説明

ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】色調に優れ、副生成物の少ない固相重縮合樹脂を、粘着や過度の結晶化等がなく生産性よく製造することができるポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応させた後、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合反応させ、引き続いて固相重縮合反応させてポリエステル樹脂を製造するにおいて、固有粘度が0.1〜0.7dl/gであって、固相重縮合反応に供したときの活性化エネルギーΔEと頻度因子Aとが下記式を満足する溶融重縮合樹脂を固相重縮合反応させ、固有粘度が0.5〜1.5dl/gの固相重縮合樹脂となすポリエステル樹脂の製造方法。
lnA/ΔE≧0.80〔モル/(kcal・時間)〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂の製造方法に関し、更に詳しくは、色調に優れ、副生成物の少ない固相重縮合樹脂を生産性よく製造することができるポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばポリエチレンテレフタレート系等のポリエステル樹脂は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、衛生性等に優れ、又、比較的安価で軽量であるために、ボトルやフィルム等としての各種包装資材、或いは繊維等に広く用いられている。
【0003】
そして、例えばポリエチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂は、一般に、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応させた後、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合反応させて、固有粘度を通常0.1〜0.7dl/gとした溶融重縮合樹脂となし、引き続いて、その溶融重縮合樹脂の粒状体を、更に高重合度化させると共に、溶融重縮合時に副生したアセトアルデヒドや環状三量体等のオリゴマー等の含有量を低減化させるために、融点以下の温度の固体状態で固相重縮合反応させて、固有粘度が通常0.5〜1.5dl/gの固相重縮合樹脂となすことにより、製造されている。
【0004】
しかしながら、融点以下の固体状態で行われる固相重縮合反応は、低温度でなされるが故に、重合速度が小さく、従来は、溶融重縮合が通常数時間以内で行われるのに対して、固相重縮合では最大数十時間を要し、その低生産性、及び色調の悪化等が問題となっており、一方、固相重縮合反応温度を上げることは、粒状樹脂同士の粘着、熱分解によるジエチレングリコール等の副生成物の増加、色調の悪化、及び、過度の結晶化による成形性の低下等の問題が生じることから解決手段としては採用できず、その解決が強く望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の従来技術における前記現状に鑑みてなされたもので、色調に優れ、副生成物の少ない固相重縮合樹脂を、粘着や過度の結晶化等がなく生産性よく製造することができるポリエステル樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記現状に鑑みて鋭意検討した結果、溶融重縮合樹脂を固相重縮合反応に供したとき、化学反応速度論におけるアレニウスの式、k=A exp(−ΔE/RT)〔ここで、kは速度定数、Aは頻度因子、ΔEは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度である。〕の活性化エネルギーΔEと頻度因子Aとが特定の関係を有する溶融重縮合樹脂を固相重縮合反応させることによりその速度定数kを大きくし、前記目的を達成できることを見出し本発明に到達したもので、即ち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応させた後、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合反応させ、引き続いて固相重縮合反応させてポリエステル樹脂を製造するにおいて、固有粘度が0.1〜0.7dl/gであって、固相重縮合反応に供したときの活性化エネルギーΔEと頻度因子Aとが下記式を満足する溶融重縮合樹脂を固相重縮合反応させ、固有粘度が0.5〜1.5dl/gの固相重縮合樹脂となすポリエステル樹脂の製造方法、を要旨とする。
lnA/ΔE≧0.80〔モル/(kcal・時間)〕
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、色調に優れ、副生成物の少ない固相重縮合樹脂を、粘着や過度の結晶化等がなく生産性よく製造することができるポリエステル樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、先ず、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、必要に応じて用いる他のジカルボン酸及び/又は他のジオール等の共重合成分、及び触媒や助剤等と共に、スラリー槽に投入して攪拌下に混合し、原料スラリーを調製する。
【0009】
ここで、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸以外のジカルボン酸としては、具体的には、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びに、テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル等の、これら芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、及び脂肪族ジカルボン酸の炭素数1〜4程度のアルキルエステル、又はハロゲン化物等の誘導体が挙げられる。
【0010】
又、ジオール成分としてのエチレングリコール以外のジオールとしては、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0011】
更に、前記ジカルボン酸成分及びジオール成分の他に、本発明の効果を逸脱しない範囲で、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等の三官能以上の多官能成分、等の一種又は二種以上が、共重合成分として用いられてもよい。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法において、全ジカルボン酸成分に占めるテレフタル酸の割合は、95モル%以上であるのが好ましく、98モル%であるのが更に好ましく、99モル%以上であるのが特に好ましい。又、全ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合は、95モル%以上であるのが好ましく、98モル%以上であるのが更に好ましく、99モル%以上であるのが特に好ましい。
【0013】
次いで、調製した原料スラリーを、エステル化反応槽に移送し、通常、240〜280℃の温度、常圧〜大気圧に対する相対圧力3×105 Paの加圧下で、攪拌下に1〜10時間でエステル化反応させることにより、ポリエステル低分子量体となす。
【0014】
ここで、ポリエステル低分子量体のエステル化率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基又はカルボン酸誘導体基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)は、後述する重縮合反応によって得られる樹脂の色調や副生成物含有量の低減化等の面から、75%以上とし、90%以上とするのが好ましく、95%以上とするのが特に好ましい。又、低分子量体の数平均重合度は、後述する溶融重縮合における反応の安定性や生産性、及び得られる樹脂の色調等の面から、3.0〜10.0とし、4.0〜9.0とするのが好ましく、5.0〜8.0とするのが特に好ましい。
【0015】
次いで、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に移送し、重縮合触媒等の存在下に、通常、250〜290℃の温度、常圧から漸次減圧として最終的に絶対圧力1333〜13.3Paの減圧下で、攪拌下に1〜20時間で溶融重縮合反応させることにより、溶融重縮合樹脂となす。
【0016】
ここで、重縮合触媒としては、後述する固相重縮合における本発明の要件を満足させ、本発明の効果を顕著に発現させ得ることから、チタン、ゲルマニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、錫、アンチモン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群から選択された相異なる2種以上の金属の化合物を、ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たりの金属原子の含有量としてそれぞれ0.002〜2ミリモルとなる量で用いるのが好ましい。
【0017】
そのチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中で、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
【0018】
又、そのゲルマニウム化合物としては、具体的には、例えば、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド等が挙げられ、中で、二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0019】
又、そのアルカリ金属化合物としては、具体的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられ、又、そのアルカリ土類金属化合物としては、具体的には、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0020】
又、アルミニウム、亜鉛、錫、アンチモン、ジルコニウム、及びハフニウムの化合物としては、それら金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、燐酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0021】
以上の重縮合触媒の中で、本発明においては、ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たりのチタン原子の含有量として0.002〜0.2ミリモルとなる量の前記チタン化合物と、同じく金属原子の含有量としてそれぞれ0.02〜2ミリモルの量となるゲルマニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、錫、アンチモン、ジルコニウム、又はハフニウムの前記化合物の1種以上とを用いるのが特に好ましい。
【0022】
更に、本発明のポリエステル樹脂の製造方法においては、重縮合反応性、溶融時の熱安定性、及びアセトアルデヒドや環状三量体等の副生成物の低減化、並びに得られる樹脂の透明性、色調等の面から、前記重縮合触媒の助剤として、燐、及び硅素からなる群から選択された1種以上の燐化合物又は硅素化合物を、ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たりの原子の含有量として0.02〜4ミリモルとなる量で用いるのが好ましい。
【0023】
ここで、その燐化合物としては、具体的には、例えば、正燐酸、ポリ燐酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価の燐化合物、亜燐酸、次亜燐酸、及び、ジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価の燐化合物等が挙げられ、中で、正燐酸、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、亜燐酸が好ましく、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0024】
又、その珪素化合物としては、具体的には、例えば、シリカ、クレー、タルク、マイカ、ゼオライト等が挙げられる。
【0025】
尚、重縮合触媒や助剤としての前記化合物は、個々に、或いは予め相互に反応させる等して、直接に反応系内に添加してもよいし、例えばエチレングリコール等の溶液として反応系内に添加してもよい。
【0026】
本発明の製造方法において、前記エステル化反応、及び溶融重縮合反応を経て得られる溶融重縮合樹脂の固有粘度は、通常、0.1〜0.7dl/gであり、0.45〜0.65dl/gであるのが好ましく、0.5〜0.6dl/gであるのが特に好ましい。固有粘度が前記範囲未満では、溶融重縮合樹脂を粒状体となす際の重縮合反応槽からの抜き出し性が劣り、一方、前記範囲超過では、溶融重縮合樹脂の色調が悪化したり、副生成物の含有量が増加する等の問題が生じることとなる。
【0027】
又、溶融重縮合樹脂の色調は、ハンターの色差式における色座標b値が、−10〜3であるのが好ましく、−5〜2であるのが更に好ましく、−3〜2であるのが特に好ましい。
【0028】
前記溶融重縮合樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断する等によりペレット状、チップ状等の粒状体として得られる。その際の粒状体の1粒当たりの平均重量は、工程間における気力移送時等の取扱性、粒状体同士の融着性、結晶化特性、成形時のスクリューへの食い込み性等の面から、好ましくは15〜30mg、特に好ましくは20〜25mgとする。
【0029】
本発明の製造方法において、前記溶融重縮合樹脂粒状体は、後述する固相重縮合反応に供したとき、化学反応速度論におけるアレニウスの式、k=A exp(−ΔE/RT)〔ここで、kは速度定数、Aは頻度因子、ΔEは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度である。〕の活性化エネルギーΔEと頻度因子Aとが下記式を満足することが必須であり、下記式を満足しない場合には本発明の目的を達成することができない。
【0030】
lnA/ΔE≧0.80〔モル/(kcal・時間)〕
【0031】
又、溶融重縮合樹脂粒状体を固相重縮合に供したときの活性化エネルギーΔEと頻度因子Aとが下記式を満足するのが好ましい。
【0032】
1.0≧lnA/ΔE≧0.90〔モル/(kcal・時間)〕
【0033】
ここで、活性化エネルギーΔEとしては、10〜100kcal/モルであるのが好ましく、又、頻度因子Aとしては、1×106 〜1×1010/時間であるのが好ましい。活性化エネルギーΔEが前記範囲未満及び前記範囲超過のいずれの場合共、固相重縮合樹脂としての色調が劣り、又、成形時の溶融熱安定性が低下する傾向となる。又、頻度因子Aが前記範囲未満では、十分な固相重縮合反応速度が得られ難い傾向となり、一方前記範囲超過では、固相重縮合樹脂としての色調が劣り、又、成形時の溶融熱安定性が低下する傾向となる。
【0034】
尚、ここで、活性化エネルギーΔE及び頻度因子Aは、前記溶融重縮合樹脂粒状体を210℃及び220℃でそれぞれ10時間固相重縮合反応させたときのそれぞれにおける溶融重縮合樹脂に対する固有粘度の変化量を基にして算出したものである。
【0035】
本発明の製造方法において、前記で得られた溶融重縮合樹脂を、更に高重合度化させると共に、溶融重縮合時に副生したアセトアルデヒドや環状三量体等のオリゴマー等の含有量を低減化させるために、その粒状体を融点以下の温度の固体状態で固相重縮合反応させる。
【0036】
固相重縮合反応は、前記で得られた溶融重縮合樹脂の粒状体を、通常、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は水蒸気雰囲気下、或いは水蒸気含有不活性ガス雰囲気下で、60〜180℃の温度で加熱して樹脂粒状体表面を結晶化させた後、不活性ガス雰囲気下、又は/及び、絶対圧力13333〜13.3Paの減圧下で、樹脂の粘着温度直下〜80℃低い温度で、粒状体同士が膠着しないように転動或いは流動等させながら加熱することにより行い、固相重縮合樹脂となす。
【0037】
尚、固相重縮合の反応温度は、210〜240℃とするのが好ましく、220〜230℃とするのが特に好ましい。固相重縮合反応温度が前記範囲未満では、十分な重縮合速度が得られない傾向となり、一方、前記範囲超過では、粒状樹脂同士の粘着、色調の悪化、及び、過度の結晶化による成形性の低下等の問題が生じる傾向となる。
【0038】
本発明の製造方法において、前記固相重縮合反応を経て得られる固相重縮合樹脂は、固有粘度が、好ましくは0.6〜1.5dl/g、更に好ましくは0.65〜0.9dl/g、特に好ましくは0.7〜0.8dl/gのものである。
【0039】
又、色調が、ハンターの色差式における色座標b値で、好ましくは−10〜3、更に好ましくは−5〜2、特に好ましくは−3〜2であり、又、アセトアルデヒド含有量が、好ましくは5ppm以下、更に好ましくは3ppm以下、特に好ましくは2ppm以下であり、又、環状三量体含有量が、好ましくは0.50重量%以下、更に好ましくは0.40重量%以下、特に好ましくは0.35重量%以下のものとなる。
【0040】
本発明の製造方法によって得られるポリエステル樹脂は、例えば、射出成形によってプリフォームに成形された後、延伸ブロー成形することによって、或いは、押出成形によって成形されたパリソンをブロー成形することによって、ボトル等に成形され、又、押出成形によってシートに成形された後、熱成形することによってトレイや容器等に成形され、或いは、該シートを二軸延伸してフィルム等とされ、機械的強度、色調に優れ、副生成物が少ないことから、特に飲食品包装分野において有用なものとなる。中で、射出成形によって得られたプリフォームを二軸延伸するブロー成形法よってボトルを成形するのに好適であり、例えば、炭酸飲料、アルコール飲料、醤油、ソース、みりん、ドレッシング等の液体調味料等の容器として、更には、ヒートセットを施して、果汁飲料、茶やミネラルウォーター等の飲料等の耐熱性を要求される容器として、好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
テレフタル酸43重量部とエチレングリコール19重量部をスラリー槽で窒素ガス下に攪拌して調製したスラリーを、予めエステル化反応物50重量部が仕込まれ、温度250℃、圧力が大気圧に対する相対圧力1.2×105 Paの加圧下に保持されたエステル化反応槽に4時間かけて供給し、供給終了後も更に1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物のうち50重量部を、窒素ガス下、温度250℃、常圧に保持された重縮合反応槽に移送した。
【0043】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された重縮合反応槽に、その配管より、エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム、及びテトラ−n−ブトキシチタンを、それぞれエチレングリコール溶液として、ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たり、燐原子(P)として0.581ミリモル、マグネシウム原子(Mg)として0.617ミリモル、及びチタン原子(Ti)として0.209ミリモルの含有量となるように、順次5分間隔で添加した後、系内を2時間30分かけて250℃から280℃まで昇温して同温度を保持すると共に、1時間で常圧から絶対圧力400Paに減圧して同圧を保持しつつ、得られる樹脂の固有粘度が0.55dl/g近辺となる時間溶融重縮合反応させ、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷後、カッターでチップ状とすることにより、1粒当たりの平均重量が24mgの溶融重縮合ポリエチレンテレフタレート樹脂粒状体を製造した。
【0044】
得られた溶融重縮合ポリエチレンテレフタレート樹脂粒状体について、以下に示す方法で、P、Mg、及びTiの金属原子含有量、固有粘度、及び色座標b値を測定し、更に、固相重縮合反応に供したときの活性化エネルギー、及び頻度因子を算出し、結果を表1に示した。
【0045】
金属原子含有量
樹脂粒状体試料2.5gを、硫酸存在下に常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、プラズマ発光分光分析法により定量した。
【0046】
固有粘度
凍結粉砕した樹脂粒状体試料0.50gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dlとして、110℃で20分間で溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で、原液との相対粘度(ηrel )を測定し、この相対粘度(ηrel )−1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求め、同じく濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0047】
色座標b値
樹脂粒状体試料を、内径36mm、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルにすりきりに充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JIS
Z8730の参考1に規定されるハンターの色差式における色座標bを、反射法で、セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0048】
活性化エネルギー、頻度因子
溶融重縮合樹脂粒状体試料2g(粒重15〜25mg)を、イナートオーブン(ESPEC社製「IPHH−201型」)中で、40l/分の窒素ガス気流下160℃で2時間乾燥させた後、210℃及び220℃で10時間加熱して固相重縮合反応させ、得られた固相重縮合樹脂試料について、前記の方法で各々の固有粘度〔η〕210 及び〔η〕220 を測定し、その固有粘度〔η〕210 及び〔η〕220 から、以下の式(1)に従って各々の数平均分子量Mn210及びMn220を算出し、その数平均分子量Mn210及びMn220から、以下の式(2)に従って各々の分子末端数Ns210及びNs220を算出し、一方、溶融重縮合樹脂について式(1)に従って数平均分子量Mn を算出し、その値から式(2)に従って分子末端数Nmを算出した。一方、分子量は分子末端数に反比例し、固相重縮合速度は分子末端数の減少速度として表すことができることから、以下の式(3)に従って各々の速度定数k210 及びk220 を算出した。そして、その速度定数k210 及びk220から、以下の式(4)に従って活性化エネルギーΔEを算出した。又、頻度因子Aは、固相重縮合温度220℃のときの、前記で得られた速度定数k220 と活性化エネルギーΔEをアレニウスの式に代入することにより算出した。
【0049】
(1)数平均分子量Mn210又はMn220=(〔η〕210 又は〔η〕220 /0.000736)1/0.685
(2)分子末端数Ns210又はNs220(モル/ポリマー1トン)=(1000000/Mn210又はMn220)×2
(3)速度定数k210 又はk220 (/時間)=−(lnNs210又はNs220−lnNm )/10≒−〔ln(Ns210又はNs220/Nm )〕/10
(4)活性化エネルギーΔE(kcal/モル)=−ln(k220 /k210 )/〔{1/(220+273)}−{1/(210+273)}〕×R/1000
【0050】
引き続いて、前記で得られた溶融重縮合ポリエチレンテレフタレート樹脂粒状体を、イナートオーブン(ESPEC社製「IPHH−201型」)中で、40l/分の窒素ガス気流下160℃で2時間乾燥させた後、220℃で、得られる樹脂の固有粘度が0.75dl/g近辺となる時間加熱して固相重縮合反応させることにより、固相重縮合ポリエチレンテレフタレート樹脂を製造した。
【0051】
得られた固相重縮合ポリエチレンテレフタレート樹脂粒状体について、前記式に基づいて速度定数を算出すると共に、前記と同様の方法で、固有粘度、及び色座標b値を、並びに、以下に示す方法で、アセトアルデヒド含有量、及び環状三量体含有量を測定し、結果を表1に示した。
【0052】
アセトアルデヒド含有量
樹脂粒状体試料5.0gを精秤し、純水10mlと共に内容積50mlのミクロボンベに窒素シール下に封入し、160℃で2時間の加熱抽出を行い、その抽出液中のアセトアルデヒド量を、イソブチルアルコールを内部標準としてガスクロマトグラフィー(島津製作所製「GC−14A」)で定量した。
【0053】
環状三量体含有量
樹脂粒状体試料4.0mgを精秤し、クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容積比3/2)の混合溶媒2mlに溶解させた後、更にクロロホルム20mlを加えて希釈し、これにメタノール10mlを加えて析出させ、引き続いて濾過して得た濾液を蒸発乾固後、ジメチルホルムアミド25mlに溶解し、その溶液中の環状三量体(シクロトリエチレンテレフタレート)量を、液体クロマトグラフィー(島津製作所製「LC−10A」)で定量した。
【0054】
実施例2〜4、比較例1〜3
重縮合触媒を表1に示すように変更した(但し、金属原子Geの化合物としては、二酸化ゲルマニウムを用いた。)外は、実施例1におけると同様にして、溶融重縮合樹脂粒状体を製造し、金属原子含有量、固有粘度、及び色座標b値を測定し、更に、固相重縮合反応に供したときの活性化エネルギー、及び頻度因子を算出し、結果を表1に示した。引き続いて、実施例1におけると同様にして、固相重縮合樹脂粒状体を製造し、速度定数を算出すると共に、固有粘度、及び色座標b値、アセトアルデヒド含有量、及び環状三量体含有量を測定し、結果を表1に示した。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応させた後、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合反応させ、引き続いて固相重縮合反応させてポリエステル樹脂を製造するにおいて、固有粘度が0.1〜0.7dl/gであって、固相重縮合反応に供したときの活性化エネルギーΔEと頻度因子Aとが下記式を満足する溶融重縮合樹脂を固相重縮合反応させ、固有粘度が0.5〜1.5dl/gの固相重縮合樹脂となすことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
lnA/ΔE≧0.80〔モル/(kcal・時間)〕
【請求項2】
溶融重縮合樹脂を固相重縮合に供したときの活性化エネルギーΔEが10〜100kcal/モルである請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
溶融重縮合樹脂が、1粒あたりの平均重量15〜30mgの粒状体である請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
固相重縮合反応温度を210〜240℃とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
重縮合触媒として、チタン、ゲルマニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、錫、アンチモン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群から選択された相異なる2種以上の金属の化合物を、ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たりの金属原子の含有量としてそれぞれ0.002〜2ミリモルとなる量で用いる請求項1乃至4のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たりのチタン原子の含有量として0.002〜0.2ミリモルとなる量のチタン化合物と、同じく金属原子の含有量としてそれぞれ0.02〜2ミリモルの量となるゲルマニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、錫、アンチモン、ジルコニウム、又はハフニウムの化合物の1種以上とを用いる請求項5に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
重縮合触媒の助剤として、燐、及び硅素からなる群から選択された1種以上の燐化合物又は硅素化合物を、ポリエステル樹脂の理論収量1kg当たりの原子の含有量として0.02〜4ミリモルとなる量で用いる請求項5又は6に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
全ジカルボン酸成分に占めるテレフタル酸の割合が95モル%以上、全ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が95モル%以上である請求項1乃至7のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−199973(P2006−199973A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125107(P2006−125107)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【分割の表示】特願2000−292469(P2000−292469)の分割
【原出願日】平成12年9月26日(2000.9.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】