説明

ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】アセトアルデヒド含有量を低減化し、ボトル等に用いたときの内容物の風味、香り等への影響をなくしたポリエステル樹脂を、生産性良く製造する方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸又はそのエステルを主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応し、ポリエステルを製造するにおいて、(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種(0.02〜0.2モル)、(2)周期表第1A族、2A族、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種(0.04〜0.6モル)、及び、(3)燐化合物(0.02〜0.4モル)、の存在下に重縮合させることによるポリエステル樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体としてのアセトアルデヒド含有量を低減化できることにより、内容物の風味、香り等への影響をなくし、飲食品等のボトルの成形に好適に用いられるポリエステル樹脂を製造する方法に関し、特にその重縮合性を改良した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、保香性、衛生性等に優れ、又、比較的安価で軽量であるために、各種飲食品等の包装容器等として広く用いられており、特に、延伸しヒートセットを施すことにより高ガスバリア性等を付与したボトルが急速な伸びを示すに到っている。これらのボトルは、例えば、有底管状の予備成形体を射出成形し、その予備成形体を再加熱して軟化させた後、延伸ブロー成形することにより製造され、その際、ブロー金型を加熱しておくことによってボトルにヒートセットを施し、延伸による分子鎖の配向結晶を固定化し高ガスバリア性等を発現させている。
【0003】
所が、これらの飲食品等の包装容器分野において用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、汎用ボトル用として多用されているアンチモン化合物を重縮合触媒としたポリエチレンテレフタレート樹脂においては、樹脂中に残存したアンチモンが、高温下において容器から溶出して内容飲食品に僅かながら移行する等の問題が懸念されており、又、耐熱ボトル用として多用されているゲルマニウム化合物を重縮合触媒としたポリエチレンテレフタレート樹脂においては、ゲルマニウム化合物が高価であることから経済的不利が避けられず、それらに代わる重縮合触媒の出現が強く望まれている。
【0004】
一方、チタン化合物を重縮合触媒として用いたポリエチレンテレフタレート樹脂も数多く提案されているが、重縮合時及び溶融成形時においてアセトアルデヒドや環状三量体等が多量に副生し、ボトル等として用いたときに内容飲食品の風味、香り等を低下させるという問題があり、これに対して、例えば、特開平8−73581号公報には、チタン化合物、コバルト化合物、及び、燐酸、亜燐酸及び/又はホスホン酸或いはそれらの誘導体からなる限定された量の錯形成剤を用いることによる無彩色の透明性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法が開示されている。しかしながら、本発明者等の検討によると、この方法によって得られるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前述の風味、香り等の低下の問題に解決を与え得るものではないことが判明した。
【0005】
更に、欧州特許公開第1013692号明細書には、重縮合触媒として特定量のチタン原子とマグネシウム等の金属原子を特定の量比となるようにそれらの化合物を用いることにより、重縮合時及び溶融成形時のアセトアルデヒドの副生を抑制し得ることが開示されており、又、本願出願人による出願である特開2000−339919号公報には、(1)チタン化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガンからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の存在下に重縮合するにおいて、(1)、(2)、及び(3)の各化合物の反応系への添加順序を、(3)、次いで(2)、次いで(1)とするポリエステル樹脂の製造方法が開示されている。しかしながら、本発明者等の検討によると、これらの方法は、確かに副生成物の低減化には有効であるものの、開示される方法では、重縮合性の面で改良の余地があることが判明した。
【特許文献1】特開平8−73581号公報
【特許文献2】欧州特許公開第1013692号明細書
【特許文献3】特開2000−339919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の従来技術に鑑みてなされたもので、成形体としてのアセトアルデヒド含有量を低減化できることにより、ボトル等に用いたときの内容物の風味、香り等への影響をなくしたポリエステル樹脂を、重縮合性を改良し生産性を向上せしめて製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成すべくなされたものであって、即ち、本発明は、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て、(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の存在下に重縮合させることによりポリエステル樹脂を製造するにおいて、(1)、(2)、及び(3)の各化合物の量を、ポリエステル樹脂の理論収量1トン当たり、(1)の化合物の原子の総量(T)として0.02〜0.2モル、(2)の化合物の原子の総量(M)として0.04〜0.6モル、及び、(3)の化合物の原子の総量(P)として0.02〜0.4モルの含有量となる量とするポリエステル樹脂の製造方法、を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形体としてのアセトアルデヒド含有量を低減化できることにより、ボトル等に用いたときの内容物の風味、香り等への影響をなくしたポリエステル樹脂を、重縮合性を改良し生産性を向上せしめて製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て重縮合させることにより製造するものである。
【0010】
ここで、テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。又、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びに、これらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物、等が挙げられる。中で、本発明においては、イソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましい。
【0011】
又、エチレングリコール以外のジオール成分としては、反応系内で副生するジエチレングリコールが挙げられ、その他のジオール成分としては、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、等が挙げられる。
【0012】
更に、前記ジオール成分及びジカルボン酸成分以外の共重合成分として、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分、等が用いられてもよい。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、重縮合時、(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の各化合物の量を、ポリエステル樹脂の理論収量1トン当たり、(1)の化合物の原子の総量(T)として0.02〜0.2モル、(2)の化合物の原子の総量(M)として0.04〜0.6モル、及び、(3)の化合物の原子の総量(P)として0.02〜0.4モルの含有量となる量存在させることを特徴とする。
【0014】
ここで、(1)周期表第4A族のチタン族元素、即ち、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、の化合物としては、これら元素の酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。これら元素の化合物の中で、チタン化合物が好ましく、そのチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシド若しくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素若しくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中で、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のチタンアルコキシド、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましく、テトラ−n−ブチルチタネートが特に好ましい。
【0015】
又、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト等の、酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等、具体的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マンガン、水酸化マンガン、酢酸マンガン、酢酸第二鉄、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、蓚酸コバルト、炭酸コバルト、臭化コバルト、コバルトアセチルアセトナート等が挙げられる。中で、マグネシウム化合物が好ましく、酢酸マグネシウムが特に好ましい。
【0016】
又、(3)燐化合物としては、具体的には、例えば、正燐酸、ポリ燐酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の燐酸エステル等の5価の燐化合物、並びに、亜燐酸、次亜燐酸、及び、トリメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、エチルジエチルホスホノアセテート、トリフェニルホスファイト等の亜燐酸エステル、リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属塩等の3価の燐化合物等が挙げられ、中で、5価の燐化合物の燐酸エステルが好ましく、トリメチルホスフェート、エチルアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0017】
本発明においては、前記(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物を、それら原子の総量(T)として0.02〜0.2モルの含有量となる量存在させることを必須とし、0.04〜0.15モルの含有量となる量とするのが好ましい。この原子の総量(T)が前記範囲未満では、後述する溶融重縮合性及び固相重縮合性が共に低下し、一方、前記範囲超過では、得られる樹脂の成形体としてのアセトアルデヒドの含有量の低減化が困難となる。
【0018】
又、前記(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物を、それら原子の総量(M)として0.04〜0.6モルの含有量となる量存在させることを必須とし、0.05〜0.4モルの含有量となる量とするのが好ましく、0.1〜0.3モルの含有量となる量とするのが更に好ましい。この原子の総量(M)が前記範囲未満では、後述する溶融重縮合性及び固相重縮合性が共に低下し、一方、前記範囲超過では、後述する固相重縮合性が低下する。
【0019】
又、前記(3)燐化合物を、ポリエステル樹脂の理論収量1トン当たり、その原子の総量(P)として0.02〜0.4モルの含有量となる量存在させることを必須とし、0.1〜0.3モルの含有量となる量とするのが好ましい。この原子の総量(P)が前記範囲未満では、得られる樹脂中のアセトアルデヒドの含有量の低減化が困難となり、一方、前記範囲超過では、後述する固相重縮合性が低下する。
【0020】
又、前記(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の各化合物の量を、(1)の化合物の原子の総量(T)、(2)の化合物の原子の総量(M)、及び、(3)の化合物の原子の総量(P)として前記範囲を満足させた上で、(1)の化合物の原子の総量(T)に対する(3)の化合物の原子の総量(P)の比(P/T)を0.1〜10とするのが好ましく、1〜7とするのが更に好ましく、2〜5とするのが特に好ましい。この比(P/T)が前記範囲未満では、得られる樹脂が黄味がかって色調が悪化する傾向となり、一方、前記範囲超過では、後述する溶融重縮合性及び固相重縮合性が共に低下する傾向となる。
【0021】
又、(1)の化合物の原子の総量(T)に対する(2)の化合物の原子の総量(M)の比(M/T)を0.1〜10とするのが好ましく、0.5〜7とするのが更に好ましく、3〜5とするのが特に好ましい。この比(M/T)が前記範囲未満では、後述する溶融重縮合性及び固相重縮合性が共に低下すると共に、得られる樹脂の成形体としてのアセトアルデヒド含有量の低減化が困難な傾向となり、一方、前記範囲超過では、後述する固相重縮合性が低下する傾向となる。
【0022】
尚、本発明において、重縮合時には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記各化合物以外の金属化合物を更に存在させてもよく、その場合の金属化合物としては、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、モリブデン、銀、錫、ランタン、セリウム、タングステン、金等の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、燐酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等の化合物が挙げられる。尚、前記各化合物及びそれ以外の前記化合物は、エチレングリコール等のジオールや水に可溶性のものであるのが好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て、前記(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の存在下に重縮合させるものであるが、基本的には、ポリエステル樹脂の慣用の製造方法による。即ち、前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、必要に応じて用いられる共重合成分等と共に、スラリー調製槽に投入して攪拌下に混合して原料スラリーとなし、エステル化反応槽で常圧〜加圧下、加熱下で、エステル化反応させ、或いは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、前記化合物の存在下に、常圧から漸次減圧としての減圧下、加熱下で、溶融重縮合させる。
【0024】
尚、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸のエステル形成性誘導体を用いてエステル交換反応を行う場合は、通常、チタン化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物等のエステル交換触媒を用いる必要があり、そのエステル交換触媒を多量に用いる必要があることから、本発明においては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用いてエステル化反応を経て製造する方法が好ましい。
【0025】
ここで、エステル化反応による場合、原料スラリーの調製は、テレフタル酸を主成分とするシカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分、及び必要に応じて用いられる共重合成分等とを、ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比を、好ましくは1.02〜2.0、更に好ましくは1.03〜1.7の範囲として混合することによりなされる。
【0026】
又、エステル化反応は、単一のエステル化反応槽、又は、複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、エチレングリコールの還流下、且つ、反応で生成する水と余剰のエチレングリコールを系外に除去しながら、エステル化率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上、好ましくは93%以上に達するまで行われる。又、得られるエステル化反応生成物としてのポリエステル低分子量体の数平均分子量は500〜5,000であるのが好ましい。
【0027】
エステル化反応における反応条件としては、単一のエステル化反応槽の場合、通常240〜280℃程度の温度、大気圧に対する相対圧力を、通常0〜400kPa(0〜4kg/cm2G)程度とし、攪拌下に1〜10時間程度の反応時間とする。又、複数のエステル化反応槽の場合は、第1段目のエステル化反応槽における反応温度を、通常240〜270℃、好ましくは245〜265℃、大気圧に対する相対圧力を、通常5〜300kPa(0.05〜3kg/cm2G)、好ましくは10〜200kPa(0.1〜2kg/cm2G)とし、最終段における反応温度を、通常250〜280℃、好ましくは255〜275℃、大気圧に対する相対圧力を、通常0〜150kPa(0〜1.5kg/cm2G)、好ましくは0〜130kPa(0〜1.3kg/cm2G)とする。尚、各段におけるエステル化率は、その増加量が等しくなるようにするのが好ましい。
【0028】
尚、エステル化反応において、例えば、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物等を少量添加しておくことにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
【0029】
又、溶融重縮合は、単一の溶融重縮合槽、又は、複数の溶融重縮合槽を直列に接続した、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、減圧下に、生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行われる。
【0030】
溶融重縮合における反応条件としては、単一の重縮合槽の場合、通常250〜290℃程度の温度、常圧から漸次減圧として、最終的に、絶対圧力を、通常1.3〜0.013kPa(10〜0.1Torr)程度とし、攪拌下に1〜20時間程度の反応時間とする。又、複数の重縮合槽の場合は、第1段目の重縮合槽における反応温度を、通常250〜290℃、好ましくは260〜280℃、絶対圧力を、通常65〜1.3kPa(500〜10Torr)、好ましくは26〜2kPa(200〜15Torr)とし、最終段における反応温度を、通常265〜300℃、好ましくは270〜295℃、絶対圧力を、通常1.3〜0.013kPa(10〜0.1Torr)、好ましくは0.65〜0.065kPa(5〜0.5Torr)とする。中間段における反応条件としては、それらの中間の条件が選択され、例えば、3段反応装置においては、第2段における反応温度を、通常265〜295℃、好ましくは270〜285℃、絶対圧力を、通常6.5〜0.13kPa(50〜1Torr)、好ましくは4〜0.26kPa(30〜2Torr)とする。
【0031】
又、重縮合時における、前記(1)周期表第1A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の反応系への添加時期は、スラリー調製工程、エステル化反応或いはエステル交換反応工程の任意の段階、又は、溶融重縮合工程の初期の段階のいずれであってもよいが、(1)及び(2)の化合物は、エステル化反応或いはエステル交換反応工程、又は、溶融重縮合工程への移送段階に添加するのが好ましく、又、エステル化反応或いはエステル交換反応生成物のエステル化率が90%以上となった段階で添加するのが好ましく、又、(1)の化合物を(2)の化合物より後に添加するのが好ましい。又、(3)の化合物は、エステル化反応或いはエステル交換反応生成物のエステル化率が90%未満の段階で添加するのが好ましい。
【0032】
各化合物の具体的添加工程としては、例えば、(1)の化合物は、多段反応装置における最終段のエステル化反応槽、又は、溶融重縮合工程への移送段階のエステル化反応或いはエステル交換反応生成物に、又、(2)の化合物は、多段反応装置における最終段のエステル化反応槽に、それぞれ添加するのが好ましい。又、(3)の化合物は、スラリー調製槽又は第1段目のエステル化反応槽に添加するのが好ましく、スラリー調製槽に添加するのが特に好ましい。即ち、本発明においては、(1)、(2)、及び(3)の各化合物の反応系への添加順序を、(3)、次いで(2)、次いで(3)とするのが好ましい。
【0033】
(1)、(2)、及び(3)の各化合物の反応系への添加時期及び添加順序を前述の如くすることにより、樹脂の熱安定性が改良されると共に、溶融成形時のアセトアルデヒド等の副生の原因となる反応系内でのジエチレングリコールの副生も抑制され、更に、溶融重縮合性及び固相重縮合性の改良効果を有効に発現させることができる。
【0034】
又、重縮合時における、前記(1)、(2)、及び、(3)の各化合物の反応系への添加は、エチレングリコール等のアルコールや水等の溶液として行うのが好ましく、前記(1)の化合物としてチタン化合物を用いる場合のエチレングリコール溶液としては、チタン原子の濃度を0.01〜0.3重量%とし、且つ水分濃度を0.1〜1重量%とするのが、反応系へのチタン化合物の分散性、及びそれによる溶融重縮合性及び固相重縮合性の改良の面から好ましい。
【0035】
尚、溶融重縮合における反応時間は、通常3.5時間以下とする。それを越える反応時間では、得られる樹脂中のアセトアルデヒド含有量、及び溶融成形時のアセトアルデヒド副生量の低減化が困難な傾向となる。
【0036】
前記溶融重縮合により得られるポリエステル樹脂は、固有粘度(〔η1〕)が、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒の溶液で30℃で測定した値として、0.35〜0.75dl/gであるのが好ましく、0.50〜0.60dl/gであるのが更に好ましい。固有粘度(〔η1〕)が前記範囲未満では、重縮合槽からの後述する抜き出し性が不良となる傾向となり、一方、前記範囲超過では、得られる樹脂中のアセトアルデヒド含有量の低減化が困難な傾向となる。又、得られるポリエステル樹脂の前記固有粘度(〔η1〕)を前記反応時間で除した値としての溶融重縮合速度(V1)は、0.15dl/g/hr以上であるのが好ましい。
【0037】
前記溶融重縮合により得られた樹脂は、通常、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断してペレット状、チップ状等の粒状体とするが、更に、この溶融重縮合後の粒状体を、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、大気圧に対する相対圧力として、通常100kPa(1kg/cm2G)以下、好ましくは20kPa(0.2kg/cm2G)以下の加圧下で通常5〜30時間程度、或いは、絶対圧力として、通常6.5〜0.013kPa(50〜0.1Torr)、好ましくは1.3〜0.065kPa(10〜0.5Torr)の減圧下で通常1〜20時間程度、通常190〜230℃、好ましくは195〜225℃の温度で加熱することにより、固相重縮合させるのが好ましい。この固相重縮合により、更に高重合度化させ得ると共に、アセトアルデヒド等の副生量を低減化することもできる。
【0038】
その際、固相重縮合に先立って、不活性ガス雰囲気下、又は、水蒸気雰囲気下或いは水蒸気含有不活性ガス雰囲気下で、通常120〜200℃、好ましくは130〜190℃で、1分〜4時間程度加熱することにより、樹脂粒状体表面を結晶化させることが好ましい。
【0039】
前記固相重縮合により得られるポリエステル樹脂は、固有粘度(〔η2〕)が、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒の溶液で30℃で測定した値として、0.70〜0.90dl/gであるのが好ましく、0.71〜0.85dl/gであるのが更に好ましく、0.72〜0.80dl/gであるのが特に好ましい。固有粘度(〔η2〕)が前記範囲未満では、ボトル等の成形体としての機械的強度が不足する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶融成形時のアセトアルデヒド等の副生を抑制することが困難な傾向となる。又、得られる固相重縮合樹脂の前記固有粘度(〔η2〕)と前記溶融重縮合樹脂の固有粘度(〔η1〕)との差(〔η2〕−〔η1〕)を前記反応時間で除した値としての固相重縮合速度(V2)は、0.008〜0.015dl/g/hrであるのが好ましい。又、前記溶融重縮合速度に対するこの固相重縮合速度の比(V2/V1)が、0.04〜0.07の範囲にあるのが好ましく、0.05〜0.07の範囲にあるのが更に好ましい。
【0040】
又、更に、前述の如き溶融重縮合又は固相重縮合により得られた樹脂を、通常、40℃以上の温水に10分以上浸漬させる水処理、或いは、60℃以上の水蒸気又は水蒸気含有ガスに30分以上接触させる水蒸気処理等の処理を施すとか、又は、有機溶剤による処理、或いは、各種鉱酸、有機酸、燐酸等の酸性水溶液による処理、或いは、第1A族金属、第2A族金属、アミン等のアルカリ性水溶液若しくは有機溶剤溶液による処理を施すことにより、重縮合に用いた触媒を失活させることもできる。
【0041】
本発明の製造方法により得られるポリエステル樹脂としては、テレフタル酸成分が全ジカルボン酸成分の97モル%以上を占め、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分が全ジカルボン酸成分の3モル%以下の重縮合体であるのが好ましく、イソフタル酸が全ジカルボン酸成分の0.1〜3モル%を占める重縮合体であるのが更に好ましく、イソフタル酸が1〜2モル%を占める重縮合体であるのが特に好ましい。イソフタル酸がこの範囲にあると、固相重縮合速度が大きく、又、得られる樹脂の成形体としてのアセトアルデヒド含有量の低減化が容易となる傾向となる。又、エチレングリコール成分が全ジオール成分の97モル%以上を占め、エチレングリコール以外のジオール成分が全ジオール成分の3モル%以下の重縮合体であるのが好ましく、ジエチレングリコールが全ジオール成分の1〜3モル%の重縮合体であるのが特に好ましい。ジエチレングリコールがこの範囲超過では、得られる樹脂を成形体としたときのガスバリア性が低下したり、アセトアルデヒド含有量の低減化が困難になる等の問題を生じる傾向となる。又、テレフタル酸及びエチレングリコール以外のジカルボン酸成分及びジオール成分等の共重合成分は、全ジカルボン酸成分に対して6モル%以下であるのが好ましく、1.5〜4.5モル%であるのが更に好ましい。
【0042】
そして、本発明の製造方法により得られるポリエステル樹脂は、前述した通り、(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の存在下に重縮合されたものであることに伴い、(1)、(2)、及び(3)の各化合物を、ポリエステル樹脂の理論収量1トン当たり、(1)の化合物の原子の総量(T)として0.02〜0.2モル、(2)の化合物の原子の総量(M)として0.04〜0.6モル、及び、(3)の化合物の原子の総量(P)として0.02〜0.4モル、それぞれ含有するものであり、又、(1)の化合物の原子の総量(T)に対する(3)の化合物の原子の総量(P)の比(P/T)が0.1〜10となる量含有するのが、又、(1)の化合物の原子の総量(T)に対する(2)の化合物の原子の総量(M)の比(M/T)が0.1〜10となる量含有するのが、それぞれ好ましい。
【0043】
又、本発明の製造方法により得られるポリエステル樹脂は、アセトアルデヒド含有量が5.0ppm以下であるのが好ましく、3.0ppm以下であるのが更に好ましい。又、280℃での射出成形後の成形体におけるアセトアルデヒド含有量は、20ppm以下であるのが好ましく、18ppm以下であるのが更に好ましく、15ppm以下であるのが特に好ましい。アセトアルデヒド含有量が前記範囲超過では、ボトル等の成形体として内容物の風味、香り等への影響をなくすことが困難な傾向となる。
【0044】
又、本発明の製造方法により得られるポリエステル樹脂は、環状三量体含有量が0.60重量%以下であるのが好ましく、0.50重量%以下であるのが更に好ましい。環状三量体含有量が前記範囲超過では、ボトル等の成形時に金型汚染を生じ易く、成形体の透明性が悪化する傾向となる。
【0045】
又、色調として、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値が4以下であるのが好ましく、3以下であるのが更に好ましい。b値が前記範囲超過では、ボトル等の成形体としての色調が黄味がかる傾向となる。尚、色座標b値を前記範囲とするために、所謂、調色剤を添加してもよく、その調色剤としては、例えば、ソルベントブルー104、ソルベントレッド135、ピグメントブルー29、同15:1、同15:3、ピグメントレッド187、同263、ピグメントバイオレット19等の染顔料等が挙げられる。
【0046】
又、280℃での射出成形後の5mm厚の成形体におけるヘーズが10%以下であるのが好ましく、8%以下であるのが更に好ましい。
【0047】
本発明で得られるポリエステル樹脂は、例えば、射出成形によってプリフォームに成形した後、延伸ブロー成形することによって、或いは、押出成形によって成形したパリソンをブロー成形することによって、ボトル等に成形し、又、押出成形によってシートに成形した後、熱成形することによってトレイや容器等に成形し、或いは、該シートを二軸延伸してフィルム等とし、特に飲食品の包装資材等として有用なものとなる。中で、射出成形によって得られたプリフォームを二軸延伸するブロー成形法よってボトルを成形するのに好適であり、例えば、炭酸飲料、アルコール飲料、醤油、ソース、みりん、ドレッシング等の液体調味料等の容器として、更には、ヒートセットを施して、果汁飲料、ビタミン飲料、フレーバーティー、ミネラルウォーター等の飲料等の容器として、好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
スラリー調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で865:485の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートの0.3重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂1トン当たり燐原子(P)としての含有量が0.194モルとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力50kPa(0.5kg/cm2G)、平均滞留時間4時間に設定された第1段目のエステル化反応槽、次いで、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力5kPa(0.05kg/cm2G)、平均滞留時間1.5時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、エステル化反応させた。そのとき、以下に示す方法により測定した平均エステル化率は、第1段目においては85%、第2段目においては95%であった。
【0050】
<平均エステル化率>試料を重水素化クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒に濃度3重量%で溶解させた溶液について、核磁気共鳴装置(日本電子社製「JNM−EX270型」)にて、1H−NMRを測定して各ピークを帰属し、末端カルボキシル基量(Aモル/試料トン)をピークの積分値から計算し、以下の式により、テレフタル酸単位の全カルボキシル基のうちエステル化されているものの割合としてのエステル化率(E%)を算出した。
エステル化率(E)=〔1−A/{(1000000/192.2)×2}〕×100
【0051】
又、その際、第2段目に設けた上部配管を通じて、酢酸マグネシウム4水和物の0.6重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂1トン当たりマグネシウム原子(Mg)としての含有量が0.247モルとなる量で連続的に添加した。
【0052】
引き続いて、前記で得られたエステル化反応生成物を溶融重縮合槽に移送する際、その移送配管中のエステル化反応生成物に、テトラブチルチタネートを、チタン原子の濃度0.15重量%、水分濃度を0.5重量%としたエチレングリコール溶液として、生成ポリエステル樹脂1トン当たりチタン原子(Ti)としての含有量が0.063モルとなる量で連続的に添加しつつ、270℃、絶対圧力2.6kPa(20Torr)に設定された第1段目の溶融重縮合槽、次いで、278℃、絶対圧力0.5kPa(4Torr)に設定された第2段目の溶融重縮合槽、次いで、280℃、絶対圧力0.3kPa(2Torr)に設定された第3段目の溶融重縮合槽に連続的に移送して、得られるポリエステル樹脂の固有粘度(〔η1〕)が0.56dl/gとなるように各重縮合槽における滞留時間を調整して合計3.17時間で溶融重縮合させ、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してチップ状粒状体としたポリエステル樹脂を製造した。
【0053】
引き続いて、前記で得られたポリエステル樹脂チップを、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下で205℃で、得られるポリエステル樹脂の固有粘度(〔η2〕)が0.75dl/gとなるように滞留時間を調整して19時間加熱することにより固相重縮合させた。尚、前記溶融重縮合樹脂の固有粘度(〔η1〕)及び固相重縮合樹脂の固有粘度(〔η2〕)は、以下に示す方法により測定した。
【0054】
<固有粘度>凍結粉砕した樹脂試料0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dlとして、溶融重縮合樹脂の場合は110℃で30分間、固相重縮合樹脂の場合は120℃で30分間で溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で、原液との相対粘度(ηrel)を測定し、この相対粘度(ηrel)−1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求め、同じく濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0055】
更に、前記溶融重縮合樹脂の固有粘度(〔η1〕)を溶融重縮合時間で除した値としての溶融重縮合速度(V1)、前記固相重縮合樹脂の前記固有粘度(〔η2〕)と前記溶融重縮合樹脂の固有粘度(〔η1〕)との差(〔η2〕−〔η1〕)を固相重縮合時間で除した値としての固相重縮合速度(V2)、及び、溶融重縮合速度(V1)に対する固相重縮合速度(V2)の比(V2/V1)を、それぞれ算出し、結果を表1に示した。
【0056】
又、得られた固相重縮合樹脂チップについて、樹脂1トン当たりのチタン成分、マグネシウム成分、及び燐成分の各チタン原子(Ti)、マグネシウム原子(Mg)、及び燐原子(P)としての含有量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0057】
<金属原子含有量>樹脂試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES「JY46P型」)を用いて定量し、ポリエステル樹脂1トン中のモル量に換算した。
【0058】
更に、得られた固相重縮合樹脂チップについて、ジエチレングリコール共重合量、アセトアルデヒド含有量、環状三量体含有量、及び色調としての色座標b値を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0059】
<共重合成分の含有量>樹脂試料を重水素化クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒に濃度3重量%となるように溶解させた溶液について、核磁気共鳴装置(日本電子社製「JNM−EX270型」)を用いて、1H−NMRを測定して各ピークを帰属し、ピークの積分値から共重合成分の含有量を算出した。
【0060】
<アセトアルデヒド含有量>樹脂試料5.0gを精秤し、純水10mlと共に内容積50mlのミクロボンベに窒素シール下に封入し、160℃で2時間の加熱抽出を行い、その抽出液中のアセトアルデヒド量を、イソブチルアルコールを内部標準としてガスクロマトグラフィー(島津製作所製「GC−14A」)を用いて定量した。
【0061】
<環状三量体含有量>樹脂試料200mgを精秤し、クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容量比3/2)の混合溶媒2mlに溶解した後、更にクロロホルム20mlを加えて希釈し、これにメタノール10mlを加えて再析出させ、次いで濾過して得た濾液を蒸発乾固後、残渣をジメチルホルムアミド25mlに溶解し、その溶液中の環状三量体(シクロトリエチレンテレフタレート)量を、液体クロマトグラフィー(島津製作所製「LC−10A」)を用いて定量した。
【0062】
<色調>樹脂試料を、内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測色用セルに充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値を、反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0063】
引き続いて、得られた樹脂を、イナートオーブン(ESPEC社製「IPHH−201型」中で、40リットル/分の窒素気流下160℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(名機製作所社製「M−70AII−DM」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×105Pa、射出率40cc/秒、保圧力35×105Pa、金型温度25℃、成形サイクル約75秒で、図1に示される形状の、縦50mm、横100mmで、横方向に6mmから3.5mmまで段差0.5mmの6段階の厚みを有する段付成形板を射出成形した。尚、図1において、Gはゲート部である。
【0064】
得られた成形板について、以下に示す方法で、アセトアルデヒド含有量、及びヘーズを測定し、結果を表1に示した。
<アセトアルデヒド含有量>成形板における厚み3.5mm部の後端部分(図1におけるB部)から4mm角程度に切り出しチップ化した試料を用い、前記と同様の方法で測定した。
<ヘーズ>成形板における厚み5.0mm部(図1におけるC部)について、ヘーズメーター(日本電色社製「NDH−300A」)を用いて測定した。
【0065】
別に、得られたポリエステル樹脂チップを真空乾燥機にて130℃で10時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「FE−80S」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×105Pa、射出率45cc/秒、保圧力30×105Pa、金型温度20℃、成形サイクル約40秒で、外径29.0mm、高さ165mm、平均肉厚3.7mm、重量60gの試験管状の予備成形体(プリフォーム)を射出成形した。
【0066】
得られた予備成形体を、石英ヒーターを備えた近赤外線照射炉内で70秒間加熱し、25秒間室温で放置した後、130℃に設定したブロー金型内に装入し、延伸ロッドで高さ方向に延伸しながら、ブロー圧力7×105Paで1秒間、更に30×105Paで5秒間ブロー成形、ヒートセットし、空冷することにより、外径約95mm、高さ約305mm、胴部平均肉厚約0.35mm、重量約60g、内容積約1.5リットルのボトルを成形した。
【0067】
得られたボトルについて、以下に示す方法でアセトアルデヒド臭を評価し、結果を表1に示した。
<ボトルのアセトアルデヒド臭>ボトルをオーブン中で50℃で1時間加熱した後のアセトアルデヒド臭を官能検査し、5(アセトアルデヒド臭極めて少ない)から1(鼻につく程度のアセトアルデヒド臭あり)まで5段階で評価した。
【0068】
実施例2〜9、比較例1〜9
共重合成分及びその量、燐化合物、マグネシウム化合物、及びチタン化合物の添加量及び添加順序、チタン化合物のエチレングリコール溶液中のチタン原子濃度及び水分濃度、並びに、溶融重縮合時間及び固相重縮合時間、を表1に示すように変えた外は、実施例1におけると同様にしてポリエステル樹脂チップを製造し、同様に評価し、結果を表1に示した。尚、比較例7においては、エチルアシッドホスフェートに代えて亜燐酸、酢酸マグネシウム4水和物に代えて酢酸コバルト4水和物、テトラブチルチタネートに代えて蓚酸チタンカリウムを、それぞれ用い、蓚酸チタンカリウム、酢酸コバルト4水和物、亜燐酸の順に添加し、又、比較例9では、エチルアシッドホスフェートに代えて正燐酸を用い、テトラブチルチタネート、酢酸マグネシウム4水和物、正燐酸の順に添加した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例において成形した物性評価用段付成形板の(a)は平面図、(b)は正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て、(1)周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、(2)周期表第1A族の金属元素、周期表第2A族の元素、マンガン、鉄、コバルトからなる群より選択された少なくとも1種の元素の化合物、及び、(3)燐化合物、の存在下に重縮合させることによりポリエステル樹脂を製造するにおいて、(1)、(2)、及び(3)の各化合物の量を、ポリエステル樹脂の理論収量1トン当たり、(1)の化合物の原子の総量(T)として0.02〜0.2モル、(2)の化合物の原子の総量(M)として0.04〜0.6モル、及び、(3)の化合物の原子の総量(P)として0.02〜0.4モルの含有量となる量とすることを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
(1)の化合物の原子の総量(T)に対する(3)の化合物の原子の総量(P)の比(P/T)を0.1〜10とする請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
(1)の化合物の原子の総量(T)に対する(2)の化合物の原子の総量(M)の比(M/T)を0.1〜10とする請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
(1)、(2)、及び(3)の各化合物の反応系への添加順序を、(3)、次いで(2)、次いで(1)とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
(1)の化合物がチタン化合物であり、(2)の化合物がマグネシウム化合物であり、(3)の化合物が燐酸エステルである請求項1乃至4のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
チタン化合物を、チタン原子の濃度を0.01〜0.3重量%、且つ水分濃度を0.1〜1重量%としたエチレングリコール溶液として反応系へ添加する請求項5に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
全ジカルボン酸成分に対して0.1〜3モル%のイソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる請求項1乃至6のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−126680(P2007−126680A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352301(P2006−352301)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【分割の表示】特願2002−23136(P2002−23136)の分割
【原出願日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】