説明

ポリエステル樹脂組成物、およびそれからなる成形体

【課題】機械的特性や耐熱性に加え、透明性にも優れたポリエステル樹脂組成物、およびそれからなる成形体を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)30〜60質量%とポリアリレート樹脂(B)40〜70質量%の合計100質量部に対し、芳香族リン酸エステル(C)20〜40質量部、炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)0.01〜1質量部、およびリン化合物0.01〜1質量部(E)を含有してなるポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性や耐熱性に加え、透明性にも優れたポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子用途、自動車用途での機構部品として、耐熱性、機械特性に優れた各種ポリエステル樹脂が用いられている。中でもポリエチレンテレフタレートは、耐薬品性、透明性に優れ、汎用的に用いられるが、耐熱性が不足し用途が限られていた。一方、ポリカーボネート、ポリアリレート等の非晶性樹脂は、耐熱性に優れるため、ポリエチレンテレフタレートとのアロイ化を行うことで、耐熱性、耐薬品性、透明性のバランスに優れた材料としてその用途が拡大している(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、電気・電子用途、自動車用途で用いる材料としては、上記特性に加え、難燃特性が要求される。用いる難燃剤としては環境負荷の高まりからハロゲン系難燃剤の使用は抑制されており、メラミンシアヌレートに代表されるトリアジン系化合物とシアヌール酸の塩を難燃剤として用いたポリエステル系樹脂組成物が開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−176102号公報
【特許文献2】特開2009−96969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メラミンシアヌレートを難燃剤として用いると、必要とする難燃性能は得られるものの得られるポリエステル系樹脂組成物の透明性が損なわれていた。
また、芳香族縮合リン酸エステルを難燃剤として用いたポリエステル樹脂組成物は、難燃性と機械的特性のバランスに優れるが、十分に透明な成形体は得られていなかった。
本発明は、機械的特性や耐熱性に加え、透明性にも優れたポリエステル樹脂組成物、およびそれからなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0008】
(1)ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)30〜60質量%とポリアリレート樹脂(B)40〜70質量%の合計100質量部に対し、芳香族リン酸エステル(C)20〜40質量部、炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)0.01〜1質量部、およびリン化合物0.01〜1質量部(E)を含有してなるポリエステル樹脂組成物。
(2)芳香族リン酸エステル(C)が下記一般式(I)で示される化合物であることを特徴とする(1)のポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式(I)中R1〜R4は水素原子または炭素原子6以下のアルキル基を示し、Xは
下記構造式群(II)から選ばれる。)
【化2】

(3)炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)が、酢酸ナトリウム又は酢酸カリウムであることを特徴とする(1)または(2)のポリエステル樹脂組成物。
(4)さらにシラン化合物(F)を含み、その配合がポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対し0.01〜1質量部であることを特徴とする(1)〜(3)のポリエステル樹脂組成物。
(5)シラン化合物(F)が、ビニルエトキシシランおよび/またはテトラエトキシシランであることを特徴とする(4)のポリエステル樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形体。
(7)厚み3.0mmである成形体のヘイズ値が、4.0以下であることを特徴とする(6)の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的特性と耐熱性に加え、透明性にも優れたポリエステル樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするものである。
【0012】
ポリエチレンテレフタレート樹脂には、テレフタル酸以外の酸成分として、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸及びその酸無水物、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合することができる。
エチレングリコール以外のアルコール成分として、例えば、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール等の脂環族ジオール、ビスフェノールAやビスフェノール
Sのエチレンオキシド付加体等の芳香族ジオール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸を共重合することができる。前記の共重合成分はポリエチレンテレフタレート樹脂の特性を損なわない範囲で用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂を構成する酸成分、アルコール成分それぞれ100モル%に対して、5モル%未満とすることが好ましい。5モル%を超えると、機械的特性が損なわれたり、流動性が低下することがある。
【0013】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)は、例えば、フェノールと1,1,2,2−テトラクロルエタンを重量比で6:4の割合で混合した混合溶媒を用いて、温度25℃の条件で測定した極限粘度が0.5〜1.2のものが良い。極限粘度が0.5より小さいと成形品の機械的特性が低下するので好ましくなく、極限粘度が1.2を超えると成形性が低下するので好ましくない。このような極限粘度のポリエチレンテレフタレート樹脂は、例えば原料モノマーの仕込み比を調節したり、分子量調節剤を適宜使用することにより得られる。
【0014】
本発明におけるポリアリレート樹脂(B)は、芳香族ジカルボン酸残基単位とビスフェノール残基単位で構成される芳香族ポリエステルである。
【0015】
ビスフェノール残基を導入するためのポリアリレート原料としては、ビスフェノールA、ビスフェノールTMC [1,1−Bis(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5
−トリメチルシクロヘキサン]、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5―ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種類以上を混合して使用してもよい。とりわけ、ビスフェノールA単独、およびビスフェノールAとビスフェノールTMCの混合使用で得られるポリアリレート樹脂が溶融加工性、熱安定性の点で好ましい。
【0016】
芳香族ジカルボン酸残基を導入するためのポリアリレート原料としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が挙げられる。本発明においては両者を混合使用して得られるポリアリレート樹脂が溶融加工性、および、機械的特性の面で特に好ましい。その混合比率(テレフタル酸/イソフタル酸)は任意に選択することができるが、モル分率で90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは70/30〜30/70、最適には50/50である。テレフタル酸の混合モル分率が10モル%未満であっても、90モル%を超えていても界面重合法で重合する場合は十分な重合度を得にくくなる場合がある。
【0017】
本発明におけるポリアリレート樹脂のインヘレント粘度は0.35〜0.65であることが好ましい。0.65を上回ると溶融粘度が高くなり、射出成形が困難になる。0.35を下回ると、得られる成形品の衝撃強度が不足する傾向にある。ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度は1,1,2,2―テトラクロロエタンを溶媒として、温度25℃で測定される溶液粘度として求めることができる。このようなインヘレント粘度のポリアリレート樹脂は、例えば原料モノマーの仕込み比を調節したり、分子量調節剤を適宜使用することにより得られる。
【0018】
本発明において、ポリアリレート樹脂を重合する方法は、界面重合、溶液重合、溶融重合などが挙げられるが、中でも、界面重合法が好ましい。界面重合法によれば、溶液重合と比較して反応が速く、原料である酸ハライドの加水分解を最小限に抑えることができるため、高分子量のポリアリレート樹脂を容易に得ることができる。また、界面重合法は、得られる樹脂に優れた粘度コントロール性、低不純物性、透明性付与しうる重合法である。
【0019】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の配合比は、(A)/(B)が30/70〜60/40(質量比)である必要があり、(A)/(B)が40/60〜50/50であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の配合が30質量%未満であると成形加工性が低下し、(A)の配合が60質量%を超えると、得られるポリエステル樹脂の結晶性が増大し、成形体の結晶化度が高まり透明性の低下や、耐熱性が低下する。
【0020】
本発明において用いられる芳香族リン酸エステル(C)としては、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジ2,6−キシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)などを挙げることができ、さらに、下記一般式(I)で示される化合物を好ましく用いることができる。
【化3】

【0021】
一般式(I)中R1〜R4は水素原子または炭素原子6以下のアルキル基を示し、Xは下記構造式群(II)から選ばれる。
【化4】

【0022】
一般式(I)において、R1〜R4で示される炭素原子6以下のアルキル基中、炭素数3以下のアルキル基が好ましく、特に好ましいのはメチル基である。このような化合物の具体例としては、下記式(III)、一般式(IV)で示す化合物を挙げることができる。
【0023】
【化5】

【化6】

【0024】
上記式(III)で示される化合物としては、例えば、大八化学社製のPX−202を挙げることができる。
【0025】
一般式(IV)で示される化合物としては、例えば、大八化学社製のPX−201、PX−200を挙げることができる。
【0026】
芳香族リン酸エステル(C)の配合は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対して、20〜40質量部である必要があり、25〜35質量部であることが好ましい。芳香族リン酸エステル(C)の配合が20質量部未満であると得られる成形体の難燃性が低下し、40質量部を超えると得られる成形体の機械特性、耐熱性が低下する。
【0027】
本発明における炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)としては、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、n−酪酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が挙げられる。具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、イソ酪酸ナトリウム、イソ酪酸カリウム、n−酪酸ナトリウム、n−酪酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸バリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸マグネシウム、イソ酪酸カルシウム、イソ酪酸マグネシウム、n−酪酸カルシウム、n−酪酸マグネシウムが挙げられる。中でもコストやエステル交換反応速度、難燃性の点から酢酸ナトリウム又は酢酸カリウムが好ましい。
【0028】
炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)の配合は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.01〜1質量部である必要があり、0.05〜0.5質量部であることが好ましい。このような配合とすることで、結晶性のポリエチレンテレフタレート樹脂と非晶性のポリアリレート樹脂とが溶融混練時に適度のエステル交換反応を行い、透明性が向上し、さらに難燃性が向上する。炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)の配合が、0.01質量部未満であると、エステル交換反応が進行せず、透明性に優れた成形体が得られず、また成形体の難燃性が低下する。1質量部を超えると、ポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度が低下し十分な機械特性を有する成形体が得られないばかりか、成形体の初期色調が低下する。
【0029】
本発明におけるリン化合物(E)は、ジラウリルハイドロゲンンフォスファイト、トリブチルフォスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)フォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリステアリルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、ジフェニルデシルフォスファイト、ジフェニル(トリデシル)フォスファイト、ジフェニルハイドロゲンフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,4−t−ブチル−6−メチルフェニル)エチルフォスファイトなどのフォスファイト系化合物、テトラキス(2,4−t−ブチルフェニル)[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスフォスフォナイトなどのフォスフォナイト化合物、ブチルアシッドフォスフェート、β−クロロエチルアシッドフォスフェートなどのフォスフェート系化合物を挙げることができる。中でも、優れた耐熱安定性を得やすい点で、ブチルアシッドフォスフェートが好ましい。
具体的には城北化学工業社製の品番JP212、JP310、JP360、JP351、JP504(ブチルアシッドフォスフェート)を挙げることができる。
【0030】
リン化合物(E)の配合は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の配合の合計100質量部に対して、0.01〜1質量部であることが必要であり、0.05〜0.5質量部であることが好ましい。このような配合とすることで、ポリエステル樹脂組成物の溶融混練時の熱安定性が良好になり、ポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度の低下を抑制し得られる成形体の機械特性を損なわず、また得られる成形体の初期色調に優れたポリエステル樹脂組成物とすることができる。リン化合物(E)の配合が0.01質量部未満であると、溶融混練時におけるポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度の低下が大きく、得られる成形体の機械特性が損なわれる。1質量部を超えると、得られる成形体の初期色調が低下し、透明性に優れたポリエステル樹脂組成物とすることができない。
【0031】
本発明におけるシラン化合物(F)は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。中でもポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の相溶性を向上させ、さらに芳香族リン酸エステル(C)との親和性を高めて得られるポリエステル樹脂組成物の透明性を向上させる点でテトラエトキシシランが好ましく、加えてポリエステル樹脂組成物の溶融混練時、成形加工時の熱変色を抑制する効果が高い点でビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0032】
シラン化合物(F)の配合は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の配合の合計100質量部に対して、0.01〜1質量部であることが好ましく、0.05〜0.5質量部であることがより好ましい。このような配合とすることで、ポリエステル樹脂組成物の溶融混練時、成形加工時の熱変色を抑制しながら、透明性を高めることができる。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度は、0.5〜1.1であることが好ましく、0.6〜1.0であることがより好ましい。ポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度が0.5未満であると、成形加工時に成形体表面にフラッシュやクラックが発生しやすくなり、成形体の機械特性が低下することがある。ポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度が1.1を超えると、ポリエステル樹脂組成物の溶融混練時の剪断発熱が大きくなり、得られる成形体の着色度合が高まり、黄変したり褐変したりし、透明性が損なわれることがある。また、ポリエステル樹脂組成物の成形時の溶融粘度が高まるため、流動性が低下し成形性が損なわれるばかりでなく、成形体表面に焼けが発生することがある。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、前記成分のほかに、成形体の耐熱変色性のさらなる向上の観点から、ヒンダードアミン系光安定剤を含有させてもよい。さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状補強剤、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルクなどの充填剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、離型剤、帯電防止剤、滑剤等の各種添加剤が含有されていてもよい。
【0035】
また、本発明の特性を損なわない範囲であれば、その他のポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン系共重合体、ポリメチルメタクリレート、メタクリル系共重合体、ベンズオキサジノン化合物、フェノキシ樹脂等が含有されていてもよい。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂組成物は任意の方法で各種成形体に成形することができる。成形方法は特に制限されず、通常、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法が好ましく用いられる。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、従来のポリエステル樹脂組成物が兼ね備えていた機械特性や耐熱性に加え、透明性、難燃性にも優れるため、各種電気電子分野、自動車分野に使用できる。具体的には、電気電子分野では、パソコン、モバイル機器、携帯電話、電子書籍等々で用いることができ、自動車分野では、ヘッドライト、リアランプ、スピードメーター、タコメーター、ウォーニングランプ等が組み込まれたインストルメントパネル、各種室内灯、ナビゲーションシステム、ETCシステム、オーディオ・テレビシステム、エアコン等の各種表示、操作系装置に用いることができる。
【0038】
また、厚み3mmの成形体であってもヘイズ値が4.0以下と良好な透明性を有するため、光学材料としても好適に用いることができ、ディスプレイ材料、LED部品、有機EL部品、PDP部品としても用いることができる。
【0039】
さらには、厚肉成形体であっても透明性が損なわれないため、流動性や耐薬品性が良好であり、水蒸気及びガスバリヤー性にも優れるため、太陽電池用カバー、封止材料としても用いることができる。
【実施例】
【0040】
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例における各種物性値の測定は、以下の方法により実施した。
【0041】
1.測定方法
【0042】
(1)ポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度
フェノールと1,1,2,2−テトラクロルエタンを重量比で6:4の割合で混合した混合溶媒を用い、濃度1g/dl、温度25℃の条件で常法により測定し、下記式を用いて算出した。
インヘレント粘度=ln[(試料溶液の落下時間/溶媒のみの落下時間)/樹脂濃度(g/dl)]
【0043】
(2)引張強度、引張破断伸度
ASTM−D638に記載の方法に準じて測定した。
【0044】
(3)曲げ強度
ASTM−D790に記載の方法に準じて測定した。
【0045】
(4)曲げ弾性率
ASTM−D790に記載の方法に準じて測定した。
【0046】
(5)アイゾット衝撃強度
ASTM−D256に記載の方法に準じて測定した。試験片は、厚み3.2mmで、所定のノッチを付けたものを用いた。
【0047】
(6)耐熱性
ASTM−D648に記載の方法に準じて、荷重たわみ温度(DTUL)を、荷重1.86MPaで測定した。電気電子部品および自動車用途部品に適用する場合、80℃以上が望ましい。
【0048】
(7)透明性、イエローインデックス
日本電色工業社製の測定色差計SE−6000を用い、大きさ70×40mm、厚さ3.0mmの試験片のヘイズ値、YI値を測定した。ヘイズ値は透明性の尺度を表すもので、空気のヘイズ値は0%であり、ヘイズ値が小さいほど透明性が良好である。YI値は、イエローインデックス(黄色度)の尺度を表すもので、YI値が小さいほど黄食度が低く良好であることを示す。
【0049】
(8)難燃性
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL−94)に定めた垂直燃焼性試験に従って、厚さ1.6mmの試験片を用いて測定し、難燃レベルを判定した。
V−1、V−0であれば、特に製品として適用分野が広く好ましい。
【0050】
(9)流動性
ポリエステル樹脂組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械社製EC−100)を用いて樹脂温度300℃、射出圧力150MPaにて、厚さ2mm、幅20mmのバー状金型内に射出成形し、その流動長を測定した。流動長が200mm以上であることが流動性が優れ、成形加工性が良好であると判断する。
【0051】
2.原料
【0052】
(A)ポリエステル樹脂
・ ポリエチレンテレフタレート:ユニチカ社製SA−1206、極限粘度1.07、135℃の除湿乾燥機で5時間以上乾燥を行ったもの(以下、PETと略する)
・ ポリブチレンテレフタレート:三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバデュラン5020、極限粘度1.20、135℃の除湿乾燥機で5時間以上乾燥を行ったもの(以下、PBTと略する)
(B)ポリアリレート樹脂
・ ポリアリレート:ユニチカ社製U−PowderDタイプ、インヘレント粘度0.7、130℃の熱風乾燥機で5時間以上乾燥を行ったもの(以下、PARと略する)
(C)難燃剤
・(C−1) 芳香族縮合リン酸エステル:大八化学工業社製PX−200
・(C−2) 芳香族縮合リン酸エステル:大八化学工業社製PX−201
・(C−3) 芳香族縮合リン酸エステル:大八化学工業社製PX−202
・(C−4) トリフェニルフォスフェート:大八化学工業社製TPP
・(C−5) メラミンシアヌレート:日産化学製MC4000
(D)アルカリ金属塩
・ 酢酸ナトリウム
(E)リン化合物
・(E−1) ブチルアシッドホスフェート:城北化学工業社製JP−504
・(E−2) ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト:ADEKA社製PEP−36
(F)シラン化合物
・(F−1) テトラエトキシシラン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSL−8124
・(F−2) ビニルトリメトキシシラン:信越化学工業社製KBM−1003
【0053】
実施例1
PET40質量部、PAR60質量部、芳香族リン酸エステル(C−1)30質量部、酢酸ナトリウム0.05質量部、およびリン化合物(E−1)0.05質量部を均一混合した後、連続定量供給装置(クボタ社製)を用いて、同方向回転ニ軸押出機(東芝機械社製TEM−26SS)の主供給口に供給した。そして、スクリュー回転数120rpm、吐出量20kg/h、樹脂温度320℃で溶融混練を行い、ダイ口よりストランド状に引き取ったポリエステル樹脂組成物を水浴して冷却固化し、ペレタイザーでカッティングしてポリエステル樹脂組成物ペレットを得た。
得られたポリエステル樹脂組成物について、前記の方法で測定したところ、インヘレント粘度0.57であった。
さらに得られたポリエステル樹脂組成物を射出成形機(東芝機械社製EC−100)を用いて、シリンダ温度300℃、金型温度40℃で射出成形を行い、測定用の試験片を得た後各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2〜14
表1に記載の配合に従い、実施例1と同様の操作を行ってポリエステル樹脂組成物を得て、各種評価を行った、その結果を表1に示す。
【0056】
比較例1〜9
表2に記載の配合に従い、実施例1と同様の操作を行ってポリエステル樹脂組成物を得て、各種評価を行った、その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
比較例10、11
難燃剤としてTPP、メラミンシアヌレートをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリエステル樹脂組成物を得て、各種評価を行った、その結果を表2に示す。なお、メラミンシアヌレート、ガラス繊維等の無機充填物は前記溶媒に不溶のため、インヘレント粘度の測定は行わなかった。
【0059】
比較例12
リン化合物を用いなかった以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリエステル樹脂組成物を得て、各種評価を行った、その結果を表2に示す。
【0060】
比較例13、14
PETに代えてPBTを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリエステル
樹脂組成物を得て、各種評価を行った、その結果を表2に示す。なお、比較例13においては、酢酸ナトリウム、リン化合物の配合は行わなかった。
【0061】
実施例1〜14では、引張強度、引張伸度、曲げ強度、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度等の機械的特性、耐熱性、透明性、難燃性、流動性のすべての点に優れたポリエステル樹脂組成物であった。
【0062】
比較例1では、PETの配合が過少であったため流動性が低下した。
【0063】
比較例2では、PETの配合が過多であったため耐熱性が低下した。
【0064】
比較例3では、芳香族リン酸エステルの配合が過少であったため難燃性が低下した。
【0065】
比較例4では、芳香族リン酸エステルの配合が過多であったため耐熱性が低下した。
【0066】
比較例5では、酢酸ナトリウムの配合が過少であったため透明性が低下した。
【0067】
比較例6では、酢酸ナトリウムの配合が過多であったためインヘレント粘度が低く、引張伸度やアイゾット衝撃強度が大きく低下した。
【0068】
比較例7では、リン化合物の配合が過少であったためインヘレント粘度が低く、引張伸度やアイゾット衝撃強度が低下した。
【0069】
比較例8では、リン化合物の配合が過多であったため透明性が低下した。
【0070】
比較例9では、芳香族リン酸エステルの配合を行わなかったため必要な難燃性が得られなかった。
【0071】
比較例10では、芳香族リン酸エステルに代えてTPPを用いたため耐熱性が低下した。
【0072】
比較例11では、芳香族リン酸エステルに代えてメラミンシアヌレートを用いたため透明な成形体は得られなかった。
【0073】
比較例12では、リン化合物の配合を行わなかったためアイゾット衝撃強度が大きく低下した。
【0074】
比較例13、14では、ポリエステル樹脂としてPBTを用いたため透明な成形体は得られなかった。























【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)30〜60質量%とポリアリレート樹脂(B)40〜70質量%の合計100質量部に対し、芳香族リン酸エステル(C)20〜40質量部、炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)0.01〜1質量部、およびリン化合物0.01〜1質量部(E)を含有してなるポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族リン酸エステル(C)が下記一般式(I)で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式(I)中R1〜R4は水素原子または炭素原子6以下のアルキル基を示し、Xは
下記構造式群(II)から選ばれる。)
【化2】

【請求項3】
炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(D)が、酢酸ナトリウム又は酢酸カリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
さらにシラン化合物(F)を含み、その配合がポリエチレンテレフタレート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対し0.01〜1質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
シラン化合物(F)が、ビニルエトキシシランおよび/またはテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項4に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
厚み3.0mmである成形体のヘイズ値が、4.0以下であることを特徴とする請求項6に記載の成形体。






【公開番号】特開2012−82385(P2012−82385A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38934(P2011−38934)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】