説明

ポリオレフィン系樹脂の水系分散体の製造方法

【課題】
耐ブロッキング性に優れた皮膜を得ることができ接着性、耐水性に優れ、実用上十分な経時安定性を有するポリオレフィン系樹脂水系分散体を提供すること。
【解決手段】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し分散剤として(a)下記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル1〜30重量部及び(b)アルキル基の炭素数が15〜22の常温で固体の脂肪酸1〜30重量部を使用することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の水系分散体の製造方法。
R−O−(AO)−H (I)
(ただし、Rは炭素数が4〜11のアルキル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜8の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ブロッキング性に優れた皮膜を得ることができる、実用上十分な経時安定性、耐水性を有するポリオレフィン系樹脂水系分散体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、優れた性質を有し、安価であることから、フィルムや成型物等、多岐にわたる用途に用いられている汎用樹脂である。しかし、優れた性質の反面、ポリオレフィン系樹脂は非極性であるため、樹脂担体への塗装や接着が困難である。
【0003】
この問題を改善するため、エチレン、プロピレンと不飽和カルボン酸の共重合体、エチレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体、酸変性ポリオレフィン、または上記重合体の塩素化物等が接着性樹脂として広く用いられている。しかし、最終製品が焼却処理されるような用途では、塩素化物である塩素化ポリオレフィンなどは環境汚染の要因となっている。更に、これらの接着性ポリオレフィン樹脂を塗装や接着用途で用いるには、トルエンやキシレン等の有機溶剤に溶解させる必要があるため安全面、環境面において問題を有している。
【0004】
この問題を改善するため、これら接着性ポリオレフィン樹脂の水系分散化が広く検討されているが、分散時に界面活性剤、塩基等の添加剤を必要とするため、得られた水系分散体を基材に塗布、皮膜化した場合、諸性能に悪影響が及ぶ場合がある。例えば、皮膜中に残存する界面活性剤の影響により皮膜が可塑化しタックが強くなってしまう、あるいはブリードアウトによりブロッキングが発生してしまう等が挙げられる。この様な場合、塗工フィルムの巻き取りなどの際の操業性が著しく悪化するため使用できない。
【0005】
また、無機微粒子、オレフィン系微粒子、澱粉、または脂肪酸の金属塩等のアンチブロッキング剤を添加する方法が検討されている。例えば、特許文献1ではアンチブロッキング剤として変性澱粉を添加し、公知の方法にてポリオレフィン及び変性澱粉を水に分散し、その塗工フィルムの耐ブロッキング性を発現させているが、高温高湿度下での耐水性、耐ブロッキング性、高温下での経時安定性に関しては改良の余地がある。特許文献2では感熱性粘着剤層塗液に脂肪酸の金属塩を添加することにより、耐ブロッキング性を発現させているが、塗液の経時安定性、塗工シートの耐水性を低下させる可能性がある。
【特許文献1】特開2004−285227号公報
【特許文献2】特開2000−73022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐ブロッキング性に優れた皮膜を得ることができ接着性、耐水性に優れ、実用上十分な経時安定性を有するポリオレフィン系樹脂水系分散体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく、ポリオレフィン系樹脂の水系分散化、及び塗工フィルム評価を進め、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸を用いポリオレフィン系樹脂の水系分散化を行うことで、分散剤としての働きと共に、塗膜の耐ブロッキング剤としての働きをも発現することを見出し、このことから例示したような耐ブロッキング剤を添加する必要がないため、諸性能の低下が無い優れた皮膜を得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明はポリオレフィン系樹脂100重量部に対し分散剤として(a)下記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル1〜30重量部及び(b)アルキル基の炭素数が15〜22の常温で固体の脂肪酸1〜30重量部を使用することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の水系分散体の製造方法に関するものである。
R−O−(AO)−H (I)
(ただし、Rは炭素数が4〜11のアルキル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜8の整数を示す。)
本発明は、上記(a)、(b)に加えさらに分散安定剤として、(c)高級アルコール及び/又は(d)ヒドロキシ脂肪酸を使用することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の水系分散体の製造方法にも関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、実用上十分な経時安定性を有するポリオレフィン系樹脂水系分散体を得ることができる。また、このポリオレフィン系樹脂水系分散体を塗工用途に用いた際には、耐ブロッキング性に優れた皮膜を得ることができるため、塗料や接着剤等に配合して使用することができる。
本発明に係るポリオレフィン系樹脂水系分散体が優れた効果を発現するメカニズムについては明らかになっていないが、分散剤として用いる脂肪酸類が、分散体を塗工した皮膜表面の物性に関与し、耐ブロッキング性を発現させるものと考えられる。また、乳化剤として併用するポリオキシアルキレンアルキルエーテルのアルキル基の炭素数が4〜11であり、2〜8のアルコキシル化度である場合、皮膜が可塑化しにくく優れた皮膜性能を発現させるものと考えられる。
更に、高級アルコール類、ヒドロキシ脂肪酸を添加することによりポリオレフィン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸の配合安定性を向上させ、その結果得られるポリオレフィン系樹脂水系分散体の経時安定性が格段に向上するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明で用いるポリオレフィン系樹脂は、オレフィン由来の構成単位を50質量%以上含有する樹脂であり、例えばエチレン、プロピレン等のオレフィンの単独重合体や共重合体、エチレン、プロピレンを主成分とするオレフィンとその他のα−オレフィンとの共重合体、オレフィンとアクリル酸やマレイン酸等のカルボン酸含有モノマーの(多元)共重合体、これら重合体のカルボン酸含有モノマーないしその無水物による変性物が挙げられる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン三元共重合体、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンとアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類の共重合体、またはこれらを用いてグラフト変性した樹脂が挙げられる。これらは公知の重合法、重合触媒、変性法により製造される樹脂である。本発明にて使用する樹脂としては、皮膜の性能の観点からエチレン、プロピレン等のオレフィンとカルボン酸含有モノマーとの多元共重合体ないしオレフィンのカルボン酸含有モノマーによる変性物が好ましく、中でもカルボン酸含有由来の構成単位が2〜20質量%であるものが好ましい。
上記ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、水系分散化性、分散体の安定性、皮膜の性能などの観点から5000〜200000、好ましくは10000〜150000、更に好ましくは20000〜100000である。重量平均分子量はGPCなどの公知の測定方法により測定することができ、重合体の有機溶媒への溶解性が乏しい場合は、塩素化することで溶解性を高め測定することができる。
また本発明により得られる効果を損なわない範囲で複数の樹脂との共分散を行ってもよい。例えば高分子量樹脂の水系分散化を補助するため、高分子量樹脂100重量部に対して低分子量樹脂を1重量部〜30重量部用いてもよい。
【0011】
本発明で用いる(a)上記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル型が挙げられる。アルキル基の炭素数は4〜11であるが、好ましくは6〜11である。アルコキシル化度としては2〜8であるが、好ましくは3〜6である。アルキレンオキサイドの種類としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられ、分散性の観点から中でもエチレンオキサイドが好ましい。上記範囲外のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いた場合、乾燥塗膜の可塑化が起こり、タックが強くなることや、ブリードアウトによりブロッキングが生じてしまう。
【0012】
本発明で用いる(b)アルキル基の炭素数が15〜22である常温で固体の脂肪酸は、具体的にはパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸を挙げることができる。アルキル基の炭素数が15未満の場合、塗膜の耐ブロッキング性が不十分となり目的の性能を発現しない。アルキル基の炭素数が22を超える場合、分散性が弱くなり得られるポリオレフィン系樹脂水系分散体の経時安定性が乏しくなる。常温で液体の場合、ポリオレフィン系樹脂水系分散体の経時安定性は良好であるが、得られる塗膜の耐ブロッキング性が不十分となり目的の性能を発現しない。また、アルキル基の炭素数が15〜22及び常温で固体である脂肪酸は、工業的に供給し得るものを用いることができ、アルキル鎖の炭素数の分布がある製品においても、主成分としてアルキル基の炭素数が15〜22であり、その性状が常温で固体であるならば問題無く使用することができ、目的の性能を得ることができる。
【0013】
(a)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、(b)アルキル基の炭素数が15〜22である常温で固体の脂肪酸の使用量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、(a)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは1〜30重量部、好ましくは1〜15重量部であり、(b)アルキル基の炭素数が15〜22である常温で固体の脂肪酸は1〜30重量部、好ましくは1〜15重量部である。(a)上記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルが1重量部未満である場合、ポリオレフィン樹脂の水系分散化が困難となり、30重量部を超えると皮膜の可塑化、ブリードアウトなどを生じる可能性がある。(b)アルキル基の炭素数が15〜22である常温で固体の脂肪酸が1重量部未満である場合、皮膜の耐ブロッキング性が不十分となるだけでなく、ポリオレフィン樹脂の水系分散化が困難となり、30重量部を超えると皮膜のヒートシール性の低下、透明性の低下を生じる可能性がある。
【0014】
本発明に係る水系分散体の製造において、上記(a)、(b)に加えさらに分散安定剤として、(c)高級アルコール及び/又は(d)ヒドロキシ脂肪酸を使用することにより、水系分散体の経時安定性を向上させることができる。ここで、(c)高級アルコールとしては、炭素数8〜22のものが好ましく、8〜18がより好ましい。具体的には、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の飽和アルコール、オレイルアルコール等の不飽和アルコール、または2−エチルヘキサノールのような側鎖を有するアルコール、さらにはそれらの組み合わせを挙げることができる。また、上記(a)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの内、アルキレンオキサイドの付加モル数の少ないものの中には未反応原料アルコールが残っているものもあり、そのようなものを使用する場合には必ずしも別途高級アルコールを添加しなくても、十分な経時安定性を有する水系分散体が得られる。
【0015】
また、(d)ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸にヒドロキシル基が導入された構造であり、具体的には12−ヒドロキシステアリン酸を挙げることができる。
【0016】
(c)高級アルコール、(d)ヒドロキシ脂肪酸の使用量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、水系分散体の経時安定性の点や、皮膜のヒートシール性や透明性の低下を引き起こさない点で好ましくは(c)高級アルコール、(d)ヒドロキシ脂肪酸をそれぞれ単独で、もしくは双方合わせて1〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0017】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂を中和することにより、その分散性を向上させることができる。中和剤としては、アンモニア水、アルカリ金属系として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化リチウム、また2価の金属としては酸化亜鉛、水酸化カルシウムなど、さらに3級アミンとして、トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N−メチルピロリジン、テトラメチルジアミノメタン、トリメチルアミン、2級アミンとして、N−メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン、1級アミンとして、プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、1,2−ジブチルプロピルアミン、3−ペンチルアミン等があり、モルホリン系としてモルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピペラジン系としてピペラジン、ヒドロキシエチルピペラジン、2−メチルピペラジン、アミノエチルピペラジン、アミノアルコール系として、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなど、またジアミンではエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、また脂肪族アミンとしてココナットアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンとそれらのEO付加体などが挙げられるが皮膜性能に影響を及ぼさない塩基性化合物として、好ましくは揮発性を有する塩基性物質であり、さらに好ましくはアンモニア、モルホリン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどである。
【0018】
本発明の水系分散体には、皮膜性能の向上を目的として架橋剤を配合してもよい。架橋剤としては、ポリオレフィン系樹脂中のカルボキシル基との反応性を有する官能基を有する化合物、多価金属化合物などを挙げることができ、具体的にはカルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、メラミン系化合物、シランカップリング剤、ジルコニウム系化合物などが挙げられる。これらは本発明により得られる効果を損なわない範囲で任意の部数を配合することができ、その種類としては単独でも、複数種を併用することもできる。
【0019】
さらに本発明により得られる効果を損なわない範囲で可塑剤、造膜助剤、レベリング剤、無機添加物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、防腐剤、抗菌剤、消泡剤、着色剤、香料、分散安定剤、粘度調整剤、架橋剤など用途目的に必要とされる添加剤を併用することができる。
【0020】
水系分散化に使用する設備については特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂の融点以上への温度上昇や冷却コントロールも可能であり、必要に応じて加圧して分散できる設備であれば好ましい。さらに、高せん断力を得られる設備であればより好ましく、またこれらの設備に加え高圧ホモジナイザー法、他の機械的方法、噴霧法等と組み合わせて使用することもできる。これらの設備は、ポリオレフィン系樹脂の物性、官能基の構造と量、使用する分散剤の種類と量、要求される水系分散体の性能、粒子径等により選定し使用される。
【0021】
得られたポリオレフィン系樹脂水系分散体の塗工方法は通常行なわれる方法、例えばドクターブレード法、ロールコーター法、エアナイフ法、グラビア法、又状況によってはスプレー法、ディッピング法などが挙げられるが、これらの方法に限定されることはない。さらに塗工処理を行う前に、基材となるフィルム等にコロナ処理、アンカーコート処理等の公知の方法による表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0022】
以下実施例により本発明を説明する。但し本発明は、これらの実施例及び比較例によってなんら制限されるものではない。なお、試験方法は以下の通りである。
【0023】
<平均粒子径>
PARTICLE SIZING SYSTEMS社製NICOMP380(商標)を使用して測定した。
【0024】
<OPP−OPPヒートシール試験>
OPPフィルムのコロナ表面処理面に#12のバーコーターを用いて、オレフィン系樹脂水系分散体を塗工し、室温で24時間乾燥した。塗工面同士を重ね合わせ、ヒートシール機(富士インパルスシーラー社製T−230)を用い140℃の条件でヒートシールを行った。各フィルムを1.5cm幅に切り揃え測定用試験片とし、引っ張り試験機(オリエンテック社製UCT−2.5T)を用い引っ張り速度100mm/minにてT字剥離強度を測定した。
【0025】
<アルミ−CPPヒートシール試験>
片面アルミ紙のアルミ面に#12のバーコーターを用いて、オレフィン系樹脂水系分散体を塗工し、室温で24時間乾燥した。またCPPフィルムのコロナ表面処理面に#12のバーコーターを用いて、オレフィン系樹脂水系分散体を塗工し、室温で24時間乾燥した。CPPとアルミ紙の塗工面同士を重ね合わせ、ヒートシール機(富士インパルスシーラー社製T−230)を用い140℃の条件でヒートシールを行った。各フィルムを1.5cm幅に切り揃え測定用試験片とし、引っ張り試験機(オリエンテック社製UCT−2.5T)を用い引っ張り速度100mm/minにてT字剥離強度を測定した。
【0026】
<耐ブロッキング性試験>
PETフィルム(膜厚100μm、市販品)に#20のバーコーターを用いて、オレフィン系樹脂水系分散体を塗工し、乾燥温度105℃、乾燥時間2分間、その後室温で1分間乾燥した。塗工面同士を重ね合わせ、25℃において100g/cmの荷重をかけ12時間静置後、引き剥がし、その剥がれやすさから耐ブロッキング性を評価した。
【0027】
<高湿耐ブロッキング性試験>
PETフィルム(膜厚100μm、市販品)に#20のバーコーターを用いて、オレフィン系樹脂水系分散体を塗工し、乾燥温度105℃、乾燥時間2分間、その後室温で1分間乾燥した。塗工面同士を重ね合わせ、50℃、95%RHの条件において100g/cmの荷重をかけ12時間静置後、引き剥がし、その剥がれやすさから高湿度下での耐ブロッキング性を評価した。
【0028】
<経時安定性試験>
樹脂水系分散体を室温にて90日間静置し、分離の有無、沈降物の有無により評価した。また、高温下での安定性評価として、樹脂水系分散体を50℃にて1週間静置し、平均粒子径変化、粘度変化、分離の有無、沈降物の有無を観察した。
【0029】
実施例1
撹拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(BASF製:EMULAN:HE50[アルキル基の炭素数:6、エチレンオキサイドの付加モル数:5])24.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)20.0g、オレイルアルコール(新日本理化株式会社製:アンジェコール90N)4.6g、モルホリン23.7g、イオン交換水536.0gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0030】
実施例2
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(BASF製:EMULAN:HE50)24.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)20.0g、ステアリルアルコール(新日本理化株式会社製:コノール30S)4.6g、モルホリン23.7g、イオン交換水536.0gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0031】
実施例3
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)166.9g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)29.5g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(BASF製:EMULAN:HE50)24.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)17.2g、12−ヒドロキシステアリン酸(伊藤製油株式会社製:12−ヒドロキシステアリン酸B)7.4g、モルホリン24.9g、イオン交換水534.7gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0032】
実施例4
実施例1で使用したものと同一の設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.8g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(クラリアント製:WAXH−10248)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(シェルケミカル製:91−2.5T[アルキル基の炭素数:9−11、エチレンオキサイドの付加モル数:2.5])24.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)24.6g、ジメチルエタノールアミン31.5g、イオン交換水523.7gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0033】
実施例5
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(BASF製:EMULAN:HE50)24.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)24.6g、モルホリン25.2g、イオン交換水535.0gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0034】
比較例1
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(BASF製:EMULAN:HE50)24.6g、ミリスチン酸(花王株式会社製:MY−95)24.6g、モルホリン27.0g、イオン交換水533.0gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0035】
比較例2
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(シェルケミカル製:ネオドール91−6T[アルキル基の炭素数:9−11、エチレンオキサイドの付加モル数:6])49.6g、モルホリン16.7g、イオン交換水544.0gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0036】
比較例3
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(東邦化学工業製:ペグノールS−4D[アルキル基の炭素数:18、エチレンオキサイドの付加モル数:4])24.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)24.6g、N,N−ジメチルエタノールアミン31.5g、イオン交換水523.7gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0037】
比較例4
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ステアリン酸(花王株式会社製:S−40T)49.1g、モルホリン36.4g、イオン交換水533.0gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0038】
比較例5
実施例1で使用したものと同一の水系分散化設備に、アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙ケミカル株式会社製:アウローレン250S)176.4g、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル製:E−43)19.6g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(BASF製:EMULAN:HE50)24.6g、12−ヒドロキシステアリン酸(伊藤製油株式会社製:12−ヒドロキシステアリン酸B)24.6g、モルホリン26.5g、イオン交換水533.1gを加え、180℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%の変性ポリオレフィン水系分散体を得た。
【0039】
【表1】

評価方法
<耐ブロッキング性>
◎:ブロッキングおよびタック無し
○:ブロッキング無し、若干タック有り
△:若干ブロッキング有り、タック有り
×:ブロッキングおよびタック有り
<経時安定性>
○:分離、沈降物無し
△:分離または沈降物有り
×:分離、沈降物有り
【0040】
以上の実施例の結果から、アルキル基の炭素数が4〜11であり、アルキレンオキサイドの付加モル数が2〜8であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が15〜22の常温で固体である脂肪酸を用いポリオレフィン系樹脂の水系分散化を行うことで、優れた耐ブロッキング性を発現することが分かる。また分散安定剤としてヒドロキシ脂肪酸、高級アルコールを用いたものは経時安定性が優れていることがわかる。よって本発明により、実用上十分な経時安定性を有するポリオレフィン系樹脂の水系分散体を得ることができ、このポリオレフィン系樹脂水系分散体を塗工用途に用いた際には、耐ブロッキング性に優れた皮膜を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し分散剤として(a)下記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル1〜30重量部及び(b)アルキル基の炭素数が15〜22の常温で固体の脂肪酸1〜30重量部を使用することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の水系分散体の製造方法。
R−O−(AO)−H (I)
(ただし、Rは炭素数が4〜11のアルキル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜8の整数を示す。)
【請求項2】
さらに分散安定剤として(c)高級アルコール及び/又は(d)ヒドロキシ脂肪酸を使用することを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂の水系分散体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により製造されたポリオレフィン系樹脂水系分散体を含有する塗料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により製造されたポリオレフィン系樹脂水系分散体を含有する接着剤。


【公開番号】特開2007−308561(P2007−308561A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138224(P2006−138224)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】