説明

ポリグリコ−ル酸樹脂組成物

【課題】従来、脂肪族ポリエステルのカルボキシル基封止機能を利用した耐水性向上剤として知られるエポキシ化合物を、PGAの末端カルカルボキシ基と結合させず遊離の状態で保持することにより、環境から侵入する水分の捕捉剤として機能させることにより耐水性の向上したポリグリコ−ル酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】重合触媒不活性化剤を配合したポリグリコ−ル酸樹脂に対してエポキシ化合物を添加することにより、該エポキシ化合物を遊離の状態で0.01〜3.5重量%含有し、グリコリド含有量が0.25重量%以下であることを特徴とするポリグリコ−ル酸樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリコール酸樹脂を主成分とし、特にその耐加水分解性(耐水性)を改善した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
【0003】
脂肪族ポリエステルの中でも、ポリグリコール酸は、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れ、耐熱性や機械的強度にも優れているので、包装材料などの分野において、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
【0004】
しかしながら、ポリグリコール酸を含む脂肪族ポリエステルは一般に加水分解性であり、特にポリグリコール酸はその傾向が強く、その加水分解に伴い、バリア性や強度が低下するという問題がある。
【0005】
ポリグリコール酸を含む脂肪族ポリエステルの加水分解は、その末端カルボキシル基の存在により促進されることが知られている。したがって、脂肪族ポリエステルに、カルボジイミド化合物(特許文献1)あるいはエポキシ化物(特許文献2)等のカルボキシル基封止剤を配合して、脂肪族ポリエステルのカルボキシル末端基を封止して耐加水分解性(あるいは耐水性)を向上した脂肪族ポリエステル組成物(特許文献1および2)が知られている。また、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物等のカルボキシル基封止剤に加えて、熱安定剤あるいは重合触媒不活性化剤を併用添加した脂肪族ポリエステル組成物(特許文献3および4)も知られている。更には、ポリグリコ−ル酸樹脂の加水分解性が残留グリコリド量と相関することも知られている(特許文献5)。
【0006】
これらカルボキシル基封止剤のうち、特許文献2および4に開示されるようなエポキシ化合物は、一般にカルボジイミド化合物に比べて耐水性向上効果が低いため、従来、カルボジイミド化合物に比べて現実には用いられることが少なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-261797号公報
【特許文献2】WO2006/104092号公報
【特許文献3】WO2007/063941号公報
【特許文献4】特開2005−314444号公報
【特許文献5】WO2007/060981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、一般により耐水性の改善されたポリグリコ−ル酸樹脂組成物を得ることにある。
本発明のより具体的な目的は、エポキシ化合物をその耐水性向上効果が有効に発現する形態で組成物中に保持することにより、残留グリコリド量の一層の抑制を加味して、耐水性を顕著に向上したポリグリコ−ル酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリグリコ−ル酸樹脂組成物は、上記目的を達成するために開発されたものであり、重合触媒不活性化剤を配合したポリグリコ−ル酸樹脂に対してエポキシ化合物を添加することにより、該エポキシ化合物を遊離の状態で0.01〜3.5重量%含有し、グリコリド含有量が0.25重量%以下であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のポリグリコ−ル酸樹脂組成物における耐水性の向上は、エポキシ化合物の持つ従来の脂肪族ポリエステル末端カルボキシル基封止剤としての機能によるものではなく、組成物中に遊離の状態で存在して環境から組成物に侵入する水分の捕捉剤としての機能により、得られるものと解される。本発明の組成物におけるエポキシ化合物のこのような特異な機能は、後記比較例と実施例で把握される以下の現象の対比により理解可能と考えられる。(イ)重合後のポリグリコ−ル酸樹脂に直接エポキシ化合物を配合して末端カルボキシル基の封止を図った場合、遊離のエポキシ化合物は失われ(その一部は、残存触媒の存在下でポリグリコ−ル酸の末端カルボキシルとの結合によりポリグリコ−ル酸分子量を増大させていると解される)、グリコリド含有量が増大して、所望の耐水性向上効果(温度50℃/相対湿度90%の高温/高湿雰囲気中で保持した際に実用強度保持下限とみなされる重量平均分子量7万にまで低下する時間(以下、「分子量7万時間」と称することがある)の増大効果)が得られない(後記比較例4)。(ロ)重合触媒不活性化剤と同時添加した系では、エポキシ化合物が少量の場合、遊離のエポキシ化合物は失われ(後記比較例2)、またエポキシ化合物を比較的多量に添加した場合、遊離のエポキシ化合物は残存するが、グリコリド含有量が増大して(後記比較例3)、いずれの場合も、重合触媒不活性化剤のみを添加し、エポキシ化合物を添加しなかった場合(後記比較例1)と比べて、耐水性の向上は得られない。(ハ)予め重合触媒不活性化剤を配合して触媒を失活させた後に、比較的多量のエポキシ化合物を配合する場合、組成物中のエポキシ化合物残存量は増大するが、同時にグリコリド含有量が増大して、耐水性はむしろ低下傾向を示す(実施例4)(ニ)予め重合触媒不活性化剤を配合して触媒を失活させた後に、適量のエポキシ化合物を配合する場合には、組成物中の残存グリコリド量が低減され、且つ適量の遊離エポキシ化合物が存在し、所望の耐水性向上効果が得られる(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ポリグリコール酸樹脂)
本発明で使用するポリグリコール酸樹脂(以下、しばしば「PGA樹脂」という)は、−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体、すなわちポリグリコール酸(PGA、グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を70重量%以上含むグリコール酸共重合体を含むものである。
【0012】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、グリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。コモノマーとしては、上記した脂肪族ポリエステル樹脂を構成するモノマーのうちグリコール酸以外のもの、特にα−ヒドロキシカルボン酸、なかでも乳酸(あるいはそのラクチド)が好ましく用いられる。
【0013】
PGA樹脂中の上記グリコール酸繰り返し単位は70重量%以上であり、好ましくは90重量%以上である。この割合が小さ過ぎると、PGA樹脂に期待される強度あるいはフィルムとしたときのガスバリア性が乏しくなる。この限りで、PGA樹脂は、2種以上のグリコール酸(共)重合体を併用してもよい。
【0014】
PGA樹脂は、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いるGPC測定における分子量(ポリメチルメタクリレート換算のMw(重量平均分子量))が3万〜80万、特に5万〜50万、の範囲であることが好ましい。分子量が小さ過ぎると、成形物としたときの強度が不足しがちである。逆に分子量が大き過ぎると、溶融押出し、成形加工が困難となる場合がある。
【0015】
上述したようなPGA樹脂を製造するには、グリコリド(すなわち、グリコール酸の環状二量体エステル)を加熱して開環重合させる方法を採用することが好ましい。この開環重合法は、実質的に塊状重合による開環重合法である。開環重合は、触媒の存在下に、通常100℃以上の温度で行われる。本発明に従い、重合触媒不活性化剤を用いることにより、PGA樹脂の耐水性の低下に対する残留グリコリドの悪影響は低減されるとはいえ、重合後のPGA樹脂中の残留グリコリドは、できるだけ低減しておくことが、一般には好ましい。この目的のためには、WO2005/090438A公報に開示されるように、少なくとも重合の終期は、系が固相となるように、200℃未満、より好ましくは140〜195℃、更に好ましくは160〜190℃となるように調節することが好ましく、また生成したポリグリコール酸を残留グリコリドの気相への脱離除去工程に付すことも好ましい。触媒としては、各種環状エステルの開環重合触媒として使用されているものが用いられ、その具体例としては、例えば、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)などの金属化合物の酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコキシドなどが挙げられる。より具体的に、好ましい触媒としては、例えば、ハロゲン化スズ(例えば、二塩化スズ、四塩化スズなど)、有機カルボン酸スズ(例えば、2−エチルヘキサン酸スズなどのオクタン酸スズ)などのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモンなどを挙げることができるが、なかでも活性および重合触媒不活性化剤との組合せにおいて、特にスズ系化合物が好ましい。
【0016】
触媒の使用量は、一般に、少量でよく、グリコリドを基準として、通常0.0001〜0.5重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内から選択される。
【0017】
(重合触媒不活性化剤)
本発明に従い、上述したPGA樹脂には、エポキシ化合物の配合に先立って、重合触媒不活性化剤を配合しておくことが好ましい。重合触媒不活性化剤の配合を、重合工程の最終段階で加えて行う場合には、重合が完結しないために残留グリコリド量が増大するおそれがある。
特に重合後の脂肪族ポリエステルに重合触媒不活性化剤を添加し、溶融混合して、エポキシ化合物の配合前に重合触媒を充分に失活させることにより、後から添加されるエポキシ化合物が残留触媒存在下で末端カルボキシル基との反応に消費されるのをできるだけ防止するのが好ましい。
【0018】
重合触媒不活性化剤としては、上記した金属系の重合触媒に対して不活性化作用を有する化合物が用いられ、特に好ましいスズ系等の重金属系重合触媒に対して不活性化作用を有する、いわゆる重金属不活性化剤が好ましく用いられる。なかでも、PGA樹脂との溶融混合、好ましくは押出、の温度である約270℃において、溶融し、PGA樹脂と相溶性があり、熱分解せずに金属と錯体形成能のある化合物が好ましく用いられる。重合触媒不活性化剤の具体例としては、熱安定剤機能にも優れる、ペンタエリスリトール骨格構造(あるいはサイクリックネオペンタンテトライル構造)を有するリン酸エステルおよび少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアルキルエステル基を有する(亜)リン酸アルキルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(例えばWO2004/087813A1公報参照)が好ましく用いられる。その他、ビス[2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン]ドデカン酸、N,N′−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなどの−CONHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物;3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール系化合物、更には、トリアジン系化合物などが用いられる。
【0019】
これら重合触媒不活性化剤は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、好ましくは0.003〜3重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の割合で配合される。0.003重量部未満では、重合触媒不活性化剤による不活性化を十分に行うことができないため、成形加工時にグリコリドの発生が起こり、耐水性が損なわれてしまう。また3重量部を超えて用いる場合、重合触媒不活性化剤自身がプロトン源あるいは塩基として働くため、PGAの加水分解が却って促進されてしまう。
【0020】
重合触媒不活性化剤配合後の脂肪族ポリエステルについては、エポキシ化合物との溶融混合前に、別途、150〜190℃程度の温度で、1〜50時間の固相熱処理を行って残留グリコリドを低減しておくと、遊離のエポキシ化合物が熱処理時にグリコリドとともに揮発除去されることを防止することができ、好ましい(後記実施例2と5の比較)。
【0021】
(エポキシ化合物)
本発明に従い、上記のようにして重合触媒不活性化剤を配合した脂肪族ポリエステルに対して、エポキシ化合物を配合することにより、遊離のエポキシ化合物を0.01〜3.5重量%、好ましくは0.05〜2重量%の割合で含む本発明のポリグリコ−ル酸樹脂組成物を得る。
【0022】
本発明で用いるエポキシ化合物は、分子中に少なくとも一のエポキシ基を有する化合物であり、特にエポキシ置換イソシアヌル化合物、なかでも1〜3のグリシジル基とアリル基で置換されたイソシアヌル化合物、すなわちイソシアヌル酸トリグリシジル(TGIC)、イソシアヌル酸モノアリルジグリシジル(MA−DIGIC)あるいはイソシアヌル酸ジアリルモノグリシジル(DA−MGIC)が好ましく、安定性と耐水性改善効果に優れるTGICが最も好ましい。
【0023】
上述した重合後のPGA樹脂に対する重合触媒不活性化剤の配合および重合触媒不活性化剤を配合したPGA樹脂に対するエポキシ化合物の配合のための溶融混合は、好ましくは230〜280℃、より好ましくは240〜270℃の温度範囲で、5〜20分間、行なうことが好ましい。溶融混合手段は、基本的には任意であり、攪拌機、連続式混練機等も用いられるが、短時間処理が可能であり、その後の冷却工程への移行も円滑に行われる押出機(たとえば、同方向回転二軸混練押出機)中での加熱溶融(混合)が好ましい。熱溶融温度が230℃未満では、カルボキシル基封止剤や重合触媒不活性化剤などの添加剤効果が不十分となりやすい。他方280℃を超えると、PGA樹脂組成物の着色が起こりやすい。
【0024】
重合後のPGA樹脂に対する重合触媒不活性化剤の配合のための溶融混合後に、残留グリコリドの低減のための固相熱処理を行わなかったときには、重合触媒不活性化剤を配合したPGA樹脂に対するエポキシ化合物の配合のための溶融混合の後に、残留グリコリドの低減のための150〜190℃程度の温度で、1〜50時間の固相熱処理を行なうことが好ましい。このようにして、本発明の組成物中の残留グリコリド量は、0.25重量%以下、より好ましくは0.15重量%以下、特に好ましくは0.10重量%以下とされ、耐水性の一層の向上が得られる。固相熱処理を行わないと、残留グリコリド量を0.15重量%以下に低減することは困難である。
【0025】
(他の耐水性改善剤)
本発明の組成物において、エポキシ化合物に加えて、カルボキシル基封止剤を添加することが好ましい。特に、本発明の組成物において、エポキシ化合物は、PGA樹脂の末端を封止するというよりは、遊離の状態で存在し、PGA樹脂組成物の、あるいはその成形品の、保存中に発生する発生期のカルボキシ基を捕捉することにより耐水性を改善するものと考えられるので、当初組成物中に含まれるPGA樹脂の末端カルボキシ基を封止するカルボキシル基の併用は、更なる耐水性の向上に寄与する(後記実施例8)。カルボキシル基封止剤としては、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物などが挙げられる。なかでも芳香族カルボジイミド化合物が好ましい。これらカルボキシル基封止剤は、PGA樹脂100重量部に対して、0.1〜2重量部、特に0.2〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
【0026】
同様な理由により、エポキシ化合物により封止されることなく残存するPGAのカルボキシ末端を低減するのに有効に作用する炭酸カルシウム、ステアリン酸アミド等の酸中和剤(アルカリ剤)の併用も、本発明のPGA樹脂組成物の耐水性の一層の向上に効果がある(後記実施例9)。これら酸中和剤(アルカリ剤)は、PGA樹脂100重量部に対して、0.001〜1重量部、特に0.01〜0.5重量部の割合で配合することが好ましい。
【0027】
(充填材)
PGA樹脂組成物の機械的強度、その他の特性を付与するために、充填材を使用することが可能であり、その種類は特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、キチン・キトサン、セルロース、綿などの天然繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機合成繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ほう酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカーなどの繊維状あるいはウイスカー状充填材;マイカ、タルク、カオリン、シリカ、砂などの天然無機鉱物、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリ燐酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化に用いられるものなら特に限定はなく、たとえば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用することもできる。上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(たとえばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。またガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。充填材の添加量は、PGA樹脂100重量部に対して0.1〜100重量部、特に好ましくは1〜50重量部である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において、組成を表すために用いる「%」、[部]および「ppm」は、特に断らない限り、重量基準とする。以下の記載を含めて、本明細書中に記載した物性(値)は、以下の方法による測定値に基づく。
【0029】
(結晶化シートの作成)
試料PGA樹脂組成物(ペレット)を、プレス機により280℃、10MPaの条件で加圧し、得られたシートを急冷することで厚さ約100μmの非晶シートを得た。続いて、この非晶シートを80℃のオーブン中で30分間保持して、結晶化シートを得、以下の測定試験の樹脂試料とした。
【0030】
(1)分子量
上記結晶化シートより切り取った約10mgの樹脂試料をジメチルスルホキシド(DMSO)0.5mlで150℃において加熱溶解し、室温まで冷却した。その溶液をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)で10mlにメスアップし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行った。測定条件を以下に示す。
装置: ShodexGPC104 (検出器: RI, カラム: HFIP−606M×2)
溶媒: CFCOONa5mMを含むHFIP
分子量の標準物質としてPMMAを用い、分子量を算出した。
以下、このGPC測定により得られた重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnと記す。
【0031】
(2)グリコリド(GL)およびエポキシ化合物(TGIC、MA−DGIC、DA−MGIC)の同定および定量
内部標準物質として4−クロロベンゾフェノン(CBP)を0.2g/Lの濃度で含むDMSOを、樹脂試料約100mgに対して2mL加え、150℃において約10分で加熱溶解させ、室温まで冷却した後、ろ過を行いそのろ液についてガスクロマトグラフィー(GC)による測定を行った。予め、上記各物質について、標準試薬を用いてGC測定を行い、ピークリテンションタイムを把握し且つピーク面積による定量曲線を作成して、その後、樹脂試料についての各物質の同定および定量を行なった。測定条件を以下に示す。
装置: 島津製作所製「GC−2010」
カラム: 「TC−17」(0.25mmφ×30m)
カラム温度: 150℃で5分保持後、20℃/分で270℃まで昇温して、270℃で8分間保持。
気化室温度: 180℃
検出器: FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃
【0032】
(3)耐水性
上記の結晶化シートを恒温恒湿器中で温度50℃、相対湿度90%の環境に放置した。所定の時間ごとに試料を取り出し、GPC測定により重量平均分子量の時間変化曲線を得た。得られた曲線から重量平均分子量が7万にまで低下する時間(分子量7万時間)を算出し、耐水性の指標とした。
【0033】
(実施例1)
グリコリドに対して二塩化スズ二水和物触媒30ppmを添加して約170℃で、7時間重合して得られたグリコール酸単独重合体(PGA)(Mw=20万、グリコリド含有量0.2%)に対してリン酸エステル系重合触媒不活性化剤であるモノおよびジ−ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物(株式会社ADEKA製、商品名「アデカスタブAX71」、以下「AX71」と記す)を200ppm添加し、二軸押出機を用いて溶融混練することによりPGAペレット(1)(重量平均分子量20万、溶融粘度571Pa・s)を得た。続いて、PGAペレット(1)100重量部に対してイソシアヌル酸トリグリシジル(TGIC,東京化成工業株式会社製)を0.5重量部添加した後、再び二軸押出機を用いて溶融混練してペレット化した後、窒素雰囲気下170℃で17時間熱処理して残存するGLを低減したPGAペレット(2)(本発明のPGA樹脂組成物)を得た。
【0034】
得られたPGAペレット(2)から上記の方法により、結晶化シートを作成し、分子量、残存GL量、遊離のTGIC量を測定するとともに、耐水性試験を行った。
上記ペレット(1)および(2)を得るための溶融混合押出条件は、いずれも以下の通り。
・押出機:東洋精機製二軸押出機「2D25S」
・押出温度:供給部から排出部まで順に設けたゾーンC1〜C3およびダイについて、それぞれ200℃、230℃、240℃、210℃に設定した。
・滞留時間:約5分。
【0035】
(実施例2)
実施例1においてTGIC添加量を1重量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、PGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0036】
(実施例3)
実施例1においてTGIC添加量を3重量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、PGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0037】
(実施例4)
実施例1においてTGIC添加量を5重量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、PGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0038】
(実施例5)
実施例1において得られたPGAペレット(1)に対して、窒素雰囲気下170℃の熱処理を施して残存GLを0.1%以下とした。この熱処理後のPGAペレット(1H)100重量部に対してTGIC1重量部を添加し二軸押出機にて溶融混練を行い、PGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った
【0039】
(実施例6)
実施例5においてTGICの代わりに、モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸(MA−DGIC、四国化成工業株式会社製)を1重量部添加した以外は実施例4と同様の方法でPGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0040】
(実施例7)
実施例5においてTGICの代わりに、ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸(DA−MGIC、四国化成工業株式会社製)を1重量部添加した以外は実施例4と同様の方法でPGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0041】
(実施例8)
実施例5において得られた熱処理後のPGAペレット(1H)に対して、TGIC1重量部とN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(川口化学工業(株)製、以下「CDI」と記す)0.5重量部を同時に添加して二軸押出機にて溶融混練を行い、PGAペレット(2)を得、諸物性を評価した。
【0042】
(実施例9)
実施例8においてTGIC1重量部、CDI0.5重量部とともに炭酸カルシウム(白石工業株式会社、商品名「白艶華cc」)0.1重量部を同時に添加した以外は、実施例8と同様の方法でPGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0043】
(実施例10〜13)
実施例1〜4において、それぞれTGICを配合しペレット化後の170℃での熱処理を省略する以外は、実施例1〜4と同様にして、4種のPGAペレット(2)を得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0044】
(比較例1)
実施例4における熱処理後のPGAペレット(1H)について、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0045】
(比較例2)
実施例1で得た重合後のグリコール酸単独重合体に対して、AX71を200ppmとTGIC1重量部を同時に添加して二軸押出機により溶融混練を行い、PGAペレットを得た。得られたPGAペレットについて、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0046】
(比較例3)
比較例2においてTGIC添加量を5重量部に変更した以外は、比較例2と同様の方法により、PGAペレットを得、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
【0047】
(比較例4)
実施例1で得た重合後のグリコール酸単独重合体に対して、TGIC1重量部のみを添加して二軸押出機により溶融混練を行い、PGAペレットを得た。得られたPGAペレットについて、実施例1と同様に諸物性の評価を行った。
上記実施例および比較例で得られたPGA樹脂組成物の概要および評価結果について、まとめて下表1および2に記す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
上記表1および2の結果を対比すると以下のことが分る。実施例1〜3と比較例1の対比により、エポキシ化合物(TGIC)が遊離の状態で存在する実施例1〜3では分子量7万時間が長くなっており、その時間値はTGICの配合量と相関していることがわかる。遊離のエポキシ化合物が環境から組成物に浸入する水分を捕捉してPGAの加水分解速度を低下させているものと考えられる。但し、TGICが5重量%まで増大すると遊離のエポキシ化合物量は増大するが、グリコリド含有量も増大するため、分子量7万時間はむしろ若干減少する(実施例4)。この傾向は、グリコリド含有量低減のための固相熱処理を行なわない実施例10〜13についても同様に認められる。また実施例2と比較例2の対比により、同様に1重量部のエポキシ化合物を添加した際にも、エポキシ化合物を遊離の状態で存在させるためには、予めAX71のような重合触媒不活性化剤を配合しておくことにより、PGAの末端カルボキシル基の封止によるエポキシ化合物の消費を抑制しておく必要がある。一方、比較例3に示すように、重合触媒不活性化剤AX71とともにエポキシ化合物を過剰量添加するという方法でも、遊離のエポキシ化合物(TGIC)を残存させることは可能である。しかし実施例2と比較例3の対比からわかるように、TGICを過剰量に添加するとAX71とTGICが反応するためか、大量のグリコリド(GL)が発生する。このグリコリドは環境中の水分侵入によりPGAの分解促進要因であるカルボキシル基を生成するため、遊離のTGICによる耐水性向上効果が相殺されてしまうことがわかる。さらに、予めAX71を配合することなくTGICを配合するとおそらくは、残留重合触媒の存在下にTGICがPGAの末端カルボキシル基と結合することにより、PGAの分子量が増大するが遊離のTGICが失われて、分子量7万時間の増大効果は得られない(比較例4)。
【0051】
また実施例5,6,7と比較例1の比較によりTGICと類似のイソシアヌル酸骨格を含むエポキシ化合物(DA−MGICおよびMA−DGIC)においても、PGA中に遊離状態で存在させることで、TGICと同様に耐水性改良効果が得られることが分る。特にこれら単官能あるいは二官能エポキシ化合物においては、比較的遊離状態での残存量が少ないにも拘らず、効果的な耐水性の向上(分子量7万時間の増大)効果が得られていることが分る。さらに実施例8,9に示すように、遊離のTGICを有するPGAに対してカルボキシル基封止剤であるCDIや中和剤である炭酸カルシウムと併用することにより、耐水性の飛躍的な向上が可能になることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上述したように、本発明によれば、従来、脂肪族ポリエステルのカルボキシル基封止機能を利用した耐水性向上剤として知られるエポキシ化合物を、PGAの末端カルカルボキシ基と結合させず遊離の状態で保持することにより、環境から侵入する水分の捕捉剤として機能させることにより耐水性の向上したポリグリコ−ル酸樹脂組成物が提供される。特に、PGAの末端カルカルボキシ基に直接作用するカルボジイミド等のカルボキシル基封止剤あるいは酸中和剤(アルカリ剤)との併用により顕著な耐水性向上が得られることが特徴的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合触媒不活性化剤を配合したポリグリコ−ル酸樹脂に対してエポキシ化合物を添加することにより、該エポキシ化合物を遊離の状態で0.01〜3.5重量%含有し、グリコリド含有量が0.25重量%以下であることを特徴とするポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項2】
さらにカルボキシル基封止剤を含む請求項1に記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項3】
カルボキシル基封止剤がカルボジイミド化合物である請求項2に記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項4】
さらに酸中和剤を含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項5】
酸中和剤が炭酸カルシウムである請求項4に記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項6】
グリコリド含有量が0.1重量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項7】
ポリグリコ−ル酸樹脂100重量部に対して、エポキシ化合物を0.1〜4重量部添加し、その5〜100重量%を遊離の状態で維持する請求項1〜6のいずれかに記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項8】
エポキシ化合物添加後のポリグリコ−ル酸に固相熱処理を行ってグリコリド含有量を低減させている請求項1〜7のいずれかに記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。
【請求項9】
重合触媒不活性化剤を配合したポリグリコ−ル酸樹脂を熱処理してグリコリド含有量を低減させてからエポキシ化合物が添加されている請求項1〜7のいずれかに記載のポリグリコ−ル酸樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−10866(P2013−10866A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144615(P2011−144615)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】