説明

ポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物

【課題】 成形流動性に優れ、且つ良好な機械物性を保持したポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物が要望されていた。
【解決手段】 (X成分)ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して、(Y成分)強化充填剤10〜250重量部を溶融混練してなり、(X成分)が以下を満たすものである樹脂組成物。(A)分子量5000〜200万の重合体成分、及び(B)分子量が100以上5000未満の重合体成分を含有し、(A):(B)の重量比が60:40〜97:3であり、且つ前記ポリエーテルエーテルケトンの最大ピーク分子量が5000以上200万未満の範囲に存在する多峰性の分子量分布を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の分子量組成を有するポリエーテルエーテルケトンを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトンは、非常に高い耐熱性を有する熱可塑性樹脂であり、さらに耐薬品性や難燃性に優れ、高度の機械的強度や寸法安定性を備えたスーパーエンジニアリングプラスチックの1種である。当該重合体は、これらの優れた特性のために、自動車部品用途として使用されており、特にエンジン部品の性能向上と軽量化を図るために金属製のエンジン部品を代替する材料としての利用が知られている。さらには、電線の絶縁被覆や、電気・電子関連部品、鉛フリーはんだ素材や、電子回路基板、薬品、溶剤、腐食性ガス製造ラインの部品での利用も知られている。
【0003】
当該重合体の製造方法としては種々知られているが、工業的な製造法としては、ヒドロキノンと、両端にフッ素等のハロゲン基を有するベンゾフェノンとを、塩基の存在下に求核置換反応させて重合させる方法が最も一般的である。このような方法においては、性質の良好なポリエーテルエーテルケトンを得るために、ジフェニルスルホンを重合溶媒として使用することが広く知られている。この点については特許文献1〜4等を参照することができる。現在ポリエーテルエーテルケトンは、主にビクトレックス社から商品名PEEKとして市販されているが、これら市販品も、前記文献の開示内容に沿って、重合溶媒としてジフェニルスルホンを使用して製造されているものである。
【0004】
しかしながら市販されているポリエーテルエーテルケトンは、成形流動性に乏しいことが知られている。複雑な形状を持つ成形体を射出成形により簡単に製造するには、良好な成形流動性、すなわち低い溶融粘度が要求される。特に金属代替等で期待される強化充填剤を添加した組成物では、添加する強化充填剤が多くなるほど、強度、耐衝撃性、耐熱性などが向上する一方で溶融粘度が著しく低下することが知られていた。ポリエーテルエーテルケトンを低分子量化すると溶融粘度は低下するものの、成形体の機械物性が低下するので、良好な成形流動性と機械物性を両立させるのは困難であった。
【0005】
一方、特許文献6には、重合溶媒としてスルホランを使用してポリエーテルエーテルケトンを製造する方法が記載されている。この文献では、このようにして得られたポリエーテルエーテルケトンの成形流動性に関しては、MIの数値は記載されているものの測定条件が不充分なために不明である。
【特許文献1】米国特許4,176,222号明細書
【特許文献2】米国特許4,320,224号明細書
【特許文献3】米国特許4,711,945号明細書
【特許文献4】米国特許5,116,933号明細書
【特許文献5】特開昭59−93724号公報
【特許文献6】中国特許出願公開第1817927号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが検討したところ、従来のポリエーテルエーテルケトン重合体には、以下の欠点があることが判明した。
(1)ポリエーテルエーテルケトンの優れた重合溶媒として知られるジフェニルスルホン中で重合して得られたポリエーテルエーテルケトンは、そもそも成形流動性が乏しく、強度など機械物性向上を目的とした強化充填剤を配合すると、更に成形流動性が悪化し複雑な形状を持つ成形体を射出成形により簡単に製造することは困難であった。
(2)上述のジフェニルスルホン中で重合して得られたポリエーテルエーテルケトンの成形流動性を良好にすることを目的に低分子量化すると、成形体において充分な機械物性が得られなかった。
【0007】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、成形流動性、及び機械物性に優れた強化充填剤を配合したポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の分子量組成を有する新規のポリエーテルエーテルケトンを含むポリエーテルエーテルケトン系樹脂配合物が、成形流動性、及び機械物性に優れていることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、(X成分)ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して、(Y成分)強化充填剤10〜250重量部を溶融混練してなり、
(X成分)が下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、
前記ポリエーテルエーテルケトンが、
(A)分子量が5000以上200万未満の重合体成分、及び、
(B)分子量が100以上5000未満の重合体成分を含有し、
(A):(B)の重量比が60:40〜97:3であり、且つ前記ポリエーテルエーテルケトンの最大ピーク分子量が5000以上200万未満の範囲に存在する多峰性の分子量分布を有する、ことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物は、成形流動性に優れているので複雑な形状を有する成形体であっても容易に製造でき、かつ、製造された成形体は、良好な機械物性を保持している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物を説明する。
(X成分)ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して、(Y成分)強化充填剤10〜250重量部を溶融混練してなり、
(X成分)が下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンである。
【0012】
Ar及びAr′におけるフェニル環上の置換基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。しかし、Ar及びAr′は無置換のp−フェニレン基を表すことが好ましい。
【0013】
本発明のポリエーテルエーテルケトンとしては、1種類の繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。好ましくは、前記式(1)で表される繰り返し単位1種類から構成される単独重合体である。
【0014】
また、前記式(1)で表される繰り返し単位と、これ以外の繰り返し単位との共重合体であってもよい。当該他の繰り返し単位としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
ここで、Ar、及びAは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、−SO2−、−CO−、又は2価の炭化水素基を表す。
【0015】
原料たるモノマーの構成比を調整することによって、前記重合体の末端を、フッ素原子等のハロゲン原子とすることもできるし、水酸基とすることもできる。一般にはフッ素原子が重合体末端にあることが好ましい。また、重合体末端に末端封止剤を反応させることにより、ハロゲン末端や水酸基末端を、フェニル基等の不活性置換基に置き換えたものでもよい。
【0016】
第一の本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、特定の分子量組成を有するものである。当該重合体の分子量組成を、(A)分子量が5000以上200万未満の重合体成分、及び、(B)分子量が100以上5000未満の重合体成分という2つの成分に分割した場合、(A):(B)の重量比が60:40〜97:3であることを特徴とする。なお、本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、分子量が200万以上の重合体成分を実質的に含有しないが、極めて微量の成分が排除限界分子量付近で観察されてもよい。
【0017】
本発明のポリエーテルエーテルケトンでは高分子量成分(A)が分子量組成の主要部分を占めるが、低分子量成分(B)も無視できない量存在する。この低分子量成分の存在によって、本発明のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物の成形流動性が従来品のそれよりも向上する。一方、現在市販されているダイセル・エボニック社製のポリエーテルエーテルケトンVESTAKEEP4000Gなどは後の比較例で示すように(A):(B)の重量比が98:2であり、(B)成分の含量が少ないために成形流動性に乏しい。
【0018】
本発明において(A):(B)の重量比は必要な成形流動性と機械物性のバランスの観点から60:40〜97:3の範囲内で適宜決定すればよいが、(B)成分が多いと機械物性が低下する傾向があることから、機械物性を保持しながら成形流動性を向上させる観点から、80:20〜97:3の範囲が好ましく、90:10〜97:3の範囲がより好ましく、最も好ましくは95:5〜97:3の範囲である。
以上の分子量組成を決定するにあたって、ポリエーテルエーテルケトンの分子量は、ガス浸透クラマトグラフを用い、ポリスチレン基準で測定する。
【0019】
本発明のポリエーテルエーテルケトンは、分子量で5000以上200万未満の高分子量の範囲に最大ピーク分子量を有する。最大ピーク分子量とは、図1、2に示すような分子量分布を示すグラフにおいて、重合体全体に占める、ある分子量における重量割合が最大を示す場合の、その分子量のことをいう。最大ピーク分子量は成形体の機械物性に大きく影響するので、求められる物性に応じて5000以上200万未満の範囲内で適宜決定すればよいが、1万〜50万の範囲内に存在することが好ましく、3万〜20万の範囲内に存在することが最も好ましい。この高分子量の範囲内には最大ピーク以外にも比較的小さなピークを有しても良い。
【0020】
また本発明のポリエーテルエーテルケトンは、二峰性以上の多峰性の分子量分布を有する。特に、分子量で100以上5000未満の低分子量の範囲に、前記最大ピーク分子量よりも小さい、ピーク分子量を有することが好ましい。当該ピーク分子量は、前記最大ピークに次いで2番目に高い分子量であることが好ましい。このように低分子量の範囲にピーク分子量を有すると、容易に(B)成分の重量比が3重量%以上になり得る。一方、市販品のビクトレックス社製及びダイセル・エボニック社製ポリエーテルエーテルケトンは、単峰性の分子量分布を有し、多峰性の分子量分布は示さない。なお、本発明の「多峰性の分子量分布を有する」という要件における「峰」とは、GPCチャート測定の際に、いったん強度が上昇した後、下降する部分をいう。すなわち「峰」とは、強度の上昇部分と下降部分がセットになった部分をいう。
【0021】
なお、分子量100以上5000未満の範囲には、通常の鎖状重合体に加えて、重合末端同士が結合して生じる環状の重合体も含まれていると考えられる。この環状重合体が形成されることで、100以上5000未満の低分子量成分(B)の含量が増加し、この範囲にピークが生じるものと推定される。
【0022】
本発明のポリエーテルエーテルケトンの数平均分子量は、上述した最大ピーク分子量と同様、成形体の機械物性に大きく影響するので、所望の物性に応じて適宜決定すればよいが、1万〜5万の範囲であることが好ましく、1万5千〜4万の範囲であることが最も好ましい。分子量の測定方法は上述と同様である。
本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、十分な機械物性を達成するために、当該重合体を0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.40dL/g以上を示すことが好ましい。より好ましくは0.50dL/g以上であり、さらに好ましくは0.60dL/g以上であり、特に好ましくは0.75dL/g以上である。溶液粘度が0.40dL/gより低いポリエーテルエーテルケトンは脆く、成型用途に使用するのに適していない。溶液粘度が2.5dL/gを超えると溶融粘度が高すぎて成型加工性が悪く使用できないので、溶液粘度が2.5dL/g以下、特に1.8dL/g以下であるポリエーテルエーテルケトンが好ましい。当該溶液粘度は、具体的には、ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めることができる。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL
【0023】
本発明のポリエーテルケトン系樹脂組成物は、機械的強度、耐熱性などを高める目的で、強化充填剤を含有することを特徴とする。強化充填剤は、樹脂の強化として使用されるのであれば特に制限はなく、有機充填剤でも無機充填剤でも良い。また形状についても、ガラス繊維、炭素繊維、各種ミルドファイバーなどに代表される繊維状充填剤、炭酸カルシウム、窒化硼素、シリカ、ガラスビーズ、セラミック粉末などに代表される球状充填剤、タルク、マイカ、ガラスフレークなどに代表される板状充填剤、有機化クレー、カーボンナノチューブに代表されるナノサイズ充填剤などを任意に使用することができる。とりわけこの中でも、機械的強度、耐熱性を向上させやすい目的から繊維状充填剤を好適に用いることができる。
【0024】
繊維状充填剤の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ステンレス繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、銅繊維、真ちゅう(黄銅)繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、酸化チタンウィスカー、繊維状ワラストナイト、酸化亜鉛ウィスカー、硼酸亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカーなどが挙げられるが、特に経済性、入手安定性、機械的強度向上というバランスの観点からガラス繊維が、また少ない添加部数と機械的強度向上というバランスの観点から炭素繊維が好適に用いることができる。
【0025】
ガラス繊維としては、特に一般に知られている方法により製造された、市販のEガラス、Cガラス、Sガラス、Aガラス等各種のガラス繊維を使用できる。
【0026】
炭素繊維についても、一般に知られている方法により製造されたPAN(ポリアクリロニトリル)系、ピッチ系などの炭素繊維を用いることができるが、機械的強度の向上の目的にはPAN系炭素繊維を使用する方が好ましい。
【0027】
上記のガラス繊維、炭素繊維等の繊維状充填剤を使用する場合には、作業性の面から、収束剤にて処理されたものを用いるのが好ましい。収束剤としては、エポキシ系樹脂 、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂 、ポリカーボネート系樹脂 、ポリアセタール系樹脂等などのバインダーで収束されたもの、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤を添加したもの等が一般に知られるがこの限りではない。また、ガラス繊維、炭素繊維等を用いる場合、作業性、補強効果の観点からチョップドストランド繊維を用いるのが好ましい。
【0028】
ガラス繊維および炭素繊維の平均繊維径は、好ましくは3μm〜20μmである。繊維径が下限未満では、繊維間の凝集が起こり、均一分散が困難となる傾向があり、他方繊維径が上限を超えると、樹脂中への繊維充填剤の練りこみが困難な傾向がある。
ガラス繊維および炭素繊維の平均繊維長については、特に規定はなく任意のものが使用できるが、概ね3mm〜9mm程度のものが好適に用いられる。繊維長が下限未満では、繊維添加による樹脂の機械的強度、耐熱性などの向上効果が低い傾向があり、他方繊維長が上限を超える場合は、加工時のせん断力により繊維が結果として折れてしまうので、樹脂の補強効果は3mm〜9mmの範囲内の繊維を加えた場合に近い補強効果となる傾向がある。
【0029】
ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対する繊維系充填剤の添加量は、10〜250重量部、好ましくは30〜210重量部、さらに好ましくは60〜180重量部である。添加量が10重量部未満では樹脂組成物の機械的特性、耐熱性を高める効果が低い傾向があり、250重量部を越えると流動特性や押出加工時の安定性が低下する傾向にある。
【0030】
本発明のポリエーテルケトン系樹脂には、繊維系充填剤以外にも、目的となる機能を損なわない範囲でセラミックビーズ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、セラミックバルーン、ガラスフレーク、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、雲母、タルク、カオリン、マイカ、等の充填剤を添加することができる。
【0031】
また、本発明のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物をより高性能なものにするために、通常良く知られた、酸化防止剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤、分散剤、相溶化剤、蛍光増白剤、難燃剤、難燃助剤、などの添加剤を単独または2種類以上併せて使用することができる。
【0032】
本発明のポリエーテルケトン系樹脂と強化充填剤の組成物の製造方法は特に限定されるものではない。樹脂成分と繊維系充填剤の混練については、単軸、二軸等の押出機、プラストミル、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、加熱ロールなどが代表的な装置として挙げられる。この中でも、特に作業性、繊維系充填剤の樹脂成分への分散性に優れる点より二軸押出機が好適に用いられる。
【0033】
二軸押出機を用いた混練方法においても特に限定はなく、樹脂成分と繊維系充填剤をドライブレンドしたものをホッパーより投入し混練する方法、樹脂成分をホッパーより繊維系充填剤をサイドフィーダーより投入する方法、樹脂成分と繊維系充填剤の混練物をホッパーより投入し、更に繊維系充填剤をサイドフィーダーより投入する方法などが例示できる。
【0034】
本発明によって得られる熱可塑性樹脂組成物は成形体として用いることができる。成形体を得るための加工法は特に限定されるものではなく、一般に用いられている成形法、例えば射出成形、インモールド成形、ブロー成形(中空成形)、押出成形(共押出成形を含む)、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、圧縮成形等が適用できる。
【0035】
これらの成形方法によって得られた成形体の代表的な利用分野としては、自動車部品用部材、半導体の処理工程で用いられる部材、電気電子用部材、一般工業用部材、医療用部材、食品加工用部材、航空宇宙用部材が挙げられる。各利用分野における用途を具体的に挙げると、自動車部品用部材としては、シールリング、スラストワッシャーなどのトランスミッション関連部材、ターボチャージャーファン、オイルポンプ、ワッシャー、インペラーなどのエンジン周辺部材、ステアリングコラムアジャスト、ボールジョイント、センサー、オイルシール部品、オイルフィルター、ダンパー部材、プランジャー、クラッチ部材、アクチュエータ、各種ギヤ、バルブリフタ、各種の流量調整ピストンなどが挙げられる。半導体の処理工程で用いられる部材としては、CMPリテーナリング、ウエハキャリア、FOUP、エッチングリング、ガスケット、チップトレイ、スピンチャック、ウエハ吸着テーブル、ウエハバスケット、ローラー、ソケット、ウエハ保持具、ウエハ輸送用ピンセット、ウエハ輸送用アーム、ウエハ洗浄工程ローラーなどが挙げられる。電気電子用部材としては、プリント回路基板、変圧器、絶縁フィルム、搬送用ローラーユニット、電位差計、スピーカー部品、抵抗器、掃除機インペラー、携帯電話ヒンジ、電熱ヒーター部品、コンデンサ、スイッチ、リレー、LED部品、コネクタ、スピンチャック、ベアリングゲージなどが挙げられる。一般工業用部材としては、ネジ、ボルト、パイプ、ファスナー、メーター、ローラーのスリーブ、各種容器、継ぎ手、軸受け、インナーケーブル、ブッシュ、バルブ、ポンプ部品、コンプレッサー部品、OA用分離爪、ハウジングなどが挙げられる。医療用部材としては、滅菌器具、ガスクロマトグラフィー部材、液体クロマトグラフィー部材、人工骨、チューブ、プロセス用配管などが挙げられる。食品加工用部材としては、破砕器、コンベアベルトチェーン、コーティングなどが挙げられる。航空宇宙用部材としては、電線被覆部材、ケーブル保護部材、ジェットエンジン、キャビンの内装材などが挙げられる。
【0036】
ポリエーテルエーテルケトンを合成するには、例えば、下記式(2)で表される4,4′−ジハロベンゾフェノン類と、下記式(3)で表されるヒドロキノン類との重合反応を、スルホラン、ジフェニルスルホン等の重合溶媒中、200〜400℃程度の温度で、塩基の存在下で行うことができる。
X−Ar−C(=O)−Ar−X (2)
RO−Ar−OR (3)
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp−フェニレン基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子、R′−基、R′C(O)−基、R′OC(O)−基、R′3Si−基、又はR′2NC(O)−基を表す。ここでR′は、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
【0037】
式(2)で表される4,4′−ジハロベンゾフェノン類としては、例えば、4,4′−ジフルオロベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン等が挙げられるが、Arが無置換のp−フェニレン基、Xがフッ素原子である4,4′−ジフルオロベンゾフェノンが好ましい。式(3)で表されるヒドロキノン類としては、Arが無置換のp−フェニレン基、Rが水素原子であるp−ヒドロキノンが好ましい。
【0038】
4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)と、ヒドロキノン類(3)とのモル比を調整することによって、重合体末端に導入される基の種類(フッ素原子等のハロゲン原子、又は水酸基等の−OR基)や、分子量を調整することができる。すなわち、4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)のモル数がより多い場合には、フッ素原子等のハロゲン原子が(おそらく)末端に導入され、ヒドロキノン類(3)のモル数がより多い場合には、水酸基等の−OR基が末端に導入される。また、両者のモルの差が小さい(すなわちモル比か1:1に近い)ほど、重合体の分子量は大きくなり、モル差が大きくなると、重合体の分子量は小さくなる。末端にフッ素原子等のハロゲン原子を導入する場合には、通常、両者のモル比は1.1:1〜1.0001:1の範囲内に調整される。すなわち、通常、ヒドロキノン類(3)に対して4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)が0.01〜10モル%多く、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.1〜2モル%である。一方、末端に水酸基等の−OR基を導入する場合には、通常、両者のモル比は1:1.1〜1:1.0001の範囲内に調整される。すなわち、通常、4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)に対してヒドロキノン類(3)が0.01〜10モル%多く、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.1〜2モル%である。
【0039】
以上の重合反応は、塩基による求核置換反応に基づいた重縮合によって達成されるものである。前記塩基の具体例としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、アルキル化リチウム、リチウムアルミニウムハライド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムハイドライド、ナトリウムアルコキサイド、カリウムアルコキサイド、フォスファゼン塩基、Verkade塩基等が挙げられる。これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
塩基は、通常、モル基準でヒドロキノン類(3)よりも多く使用されるが、ヒドロキノン類(3)に対して30モル%以下の範囲で多いことが好ましく、10モル%以下の範囲がより好ましく、1〜5%の範囲が特に好ましい。
【0041】
前記重縮合反応は有機溶媒中で行うものであるが、有機溶媒としては、例えば、スルホラン、及び/又は、ジフェニルスルホンを用いることができる。重合溶媒は、系の固形分が90重量%以下となるような量で使用すればよい。好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは15〜30重量%である。
【0042】
また、系中の水を共沸によって効率よく除去するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の共沸溶媒を反応系に補充してもよい。
【0043】
本反応は系を加熱することによって進行する。具体的な反応温度としては、系の還流温度以下であればよく、重合溶媒としてスルホランを使用する場合は、通常300℃未満、好ましくは200℃〜280℃の範囲、より好ましくは230〜260℃の範囲である。重合溶媒としてジフェニルスルホンを用いる場合には、通常300℃以上、好ましくは320〜340℃の範囲である。これらの温度を維持することによって反応が効率よく進行する。
【0044】
反応時間は特に限定されず、所望の粘度又は分子量を考慮して適宜設定すればよいが、通常、24時間以下であり、好ましくは12時間以下であり、より好ましくは6時間以下、特に好ましくは1〜3時間である。
【0045】
本発明による特定の分子量組成を示すポリエーテルエーテルケトンは、分子量が異なる2種類のポリエーテルエーテルケトンを混合することによって調製することができる。具体的には、分子量で5000以上200万未満の高分子量の範囲に単一ピークを示すポリエーテルエーテルケトンと、分子量で100以上5000未満の低分子量の範囲に単一ピークを示すポリエーテルエーテルケトンとを、前述した(A)成分:(B)成分の重量比を満足できるような割合で混合すればよい。この場合、使用する単一ピークを持つ2種類のポリエーテルエーテルケトンの(A)成分として、ビクトレックス社製、ダイセル・エボニック社製の市販品など、重合溶媒としてジフェニルスルホンを用いて製造された重合体は、単一ピークを持つので、これを使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(ポリエーテルエーテルケトン系樹脂X1の製造方法)
温度計、窒素ガス導入管、凝縮水分離器及び攪拌器が取り付けられた三つ口反応器にスルホラン(住友精化社製 スルホランSG)164g、4,4′−ジフルオロベンゾフェノン22.04g(0.101mol、ヒドロキノンの使用量0.10molに対して1モル%過量)、ヒドロキノン11.01g(0.100mol)、キシレン25g(溶剤の15重量%)を加えた。その後、攪拌、加熱し、温度が80℃に上昇したら、K2CO36.98g(0.0505mol)およびNa2CO35.35g(0.0505mol)を加えた。さらに引き続き昇温し、温度が150℃に上昇したら、系が共沸しはじめ、水分離器中でキシレンと水とが凝縮され、上層のキシレンを還流させ、下層の水を絶えず排出した。水を理論量まで回収したとき、上層のキシレンが透明になりはじめ、さらに引き続き系からキシレンを留去し、このとき、系の温度が加熱により絶えず上昇し、温度が260℃になったら恒温を保持した。260℃で3時間持続した後に加熱を停止し放冷した。充分に冷却して得られた固体混合物を、粉砕機で粉砕し得られた粉末材料にイオン交換水400mLを加え、三つ口反応器において1時間煮沸してから濾過し、新たに水400mLで洗い流した。以上の煮沸及び濾過の工程を合計4度繰り返した。
【0048】
精製後の粉末材料を、真空乾燥装置において120℃で12時間加熱乾燥し、水分含有量を0.5%より低くして粉末状のポリエーテルエーテルケトン(樹脂X1)を得た。
(ポリエーテルエーテルケトン系樹脂X2)
対照品(樹脂X2)として、VESTAKEEP 4000G(商品名、ダイセル・エボニック社製)を使用した。
【0049】
(溶液粘度測定法)
ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めた。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL
【0050】
(分子量測定法)
各実施例及び比較例の各ポリエーテルエーテルケトンの分子量分布はGPC装置を用いて以下の条件により測定した。
装置: ゲル浸透クロマトグラフ(GPC) PL−220(PL社製)
検出器:示差屈折率検出器 RI(PL社製)
カラム:Shodex HT−806M(昭和電工社製)2本を直列に接続
溶媒: o−ジクロロベンゼン/p−クロロフェノール(体積比7/3)(ナカライテスク社製/ 東京化成社製)
流速: 0.7mL/分
温度: 80℃
注入量:0.20mL
【0051】
各実施例及び比較例において校正曲線は、以下の標準ポリスチレンを用いて作成した。
分子量 500、1.01x103、2.63x103、5.97x103、1.81x104、3.79x104、9.64x104、1.90x105、4.27x105、7.06x105、1.09x106、3.84x106
【0052】
各実施例及び比較例においてGPC測定用サンプル溶液は次のように調製した。冷却管つきフラスコに、ポリエーテルエーテルケトン0.1gおよびp−クロロフェノール10mLを入れ180℃で20分間攪拌させて溶解させた。ついで該溶液を室温になるまで放冷した。該溶液3mLをo−ジクロロベンゼン7mLで希釈して用いた。
【0053】
以上により得た分子量分布の分布曲線を図1、2に示す。図1、2はそれぞれ、樹脂X1,X2に対応する。この分布曲線において、各重合体成分:
(A)分子量が5000以上200万未満の重合体成分
(B)分子量が100以上5000未満の重合体成分
の重量比を以下の方法により求めた。図1、2において、(A)、及び(B)それぞれに対応する部分をチャートより切り取り、それぞれの重量を測定することにより算出した。その結果を表1に示す。
【0054】
(押出安定性評価)
ポリエーテルエーテルケトン系樹脂と強化充填剤との押出において、吐出量5kg/hr設定で、1時間押出を行ったときに、ストランド切れが何回発生するかで評価した。判定基準は以下のとおり。
○:1時間当たりに切れるストランドの回数が平均で0〜3回
△:1時間当たりに切れるストランドの回数が平均で4〜10回
×:毎分ごとに切れる、あるいは手引きでストランドを引かなければならない
【0055】
(引張試験方法)
ASTM1号ダンベル試験片を用い、ASTM D638に準拠して引張降伏強度を測定した。試験速度は、5mm/minとし、測定装置は万能材料試験機(インストロン製:5582型)を用いた。
【0056】
(曲げ試験方法)
ASTM1号ダンベル試験片を用い、ASTM D790に準拠して曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験速度は、1.3mm/minとし、測定装置は万能材料試験機(インストロン製:5582型)を用いた。
【0057】
(流動性試験方法)
押出後のペレットを用い、JIS K7210に準拠して、測定荷重:2.16kg、予熱:5min、測定温度:400℃にて測定を実施した。測定装置は、メルトインデクサー(東洋精機製)を用いた。
【0058】
(長期耐熱性評価方法)
ASTM1号ダンベル試験片を用い、200℃に設定した熱風循環式乾燥機内に250hr静置させた。
【0059】
(実施例1)
ポリエーテルケトン系樹脂(X1)100重量部をノズル部分から溶融部分におけるシリンダー温度を390〜360℃に設定したφ25mm(L/D=41)の同方向二軸押出機のホッパーより添加した。更にシリンダー中央部よりサイドフィーダーを用いて、強化充填剤(Y−1)40重量部を添加し、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂と強化充填剤を溶融混練した。先端ダイスより排出されたストランドは、長さ約120cmの水槽で冷却し、ペレタイザーに通すことで評価用の押出ペレットを得た。
【0060】
次に、押出ペレットをノズル部分から溶融部分におけるシリンダー温度を390〜360℃に設定した型閉め力40t射出成形機に投入し、金型温度190℃の条件下でASTM1号ダンベル試験片(厚み3.1mm)を成形した。得られた評価用成形体は引張試験、曲げ試験、耐熱性試験の評価に用いた。
【0061】
実施例2〜6および比較例1〜4
実施例1と同様に表2の配合部数に従い、押出機による混練と射出成形を行い、評価用ペレットならびに成形体を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1で示したように、本発明で得られたポリエーテルエーテルケトン系樹脂は比較例で用いられた樹脂と比較すると、同じ充填剤を同量配合したときに同等以上の機械強度を有するだけでなく、押出安定性、流動性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】X1のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線(なお、横軸は分子量を対数で示し、縦軸は、ピーク面積が1.0になるようにプロットされ、d(重量)/d(分子量の対数)を示す。以下同じ。)
【図2】X2のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(X成分)ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して、(Y成分)強化充填剤10〜250重量部を溶融混練してなり、
(X成分)が下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、
前記ポリエーテルエーテルケトンが、
(A)分子量が5000以上200万未満の重合体成分、及び、
(B)分子量が100以上5000未満の重合体成分を含有し、
(A):(B)の重量比が60:40〜97:3であり、且つ前記ポリエーテルエーテルケトンの最大ピーク分子量が5000以上200万未満の範囲に存在する多峰性の分子量分布を有する、ことを特徴とするポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物。
【請求項2】
(X成分)ポリエーテルケトン系樹脂の分子量が1000以上5000未満の範囲に、ピーク分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物。
【請求項3】
(Y成分)の強化充填剤が繊維状充填剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物。
【請求項4】
繊維状充填剤がガラス繊維あるいは炭素繊維から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物。
【請求項5】
繊維状充填剤の平均繊維径が3μm〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項3または4に記載のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエーテルエーテルケトン系樹脂組成物を用いた成形体。
【請求項7】
成形体が自動車部品用部材、半導体の処理工程で用いられる部材、電気電子部材、一般工業用部材、医療用部材、または食品加工用部材のいずれかであることを特徴とする請求項6記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95613(P2010−95613A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267330(P2008−267330)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】