説明

ポリプロピレンフィルムグレード樹脂製造用n−ブチルメチルジメトキシシラン使用スクシネート含有重合触媒系

n−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)をスクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒用の外部電子供与体として用いると向上した特性を有するポリプロピレンフィルムの調製を可能にする触媒系がもたらされ得ることを見いだした。本発明の触媒系を用いると鎖欠陥数/欠陥分布を制御することができることで微細立体規則性を調節することができることに加えて分子量分布を幅広くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレンを製造するための重合触媒系および方法に関し、より詳細には、1つの態様において、ポリプロピレンフィルムの物性および加工性が向上するような特定の分子量分布および立体規則性を示すポリプロピレンを製造するための重合触媒系および制御重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性オレフィン重合体、例えば線状ポリエチレン、ポリプロピレンおよびオレフィン共重合体などの製造は、単量体を反応槽に適切な触媒と一緒に導入してオレフィンのホモ重合体もしくは共重合体を生じさせる重合反応で行われる。その重合体を重合反応槽から取り出し、それに適切な処理段階を受けさせた後、熱可塑性塊として押出し加工機およびダイス装置に通して押出すことで、原料としての重合体を粒子形態、通常はペレットまたは顆粒として生じさせることができる。その重合体粒子を最終的に所望の最終製品に成形する時に加熱して加工する。
【0003】
ポリプロピレン製造方法は、チーグラー・ナッタ型の有機金属触媒を用いてプロピレン単量体を重合させることを伴い得る。そのチーグラー・ナッタ型の触媒がプロピレン単量体を重合させることで主に固体状の結晶性ポリプロピレンがもたらされる。ポリプロピレンの製造は最も頻繁に立体特異的重合体として行われる。数多くの好ましい製品特性、例えば強度および耐久性などはポリプロピレンの結晶性に依存し、その結晶性は重合体バックボーンが有するメチル基の立体特異的配列に依存する。
【0004】
立体特異的重合体は、分子が空間内で限定された配列を示す重合体である。例えばイソタクティックおよびシンジオタクテック両方のプロピレン重合体が立体特異的である。そのイソタクティック構造は、典型的に、連続的単量体単位が有する第三級炭素原子に結合しているメチル基が重合体の主鎖を通る仮想面の同じ側に存在、例えばメチル基の全部が前記面の上方に存在するか或は全部が下方に存在するなどとして記述される。イソタクティックポリプロピレンは下記の化学式:
【0005】
【化1】

【0006】
で示され得る。
【0007】
このような構造によって重合体分子は高い結晶性を示す。フィッシャー投射式を用いると、イソタクティックポリプロピレンの立体化学配列は下記の如く示され得る:
【0008】
【化2】

【0009】
そのような構造を記述する別の方法は、NMR分光法を用いることによる方法である。イソタクティックペンタドに関してBoveyが用いたNMR命名法はmmmmであり、ここで、各「m」は「メソ」ダイヤド、即ち前記面の同じ側に連続的に存在するメチル基を表す。当該技術分野で公知のように、そのような鎖の構造がいくらか逸脱または反転すると当該重合体のイソタクティック性および結晶性の度合が低くなる。
【0010】
そのような結晶性によって、イソタクティック重合体は、芳香族溶媒、例えばキシレンなどに溶解し得る非晶質もしくはアタクティック重合体から区別される。アタクティック重合体は、重合体鎖内に規則的な順の繰り返し単位配置を示さずかつ本質的にワックス状の生成物を形成する。即ち、アタクティックポリプロピレンが有するメチル基は無作為に位置する。ある触媒を用いると非晶質および結晶性両方の画分がもたらされ得るが、アタクティック重合体の量が非常に少ない主に結晶性の重合体をもたらす触媒の方が一般に好ましい。
【0011】
オレフィン重合用触媒系は当該技術分野で良く知られている。そのような系は、典型的に、チーグラー・ナッタ型の重合触媒、共触媒、通常は有機アルミニウム化合物および外部電子供与体化合物または選択性調節剤、通常は有機ケイ素化合物を含有する。そのような触媒系の例が下記の特許文献1、2、3、4、5、6および7(これらの特許文献の開示は引用することによって本明細書に組み入れられる)に示されている。それらは、主にプロピレンおよびエチレンの重合の目的で考案された触媒および触媒系に関して発行された多数の特許の中のごく僅かである。
【0012】
イソタクティックポリオレフィン重合用チーグラー・ナッタ触媒は当該技術分野で良く知られている。そのようなチーグラー・ナッタ触媒は、遷移金属、例えばチタン、クロムまたはバナジウムなどのハロゲン化物と共触媒としての金属水素化物および/または金属アルキル、典型的には有機アルミニウム化合物から作られた立体特異的錯体である。そのような触媒は一般にマグネシウム化合物に担持されているハロゲン化チタンで構成されている。例えば特許文献8および9などに開示されている如き活性二ハロゲン化マグネシウム、例えば二塩化マグネシウムまたは二臭化マグネシウムなどに担持されている四塩化チタン(TiCl)などの如きチーグラー・ナッタ触媒は担持型触媒である。また、シリカも担体として使用可能である。そのような担持型触媒は共触媒、例えばアルキルアルミニウム化合物、例えばトリエチルアルミニウム(TEAl)、トリメチルアルミニウム(TMA)およびトリイソブチルアルミニウム(TIBAL)などと一緒に用いられ得る。
【0013】
チーグラー・ナッタ触媒をプロピレンの重合で用いる時には一般に外部供与体を添加するのが好ましい。外部供与体は、反応中に生じるアタクティックもしくは非立体規則性重合体の量を制御する立体選択的制御剤として働くことでキシレン可溶物の量を低下させる。外部供与体の例には、有機ケイ素化合物、例えばシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDS)、ジシクロペンチルジメトキシシラン(CPDS)およびジイソプロピルジメトキシシラン(DIDS)などが含まれる。
【0014】
一般に、共触媒と外部電子供与体の供給モル比(およびチーグラー・ナッタ触媒に入っている活性金属内容物、例えばチタンなどに対するそれらの相当する比率)を調整することで触媒による生産性(即ち触媒1ポンド当たりに生じるポリプロピレンのポンド数また
は他の重量比)および生成物のイソタクティック性をある範囲内に制御することができる。外部電子供与体の量を多くするとキシレン可溶物の量が低下するが、活性が低下する可能性があり、従って触媒による生産性が低下する可能性がある。ポリプロピレン生成物のキシレン可溶物(XS)含有量は立体選択度の尺度である。その上、生成物の微細立体規則性を13C核磁気共鳴分光法で直接測定することでも重合体の立体規則性を得ることができる。
【0015】
イソタクティックポリプロピレンに対する選択性の測定を典型的にはキシレンに溶解し得るポリプロピレン材料の量を測定することによるXS試験で実施する。キシレン可溶物の測定では、重合体を熱キシレンに溶解させ、その溶液を0℃に冷却することで結晶性材料を析出させることを通して測定を実施する。キシレン可溶物の量は冷キシレンに溶解し得る重合体の重量%である。
【0016】
特に二軸配向ポリプロピレン(BOPP)用途用のフィルムグレードのポリオレフィン樹脂に関して、重合体の物性および加工性を向上させ得る触媒系の識別に継続して興味が持たれている。以前に行われたいくつかの研究は、特別な種類の供与体[例えばビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン(BPIQ)]を用いて重合体が示す分子量分布を広くすることで樹脂の加工性/押出し加工性を向上させる努力に焦点が当てられていた。より最近行われた他の研究は、フィルム製造中の樹脂加工性が向上し得るように重合体の立体規則性が低くなりかつ重合体の溶融温度が若干低くなるように制御することを可能にするフルオロアルキルシラン化合物[例えば3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン(「E」供与体)]の使用に焦点が当てられた。実際、そのようないろいろな触媒系を用いてフィルムグレードの特性が向上し得るように重合体の特性を変える方策の見込の度合は様々であることが分かった。フィルム用途用の重合体が示す分子量分布を広げることは有利であろう。加うるに、n−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)を用いると重合体の微細立体規則性が低くなることも分かった。
【0017】
微細立体規則性が低いままでありながら示す分子量分布が幅広い好ましい重合体を得るに最適な種類の外部および内部供与体を見つけだすことができれば、特に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4,107,413号
【特許文献2】米国特許第4,294,721号
【特許文献3】米国特許第4,439,540号
【特許文献4】米国特許第4,115,319号
【特許文献5】米国特許第4,220,554号
【特許文献6】米国特許第4,460,701号
【特許文献7】米国特許第4,562,173号
【特許文献8】Mayr他の米国特許第4,298,718号
【特許文献9】Mayr他の米国特許第4,544,717号
【発明の概要】
【0019】
発明の要約
1つの態様において、本発明は、プロピレン単量体を重合もしくは共重合させる方法を包含し、この方法は、(a)スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒を準備し、(b)前記触媒を有機アルミニウム化合物と接触させ、(c)(b)と同時または(b)の後に前記触媒をn−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)を含有して成る少なくとも1種の外部電子供与体と接触させ、(d)前記触媒を前記有機アルミニウム化合物、前記電子供与体およびプロピレン単量体が入っている重合反応ゾーンに導入し、そして(e)ポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体を前記重合反応ゾーンから取り出すことを含んで成る。
【0020】
1つの態様において、本発明は、オレフィンを重合もしくは共重合させるための触媒系を包含し、この触媒系は、(a)スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒、(b)有機アルミニウム化合物、および(c)n−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)を含有して成る少なくとも1種の外部電子供与体を含有して成る。
【0021】
1つの態様において、本発明は、プロピレンの重合体もしくは共重合体を含んで成るポリプロピレンを包含し、このポリプロピレンは、少なくとも約0.5g/10分のメルトフローおよび約6重量%以下のキシレン可溶物量、約91から約99モル%の範囲のメソペンタドレベルおよび約160℃から約170℃のT値を示す。
【0022】
1つの態様において、本発明は、ポリプロピレンフィルムを含有して成る製品を包含し、このポリプロピレンは、少なくとも約0.5g/10分のメルトフローおよび約6重量%以下のキシレン可溶物量、約91から約99モル%の範囲のメソペンタドレベルおよび約160℃から約170℃のT値を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、ZN672Sを用いて製造した樹脂が示した長方形捩れ温度曲線を示すグラフである。
【図2】図2は、THC A−021触媒を用いて77℃で調製したフィルム用樹脂が215℃で示した複素粘度を振動数と対比させて示すグラフである。
【図3】図3は、ZN 672 VS触媒を用いて77℃で調製したフィルム用樹脂が215℃で示した複素粘度を振動数と対比させて示すグラフである。
【図4】図4は、THC A−021触媒を用いて77℃で調製したフィルム用樹脂が215℃で示した正規化粘度を振動数と対比させて示すグラフである。
【図5】図5は、ZN 672 VS触媒を用いて77℃で調製したフィルム用樹脂が215℃で示した正規化粘度を振動数と対比させて示すグラフである。
【図6】図6は、THC A−021触媒を用いて77℃で調製したフィルム用樹脂が示した複素引張り応力(E)を温度と対比させて示すグラフである。
【図7】図7は、ZN 672 VS触媒を用いて77℃で調製したフィルム用樹脂が示した複素引張り応力(E)を温度と対比させて示すグラフである。
【0024】
発明の詳細な説明
ここに詳細な説明を行う。添付請求項の各々で個々の発明を定義するが、それらは、抵触の目的で、当該請求項に示すいろいろな要素または制約の均等物を包含すると認識する。以下に「発明」を言及する場合、それらは全部、ある場合には、状況に応じて、特定の具体的態様のみを言及するものであり得る。他の場合の「発明」の言及は本請求項の必ずしも全部ではないが1つ以上に示す主題事項を言及するものであることは認識されるであろう。ここに、具体的態様、変形および実施例を包含する発明の各々を以下により詳細に記述するが、本発明をそのような態様にも変形にも実施例にも限定するものでなく、通常の当業者が本特許に示す情報を入手可能な情報および技術と組み合わせた時に本発明を作成しかつ使用することができるようにそれらを含めるものである。
【0025】
本明細書で用いる如きいろいろな用語を以下に示す。ある請求項で用いる用語を以下に定義しない場合、その度合で、印刷された出版物および発行された特許に示されている如き関係した技術分野の技術者がその用語に与えた最も幅広い定義をそれに与えるべきである。その上、特に明記しない限り、本明細書に記述する化合物は全部置換されているか或は置換されていなくてもよくかつ化合物のリストはそれらの誘導体を包含する。
【0026】
本明細書に開示する特定の重合方法は、オレフィン単量体を1種以上の触媒系と接触させて重合体を生じさせることを伴う。
【0027】
触媒系
n−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)を外部電子供与体として含有させたスクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒をプロピレンの重合で用いると制御された微細立体規則性と幅広い分子量分布を示す重合体がもたらされ得ることを驚くべきことに見いだした。より具体的には、鎖欠陥数/欠陥分布を状況に応じて調節しかつ分子量分布をより幅広くした新規なポリプロピレン樹脂を用いると結果としてポリプロピレンフィルムの伸縮性が向上しかつ押出し加工における流れがより容易になりかつゲージ均一性がより良好になり得る。
【0028】
本発明で用いるに有用なチーグラー・ナッタ触媒には、遷移金属、例えばチタン、クロムまたはバナジウムなど(多くの態様でチタンが好適な金属である)のハロゲン化物を用いて生じさせた触媒が含まれる。遷移金属化合物の例には、必ずしもこれらに限定するものでないが、TiCl、TiBr、TiO(CCl、Ti(OCCl、Ti(OCCl、TiO(C13Cl、Ti(OCBrおよびTi(OC1225)Clが含まれる。そのような遷移金属化合物は個別または組み合わせて使用可能である。本発明の1つの非限定態様における典型的なチタン濃度は触媒の約1.0から約5.0重量%である。そのようなチーグラー・ナッタ触媒は式MR[式中、Mはチタン、クロムおよびバナジウムから成る群より選択され、Rはハロゲンまたはヒドロカルボキシルから成る群から選択され、そしてxはMの原子価である]で表される遷移金属化合物であってもよい。
【0029】
そのような遷移金属のハロゲン化物を共触媒としての金属の水素化物および/または金属アルキル、典型的には有機アルミニウム化合物と組み合わせて用いる。好ましくは、そのような共触媒は式AlR[式中、Rは炭素原子数が1から8のアルキル基でありかつRは同じまたは異なってもよい]で表されるアルミニウムアルキルである。適切なアルミニウムアルキルの例には、必ずしもこれらに限定するものでないが、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルアルミニウム(TEAl)およびトリイソブチルアルミニウム(TIBAL)が含まれる。本発明の1つの非限定態様における所望アルミニウムアルキルはTEAlである。
【0030】
本発明では、そのようなチーグラー・ナッタ触媒に少なくとも1種の内部供与体を含有させる必要がある。適切な内部供与体の例には、必ずしもこれらに限定するものでないが、ジエーテル[例えば米国特許第4,971,937号および5,106,807号(これらは引用することによって本明細書に組み入れられる)の中で考察されているそれら]、芳香族ジエステル、例えばフタル酸アルキル供与体[例えばフタル酸ジエチル、フタル酸ジ−イソブチル、例えば米国特許第5,945,366号(これもまた引用することによって本明細書に組み入れられる)に挙げられているそれら]、アミン、アミド、ケトン、ニトリル、ホスフィン、チオエーテル、チオエステル、アルデヒド、アルコラート、有機酸塩およびこれらの組み合わせが含まれる。好適な内部供与体には、必ずしもこれらに限定するものでないが、フタル酸のエステル、例えばジ−イソブチル、ジオクチル、ジフェニルおよびベンジルブチルなどのエステル、こはく酸のエステルおよびこれらの組み合わせが含まれる。しかしながら、本発明における少なくとも1種の内部供与体はこはく酸エステルでなければならない。スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒を用いると分子量分布がより幅広い樹脂がもたらされることを見いだした。そのような内部電子供与体を触媒調製中に添加しそして当該担体と一緒にするか或は他の様式で当該遷移金属のハロゲン化物と一緒にして複合体を形成させてもよい。
【0031】
そのようなチーグラー・ナッタ触媒は典型的には担持型触媒である。適切な担体材料には、マグネシウム化合物、例えばハロゲン化マグネシウム、ジアルコキシマグネシウム、ハロゲン化アルコキシマグネシウム、オキシハロゲン化マグネシウム、ジアルキルマグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよびマグネシウムのカルボン酸塩などが含まれる。マグネシウムの典型的なレベル(levels)は触媒の約12から約20重量%である。
【0032】
本主題発明では、そのようなチーグラー・ナッタ触媒を少なくとも1種の外部供与体化合物、例えばルイス塩基などと一緒に用いる必要がある。より具体的な外部供与体は典型的に有機ケイ素化合物である。外部電子供与体は、式SiR(OR’)4−m[式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはビニル基であり、R’はアルキル基であり、mは0−4であり、各R’は同一もしくは異なってもよく、かつ各Rも同一もしくは異なってもよい]で記述される電子供与体であってもよい。そのような外部電子供与体は特に生じる重合体が示すアタクティック形態の量を制御する立体調節剤として働き、その結果としてキシレン可溶物の量を低下させる。有機ケイ素化合物である電子供与体の例が米国特許第4,218,339号、4,395,360号、4,328,122号、4,473,660号および4,927,797号(これらは引用することによって本明細書に組み入れられる)に開示されている。外部供与体の代表例には、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDS)、ジシクロペンチルジメトキシシラン(CPDS)、ジイソプロピルジメトキシシラン(DIDS)、シクロヘキシルイソプロピルジメトキシシラン(CIDS)、ジ−t−ブチルジメトキシシラン(DTDS)、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシラン(「E」供与体)およびこれらの組み合わせが含まれる。しかしながら、本主題発明で使用すべき電子供与体の中の少なくとも1種はn−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)である。考察するように、BMDSをチーグラー・ナッタ触媒と一緒に用いると微細立体規則の度合がより低いポリプロピレンがもたらされることでBOPPフィルム加工性にとって有利であると同時にメルトフローおよびキシレン可溶物濃度は好ましいままであることを見いだした。BMDSを他の1種以上の外部供与体と一緒に用いることも本発明の範囲内であり、そのような他の外部供与体には、必ずしもこれらに限定するものでないが、CMDS、CPDS、DIDS、CIDS、DTDSおよび/または「E」供与体が含まれる。ある場合には、前記内部供与体と外部供与体の間に相乗効果が存在することが分かるであろう。即ち、内部供与体と外部供与体の特別な組み合わせを用いるとそれらの一方もしくは他方を個別に用いたのでは達成することができない結果が得られるであろう。
【0033】
特に明記しない限り、本明細書では外部供与体の量を単量体の重量を基準にしたppm(parts per million)として表す。本発明の1つの非限定態様では、BMDSの量を約0.5から約500ppm、好適には約2から約200ppm、最も好適には約4から約20ppmの範囲にする。二次的にか或は後で外部供与体のいずれかを用いる場合、それの量を好ましくは約ゼロから約5ppmの範囲内にするが、約ゼロから約3ppmが好適であり、約ゼロから約2ppmがより好適であり、約ゼロから約1.5
ppmが更により好適であり、約ゼロから約1ppmが更により好適であり、約ゼロから約0.5ppmが更により好適である。Al/Siのモル比(シラン供与体に対する有機アルミニウム化合物)を約0.5から約500、好適には約1から約200、最も好適には約1から約100の範囲にしてもよい。
【0034】
重合方法
本明細書の他の場所に示したように、触媒系を用いてポリオレフィン組成物を製造する。上述しそして/または当業者に公知のように、触媒系を調製した後、その組成物を用いていろいろな工程を実施することができる。使用可能ないろいろな方策には、とりわけ、米国特許第5,525,678号(引用することによって本明細書に組み入れられる)に示されている手順が含まれる。所定工程における装置、工程条件、反応体、添加剤および他の材料は勿論生じさせる重合体の所望組成および特性に応じて多様である。例えば、米国特許第6,420,580号、米国特許第6,380,328号、米国特許第6,359,072号、米国特許第6,346,586号、米国特許第6,340,730号、米国特許第6,339,134号、米国特許第6,300,436号、米国特許第6,274,684号、米国特許第6,271,323号、米国特許第6,248,845号、米国特許第6,245,868号、米国特許第6,245,705号、米国特許第6,242,545号、米国特許第6,211,105号、米国特許第,6,207,606号、米国特許第6,180,735号および米国特許第6,147,173号(これらは引用することによって本明細書に組み入れられる)に示されている方法などを用いることができる。
【0035】
上述した触媒系はいろいろな重合方法で幅広い範囲の温度および圧力に渡って使用可能である。その温度は約30℃から約120℃または約50℃から約100℃の範囲内であってもよく、そして用いる圧力は5気圧から約50気圧またはそれ以上の範囲内であってもよい。
【0036】
重合方法には、溶液、気相、スラリー相、高圧方法またはこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0037】
特定の態様における本発明の方法は、炭素原子数が2から30または炭素原子数が2から12または炭素原子数が2から8の1種以上のオレフィン単量体、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンおよびデセンなどの溶液、高圧、スラリーもしくは気相重合方法に向けたものである。他の単量体には、エチレン系不飽和単量体、炭素原子数が4から18のジオレフィン、共役もしくは非共役ジエン、ポリエン、ビニル単量体および環式オレフィンが含まれる。非限定単量体には、ノルボルネン、ノルボルナジエン、イソブチレン、イソプレン、ビニルベンゾシクロブタン、スチレン、アルキル置換スチレン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエンおよびシクロペンテンが含まれ得る。1つの態様では、共重合体、例えばプロピレン/エチレンなどを生じさせるか或は三元重合体を生じさせる。溶液方法の例が米国特許第4,271,060号、米国特許第5,001,205号、米国特許第5,236,998号および米国特許第5,589,555号(これらは引用することによって本明細書に組み入れられる)に記述されている。
【0038】
気相重合方法の一例では一般に連続サイクルを用い、この連続サイクルでは、循環している気体流れ(他の様式では再循環流れまたは流動媒体としても知られる)を反応槽内の重合熱で加熱する。その熱を前記反応槽の外側に位置させた冷却装置を用いてサイクルの別の部分で再循環流れから除去する。1種以上の単量体が入っている気体流れを触媒が存在する流動床の中に通して反応条件下で連続的に循環させてもよい。その気体流れを流動床から取り出した後、前記反応槽に再循環させて戻す。同時に重合体生成物を前記反応槽
から取り出した後、重合した単量体の代わりに新鮮な単量体を加える[例えば米国特許第4,543,399号、米国特許第4,588,790号、米国特許第5,028,670号、米国特許第5,317,036号、米国特許第5,352,749号、米国特許第5,405,922号、米国特許第5,436,304号、米国特許第5,456,471号、米国特許第5,462,999号、米国特許第5,616,661号および米国特許第5,668,228号(これらは引用することによって本明細書に組み入れら)を参照のこと]。
【0039】
気相方法における反応槽の圧力は約100psigから約500psigまたは約200psigから約400psigまたは約250psigから約350psigなどに及んで多様であり得る。気相方法における反応槽の温度は約30℃から約120℃または約60℃から約115℃または約70℃から約110℃または約70℃から約95℃に及んで多様であり得る。場合により水素を分子量調節剤として添加してもよい。本方法で意図する他の気相方法には、米国特許第5,627,242号、米国特許第5,665,818号および米国特許第5,677,375号(これらは引用することによって本明細書に組み入れら)に記述されている方法が含まれる。
【0040】
スラリー方法は、一般に、固体粒子状の重合体が液状の重合用媒体に入っている懸濁液を生じさせてそれに単量体および場合により水素に加えて触媒を添加することを包含する。その懸濁液(希釈剤が入っていてもよい)を前記反応槽から断続的または連続的に取り出してもよく、揮発性成分を重合体から分離しそして場合により蒸留後に前記反応槽に再循環させてもよい。重合用媒体で用いる液化希釈剤は典型的に炭素原子数が3から7のアルカン、例えば分枝アルカンなどである。その用いる媒体は一般に重合条件下で液体でありかつ相対的に不活性であり、例えばヘキサンまたはイソブタンなどである。場合により水素を分子量調節剤として添加してもよい。
【0041】
スラリー方法もしくは塊状方法(例えば希釈剤を用いない方法)は1基以上のループ反応槽内で連続的に実施可能である。当該触媒をスラリーまたは自由流れする乾燥粉末として規則的に反応槽ループに注入してもよく、その反応槽自身を成長する重合体の粒子が希釈剤に入っている循環するスラリーで満たしておいてもよい。場合により水素を分子量調節剤として添加してもよい。前記反応槽を約27バールから約45バールの圧力および約38℃から約121℃の温度などに維持してもよい。そのような反応槽は多くが二重ジャケット付きパイプの形態であることから、ループ壁を通して反応熱を除去してもよい。そのスラリーを前記反応槽から規則的な間隔または連続的に出させて加熱されている低圧のフラッシュ槽、回転式乾燥機そして窒素パージカラムに至らせることで、希釈剤および未反応の単量体および共重合用単量体の全部を連続的に除去する。次に、その結果として炭化水素が除去された粉末をいろいろな用途で用いるに適したコンパウンドにしてもよい。別法として、他の種類のスラリー重合方法を用いることも可能であり、例えば撹拌型反応槽を直列、並列またはこれらの組み合わせで位置させることなどを行ってもよい。
【0042】
重合体生成物
本明細書に記述する方法で生じさせる重合体は幅広く多様な製品および最終使用用途で使用可能である。そのような重合体にはポリプロピレンおよびポリプロピレン共重合体が含まれ得る。
【0043】
特定の態様では、本明細書に記述する方法を用いてプロピレンが基になった重合体を製造することができる。そのような重合体には、アタクティックポリプロピレン、イソタクティックポリプロピレン、半イソタクティックおよびシンジオタクテックポリプロピレンが含まれる。他のプロピレン重合体には、ブロックもしくは耐衝撃性のプロピレン共重合体が含まれる。
【0044】
そのようなプロピレン重合体が示す分子量分布、即ち数平均分子量に対する重量平均分子量(Mw/Mn)は約4から約20、または約6から約15または約8から約10などであり得る。
【0045】
加うるに、そのようなプロピレン重合体が示すメルトフロー率(MFR)は約1.0dg/分から約8.0dg/分または約2.0dg/分から約6.0dg/分または約3.0dg/分から約4.0dg/分などであり得る。
【0046】
加うるに、そのようなプロピレン重合体が示すキシレン可溶物量は6重量%未満または約1重量%から約5重量%または2重量%から約4.5重量%または約3重量%から約4重量%などであり得る。
【0047】
更に、そのようなプロピレン重合体が示すT値は少なくとも約150℃または約160℃から約170℃または約163℃から約168℃または約164℃から約167℃などであり得る。
【0048】
そのようなプロピレン重合体が示すメソペンタド%値は結晶性画分を13C NMRで測定して約91モル%から約99モル%または約92モル%から約97モル%または約93モル%から約96モル%であり得る。
【0049】
生成物の用途
製造した重合体はいろいろな最終使用用途、例えばフィルムの製造などで用いるに有用である。そのフィルムの製造は通常の当業者に公知の通常様式で実施可能である。
【0050】
当該フィルムが具体的最終使用で示す特定の特性を改良または向上させる目的で、前記フィルムに適切な添加剤を有効な量で含有させることも可能である。そのような添加剤を例えば、適用段階(フィルムの成形)中に用いてもよいか或は加工段階(ペレット押出し加工)中に当該重合体と一緒にしてもよい。そのような添加剤には、紫外線による劣化、熱または酸化による劣化および/または化学線による劣化に対する保護を与える安定剤(例えばヒンダードアミン、ベンゾフラノン、インドリノン)、帯電防止剤(例えば中から高分子量の多価アルコールおよび第三級アミン)、アンチブロック剤、摩擦係数調整剤、加工助剤、着色剤、透明化剤(clarifiers)、核形成剤および当業者に公知の他の添加剤が含まれ得る。
【0051】
そのような重合体が基になったフィルムは、熱シール用途、BOPP(二軸配向ポリプロピレン)、熱収縮用途、通気性フィルム用途、耐熱性フィルム用途、テープ用途、高い透明性および/または高い光沢のフィルムが要求される用途およびポリプロピレンが基になったフィルムが用いられる他のそのような用途で使用可能である。
【実施例】
【0052】
重合実験を70℃で実施することでフィルムグレードの消費者が要求するメルトフローおよびキシレン可溶物濃度に近いそれらを示す樹脂を調製した(表1)。CMDS、BMDS、BPIQおよびCPDSを用いてホモ重合体の製造を実施した。重合体が示すMWDの測定をゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて実施した。ZN672S(Basellから入手可能でありかつスクシネート系内部供与体とフタレート系内部供与体を含有)を用いると幅広いMWDがもたらされ、外部供与体を賢明に選択するとMWDを更に広くすることができる。
【0053】
THC A−021(Toho Catalyst Ltd.から入手可能でありかつ
フタレート系内部供与体を含有)とZN672Sを比較する13C NMR試験を組み込むことで、THC A−021を用いた時の方がメソペンタド分率が各指定供与体毎に低いことを確認した(表2)。しかしながら、その結果は、BMDSを用いると他のシラン系供与体を用いた時に比べて微細立体規則性の度合が好ましく低くかつスクシネート含有触媒であるZN672Sを用いるとフタレート含有触媒であるTHC A−021を用いた時に比べてもたらされる重合体が示す分子量分布が好ましく幅広いことを明らかに示している。
【0054】
【表1】

【0055】
図1では、当該樹脂が示す剛性を貯蔵引張り応力のデータと関連付ける。
【0056】
THC A−021およびZN 672 VS(Basellから入手可能でありかつBasellのスクシネート含有触媒の粒径がより小さい変形、D50〜13μ)をいろいろな外部供与体の存在下で用いることで分子量分布および/または微細立体規則性が様々な樹脂を得た。この重合実験では、THC A−021およびZN 672 VS触媒をCMDS(C供与体)およびBMDS(n−ブチルメチルジメトキシシラン)の存在下で用いた。触媒を10mgおよびTEAlを1ミリモル用いて温度を77℃にしかつ反応時間を1時間にすることでインシトゥ予備重合実験を実施した。特定の重合体目標であるMF〜2−3g/10分およびXS〜3.5−4.5重量%を得る試みとして水素および供与体の濃度を変えた。表3に、フィルムグレード樹脂の製造で得た重合の結果の要約を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
ある範囲の重合体分子量分布および微細立体規則性を得る目的でいろいろな触媒/供与体系を選択した。使用する一連の供与体の中でCMDSを対照ケースとして用いかつBMDSを低い微細立体規則性(即ち鎖欠陥数が多い)を得る目的で用いた。その上、フタレート含有触媒およびスクシネート含有触媒は重合体のMWDに影響を与えることから、その2種類の触媒を用いた。
【0059】
いろいろな樹脂が示す分子量をGPCで測定しそしてその結果を表4に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
THC A−021およびZN 672 VS触媒をいろいろな供与体の存在下で用いて調製した樹脂が示したメルトフローおよびキシレン可溶物濃度は比較的類似していることが前記結果から分かる。C供与体の存在下でTHC A−021を用いた時にもたらされた重合体が示した多分散性は7.9、即ちフタレートが基になった触媒を用いた時の典型的な値である一方、BMDSを用いると結果として重合体の分子量分布がいくらかより狭くなった(D−6.4)。
【0062】
前記GPCの結果により、スクシネート含有触媒であるZN 672 VS触媒を用いるとTHC A−021を用いた時に比べて好ましく幅広い重合体分子量分布がもたらされた。C供与体の存在下でZN 672 VSを用いると多分散性が10.9の樹脂がもたらされる一方、BMDSを用いると結果として再び分子量分布がいくらかより狭くなった(D−10.1)。
【0063】
最適なBOPPフィルム用樹脂を生じさせようとする時の重要な面は、明らかに、当該重合体が加工中に示す流動挙動である。このように、THC A−021およびZN 672 VS触媒をいろいろな供与体の存在下で用いて実験室で調製したサンプルに動的機械的分析(ARES3−LSテストステーションを用いて得た)による評価を受けさせた。DMA研究では、複素粘度を異なる3種類の温度(185、215および245℃)で振動数の関数として得た。図2にTHC A−021を用いて調製した樹脂が代表的な温度である215℃で示した粘度プロファイルを示す一方、図3にZN 672 VSを用いて調製した樹脂が示した粘度を示す。
【0064】
樹脂が示す粘度は振動数、即ちせん断の度合を高くするにつれて低下することが前記結果から分かる。スクシネート含有触媒であるZN 672 VSを用いると重合体の全部がかなり幅広い分子量分布を示すことが分かった。
【0065】
いろいろな触媒系を用いて調製した樹脂が示す正規化粘度を比較するのも更に有益である。THC A−021を用いて調製した重合体が215℃で示した正規化粘度(振動数が0.1ラジアン/秒の時のη/η)のプロットを図4に示す一方、ZN 672 VSを用いて調製した樹脂が示した正規化粘度を図5に示す。
【0066】
A−021をCMDSおよびBMDSの存在下で調製したサンプル(それぞれ9および12)が所定せん断速度の時に示した正規化粘度は同様であることが前記結果から分かり、このことは、流動挙動に影響を与える多分散性(BMDSの場合にはD−6.4でCMDSの場合にはD−7.9)の差が有意ではないことを示している。
【0067】
ZN 672 VSをいろいろな供与体の存在下で用いて調製したフィルムグレード重合体の場合の正規化粘度プロファイルの差はいくらかより小さい[図5]、と言うのは、その樹脂の全部が比較的幅広いMWDを示したからである。前記結果から、BMDSを用いて調製したサンプルが所定振動数の時に示す正規化粘度の方がCMDSを用いて調製した重合体が示すそれよりも若干低いことが分かった。しかしながら、全体として、スクシネート含有触媒を用いると外部供与体の種類に関係なく好ましく幅広い分子量分布を示す樹脂がもたらされることは明らかである。従って、主要な興味は微細立体規則性の比較であろう。
【0068】
THC A−021およびZN 672 VSを用いることに加えていろいろな供与体を用いて実験室で調製したフィルム用樹脂が示す剛性プロファイルを温度の関数として測定する目的でDMAによるさらなる特徴付けを実施した。これらの樹脂が示すXS濃度は比較的同様であることから、これらの重合体が示す熱挙動はむしろ結晶性部分が示す微細立体規則性に起因し得るはずである。その上、いろいろなサンプルが示す個別の温度値T(即ちE=1.4x10Paの時の温度)を比較することも可能である。図6に、THC A−021をいろいろな供与体の存在下で用いて調製した樹脂が示した複素引張り応力を温度と対比させた時の結果を示す一方、図7にスクシネート含有触媒であるZN
672 VSを用いて調製したサンプルが示した剛性プロファイルを示す。
【0069】
THC A−021を用いて調製したフィルムグレードの樹脂[図6]では温度を高くするにつれて複素引張り応力が予想通り低くなることが分かる。BMDSを用いて調製したサンプル(12)では、この樹脂が示すXS濃度は比較的低くて3.1重量%であるにも拘らずそれが温度の関数として示した剛性プロファイルが最も低くかつ剛性が低下する度合が最も急速であった。このような結果は、その重合体が示す微細立体規則性が比較的低い(即ち鎖欠陥数がより多い)ことを示している。
【0070】
スクシネート含有触媒であるZN 672 VSを用いて調製したフィルムグレードの
樹脂[図7]では、BMDSを用いた時にもたらされた剛性プロファイルが温度範囲全体に渡って最も低いことが分かる。再び、そのDMA結果は、そのような重合体が示す微細立体規則性は好ましく低くかつこのことと分子量分布が幅広いこと(D−10.1)が一緒になって加工性および/または特性の向上がもたらされ得ることを示している。全体として、DMA研究により、樹脂の剛性を低くする点でBMDSはA−021およびZN 672 VS触媒の両方に有効であることが分かった。
【0071】
動的機械的結果を用いて、前記樹脂が示すT値(即ちE=1.4x10Paの時の温度)を決定した。表5に、実験室で調製したフィルム用樹脂が示したT値を示す。
【0072】
【表4】

【0073】
THC A−021を用いて調製した樹脂では、CMDSを用いた時に得られたT値は166℃であることが分かる。BMDSを外部供与体として用いると結果としてT値が有意により低い163.4℃である重合体がもたらされ、このことは、そのような樹脂は温度が低い時に「柔らか」であることでそのような好ましい低い温度で加工することができる(例えば二軸延伸)ことを示している。ZN 672 VS/Cを用いて調製したサンプルが示したT値はA−021/Cを用いて調製した樹脂が示したそれよりも約1.4℃高く、それが示したT値は167.4℃であり、このことは、スクシネートを用いて製造した重合体が示す剛性の方が若干高いことを示している。ZN 672 VS/BMDSの場合のT値は低くて164.9℃であり、このことは再び重合体の微細立体規則性が好ましく低いことで剛性が低いことを示している。
【0074】
最後に、THC A−021およびZN 672 VSを用いて調製した重合体が示す微細構造を13C NMRで測定することに興味が持たれた。
【0075】
表6に、いろいろなサンプルの結晶性画分(XIHI)が示した微細立体規則性を示す。
【0076】
【表5】

【0077】
THC A−021/Cを用いて調製した対照樹脂が示したメソペンタドレベルは95.6モル%で全メソレベルは98.0モル%で欠陥数は1000個のC当たり10であることが前記結果から明らかである。最後に、BMDSを用いると微細立体規則性が低く(mmmm−93.5モル%)かつ欠陥数が多い重合体がもたらされたが、そのような特徴はBOPP用途に有用であり得る。
【0078】
ZN 672 VSの場合にCMDSを用いた時にもたらされた重合体が示したメソペンタドレベルは95.8モル%であり、これはA−021/Cを用いた時に比べて若干高かった。再び、BMDSを用いると微細立体規則性が最も低くなり(mmmm−94.7モル%)、このことは、そのような樹脂が示す剛性が低いことを示していたDMAの結果を裏付けしている。このように、BMDSをA−021またはZN 672 VSのいずれかと一緒に用いると微細立体規則性が好ましく低い重合体がもたらされると結論付けることができる。
【0079】
樹脂の押出し加工を実施した後、Brucknerフィルム引き伸ばし試験を実施した。このように、下記の重合実験を実施した。
【0080】
重合実験では、THC A−021およびZN 672 VS触媒を供与体としてのBMDS(n−ブチルメチルジメトキシシラン)の存在下で用いた。触媒を10mgおよびTEALを1ミリモル用い、温度を77℃にし、反応時間を1時間にして、予備重合をインシトゥで行う実験を実施した。MF:2−3g/10分でXS:3−4重量%の重合体を得る試みで水素および供与体の濃度を変えた。表7に、そのようなフィルムグレードの樹脂を目標として行った多数のバッチ式重合の結果の要約を示す。
【0081】
【表6】

【0082】
Al/Siの比率を20にしかつ水素を0.03モル%用いた時にTHC A−021/BMDSがもたらした平均活性は25,600g/g/時であることが前記結果から分かる。バッチ1のメルトフローは2.4g/10分であったが、分析によるXS濃度は3.39重量%であることが分かった。Al/Siを10にしかつ水素を0.04モル%用いた時にスクシネート含有触媒系であるZN 672 VS/BMDSがもたらした平均活性は18,300g/g/時であることに加えて組み合わせたバッチが示したMFは2.3g/10分であった。バッチ2のXS濃度は〜3.3重量%であった。各バッチの綿毛物を約2.0kgずつ一緒にして物理的に混合した後にシートに押出し加工し、それにBrucknerフィルム引き伸ばし機による評価を受けさせることで、加工性の測定を実施した。
【0083】
バッチ毎の樹脂を一緒にして分子量をGPCで測定した時の結果を表8に示す。
【0084】
【表7】

【0085】
THC A−021/BMDSを用いて調製した樹脂が示した分子量分布(D−7.3)の方がZN 672 VS/BMDSを用いて調製した樹脂が示したそれ(D−8.1)よりも狭いがMFおよびXSは同様であることが前記の結果から明らかである。その上、そのような重合体が示す微細立体規則性を13C NMRで評価することにも興味が持たれた、と言うのは、BMDSを用いると結果として立体規則性が低下すると期待されたからである。表9に、この試験で調製した樹脂が示した微細立体規則性に加えていくつかの比較触媒系を用いた時のそれも示す。
【0086】
【表8】

【0087】
両方の触媒ともBMDSを存在させるとCMDSを存在させた時に比べてもたらされる微細立体規則性が低く(mmmm−94.1から94.4モル%)なりかつ欠陥数も多く(12−12.7)なることは前記結果から明らかである。
【0088】
表10に、いろいろなサンプルが示した流動学的パラメーターを示す。
【0089】
【表9】

【0090】
THC A−021/BMDSを用いて調製したバッチ1の方がZN 672 VS/BMDS用いて調製したサンプルに比べて弛緩時間が短くかつ幅パラメーターが高い(即ち流動学的に狭い)ことが前記結果から分かるが、それは分子量分布がより狭いことによるものである。そのような結果は、GPCで得た分子量分布と一致している。前記2種類の触媒をCMDSの存在下で用いた時に見られた差と同様であることを注目した。また、測定T温度に基づいて、BMDSを用いて調製した樹脂の方がCMDSを用いて調製した樹脂よりも若干「柔らか」であることも明らかである。
【0091】
この上に示した明細書では、本発明の具体的な態様を言及することで本発明を記述しかつプロピレン単量体を重合および共重合させるに適したチーグラー・ナッタ触媒系を製造する方法を示すことで本発明が有効であることを立証してきた。しかしながら、添付請求項に示す如き本発明のより幅広い精神または範囲から逸脱しない限りそれに対していろいろな修飾および変項を行ってもよいことは明らかであろう。従って、本明細書は限定的意味ではなく例示として見なされるべきである。例えば、請求する要素の範囲内に入るが個々の触媒系として具体的に示すことも試すことも行わなかった共触媒、内部供与体および外部供与体および他の成分の特定の組み合わせおよび量も本発明の範囲内に入ると予測しかつ期待する。その上、本発明の方法は本明細書に例示した条件、特に温度、圧力および濃度条件以外のそれらでも目的通りに機能すると期待する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン単量体を重合もしくは共重合させる方法であって、
(a)スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒を準備し、
(b)前記触媒を有機アルミニウム化合物と接触させ、
(c)(b)と同時または(b)の後に前記触媒をn−ブチルメチルジメトキシシラン(
BMDS)を含有して成る少なくとも1種の外部電子供与体と接触させ、
(d)前記触媒を前記有機アルミニウム化合物、前記電子供与体およびプロピレン単量体
を包含する重合反応ゾーンに導入し、そして
(e)ポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体を前記重合反応ゾーンから取り出す、ことを含んで成る方法。
【請求項2】
前記スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒を準備する請求項1記載の方法であって、前記スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒が、式MR[式中、Mはチタン、クロムおよびバナジウムから成る群より選択され、Rはハロゲンまたはヒドロカルボキシルから成る群より選択され、そしてxはMの原子価である]で表される遷移金属化合物を含有して成る方法。
【請求項3】
前記重合反応ゾーンから取り出したポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体が約91から約99モル%の範囲であるメソペンタドのレベルを示す請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記重合反応ゾーンから取り出したポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体が約1から約6重量%の範囲であるキシレン可溶物を有する請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記重合反応ゾーンから取り出したポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体が約4から約15の範囲である多分散性を示す請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記重合反応ゾーンから取り出したポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体が約150℃から約170℃であるT値を示す請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記有機アルミニウム化合物が式AlR[式中、Rは炭素原子数が1から8のアルキル基でありかつRは同じまたは異なってもよい]で表されるアルミニウムトリアルキル共触媒である請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記有機アルミニウム共触媒がトリエチルアルミニウム(TEAl)である請求項7記載の方法。
【請求項9】
Al/Siのモル比(シラン供与体に対する有機アルミニウム化合物)が約0.5から約500の範囲である請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記BMDSがプロピレン単量体の重量に対して約0.5から約500ppmの量で存在する請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記重合反応ゾーンが追加的にプロピレン単量体以外のオレフィン単量体を包含する請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記オレフィン単量体がエチレンである請求項11記載の方法。
【請求項13】
オレフィンを重合もしくは共重合させるための触媒系であって、
(a)スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒、
(b)有機アルミニウム化合物、および
(c)n−ブチルメチルジメトキシシラン(BMDS)を含有して成る少なくとも1種の
外部電子供与体、
を含有して成る触媒系。
【請求項14】
前記スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒が式MR[式中、Mはチタン、クロムおよびバナジウムから成る群より選択され、Rはハロゲンまたはヒドロカルボキシルから成る群より選択され、そしてxはMの原子価である]で表される遷移金属化合物を含有して成る請求項13記載の触媒。
【請求項15】
前記有機アルミニウム化合物がトリエチルアルミニウム(TEAl)である請求項13記載の触媒。
【請求項16】
Al/Siのモル比(シラン供与体に対する有機アルミニウム化合物)が約0.5から約500の範囲である請求項13記載の触媒。
【請求項17】
プロピレンの重合体もしくは共重合体を含んで成るポリプロピレンであって、少なくとも約0.5dg/分のメルトフローおよび約5重量%以下のキシレン可溶物量、約91から約96モル%の範囲のメソペンタドレベルならびに約150℃から約170℃のT値を示すポリプロピレン。
【請求項18】
更に約4から約15の範囲の多分散性を示す請求項17記載のポリプロピレン。
【請求項19】
請求項17記載のポリプロピレンであって、
(a)スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒を準備し、
(b)前記触媒を有機アルミニウム化合物と接触させ、
(c)(b)と同時または(b)の後に前記触媒をn−ブチルメチルジメトキシシラン(
BMDS)を含有して成る少なくとも1種の外部電子供与体と接触させ、
(d)前記触媒を前記有機アルミニウム化合物、前記電子供与体およびプロピレン単量体
を包含する重合反応ゾーンに導入し、そして
(e)ポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体を前記重合反応ゾーンから取り出す、ことを含んで成る方法で作られたポリプロピレン。
【請求項20】
請求項17記載のポリプロピレンから作られた製品。
【請求項21】
前記ポリプロピレンが
(a)スクシネート含有チーグラー・ナッタ触媒を準備し、
(b)前記触媒を有機アルミニウム化合物と接触させ、
(c)(b)と同時または(b)の後に前記触媒をn−ブチルメチルジメトキシシラン(
BMDS)を含有して成る少なくとも1種の外部電子供与体と接触させ、
(d)前記触媒を前記有機アルミニウム化合物、前記電子供与体およびプロピレン単量体
を包含する重合反応ゾーンに導入し、そして
(e)ポリプロピレンホモ重合体もしくは共重合体を前記重合反応ゾーンから取り出す、ことを含んで成る方法で作られたポリプロピレンである請求項20記載の製品。
【請求項22】
フィルムを含んで成る請求項20記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−514905(P2010−514905A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544184(P2009−544184)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/087929
【国際公開番号】WO2008/082954
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(391024559)フイナ・テクノロジー・インコーポレーテツド (98)
【氏名又は名称原語表記】FINA TECHNOLOGY, INCORPORATED
【Fターム(参考)】