説明

ポリグリセリンの分離方法および分離装置、ポリグリセリン

【課題】ナノ膜や限外濾過膜を用いて、ポリグリセリン混合物を大きい分子側と小さい分子側のポリグリセリンに分離しようとする。
【解決手段】複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液を、分離膜としてナノ膜および/または限外濾過膜を用いて該ポリグリセリン成分について含有比率が異なる液に分離する工程を含む製造方法によりポリグリセリンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類のポリグリセリン成分を含むポリグリセリン組成物を目的に応じた分子量分布を有する透過液と残液(非透過液)とに分離する膜分離方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリンは石油化学由来のもの、油脂由来のものが常用され、アルカリ触媒の存在下、グリセリンの脱水縮合反応によって得られることが一般的である。これらのポリグリセリンは、ジグリセリン、トリグリセリンのような低重合度のものの混合物や、デカグリセリン以上の重合度の高いもの、さらには環状ポリグリセリンや副生物などが含まれている混合物など多くの種類のものがあり、広い分子量分布を有している。
また、ポリグリセリンは、グリセリン間やグリセリン/ポリグリセリン間、ポリグリセリン間で、脱水縮合によって種々の形態、すなわち直鎖状ポリグリセリン、分岐状ポリグリセリン、環状ポリグリセリンが生成し、ブロードな組成の混合物としても夾雑物を取り除いた精製物としても利用されている。中でも植物性グリセリン由来のポリグリセリンは通常アルカリ触媒を用いた反応により精製されその組成は、ブロードな組成の混合物であり、これらの多くは分子量1000以下のポリグリセリンを主な成分として市販され、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの原料としても使用されている。
複数のポリグリセリンが含まれる混合液を、目的にあわせた低分子域のポリグリセリンと高分子域のポリグリセリンに分離することは、目的とする分布のポリグリセリンを使用するに当たって、所望のポリグリセリン混合液を得るために重要となる。
たとえば、このポリグリセリンから直接、代表的な非イオン界面活性剤の一つであるポリグリセリン脂肪酸エステルを合成しようとする場合、グリセリンをはじめとするより縮重合度の低いポリグリセリンと脂肪酸との反応性がより縮重合度の高いポリグリセリンより高いことから、低HLB値のエステルの生成をともない、結果的には期待できる親水性のポリグリセリン脂肪酸エステルを製造することができなかった。
またポリグリセリンを原料とするポリグリセリン脂肪酸エステルについて、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルの規格が存在し、原料としてのポリグリセリンについて、所望の分子量領域のポリグリセリンが求められている。(例えば非特許文献1)
そこで目的の用途により、ポリグリセリ混合物の中から特定成分の割合を高める、あるいは低下する、更には分離させる試みがなされている。このために用いられているポリグリセリンの分画精製方法としては、ガス相を経る分離法である分子蒸留精製法が知られている(例えば特許文献1)。
また、強酸性イオン交換樹脂にポリグリセリン組成物を添加し、その後、溶離液用いて、重合度の高い成分から順に取り出すようにしたものもある(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3717193号公報
【特許文献2】特許第3166289号公報
【非特許文献1】EFEMA index of food emulsifiers January 2004 4th edition
【非特許文献2】ポリグリセリンエステル / 阪本薬品工業株式会社 大阪:阪本薬品工業、1994,3発行、35、36,40ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら分子蒸留精製法を用いてポリグリセンに適応しようとする場合、取り扱う物質の蒸気圧や物質をガス化させるために必要な温度やその温度での物質の変質の制約がある。すなわち、
1)ジグリセリン、トリグリセリンの除去を蒸留法によった場合、高温・高真空の条件が求められる。ポリグリセリン混合液には水が含まれることから数十パスカル以下の高真空の条件設定も一般的には困難であることから、当然設定温度も170℃以上の高温が求められる。
またポリグリセリンは、一般的にはグリセリンの脱水縮合で得られることから、上記条件では、原液のポリグリセリンの変質(縮重合度の変化など)が生じる可能性が高い。
また高真空での取り扱いには、大型の装置の適応が必要になる。
このことはポリグリセリンを所望の重合度域や分子量領域で分画しようとする場合に重要な制約となり、分離しようとする分子量領域について大きな制約となる。
上記の理由から、各ポリグリセリンの親水性/疎水性、粘性、他の物質との反応性、反応生成物の諸機能あるいは規格や法規などを考慮して選定する、所望の重合度域あるいは分子量領域のポリグリセリン/ポリグリセリン混合物を実現する手段としては、(トリグリセリンやテトラグリセリン以上に)限界が生じる。
一方、先行技術文献2記載の技術では、強酸性イオン交換樹脂等の吸着材や溶離液が必要となる他、溶離した後の排水を処理するための新たな設備が必要となるとともに、処理工程が煩雑になり、システムが複雑になるという問題がある。
【0004】
本発明では、このような事情に鑑みてなされたものであり、ナノ膜や限外濾過膜を用いて、設備の規模の増大を抑え、ポリグリセリン混合物を大きい分子側と小さい分子側のポリグリセリンに分離しようとするものである。
さらに詳しくは、ポリグリセリン混合液を、透過液と残液に分け、透過液側に分子量の小さいポリグリセリンを分離し、残液側に分子量の大きいポリグリセリンを残す方法、あるいはポリグリセリン混合液からダイアフィルトレーション手法により分子量の小さいポリグリセリンを透過液側に抜出す方法、膜を用いた分離操作のひとつの形態であるダイアフィルトレーションの際に、透過液や循環液/内部循環液の濃度や物性値など膜装置の分離状態を表す測定値や分析値を用いて目的物質の透過傾向を管理・調整する分離方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、種々の方法によって得たポリグリセリンがその原料や反応方法によって異なる重合度分布をもつポリグリセリン混合液として得られること、またそれらの反応生成物をそのまま製品あるいは製品の原料とせず、そのポリグリセリン混合液を組成の異なる液に分離あるいは分離後に混合・成分調整できることに着目し、その分離方法としてナノ膜、限外濾過膜を用いることが有効であるとの知見を得た。
ナノ膜や限外濾過膜による分離では、分離すべき透過させたい物質と透過させたくない物質に合わせて、用いる膜の透過性向とその運転条件などを考慮した膜の選定が可能である。このことは、気相への蒸発を基礎とする減圧蒸留法や分子蒸留精製法と異なり、膜分離においては取り扱う物質の蒸気圧や物質をガス化させるために必要な温度やその温度での物質の変質の制約はなく、分子量が大きい物質を対象とする分離においてもナノ膜や限外ろ過膜の選択が可能で、その分離対象を広く選定する事ができる。すなわち、分子量、重合度、分子の形状、すなわち直鎖状、環状、あるいは立体的な形状の影響を考慮して分離を行う事が可能である。
すなわちポリグリセリンの常圧での沸点はジグリセリンが240℃程度で、重合度が上がるごとに40℃程度その沸点が上昇するといわれており、(ポリグリセリンエステル 阪本薬品工業発行 35ページ。非特許文献2)このことからガス相を経た分離方法においては、デカグリセリンなどの大分子量のポリグリセリンをガス相とするために必要な温度と真空度および各物質の変質への影響から分離は困難であるが、ナノ膜や限外濾過膜を用いる本発明では、蒸気圧などによる制約を受けず、温度の影響をふける範囲での操作が必要ない。
その点、膜による精製法は、温和な条件で精製ができることから、原液の品質を保つことができるといった優位な点がある。
【0006】
本発明は、複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液を、分離膜としてナノ膜および/または限外濾過膜を用いて該ポリグリセリン成分について含有比率が異なる液に分離することを特徴とする膜を用いたポリグリセリンの分離方法である。
また、本発明は、複数種類の異なる透過傾向をもつナノ膜および/または限外濾過膜を用いることを特徴とする。
また、本発明は、前記分離方法が、前記混合液を膜分離した後あるいは膜分離の過程に生じる濃縮液および/または透過液の濃度、糖度、比重、粘度、圧力損失から選択した少なくとも一つの測定項目を測定し、それらの値に基づいて希釈液あるいは洗浄液を供給し、透過液と残液の比率、希釈液あるいは洗浄液の供給量を制御する膜分離操作あるいはダイアフィルトレーションを含むものであることを特徴とする。
また、本発明は、前記濃縮液および/または透過液の濃度、糖度、比重、粘度、圧力損失から選択した少なくとも一つの項目に目標値を設け、対応する測定項目を測定し、それらの値に基づいて、バッチ操作における分離の終点、連続操作での残液流量と透過液流量の比率、洗浄液あるいは希釈液を添加する場合のそれらの供給量の制御することで膜分離操作を自動制御することを特徴とする。
また、本発明は、複数種類のポリグリセリンを含む混合液、希釈液あるいは洗浄液の供給を調節する機能により、膜分離操作あるいはダイアフィルトレーションを実施することを特徴とする。
また、本発明は、膜分離装置の運転温度を35℃以上100℃未満に維持する運転をおこなうことを特徴とする。
また、本発明は、膜分離装置へのポリグリセリン原液の供給に先立って、膜分離装置の温度を35℃以上100℃未満への範囲となるよう加熱を行うことを特徴とする。
また、本発明は、濃縮液糖度を測定し、その値に基づいて希釈液あるいは洗浄液を、複数種類のポリグリセリンを含む混合液に添加あるいは循環液と混合・供給することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、複数の目的物質が含まれる原液を膜分離装置に供給し、前記膜分離装置から得る透過液中に目的物質を抜き出し、残る他の目的物質を残液に分離するダイアフィルトレーションにおいて、分離操作の分離状態指標および/または進行経過指標を用い、透過液流量、膜分離装置の運転圧力、運転温度、循環液濃度、循環液量から選択した少なくとも1項目の操作項目を設定域に調整あるいは制御することで目的物質の透過傾向を制御することを特徴とする。
また、本発明は、管状のナノ膜および/またはUF膜を用いることを特徴とする。
また、本発明は、ナノ膜および/またはUF膜を複数回透過することを特徴とする。
また、本願発明は、複数種類のポリグリセリンを含む混合液が、塩類を含む混合液であることを特徴とする。
また、本願発明は、該複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液が、グリセリンおよび/またはポリグリセリンを原料とし、アルカリ触媒下での反応工程を含む製造工程により製造したポリグリセリン混合液であることを特徴とする。
また、本発明は、複数の目的物質が含まれる原液を膜分離装置に供給し、前記膜分離装置から得る透過液中に目的物質を抜き出し、残る他の目的物質を残液に分離するダイアフィルトレーション設備において、分離操作の分離状態指標および/または進行経過指標の監視手段と、透過液流量、膜分離装置の運転圧力、運転温度、循環液濃度、循環液量から選択した少なくとも1項目の操作項目を制御する制御手段を設けたことを特徴とする膜を用いたポリグリセリン混合液の分離装置である。
また、本発明は、透過液濃度、透過液糖度、累積透過液量あるいは、経過時間の少なくとも1つに基づき、運転圧力および/または透過液流量を設定する機能、対応する循環液濃度、循環液糖度、あるいは循環液流量に調整しながら洗浄液を供給する調節機能を備え、ダイアフィルトレーションを実施することを特徴とする。
また、本発明は、複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液を、分離膜としてナノ膜および/または限外濾過膜を用いて該ポリグリセリン成分について含有比率が異なる液に分離する工程をふくむ製造方法により製造したポリグリセリンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の種類のポリグリセリンを含む混合液を所望の分子領域を含むポリグリセリンに分離することが可能となる。また、ポリグリセリン成分を含む混合液を分離膜を用いて分離するようにしたので、設備の規模の増加を抑え、特別な排水処理を行う必要がなくポリグリセリンを取り出すことができる。
また、本発明によれば、目的物質の透過傾向を制御したダイアフィルトレーションが可能になり、膜分離での透過傾向が近接している物質の精密な分離が可能になる。
また、本発明によれば、低温での操作が可能な膜分離による透過傾向が近接している物質同士の精密分離が可能になることで、熱分解や熱変質しにくい分離が可能になり、膜分離に際して添加物や廃棄物がない簡潔な分離プロセスが可能になる。
【0009】
本発明によれば、処理原料が、食塩などの塩類を含む場合の食塩を低分子のグリセリンやポリグリセリンとともに除去し、残液中に食塩などの塩類が低減されたポリグリセリンとして回収することが可能になる。選定する膜としては、目的にそってナノ膜や限外濾過膜を適宜利用することができる。
【0010】
本発明は、混合液がポリグリセリンの場合において、ポリグリセリンをナノフィルトレーション膜あるいは限外ろ過膜あるいは逆浸透膜を用いた小分子量物質の透過による精製が可能になる。
【0011】
本発明によれば、複数の種類のポリグリセリンを含む混合液からジグリセリンを除去することができる。具体的には、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリンを除去する精製の実施が可能になる。
また、ポリグリセリン混合液を原料とし、有意にグリセリン、ジグリセリンを含む縮重合度の低いポリグリセリンを除去するができ、分散度の小さなポリグリセリンを得ることができる。
この精製ポリグリセリンを使用することにより、今までにない高HLB値のポリグリセリン脂肪酸エステルを製造することが可能となった。このようにして得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは、食品、化粧品、医薬品などの可溶化剤、食器用水系リンス剤、洗浄剤などに好適に用いられる。
グリセリンを脱水縮合することによって得られるポリグリセリン中には、触媒に由来する塩、さらには有機酸類が含まれることから反応後は、イオン交換樹脂などによって精製されることが常用されている。膜精製することによりこれら低分子の夾雑物も同時に除去できることも膜利用の有利な点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
市場から入手できる種々のナノ膜、限外濾過膜には、分画分子量などの物質を阻止する性能を表す指標が大まかな指標として示されているが、実際の分子の阻止率などの透過傾向は、前述のように種々の要因により影響される。本発明は、膜分離装置の複数種類のポリグリセリンを含む混合液に対する透過傾向を適切に制御することで望ましい分離を遂行する方法とその装置である。
【0013】
本願発明者は、膜分離によるダイアフィルトレーションで透過傾向が近接しているポリグリセリン混合液の分離を適切に実行するためには、それらの物質の透過傾向を適切な範囲に維持することが重要と考え、透過を促進させたい物質の透過促進と透過を抑制させたくない物質の透過抑制に適する運転状態を実現するために、膜分離装置での操作項目としての運転圧力、運転温度、運転濃度、水素イオン濃度(pH)の透過傾向への影響の利用方法の課題に取り組んだ。
【0014】
次に、本明細書において使用する用語について以下に説明する。
【0015】
<ダイアフィルトレーション>
本発明において、膜分離に用いるダイアフィルトレーションを「膜分離の操作の対象として供給する懸濁液や液状の混合液や処理中の液に洗浄液を加えて、膜分離装置から透過液を取り出し、残液を得ることで、目的物質を透過液と非透過液(残液や内部循環液)に分離する操作」と定義し、透過液に取り出したい物質と残液に残したい物質の双方を目的物質として記述する。
【0016】
<原液>
本発明で用いる“原液”は、複数の種類のポリグリセリンを含む混合液であり、目的物質である複数種類のポリグリセリンのほか、有機物、無機物、塩類、反応原料、製品、副産物、有価物、有害物などさまざまな分離目的の対象物質が含まれていても良い。
多くの場合、原液は膜分離装置で取り扱える範囲上限に近い含有物の濃度が望ましいが、希薄な状態で原液が供給される場合は、洗浄液を加えなくても透過液に目的物質を抜き出すダイアフィルトレーションが実施でき、膜分離装置で濃縮の後に引き続いてダイアフィルトレーションをすることも可能である。事前に実施したバッチで発生した移送時の残液の希釈液や関連する工程で得た透過液を原液として取り扱う場合は、あらかじめ濃縮するか、ダイアフィルトレーションに並行して別の膜装置などを利用して濃縮することが望ましい。逆に洗浄液や循環液で、固形物や原液の濃度を予め希釈することも可能である。
原液は膜処理の途中“循環液”あるいは“内部循環液”として処理装置内であつかわれ、その処理が進んだ時点あるいは段階で、“残液”として処理装置内に残り系外に抜き出される。
【0017】
<溶媒>
本発明で用いる“溶媒”は、原液を取り扱うために用いる液体で、それ自体が水、温水、冷水、エタノールなどの水溶性溶媒の水溶液、有機溶媒、あるいはそれらの混合物を含むものである。
【0018】
<膜洗浄液>
洗剤や溶媒を用いた膜洗浄を目的として、膜洗浄の際に用いる洗浄液を膜洗浄液として記載した。
【0019】
<洗浄液>
本発明で用いる“洗浄液”は、ダイアフィルトレーション操作において、原液や循環液あるいは内部循環液に加える液全般を指す。すなわち、運転前に装置内に充填する液も洗浄液の範疇に包含され、ダイアフィルトレーションで洗浄用に供給する液は洗浄液である。具体的には、透過液などの目的物質を含んだ液、水、温水、冷水、エタノール水などの水溶性溶媒、ヘキサンなどの有機溶媒など、目的とする分離に適する系外から供給する、または系外から供給される、液体から選択する。
洗浄液は抽出用の溶媒(抽剤)として用いてもよい。すなわち、原料中の、特に分散相に含まれる物質の抽出を目的として洗浄液を抽出液として加え、原液中の目的物質を膜によって阻止される物質を除いた形態での透過液として、原液から抽出液を得ることができる。
【0020】
<分離膜>
本発明で用いる“分離膜“は”膜“とも表し、逆浸透膜(RO膜)、ナノ膜(ナノフィルトレーション膜、NF膜)、限外濾過膜(UF膜)の圧力駆動を用いる膜を指す。これらの膜は管状、スパイラル、中空糸、平膜などの膜モジュールあるいは膜分離装置に組み込まれて使われ、膜分離装置に供給された処理対象液を透過液と非透過液(残液あるいは濃縮液)に分ける機能を有する。膜モジュールとしては膜表面の濃度分布が均質にしやすい管状膜が望ましいが、スパイラル膜、中空糸膜、平膜など圧力駆動を用いる形式の膜を利用することができる。膜の材質は、有機系、無機系、それらの複合系の膜が利用できる。
【0021】
<膜分離装置>
本発明で用いる“膜分離装置”の基本構成は、適宜選定した分離膜およびその膜モジュールや膜モジュールの集合体である。場合によっては内部循環ポンプ、熱交換器およびそれらを接続する配管を含み、処理対象液、原液、洗浄液、ダイア水などは、膜分離装置に昇圧ポンプで昇圧して供給あるいはあらかじめ加圧した液を流量調節弁や圧力調弁を通じて、膜分離装置に受け入れる。膜分離装置の運転圧力は、膜モジュールから排出する残液の抜き出し配管中の制御弁や昇圧ポンプの返送配管中の調節弁などの適宜選択された圧力調節機構によりその運転圧力を制御する。また、膜モジュールからの透過液の抜き出し手段を備えている。
【0022】
<NF膜>
IUPAC(国際純正・応用化学連合)は、ナノ濾過を「2nmより小さい程度の粒子や高分子が阻止される圧力駆動の膜分離プロセス。」としており、本発明ではこの定義に従い、ナノ濾過を行なう膜をナノ膜(ナノフィルトレーション膜、NF膜)と記載する。ナノ膜には、水系で使用するナノ膜と、もっぱら有機溶媒系で使用する疎水性のナノ膜が含まれる。
水系で使用するNF膜の例としては、PCI Membranes社 AFC80,AFC30、AFC40、Osmonics社Desal 5DL、Desal 51HL、日東電工社NTR7450、FILMTEC社 NF-2540などが例示できる。主として有機溶媒系で用いる膜の例としては、Davison Membranes社のSTARMEM120、STARMEM240、などが例示できる(STARMEMは、Davison Membranes社の登録商標)。
【0023】
<UF膜>
同様にIUPACは、限外濾過を「0.1μm〜2nmの範囲の粒子や高分子が阻止される圧力駆動の膜分離プロセス。」としており、本発明ではこの定義に従い、限外濾過を行なう膜を限外濾過膜(UF膜)と記載する。
UF膜の例としてはPCI Membranes社製 CA202、EM006、ES006、ESP04、ES404、PU608、ES209、PU120、FPT03、FPA03、FP100、FPI20、FPA20、FP200、L6000などが例示できる。
【0024】
<RO膜>
同様にIUPACは、逆浸透を「膜片側の加圧により浸透圧差と逆方向の溶媒の選択的移動が引き起こされる液相の圧力駆動分離プロセス。」としており、本発明ではこれらの定義に従い、逆浸透を行なう膜を逆浸透膜(RO膜)と記載する。
RO膜の例としてはPCI Membranes社製 AFC99などが例示できる。
【0025】
<内部循環、循環液槽、循環液、残液>
本発明では、膜モジュール内の膜面での流量を確保するための膜モジュールの出口から膜モジュール入口への循環ポンプによる循環を“内部循環”とよび、その液を内部循環液と称する。
また、本発明で循環液槽を用いる場合、循環液槽から、昇圧ポンプ、膜分離装置、循環液槽の間を循環する流れおよびその間の装置を“循環系”と称し、その間を循環している液を“循環液”と称する。前記の内部循環液と循環液を総称して循環液とも称する場合がある。
また、前述の循環液について、ある時点までの処理を終えた場合に、“残液“と称した。
【0026】
<操作項目>
本発明において、操作項目は、膜による目的物質の分離に直接的に影響を与える項目である。膜分離装置での操作項目としてその項目を設定し、分離状態指標を設定域にするかあるいは進行経過指標に基づいて操作項目に設定域を直接設けて、その操作項目を維持、変更、調整あるいは制御するものである。
具体的な操作項目には、膜分離装置の膜モジュールからの透過液流量、あるいは膜分離装置からの循環液の膜モジュール出口あるいは圧力に代表される膜分離装置の運転圧力、循環液(あるいは残液)の運転温度、水素イオン濃度(pH)、洗浄液の供給による制御の基準となる循環液濃度、循環液量が選択できる。分離状態指標や進行経過指標によって膜分離状態、運転状態あるいは膜分離操作の進行経過にあわせて操作項目の設定域を定める事ができる。
使い方の例としては、操作項目として透過液流量の設定域を設け、他に運転温度、循環液濃度(糖度)が一定になるように運転制御しながら、分離状況指標である透過液流量を運転圧力の調整によってその設定域内に確保することで、透過傾向を制御する方法がある。同様に操作項目として透過液流量の設定域を設け、他に運転温度、運転圧力が一定になるように運転制御しながら、ダイアフィルトレーション水供給量制御を伴う循環液濃度制御の濃度設定値の調整によって、設定した透過液流量を達成する方法がある。循環液温度は冷却水の供給量で、循環液濃度はダイアフィルトレーション液の供給量で、運転圧力は循環液あるいは排出系に設けた制御弁で調整できる。
なお、透過液流量は、同じ種類の膜を用いた膜分離装置中の膜から単位時間当たりに得られる透過液流量を通常用いるが、その膜分離装置中全ての膜からの流量でも、一部の膜からの値でもよく、その表現は透過流束(kg/m2/時)でも透過液流量であってもよい。ここで設定域は必ずしも上限下限の双方を規定する必要はなく、目標値として設けても良い。
【0027】
<分離状態指標>
本発明において、分離状態指標は、運転中の膜分離装置の分離状態を量的に把握するための指標であり、それが運転項目設定域の維持、変更、調整または制御の指標となるものである。具体的には、循環液および/または透過液あるいは容器に蓄積した透過液の屈折率、糖度、密度、光透過度、電気伝導度、赤外線分光などのセンサーあるいは分析装置による測定値や分析値、あるいは上述の測定値や分析値の経過指標による微分値、すなわち経過時間、透過液量、洗浄液量などによる微分値や変化率、平均値、積分値などの数値処理をした値、あるいは循環液の同様な値、透過液と循環液の同様な値の比率、それらの値と先行時点で得た値との比率などの関係指標を用いることができる。
分離状態指標の使い方としては、膜分離装置の運転において、操作項目を選び、分離状態指標に設定域を設け、その設定域に測定あるいは測定に基づく計算で得た対応する分離状態指標がその設定域になることを目標として、操作項目の調整や制御に用いる。
<透過液流量の操作項目としての設定域と分離状態指標としての設定>
透過液流量や透過流束は操作項目としても分離状態指標としても設定域を設けることができる。まず透過液流量を操作項目として設定域を設けた場合は、その測定値は分離状態指標にも操作項目にもなり、いわば分離状態指標としての透過液流量を見ながら、その値を運転圧力等の調節を通じて設定域に入るように運転する。また、分離状態指標として得た測定値や分析値を透過液流量以外の操作項目の制御に使いながらダイアフィルトレーションを制御する場合、例えば循環液濃度などを操作項目として調節し、透過液量を設定域に制御する方法がある。すなわち透過液流量や透過流束を、操作項目、分離状態指標の片方あるいは双方として利用する事が可能である。
【0028】
<進行経過指標>
本発明における、進行経過指標は、膜による分離操作の進行度合いの量的把握あるいは運転の段階から段階への移行や終了の判断のための指標である。具体的には、時間、液量、などの集計できる量的指標、残液、透過液、原液の濃度や循環液濃度と透過液濃度の比あるいは糖度比などの分離の結果を示す指標や、粘度、電気伝導度、pHなどの物性、洗浄液などの供給液量、また、分離操作の経過によって変化する処理対象液量、その測定値や分析値あるいはそれらを用いた計算値、あるいは透過液の測定値や分析値あるいはそれらを用いた計算値を用いることが出来る。また対象とする透過液はその時点で発生する透過液あるいは分離操作開始以降の合計あるいは部分的に蓄積した透過液を対象とすることができる。進行経過指標の値に対応した分離状態指標の設定値を設定することが出来、進行経過指標の値に対応した操作項目設定値を直接設定することも可能で、それぞれ操作項目を維持、変更、調整あるいは制御することが出来る。
【0029】
<パッセージと阻止率>
膜分離装置でのナノ膜やUF膜による目的物質の分離性能は、各物質の見かけの阻止率Rapp(以下阻止率と記載する)、透過液の目的物質の1成分濃度Cpの供給液の同成分濃度(Cb)に対する比率として計算されるパッセージで表せる。
Cp:透過液の目的物質の1成分濃度(g/kg)、
Cb:モジュールへの供給液の同成分濃度(g/kg)
【数1】

また、供給液の濃度に代えて、循環液の濃度を用いて評価することも可能である。
【0030】
<透過傾向の制御>
ひとつの成分についてのパッセージは、透過液流量が増えればパッセージが小さくなる傾向やその逆が利用できる。そして操作項目としての透過液流量や透過流束は、選択した分離膜あるいは膜分離装置における各成分同士の透過傾向に関係があり、膜装置の運転圧力や運転温度の上下によってパッセージを変化させることができ、種々の運転操作による透過液流量は種々の操作によって変化し、同時に透過傾向も変化する。その変化は透過傾向が近接している物質同士でも一緒に変化することが可能であり、こうした作用を利用して透過傾向は制御できる。
バッチ式での具体的な透過傾向の制御は、多くの場合望ましい透過液流量設定域を実現する操作圧力の調節によって実現できる。透過傾向は、膜の状態、循環液の温度、循環液濃度、pH、循環液量の影響を受け、使用すべき透過液流量は常時同一でなくてもよく、透過液流量の変化は透過傾向に強く影響し、透過液流量の変更によって迅速な制御が達成できる。望ましくは透過液の組成を反映した分離状態指標による分離状態の把握と、透過液流量や運転圧力などの操作項目やその設定域の設定、維持、変更、調整、制御することによって制御することができ、場合によって分離状態指標を用いなくても、透過液量や経過時間などの進行経過指標を用いて操作項目の設定域の設定、維持、変更、調整、制御によって適切な膜分離が実施できる。
また、循環液の温度は、運転の過程では変動する要因、例えばポンプからの入熱、投入液の温度などにより異なる条件が刻々形成される一方、制御する項目は、熱交換器による冷却や加熱によって透過液の流量や組成が調節できる。温度を制御と圧力や濃度等他の運転項目の制御によって透過傾向の調整や制御が可能である。
また、循環液の組成やpHは透過液流量や透過傾向に影響し、糖度や電気伝導度などによって測定される循環液中の内容物濃度は、直接透過液流量に影響を与える。また、濃度の制御は供給する洗浄液量や循環液量の設定量の変更、あるいは透過液の循環液への返送量の調節による濃度調整によって制御でき、pHについては、酸性物質やアルカリ性物質の投入や、それらによるpH調整によって制御することも可能である。
こうした透過傾向の変動要因を組み合わせて、望ましくは透過流束の運転圧力による制御を組み合わせることで、透過傾向の制御が可能になる。
【0031】
<組成に関する測定値、循環液濃度、含有物質濃度>
本発明では原液、運転開始時の循環液、膜分離装置の循環液、透過液などについて屈折率計、糖度計、密度計、光透過度測定装置、電気伝導度計などのセンサーから得る組成や濃度に関する測定値を、循環液や透過液の状態を示す指標として用いることができる。特に循環液の濃縮や洗浄液供給量などでの循環液の管理においては、循環液の組成や濃度に関する測定値膜分離装置の運転に適した管理が重要で、膜の透過傾向に直接影響するほか、濃度が高すぎる場合は急激なファウリングの進行や運転可能時間の短縮が起こりやすくなり、濃度が薄い場合はダイアフィルトレーションの効果が低下する。そこで糖度、密度、屈折率、電気伝導度などの測定値を循環液の管理に用いるもので、複数の成分を含む液でのそれらの測定値は、物質や物質群の合計濃度のほかにも組成比、温度などの複雑に影響を受けるが、必ずしも測定値が実際の物質や物質群の濃度と対応していることは不可欠ではなく、こうした測定値やそれらを基礎にした値を用いて、適切な循環液量管理や濃度管理を実現するための指標として用いることが重要である。測定に際して、必要に応じて温度補正やサンプルの温度管理などを行うことが望ましい。
循環液の濃度について膜分離に適する濃度範囲に関係する濃度の意味で用いる場合、特に“合計物質濃度”を用いて説明した。
【0032】
<糖度、糖度比、濃度>
本発明で用いる“糖度比”は〔透過液の糖度〕÷〔循環液の糖度〕を指し、その分離状態指標としても進行経過指標としても用いることができる。すなわち同じ循環液に対して、透過傾向が大きい運転では、糖度比は大きくなり、透過傾向が小さい運転では糖度比が小さくなり、この指標の設定域を設けて操作項目を調整、制御することができる。またこの糖度比は、膜精製の進行経過指標として運転段階の変更や運転段階の終了使用する事も可能である。
また、この糖度比や透過液の糖度は透過傾向の変化を表す。圧力を推進力とする膜分離において、基準となる物質のパッセージの上昇や下降と他のパッセージの上昇や下降とリンクして発生することが一般的と考えられ、同じ循環液濃度に対する透過液の糖度や糖度比は、パッセージすなわち膜分離での各物質の透過傾向変化の変化による各物質濃度の変化として表れ、同じ濃度の出発時の循環液からの運転後の循環液の透過液の濃度は、それまでの操作によって到達した濃度とそこまでの分離性能の双方を反映しており、その双方を総合した指標として把握できる。
糖度は屈折率の測定原理と同じ方法で測定され、糖以外にもグリセリン類やグリコール類にも適応できる。糖度以外にも電気伝導度や、TOC(全有機炭素)、液の密度を基準についても、糖度と同様の循環液あるいは透過液の濃度をあらわす指標として用いること可能で、それぞれ分離状態指標として重要である。
【0033】
<流動の状態を制御するための指標>
膜モジュールの入口と出口の圧力差などの密度や粘度の変化を総合した指標は、循環液濃度の制御あるいは管理に利用できる。すなわち圧力損失がある値あるいはそれ以下になるように洗浄液を添加するなどの方法を用いることで、循環液濃度を制御することは可能である。すなわち圧力損失を一定にするなどの方法で濃度を膜分離に支障がない範囲で運転することは可能である。
【0034】
<ダイアフィルトレーションの進行>
ダイアフィルトレーションの進行にともなって、その操作項目の設定域を一定にしても、徐々にあるいは段階的に操作項目の設定域を変更しても、循環液や透過液の分離状態に応じた分離性能を確保することが可能で、望ましくは他の操作条件は必要に応じて変更し、分離状況指標あるいは進行結果指標にあわせて透過液流量を変更することができる。
また、ダイアフィルトレーションの進行にともなって、その操作項目の設定域を一定にしても、徐々に変更して循環液や透過液の分離状態に応じた分離性能を確保しても良い。
【0035】
また、ダイアフィルトレーションを複数の段階に分け、段階毎に各々選択した操作項目の設定域を設定することができる。すなわち透過液流量、運転圧力、運転温度の設定域の変更、薬剤の添加によるpHの変更などの方法などにより、各段階の終点や始点を管理しながら、各段階の操作項目の設定域を制御し、各段階の膜分離に望ましい分離状態を達成することで、ダイアフィルトレーション全体として望ましい分離について、繰り返して実施するダイアフィルトレーションでの分離結果をそれぞれの分離目的に沿ったものにする。
【0036】
<透過液流量の変更による混合物の糖度の変化>
仮に開始時の運転条件における2種類の物質のパッセージが、開始時の物質Aは0.1、物質Bは0.0の状態で、物質Aが10%物質Bが10%(以下この項は糖度相当分として説明)の開始時の液を、物質Aの濃度をダイアフィルトレーションによって低下させながら、合計糖度を20%に維持する運転を実施し、物質Bの濃度は徐々に上昇し20%に近づくようにする。ここでは糖度とこの合計量は徐々に少なくなり、その物質Aの濃度は0%に近づくことになる。
元の透過液流量の状態を維持した運転で、物質Aの濃度が1.5%でパッセージが0.1の時、糖度測定は0.15%(1.5%×0.1)になり、糖度計の測定限界が0.2%であれば、この状態は検知できないことになる。ところが透過液流量を下げて、パッセージの0.1を0.2で運転すれば、透過液の糖度は0.3%(1.5%×0.2)になり、糖度計の測定可能な範囲に入るようになる。以上の説明に基づいた現象は、検出限界に近い場合に限らず、開始時や終了時、段階の変更点など適切な場面での透過液や循環液の濃度状況の把握や確認あるいは切り替えなどの運転の判断時にも利用できる。
【0037】
また、多成分混合系での分離で、多量の膜を透過しやすい目的物質Aがあり、膜を透過しにくく透過したくない物質Bを保持しながら、物質Aと物質Bの中間の透過傾向をもつ物質Cを除去したい場合、透過傾向は初め物質Aの透過を主にした低い透過傾向での運転を、次いで物質Bの透過をすすめる運転を実施することで、物質A、Bの透過と物質Cの保持が実現できる。
【0038】
ダイアフィルトレーションを実施する際に、循環液の容積を少なくし目的物質の濃度は高い方が、分離効果は高くなる。そこで、例えば糖度計を用い循環液の濃度をそのダイアフィルトレーションの段階で、適切な濃度に維持して運転することで、ダイアフィルトレーションの効率的な進行が可能になる。常に濃度を高く設定する方がよいとは限らず、運転の安定性や膜表面の保護のために設定域に余裕を設けることが望ましい。
また、原料を投入した最初の段階では透過しやすい物質が多量に含まれるが、こうした循環液の組成変化が大きい段階でのみ循環液や内部循環液の濃度管理を行ない、他の段階では濃度以外の管理、例えば液量による管理を行なうこともできる。
【0039】
〈ポリグリセリン混合液のナノ膜および/または限外濾過膜による分離〉
ナノ膜は2nmより小さい程度の粒子や分子が阻止される膜で、分子量1000以下の種々のポリグリセリンについて、透過しやすいポリグリセリンと透過しにくいポリグリセリンの分離として取扱いうる膜が選定できる。
重合の程度が低いポリグリセリンを透過液側に分離し、重合がより進んだポリグリセリンを分離する場合、例えば実施例1に示したジグリセリンやトリグリセリンを透過液側に、テトラグリセリン以上を残液側に分離したい場合、ナノ膜の範囲のPCI Membranes製AFC30,AFC40などのナノ膜が選定できる。また重合が進んだポリグリセリンが除去すべき対象となる場合、ナノ膜の範囲の膜の利用が考えられるほか、限外濾過膜の範囲にはいる膜を用いる膜も選択できる。例えばPCI Membranes社製のXP197を用いることで、透過液側に、より多くの低分子成分を得、一方残液側に分子量の大きいポリグリセリンをより多く残すことができる。
またこの場合ダイアフィルトレーションによる分離を用いることも用いないことも可能であり、その分離程度は分離目的から選定できる。
またナノ膜を用いて低分子のポリグリセリンを分離したポリグリセリンについて、さらに別のナノ膜や限外濾過膜を用いて、大分子のポリグリセリンを分離しすることで、低分子側と大分子側が除去されたポリグリセリンを得ることができる。ここでダイアフィルトレーションを用いるか用いないかは、選定する膜と分離するそれぞれのポリグリセリンの分子量領域やそれらの量比率、操作の対象液の分離操作に適した濃度維持の可否により選定できる。この方法により、分子量領域を狭くしたポリグリセリンあるいはポリグリセリン混合物の製造が可能である。
低分子側と高分子側を分離するにあたっては、分離プロセスとしてどちら側から先に分離してもよい。
低分子側と高分子側の分離にあたっては、別の種類のNF膜や限外濾過膜を用いて行えるほか、同じ種類の膜を、異なる運転圧力、運転濃度、運転温度などの運転条件を変化させて同様の目的で用いることもできる。
アルカリ触媒を用いて合成したポリグリセリン混合物には、当初アルカリ触媒が混入して折り、ポリグリセリンの分離の際に、低分子側にアルカリ触媒を透過させることにより、ダイアフィルトレーションを用いる事によって残液側のアルカリ触媒量を低減する事ができる。
【実施例1】
【0040】
本実施例では、原液として通常デカグリセリンとして入手可能なポリグリセリン混合物で、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリンおよびテトラクリセリン以上の高重合のものを含むポリグリセリン混合液を用い、膜による精製を行なった。ナノ膜を用いた膜分離装置からの透過液の糖度を順次記録し、糖度が所定の値になったところで、運転圧力を下げて透過液流量を下げ、原料に対してグリセリンおよびジグリセリンを当初の十分の一以下程度までに低減した例を示す。
【0041】
<原液>
原料組成 水分 28.7wt%
ポリグリセリン合計濃度 バランス
平均的重合度 10量体
【0042】
<分析方法>
濃縮装置で水分を除いて濃縮サンプルとする。テトラデカンに対し一定量のピリジンを加えた内部標準液を用意しておき、濃縮サンプルに対し、内部標準液、ヘキサメチルジシラザン、クロロメチルシラン、クロロトリメチルシランを加え加熱し、TMS化した後、ガスクロマトグラフィーにより分析した。表2に示した組成についてのデータは、上述の水分を除いた濃縮サンプルに加えた内部標準物質に対するガスクロ分析での面積比から求めた指標である。
【0043】
<装置> 以下に膜分離装置の詳細を説明する。
PCI Membranes社製造の膜分離装置BRO/BUFに同PCI Membranes社製のAFC30、1.2mの膜モジュール2本を装着したものを使用した。別に濃度調節の目的でAFC80、1.2mの膜モジュール1本も装着した。
圧力計は2本のAFC30の膜モジュールの間と、後方の膜モジュールの後に設置した。
図1に膜分離装置のフローシートを示す。
【0044】
膜分離装置100は、昇圧ポンプ4、熱交換器5、膜モジュール6A(AFC80)、圧力計7、膜モジュール6B(AFC30)、膜モジュール6C(AFC30)、圧力調節弁9およびそれらを結ぶ接続配管からなる。圧力調節弁9は循環液配管/ホース10により、圧力調節弁からの循環液は、循環液槽に投入できる。また、同循環液は、別の膜洗浄用の容器、サンプリング用容器にも投入できる。
【0045】
洗浄液貯槽13はドラム缶を容器として3基底部を配管で連結し、それぞれの容器には、元弁を通じて洗浄液ポンプ14および昇圧ポンプ入口配管3とバルブを介して接続しており、40℃〜55℃の温水を貯蔵する。洗浄液ポンプの吐出は制御弁を経由して循環液槽への洗浄液投入用ホースに接続している。
【0046】
膜モジュール6Bと膜モジュール6Cの透過液は、透過液容器用の秤2により経時的自動的に重量を測定する。膜モジュールBや膜モジュールCの上部透過液ノズルから各透過液は、各プラスチック容器にそれぞれ透過液用配管/ホース16で投入できる。
【0047】
膜分離装置の通常運転時の循環系は、循環液槽1、昇圧ポンプ入口配管3、昇圧ポンプ4、熱交換器5、膜モジュールA 6A 膜モジュールB 6B、膜モジュールC 6C 圧力調節弁9、およびこれらを結ぶ配管・ホース接続で、後述する温水循環時は、循環液槽を温水膜洗浄液循環用容器11に変更する。
【0048】
制御盤18には、循環液槽1の重量の測定値を指定した測定値に維持する循環液槽重量調節機構、圧力調節弁9の下流での循環液の温度の測定値を設定値に調節すべくチラー水ユニット19からのチラー水の供給を制御する循環液温度調節機構、透過液の合計重量表示機構および透過液重量の時間変化とその間の時間から計算した表示する透過液流量表示機能、圧力調節弁9下流の糖度を表示する循環液糖度表示機能がある。
【0049】
<図1 バッチ運転の例>
以下に図1を使ってバッチ運転の例を説明する。
図1は、本発明による1基の膜分離装置によるバッチ式のダイアフィルトレーションを行なう装置全体を示したフローシートである。この装置では内部循環は用いていない。循環液槽1は、金属や合成樹脂などで製造された任意の形状の容器で、底部から槽内の液が全量抜き出せるように適宜工夫し、内部の液量が把握できるように、重量、液位などが常時監視でき、適切な洗浄が実施できることが望ましい。そして、循環液槽1には、pH計8、温度計、循環液の濃度測定機能26、循環液の温度維持機構29、透過液の循環液への返送量調節機構30、原液供給機構21、循環液の抜き出し機構22、洗浄液の供給機構23などを付属することができるが、これらを循環液出口配管/ホース10あるいは昇圧ポンプ入口配管3に接続あるいは付属させてもよい。
【0050】
循環液槽1には、受け入れた各液をあらかじめ混合して槽内に導入する受入れ液混合機能、槽内での不要な濃度分布の発生防止、固形分の沈降防止あるいは壁面への付着物の防止を目的として、攪拌機構、バッフル、振動機構、シャワリング機構、外部循環ポンプ、糖度計や密度計などの循環液濃度管理のための測定機構などを設けることができる。循環液槽1の内部には、槽内に長く滞留した液と、槽内に供給したばかり液の間の濃度差を有効に利用するために、槽内を分割する機能、例えば、分割した槽を連結して順次槽内の液を槽内部で移動させる機能、順次液を受け入れる槽と液を抜き出す槽を相互に切り替えて複数の槽を全体として循環液槽1として用いる機能などを適用することができる。
【0051】
また、循環液槽1には、ガスシール機能などガス相に関わる槽内ガスや臭気のもれ対策を必要に応じて施すことができる。循環液槽用の秤2は、循環液槽内の液量を重量として計量するために使用する。循環液は循環液槽以外に、膜分離装置内や配管などにも存在するが、合計重量など循環液の全体量それ自体の捕捉を常時実行することができなくても、運転管理の点から、循環液槽内の液量が管理できればよい。
【0052】
昇圧ポンプ入口配管3は、循環液槽および昇圧ポンプ4に接続し、温水膜洗浄液循環用容器11、洗浄液ポンプ14、循環液抜き出し用容器12、ポンプ保護のためのストレーナーやフィルターを接続することができる。
また、循環液槽1には、前述のように槽内での不要な濃度分布の発生を防止するための攪拌機能、固形分の沈降防止機能、振動機能、シャワリング機能、付着物防止機能を付加することができ、膜を使った分離の効果を向上させるために、循環液槽1を複数の槽に分割し、それらを連結して使用することや、複数の分割部分を交互に使用することにより、循環液内の濃度変化を段階的に進めることができる。
【0053】
膜分離装置は、昇圧ポンプ4、圧力計7、熱交換器5、膜モジュールA 6A、 膜モジュールB 6B、膜モジュールC 6C、 圧力調節弁9、および接続配管などから構成される。圧力調節弁9出口の循環液は、循環液出口配管/ホース10により、循環液槽に投入できる。膜モジュールA、6AにはRO膜であるAFC80を挿入し、膜モジュールB 6B、膜モジュールC 6CにはAFC30を挿入して用いることができる。ここではAFC30は目的とする原料の分離・精製に用いた。AFC80は濃度調整のために用い、循環液濃度の調整時や膜洗浄時を例外として、通常運転時の全ての透過液は循環液槽1に返送する。
【0054】
膜モジュールの運転圧力は、圧力計7の指示で把握する。圧力計の設置場所は、昇圧ポンプのすぐ下流から圧力調節弁までのプロセス的位置で可能であるが、膜モジュールの前あるいは後の圧力ができる限り反映した測定位置が望ましく、並列に多くの膜モジュールを並べる場合に代表的な膜モジュールがわかる位置を選定することもでき、膜モジュール群全体の圧力がわかる位置を選定することもできる。膜モジュールの下流側に圧力計をつける場合も同様で、圧力計のほかに膜モジュールの上流と下流の差圧計を設ける場合も同様である。
【0055】
膜モジュールの圧力の制御は、圧力調節弁で設定するが、それ以外の方法、例えば、昇圧ポンプ出口から循環液槽への戻りラインによる圧力調節機構による方法でもよいし、インバーターで昇圧ポンプの回転数を制御する方法などを採用してもよい。
【0056】
熱交換器5の設置位置は、昇圧ポンプ4出口部以外にも、圧力調節弁下流につけてもよいし、循環液槽に付属させてもよく、加熱および冷却機能を備えることが望ましいが、冷却機能のみや加熱機能のみでも必要な範囲に循環液温度が制御できればよい。熱交換器は、膜洗浄時、滅菌、保存処理などの目的でも使用できる。
【0057】
洗浄液貯槽13は、洗浄液ポンプ14の給液側にホースおよび配管で接続し、循環液槽1および/または循環液配管/ホース10、昇圧ポンプ入口配管3にも直接洗浄液が供給できるように接続している。洗浄液ポンプによる洗浄液の供給は調節弁を用いて所定の循環液濃度を維持・制御したり、所定の流量で循環液槽に供給するなどの方法で供給を管理する。洗浄液貯槽の液あるいは別に用意した液を使って、洗剤や溶媒を用いた洗浄方法が膜分離装置20および循環液槽1、その他配管などのシステムに適応でき、必要時に膜洗浄を実施する。膜洗浄液はあらかじめ加熱、冷却、濃縮、膜分離などによる精製・分離、pH調整、薬剤添加などの前処理を行ったものを使うことができる。
【0058】
<運転方法および経緯>
装置の循環系に予め0.5wt%の酵素洗剤(ULTRASIL 53)約30℃を充填し、装置を循環洗浄した後、イオン交換水に置換した。その後約50℃に加温したイオン交換水を温水膜洗浄液循環用容器11に用意し、膜分離装置との間で温水を循環し、さらに透過液を系外にドレンノズルから何度か抜き出した後、温水膜洗浄液循環用容器11を用いて循環液系(温水膜洗浄液循環用容器、ポンプ入口配管、昇圧ポンプ、熱交換器、膜モジュールA、膜モジュールB、膜モジュールC、圧力調節弁、循環液出口配管/ホース、温水膜洗浄液循環用容器)と透過液系(膜モジュールBおよびCの透過液側から抜き出しホースから温水膜洗浄液循環容器間)の両方を循環する運転とし、それらの系を50〜53℃に維持できる状態にした。
【0059】
別途約50℃の約70wt%の水分を含むポリグリセリン混合液を加熱したイオン交換水で希釈・攪拌し、約50℃、30wt%のポリグリセリンを循環液槽に用意した。
循環系の膜分離装置中に含まれている温水の一部を抜き出しつつ、ポリグリセリン混合液に置換し、循環系をポリグリセリン液に置換し、透過液はすべて循環液槽に返送する設定とした。
【0060】
運転圧力を当初33バールに設定し、AFC80の透過液を系外に出し、一旦下がった循環液濃度を25%程度まで回復させた後、AFC80の透過液は全て循環液槽1に戻し、2本のAFC30の透過液を20リットルの透過液用容器に取り出す状態とした。続いて運転温度を50から53℃を維持ながら、循環液の糖度を当初25%程度を維持するように循環液槽の運転を継続し、50℃程度に加温したイオン交換水をダイアフィルトレーション水として循環液槽に供給しながら、AFC30用のモジュール2本からの透過液を系外に取り出した。透過液の合計流量は30〜45kg/時程度になるようにモジュールA入り口圧力を手動の圧力調節弁で調節した。途中透過液を20リットル容器に順次取り
出す方法で、透過液を順次取り出した。下流側モジュールBの透過液の流量について、上流側モジュールA側の透過液流量に対して半分以上であることを確保する方針で運転を継続し、半分以下の流量になった状況では、運転圧力を高めるか運転濃度を低下させて、合計の透過液流量とモジュールBすなわち下流側のモジュールAの透過液流量も確保する方針で、運転を継続した。
【0061】
透過液の糖度を測定しながら、ダイアフィルトレーションを継続し、透過液の糖度が0.6%になったところで、運転圧力を22Barに変更して後段の運転に入った。
後段に入ってからは透過液の流量を15から25kg/時程度に維持する運転を実施した。前段と同様に透過液を20リットルの容器に取り出しながら、循環液の糖度は22%程度で運転した。
このようにして運転を継続した後、透過液の糖度が0.4%を示した時点で膜分離装置の運転を停止し、ほぼ同時にダイアフィルトレーションの水供給も停止した。その後循環液槽から残液であるポリグリセリン溶液を抜き出し、循環液槽内の液量は当初30wt%のポリグリセリン液32.6kgから、22wt%相当のポリグリセリン液27.3kgを得た。表1はこの運転経緯をまとめたものである。
得られたポリグリセリン液の分析結果は、表2のサンプル番号C7に示した。続いて、温水で循環系にあるポリグリセリン溶液を循環ポンプにより膜モジュールから系外に押し出して回収した。
【0062】
以上の運転により14.8kgの原料中に含まれていた乾燥重量として9.8kgのポリグリセリンから、表2中のC7欄の内部標準物質に対する面積比を有する乾燥重量6.0kgのポリグリセリンを得た。
表3は循環液サンプルの内部標準物質に対する面積比の開始時面積比に対する比率を用いて、各サンプルの成分の変化を追跡したものである。
表3に示した累積透過液量の対初期循環液量の比として計算した進行指標が2.1のデータでグリセリンは従来のグリセリン含有量の1/10以下まで低減でき、ジグリセリンについては同進行指標が5.0で1/10まで低減できた。
そして回収した製品は、グリセリンは測定範囲以下、ジグリセリンは希望する従来の1/10以下の含有率に、トリグリセリンは当初希望した従来の含有量と比べ1/2以下の含有率になり、テトラグリセリン以上の含有率は上昇した。
上記の運転においては、本発明における分離状態指標として透過液流量および透過液糖度を用い、本発明における進行経過指標として対初期循環液量に対する透過液量の比を用い、透過液流量は操作項目としても用いている。すなわち透過液流量は分離状態を知る指標として用いており、先ず操作項目である透過液量を設定域30から45kg/時の範囲内を維持するように、分離状態指標でもある透過液流量を計量しながら運転圧力を調整し、進行経過指標である透過液の糖度が0.6%まで低下した時点で操作項目で透過液流量を15から25kg/時の設定域に変更して、運転圧力の調整および循環液濃度設定値の調整によって、分離状態指標である透過液流量を設定域に調整し、進行経過指標である透過液の糖度が0.4%に達した時点で分離精製を停止した。
ここでは運転温度はあらかじめ設定した50〜53℃に維持する運転であり操作項目の変動はしていないが操作項目を維持している。循環液濃度は、下流側のモジュールBの透過液流量を上流側の1/2以上に確保する際にも、操作項目として使用している。この運転ではpHは操作項目としては使用しなかった。循環液量は操作項目としては用いていないが、循環液濃度の変更は循環液量の変更に直結しており、操作項目としての意味は類似している。すなわち循環液を高濃度にすることは循環液量が少量にすることを意味し、循環液濃度と同様に適用できる。
またここでは透過液流量をそのまま操作項目や分離状態指標としているが、上流側のモジュールのみを指標としても、上流側と下流側の合計を使用しても、下流側を使用しても、それらを使用した分離膜面積で除した透過流束の値として使用することも可能である。
またここでは循環液の糖度値は22〜25%の間で変化しているもののその差は大きくないことから、進行経過指標や分離状態指標として透過液の糖度を用いたが、透過液の糖度を循環液の糖度で除した値すなわち糖度比には、循環液の状態や膜分離の状態を把握する上で利点がある。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
次に、上述したシステムにおいて、さらに説明する。
図2は、他の実施形態(第1の実施形態)における分離システムの構成を示す図面である。
循環液槽1は、受け入れた各液をあらかじめ混合して槽内に導入する受入れ液混合機能を有する。また、循環液槽1は、ガスシール機能などガス相に関わる槽内ガスや臭気のもれ対策を必要に応じて施すことができる。
昇圧ポンプ4は、循環液槽1に入れられた液を膜分離装置20に供給する。
膜分離装置20は、昇圧ポンプ4によって供給される、循環液槽1内の循環液を分離し、透過液を後段に供給し、透過されなかった循環液を循環液槽1に供給する。
圧力調整弁9は、膜分離装置20と循環液槽1との間に設けられ、膜分離装置20から循環液槽1に供給される循環液の供給圧力を調整する。
透過液流量計100は、膜分離装置20によって分離され膜分離装置20から流出する透過液の流量を測定する。圧力計101は、膜分離装置20の膜モジュールの運転圧力を測定する。膜分離装置20の運転圧力は、圧力調整弁9によって調整される。
【0067】
次に、図2の分離システムを用いて処理を行った場合の透過液の糖度の変化について、図3を用いて説明する。図3(a)は、縦軸が運転圧力、横軸が運転時間を示し、図3(b)は、縦軸が透過液糖度を示し、横軸が運転時間を示す。
運転圧を‘圧力段階1’を維持している間に(図3(a))、透過液糖度目標糖度設定値が‘設定1’になるまで、膜分離が行われる(図3(b))。そして、透過液糖度が目標糖度の設定値1になると(図3(a))、運転圧力が圧力段階2に設定され、運転圧が設定2に切り替えられた後は、透過液糖度の測定値が一旦上昇するが、その後、目標糖度の設定値である設定2に近づくように低下し、透過液糖度が目標糖度の設定値2に達するか、達した後一定時間をへて膜分離を完了する。
【0068】
次に、図2の分離システムの他の実施形態について説明する。図4は、図2の分離システムの他の実施形態における概略構成図である。この図4における分離システムは、図2における分離システムに、新たな機能を追加したものである。すなわち、ここでは、循環液槽1に、洗浄液を供給する点が異なる。循環液の供給機構23は、循環液を循環液槽1に供給する。この循環液槽1に洗浄液を追加するタイミングとしては、例えば、洗浄液を追加しない状態において、循環液槽1に貯留された循環液の分離を行い、循環液槽1の循環液の残量が基準量より少なくなった場合に、追加する。
【0069】
以上説明した実施形態によれば、膜技術により、このポリグリセリンから有意にグリセリン、ジグリセリンを含む縮重合度の低いポリグリセリンを除去することにより、分散度の小さなポリグリセリンを得ることができた。この精製ポリグリセリンを使用することにより、今までにない高HLB値のポリグリセリン脂肪酸エステルを製造することが可能となった。このようにして得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは、食品、化粧品、医薬品などの可溶化剤、食器用水系リンス剤、洗浄剤などに好適に用いるおことができる。
また、グリセリンを脱水縮合することによって得られるポリグリセリン中には、触媒に由来する塩、さらには有機酸類が含まれることから反応後は、イオン交換樹脂などによって精製されることが常用されている。膜精製することによりこれら低分子の夾雑物も同時に除去できることも膜利用の有利な点である。
【実施例2】
【0070】
脱塩処理を実施するまえのデカグリセリン混合液を原液として、原液からジグリセリン、トリグリセリンの分離例を例示する。
<原液>
ポリグリセリン合計濃度 約25wt%
食塩 0.28wt%
水分 バランス
平均的重合度 10量体
<分析方法>
ポリグリセリンについては、実施例1と同様の方法で分析した。
塩分については、株式会社アタゴ製ES421を用いた。
<装置>
実施例1と同じ装置を用い、分離膜AFC30を膜モジュールCに装填して用いた。
<運転方法および経緯>
実施例1と同様の方法で実施した。循環液槽1、昇圧ポンプ4、熱交換器5、XP197設置した膜モジュール6C、圧力調節弁9を経由して、循環液槽に戻る循環系を形成する。循環系をあらかじめ加熱したイオン交換水を循環して50℃程度まで昇温した。原液の水溶液を循環液槽にあらかじめ50℃に保持して処理対象液とする。循環液槽中の処理対象液を循環系に供給し、圧量調節弁9を出たイオン交換水を系外に排出し、循環系全体を処理対象液に置換する。
ここで、膜分離装置の運転温度は、35℃以上100℃未満に維持して運転することが好ましい。すなわち、ポリグリセリンは、粘着性があるので、低い運転温度で分離を行うと、その粘着性のために分離の効率が低下してしまう。そこで、分離を行う前に予め加熱し、運転温度を上げておくことが好ましい。
【0071】
<実施結果>
表4に実施例2の実施結果を記載する。ここに記載したジグリセリン,トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリンのデータは、実施例1の場合と同様に求めた指標であり、実施例2による処理によって、ジグリセリンの除去が実施例1と同様に進められ、同時に塩分含有量の低減ができた。
【0072】
【表4】

【実施例3】
【0073】
デカグリセリン混合液から分離膜を用いた高分子物質の分離例を例示する。
<原液>
ポリグリセリン合計濃度 約25wt%
水分 バランス
平均的重合度 10量体
<分析方法>
ポリグリセリンについては、実施例1と同様の方法で分析した。
【0074】
<装置>
実施例1と同じ装置を用い、分離膜としてPCI Membranes社XP197を用いた。
<運転方法および経緯>
循環系をあらかじめ温水で加熱した後、前述の昇圧ポンプを用いてポリグリセリン分16.47kgを含む原料ポリグリセリン水溶液を、75kgの透過液1と、循環系に残り温水で押出すことにより系外に取り出した19.8kgの残液1に分離した。
循環系をあらかじめ50℃程度に加熱した緒イオン交換水に置換した後、循環系を透過液1に置換し、膜分離により、48kgの透過液2と19.8kgの残液2に分離した。
これらの操作の間、イオン交換水の混入およびポリグリセリンのロスが発生している。
以上の操作により得た原液、透過液1、透過液2のポリグリセリン組成のGPC分析結果を表6に示す。
【0075】
<実施結果>
GPC分析結果から、1回目、2回目透過液ともに膜の透過により高分子側のポリグリセリンが削減されている。また複数回XP197を透過することによって高分子側物質の削減効果がより大きく発揮されている。
これらの事実から、所望する分子量領域での透過傾向の有意な差をもつ分離膜を一度あるいは複数回透過することで、ポリグリセリンの高分子側の物質が分離、除去、削減できる事がわかった。
【表5】

2GPC分析結果
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】バッチ式のダイアフィルトレーションを行なうためのフローシートの一例を示す図面である。
【図2】他の実施形態(第1の実施形態)における分離システムの構成を示す図面である。
【図3】図2の分離システムにおける透過液糖度の変化について説明するための図面である。
【図4】図2の分離システムの他の実施形態における概略構成図である。
【符号の説明】
【0077】
1 循環液槽
2 秤
3 昇圧ポンプ入口配管
4 昇圧ポンプ
5 熱交換器
6A 膜モジュールA
6B 膜モジュールB
6C 膜モジュールC
7 圧力計
8 pH計
9 圧力調節弁
10 循環液出口配管/ホース
11 温水膜洗浄液循環用容器
12 循環液抜き出し用容器
13 洗浄液貯槽
14 洗浄液ポンプ
15 透過液容器
16 透過液用配管/ホース
17 透過液ドレンホース
18 制御盤
19 チラー水ユニット
20 膜分離装置
21 原液の供給機構
22 循環液の抜き出し機構
23 洗浄液の供給機構
24 透過液の抜き出し機構
25 透過液の流量測定機構
26 循環液の濃度測定機構
27 洗浄液供給量の制御による循環液濃度維持機構
28 透過液の濃度測定機構
29 循環液の温度維持機構
30 透過液の循環液への返送量調節機構
31 先行バッチ貯槽
32 内部循環ポンプ
33 洗浄液調節弁
51 原液
52 洗浄液
53 透過液
54 残液
55 返送透過液
100 透過液流量計
101 圧力計
130 流量調節弁
135 流量調節弁
140 流量調節弁
145 ポンプ
150 流量調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液を、分離膜としてナノ膜および/または限外濾過膜を用いて該ポリグリセリン成分について含有比率が異なる液に分離することを特徴とする膜を用いたポリグリセリンの分離方法。
【請求項2】
複数種類の異なる透過傾向をもつナノ膜および/または限外濾過膜を用いる請求項1記載の膜を用いたポリグリセリンの分離方法。
【請求項3】
前記分離方法が、前記混合液を膜分離した後あるいは膜分離の過程に生じる濃縮液および/または透過液の濃度、糖度、比重、粘度、圧力損失から選択した少なくとも一つの測定項目を測定し、それらの値に基づいて希釈液あるいは洗浄液を供給し、透過液と残液の比率、希釈液あるいは洗浄液の供給量を制御する膜分離操作あるいはダイアフィルトレーションを含むものであることを特徴とする請求項1または2に記載の膜を用いたポリグリセリンの分離方法。
【請求項4】
前記濃縮液および/または透過液の濃度、糖度、比重、粘度、圧力損失から選択した少なくとも一つの項目に目標値を設け、対応する測定項目を測定し、それらの値に基づいて、バッチ操作における分離の終点、連続操作での残液流量と透過液流量の比率、洗浄液あるいは希釈液を添加する場合のそれらの供給量の制御することで膜分離操作を自動制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の膜を用いたポリグリセリンの分離方法。
【請求項5】
複数種類のポリグリセリンを含む混合液、希釈液あるいは洗浄液の供給を調節する機能により、膜分離操作あるいはダイアフィルトレーションを実施することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の膜を用いたポリグリセリンの分離方法。
【請求項6】
膜分離装置の運転温度を35℃以上100℃未満に維持する運転をおこなうことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の膜を用いたポリグリセリンの分離方法。
【請求項7】
膜分離装置へのポリグリセリン原液の供給に先立って、膜分離装置の温度を35℃以上100℃未満への範囲となるよう加熱を行うことを特徴とする請求項1乃至6項のいずれか1項記載のポリグリセリンの分離方法。
【請求項8】
濃縮液糖度を測定し、その値に基づいて希釈液あるいは洗浄液を、複数種類のポリグリセリンを含む混合液に添加あるいは循環液と混合・供給することを特徴とする請求項1から5記載のいずれか1項に記載のポリグリセリンの分離方法。
【請求項9】
複数の目的物質が含まれる原液を膜分離装置に供給し、前記膜分離装置から得る透過液中に目的物質を抜き出し、残る他の目的物質を残液に分離するダイアフィルトレーションにおいて、分離操作の分離状態指標および/または進行経過指標を用い、透過液流量、膜分離装置の運転圧力、運転温度、循環液濃度、循環液量から選択した少なくとも1項目の操作項目を設定域に調整あるいは制御することで目的物質の透過傾向を制御することを特徴とする膜を用いた請求項1から6のいずれかに記載のポリグリセリンの分離方法。
【請求項10】
管状のナノ膜および/またはUF膜を用いることを特徴とする請求項1から7のいずれかのポリグリセリンの分離方法。
【請求項11】
ナノ膜および/またはUF膜を複数回透過することを特徴とする複数種類のポリグリセリンの分離方法。
【請求項12】
複数種類のポリグリセリンを含む混合液が、塩類を含む混合液であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のポリグリセリンの分離方法。
【請求項13】
該複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液が、グリセリンおよび/またはポリグリセリンを原料とし、アルカリ触媒下での反応工程を含む製造工程により製造したポリグリセリン混合液であることを特徴とする請求項1から9記載のポリグリセリンの分離方法。
【請求項14】
複数の目的物質が含まれる原液を膜分離装置に供給し、前記膜分離装置から得る透過液中に目的物質を抜き出し、残る他の目的物質を残液に分離するダイアフィルトレーション設備において、分離操作の分離状態指標および/または進行経過指標の監視手段と、透過液流量、膜分離装置の運転圧力、運転温度、循環液濃度、循環液量から選択した少なくとも1項目の操作項目を制御する制御手段を設けたことを特徴とする膜を用いたポリグリセリン混合液の分離装置。
【請求項15】
透過液濃度、透過液糖度、累積透過液量あるいは、経過時間の少なくとも1つに基づき、運転圧力および/または透過液流量を設定する機能、対応する循環液濃度、循環液糖度、あるいは循環液流量に調整しながら洗浄液を供給する調節機能を備え、ダイアフィルトレーションを実施することを特徴とする請求項14記載の膜を用いた目的物質のポリグリセリン混合液の分離装置。
【請求項16】
複数種類のポリグリセリン成分を含む混合液を、分離膜としてナノ膜および/または限外濾過膜を用いて該ポリグリセリン成分について含有比率が異なる液に分離する工程をふくむ製造方法により製造したポリグリセリン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−73763(P2009−73763A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244387(P2007−244387)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(391018592)月島環境エンジニアリング株式会社 (27)
【出願人】(000228729)日本サーファクタント工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】