説明

ポリエステル樹脂組成物およびフィルム

【課題】本発明は、優れたワックス分散性を示し、かつ内容物取出性、成型加工性、保味保香性を兼備した、特に食品包装用等の内容物取出性の要求される分野に好ましく使用することができるポリエステル樹脂組成物およびフィルムを提供する。
【解決手段】チタン化合物をチタン原子換算で0.5〜50ppm含有し、リン化合物をリン原子換算で0.1〜100ppm含有し、さらに、チタン原子とリン原子の比が下記式(1)を満足し、かつワックス組成物を0.1〜20重量%含有してなるポリエステル樹脂組成物。
0.01≦Ti/P≦10 ・・・(1)
(但し、式中のTi、Pは、各々ポリエステル樹脂組成物中に含有されるチタン原子の濃度(ppm)、リン原子の濃度(ppm)を表している。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたワックス分散性を示し、かつ内容物取出性、成型加工性、保味保香性を兼備した、特に食品包装用等の内容物取出性の要求される分野に好適に使用することができるポリエステル樹脂組成物およびフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属缶の缶内面及び外面には腐食防止を目的として、エポキシ系、フェノール系等の各種熱硬化性樹脂を溶剤に溶解または分散させたものを塗布し、金属表面を被覆することが広く行なわれてきた。しかしながら、このような熱硬化性樹脂の被覆方法は塗料の乾燥に長時間を要し、生産性が低下し、多量の有機溶剤による環境汚染など好ましくない問題がある。これらの問題を解決する方法として、金属缶の材料である鋼板、アルミニウム板あるいは該金属板にめっき等各種の表面処理を施した金属板にポリエステルフィルムをラミネートする方法が行なわれている。ポリエステルフィルムをラミネートし、フィルムのラミネート金属板 を成形加工して金属缶を製造する場合、ポリエステルフィルムには、成型加工性、耐熱性、耐衝撃性、保味保香性などの各種特性が要求される。さらに、このポリエステルフィルムを食品缶詰用途に使用する場合、内容物が容器内面に付着しないように、内容物取出性を満足させる必要があった。一般的に内容物取出性を付与するには、フィルム表面にコート層を設けるが、この方法では表面に凹凸がある場合、内容物取出性にムラが発生し、品質が悪化するなどの欠点があった。そこで、かかる問題に対して例えば、特開2003−55483号公報(特許文献1)では、共重合ポリエステルにエポキシ鎖含有エラストマーを添加させ、特開2003−55541号公報(特許文献2)では、共重合ポリエステルにポリエチレンを添加させることにより内容物取出性を向上させるとが提案されているが、これらの混合物のブレンドでは、内容物取出性、成型加工性の点で満足のいく特性は得られなかった。さらに、特開2002−187963(特許文献3)では特定量のカルナウバワックスとゲルマニウム化合物により内容物取出性を向上させる方法が提案されているが、この方法ではワックス分散性が十分でなかったため、特性を十分に向上させることができなかった。
【特許文献1】特開2003−55483号公報
【特許文献2】特開2003−55541号公報
【特許文献3】特開2002−187963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、優れたワックス分散性を示し、かつ内容物取出性、成型加工性、保味保香性を兼備したポリエステル樹脂組成物およびフィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、チタン化合物、リン化合物およびワックス組成物を含有し、かつチタン原子とリン原子の量比を規定したポリエステル樹脂組成物およびフィルムによって前記課題が解決できることを見出した。すなわち、本願発明の課題は、チタン化合物をチタン原子換算で0.5〜50ppm含有し、リン化合物をリン原子換算で0.1〜100ppm含有し、さらに、チタン原子とリン原子の比が下記式(1)を満足し、かつワックス組成物を0.1〜20重量%含有してなるポリエステル樹脂組成物で達成できる。
【0005】
0.01≦Ti/P≦10 ・・・(1)
(但し、式中のTi、Pは、各々ポリエステル樹脂組成物中に含有されるチタン原子の濃度(ppm)、リン原子の濃度(ppm)を表している。)
【発明の効果】
【0006】
本発明は、チタン化合物、リン化合物およびワックス組成物を含有してなるポリエステル樹脂組成物であって、ワックス分散性が良好で、かつ該ポリエステル樹脂組成物から内容物取出性、成型加工性、保味保香性を兼備したフィルムを得ることができる。特に、該フィルムは、食品包装用等の内容物取出性の要求される分野に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体およびグリコールから合成されるポリエステル樹脂組成物であり、フィルム等の成型品として用いることができるものであれば特に限定しない。このようなポリエステル樹脂組成物として例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロへキサンジメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等をあげることができ、特にワックス分散性の点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0008】
このようなポリエチレンテレフタレートとしてはジカルボン酸成分やグリコール成分に共重合成分を含有していてもよい。ジカルボン酸成分として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体等をあげることができ、グリコール成分としては例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物等またはそのエステル形成性誘導体が挙げられ、さらにはパラヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体を挙げることができる。上記したジカルボン酸成分、グリコール成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、これらの共重合成分は、ポリエステル樹脂組成物を製造する際に副生するものであってもよい。
【0009】
本発明におけるチタン化合物は、チタン原子を含有している化合物であれば特に限定されない。例えば、チタン化合物の置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるチタン化合物が好ましく、またチタン酸化物も好ましい。
【0010】
具体的なアルコキシ基には、テトラエトキシド、テトラプロポキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシド、テトラ−2−エチルヘキソキシド等のチタンテトラアルコキシド、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系官能基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系官能基、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系官能基が挙げられ、特に脂肪族アルコキシ基が好ましい。また、フェノキシ基には、フェノキシ、クレシレイト等が挙げられる。また、アシレート基には、ラクテート、ステアレート等のテトラアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系官能基、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸系官能基が挙げられ、特に脂肪族アシレート基が好ましい。また、アミノ基には、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの置換基を2種含んでなるジイソプロポキシビスアセチルアセトンやトリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。
【0011】
本発明ではこれらチタン化合物のうちでも、特にテトラアルコキシチタン化合物が、ポリエステル樹脂組成物中のワックス組成物の分散性向上、内容物取出性の点から好ましい。
【0012】
本発明におけるチタン化合物は、チタン酸化物であってもよく、またチタン酸化物を含有しているものであってもよい。チタン酸化物としては、主たる金属元素がチタンおよびケイ素からなる複合酸化物や超微粒子酸化チタンが挙げられる。製造方法は、特に限定されないが、例えば、チタンのアルコキシド化合物を原料として、加水分解反応により製造する方法において、この加水分解の速度を制御することによって得られる。具体的には、例えば主原料であるチタンアルコキシド化合物に対して、ケイ素やジルコニウム等の少量の他金属アルコキシド化合物や多価アルコール化合物を共存させ、両者の共沈法、部分加水分解法、配位化学ゾル・ゲル法等によって合成することができる。ここで共沈法とは2種あるいはそれ以上の成分を含有する所定の組成の溶液を調製し、その組成のまま加水分解反応を進行させる方法である。また、部分加水分解法とは、一方の成分をあらかじめ加水分解した状態としておき、そこへもう一方の成分を加えさらに加水分解を進行させる方法である。また、配位化学ゾル・ゲル法とは、チタンアルコキシド原料とともに分子内に官能基を複数持つ多価アルコール化合物等を共存させ、両者の間であらかじめ反応物を形成させることによって、その後の加水分解反応の速度を制御しようとするものである。以上のような化合物の合成方法は、例えば、上野ら、「金属アルコキシドを用いる触媒調製」、アイピーシー(1993)等に記載されている。超微粒子酸化チタンを触媒として用いた場合、数平均分子量が100,000より小さいと触媒活性が高く、チタン異物抑制の点で好ましい。超微粒子酸化チタンの数平均分子量はより好ましくは500〜100,000、更に好ましくは1,000〜50,000、特に好ましくは1,500〜20,000である。
【0013】
なお、本発明において触媒とは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体およびグリコールから合成されるポリマーにおいて、以下の(1)〜(3)の反応全てまたは一部の素反応の反応促進に実質的に寄与する化合物を指す。
(1)ジカルボン酸成分とグリコールとの反応であるエステル化反応。
(2)ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分とグリコールとの反応であるエステル交換反応。
(3)実質的にエステル反応またはエステル交換反応が終了し、得られたポリエチレンテレフタレート低重合体を脱ジオール反応にて高重合度化せしめる重合反応。
【0014】
従って、艶消し剤等に無機粒子として一般的に用いられている酸化チタン粒子は上記の反応に対して実質的に触媒作用を有しておらず、本発明において触媒として用いるチタン化合物とは異なる。
【0015】
本発明における触媒としてのチタン化合物は重合反応活性及び溶融熱安定性の点から、ポリエステル樹脂組成物に対してチタン原子換算で0.5〜50ppm含有させる必要がある。好ましくは1〜30ppm、より好ましくは3〜20ppmである。チタン原子換算で0.5ppm未満であると重合反応活性が不足し、溶融熱安定性が低下する。一方50ppmを超える場合にはチタン化合物起因の異物が発生しやすくなる。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂組成物の溶融熱安定性やワックス組成物の分散性の点から、ポリエステル樹脂組成物にリン化合物をリン原子換算で0.1〜100ppm含有する必要がある。好ましいリン原子含有量は、1〜80ppmであり、より好ましくは3〜50ppmである。リン原子換算で0.1ppm未満ではワックス組成物の分散性が低下し、チタン化合物起因の異物が形成され易くなる。一方、100ppmを超える場合にも、チタン化合物起因の異物が形成され易く、また重合反応時間が遅延しポリエステル樹脂組成物の生産性が低下する。
【0017】
本発明のリン化合物は、リン原子を含有している化合物であれば特に限定されないが、ワックス組成物の分散性、内容物取出性、保味保香性の点から下記式(2)で示される化合物が好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
(但し、式中、R1,R2,R3は炭素数1以上の炭化水素基である。Xは、カルボニル基、エステル基のいずれかを示す。m、nは、0または1である。)
例えばトリメチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテート、エチルジメチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、トリエチル3−ホスホノプロピネート、トリエチル2−ホスホノプロピネート、トリエチル2−ホスホノブチレート、tert−ブチルジエチルホスホノアセテート、ジエチルホスホノ酢酸、トリメチル2−ホスホノアクリレート、トリエチル4−ホスホノクロトネート、アリールジエチルホスホノアセテート、ジメチル(3−オキソプロプル)ホスホネート、ジメチル(3−フェノキシアセトニル)ホスホネート、ジエチル(3−オキソプロプル)ホスホネート、ジエチル(2−オキソ−2−フェニルエチル)ホスホネート、ジエチル(ヒドロキシメチル)ホスホネート等を挙げることができる。上記したリン化合物は、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのリン化合物のうちでも特に、ワックス組成物の分散性、内容物取出性、保味保香性の点からエチルジエチルホスホノアセテートが好ましい。
【0020】
本発明におけるワックス組成物は、市販の各種のワックス 、例えば石油系ワックス 、植物性ワックス 、動物系ワックス 、低分子量ポリオレフィン類などを使用することができ、特に制限されるものではないが、植物系ワックスの使用が内容物取出性、保味保香性の点で好ましい。植物系ワックスとしてはキャンデリラワックス 、カルナウバワックス 、木ロウ、オリーキューリーワックス 、サトウキビワックスなどが挙げられるが本発明においては特にカルナウバワックスが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物中のワックス組成物含有量は、ワックス分散性の点から0.1〜20重量%とする必要がある。好ましくは、0.2〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0022】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物にワックス組成物を添加する方法は、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。
(1)ポリエステル樹脂組成物製造工程の任意の段階でワックス組成物を含有せしめる方法。
(2)ポリエステル樹脂組成物とワックス組成物を混練機で混練せしめる方法。
中でも、ワックスの分散性を向上させ、フィルム製膜時の工程でのワックス汚れの抑制および、内容物取出性、成形加工性、保味保香性の点から(1)の方法が好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ワックス組成物の分散性、内容物取出性あるいは重合反応性、溶融熱安定性の点からチタン原子とリン原子が下記式(1)を満足することが必要である。リン原子に対するチタン原子の量比(Ti/P)が0.01〜10であるとポリエステル樹脂組成物の溶融熱安定性が良好となる上、ワックス分散性が著しく向上する。より好ましくは(Ti/P)は0.03〜8であり、さらに好ましくは0.05〜6である。(Ti/P)が0.01未満、あるいは10を超える場合、溶融熱安定性が低下する。さらに、ポリエステル樹脂組成物とワックス組成物の相互作用が阻害され、ワックス分散性が悪化する。
【0024】
0.01≦Ti/P≦10 ・・・(1)
(但し、式中のTi、Pは、各々ポリエステル樹脂組成物中に含有されるチタン原子の濃度(ppm)、リン原子の濃度(ppm)を表している。)
本発明は上述したように、チタン化合物とリン化合物とを特定量含有せしめ、かつワックス組成物を含有してなるポリエステル樹脂組成物である。特に、上記のチタン化合物および特定構造のリン化合物を使用することにより、ポリエステル樹脂組成物の重合反応性、溶融熱安定性、さらにはチタン化合物とリン化合物起因の粗大異物が抑制でき、かつポリエステル樹脂組成物とワックス組成物の相互作用により、ワックス組成物の分散性が向上し、内容物取出性に優れたものとなる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、次のいずれかのプロセスで製造される。すなわち、(1)ジカルボン酸とグリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(2)ジカルボン酸のエステル形成性誘導体とグリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。ここでエステル化反応は無触媒でも反応は進行するが、本発明のチタン化合物を触媒として添加してもよい。また、エステル交換反応においては、マンガン、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、リチウム等の元素を含む化合物や本発明のチタン触媒を用いて進行させ、またエステル交換反応が実質的に完結した後に、リン化合物を添加してもよい。さらにワックス組成物は上記のポリエステル樹脂組成物製造工程の任意の段階で、添加、含有せしめることができる。
【0026】
本発明においては、(1)または(2)の一連の反応途中の、任意の段階、好ましくは(1)または(2)の一連の反応の前半で得られた低重合体に、触媒として上記したチタン化合物を添加して重合反応を行ない、高分子量のポリエステル樹脂組成物を得ることができる。また、上記の反応は回分式、半回分式あるいは連続式等の形式で実施されるが、本発明の製造方法はそのいずれの形式にも適応し得る。 本発明のポリエステルフィルムは、未延伸のシート状でもよいし、一軸または二軸に延伸された延伸フィルムであってもよい。また、製造方法は、特に限定されるものではなく。例えば、以下の製法をあげることができる。すなわち、ポリエステル樹脂組成物を乾燥後、溶融押出しして未延伸シートとし、続いて二軸延伸、熱処理してフィルムにする。二軸延伸は縦、横逐次延伸あるいは二軸同時延伸のいずれでもよく、延伸倍率は、通常、縦、横それぞれ2〜5倍が適当である。また、二軸延伸後、さらに縦、横方向のいずれかに再延伸してもよい。この際、本発明のポリエステル樹脂組成物と各種のポリエステル樹脂組成物とを混合して、リン化合物量あるいはリン原子量を目的に応じて適宜変更することができる。また、混合するポリエステル樹脂組成物は本発明のポリエステル樹脂組成物のベースとなるポリエステル樹脂組成物と同一であっても、異なってもよい。
【0027】
上述した方法で、本発明のポリエステルフィルムを得ることができ、食品包装用等に好ましく使用でき、特に金属板貼合せ加工用として好適である。なお、フィルム中のチタン原子量、リン原子量およびワックス組成物の含有量は、これらの用途に応じて、適宜、設計することができる。
【0028】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の固有粘度は、得られるフィルムの強度、成形加工性等の点で、0.40〜1.00dl/g以上が好ましく、より好ましくは0.50〜0.90dl/gである。
【0029】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物には、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等、また各種の添加剤、例えばカルボジイミド、エポキシ化合物等の末端封鎖剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、蛍光増白剤等、さらにシリカ系無機粒子、炭酸カルシウム等の炭酸金属塩、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、二酸化チタン等の無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機粒子等も必要に応じて適宜含有していてもよい。
【実施例】
【0030】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
(1)チタン原子、リン原子の含有量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)で測定した。
(2)固有粘度
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
(3)ワックス分散性
ポリエステル樹脂組成物をプレパラート上にのせ、280℃のホットプレートで溶融させる。顕微鏡を用い、倍率50倍で10視野観察し、下記の通り分散性を判断した。
○:ワックス径が均一であり、視野内に均一に分散している。
△:ワックス径に若干のばらつきはあるが、視野内に均一に分散している。
×:ワックス径が不均一であり、視野内に均一に分散していない。
(4)内容物取出性
フィルムを、卵と肉と小麦粉を3:2:1に混合した内容物を詰めたビーカーに入れた後、125℃、30分レトルトし、取出して、フィルムへの付着量を下記に従い判定した。
○:0〜10重量%未満
△:10〜20重量%未満
×:20〜100重量%以下
(5)成型加工性
フィルムの融点+28℃に加熱したTFS鋼板(厚さ0.22mm)に65m/分でフィルムをラミネート後、45℃の水槽で急冷した。該ラミネート鋼板をリダクション率18%で成形した缶を得た。得られた缶の様子を10缶観察し下記のように判定した。
○:フィルムに白化、亀裂、重なり皺がない。
△:フィルムに重なり皺や少しの白化が見られるが、亀裂はない。
×:フィルムに白化、亀裂、重なり皺が見られる。
(6)保味保香性
フィルムを長さ500mm、幅10mmの短冊状に切断し、ステンレス製密閉容器(容量0.5dm3)に水300g、フィルム0.5gを入れ、130℃30分間の加圧蒸気処理を行なった。処理後5℃まで一旦冷却し、その後常温にてフィルムからの溶出成分による濁度測定を濁度計(安井器械製 高感度濁度・色度計 TUB801)にて行ない、以下の基準で評価を行なった。なお、濁度の測定にあたっては、予め水質試験用濁度標準液(和光純薬(株)製)にて検量線を作成して行なった。
○:0.10未満
△:0.10〜0.15未満
×:0.15以上

なお、以下に触媒の合成方法を記す。
【0031】
参考例1(クエン酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器および温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)を仕込み、これにクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、その後イソプロパノール/水混合物を減圧下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、その撹拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、80モル)と混合し、減圧下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量3.85重量%)を得た。これをエチレングリコールで希釈し、チタン化合物1重量%のエチレングリコール溶液を得た。これを触媒Aとした。
【0032】
参考例2(乳酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器および温度計を備えた1Lのフラスコ中に撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(285g、1.00モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(218g、3.51モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節した。その反応混合物を15分間撹拌して、その反応フラスコに乳酸アンモニウム(252g、2.00モル)の85重量/重量%水溶液を加え、透明な淡黄色の生成物(Ti含有量6.54重量%)を得た。これをエチレングリコールで希釈し、チタン化合物1重量%のエチレングリコール溶液を得た。これを触媒Bとした。
【0033】
参考例3(チタンアルコキシド化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器および温度計を備えた2Lのフラスコ中で撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(285g、1.00モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(496g、8.00モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節した。その反応フラスコに、NaOH(125g、1.00モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えて透明な黄色の液体を得た(Ti含有量4.44重量%)。これをエチレングリコールで希釈し、チタン化合物1重量%のエチレングリコール溶液を得た。これを触媒Cとした。
【0034】
実施例1
(ポリエステル樹脂組成物の製造)
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール70重量部とを酢酸カルシウム・1水和物0.09重量部を触媒として140〜230℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、参考例3の触媒Cをチタン原子として5ppmとなるように添加し、リン化合物としてエチルジエチルホノアセテートをリン原子として10ppmとなるように添加し、次いでワックス組成物としてカルナウバワックスが2重量%となるように添加した。引き続いて、反応系を100Paまで徐々に下げ、290℃に昇温し、重合反応を終了した。ポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示した。固有粘度0.620dl/gであり、ワックス組成物の分散性は良好であった。
(ポリエステルフィルムの製造)
上述と同様の方法で、ワックス組成物を添加していないポリエステル樹脂組成物を製造し、次いで、得られたワックス組成物含有ポリエステル樹脂組成物とワックス組成物を含有しないポリエステル樹脂組成物とをワックス組成物が0.015重量%となるように混合した後、減圧乾燥機にて乾燥し、押出機に供給した。ポリエチレンテレフタレート樹脂は押出機にて280℃で溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、Tダイに供給しシート状に成形した後、ワイヤー状電極にて静電印加しながら、表面温度20℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。得られたキャストフィルムは、90℃に設定したロール群で加熱し、縦方向に3.0倍延伸後、テンターに導き、100℃の熱風で予熱後、横方向に3.3倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で200℃の熱風にて熱処理を行い、室温まで徐冷後、巻き取った。得られたフィルムの厚みは、50μmであった。ポリエステルフィルムの特性を表1に示した。フィルムの内容物取出性、成型加工性、保味保香性ともに良好であった。
【0035】
実施例2〜9
チタン触媒、リン化合物の種類や量、ワックス組成物を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物およびフィルムを得た。特性結果を表1に示す。いずれも本発明の範囲内で、得られたポリエステル樹脂組成物はワックス分散性に優れ、またポリエステルフィルムは内容物取出性、成型加工性、保味保香性ともに良好であった。
【0036】
比較例1〜6
チタン触媒、リン化合物の種類や量、ワックス組成物を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物およびフィルムを得た。なお、比較例3は、重合用触媒として三酸化アンチモンを、アンチモン原子として250ppmとなるように、比較例4は、重合用触媒として二酸化ゲルマニウムを、ゲルマニウム原子として50ppmとなるように添加した。以上の特性結果を表1に示す。得られたポリエステル樹脂組成物は、いずれもワックス分散性に劣るものであった。また、ポリエステルフィルムは、内容物取出性、成型加工性、保味保香性を兼備するものはなく、いずれも品質特性に劣るものであった。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物をチタン原子換算で0.5〜50ppm含有し、リン化合物をリン原子換算で0.1〜100ppm含有し、さらに、チタン原子とリン原子の比が下記式(1)を満足し、かつワックス組成物を0.1〜20重量%含有してなるポリエステル樹脂組成物。
0.01≦Ti/P≦10 ・・・(1)
(但し、式中のTi、Pは、各々ポリエステル樹脂組成物中に含有されるチタン原子の濃度(ppm)、リン原子の濃度(ppm)を表している。)
【請求項2】
リン化合物が下記式(2)で示される化合物である請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(但し、式中、R1,R2,R3は炭素数1以上の炭化水素基である。Xは、カルボニル基、エステル基のいずれかを示す。m、nは、0または1である。)
【請求項3】
チタン化合物を触媒として用いたものである請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
チタン化合物がチタン酸化物、またはチタン酸化物を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
アルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有しているチタン化合物を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
チタン化合物のアルコキシ基がβ−ジケトン系官能基、ヒドロキシ多価カルボン酸系官能基およびケトエステル系官能基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基である、請求項5に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
チタン化合物のアシレート基が多価カルボン酸系官能基または含窒素多価カルボン酸系官能基である、請求項5に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
チタン化合物が脂肪族アルコキシ基または脂肪族アシレート基を有している、請求項5〜7のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項10】
食品包装用である請求項9に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
金属板貼合せ用である請求項9に記載のポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−16423(P2006−16423A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192897(P2004−192897)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】