説明

ポリケトン繊維コードおよびその製造方法

【課題】ポリケトン繊維の撚糸強力保持率を高め、撚り縮みがなく撚糸形状および耐疲労性に優れたポリケトン繊維コードおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】(1) 主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を含む撚糸コードであって、該コードの撚り縮み率が式、撚り縮み率≦1.8×10-4×K+1.3×10-8×K2 (ただし、式中のKは撚り係数で、K=Y×D0.5 で表され、Yは繊維コード1mあたりの撚り数(T/m)、Dは繊維コードの総繊度(dtex)である。)を満足するポリケトン繊維コード。(2) 主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を撚糸してポリケトン繊維コードを製造する際に、該ポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにするポリケトン繊維コードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚糸強力利用率が高く、撚り縮みがなく、撚糸形状および耐疲労性に優れたポリケトン繊維コードとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一酸化炭素とエチレン、プロピレンなどのオレフィンを、パラジウムやニッケルなどの遷移金属錯体を触媒として重合させることにより、一酸化炭素と該オレフィンが実質完全に交互共重合したポリケトンが得られることが知られている(非特許文献1)。またポリケトンの優れた強度、弾性率、高温での寸法安定性、接着性、耐クリープ特性を生かし、産業資材用繊維として応用する研究が進められている。例えば、特許文献1〜4には、タイヤコード、ベルト等の補強繊維などの複合材料用繊維への応用を可能にするため、ポリケント繊維を撚糸コードの形態として耐疲労性を高めることが提案されている。
ここで、撚糸コードとは、糸1本またはそれ以上引きそろえて撚りを加え(これを下撚りという)、これをさらに2本以上引きそろえて下撚りと反対方向に撚り(これを上撚りという)を掛けたコードをいう。
【非特許文献1】工業材料、12月号、第5ページ、1997年
【特許文献1】国際公開第00/09611号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/068738パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/020707パンフレット
【特許文献4】特開2002−339275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ポリケトン繊維を撚糸すると、原糸強力に比較して撚糸強力が低下するという現象、すなわち、撚糸強力保持率(撚糸後の強力/原糸強力)が低くなる傾向が見られた。また撚糸強力利用率が低下したポリケトン撚糸コードには、均一な撚りが入っておらず、繊維が部分的に弛んでいたり、逆に過度に撚糸された構造を有していることがわかった。
このような不均一な撚り構造は、撚り縮み率で定量化することができる。撚り縮み率は(撚糸後のコード長/撚糸前の繊維長)×100で表される値であり、不均一な構造を有する撚糸では、例えば390T/mの場合、この値は10より大きくなる。このような撚り縮み率の大きいコードを補強材として使用すると、材料中で力がコード全体に伝わらず、特定の部位に集中するために耐疲労性が低下し易いという問題があった。
【0004】
本発明の課題は、上記問題を解決し、ポリケトン繊維の撚糸強力保持率を高め、撚り縮みがなく、撚糸形状および耐疲労性に優れたポリケトン繊維コードおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題に鑑み、撚糸したポリケトン繊維の撚糸強力利用率を高くするために、原糸構造、撚糸方法、撚糸条件、油剤等の撚糸に関係する条件を詳細に検討した結果、ポリケトン繊維は、撚糸段階で原糸に張力が均一に伝わりにくく、従って、原糸を傷つけない範囲で高い張力で撚糸することにより、均一な撚糸構造を達成でき、このようなポリケトン繊維を用いた撚糸コードでは、強度、弾性率が高く、コードに均一に力が伝わるために耐疲労性にも優れることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
【0006】
(1)主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を含む撚糸コードであって、該コードの撚り縮み率が下記式(1) を満足することを特徴とするポリケトン繊維コード。
撚り縮み率≦1.8×10-4×K+1.3×10-8×K2 …(1)
(ただし、式中のKは撚り係数で、K=Y×D0.5 で表され、Yは繊維コード1mあたりの撚り数(T/m)、Dは繊維コードの総繊度(dtex)である。)
(2)前記ポリケトン繊維を構成するポリケトンの極限粘度が0.5〜10dl/gであり、かつ前記撚糸コードのコード伸度4%時の強度が2.3〜20cN/dtexであることを特徴とする(1)に記載のポリケトン繊維コード。
(3)前記式(1) の撚り係数Kが1000〜30000であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリケトン繊維コード。
(4)前記ポリケトン繊維コードが、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス樹脂により処理されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリケトン繊維コード。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリケトン繊維コードを用いた繊維強化複合材料。
【0007】
(6)主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を撚糸してポリケトン繊維コードを製造する際に、該ポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにすることを特徴とするポリケトン繊維コードの製造方法。
(7)主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を下撚りして巻きとり後、該下撚り糸を2本以上合わせ、上撚りしてポリケトン繊維コードを製造する際に、該下撚りと上撚りにおけるポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにすることを特徴とするポリケトン繊維コードの製造方法。
(8)主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成された複数本のポリケトン繊維を別々に撚糸し、得られた下撚り糸を巻き取ることなく互いに撚り合わてポリケトン繊維コードを製造する際に、該ポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにすることを特徴とするポリケトン繊維コードの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明におけるポリケトン繊維コードは、ポリケトン繊維が本来備えている寸法安定性、ゴムや樹脂、セメント等に対する接着性、耐疲労性に加え、従来のポリケトン繊維コード対比で、撚糸段階での強度低下および弾性率の低下が少ないため、より高い剛性(強度、弾性率)、耐疲労性を有する。従って、ゴムや樹脂、セメント等の繊維補強材、具体的には、タイヤ、ベルト、ホース、橋脚補強、釣竿、ゴルフシャフト、ラケット等の繊維補強材に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるポリケトン繊維には、主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが用いられるが、ポリケトン中の全繰り返し単位の15モル%未満で1−オキソトリメチレン以外の繰り返し単位、例えば、下記の式(2) に示す繰り返し単位を含んでいてもよい。
−R−C− …(2)


ただし、式中のRはエチレン以外の1〜30の有機基であり、例えばプロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等が例示される。これらの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。またRは2種以上であってもよく、例えば、プロピレンと1−フェニルエチレンが混在していてもよい。高強度、高弾性率が達成可能で、高温での安定性が優れるという点から、1−オキソトリメチレン単位は全繰り返し単位の97モル%以上であるのが好ましく、より好ましくは99モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、式(2) でRがエチレン(−CH2 CH2 −)である場合に1−オキソトリメチレン単位となる。
また、これらのポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含んでいてもよい。
【0010】
本発明のポリケトン繊維コードは、上記ポリケトン繊維を撚糸することにより得られるが、撚糸コードの撚り縮み率が、下記式(1) を満足することが必要であり、耐疲労性向上の観点からは下記式(3) を満足することが好ましい。
撚り縮み率≦1.8×10-4×K+1.3×10-8×K2 …(1)
撚り縮み率≦1.70×10-4×K+1.22×10-8×K2 …(3)
ただし、式中のKは撚り係数と呼ばれ、K=Y×D0.5 で示される。ここで、Yは繊維コード1mあたりの撚り数(T/m)、Dは繊維コードの総繊度(dtex)である。この総繊度は、撚糸に用いた全ポリケトン繊維の繊度の和である。例えば、1660dtexのポリケトン繊維を3本撚り合わせた場合、撚糸物の総表示繊度は4980dtex(1660×3)となる。複数のポリケトン繊維を撚り合わせ、下撚り、上撚り等の多段の撚りを加えた場合、最後に加えた撚りの回数を撚り数Yとして撚り係数を算出する。通常、Kは、撚り数Yが20〜500T/m、耐疲労性の観点から好ましくは100〜450T/m、総繊度Dが50〜300000dtexから算出される値である。
【0011】
撚り縮み率は、撚糸が均一に実施されたかどうかの尺度であり、Kが大きいほど大きい値になるが、上記式(1) を満足する場合に本発明の目的である均質な撚糸が達成され、撚糸強力利用率が高く、耐疲労性に優れたコードが得られる。
撚り縮み率が式(1) の右辺の値を超えると、繊維強化材料の補強材として使用した場合、力が繊維全体に伝達されず、特定の部位に力が集中するため、耐疲労性が低下する。
また、本発明において、ポリケトン繊維コードを構成するポリケトンの極限粘度は0.5〜10dl/gであることが好ましく、より好ましくは2〜10dl/g、特に好ましくは2.3〜5dl/gである。この極限粘度が0.5dl/g未満では分子量が低すぎて耐疲労性が低下する場合がある。一方、極限粘度が10dl/gを超えると、強度が低くなる場合がある。
さらに、本発明のポリケトン繊維コードは、耐疲労性、剛性向上の点から、コード伸度が4%のときの強度が2.3〜20cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは2.5〜20cN/dtex、さらに好ましくは3〜20cN/dtexである。コード伸度4%時の強度は、コードの弾性率を示す尺度であり、この値が高いほど、撚糸にゆるみがなく、均質な撚糸が達成される。
【0012】
本発明のポリケトン繊維コードを構成するポリケトン繊維の繊度には特に制限はないが、単糸繊度は0.01〜10dtexが好ましい。特にコードの撚り縮み率が上記式(1) を満足する場合には単糸繊度が太くなっても繊維内部が均質であるため物性の低下が小さくなる。高度の力学物性を保持させる点からは単糸繊度は0.5〜10dtexが好ましく、さらに好ましくは0.7〜3dtexであり、特に好ましくは0.7〜1.8dtexである。また総繊度にも特に制限はないが、通常、5〜30000dtex、特に産業資材用としては100〜5000dtexとするのが好ましい。
【0013】
本発明のポリケトン繊維コードを構成するポリケトン繊維の強度は、産業資材としての性能発現の観点から7cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは14〜25cN/dtex、さらに好ましくは17〜25cN/dtexである。また、その弾性率は、同様の理由で200cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは250〜600cN/dtexである。
【0014】
ポリケトン繊維は公知の方法、例えば、上記した特許文献1〜4に記載された湿式紡糸法や、溶融紡糸法、乾式紡糸法を、そのまま、または修正して適用することができる。これらの方法のうち、特に高弾性率、耐熱性、寸法安定性に優れた繊維を製造できる濃厚塩溶剤を用いた湿式紡糸法が好ましい。
以下、ハロゲン化亜鉛水溶液を溶剤とした湿式紡糸法を例にして、ポリケトン繊維の製造法について説明する。
溶剤に用いるハロゲン化亜鉛化合物としては、溶解性、溶媒のコスト、水溶液の安定性の点で塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛が好ましい。また必要に応じて、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を60重量%以下で含んでいてもよく、ドープの溶解性、熱安定性、紡糸性の観点から塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどの金属塩を5〜30重量%含有したドープが好ましい。このポリケトンドープを紡糸口金より吐出し、必要に応じてエアーギャップ部を経て凝固浴を通して糸状物とする。凝固浴の組成は、メタノール、アセトン等の有機溶剤、水、有機物水溶液、無機物水溶液等どのようなものであってもよいが、水を含んだ溶液が好ましい。このようにして得た糸状物を必要に応じては金属塩を洗浄し、乾燥、延伸を行う。延伸は、通常融点以下の温度で行われ、延伸倍率はトータルで10倍以上、特に15倍以上の熱延伸を行うことが好ましく、延伸温度を徐々に高くしていく多段延伸法が好適に用いられる。
【0015】
本発明のポリケトン繊維コードは、ポリケトン繊維を撚糸して製造することができるが、均質な撚糸構造を達成し、撚糸強力保持率を高くするため、撚糸時の張力を0.08〜0.7cN/dtex、好ましくは0.2〜0.6cN/dtexとすることが必要である。撚糸時張力が0.08cN/dtex未満では、撚糸強力利用率を高めることができず、0.7cN/dtexを超えると、撚糸段階で繊維に損傷が起こり、撚糸強力保持率の低下、コード強力の低下、毛羽の発生等が生じる。
撚糸方法は、リング撚糸機を用いてポリケトン繊維を一旦下撚りした後、巻きとり、得られた下撚り糸を2本以上合わせて上撚りする方法であっても、直撚糸機を用いて2本のポリケトン繊維を別々に撚糸し、得られた下撚り糸を巻き取ることなく、その後互いに撚り合わせる方法であってもよい。
【0016】
本発明のポリケトン繊維コードの種類としては、例えば、片撚り糸、もろ撚り糸、ビッコもろ撚り糸、強撚糸などが挙げられる。合撚する本数も特に制限はなく1本撚り、2本撚り、3本撚り、4本撚り、5本撚りのいずれでもよく6本以上の合撚であってもよい。この際にはポリケトン繊維以外の繊維、例えば、ナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アラミド繊維、レーヨン等と合撚してもよい。
撚糸数についても単糸繊度や総繊度によって変化するため特に制限はなく、加工条件、使用環境に応じて任意に撚糸数を選定すればよい。例えば、単糸繊度が0.01〜10dtex、総繊度が30〜100000dtexであるポリケトンマルチフィラメントからなる撚糸コードの場合には、K=Y×D0.5 で表される撚り係数Kが1000〜30000の範囲で撚糸されたものが、強度発現、耐疲労性の観点から好ましい。ここでYは撚糸コード1mあたりの撚り数(T/m)、Dは撚糸コードの総繊度(dtex)である。
【0017】
また本発明のポリケトン繊維コードに、10〜30重量%のレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(以下、RFLと略記する)液を付着させ、少なくとも100℃の熱をかけて固着させることにより、熱特性に優れたポリケトン処理コードを得ることができる。RFL樹脂の付着量は、繊維重量に対して2〜7重量%が好ましい。RFL液の組成は特に限定されず、従来公知の組成のものをそのまま、または手を加えて使用することができる。RFL液の好ましい組成は、レゾルシン0.1〜10重量%、ホルマリン0.1〜10重量%、ラテックス1〜28重量%であり、より好ましくはレゾルシン0.5〜3重量%、ホルマリン0.5〜3重量%、ラテックス10〜25重量%である。またRFL液の乾燥温度は、好ましくは120〜250℃、より好ましくは130〜200℃であり、少なくとも10秒、好ましくは20〜120秒間、乾燥熱処理することが好ましい。また、乾燥後のRFL付着コードは、引き続き定長熱処理を行うことが好ましい。熱処理条件として、処理温度はポリケトン撚糸コードの最大熱収縮温度±50℃が好ましく、より好ましくは最大熱収縮温度±10℃、最も好ましくは最大熱収縮温度±5℃であり、通常150〜250℃の範囲である。熱処理時間は10〜300秒が好ましく、より好ましくは30〜120秒である。また、熱処理の際にはコードを定長に維持することが好ましく、熱処理前後のコードの寸法変化は好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、最も好ましくは0%である。
以上の方法で得られたポリケトン繊維は、高強度、高弾性率および高撚糸強力利用率の優れた力学物性を有し、これを撚糸物とした際には原糸の強度を高いレベルで維持し、耐疲労性に優れるため、高強度繊維材料として有用である。特に、タイヤコードやホース、ベルト等のゴム補強材料、ロープ、ネット、漁網等の繊維を強撚して用いる産業資材用分野において極めて有用である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の各測定値は以下の方法で測定した。
1)極限粘度:極限粘度[η]は、次の定義式に基づいて求めた。
[η]=lim(T−t)/(t・C)
C→0
定義式中のtおよびTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールおよび該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。また、Cは上記100ml中のグラム単位による溶質重量値である。
2)強度、伸度、弾性率:JIS−L−1013に準じて測定した。
3)コードの撚り縮み率:JIS−L−1017に準じて測定した。
4)撚糸強力利用率:下記式により算出した。
(撚糸後の撚糸強度/撚糸前の原糸強度)×100(%)
【0019】
5)耐疲労性:
ポリケトン繊維コードを、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(レゾルシン22部、30重量%ホルマリン水溶液30重量部、水酸化ナトリウム10重量%水溶液、水570重量部、ビニルピリジンラテックス41重量部)で処理し、RFL処理コードとした。このコードを天然ゴム70%、SBR15%、カーボンブラック15%配合の未加硫ゴム中に25本/インチで上下2層に配列し、加硫を行い(加硫条件:135℃、35kg/cm2 、40分)、厚さ8mmのベルトを得た。
このベルトを用いてJIS−L1017−2.1(ファイアストン法)に従い、圧縮・曲げ疲労試験を行った(荷重:50kg、ベルト走向速度:100rpm、試験回数:20000回、圧縮率85%)。試験後、圧縮側のコードを取り出し、疲労試験前のコードに対する強度保持率(%)を耐疲労性とした。
6)撚糸時張力:
繊維が実際に撚りを受ける部分の張力をSHIMPO社製の張力計DT−01(張力10N以下)またはDT−05(張力1kg以上)を用いて測定した。
【0020】
(参考例1:ポリケトン繊維の製造)
塩濃度62重量%の塩化カルシウム/塩化亜鉛の混合塩(塩化カルシウム/塩化亜鉛の重量比は64.5/35.5)水溶液に、極限粘度7.0dl/gのポリ(1−オキソトリメチレン)を6.5重量%となるように30℃で混合し、1.3kPaまで減圧した。泡の発生が無くなった後減圧のまま密閉し、これを85℃で2時間攪拌することにより均一で透明なポリケトン溶液(相分離温度は、30℃である。)を得た。得られたポリケトン溶液を20μmのフィルターに通過させた後、直径0.15mmの穴が250個ある紡口口金からプランジャー型押出機を用いて、85℃、5m/分の速度で押し出し、エアギャップ長10mmを通過させ、そのまま2℃の水である凝固浴中を通した後、5m/分の速度でネルソンロールを用いて引き上げた(凝固ドラフト=1.0)。次いでそのネルソンロール上で水を吹きかけて洗浄し、さらに1%の塩酸浴を通して5m/分の速度でネルソンロールを用いて引き上げた後、そのネルソンロール上で水を吹きかけて洗浄し、220℃のホットプレート上を通して乾燥後、5m/分で巻き取った(乾燥ドラフト=1.0)。この繊維6本合わせて225℃で7.5倍、240℃で1.5倍、250℃で1.4倍、257℃で1.35倍の4段延伸(総熱延伸倍率=17)を行い、仕上げ剤を1.6重量%付着させ、張力0.1cN/dtexで巻き取りポリケトン繊維を得た。
得られたポリケトン繊維は、総繊度1630dtex、単糸繊度1.2dtex、強度18.5cN/dtex、伸度5.1%、弾性率412cN/dtexであった。
【0021】
[実施例1〜3、比較例1、2]
参考例1で製造したポリケトン繊維を用い、表1に示す下撚り張力と上撚り張力に設定してポリケトン繊維コードを作製した。具体的には、カジ鉄工社製のリング撚糸機を用いて下撚りを行い、一旦巻き取った後、得られた下撚り糸を2本合わせて上撚りを行った。撚り数は上撚り、下撚りともに390T/mとした。このときの撚り係数Kは22268で式(1) の右辺値は10.5であった。
実施例1〜3では撚糸張力が適切に設定されているため、ポリケトン繊維コードの撚り縮み率が小さく上記式(1) を満足し、いずれも均質な撚り構造をし、撚糸強力利用率、耐疲労性にも優れていた。一方、撚糸張力を0.02cN/dtexと小さくした比較例1では、よりが不均一であり、撚り縮み率が高くなった。また、撚糸張力が高い比較例2では、撚りが不均一で毛羽の発生が大きかった。またいずれの比較例においても強度、弾性率、耐疲労性の低下が見られた。
【0022】
【表1】

【0023】
[実施例4〜6]
参考例1で製造したポリケトン繊維を用いてアルマ社製の直撚糸機により、表2に示す条件で下撚りと上撚りを同時に行った。撚り数は上撚り、下撚りともに390T/mとした。撚り係数Kは22268で式(1) の右辺値は10.5であった。
実施例4〜6では撚糸張力が適切に設定されているため、ポリケトン繊維コードの撚り縮み率が小さく上記式(1) を満足し、いずれも均質な撚り構造をし、撚糸強力利用率、耐疲労性にも優れていた。一方、撚糸張力を0.02cN/dtexと小さくした比較例3では、よりが不均一であり、撚り縮み率が高くなった。また、撚糸張力が高い比較例4では、撚りが不均一で毛羽の発生が大きかった。またいずれの比較例においても強度、弾性率、耐疲労性の低下が見られた。
【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のポリケトン繊維コードは、撚糸段階での強度低下および弾性率の低下が少なく、より高い剛性(強度、弾性率)、耐疲労性を有するため、ゴムや樹脂、セメント等の繊維補強材、具体的には、タイヤ、ベルト、ホース、橋脚補強、釣竿、ゴルフシャフト、ラケット等の繊維補強材に特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を含む撚糸コードであって、該コードの撚り縮み率が下記式(1) を満足することを特徴とするポリケトン繊維コード。
撚り縮み率≦1.8×10-4×K+1.3×10-8×K2 …(1)
(ただし、式中のKは撚り係数で、K=Y×D0.5 で表され、Yは繊維コード1mあたりの撚り数(T/m)、Dは繊維コードの総繊度(dtex)である。)
【請求項2】
前記ポリケトン繊維を構成するポリケトンの極限粘度が0.5〜10dl/gであり、かつ前記撚糸コードのコード伸度4%時の強度が2.3〜20cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載のポリケトン繊維コード。
【請求項3】
前記式(1) の撚り係数Kが1000〜30000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリケトン繊維コード。
【請求項4】
前記ポリケトン繊維コードが、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス樹脂により処理されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリケトン繊維コード。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリケトン繊維コードを用いた繊維強化複合材料。
【請求項6】
主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を撚糸してポリケトン繊維コードを製造する際に、該ポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにすることを特徴とするポリケトン繊維コードの製造方法。
【請求項7】
主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成されたポリケトン繊維を下撚りして巻きとり後、該下撚り糸を2本以上合わせ、上撚りしてポリケトン繊維コードを製造する際に、該下撚りと上撚りにおけるポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにすることを特徴とするポリケトン繊維コードの製造方法。
【請求項8】
主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成された複数本のポリケトン繊維を別々に撚糸し、得られた下撚り糸を巻き取ることなく互いに撚り合わてポリケトン繊維コードを製造する際に、該ポリケトン繊維の撚糸時張力を0.08〜0.7cN/dtexにすることを特徴とするポリケトン繊維コードの製造方法。

【公開番号】特開2006−2263(P2006−2263A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176954(P2004−176954)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】