説明

ポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその成形体

【課題】成形性に優れ、連続成形が可能な、無架橋のポリエチレン系樹脂多層発泡シートを提供すること。
【解決手段】分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面に、ポリエチレン系樹脂層が積層されている、厚み1〜10mm、見掛け密度15〜460g/L、連続気泡率40%以下のポリエチレン系樹脂多層発泡シートにおいて、該樹脂層の坪量が15〜100g/mであり、該樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレン、又は直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合物からなり、該樹脂層についての熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線における、該発泡層の最大融解ピーク温度T℃以下の温度範囲の低温部融解熱量:A(J/g)と、T℃以上の温度範囲の高温部融解熱量:B(J/g)とを特定の関係とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無架橋のポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
押出発泡法により得られる無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートは、緩衝性及び機械的強度に優れ、安価に製造することができ、しかも回収原料を再度発泡シートの製造に利用することができることから、包装材用途等に広く使用されている。
【0003】
しかし、無架橋のポリエチレン系樹脂からなる発泡シートは、熱成形する際に、加熱により結晶が融解して急激な粘度変化が起きるため、熱成形可能な成形条件範囲が非常に狭く、成形が難しいものであった。そこで、本発明者等は、先に熱成形性を改善するために、特許文献1に記載の技術を提案した。
【0004】
特許文献1の技術においては、特定の見掛け密度、厚み、連続気泡率を有し、発泡体の熱流束示差走査熱量測定によるDSC曲線における融解熱量が特定の関係を満たすと共に、特定の気泡形状を満たす成形用無架橋ポリエチレン系樹脂押出発泡体を提案し、発泡体を構成するポリエチレン系樹脂組成物としては、分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとを含む混合物が好適であることを提案した。
しかし、特許文献1の発泡体は、開口部縦80mm、横75mm、深さ35mmの半球形状(展開倍率2.0倍、絞り比0.45)の多数個取りの熱成形体を得ることは可能になったものの、さらに深絞りの成形体を得ることに関しては課題を残すものであった。
【0005】
特許文献1の熱成形性を改良するために、本発明者等は、特許文献2に記載の技術を提案した。具体的には、特定の加熱時の引張伸び、MFR、見掛け密度、連続気泡率、融解熱量ピークを有する無架橋ポリエチレン系樹脂押出発泡体を提案し、更に脂肪酸化合物から成る加熱伸び改質剤を添加することを提案した。
【0006】
【特許文献1】特開2005−154729号公報
【特許文献2】特開2006−274038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の発泡体においては、特許文献1の発泡体よりも熱成形性は向上し、深絞りの、単発成形は可能になった。しかし、成形条件範囲(熱成形が可能な加熱時間範囲)が比較的狭く、熱成形時の加熱制御が難しいことから、表面シワの無い、表面外観がより良好な成形体を得ることに関しては課題を残すものであった。
さらに、該発泡体を用いて多数個取りの連続成形を行うと、発泡体が軟化、膨張し、自重によって垂れ下がる現象(以下、ドローダウンということがある)が起こり、その結果加熱ムラが生じてしまい、得られた発泡成形体の側面部に亀裂などが発生し易くなるという問題が生じ、連続成形を行うに際しても課題を残すものであった。従って、深絞りの単発成形を行なうに際してその成形条件範囲をさらに拡げるとともに、連続成形を可能とするために、発泡体の成形性を向上させることが必要であった。
【0008】
なお、上記ドローダウンは多数個取りの連続成形において、特に発生し易いものである。従来の、単発成形においては、ドローダウンが発生したとしても、成形面積が小さいので、加熱ムラによるヤケが発生したり、亀裂が発生することは少なく、発泡シートを成形する上でドローダウンが大きな問題となることはなく、成形体の表面シワに影響する程度であった。
【0009】
これに対し、多数個取りの連続成形においては、成形面積が大きいことから、発泡シートを加熱ゾーンにおいて加熱すると、加熱軟化した発泡シートは両端がクランプによって固定されているため、ドローダウンが発生してしまう。このドローダウンが起きると、発泡シートは均一に加熱されなくなって加熱ムラが生じ、加熱の不均一な発泡シートが成形ゾーンに移送され成形されることから、得られる成形体の肉厚が不均一となって強度が低下したり、成形体にヤケ、亀裂が発生したりするという新たな問題が生じた。
【0010】
本発明は、前記従来の問題を解決し、成形性に優れ、連続成形が可能な、無架橋のポリエチレン系樹脂多層発泡シートを提供することを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す無架橋ポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその成形体が提供される。
[1] 分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面に、ポリエチレン系樹脂層が積層されている、厚み1〜10mm、見掛け密度15〜460g/L、連続気泡率40%以下のポリエチレン系樹脂多層発泡シートにおいて、
該樹脂層の坪量が15〜100g/mであり、

該樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレン、又は直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合物からなり、 該樹脂層についての熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線における、該発泡層の最大融解ピーク温度T℃以下の温度範囲の低温部融解熱量:A(J/g)と、T℃以上の温度範囲の高温部融解熱量:B(J/g)とが、下記(1)式を満足することを特徴とするポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
0.20≦B/(A+B)≦0.50・・・・(1)
[2] 前記樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂の、前記直鎖状低密度ポリエチレンと前記分岐状低密度ポリエチレンとの重量比が90:10〜20:80であることを特徴とする前記[1]に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。[3] 前記発泡層を構成するポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンを含んでおり、該発泡層についての熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線における、前記T℃以下の温度範囲の低温部融解熱量C(J/g)と、前記T℃以上の温度範囲の高温部融解熱量D(J/g)とが、下記(2)式を満足することを特徴とする前記[1]または[2]に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
0.50≦C/(C+D)≦0.80・・・・(2)
[4] 前記発泡層と前記樹脂層とが、共押出されることにより積層されていることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
[5] 前記直鎖状低密度ポリエチレンが、メタロセン系重合触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シートを熱成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエチレン系樹脂多層発泡シートは、特定のポリエチレン系樹脂からなるポリエチレン系樹脂発泡層に、特定のポリエチレン系樹脂からなる樹脂層を積層させることにより、無架橋であるにもかかわらず、熱成形時におけるドローダウンが抑制されると共に、より幅広い成形条件での単発成形が可能なものとなる。また、該多層発泡シートを用いると、従来の無架橋のポリエチレン系樹脂発泡シートでは成形が困難であった多数個取りの連続成形が可能となる。更に、本発明のポリエチレン系樹脂多層発泡シートを用いれば、成形が難しい深絞り成形を行なっても、成形体に加熱ムラによるヤケが発生したり、シワが発生したりすることはなく、外観良好な成形体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の多層発泡シートを構成する樹脂層についての熱流束示差走査熱量測定によって得たDSC曲線の一例である。
【図2】本発明の多層発泡シートを構成する発泡層についての熱流束示差走査熱量測定によって得たDSC曲線の一例である。
【図3】本発明の製造方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂多層発泡シートについて詳細に説明する。
本発明のポリエチレン系樹脂多層発泡シート(以下、単に多層発泡シートともいう。)は、ポリエチレン系樹脂発泡層(以下、単に発泡層ともいう。)と、該発泡層の少なくとも片面に積層された非発泡状態のポリエチレン系樹脂層(以下、単に樹脂層ともいう。)を有する積層体である。該多層発泡シートは、発泡層及び樹脂層の双方が無架橋の樹脂からなるものなので、リサイクルが可能なものである。
【0015】
先ず、本発明の多層発泡シートを構成するポリエチレン系樹脂層について説明する。
該樹脂層は、直鎖状低密度ポリエチレン、又は直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合物からなるものである。
本発明の多層発泡シートは、樹脂層が、耐熱性に優れる直鎖状低密度ポリエチレンを含有することにより、従来の単層発泡シートに比べると耐熱性、成形性が向上している。即ち、単層発泡シートの場合には、発泡層を構成する樹脂に耐熱性を持たせないと熱成形性を向上させることができなかったが、前記樹脂層を設けることによって、発泡層に耐熱性を持たせる必要性が低下し、発泡層を構成する樹脂成分組成の選択範囲を拡げることができるので、本発明の多層発泡シートは単発成形での成形可能条件範囲の広いものとなっている。さらに、連続成形時には自重により発生するドローダウンが抑制され、連続成形、さらには深絞り成形が可能になる。
【0016】
さらに、本発明の発泡シートにおいては、前記発泡層について熱流束示差走査熱量測定を行い、得られるDSC曲線から最大融解ピーク温度T℃を定め、更に、前記樹脂層について熱流束示差走査熱量測定を行い、得られるDSC曲線から定まる融解熱量を、該最大融解ピーク温度T℃により低温部融解熱量:Aと、高温部融解熱量:Bとに分けた時に、該低温部融解熱量:A(J/g)と、該高温部融解熱量:B(J/g)とが、下記(1)式を満足することを要する。
0.20≦B/(A+B)≦0.50・・・・(1)
【0017】
前記(1)式を満足する樹脂層を有する多層発泡シートは、単発成形での成形条件範囲が広く、また連続成形、深絞り成形が可能な、成形性の良好なものである。該式(1)を満足する場合に、多層発泡シートが優れた熱成形性を有することは、本発明者等が見出したものである。
即ち、発泡シートを金型の形状となるように熱成形するためには、発泡シートを加熱して軟化させる必要がある。特に、多数個取りの連続成形を行う場合には、成形面積が大きくなることから、熱成形時に発泡シートにドローダウンが発生し易くなる。本発明者等は、発泡シートを発泡層と樹脂層とからなる多層構造とし、且つ発泡層と樹脂層とを構成する樹脂が、上記の特定の関係を有するようにすることで、ドローダウンに起因する、発泡成形体におけるヤケ、シワの発生という問題を解決することに成功したものである。
【0018】
次に、前記樹脂層についてのDSC曲線の測定から定まる融解熱量を、発泡層の最大融解ピーク温度T℃を境として、低温部融解熱量:Aと高温部融解熱量:Bとに分ける意味について説明する。
発泡層の最大融解ピーク温度T℃は、熱成形時に発泡層を構成する基材樹脂が軟化する温度を意味し、多層発泡シートの熱成形温度と深く関連する温度である。
該T℃により樹脂層の融解熱量を低温部融解熱量:Aと高温部融解熱量:Bとに分けた場合、低温部融解熱量:Aが大きいほど、即ち、(1)式の「B/(A+B)」が小さくなるほど、樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂が軟化し易くなる傾向にあることから、熱成形の際の賦形性や深絞り性が向上する。また、樹脂層が含有する分岐状低密度ポリエチレンの含有量が多いことから、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とする発泡層との接着性が向上する。
【0019】
一方、高温部融解熱量:Bが大きいほど、即ち、(1)式の「B/(A+B)」が大きいほど、樹脂層の耐熱性が向上することを意味し、連続成形時のドローダウンが抑制されて、より容易に連続成形を行うことが可能となる傾向にある。
【0020】
なお、前記式(1)B/(A+B)が、小さすぎる場合には、多層発泡シートの耐熱性が低下してドローダウンが大きくなるので、多数個取りの連続深絞り成形が困難となる。一方、B/(A+B)が大きすぎる場合には、耐熱性は向上するものの、樹脂の軟化に多くの熱量を必要とするため多層発泡シート全体の成形性が低下するおそれがある。かかる観点から、式(1)B/(A+B)は、0.23〜0.48であることが好ましく、0.25〜0.46であることがより好ましく、0.27〜0.42であることがさらに好ましい。

【0021】
本明細書において、発泡層の最大融解ピークの温度T℃、樹脂層のDSC曲線における、該T℃以下の温度範囲の低温部融解熱量:A(J/g)と、T℃以上の温度範囲の高温部融解熱量:B(J/g)は、以下の方法で測定した値を採用する。
先ず、JIS K7121、7122(1987年)に準拠する方法(3.(1)標準状態で調整し転移熱を測定する場合)により、熱流束示差走査熱量計を用いて、多層発泡シートの発泡層を切出した試験片2〜4mgを、加熱速度10℃/分で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を得る。
なお、発泡層のDSC曲線の測定に用いる試料は、多層発泡シートの発泡層を切り出したもの、或いは発泡層を構成する樹脂が予め分かっている場合にはその原料ペレットを用いることもできる。
【0022】
前記のようにして得られたDSC曲線における最大融解ピークの頂点の温度をT℃とする。但し、最も高いピーク高さの融解ピークの頂点が複数存在する場合は、それらの融解ピークのうち最も高温側の融解ピークの頂点の温度を最大融解ピーク温度(T℃)とする。
【0023】
次に、前記JIS K7121、7122(1987年)に準拠する方法(3.(1)標準状態で調整し転移熱を測定する場合)により、熱流束示差走査熱量計を用いて、試料2〜4mgを、加熱速度10℃/分で30℃から200℃まで昇温させて、樹脂層のDSC曲線を測定する。得られたDSC曲線において、図1に示すように、該DSC曲線の融解ピークの低温側のベースラインから融解ピークが離れる点を点dとし、融解ピークが高温側のベースラインへ戻る点を点eとして、点dと点eとを結ぶ直線mと、DSC曲線に囲まれる部分のうち、30〜T℃の温度範囲の部分の面積から求められる値をA(J/g)とする。次に、直線mと、DSC曲線に囲まれた部分のうち、T℃以上の温度範囲の部分の面積から求められる値をB(J/g)とする。
なお、DSC曲線の測定に用いる試料は、多層発泡シートの樹脂層を切り出すことにより、或いは多層発泡シートの樹脂層を構成する樹脂が予め分かっている場合には、その原料ペレットを用いることもできる。
【0024】
前記低温部融解熱量:B(J/g)の下限は、耐熱性が不足するため熱成形性が低下するという観点からは、好ましくは10J/gであり、より好ましくは20J/gであり、更に好ましくは30J/gである。一方、該熱量:B(J/g)の上限は、樹脂の軟化に多くの熱量を必要とするため成形性が低下するという観点からは、60J/gであることが好ましく、50J/gであることがより好ましい。
【0025】
前記の通り、本発明の多層発泡シートは、発泡層と樹脂層とを構成する樹脂が特定の関係を有することで、熱成形時のドローダウンを防止し、単発成形での成形性が向上すると共に、多数個取りの連続成形が可能となり、さらには良好な深絞り成形体を得ることが可能となる。なお、上記式(1)を満足するためには、例えば、樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂の、該直鎖状低密度ポリエチレンと該分岐状低密度ポリエチレンとの重量比を、100:0〜20:80とすることにより達成することができる。
【0026】
本発明の多層発泡シートにおいては、熱成形時のドローダウンを抑制するという観点からは、該樹脂層には直鎖状低密度ポリエチレンが配合される。なお、樹脂層と発泡層との接着性が向上するという観点からは、該樹脂層が直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合物とからなり、前記樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂の、前記直鎖状低密度ポリエチレンと前記分岐状低密度ポリエチレンとの重量比が90:10〜20:80であることが好ましい。
【0027】
前記樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂は発泡層との接着性とも関連している。樹脂層が耐熱性を有する直鎖状低密度ポリエチレンを含有すると共に、分岐状低密度ポリエチレンを含有することにより、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とする発泡層との接着性がさらに良好となる。また、樹脂層が分岐状低密度ポリエチレンを含有することによって、樹脂層の熱成形時における伸張性が良好となることから、熱成形時における樹脂層の伸びが発泡層の伸びに追従でき、伸びムラが発生し難くなるので、得られる成形体の外観が、シワが無く良好となる。
【0028】
上記したようにドローダウンの防止に加え、接着性及び熱成形時の伸びを考慮した場合、本発明の樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂においては、
前記直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの重量比(直鎖状低密度ポリエチレン:分岐状低密度ポリエチレン)は、85:15〜25:75であることが好ましく、80:20〜35:65がより好ましく、75:35〜40:60が更に好ましい。
【0029】
本明細書でいう直鎖状低密度ポリエチレンとしては、直鎖状のポリエチレン鎖からなる長鎖と該長鎖から分岐するC2〜C6(炭素数2〜6)の短鎖とを有するものが挙げられる。具体的には例えばエチレン−αオレフィン共重合体等がある。なお、直鎖状低密度ポリエチレンは、メタロセン系重合触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0030】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、好ましくは880g/L〜940g/Lであり、また、その融点は、好ましくは120〜130℃であり、ビガット軟化温度は、好ましくは80〜120℃である。
【0031】
また、該直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイト(以下、MFRともいう。)の下限は、ダイ内でのせん断発熱を防止する観点から、好ましくは0.1g/10分であり、より好ましくは1g/10分、更に好ましくは2g/10分である。一方、該MFRの上限は、ダイ圧の保持の観点から、好ましくは30g/10分であり、より好ましくは20g/10分、更に好ましくは10g/10分である。
【0032】
更に、該直鎖状低密度ポリエチレンの引張り破断強さは、樹脂層が耐熱性を有しつつ、熱成形時の加熱量が少なくても裂けを生じ難く、成形可能な温度範囲を広げることができるという観点から、好ましくは20MPa〜40MPaである。
【0033】
本明細書でいう分岐状低密度ポリエチレンとは、長鎖分岐を有する、密度910〜935g/Lのポリエチレンをいう。
【0034】
該分岐状低密度ポリエチレンの融点は95〜120℃が好ましい。
【0035】
また、該分岐状低密度ポリエチレンのMFRの上限は、該MFRが大きすぎるとダイ圧を保持できなくなることから、好ましくは10g/10分であり、より好ましくは8g/10分である。一方、該MFRの下限は、該MFRが小さすぎるとダイ内のせん断発熱により独立気泡率が低下することから、好ましくは0.1g/10分であり、より好ましくは0.2g/10分である。
【0036】
なお、本明細書におけるMFRは、JIS K7210(1976年)に準じて、190℃、荷重21.17Nの条件下で測定された値である。
【0037】
樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン,プロピレン−エチレン共重合体等のプロピレン系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、エチレンプロピレンゴム等のエラストマー等が配合されていてもよい。なお、これらの樹脂の含有量は、樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。
【0038】
また、樹脂層は、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の機能性添加剤、無機充填剤等の各種添加剤を含有することができる。具体的には、樹脂層が帯電防止剤を含有すれば、該樹脂層が帯電防止性能を有することにより、埃がつかず、食品用及び機械部品用に好適な成形体を得ることができる。
【0039】
次に、本発明の多層発泡シートを構成するポリエチレン系樹脂発泡層について説明する。該発泡層を構成するポリエチレン系樹脂は、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするものである。
なお、本発明書において、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするとは、分岐状低密度ポリエチレンが発泡層を構成するポリエチレン系樹脂中に50重量%以上含有されていることをいう。発泡層を構成するポリエチレン系樹脂が分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするものであれば、発泡層を構成するポリエチレン系樹脂の発泡性が良好であり、より見掛け密度が低い発泡層を容易に得ることが可能であり、多層発泡シートを軽量化することが可能となる。
【0040】
該発泡層を構成するポリエチレン系樹脂は、副成分のポリエチレンとして、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及び超低密度ポリエチレンから選択される1種または2種以上のポリエチレンを含有することができる。これらの樹脂の中では、熱成形する際の温度範囲が広く、熱成形時に破れ難い発泡層を得ることができることから、前記樹脂層と同様の直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。また、発泡層を構成するポリエチレン系樹脂中の分岐状低密度ポリエチレンと副成分のポリエチレンとの合計の含有量は、70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0041】
該発泡層を構成するポリエチレン樹脂においては、分岐状低密度ポリエチレンと副成分のポリエチレンとの重量比は、分岐状低密度ポリエチレン:副成分のポリエチレン=60:40〜85:15であることが好ましく、より好ましくは65:35〜80:20であり、更に好ましくは65:35〜75:25である。該範囲内であれば、熱成形性にも優れる発泡層が形成される。
【0042】
なお、副成分として直鎖状低密度ポリエチレン以外の樹脂を用いる場合であっても、熱成形する際に発泡層が破れ難くなることから、副成分のポリエチレン中における直鎖状低密度ポリエチレンの割合は、副成分の全量を100重量%として、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上が更に好ましい。
【0043】
本発明の発泡層においては、前記樹脂層と同様に測定される、発泡層のDSC曲線において、前記最大融解ピーク温度T℃以下の温度範囲にある低温部融解熱量:C(J/g)と、T℃以上の温度範囲にある高温部融解熱量:D(J/g)とが、下記(2)式で定まる関係を満足することが好ましい。
0.50≦C/(C+D)≦0.80・・・・(2)
【0044】
前記(2)式を満足する樹脂であれば、発泡性が良好であり、より見かけ密度の低い発泡層が得られる。また、樹脂層と発泡層との接着性に優れ、熱成形時における発泡層と樹脂層の伸びの追従性が良好な、ドローダウンが発生しない多層発泡シートとなる。かかる観点から前記式(2)C/(C+D)のより好ましい範囲は0.60〜0.78であり、更に好ましくは0.62〜0.75である。
【0045】
尚、前記発泡層における低温部融解熱量:C(J/g)、高温部融解熱量:D(J/g)は、JIS K7122(1987年)(3.(1)標準状態で調整し転移熱を測定する場合)に準拠して測定される値である。なお、発泡層のDSC曲線の一例を図2に示す。
【0046】
前記低温部融解熱量:C(J/g)は50〜100J/gであることが好ましく、60〜85J/gであることがより好ましい。上記範囲内であれば、熱成形時の成形性が良好な多層発泡シートとなる。
【0047】
なお、発泡層を構成するポリエチレン系樹脂には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン,プロピレン−エチレン共重合体等のプロピレン系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、エチレンプロピレンゴム等のエラストマー等が配合されていてもよい。なお、前記樹脂の含有量は、発泡層を構成する樹脂に対して30重量部以下、好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。
【0048】
また、発泡層も樹脂層と同様に、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の機能性添加剤、無機充填剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0049】
本発明の多層発泡シートの厚みは、1〜10mmである。該厚みが1mm未満の場合には、成形体の肉厚が不十分となり、緩衝性が低下するとともに成形体の保型性が不十分となり、製品を収納した際に成形体が型くずれする等の問題を生じる。一方、厚みが10mmを超える場合には、多層発泡シートの肉厚が不均一となり易く、外観も悪化し、成形する際に内部まで均一に加熱することが困難となるため成形性が悪くなる。上記観点から、多層発泡シートの厚みは1.5〜8mmであることが好ましく、1.5〜6mmであることがより好ましい。
【0050】
尚、本明細書でいう多層発泡シートの厚みとは、樹脂層と発泡層を含む多層発泡シート全体のシート厚みをいう。なお、多層発泡シート、発泡層、樹脂層それぞれの厚みは次のようにして測定することができる。
多層発泡シートを押出方向に直行する方向に垂直に切断し、該切断面の厚みを顕微鏡により等間隔に幅方向に10点撮影を行い、撮影した各点における多層発泡シート、発泡層、樹脂層の厚みを測定し、得られた値の算術平均値を夫々の厚みとする。
【0051】
該多層発泡シートの全体坪量は、好ましくは100g/m〜300g/mであり、より好ましくは120g/m〜200g/mである。該範囲内であれば、該多層発泡シートから得られる成形容器の機械的強度が確保されると共に、適度な緩衝性が得られる。
【0052】
前記発泡層の少なくとも片面に形成された、前記樹脂層の坪量は15g/m〜100g/mである。なお、該樹脂層の坪量は、発泡層の両面に樹脂層が存在する場合には、少なくともどちらか一方の樹脂層が上記範囲を満足することを要する。該樹脂層の坪量が小さすぎる場合には、該樹脂層が成形性の向上に寄与せず、剛性等の物性の向上も期待できない。一方、該樹脂層の坪量が大きすぎる場合には、大幅なコストアップに繋がり、樹脂層を過度に加熱しないと熱成形できないため、その結果、発泡層の連続気泡率が上昇し、緩衝性が得られなくなる虞がある。かかる観点から、該樹脂層の坪量は、好ましくは17g/m〜80g/mであり、より好ましくは18g/m〜60g/mであり、更に好ましくは20g/m〜45g/mである。該樹脂層の坪量が上記範囲内であれば、成形性がより良好になり、加熱成形時に樹脂層が金型の形状に追従することができ、表面が美麗な多層発泡成形体が得られる。なお、取扱い性を良くするためには、発泡層の両面に、樹脂層を設けることが好ましく、その両面の樹脂層のそれぞれの坪量は、15g/m〜100g/mが好ましい。
【0053】
前記樹脂層の坪量と、多層発泡シートの全体の坪量との比率([樹脂層の坪量/多層発泡シートの全体の坪量]×100)は、8%〜30%であることが好ましい。該比率が小さすぎる場合には、連続成形する際のドローダウンを防止することができない虞がある。一方、該比率が大きすぎる場合には、多層発泡シートの緩衝性が低下するおそれがある。上記観点から、該比率は、より好ましくは10%〜25%である。
【0054】
なお、多層発泡シートの全体坪量は、得られた多層発泡シートからサンプルを切り出し、サンプルの重量を測定し、その測定値を1m当たりの積層発泡シートの重量(g)に換算し、これを多層発泡シートの坪量(g/m)とする。
具体的には、得られた多層発泡シートから縦250mm×横250mmの試験片を切り出し、試験片の重量(g)を測定してその値を16倍にして、1m当たりの重量に換算した値(g/m)として算出できる。
【0055】
また、各樹脂層の坪量は、樹脂層の厚みを全幅に亘り等間隔に幅方向に10点測定し、得られた値の算術平均値を樹脂層の平均厚みとし、該平均厚みに樹脂層を構成している樹脂の密度を乗じ、単位換算した値(g/m)として求めることができる。なお、樹脂層のポリエチレン系樹脂の密度(g/cm)は、樹脂層を構成する各樹脂の密度に各樹脂の含有重量比率を乗じて算出される値の総和として求めることができる。
なお、前記方法にて坪量測定が困難な場合には、共押出によって製造される多層発泡シートの場合、押出発泡条件の内、樹脂層の吐出量X[kg/時]と、得られる積層発泡シートの幅W[m]、積層発泡シートの単位時間あたりの押出されるシート長さL[m/時]から、下記(3)式にて樹脂層の坪量[g/m]を求めることができる。また、発泡シートの両面に樹脂層を押出ラミネート法により積層する場合には、それぞれの樹脂層の吐出量に基づきそれぞれの樹脂層の坪量を求めることができる。
坪量[g/m]=〔1000X/(L×W)〕・・・(3)
また、発泡層の坪量(g/m)は、積層発泡シートの坪量(g/m)から樹脂層の坪量(g/m)を引算することによって求められる。
【0056】
本発明の多層発泡シートの見掛け密度は15g/L〜460g/Lである。
多層発泡シートの見掛け密度が低すぎる場合、圧縮強度等の剛性が不十分となる虞がある。一方、多層発泡シートの見掛け密度が高すぎる場合、緩衝性が不十分となるおそれがある。上記観点から多層発泡シートの見かけ密度は、18〜200g/Lであることが好ましく、23〜100g/Lであることがより好ましく、25〜90g/Lであることが更に好ましい。
【0057】
なお、多層発泡シートの見掛け密度は、前記のようにして求めた多層発泡シートの全体坪量(g/m)を、多層発泡シートの厚み(mm)で除した値を単位換算(g/L)して求めた値を採用する。
【0058】
更に、本発明の多層発泡シートの連続気泡率は、40%以下である。多層発泡シートの連続気泡率が40%を超えると、圧縮強度等の剛性が低下し、緩衝性に優れる成形体が得られない虞がある。また、多層発泡シートの剛性が低下することから、成形した際に、金型通りの形状の成形体が得られなくなるおそれがある。上記観点から多層発泡シートの連続気泡率は30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0059】
多層発泡シートの連続気泡率:S(%)は、ASTM D2856−70に記載されている手順Cに準拠し、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型を使用して測定される多層発泡シートの実容積(独立気泡の容積と樹脂部分の容積との和):Vx(L)から、下記(4)式により算出される値である。
S(%)=(Va−Vx)×100/(Va−W/ρ) (4)
【0060】
但し、上記(4)式中の、Va、W、ρは以下の通りである。
Va:測定に使用した発泡シート試験片の外寸法から計算される見掛け容積(L)
W :試験片の重量(g)
ρ :試験片を構成する樹脂の密度(g/L)
【0061】
尚、試験片を構成する樹脂の密度ρ(g/L)及び試験片の重量W(g)は、多層発泡シートから採取した試験片を加熱プレスにより気泡を脱泡させてから冷却する操作を行い、得られた試験片から求めることができる。
【0062】
前記多層発泡シートの発泡層の平均気泡径は(押出方向の平均気泡径:X(mm)及び幅方向の平均気泡径:Y(mm))、各々0.5〜1.5mmであることが好ましい。該平均気泡径がこの範囲内であれば、強度、成形性、外観に優れる多層発泡シートが得られる。
【0063】
次に、本発明のポリエチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法について説明する。
本発明の多層発泡シートを構成する発泡層は、押出発泡法により製造される。一方、樹脂層は熱ラミネート、押出ラミネート、共押出等の公知の方法によって製造することができる。これらの中では、少ない製造工程で容易に樹脂層を発泡層に積層でき、樹脂層を強固に融着させることができ、薄い樹脂層を積層し得ることから、共押出法により製造することが好ましい。
【0064】
共押出法により多層発泡シートを製造する方法には、共押出用フラットダイを用いてシート状に共押出発泡させて積層する方法と、共押出用環状ダイを用いて筒状多層発泡体を共押出発泡し、次いで筒状多層発泡体を切り開いてシート状の多層発泡シートとする方法等がある。これらの中では、共押出用環状ダイを用いる方法が、コルゲートと呼ばれる波状模様の発生を抑えることや、幅が1000mm以上の幅広の多層発泡シートを容易に製造することができるので、好ましい方法である。
【0065】
以下、共押出用環状ダイを用いる多層発泡シートの製造方法について説明する。
前記環状ダイを用いて共押出する場合、図3に示すように、まず、直鎖状低密度ポリエチレン(A)と必要に応じて添加する分岐状低密度ポリエチレン(B1)、収縮防止剤(C1)を樹脂層形成用押出機11に供給し、加熱溶融し混練して、樹脂層形成用樹脂溶融物(E1)とする。
【0066】
別途、分岐状低密度ポリエチレン(B2)を主成分とするポリエチレン系樹脂(F)、収縮防止剤(C2)と必要に応じて添加される添加剤(G)とを発泡層形成用押出機12に供給し、加熱溶融し混練してから物理発泡剤(K)を圧入し、さらに混練し、発泡可能な樹脂温度T2に調整して発泡層形成用樹脂溶融物(E2)とする。
【0067】
尚、共押出法においては、環状ダイの出口内で樹脂層形成用樹脂溶融物(E1)と発泡層形成用樹脂溶融物(E2)とを積層することもできれば、ダイの出口の外で、これらを積層することもできる。また、前記環状ダイ、押出機、円柱状冷却装置、筒状多層発泡シートを切開く装置等は、従来から押出発泡の分野で用いられてきた公知のものを用いることができる。
【0068】
なお、樹脂層形成用樹脂溶融物(E1)には、揮発性可塑剤(D)を添加して、樹脂溶融物(E1)の溶融粘度を低下させる方法を用いることもできる。揮発性可塑剤(D)は樹脂層形成後に、該樹脂層より揮発して樹脂層中に存在しなくなるものが用いられる。揮発性可塑剤(D)を樹脂溶融物(E1)中に添加することにより、多層発泡シートを共押出しする際に、溶融状態の樹脂層(J)の溶融伸びを著しく向上させることができる。そうすると、該樹脂層(J)の伸びが、発泡層(I)の発泡時の伸びに追随するので、樹脂層(J)の伸び不足による亀裂発生が防止される。
【0069】
揮発性可塑剤(D)は、炭素数2〜7の脂肪族炭化水素、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、又は炭素数2〜8の脂肪族エーテルから選択される1種、或いは2種以上のものが好ましく用いられる。滑剤のように揮発性の低いものを可塑剤として用いた場合、滑剤等は樹脂層(J)に残存し、成形体の収容物を汚染することがある。これに対し揮発性可塑剤(D)は、樹脂層(J)の樹脂を効率よく可塑化させ、得られる樹脂層(J)に揮発性可塑剤自体が残り難いという点から好ましいものである。
【0070】
前記炭素数2〜7の脂肪族炭化水素としては、例えば、エタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、イソヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。
【0071】
前記炭素数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールが挙げられる。
【0072】
前記炭素数2〜8の脂肪族エーテルとしては、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル、メチルアミルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチルアミルエーテル、エチルイソアミルエーテル、ビニルエーテル、アリルエーテル、メチルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチルアリルエーテルが挙げられる。
【0073】
揮発性可塑剤(D)の沸点は、樹脂層(J)から揮発し易くなるという観点から、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは80℃以下である。揮発性可塑剤(D)の沸点が上記範囲であれば、共押出した後、得られた多層発泡シート(H)を放置しておけば、共押出直後の熱により、更に後の室温下でのガス透過により、揮発性可塑剤(D)は多層発泡シートの樹脂層(J)から自然に揮散して、自然に除去される。該沸点の下限値は、概ね−50℃である。
【0074】
揮発性可塑剤(D)の添加量は、直鎖状低密度ポリエチレン(A)と必要に応じて添加する分岐状低密度ポリエチレン(B1)の混練物100重量部に対して3重量部〜50重量部であることが好ましい。上記範囲内であれば、混練時のせん断による樹脂層形成用樹脂溶融物の発熱が抑えられるので、共押出時に発泡層形成用樹脂溶融物(E2)の樹脂温度の上昇が抑えられ(温度低下効果)、発泡層の気泡が破泡する等の弊害が防止される。さらに、揮発性可塑剤(D)は、共押出時に発泡層形成用樹脂溶融物(E2)の発泡に追随する樹脂層形成用樹脂溶融物(E1)の伸張性を向上させる効果(伸張性改善効果)も有する。揮発性可塑剤(D)の添加量が前記範囲内であれば、ダイリップから揮発性可塑剤が噴き出したりすることがなく、樹脂層(J)に穴が開いたり、表面が凹凸状となり表面平滑性が低下したりすることが防止される。
【0075】
前記物理発泡剤(K)としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等の有機系物理発泡剤、酸素、窒素、二酸化炭素、空気等の無機系発泡剤が挙げられ、アゾジカルボンアミド等の分解型発泡剤を併用することもできる。上記した物理発泡剤は、2種以上を混合して使用することが可能である。これらのうち、特にポリエチレン系樹脂との相溶性、発泡性の観点から有機系発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を主成分とするものが好適である。
【0076】
上記発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする見掛け密度に応じて調整することができる。例えば、発泡剤としてイソブタンを用いた場合には、イソブタンの添加量は発泡層のポリエチレン系樹脂100重量部当たり1.0〜15.0重量部であることが好ましく、1.5〜12.0重量部であることがより好ましく、2.0〜10.0重量部であることがさらに好ましい。
【0077】
また、発泡層形成用樹脂組成物には、気泡調整剤として有機系のもの、無機系のもののいずれも添加することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また有機系気泡調整剤としては、リン酸−2,2−メチレンビス(4,6−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。またクエン酸と炭酸水素ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と炭酸水素ナトリウム等を組み合わせたもの等も気泡調整剤として用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
また気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調節することができる。気泡調整剤としてクエン酸モノナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物(大日精化工業株式会社製「ファインセルマスターSSC−PO208K」を用いた場合には、その添加量は発泡層の基材樹脂100重量部当たり0.1〜2.0重量部が好ましく、0.2〜1.5重量部であることがより好ましい。気泡調整剤としてタルクを用いた場合も前記と同様の添加量である。
【0079】
発泡層形成用樹脂溶融物には、気泡調整剤の他に更に造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、収縮防止剤、難燃剤等の機能性添加剤、無機充填剤等を添加することができる。
【0080】
本発明の成形体は、前記多層発泡シートを加熱軟化させた後、雄型及び/又は雌型からなる金型を使用して成形する熱成形法によって得ることができる。本発明の成形体としては、例えば、桃、梨、トマト等の果菜用容器、台所シンクの断熱成形体、ユニットバスの浴槽裏打ち用断熱成形体等が挙げられる。
【0081】
多層発泡シートの熱成形法としては、例えば、真空成形や圧空成形、更にこれらの応用としてフリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースドロー成形等やこれらを組み合わせた熱成形方法等が挙げられる。このような熱成形法は、短時間に連続して成形体を得ることができるので好ましい方法である。
【0082】
本発明の多層発泡シートを用いると、単発成形においては、深絞りの成形体であっても、成形条件範囲を拡げることが可能となり、成形性が向上し、シワのない成形体が得られる。また、成形容器等の連続成形においては、長尺な多層発泡シートの両側縁をクランプして加熱ゾーンに搬送し、該加熱ゾーンでシートの両面をヒーター加熱してシートを成形可能な状態に軟化させた後、成形ゾーンに移送して所定形状に成形する工程を連続して行う際に、加熱ゾーンで加熱されても膨張及び自重によって垂れ下がるドローダウンを生じることがなく、連続成形を行なうことが可能となる。
【0083】
該連続成形により得られた成形体は、破れや、表面ヤケと呼ばれる凹凸がなく、外観良好であるとともに、圧縮強度等の剛性に優れるため、果菜等を収納して輸送した場合でも成形体が型くずれしたり収納品がこぼれたりする虞がない成形体である。
【0084】
また、本発明の多層シートを用いることにより成形性が向上することから、連続成形において、例えば、展開倍率が2.2倍以上、更に好ましくは2.5倍以上の深絞り成形体を得ることも可能となる。ここで展開倍率とは、成形部分の面積を(A)、該成形部分の面積(A)に対応する部分の成形後の面積を(B)とした場合の(A)に対する(B)の比:(B)/(A)をいう。また、絞り比(成形体深さ/成形体上面開口部面積を円に換算した場合の直径)0.46以上、さらには、0.5以上の深絞り成形性に優れている。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0086】
以下の実施例、比較例において用いた樹脂は、次の通りである。
(1)LD1:分岐状低密度ポリエチレン「F102」(住友化学工業株式会社製、密度922g/L、MFR0.3g/10分、溶融張力179mN、融点109℃、結晶化温度95℃)
(2)LL1:直鎖状低密度ポリエチレン「AM630A」(日本ポリエチレン株式会社製、密度924g/L、MFR8.0g/10分、融点125℃)
(3)LL2:直鎖状低密度ポリエチレン「NM664N」(日本ポリエチレン株式会社製、密度919g/L、MFR8.0g/10分、融点124℃)
【0087】
気泡調整剤として、ポリエチレン系樹脂80重量%に対してタルク(松村産業株式会社製商品名「ハイフィラー#12」)を20重量%配合してなる気泡調整剤マスターバッチを用いた。
【0088】
収縮防止剤として、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、モノステアリン酸グリセライド10重量部を配合してなる収縮防止剤マスターバッチを用いた。
【0089】
実施例1〜10、比較例1〜3
発泡層形成用の押出機として、直径90mmの第一押出機と直径120mmの第二押出機からなるタンデム押出機を用い、樹脂層形成用の押出機として直径115mm、L/D=46の第三押出機を用いた。更に、直径95mmの共押出用環状ダイに、第二押出機と第三押出機の夫々の出口を連結し、夫々の溶融樹脂を環状ダイ中で積層可能にした。
【0090】
前記装置を用いて、表1に示す配合となるように、ポリエチレン系樹脂原料と、収縮防止剤マスターバッチ(ポリエチレン系樹脂100重量部に対してモノステアリン酸グリセライド1重量部の配合量)とを第三押出機に供給して、加熱、溶融、混練し、次に、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して揮発性可塑剤(ノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%とからなる混合ブタン)を表1に示す量圧入し、更に混練し、表1に示す押出樹脂温度に温調して樹脂層形成用樹脂溶融物とし、該樹脂層形成用樹脂溶融物を共押出用環状ダイに導入した。
【0091】
同時に、表1に示す配合となるように、ポリエチレン系樹脂原料と、気泡調整剤マスターバッチ(ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、タルクが0.1重量部の配合量)と、収縮防止剤マスターバッチ(ポリエチレン系樹脂100重量部に対してモノステアリン酸グリセライド1重量部の配合量)とを、タンデム押出機の第一押出機の原料投入口に供給し、加熱混練し、約200℃に調整し、樹脂溶融物とした。次に、該樹脂溶融物に、表1に示す量の混合ブタンを物理発泡剤として圧入し、次いで第二押出機に供給して、表1に示す押出樹脂温度に温調して発泡層形成用樹脂溶融物とし、該発泡層形成用樹脂溶融物を共押出用環状ダイに導入した。
【0092】
共押出用環状ダイに導入された発泡層形成用樹脂溶融物の外側と内側に、樹脂層形成用樹脂溶融物を積層し、溶融物の積層体をダイから大気中に押出して、樹脂層/発泡層/樹脂層からなる3層構成の筒状積層発泡体を形成した。押出された筒状積層発泡体を冷却されたマンドレル(直径150mm、長さ1500mm)に沿わせて、引き取りながら切開いて、多層発泡シートを得た。なお、発泡層形成用樹脂溶融物の吐出量(kg/hr)と、樹脂層形成用樹脂溶融物の吐出量(kg/hr)は、前記の樹脂層構成となるように調整した。
【0093】
【表1】

【0094】
得られた多層発泡シートを構成する発泡層について熱流束示差走査熱量測定を用いてDSC曲線を測定し、最大吸熱ピーク温度T(℃)を測定した。同様に樹脂層について、熱流束示差走査熱量測定を用いてDSC曲線を測定し、30〜T℃の温度範囲の熱量:A、T℃以上の温度範囲の熱量:B及びこれらによって定まる比A/(A+B)を求めた。更に、発泡層について30〜T℃の温度範囲の熱量C、T℃以上の温度範囲の熱量D及びこれらによって定まる比C/(C+D)を求めた。更に、多層発泡シートについての見掛け密度、厚み、坪量、連続気泡率等の諸物性を測定した。測定結果を表2、3に示した。
【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
得られた多層発泡シートを、単発真空成形機(株式会社浅野研究所製FSK型)を用い、外寸が290mm×290mmの矩形で、開口部直径105mm、深さ53mm、壁面傾斜7°のカップ形状(展開倍率2.6、絞り比0.5)を8つ配置した金型を用いて、金型表面温度を45℃に温調し、該シートの表面温度118〜124℃にて加熱成形を行なった。その際、多層発泡シートの成形性の評価を、裂け、厚みの偏り、表面ヤケやシワの無い美麗な成形品が得られる加熱成形時間の幅(最短加熱時間と最長加熱時間との差)により行なった。なお、成形時間範囲が広いほど成形性に優れることを意味する。結果を表3に示した。
【0098】
得られた成形体の表面外観を以下の評価基準により評価した。
◎:得られた発泡成形体の表面に、表面シワが全く無い
○:僅かに表面シワが存在する
△:成形体表面に裂けはないものの、表面シワが存在する

【0099】
得られた上記の成形性、表面外観の結果から、得られた発泡シートの連続成形性を以下の基準により評価した。
○:連続成形が可能
×:ドローダウンが発生して連続成形不可
【符号の説明】
【0100】
11 樹脂層形成用押出機
12 発泡層形成押出機
13 共押出用環状ダイ
A 直鎖状低密度ポリエチレン
B1 分岐状低密度ポリエチレン
B2 分岐状低密度ポリエチレン
C1、C2 収縮防止剤
D 揮発性可塑剤
E1 樹脂層形成用樹脂溶融物
E2 発泡層形成用樹脂溶融物
F 副成分のポリエチレンから選択した樹脂
G 添加剤
H 多層発泡シート
I 発泡層
J 樹脂層
K 物理発泡剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面に、ポリエチレン系樹脂層が積層されている、厚み1〜10mm、見掛け密度15〜460g/L、連続気泡率40%以下のポリエチレン系樹脂多層発泡シートにおいて、
該樹脂層の坪量が15〜100g/mであり、
該樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレン、又は直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合物からなり、
該樹脂層についての熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線における、該発泡層の最大融解ピーク温度T℃以下の温度範囲の低温部融解熱量:A(J/g)と、T℃以上の温度範囲の高温部融解熱量:B(J/g)とが、下記(1)式を満足することを特徴とするポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
0.20≦B/(A+B)≦0.50・・・・(1)


【請求項2】
前記樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂の、前記直鎖状低密度ポリエチレンと前記分岐状低密度ポリエチレンとの重量比が90:10〜20:80であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項3】
前記発泡層を構成するポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンを含んでおり、該発泡層についての熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線における、前記T℃以下の温度範囲の低温部融解熱量C(J/g)と、前記T℃以上の温度範囲の高温部融解熱量D(J/g)とが、下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
0.50≦C/(C+D)≦0.80・・・・(2)
【請求項4】
前記発泡層と前記樹脂層とが、共押出されることにより積層されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項5】
前記直鎖状低密度ポリエチレンが、メタロセン系重合触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シートを熱成形してなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−35177(P2013−35177A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171783(P2011−171783)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】