説明

ポリオレフィン系繊維の製造方法およびその方法で得られたポリオレフィン系繊維

【課題】 低繊度で、かつ繊度斑の少ないポリオレフィン系繊維を、インライン方式で生産性よく、安定して製造する方法、この方法で得られたポリオレフィン系繊維、およびその繊維加工品を提供すること。
【解決手段】 紡糸および延伸処理を連続して行うインライン方式のポリオレフィン系繊維の製造方法であって、紡糸工程後、直ちに排気による冷却処理と送風による冷却処理を順次連続して行う冷却工程を含むポリオレフィン系繊維の製造方法、この方法で得られたポリオレフィン系繊維、および該繊維を加工してなる繊維加工品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系繊維の製造方法、その方法で得られたポリオレフィン系繊維および繊維加工品に関する。さらに詳しくは、本発明は、低繊度(0.1〜3.0dTex程度)で、かつ繊度斑の少ないポリオレフィン系繊維を、インライン方式で生産性よく、安定して製造する方法、この方法で得られた上記の特性を有するポリオレフィン系繊維、および該ポリオレフィン系繊維を加工してなる不織布などの繊維加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン系繊維は、バッテリセパレーター、ワイパー、フィルターなどの産業資材分野、おむつ、ナプキンなどの衛生材料分野等で用いられているが、近年これらの分野における高機能、高付加価値化に伴い、低繊度のものが求められるようになってきている。
低繊度の繊維を得る方法としては、例えば海島型や分割型の複合繊維を用いることが知られている。
【0003】
海島型複合繊維は、1樹脂成分(海成分)中に、この樹脂成分を溶解除去できる溶剤に難溶性の樹脂成分(島成分)を島状に分散させた繊維であり(例えば、特許文献1参照)、これを分割して絡合した後に、前記海成分を抽出すれば、極細繊維を得ることができる。しかしながら、この方法は、非常に細い繊維を得ることができるものの、1成分を溶解除去するために非経済的であるという問題を有している。
【0004】
一方、分割型複合繊維は、複数成分の樹脂を組み合わせて紡糸し、各成分を並列型に配置した複合繊維であり(例えば、特許文献2参照)、この分割型複合繊維を、物理的応力や、繊維を構成する樹脂成分の化学薬品に対する収縮差などを利用して、複数の繊維に分割することにより、極細繊維を得ることができる。しかしながら、この方法は、該複合繊維を分割させるための工程を必要とする上、その分割性が不安定で、繊度に斑が生じることが多く、所望の低繊度の繊維のみからなるものを提供することは困難であるという問題があった。
【0005】
ところで、ポリオレフィン系繊維の製造においては、一般に紡糸工程と延伸工程が別々に設けられた製造方法(アウトライン方式)が採用されており、そして、このアウトライン方式で低繊度の繊維を得るために、吐出線速度を一定の範囲にすることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、このアウトライン方式では、生産性が悪い上、紡糸後、延伸処理が施されるまでに、未延伸糸の内部構造や物性などに変化が生じ、その結果延伸処理されたものは、繊度、強度、ヤング率、伸度などのばらつきが大きいという問題があった。このような問題は、特にポリプロピレン系延伸繊維の製造において顕著であった。例えば、繊度にばらつきがあると、太い繊維に対しても細い繊維に対しても延伸が均等に施されるため、延伸切れが生じる繊維が発生しやすくなり、特に低繊度の場合は顕著になる。
【0006】
そこで、紡糸工程と延伸工程が連続して設けられた製造方法(インライン方式)によるポリオレフィン系延伸繊維が検討され、このインライン方式によりポリオレフィン系樹脂を紡糸−延伸処理すると共に、延伸処理を加圧飽和水蒸気により、直接加熱して行うことにより、ポリオレフィン系延伸繊維が生産性よく得られることが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平9−316730号公報
【特許文献2】特開平5−33218号公報
【特許文献3】特開平7−54214号公報
【特許文献4】特開2003−268622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、低繊度(0.1〜3.0dTex程度)で、かつ繊度斑の少ないポリオレフィン系繊維を、インライン方式で生産性よく、安定して製造する方法、この方法で得られた上記の特性を有するポリオレフィン系繊維、および該ポリオレフィン系繊維を加工してなる不織布などの繊維加工品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、紡糸および延伸処理を連続して行うインライン方式を採用し、紡糸工程後、特定の冷却工程を行うことにより、紡糸した未延伸繊維をすばやく、安定した冷却を行うことができ、その結果として、延伸工程での糸切れの発生がより少なく安定生産が可能で、かつ繊度斑の少ない、低繊度のポリオレフィン系繊維を得ることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 紡糸および延伸処理を連続して行うインライン方式のポリオレフィン系繊維の製造方法であって、紡糸工程後、直ちに排気による冷却処理と冷却風の送風による冷却処理を順次連続して行う冷却工程を含むことを特徴とするポリオレフィン系繊維の製造方法、
(2) 排気による冷却処理において、排気量が、0.03〜0.5m/秒である上記(1)項に記載の方法、
(3) 冷却風の送風による冷却処理において、冷却風速が、0.5〜3.0m/秒である上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) 繊維紡糸のノズル面から10〜100mm離れた位置に設置されてなる排気冷却装置により、排気による冷却処理を行う上記(1)ないし(3)項のいずれか1項に記載の方法、
(5) 上記(1)ないし(4)項のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とするポリオレフィン系繊維、
(6) 単糸繊度が、0.1〜3dTexである上記(5)項に記載のポリオレフィン系繊維、
(7) 鞘芯型の複合繊維である上記(5)または(6)項に記載のポリオレフィン系繊維、
(8) 長さ5mmに加工した短繊維を用い、厚み0.03mm、目付け10g/mの条件で作製した不織布に、ハロゲンタングステンランプを照射した際の吸光度の標準偏差値が50〜80である上記(7)項に記載のポリオレフィン系繊維、および
(9) 上記(5)ないし(8)項のいずれか1項に記載のポリオレフィン系繊維を加工してなる繊維加工品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低繊度(0.1〜3.0dTex程度)で、かつ繊度斑の少ないポリオレフィン系繊維を、インライン方式で生産性よく、安定して製造する方法、この方法で得られた上記の特性を有するポリオレフィン系繊維、および該ポリオレフィン系繊維を加工してなる不織布などの繊維加工品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリオレフィン系繊維の製造方法においては、紡糸および延伸処理を連続して行うインライン方式が採用される。
この方法で得られたポリオレフィン系繊維は、ポリオレフィン系樹脂からなる延伸マルチフィラメントであって、一般に単一型延伸繊維と、2成分複合型延伸繊維の2つの態様を挙げることができる。
【0013】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリオキシメチレンからなるホモポリマー、およびプロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)との共重合体、エチレンとブテン−1との共重合体からなるコポリマーなどを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
前記単一型延伸繊維に使用されるポリオレフィン系樹脂原料としては、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、特にアイソタクチックポリプロピレン系樹脂からなるものが好適である。中でもアイソタクチックペンタッド分率(IPF)が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上のものが有利である。また、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量Mw/Mn比)は5未満、メルトフローレートMFR(温度230℃、荷重21.18N)は15〜60g/10分の範囲が好ましい。上記IPFが85%未満では立体規則性が不充分で結晶性が低く、得られる延伸繊維における強度などの物性に劣る。
【0015】
なお、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)(一般にmmmm分率ともいわれる)は、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して、側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する
立体構造の割合を示すものであって、同位体炭素核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)におけるPmmmm(プロピレン単位が5個連続してアイソタクチック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)から、式
【0016】
IPF(%)=(Pmmmm/Pw)×100
【0017】
によって求めることができる。
また、このポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)との共重合体であってもよい。
【0018】
一方、前記2成分複合型延伸繊維は、前述のポリオレフィン系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種からなる第一成分と、この第一成分とは異なる該ポリオレフィン系樹脂の中から選ばれる第二成分からなる2成分複合型延伸マルチフィラメントであり、このようなものとしては、例えば鞘芯複合型延伸繊維を挙げることができる。
【0019】
前記鞘芯複合型延伸繊維における芯材としては、結晶性プロピレン系重合体が好ましく用いられる。この結晶性プロピレン系重合体としては、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン−プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、さらに前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、さらにブテン−1などのα−オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。これらの中で、特に前記のアイソタクチックポリプロピレン系樹脂が好適である。
【0020】
また、鞘材としては、上記結晶性プロピレン系重合体以外の前記ポリオレフィン系樹脂、例えば高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体、ポリ4−メチルペンテン−1などを用いることができる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、特に強度の点から高密度ポリエチレンが好適である。
この鞘成分として用いられるポリオレフィン系樹脂のメルトフローレートMFR(温度190℃、荷重21.18N)は、15〜60g/10分の範囲が好ましい。
【0021】
また、この複合型未延伸繊維における鞘材と芯材との比率としては特に制限はないが、断面積比において20:80ないし80:20の範囲が好ましく、強度を上げる目的であれば、芯材の比率を高めるのが好ましい。
【0022】
本発明のポリオレフィン系繊維の製造方法においては、紡糸工程と延伸処理工程を連続して行うインライン方式が採用されるが、本発明においては、前記紡糸工程と延伸処理工程との間に、特定の冷却機能をもつ冷却工程を設けることで、延伸処理工程における糸切れの発生を抑制して安定生産を可能にし、かつ繊度斑の少ない低繊度のポリオレフィン系繊維を製造する。
【0023】
具体的には、紡糸工程において、200〜280℃程度の温度で紡糸したのち、直ちに排気による冷却処理と冷却風の送風による冷却処理を、順次連続して行う。装置的には、紡糸ノズル面から10〜100mm程度、好ましくは10〜70mm程度離れた位置に排気冷却装置と送風冷却装置を、この順序で実質的に連続して設置する。
【0024】
前記の排気冷却装置を用いて行う排気による冷却処理においては、排気量は0.03〜0.5m/秒であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.3m/秒である。また、前記の送風冷却装置を用いて行う冷却風の送風による冷却処理においては、冷却風速は0.5〜3.0m/秒であることが好ましく、より好ましくは0.6〜2.0m/秒である。なお、前記の冷却風速とは、送風冷却装置内の送風面における冷却風の平均送風速度をいう。また、前記冷却風の温度は、温度は低い方が好ましいが経済性を考慮すると、通常5〜30℃の範囲である。
【0025】
このような冷却工程を採用することにより、ノズル面から紡糸した後の未延伸糸の冷却がより効率的に行われ、該未延伸糸をすばやく安定して冷却することができる。その結果として、続いて行われる延伸処理工程での糸切れの発生がより少なく、安定生産が可能で、かつ繊度斑の少ない低繊度のポリオレフィン系繊維を得ることができる。
【0026】
本発明においては、このようにして冷却された未延伸糸に、連続して延伸処理工程が施される。延伸処理は、温水、乾熱、蒸気、高圧蒸気などによって、ポリオレフィン系樹脂が溶融しない温度で行われるが、特に低伸度、高強度の延伸繊維が得られる点から、加圧飽和水蒸気により直接加熱して延伸処理する方法が好適である。
【0027】
前記加圧飽和水蒸気により直接加熱して行う延伸処理は、二段以上に分けて行ってもよいし、この加圧飽和水蒸気により直接加熱して行う延伸処理に先立ち、未延伸マルチフィラメントを予備延伸処理することもできる。
【0028】
予備延伸処理工程:
この予備延伸処理工程は、所望により設けられる工程であって、続いて行われる本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で未延伸糸の延伸処理を行うのが好ましい。この予備延伸処理方法としては、例えば一般的に知られている金属加熱ロールや金属加熱板などを用いた接触加熱延伸、あるいは温水、常圧〜0.2MPa程度の水蒸気や熱風などの加熱流体、遠赤外線などの熱線を用いた非接触加熱延伸などの方法を適用することができる。さらに、本延伸工程で使用する高圧蒸気延伸槽と同じシステムにより、本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で予備延伸処理することも可能である。
【0029】
また、予備延伸工程における延伸倍率としては、全延伸倍率の25〜80%の範囲が適しており、予備延伸装置のシステム、延伸状態などによって、延伸条件を適宜選択すればよい。特に、予備延伸処理を1段で行ったのち、本延伸処理を行う場合、予備延伸倍率は、全延伸倍率の25〜60%の範囲が好ましく、さらに35〜55%の範囲が好ましい。また、該予備延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段階で行なってもよく、多段階で行う場合には、延伸温度を一定とし、予備延伸倍率を多段階にする方法や、延伸温度に勾配を与えながら、延伸倍率を多段階にする方法を用いることができる。
【0030】
本延伸工程:
この本延伸工程は、未延伸糸または予備延伸処理物(以下、被本延伸処理物と称す。)を、加圧飽和水蒸気により直接加熱して、本延伸処理する工程である。
ここで、本延伸処理するには、例えば下記の装置を用い、被本延伸処理物を延伸処理する方法を採用することができる。
【0031】
すなわち、延伸装置として、被本延伸処理物を導入するための被本延伸処理物導入孔と本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ絶対圧が好ましくは0.2MPa以上の加圧飽和水蒸気を充填した延伸槽が用いられる。この延伸槽においては、被本延伸処理物導入孔および本延伸処理物引き出し孔には、それぞれ延伸槽内の加圧水蒸気が洩出するのを防止するために、加圧水を利用した漏出防止機構が設けられている。
【0032】
まず、被本延伸処理物を、被本延伸処理物導入孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導き、該被本延伸処理物の表面に水分を付着させたのち、これを被本延伸処理物導入孔から延伸槽内に導き、本延伸処理する。この際、被本延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.05秒以上とするのが有利である。
【0033】
本延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段で行ってもよい。
本延伸処理物は、本延伸処理物引き出し孔から引き出されて、該引き出し孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導かれ、速やかに冷却される。この際、本延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.05秒以上とするのが有利である。
【0034】
上記本延伸処理には、通常絶対圧0.2MPa以上の加圧飽和水蒸気(温度約120℃以上)が用いられる。この加圧飽和水蒸気の絶対圧が0.2MPa未満では、延伸温度が約120℃未満と低いので、高倍率延伸および高速延伸を行うことが困難となり、実用的でない。また、加圧飽和水蒸気の圧は、ポリオレフィン系樹脂が軟化しない範囲であれば、高い方が基本的には好ましいが、あまり高すぎると延伸装置の設備費が高くつき、経済的に不利となる。延伸倍率、延伸速度および経済性などを考慮すると、単一型延伸繊維を得る場合、この加圧飽和水蒸気の好ましい絶対圧は0.3MPa(温度133℃)〜0.5MPa(温度155℃)の範囲であり、特に140〜152℃の温度になるような加圧飽和水蒸気が好適である。
【0035】
また、2成分複合型延伸繊維を得る場合、加圧飽和水蒸気の好ましい絶対圧は0.2MPa(温度120℃)〜0.45MPa(温度150℃)の範囲であり、特に123〜145℃の温度になるような加圧飽和水蒸気が好適である。
【0036】
前記本延伸処理に用いられる延伸装置の具体例としては、以下に示す構造のものを挙げることができる。
すなわち、被本延伸処理物を導入するための被本延伸処理物導入孔と本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ延伸媒体として加圧飽和水蒸気が充填されている延伸槽部と、当該延伸槽部における上記被本延伸処理物導入孔側に密接配置されている第1の加圧水槽部と、前記の延伸槽部における本延伸処理物引き出し孔側に密接配置されている第2の加圧水槽部と、前記第1の加圧水槽部の外側から当該第1の加圧水槽部内、前記の被本延伸処理物導入孔、前記の延伸槽部内、前記の本延伸処理物引き出し孔および前記第2の加圧水槽部内を経由して前記第2の加圧水槽の外へ本延伸処理物を導くことができるように前記第1の加圧水槽部および前記第2の加圧水槽部それぞれに形成されている透孔と、前記第1の加圧水槽部内に被本延伸処理物を送り込むための被本延伸処理物送出機構と、この送出機構による被本延伸処理物の送り込み速度よりも高速で前記第2の加圧水槽部から本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し機構とを有している延伸装置が挙げられる。
【0037】
上記の延伸槽部は、所望の絶対圧(好ましくは、0.2MPa以上)を有する加圧飽和水蒸気を延伸媒体として使用し得るだけの気密性および強度を有し、かつ、所望の大きさ(長さ)を確保できるものであればよい。
【0038】
また、上記第1の加圧水槽部は、延伸槽部に形成されている被本延伸処理物導入孔から加圧飽和水蒸気が延伸槽部の外に漏出するのを防止するためのものであると同時に、被本延伸処理物を加圧水中に導いて当該被本延伸処理物の表面に水分を付着させるためのものであり、当該第1の加圧水槽部には延伸槽部内の加圧飽和水蒸気と同等乃至は僅かに高い絶対圧を有する加圧水が貯留される。一方、上記第2の加圧水槽部は、前記の本延伸処理物引き出し孔から加圧飽和水蒸気が延伸槽部の外に漏出するのを防止するためのものであると同時に、本延伸処理物引き出し孔から引き出された本延伸処理物を加圧水中に導いて冷却するためのものであり、当該第2の加圧水槽部内にも延伸槽部内の加圧飽和水蒸気と同等乃至は僅かに高い絶対圧を有する加圧水が貯留される。これら第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部は、それぞれ延伸槽部の外側に配置されている。
【0039】
延伸槽部,第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部は、それぞれ別個に形成されたものをこれらが所定の関係となるように密接配置したものであってもよいし、単一の容器または筒体を所定間隔で仕切ることによって形成されたものであってもよい。また、延伸槽部と第1の加圧水槽部とは、これらの間の隔壁を共有するものであってもよい。同様に、延伸槽部と第2の加圧水槽部とは、これらの間の隔壁を共有するものであってもよい。
【0040】
被本延伸処理物は、第1の加圧水槽部の外側から当該第1の加圧水槽部内を経由して上記の被本延伸処理物導入孔から延伸槽部内に入る。したがって、第1の加圧水槽部の容器壁の所望箇所には、被本延伸処理物を第1の加圧水槽部内に引き込むための透孔(以下「透孔A」という。)および被本延伸処理物を第1の加圧水槽部から引き出すための透孔(以下「透孔B」という。)が設けられている。
【0041】
同様に、延伸槽部内に送り込まれた被本延伸処理物が延伸されたことによって生じた本延伸処理物は、延伸槽部に設けられている上記の本延伸処理物引き出し孔から第2の加圧水槽部内を経由して当該第2の加圧水槽部の外へ引き出されなければならないので、第2の加圧水槽部の容器壁の所望箇所には、前記の本延伸処理物を延伸槽部内から第2の加圧水槽部内に引き込むための透孔(以下「透孔C」という。)および前記の本延伸処理物を第2の加圧水槽部内から引き出すための透孔(以下「透孔D」という。)が設けられている。
【0042】
上記の被本延伸処理物導入孔、本延伸処理物引き出し孔、透孔A、B、C、D、特に透孔B、Cは、これらの孔を被本延伸処理物または本延伸処理物が通過する際に当該被本延伸処理物または本延伸処理物と容器壁との接触が起こらないように形成されていると共に配置されていることが好ましく、また、これらの孔から延伸槽部内の加圧飽和水蒸気ができるだけ噴出しないように設計されていることが好ましい。
【0043】
上記の延伸装置を構成している被本延伸処理物送出機構は、被本延伸処理物を第1の加圧水槽部内へ一定の速度で送り込むためのものであり、この送出機構は第1の加圧水槽部の外側に設けられている。また、本延伸処理物引き出し機構は、第2の加圧水槽部を経由してきた本延伸処理物を被本延伸処理物送出機構による被本延伸処理物の送り込み速度より高速で第2の加圧水槽部から一定の速度の下に引き出すためのものであり、これによって、主として延伸槽部内で被本延伸処理物が延伸される。当該本延伸処理物引き出し機構は第2の加圧水槽部の外側に設けられている。
【0044】
被本延伸処理物送出機構による被本延伸処理物の送り込み速度と本延伸処理物引き出し機構による本延伸処理物の引き出し速度とは、所望の生産速度の下に所定の延伸倍率の本延伸処理物が得られるように適宜選択される。被本延伸処理物送出機構および本延伸処理物引き出し機構としては、従来延伸処理に使用されている各種のローラを用いることができる。
【0045】
なお、上述した延伸装置を構成している第1の加圧水槽部に形成されている前記の透孔Aから当該第1の加圧水槽部内の加圧水が漏出することを抑制するうえからは、透孔Aを水没させることによって当該透孔Aからの漏水を緩和させる緩衝水槽部を第1の加圧水槽部の外側に設けることが好ましい。同様に、第2の加圧水槽部に形成されている前記の透孔Dから当該第2の加圧水槽部内の加圧水が漏出することを抑制するうえからは、透孔Dを水没させることによって当該透孔Dからの漏水を緩和させる緩衝水槽部を第2の加圧水槽部の外側に設けることが好ましい。
【0046】
本発明の方法においては、単一型延伸繊維の製造において、ポリオレフィン系樹脂として、前述のポリプロピレン系樹脂からなる繊維を用いた場合、本延伸処理を120〜155℃の温度において、延伸倍率が予備延伸を含め2〜7倍になるように行うことが望ましい。なお、後述の後延伸処理を行う場合には、この延伸倍率は、上記範囲より低くなる。延伸速度は、一般に50〜2000m/分程度である。
【0047】
後延伸工程:
この後延伸工程は、所望により設けられる工程であって、前記本延伸処理物を、加圧水蒸気により直接加熱して、後延伸処理する工程である。この後延伸処理における装置としては、前述の本延伸処理に用いる装置と同じ構造の装置を使用することができる。また、この後延伸処理における好ましい延伸倍率は1.5〜2.5倍の範囲である。
【0048】
また、後延伸処理における延伸温度は、本延伸処理における延伸温度よりも5℃以上高いことが好ましく、単一型延伸繊維の場合には、特に150〜170℃の範囲が好ましい。さらに、この後延伸処理は、1段階または2段以上の多段階で行うことができる。
【0049】
本発明においては、前述の所望により設けられた予備延伸槽、本延伸槽および所望により設けられる後延伸槽は、紡糸装置および前記冷却装置と直列に連結されるように配置され、インライン方式により、紡糸−冷却−延伸処理が行われる。
このようにして、低繊度で、かつ繊度斑の少ないポリオレフィン系繊維を、生産性よく、安定して製造することができる。
【0050】
図1は、本発明のポリオレフィン系繊維を製造する方法の1例を示す工程概略図である。
【0051】
本発明の方法は、紡糸工程、冷却工程及び延伸処理工程が、順次連続して行われるインライン方式であって、まず原料のポリオレフィン系樹脂は、紡糸工程において紡糸されたのち、排気冷却工程および送風冷却工程において、順次排気による冷却処理と冷却風の送風による冷却処理が施される。
【0052】
このようにして冷却処理された未延伸糸は、所望により予備延伸工程にて予備延伸処理されたのち、本延伸工程にて本延伸処理され、次いで、所望により後延伸工程にて後延伸処理されることにより、低繊度のポリオレフィン系延伸繊維が得られる。
【0053】
本発明はまた、前述の製造方法で得られたポリオレフィン系繊維および該ポリオレフィン系繊維を加工してなる繊維加工品をも提供する。
本発明のポリオレフィン系繊維は、単糸繊度が、通常0.1〜3dTex程度、好ましくは0.2〜2.0dTexである。また、繊維形態としては、単一型延伸繊維であってもよく、2成分複合型延伸繊維であってもよいが、繊維物性の点から、鞘芯型の2成分複合型延伸繊維が好ましい。
【0054】
また、引張り強度は、通常4.0〜20cN/dTex程度、好ましくは5.0〜15.0cN/dTex、伸度は、通常10〜40%程度、好ましくは15〜30%、ヤング率は、通常40〜120cN/dTex程度、好ましくは50〜100cN/dTexである。
【0055】
さらに、本発明のポリオレフィン系繊維は、繊度斑が少なく、例えば鞘芯型の複合延伸繊維の場合、長さ5mmに加工した短繊維を用い、厚み0.03mm、目付け10g/mの条件で作製した不織布に、ハロゲンタングステンランプを照射した際の吸光度の標準偏差値が、通常50〜80である。
【0056】
本発明のポリオレフィン系繊維には、所望により、機能性付与剤を含有させることができる。
機能性付与剤としては、例えば、難燃剤、耐光剤、耐熱安定剤、着色剤、親水剤、消臭剤、抗菌剤、芳香剤、蛍光剤、蓄光剤、帯電剤、防曇剤などが挙げられる。
【0057】
難燃剤および/または耐光剤としては、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤および/またはヒンダードフェノール系耐光剤などが挙げられるが、環境を考慮するとハロゲンフリーのものが好ましく、特に高分子量ヒンダードアミン誘導体を含むものが好ましい。前記の高分子量ヒンダードアミン誘導体においては、アルキル基の炭素数が1〜20のアルコキシイミノ基を有するものが特に好ましい。また、耐熱安定剤としては、燐系耐熱安定剤、硫黄系耐熱安定剤などが挙げられる。
なお、第一成分と第二成分からなる2成分複合型延伸繊維の場合、機能性付与剤は、第一成分、第二成分の一方または両方に添加することができる。
【0058】
本発明の繊維加工品としては、例えば不織布などを好ましく挙げることができる。該繊維加工品の用途としては、バッテリセパレーター、ワイパー、フィルターなどの産業資材分野や、おむつ、ナプキンなどの衛生材料分野などを例示することができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)ポリオレフィン系樹脂のMFR
JIS K 7210に準じて、荷重を21.18N、温度をポリエチレンは190℃、ポリプロピレンは230℃として測定した。
(2)未延伸糸および延伸繊維の単糸繊度(dTex)
JIS L 1013の重量法により測定した。
(3)延伸繊維の引張り強度、ヤング率、伸度
JIS L 1013により、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/分の定速伸長形条件で引張破断試験を行って測定した。
【0060】
(4)不織布の性状
(イ)目付
試料を面積寸法で100×100mmに裁断して、その質量(Wg)を測定し、以下の式より目付を求めた。
【0061】
目付w(g/m)=W/(0.1×0.1)
【0062】
(ロ)厚み
ダイヤルゲージを用いて見掛け厚みt(mm)を測定した。また、次式により嵩高さv(cm/g)を測定した。
【0063】
v(cm/g)=(100×100×t/w)÷10
【0064】
(5)吸光度の標準偏差値
「フォーメーションテスターFMT−2000」(野村商事(株)製)を用いて、不織布の吸光度の標準偏差値を測定した。
上記測定装置は、二次元CCDカメラ(ソニー社製、「XC−77型 2/3”」)を用いた画像解析型の地合計で、測定サンプルを試料台となる拡散板上に設置後、下から光(ハロゲンタングステンランプ、12V、75W)を照射して該CCDカメラでその透過像を捕らえて、画素(測定画素数:62,208、256×243)に分解し、各画素の光の強さを測定することで、その結果から吸光度の標準偏差値を算出する。
【0065】
実施例1
(1)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
鞘材として、高密度ポリエチレン[MFR=44g/10分、Q値=5.2]を、芯材としてホモポリプロピレン[MFR=19g/10分、Q値=3.1]を用い、一軸押出機2台と、径0.3mmのホール500個がノズル中心から径100mmの円外に有する複合型繊維用ノズルとを備えた複合紡糸装置により、シリンダー温度255℃、ノズル温度250℃にて、G1速度200m/分の条件で紡糸し、次いで、ノズル面から30mmの位置に設置した排気冷却装置で、0.1m/sの条件で排気冷却し、引き続いて設置した送風冷却装置で、温度が15℃、冷却風速1.0m/sの条件で冷却を行い、鞘材と芯材との断面積比が50:50、単糸繊度が1.27dTexの未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
【0066】
(2)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、123℃の加圧飽和水蒸気でG2速度800m/分、延伸倍率4.0倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が0.31dTex、引張り強度が6.4cN/dTex、伸度が21%、ヤング率が65cN/dTexであった。
【0067】
(3)湿式法による不織布の作製
上記(2)で得られた複合繊維を5.0mmにカットして、0.5gを界面活性剤を加えた水10000g中に均一に分散させ、寸法250×200mmのメッシュ上に抄紙して、湿ったウエブを作製した。該ウエブを2枚の加熱板(ゴム製)間に挟持し、温度140℃で10分間、19.6N/mの荷重でプレスして乾燥するとともに、複合繊維の鞘部を溶融させて、ウエブ構成繊維間を接合し、不織布を作製した。
得られた不織布の厚みを調整するために、試料を表面温度120℃に設定した上ロール(シリコンゴム表面)と下ロール(スチール表面)との間を加圧下で5m/分の速度で通過させた。得られた不織布は、目付が10g/m、厚みが0.03mm、嵩高さが3cm/g、吸光度の標準偏差が80であった。
【0068】
実施例2
(1)ポリプロピレン単一型未延伸マルチフィラメントの作製
ホモポリプロピレン[MFR=19g/10分、Q値=3.1]を用い、ホール径が0.3mmで、ホール数が500の紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置により、シリンダー温度255℃、ノズル温度250℃にて、G1速度200m/分の条件で紡糸し、次いで、ノズル面から15mmの位置に設置した排気冷却装置で、0.07m/sの条件で排気冷却し、引き続いて設置した送風冷却装置で、温度が17℃、冷却風速0.8m/sの条件で冷却を行い、単糸繊度が1.27dTexの未延伸マルチフィラメントを作製した。
【0069】
(2)延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、150℃の加圧飽和水蒸気でG2速度1100m/分、延伸倍率5.5倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が0.24dTex、引張り強度が9.5cN/dTex、伸度が17%、ヤング率が83cN/dTexであった。
【0070】
実施例3
(1)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
実施例1(1)において、ノズル面からの排気冷却装置の位置を10mmに変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
(2)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、123℃の加圧飽和水蒸気でG2速度780m/分、延伸倍率3.9倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が0.33dTex、引張り強度が6.2cN/dTex、伸度が23%、ヤング率が61cN/dTexであった。
【0071】
実施例4
(1)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
実施例1(1)において、ノズル面からの排気冷却装置の位置を50mmに変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
(2)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、123℃の加圧飽和水蒸気でG2速度820m/分、延伸倍率4.1倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が0.30dTex、引張り強度が6.3cN/dTex、伸度が25%、ヤング率が59cN/dTexであった。
【0072】
実施例5
(1)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
実施例1(1)において、排気量を0.05m/s、冷却風速を0.7m/s、G1速度を250m/minに変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、単糸繊度が0.8dTexの未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
(2)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、123℃の加圧飽和水蒸気でG2速度875m/分、延伸倍率3.5倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が0.23dTex、引張り強度が5.7cN/dTex、伸度が22%、ヤング率が55cN/dTexであった。
【0073】
実施例6
(1)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
実施例1(1)において、排気量を0.3m/s、冷却風速を2.0m/s、に変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、単糸繊度が20dTexの未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
(2)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、123℃の加圧飽和水蒸気でG2速度1600m/分、延伸倍率8.0倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が2.5dTex、引張り強度が5.8cN/dTex、伸度が25%、ヤング率が53cN/dTexであった。
【0074】
実施例7
(1)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
実施例1(1)において、排気量を0.15m/s、冷却風速を1.5m/s、に変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、単糸繊度が10dTexの未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
(2)ポリエチレン/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、123℃の加圧飽和水蒸気でG2速度1200m/分、延伸倍率6.0倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が1.7dTex、引張り強度が6.0cN/dTex、伸度が22%、ヤング率が55cN/dTexであった。
【0075】
実施例8
(1)エチレンプロピレン共重合体ランダムコポリマー/ポリプロピレンの鞘芯型未延伸マルチフィラメントの作製
鞘材として、ランダムコポリマー[MFR=24g/10分、Q値=2.6]を、芯材としてホモポリプロピレン[MFR=19g/10分、Q値=3.1]を用い、一軸押出機2台と、径0.3mmのホール500個がノズル中心から径100mmの円外に有する複合型繊維用ノズルとを備えた複合紡糸装置により、シリンダー温度260℃、ノズル温度250℃にて、G1速度200m/分の条件で紡糸し、次いで、ノズル面から30mmの位置に設置した排気冷却装置で、0.1m/sの条件で排気冷却し、引き続いて設置した送風冷却装置で、温度が15℃、冷却風速1.0m/sの条件で冷却を行い、鞘材と芯材との断面積比が50:50、単糸繊度が1.27dTexの未延伸複合マルチフィラメントを作製した。
【0076】
(2)エチレンプロピレン共重合体ランダムコポリマー/ポリプロピレンの鞘芯型延伸マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、延伸槽が直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理した。
まず、上記(1)で得た未延伸複合マルチフィラメントを、延伸槽にて、135℃の加圧飽和水蒸気でG2速度800m/分、延伸倍率4.0倍の条件にて延伸処理を行い、鞘芯型延伸マルチフィラメントを作製した。
以上の工程で24時間連続生産を行ったが、糸切れなどのトラブルの発生は1回も発生しなかった。また、得られたマルチフィラメントは、繊度が0.31dTex、引張り強度が6.2cN/dTex、伸度が20%、ヤング率が66cN/dTexであった。
【0077】
(3)湿式法による不織布の作製
上記(2)で得られた複合繊維を5.0mmにカットして、0.5gを界面活性剤を加えた水10000g中に均一に分散させ、寸法250×200mmのメッシュ上に抄紙して、湿ったウエブを作製した。該ウエブを2枚の加熱板(ゴム製)間に挟持し、温度140℃で10分間、19.6N/mの荷重でプレスして乾燥するとともに、複合繊維の鞘部を溶融させて、ウエブ構成繊維間を接合し、不織布を作製した。
得られた不織布の厚みを調整するために、試料を表面温度120℃に設定した上ロール(シリコンゴム表面)と下ロール(スチール表面)との間を加圧下で5m/分の速度で通過させた。得られた不織布は、目付が10g/m、厚みが0.03mm、嵩高さが3cm/g、吸光度の標準偏差が80であった。
【0078】
比較例1
実施例1(1)において、排気冷却を行わずに送風冷却のみを行った以外は、実施例1と同様に実施したところ、紡糸開始2時間後から紡糸切れが発生した。
【0079】
比較例2
実施例1(1)において、送風冷却を行わずに排気冷却のみを行った以外は、実施例1と同様に実施したところ、未延伸糸の繊度斑が大きいために、安定した延伸処理ができなかった。
【0080】
比較例3
実施例1(1)において、冷却工程を送風冷却、次いで排気冷却の順に行った以外は、実施例1と同様に実施したところ、紡糸開始2時間後から紡糸切れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリオレフィン系繊維の製造方法は、低繊度(0.1〜3.0dTex程度)で、かつ繊度斑の少ないポリオレフィン系繊維を、インライン方式で生産性よく、安定して製造することができる。この方法で得られたポリオレフィン系繊維は、例えばバッテリセパレーター、ワイパー、フィルターなどの産業資材分野や、おむつ、ナプキンなどの衛生材料分野などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のポリオレフィン系繊維を製造する方法の1例を示す工程概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸および延伸処理を連続して行うインライン方式のポリオレフィン系繊維の製造方法であって、紡糸工程後、直ちに排気による冷却処理と冷却風の送風による冷却処理を順次連続して行う冷却工程を含むことを特徴とするポリオレフィン系繊維の製造方法。
【請求項2】
排気による冷却処理において、排気量が、0.03〜0.5m/秒である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷却風の送風による冷却処理において、冷却風速が、0.5〜3.0m/秒である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
繊維紡糸のノズル面から10〜100mm離れた位置に設置されてなる排気冷却装置により、排気による冷却処理を行う請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とするポリオレフィン系繊維。
【請求項6】
単糸繊度が、0.1〜3dTexである請求項5に記載のポリオレフィン系繊維。
【請求項7】
鞘芯型の複合繊維である請求項5または6に記載のポリオレフィン系繊維。
【請求項8】
長さ5mmに加工した短繊維を用い、厚み0.03mm、目付け10g/mの条件で作製した不織布に、ハロゲンタングステンランプを照射した際の吸光度の標準偏差値が50〜80である請求項7に記載のポリオレフィン系繊維。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項に記載のポリオレフィン系繊維を加工してなる繊維加工品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−152482(P2006−152482A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343970(P2004−343970)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】