説明

ポリプロピレン系樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる射出発泡成形体

【課題】射出充填性に優れ、発泡性、耐衝撃性および表面外観の良好な射出発泡成形体を提供し得るポリプロピレン系樹脂組成物、ならびに該樹脂組成物からなる射出発泡成形体の提供。
【解決手段】230℃でのメルトフローレートが30〜250g/10分、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、損失正接tanδが6.0以下である、改質ポリプロピレン系樹脂(A)3〜50重量部、および230℃でのメルトフローレートが10g〜100g/10分、メルトテンションが2cN未満である、線状ポリプロピレン系樹脂(B)50〜97重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]、および190℃でのメルトフローレートが5g〜30g/10分、密度が930〜980kg/mの高密度ポリエチレン系樹脂(C)3〜30重量部を含んでなる、ポリプロピレン系樹脂組成物。および当該樹脂からなる射出発泡成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物および、それを用いた射出発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、良好な物性及び成形性を有しており、また、環境にやさしい材料として急速にその使用範囲が拡大している。特に、自動車部品等では、軽量で剛性に優れたポリプロピレン樹脂製品が提供されており、そのような製品の一つに、ポリプロピレン系樹脂の射出発泡成形体がある。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂の射出発泡成形体において、ポリプロピレン系樹脂を高発泡化させる技術としては、型開き可能に保持された金型の空間内に発泡剤を含む樹脂を射出成形した後、金型を開くことにより前記空間を拡大して樹脂を発泡させるいわゆるコアバック法(Moving Cavity法)がある。
【0004】
一般に、射出発泡成形に用いるポリプロピレン系樹脂の特性としては、金型内の隅々まで樹脂が充填されるための流動性と、その後発泡するための発泡性が必要とされる。
【0005】
しかしながら、通常使用される線状ポリプロピレン系樹脂は結晶性でメルトテンション(溶融張力)が低いため、気泡が破壊されやすく高発泡化が困難であった。また、射出発泡成形体表面に発泡剤由来ガスによるシルバーストリークと呼ばれる外観不良が発生しやすい傾向があった。
【0006】
ポリプロピレン系樹脂のメルトテンション(溶融張力)を高める方法として、例えば、無架橋のポリプロピレン系樹脂に放射線照射することで長鎖分岐を導入する方法(特許文献1)、ポリプロピレン系樹脂とイソプレン単量体とラジカル重合開始剤とを溶融混練して改質ポリプロピレン系樹脂を製造する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0007】
確かに、この方法により高発泡倍率の射出発泡成形体が得られるものの、樹脂溶融時の粘度が上がりすぎ、射出が困難となる場合があるとともに、発泡性を付与することに起因すると考えられる成形不良であるフローマークが発生し、表面外観が悪くなる場合があった。特に、自動車部品などの大型製品を成形する場合や、軽量化を狙い、樹脂を充填する際の金型キャビティの初期クリアランスを薄く設定する場合に、流動性が不足するとショートショットになり易く、上記問題は顕著であった。
【0008】
このような射出発泡成形における成形性を改良する方法として、ポリオレフィンワックスを併用する方法が提案されている(特許文献3)。この方法により、流動性が改良されるが、ワックスを使用することにより、成形体物性(耐衝撃性)が低下する場合があった。
【0009】
以上のように、前記した外観不良対策を含め、特に大型成形品を成形する場合などに必要とされるより良好な流動性および発泡性、さらには良好な耐衝撃性を示すポリプロピレン系樹脂を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−226510号公報
【特許文献2】特開平9−188774号公報
【特許文献3】特開2008−101060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、射出充填性に優れ、発泡性、耐衝撃性および表面外観の良好な射出発泡成形体を提供し得るポリプロピレン系樹脂組成物、ならびに該樹脂組成物からなる射出発泡成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、メルトフローレートの高い特定の改質ポリプロピレン系樹脂を汎用の線状ポリプロピレン系樹脂に添加し、さらにこれらに高密度ポリエチレンを添加することからなる樹脂組成物を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の構成をなす。
1)230℃でのメルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である、改質ポリプロピレン系樹脂(A)3〜50重量部、および230℃でのメルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である、線状ポリプロピレン系樹脂(B)50〜97重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]、および190℃でのメルトフローレートが5g/10分以上30g/10分以下、密度が930kg/m以上980kg/m以下の高密度ポリエチレン系樹脂(C)3〜30重量部を含んでなることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂組成物。
2)前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、230℃でのメルトフローレートが50g/10分を超えて250g/10分以下であることを特徴とする、1)記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
3)前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする、1)または2)記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
4)前記線状ポリプロピレン系樹脂(B)がシャルピー衝撃強さ(−20℃)が2kJ/m以上であることを特徴とする1)〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
5) 1)〜4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物、および発泡剤を含んでなる組成物を射出発泡成形してなることを特徴とする、射出発泡成形体。
6) 1)〜4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物および発泡剤を射出成形機へ供給し、次いで、金型内に射出して発泡成形することを特徴とする
、発泡成形体の製造方法。
7)固定型および、任意の位置に前進および後退が可能な可動型から構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させることを特徴とする、6)に記載の発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、流動性、発泡性および耐衝撃性に優れる。そのため、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、特に射出発泡成形に好適に使用でき、とりわけ、大型金型による薄肉の射出発泡成形が可能となる。さらには、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、メルトフローレートが30g/10分を超える高流動であり、少しの膨張力でも大きく変形することが可能であることから、従来のメルトフローレートが30g/10分以下のポリプロピレン系樹脂組成物に比べて、発泡剤を減量しても所望の発泡倍率の射出発泡成形体を得ることができる。そして、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物から得られる射出発泡成形体は、高発泡倍率でシルバーストリークやフローマークが少なく表面外観が良好なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、メルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である改質ポリプロピレン系樹脂(A)を5〜50重量部、メルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である線状ポリプロピレン樹脂(B)50〜95重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]、を含んでなる。
【0017】
本発明で用いられる改質ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレートは、下限が30g/10分を超え、好ましくは50g/10分を超えるものであり、上限が250g/10分以下、好ましくは200g/10分以下、さらに好ましく波100g/10分以下である。改質ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレートが30g/10分以下の場合、流動性が不足して、大型金型での射出発泡成形においてショートショットとなる場合があり、メルトフローレートが250g/10分を超える場合、射出発泡成形での計量工程が不安定になる場合がある。
【0018】
ここで、メルトフローレート(以降、「MFR」と略す場合がある)とは、ASTM D−1238に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所製)を用い、230℃、2.16kg荷重の条件にて、ダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した値をいう。なお、前記一定時間とは、メルトフローレートが3.5g/10分以上10g/10分未満の場合は60秒間、10g/10分以上25g/10分未満の場合は30秒間、25g/10分以上50g/10分未満の場合は15秒間、50g/10分以上100g/10分未満の場合は5秒間、100g/10分以上の場合は3秒間である。仮に、ある秒数で測定した際のメルトフローレートが対応する範囲に無かった場合は、そのメルトフローレートに応じた秒数で再度測定するものとする。
【0019】
本発明で用いられる改質ポリプロピレン系樹脂(A)は、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、好ましくは0.5cN以上である。メルトフローレートが30g/10分を超えるポリプロピレン系樹脂においてメルトテンションが0.3cN未満の場合、射出発泡成形時の溶融樹脂流動先端部での破泡が抑えられず、シルバーストリークが発生し、射出発泡成形体の表面外観が悪化する場合がある。
【0020】
ここで、メルトテンション(以降、「MT」と略す場合がある)とは、メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、先端にφ1mm、長さ10mmのオリフィスを装着したφ10mmのシリンダを有するキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、200℃、ピストン降下速度10mm/分で降下させた際にダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて1m/分の速度で引き取り、安定後に引き取り速度を4分間で200m/分の速度に達する割合で増加させ、ストランドが破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重をいう。なお、ストランドが破断に至らない場合は、引き取り速度を増加させてもロードセル付きプーリーにかかる荷重が増加しなくなった点の荷重をメルトテンションとする。
【0021】
本発明の(A)改質ポリプロピレン系樹脂は、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下であり、好ましくは5.0以下である。
【0022】
ここで、角振動数1rad/sはいわゆる低剪断領域であり、その領域において損失正接tanδが小さい、すなわち、相対的に貯蔵弾性率が高いことは発泡時の気泡の保持に有利であると考えられる。但し、メルトフローレートが30g/10分以下という分子量の比較的高いポリプロピレン系樹脂では、分子鎖が相互に絡む割合が高く、メルトフローレートが小さくなるほど前記損失正接tanδが小さく測定される傾向にある。しかし、メルトフローレートが低い故に損失正接tanδが低い場合、損失正接tanδは、発泡に適した溶融特性を適正に表わしているといえず、実際に射出発泡成形において必ずしも気泡の保持に充分ではない。すなわち、本発明においては、メルトフローレートが30g/10分を超える高流動のポリプロピレン系樹脂において損失正接tanδが低いことが、射出発泡成形での気泡保持の指標となり、損失正接tanδが6.0を超える場合、破泡しやすく、射出発泡成形体に内部ボイドが発生したり、射出発泡成形体の厚みが薄くなってしまう場合がある。
【0023】
一方、前記損失正接tanδの下限には特に制約は無いが、0.7未満の場合に射出発泡成形体表面にフローマークが目立ち、表面外観が悪くなる場合がある。
【0024】
ここで、損失正接tanδは、25mmφのパラレルプレート型冶具を装着した粘弾性測定装置を用い、測定温度200℃、パラレルプレート間隔1mm、角振動数0.1rad/sから100rad/sまでの範囲で測定を行った際の、角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率および損失弾性率の測定値を用いて、損失弾性率を貯蔵弾性率で除して算出する。なお、前記粘弾性測定には、例えば、TAインスツルメンツ社製粘弾性測定装置、ARESなどが好適に用いられる。
【0025】
本発明における前記物性を有する改質ポリプロピレン系樹脂(A)としては、例えば、線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射する方法、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合する方法、などにより得られる、分岐構造あるいは高分子量成分を含有する改質ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
これらの中では、線状ポリプロピレン樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な設備を必要とせず、安価に製造できる点から好ましい。
【0026】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられるが、これらを単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点から、特に好ましい。
【0027】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下が好ましく、0.05重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。共役ジエン化合物の添加量が0.01重量部未満では、損失正接tanδが6.0を超えて、発泡性が不充分となる場合があり、5重量部を超えると、メルトフローレートが30g/10分以下となり、流動性が不充分となる場合がある。
【0028】
なお、本発明においては、前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなど)を併用してもよい。
【0029】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられるラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。
【0030】
これらのうち、特に水素引き抜き能が高いものが好ましく、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンなどのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどが挙げられる。これらは、単独で使用してよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられるラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下が好ましく、0.2重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.05重量部未満では、損失正接tanδが6.0を超えて、発泡性が不充分となる場合があり、10重量部を超えると、改質の効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0032】
一般に、損失正接tanδが6.0以下となるように線状ポリプロピレン系樹脂を改質する際、メルトフローレートが30g/10分以下となり易い傾向がある。これに対して、本発明においては、ラジカル開始剤の添加量を、共役ジエン化合物の添加量以上とすることにより、改質ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが30g/10分を超えて、メルトテンションが0.3cN以上、かつ損失正接tanδが6.0以下となるように、比較的容易に調整することができる。
【0033】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる線状ポリプロピレン系樹脂とは、線状の分子構造を有しているポリプロピレン系樹脂であり、具体的には、プロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。
【0034】
プロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、エチレン、1−ブテンが、耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0035】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために、線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を反応させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、特に押出機が生産性の点から好ましい。
【0036】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために、線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法には、特に制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を混合したのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)した後、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時にあるいは別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。
【0037】
混練(撹拌)機の温度は130〜300℃であることが、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。また、混練(撹拌)時間は、一般に1〜60分が好ましい。
【0038】
このようにして、本発明の改質ポリプロピレン樹脂(A)を製造することができる。改質ポリプロピレン樹脂(A)の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0039】
本発明における線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、メルトフローレートが好ましくは10g/10分以上100g/10分以下、さらに好ましくは15g/10分以上50g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは2cN未満、さらに好ましくは1cN以下である。線状ポリプロピレン樹脂(B)のメルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下の範囲であると、射出発泡成形体を製造する際に、金型キャビティのクリアランスが1〜2mm程度の薄肉部分を有する成形においても比較的低圧力で溶融樹脂を金型内に充填することが可能であり、連続して安定した射出発泡成形が行える傾向にある。また、メルトテンションが2cN未満であれば、フローマークが発生しない表面外観美麗な射出発泡成形体が得られやすい。
【0040】
線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)の製造に用いられる原料の線状ポリプロピレン系樹脂として取り上げたものと同じものが例示できる。線状プロピレン系樹脂(B)としては、具体的には、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンランダムコポリマー、プロピレン−エチレンブロックコポリマー等が挙げられ耐熱性と耐衝撃性のバランスに優れるという観点から、プロピレン−エチレンブロックコポリマーであることが好ましい。さらに、線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、射出発泡成形体に耐衝撃性を付与しやすいという点から、−20℃でのシャルピー衝撃強さが2kJ/m以上であることが好ましい。
【0041】
本発明においてシャルピー衝撃強さ(−20℃)とは、JIS K 7111(1996)に準拠して、試験温度−20℃で測定したものを言う。
【0042】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を構成する、改質ポリプロピレン系樹脂(A)および線状ポリプロピレン系樹脂(B)の混合比率は、両者の合計を100重量部とした場合、改質ポリプロピレン樹脂(A)は、好ましくは5重量部以上50重量部以下であり、さらに好ましくは10重量部以上45重量部以下である。線状ポリプロピレン樹脂(B)は、好ましくは50重量部以上95重量部以下であり、さらに好ましくは55重量部以上90重量部以下である。配合比率が上記範囲内であると、均一微細な気泡を有し、発泡倍率2倍以上であり、フローマークが発生しない表面外観美麗な射出発泡成形体を安価に提供することができる。配合比率が上記の範囲外であると、例えば、改質ポリプロピレン系樹脂(A)が5重量部未満であると、均一微細な気泡を有する発泡成形体が得られない傾向があり、50重量部を超えると、フローマークが多く発生する傾向がある。
【0043】
本発明における高密度ポリエチレン系樹脂(C)としては、190℃でのメルトフローレートが5g/10分以上30g/10分以下、密度が930kg/m以上980kg/m以下(好ましくは940〜970)のものが挙げられる。ここで言う190℃でのメルトフローレートとは、改質ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレートの測定に対して、測定温度のみ190℃に変更した以外は同様に測定したものを言う。
【0044】
高密度ポリエチレン系樹脂(C)のメルトフローレートとしては、5g/10分以上30g/10分以下であり、10g/10分以上30g/10分以下であることが好ましく、さらには15g/10分以上25g/10分以下であることが好ましい。5g/10分未満であると、組成物の流動性が不足する場合が有り、30g/10分を超えると所望の耐衝撃性が得られない場合がある。
【0045】
高密度ポリエチレン系樹脂(C)の密度としては、930kg/m以上980kg/m以下であり、好ましくは940kg/m以上970kg/m以下、さらには940kg/m以上960kg/m以下であることが好ましい。密度が930kg/m未満であると得られる成形体の耐熱性や剛性が不足する場合が有り、980kg/mを超えると所望の耐衝撃性が得られ難くなる場合があり、また成形体を軽量化する観点からも好ましくない。
【0046】
本発明における高密度ポリエチレン系樹脂(C)の添加量は、3〜30重量部が好ましく、さらに5〜20重量部が好ましい。高密度ポリエチレン系樹脂(C)の添加量が上記範囲にあることで、流動性や耐熱性を損なうことなく、高発泡倍率で外観に優れかつ耐衝撃性に優れた発泡成形体が得られ易い。添加量が3重量部未満であると、耐衝撃改善効果が少なく、30重量部より多いと成形体の耐熱性が低下する傾向にある。
【0047】
本発明は、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物、および発泡剤を含んでなる組成物を射出発泡成形してなる射出発泡成形体にも関する。
【0048】
本発明で用いられる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであれば、特に制限はない。
【0049】
化学発泡剤は、前記樹脂と予め混合してから押出機や射出成形機に供給され、シリンダ内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0050】
物理発泡剤は、押出機や射出成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能するものである。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0051】
これらの発泡剤の中では、通常の押出機や射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては無機系化学発泡剤、物理発泡剤としては窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスが好ましい。これらの発泡剤には、射出発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために、必要に応じて、例えば、クエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルク、炭酸リチウムのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は、取扱性、貯蔵安定性、ポリプロピレン系樹脂への分散性の点から、10〜50重量%濃度のポリオレフィン系樹脂のマスターバッチとして使用されるのが好ましい。
【0052】
本発明における発泡剤の使用量は、最終製品の発泡倍率と発泡剤の種類や成形時の樹脂温度によって適宜設定すればよい。例えば、通常、無機系化学発泡剤の場合は、本発明のポリプロピレン系樹脂100重量部中、好ましくは0.5重量部以上30重量部以下、さらに好ましくは1重量部以上20重量部以下の範囲で使用される。無機系化学発泡剤をこの範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が2倍以上、かつ、均一微細気泡の射出発泡成形体が得られやすい。なお、物理発泡剤の場合は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下、好ましくは0.1重量部以上5重量部以下の範囲で、射出成形機に供給して使用される。
【0053】
本発明における改質ポリプロピレン系樹脂は、特にメルトフローレートが30g/10分を超える高流動性を有し、少しの膨張力でも大きく変形することが可能であることから、線状ポリプロピレン系樹脂と混合して使用する際に、従来のメルトフローレートが30g/10分以下の改質ポリプロピレン系樹脂に比べて、発泡剤を減量しても所望の発泡倍率の成形体が得られやすい。
【0054】
ただし、メルトフローレートが30g/10分を超える改質ポリプロピレン系樹脂を使用した場合であっても、破泡するとガス抜けにより発泡倍率は低下するため、改質ポリプロピレン系樹脂の損失正接tanδが6.0以下であることも必要な要件となる。
【0055】
すなわち、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を使用することにより、初めて、発泡剤を減量することが可能となる。なお、発泡剤の減量は、コストダウンのみならず、シルバーストリークの低減に繋がることから、経済性や成形体品質の観点からも好ましい。
【0056】
本発明では、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の範囲でないポリプロピレン系樹脂の他、高圧法低密度ポリエチレン系樹脂、線状低密度ポリエチレン系樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、その他の熱可塑性樹脂を混合しても良い。
【0057】
本発明では、さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、可塑剤、滑材、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。
【0058】
次に、射出発泡成形の方法について、具体的に説明する。射出発泡成形方法自体は公知の方法が適用でき、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート、発泡剤の種類、成形機の種類あるいは金型の形状によって、適宜成形条件を調整すればよい。
【0059】
本発明のポリプロピレン系樹脂の場合、例えば、樹脂温度170〜250℃、金型温度10〜100℃、成形サイクル1〜120分、射出速度10〜300mm/秒、射出圧10〜200MPa等の条件で行うことが好ましい。
【0060】
また、金型内で発泡させる方法としては種々有るが、なかでも固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)が、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が均一微細気泡になりやすく、軽量性に優れた射出発泡成形体が得られやすいことから、好ましい。なお、可動型を後退させる方法としては、一段階で行ってもよいし、二段階以上の多段階で行ってもよく、後退させる速度も適宜調整してもよい。
【0061】
本発明では、予め金型内を不活性ガス等で圧力をかけながら、ポリプロピレン系樹脂組成物を金型内に導入するいわゆるカウンタープレッシャー法を併用することにより、シルバーストリークに起因する表面外観不良を低減することができるため、好ましい。このようにして、本発明の射出発泡成形体を得ることができる。
【0062】
本発明の射出発泡成形体の発泡倍率は、好ましくは2倍以上10倍以下、さらに好ましくは2.5倍以上6倍以下である。発泡倍率が2倍未満では、軽量性が得られ難い傾向があり、10倍を超える場合には、剛性の低下が著しくなる傾向がある。さらに、本発明のポリプロピレン系樹脂は流動性に優れていることから、射出充填時の金型のクリアランスが2mm以下という薄い状態でも、優れた充填性が発揮される傾向にあり、成形品の計量化の観点からも、充填時の金型クリアランス、すなわち射出充填完了時の金型クリアランスが薄いことが好ましく、2mm以下、更には1.5mm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明は、これらによって何ら制限されるものではない。
【0064】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法および判定基準は次の通りである。
【0065】
(1) メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所製)を用い、指定された温度(ポリプロピレン系樹脂は230℃、高密度ポリエチレン系樹脂は190℃)、2.16kg荷重下でダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した。なお前記一定時間は、メルトフローレートが3.5g/10分以上10g/10分未満の場合は60秒間、10g/10分以上25g/10分未満の場合は30秒間、25g/10分以上50g/10分未満の場合は15秒間、50g/10分以上100g/10分未満の場合は5秒間、100g/10分以上の場合は3秒間とした。
【0066】
(2)メルトテンション(MT)
メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、先端にφ1mm、長さ10mmのオリフィスを装着したφ10mmのシリンダを有するキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、200℃、ピストン降下速度10mm/分で降下させた際にダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて1m/分の速度で引き取り、安定後に引き取り速度を4分間で200m/分の速度に達する割合で増加させ、ストランドが破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重をメルトテンションとした。なお、ストランドが破断に至らない場合は、引き取り速度を増加させてもロードセル付きプーリーにかかる荷重が増加しなくなった点の荷重をメルトテンションとした。
【0067】
(3)損失正接tanδ
ポリプロピレン系樹脂を、1.5mm厚のスペーサーを用いて、190℃にて5分間熱プレスして1.5mm厚のプレス板を作製し、ここから25mmφのポンチを用いて打ち抜き、試験片を得た。測定装置としては、TAインスツルメンツ社製粘弾性測定装置ARESを用い、25mmφのパラレルプレート型冶具を装着した。冶具を囲うように恒温槽を設置し、200℃に保温、冶具が予熱された後に、恒温槽を開け、パラレルプレート間に25mmφとした試験片を挿入して恒温槽を閉じ、5分間予熱した後にパラレルプレート間隔を1mmまで圧縮した。圧縮後、再度恒温槽を開き、パラレルプレートからはみ出した樹脂を真鍮のヘラで掻き取り、恒温槽を閉じて再度5分間保温した後に、動的粘弾性測定を開始した。
【0068】
測定は、角振動数0.1rad/sから100rad/sまでの範囲で行い、各角振動数での貯蔵弾性率と損失弾性率および、計算値として損失正接tanδを得た。これらの結果のうち、角周波数1rad/sでの損失正接tanδの値を採用した。なお、歪み量は5%で、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0069】
(4)シャルピー衝撃強さ:JIS K 7111(1996)に準拠して、試験温度−20℃で測定した(試験片サイズ:80×10×4、ノッチタイプ:A、打撃方向:エッジワイズ)。
【0070】
(5)射出充填性
射出充填時の圧力が低いと充填性が良いとの考えから、下記参考例の射出充填時の最大射出圧力を基に下記基準で評価した。
○:最大射出圧力が参考例の95%未満。
△:最大射出圧力が参考例と同様(差が±5%以内)。
×:最大射出圧力が参考例の105%を超える。
【0071】
(7)発泡倍率
箱形状の射出発泡成形体底面の厚みを測定し、当該部位の金型の型締め状態でのキャビティ・クリアランスtで除することにより、算出した。
【0072】
(8)内部ボイド:
箱形状の射出発泡成形体の底面部を、ゲートを含む中心線で切断し、ゲートから30mmの位置から60mmまでの範囲の断面を観察し、発泡層に直径が1.5mm以上のボイド(内部の気泡が連通化するなどして生じる粗大な気泡)の有無を調べた。
○:ボイドが観察されないもの。
×:ボイドが有るもの。
【0073】
(6)表面外観
射出発泡成形体の表面に現れるシルバーストリークを目視により観察し、下記参考例の品質を基に以下の基準で評価した。
○:参考例に比べてシルバーストリークが目立たない。
△:参考例と同様。
×:参考例に比べてシルバーストリークが目立つ。
【0074】
(8)耐衝撃性(硬質プラスチックの落錘衝撃試験)
得られた成形体の底面から、4cm角の試験片を切り出し、JIS K7211−1(1976)に準拠して、−30℃における50%破壊エネルギーE50(単位:J)を求め、下記参考例の数値を基に下記基準にて評価した。
○:参考例の120%を超える。
△:参考例と同様(差が20%以内)。
×:参考例の80%未満。
【0075】
次に、実施例、比較例で使用した樹脂材料、発泡剤を以下に示す。
【0076】
(A)改質ポリプロピレン系樹脂
MP−1:線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート45g/10分のプロピレン単独重合体(プライムポリマー製、J108M)100重量部、および、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート1.0重量部の混合物を、ホッパーから70kg/時で45mmφ二軸押出機(L/D=40)に供給して、シリンダ温度200℃で溶融混練し、途中に設けた圧入部より、共役ジエン化合物としてイソプレンモノマーを、定量ポンプを用いて0.4重量部(0.28kg/時の速度)で供給し、前記ニ軸押出機中で溶融混練し、押し出されたストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート56g/10分、メルトテンション4.8cN、tanδ2.5)
MP−2:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を0.4重量部、イソプレンの供給量を0.4重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート43g/10分、メルトテンション1.9cN、tanδ2.5)
MP−3:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.4重量部、イソプレンの供給量を0.3重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート97g/10分、メルトテンション1.9cN、tanδ3.6)
MP−4:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.4重量部、イソプレンの供給量を0.25重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート175g/10分、メルトテンション1.9cN、tanδ4.4)
MP−5:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を0.6重量部、イソプレンの供給量を0.8重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート6g/10分、メルトテンション12cN、tanδ1.3)
【0077】
(B)線状ポリプロピレン系樹脂
PP−1:メルトフローレート(230℃)45g/10分、メルトテンションが1cN未満、シャルピー衝撃強度(−20℃)が2.5kJ/mのプロピレンブロック共重合体(プライムポリマー製、J708UG)
【0078】
(C)高密度ポリエチレン系樹脂
PE−1:メルトフローレート(190℃)18g/10分、密度955kg/mの高密度ポリエチレン(プライムポリマー製、HI−ZEX1608J)
【0079】
(D)ポリオレフィンワックス
WA−1:三井化学製ポリエチレンワックス(エクセレックス30200BT)
【0080】
(実施例1〜6)
<ポリプロピレン系樹脂組成物の作製>
表1に示す種類・組成比にて、改質ポリプロピレン系樹脂(A)に、線状ポリプロピレン系樹脂(B)、高密度ポリエチレン系樹脂(C)、および発泡剤としての重曹系化学発泡剤マスターバッチ(永和化成製ポリスレンEE275F、分解ガス量40ml/g)をドライブレンドした。
【0081】
<射出発泡成形体の作製>
型締力350tで、コアバック機能およびシャットオフノズルを有する電動の射出成形機(宇部興産機械(株)製)で、シリンダ温度200℃、背圧15MPaで溶融混練した後、30℃に設定された固定型と前進および後退が可能な可動型とから構成される、縦330mm×横230mm×高さ100mmの箱形状のキャビティ(立壁部:傾斜10度、クリアランス3mm、底面部:クリアランスt=1.5mm)を有し、底面部の中心位置にφ2ピンゲートを有する金型中に、射出速度100mm/秒で射出充填した。射出充填完了後に、底面部が所望の厚み(発泡倍率)となるように可動型を後退させて、キャビティ内の樹脂を発泡させた。発泡完了後60秒間冷却してから射出発泡成形体を取り出した。得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0082】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、流動性、発泡性、耐衝撃性に優れており、参考例に比べて射出充填性に優れており、得られた成形体は参考例に対して、耐衝撃性、および外観が改善されたものであった。
【0083】
【表1】

【0084】
(参考例)
実施例、比較例における品質評価の基準とすべく従来品の一例として、表1に示す組成物を使用しそれ以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。
【0085】
(比較例1)
ポリオレフィンワックスを表1に示す比率で添加した以外は参考例と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は、射出充填性は改善されたものの、外観は参考例と同等で耐衝撃性が悪いものであった。
【0086】
(比較例2)
ポリオレフィンワックスの変わりに高密度ポリエチレン系樹脂を表1に示す組成比で添加した以外は参考例と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は、外観および耐衝撃性が改善されたものであったが、射出充填性が参考例と同等レベルであった。
【0087】
(比較例3)
改質ポリプロピレンをMP−1に変えた以外は参考例と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は、射出充填製は改善されたものの、外観および耐衝撃性が参考例と同等レベルであった。
【0088】
(比較例4)
高密度ポリエチレン系樹脂の変わりにポリオレフィンワックスを使用した以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は、射出充填性は改善されたものの、外観は参考例と同等で、耐衝撃性が悪いものであった。
【0089】
(比較例5)
改質ポリプロピレン系樹脂を使用せず、発泡剤量を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は、発泡倍率2.3倍にてボイドが発生しこれ以上発泡倍率を上げることは困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
230℃でのメルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である、改質ポリプロピレン系樹脂(A)3〜50重量部、および230℃でのメルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である、線状ポリプロピレン系樹脂(B)50〜97重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]、および190℃でのメルトフローレートが5g/10分以上30g/10分以下、密度が930kg/m以上980kg/m以下の高密度ポリエチレン系樹脂(C)3〜30重量部を含んでなることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、230℃でのメルトフローレートが50g/10分を超えて250g/10分以下であることを特徴とする、請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、線状ポリプロピレン系樹脂系、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする、請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記線状ポリプロピレン系樹脂(B)がシャルピー衝撃強さ(−20℃)が2kJ/m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物、および発泡剤を含んでなる組成物を射出発泡成形してなることを特徴とする、射出発泡成形体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物および発泡剤を射出成形機へ供給し、次いで、金型内に射出して発泡成形することを特徴とする
、発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
固定型および、任意の位置に前進および後退が可能な可動型から構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させることを特徴とする、請求項6に記載の発泡成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−107097(P2012−107097A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255992(P2010−255992)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】