説明

ポリビニルアルコール系樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 ハイドロタルサイトの粒子が凝集せずに高濃度であっても微分散したPVA系樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ビニルエステル系樹脂溶液を、ハイドロタルサイトの存在下で、ケン化度65モル%超〜100モル%の範囲でケン化する。PVA系樹脂の製造段階でハイドロタルサイトを混合することにより、ハイドロタルサイトを高濃度に含有させたPVA系樹脂組成物であっても、前記ハイドロタルサイトの90%以上の粒子の粒径が600nm以下で微分散したPVA系樹脂組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂粒子中にハイドロタルサイトが微分散してなるポリビニルアルコール系樹脂組成物の製造方法及び当該製造方法で得られるポリビニルアルコール系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
EVOH系樹脂やPVA系樹脂などのビニルエステル系樹脂が有するアセチル基等のエステル基が製造時や加工時に分離して、カルボン酸(酢酸)を発生する場合がある。成形時、加工時に発生するカルボン酸は、生産現場の環境悪化の原因となったり、また酸性条件下で溶融成形が行なわれた場合に、ビニルアルコール系樹脂の分子鎖間でケタール化やアセタール化等のゲル化の原因となる反応が進行するためか、ビニルエステル系樹脂の劣化の原因となったり、ビニルエステル系樹脂の各種成形物やフィルムにおいて臭いや着色、フィッシュアイ等を引き起こしたりして、成形物や被包装物の品質低下をもたらすことが知られている。ハイドロタルサイトは、ビニルエステル系樹脂における、このような問題を解決するための配合剤として広く利用されている。
【0003】
ここで、ハイドロタルサイトを配合してなるPVA系樹脂組成物の製造方法としては、特開平6−166786の段落番号9に記載のように、(a)PVAとハイドロタルサイトを粉末状態で混合する方法、(b)両者を溶融混練してペレットにする方法、(c)ハイドロタルサイトを水分散液にしてPVA粉末またはペレットに噴霧吸着させる方法などが挙げられる。
【0004】
ハイドロタルサイト粒子は層状構造をしていて、粒子同士が凝集しやすいという性質を有しており、たとえ、層間はく離により細分化しても、再び、これらの粒子同士が凝集した状態で樹脂中に存在している場合が多い。しかし、ハイドロタルサイトの配合効果を高めるためには、平均粒径が小さいハイドロタルサイトの粒子、換言すると表面積が大きい状態で均一分散させることが好ましい。表面積が大きい状態とは、上述の粒子同士が互いに離れて分散している状態、および粒子を形成する層が剥がれ、粒子自身が小さくなる状態をいう。
【0005】
例えば、上記の方法(a)(PVA樹脂とハイドロタルサイトを粉末状態で混合する方法)では、PVAとハイドロタルサイトの比重の違いによりハイドロタルサイトが均一に分散することができず、結局、再び、ハイドロタルサイト粒子同士が凝集した状態のままで混合したものが多く含まれることになる。また、PVA系樹脂とハイドロタルサイトを溶融混練してペレットにする方法(b)では、ハイドロタルサイト粒子を分散させる効果が弱いばかりでなく、粒子が凝集しやすくなって、ひどい場合にはハイドロタルサイトが塊になってしまうこともある。さらにケン化度が高くなるにつれて溶融温度を高くせざるを得ず、これに伴いPVAの分解が起るといった新たな問題を惹起することから、ケン化度の高いPVA系樹脂の場合の混合方法としては適切でない。さらに(c)の方法では、PVA粉末表面にハイドロタルサイトが単に付着した状態であり、PVA中にハイドロタルサイトが分散した状態ではないため、高い吸着除去効果を得にくい。
【0006】
【特許文献1】特開平6−166786
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイドロタルサイトの粒子が凝集せずに高濃度であっても微分散したPVA系樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、PVA系樹脂の製造段階でハイドロタルサイトを混合することにより、PVA樹脂粒子中にハイドロタルサイトが高濃度であっても微分散したPVA系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明のPVA系樹脂組成物の製造方法は、ビニルエステル系樹脂溶液を、ハイドロタルサイトの存在下で、ケン化度65モル%超〜100モル%の範囲でケン化することを特徴とする。
【0009】
そして、本発明のPVA系樹脂組成物は、ケン化度65モル%超〜100モル%のポリビニルアルコール系樹脂粒子中にハイドロタルサイトが分散している樹脂組成物において、前記ハイドロタルサイトの90%以上の粒子の粒径が600nm以下のものである。
【0010】
このようなPVA系樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の配合剤として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、ハイドロタルサイトの粒子が凝集することなく、均一に分散した状態下でケン化が行なわれ、PVA系樹脂を製造することができるので、ハイドロタルサイトを高濃度で含有させた場合であっても、前記ハイドロタルサイトの90%以上の粒子が粒径600nm以下で分散している本発明のPVA系樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔PVA系樹脂組成物の製造方法〕
はじめに、本発明のPVA系樹脂の製造方法について説明する。
本発明のPVA系樹脂の製造方法は、ビニルエステル系樹脂溶液を、ハイドロタルサイトの存在下でケン化することを特徴とする。
【0013】
本発明で用いられるビニルエステル系樹脂溶液は、ケン化によりPVA系樹脂を生成することができるビニルエステル系樹脂が溶媒に溶解して溶液状態となっているものである。従って、ビニルエステル系樹脂を構成するモノマーは、得ようとするPVA系樹脂の構成モノマーに応じて適宜選択されるが、具体的に使用できるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、これらのうち酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0014】
本発明の目的を阻害しない範囲において、上記ビニルエステル系モノマー以外の不飽和単量体を共重合性成分として含んでいてもよい。該不飽和単量体として、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のαーオレフィン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0015】
更に、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等を共重合することもできる。
【0016】
更に、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン等のジヒドロキシアルケン類;3−アシロキシ−4−ヒドロキシー1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ1−ブテン等のヒドロキシアシロキアルケン類;3,4−ジアシロキシ−1ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−アシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等のジアシロキシアルケン類;グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等のグリセリンモノ不飽和アルキルエーテル類;2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン等のアセトキシ基含有アリルオキシプロパン類;ビニルエチレンカーボネート等のエチレンカーボネート類;2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン等のアセタール基含有ビニル化合物等も共重合可能である。
【0017】
以上のようなビニルエステル系モノマーの重合、必要に応じて配合される他の不飽和モノマーとの共重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又はエマルジョン重合等の公知の方法により行なうことができるが、溶液重合が好ましく行われる。重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用される。
【0018】
溶液重合の場合、溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が好ましく用いられる。重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、触媒の種類、重合速度に応じて適宜決められる。
【0019】
ビニルエステル系樹脂の重合度は、最終的に得ようとするPVA系樹脂の重合度に対応して調節すればよい。特に限定しないが、得ようとするPVA系樹脂の重合度は、JIS K6726により測定される重合度として通常100〜4000(より好ましくは150〜3000、さらに好ましくは200〜2600)であることから、原料となるビニルエステル系樹脂の重合度も上記範囲内に調節することが好ましい。重合度が高くなりすぎるとケン化物内にハイドロタルサイトが取り込まれにくくなる傾向にある。
【0020】
重合により得られたビニルエステル系樹脂溶液は、通常、重合時の溶媒の溶液であるが、重合時の溶媒を他の溶媒で置換してもよい。かかる溶媒としては、ビニルエステル系樹脂を溶解できるものであればよく、特に限定しないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールが好ましく用いられ、より好ましくはメタノールが用いられる。重合により得られたビニルエステル系樹脂を前記溶媒に溶解し、濃度を調整してケン化に供してもよいし、低級アルコールを溶媒とする溶液重合によりビニルエステル系樹脂溶液が得られる場合には、適宜さらに溶媒を追加して濃度を調整した後、ケン化に供してもよい。尚、ケン化に先だって、溶液中の未反応モノマーを系外に除去しておくことが好ましい。
【0021】
ケン化は、ビニルエステル系樹脂溶液に、ケン化触媒を配合することにより開始することができる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択される。ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、通常、10〜60℃であり、より好ましくは20〜50℃である。
【0022】
本発明の製造方法において、ケン化は、ハイドロタルサイト存在下で行なう必要がある。ハイドロタルサイトは、ケン化触媒の配合前、ケン化触媒の配合と同時、ケン化触媒配合後でケン化反応初期段階などに配合することができる。
【0023】
ここで、ハイドロタルサイトとは、化学式MgAl(OH)16CO・4HOで表される天然鉱物の呼称であるが、最近では、上記天然鉱物と基本的に近似な構造を有する下記一般式で表される複水酸化物の総称としても、一般に使用されている。
〔M2+1−x3+(OH)〕(Ax/n・mHO)
式中、M2+は、Mg、Fe、Zn、Ca、Cu、Co等の2価の金属イオンを表し、好ましくはMg、Zn又はCaであり、より好ましくはMgである。また、M3+は、Al、Ce、Fe、Mn、In、Cr等の3価の金属イオンを表し、好ましくはAl、Ceであり、より好ましくはAlである。xは0.2〜0.33の数であり、またmは0より大きい実数で、脱水の程度により変わるが、一般に0〜2の整数である。Aは炭酸イオン(CO2−)、HPO2−、飽和脂肪族モノカルボン酸であり、好ましくは炭酸イオンである。なお、nはAの価数である。
【0024】
特に好ましい組み合わせは、下記一般式であらわされるハイドロタルサイト類である。
Mg1−xAl(OH)(CO)x/2・mH
また、Aが飽和脂肪族モノカルボン酸イオンであるものとしては、特開2006−274385等に開示されたハイドロタルサイト類を挙げることができる。かかるハイドロタルサイト類は、炭酸イオンを内包するハイドロタルサイトを、飽和脂肪族モノカルボン酸塩水溶液中でイオン交換して得られたもので、良好な層間剥離性を有することから、好ましく用いられる。
【0025】
本発明におけるハイドロタルサイトは、上記のようなハイドロタルサイト類である。以上のようなハイドロタルサイト類は、M2+(OH)のM2+の一部がM3+で置換されたことにより生じる正電荷八面体層をホスト層とし、この正電荷を補償するアニオンと層間水からなるゲスト層が、ホスト層と交互に積層した層状構造を有している。
【0026】
本発明に用いられるハイドロタルサイトは、ステアリン酸等の表面処理がされたものであってもよいが、PVA系樹脂等のビニルエステル系樹脂による微分散の点からは、ステアリン酸等の表面処理されていないハイドロタルサイトが好ましく用いられる。
【0027】
ハイドロタルサイトは、粒子の平均粒径が400〜600nm程度の粉末を使用する。粉末状態において、粒子が凝集して凝集粒子となったものも含まれるが、凝集粒子を含んだまま用いることができる。ハイドロタルサイトは、ビニルエステル系樹脂溶液に、粉末のまま直接配合してもよいし、予め、ハイドロタルサイトをアルコールに分散させたアルコール分散液を調製し、この分散液を配合混合してもよい。
【0028】
ハイドロタルサイトの配合量は、最終的に得ようとするPVA系樹脂組成物中に含有させたいハイドロタルサイト量に応じて選択される。最終的に得ようとするPVA系樹脂中に含有させたいハイドロタルサイト量は、PVA系樹脂100質量部に対して、通常0.01〜100質量部である(より好ましくは0.1〜60質量部、更に好ましくは0.5〜40質量部)ことから、ビニルエステル系樹脂に対して、上記範囲となる量のハイドロタルサイトを配合することが好ましい。
【0029】
ケン化は、ケン化度65モル%超となるまで行なう。好ましくは68〜99モル%、より好ましくは70〜98モル%である。ケン化度が低すぎると、PVA系樹脂としての物性が発揮されにくくになり、ケン化後の固液分離(ケン化溶媒とケン化物との分離)も困難になるからである。
【0030】
ケン化により粒子状となったPVA系樹脂組成物が溶媒中に分散した懸濁液が得られる。よって、濾過により、PVA系樹脂組成物を得ればよい。濾過方法としては、特に限定せず、遠心分離などの方法が挙げられる。また、濾過前に溶媒を中和してもよい。得られたPVA系樹脂組成物は、必要により、洗浄、乾燥する。洗浄は、前述の低級アルコールで行なうことが好ましい。
【0031】
ケン化後、所望により、PVA系樹脂中のOH基をウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化、アセトアセチル化等、公知の後変性処理により変性してもよい。
【0032】
以上のような製造方法によれば、ハイドロタルサイトを溶液中に配合しているので凝集粒子状態となっていたものもばらばらになって、凝集せずに粒子状態にて均一に分散させることができ、さらには、層状構造にあるハイドロタルサイト粒子の層間はく離が溶液中でおこって、元のハイドロタルサイトの粒子よりも小さい粒径450nm以下の粒子の割合も増加させることができる。そして、ケン化反応中、ハイドロタルサイトが存在していることから、生成するPVA系樹脂粒子中にハイドロタルサイトの粒子を均一に取り込ませることができる。
【0033】
〔PVA系樹脂組成物〕
本発明のPVA系樹脂組成物は、上記本発明の製造方法により製造されるものであり、具体的には、ケン化度65モル%超〜100モル%のポリビニルアルコール系樹脂粒子中にハイドロタルサイトが分散している樹脂組成物において、前記ハイドロタルサイトの90%以上の粒子が粒径600nm以下にて分散している粉末状の組成物である。
【0034】
本発明のPVA系樹脂組成物に含まれるPVA系樹脂は、上記本発明の製造方法でビニルエステル系モノマーの重合により得られたビニルエステル系樹脂をケン化することにより得られるポリマーである。従って、当該PVA系樹脂を構成するモノマーは、上述のビニルエステル系モノマー又はそのケン化物、及び所望により含まれる他の不飽和モノマーである。また、後変性により、PVA系樹脂のOH基は適宜ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化、アセトアセチル化等の公知の後変性処理で変性されていてもよい。
【0035】
上記PVA系樹脂のケン化度は、65モル%超〜100モル%(好ましくは68〜99モル%、より好ましくは70〜98モル%)である。PVA系樹脂組成物の用途に応じて、ケン化度は適宜選択できる。いずれの場合もPVAとして特性を発揮することができるので、本発明のPVA系樹脂組成物は水溶性を示す。
【0036】
また、上記PVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に基づいて測定)は、100〜4000であることが好ましく、より好ましくは150〜3000、更に好ましくは200〜2600である。重合度が低すぎると、PVA系樹脂組成物の製造後、固液分離によりPVA系樹脂組成物の粉末を得ることが困難であり、重合度が高くなりすぎるとハイドロタルサイトがPVA系樹脂粒子中に分散しにくくなる。
【0037】
本発明のPVA系樹脂組成物粉末の平均粒径(JIS Z 8801の測定)は、PVA系樹脂の種類、製造方法(ケン化条件など)により異なるが、通常、5.0〜0.01mmである。当該粉末を構成しているPVA系樹脂粒子中に、ハイドロタルサイトが分散されている。このハイドロタルサイトは、90%以上の粒子の粒径が600nm以下、好ましくは500nm以下、特に好ましくは450nm以下の粒子状態で分散している。また、粒径800nm以上のハイドロタルサイト粒子の割合は5%以下であることが好ましい。尚、ここでいうハイドロタルサイトの粒径は、PVA系樹脂組成物をミクロトームでカットした後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察測定した値である。
【0038】
本発明のPVA系樹脂組成物中には、PVA系樹脂100質量部に対して、ハイドロタルサイト0.01〜100質量部の範囲で含有させることができる。従って、PVA系樹脂組成物の用途に応じて、上記範囲で適宜ハイドロタルサイト含有率を選択すればよい。均一分散の観点からは、PVA系樹脂組成物中のハイドロタルサイトの含有率は、PVA系樹脂100質量部に対して、0.1〜60質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜40質量部である。
【0039】
本発明のPVA系樹脂組成物は、PVAペレットとして、それ自体、成形に供することができるし、配合剤として、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂に適宜配合することができる。ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂についても、未反応モノマーやその分解物による成形体の品質低下防止、溶融成形時のロングラン性低下防止という観点から、ハイドロタルサイトを配合剤として使用する場合がある。しかしながら、熱可塑性樹脂とハイドロタルサイトを溶融混合した場合、ハイドロタルサイトの凝集しやすい性質のために、ハイドロタルサイトの吸着効果が充分得られる、大きな表面積を確保できる状態で分散させることが困難である。この点、本発明のPVA系樹脂組成物を、配合剤として熱可塑性樹脂等の他の樹脂に配合した場合、PVAの介在により、ハイドロタルサイト粒子同士の凝集が抑制され、熱可塑性樹脂中で均一に分散することができる。従って、本発明のPVA系樹脂組成物を使用することにより、熱可塑性樹脂組成物中に、通常のハイドロタルサイト単独の混合方法では困難であった粒径600nm以下という、凝集しない粒子状態で分散させることができ、さらには粒子の層間はく離によって、より微小化された状態のハイドロタルサイト粒子も含まれ得て、未反応モノマーやその分解物、PVA系樹脂から発生するカルボン酸臭などを効率よく吸着除去することができる。また、本発明のポリビニルアルコール系樹脂組成物をマスターバッチとして使用する場合でもハイドロタルサイトの良好な分散性を維持することができ、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
尚、下記例において、「部」「%」とあるのは、断りのない限り、質量基準を意味する。また、ケン化度は、ハイドロタルサイトの配合量を差し引いたポリビニルアルコール系樹脂の残存酢酸ビニル構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量から求めた値であり、重合度はJIS K6726に基づいて測定した値である。
【0041】
〔実施例1〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1200部、メタノール192部、アゾビスイソブチロニトリル0.06モル%(対仕込み酢酸ビニル)を投入し、攪拌しながら、窒素気流下で温度を上昇させて重合を開始した。
酢酸ビニルの重合率が73%となった時点で、m−ジニトロベンゼン及び希釈・冷却用メタノールを添加して重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。
このポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、更にメタノールで希釈して濃度32%に調整した。この希釈溶液500部をニーダーに仕込み、ハイドロタルサイト(平均粒径500nm)9.7部を加えて混合後、溶液温度を35℃に保ち、攪拌しながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を、酢酸ビニル1モルに対して2.5ミリモルとなる割合で加えた。ケン化が進行するとともに、ケン化物(PVA系樹脂)が析出し、遂には粒子状となった。酢酸により中和を行ない、生成したポリビニルアルコール系樹脂組成物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、平均粒径460μmのPVA系樹脂組成物粉末を得た。
【0042】
得られたPVA系樹脂は、ケン化度80.0モル%、重合度は2100であった。また、PVA樹脂組成物粒子中、PVA系樹脂100部に対して、ハイドロサルタイト10部が含まれていた。さらに、SEM(日本電子社製のJSM−6060LA)により樹脂組成物粒子中のハイドロサルタイトの粒径を観察測定したところ、90%以上の粒子の粒径が450nm以下で分散されていることを確認できた。また、粒径800nm以上のハイドロタルサイト粒子は認められなかった。
【0043】
〔比較例1〕
ハイドロサルタイトを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、PVA系樹脂粉末(平均粒径440μm)を得た。
得られたPVA系樹脂粉末(粒径440μm)100部と、実施例1で使用したものと同種類のハイドロタルサイト10部を、ブラベンダーで200℃で混練しようとしたところ、増粘してトルクオーバーとなってしまい、ハイドロタルサイトを充分に分散させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のPVA系樹脂組成物は、それ自体単独で成形原料として用いることができ、また、他の熱可塑性樹脂の特性改善のために配合する配合剤としても利用できる。本発明のPVA系樹脂組成物の製造方法によれば、高温で溶融混練等しなくても、ハイドロタルサイトが凝集せずに良好に分散したPVA系樹脂組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル系樹脂溶液を、ハイドロタルサイトの存在下で、ケン化度65モル%超〜100モル%の範囲でケン化することを特徴とするポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ポリビニルエステル系樹脂溶液の溶媒は、炭素数1〜4の低級アルコールである請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項3】
ケン化度65モル%超〜100モル%のポリビニルアルコール系樹脂粒子中にハイドロタルサイトが分散している樹脂組成物において、
前記ハイドロタルサイトの90%以上の粒子が粒径600nm以下にて分散しているポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、前記ハイドロタルサイトは0.01〜100質量部含有されている請求項3に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物を含む熱可塑性樹脂用配合剤。

【公開番号】特開2008−260914(P2008−260914A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57933(P2008−57933)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】