説明

ポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法

【課題】 生成した共重合体の末端COOH基の濃度が低く、熱安定性や耐加水分解性が良好で、白濁の少ないポリエーテルエステルブロック共重合体を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 (a)芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル及び/又は脂環式ジカルボン酸の低級アルキルエステル、(b)脂肪族グリコール及び/又は脂環式グリコール、(c)ポリアルキレンエーテルグリコールとをチタン化合物とマグネシウム化合物を触媒としてエステル交換反応およびそれに続く重縮合反応を行うことによってポリエーテルエステルブロック共重合体を製造するにあたり、(d)有機カルボン酸を下記式(1)を満たす範囲で添加することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法。


([d]は(d)成分のモル分率を示し、[a]は(a)成分のモル分率を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法に関するものである。詳しくは、(a)芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル及び/又は脂環式ジカルボン酸またはその低級アルキルエステル、(b)の脂肪族グリコール及び/又は脂環式グリコール、(c)ポリアルキレンエーテルグリコールとを反応させるポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエステルブロック共重合体は、短鎖グリコールと芳香族ジカルボン酸からなる結晶性ポリエステル単位(ハードセグメント)と、長鎖グリコールとなるポリアルキレンエーテルグリコールと芳香族ジカルボン酸からなる非晶性ポリエステル単位(ソフトセグメント)から構成されている。この様なポリエーテルエステルブロック共重合体は、機械的物性、柔軟性、弾性回復性に優れ、さらに熱可塑性で成型加工が容易であるため、繊維、フィルム、シート、チューブ、自動車部品および電気電子部品など多方面で利用されている。
【0003】
ポリエーテルエステルブロック共重合体の一般的な製造方法は、ジカルボン酸、グリコール、ポリアルキレンエーテルグリコールとをエステル化反応を行い、ついで重縮合反応へ至る直接重合法と、ジカルボン酸ジエステル、グリコール、ポリアルキレングリコールをエステル交換反応し、ついで重縮合反応を行うエステル交換法とが知られている。いずれの反応においてもチタン化合物を触媒として使用することが知られている。(特許文献2参照)
一方、ポリエーテルエステルブロック共重合体は、より分子量の高い共重合体を得ようとして、重縮合反応において過度に反応温度を高くしたり、反応時間を長くしたりすると、逆に得られたエステル結合が分解し末端COOH基が増大する場合がある。この様な末端COOH基が共重合体に多く残存すると、得られた共重合体の熱安定性、耐加水分解性に悪影響を及ぼし、使用に際して重大な問題となる。これに対し、チタン化合物とチタンに対して0.2〜3モル倍のマグネシウム化合物を触媒として使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−191758号公報
【特許文献2】特公昭54−20982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案されている技術を用いてポリエーテルエステルブロック共重合体を製造しても、チタン化合物とマグネシウム化合物を併用すると末端COOH基の濃度は確かにある程度抑えられる。しかしながら、本発明で用いられるエステル交換法を用いた重合においては、マグネシウム化合物を使用すると、チタン化合物のみを使用した場合に比較して、触媒の析出による白濁が生じ、重合速度が大幅に低下する場合があることも判った。すなわち、反応系内でマグネシウム化合物が変性して凝集、析出し、さらにまた、それがチタン化合物の析出をも促すと考えられる。従って、末端COOH基濃度の低減とより高い分子量を有するポリエーテルエステルブロック共重合体の重合とを両立することは、依然として困難であった。
【0005】
本発明の目的は、生成した共重合体の末端COOH基の濃度が低く、熱安定性や耐加水分解性が良好で、白濁の少ないポリエーテルエステルブロック共重合体を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、エステル交換法を用いたポリエーテルエステルブロック共重合体の重合に特有の上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに製造時に有機カルボン酸を共存させることにより、マグネシウム化合物を使用した場合に起こる顕著な触媒の析出と重合活性の低下に対して、著しく改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、(a)芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル及び/又は脂環式ジカルボン酸の低級アルキルエステル、(b)脂肪族グリコール及び/又は脂環式グリコール、(c)ポリアルキレンエーテルグリコールとをチタン化合物とマグネシウム化合物を触媒としてエステル交換反応およびそれに続く重縮合反応を行うことによってポリエーテルエステルブロック共重合体を製造するにあたり、(d)有機カルボン酸が下記式(1)を満たす範囲で添加することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法。
【0008】
【数1】

【0009】
([d]は(d)成分のモル分率を示し、[a]は(a)成分のモル分率を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高重合度のポリエーテルエステルブロック共重合体が効率よく得られ、また、耐熱性、耐加水分解性が良好で、白濁の少ないブロック共重合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<(a)芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル及び/又は脂環式ジカルボン酸の低級アルキルエステル>
本発明において用いられる芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、ジフェノキシジカルボン酸、5−スルホイソフ
タル酸等が挙げられ、好ましくはテレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸が挙げられ、より好ましくはテレフタル酸である。脂環式ジカルボン酸としてはシクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。これらの低級アルキルエステルが使用される。これらの芳香族ジカルボン酸成分または脂環式ジカルボン酸成分は、2種以上を併用してもよい。低級アルキルエステル成分としては上記ジカルボン酸成分のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の1種または2種以上を混合しても良く、目的により任意に選ぶことができる。また、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分を少量添加して用いても良く、これらは1種、または2種以上を混合しても良く目的により任意に選ぶことができる。また、少量のトリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸のような3官能以上の多価カルボン酸成分をもちいてもよい。無水トリメリット酸のような酸無水物を少量使用してもよい。主成分以外の成分を使用する場合は、通常主成分と同時に仕込むのが良い。
【0012】
<(b)脂肪族グリコール及び/又は脂環式グリコール>
本発明において用いられる脂肪族ジオールまたは脂環式ジオール成分は、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、ペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられるが、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、少量のトリメチロールプロパン、グリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。
【0013】
<(c)ポリアルキレンエーテルグリコール>
本発明において用いられるポリアルキレンエーテルグリコールとしては、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルドグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリネオペンチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとTHFのブロック又はランダム共重合体があげられ、ポリテトラメチレンエ
ーテルグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコールが特に好ましい。特に顕著な効果が発現されるのは、ポリトリメチレンエーテルグリコールである。また、これらのポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量は、通常、400以上、好ましくは600以上、さらに好ましくは800以上であり、通常、6000以下、好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下である。この数平均分子量が400未満になると、融点降下が激しくなって耐熱性などに悪影響を及ぼす場合がある。一方、数平均分子量が6000を越えると、該ポリアルキレンエーテルグリコールの粘度が上がるため、それを用いたポリエーテルエステルブロック共重合体中の相分離が顕著となり、該共重合体成形物の物性が低下する場合がある。なお、ここでいう「数平均分子量(Mn)」は、ポリアルキレンエーテルグリコール末端の水酸基を無水フタル酸でエステル化させ、未反応の無水フタル酸をフタル酸に分解後、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで逆滴定(末端基滴定法)することにより水酸基価を求め、その値から算出したものである。
【0014】
また、ポリアルキレンエーテルグリコールの共重合体中の使用量(重量比)は、通常5%以上95%以下であり、好ましくは10%以上90%以下であり、更に好ましくは20%以上80%以下である。使用量が下限を下回ると、該共重合体のソフトセグメントに由来する弾性体としての性質が小さくなる場合がある。一方、使用量が上限を上回ると、該共重合体が軟らかくなり過ぎるためポリマーとしての利用が困難となる場合がある。
【0015】
<触媒>
本発明において用いられるチタン化合物としては、シュウ酸チタンカリウム、アルコキシチタン化合物、炭酸チタン化合物、ハロゲン化チタン化合物、チタンアセチルアセトネート、チタンラクテート等が挙げられる。中でもシュウ酸チタンカリウム、アルコキシチタン化合物、チタンアセチルアセトネート、チタンラクテートが好ましく、特にアルコキシチタン化合物が最も好ましい。この中でもテトラアルキルチタネート(テトラアルコキシチタン)が好ましく、具体的には、テタラ−n−プロピルチタネート、テトライソプルイソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート、あるいはこれらの混合チタネートである。これらのうちとくにテトラ−n−プロピルチタネート、テトライロプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートが好ましく、テトラ−n−ブチルチタネートが最も好ましい。また、これらのチタン化合物の2種以上を併用して用いてもよい。
【0016】
チタン化合物の添加量はチタンの量として生成するポリエーテルエステル共重合体に対して通常10ppm以上400ppm以下、好ましくは20ppm以上350ppm以下、より好ましくは30ppm以上から300ppm以下である。添加する触媒量が前記の下限を下回ると反応が進行しにくく生産性が悪くなる場合があり、前記の上限を上回ると、生成するポリエーテルエステルブロック共重合体が着色したり、該共重合体成形品の表面外観がブツ等により悪化する場合がある。
【0017】
本発明において用いられるマグネシウム化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、塩化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、また、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、酪酸マグネシウムなどの有機酸塩、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムプロポキシド、マグネシウムブトキシドなどのアルコキシド、マグネシウムのアセチルアセトナート塩などが挙げられる。溶解性などの点から、酢酸マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、マグネシウムアセチルアセトナート塩が好ましく、さらに好ましくは酢酸マグネシウムである。
【0018】
マグネシウム化合物の使用量は、金属原子量としてチタンに対してモル比として、通常、0.01以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上で、通常、8.0以下、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下である。添加するマグネシウム化合物の量が前記の下限を下回ると、末端COOHの低減効果が発揮しにくくなる場合があり、前記の上限を上回ると、マグネシウム化合物の析出が多くなり反応速度が著しく低下したり、該共重合体成形品の表面外観がブツ等により悪化する場合がある。
【0019】
<(d)有機カルボン酸>
(d)有機カルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、へキサン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等脂肪族飽和モノカルボン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸およびそれらの無水物、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸およびそれらの無水物、トリカルバリル酸等の脂肪族多価カルボン酸およびそれらの無水物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸及びそれらの無水物、安息香酸、t-ブチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ジブ
ロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、テレフタル酸、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びそれらの無水物、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸及びそれらの無水物、並びに、例えば、グリコール酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、没食子酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸当が挙げられる。これらの中で、芳香族カルボン酸、脂環式カルボン酸が好ましく、主原料として(a)で用いたエステル中のジカルボン酸及び又はその異性体がさらに好ましく、(a)で用いたエステル中のジカルボン酸が最も好ましい。
【0020】
(d)有機カルボン酸の使用量は、下記式(1)を満たす範囲で使用される。
【0021】
【数2】

【0022】
([d]は(d)成分のモル分率を示し、[a]は(a)成分のモル分率を示す。)
上記範囲より小さい場合は、触媒の活性低下を十分抑えることができず、重合速度の低下を招いてしまうことがある。上記範囲より大きい場合は、有機カルボン酸の反応によって副生する水によって触媒の会合、析出が生じ、重合速度の低下を招いてしまう場合がある。従って、通常、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、最も好ましくは1.0以上で、通常、好ましくは8.0以下、より好ましくは6.0以下、最も好ましくは4.0以下である。
【0023】
<重合反応>
本発明のポリエーテルエステル共重合体の製造方法は、(a)芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル及び/又は脂環式ジカルボン酸の低級アルキルエステル、(b)脂肪族グリコール及び/又は脂環式グリコール、(c)ポリアルキレンエーテルグリコールをエステル交換反応し続いて重縮合反応を行うエステル交換法においてポリエーテルエステル共重合体の製造を行うが、これらの反応条件は、特に限定されるものではなく、公知の反応条件がそのまま適用される。
【0024】
例えば、グリコール成分/ジカルボン酸の低級アルキルエステル成分のモル比は2.5以下、好ましくは1.0以上2.2以下とし、エステル交換反応として120℃以上245℃以下、好ましくは150℃以上230℃以下で2〜4時間行われる。この際、前記の下限反応温度を下回ると反応が進行しにくく生産性が悪くなる場合があり、前記の上限反応温度を上回ると、グリコール成分が留出して重縮合反応に悪影響を及ぼす場合がある。また、反応時間が短いと、エステル交換反応が十分に進行していないために後続の重縮合反応が進行しない場合があり、逆に反応時間を長くしても、それまでの間にエステル交換反応が十分に進行しているために生産効率が悪くなる場合がある。
【0025】
エステル交換反応に次いで、重縮合反応を行う。その条件は、通常0.4kPa以下の減圧下、温度は230℃以上250℃以下で行われ、重合時間は、2〜8時間である。この際、前記の圧力を上回ると反応が進行しにくく生産性が悪くなる場合がある。また、前記の上限反応温度を上回ると、生成するポリエーテルエステルブロック共重合体が着色する場合がある。また、前記の反応時間が2時間より短いと、重縮合反応が十分に進行していないために生成する該共重合体の重合度が極めて低くなる場合があり、8時間より長いと、生成する該重合体が着色したり、解重合反応が起こり該重合体の重合度が低下する場合がある。
【0026】
チタン化合物の添加時期は、エステル交換反応の開始前、反応中、重縮合反応の開始前、重縮合反応中等ありうるが、エステル交換反応の開始前と重縮合反応開始前に分割して添加するか、エステル交換反応の開始前もしくは重縮合反応開始前に添加するのが好ましい。マグネシウム化合物の添加時期も、エステル交換反応の開始前、反応中、重縮合反応の開始前、重縮合反応中等ありうるが、エステル交換反応の開始前と重縮合反応開始前に分割して添加するか、エステル交換反応の開始前もしくは重縮合反応開始前に添加するのが好ましい。マグネシウム化合物は、チタン化合物と混合して添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、スズ化合物、亜鉛化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物等を添加してもよい。
【0027】
(d)有機カルボン酸は、チタン化合物またはマグネシウム化合物と混合して添加しても良いし、別々に添加しても良い。
(d)有機カルボン酸の添加時期は、マグネシウム化合物が添加される直前もしくは、マグネシウム化合物と混合して添加するのが好ましい。(d)有機カルボン酸は、マグネシウム化合物と反応して塩を生成し、マグネシウム化合物が反応系内で変性して析出するのを防ぐ働きがあると考えられ、添加時期は特に重要である。マグネシウム化合物を添加した後に(d)有機カルボン酸を添加すると、マグネシウム化合物の析出が先に起こってしまい、触媒析出を抑制する効果が小さく、ヘイズが悪化したり、反応速度が遅くなる場合がある。また、(d)有機カルボン酸をマグネシウム化合物よりもずっと前に添加すると、有機カルボン酸がマグネシウム化合物と塩を生成する前に反応系内のグリコール成分と反応してしまうために、触媒析出を抑制する効果を発揮できない場合がある。
【0028】
マグネシウム化合物を使用した場合、末端COOH基濃度が25eq/ton以下となり、溶融時熱安定性、耐熱老化性、耐加水分解性等が向上する。好ましくは20eq/ton以下、さらに好ましくは18eq/ton以下である。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体は、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤等を添加しても良く、添加時期は特に制限されず、重合時でも重合後でも良い。
【0029】
本発明における反応形式は、バッチ設備でもプラグフロー形式などの連続設備でも適用できる。
また、通常、上記のように溶融縮重合して得られた本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体は、融点以上の温度で保持され、順次、反応缶から吐出、ペレタイジング等の成形が行われる。なお、ここで得られたペレットは、必要に応じて、さらに固相重合してもよい。
【0030】
<用途>
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体は、繊維、フィルム、シート、チューブ、工業用部品、自動車部品及び電気電子部品など多方面に使用することができる。たとえば、衣料用繊維や各種フィルター等の繊維製品、二軸延伸フィルムや導電性フィルム等のフィルム製品、油圧用ホースや空圧用ホース等の各種ホース、等速ジョイントブーツ、サスペンジョンブーツ等の自動車部品、各種シール・パッキン、フレキシブルカップリング、コンベアベルト、タイミングベルト、圧縮バネ等の工業用部品、ギア等の精密機械部品、携帯電話ハウジング、制震材、防震材、キーボードパット、導電性パッド、OAロール、電話機カールコード等の電気・電子部品、ヘアーブラシ、ホットカーラー、スキー靴底、靴インナーソール等の生活用品等がある。
【0031】
また、得られた共重合体を溶剤または適切な乳化剤を用いて水に分散させ、バインダーなどのコーティング用途などにも使用することができる。特に繊維、フィルム及びシートなどの薄物用途において白濁が少ないということは、外観が良好であり、また破断強度や破断伸度などの機械的物性の向上にも寄与する。
また、特に繊維においては、紡糸工程における糸切れの防止にも効果がある。繊維の成形は、溶融紡糸し延伸することによって行うことができる。例えば、エクストルーダ型溶融紡糸装置を用い、ポリマーの融点より15〜80℃高い温度で溶融し、紡糸口金から吐出し、冷却固化した後、ローラを介して未延伸糸を巻き取る。次いで、未延伸糸をポリマーの性質に応じて非加熱あるいは加熱ローラを用いて延伸し、必要に応じて弛緩熱処理する。糸切れとは、このような紡糸工程を連続的に行った場合に、糸の切断に伴って起こるトラブルのことである。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」とあるのは、「重量部」を表す。インヘレント粘度ηinh、末端COOH基、溶液ヘイズは以下の方法に基づき実施した。
(1)インヘレント粘度
ウベローデ型粘度計を使用し、次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度0.5g/dlのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式により求めた。
【0033】
ηinh=lnηrel/c
ηrel=ポリマー溶液の落下秒数/溶媒の落下秒数
c =濃度(g/dl)
(2)末端COOH基
ベンジルアルコール25mlにポリエーテルエステルブロック共重合体0.5gを溶 解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定し た。
【0034】
(3)溶液ヘイズ
ポリエーテルエステルブロック共重合体0.2gをフェノール/テトラクロロエタン (重量比1/1)20mlに溶解し、日本電色工業(株)製濁度計(NDH2000)を用いて測定した。
製造例1
<ポリトリメチレンエーテルグリコール(Mn=2166)の製造方法>
蒸留精製した1,3−プロパンジオール50gを、蒸留管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた100ml四つ口フラスコに、窒素を100Nml/分で供給しながら仕込んだ。これに0.0348gの炭酸ナトリウムを仕込んだ後、攪拌しつつゆっくりと0.678gの濃硫酸(95%)を添加した。このフラスコをオイルバス中に浸し162℃に加熱した。液温を162℃±2℃に調節して18時間保持して反応させた後、フラスコをオイルバスから取り出し、室温まで放置して冷却した。反応の間に生成した水は窒素に同伴させて留去した。室温まで冷却された反応液を50gのテトラヒドロフランを用いて300mlのナス型フラスコに移し、これに50gの脱塩水を加えて1時間緩やかに還流させて硫酸エステルの加水分解を行った。室温まで放冷して冷却した後、2層に分離した下層(水槽)を除去した。上層(油層)に0.5gの水酸化カルシウムを添加して室温で1時間攪拌した後、50gのトルエンを加えて60℃に加熱して減圧下にテトラヒドロフラン、水及びトルエンを留去した。得られた油層を100gのトルエンに溶解し、0.45μmのフィルターで濾過して不溶物を除去した。濾液を60℃に加熱して6時間真空乾燥した。
【0035】
実施例1
窒素導入口、減圧口を供えた反応器に、ジメチルテレフタレート39.4部、1,4−ブタンジオール23.5部、製造例1の方法で製造したポリトリメチレンエーテルグリコール109.0部を仕込み、そこにテトラブチルチタネート0.107部(Ti金属として、100ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水塩0.067部(Mg金属として、50ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))を少量の1,4−ブタンジオールに溶解して加えた。減圧置換後、窒素下で150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、エステル交換反応を行った。その後、テレフタル酸0.7部、テトラブチルチタネート0.160部(Ti金属として、150ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水和塩0.101部(Mg金属として、75ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))、イルガノックス1330(チバガイギー社製酸化防止剤)0.27部を1,4−ブタンジオールに混合して添加し、引き続き重縮合反応に入った。
【0036】
重縮合反応は、常圧から0.07kPaまで90分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度245℃まで昇温した。以降0.07kPaを保持し、所定の攪拌トルクに到達した時点で反応を終了し、内容物を取り出した。その際の重合時間、得られたポリエーテルエステル共重合体の溶液粘度、末端COOH基、溶液ヘイズを表−1に示した。
実施例2
窒素導入口、減圧口を供えた反応器に、ジメチルテレフタレート39.0部、1,4−ブタンジオール20.1部、製造例1の方法で製造したポリトリメチレンエーテルグリコール109.0部を仕込み、そこにテトラブチルチタネート0.107部(Ti金属として、100ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水塩0.067部(Mg金属として、50ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))を少量の1,4−ブタンジオールに溶解して加えた。減圧置換後、窒素下で150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、エステル交換反応を行った。その後、テレフタル酸1.03部、テトラブチルチタネート0.160部(Ti金属として、150ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水和塩0.101部(Mg金属として、75ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))、イルガノックス1330(チバガイギー社製酸化防止剤)0.27部を1,4−ブタンジオールに混合して添加し、引き続き重縮合反応に入った。
【0037】
重縮合反応は、常圧から0.07kPaまで90分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度245℃まで昇温した。以降0.07kPaを保持し、所定の攪拌トルクに到達した時点で反応を終了し、内容物を取り出した。その際の重合時間、得られたポリエーテルエステル共重合体の溶液粘度、末端COOH基、溶液ヘイズを表−1に示した。
実施例3
窒素導入口、減圧口を供えた反応器に、ジメチルテレフタレート39.0部、1,4−ブタンジオール32.8部、製造例1の方法で製造したポリトリメチレンエーテルグリコール109.0部を仕込んだ。そこに、テトラブチルチタネート0.107部(Ti金属として、100ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水塩0.067部(Mg金属として、50ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))、テレフタル酸0.35部を1,4−ブタンジオールに混合して加えた。減圧置換後、窒素下で150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、エステル交換反応を行った。その後、テレフタル酸0.86部、テトラブチルチタネート0.08部(Ti金属として、75ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水和塩0.05部(Mg金属として、34ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))、イルガノックス1330(チバガイギー社製酸化防止剤)0.27部を1,4−ブタンジオールに混合して添加し、引き続き重縮合反応に入った。
【0038】
重縮合反応は、常圧から0.07kPaまで90分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度245℃まで昇温した。以降0.07kPaを保持し、所定の攪拌トルクに到達した時点で反応を終了し、内容物を取り出した。その際の重合時間、得られたポリエーテルエステル共重合体の溶液粘度、末端COOH基、溶液ヘイズを表−1に示した。
比較例1
窒素導入口、減圧口を供えた反応器に、ジメチルテレフタレート40.2部、1,4−ブタンジオール25.0部、製造例1の方法で製造したポリトリメチレンエーテルグリコール109.0部を仕込み、そこにテトラブチルチタネート0.107部(Ti金属として、100ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水塩0.067部(Mg金属として、50ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))を1,4− ブタンジオールに溶解して加えた。減圧置換後、窒素下で150℃からの後、テトラブチルチタネート0.160部(Ti金属として、150ppm/ポリマー)と酢酸マグネシウム・四水和塩0.101部(Mg金属として、75ppm/ポリマー、Mg/Ti=1.0(モル比))、イルガノックス1330(チバガイギー社製酸化防止剤)0.27部を1,4−ブタンジオールに混合して90分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度245℃まで昇温した。以降0.07kPaを保持し、所定の攪拌トルクに到達した時点で反応を終了し、内容物を取り出した。その際の重合時間、得られたポリエーテルエステル共重合体の溶液粘度、末端COOH基、溶液ヘイズを表−1に示した。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル及び/又は脂環式ジカルボン酸の低級アルキルエステル、(b)脂肪族グリコール及び/又は脂環式グリコール、(c)ポリアルキレンエーテルグリコールとをチタン化合物とマグネシウム化合物を触媒としてエステル交換反応およびそれに続く重縮合反応を行うことによってポリエーテルエステルブロック共重合体を製造するにあたり、(d)有機カルボン酸が下記式(1)を満たす範囲で添加することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法。
【数1】

([d]は(d)成分のモル分率を示し、[a]は(a)成分のモル分率を示す。)
【請求項2】
(d)有機カルボン酸を添加するにあたり、マグネシウム化合物が添加される時期の直前もしくはマグネシウム化合物と混合して添加することを特徴とする請求項1に記載のポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
(d)有機カルボン酸が(a)で用いたエステル中のジカルボン酸である請求項1又は2に記載のポリエーテルエステルブロック共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−316179(P2006−316179A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140717(P2005−140717)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】