説明

ポリオルガノシロキサンの保存方法

【課題】長期間に亘りポリオルガノシロキサンを安定的に貯蔵することができる、ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法の提供。
【解決手段】ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法であって、以下のステップ:
ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を容器に充填するステップ、
該容器を0℃以下で保存するステップ、
を順に含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光学用途に使用される部品の材料として、及び電気・電子材料に使用される部品の材料として用いられるポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシロキサンは光学材料や電子材料などとして使用されている。以下の特許文献1には、コーティング材料として、紫外線でキュアでき、高透明性を有し、1〜150μmの膜厚で製膜することができる感光性ポリオルガノシロキサン組成物についての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第1196478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリオルガノシロキサンは、室温で放置すると、高分子量化し、粘度が増加し、物性が変質するなどの問題がある。
本発明が解決しようとする課題は、長期間に亘りポリオルガノシロキサンを安定的に貯蔵することができる、ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し、熱、及び水分がポリオルガノシロキサンの保存安定性に大きく影響を及ぼすことを実験により確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法であって、以下のステップ:
ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を容器に充填するステップ、
該容器を0℃以下で保存するステップ、
を順に含む前記方法。
【0006】
[2]前記ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を容器に充填するステップと前記該容器を0℃以下で保存するステップの間に、該容器内の雰囲気を乾燥空気又は不溶性ガスで置換した後に、該容器を密封するステップ、
をさらに含む、前記[1]に記載の方法。
[3]前記容器を−20℃以下で保存する、前記[1]又は[2]に記載の方法。
【0007】
[4]前記容器が遮光性容器である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0008】
[5]前記ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の充填量(体積)が、前記容器の内容積の50%以上である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保存方法により、高分子量化し、粘度が増加し、物性が変質してしやすいポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を長期間に亘り安定的に保存することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の保存方法の対象となるポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物とは、ポリオルガノシロキサンのみの場合であっても、他の感光剤、光重合開始剤、各種添加剤などを含有する組成物の形態であってもよい。
【0011】
ポリオルガノシロキサンは、少なくとも下記一般式(1):
(R4−n−(Si)−(OR・・・・・(1)
{式中、Rは、水素原子、フェニル基又は炭素数1〜17の1価の有機基であり、Rは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜18の有機基であり、そしてnは、1〜から4の整数であり、RとRは、複数存在する場合、同一であっても異なっていてもよい。}で表されるオルガノシランを原料とする縮合物である。
【0012】
保存の対象となるポリオルガノシロキサンは、シランに結合したアルコキシ基又はシランに結合した水酸基が存在する場合、更に光重合性基が存在する場合、本発明の保存方法により、その効果が顕著に発現する。
シランに結合したアルコキシ基又はシランに結合した水酸基を有するポリオルガノシロキサンは、少なくとも1種のシラノール化合物{上記一般式(1)において複数のRが、それぞれ独立に、芳香族基を少なくとも1つ含む炭素数6〜18の有機基であり、そしてRが水素原子である。}と、少なくとも1種のアルコキシシラン化合物{上記一般式(1)においてRが、エポキシ基及び炭素−炭素二重結合基からなる群より選択される基を少なくとも1つ含む炭素数2〜17の有機基であり、複数存在する場合Rは同一であっても異なっていてもよく、Rが、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基であり、そしてnが、2又は3の整数である。}と、触媒とを混合し、積極的に水を添加することなく重合させる方法で得られる。
【0013】
好適なシラノール化合物としては、ジフェニルシランジオール、ジ−p−トルイルシランジオール、ジ−p−スチリルシランジオール、ジナフチルシランジオールなどが挙げられるが、共重合、耐熱性の観点などを考慮すると、ジフェニルシランジオール(以下、「DPD」ともいう。)が特に好適である。
【0014】
好適なアルコキシシラン化合物としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルメチルトリメトキシシラン、ビニルエチルトリメトキシシラン、ビニルメチルトリエトキシシラン、ビニルエチルトリエトキシシラン、1−プロペニルトリメトキシシラン、1−プロペニルトリエトキシシラン、2−プロペニルトリメトキシシラン、2−プロペニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−(1−プロペニルフェニル)トリメトキシシラン、p−(1−プロペニルフェニル)トリエトキシシラン、p−(2−プロペニルフェニル)トリメトキシシラン、p−(2−プロペニルフェニル)トリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、p−スチリルメチルジメトキシシラン、p−スチリルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0015】
好適なアルコキシシラン化合物としては、さらに、優れたUV−i線感光特性を得るために、光重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルメチルトリメトキシシラン、ビニルエチルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシランがより好ましく、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルトリメトキシシラン、ビニルエチルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシランが好ましい。
【0016】
前記触媒として、シラノール化合物のシラノール基と、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基との脱アルコール縮合反応を促進する化合物を使用することができる。
好適な触媒としては、下記一般式(2):
(OR・・・・・(2)
{式中、Mは、ケイ素、ゲルマニウム、チタニウム、ジルコニウム、ホウ素又はアルミニウムのいずれかであり、複数のRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、そしてnは、3又は4である。}で表される金属アルコキシド(以下、単に「金属アルコキシド」ともいう。)の内の少なくとも1つの触媒、又はアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。上記一般式(2)で示される金属アルコキシドは、シラノール化合物(シラノール基)とアルコキシシラン化合物(アルコキシシリル基)の脱アルコール縮合反応を触媒しつつ、自身もアルコキシ基含有化合物として振る舞って脱アルコール縮合反応に関与し、分子内に取り込まれる形でポリシロキサン又はポリシルセスキオキサン構造を形成する。
【0017】
好適に用いられるシラノール化合物、アルコキシシラン化合物、及び触媒を適宜混合し、加熱することにより、ポリオルガノシロキサンを重合生成させることができる。この際の加熱温度は、生成するポリオルガノシロキサンの重合度を制御する上で重要なパラメーターである。目的の重合度にもよるが、上記原料混合物を70℃〜150℃で加熱し、重合させるのが好ましい。
【0018】
上記シラノール化合物と上記アルコキシシラン化合物を、積極的に水を添加することなく75〜85℃の温度で30〜1時間加水分解するステップを経たものとしては、ドイツ国 Fraunhofer ISC社から「ORMOCER」(登録商標)ONEとして入手することができる。
【0019】
本発明の保存方法は、ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法であって、以下のステップ、
ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を容器に充填するステップ、
該容器を0℃以下で保存するステップ、
を順に含む前記方法である。
【0020】
ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を0℃以下で保存することを特徴とする。0℃以下で保存することにより物性が著しく変化することなく長期的に安定な状態を維持することができる。保存時に輸送・搬送してもかまわない。該温度は、好ましくは−20℃以下である。−20℃以下であればポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物をより安定な状態に維持することが可能である。冷却方法としては、一般的に冷却装置として知られている冷蔵庫、冷凍庫等であれば何を用いても構わない。
【0021】
本発明の保存方法を用いてポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を保存する際、付属の蓋を用いて密閉(密封)する前に、乾燥空気又は不活性ガスを用いて該容器内の雰囲気を置換すれば、空気中の水分から受ける影響が減少し、より安定な貯蔵が可能でとなるため、好ましい。乾燥空気の相対湿度としては、20%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。不活性ガスの種類は限定されないが、利便性の観点からヘリウム、窒素などが好ましい。
【0022】
保存に用いる容器としては密閉できる蓋つきのものであれば材質、容量等は限定することなく安定な貯蔵が可能である。しかしながら、保存の対象となるポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物が構造中に感光性を有する官能基を持する場合、遮光性の容器を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の保存方法を用いてポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を保存する際、充填に用いる容器の体積(内容積)の50%以上の容量の該樹脂組成物を充填すれば、空気中の水分等の影響を著しく受けずに安定な貯蔵が可能であり、より好ましくは充填に用いる容器の体積の80%以上の充填量であれば、空気中の水分等の影響をほとんど受けずに安定な貯蔵が可能とある。
【0024】
本発明の保存方法により、ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を保存することで、ポリオルガノシロキサンが上記一般式(1)で表されるオルガノシランを原料とする縮合物である場合、ポリオルガノシロキサン中のOR基が反応し、シロキサン結合が形成されていくことによる粘度の増加を有効に防止することができる。
【0025】
本発明の保存方法を用いて保存したポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を室温に戻す際、同様に、乾燥空気又は不活性ガスの雰囲気化で行えば結露による容器に付着する水分の影響を受けず、ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を不安定化を低減することができる。乾燥空気の相対湿度としては20%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。不活性ガスの種類は限定されないが、利便性の観点からヘリウム、窒素などが好ましい。
【実施例】
【0026】
[合成例1]ポリオルガノシロキサンの合成
1lのナス型フラスコ中にシラノール化合物としてDPD(ジフェニルシランジオール)1.337モル(289.3g)、アルコキシシラン化合物としてp−スチリルトリメトキシシラン1.337モル(300.0g)、触媒としてテトラターシャルブトキシチタン0.003モル(1.140g)を仕込み、冷却器をナスフラスコに取り付けて攪拌子をもちいて攪拌を行いながらオイルバスで室温から95℃まで、徐々に昇温させた。縮合反応により生成されたメタノールが還流していることを確認した後、6時間同温度で加熱した。反応終了後、冷却器を取り外し、突沸が起こらないように徐々に真空度を上げ1〜3torr程度にし、70℃で攪拌しながら真空引きを継続し、生成したメタノールを減圧留去し、ポリオルガノシロキサンを得た。
【0027】
[実施例1]
合成例1で得られたポリオルガノシロキサンを、合成が完了した日に30mlのポリ容器中に15ml分取し、乾燥空気で容器内雰囲気を置換してから容器を密封し、−20℃の冷蔵庫を用いて保存した(A−1)。
【0028】
[比較例1]
合成例1で得られたポリオルガノシロキサンを、合成が完了した日に30mlのポリ容器中に15ml分取し、直ちに、容器を密封し、室温で保存した(A−2)。
【0029】
[粘度測定による安定性評価]
合成例1で得られたポリオルガノシロキサンを合成直後、粘度計(東機産業株式会社、RE−80R)を用いて40℃、10rpm、5分間の条件で測定した。A−1、A−2を、それぞれ保存開始から一ヶ月ごとに粘度測定を行った。A−1は測定する際、乾燥空気中に2時間放置して常温に戻してから測定を行った。結果を以下の表1に示す。A−2が初期、1ヶ月後、2ヵ月後、3ヵ月後の粘度がそれぞれ12.70、19.66、26.57、56.45であり、時間がたつにつれて粘度が増加していくのに対し、A−1は初期、1ヶ月後、2ヵ月後、3ヵ月後の粘度がそれぞれ12.70、12.70、12.49、12.67であり3ヵ月後でも初期の粘度と同等の値を保ち、−20℃で保存したことにより安定な状態を保っていることが確認された。
【0030】
【表1】

【0031】
29Si−NMR測定による安定性評価]
合成例1で得られたポリオルガノシロキサンを、合成直後、29Si−NMR(日本電子株式会社製、JNM−GSX−400)測定した。A−1、A−2を、それぞれ保存開始から一ヶ月ごとに29Si−NMR測定した。A−1は測定する際、乾燥空気中に2時間放置して常温に戻してから測定した。結果を以下の表2に示す。
2官能性のDPDに由来するピークのうち、二つのシラノールが共にシロキサン結合を形成しているシランに帰属できるピークをD2と記載する。また、3官能性のp−スチリルトリメトキシシランに由来するピークのうち、1つのメトキシシランがシロキサン結合を形成しているシランに帰属できるピークをT1、3つのメトキシシランが全てシロキサン結合を形成しているシランに帰属できるピークをT3と記載する。
【0032】
A−2はD2のピーク面積比が初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後でそれぞれ33.4%、36.8%、37.1%、37.8%と増加していき、T1のピーク面積比が初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後でそれぞれ18.5%、11.5%、8.90%、7.73%と減少していき、T3のピーク面積比が初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後でそれぞれ21.3%、25.5%、29.7%、30.2%と増加していき、未反応のメトキシ末端又はシラノール基が反応し、シロキサン結合が形成されていくことが確認された。
【0033】
これに対し、A−1はD2のピーク面積比が初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後でそれぞれ33.4%、34.5%、33.6%、32.7%、T1のピーク面積比が初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後でそれぞれ18.5%、18.3%、16.9%、17.6%、T3のピーク面積比が初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後でそれぞれ21.3%、19.3%、21.5%、21.1%でいずれも安定し、−20℃で保存することにより構造上の変化がほとんど起きずに安定であることが確認された。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の保存方法であって、以下のステップ:
ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を容器に充填するステップ、
該容器を0℃以下で保存するステップ、
を順に含む前記方法。
【請求項2】
前記ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物を容器に充填するステップと前記該容器を0℃以下で保存するステップの間に、
該容器内の雰囲気を乾燥空気又は不活性ガスで置換した後に、該容器を密封するステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記容器を−20℃以下で保存する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記容器が遮光性容器である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリオルガノシロキサンを含む樹脂組成物の充填量が、前記容器の内容積の50%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2011−26495(P2011−26495A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175342(P2009−175342)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】