説明

ポリクロロプレンラテックス及びその製造方法

【課題】ロジン酸又はそのアルカリ金属塩や鉱物油含有消泡剤を用いても、泡立ち抑制、凝集成膜性及び接着性能といったポリクロロプレンラテックス本来の品質を損ねることなく、油浮きを解消することができるポリクロロプレンラテックス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ロジン酸又はそのアルカリ金属塩を乳化剤に使用してクロロプレン又はクロロプレンを含む2種以上の単量体を乳化重合した後、重合液に鉱油含有消泡剤と共に下記化学式(A)で表されるノニオン性界面活性剤を添加して脱モノマーして、ポリクロロプレンラテックスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリクロロプレンラテックス及びその製造方法に関する。より詳しくは、水系接着剤や医用手袋等の浸漬成形品に利用されるポリクロロプレンラテックスの品質改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリクロロプレンラテックスの製造工程では、脱モノマー工程や濃縮工程での泡立ちを抑えるため、鉱物油を含む消泡剤が使用されることがある。しかしながら、このような消泡剤を使用したポリクロロプレンラテックスは、水で希釈した時に、鉱物油が液面に浮上してくる「油浮き」と呼ばれる現象を起こすことがある。そして、この「油浮き」は、ポリクロロプレンラテックスを使用して浸漬成形品や接着剤を製造する上で、タンクや配管の汚れ、河川の汚染などの問題を生じる。
【0003】
一方、従来、油浮きの発生が少なくするための改良を加えた消泡剤も提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。例えば、特許文献1に記載の消泡剤組成物では、シリコーンオイル及び鉱物油と水との馴染みをよくする相溶化剤として、10以上の側鎖を有する炭素数10以下のアルコール又はそのアルキレンオキサイド3モル以内の付加物を添加している。また、特許文献2に記載の消泡剤では、多価アルコール、ポリカルボン酸又はオキシカルボン酸を反応させて得た特定構造の化合物を配合することにより、油浮きの低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−174201号公報
【特許文献2】特開平9−117607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載されているような従来の消泡剤は、適用できないポリマーラテックスもあり、鉱物油含有消泡剤自体が安定に乳化されたエマルジョンであっても、添加した後に油浮きが発生する場合がある。例えば、ポリクロロプレンラテックスの場合、他のポリマーラテックスとは異なり、長期間にわたって貯蔵すると、徐々に脱塩酸反応が起こってpHが変化するため、ラテックスの乳化安定性が変化して、油浮きを引き起こしやすい。
【0006】
特に、ロジン酸アルカリ金属塩を乳化剤に使用して製造されたポリクロロプレンラテックスは、他の種類の乳化剤を使用した場合よりも、脱モノマー工程や濃縮工程で泡立ちが起こりやすいため、消泡剤の使用量も多くなり、その結果、油浮きが起こりやすい傾向がある。また、特許文献1,2に記載されているような消泡剤を使用した場合、消泡作用に関与しない成分が、医用手袋等の浸漬成形品用途において、凝固剤が付着した型をラテックスに浸した時の凝集成膜性を低下させたり、接着剤用途において、接着力の低下を引き起こしたりする可能性もある。
【0007】
そこで、本発明は、ロジン酸又はそのアルカリ金属塩や鉱物油含有消泡剤を用いても、泡立ち抑制、凝集成膜性及び接着性能といったポリクロロプレンラテックス本来の品質を損ねることなく、油浮きを解消することができるポリクロロプレンラテックス及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、(A)クロロプレン重合体、(B)ロジン酸又はそのアルカリ金属塩、及び(C)鉱物油含有消泡剤と共に、(D)特定の構造のノニオン性界面活性剤を含有させることによって、泡立ち抑制、凝集成膜性及び接着性能といったポリクロロプレンラテックスの本来の品質を損ねることなく、油浮きを抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明に係るポリクロロプレンラテックスは、クロロプレン重合体と、ロジン酸又はそのアルカリ金属塩と、鉱物油含有消泡剤と、下記化学式(1)で表されるノニオン性界面活性剤と、を含有するものである。なお、下記化学式(1)におけるRは炭素数10〜15のアルキル基を表す。また、nはエチレンオキサイド単位の付加数で7〜12の整数を、mはプロピレンオキサイドの付加数で0〜4の整数をそれぞれ表す。
【0010】
【化1】

【0011】
本発明においては、ロジン酸又はそのアルカリ金属塩や鉱物油含有消泡剤と共に、特定構造のノニオン性界面活性剤が添加されているため、この界面活性剤により消泡剤に含まれる鉱物油が乳化分散される。これにより、クロロプレンラテックスを長期間保存した場合でも、油浮きが発生しにくくなる。
【0012】
このポリクロロプレンラテックスでは、ノニオン性界面活性剤として、下記化学式(2)で表される化合物を使用することができる。なお、下記化学式(2)におけるRは炭素数10〜15のアルキル基を表し、nはエチレンオキサイド単位の付加数で7〜12の整数を表す。
【0013】
【化2】

【0014】
また、鉱物油含有消泡剤は、シリカ含有シリコーン系消泡剤であってもよい。
更に、クロロプレン重合体100質量部に対して、鉱物油含有消泡剤の含有量を0.03〜0.2質量部とし、ノニオン性界面活性剤の含有量を0.5〜1.5質量部とすることもできる。
【0015】
本発明に係るポリクロロプレンラテックスの製造方法は、ロジン酸又はそのアルカリ金属塩を乳化剤に使用して、クロロプレン又はクロロプレンを含む2種以上の単量体を乳化重合する重合工程と、この重合工程により得られた重合液に、鉱油含有消泡剤及び上記化学式(1)で表されるノニオン性界面活性剤を添加した後、脱モノマーを行う脱モノマー工程と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の構造のノニオン性界面活性剤が添加されているため、乳化剤にロジン酸又はそのアルカリ金属塩を、消泡剤に鉱物油含有消泡剤を使用した場合でも、泡立ち抑制、凝集成膜性及び接着性能を低下させることなく、油浮きの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施形態に係るポリクロロプレンラテックスには、(A)クロロプレン重合体と、(B)ロジン酸又はそのアルカリ金属塩と、(C)鉱物油含有消泡剤と、(D)下記化学式(3)で表されるノニオン性界面活性剤とが含まれている。ここで、「ポリクロロプレンラテックス」とは、クロロプレン重合体を、乳化剤を介して水中に乳化させたラテックス(エマルジョン)のことである。
【0019】
【化3】

【0020】
なお、上記化学式(3)におけるRは炭素数10〜15のアルキル基であり、nはエチレンオキサイド単位の付加数で7〜12の整数であり、mはプロピレンオキサイドの付加数で0〜4の整数である。
【0021】
[(A)クロロプレン重合体]
クロロプレン重合体とは、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンと記す。)の単独重合体、又は、クロロプレンと他の単量体との共重合体である。ここで、クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、硫黄、メタクリル酸及びそのエステル類、アクリル酸及びそのエステル類が挙げられる。なお、クロロプレンと共重合する単量体は、1種類に限定されるものではなく、例えばクロロプレンを含む3種以上の単量体を共重合したものでもよい。また、クロロプレン重合体のポリマー構造も、特に限定されるものではない。
【0022】
[(B)ロジン酸又はそのアルカリ金属塩]
ロジン酸は、松の樹液から抽出して精製した天然物質で、樹脂酸及び脂肪酸などの混合物である。例えば、樹脂酸としては、アビエチン酸、ネオアビエンチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロイソピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸及びジヒドロアビエチン酸などが含まれている。また、脂肪酸としては、オレイン酸及びリノール酸などが含まれている。
【0023】
これらの成分組成は、ガムロジン、ウッドロジン及びトールロジンに分類されるロジン採取方法の違い、松の産地や樹種、蒸留精製、不均化(不均斉化)反応によって変化する。そして、本実施形態のポリクロロプレンラテックスにおいては、ロジン酸の成分組成は、特に限定されるものではない。
【0024】
このロジン酸又はそのアルカリ金属塩は、重合工程において乳化剤として添加されたものに由来し、ラテックス中(水中)ではイオンの状態で存在している。例えば、下記化学式(4)に示すアビエチン酸の場合は、そのナトリウム塩又はカリウム塩にして水に溶解させるが、ラテックス中では、下記化学式(5)に示される陰イオンの状態で存在する。
【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
[(C)鉱物油含有消泡剤]
本実施形態のポリクロロプレンラテックスに含有される消泡剤は、鉱物油を含むものであり、例えば、鉱物油に、アミド化合物、疎水性シリカ、脂肪酸エステル又は植物油等を配合した動植物鉱物油系消泡剤、ジメチルシロキサンを変性したり又は微粉末シリカを特殊処理したりしたシリコーン系消泡剤が挙げられる。
【0028】
この鉱物油とは、石油、頁岩及び石炭等から誘導される炭化水素油を意味し、例えばミネラルスピリット、スピンドル油、白灯油及び軽油等が挙げられる。各種鉱物油含有消泡剤の中でも、特に、抑泡の持続性が優れている微粉末シリカを含有したシリコーン系消泡剤が好ましい。
【0029】
また、ポリクロロプレンラテックス中の鉱物油含有消泡剤量は、クロロプレン重合体100質量部に対して0.03〜0.2質量部であることが好ましい。鉱物油含有消泡剤含有量が、クロロプレン重合体100質量部あたり0.03質量部未満の場合、本来の添加目的である発泡防止効果が得られないことがあり、また、0.2質量部よりも多いと、油浮きが改良できないことがある。
【0030】
[(D)ノニオン性界面活性剤]
本実施形態のポリクロロプレンラテックスに含有されるノニオン性界面活性剤は、上記化学式(3)で表される構造の化合物であり、消泡剤に含まれる鉱物油を、ラテックス中に安定に乳化分散させて、液面に浮上させないようにする効果がある。ただし、界面活性剤として、上記化学式(3)におけるRの炭素数が10以下の化合物を添加すると、十分な油浮きの解消効果が得られない。また、Rの炭素数が15を超える化合物では、水に溶けにくくなり、希釈水溶液を調製してから添加しなければならず、生産性が低下する。
【0031】
更に、上記化学式(3)におけるエチレンオキサイドの付加数nが7〜12の範囲の化合物は、少量の添加で、効率よく、油浮きを削減することが可能である。更にまた、ノニオン性界面活性剤のHLB値は12〜16であることが好ましく、より好ましくは13〜15である。ここで、HLB値とは、界面活性剤の親水性又は親油性の度合いを示す指標であり、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。そして、このHLB値は、例えば、下記数式1に示すグリフィンの式を用いて算出することができる。
【0032】
【数1】

【0033】
本実施形態のポリクロロプレンラテックスに含有されるノニオン性界面活性剤としては、上記化学式(3)におけるmが0のもの、即ち、下記化学式(6)で表される化合物を使用することが好ましい。なお、下記化学式(6)におけるRは炭素数10〜15のアルキル基であり、nはエチレンオキサイド単位の付加数で7〜12の整数である。この化学式(6)で表される化合物を使用することにより、接着性能を損ねることなく、油浮きを解消することができる。
【0034】
【化6】

【0035】
一方、ポリクロロプレンラテックス中のノニオン性界面活性剤量は、クロロプレン重合体100質量部に対して0.5〜1.5質量部であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤含有量が、クロロプレン重合体100質量部あたり0.5質量部未満の場合、油浮きが改良できないことがあり、また、1.5質量部よりも多いと、撹拌時に発泡しやすくなるからである。
【0036】
[製造方法]
次に、本実施形態のポリクロロプレンラテックスの製造方法について説明する。本実施形態のポリクロロプレンラテックスを製造する際は、先ず、乳化剤にロジン酸又はロジン酸のアルカリ金属塩を使用し、クロロプレン又はクロロプレンを含む2種以上の単量体を、水中でラジカル乳化重合する。その際、重合温度、重合開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤、重合率等を任意に選択することで、クロロプレン重合体の分子量、分子量分布、ゲル含有量、分子末端構造、結晶化速度を制御することが可能である。
【0037】
また、ロジン酸又はそのアルカリ金属塩の添加量は、初期仕込み単量体(クロロプレン及びその他の単量体を含む)の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部とすることが望ましい。ロジン酸又はそのアルカリ金属塩の添加量が0.5質量部未満の場合、単量体を十分に乳化させることが困難になることがある。また、ロジン酸又はそのアルカリ金属塩の添加量が20質量部を超えると、撹拌時に発泡しやすくなったり、接着剤や浸漬成形品などの最終製品の物性に影響が出たりする虞がある。
【0038】
乳化重合時の重合温度は、特に限定されるものではないが、重合反応を円滑に行うためには5〜50℃とすることが好ましい。また、重合開始剤は、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、第3−ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
連鎖移動剤の種類は、特に限定されるものではなく、例えばn−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルム等のように、クロロプレンの乳化重合に一般的に使用されている公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0040】
重合停止剤(重合禁止剤)も、特に限定されるものではなく、例えば2,6−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン及びヒドロキシアミン等を使用することができる。前述した重合工程により得られるクロロプレン重合体の最終重合率は、特に限定するものではなく、70〜100%の範囲内で任意に調節することができる。
【0041】
次に、重合工程により得られた重合液に、鉱油含有消泡剤及び上記化学式(3)で表されるノニオン性界面活性剤を添加して未反応単量体の除去(脱モノマー)を行う。その方法は、特に限定されるものではなく、減圧加熱等の公知の方法を適用することができる。
【0042】
その際、鉱物油含有消泡剤は、脱モノマー時の発泡を抑えるため、脱モノマー前に添加することが好ましい。これにより、少ない添加量で効率良く発泡を抑えることができる。同様に、ノニオン性界面活性剤も、脱モノマー前に添加することが好ましい。このように、ノニオン性界面活性剤を消泡剤と同時期に添加することで、鉱物油を微細に乳化分散させることができるため、油浮きを確実に改良することができる。また、このような添加方法を採用することにより、ポリクロロプレンラテックスにおける低温でのクリーミングを発生しにくくすることもできる。なお、ノニオン性界面活性剤及び鉱物油含有消泡剤を添加する順番は、油浮きや接着性能などの効果に影響することはなく、どちらを先に添加してもよく、また同時に添加することもできる。
【0043】
本実施形態のポリクロロプレンラテックスにおいては、鉱物油含有消泡剤と共に、特定構造のノニオン性界面活性剤が添加されているため、この界面活性剤により消泡剤に含まれる鉱物油を乳化分散することができる。その結果、長期間保存した場合でも、油浮きが発生しにくいポリクロロプレンラテックスを実現することが可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、鉱物油含有消泡剤の添加量、ノニオン性界面活性剤の種類及び添加量を変えてポリクロロプレンラテックスを製造し、その性能を評価した。
【0045】
<ポリクロロプレンラテックスAの製造>
先ず、内容積3リットルの反応器に、窒素気流下で、水:100質量部、不均化ロジン酸:4質量部、水酸化カリウム:1.0質量部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩:0.8部を仕込み、溶解させた。その後、撹拌しながら、クロロプレン:100質量部及びn−ドデシルメルカプタン:0.1質量部を加えた。そして、開始剤に過硫酸カリウムを使用し、窒素雰囲気下、40℃で重合を行い、重合率が90%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。
【0046】
次に、重合液に、鉱物油含有消泡剤及びノニオン性界面活性剤を添加し、減圧下で未反応の単量体を除去した後、更に減圧下で水分を蒸発させて濃縮を行い、固形分濃度が50%のポリクロロプレンラテックスAを得た。その際、鉱油含有消泡剤には、シリカシリコーン系消泡剤(サンノプコ株式会社製 ノプコ8034−L)を使用した。
【0047】
<ポリクロロプレンラテックスBの製造>
先ず、内容積3リットルの反応器に、窒素気流下で、水:100質量部、不均化ロジン酸:4質量部、水酸化ナトリウム:1.3質量部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩:0.8部を仕込み、溶解させた。その後、撹拌しながら、クロロプレン:90質量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン10質量部、及びn−ドデシルメルカプタン:0.1質量部を加えた。そして、開始剤に過硫酸カリウムを使用し、窒素雰囲気下、35℃で重合を行い、重合率が85%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。
【0048】
次に、重合液に、鉱物油含有消泡剤及びノニオン性界面活性剤を添加し、減圧下で未反応の単量体を除去した後、更に減圧下で水分を蒸発させて濃縮を行い、固形分濃度が50%のポリクロロプレンラテックスBを得た。その際、鉱油含有消泡剤には、シリカシリコーン系消泡剤(サンノプコ株式会社製 ノプコ8034−L)を使用した。
【0049】
また、ノニオン性界面活性剤には、(I)上記化学式(3)におけるR=10、n=8、m=2の化合物(第一工業製薬社製 ノイゲンXL−80)、(II)上記化学式(3)におけるR=12〜14、n=12、m=0の化合物(第一工業製薬社製 ノイゲンET−165)、(III)上記化学式(3)におけるR=10、n=4、m=2の化合物(第一工業製薬社製 ノイゲンXL−40)、(IV)上記化学式(3)におけるR=16、n=13、m=0の化合物(花王社製 エマルゲン220)、(V)上記化学式(3)におけるR=18、n=13、m=0の化合物(花王社製 エマルゲン320P)を使用した。
【0050】
前述した方法で製造した実施例1〜8及び比較例1〜12の各ポリクロロプレンラテックスの「油浮き」、「常態接着強度」、「耐水接着強度」、「ゴム凝集率」及び「耐低温クリーミング性」について、評価した。
【0051】
<固形分濃度>
以下に示す固形分濃度(%)は、アルミ皿だけの質量をA、ラテックス試料を2ml入れたアルミ皿の質量をB、ラテックス試料を入れたアルミ皿を125℃で1時間乾燥させた後の質量をCとし、下記数式2により算出した。
【0052】
【数2】

【0053】
<油浮き試験>
実施例及び比較例の各ポリクロロプレンラテックスに純水を加えて、固形分濃度を12.5質量%に希釈した。この希釈したラテックス200gを、容量200mlのビーカーに入れて、25℃の室内で1時間静置した後、液面に油浮きがあるかどうかを、目視によって確認した。そして、油浮きがほとんどなかったものを○、油浮きが発生したものを×とした。
【0054】
<常態接着強度>
実施例及び比較例の各クロロプレンラテックス100質量部(固形分換算)に対して、テルペンフェノール樹脂エマルジョン(荒川化学工業株式会社製 タマノルE−100)を固形分換算で50質量部、酸化亜鉛エマルジョン(大崎工業株式会社製 AZ−SW)を固形分換算で3質量部配合して、接着剤を調製した。
【0055】
この接着剤を、帆布(幅25mm×長さ150mm)2枚各々に、200gずつ刷毛で塗布し、70℃のギアオーブン内で6分間乾燥した後、塗布面を張り合わせてハンドローラーで圧着し、更に5日間養生して試験片を作製した。そして、各試験片について、テンシロン型引張試験機を用いて、試験温度を23℃、引張速度を50mm/minとして180°剥離強度を測定した。
【0056】
<耐水接着強度>
実施例及び比較例の各クロロプレンラテックス100質量部(固形分換算)に対して、テルペンフェノール樹脂エマルジョン(荒川化学工業株式会社製 タマノルE−100)を固形分換算で50質量部、酸化亜鉛エマルジョン(大崎工業株式会社製 AZ−SW)を固形分換算で3質量部配合して、接着剤を調製した。
【0057】
この接着剤を、帆布(幅25mm×長さ150mm)2枚各々に、200gずつ刷毛で塗布し、70℃のギアオーブン内で6分間乾燥した後、塗布面を張り合わせてハンドローラーで圧着した。そして、圧着から24時間養生した試験片を、水中に2日間浸漬した後、テンシロン型引張試験機を用いて、試験温度を23℃、引張速度を50mm/minとして180°剥離強度を測定した。
【0058】
<凝集性試験>
容量70mlのマヨネーズ瓶に、濃度0.5質量%のCa(NO・4HO水溶液50gを入れておき、そこへポリクロロプレンラテックス(固形分濃度50%)1gを滴下した。蓋を閉めて、手で瓶を振って混合した後、内容物を80メッシュ金網(目開き180μm)で濾過して、析出ゴムを分離した。そして、析出物を110℃で乾燥させて、下記数式3により、ゴム凝集率(%)を計算した。
【0059】
【数3】

【0060】
<低温クリーミング試験>
実施例及び比較例の各ポリクロロプレンラテックス(固形分濃度50%)を、ガラス試験管に入れて、0℃で5時間放置し、クリーミングが起こるかどうか確認した。その結果、クリーミングが発生したかったものを○、クリーミングが発生したものを×とした。
【0061】
以上の結果を下記表1及び表2にまとめて示す。なお、下記表1及び表2に示す鉱物油含有消泡剤及びノニオン性界面活性剤の含有量は、クロロプレン重合体100質量部に対する値である。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
上記表1及び表2に示すように、本発明の範囲内のノニオン性界面活性剤を使用した実施例1〜8のポリクロロプレンラテックスは、本発明の範囲から外れるノニオン性界面活性剤を使用した比較例1〜12のポリクロロプレンラテックスよりも、油浮きが少なく、低温クリーミングも発生しなかった。これにより、本発明のクロロプレンラテックスは、接着剤に利用した場合の接着性能や、浸漬成形品に利用した場合の凝集性に優れることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン重合体と、
ロジン酸又はそのアルカリ金属塩と、
鉱物油含有消泡剤と、
下記化学式(A)で表されるノニオン性界面活性剤と、
を含有するポリクロロプレンラテックス。

【請求項2】
ノニオン性界面活性剤が、下記化学式(B)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリクロロプレンラテックス。

【請求項3】
鉱物油含有消泡剤が、シリカ含有シリコーン系消泡剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリクロロプレンラテックス。
【請求項4】
クロロプレン重合体100質量部に対して、鉱物油含有消泡剤の含有量が0.03〜0.2質量部であり、ノニオン性界面活性剤の含有量が0.5〜1.5質量部であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス。
【請求項5】
ロジン酸又はそのアルカリ金属塩を乳化剤に使用して、クロロプレン又はクロロプレンを含む2種以上の単量体を乳化重合する重合工程と、
該重合工程により得られた重合液に、鉱油含有消泡剤及び下記化学式(A)で表されるノニオン性界面活性剤を添加して脱モノマーを行う脱モノマー工程と、
を有するポリクロロプレンラテックスの製造方法。

【公開番号】特開2012−121979(P2012−121979A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273204(P2010−273204)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】