説明

ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物およびこの組成物の蓋材への利用

【課題】ポリエチレン被覆紙容器など被着面がポリエチレン系樹脂からなる容器を、シール層を介して例えば蓋により密封した際、蓋の剥離が易剥離性でありながらも内容物を密封するに十分な封緘強度を有し、更に蓋材剥離後に糸曳き等の剥離外観上の問題のないシール層を形成することのできるポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】低密度ポリエチレン樹脂(A)45〜75wt%、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)22〜40wt%、DSC融点80〜120℃であり重量平均分子量(Mw)が500〜1500であり直鎖状の構造である、フィッシャートロプシュワックス、高密度ポリエチレンワックスなどのワックス(C)2〜15wt%からなるポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物により基材シートを被覆し、このシートを包装袋あるいは被着面がポリエチレン系樹脂からなる容器の蓋材として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物、該ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物被膜が形成されたシート、該シートにより形成された蓋材、該蓋材により開口部が密封された容器あるいは前記易剥離接着性樹脂組成物を用いて開口部が密封された袋状包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ヨーグルト、乾燥菓子などの包装に、廃棄について考慮した環境対応型容器である紙容器の使用が増加している。該紙容器は一般的にその内面がポリエチレン系樹脂で被覆されており、ホットメルト接着剤またはシーラント接着剤を塗工した蓋材で熱接着し、密封されている。
【0003】
ホットメルト接着剤は易剥離性に優れているが耐熱性の点で難があり、夏場の輸送時等に40℃〜60℃の環境に曝されると、蓋材の熱接着部分の一部が紙容器から剥れる等の問題が発生することがある。一方、シーラント接着剤は耐熱性において優れているが易剥離性で劣り、紙容器から蓋材を剥離する際に紙容器の被覆ポリエチレンを破壊する問題がある。またこのような被覆ポリエチレンの破壊の問題がないシーラント樹脂の凝集破壊による剥離の場合は、剥離面に接着層を構成するシーラント樹脂が糸状に発生し(以下、糸曳きという)、剥離外観が悪いという問題がある。
【0004】
従来、易剥離なシーラント接着剤として、例えば、8〜49wt%の少なくとも500,000の平均分子量を有する1−ブテンのホモポリマーまたは共重合体、および92〜51wt%の930kg/m3またはこれ以下の密度を有する変性または非変性低密度ポリエチレンを含む組成物が提案されている(特許文献1参照)。ここで提案されている組成物は易剥離であるが、1−ブテンのホモポリマーまたは共重合体が蓋基材のポリエチレン面に対する接着性を阻害することから、ラミネート強度の低下の問題がある。また、接着層の凝集破壊時にシーラント樹脂の分散層である1−ブテンのホモポリマーまたは共重合体と連続層である変性または非変性低密度ポリエチレンとの界面で発生すると考えられる糸曳きが発生し、剥離外観が悪いという問題もある。
【0005】
また、シール層として、融点が80〜115℃かつメルトフローレートが2〜50g/10分である低密度ポリエチレン70〜95wt%と、融点が70〜125℃かつメルトフローレートが1〜30g/10分であるポリブテン−1 30〜5wt%からなる易開封性複合フィルムが提案されている(特許文献2参照)。ここで提案されている易開封性複合フィルムも、特許文献1で提案されている組成物と同様、易剥離を実現することができる。しかし、このフィルムについても、ポリブテン−1が蓋基材のポリエチレン面への接着を阻害するためラミネート強度の低下があり、また、接着層の凝集破壊時に分散層であるポリブテン−1と連続層である低密度ポリエチレンとの界面で発生すると考えられる糸曳きが発生し、剥離外観が悪いという問題がある。
【0006】
さらに、他の例として、ポリエチレン系樹脂60〜70wt%、結晶性のポリブテン樹脂10〜25wt%、低分子量ワックス5〜20wt%からなるポリエチレン用易剥離性接着剤が提案されている(特許文献3参照)。この接着剤のワックスは低密度ポリエチレンワックス、高密度ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックスであり、粘度法による分子量が2,000〜10,000であるものが用いられている。該ワックス類中において、高密度ポリエチレンワックス以外は結晶性ポリブテン樹脂に不相溶であるために糸曳き等の原因となり、押出ラミネート加工では樹脂切れ等の加工上の不具合を生じる。結晶性ポリブテン樹脂と相溶性のある高密度ポリエチレンワックスにおいても、粘度法分子量が2,000以上(GPC法による実測値は、重量平均分子量(Mw)で約4,000以上)であると、130℃以上140℃以下の熱接着温度における低温シール性の低下があり、更に140℃を超え180℃以下の高温シール時には紙剥けが発生する。また粘度法分子量が2,000以上(GPC法による実測値は、重量平均分子量(Mw)で約4,000以上)であると低温シール性の低下と同様な現象として、蓋基材への押出ラミネート加工においてラミネート強度が出難くなり、デラミの原因となる。
【0007】
【特許文献1】特開平1−315443号公報
【特許文献2】特開平10−337829号公報
【特許文献3】特開2003−129018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、食品包装分野などで近年広く利用されるようになった内面がポリエチレン系樹脂で被覆された紙容器を、ホットメルト接着剤またはシーラント接着剤を塗工した蓋材で熱接着、密封した容器においては、蓋を開封する際に、剥離強度が強すぎることに起因する基材の紙の剥れや、易剥離性とするべくシール層を凝集破壊して開封する際のシール層の糸曳きによる剥離外観の低下の問題があり、このような問題を有さない、易剥離性でありながらも内容物を密封するに十分な封緘強度を有し、且つ糸曳きのない接着性樹脂組成物の提供が強く要望されている。また、この易剥離性接着性樹脂接着剤は、通常押出加工により蓋材に積層形成されが、このときの押出加工性の良好な接着性樹脂組成物も求められている。
【0009】
これまで、内面がポリエチレン系樹脂で被覆された紙容器をホットメルト接着剤またはシーラント接着剤を塗工した蓋材で熱接着し、密封した際の問題点を説明した。従来食品用の容器としては、上記ポリエチレン系樹脂で被覆された紙容器以外にもポリエチレン製容器、ポリエチレン以外の樹脂を基材とし、この基材上にポリエチレン系樹脂が被覆された容器も広く知られているが、このような容器についても、必要に応じ、ホットメルト接着剤またはシーラント接着剤を塗工した蓋材を用いて、熱接着、密封が行われている。そして、このようなポリエチレン製容器、あるいは表面がポリエチレン系樹脂からなり且つ基材が紙以外の素材からなる容器においても、易剥離性でありながらも内容物を密封するに十分な封緘強度を有し、開封時に糸曳きがなく、剥離外観に優れた易剥離性接着性樹脂組成物が求められている。
【0010】
さらに、ポリエチレン系樹脂をラミネートした紙、プラスチックシート、アルミ箔などを、例えば袋状として包装材として用い、開口部をヒートシールして密封、包装する際にも、該包装材により形成された包装袋を開封する際易剥離性でありながらも内容物を密封するに十分な封緘強度を有し、且つシール層の糸曳きのない、剥離外観に優れた易剥離性接着性樹脂組成物の使用が求められている。
【0011】
したがって、本発明は、ポリエチレン系樹脂表面に適用された際に、易剥離性を有しながらも内容物を密封するに十分な封緘強度を有し、更に蓋材剥離後に糸曳き等の剥離外観上の問題のないポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記特性に加え、蓋材剥離後に紙剥けの問題もないポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を提供することをも目的とする。
さらに、本発明は、押出加工性にも優れた上記ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を提供することをも目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物による被膜が形成されたシート、該シートにより形成された蓋材、該蓋材により開口部が密封されたポリエチレン被覆紙容器などの容器あるいは前記易剥離接着性樹脂組成物を用いて開口部が密封された包装袋を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討を行った結果、ポリブテン系樹脂とワックスの相溶性が糸曳きに大きく関わっている事を見出した。すなわち、ブテン−エチレン共重合体樹脂とこのブテン−エチレン共重合体樹脂に相溶する高密度ポリエチレンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスなどの直鎖状の構造を有するワックスとを併用することにより、シール層の凝集破壊時に分散層であるブテン−エチレン共重合体と連続層である低密度ポリエチレンとの界面で発生すると考えられる糸曳きが解消でき、更に蓋基材のポリエチレン面への接着阻害要因でもあるポリブテン−1に代えて、ブテン−エチレン共重合体とこれに相溶するワックスを使用することにより、ラミネート強度の低下を抑制できる事をも見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、低密度ポリエチレン樹脂(A)45〜75wt%、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)22〜40wt%、DSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1,500である直鎖状構造のワックス(C)2〜15wt%からなることを特徴とするポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物に関する。
【0015】
本発明の上記ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物においては、低密度ポリエチレン樹脂(A)は、メルトフローレートが5〜30g/10分であることが好ましく、また、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)は、メルトフローレートが0.5〜5g/10分であることが好ましく、さらにDSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1500である直鎖状構造のワックス(C)としては、フィッシャートロプシュワックスまたは高密度ポリエチレンワックスが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物の被膜が積層されてなるシートに関する。
【0017】
また、本発明は、上記積層シートにより形成された、密封面がポリエチレン系樹脂からなる容器用蓋材に関する。
【0018】
また、本発明は、上記蓋材により密封された、密封面がポリエチレン系樹脂からなる容器に関する。
【0019】
上記容器はポリエチレン系樹脂被覆紙容器であり、該紙容器と前記蓋材とを熱接着温度130〜180℃で熱接着を行い、常温で封緘強度が15kPa以上、開封強度が8N/カップ以上25N/カップ以下の範囲であり、また剥離時に熱接着層が凝集破壊により剥離されるものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、上記ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物により開口部が密封された包装袋に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を蓋材あるいは包装材の熱接着層として用いてポリエチレン系樹脂を被着面に有する容器あるいは包装袋を封緘することにより、シール部を剥離する際易剥離性でありながらもシール部は内容物を密封するに十分な封緘強度を有し、シール部を剥離した後に糸曳き等の剥離外観を阻害するような問題のない容器あるいは包装袋を得ることができる。
【0022】
このような効果は、ポリエチレン被覆紙により形成された容器を蓋材で封緘する際に特に有用である。通常このような容器と蓋材の熱シールは130〜180℃の接着温度で熱接着されるが、このような温度による熱接着により、ヨーグルト、ゼリー、納豆、アイスクリームなどの種々の食品あるいは乾燥菓子などを封緘する際に要求される、常温での封緘強度が15kPa以上、また易剥離性として要求される8N/カップ以上25N/カップ以下の範囲の開封強度とすることができ、剥離時に容器基材の紙剥けの問題なく、また開封時に糸曳きも起こらず、外観上綺麗に、且つスムースな容器開封を行うことができる。
【0023】
さらに、低密度ポリエチレン樹脂(A)およびブテン−エチレン共重合体樹脂(B)として、メルトフローレートが各々5〜30g/10分あるいは0.5〜5g/10分のものを用いることにより、封緘強度を15kPa以上とすることができるとともに、シートに積層する際の押出加工性に優れたポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物、これを積層したシート、該シートから製造される蓋材、この蓋材により密封された容器、および前記シートにより形成された包装袋について、更に詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物は、上記したように、低密度ポリエチレン樹脂(A)45〜75wt%、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)22〜40wt%、および、DSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1,500である直鎖状構造のワックス(C)2〜15wt%からなることを特徴とするものである。ここで、ポリエチレン系樹脂とは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)をいう。
【0026】
本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物において用いられる前記低密度ポリエチレン樹脂は、JIS K 6748に準拠した測定法による密度が0.910〜0.929g/cm3のポリエチレン樹脂であり、その製造法は特に限定されない。
【0027】
本発明において、前記低密度ポリエチレン樹脂(A)は接着性樹脂組成物中、45〜75wt%とされるが、好ましくは55〜70wt%である。低密度ポリエチレン樹脂が45wt%未満ではポリエチレンとの接着性が低下し、封緘強度が15kPaに満たず、75wt%を超えるとポリエチレンとの接着性が強すぎる為に易剥離とならず、また容器基材として紙が用いられている場合紙剥けする。
【0028】
また、該低密度ポリエチレン樹脂としては、メルトフローレートが5〜30g/10分であることが好ましく、より好ましくは10〜25g/10分である。低密度ポリエチレン樹脂のメルトフローレートが5g/10分未満では、ポリエチレン被覆紙容器との熱接着後の封緘強度が、130〜180℃の熱接着温度において、15kPa未満となり、30g/10分を超えると押出ラミネート加工において、使用する装置によっては樹脂切れ、ネックイン等、加工性に問題が発生することがある。なお、本発明でいうメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠して測定される、190℃、2160g荷重での10分間の流出量(g/10分)である。
【0029】
本発明においては、ブテン−エチレン共重合体樹脂は接着性樹脂組成物中、22〜40wt%とされるが、27〜40wt%であることがより好ましい。ブテン−エチレン共重合体樹脂が組成物中22wt%未満ではポリエチレンとの接着阻害性が弱い為に易剥離性が低下し、容器基材として紙が用いられるような場合には、紙剥けの問題が発生し、40wt%を超えると押出ラミネート加工において、装置によっては、樹脂切れ、ネックイン等、加工性に問題が発生することがある。
【0030】
前記ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)のメルトフローレートは0.5〜5g/10分のであることが好ましい。ブテン−エチレン共重合体樹脂のメルトフローレートが0.5g/10分未満では、低密度ポリエチレン樹脂との混合が不十分で均一なフィルムにすることが難く、5g/10分を越えると製膜が困難になることがある。
【0031】
また、本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物において用いられる、DSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1500である直鎖状構造のワックス(C)としては、フィッシャートロプシュワックスおよび高密度ポリエチレンワックスが好ましいものである。前記DSC融点は、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter)により10℃/分の昇温速度で測定するDSC曲線の熱量ピーク時の温度である。また、前記重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)分子量測定装置により測定した分子量である。
【0032】
本発明において「直鎖状構造のワックス」とは、分岐があまりなく、密度でいうと、JIS K 6748に準拠した測定法により0.93g/cm3以上の密度を有するワックスをいう。前記直線状構造のワックスとして本発明で好ましく用いられる高密度ポリエチレンワックスは、エチレン重合により製造される重合型高密度ポリエチレンワックスであり、分子構造は直鎖状である。またフィッシャートロプシュワックスとは、フィッシャートロプシュ法により製造された合成ワックスであり、分子構造は直鎖状である。
【0033】
分岐構造を持つ低密度ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックスはポリブテン系樹脂と相溶性が悪く、押出ラミネート加工で基材のポリエチレン層への密着が不十分となる場合があり糸曳き等の原因となることがある。一般的にワックスは、シーラント剤のベースポリマーである低密度ポリエチレンと相溶性が良いために、ポリブテン系樹脂と相溶性が悪い場合でもシーラント剤全体としては相溶している事になるが、ポリブテン系樹脂とワックスの相溶性が本発明において特に肝要であり、直鎖状の構造である、例えば高密度ポリエチレンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスなどのワックスであることが必要である。また、直鎖状の構造である、高密度ポリエチレンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスのようなワックスであっても、DSC融点が80℃未満または重量平均分子量(Mw)500未満では耐熱性が低下することがあり、DSC融点が120℃を超えるまたは重量平均分子量(Mw)が1500を超えると低温シール性の低下またはポリエチレン被覆紙容器から蓋材を開封するときに紙剥けが発生することがある。
【0034】
なお、ポリブテン系樹脂とワックス類との相溶性は次のようにして確認した。すなわち、ワックス80重量部をステンレスビーカーに加え、内容物が180℃以上にならないように注意して加熱し、溶融したら撹拌を開始し、ポリブテン系樹脂20重量部を添加して撹拌を1〜3時間程度撹拌する。ポリブテン系樹脂の粒が溶け残っている、または150〜180℃の温度で1〜2時間静置したときに分離など均一に溶融されていない状態のときは不相溶と判断し、ポリブテン系樹脂の粒が溶け残らずに、かつ150〜180℃の温度で1〜2時間静置後も分離などせず、均一に溶融していることを確認できたときは相溶すると判断した。
【0035】
さらに、本発明においては、直鎖状構造のワックスは、接着性樹脂組成物中、2〜15wt%とすることが必要であるが、2〜10wt%であることが好ましい。直鎖状構造のワックスの量が接着性樹脂組成物中2wt%未満であるとポリエチレン被覆紙容器からの剥離において糸曳きが発生し易く、15wt%を超えると溶融張力が低下し、ネックイン等の押出ラミネート加工性が低下する。
【0036】
以上の本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物の好ましい配合をまとめて記載すると、メルトフローレートが5〜30g/10分である低密度ポリエチレン樹脂45〜75wt%、メルトフローレートが0.5〜5g/10分のであるブテン−エチレン共重合体樹脂22〜40wt%、DSC融点80〜120℃であり重量平均分子量(Mw)500〜1500であり直鎖状の構造である、フィッシャートロプシュワックスまたは高密度ポリエチレンワックス2〜15wt%であることが好ましく、より好ましくはメルトフローレートが10〜15g/10分である低密度ポリエチレン樹脂55〜70wt%、メルトフローレートが0.5〜5g/10分のであるブテン−エチレン共重合体樹脂27〜40wt%、DSC融点80〜120℃であり重量平均分子量(Mw)500〜1500であり直鎖状の構造である、フィッシャートロプシュワックスまたは高密度ポリエチレンワックス2〜10wt%である。
【0037】
本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱劣化、熱分解、ブロッキング等を防止するためおよびフィルム加工、押出ラミネート加工等の加工適正を確保するために、さらに添加剤等が使用されてもよい。添加剤の例としては、例えばエルカ酸アミド等の有機滑剤、炭酸カルシウム等の無機滑剤、ヒンダードフェノール等の酸化防止剤、その他ブロッキング防止剤、帯電防止剤、充填剤、顔料などが挙げられる。これら添加剤は、低密度ポリエチレン樹脂(A)、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)、直鎖状構造のワックス(C)の配合時に添加されてもよいし、予め低密度ポリエチレン樹脂(A)、ブテン−エチレン共重合樹脂(B)、直鎖状構造のワックス(C)のいずれかに練りこまれた後、添加剤が練りこまれた低密度ポリエチレン樹脂(A)、ブテン−エチレン共重合樹脂(B)、あるいは直鎖状構造のワックス(C)を他の成分と混練することにより配合されてもよい。
【0038】
低密度ポリエチレン樹脂(A)、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)、DSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1500である直鎖状構造のワックス(C)、および必要に応じ用いられる添加剤の配合は、例えば、これら各成分をヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどの混合装置に投入し、ブレンド時間5〜20分間で混合した後、押出機に入れ、加熱混練した後押し出すことにより行われる。押出物は通常ペレット形状とされて、後の工程で利用される。押出機としては、例えば二軸押出機などが好ましいものとして挙げられるが、これに限られるものではない。また、押出は、通常140〜200℃で行われる。
【0039】
次に、本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物の被膜が積層されたシートについて説明する。上記の如くして製造されたポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物は、基材シートに積層される。前記では本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物を一旦ペレット形状とした例を示したが、積層工程でのポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物の形態はこれに限定されるものでなく、混練された組成物を直接基材シートに被覆してもよいし、更に他の方法がとられてもよい。なお、本発明で「シート」という用語は、長尺およびカットされた短尺のフィルム、シートを包含するものとして用いられ、さらに基材シートは単層のものおよび複数の層からなる積層物をも包含するものである。
【0040】
本発明のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物が積層されたシートは、ポリエチレン被覆紙容器、ポリエチレン製容器など被着面がポリエチレン系樹脂である容器の蓋材として、あるいは包装袋などとして利用される。このため、ポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物が積層されるシートとしては、ポリエチレン系樹脂より耐熱性のあるフィルム状物、例えばポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、アルミ箔、紙などを用いた積層物が好適に用いられる。必要であれば、積層物にはポリエチレンフィルムなどが含まれていてもよい。
【0041】
蓋材として用いる場合、従来種々のシートが用いられている。積層物の構成を示すと、例えば、紙/アルミニウム箔、紙/ポリエステルフィルム、紙/ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム/アルミニウム箔、ポリアミドフィルム/アルミニウム箔、ポリエステルフィルム/アルミ蒸着ポリエステルフィルム、これら積層物の接着性樹脂組成物積層面にさらにポリエチレンフィルムが積層されたものなどが挙げられる。勿論、積層物とされることなく単層のままで用いられてもよい。包装袋用の基材シートとしても、上記のごとき材料からなる単層あるいは積層体が適宜用いられる。
【0042】
本発明の接着性樹脂組成物の基材シートへの積層方法としては、例えば、前記のごとくペレット化された樹脂組成物を用い、インフレーション法あるいはキャスト法などにより単層フィルム化し、このフィルムを基材シートと必要であれば接着剤層を介して積層する方法が挙げられる。積層面の接着性を改善するために、基材シート面に火炎処理、オゾン処理、コロナ放電処理、アンカーコート剤による処理が行われてもよい。ポリエチレン系樹脂を予めラミネートしてある基材に対しては、ダイレクトに押出しラミネートすることも可能である。また、ポリエチレンやポリプロピレン等との共押出しで多層フィルム化しておき、ドライラミネーションまたはサンドラミネーションにより、基材となるポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸または未延伸フィルムと積層することにより、積層シートを得ることもできる。この場合にも、積層面の接着性を改善するために、必要であれば、基材シート面に対し、火炎処理、オゾン処理、コロナ放電処理、アンカーコート剤による処理などが行われてもよい。また、本発明の接着性樹脂組成物層の厚みは、5μm以上とされ、10μm以上が好ましい。
【0043】
前記本発明の接着性樹脂組成物が積層された積層シートは、適用される容器の開口形状に合わせて裁断され蓋材として好適に用いられる。この蓋材を用いて容器の封緘がなされる。本発明の蓋材が適用される容器は、例えば、ポリエチレンのラミネート容器であるヨーグルト、ゼリー、納豆やアイスクリーム、乾燥菓子用の紙カップ等、ポリエチレンの単層ブロー容器である洗剤容器等、多層ブロー容器であるケチャップやマヨネーズ用容器等が挙げられるが、少なくとも被着面がポリエチレン系樹脂であればよく、構成中に塩化ビニリデンやエチレン−ビニルアルコール共重合体あるいはアルミ等のバリアー性のある包装資材が使用されている容器またはシートでも構わない。また、本発明の接着性樹脂組成物が積層された積層シートは、これをシーラントフィルムとした製袋品(接着性樹脂組成物面を内面としてシール)にも好適に使用できる。
【0044】
該容器と前記蓋材とは、通常、熱接着温度130〜180℃で熱接着がされる。上記容器がポリエチレン系樹脂被覆紙容器であり、該紙容器と前記蓋材とを熱接着温度130〜180℃で熱接着を行い、常温で封緘強度が15kPa以上、開封強度が8N/カップ以上25N/カップ以下の範囲であり、また剥離時に熱接着層が凝集破壊により剥離するようされることが好ましい。このような特に好ましい態様に用いられる蓋材は、基材シートとして、例えば5〜20μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)、5〜20μmのアルミニウム箔、5〜30μmのポリエチレンの積層体を用い、この積層体のポリエチレン面に、5〜40μmの本発明の易剥離接着性樹脂組成物の被膜を積層したものを用いることが好ましい。
【0045】
なお、上記封緘強度および開封強度は次の測定法で測定されたものである。
<封緘強度>
上記の積層フィルムの作成方法にて作成した蓋材を90mm×90mmのサイズに断裁後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒にてポリエチレン被覆紙容器(71Φ)に熱接着し、密封を行なった。温度23℃湿度65%の恒温恒湿室に24時間放置し、同恒温恒湿室にて昇圧速度13.3kPa/10秒で容器内圧を上昇させ、空気漏れが発生するまでの紙容器内圧の最大値を封緘強度とする。
【0046】
<開封強度>
上記の積層フィルムの作成方法にて作成した蓋材を90mm×90mmのサイズに断裁後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒にて71Φポリエチレン被覆紙容器に熱接着し、密封を行なった。温度23℃湿度65%の恒温恒湿室に24時間放置し、同恒温恒湿室にて45°角剥離 引張速度200mm/分の条件で測定を行い、最大値を開封強度とする。一般的に易剥離とされる開封強度は8〜25N/カップである。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1〜11および比較例1〜9
<ポリエチレン樹脂用易剥離接着性樹脂組成物の作成方法>
表1〜表3に示した原料の割合wt%で、低密度ポリエチレン樹脂、ブテン−エチレン共重合体、ワックスをヘンシェルミキサーで5分間プリブレンドした。ホッパーにプリブレンド物を投入し、スクリューフィーダーを用いて下記押出機に供給し、ポリエチレン被覆紙容器用易剥離接着性樹脂組成物を作成した。添加剤の酸化防止剤IRGANOX 1010 0.5wt%およびブロッキング防止剤 インクロスリップC 0.2wt%は各処方に一律に添加した。
【0049】
押出機;アイ・ケー・ジー社製同方向回転二軸押出機PMT32−40.5
バレル温度:180℃(供給口160℃)
スクリュー回転速度:200rmp
供給速度:10kg/hr
【0050】
<積層フィルムの作成方法>
押出しラミネーターを用いて、PET16μm/AL7μm/PE30μmの基材に、厚さ20μmで易剥離接着性樹脂組成物を基材のポリエチレン面に積層し積層フィルムを作成した。以下に加工条件を示す。
【0051】
押出しラミネーター:ムサシノキカイ製400M/MテストEXTラミネーター
ダイ直下樹脂温度:200℃〜340℃(易剥離接着性樹脂組成物のMFR等により適宜調整した)
加工速度:30m/分
Tダイ幅:400mm
冷却ロール表面温度:20℃
【0052】
<実施例および比較例で用いられた低密度ポリエチレン樹脂>
PE(1):ペトロセン204(東ソー社製、低密度ポリエチレン、MFR7g/10分、密度0.923g/cm3、DSC融点110℃、ビカット軟化点92℃)
PE(2):ペトロセン212(東ソー社製、低密度ポリエチレン、MFR13g/10分、密度0.919g/cm3、DSC融点107℃、ビカット軟化点85℃)
PE(3):ペトロセン350(東ソー社製、低密度ポリエチレン、MFR16g/10分、密度0.920g/cm3、DSC融点107℃、ビカット軟化点84℃)
PE(4):ペトロセン202(東ソー社製、低密度ポリエチレン、MFR24g/10分、密度0.918g/cm3、DSC融点106℃、ビカット軟化点82℃)
【0053】
<実施例および比較例で用いられたブテン−エチレン共重合体樹脂>
PB(1):タフマーBL3110(三井化学社製、MFR1g/10分、密度0.910g/cm3、DSC融点112℃、ビカット軟化点100℃)
PB(2):タフマーBL3450(三井化学社製、MFR4g/10分、密度0.900g/cm3、DSC融点104℃、ビカット軟化点87℃)
【0054】
<実施例および比較例で用いられたワックス>
WAX(1):SASOL H1(南ア・サゾール社製、密度0.94g/cm3、DSC融点82℃/110℃、重量平均分子量(Mw)943、フィッシャートロプシュワックス、直鎖状の構造)
WAX(2):ポリワックス655(ベーカーペトロライト社製、密度0.94g/cm3、DSC融点99℃、重量平均分子量(Mw)673、高密度ポリエチレンワックス、直鎖状の構造)
WAX(3):ハイワックス100P(三井化学社製、密度0.95g/cm3、DSC融点116℃、重量平均分子量(Mw)1131、重合型高密度ポリエチレンワックス、直鎖状の構造)
WAX(4):ハイワックス110P(三井化学社製、密度0.92g/cm3、DSC融点109℃、重量平均分子量(Mw)1344、重合型低密度ポリエチレンワックス、分岐状の構造)
WAX(5):ハイワックスNL100(三井化学社製、密度0.92g/cm3、DSC融点110℃/103℃、重量平均分子量(Mw)9212、分解型低密度ポリエチレンワックス、分岐状の構造)
WAX(6):ハイワックス200P(三井化学社製、密度0.97g/cm3、DSC融点122℃、重量平均分子量(Mw)4306、重合型高密度ポリエチレンワックス、直鎖状の構造)
【0055】
<実施例および比較例で用いられた添加剤>
酸化防止剤:IRGANOX 1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
ブロッキング防止剤:インクロスリップC(クローダ社製)
【0056】
<ポリエチレン被覆紙容器用易剥離接着性樹脂組成物の評価>
実施例および比較例の接着性樹脂組成物の加工性、開封強度、封緘強度、剥離時の外観評価を、以下の方法、基準に基づいて評価した。
【0057】
〔加工性〕
加工性は、次の評価基準で評価した。
積層フィルム化可:○
積層フィルム化不可:×
積層フィルム化不可は、前記積層フィルム作成において樹脂切れ、膜厚が不安定、ネックインがはげしい等の押出ラミネート加工上の不具合が生じた場合に不可とした。
【0058】
〔開封強度〕
前記した開封強度の測定法に則り測定を行い、最大値を開封強度として表中に示した。
【0059】
〔封緘強度〕
前記した封緘強度の測定法に則り測定を行い、空気漏れが発生するまでの紙容器内圧の最大値を封緘強度値として表中に示した。
【0060】
〔外観評価〕
上記の積層フィルムの作成方法にて作成した蓋材を90mm×90mmのサイズに断裁後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒にてポリエチレン被覆紙容器に熱接着し、密封を行なった。温度23℃湿度65%の恒温恒湿室に24時間放置し、同恒温恒湿室にて45°角剥離 引張速度200mm/分の条件で蓋材の剥離を行い、ポリエチレン被覆紙容器フランジ部の糸曳きの有無、ポリエチレン被覆紙容器のポリエチレン被覆部分の破壊による紙剥けの有無を目視により観察した。糸曳き、紙剥けについて、これがないものを○とし、糸曳き、紙剥けがみられたものを×として外観評価を行なった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低密度ポリエチレン樹脂(A)45〜75wt%、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)22〜40wt%、DSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1,500である直鎖状構造のワックス(C)2〜15wt%からなることを特徴とするポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物において、低密度ポリエチレン樹脂(A)は、メルトフローレートが5〜30g/10分であり、ブテン−エチレン共重合体樹脂(B)は、メルトフローレートが0.5〜5g/10分であり、DSC融点が80〜120℃であり、重量平均分子量(Mw)が500〜1500である直鎖状構造のワックス(C)は、フィッシャートロプシュワックスまたは高密度ポリエチレンワックスであることを特徴とするポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエチレン系樹脂用易剥離接着性樹脂組成物の被膜が積層されたシート。
【請求項4】
請求項3記載の積層シートにより形成された、密封面がポリエチレン系樹脂からなる容器用蓋材。
【請求項5】
請求項4に記載の蓋材により密封された、密封面がポリエチレン系樹脂からなる容器。
【請求項6】
請求項5に記載の容器において、該容器はポリエチレン系樹脂被覆紙容器であり、該紙容器と前記蓋材とを熱接着温度130〜180℃で熱接着を行い、常温で封緘強度が15kPa以上、開封強度が8N/カップ以上25N/カップ以下の範囲であり、また剥離時に熱接着層が凝集破壊により剥離することを特徴とする容器。

【公開番号】特開2009−46545(P2009−46545A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212232(P2007−212232)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(591004881)東洋アドレ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】