説明

ポリチオフェン組成物、およびそれを用いてなる導電膜、ならびに積層体

【課題】水溶性の低い溶剤中でも安定に溶解または分散が可能なポリチオフェン組成物の提供。さらに、均一塗膜の形成が可能であり、形成された塗膜中において、優れた導電性を有する導電膜が形成可能なポリチオフェン組成物の提供を目的とする。
【解決手段】プロトン酸(A)、ならびに硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)の存在下、あるいは、硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤(B−2)の存在下にて、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)を酸化重合した重合体が、有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種の有機媒体(D)に分散してなるポリチオフェン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れ透明性の高い均一塗膜の形成が可能である新規なポリチオフェン組成物およびその製造方法に関する。さらには該組成物から形成されてなる導電膜、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性高分子は、電解コンデンサ、電池電極材料、有機EL材料、エレクトロクロミック材料、導電性アクチュエーター、エレクトロレオロジー(ER)材料等に応用されている。
【0003】
近年は、さらにハードコート剤、粘接着剤、各種コーティング剤、樹脂成型物への帯電防止性、導電性付与や、リソグラフィー、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの各種印刷方法を用いた電気回路形成などに利用されはじめており、溶剤や樹脂への溶解または分散性を有する導電性高分子の必要性がますます高まってきている。しかし、一般に導電性高分子は、溶剤や樹脂に対して不溶不融のものが多く、溶解または分散させることは困難であった。
【0004】
溶剤への分散性を有するポリチオフェンの製造方法が特許文献1〜3に開示されている。これらは、ドーパントおよび分散剤の役割を果たす化合物としてポリ(p−スチレンスルホン酸)を使用しており、分散媒として使用できる溶剤が水、および水と完全に混和するような極性溶剤に限られている。そのため、各種コート剤に広く用いられているメチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエンなどのような、水と完全に混和しない溶剤へ分散させることができない。
【0005】
上記の問題を解決する方法として、ポリ(p−スチレンスルホン酸)のようなポリスルホン酸の存在下で重合したポリチオフェンを、相間移動触媒やアミン化合物を有機溶剤への分散剤として用いて有機溶剤へ転相する方法が特許文献4、5に開示されている。これらの方法は工程が煩雑な上、多量の分散剤を必要とし、得られたポリチオフェン組成物を各種コート剤に使用する場合、帯電防止性または導電性を付与するために十分な量のポリチオフェンを配合する必要がある。しかし、多量の分散剤が、他の膜物性に悪影響を及ぼしてしまう問題がある。
【特許文献1】特開平7−90060号公報
【特許文献2】特開平8−48858号公報
【特許文献3】特開2006−28214号公報
【特許文献4】特開2006−249302号公報
【特許文献5】特開2008−45116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水溶性の低い溶剤中でも安定に溶解または分散が可能なポリチオフェン組成物の提供を目的とする。さらに、均一塗膜の形成が可能であり、形成された塗膜中において、優れた導電性を有する導電膜が形成可能なポリチオフェン組成物の提供を目的とする。さらには、極めて少量の導電性成分の配合により優れた帯電防止性を発現し、塗膜に求められる帯電防止性以外の物性にも優れた導電膜の形成が可能なポリチオフェン組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題を解決するため、鋭意検討した結果、本発明に達した。即ち、第1の発明は、プロトン酸(A)、ならびに硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)の存在下、あるいは、硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤(B−2)の存在下にて、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)を酸化重合した重合体が、有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種の有機媒体(D)に分散してなるポリチオフェン組成物に関する。
【0008】
また、第2の発明は、プロトン酸(A)が、塩酸、リン酸、硫酸、およびスルホン酸基を分子内に有する化合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする第1の発明のポリチオフェン組成物に関する。
【0009】
また、第3の発明は、チオフェン誘導体(C)が、3,4−エチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする第1または第2の発明のポリチオフェン組成物に関する。
【0010】
また、第4の発明は、有機媒体(D)が、水と非親和性であることを特徴とする第1〜3いずれかの発明のポリチオフェン組成物に関する。
【0011】
また、第5の発明は、第1〜4いずれかの発明のポリチオフェン組成物から形成されてなる導電膜に関する。
【0012】
また、第6の発明は、基材と第5の発明の導電膜とを有する積層体に関する。
【0013】
また、第7の発明は、プロトン酸(A)、ならびに硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)の存在下、あるいは、硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有する界面活性剤(B−2)の存在下にて、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)を水性媒体中で酸化剤(E)または酸素を用いて酸化重合し、重合体溶液を得る第1の工程、
得られた重合体溶液に、有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種の有機媒体(D)を加え、重合体を有機媒体(D)中に抽出する第二の工程、および、
水を除去する第三の工程を含むことを特徴とするポリチオフェン組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、水溶性の低い溶剤中でも安定に溶解または分散が可能なポリチオフェン組成物を提供することができた。さらに、均一塗膜の形成が可能であり、形成された塗膜中において、極めて少量の導電性成分の配合により優れた導電性を発現し、塗膜に求められる導電性以外の物性にも優れた導電膜の形成が可能なポリチオフェン組成物を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリチオフェン組成物に含まれる各成分について、以下に説明する。
【0016】
<プロトン酸(A)>
本発明におけるプロトン酸(A)は、酸化重合時のpHを低くし、酸化重合速度を上げる目的で使用する。プロトン酸(A)は、無機酸と有機酸とに分類できる。無機酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、過塩素酸、臭化水素酸などが挙げられる。有機酸としては、例えば、カルボン酸基を分子内に有する化合物、スルホン酸基を分子内に有する化合物、ホスホン酸基を分子内に有する化合物などが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に塩酸、リン酸、硫酸、またはスルホン酸基を分子内に有する化合物の少なくともいずれかを使用することで高導電性のポリチオフェン組成物が得られるため好ましい。
【0017】
スルホン酸基を分子内に有する化合物としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。なお、ここでいう「スルホン酸基」とは、塩を形成しているものではなく、プロトンが酸素原子に結合したスルホン酸を意味する。すなわち、「スルホン酸塩」は、「スルホン酸基を分子内に有する化合物」からは除外される。
【0018】
酸化重合中、プロトン酸(A)は、チオフェンおよびチオフェン誘導体(C)1モルに対して、0.01〜5.0モルを使用することが好ましい。0.01モル未満であると、pHが十分に低下しないためプロトン酸(A)による効果が得られない場合があり、さらに、有機相への転相時に分散性が悪くなる場合がある。5.0モルより多いと、非常に酸性が強くなり、酸化重合後の廃液を中和するために多量の塩基が必要になる。
【0019】
<硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)、硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤(B−2)>
本発明における、硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)[以下、アニオン性界面活性剤(B−1)と表記する場合がある]、ならびに硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤(B−2)[以下、アニオン性界面活性剤(B−2)と表記する場合がある]は、導電性高分子の導電性を高めるドーパントとして、さらに、水溶性の低い溶剤中への分散剤としての役割を果たしている。なお、ここでいう「硫酸モノエステル構造」、「スルホン酸基」とは、塩を形成しているものではなく、プロトンが酸素原子に結合した構造または官能基を意味する。すなわち、「硫酸モノエステル塩」、「スルホン酸塩」は含まない。
【0020】
アニオン性界面活性剤(B−1)は、特に限定されるものではない。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリル硫酸カリウムなどのアルキル硫酸塩類;
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ステアリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、などのアルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンのスルホン酸塩類;
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩類;
ドデシルリン酸ナトリウム、メタクリロイルオキシエチルリン酸ナトリウムなどのリン酸(ホスホン酸)およびその塩類;
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、などのカルボン酸およびその塩類、などが挙げられる。
アニオン性界面活性剤(B−2)として硫酸モノエステル構造を有するアニオン性界面活性剤は、例えば、硫酸モノラウリル、硫酸モノステアリルなどのアルキル硫酸エステル類;
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸などのポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、などが挙げられる。
【0021】
アニオン性界面活性剤(B−2)としてスルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤は、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ステアリルベンゼンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、などのアルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンのスルホン酸類;
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸類、などが挙げられる。
【0022】
アニオン性界面活性剤として、アニオン性界面活性剤(B−2)を用いると、導電性が良好であるという点、および水溶性の低い溶剤への分散性が良好であるという点から好ましい。アニオン性界面活性剤として、アニオン性界面活性剤(B−2)を用いる場合、プロトン酸(A)は用いなくてもよいが、必要に応じて両者を併用してもよい。
【0023】
酸化重合中、アニオン性界面活性剤(B−1)およびアニオン性界面活性剤(B−2)は、チオフェンおよびチオフェン誘導体(C)1モルに対して、0.2〜3.0モルを使用することが好ましい。0.2モル未満では、十分な導電性、溶剤分散性を得ることができない場合がある。また、3.0モルより多いと、余分な界面活性剤により、得られる導電膜の物性が悪化する場合がある。
【0024】
<チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)>
チオフェンは、硫黄を含む複素環式化合物であり、C44Sなる分子式にて表される。チオフェン誘導体(C)としては、例えば、3−チオフェンカルボアミド、3−チオフェンマロン酸、3−チオフェンメタノール、3−チオフェンエタノール、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−チオフェンアルデヒド、3−ヘキシルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−ドコシルチオフェン、3−チオフェンカルボン酸、3−チオフェンアセトニトリル、3−チオフェンカルボキシアルデヒド、3−チオフェンアセチルクロライド、3−チオフェンホウ酸、3−チオフェンカルボキシルクロライド、3−チオフェンエタンスルフォネート、3−チオフェンブタンスルフォネートなどが挙げられる。チオフェンおよびチオフェン誘導体(C)は1種のみで使用しても、2種以上併用してもよい。導電性、透明性などの点から3,4−エチレンジオキシチオフェンが特に好ましい。
【0025】
<有機溶媒体(D)>
本発明で用いる有機媒体(D)は、下記の有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
<有機溶剤(D−1)>
本発明に用いる有機溶剤(D−1)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭化水素類;
メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(別名:イソプロピルアルコール、IPA)、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール、グリコール類;
2−メトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール(別名:エチルセロソルブ)、2−ブトキシエタノール(別名:ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(別名:エチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(別名:ブチルカルビトール)などのエーテルアルコール類;
アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、メトキシプロピルアセテートなどのエステル類;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0027】
<活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)>
活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)とは、電子線、紫外線などの活性エネルギー線を照射によって、架橋反応が起こり硬化する化合物である。架橋反応には主にラジカル重合、カチオン重合が用いられる。
【0028】
ラジカル重合を起こす化合物は、分子内に1個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物であり、それらの中でも(メタ)アクリレート類を好ましく使用することができる。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリブタジエンポリオール(メタ)アクリレート、水添ポリブタジエンポリオール(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0029】
カチオン重合を起こす化合物は、分子内に1個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物、または、分子内に1個以上のヘテロ環構造を有する化合物である。それらの中でも、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基を有する化合物を好ましく使用することができる。またこれらの化合物は、式量または重量平均分子量1000未満の低分子化合物が好ましい。ビニルエーテル基を有する化合物は、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,9−ノナンジオールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、などが挙げられる。エポキシ基を有する化合物は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,9−ノナンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、などが挙げられる。オキセタン基を有する化合物は、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシエチルオキセタン、およびそのエーテル、エステル類が挙げられる。
【0030】
<バインダー樹脂(D−3)>
バインダー樹脂(D−3)は、塗膜を形成する主剤として特に有機溶剤(D−1)と併用して使用される。バインダー樹脂(D−3)は、ポリチオフェン組成物中の硬化性樹脂として、もしくはイナート樹脂として使用され、必要とされる塗膜の特性に応じて選択、組み合わせることができる。また、好ましくは、式量または重量平均分子量が1000以上の化合物である。バインダー樹脂(D−3)としては、例えば、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、セルロース誘導体、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ゴム類、などが挙げられる。
【0031】
本発明において、これらの有機媒体(D)のうち、水と非親和性であるものを使用した場合においても、有機媒体(D)にチオフェンまたはチオフェン誘導体(C)の重合体を安定に分散できることが特徴である。ここで、「水と非親和性である」とは、25℃で、水50重量部と有機媒体(D)50重量部とを混合したときに、水相と有機相の2層に分離する特性のことをいう。
【0032】
<酸化剤(E)または酸素>
本発明において酸化剤(E)または酸素は、チオフェンおよびチオフェン誘導体(C)を酸化し、チオフェン環同士を結合させる、すなわち重合させるために使用する。酸化剤(E)を使用して酸化する、もしくは空気を吹き込んで、空気中の酸素で酸化する方法が用いられる。
【0033】
酸化剤(E)としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、過酢酸、過安息香酸などの過酸類、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化イソブチルなどの過酸化物、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、p−トルエンスルホン酸鉄(III)など鉄(III)イオンを有する塩などが挙げられる。その他2種以上の酸価数を持つ金属イオンを有する塩は、鉄(III)と同様、高酸価数の金属イオンを有する塩(例えば、過マンガン酸塩、二クロム酸塩など)として使用することができる。
【0034】
酸化重合の速度、導電性の点から、酸化剤(E)としては、鉄(III)イオンを有する塩を使用することが好ましい。また、他の酸化剤、例えば、過硫酸塩と併用して鉄(III)イオンを使用することも、重合速度、優れた導電性を得られるという観点から好ましい。
【0035】
酸化剤(E)は、チオフェンおよびチオフェン誘導体(C)に対して、0.5当量〜2当量使用することが好ましい。0.5当量未満では理論上必ず未反応のチオフェンまたはチオフェン誘導体(C)が残ってしまうため好ましくない。また、2当量より多い場合は余剰の酸化剤(E)が悪影響を及ぼす場合がある。なお、酸素を使用する場合は、余剰の酸素は空気中に飛散し、反応した酸素は水になるため、余剰の酸素が悪影響を及ぼすことはない。したがって、酸素は0.5当量以上であればよい。酸素は例示した他の酸化剤と比較して反応性がやや劣り、水などの反応媒体中への溶解性が悪いことから、鉄(III)イオンを添加し、重合液中に空気または酸素を過剰に吹き込みながら重合を行うことが好ましい。
【0036】
ここで酸化剤(E)をチオフェンおよびチオフェン誘導体(C)に対して1当量使用するということは、酸化重合にともなって酸化剤(E)が奪う電子の量(モル)と、チオフェンおよびチオフェン誘導体(C)が放出する電子の量(モル)とが等しいことを示している。例えば、チオフェンに対して、硫酸鉄(III)を1当量使用する場合について説明する。チオフェン1モルは、電子2モルを放出する[チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)は、チオフェン環1モルあたり電子を2モル放出する]。一方、硫酸鉄(III)1モルは、電子2モルを奪う[鉄(III)イオン1モルは、電子1モルを奪う。硫酸鉄(III)1モルは鉄(III)イオンを2モル有するため、硫酸鉄(III)1モルは電子を2モル奪う]。従ってこの場合、使用するチオフェンと硫酸鉄(III)とのモル比は1:1となる。また、酸化剤(E)として過硫酸アンモニウムを1当量使用する場合、過硫酸アンモニウム1モルは、電子2モルを奪うため、使用するチオフェンと過硫酸アンモニウムとのモル比は1:1となる。
【0037】
上記の酸化重合は通常、水性媒体中で行われる。これは酸化剤(E)が水溶性であり有機溶剤には溶解しにくいためである。水性媒体は水のみであってもよく、また、水を主成分として、酸化剤(E)が溶解する範囲で有機溶剤を併用してもよい。併用できる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0038】
酸化重合を行う際の反応温度は、−20℃〜100℃が好ましい。さらに0℃〜50℃が副反応を抑制する点でより好ましい。
【0039】
酸化重合を行う時間は、使用するプロトン酸(A)、アニオン性界面活性剤(B)、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)、酸化剤(E)または酸素、反応温度によって異なるが、5〜100時間で行う。通常は5〜50時間が好ましい。
【0040】
酸化重合した後、得られた重合体溶液に有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)、およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種の有機媒体(D)を加え、重合体を有機媒体(D)中に分散または溶解し、水を除去することにより、本発明のポリチオフェン組成物を得ることができる。重合体を有機媒体(D)中に分散または溶解した際に、有機媒体(D)が水に完全に混和することなく、有機相と水相とに分離することが、水相を容易に除去できるため好ましい。すなわち、有機媒体(D)は、水と非親和性であることが好ましい。有機媒体(D)と水とが完全に混和してしまう場合には、固体の乾燥剤を使用し、水を吸着させた後、濾過で取り除く方法や、溶剤とともにストリッピングして水を除去する方法などで本発明のポリチオフェン組成物を得ることができる。
【0041】
本発明のポリチオフェン組成物は、必要に応じて、さらに有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)、およびバインダー樹脂(D−3)を添加しても良い。また、熱硬化樹脂、光重合開始剤、硬化剤、レベリング剤、消泡剤、フィラー、染料、酸化防止剤、重合禁止剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤、などの添加物を加えることができる。
【0042】
本発明のポリチオフェン組成物の使用方法は、要求される導電膜の導電性によって大きく2つに分類できる。
【0043】
高い導電性を求められる場合(一般的に106Ω/□以下)、本発明のポリチオフェン組成物を単独で使用、もしくは、他の物性を向上する目的で少量の添加剤を加えて使用する。すなわち有機媒体(D)としては主に有機溶剤(D−1)を使用するのが塗工後、乾燥することにより塗膜から除去することができるため好ましい。
【0044】
帯電防止程度の導電性を必要とする場合(一般的に108〜1012Ω/□)、帯電防止を付与する主剤、例えば、活性エネルギー線硬化性組成物、粘接着剤組成物、コーティング剤、樹脂成型物等に、本発明のポリチオフェン組成物を添加して使用する。このとき、有機媒体(D)として有機溶剤(D−1)を使用して、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)の重合体の溶剤分散体を作製して主剤に添加する方法と、有機媒体(D)として、主剤に用いる活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)やバインダー樹脂(D−3)を使用し、直接ポリチオフェン、すなわちチオフェンまたはチオフェン誘導体(C)の重合体が添加された樹脂組成物を作製する方法がある。このとき、添加するチオフェンまたはチオフェン誘導体(C)の重合体の量は、要求される導電性を発現する範囲でできるだけ少量であることが好ましく、通常は主剤100重量部に対して0.01〜10重量部の割合となるように添加される。
【0045】
本発明のポリチオフェン組成物に活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)を含まない場合は、基材に塗工後、必要に応じて自然または強制乾燥することによって導電膜を得られる。本発明のポリチオフェン組成物に活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)を含む場合は、基材に塗工後、必要に応じて自然または強制乾燥した後に活性エネルギー線を照射することで硬化を行っても良いし、塗工に続いて活性エネルギー線を照射した後に、必要に応じて自然または強制乾燥しても構わないが、自然または強制乾燥後に活性エネルギー線を照射した方が好ましい。電子線で硬化させる場合は、水による硬化阻害又は有機溶剤の残留による塗膜の強度低下を防ぐため、自然または強制乾燥後に電子線硬化を行うのが好ましい。活性エネルギー線硬化のタイミングは塗工と同時でも構わないし、塗工後でも構わない。公知の活性エネルギー線硬化方法により硬化させ硬化物とすることができ、活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、波長400〜500nmの可視光を使用することができる。
【0046】
照射する電子線の線源には熱電子放射銃、電界放射銃等が使用できる。また、紫外線および波長400〜500nmの可視光の線源(光源)には、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ等を使用することができる。照射する活性エネルギー線量は、5〜2000mJの範囲で適時設定できるが、工程上管理しやすい50〜1000mJの範囲であることが好ましい。
【0047】
また、これら紫外線または電子線と、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱等による熱の併用も可能である。
【0048】
本発明のポリチオフェン組成物から得られた導電膜は、低い表面抵抗値を示し、導電性材料から帯電防止材料まで様々な用途で使用できる。導電膜の表面抵抗値は1010(Ω/□)以下が好ましく、さらには106(Ω/□)以下であることが特に好ましい。
【0049】
本発明のポリチオフェン組成物は、有機または無機基材に塗布し、導電膜を有する積層体を得ることができる。適当な無機基材の例には、ガラス、酸化物または酸化性もしくは非酸化性セラミック(例えば、酸化アルミニウム、窒化ケイ素)が挙げられる。適当な有機基材の例には、純粋な有機重合体、共重合体またはその混合物が挙げられ、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリアミド、ポリイミド、適宜ガラス繊維強化されたエポキシ樹脂、セルロース誘導体(例えば、三酢酸セルロース)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)が挙げられる。
【0050】
本発明のポリチオフェン組成物は、有機溶剤や樹脂への溶解または分散性に優れ、従来に比べ、加工性が大きく改善されている。均一塗膜の形成が可能であり、形成される塗膜は導電性が非常に優れており、電解コンデンサ、電池電極材料、有機EL材料、エレクトロクロミック材料、導電性アクチュエーター、エレクトロレオロジー(ER)材料、ハードコート剤、粘接着剤、各種コーティング剤、樹脂成型物や、リソグラフィー、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの各種印刷方法を用いた電気回路形成等の用途に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を意味する。
【0052】
製造例、実施例中にある略称、製品名は以下の通りである。
p−TsOH:p−トルエンスルホン酸
ネオペレックスGS:p−ドデシルベンゼンスルホン酸(花王社製)
EDOT:3,4−エチレンジオキシチオフェン(Aldrich社製)
APS:過硫酸アンモニウム
MIBK:メチルイソブチルケトン
MEK:メチルエチルケトン
3MT:3−メチルチオフェン(Aldrich社製)
Fe(OTs)3:p−トルエンスルホン酸鉄(III)(Aldrich社製)
ペレックスOT−P:ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(花王社製)
ネオペレックスG−15:p−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(日本化薬社製:KAYARAD TMPTA)
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製:KAYARAD DPHA)
イルガキュア184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
PP−2000:2官能ポリエーテルポリオール、OH価56mgKOH/g、三洋化成工業株式会社製)
エピコート828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製)
【0053】
各項目の評価は以下の方法にて行った。
【0054】
有機媒体(D)への分散性:得られたポリチオフェン組成物を静置した際に、1時間以内にチオフェンまたはチオフェン誘導体(C)の重合体が沈降してしまうものは「×」、均一に分散しているものは「○」とした。
【0055】
表面抵抗の測定:PETフィルムに10cm×10cm以上の大きさで塗工された下記実施例で得られた積層体を用意し、23℃、湿度50%RH下で、株式会社Advantest製のデジタル超高抵抗/微小電流計(R8340A)を使用し、二重リング法にて測定した。以下、測定値を「over」と表記している場合は、測定できる表面抵抗の上限を超えていることを示しており、測定条件から1×1015Ω/□以上である。
【0056】
鉛筆硬度:JIS K5400に従って評価した。
【0057】
重量平均分子量:TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で展開溶媒にTHFを用いたときのポリスチレン換算分子量を用いた。
【0058】
粘着力:下記実施例で得られた積層体から、25mm幅、100mm長のサンプルを切り出し、剥離シートを剥がして(粘着剤層の厚さ25μm)、粘着シートを厚さ1.1mmのガラス板に23℃、湿度65%RHにて貼着し、JISに準じてロール圧着し、20分後、ショッパー型剥離試験器にて剥離強度(180度ピール、引張り速度300mm/min)を測定した。
【0059】
保持力:下記実施例で得られた積層体から、25mm幅、100mm長のサンプルを切り出し、剥離シートを剥がして(粘着剤層の厚さ25μm)、粘着シートを厚さ0.4mmのステンレス板(SUS304)の端部に23℃、湿度65%RHにて、貼り合わせ面積が25mm×25mmになるように貼着し、JISに準じてロール圧着し、40℃に20分間放置後に、粘着シートに1kgの荷重をかけ、60分後の貼付け位置のずれを測定した。
【0060】
(実施例1)
200mLビーカーにプロトン酸(A)として10%硫酸水溶液を7.81部、スルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤(B−2)としてネオペレックスGSを0.95部、水を67.06部加えて、均一になるまで攪拌した。その後、チオフェン誘導体(C)としてEDOTを0.41部加えて30分攪拌した。別の容器に酸化剤(E)として、APSを0.84部、1%硫酸鉄(III)水溶液2.32部、水6.33部を加えて溶解し、酸化剤溶液を作製した。200mLビーカーにこの酸化剤溶液を加え、24時間室温で攪拌すると、均一な濃青色の溶液が得られた。この重合体溶液に有機溶剤(D−1)としてMIBK42.85部を加え、十分に攪拌後、静置すると、下層が無色透明、上層が均一な濃青色の2層に分離した。上層のみを取り出し、ポリチオフェン組成物を得た。この固形分は2.9%であった。
【0061】
得られたポリチオフェン組成物をPETフィルムにバーコーター#9で塗工し、100℃で2分間、オーブンで乾燥させた。得られた導電膜は濃青色透明であった。この導電膜をメタノールで洗浄後、再度100℃1分乾燥させ、表面抵抗を測定したところ、6.0×104Ω/□であった。
【0062】
(実施例2〜8および比較例1、2)
下記表1に示すように作製条件を変更した以外は実施例1と同様にしてポリチオフェン組成物を作製し、評価を行った。評価結果も合わせて表1に示す。この結果から、プロトン酸(A)およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)の両者を使用したか、あるいは、プロトン酸(A)の有無によらず、スルホン酸基を有する界面活性剤(B−2)を使用した実施例1〜8のポリチオフェン組成物は、有機媒体(D)への分散性、導電性が良好であるのに対し、比較例1および2のポリチオフェン組成物は有機媒体(D)への分散性が悪いことがわかった。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例9)
有機媒体(D)として活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)であるトリメチロールプロパントリアクリレートを使用した以外は、実施例1と同様にして活性エネルギー線硬化性化合物を含有したポリチオフェン組成物を得た。組成物中のポリチオフェン成分は、実施例1から2.9%程度と推測される。
【0065】
得られたポリチオフェン組成物10部に対し、光重合開始剤としてイルガキュア184を0.5部配合し、これをPETフィルムに膜厚が5μmになるようにバーコーターを用いて塗工し、100℃で2分間、オーブンで乾燥させた。その後、メタルハライドランプを用いて、400mJ/cm2の紫外線を照射し、帯電防止性を有する積層体(ハードコート膜)を得た。
【0066】
(実施例10〜12および比較例3、4)
下記表2に示すように作製条件を変更した以外は実施例9と同様にして活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)を含有したポリチオフェン組成物を作製した。実施例10〜12ではポリチオフェンが良好に分散していたが、比較例3および4では有機相に転相できなかった。実施例10〜12については、実施例9と同様にして帯電防止性を有する積層体(ハードコート膜)を得た。
【0067】
【表2】

【0068】
(実施例13)
実施例1で得られたポリチオフェン組成物13.79部、TMPTAを10部、MIBK2.2部、イルガキュア184を0.5部配合し、これをPETフィルムに膜厚が5μmになるようにバーコーターを用いて塗工し、100℃で2分間、オーブンで乾燥させた。その後、メタルハライドランプを用いて、400mJ/cm2の紫外線を照射し、積層体(ハードコート膜)を得た。
【0069】
(実施例14、15および比較例5、6)
下記表3に示すように作製条件を変更した以外は実施例13と同様にして、積層体(ハードコート膜)を得た。
【0070】
【表3】

【0071】
実施例9〜15および比較例5、6について、表面抵抗および鉛筆硬度を測定した。測定結果は表2および表3に示した。
【0072】
実施例9〜15のポリチオフェン組成物は、重合体が活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)に良好に分散し、ポリチオフェン組成物を含まない組成物(比較例5、6)と同等の硬度を保持しながら、帯電防止性を付与することができた。これに対し、比較例3、4では、重合体が活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)中に良好に分散したポリチオフェン組成物を得ることができなかった。
【0073】
<バインダー樹脂(D−3)の合成>
(製造例1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート60.0部、2−エチルヘキシルアクリレート37.0部、4−ヒドロキシブチルアクリレート1.0部、アセトン150.0部、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.06部を仕込み、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら窒素雰囲気下中で、この反応溶液を60℃に昇温させ、5時間反応させ、1段階目の反応を終了した。得られたアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は1,580,000であった。次いで、トルエンを190部とアクリル酸0.84部および2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.50部を添加して、70℃に昇温し、6時間反応させた。反応後、トルエン55部を添加して室温まで冷却し、2段階目の反応を終了した。2段階目の反応で得られたアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は22,000であった。固形分は20%であった。
【0074】
(製造例2)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコにイソホロンジアミン300部、トルエン300部を仕込み、2−エチルヘキシルアクリレート324部および2−ヒドロキシエチルアクリレート184部を滴下ロートより室温で滴下した。滴下終了後、80℃で1時間反応させた後、トルエン508部を加えたものを化合物(1)とする。
【0075】
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコにPP−2000を257部、イソホロンジイソシアネートを43部、トルエン75部、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.05部を仕込み、100℃まで徐々に昇温し2時間反応を行った。その後、40℃まで冷却し、酢酸エチル227部、アセチルアセトン0.9部を加えた後、化合物(1)61部を1時間で滴下し、さらに1時間熟成した後、2−アミノ−2−メチルプロパノール2.1部を加えて、IRチャートのNCO特性吸収(2270cm-1)が消失していることを確認し反応を終了した。得られたポリウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)は90,000、固形分は50%であった。
【0076】
(製造例3)
攪拌機、温度計、水分離装置、還流冷却器、窒素導入管を備えた重合反応装置の重合槽に、イソフタル酸215.70部、セバシン酸232.76部、1,4−ブタンジオール53.40部、1,6−ヘキサンジオール70.65部、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール96.22部、2−メチル−1,3−プロパンジオール77.67部、トリメチロールプロパン3.61部 を仕込み、重合槽内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら窒素雰囲気下、160℃に昇温した。160℃で脱水を確認してから30分毎に10℃ずつ昇温し、250℃まで温度を上げて脱水反応を行った。250℃で更に反応を続け、酸価が15mgKOH/g以下になったら、150℃まで温度を下げた。150℃でテトラブチルチタネート0.1部を加えて、温度を240℃まで昇温し、240℃になったら徐々に減圧を開始し、5mmHg以下で5時間脱ジオール反応を行って反応を終了した。このポリエステルをMEK/酢酸エチル=1/1(重量比)の混合溶剤に溶解し、固形分50%に調整してポリエステル溶液を得た。得られたポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は113,000であった。
【0077】
(実施例16)
有機媒体(D)としてバインダー樹脂(D−3)である、製造例1のアクリル樹脂溶液を85.13部使用した以外は、実施例1と同様にしてポリチオフェン組成物を得た。固形分中のポリチオフェン成分は、実施例1から7.2%程度と推測される。
【0078】
得られたポリチオフェン組成物50.0部に対して、硬化剤としてキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を0.025部、エピコート828を1.2部添加し、よく攪拌して、ポリチオフェン含有粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0079】
(実施例17)
有機媒体(D)としてバインダー樹脂(D−3)である、製造例2のポリウレタン樹脂溶液を85.13部使用した以外は、実施例1と同様にしてポリチオフェン組成物を得た。固形分中のポリチオフェン成分は、実施例1から2.9%程度と推測される。
【0080】
得られたポリチオフェン組成物50.0部に対して、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(75%酢酸エチル溶液)を1.0部添加し、よく攪拌して、ポリチオフェン含有粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0081】
(実施例18)
有機媒体(D)としてバインダー樹脂(D−3)である、製造例3のポリエステル樹脂溶液を85.13部使用した以外は、実施例1と同様にしてポリチオフェン組成物を得た。固形分中のポリチオフェン成分は、実施例1から2.9%程度と推測される。
【0082】
得られたポリチオフェン組成物50.0部に対して、トルエン12.5部、硬化剤としてトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を1.25部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.25部を添加し、よく攪拌して、ポリチオフェン含有粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0083】
(実施例19)
製造例1で得られたアクリル樹脂溶液50.0部に、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を0.025部、エピコート828を1.2部、実施例1で得られたポリチオフェン組成物13.8部を加えてよく攪拌し、ポリチオフェン含有粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0084】
(実施例20)
製造例2で得られたポリウレタン樹脂溶液50.0部に、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(75%酢酸エチル溶液)を1.0部、実施例1で得られたポリチオフェン組成物34.5部を加えてよく攪拌し、ポリチオフェン含有粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0085】
(実施例21)
製造例3で得られたポリエステル溶液50.0部に、トルエン12.5部、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を1.25部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.25部、実施例1で得られたポリチオフェン組成物34.5部を加えてよく攪拌し、ポリチオフェン含有粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0086】
(比較例7〜9)
有機媒体(D)としてバインダー樹脂(D−3)である、製造例1〜3の樹脂溶液を85.13部使用した以外は、比較例2と同様にしたところ、いずれも、有機媒体(D)にポリチオフェンを転相できなかった。
【0087】
(比較例10)
製造例1で得られたアクリル樹脂溶液50.0部に、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を0.025部、エピコート828を1.2部加えてよく攪拌し、粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0088】
(比較例11)
製造例2で得られたポリウレタン樹脂溶液50.0部に、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(75%酢酸エチル溶液)を1.0部添加し、よく攪拌して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0089】
(比較例12)
製造例3で得られたポリエステル樹脂溶液50.0部に、トルエン12.5部、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を1.25部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.25部を加えてよく攪拌し、粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を剥離処理されたPETフィルム(剥離シート)に乾燥膜厚が25μmになるように塗工し、オーブンで100℃1分間乾燥した。これをPETフィルムに貼り合わせ、23℃、湿度50%RHで1週間熟成させ積層体(粘着シート)を得た。
【0090】
実施例16〜21、および比較例10〜12で得られた積層体について、表面抵抗、粘着力、保持力を評価した。結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
実施例16〜21のポリチオフェン組成物は、重合体がバインダー樹脂(D−3)を含む有機相媒体(D)に良好に分散し、ポリチオフェン組成物を含まない組成物(比較例10〜12)と同等の粘着力、保持力を有しながら、帯電防止性を付与することができた。これに対し、比較例7〜9では、重合体がバインダー樹脂(D−3)を含む有機媒体(D)に良好に分散したポリチオフェン組成物を得ることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン酸(A)、ならびに硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)の存在下、あるいは、硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤(B−2)の存在下にて、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)を酸化重合した重合体が、有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種の有機媒体(D)に分散してなるポリチオフェン組成物。
【請求項2】
プロトン酸(A)が、塩酸、リン酸、硫酸、およびスルホン酸基を分子内に有する化合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載のポリチオフェン組成物。
【請求項3】
チオフェン誘導体(C)が、3,4−エチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項1または2記載のポリチオフェン組成物。
【請求項4】
有機媒体(D)が、水と非親和性であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリチオフェン組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のポリチオフェン組成物から形成されてなる導電膜。
【請求項6】
基材と請求項5記載の導電膜とを有する積層体。
【請求項7】
プロトン酸(A)、ならびに硫酸モノエステル構造およびスルホン酸基を有しないアニオン性界面活性剤(B−1)の存在下、あるいは、硫酸モノエステル構造またはスルホン酸基を有する界面活性剤(B−2)の存在下にて、チオフェンまたはチオフェン誘導体(C)を水性媒体中で、酸化剤(E)または酸素を用いて酸化重合し、重合体溶液を得る第1の工程、
得られた重合体溶液に、有機溶剤(D−1)、活性エネルギー線硬化性化合物(D−2)およびバインダー樹脂(D−3)から選ばれる少なくとも1種の有機媒体(D)を加え、重合体を有機媒体(D)中に抽出する第二の工程、および、
水を除去する第三の工程を含むことを特徴とするポリチオフェン組成物の製造方法。


【公開番号】特開2010−143980(P2010−143980A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320378(P2008−320378)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】