルボキシル基が生成すると同時に、カルボキシル基の水素イオンが第1のアルカリ性溶液中の金属イオンと置換され、改質層が形成される。例えば、化学式(1)で表されるポリイミドがKOH水溶液で処理される場合、加水分解による開環によって生成したカルボキシル基にカリウムイオンが吸着し、化学式(2)で表される構造を有するようになる。
【0017】
【化1】

【0018】
ポリイミド樹脂の構造は特に制限されるものではなく、例えば、上記化学式(1)で表されるような、ピロメリット酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させて製造されたポリイミド樹脂が使用可能である。
【0019】
ポリイミド樹脂の形態は特に制限されず、可撓性を有するフィルム状のものから剛性を有するボード状のものまで、いかなるポリイミド樹脂も使用可能であるが、フレキシブル配線板を製造する観点からは、厚み10〜200μmの可撓性を有するフィルム状のものが好ましく使用される。ポリイミド樹脂を用いる場合、市販のものを使用することができ、例えば、アピカル(R)(カネカ製)、カプトン(R)(東レデュポン製)等として入手可能である。
【0020】
本工程に用いられる第1のアルカリ性溶液はポリイミドのイミド環を開環できる限り特に制限されるものではなく、例えば、K、Na等のアルカリ金属の水酸化物を含有する水溶液、Mg、Ca等のアルカリ土類金属の水酸化物を含有する水溶液等が使用可能である。第1のアルカリ性溶液に含有され、本工程で水素イオンと置換する金属イオンを以下、金属イオンAと呼ぶものとする。
【0021】
本工程に用いられる第1のアルカリ性溶液は通常は、濃度が0.1〜10M(mol/l)、溶液温度が20〜70℃であり、処理時間は1分〜2時間である。好ましくは、溶液温度は30〜50℃、処理時間は3〜7分である。処理温度が高すぎるとポリイミドの主鎖が切れる可能性があり、処理時間が長すぎると改質層の厚さが厚くなりポリイミド樹脂全体の強度低下のため、プロセス継続が困難になる可能性がある。
【0022】
改質層2の厚さはその後の工程で得られる金属薄膜の厚さと相関がある。さらに後の工程で増膜を行うのに必要な金属薄膜の厚さを得る観点からは、改質層の厚さは1〜5μmが好ましい。
【0023】
本工程で行う水洗は、ポリイミド樹脂表面に付着した第1のアルカリ性溶液を除去するために行う。従って、流水による水洗が望ましい。通常は、1〜5L/分の水量で、5分以上の水洗を行う。本明細書中、水量は流水の流速を意味するものとし、流水は放水によって得てもよいし、槽中の水を撹拌することによって得てもよい。
【0024】
(2)金属イオン吸着工程
本工程では、金属イオン含有溶液により前記改質層2を処理して、図4に示すように、該溶液に含有される金属イオンを改質層に吸着させる。詳しくは、改質層2を有するポリイミド樹脂を、金属イオン含有溶液に浸漬して、改質層中の金属イオンAを、当該金属イオン含有溶液中の金属イオンと置換させ、その後は所望により水洗する。図4中、3が金属イオンを吸着した改質層である。
【0025】
金属イオン含有溶液中に含まれる金属イオンは後述の工程で還元されて金属薄膜として析出するものである。用いることができる金属イオンの種類は、樹脂の種類によって決定され、例えば、Niイオン、Cuイオン、およびそれらの組み合わせを用いることが好ましい。そのような金属イオンを含有する溶液として、具体的には、例えば、NiSO水溶液、CuSO水溶液、NiCl水溶液、およびそれらの混合液などが使用可能である。金属イオン含有溶液に含有され、本工程で金属イオンAと置換する金属イオンを以下、金属イオンBと呼ぶものとする。
【0026】
本工程に用いられる金属イオン含有溶液は通常は、濃度が0.01〜0.1M(mol/l)、処理温度が20〜30℃であり、処理時間は5分以上である。特に本工程での処理時間は、工程(1)における改質処理の条件により適宜設定される。例えば、ポリイミド改質層の厚さが約3μmの場合、少なくとも3分間吸着処理を行えば十分である。
【0027】
本工程で水洗は行っても、行わなくてもよいが、ポリイミド樹脂表面に付着した金属イオン含有溶液を除去して次工程の処理液の劣化を防止する観点から、水洗は行うことが好ましい。水洗を行う場合、通常は0〜5L/分の水量で、改質層表面と水との接触時間(水洗時間)を1秒間以上確保するように行う。本明細書中有、水洗は流水にポリイミド樹脂を曝すことによって達成されてもよいし、または水にポリイミド樹脂を単に浸漬することによって達成されてもよい。水量が0L/分であるとは、撹拌されていない水中にポリイミド樹脂を単に浸漬するという意味である。
【0028】
本工程で得られるポリイミド樹脂の改質層表面が酸性である場合、後述の第1の酸性溶液処理工程(3)は省略してもよい。すなわち、改質層表面が酸性のポリイミド樹脂は、後述の第1の酸性溶液処理工程(3)に供することなく、後述の還元工程(4)に供してもよいし、または第1の酸性溶液処理工程(3)に供した後、還元工程(4)に供してもよい。
【0029】
本工程で得られるポリイミド樹脂の改質層表面が中性またはアルカリ性である場合、該ポリイミド樹脂は第1の酸性溶液処理工程(3)に供した後、還元工程(4)に供する。
【0030】
本工程で得られるポリイミド樹脂の改質層表面の性質は、金属イオン含有溶液の種類および水洗条件に依存する。
例えば、CuSO水溶液で金属イオン吸着処理した直後の改質層表面は酸性を示し、その後の水洗条件を強めると、改質層表面は中性に近づくようになる。水洗条件は、水量を上げたり、水洗時間を延ばすことによって、強めることができる。具体的には、CuSO水溶液で金属イオン吸着処理した後、2L/分の流水で1分間以下の水洗を行っても、改質層表面はまだ酸性を示すが、同水量の流水を用いて水洗時間を1分30秒間以上にすると、改質層表面は中性を示すようになる。
また例えば、NiSO水溶液、NiCl水溶液で金属イオン吸着処理した直後の改質層表面は、CuSO水溶液の場合と同様に酸性を示し、その後の水洗条件を強めると、改質層表面は中性に近づくようになる。具体的には、NiSO水溶液、NiCl水溶液で金属イオン吸着処理した後、2L/分の流水で1分間以下の水洗を行っても、改質層表面はまだ酸性を示すが、同水量の流水を用いて水洗時間を1分30秒以上にすると、改質層表面は中性を示すようになる。
【0031】
本明細書中、改質層表面の性質はリトマス試験紙接触により検知できる。詳しくは、改質層表面の性質は、リトマス試験紙を、所定の処理直後の改質層表面に直付けすることにより測定した。その結果、青色リトマス紙が赤色に変色したとき、改質層表面は酸性を示すものとする。赤色リトマス紙が青色に変色したとき、改質層表面はアルカリ性を示すものとする。青色リトマス紙を用いても、赤色リトマス紙を用いても、変色しなかったとき、改質層表面は中性を示すものとする。
【0032】
(3)第1の酸性溶液処理工程
本工程では、第1の酸性溶液により改質層を処理して改質層表面を酸性とする。詳しくは、金属イオンBを吸着した改質層3を有するポリイミド樹脂を第1の酸性溶液に浸漬して、図5に示すように、改質層3'の表面を酸性とする。図5中、3'が表面が酸性を示す改質層である。第1の酸性溶液処理は浸漬によって達成されてもよいが、後述の処理条件を確保できる限り特に制限されず、例えば、噴霧処理等であってもよい。
【0033】
第1の酸性溶液は、還元工程(4)の開始時において改質層表面が酸性である限り特に制限されず、酸性を示す溶液であれば特に制限されない。中でも、改質層に吸着させた金属イオンBと錯体を形成しない弱酸性溶液が望ましい。本工程における金属イオンBの第1の酸性溶液への溶け出しを防止できるためである。さらに、第1の酸性溶液として還元作用を有する溶液を使用すると、その後の還元工程(4)への影響が少なくなる。
【0034】
弱酸性溶液が金属イオンBと錯体を形成しないとは、弱酸性溶液に金属イオンBを遊離し得る化合物を添加したとき、当該溶液中において金属イオンBが錯体を形成しないという意味である。例えば、リン酸水溶液、ギ酸水溶液、次亜リン酸水溶液、ホウ酸水溶液等の弱酸性溶液に硫酸銅を添加しても、銅イオンは錯体を形成しない。一方、クエン酸等の弱酸性溶液に硫酸銅を添加すると、銅イオンはクエン酸と錯体を形成するので、本工程でそのような弱酸性溶液を用いると、改質層中の銅イオンが溶出し、所望の金属薄膜を製造できない。
【0035】
金属イオンBと錯体を形成しない弱酸性溶液は通常、pH1.9〜2.5のものが使用され、具体例としては、例えば、リン酸水溶液、ギ酸水溶液、次亜リン酸水溶液、ホウ酸水溶液等が使用できる。これらの弱酸性溶液は特にCuイオンまたはNiイオンとは錯体を形成しないものである。これらの弱酸性溶液のうち、還元作用を有する溶液として、例えば、ギ酸水溶液、次亜リン酸水溶液等が挙げられる。
【0036】
本工程の処理条件、例えば、第1の酸性溶液の種類、濃度、温度および第1の酸性溶液とポリイミド樹脂改質層表面との接触時間(処理時間)等は、還元工程(4)の開始時において改質層表面が酸性である限り特に制限されない。
例えば、ホウ酸水溶液を使用する場合、通常、濃度は0.1〜1.0mol/L、温度は20〜30℃、処理時間は30秒間〜5分間とする。
また例えば、リン酸水溶液を使用する場合、濃度は0.1〜1.0mol/L、温度は20〜30℃、処理時間は30秒間〜5分間とする。
また例えば、ギ酸水溶液を使用する場合、濃度は0.1〜1.0mol/L、温度は20〜30℃、処理時間は30秒間〜5分間とする。
また例えば、次亜リン酸水溶液を使用する場合、濃度は0.1〜1.0mol/L、温度は20〜30℃、処理時間は30秒間〜5分間とする。
【0037】
本工程で水洗は行っても、行わなくてもよいが、ポリイミド樹脂表面に付着した第1の酸性溶液を除去して次工程の処理液の劣化を防止する観点から、水洗は行うことが好ましい。特に第1の酸性溶液としてホウ酸水溶液を0.1〜0.2mol/Lで使用する場合は、水洗は行わなくてよい。そのような場合、水洗を行わなくても、次工程の処理液はほとんど劣化しないためである。
【0038】
水洗を行う場合、水洗後においても酸性溶液処理によって達成された改質層表面の酸性を維持できるように水洗する。本工程で得られるポリイミド樹脂の改質層表面の性質は、水洗条件に依存する。そのような観点から、水洗は通常、0〜3L/分の水量で、改質層表面と水との接触時間(水洗時間)を1〜60秒間、特に1〜45秒間確保するように行う。
【0039】
例えば、ホウ酸水溶液、リン酸水溶液、ギ酸水溶液で処理した直後の改質層表面は酸性を示し、その後の水洗条件を強めると、改質層表面は中性に近づくようになる。具体的には、濃度0.1mol/Lおよび温度25℃のホウ酸水溶液、リン酸水溶液またはギ酸水溶液で30秒間浸漬処理した後、2L/分の流水で45秒間以下の水洗を行っても、改質層表面はまだ酸性を維持するが、同水量の流水を用いて水洗時間を1分以上にすると、改質層表面は中性を示すようになる。
【0040】
(4)還元工程
本工程では、還元剤溶液により前記改質層3’を処理して、改質層に吸着した金属イオンを還元する。詳しくは、表面を酸性とした改質層3’を有するポリイミド樹脂を還元剤溶液に浸漬し、改質層に吸着した金属イオンBを還元する。これにより、図6に示すように、改質層の表面や内部で金属粒子が析出し、金属薄膜4が形成される。還元開始時において、改質層3'の表面は酸性を有しているので、改質層付近の還元剤溶液のpHは局所的に他の領域の還元剤溶液のpHより下がることとなる。これによって、還元開始時に金属イオンBはpHが比較的低い還元剤溶液に接することとなり、還元初期に酸化物が生成するのを防止できる。還元初期に金属が析出すれば、その後の還元工程において金属膜を有効に増膜できる。それらの結果として、ポリイミド樹脂上に金属薄膜を有効に析出させることができる。
【0041】
還元剤溶液は、金属イオンBとの接触によって当該金属イオンBを還元できる液体であれば特に制限されず、一般的な無電解めっきで使用される還元剤の水溶液が使用可能である。具体的には、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ジメチルアミンボラン(DMAB)、トリメチルアミンボラン等のホウ素化合物の水溶液や、次亜リン酸ナトリウムの水溶液などが使用可能である。そのような還元剤溶液の中でも、比較的、還元速度の速い水素化ホウ素ナトリウムを用いるのがもっとも望ましい。金属粒子の析出に伴ってポリイミド樹脂に生じる応力は、微細な金属粒子であった方が周囲に均一に分散され、そのような微細な金属粒子の析出には、還元速度が比較的速い還元剤溶液が好適なためである。そのような還元剤溶液は核成長反応よりも核生成反応が優勢となる傾向が強い。
【0042】
例えば、水素化ホウ素ナトリウムを単独で使用する場合、溶液温度は5℃〜30℃、特に10〜30℃が好適である。還元剤溶液の濃度は特に制限されず、例えば0.0002mol/L〜0.1mol/Lが好適である。量産時における還元剤溶液の安定性向上と還元工程の時間短縮の観点から、還元剤溶液の濃度は0.01〜0.1mol/L、特に0.02〜0.1mol/Lとすることが好ましい。この場合には、処理時間は0.5〜30分間、特に5〜30分間が好適である。
【0043】
また例えば、ジメチルアミンボランを単独で使用する場合、溶液温度は30〜70℃、特に40〜60℃が好適である。還元剤溶液の濃度は特に制限されず、例えば0.05〜50mol/Lが好適である。量産時における還元剤溶液の安定性向上と還元工程の時間短縮の観点から、還元剤溶液の濃度は特に0.5〜20mol/L、特に6〜20mol/Lが好ましい。この場合には処理時間は1〜30分間、特に5〜15分間が好適である。
【0044】
溶液温度が低すぎると、還元反応において金属の核生成反応よりも核成長反応が優勢となり、金属薄膜の被覆率が大きくなり過ぎる。温度が高すぎると、改質層が剥がれてしまう原因となりやすい。
【0045】
還元剤溶液は、還元剤を単独の種類だけでなく、複数の種類で混合して使用しても良い。例えば、水素化ホウ素ナトリウムをDMABなど他の還元剤と用いても構わない。
【0046】
還元剤溶液には、必要に応じてpH調整剤や錯化剤等の添加剤を添加しても良い。そのような添加剤としては、従来より一般的な無電解めっきで使用される還元剤溶液に添加され得る添加剤が使用可能である。
【0047】
本工程で析出する金属薄膜の厚みは、特に制限されるものではなく、通常は60〜300nm、特に100〜150nmである。金属イオンが還元されるのに伴い、金属イオンが吸着されていた改質層の分子構造はポリアミック酸塩から金属イオンが引き離されて、ポリアミック酸になる。
【0048】
還元処理後は通常、ポリイミド樹脂表面に付着した還元剤溶液を除去するために水洗を行う。水洗は通常、0〜5L/分の水量で、5分以上の条件で行う。
【0049】
以上の工程で改質層の内部および表面に金属薄膜が形成されたポリイミド樹脂は、通常、さらに以下の工程に付される;
(5)第2のアルカリ性溶液により前記改質層を処理する工程;
(6)第2の酸性溶液により前記改質層を処理する第2の酸性溶液処理工程;
(7)前記改質層中の水分を除去する乾燥工程;および
(8)イミド環を閉環する再イミド化工程。
【0050】
還元工程(4)において、改質層中の金属イオンBは全てが還元されるわけではなく、改質層には金属イオンBが残存するので、アルカリ性溶液処理工程(5)および第2の酸性溶液処理工程(6)を行うことによって、再イミド化率を大幅に改善できる。本発明においては、アルカリ性溶液処理工程(5)を必ずしも行わなければならないというわけではなく、還元工程(4)の後、順次、第2の酸性溶液処理工程(6)、乾燥工程(7)および再イミド化工程(8)を実施してもよい。
【0051】
(5)アルカリ性溶液処理工程
本工程では第2のアルカリ性溶液により前記改質層を処理する。詳しくは、還元工程を終えたポリイミド樹脂を第2のアルカリ性溶液に浸漬すればよい。本工程を行う目的は、還元工程後の改質層内部に残存する金属イオンを、第2のアルカリ性溶液内に存在する水酸化物イオンとの反応物として析出させることにある。この工程により、ポリイミド改質層内に残存する金属イオンはすべて金属酸化物となる。
【0052】
本工程で用いる第2のアルカリ性溶液としては、水酸化物イオンを生成するものが使用でき、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を含有するアルカリ性水溶液が使用される。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等が挙げられる。第2のアルカリ性溶液は、金属イオンBとの組み合わせについて、特に制限はなく、上記したアルカリ性水溶液であればよい。
【0053】
第2のアルカリ性溶液の濃度は、工程(2)でポリイミド中に吸着された金属イオンの量に対して同程度の量の水酸化物イオンを含んでいればよく、例えば、0.01mol/L〜2mol/L、望ましくは0.5mol/L〜1mol/Lである。処理時間は、1分〜30分、望ましくは3分〜10分である。処理温度は、10℃〜40℃、望ましくは20℃〜30℃である。温度が高すぎると、ポリイミド改質層がさらに改質され、ポリイミド樹脂と金属薄膜との密着強度低下につながる恐れがある。温度が低すぎると、酸化物を析出させる反応が起こらず、金属イオンが改質層内に残存してしまう。また、本工程で用いる溶液に、酸化防止剤、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム等を添加しても良い。
【0054】
本工程では水洗を行うことが好ましい。水洗は、ポリイミド樹脂表面に付着した第2のアルカリ性溶液を除去するために行う。水洗は通常、0〜5L/分の水量で、5分以上の条件で行う。
【0055】
(6)第2の酸性溶液処理工程
本工程では第2の酸性溶液により前記改質層を処理する。詳しくは、アルカリ性溶液処理工程を終えたポリイミド樹脂を第2の酸性溶液に浸漬すればよい。本工程を行う目的は、工程(5)で析出した金属酸化物を酸性溶液にて溶出させ、改質層内から金属酸化物を除去することである。
【0056】
本工程で使用される第2の酸性溶液は、金属薄膜を溶かしにくいものが望まれる。好ましい具体例として、例えば、硫酸水溶液、硝酸水溶液、クエン酸水溶液等が使用できる。
例えば、銅薄膜が析出した場合、クエン酸水溶液、硫酸水溶液等が好ましく使用される。
また例えば、ニッケル薄膜が析出した場合、硝酸水溶液、クエン酸水溶液等が好ましく使用される。
【0057】
第2の酸性溶液の濃度は通常、例えば、0.1mol/L〜1.0mol/L、望ましくは0.2mol/L〜0.5mol/Lである。処理時間は通常、1分〜15分、望ましくは2分〜10分である。処理温度は通常、10℃〜40℃、望ましくは20℃〜30℃である。
【0058】
本工程では水性を行うことが好ましい。水洗は、ポリイミド樹脂表面に付着した第2の酸性溶液を除去するために行う。水洗は通常、0〜5L/分の水量で、5分以上の条件で行う。
【0059】
(7)乾燥工程
本工程では第2の酸性溶液処理工程を終えたポリイミド樹脂の乾燥を行い、前記改質層中の水分を除去する。乾燥条件は特に制限されず、通常は温度が80〜140℃、望ましくは100〜120℃、時間は30〜60分である。得られた金属薄膜の酸化防止のため、窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気で加熱処理することが望ましい。真空雰囲気で乾燥を行う場合は、特に加熱の必要はなく常温で実施しても良い。その場合は乾燥時間を120分以上とする等、時間を長くすることが望ましい。
【0060】
(8)再イミド化工程
本工程ではイミド環を閉環する。詳しくは、前工程で得られたポリイミド樹脂を加熱することで、改質層が再イミド化される(再イミド化ベーク処理)。これによって、図7に示すように、機械的強度、耐熱性、耐薬品性に劣る改質層を、元のポリイミド分子構造に戻すことができる。
【0061】
処理条件は、改質層の再イミド化を達成できる限り特に制限されず、例えば、温度が250℃以上、時間は1時間以上である。得られた金属薄膜の酸化防止のため、窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気で加熱処理することが望ましい。
【0062】
以上に示した本発明のポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法は、ポリイミド配線板、特にフレキシブル配線板の製造方法に適用可能である。
【0063】
(9)配線形成工程
上記した本発明に係るポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法によって得られた金属薄膜を有するポリイミド樹脂に対して、例えば、いわゆるサブトラクティブ法またはセミアディティブ法等によって図8に示すような配線パターン5を形成すればよい(配線形成工程)。
【0064】
詳しくは、サブトラクティブ法においては、例えば、本発明で得られた金属薄膜を有するポリイミド樹脂に対して、所望により電解/無電解めっき等により導体層5をさらに形成し、配線領域にレジストパターンを形成した後、金属膜の露出部(非配線領域)をエッチング除去し、レジストパターンを除去すればよい。
【0065】
セミアディティブ法においては、例えば、本発明で得られた金属薄膜を有するポリイミド樹脂に対して非配線領域にレジストパターンを形成し、金属薄膜の露出部(配線領域)に電解/無電解めっき等により導体層5を形成した後、レジストパターンを除去し、さらに導体層をマスクとして金属薄膜の露出部をエッチング除去すればよい。
【実施例】
【0066】
本発明によるポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実験例1>
[実施例1]
以下に説明する工程により、ポリイミド樹脂表面へCu薄膜を形成した。
ポリイミド樹脂には、125μm厚のポリイミドフィルムを用いた。ポリイミドフィルムとしては、東レ・デュポン社のカプトンHを使用した(図2)。
【0068】
(改質工程)
まず、ポリイミド樹脂を50℃のKOH水溶液に3分間浸漬し、改質工程を実施した。この際、KOH水溶液は、5M(mol/l)の濃度に設定した。この工程により、ポリイミド樹脂1の両面には、ポリイミド分子中のイミド環の加水分解により、カルボキシル基にカリウムイオンが配位したカルボン酸カリウム塩が形成された改質層2が形成される(図3)。改質層2の厚さは、ポリイミド樹脂1の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより、約3μmであることが判った。次に、ポリイミド樹脂1を、2L/分の流水で5分間、水洗した。
【0069】
(金属イオン吸着工程)
次に、ポリイミド樹脂1について、Cuイオン吸着のための浸漬処理を実施した。Cuイオン吸着には、硫酸銅水溶液を用いた。処理条件は、濃度が0.05M(mol/l)、温度は25℃、浸漬処理時間は10分である。なお、溶液は攪拌している。この処理により改質層2はCuイオン付改質層3に変わる(図4)。次に、ポリイミド樹脂の水洗を行った。水洗は、2L/分の流水で5分間実施した。水洗の後、ポリイミド樹脂表面を調べたところ中性であることを確認することができた。ポリイミド樹脂表面状態の判定は、リトマス試験紙接触による観察により行った(以下、同様)。
【0070】
(第1の酸性溶液処理工程)
次に、ポリイミド樹脂1について、酸性溶液への浸漬処理を実施した。溶液にはスターラー撹拌下のホウ酸水溶液を用いた。処理条件は、濃度が0.1mol/L、温度は25℃、浸漬処理時間は30秒間である。この処理により、Cuイオンが吸着された改質層3の表面は酸性となる(図5)。次に、ポリイミド樹脂表面の水洗を行った。水洗は、2L/分の流速で30秒間行った。水洗の後、ポリイミド樹脂表面を調べたところ酸性であることを確認することができた。
【0071】
(還元工程)
次に、ポリイミド樹脂1について、還元処理を行った。還元剤溶液は、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を使用した。還元剤濃度は従来0.1〜10mM(mol/L)としていたが、本実施例においては、還元剤溶液の安定化を図るため、濃度は0.05M(mol/L)とした。また、pHは9.8、温度は25℃、浸漬処理時間は30分とした。なお、還元剤溶液は攪拌を行っている。この処理により、Cuイオンは還元され、改質層2の最表部にCu薄膜4が形成された(図6)。次に、ポリイミド樹脂を水素化ホウ素ナトリウム還元剤溶液から取り出し、水洗処理を行った。水洗は、2L/分の流水で5分間実施した。
【0072】
(アルカリ性溶液処理工程)
次に、ポリイミド樹脂1について、アルカリ性溶液処理を行った。アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム水溶液であり、濃度は1mol/L、温度は25℃、浸漬処理時間は3分とした。次に、ポリイミド樹脂1について、水洗を行った。水洗は、2L/分の流水で30分間実施した。
【0073】
(第2の酸性溶液処理工程)
次に、ポリイミド樹脂1について、第2の酸性溶液処理を行った。酸性溶液は、クエン酸水溶液であり、濃度は0.2mol/L、温度は25℃、浸漬処理時間は7分とした。次に、ポリイミド樹脂1について、水洗を行った。水洗は、2L/分の流水で5分間実施した。
【0074】
(乾燥工程)
次に、ポリイミド樹脂について、乾燥処理を行った。乾燥処理は、まず、窒素ブローによりポリイミド樹脂表面に付着した水分を除去した。次に、真空(10hPa)雰囲気中で、温度は25℃、時間は3時間の乾燥処理を実施した。
【0075】
(再イミド化工程)
次に、ポリイミド樹脂について、再イミド化処理を行った。再イミド化処理は、窒素ガス雰囲気中で、300℃、1時間実施した(図7)。ここで、再イミド化処理後の表面観察より、酸化銅の析出は見られていないことを確認することができた。
【0076】
(配線形成工程)
最後に電解めっきによる増膜、レジスト形成、電解/無電解めっきによる金属配線層形成、レジスト除去、エッチングを行い、配線パターニング処理を行った。その結果、配線部以外のCu薄膜4は取り除かれ、またCu薄膜4および増膜Cu5よりなるCu配線が形成された(図8)。
【0077】
このようにして作製したポリイミド配線板の断面をSEMにより観察した像を図9に示す。析出したCu薄膜(金属薄膜)は、ポリイミドの深さ方向に100nmの厚さで層を形成している。
さらに、Cu薄膜とポリイミド樹脂の密着強度を測定するために、本実施例により製造したポリイミド配線板についてピール試験を実施した。ピール試験は、JISC6471に規定されている90°引き剥がし試験方法により行った。試験機は、一般的な引張試験機を用いた。詳しくはポリイミド樹脂の裏面を、市販のエポキシ系接着剤を用いて金属板に貼り付け、その金属板をピール試験治具に取り付けた。一部だけ引き剥がした銅パターンと、引っ張り試験機のロードセルと接続した。この後、引っ張り試験を行い、ピール強度を測定した。
ピール強度は、10〜12N/cmを示した。さらに、高温処理(150℃、196時間保持)後の密着強度低下は、約10%であった。ピール試験後の破断面は、Cu薄膜とポリイミド樹脂の界面であった。改質されていたポリイミド樹脂部で破断を起こしていないことから、再イミド化処理を行うことにより、ポリイミド樹脂の機械強度を保ちつつ、ポリイミド樹脂とCu薄膜層の密着強度を高くすることができた。
【0078】
[実施例2]
本実施例では、以下に説明する工程を実施したこと以外、実施例1と同様の方法により、ポリイミド配線板を製造した。
本実施例で用いたポリイミド樹脂および改質工程は、実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0079】
金属イオン吸着工程において、水洗を2L/分の流水で30秒間実施したこと以外、実施例1と同様である。水洗の後、ポリイミド樹脂表面を調べたところ酸性であることが確認できた。
【0080】
第1の酸性溶液処理工程を行うことなく、次に、ポリイミド樹脂1について、還元処理〜配線形成工程を行った。還元処理以降の工程についても、実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
本実施例において、再イミド化処理後の表面観察より、酸化銅の析出は見られていない。
【0081】
このようにして作製したポリイミド配線板の断面をSEMにより観察したところ、Cu薄膜(金属薄膜)は、ポリイミドの深さ方向に90nmの厚さで層を形成していた。
さらに、本実施例により製造したポリイミド配線板についてピール試験を実施例1と同様の方法により実施した。ポリイミド樹脂とCu薄膜層とのピール強度は8〜10N/cmを示した。高温処理(150℃、196時間保持)後の密着強度低下は、約15%であった。ピール試験後の破断面は、Cu薄膜とポリイミド樹脂の界面であった。
【0082】
[実施例3]
本実施例では、以下の処理条件により還元工程を実施したこと以外、実施例1と同様の方法により、ポリイミド配線板を製造した。
【0083】
還元剤にジメチルアミンボランを使用した。還元剤濃度は従来0.05〜5.0M(mol/L)としていたが、本実施例においては、還元剤溶液の安定化を図るため、濃度は10.0M(mol/L)とした。また、pHは9.0、温度は50℃、処理時間は5分とした。そのような条件以外は実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
本実施例において、再イミド化処理後の表面観察より、酸化銅の析出は見られていない。
【0084】
このようにして作製したポリイミド配線板の断面をSEMにより観察したところ、Cu薄膜(金属薄膜)は、ポリイミドの深さ方向に100nmの厚さで層を形成していた。
さらに、本実施例により製造したポリイミド配線板についてピール試験を実施例1と同様の方法により実施した。ポリイミド樹脂とCu薄膜層とのピール強度は10〜12N/cmを示した。高温処理(150℃、196時間保持)後の密着強度低下は、約10%であった。ピール試験後の破断面は、Cu薄膜とポリイミド樹脂の界面であった。
【0085】
[実施例4]
本実施例では、第1の酸性溶液処理工程における水洗を行わなかったこと以外、実施例1と同様の方法により、ポリイミド配線板を製造した。
【0086】
第1の酸性溶液処理後、直ちに還元処理を実施した。そのような条件以外は実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
本実施例において、再イミド化処理後の表面観察より、酸化銅の析出は見られていない。
【0087】
このようにして作製したポリイミド配線板の断面をSEMにより観察したところ、Cu薄膜(金属薄膜)は、ポリイミドの深さ方向に90nmの厚さで層を形成していた。
さらに、本実施例により製造したポリイミド配線板についてピール試験を実施例1と同様の方法により実施した。ポリイミド樹脂とCu薄膜層とのピール強度は8〜10N/cmを示した。高温処理(150℃、196時間保持)後の密着強度低下は、約10%であった。ピール試験後の破断面は、Cu薄膜とポリイミド樹脂との界面であった。
【0088】
[比較例1]
本比較例では、第1の酸性溶液処理工程を行わなかったこと以外、実施例1と同様の方法により、ポリイミド配線板を製造した。そのような条件以外は実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
乾燥工程後に試料表面を観察したところ、Cu薄膜であるはずが、光沢のない黒い膜しか見られず、酸化銅が析出した。表面の電気抵抗を2端子法により調べたところ、数MΩ/cm以上であった。還元開始時の改質層表面のpHが高すぎたために、Cuイオンが酸化銅を形成してしまったためである。
増膜のための電解めっきは、硫酸銅めっき液を用いて電流密度0.5A/dmで行ったが、Cu薄膜に十分な導電性がないため、増膜することができなかった。
【0089】
<実験例2>
第1の酸性溶液工程を以下の処理条件で実施したこと以外、実施例1と同様の方法により、ポリイミド配線板を製造した。
第1の酸性溶液工程では、酸性溶液として、ホウ酸水溶液、ギ酸水溶液またはリン酸水溶液を用い、所定の時間で水洗を行った。水洗後においてポリイミド樹脂表面の性質(酸性/中性/アルカリ性)を調べた。各酸性水溶液の濃度は0.1mol/L、浸漬時間は3秒間とした。水洗は2L/分の流速で行った。酸性溶液の種類、水洗時間、およびポリイミド樹脂表面の性質の関係を表1に示す。表中で水洗時間0とは水洗を行っていないことを意味する。
【0090】
【表1】

【0091】
表1の結果より、上記酸性水溶液への浸漬により処理する場合には、水洗時間を0〜45秒間とすることにより、ポリイミド樹脂表面の状態を酸性に保持することが可能となることがわかった。
【0092】
実施例5〜13で得られたポリイミド配線板の断面をSEMにより観察したところ、Cu薄膜(金属薄膜)は、ポリイミドの深さ方向に80〜300nmの厚さで層を形成していた。
さらに、実施例5〜13により製造したポリイミド配線板についてピール試験を実施例1と同様の方法により実施した。ポリイミド樹脂とCu薄膜層とのピール強度は8〜12N/cmを示した。高温処理(150℃、196時間保持)後の密着強度低下は、約10〜15%であった。ピール試験後の破断面は、Cu薄膜とポリイミド樹脂との界面であった。
【0093】
比較例2〜7において、乾燥工程後に試料表面を観察したところ、Cu薄膜の析出が見られず、酸化銅が析出した。確認のため、表面の電気抵抗を2端子法により調べたところ、数MΩ/cm以上であった。
増膜のための電解めっきは、硫酸銅めっき液を用いて電流密度0.5A/dmで行ったが、酸化銅の析出によりCu薄膜に十分な導電性がないため、増膜することができなかった。
【0094】
<実験例3>
金属イオン吸着工程における水洗を以下の処理条件で実施したこと以外、実施例2と同様の方法により、ポリイミド配線板を製造した。
所定の時間で水洗を行った。水洗後においてポリイミド樹脂表面の性質(酸性/中性/アルカリ性)を調べた。水洗は2L/分の流速で行った。水洗時間、およびポリイミド樹脂表面の性質の関係を表2に示す。表中で水洗時間0とは水洗を行っていないことを意味する。
【0095】
【表2】

【0096】
表2の結果より、水洗時間を0〜1分間とすることにより、ポリイミド樹脂表面の状態を酸性に保持することが可能となることがわかった。ここで、次工程の還元処理における還元剤溶液への硫酸銅水溶液の持ち込みによる還元処理への影響を少なくするために、水洗時間は、ポリイミド樹脂表面の状態を酸性に保持することができる範囲内でなるべく長くする方が望ましい。
【0097】
実施例14〜16で得られたポリイミド配線板の断面をSEMにより観察したところ、Cu薄膜(金属薄膜)は、ポリイミドの深さ方向に80〜300nmの厚さで層を形成していた。
さらに、実施例14〜16により製造したポリイミド配線板についてピール試験を実施例1と同様の方法により実施した。ポリイミド樹脂とCu薄膜層とのピール強度は8〜12N/cmを示した。高温処理(150℃、196時間保持)後の密着強度低下は、約10〜15%であった。ピール試験後の破断面は、Cu薄膜とポリイミド樹脂との界面であった。
【0098】
比較例8〜9において、乾燥工程後に試料表面を観察したところ、Cu薄膜の析出が見られず、酸化銅が析出した。確認のため、表面の電気抵抗を2端子法により調べたところ、数MΩ/cm以上であった。
増膜のための電解めっきは、硫酸銅めっき液を用いて電流密度0.5A/dmで行ったが、酸化銅の析出によりCu薄膜に十分な導電性がないため、増膜することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明はフレキシブル配線板の製造に利用可能であり、片面フレキシブル配線板、両面フレキシブル配線板を複数枚積層した多層フレキシブル配線板や、ガラスエポキシ基板などの硬質基板とも合わせて積層したリジッド−フレキシブル配線板の製造などにも広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明によるポリイミド配線板の製造方法の一例を示す工程フロー図。
【図2】本発明に用いたポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図3】本発明による表面改質後のポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図4】本発明による金属イオン吸着後のポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図5】本発明による第1の酸性溶液処理後のポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図6】本発明による還元処理後のポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図7】本発明による再イミド化処理後のポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図8】本発明による配線形成処理後のポリイミド樹脂の概略断面模式図。
【図9】実施例1で作製したポリイミド配線板の断面SEM写真。
【符号の説明】
【0101】
1:ポリイミド樹脂、2:改質層、3:金属イオンを吸着した改質層、3’:表面が酸性である金属イオンを吸着した改質層、4:金属薄膜、5:導体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアルカリ性溶液によるポリイミド樹脂表面への改質層形成工程;
金属イオン含有溶液による前記改質層への金属イオン吸着工程;および
改質層表面が酸性である前記ポリイミド樹脂を還元剤溶液により処理して、改質層に吸着した前記金属イオンを還元する還元工程;
を含み、
金属イオン吸着工程で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が酸性である場合は、該ポリイミド樹脂を還元工程に供するか、または第1の酸性溶液により改質層を処理する第1の酸性溶液処理工程に供した後、還元工程に供し、
金属イオン吸着工程で得られたポリイミド樹脂の改質層表面が中性またはアルカリ性である場合は、該ポリイミド樹脂を上記第1の酸性溶液処理工程に供した後、還元工程に供することを特徴とするポリイミド樹脂表面への金属薄膜の製造方法。
【請求項2】
第1の酸性処理工程において、金属イオン吸着工程の金属イオンと錯体を形成しない弱酸性溶液により処理することを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜の製造方法。
【請求項3】
還元工程の後に、
第2のアルカリ性溶液により前記改質層を処理する工程;
第2の酸性溶液により前記改質層を処理する第2の酸性溶液処理工程;
前記改質層中の水分を除去する乾燥工程;および
イミド環を閉環する再イミド化工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属薄膜の製造方法によって製造された金属薄膜。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属薄膜の製造方法により金属薄膜を形成した後に、
配線パターンを形成する配線形成工程を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のポリイミド配線板の製造方法によって製造されたポリイミド配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−164316(P2009−164316A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23(P2008−23)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】