説明

ポリエトキシシロキサン材料を含有する生物学的に吸収性を有する材料、および/または、生物活性材料の製造用の非毒性のポリエトキシシロキサン材料、その製造方法および利用法

【解決手段】 本発明は、(a)式I(SiX)の1以上の異なるシリコン化合物の少なくとも1つのXラジカルに第1の加水分解縮合反応(HCR)を行う段階であって、ここでXラジカル同士は同じまたは異なっており、各Xラジカルは、エタノール(EtOH)またはエタノールと水の混合物を溶媒として、1から24時間の間、摂氏0度から摂氏78度(エタノールの沸点)の温度で、0から7以下の範囲の初期pHで酸触媒されるヒドロキシル、水素、またはエトキシ(EtO)を表す段階と、(b)段階(a)で得られた材料に第2のHCRを行い、同時に、ガス拡散密閉された容器(gas diffusion tight container)で、100から1013mbarの圧力下で、好適には300mbarから800mbarの僅かな負圧下で、摂氏50から78度の温度で、好適には約70度で、粘度が(摂氏4度で10s−1のせん断率において)0.5から2の間の値に大幅に増加するまで、好適には1に増加するまで、一定の重量になるまで、および、一般式((SiO(OH)0.75(OEt)1.25? 1/64 H2O)4のシクロテトラシロキサンが形成され、モル質量が4*約114g=約456gになるまで、徐々に蒸発させることで溶媒を除去する段階と、
(c)PES材料を、閉鎖された、好適にはガス拡散密閉された容器で、数分(2から5分)から数時間(0.2から5時間、好適には0.5時間)という期間で冷却する段階と、(d)段階(c)で得られたPES材料を、第3のHCRによりrPES材料に変換する段階と、から得られるポリエトキシシロキサン(PES)材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非毒性ポリエトキシシロキサン材料(PES材料)に係り、さらには、好適には多数の異なるポリエトキシシロキサン材料(PES材料)の1つとして形成される熟成ポリエトキシシロキサン材料(rPES材料)に係る。本発明において、このrPES材料(rは「熟成」、「熟成した」を表す)は、例えばPES材料の1つとして生体吸収性繊維および/または生物活性繊維にスピンされて、他のPES材料として不織繊維(fibrous nonwoven web)への加工が可能である。さらに本発明は、生体吸収性PES材料および/または生物活性PES材料を製造するべく、熟成または成熟前のPES材料を製造する方法、および、これら材料の利用法にも係る。
【背景技術】
【0002】
生体吸収性材料を人間の医療および医療工学のみならず、濾過技術、生体工学、または絶縁産業(insulant industry)等の他の技術分野に応用しようとする試みが数多く行われている。さらにこれら分野では、材料の生体活性上および毒物学上の性質において益々高い要件が必要とされるようになっている。
【0003】
先行技術では吸収性のシリコンポリマーが公知である。独国特許発明第196 09 551号明細書は、生物分解性および生体吸収性の繊維構造を記載している。これらの繊維は、スピンドープから延伸された後に乾燥させる、というゾルゲルプロセスにより得ることができる。スピンドープは1以上の部分的または完全に加水分解で縮合されるシリコン化合物を含み、これらは加水分解縮合により一般式がSiXであるモノマーから得られる。これら繊維は、スピンで分解されるので、細胞毒性試験結果が良好ではなく、細胞毒性であるとして分類されることがある、という欠点を有する。細胞毒性は人間の医療、医用工学、濾過技術、生体工学、または絶縁産業上の用途、特に、傷治療または生体の流体からの細胞の濾過への用途には絶対に許されない。独国特許発明第196 09 551号明細書による繊維製造方法は、さらに、加水分解縮合段階において溶媒を除去した結果生じる混合物が、多相の混合物であるので、形成された固体材料を除去すべく濾過されねばならない、という欠点をも有する。他の液体シリコンポリマーは、毒性でありうるが、濾過による除去が不可能である。加えて、特に、固相の形成により、および不可欠な濾過段階により、スピン可能なゾルの大部分が失われる。独国特許文献196 09 551号明細書によるこの方法は、熟成中に、比較的高度に縮合したシリコン化合物のゲル状の相を高い比率で形成する。これにより、さらにスピン可能なゾルドープの比率が低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、非毒性の生体吸収性および/または生物活性材料、この材料を含む複数の材料、および、非毒性の材料を製造する方法の提供である。
【0005】
ここで言う生物活性とは、材料と組織(例えば傷ついた組織)の積極的な相互作用、および、その後に組織を区別化して、その結果、材料と(受け入れ側の)組織との間の界面に沿って組織が結合または付着されることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的は、請求項1に示すゾル、または、マイクロエマルション(コロイド溶液)により達成されることが分かっており、ここではマイクロエマルションは、PES材料とも称される。このようなマイクロエマルション/コロイド溶液は、以下の段階により得られる。
(a)式I(SiX)の1以上の異なるシリコン化合物の1つ以下のXラジカルに第1の加水分解縮合反応(HCR)を行う段階であって、ここでXラジカル同士は同じまたは異なっており、各Xラジカルは、エタノール(EtOH)またはエタノールと水の混合物を溶媒として、1から24時間の間、摂氏0度から摂氏78度(エタノールの沸点)の温度で、0から7以下の範囲の初期pHで酸触媒されるヒドロキシル、水素、またはエトキシ(EtO)を表す段階。
(b)段階(a)で得られた材料の第2のHCRを行い、同時に、閉鎖された、ガス拡散密閉された容器(closed, gas diffusion tight container)(回転蒸発器)で、所定圧で、好適には約500mbarの僅かな負圧下で、好適には摂氏50から78度の温度で、より好適には約摂氏70度で、粘度が約1Pa・sに大幅に増加するまで、一定の重量になるまで、および、一般式(SiO(OH)0.75(OEt)1.25x1/64HO)においてモル質量4x約114=約456gが形成されるまで、徐々に蒸発させることで溶媒を除去する段階。
(c)このPES材料を、閉鎖された、好適にはガス拡散密閉された容器で、数分から数時間という期間で(好適には30分以内に)急速に冷却する段階。
(d)段階(c)で得られたPES材料を、第3のHCRによりrPES材料に変換する段階。
【0007】
本発明の非毒性の、生体吸収性および/または生物活性PESまたはrPES材料は、1以上の濾過段階を含む方法、または含む必要がある方法を用いなくても得ることができる。この点は、独国特許発明第196 09 551号明細書から公知である方法との大きな違いである。段階(d)の後に、以下の段階(e1)から(e4)のいずれかである第4のHCRを行うこともでき、こうすることで、段階(d)で得られたrPES材料を利用して、繊維(e1)、粉末(e2)、モノリス(e3)、またはコーティング(e4)等のPES材料のいずれかを製造することができる。これら段階は以下の方法を含む。
(e1)rPES材料を生体吸収性および/または生物活性繊維にスピンする。
(e2)段階(d)の材料を、得られたrPES材料を乾燥処理(より具体的には凍結乾燥処理)することで、粉末状へと処理して、乾燥したPES材料を粉末状にする(研磨する)。
(e3)段階(d)のrPES材料を型に入れて、乾燥させる。
(e4)段階(d)のrPES材料で物品をコーティングする、または、後者をrPES材料に漬ける。
【0008】
利用に際しては、rPES材料(1つまたは複数)は、生理的に許容可能なよう、pHが5から7であると好適である(特に6以上が好適である)。pH5未満になると、材料は酸性となってしまい許容できなくなる。段階(b)では、一定の重量まで(つまり水が枯渇するまで、または、概ね枯渇するまで)蒸発処理が行われるので、水のないシステムの酸強度は、特定のpHに定義することはできない。従って、(b)でオプションとして緩衝(つまり、適切な緩衝剤またはアルカリの添加)または酸強度の低減(例えば硝酸の場合には、NOの除去/蒸発)を行って、(e)の後で得られるrPES材料が、または、成形されるPES材料が、散水時に(at watering)、5から7のpHを有する(特に6以上)ようにすべきである。
【0009】
これを達成するには、酸強度を低減させる、または、酸の効果を緩衝することが好適である。これを段階(b)で行わない場合、または、好適なレベルまで行わない場合、後で、PES材料の(例えば肌/傷への)塗布の直前までに、段階(c)または(e)で行うこともできる。しかし、段階(b)で酸強度または酸の効果を補正しておくことは、本発明によると略好ましいと思われる。
【0010】
段階(b)、(c)、または(e)、またはPES材料への散水中に酸の効果を低減させることは、特に自由基または塩基(例えばTrisアセテート、リン酸三ナトリウム)のTris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)により行われてよい。
【0011】
上述の反応の個々の段階を、以下で詳述する。
【0012】
段階(a)
本発明の好適な例によると、テトラエトキシシラン(TEOS)を、本発明の(第1の)HCRの式Iの唯一のシリコン化合物として利用する。
【0013】
0から7以下という初期のpH(好適には2から3.5)は、例えば、希硝酸(例えば1N、好適には0.01NのHNO)により設定される。しかし原則としては、NOまたはNOをインサイチューに製造するのに適した酸混合物または溶液の利用が可能である。例えば、生理的環境で酸素分子とともに酵素的に(ニトロキシドシンターゼ(nitroxide synthase)、NOSにより)一酸化窒素(NO)を生成して、ボディによりNOに急速に変換される酸混合物および溶液もありえ、さらには、例えば有機硝酸レダクターゼに助けられてNOを形成する硝酸エチルのような有機硝酸塩または硝酸エステルもありうる。このNOの酵素遊離にはチオール基(システイン)が必要である。
【0014】
希硝酸に加えて、本発明で好適なのは、生理的に許容可能な酸(例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、またはアスコルビン酸)、少なくとも1つの必須アミノ酸(例えば、L−アルギニン、より好適にはL−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−サイロキシン、L−メチオニン、L−リシン、またはL−トリプトファン)、または、非必須アミノ酸(例えば、L−グルタミン、L−グルタミン酸、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グリシン、L−アラニン、L−プロリン、L−ヒスチジン、L−チロシン)をNOSの基質とすることで、pHを弱酸性または中間の酸性の範囲内の所望の値に調節した、水溶液またはアルコール溶液(より好適には、希釈エタノール水溶液(aqueously diluted ethanolic solution))である。
【0015】
希硝酸により(例えば0.01Nで)pHを調節した場合、式(I)のシリコン化合物/硝酸のモル比が110:1、から90:1の範囲、より好適には、100:1での利用が好適である。硝酸の利用は、式Iのシリコン化合物(例えばTEOS)/HNOのモル比が約100:1であると好適である。
【0016】
段階(a)で利用されることが好適な本発明の溶媒は、エタノールと水の混合物であり、これは、式Iのシリコン化合物を溶解する機能、または、少なくとも乳化する機能を有する。式Iのシリコン化合物がTEOSである場合、水は、式Iのシリコン化合物を溶解/乳化しないので、溶解剤としてEtOHを混合することが好適である。EtOHの好適な量は、TEOSの1から1.5mol/molの範囲であり、特に好適な実施形態では、TEOSの1.26mol/molの範囲である。
【0017】
本発明では以下の非常に好適な反応バッチが行われる。反応器には、最初、1molのTEOSが容れられており、そこへ1.26molのEtOHを加える。この混合物を攪拌して、EtOHにTEOSを溶解させる。これとは別に、27.81gの1N HNO(1.75gのHNOに対応する)を、60.38gのHOで希釈する(これにより、希硝酸の全質量は88.19gとなり、そのうち86.44gがHOであり(4.8molに相当)、1.75gがHNOであり(0.028molに相当)、HO/HNOのモル比は4.8/0.028=172である)。次に33.07gの希硝酸をエタノールTEOS溶液に加える(1molのTEOSについて、1.8molのHOおよび0.01molのHNOを利用する)。
【0018】
第1のHCRは、放熱処理を伴って(exothermically)行われる。本発明による第1のHCRは、TEOSを一例として例示されているが、TEOS分子の1つのEtO基が加水分解して、その結果生じるOH基が、継続的な攪拌による二量化および水除去によって縮合する。つまり、2つの溶液(例えばEtOHのTEOSおよび希硝酸)が室温(RT)で混合され、この間、一度の1つのEtOラジカルの加水分解および縮合により2個のSiXが(例えば2TEOS)が反応してXSi−O−SiX(例えば(EtO)3-Si-O-Si-(EtO)3))を形成する際の温度は、約50から60度に上昇する。第1のHCRの場合の初期温度は重要ではない(反応が放熱処理を伴って行われるので)。温度はRTであってよいが、特定のRT未満であっても、またはRTを超えてもよい(例えば摂氏5、10、15、20、35、45、60、または70度)。温度は、第1のHCRを行うのに十分な程度の高さであればよい。
【0019】
本発明では、TEOS分子毎に1を超えるEtO基の加水分解は避けることが特に好適である。従ってRT(約摂氏20度、または、適宜摂氏18から25度)は、コスト上および実践上の理由から好適である。摂氏78度までの高温も、摂氏0度から摂氏78度の範囲にある限りにおいて適している(好適には摂氏10度から摂氏70度の範囲、または、摂氏20度から摂氏60度の範囲)。温度は、より低い温度では、より長い反応時間が必要になるという化学反応の慣習的な関係にあることを理解されたい。本発明の好適な実施形態では、この第1のHCRは、1から12時間の間、行われる。5から8時間が特に好適である。
【0020】
ゾルは、攪拌中にRTまで冷却される。ひとたびゾルがRTになると、攪拌を終了して、遅れることなく段階(b)を行う。反応混合物は、(b)および攪拌を行わずに、不必要にRTにしておいてはならない。さもなくばHCRが継続して混合物がゲル状になり、より縮合度の高いシリコン化合物となる。
【0021】
第1のHCRは攪拌容器においてバッチ式で行われることが好適である。式Iのシリコン化合物(例えばTEOS)および溶媒(例えばエタノール)は、最初の投入として容れられることが好適である。次に、酸を迅速に加える(酸は好適には0.01NのHNOであってよい(例えば、1モルのTEOS毎に0.01モルのHNO)であってよい)。反応混合物の酸強度によって、第1のHCRは急速に進み、反応時間中(つまり段階(a)の間)は、容器の内容物は摂氏50度から摂氏60度まで加熱され、その後温度は下降し始める(周囲温度まで自然に冷却する結果、つまり外部的に冷却されない)。
【0022】
段階(b)
段階(a)で得られた材料の、閉鎖された、ガス拡散密閉された容器(closed, gas diffusion tight container)(回転蒸発器)における第2のHCRにおいて、圧力100から1013mbarで(好適には500から800mbarで)、RTの反応温度が摂氏70度で(好適には摂氏60から70度で)、且つ好適には20rpmで徐々に回転させながら、徐々に行われる蒸発処理による溶媒(水、エタノール)の同時除去によって、一般式:((SiO(OH)0.75(OEt)1.25 ? 1/64 H2O)4のシクロテトラシロキサン(4?約114g=約456gのモル質量)が、大幅な粘度増加を伴って、形成される。
【0023】
段階(b)は、これ以上加水分解を起こさないように、水のない環境で行うことが不可欠である。ここで言う「水がない環境」とは、外部からの水が流入しないようにすること、または、大気湿度により外部からの水が反応混合物に流入しないようにすることを意味するが、縮合反応によって水が形成され、段階(a)で幾分かの水が溶媒として添加されるので、段階(b)の反応混合物が完全に水を含まないわけではない。
【0024】
溶媒(混合物)による気泡の形成を回避すべく、蒸発温度は、摂氏78度(EtOHの沸点)を超えるべきではない。摂氏60度を超える温度が特に好適である、というのも、これより低い温度では、酸(つまりHNOの場合のNO)が充分蒸発しなくなり、残りのHCRが酸度の強い中で行われ、最終的な材料内の酸濃度が高くなるからである。
【0025】
発明者のこの認識により、段階(b)(所謂、反応蒸発段階)は、粘度が約1Pa・sに急峻に上昇するまで、且つ、一定の重量に達するまで、または、シクロテトラシロキサンが形成されるまで、好適には、同時に、酸強度が理想的に大幅に低減するまで、行われることが好適である(硝酸、またはより正確にはNOを蒸発させることによって)。当業者であれば、粘度が大幅に上昇を始め、0.5から2Pa・sという値に達すると、段階(b)の終わりである、と認識する。反応混合物の粘度が約1Pa・sである場合、摂氏10度未満の温度にまで冷却することで(以下の段階(c)を参照)、(b)を終了すると好適である。この段階では、単相の「温かい」マイクロエマルション(より正確には、摂氏4度で10s−1のせん断率において、粘度が0.5から2Pa・sである単相の「温かい」ゾル(PES材料))が存在している。
【0026】
反応蒸発は、水、EtOH、および場合によっては硝酸を利用している場合にはNOの除去を促すような温度で行われる。実際的には摂氏70度が好適であるが、例えば摂氏50度または摂氏60度といった、僅かにこれより低い温度も好適である。発明者たちは自身の理論に固執せず、初期の実験データにより、段階(b)で得られたPES材料(「温かい」マイクロエマルション、または「温かい」ゾル)について、4つのSi−O単位である4倍の形成物(quadruple formation)である、((SiO(OH)0.75(OC2H5)1.25? 1/64H2O)4 (MW = 4?113.28 g = 453.12g)という組成が、8つの部材からなるリングを形成する、と仮定した。
【0027】
注意深い読み手であれば、段階(b)が、それらの除去の後に(a)で得られた中間物に対して、EtOHまたは水をなくするというさらなる反応を行うことを含むことに気づくであろう。段階(b)が密閉容器で行われない場合、または、重量を一定にするよう、または、粘度を増加させるよう(好適には1Pa・sまで)行われない場合、生理的に好ましくない物質がPES材料に残留してしまうことになり、段階(c)、(d)、および/または、(e1)−(e4)中にこれらを除去することは難しい。
【0028】
段階(a)が希硝酸を利用している場合、段階(b)における、可能性があり、好適な酸強度の低減は、NO、O、および水を形成する反応蒸発中の酸分解により行われる。しかしNO(沸点が摂氏21.2度までの範囲)は、大部分が排出されるものの、その非常に僅かな部分はマイクロエマルション/ゾルに残留してしまう。しかし、システムが有機酸/アルギニンを硝酸の代わりに利用する場合には、例えばTris溶液によって、pHを上昇させることができる、つまり、酸強度を低減させることができる(例えば酸および酢酸を排出できない場合)。
【0029】
驚くべきことに、段階(a)および(b)について上述した状況を観察すると、段階(b)での溶媒の除去により、マイクロエマルションは、段階(d)の熟成の前の濾過が不要になっている(つまり、単相である)ことに気づいた。
【0030】
段階(c)
この段階は、冷却処理であり、段階(b)で得られた「温かい」マイクロエマルションを、閉鎖された、好適にはガス拡散密閉された容器に迅速に転送して(つまり、数分から数時間の間に、好適には、30分以内に)、段階(d)を行う温度にまで冷却させる、ということに特徴付けられる。
【0031】
故に、冷却処理の終了時点での温度は、好適には摂氏−20度から摂氏10度の範囲であり、好適には摂氏2度から摂氏4度の範囲であり、より好適には、摂氏4度に等しい。湿気侵入(例えば容器に付着する大気湿度または湿気)を完全に回避する必要がある。適宜、この段階では、ボディに後で塗布される材料のpHがpH5から7となる(好適にはpH>6)ように材料を調節する。
【0032】
段階(d)
速度論的に制御された熟成処理は、これがなくては、段階(c)により得られる反応混合物(PES材料)の処理(例えば、スピンまたはコーティング処理)が全くできないことから、本発明の方法の主要構成部分である。この段階(d)は第3のHCRであり、ここでは、隅に8つのシリコン原子を、および角に12個の酸素橋を有する一般式Si8O12(OH)2(EtO)6の立方体(cube)またはケージ(cage)(シルセスキオキサン(silasesquioxanes))の形成に際してともに行われる段階(b)で生成された4倍の形成物(quadruple formation)(シクロテトラシロキサン)によって、反応混合物の粘度が増加する。得られる粘度に応じて、シルセスキオキサンは、立方体/ケージ、またはオリゴシルセスキオキサン(oligosilasesquioxanes)の鎖を形成する。
【0033】
本発明の段階(d)は、閉鎖された、好適にはガス拡散密閉された容器(例えば所謂「熟成ビーカ」)で、好適には、段階(c)で既に利用した容器内で行われる。湿度または他の気体(COを含む)の侵入を完全に回避する必要がある。本発明の段階(d)は、摂氏−20度(を超える温度)から摂氏10度の範囲の温度で、1日から4週間の間、好適には、摂氏2度から摂氏4度の温度で、3から18日間、行われることが好適である。特に好適な方法は、熟成処理を、摂氏4度で3から5日の間、特に、閉鎖された、好適にはガス拡散密閉された容器に反応混合物を振動しないよう格納して行う、というものである。しかし、熟成処理は、摂氏−20度(を越える温度)から摂氏10度の範囲の温度内の任意の温度で行われれば、同様に好適である。
【0034】
当業者であれば、温度と反応時間とが、互いに適合される、2つの相互依存変数であり、段階(c)で得られた材料が完全に一般式Si8O12(OH)2(EtO)6のシルセスキオキサンに変換され、このようにして(d)で得られたrPES材料の動的粘度が、段階(e1)から(e4)のいずれかの実行に適したものであるようにすることが好適であることについて理解しよう。材料が段階(e1)で繊維にスピンされた場合、(d)の最後における動的粘度は、約30から55Pa・sで(摂氏4度で10s−1のせん断率)、損失率が3.5(損失率は、動的粘度への弾性および非弾性的貢献から形成される割合である)であるべきである。一方で、材料が段階(e2)で粉末に加工された場合、(d)の最後における動的粘度は、約60Pa・sである(摂氏4度で10s−1のせん断率)。材料がモノリスに加工された場合(段階(e3))、(d)の最後における動的粘度は、好適には70Pa・s以上である(摂氏4度で10s−1のせん断率)。材料が段階(e4)で物品または表面のコーティングに利用された場合、動的粘度は、所望の層の厚みに応じて、10Pa・s以下(摂氏4度で10s−1)である。
【0035】
熟成処理中に熟成ビーカ内を低温にするのは、一般式:Si8O12(OH)2(EtO)6のシルセスキオキサンを形成するべく、4倍の形成物(quadruple formation)(シクロテトラシロキサン)から、速度論的に制御された加水分解および縮合(第3のHCR)を起こすことを目的としている。これらシルセスキオキサンは水素結合を介して縮合する。発明者たちは自身の理論に固執せず、初期の実験データにより、段階(d)で得られたrPES材料の以下の種類の組成を仮定した:縮合中に、第3のHCRは継続され、シルセスキオキサン(立方体)もともに生じて、一般式[OSi8O12(OH)2(EtO)5]のオリゴシルセスキオキサン(立方体の鎖)を形成して、好適には一次元の鎖が形成される。これら立方体の鎖は、容易に100から1000nmの長さとなりうる線形の(疑似一次元の)オリゴマー構造を形成する。各立方体の鎖は、水素結合により互いに縮合するが、依然として残留エトキシ基を含有する。
【0036】
巨視的には、一次元の鎖構造は、ある形態の粘度を維持せねばならなない(所謂、構造的粘度)。立方体のHCRを増加させて立方体の鎖を形成することにより、粘度は増加する。立方体の鎖の形成は、所望の粘度に達するまで行われる。
【0037】
こうした熟成処理によって熟成ビーカ内にできる最終生産物は、ある構造的粘度を有する無限に永続するゾル(rPES材料)である。構造的粘度は、より低い粘度を呈することにより、高いせん断力に呼応する流体の特性であり、流体に対するせん断率が高くなるほど、流体の粘度は低くなる、といったものである。粘度は、ゾルのオリゴマーに対する応力の結果低下して、応力は、個々のゾル粒子(この場合にはオリゴシルセスキオキサン)の個々のゾル粒子が整列して、これにより互いに対して良好に滑空することを保証する。この主題についてのさらなる情報(特に、スピンを可能とする構造のサイズおよび形状)は、Sakka in Sol-Gel Technology for Thin Films, Fibers, Preforms, Electronics and Specialty Shapes, ed. L.C. Klein, Ncyes, Park Ridge, N.Y., 1988, 140ページ、および図2.7に開示されているのでこれを参照されたい。
【0038】
このように、本発明は、三次元ポリマーゲルネットワークの競合的形成(competing formation)を(非常に大幅に)抑制することができるという利点を有し、本発明による段階(d)の後の方法の最終生産物は、ゲルを含有しない、疎水性のエトキシを含有するオリゴシルセスキオキサン(立方体の鎖)の単相ゾルであると好適であり、このゾルは(非常に大幅に)水を含まず、永久保存、運搬、および流通に非常に適している。
【0039】
速度論的に制御された熟成処理は(つまり段階(d))、最小限にしか行われず、行われる場合には、摂氏−20度未満で行われるので、PES材料は段階(c)の後では摂氏−20度で「凍って」いることがあり、この温度では同様に無限の耐久性を有する。これは好適な変形例である、というのもPES材料(段階(d)の前)が、段階(d)の後でrPES材料と全く同様に保存および運搬が可能であるからである。
【0040】
ここでも発明者たちは自身の理論および予備実験データに固執せず、段階(d)で得られたrPES材料について、一般式のSi8O12(OH)2(EtO)6のシルセスキオキサンまたは組成[OSi8O12(OH)2(EtO)5]のオリゴシルスキオキサンを仮定した。シルスキオキサンは、1つのシリコン原子について1.5倍のセスキ化学量論的な(sesqui-stoichiometric)酸素について命名された。この種類の化合物は、梯子、立方体、またはケージ構造(cage structure)を含む多くの幾何学的構造に存在することが知られている。
【0041】
完全に縮合した(fully through-condensed)シルセスキオキサンは、[RSiO1.5]n構造を有しており、多面オリゴマー状シルセスキオキサン(POSS)と称される。完全に縮合したPOSSも文献から公知であり、市販されており(例えば、米国ミズーリ州セント・ルイスのSigma-Aldrich社より)、多くの代替物も存在している。Sigma-Aldrich社は、例えば、式(CH3)8Si8O12のオクタメチルPOSSおよび式(C5H9)7Si8O12(OH)のシクロペンチルPOSSシラノールを提供しているが、これらは両方とも、本発明のオリゴシルセスキオキサン[OSi8O12(OH)2(EtO)5]とは実質的に異なっている。また文献のペンタエトキシPOSSシラノールとも実質的に異なっている(概略がhttp://www.sigmaaldrich.com/aldrich/brochure/al_chemfile_v1_no6.pdf)に記載されている)。
【0042】
また、経験式RSiO1.5のシルセスキオキサンも知られており、ここで、Rの置換基(substituent)は、理論的に以下のグループから選択されうる:水素、ヒドロキシル、アルキル、アルケニル、アルコキシル、およびアリール。文献から公知であるシルセスキオキサンは、以下のR置換基を有するものを含む:メチル、プロピル、アリル、メタクリロイル、フェニル、水素、ヒドロキシル基。
【0043】
段階(e1)
ゾルを繊維に加工するスピン処理は、例えば独国特許発明第196 09 551号明細書および独国特許出願公開第10 2004 063 599号明細書に記載されている慣習的な条件で実行される。ゾルの動的粘度は、好適には30から55Pa・sの範囲であり(摂氏4度で10s−1のせん断率)、損失率は3.5である。スピン処理では、rPESは、100個までの個々のダイを有するダイヘッドを介して圧力を加えられた容器により空気を吹きかけられる(blown)(容器の圧力は1から100バール、好適には20バール)。究極的に生じる繊維は、概して、一般式[OSi8O12(OH)2(EtO)5]の立方体の鎖(オリゴシルセスキオキサン)に存在し、スピン中に互いに架橋(crosslink)される。(冷却)ダイから現れるゾルは、(温かい)スピン軸から下降して、そこで、ダイから現れるジェットが、オリゴシルセスキオキサンの(分子)架橋により反応して、(安定した)繊維を形成する現象を担うさらなる(第4の)HCRを受ける。スピン軸の長さは通常1−5mであり、好適には2mである。スピン軸の環境は、温度および湿度が制御されており、所望であれば、さらに、約摂氏20度、および約35%(33から37%)であり、さらなる反応物(例えば硝酸エチル)を有する大気湿度の雰囲気に設定される。
【0044】
スピン軸から下降した後で、繊維の断面は丸形になり(楕円形状でもダンベル形状でもなく)、長手方向の断面には波形のプロフィールがなく、形状が安定している。これらは横断テーブル(traversing table)に配置される。このようにして形成される不織繊維の網目サイズは、横断速度により制御される。この横断速度は数cm/分のオーダである。このように遅い速度で進ませることによって、エトキシ基の30%を越える量の、シリコン含有出発化合物としてのTEOSが残留する細かい網目の不織繊維が形成される。
【0045】
本発明により段階(e1)で生成された繊維は、残存するエトキシ基によってある程度の疎水性を有する。それらは、(大幅に)溶媒(水、エタノール)がなく、永久保存、運搬、および流通に非常に適している。事実上、本発明の好適な実施形態は、粉末段階(e1)、モノリスおよび物品/表面のコーティング段階(e2)、(e3)および(e4)で繊維、または、不織繊維を生成して、本発明のこれら実施形態を保存、運搬、および流通させることに関する。
【0046】
段階(a)が希硝酸を利用する場合、可能性あるおよび好適な酸強化低減段階(e1)、(e2)、(e3)、および(e4)は、NOの残りの、含有されている部分により(沸点〜摂氏21.2度)、その後、好適には摂氏30度で脱ガスすることで除去されることで実行される。しかし、システムが硝酸の代わりに有機酸/アルギニンを利用する場合、Tris水溶液ですすぐことによる適用の直前に例えばTris溶液(酸の場合、例えば酢酸の場合は排出することができない)によりpHを上昇させたり、酸強度を低減したりすることができる。
【0047】
自明ではあるが、(e4)の場合の保存および運搬は、好適には段階(c)の後で、PES材料が「凍った」状態で実行される。
【0048】
段階(e2)
乾燥前または乾燥中に、段階(d)で得られた約60Pa・s(摂氏4度で10s−1のせん断率)の動的粘度を有するrPES材料を(rPES材料はその生物活性により活性成分としてみなされうる)、例えば薬剤活性物質等の任意の(さらなる)活性成分に混合したり、または、さらなる第4のHCRを利用して共有結合(covalently bonded)したりすることができる(今後、「活性成分」という用語は、概して段階(d)のrPES材料のことではなくて、さらなる活性成分のことを意味する)。これは、好適には均質な混合物を作成することにより行われる。特に温度感受性を有する活性成分を混合する場合には、PES材料および活性成分の混合物は、第4のHCRの後に、例えば噴霧またはフリーズドライにより微乾燥される(gentle drying)。活性成分が温度感受性を有しない場合、または活性成分を全く添加しない場合には、乾燥処理も(顕著な)高温で行うことができる。この処理では、生体吸収性マトリックスおよび/または生物活性マトリックスが、活性成分の周りに形成されることが好適である。このマトリックスは、さらに、特に液体状である活性成分の封入に適している(液体は、長期間安定してマトリックスに封入され、再度、制御された状態で解放されることができる)。封入は、活性成分の機械的および化学的な安定化を可能として、このような液体状の活性成分および薬剤を処理し易くして、さらに、活性成分が無制御に揮発しないようにする。特定用途に適したさらなる物質および/または賦形剤が最終生産物(粉末)に存在してもよいことを理解されたい。さらなる活性成分が追加されない用途は、例えば、皮膚用クリームの添加物等が一例であり、これはhttp://www.photolagen.com/に記載されている。
【0049】
粉末は、ミクロ粉末(micropowder)および/またはナノ粉末(nanopowder)であってよい。本発明のミクロ粉末の粒子は、サイズ(平均直径)が0.01μmから100μmの範囲、特に0.1から20μmの範囲であると好適である。ナノ粉末の粒子は、概して100nm以下のサイズ(平均直径)を有する。
【0050】
ステップ(e3)
さらなる実施形態では、段階(d)により(ここでも乾燥前または乾燥中)得られるrPES材料((d)の最後の動的粘度は、好適には、摂氏4度でせん断率が10s−1である場合に70Pa・s以上)は、例えば薬剤活性物質等の任意の(さらなる)活性成分に混合したり、または、第4のHCRを利用して共有結合(covalently bonded)したりすることができる。この後で、(さらなる)活性成分の存在如何に関わらず、rPES材料の成形処理を行う。乾燥処理の後に、このようにしてモノリスが得られる。モノリスは、皮下的な薬物送達システムのようなマッシブインプラントの形で利用することができる。これらは、例えば、避妊用持続性薬剤として利用されることができ、活性成分を長期間放出することができる。本発明によるこのようなインプラントは、良好な生物学的許容性を有する。モノリスの直径は好適には0.5mm以上であってよい。または、モノリスは粉末にする(研磨する)こともできる。
【0051】
ステップ(e4)
しかし、段階(d)で熟成された材料は、さらにコーティングにされてもよい。この目的のために、コーティングされる物品は、rPES材料の注入(irrigation)またはrPES材料のスピンコートまたは噴霧により、rPES材料に浸されることでコーティングされてよい(摂氏4度における10s−1のせん断率において、動的粘度は10Pa・s以上である)。コーティングとしての利用において好適なのは、コーティングタブレットまたはカプセルであり、粉末状の薬剤混合物に、rPES材料の生体吸収性コーティングおよび/または生体活性コーティングが施されてよい。これにより、(さらなる)活性成分は、研磨および/または制御される形成物内に、例えば、層の厚みおよび/または層のシーケンスにより解放される。しかし、このようなコーティングはさらにボディの部分のインプラント(例えばチタニウムからなる)に塗布されてもよく、これによりインプラントの(生物学的)許容性が向上する(例えば、拒絶反応が軽減または回避される)。
【0052】
本発明のさらなる実施形態では、高粘度のゾル(特にヒドロゲル)に本発明のrPES材料を補充されてよく、または、高粘度のゾル(特にヒドロゲル)が本発明のrPES材料で置換えられてよい。高粘度のゾルおよびヒドロゲルは、医療および医薬分野では、薬剤または活性成分の送達システムとして利用される。一般的にヒドロゲルは、面積の広い傷の管理に幅広く利用される(傷治療および傷治癒)。rPES材料の添加により、生物学的許容性が高まるので、傷治癒力が高まるという利点が生じる。本発明のヒドロゲルはこの点において、医療分野で生体吸収性製品および/または生物活性製品に利用されると好適であり、特に、人間の医療または医療技術に利用されると好適である。
【0053】
繊維のさらなる加工および利用法
本発明の好適な方法(段階(a)から(d)および(e1)を含む)の1つによる最終生産物である繊維は、繊維または不織繊維として利用することができる。これらPES材料(PESおよびrPES材料を含む)は、良好な生体吸収性および/または生物活性を有する。これらPES材料はさらに、永久保存、運搬、および流通の際に利便性が高い。
【0054】
PES材料の利用前に、好適には利用の直前に、例えば人間の医療または医療技術の生体吸収性材料および/または生体活性材料として(例えば、傷治療、傷治癒、外科的縫合として、または補強繊維として、さらに次のパラグラフも参照のこと)利用される前に、PES材料(繊維、粉末、モノリス、コーティング溶液)は、散水されることが好適であり、少し外圧を加えられた状態で散水されることがより好適である。散水により、残留しているエトキシ基を完全に加水分解することができるので、材料の親水性がより高まる。上述したように、この散水は、pH向上条件下で(例えばリン酸緩衝液H2PO4/HPO42−内で)行われてよく、特に前の段階でpHが上昇していない場合に行われてよい。この処理中には、五番目および最後のHCRが行われ、この間、残存している加水分解されていないエトキシ基がPES材料から除去される。
【0055】
さらなる利点は、本発明により生成されたPESまたはrPES材料、および、それらを構成する材料が、細胞毒性試験において、独国特許発明第196 09 551号明細書の方法から得られる繊維および繊維材料と比較して顕著に向上した値を有することである。この向上は、L929マウス線維形成(fibroplast)試験で証明された。従って、本発明の段階(e1)から(e4)で得られる材料は、特に良好な生物学的許容性を有する点で注目に値する。
【0056】
従って、本発明により生成される繊維または不織繊維は、人間の医療、医療技術、濾過技術、生体工学、または絶縁産業等の分野における生体吸収性および/または生体活性材料への利用が好適である。より詳しくは、本発明により生成される材料は、傷治療および傷治癒の分野への利用が好適である。繊維は、例えば、外科的縫合として、または補強繊維として利用することができる。不織繊維は、外傷の管理、生体の流体(例えば血液)の濾過、または、培養酸等のバイオリアクタ分野で利用されると特に好適である。本発明の(e1)、(e2)、(e3)、および(e4)によるPES材料は、生体活性物質とともに搭載されてよく、つまり、生体活性シリコンポリマーに加えてさらなる活性成分を含むが、これらを実際の作業現場に運ぶこともでき、または、動作現場での活性成分の解放に影響を及ぼしてもよい。これら材料は今後、薬剤送達システムと称される。
【0057】
本発明による熟成PES材料の利用法、および、本発明によるPES材料の利用法は、両方とも、多くの異なる方法で、様々な(さらなる)活性成分とともに加工され、利用され、および組み合わせられるという利点を有する。本発明のrPES材料が(さらなる)活性成分に反応するいかなる反応製品の加工形式ではないことが特に好適である。本発明のPES材料は、生体吸収性および/または生体活性を有し、向上した細胞毒性値を有し、特に医療および医療技術の分野で必要とされる材料の生物学的許容性の向上に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に、本発明を、限定的ではない例を参照しながら詳述する。
【0059】
記載される全ての粘度は、Physika社のMCR300粘度計を用いて、摂氏4度において10s−1のせん断率で計測されたものである。
【0060】
例1:生物吸収性および/または生物活性のあるrPES材料(ゾル)、および、その繊維および不織繊維への加工方法
加水分解縮合反応の出発材料として、2.7molのTEOS(テトラエトキシシラン)(562.4g)を、最初の投入として反応容器に投入した。3.4(2.7×1.26)molのEtOH(156.8g)を溶媒として加えた。この混合物を攪拌する。別途に、1N HNO(27.81g)をHO(60.38g)で希釈した。続いて、89.28gのこの希硝酸を、RTで完成させたTEOS−EtOH混合物に加えて、結果生じる反応混合物に、1モルのTEOSについて、1.8molのHOと、0.01molのHNOとが含まれるようにする。この混合物を5時間の間攪拌する。
【0061】
段階(a)の後に得られた混合物を、摂氏70度で、500mbarの真空状態にして、ゆっくり攪拌することで(20rpm)、回転蒸発器で蒸発させることで(段階(b))、略水およびエタノールが含まれない状態にした。高温にすることで、HNOをNOという還元形に実質的に還元する。ゾルは約1Pa・sの粘度を有し(せん断率は摂氏4度で10s−1である)、酸強度に実質的な低減が見られた。
【0062】
段階(c)で、30分の間、溶液を密閉ポリプロピレンビーカ(熟成ビーカ)内で摂氏4度に冷却して、段階(d)で、熟成ビーカ内で8日間、摂氏4度で熟成処理を行った。約40Pa・s(せん断率は摂氏4度で10s−1である)の粘度を有する均質な単相のゾルドープが得られた。このゾルには、識別可能な固相がなかった。
【0063】
ゾルは、段階(e1)で繊維にスピン可能であった。ゾルは、スピンドープおよびrPES材料とも称される。繊維は従来のスピンシステムで生成された。この目的のために、スピンドープを摂氏−15度の冷却加圧シリンダに充てんして、これを20バールの気圧で加圧した。結果生じる応力を利用してダイでスピンドープを押圧した。現れるスピンドープ(ジェット)は、ダイの直径に応じて50から100μmの直径を有した。融解性の蜂蜜状のジェットが自身の重みで、加圧シリンダの下に配設されている長さ2mのスピン軸へと落ち、そこで、大気湿度と反応して、丸形で(楕円形状でもダンベル形状でもない)、波状のプロフィールを有さない断面を有する形状安定繊維を形成する。スピン軸は温度および湿度が制御された。温度は摂氏20度であり、大気湿度は35%であった。形状安定繊維が形成された。繊維は依然として僅かに表面で反応した。繊維の組成は、[OSi8O12(OH)2(EtO)5](オリゴシルセスキオキサン)と仮定された。横断テーブルに着地すると、繊維同士は自身の接触領域で互いと付着して、不織繊維が形成された。この不織繊維は、後に、乾燥器で約摂氏30度の空気に曝され、さらに内在するNOが還元された。この処理中に、酸強度は生理的に許容可能な程度にまで低減された。
【0064】
例1の不織繊維に対して、ISO 10993−5(1999)、EN 30993−5(1994)の細胞毒性試験を行った。計測された細胞毒性は、制御用に決定された値と比較して、本発明で生成された不織繊維では細胞毒性が発見されなかった。
【0065】
比較例
反応物であるTEOS(テトラエトキシシラン)、EtOH、HOおよびHNOを、1:1.26:X:0.01(X=1.6、1.7、1.8、1.9、および2.0)のモル比で混合して、室温で5時間の間、激しく攪拌した。結果生じる溶液を、水槽温度が摂氏70度に制御された、開放された容器に懸濁させて、定められた重量損失が起こるまで放置した。次に、冷却して、網目のサイズが1mm×1mmのステンレス鋼の金網で濾過した。濾液は、重量損失に応じて、6時間から6ヶ月という熟成時間の間、摂氏3度の温度の閉鎖された容器内で曝された。結果生じるスピンドープは非常に均質であり、長期間にわたり安定且つスピン可能であった。繊維は、乾燥スピンシステムで生成された。この目的からスピンドープを、摂氏−15度に冷却され、10から15バールで加圧されたスピンヘッドに、最初は、網目のサイズが80×80μmのステンレス鋼の金網を介して充てんして、その後、直径が100μmのダイに充てんした。結果生じる連続したフィラメントは、1mの乾燥領域を横断して、その後、回転シリンダに巻かれた。結果生じた繊維の断面形状は、構成バッチ(加えられる水分量)に応じて、丸形、楕円形、ダンベル形のいずれの形状となり、5μmから30μmの間の直径を有していた。断面面積は100μmから400μmの間であった。
【0066】
繊維表面は滑らかで、波形のプロフィールを呈するものはなかった。繊維の引張強度を計測した結果、値は100MPaから800MPaの範囲であった。繊維材料から得られるIRスペクトルは、3000cm−1において、950cm−1のSi−OH帯域、およびC−H信号を示した。故に、部分的に加水分解され、部分的に縮合したエトキシシラノール繊維が、室温で約2ヶ月の保存の後に得られ、IRスペクトルは、もはやC−Hストレッチバンド(C-H stretch band)を示さなかった。繊維は、数ヶ月間も安定する部分的に縮合したシラノール繊維に変換された。
【0067】
このようにして生成された繊維の細胞毒性を計測した。これを利用して作成された繊維材料に対して、ISO 10993−5(1999)、EN 30993−5(1994)の細胞毒性試験を行った結果、細胞毒性効果が発見された。
【0068】
さらに、スピン可能であると判断されたのは全反応バッチ中50%のみであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 式I(SiX)の1以上の異なるシリコン化合物の1つ以下のXラジカルに第1の加水分解縮合反応(HCR)を行う段階であって、ここで前記Xラジカル同士は同じまたは異なっており、各Xラジカルは、エタノール(EtOH)またはエタノールと水の混合物を溶媒として、1から24時間の間、摂氏0度から摂氏78度(エタノールの沸点)の温度で、0から7以下の範囲の初期pHで酸触媒されるヒドロキシル、水素、またはエトキシ(EtO)を表す段階と、
(b) 段階(a)で得られた材料に第2のHCRを行い、同時に、ガス拡散密閉された容器で、100から1013mbarの圧力下で、好適には300mbarから800mbarの僅かな負圧下で、摂氏50から78度の温度で、好適には約70度で、粘度が(摂氏4度で10s−1のせん断率において)0.5から2の間の値に大幅に増加するまで、好適には1Pa・sに増加するまで、一定の重量になるまで、および、一般式((SiO(OH)0.75(OEt)1.25? 1/64 H2O)4のシクロテトラシロキサンが形成され、モル質量が4*約114g=約456gになるまで、徐々に蒸発させることで溶媒を除去する段階と、
(c) このPES材料を、閉鎖された、好適にはガス拡散密閉された容器で、数分(2から5分)から数時間(0.2から5時間、好適には0.5時間)という期間で冷却する段階と、
(d) 段階(c)で得られた前記PES材料を、第3のHCRによりrPES材料に変換する段階と
から得られるポリエトキシシロキサン(PES)材料。
【請求項2】
段階(a)において、希硝酸で、または、酸性混合物で、または、(i)クエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、またはアスコルビン酸等の生理的に許容可能な酸および(ii)アルギニン等のニトロキシドシンターゼ(NOS)の基質の溶液で、前記pHが0から7以下の範囲に設定されることを特徴とする
請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記希硝酸は、式(I)のシリコン化合物の、硝酸に対するモル比が90:1から110:1の範囲で利用され、好適には100:1で利用されることを特徴とする
請求項2に記載の材料。
【請求項4】
前記酸の強度は、段階(b)で、特にNOを蒸発させることにより、または、Tris溶液により、低減されることを特徴とする
請求項1に記載の材料。
【請求項5】
段階(c)におけるゾルは、摂氏−20度から摂氏+10度の範囲に冷却され、好適には摂氏+2度から摂氏+4度の範囲に、または摂氏−20度から摂氏−10度の範囲に冷却され、より好適には摂氏+4度に冷却されることを特徴とする
請求項1から4のいずれかに記載の材料。
【請求項6】
段階(d)の熟成処理は、摂氏−20度から摂氏10度の温度で実行され、好適には摂氏2度から摂氏4度の温度で実行され、より好適には摂氏4度で実行されることを特徴とする
請求項1から5のいずれかに記載の材料。
【請求項7】
段階(d)は、前記材料の粘度(摂氏4度で10s−1のせん断率において)が30から55Pa・sの範囲になるまで実行され、好適には約40Pa・sになるまで実行されることを特徴とする
請求項1から6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
熟成された前記PES材料は、段階(e1)で生体吸収性繊維および/または生体活性繊維にスピンされることを特徴とする
請求項1から7のいずれかに記載の材料。
【請求項9】
熟成された前記PES材料は、さらなる段階(e2)、(e3)、または(e4)で、生体吸収性および/または生体活性がある粉末、モノリス、またはコーティングに加工されることを特徴とする
請求項1から7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
前記酸の強度は、前記段階(e1)、(e2)、(e3)、および/または(e4)で低減され、特に、NOにより、またはTris溶液により低減されることを特徴とする
請求項8または9に記載の材料。
【請求項11】
段階(a)で利用される前記シリコン化合物はテトラエトキシシラン(TEOS)であることを特徴とする
請求項1から10のいずれかに記載の材料。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の前記材料を、生体吸収性および/または生体活性があるPES材料の生成に利用する利用法。
【請求項13】
前記PES材料は繊維、不織繊維、粉末、モノリス、またはコーティング溶液である
請求項12に記載の利用法。
【請求項14】
前記繊維、前記不織繊維、前記粉末、前記モノリス、または前記コーティング溶液は、利用直前に散水される
請求項13に記載の利用法。

【公表番号】特表2010−530012(P2010−530012A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510648(P2010−510648)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/DE2008/075002
【国際公開番号】WO2008/148384
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(509318022)
【Fターム(参考)】