説明

ポリエステル系樹脂組成物

【課題】耐熱性に優れ、加熱、加圧することなく貼り付け可能であり、熱履歴後であっても剥離可能な粘着テープ等に使用される粘着剤用ポリエステル系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】粘着剤用ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤と、特定のビスマレイミド系化合物とを含有し、この粘着剤用ポリエステル系樹脂組成物を加熱処理した後紫外線照射処理することにより、ポリエステル系粘着剤を製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、良好な耐熱性を有し、加熱、加圧することなく貼り付け可能で、熱履歴後においても剥離可能な粘着テープに使用することができる粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着剤、感圧型接着剤の分野において、粘着剤用の樹脂組成物としては、アクリル酸エステルを主体としたアクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が一般的に使用されている。しかしながら、このような合成樹脂を主体とした樹脂組成物は、分子骨格上剛性に欠け、耐熱性に乏しいため、これらの樹脂組成物を用いた粘着剤は、耐熱性に欠けるものとなってしまう。そこで、粘着テープに使用される粘着剤用の樹脂組成物としてポリエステル系樹脂組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱接着性に優れ、接着後のシール部分がタフな性質を有するポリエステル系樹脂積層フィルムに使用される粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、高い初期粘着性を有し、機械的強度、粘着性能、耐熱性に優れた粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物が開示されている。特許文献3には、特定の芳香族ジカルボン酸と多価アルコールが縮重合してなる、指程度の圧力で十分な接着力を発揮し、粘着性、耐熱性、機械的強度を有するポリエステル系粘着剤用の樹脂組成物が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献4には、粘着テープ等の粘着剤に使用した場合に、加熱を必要とせずに優れた密着性を示し、再剥離した場合に相手側の材料表面に付着残存しないポリエステル系粘着剤用の非晶性ポリエステル系樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−038343号公報
【特許文献2】特開2007−45913号公報
【特許文献3】特開2007−45914号公報
【特許文献4】特開平4−328186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物は、高いガラス転移温度及び融点を有し、ポリエステル樹脂を高密度に架橋させたものであるため、室温においては、非常に高い硬度を有するものとなっている。このため、上記ポリエステル系樹脂組成物を使用して積層フィルムを製造するためには、加熱が必要となり、加熱するための装置が必要となる。また、特許文献2及び3に開示された粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物は、いずれも80℃程度における耐熱性を有するに過ぎないものであり、その耐熱性は十分でない。また、特許文献4に開示されたポリエステル系樹脂を含有する粘着剤を製造する場合、ポリエステル系樹脂組成物を溶媒に溶解した溶液を基板に塗布して塗布膜を形成させ、180℃にて5分間程度乾燥させ、さらに室温にて10日間も放置しなければならないという製造工程上の不都合があった。すなわち、特許文献4に開示されたポリエステル系樹脂組成物を粘着剤の原料として使用するためには、高温度における乾燥と長期間のエージングが必要であった。
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性を有し、加熱、加圧することなく貼り付け可能であり、熱履歴後であっても剥離可能な粘着テープに使用される粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、優れた耐熱性を有し、加熱、加圧することなく貼り付け可能であり、熱履歴後であっても剥離可能な粘着テープ等に使用することができるポリエステル系粘着剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤、ビスマレイミド系化合物を含有するポリエステル系樹脂組成物が上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤と、下記一般式で示されるビスマレイミド系化合物と、を含有することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
【化1】


(上記一般式中、Zは、2価の有機基である。)
【0010】
(2) 上記ポリエステル系樹脂は、両末端に水酸基を有し、数平均分子量が0.5〜5.0万であり、ガラス転移温度(Tg)が−60〜25℃であることを特徴とする(1)記載のポリエステル系樹脂組成物。
【0011】
(3) 上記イソシアネート系架橋剤が、下記一般式で示されるイソシアネート化合物であることを特徴とする(1)又は(2)記載のポリエステル系樹脂組成物。
【化2】

(上記一般式中、Rは、炭素数1〜18の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基、脂環基、その他の置換基を含んでいてもよい。)
【0012】
(4) 上記イソシアネート系架橋剤が、芳香族イソシアネート系化合物、脂肪族イソシアネート系化合物、脂環族イソシアネート系化合物より選ばれる少なくとも1種類のイソシアネート系化合物であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載のポリエステル系樹脂組成物。
【0013】
(5) 上記ポリエステル系樹脂組成物に、さらにフッ素系樹脂が含まれていることを特徴とする(1)〜(4)いずれか記載のポリエステル系樹脂組成物。
【0014】
(6) (1)〜(5)いずれか記載のポリエステル系樹脂組成物を架橋処理することを特徴とするポリエステル系粘着剤の製造方法。
【0015】
(7) 上記架橋処理は、上記ポリエステル系樹脂組成物を加熱処理した後、紫外線照射処理することを特徴とする(6)記載のポリエステル系粘着剤の製造方法。
【0016】
(8) (6)又は(7)記載の製造方法によって得られたポリエステル系粘着剤を備えたことを特徴とする粘着テープ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、加熱、加圧をすることなく、貼り付け可能で、熱履歴後においても剥離可能な粘着テープ等に使用することができる粘着剤用のポリエステル系樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、優れた耐熱性を有し、加熱、加圧をすることなく、貼り付け可能で、熱履歴後においても剥離可能な粘着テープ等に使用することができるポリエステル系粘着剤の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明のポリエステル系粘着剤は、ポリエステル系樹脂とイソシアネート系架橋剤とビスマレイミド系化合物とを所定量含有するポリエステル系樹脂組成物を架橋処理して得られるものである。以下、ポリエステル系樹脂組成物及びポリエステル系粘着剤の製造方法について説明する。
【0020】
<ポリエステル系樹脂組成物>
ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂とイソシアネート系架橋剤とビスマレイミド系化合物とを含有する。
【0021】
(主剤:「ポリエステル系樹脂」)
ポリエステル系樹脂組成物は、主剤成分として、ポリエステル系樹脂を含有する。ポリエステル系樹脂は、イソシアネート基に対して反応性の高い官能基を有することによって、架橋剤と反応することができ、ポリエステル系樹脂の相互間を架橋することができる。そして、ポリエステル系樹脂の相互間を架橋することによって、ポリエステル系粘着剤の硬度を向上させることができる。なお、ポリエステル系樹脂は、当該樹脂の末端(重合反応停止末端)に少なくとも1つは水酸基を有するので、イソシアネート基と反応することができる。
【0022】
上記ポリエステル系樹脂は、一般的に知られているエステル交換法、直接重合法等の種々の製造方法によって製造することができる。上記いずれの製造方法を使用した場合であっても、ポリエステル系樹脂は、その末端(重合反応停止末端)に水酸基を有する。上記ポリエステル系樹脂の製造方法としては、例えば、脂肪族又は芳香族カルボン酸を触媒の存在下で多価アルコールと反応させるエステル交換反応を例示することができる。
【0023】
上記製造方法において、使用することができる脂肪族カルボン酸としては、特に制限されるものではないが、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等を例示することができる。また、芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸を例示することができる。上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレングリコール等を例示することができる。
【0024】
また、上記ポリエステル系樹脂の製造方法としては、芳香族エステルと多価アルコールとを触媒の存在下において反応させる、エステル分解反応を例示することができる。上記製造方法において使用することができる芳香族エステルとしては、例えば、ジブチルフタレート、ジメチルテレフタレート、ジメチルフタレート等を例示することができ、多価アルコールとしては、上記と同様の多価アルコールを使用することができる。
【0025】
さらに、上記ポリエステル系樹脂の製造方法としては、多塩基酸、分岐ジオール及び水添ポリブタジエンポリオールを触媒の存在下で反応させる製造方法を例示することができる。上記製造方法において使用することができる多塩基酸は、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、ダイマー酸の水添物等を例示することができ、分岐ジオールとしては、2,2’−ブチルエチルプロパンジオール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等を例示することができる。
【0026】
上記ポリエステル系樹脂の分子量は、0.5〜5.0万であることが好ましい。ポリエステル系樹脂の分子量が0.5万以上であると、ポリエステル系樹脂の結晶性が向上し、粘着剤が200℃以上の高温においても耐熱性を有することができるため好ましく、5.0万以下であると、ポリエステル系樹脂製造上の観点より好ましい。
【0027】
また、上記ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−60〜25℃であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が−60℃以上であると、ポリエステル系粘着剤を熱硬化させた場合であってもその凝集力を維持することができ、粘着剤としての接着強度が低下しないため好ましく、25℃以下であると、ポリエステル系樹脂自体の粘着性が乏しくならないため好ましい。
【0028】
(架橋剤「イソシアネート系架橋剤」)
上記ポリエステル系樹脂組成物は、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を含有する。イソシアネート系架橋剤は、ポリエステル系樹脂を架橋することができるものであれば、特に制限されるものではないが、上記ポリエステル系樹脂を高密度で架橋することができるものであることが好ましい。上記イソシアネート系架橋剤としては、1分子あたり2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を含有していることが好ましい。イソシアネート化合物が2つ以上のイソシアネート基を有するものであれば、効果的にポリエステル系樹脂を架橋反応により重合させることができる。
【0029】
1分子あたり2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、下記一般式で表されるイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0030】
【化3】

(上記一般式中、Rは、炭素数1〜18の2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基、脂環基、その他の置換基を含んでいてもよい。)
【0031】
上記イソシアネート化合物としては、具体的に、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類等を例示することができる。
【0032】
また、イソシアヌレート体の付加物を使用することもできる。イソシアヌレート体の付加物としては、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートHL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン工業株式会社製)等を例示することができる。なお、これらのイソシアネート化合物は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
イソシアネート系架橋剤は、ポリエステル系樹脂組成物に含有されているものであるが、その含有量は100質量部のポリエステル系樹脂に対して、1.0〜40.0質量部であることが好ましく、より好ましくは5.0〜30.0質量部の範囲で含有される。1.0質量部以上であるとポリエステル系樹脂の架橋度を大きくすることができ、粘着剤の耐熱性が優れたものになるため好ましく、40.0質量部以下であると粘着剤を粘着性に優れたものとすることができるため好ましい。
【0034】
(ビスマレイミド系化合物)
上記ポリエステル系樹脂組成物は、上記イソシアネート系架橋剤を含有し、さらに、下記一般式で表されるビスマレイミド系化合物を含有する。ビスマレイミド系化合物は、加熱により硬化し、耐久性に優れたものである。下記一般式で表されるビスマレイミド系化合物は、酸無水物である無水マレイン酸とアミンの反応により生成するマレイミド化合物二分子を架橋させたものである。また、下記一般式で表されるイミド化合物は、窒素原子を含有する五員環を2つ有し、各々の五員環が有機基で架橋されている構造を有している。このような化学構造を有するビスマレイミド系化合物をポリエステル系樹脂組成物に含有させることにより、当該樹脂組成物を用いた粘着剤の耐熱性を向上させることができる。
【0035】
【化4】

(上記一般式中、Zは、2価の有機基である。)
【0036】
上記ポリエステル系樹脂組成物に使用することができるビスマレイミド系化合物としては、具体的にN,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルオキシ)ビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルスルホン)ビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−2,4−トリレンビスマレイミド、N,N’−2,6−トリレンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−{4,4’−〔2,2’−ビス(4’’,4’’’−フェノキシフェニル)イソプロピリデン〕}ビスマレイミド、N,N’−{4,4’−〔2,2’−ビス(4’’,4’’’−フェノキシフェニル)ヘキサフルオロイソプロピリデン〕}ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−ビス(3,5−ジエチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−(3−メチル−5−エチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−ビス(3,5−ジイソプロピルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジシクロヘキシルメタン)ビスマレイミド、N,N’−p−キシリレンビスマレイミド、N,N’−m−キシリレンビスマレイミド、N,N’−(1,3−ジメチレンシクロヘキサン)ビスマレイミド、N,N’−(1,4−ジメチレンシクロヘキサン)ビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド等を例示することができる。
【0037】
これらのビスマレイミド系化合物中でも、粘着剤の耐熱性を向上させる観点からN,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−(3−メチル−5−エチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミドが好ましい。
【0038】
ポリエステル系樹脂組成物におけるビスマレイミド系化合物の含有量は、ポリエステル系樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜20.0質量部であることが好ましく、より好ましくは1.0〜10.0質量部の範囲で含有される。0.5質量部以上であるとポリエステル系樹脂の架橋度を高くすることができ、粘着剤の耐熱性が優れたものになるため好ましく、20.0質量部以下であると粘着剤の粘着性を優れたものとすることができるため好ましい。
【0039】
(酸化防止剤)
上記ポリエステル系樹脂組成物は、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤は、ポリエステル系樹脂組成物の耐熱性を向上させることができるものであれば、特に限定されるものではない。酸化防止剤としては、具体的にヒンダードアミン誘導体、ヒンダードフェノール誘導体、リン系化合物、イオウ系化合物、ヒドロキシル系化合物、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体等が例示される。上記酸化防止剤の中でも、ヒンダードフェノール誘導体又はベンゾトリアゾール誘導体が好ましい。このような酸化防止剤がポリエステル系樹脂組成物に含まれることにより、たとえ200℃を超えるような高温熱履歴をかけた場合であってもポリエステル系粘着剤が劣化することを効果的に抑制することができるため好ましい。
【0040】
酸化防止剤の含有量は、上記ポリエステル系樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜10.0質量部の範囲であることが好ましい。酸化防止剤の含有量が0.1質量部以上であると、粘着剤の酸化劣化を抑制する能力が向上するため好ましく、酸化防止剤の含有量が10.0質量部以下であると酸化防止剤のブリードによる糊残りが生じるおそれがないため好ましい。
【0041】
(フッ素系樹脂)
上記ポリエステル系樹脂組成物は、さらにフッ素系樹脂を含有していてもよい。フッ素系樹脂は、ポリエステル系粘着剤に再剥離性を付与するため、又は向上させるために含有される。
【0042】
上記フッ素系樹脂としては、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル等のオレフィン系樹脂に反応性基を有するモノマーを共重合させた重合体、又はそれらの2種類以上を組み合わせた共重合体等を例示することができる。さらにエチレンやプロピレン、アルキルビニルエーテル等を加えて重合させてなるフッ素樹脂共重合体でもよい。これらのフッ素系樹脂の中でも、特に反応性基を有するフッ素含有オレフィン系樹脂は、含有するフッ素量が多く、耐熱性に優れたものであるため好ましい。
【0043】
さらに、好ましいフッ素系樹脂としては、具体的に(1)フルオロオレフィンと、(2)ビニルエーテル、ビニルエステル等の炭化水素系モノマーとを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体であり、かつ水酸基、カルボキシ基、エポキシ基等の官能基を有するフッ素系樹脂が挙げられる。なお、ここで、上記「(1)フルオロオレフィン」とは、オレフィンの水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されているものを包含する概念である。例えば、オレフィンの水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されている化合物と、下記に例示する様に、オレフィンの水素原子がフッ素原子で置換されるとともに、残りの水素原子の一部又は全部が塩素原子等の他の原子で置換されている化合物である。
【0044】
上記官能基を有するフッ素系樹脂は、例えば、原料モノマーに、上記(1)と(2)のモノマー原料を加えて、さらに反応性基を有するモノマー原料を配合し、共重合させることによって得ることができる。また、上記フッ素系樹脂のビニル基等の不飽和結合を有するフッ素系樹脂を製造した後、このビニル基等の不飽和結合にエポキシ基等の反応性基を導入することによって得ることができる。反応性基を有するモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のビニル結合と反応性基を有するモノマーを挙げることができる。
【0045】
これらのフッ素系樹脂の中でも、特に被着体と接着させた場合に糊残りがなく剥離可能とすることができるポリエステル系粘着剤を提供できることから、フルオロオレフィンとビニルエーテルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体、フルオロオレフィンとビニルエステルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体が好ましい。特に上記共重合体は、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基等の官能基を有するフッ素系樹脂であることが好ましい。
【0046】
これらのフッ素系樹脂の中で市販されているものとしては、例えば、水酸基及びカルボキシル基を有するフルオロエチレンビニルエーテル共重合体(旭硝子社製 商品名:「ルミフロン」)を挙げることができる。
【0047】
フッ素系樹脂の含有量は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、好ましくは1.0〜40.0質量部、より好ましくは、10.0〜30.0質量部である。1.0質量部以上であると、粘着剤の剥離性が向上し、糊残りを防ぐことができるため好ましい。一方、40.0質量部以下であると、ポリエステル系樹脂等の他の樹脂成分との相溶性が向上し、製造上有利であるため好ましい。なお、上記フッ素系樹脂は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0048】
ポリエステル系樹脂組成物から製造される粘着剤の剥離力をさらに向上させる必要がある場合は、さらにフッ素系添加剤を含有させることもできる。上記フッ素系添加剤としては、含フッ素グラフトポリマー、含フッ素ブロックコポリマー、含フッ素脂肪族系ポリマーエステル(これらはオリゴマーであってもよい)等を挙げることができる。
【0049】
上記含フッ素グラフトポリマーとしては、具体的に含フッ素アクリル系グラフトポリマーを例示することができ、市販品としては、綜研化学社製の商品名:ケミトリー LF−700等を挙げることができる。なお、含フッ素アクリル系グラフトポリマーとは、幹ポリマーとこの幹ポリマーから伸びる複数の枝ポリマーとからなり、幹ポリマーはアクリル系ポリマーからなり、枝ポリマーは、フッ素を含有するポリマーからなるものである。
【0050】
上記含フッ素ブロックコポリマーとしては、フッ化アルキル基含有重合体セグメントとアクリル系重合体セグメントからなるブロックコポリマーを例示することができる。例えば、市販品として、日本油脂社製の商品名:モディパーFシリーズ(モディパーF200、モディパーF220、モディパーF2020、モディパーF3035、モディパーF600)を例示することができる。また、含フッ素脂肪族系ポリマーエステルとしては、ノニオン界面活性剤としての特性を有するものが好ましい。例えば、市販品として、スリーエム社製の商品名:ノベック FC−4430等を挙げることができる。これらの含フッ素ブロックコポリマーの中でも、特にポリエステル系粘着剤のモールド樹脂の漏れ防止を可能とし、糊残りをなくすことができるため、含フッ素グラフトポリマー、又は含フッ素ブロックコポリマーが好ましい。
【0051】
(溶剤)
ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤と、ビスマレイミド系化合物を含有するが、基材への良好な塗布性及びハンドリング適正を得るために溶剤成分が含まれていてもよい。このような溶剤成分としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル、N,N−ジメチルアセチルアミド等のアミド、1,3−ジオキソラン等を挙げることができるが、これに限定されない。なお、ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤と、ビスマレイミド系化合物を含有し、その他必要に応じてその他の添加物を含有して構成されるが、ポリエステル系樹脂で使用される溶剤成分、イソシアネート系架橋剤で使用される溶剤成分、ビスマレイミド系化合物で使用される溶剤成分、その他の添加剤で使用される溶剤は、それぞれ独立に選択され、同一でも異なっていてもよい。
【0052】
(主剤及び架橋剤等の配合)
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、上記ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤とビスマレイミド系化合物の各成分を十分に混練させて得ることができる。ポリエステル系樹脂組成物の上記の各成分を配合する方法は、特に制限されるものではないが、上記のように各成分を溶剤に溶解し混合する方法の他、ニーダーロール等の機械的方法によっても混練することができる。
【0053】
<ポリエステル系粘着剤の製造方法>
本発明のポリエステル系粘着剤は、上記ポリエステル系樹脂組成物を原料として製造される。以下、ポリエステル系粘着剤の製造方法について説明する。
【0054】
(ポリエステル系粘着剤形成用塗布液の製造)
ポリエステル系粘着剤を製造するためには、上記ポリエステル系樹脂組成物を溶剤に溶解させ、十分に混合することによって、ポリエステル系粘着剤形成用塗布液とする。上記塗布液を基材シート面上に塗布し、塗布液層を形成させ、当該塗布液層を加熱することによりポリエステル系粘着剤を形成する。具体的には、ポリエステル系樹脂組成物を構成するポリエステル系樹脂、イソシアネート系架橋剤、ビスマレイミド系化合物、その他必要に応じてフッ素系樹脂を溶剤に添加して十分に混合し、ポリエステル系樹脂組成物の溶液を製造し、これをポリエステル系粘着剤形成用塗布液とする。
【0055】
(ポリエステル系粘着剤形成用塗布液の塗布)
上記ポリエステル系粘着剤形成用塗布液を基材シート面上に塗布して、当該塗布液の塗布膜を形成する。ポリエステル系粘着剤形成用塗布液を基材シート面上に塗布する方法は、特に限定されるものではないが、ダイレクトグラビアコート法、グラビアリバースコート法、マイクログラビアコート法、ファンテンコート法、ディッピング法、コンマコート法、ダイコート法、はけ塗り等の公知の塗布方式を適宜採用することができる。
【0056】
(加熱による架橋処理)
基材シート面上に形成されたポリエステル系粘着剤形成用塗布液の塗布膜は、後述する加熱等による架橋処理を施すことにより、ポリエステル系樹脂組成物が硬化して粘着剤となる。すなわち、ポリエステル系粘着剤形成用塗布液の塗布膜の内部においては、ポリエステル系粘着剤の主剤成分であるポリエステル系樹脂に含まれる水酸基と、架橋剤の成分であるイソシアネート系架橋剤に含まれるイソシアネート基とが反応して、ウレタン結合を形成する硬化反応が進行する。この硬化反応によってポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂は、架橋され高分子量化する。ポリエステル系樹脂が十分に架橋されると、ポリエステル系粘着剤形成用塗布液の塗布膜は、硬化し、ポリエステル系粘着剤となる。
【0057】
上記加熱の条件としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル系粘着剤形成用塗布液の塗布膜を乾燥することができ、ポリエステル系樹脂とイソシアネート系架橋剤とが硬化反応することができる温度及び時間であればよい。例えば、ポリエステル系粘着剤を粘着テープとして使用する場合には、加熱温度を100〜150℃とし、その加熱時間を3.0〜5.0分とすることが好ましい。
【0058】
ポリエステル系粘着剤の厚みは、3.0μm以上50.0μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5.0μm以上20.0μm以下の範囲内である。粘着剤の厚みが3.0μm以下であると粘着強度が不足し、被着体への貼り付け性が低下する点で好ましくなく、50.0μm以上であると粘着テープを貼り付けられた被着体の熱履歴後に粘着テープを被着体から剥離した際に被着体に糊残りが生じる虞があることから好ましくない。
【0059】
(紫外線照射による架橋処理)
本発明のポリエステル系粘着剤の製造方法においては、ポリエステル系樹脂組成物に含まれる架橋剤がビスマレイミド系化合物のように紫外線等のエネルギー線を受けることによって架橋重合反応を促進させるようなものである場合には、紫外線等のエネルギー線を照射してもよい。
【0060】
上記紫外線照射する条件としては、特に制限されるものではないが、必要とされるポリエステル系粘着剤の架橋度によって、紫外線照射量を適宜設定することができる。ポリエステル系粘着剤を粘着テープに使用する場合には、50〜1000mJ/cm、好ましくは、100〜500mJ/cmの紫外線を照射することが好ましい。紫外線照射量が50mJ/cm以上であると、ポリエステル系樹脂を部分的に三次元架橋体とすることができるため好ましく、紫外線照射量が1000mJ/cm以下であると、ポリエステル系粘着剤の粘着性を低下させることがないため好ましい。
【0061】
<粘着テープ>
本発明の粘着テープは、上記ポリエステル系粘着剤からなる粘着剤層を備えたことを特徴とする。粘着テープは、基材と上記ポリエステル系粘着剤からなる粘着剤層を備えた積層体である。なお、本発明でいう粘着テープは、粘着シート、粘着フィルムを含む概念である。
【0062】
(基材)
粘着テープに使用することができる基材としては、耐熱性に優れたものであれば、特に限定されるものではなく、粘着テープの用途に応じて、適宜選択することができる。例えば、光透過性、必要な強度、及び柔軟性を有する基材であってもよく、一般的には、合成樹脂フィルムが用いられる。上記合成樹脂フィルムとしては、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の公知の樹脂フィルムが挙げられる。これらの合成樹脂フィルムの材料の中でも耐熱性に優れることから、ポリイミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルムが好ましい。また、これらの基材は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、単層であってもよいし、2層以上の積層体であってもよい。また、粘着テープの機械的強度の観点から、一軸延伸や二軸延伸した延伸フィルムであってもよい。
【0063】
ポリエステル系樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等の樹脂フィルムが挙げられるが、これらの中でも、取り扱い易く、低価格であるとの観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムが特に好ましい。また、ポリイミド系樹脂フィルムとしては、通常工業的に使用されている芳香族ポリイミド系樹脂フィルムを例示することができる。
【0064】
基材の厚みは、特に限定されず、粘着テープの用途に応じて適宜選択することができる。通常、5〜200μm程度であるが、好ましくは50〜150μmである。上記範囲であれば、機械的強度が十分であり、反り、弛み、破断等を生じ難く、かつ作業性が良好となるからである。また、基材を連続帯状に供給して製造することも可能である。なお、基材の厚さが上記の範囲を超えると、過剰性能でコスト高になる場合があるため好ましくない。
【0065】
このようなフィルムとしては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等からなるフィルムが例示されるが、耐熱性に優れる点で、特にポリイミド樹脂からなるフィルムが好ましい。
【0066】
なお、基材の形成方法は、特に限定されず、例えば、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法等の従来公知の製膜方法を用いることができる。また、上記方法により、あらかじめフィルム状に製膜された市販の基材を使用してもよい。なお、基材表面は、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理等の公知の易接着処理を施されていてもよい。
【0067】
(粘着テープの被着体)
粘着テープの被着体としては、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アルミニウム、ステンレス、鉛、ブリキ、トタン、めっきパラジウム等の各種金属、ガラス、コンクリート等の各種無機物、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ゴム、熱硬化性樹脂等の高分子化合物、木材、織物、革等で特に制限されるものではない。
【0068】
以上、本発明を具体的に説明したが、本発明は、上記の実施態様に限定されるものではなく、本発明の構成の範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。例えば、上記実施態様では、基材上に粘着剤からなる粘着剤層を形成させて粘着テープとしたが、これに限定されず、さらに複数の基材を積層させて、基材層間に粘着剤からなる粘着剤層を形成させた粘着テープ(両面テープ等)としてもよい。
【0069】
<バックテープへの適用>
さらに、本発明のポリエステル系樹脂組成物を用いた粘着剤を備えた粘着テープは、QFN(Quad Flat Non−leaded Package)等の半導体製品組立用テープ、半導体製品の樹脂封止工程におけるバックテープ、樹脂バリ対策用バックテープへの適用も可能である。さらには、発光ダイオード(LED)製造用のバックテープにも適応可能である。なお、上記で説明したようにバックテープの基材となる樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンナフタレート樹脂等が用いられる。
【0070】
粘着テープがリードフレーム(QFN)製造用のバックテープである場合には、リードフレーム(QFN)等の半導体製品を製造する各工程を実施する際の最も高い処理温度(工程最高処理温度)を超える融点を有する基材が好ましい。なお、上記基材は、粘着テープをリードフレーム(QFN)に貼り付ける貼付工程やリードフレームから取り除く剥離工程を容易に行うために、柔軟性を有するフィルムであることが好ましい。ただし、柔軟性を有するフィルムは、半導体製品を製造する各工程を実施する際の温度範囲で過剰な膨張を生じないものであることが好ましい。
【0071】
上記では粘着テープが、QFNプロセスで半導体製品が製造される際に用いられる半導体製品組立用テープである場合を例として説明したが、上記粘着テープは、QFNプロセスに用いるものに限定されず、SONプロセス、DFN(Dual Flat Non−leaded Package)プロセス等、広く、ダイパッドにチップを固定した状態にして樹脂を封止するように構成されるパッケージプロセスに用いられる半導体製品組立用テープであってもよい。さらに、この粘着テープは、パッケージプロセスの途中の必要なプロセスにのみ使用される半導体組立用テープとしての用途以外に、最終製品の接着層を形成するために用いるテープとして永久的に接着する用途でも適応可能である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
<実施例1〜20及び比較例1〜3:粘着テープの製造>
表1に示した成分からなるポリエステル系樹脂組成物を十分に混合して溶融し、ポリエステル系樹脂組成物の溶液を作製した。このポリエステル系樹脂組成物の溶液をポリエステル系粘着剤形成用塗布液とした。基材となるポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名「カプトン100V」、厚さ25μm)の片面に、乾燥後の厚さが5.0μmになるようにベーカー式アプリケーターを用いて一面塗布してポリエステル系粘着剤形成用塗布液を用いて、当該溶液の塗布膜を作製した。
【0074】
なお、表1においてポリエステル系樹脂組成物に含有されるポリエステル系樹脂、イソシアネート系架橋剤、ビスマレイミド系化合物、酸化防止剤、フッ素系樹脂及び溶剤は、以下のものを使用した。
ポリエステル系樹脂:高分子量飽和共重ポリエステル樹脂(「NP−101S50EO」日本合成化学工業社製)
イソシアネート系架橋剤:トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(商品名「コロネートL」)
イソシアネート系架橋剤:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名「コロネートHX」)
イソシアネート系架橋剤:トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートHL」)
イソシアネート系架橋剤:キシリレンジイソシアネートからなる芳香族イソシアネート系架橋剤イソシアネート付加物(商品名「TD75」)
架橋剤1:イソシアネート系架橋剤(ブロックイソシアネート系化合物、商品名「コロネート2507」)
ビスマレイミド系化合物:N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド(BMI−1)
ビスマレイミド系化合物:m−フェニレンビスマレイミド(BMI−2)
ビスマレイミド系化合物:ポリフェニルメタンマレイミド(BMI−3)
ビスマレイミド系化合物:N,N’−〔4,4’−(3−メチル−5−エチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド(BMI−4)
ビスマレイミド系化合物:4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド(BMI−5)
ビスアリルナジイミド系化合物:(ビスアリルナジイミド系化合物、商品名「BANI−M」)
酸化防止剤:ヒンダード系酸化防止剤(商品名「IRGANOX1010」)
フッ素系樹脂:フルオロエチレン/ビニルエーテル交互重合体(商品名「ルミフロンLF200」)
溶剤:1,3−ジオキソラン
【0075】
次に、上記塗布膜を高温槽にて120℃×5分間加熱し、紫外線照射装置にて紫外線を300mJ/cm照射し、当該塗布膜に含まれるポリエステル系樹脂とイソシアネート系架橋剤による架橋重合反応を進行させ、粘着剤となすことで、粘着テープを得た。なお、上記加熱は、高温槽(楠本化成株式会社製、エタック高温槽HT320)を使用して行った。
【0076】
なお、実施例及び比較例において、紫外線照射は、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムズ社製)、VPS/I600(コンベア付UV照射装置)により行った。この紫外線照射装置において、ランプとして、Hバルブを用い、UV照射条件は、ランプ出力60%、コンベアースピード10m/minとした。
【0077】
なお、紫外線照射は、塗布膜を形成した粘着テープがコンベアに載せられて移送されながら、塗布膜に紫外線が照射されることにより行われるが、紫外線の照射が1回実施されることで、100mJ/cm相当の紫外線が塗布膜に照射される。塗布膜に紫外線を300mJ/cm照射する場合には、上記紫外線の照射を3回繰り返して実施される。
【0078】
【表1】

【0079】
<粘着テープの評価>
次に実施例1〜20及び比較例1〜3で製造した粘着テープについて、「SUS304粘着強度」及び「外観」について評価した。これらの評価結果を表2にまとめて示す。なお、上記「SUS304粘着強度」、「外観」の評価は、以下のようにして行った。
【0080】
(SUS304粘着強度:gf/25mm、[%]の試験方法)
被着体として、ステンレス(SUS)材(「SUS304」、75mm×50mm×3.2mm)基板を用意して、このSUS材基板上にポリエステル系粘着剤からなる粘着剤層を形成させてから以下の試験方法により、SUS304粘着強度(gf/25mm)を測定した。
【0081】
(SUS304粘着強度の測定)
SUS304粘着強度は、JIS Z 0237に準拠した粘着力測定方法により行った。粘着力測定は、初期粘着強度及び加熱後粘着強度を測定することにより行った。なお、初期粘着強度及び加熱後粘着強度の測定は、酸素存在雰囲気下で実施した。
【0082】
(初期粘着強度測定)
上記実施例及び比較例で製造した粘着テープを25mm幅×150mmに裁断し、貼り付け面積が25mm×100mmになるように室温下2.0kgローラーで、SUS304に貼り付けて試験体を得た。この試験体を1時間室温下で保管し(保管処理)、保管処理の後、試験体を引張試験機(エーアンドディ社製:TENSILON RTF−1150−H)にセットして、試験体から粘着テープを、引張速度300mm/分で、180°方向に引き剥がし(剥離処理)、剥離処理の際に試験体から粘着テープを剥離するために要する力を測定することでSUS304粘着強度(gf/25mm)を測定した。
【0083】
(加熱後粘着強度測定)
加熱後粘着強度測定は、上記保管処理に換えて試験体を加熱する処理(試験体加熱処理)を行った以外は、初期粘着強度測定と同じ方法を用いて行い、粘着強度(gf/25mm)を測定することにより行った。なお、試験体加熱処理は、温度180℃×加熱時間90minの条件で行った。以下、SUS304粘着強度試験の結果を表2に示す。なお、参考例1として市販のテープ(日東電工社製、TRM−6250L)を用いて同様の測定を行った。
【0084】
(外観の観察)
初期粘着強度測定及び加熱後粘着強度測定後、剥離処理の際に被着体表面に「糊残り」が生じたか否かについて目視にて確認した。なお目視による外観観察の評価は、以下の通りである。以下、外観の観察結果(糊残り)を表2に示す。
○:糊残りなし
×:糊残り有り
【0085】
【表2】

【0086】
表1及び表2に示されるように、実施例1〜20で得られたポリエステル系粘着剤は、ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤とビスマレイミド系化合物を含んだポリエステル系樹脂組成物を用いているので、SUS304粘着強度の初期値及び180℃の熱履歴後の値は、いずれも十分な値となっている。さらに、実施例1〜20で得られたポリエステル系粘着剤は、上記のポリエステル系樹脂組成物を用いているので、当該ポリエステル系粘着剤を用いた粘着テープは、初期及び180℃の熱履歴後のいずれにおいても剥離処理の際に被着体表面に糊残りがなく、外観において優れたものなっている。
【0087】
一方、比較例1で得られたポリエステル系粘着剤は、ビスマレイミド系化合物を含有したポリエステル系樹脂組成物を用いていない。このため、比較例1で得られたポリエステル系粘着剤を用いた粘着テープは、加熱後粘着強度測定後(180℃)における剥離処理の際に被着体表面に糊残りが存在するものとなった。
【0088】
また、比較例2で得られたポリエステル系粘着剤は、コロネート2507を含有するポリエステル系樹脂組成物を用いており、比較例2で得られたポリエステル系粘着剤を用いた粘着テープは、剥離処理の際に被着体表面に糊残りが初期及び180℃の熱履歴後のいずれにおいても存在し、外観上も優れたものとなっていないことが判明した。
【0089】
さらに、比較例3で得られたポリエステル系粘着剤は、ビスマレイミド系化合物に代えて、ビスアリルナジイミド系化合物を含有するポリエステル系樹脂組成物を用いているので、加熱後粘着強度測定後(180℃)における剥離処理の際に被着体表面に糊残りが存在するものとなった。
【0090】
これら実施例及び比較例の結果より、ポリエステル系粘着剤に用いるポリエステル系樹脂組成物に含有される成分として、ポリエステル系樹脂とイソシアネート系架橋剤と所定のビスマレイミド系化合物を採択し、加熱等による架橋処理をすることにより、180℃の高温においても耐熱性に優れ、熱履歴後であっても十分な粘着強度を有するポリエステル系粘着剤を提供することができることが分かる。さらに、上記加熱による架橋処理に加え、紫外線照射による架橋処理をすることにより、ポリエステル系樹脂組成物に含まれる水酸基と、イソシアネート系架橋剤に含まれるイソシアネート基の硬化反応を促進させ、ポリエステル系樹脂の架橋度を高めることによりポリエステル系粘着剤の耐熱性及び粘着性を向上できることが分かる。
【0091】
また、本発明のポリエステル系粘着剤の製造方法においては、上記ポリエステル系樹脂組成物を粘着剤の原料としているので、耐熱性に優れ、熱履歴後であっても十分な粘着強度を有するポリエステル系粘着剤を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂と、イソシアネート系架橋剤と、下記一般式で示されるビスマレイミド系化合物と、を含有することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
【化1】

(上記一般式中、Zは、2価の有機基である。)
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂は、両末端に水酸基を有し、数平均分子量が0.5〜5.0万であり、ガラス転移温度(Tg)が−60〜25℃であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記イソシアネート系架橋剤が、下記一般式で示されるイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル系樹脂組成物。
【化2】

(上記一般式中、Rは、炭素数1〜18の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基、脂環基、その他の置換基を含んでいてもよい。)
【請求項4】
前記イソシアネート系架橋剤が、芳香族イソシアネート系化合物、脂肪族イソシアネート系化合物、脂環族イソシアネート系化合物より選ばれる少なくとも1種類のイソシアネート系化合物であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂組成物に、さらにフッ素系樹脂が含まれていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のポリエステル系樹脂組成物を架橋処理することを特徴とするポリエステル系粘着剤の製造方法。
【請求項7】
前記架橋処理は、前記ポリエステル系樹脂組成物を加熱処理した後、紫外線照射処理することを特徴とする請求項6記載のポリエステル系粘着剤の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の製造方法によって得られたポリエステル系粘着剤を備えたことを特徴とする粘着テープ。

【公開番号】特開2012−180409(P2012−180409A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42768(P2011−42768)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】