説明

ポリエーテル化合物A−96625又はその塩、それらの製法及びそれらを有効成分として含有する農薬

【課題】農薬(特に、農園芸用殺虫剤又は/及び殺ダニ剤)として、有用な化合物を提供すること。
【解決手段】式(1)で表されるポリエーテル化合物A−96625又はその塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル化合物A−96625又はその塩、それらの製法及びそれらを有効成分として含有する農薬に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物が生産する殺虫活性や殺ダニ活性を有する化合物として、ミルベマイシン類、アベルメクチン類やスピノシン類が知られており、実用化されている。微生物代謝産物は、農薬として使用された場合、環境中で分解されやすいという利点を有しており、活性成分の更なる探索が続けられている。しかし、殺虫活性や殺ダニ活性を有する化合物としては、先の化合物以外は実用化に至っておらず、新規な活性物質の製造が望まれている。
【0003】
一方、微生物代謝産物の中には、モネンシン、ナイジェリシン、ジアネマイシン等のポリエーテル系と称される一群の化合物がある。これらはイオノホア活性を有し、細胞膜を介したイオンの輸送を攪乱するため、この系に属する数種の化合物は原虫の感染によるニワトリのコクシジウム症の防除に使用されている。しかし、一般に植物に対しても強い除草作用があり(非特許文献1及び2 参照)、農業場面では作物に薬害を生じるため、その使用が限られている。
【非特許文献1】J. Nat. Prod., vol. 49, 859 (1986).
【非特許文献2】J. Sci. Food Agric., vol. 70, 373(1996).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の目的は、新規なポリエーテル化合物A−96625又はその塩、それらの製法及びそれらを有効成分として含有する農薬(特に、殺虫剤又は/及び殺ダニ剤)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、殺虫活性や殺ダニ活性を有する微生物代謝産物の探索を鋭意進めた結果、アクチノマデュラ(Actinomadura)に属する微生物の培養液中に該活性を有しながら、除草活性を示さない新規ポリエーテル化合物が存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は式(1)で表されるポリエーテル化合物A−96625又はその塩、それらの製法及びそれらを有効成分として含有する農薬を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規なポリエーテル化合物A−96625は、優れた殺虫又は/及び殺ダニ作用を有し、しかも除草作用がないために作物への薬害がなく、農薬(特に、農園芸用殺虫剤又は殺虫剤又は殺ダニ剤)として、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の新規なポリエーテル化合物A−96625は、式(1)
【0009】
【化2】


で表される。
【0010】
又、ポリエーテル化合物A−96625は、以下の性状:
(1)物質の性状:白色粉末
(2)分子量:884
(3)分子式:C467616
(4)重クロロホルム中で測定したときのH−核磁気共鳴スペクトル(δppm):
9.65(1H,s)、7.87(1H,s)、7.51(1H,s)、5.52(1H,m)、4.35(1H,m)、4.32(1H,m)、4.08(1H,d,J=4.7Hz)、4.04(1H,dd,J=10.7,2.5Hz)、3.97(1H,dd,J=10.7,2.5Hz)、3.79(1H,d,J=10.4Hz)、3.62(3H,s)、3.48(3H,s)、3.29(1H,s)、3.10(1H,d,J=10.4Hz)、3.04(1H,q,J=7.0Hz)、3.02(1H,dd,J=10.3,10.2Hz)、2.90(1H,qd,J=6.6,2.5Hz)、2.70(1H,d,J=12.9Hz)、2.63(1H,q,J=7.1Hz)、2.41(1H,s)、2.39(1H,m)、2.22(1H,m)、2.10(1H,m)、2.09(1H,m)、1.96(1H,d,J=12.9Hz)、1.94(1H,m)、1.56(1H,m)、1.55(3H,s)、1.54(1H,m)、1.52(1H,m)、1.51(1H,m)、1.44(1H,m)、1.27(3H,s)、1.25(3H,d,J=7.1Hz)、1.21(1H,m)、1.19(3H,s)、1.15(3H,s)、1.13(3H,d,J=6.6Hz)、1.10(3H,s)、1.08(3H,d,J=7.1Hz)、1.02(3H,d,J=7.0Hz)、0.97(3H,d,J=7.1Hz)、0.97(3H,d,J=6.4Hz)、0.95(3H,d,J=6.6Hz)、0.90(3H,d,J=6.6Hz)
(5)重クロロホルム中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):
217.5(s)、183.3(s)、132.2(s)、130.1(d)、100.7(s)、99.3(s)、98.2(s)、93.0(s)、88.3(d)、87.0(d)、85.5(s)、84.1(d)、80.1(d)、78.0(d)、77.0(s)、75.1(s)、71.9(d)、71.7(d)、71.4(d)、62.4(q)、60.5(q)、49.1(d)、46.9(d)、46.6(d)、43.3(d)、43.2(t)、40.2(d)、37.0(d)、34.2(d)、33.3(t)、31.2(q)、31.1(d)、30.8(t)、27.6(q)、26.8(q)、26.3(t)、24.5(q)、17.2(q)、15.9(q)、14.2(q)、14.1(q)、13.2(q)、13.1(q)、12.6(q)、10.5(q)、7.6(q)、及び
(6)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmax cm−1):
3552、2974、2938、1717、1583、1466、1397、1366、1324、1285、1195、1167、1095、1024、980、943、914、874、640
を有する。
【0011】
ポリエーテル化合物A−96625(以下、「A−96625」という。)の塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩又はイソプロピルアミン及びトリエチルアミンのような有機アミンとの塩であり得、好ましくは、ナトリウム塩又はカリウム塩であり、より好ましくは、ナトリウム塩である。
【0012】
本発明の式(1)で表されるA−96625は、微生物を培養して、その培養物から単離することができる。
【0013】
使用される微生物は、例えば、アクチノマデュラ属に属する微生物であり、好ましくは、アクチノマデュラ・エスピー(Actinomadura sp.)SANK 60305である。
【0014】
後述するように、アクチノマデュラ・エスピー(Actinomadura sp.)SANK 60305株は、新規な菌株であり、以下の菌学的特徴を有する。
【0015】
なお、SANK 60305株の形態的性質、各種培養基上の諸性質、生理学的性質、化学分類学的性質及び16S rRNA遺伝子などの分類学的解析は、放線菌の分類と同定(日本放線菌学会編、日本学会事務センター刊、2001年)に記載された方法に従った。
【0016】
1.形態的性質
SANK 60305株は、ISP〔インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)〕規定の寒天培地上、28℃で14日間培養し、光学顕微鏡並びに走査型電子顕微鏡で観察した。SANK 60305株の基生菌糸は良好に伸長し、分岐するが、菌糸断裂やジグザグ伸長は観察されない。気菌糸の形成は比較的貧弱で、先端に3乃至10またはそれ以上の胞子連鎖を形成する。胞子連鎖の形態はフック、ループや螺旋状を示す。胞子は楕円形であり、その大きさは0.5乃至1.1μm x 0.7乃至1.4μmである。胞子の表面構造はしわ状(Warty)を示す。
【0017】
2.各種培養基上の諸性質
各種培養基上、28℃で14日培養した後の性状を表1に示す。色調の表示はマンセル方式による日本色彩研究所版「標準色票」のカラーチップ・ナンバーを表す。
【0018】
【表1】

【0019】
28℃で培養した後、2乃至21日間に観察したSANK 60305株の生理学的性質を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
又、プリドハム・ゴトリーブ寒天培地(ISP9)を使用して、28℃で、14日間培養した後に観察したSANK 60305株の炭素源の資化性を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
4.化学分類学的性質
細胞壁中にメソ−ジアミノピメリン酸を検出し、全菌体加水分解物中にはマジュロースを検出した。また、主要メナキノン分子種としてMK−9(H6)およびMK−9(H8)さらにMK−9(H)が検出された。
【0024】
ISP〔インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)〕基準、ワックスマン著、「ジ・アクチノミセテス」、第2巻(S.A.Waksman, "The Actinomycetes", 2)、ブキャナンとギボンズ編,「バージーズ・マニュアル」、第8版、1974年(R.E.Buchanan and N.E.Gibbons, "Bergey's Manual of Determinative Bacteriology", 8th edition, 1974)、「バージーズ・マニュアル」、第4巻、1989年(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 4, 1989)、「放線菌の分類と同定」、日本放線菌学会編、日本学会事務センター、2001年(Identification Manual of Actinomycetes)およびアクチノマデュラ(Actinomadura)属放線菌に関する最近の文献に従い本菌株を分類すると、放線菌の中でもアクチノマデュラ(Actinomadura)属に属することが強く示唆された。
【0025】
5.16S rRNA遺伝子解析
SANK 60305株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列(1481bp)を解読し、データベース検索を行った結果、SANK 60305株はアクチノマデュラ(Actinomadura)属のクラスターに含まれた。
【0026】
以上の結果から、本菌株をアクチノマデュラ・エスピー(Actinomadura sp.)SANK 60305株(以下、本明細書において、「SANK 60305株」という。)と同定した。
【0027】
又、本菌株は、平成17年(2005年)11月30日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に国際寄託され、その受託番号は、FERM BP−10457である。
【0028】
周知のとおり、放線菌は、自然界において又は人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こし易く、本発明のSANK 60305株も、同様に変異を起こし易い。本発明にいうSANK 60305株は、そのすべて変異株を包含する。
【0029】
又、本発明の微生物は、アクチノマデュラ属に属し、A−96625を生産するすべての菌株を包含する。
【0030】
本発明のA−96625を生産する菌株(生産菌)を培養するに際し使用される培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び有機栄養源から選択されたものを適宜含有する培地であり得、合成又は天然培地の何れをも含む。
【0031】
該栄養源は、従来真菌類及び放線菌類の菌株の培養に利用されている公知のものであり得、微生物が資化できる炭素源、窒素源及び無機塩を含む。
【0032】
具体的には、炭素源は、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、シュクロース、マンニトール、グリセロール、デキストリン、オート麦、ライ麦、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ、トウモロコシ粉、大豆粉、綿実油、水飴、糖蜜、大豆油、クエン酸又は酒石酸であり得、単一に、あるいは併用して使用され得る。該炭素源は、一般には、培地量の1〜10重量%で変量するが、この範囲に限定されない。
【0033】
又、窒素源は、一般に、蛋白質又はその水解物を含有する物質であり得る。好ましい窒素源は、例えば、大豆粉、フスマ、落花生粉、綿実粉、スキムミルク、カゼイン加水分解物、ファーマミン、魚粉、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキス、生イースト、乾燥イースト、イーストエキス、マルトエキス、ジャガイモ、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム又は硝酸ナトリウムであり得、単一に、あるいは併用して使用され得る。該窒素源は、培地量の0.2〜6重量%の範囲で用いられることが好ましい。
【0034】
更に、栄養無機塩は、例えば、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム、ホスフェート、サルフェート、クロライド又はカーボネートのイオンを得ることのできる通常の塩類であり得る。又、該栄養無機塩は、カリウム、カルシウム、コバルト、マンガン、鉄又はマグネシウムのような微量の金属でもあり得る。
【0035】
尚、液体培養に際しては、シリコン油、植物油又は界面活性剤のような消泡剤を使用することができる。
【0036】
A−96625を生産する菌株(生産菌、特にSANK 60305株)を培養して、A−96625を生産するための培地のpHは、好ましくは、5.0〜8.0である。
【0037】
A−96625を生産するための培養温度は、生産菌(特にSANK 60305株)が目的物質を生産する範囲内で適宜変更し得るが、好ましくは、22〜36℃である。
【0038】
A−96625は、生産菌(特にSANK 60305株)を好気的に培養することにより得られ、そのような培養法は、通常用いられる好気的培養法、例えば、固体培養法、振とう培養法又は通気攪拌培養法であり得る。
【0039】
A−96625は、生産菌(特にSANK 60305株)の培養液を液体と菌体に分離して、又は分離せずに、その物理化学的性質を利用して、濾液又は培養液から抽出することができ、好ましくは、液体と菌体に分離した後、抽出する。分離は、例えば、遠心分離法又は珪藻土を濾過助剤とする濾過法により行うことができる。
【0040】
A−96625を濾液から抽出するには、水不混和性の有機溶媒を用いて行う。使用される溶媒は、例えば、酢酸エチル、トルエン、クロロホルム、塩化メチレン又はブタノールであり得、これらは、単独で又は組み合わせて使用される。又、活性炭や合成吸着剤を充填したカラムに濾液を通し、化合物を一旦吸着させた後、有機溶媒で溶出することもできる。このような合成吸着剤は、例えば、ダイヤイオンHP−20のようなHPシリーズ(三菱化学製)又はアンバーライトXAD−2のようなXADシリーズ(オルガノ社製)であり得、溶出有機溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル又はテトラヒドロフランのような水溶性有機溶媒であり得、又、水とこれらの水溶性有機溶媒との混合溶媒も使用され得る。
【0041】
A−96625を菌体から抽出する場合は、菌体に上記の水溶性有機溶媒を添加し、攪拌した後、混合物を、例えば、遠心分離法又は珪藻土を濾過助剤とする濾過法により、液相を分離する。得られた液相から水溶性有機溶媒を留去し(好ましくは、減圧で留去し)、その後、上記培養液の濾液と同様の操作を行い、A−96625を抽出することができる。抽出に用いられる水溶性有機溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル又はテトラヒドロフラン或はこれらの混合溶媒であり得、水溶性有機溶媒の添加割合は、10乃至95容積%であり、好ましくは、50乃至90容積%である。
【0042】
このようにして得られるA−96625の抽出分画を、通常の有機化合物の精製に用いられる方法に供すことにより、さらに精製することができる。そのような精製方法は、例えば、吸着、分配、イオン交換、ゲル濾過のようなカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーであり得、これらのクロマトグラフィーに用いる担体は、例えば、シリカゲル、アルミナ、フロリジル、活性炭、セファデックスLH−20又はシリカゲルC18であり得、これらを単独に或は任意の順序で組み合わせて用いることにより、A−96625を効率よく、単離・精製することができる。
【0043】
A−96625は、優れた殺虫又は/及び殺ダニ活性を有し、農薬、特に農園芸分野での有害生物を防除するために使用される。
【0044】
そのような有害生物は、例えば、トビイロウンカ、モモアカアブラムシ及びコナジラミのような半翅目類、ハスモンヨトウ、コナガ及びチャノコカクモンハマキのような鱗翅目類、ミカンキイロアザミウマ及びチャノキイロアザミウマのような総翅目類、マメハモグリバエのような双翅目類、イネミズゾウムシ及びイネドロオイムシのような鞘翅目類又はナミハダニ、ミカンハダニ及びサビダニのようなダニ類であり得る。
【0045】
このような害虫に対するA−96625の殺虫又は殺ダニ活性は、対象害虫に薬液を処理し、対照の無処理群と比較することにより、評価することができる。又、除草活性は、例えば、対象植物体又は種子に薬液を処理し、対照の無処理群と比較することにより、評価することができる。
【0046】
A−96625は、農薬製剤として慣用される製剤にして施用することができる。そのような製剤は、例えば、乳剤、水和剤、水溶剤、粉剤、粒剤、フロアブル剤、ドライフロアブル剤、薫煙剤、薫蒸剤又はポリマー物質によるカプセル剤であり得る。
【0047】
これら製剤は、適当な添加剤及び担体を含有しても良く、固形剤に含有させるそのような添加剤及び担体は、例えば、大豆粉及び小麦粉のような植物性粉末;珪藻土、燐灰土、石膏、タルク、ベントナイト及びクレイのような鉱物性粉末;又は安息酸ソーダ、尿素及び芒硝のような有機若しくは無機化合物であり得る。又、液状剤に含有させる添加剤及び担体は、例えば、植物油;鉱物油;ケロシン、キシレン及びトルエンのような芳香族炭化水素類;ホルムアミド及びジメチルホルムアミドのようなアミド類;メチルイソブチルケトン及びアセトンのようなケトン類;エチレングリコール及びイソプロパノールのようなアルコール類;ジメチルスルホキシド;トリクロルエチレン;又は水であり得る。液状剤を均一且つ安定にするために、界面活性剤を添加しても良い。
【0048】
農薬製剤におけるA−96625の含有量は、剤型等に依存するが、例えば、上限は100重量%であり、下限は0.01重量%であり、好ましくは、0.1乃至10重量%である。A−96625の農薬としての施用量は、対象害虫、剤型、製剤中の含有量にもよるが、10アールあたり1000gから1グラムの範囲であり得る。
【0049】
次に実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1 A−96625の単離
(1)SANK 60305株の培養
下記培地組成で示される培地80mLを500mL容三角フラスコ3本に入れ、121℃で、30分間加熱滅菌した。それぞれの培地にActinomadura sp. SANK 60305株をスラントより1白金耳接種し、28℃で、210rpmで6日間回転振盪培養し、種培養液を得た。同じ組成の培地80mLを500mL容三角フラスコ52本に入れ、121℃で、30分間加熱滅菌し、これを室温まで冷却した。これに上記種培養液4mLを接種し、28℃で、210rpmで8日間回転振盪培養した。
培地組成:
グルコース 30g
大豆粉 30g
イーストエキス 3g
炭酸カルシウム 4g
硫酸マグネシウム七水和物 2g
CB−442(消泡剤) 0.05g
水道水 1000mL
滅菌前pH 7.2
【0051】
(2)A−96625の単離
上記(1)で得られた培養液5Lを遠心分離機(7500 x g)によって、菌体と液体部とに分けた。菌体部をメタノール、次いでアセトンと攪拌した後、珪藻土上で濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、培養液液体部と合わせて、ダイヤイオンHP−20カラム(容積800mL)に吸着させた。カラムを1.5Lのメタノール/水(3/1)で洗浄した後、同容のメタノール、次いでアセトンで、A−96625含有物を溶出した。溶出液から、減圧下で溶媒を留去し、4.35gの油状物を得た。
【0052】
この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。すなわち、油状物を、塩化メチレン及びメタノールの混合溶媒(容量混合比:40/1)で平衡化したシリカゲルカラム(容積80mL)に吸着させ、同じ混合溶媒200mL、次いで塩化メチレン及びメタノールの混合溶媒(容量混合比:20/1)250mLで溶出した。50mLずつ分画し、A−96625含有画分が7番目に溶出した。この分画の溶媒を減圧下で留去し、油状物201.5mgを得た。
【0053】
この油状物をヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(容量混合比:20/1)で平衡化したシリカゲルカラム(容積16mL)に再度吸着させた。ヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒を用い、容量混合比20/1、10/1、5/1及び2/1で順次溶出し、10mLずつ117に分画した。この78番目から104番目の溶出画分を減圧下で濃縮し、43.0mgの粗粉末を得た。
【0054】
この粗粉末をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)により精製した。すなわち、メルク製TLCプレート(1.05715)を10×10cmに切断し、このプレート20枚に、粗粉末のメタノール溶液を吸着させた。このプレートをヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(容量混合比:1/1)で展開した後、Rf値0.52〜0.63の部分をかきとった。かきとったシリカゲル粉末より、適量の酢酸エチルで抽出し、減圧下濃縮して、白色粉末として、A−9662518.3mgを得た。
【0055】
この化合物は、前述した、分子量、分子式、重クロロホルム中で測定したときのH−核磁気共鳴スペクトル、重クロロホルム中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル及びKBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトルを有していた。
【0056】
試験例1
ハダニ殺虫試験
A−96625をアセトンに溶かして作製した1%溶液を水で希釈し、100および30mg/Lの溶液を調製した。これにナミハダニ雌成虫が寄生したササゲ葉片及びミカンハダニ雌成虫が寄生した桑葉片を約10秒間浸漬し、余剰の薬液を落としてから、シャーレ上の水を含ませた濾紙の上に静置した。25℃に放置し、3日後それぞれのハダニの死亡成虫及び動きの鈍化した成虫を計測し、死亡率と反応率を求めた。又、7日後に、卵の孵化率と孵化した幼虫の死亡率を調査した。これらの結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
これらの結果から、A−96625がハダニに対して優れた殺虫効果を示すことが分かった。
【0059】
試験例2
コナガ殺虫試験
A−96625をアセトンに溶かして作製した1%溶液を水で希釈し、100mg/L溶液を調製した。これにキャベツ葉片を約20秒間浸漬し、風乾した後、コナガ3令幼虫を10頭接種した。25℃に保存し、3日後の接種幼虫の死亡率を調査した。その結果、接種幼虫のすべてが死亡し、このことから、A−96625が、コナガに対して、優れた殺虫効果示すことが明らかになった。
【0060】
試験例3
種子発芽阻害作用試験
直径1.8cm、長さ13cmの試験管の底に海砂2gを入れ、種々の濃度のA−96625、ナイジェリシン及びジアネマイシンの水溶液を2mLずつ注いだ。タイヌビエ又はホタルイ種子20粒を播種し、26℃で7日間放置した後、発芽の抑制の程度を調査した。その結果、ナイジェリシン及びジアネマイシンは、1mg/Lの濃度でタイヌビエ及びホタルイの発芽を阻害したのに対し、A−96625は、20mg/Lの濃度でも、これら植物の発芽を阻害しなかった。
【0061】
試験例4
茎葉散布除草作用試験
培土を入れたプラスチックポット(4×4×高さ6cm)にイネ、トマト、コマツナ及びキュウリの種子を播種し、播種10日後に、A−96625及びナイジェリシンの1000mg/Lの薬液を、ポット当り0.5mL散布した。処理10日後に、枯死及び生育抑制程度を調査した。これらの結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
これらの結果から、ナイジェリシンが強い除草作用を示すのに対し、A−96625が除草作用を全く示さないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の新規なポリエーテル化合物A−96625は、優れた殺虫又は/及び殺ダニ作用を有し、しかも除草作用がないために作物への薬害がなく、農薬(特に、農園芸用殺虫剤又は/及び殺ダニ剤)として、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】


で表されるポリエーテル化合物A−96625又はその塩。
【請求項2】
下記性状:
(1)物質の性状:白色粉末
(2)分子量:884
(3)分子式:C467616
(4)重クロロホルム中で測定したときのH−核磁気共鳴スペクトル(δppm):
9.65(1H,s)、7.87(1H,s)、7.51(1H,s)、5.52(1H,m)、4.35(1H,m)、4.32(1H,m)、4.08(1H,d,J=4.7Hz)、4.04(1H,dd,J=10.7,2.5Hz)、3.97(1H,dd,J=10.7,2.5Hz)、3.79(1H,d,J=10.4Hz)、3.62(3H,s)、3.48(3H,s)、3.29(1H,s)、3.10(1H,d,J=10.4Hz)、3.04(1H,q,J=7.0Hz)、3.02(1H,dd,J=10.3,10.2Hz)、2.90(1H,qd,J=6.6,2.5Hz)、2.70(1H,d,J=12.9Hz)、2.63(1H,q,J=7.1Hz)、2.41(1H,s)、2.39(1H,m)、2.22(1H,m)、2.10(1H,m)、2.09(1H,m)、1.96(1H,d,J=12.9Hz)、1.94(1H,m)、1.56(1H,m)、1.55(3H,s)、1.54(1H,m)、1.52(1H,m)、1.51(1H,m)、1.44(1H,m)、1.27(3H,s)、1.25(3H,d,J=7.1Hz)、1.21(1H,m)、1.19(3H,s)、1.15(3H,s)、1.13(3H,d,J=6.6Hz)、1.10(3H,s)、1.08(3H,d,J=7.1Hz)、1.02(3H,d,J=7.0Hz)、0.97(3H,d,J=7.1Hz)、0.97(3H,d,J=6.4Hz)、0.95(3H,d,J=6.6Hz)、0.90(3H,d,J=6.6Hz)
(5)重クロロホルム中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):
217.5(s)、183.3(s)、132.2(s)、130.1(d)、100.7(s)、99.3(s)、98.2(s)、93.0(s)、88.3(d)、87.0(d)、85.5(s)、84.1(d)、80.1(d)、78.0(d)、77.0(s)、75.1(s)、71.9(d)、71.7(d)、71.4(d)、62.4(q)、60.5(q)、49.1(d)、46.9(d)、46.6(d)、43.3(d)、43.2(t)、40.2(d)、37.0(d)、34.2(d)、33.3(t)、31.2(q)、31.1(d)、30.8(t)、27.6(q)、26.8(q)、26.3(t)、24.5(q)、17.2(q)、15.9(q)、14.2(q)、14.1(q)、13.2(q)、13.1(q)、12.6(q)、10.5(q)、7.6(q)、及び
(6)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmax cm−1):
3552,2974,2938,1717,1583,1466,1397,1366,1324,1285,1195,1167,1095,1024,980,943,914,874,640
を有するポリエーテル化合物A−96625又はその塩。
【請求項3】
アクチノマデュラ属に属し、請求項1又は2記載の化合物を生産することを特徴とする微生物。
【請求項4】
アクチノマデュラ・エスピー(Actinomadura sp.)SANK 60305(FERM BP−10457)。
【請求項5】
請求項3又は4記載の菌を培養し、該培養物から請求項1又は2記載の化合物を採取することを特徴とする、請求項1又は2記載の化合物の製法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の化合物を有効成分として含有する農薬。
【請求項7】
請求項1又は2記載の化合物を有効成分として含有する殺虫剤。
【請求項8】
請求項1又は2記載の化合物を有効成分として含有する殺ダニ剤。

【公開番号】特開2007−238492(P2007−238492A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62055(P2006−62055)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【出願人】(303020956)三共アグロ株式会社 (70)
【出願人】(391011076)北海三共株式会社 (6)
【Fターム(参考)】