説明

ポリベンザゾール繊維ロープ

【課題】耐水性、耐摩耗性を有する高強度・高弾性率のポリベンザゾール繊維ロープを提供する。
【解決手段】ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面についての下記の凸型率(%)が少なくとも75%であるポリベンザゾール繊維を用いたことを特徴とするポリベンザゾール繊維ロープ。 凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100。 さらに、前記モノフィラメント繊維の断面が、光学顕微鏡によって観察した際に、シース層とコア層の二層に識別可能であり、コア層の平均直径rの繊維断面直径rに対する比率R(%)が90%以下であるポリベンザゾール繊維ロープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物の吊り上げ等の産業用に好適なロープに関し、特に、重量物に利用可能なポリベンザゾール繊維ロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロープに関しては合成繊維としてはポリエステル、ナイロン等が用いられてきた、特に重量物の吊り上げには、ロープの伸び縮みにより荷物が振動したり荷を解いた際のスナップバックをする事を防ぐために、金属製の寸法安定性に優れたワイヤーロープが用いられてきた。
しかしながら、ワイヤーロープは自重が重い上にショックを与えた場合に絡まりやキンクを生じ易く取扱いが困難である。係る欠点を解消するためにアラミド繊維や高強力ポリエチレン繊維で構成されたロープなどが登場した。
アラミド繊維ロープにおいては比強度・比弾性率が十分高くないためにロープの太さが大きくなってしまい取扱性が悪くなるという欠点があった。また、高強力ポリエチレン繊維のロープにおいてはロープが太くなることに加えて、耐熱性に乏しいため屋外の炎天下で加熱された物体から熱をもらうと寸法安定性が低下するという欠点があった。
一方、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールなどのポリベンザゾールの繊維化については、例えば、特許文献1、2に記載され、これらの高い力学物性を有するポリベンザゾール繊維は、その高い力学物性のため産業用繊維として利用されている。
しかしながら、ポリベンザゾールは剛直な高分子であることに起因して屈曲性がよくないため、ロープや布帛などで常に繰り返しの曲げ変形が加わる用途においては、フィブリルが発生しやすいことが欠点である。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5296185号明細書
【特許文献2】米国特許第5385702号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、繊維のフィブリル化が抑制され、屈曲耐久性を向上させたポリベンザゾール繊維を用い、しなやかで取扱い性に優れ、かつ従来にない耐水性、耐摩耗性を有する高強度・高弾性率のポリベンザゾール繊維ロープを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
1.ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面についての下記の凸型率(%)が少なくとも75%であるポリベンザゾール繊維を用いたことを特徴とするポリベンザゾール繊維ロープ。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
2.前記モノフィラメント繊維の断面が、光学顕微鏡によって観察した際に、シース層とコア層の二層に識別可能であり、コア層の平均直径rの繊維断面直径rに対する比率R(%)が90%以下である第1の発明に記載のポリベンザゾール繊維ロープ。
3.ポリベンザゾール繊維間に潤滑油脂もしくは樹脂成分が0.9質量%以上含有されてなる第1又は2の発明に記載のポリベンザゾール繊維ロープ。
4.摩耗試験(JIS L 1021)における破断までのサイクルが5200回以上である第1〜3の発明のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維ロープ。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリベンザゾール繊維ロープは、ポリベンザゾール繊維がフィブリル化が抑制され、剛直さが改善されて屈曲耐久性が向上したシース層とコア層とを有する2層構造のポリベンザゾール繊維を用いたロープであるため、しなやかで取扱い性に優れ、かつ従来にない耐水性、耐摩耗性を有する高強度・高弾性率のロープを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のロープに用いられるポリベンザゾール繊維とは、ポリベンザゾールポリマーよりなる繊維をいい、ポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBTともいう)、またはポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)から選ばれる1種以上のポリマーをいう。本発明においてPBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要はなく、ビフェニレン基、ナフチレン基などであってもよい。PBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいうが、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要は無い。さらにPBOは、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のホモポリマーのみならず、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のフェニレン基の一部がピリジン環などの複素環に置換されたコポリマーや芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。このことは、PBTやPBIの場合も同様である。また、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上の混合物、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上のブロックもしくはランダムコポリマー及びこれらのポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーなども含まれる。
【0008】
PBZポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくは、特定濃度で液晶を形成するライオトロピック液晶ポリマーから選択される。当該ポリマーは構造式(a)〜(h)に記載されているモノマー単位からなり、好ましくは、本質的に構造式(a)〜(d)から選択されたモノマー単位からなるものである。また、これらのモノマー単位において、アルキル基やハロゲン基などの置換基を有するモノマー単位を一部含んでもよい。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
ポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルホン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
【0012】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0013】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0014】
この様にして重合されるドープは紡糸部に供給され、紡糸口金から通常100℃以上の温度で吐出される。口金細孔の配列は通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列であっても良い。口金細孔数は特に限定されないが、紡糸口金面における紡糸細孔の配列は、紡出糸条(ドープフィラメント)間の融着などが発生しないような孔密度を保つことが肝要である。
【0015】
紡出糸条は十分な延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように十分な長さのドローゾーン長が必要で、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが要求され、大雑把には単孔吐出量(Q)によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2.2g/dtex以上が望ましい。
【0016】
上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)は、凝固浴に浸漬する前に、ポリベンザゾールが非相溶性である液体の蒸気に接触させることが重要であり、この処理によって、ポリベンザゾールマルチフィラメントを構成する各モノフィラメント繊維の各断面が、円形に近い断面を形成しやすくなり、マルチフィラメント中での凸型率を75%以上に高くすることができる。
【0017】
本発明における凸型率とは、ポリベンザゾール繊維のマルチフィラメント中の各繊維断面において、凸型断面の繊維がマルチフィラメント中に占める割合である。また、凸型断面とは、断面の輪郭線のどの場所で接線を引いても1点でしか接することができない形状であり、輪郭線の主要部に凹部やへこみを有さず、全体に凸型形状で、概ね円形と見做せるような断面である。凸型断面に該当しない断面とは、断面の輪郭線の主要部に凹部やへこみを有し、2点以上で共通の接線が引ける断面である(図1)。
本発明においては、概ね円形から真円に近い断面の繊維が75%以上であるため、繊維間の摩擦抵抗性が低減できる。凸型率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0018】
本発明におけるポリベンザゾール繊維の凸型率を高くする方法としては、繊維の断面の変形が大きくならないうちに、急速に凝固剤に接触させればよく、上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)を、凝固浴に浸漬する前に、ポリベンザゾールが非相溶性である液体、すなわち、凝固剤の蒸気などに積極的に接触させる蒸気処理を施す方法が推奨できる。
ポリベンザゾールの凝固剤としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコールの少なくとも1種が好ましく、簡便性の点で、水がより好ましい。
【0019】
蒸気処理は、ドープフィラメントを前記の液体の蒸気を含む気体(空気)に積極的に接触させるため、ドープフィラメント中に凝固剤が繊維内部全体にわたって急激に浸透、拡散し、凝固核のようなものが繊維中心部方向に形成されるのではないかと考えられる。繊維化した後に繊維断面を観察すると、驚くべきことに、構造形成開始のタイミングの違いに基づいて発生したと考えられる境界線が認められ、いわゆる、シース・コアと表現できる二層の発現が認められる。凝固剤が中心部までよく浸透するほど、コア層は小さくなり、最終的には境界線が認められなくなる。なお、蒸気処理をしない従来の繊維においても、シース・コア構造は認められない。
【0020】
蒸気処理の温度は、凝固剤の種類によっても異なるが、水の場合は、水蒸気雰囲気の温度または噴きつける水蒸気の温度は50〜200℃が好ましく、さらに好ましくは60〜160℃である。50℃未満では強度を低下させる効果が小さくなる。一方、200℃を越えると糸切れが多発して生産性が著しく低下する傾向がある。水より低沸点の凝固剤であればより低温でもよく、水より高沸点の凝固剤であればより高温でもよく、沸点と蒸気圧とを考慮して適宜選定することができる。
蒸気相中の全気体成分に対する蒸気成分の含有率は、短時間処理のためには、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
【0021】
蒸気相温度が低すぎると、シース層の厚みが発達せず、逆に温度が高すぎるとシース・コア構造は発現するが、通過中のフィラメントの温度が上昇し、糸切れが多発する傾向がある。蒸気の含有率についても、低すぎるとシース・コア構造を発現しにくくなる。
蒸気処理する装置は、ドープフィラメントが蒸気に接触し、少なくとも表層部の凝固を進行させることができるものであればよく、連続式、非連続式、密閉形、非密閉形など特に限定されない。
【0022】
蒸気相を通過した後のフィラメントは、次に凝固(抽出)浴に導かれて、ポリベンザゾールの溶剤の抽出とフィラメントの完全な凝固がなされる。凝固浴は、特に限定されず、如何なる形式の凝固浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用出来る。最終的に凝固浴においてフィラメント中に残存する溶剤が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体に特に限定はないが、好ましくはポリベンザゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。抽出液は燐酸水溶液や水が簡便で望ましい。また凝固(抽出)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗する方法も採用できる。また、凝固(抽出)工程において、フィラメント束を水酸化ナトリウム水溶液などで中和処理して後、水洗することは好ましい方法である。この後乾燥、熱処理を施してシース・コア構造を持つ繊維とすることができる。
【0023】
こののち繊維を乾燥させ、更に必要に応じて熱処理工程を通す。乾燥温度はポリベンザゾールの凝固剤や溶剤が飛びやすい温度であれば特に限定されないが、具体的には150〜400℃、好ましくは200〜300℃、更に好ましくは220〜270℃とする。弾性率を向上させる目的で、必要に応じて張力下にて熱処理を施しても良い。熱処理温度については、400〜700℃、好ましくは500〜680℃、更に好ましくは550〜630℃とする。かける張力は0.3〜1.2g/dtex、好ましくは0.5〜1.1g/dtex、さらに好ましくは0.6〜1.0g/dtexである。
【0024】
本発明のポリベンザゾール繊維におけるシース層とコア層との簡便な判別は、繊維断面を光学顕微鏡で観察することによって可能である。光学顕微鏡で繊維断面を40倍程度に拡大して観察すると、シース層とコア層の境界が円形の線として認められる。この円形の線の外側がシース層で、内側がコア層である。
【0025】
シース層が凝固剤蒸気の浸透に起因して形成された場合、シース層の厚みはできるだけ厚く、コア層の直径はできるだけ小さい方が好ましい。蒸気がよく浸透、拡散するような蒸気処理条件を選択すれば、コア層の比率が低くなり、ついにはコア層の比率は0%にすることができる。
本発明のポリベンザゾール繊維においてコア層が占める割合、すなわち、繊維断面方向におけるコア層の平均直径(r)の、繊維断面直径(r)に対する比率であるR(%)は、90%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは60%以下であり、0%に近づくことが最も好ましい。
R(%)が90%を超えるとフィブリル化しやすく、耐屈曲性能が不十分になる傾向がある。
【0026】
本発明で用いるポリベンザゾール繊維がフィブリル化しにくく、屈曲に対する耐久性が向上する理由は明確ではないが、蒸気の作用でシース層の結晶の配向が適度に乱れて繊維表層の方向性や特定方向への応力集中が緩和され、フィブリル化が抑制されるためと推察できる。


【0027】
次に前記繊維を用いたロープの製造方法について説明する。
本発明における潤滑成分の使用は特に重要であり、ロープの耐屈曲疲労性、耐候性の更なる改善に有効である。本発明で使用する潤滑成分としては、植物油、ワックス、鉱物油、電気絶縁油、脂肪族エステル、芳香族エステル、ホスフェート、多価アルコール系エステル、酸化防止剤等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、糸表面を十分に保護するためには少なくとも0.9質量%以上の潤滑成分が必要である。この要件の下限を外れる場合には、加撚工程でのマイグレーションが遅れ、完成したロープにおいて一部の繊維への応力集中が起こり易い。
【0028】
ロープの製造に好ましい繊維の力学物性については、引張強度は4.0GPa以上、好ましくは4.5GPa以上で、引張初期弾性率は140GPa以上、好ましくは150GPa以上であるが、上述の製造法を用いることによりこの範囲の力学物性を示す繊維製造が容易である。
【0029】
一般に従来の製造法で作られるポリベンザゾール繊維は高強力・高弾性率であるものの繊維の側部から加えられる応力に対しては、従来素材のアラミド繊維と同様にフィブリル化といったダメージを受けやすかった。しかし、本発明で用いるポリベンザゾール繊維は、従来品と比較して特に繊維断面が円形に近く、繊維表層(シース層)がフィブリル化しにくい性質を有している。
さらに、繊維束に外力が掛けられた際に応力集中を生じさせない機能を発揮させる目的で、繊維同士が容易に滑りやすくなるように、少なくとも0.9質量%、好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上の潤滑成分を付与することが好ましい。潤滑成分の量が、0.9質量%未満ではロープに加工する際にダメージを生じ耐候性が低下することがある。
【0030】
潤滑成分を繊維へ付与する方法は、繊維の製造段階に付与する方法や得られた繊維或いはロープとなした後に潤滑成分を含浸法、コーティング法、スプレー法など、公知の任意の方法を採用できるが、繊維間に潤滑成分を充填させるには、繊維の製造段階もしくは得られた繊維に直接付与する方法が好ましい。
【0031】
本発明における潤滑成分を付与したポリベンゾオキサゾール・ストランドの表面を製綱後に樹脂で被覆すると、ロープの集合性を高めることが出来る。ロープ表面の耐解れ性、表面状態の安定性を改善する目的で、ロープ表面をポリウレタンエラストマー樹脂で含浸被覆させる方法は有効である。樹脂の被覆方法としては公知の方法を用いることができるが、特にポリベンゾオキサゾール繊維と樹脂との接着力を改善するために繊維のコロナ処理やプラズマ処理等の前処理を行うことが好ましい。
【0032】
また、ロープはポリベンザゾール繊維のみから構成されていても良いが、ロープの最外層に金属または有機繊維の編組を1層もしくは多層で被覆することにより、ポリベンゾオキサゾール芯線の機械的外力からの保護が可能となる。
ロープを保護する編組としては、鋼線、ステンレス線などの金属繊維もしくは太物のスパン糸、エステル、ナイロン等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に、ポリエステルフィラメントのタスラン加工糸の編組で被覆すると、ハンドリング性が良い上にロープ表面の耐久性が高まる効果がある。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を更に実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
<極限粘度>
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
<繊維繊度>
単糸繊度は温度20℃、湿度65RH%の雰囲気中で24時間調整した試料につきデニコン[サーチ(株)製]を使用して試料長50mm、本数20で測定を行い、算術平均値を求めた。総繊度は前記条件で調整された試料をラップリールに10m巻きとって質量を測定し、これを9000mの質量に換算して求めた。
<糸の引張特性>
JIS L 1013に準拠してオリエンテック(株)社製テンシロンを用い、つかみ間隔20cm、引張速度100%/min、n=10の測定を行い、パソコン処理によって引張特性を求めた。
【0035】
<繊維断面観察の方法>
サンプル繊維をエポキシ樹脂(ガタン社製のG−2)に胞埋したものを、クロスセクションポリッシャー(日本電子(株)製 SM−09010)にてアルゴンイオンエッチングして、観察用繊維断面を得た。次いで、光学顕微鏡によってコア層とシース層との境界線を観察し、コア層の平均直径(r)と繊維断面直径(r)とを測定し、コア層の平均直径(r)の繊維断面直径(r)に対する比率R(%)を求めた。
R(%)=(r/r)×100
【0036】
<凸型率>
上記方法にて作成したエポキシ樹脂に胞埋したマルチフィラメント中の繊維断面を走査電子顕微鏡で、繊維の外輪郭の形を観察した。なお、観察前にカーボン蒸着を施し、日立社製走査電子顕微鏡(型番S−4500)を使用し、加速電圧は5〜10kV、倍率は1000〜3000倍にて観察した。
断面の輪郭線のどの場所で接線を引いても1点でしか接することの出来ない場合を凸型断面とし、輪郭線の2点以上で共通の接線が引ける場合を、凹部を有する断面とした。マルチフィラメント中における凸型断面の繊維の割合を算出した。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
【0037】
<ロープの物性>
ロープの強伸度特性は、JIS L 2707(1984)に従った。摩耗特性はJIS L1021(所定回数は10000回)の方法にしたがって実施し、摩耗試験後の試験片の質量を初期質量にて除した値(百分率)にて評価した。耐水性試験は試験片(ロープ)を水(20℃)中に1000時間沈めた後水から取り出し1分以内に強力を測定し、初期強力に対する強力保持率を算出した。
【0038】
(比較例用の繊維の製造)
極限粘度〔η〕が29dl/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)(以下、PBOと略記)をポリリン酸に溶解させた紡糸ドープ(PBO濃度14質量%)を用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、1.65dtexになるような条件で紡糸を行った。
すなわち、紡糸ドープを紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166のノズルから紡出し、紡出されたドープフィラメントをクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却し、クエンチチャンバーを通過後、マルチフィラメントに収束させながら第1凝固・洗浄浴中に浸漬し、フィラメントを凝固させた。その後、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。その後、水分率が2%になるまで乾燥させて巻き取って評価用の繊維を得た。得られた比較例用繊維の断面測定の結果、R値は100%、凸型率は72%であった。
【0039】
(実施例用の繊維の製造)
比較例用繊維の製造装置において、クエンチチャンバーの出口に内径5mm、長さ1mの筒を設置し、筒内に水蒸気を導入して筒内を水蒸気雰囲気で満たし、マルチフィラメントを筒内に通過させたことが異なる以外は比較例用と同様にして評価用繊維を得た。
なお、筒の周囲はヒーターで加熱し、水蒸気温度を制御した。満たした水蒸気の温度は75℃の飽和水蒸気とし、マルチフィラメントが水蒸気雰囲気を通過する時間は0.6秒となるようにした。
得られた実施例用繊維の断面は、R値が31%、凸型率が89%であった。
【0040】
[実施例及び比較例]
実施例用及び比較例用に製造されたそれぞれのポリベンザゾ−ル繊維原糸を、それぞれ合糸してストランドとし、これを太さ12mmの4つ打ちロープに加工した。原糸を下撚りする前に潤滑油としてヤシ油を1.1質量%付与した。得られたロープの評価結果を表1に示す。
また、参考例として、市販のアラミド繊維を使用すること以外は実施例と同じ方法でロープを得た。その評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明で得られたロープは、ポリベンザゾール繊維が従来のものに比べてフィブリル化しにくく屈曲耐久性が向上しているため、繰り返しの曲げ変形が加わる用途においても利用が可能である。また、ロープに加工する際のダメージを軽減でき、耐候性、耐摩耗性、耐水性及び実用特性が向上したロープを得ることが可能である。

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明で用いるポリベンザゾール繊維の断面の凸型断面の例と本発明で用いない凹部を有する断面(凸型断面でない断面)の例を示す説明図である。
【図2】本発明におけるポリベンザゾール繊維断面のシース・コアの一例を示す模式的説明図である。
【符号の説明】
【0044】
:繊維断面直径
:コア層の直径



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面についての下記の凸型率(%)が少なくとも75%であるポリベンザゾール繊維を用いたことを特徴とするポリベンザゾール繊維ロープ。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
【請求項2】
前記モノフィラメント繊維の断面が、光学顕微鏡によって観察した際に、シース層とコア層の二層に識別可能であり、コア層の平均直径rの繊維断面直径rに対する比率R(%)が90%以下である請求項1に記載のポリベンザゾール繊維ロープ。
【請求項3】
ポリベンザゾール繊維間に潤滑油脂もしくは樹脂成分が0.9質量%以上含有されてなる請求項1又は2に記載のポリベンザゾール繊維ロープ。
【請求項4】
摩耗試験(JIS L 1021)における破断までのサイクルが5200回以上である請求項1〜3に記載のポリベンザゾール繊維ロープ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63693(P2008−63693A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242645(P2006−242645)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】