説明

ポリマー複合体を調製する方法

ポリエチレングリコールポリマーを活性剤に共有結合させる直接的且つ効率的な方法を本明細書に提供する。本方法には、(i)アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシル(ならびに反応エステル等の活性カルボキシル同等物)から成る群から選択される、第1の官能基を含む活性剤を提供するステップと、(ii)第1の官能基に反応する第2の官能基を含むポリエチレングリコールに活性剤を反応させるステップが含まれる。反応は、第1と第2の官能基との間の反応を促進し、それによりポリエチレングリコール−活性剤複合体が形成されるのに効果的な条件下において、カップリング試薬および4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)の存在下で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月30日に出願された米国暫定出願第60/861、995号および2007年11月14日に出願された米国暫定出願第 号、代理人参照番号第41714−8029.US00号の利益を主張し、それらの内容は全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、概して、数ある態様の中でもとりわけ、1つ以上の水溶性ポリマーを活性剤に共有結合させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
長年にわたり、ポリエチレングリコール等の水溶性ポリマーを生物学的活性剤に共有結合させるために多くの合成法が用いられてきた。PEG化の初期の試みは、典型的に、活性剤における複数の反応部位、最も一般的にはポリペプチドまたはタンパク質へのPEGの非特異性共有結合をもたらした。ポリペプチドの場合、共有結合のための最も一般的な反応基は、リジンのアルファまたはエプシロンアミノ基である。初期のPEG化化学は、典型的に、低分子量、直鎖PEG試薬を使用し、ほとんどの複合体はアシル化により生成された(非特許文献1)。このような初期のPEG化薬剤は、しばしば、低い薬剤の効能もたらし、および/または低いバッチ間の再現性を呈した。
【0004】
第2期のPEG化化学により、活性剤における複数の反応部位へのポリマーの共有結合におけるジオール混成、副反応、不安定な連結、および選択性の欠乏等の第1期のPEG化試薬に伴う多くの問題を解決するように考案された方法をもたらした(非特許文献1、前出)。とりわけ、PEGプロピオンアルデヒド(特許文献1)、PEGビニルスルホン(特許文献2)、およびPEGマレイミド(特許文献3)等の新PEG試薬が開発され、その使用を伴う方法が記載された。分枝(特許文献4)および叉状PEG(特許文献5)等の非直鎖PEGもまた、例えば、Nektar Therapeutics社およびNOF社等の企業からより広く入手可能になった。
【0005】
治療薬剤の薬理特性および他の特性を向上するための1つの可能な手法として治療薬のPEG化が広く用いられるようになるにつれ、効果的な薬理特性を有する明確なPEG化した治療薬を一貫して形成するための合成上の課題は増加し続ける。このような方法は、特に大規模な製造に適応されるものである場合、理想的には複数の反応ステップを回避し、必要とされる保護、脱保護、および精製ステップの数を最小限に抑え、一貫した方法で、且つ合理的に高い収率で生成物を形成するべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,252,714号明細書
【特許文献2】米国特許第5,446,090号明細書
【特許文献3】米国特許第6,602,498号明細書
【特許文献4】米国特許第5,932,462号明細書
【特許文献5】米国特許第6,437,025号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Roberts、M.J.et al.、Advanced Drug Delivery Reviews、54(2002)、459−476
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、ポリエチレングリコールポリマーを活性剤に共有結合させる方法を本明細書に提供する。本方法には、(i)アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシル(ならびに反応エステル等の活性カルボキシル同等物)から成る群から選択される、第1の官能基を含む活性剤を提供するステップと、(ii)第1の官能基に反応する第2の官能基を含むポリエチレングリコールに活性剤を反応させるステップが含まれる。反応は、第1と第2の官能基との間の反応を促進し、それによりポリエチレングリコール−活性剤複合体が形成されるのに効果的な条件下において、カップリング試薬および4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)の存在下で実施される。
【0009】
一実施形態においては、カップリング剤はカルボジイミドである。代表的なカップリング剤には、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)、N−tert−ブチル−N’メチルカルボジイミド(TBMC)、およびN−tert−ブチル−N’−エチルカルボジイミド(TBEC)から成る群から選択されるカップリング剤が含まれる。
【0010】
好ましい実施形態においては、カップリング試薬は、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミドである。
【0011】
反応は、典型的に有機溶剤中で実施される。適切な溶剤には、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、およびテトラヒドロフランが含まれる。
【0012】
さらなる実施形態においては、反応は、0℃から100℃の範囲の温度、さらに好ましくは室温で実施される。
【0013】
本方法のさらに別の実施形態においては、DPTSの量は、該第1の官能基に対して約0.05から0.75当量、さらに好ましくは、該第1の官能基に対して約0.10から0.60当量の範囲である。
【0014】
さらに付加的な実施形態においては、カップリング試薬の量は、該第1の官能基に対して約1.25から5当量の範囲である。
【0015】
好ましい第2の官能基には、アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシルが含まれる。
【0016】
本方法の使用に適切な活性剤には、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチド、小分子、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、および脂質が含まれる。
【0017】
本方法の好ましい実施形態においては、活性剤は、ヒドロキシルまたはカルボキシルである第1の官能基を含む小分子である。一部の例においては、活性剤は、1つより多い該第1の官能基を有する。
【0018】
特に好ましい小分子には、タキサン(例えば、ドセタキセルまたはパシリタキセル)およびカンプトセシンが含まれる。
【0019】
さらにより好ましい実施形態においては、第1と第2の官能基との間の反応はエステル連結の形成をもたらす。
【0020】
さらにより具体的な実施形態においては、本方法は、エステル連結を介し、ドセタキセル上の単一のヒドロキシル部位(例えば、2’ヒドロキシル部位)に共有結合したポリエチレングリコールを有するドセタキセル−ポリエチレン複合体の形成をもたらす。
【0021】
本方法においては、ポリエチレングリコールは、多くの形状、例えば直鎖、分枝、叉状およびマルチアームポリエチレングリコールのいずれをも有し得る。好ましくは、ポリエチレングリコールは、約3から約25本のアームを有するマルチアームポリマーである。
【0022】
好ましいマルチアームポリマーは、ポリオールまたはポリアミンコアを有するポリマーである。典型的なポリオールコアには、グリセロール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ヘキサグリセロール、およびペンタエリトリトールを含む。
【0023】
本方法の一実施形態においては、ポリエチレングリコールは、約1から約10の第2の官能基を含む。さらにより具体的な実施形態においては、ポリエチレングリコールは、1、2、3、4、5、および6から選択される数の第2の官能基を含む。さらに別の実施形態においては、ポリエチレングリコールは、3、4、および5から選択される数の第2の官能基を有する。
【0024】
本方法のさらに別の実施形態においては、活性剤は、1つより多い第1の官能基を含み、本方法は保護ステップを含まない。
【0025】
本方法のさらに別の代替的な実施形態においては、活性剤は1つより多い第1の官能基(例えば、1つより多いヒドロキシル基)を含み、本方法は、活性剤上の単一部位のみに共有結合したポリエチレングリコールを有する複合体の形成をもたらすのに効果的である。
【0026】
さらに別の実施形態において、本方法は、約15%未満のN−アシル尿素副生物、好ましくは、約10%未満のN−アシル尿素副生物、さらに好ましくは約5%未満のN−アシル尿素副生物の形成をもたらすのに効果的である。
【0027】
本明細書に記載される本発明の特徴それぞれは、別途指定がない限り、本明細書に記載されるそれぞれおよび全ての実施形態に同様に適用するように意図されている。
【0028】
本発明のこれらおよび他の目的ならびに特徴は、以下の図面の簡単な説明と併せて読めばより十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例3に記載されるとおり、H460非小細胞肺癌腫瘍が移植されたメスの異種移植無胸腺ヌードマウスにおける、ドセタキセル(10mg/kg、20mg/kg、および30mg/kg)および「4−arm−PEG−20k−GLY−DOC」(20mg/kg、40mg/kg、および60mg/kg)として図面に示される4−arm−PEG20k−グリシン−ドセタキセルの3つの異なる投与量のそれぞれのうちの2つの投与の経時効果を示す図表である。
【図2】実施例4に記載されるとおり、DU−145前立腺腫瘍を移植されたメスの異種移植無胸腺ヌードマウスにおける、ドセタキセル(10mg/kg、20mg/kg、および30mg/kg)および4−arm−PEG20k−グリシン−ドセタキセル(20mg/kg、40mg/kg、および60mg/kg)の3つの異なる投与量のそれぞれのうちの2つの投与の経時効果を示す図表である。
【図3】実施例5に記載するとおり、MCF−7乳房腫瘍が移植されたマウスにおける、ドセタキセルおよび4−arm−PEG20k−グリシン−ドセタキセルそれぞれの経時抗腫瘍効果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、より詳細に説明する。
しかしながら、本発明は、多くの異なる形状で具体化され、本明細書に示される実施形態に制限されると解釈するべきではなく、むしろこれらの実施形態は、本開示が詳細且つ完全であり、本発明の範囲を当業者に伝えるために提供される。
【0031】
定義
本明細書で使用される、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、1つの(a)「ポリマー」への言及は、単一のポリマーならびに2つ以上の同一または異なるポリマーを含み、1つの(a)「複合体」への言及は、単一の複合体ならびに2つ以上の同一または異なるポリマーを含み、1つの(an)「賦形剤」への言及は、単一の賦形剤ならびに2つ以上の同一または異なる賦形剤等を含む。
【0032】
本発明を記載し主張する上で、以下の用語は以下に記載する定義に従い使用される。
【0033】
「官能基」は、典型的に、有機合成の正常状態下で、それが結合される構造と、さらなる官能基を有する他の構造との間の共有結合を形成するために使用することができる基である。官能基は、概して、複数の化学結合および/ヘテロ原子を含む。本明細書に記載されるポリマーおよび活性剤に使用する好ましい官能基を以下に記載する。
【0034】
「反応」という用語は、有機合成の従来の条件下で容易にまたは実用的な速度で反応する官能基を指す。これは、反応しない、または反応するために強力な触媒または非実用的な反応条件を必要としない基(つまり、「非反応性」または「不活性」基)とは対照的である。
【0035】
反応混合物内の分子上に存在する官能基に関連して、「容易に反応しない」とは、反応混合物内で望ましい反応を生成するのに効果的な条件下で、おおむね原形を保つ基を示す。
【0036】
カルボン酸の「活性化誘導体」は、求核試薬と容易に、一般的には、非誘導体化されたカルボン酸よりもさらに容易に反応するカルボン酸誘導体を指す。活性化カルボン酸は、例えば、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、無水物、炭酸塩、およびエステルを含む。このようなエステルは、例えば、N−ヒドロキシサクシンイミジル(NHS)エステル等のイミダゾリルエステル、およびベンゾトリアゾールエステル、ならびにイミドエステルを含む。活性誘導体は、例えば、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリピロリジノホスホニウム・ヘキサフルオロリン酸(PyBOP)等の様々な試薬のうちの1つとのカルボン酸の反応により原位置で形成することができ、好ましくは、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)または1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAT)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N、N、N’、N’−テトラメチルウロニウム・ヘキサフルロリン酸(HATU)、またはビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸塩化物(BOP−CI)と組み合わせて使用される。
【0037】
官能基の「化学的同等物」は、実質的に官能基と同種の反応性を有するものである。例えば、SN2反応を受ける1つの官能基は、別のこのような官能基と機能的に同等であるとみなされる。
【0038】
「保護基」は、特定の反応条件下において、分子内の特定の化学的反応性官能基の反応を防止または阻止する部分である。保護基は、保護される化学的反応性の基の種類、ならびに使用される反応条件および分子内における追加の反応基または保護基の存在により異なる。保護することが可能な官能基には、例として、カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボニル基等が含まれる。カルボン酸の代表的な保護基は、エステル(p−メトキシベンジルエステル等)、アミドおよびヒドラジド、アミノ基に対しては、カルバミン酸塩(tert−ブトキシカルボニル等)およびアミド、ヒドロキシル基に対しては、エーテルおよびエステル、チオール基に対しては、チオエーテルおよびチオエステル、カルボニル基対しては、アセタールおよびケタール、等が含まれる。そのような保護基は、当業者には周知であり、例えば、T.W.GreeneおよびG.M.Wuts著、Protecting Groups in Organic Synthesis、Third Edition、Wiley、New York、1999、およびそれに引用される参考文献に記載されている。
【0039】
「保護された形態」の官能基は、保護基を有する官能基を指す。本明細書において、「官能基」という用語またはそのいかなる同義語は、その保護された形態を含むことを意図する。
【0040】
本明細書において、「PEG」または「ポリ(エチレングリコール)」は、いかなる水溶性ポリ(エチレンオキシド)をも含むことを意図する。典型的に、本発明に使用するPEGは、例えば、末端酸素が合成変換中に置換されたかどうかにより、2つの以下の構造、すなわち、「−(CHCHO)−」または「−(CHCHO)n−1CHCH−」のうちの1つを備える。変数(n)は、3から3000であり、末端基およびPEG全体の構造は異なり得る。「PEG」は、−CHCHO−であるサブユニットを、ほとんど、つまり、50%より多く含むポリマーを意味する。本発明に使用するPEGには、以下の詳細に記載される様々な分子量、構造または形状を有するPEGが含まれる。
【0041】
PEG等の本発明の水溶性ポリマーとの関連における「分子量」は、ポリマーの公称平均分子量を指し、典型的に、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱技術、または、1、2、4−トリクロロベンゼンにおける固有の速度決定により決定される。PEG等の水溶性ポリマーとの関連における分子量は、数平均分子量または重量平均分子量のいずれかで表される。別途記載がない限り、本明細書における分子量の全ての言及は、重量平均分子量を指す。両方の分子量、数平均および重量平均の決定は、ゲル浸透クロマトグラフまたは他の液体クロマトグラフ技術を用いて測定することができる。数平均分子量を決定するための、末端基分析または束一性性質の測定(例えば、凝固点降下、沸点上昇、または浸透圧)の使用、または重量平均分子量を決定するための光散乱技術、超遠心分離法、または粘度測定の使用等、分子量値を測定する他の方法を使用することもできる。本発明のポリマーは、典型的に、約1.2未満、約1.15未満、約1.10未満、約1.05未満、および約1.03未満等の低多分散値を有する多分散(つまり、ポリマーの数平均分子量および重量平均分子量が等しくない)である。本明細書において、時には、重量平均分子量または数平均分子量のいずれかを有する単一の水溶性ポリマーに言及されるが、そのような言及は、単一の水溶性ポリマーが規定の分子量を有する水溶性ポリマーの組成物から得られたことを意味すると理解されるであろう。
【0042】
本明細書において「リンカー」という用語は、有機ラジカルコアおよびポリマーセグメント等の接続部分を結ぶ原子または原子の集合を指すために使用される。リンカー部分は、加水分解的に安定し得、または生理学的に加水分解あるいは酵素的に分解可能な連結であり得る。
【0043】
本明細書において「スペーサー」という用語は、ポリマーセグメントおよび活性剤D等の連結部分を結ぶ原子の集合を指すために使用される。スペーサー部分は、加水分解的に安定している、または生理学的に加水分解あるいは酵素的に分解可能な連結を含み得る。
【0044】
「加水分解可能な」結合は、生理学的条件下で、水(つまり、加水分解される)に反応する比較的弱い結合である。水中で加水分解する結合の傾向は、2つの中心原子を結合する連結の一般的な種類によるだけでなく、これらの中心原子に結合した置換基にもよって異なる。例示的な加水分解に不安定な結合には、カルボン酸エステル、リン酸エステル、無水物、アセタール、ケタール、アシル基エステル、イミン、オルトエステル、ペプチド、およりオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0045】
「加水分解に安定した」連結または結合は、水中で実質的に安定した、つまり、長期期間にわたり、いかなる相当の程度にも、生理学的条件下で加水分解しない化学結合(典型的には共有結合)を指す。加水分解に安定した連結の例には、以下を含むがそれらに限定されない。炭素−炭素結合(例えば、脂肪族鎖における)、エーテル、アミド、ウレタン等。一般的に、加水分解に安定した連結は、生理学的条件下で、1日当たり約1−2%未満の加水分解率を呈するものである。代表的な化学結合の加水分解率は、ほとんどの標準的な化学の教科書で見ることができる。
【0046】
形状またはポリマー構造の全体に関する「マルチアーム」は、3つ以上のポリマー含有「アーム」を有するポリマーを指す。したがって、マルチアームポリマーは、その構造またはコア構造により、3つのポリマーアーム、4つのポリマーアーム、5つのポリマーアーム、6つのポリマーアーム、7つのポリマーアーム、8つのポリマーアーム、またはそれ以上のアームを有することがある。ある特定の種類の高度に分岐したポリマーは、本発明の目的では、マルチアームポリマーの構造とは異なる構造を有すると考えられる樹木状ポリマーまたはデンドリマーである。
【0047】
「分岐点」は、ポリマーが直鎖構造から1つ以上の追加のポリマーアームに分かれるまたは分岐する、1つ以上の原子を有する分岐点を指す。マルチアームポリマーは、1つの分岐点または複数の分岐点を有し得る。
【0048】
「デンドリマー」は、全ての結合が通常の分枝パターンおよびそれぞれが分岐点となる反復単位を持つ、中心の焦点またはコアから放射状に出現する球形の単分散ポリマーである。デンドリマーは、コアカプセル等の特定の樹枝状特性を呈し、それが、他の種類のポリマーとの違いとなる。
【0049】
「実質的に」または「本質的に」は、ほぼ全体的または完全にを意味し、例えば、95%より多い、ある一定量を意味する。
【0050】
「アルキル」は、典型的に長さが約1から20原子の範囲の炭化水素鎖を指す。このような炭化水素鎖は、必ずしもそうである必要はないが、望ましくは飽和し、分枝または直鎖であり得るが、典型的に直鎖が好ましい。典型的なアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、3−メチルペンチル等を含む。本明細書において、「アルキル」は、3つ以上の炭素原子に言及する際にシクロアルキルを含む。
【0051】
「低級アルキル」は、1から6個の炭素原子を含むアルキル基を指し、メチル、エチル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチルにより例示される直鎖または分枝であり得る。
【0052】
「シクロアルキル」は、好ましくは3個から約12個の原子、さらに好ましくは3個から約8個から成り、架橋、融解、またはスピロ環状化合物を含む飽和または不飽和環状炭化水素鎖を指す。
【0053】
「不干渉置換基」は、分子内に存在する場合に、典型的に、分子内に含有される他の官能基に反応しない基である。
【0054】
例えば、「置換アルキル」にあるような「置換」という用語は、C−Cシクロアルキル、例えば、シクロプロピル、シクロブチル等、ハロ、例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびイオド、シアノ、アルコキシ、低級フェニル、置換フェニル、等を含むがそれらに限定されない1つ以上の不干渉置換基で置換された部分(アルキル基)を指す。フェニル環上の置換では、置換基はいかなる配向であり得る(つまり、オルト、メタ、またはパラ)。
【0055】
「アルコキシ」は、Rがアルキルまたは置換アルキル、好ましくは、C−C20アルキル(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等)、好ましくは、C−Cである−O−R基を指す。
【0056】
「求電子試薬」は、求電子中心、つまり求電する中心を有し、求核試薬と反応することが可能なイオン、原子、またはイオン化され得る原子の一群を指す。
【0057】
「求核試薬」は、求核中心、つまり求電子中心を求める中心を有し、求電子試薬と反応することが可能なイオンまたは原子、あるいはイオン化され得る原子の一群を指す。
【0058】
本明細書において、「活性剤」には、生体内または体外で示すことができ、多くの場合有益な薬理学的効果を提供するいかなる薬剤をも含む。本明細書において、これらの用語は、患者に局所的または全身的効果を生むいかなる生理学的または薬理学的に活性な物質をもさらに含む。
【0059】
本明細書において同義的に使用される「二官能性」または「二価性」は、その中に、典型的にポリマー末端に含有される2つの官能基を有するポリマー等の実体を意味する。官能基が同じ場合は、実体は、ホモ二官能性またはホモ二価性であると称される。官能基が異なる場合は、ポリマーは、ヘテロ二官能性またはヘテロ二価性であると称される。
【0060】
本明細書に記載される塩基性または酸性反応物は、中性、荷電、およびそれらのいかなる対応する塩形態をも含む。
【0061】
本明細書において「対象」、「個体」または「患者」という用語は、同義的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳類を指す。哺乳類は、ネズミ科、齧歯類、サル、ヒト、家畜、スポーツ用動物、およびペットを含むがそれらに限定されない。このような対象は、典型的に、本明細書に記載されるポリマー活性剤複合体の形状である必要はないが、典型的に、本発明のポリマーの投与により予防また治療することができる状態を患っているまたはその状態になり易い。
【0062】
特に一定量に関して、「約」という用語は、前後5%の偏差を含むことを意味する。
【0063】
「任意の」または「任意に」は、その後に記述される状況が生じるまたは生じない場合があることを意味し、記述には、状況が生じる場合、およびそれが生じない場合が含まれる。
【0064】
「小分子」は、典型的に約1000未満の分子量を有する有機、無機、または有機金属化合物と広く定義することができる。本発明の小分子は、約1000未満の分子量を有するオリゴペプチドおよび他の生分子を含む。
【0065】
本発明の複合体に関する「活性剤部分」は、薬剤(またはその活性化または化学的に改変された形状)のポリマーとの共有結合により生じた、共有結合までの改変されていない親活性剤の一部または残基を指す。活性剤部分とマルチアームポリマーとの間の加水分解結合の加水分解の際に、活性剤自体が放出される。
【0066】
概要
ドセタキセル(タキソテール(登録商標))は、主に乳房、卵巣および非小細胞肺癌の治療に使用される化学療法剤である(Lyseng−Williamson KA、Fenton、C.Drugs、2005;65(17):2513−31)。それは、パクリタキセルの半合成アナログであり、その化学構造において、2つの位置でパクリタキセルとは異なる。パクリタキセルおよびドセタキセルの主な化学的相違点は、側鎖上の3’−窒素(BOC対ベンゾイル)およびタキソイドコアの10位における置換である(遊離アルコール対アセテート)。両タキソイドは、望ましくない副作用の多くに関連し、それらの難水溶性は、臨床応用の妨げとなる。
【0067】
そのような不利点を打開しようと、プロドラッグおよびパクリタキセルの様々なアナログを合成するために、様々な方法が記述されてきた。一方で、ドセタキセルは、体内および体外分析の両方において、より活性であり、従って、ドセタキセルは、より有望な改変の候補になると思われるが、非常に少数のドセタキセルの改変に向けた研究しか報告されていない。この相違は、恐らく、少なくともある程度、ドセタキセルの化学構造によるものである。ドセタキセルは、1、7、10および2’位に位置する4個の遊離ヒドロキシル基を含む。具体的には、7、10、2’位における3個の第2級アルコールは、薬剤の単一の部位および同様に複数の反応基を有するいかなる薬剤の修飾を試みる際にも多くの問題を引き起こす。報告されているドセタキセルの誘導体の多くは、親化合物から直接調製されるのではなく、保護前駆体から調整される。このような合成方法は、所要のキラル中心を得るために、多くの場合、多段階の反応および複雑な化学変換を伴う。
一部の研究者は、ドセタキセル上の特定のヒドロキシル基を選択的に保護する試みを行ったが、低反応収率および得られた位置異性体の分離における問題により限られた成果しか得られていない。改変または薬物送達強化活性剤の合成は、そのような方法を経済的に魅力的にするために、実用的な収率をもたらす必要がある。
【0068】
従来のジシクロヘキシルカルボジイミド/ジメチルアミノピリジン結合化学を用いて典型的なPEG−ドセタキセル複合体を調製するための発明者らの取り組みは、有意な量の1つ以上の副生成物の形成をもたらし、それは、恐らく、少なくとも部分的には、使用されたPEG試薬上の活性基の立体的に障害される環境によるものである。
【0069】
前述を考慮して、発明者らはPEG複合体、特に小分子の複合体を調製する簡単な方法の早急な必要性を認識した。そのような方法は、結合前に小分子上の活性基の保護を必要としない。そのような方法は、複数の反応基を有する小分子に特に有利であり、本明細書に記載されている。
【0070】
従来の結合
複数の活性基を有する薬剤から単一部位ポリマー修飾活性剤を調製するための従来の合成技術は、典型的に、複数の選択的に保護/脱保護ステップを必要とする多段階の反応を伴う。そのような反応は、低い収率および望ましい生成物の分離における問題により妨げられることが多い。保護活性剤先駆体の使用を回避する試みにおいて、発明者らは、まず、実施例1Aで詳細に説明される具体的なマルチアームポリマーへの典型的な小分子であるドセタキセルの直接結合を試みた。ドセタキセルの構造を以下に示し、矢印は、化学変換を受けることが可能な分子の複数のヒドロキシル基を示す。
【0071】
【化1】

【0072】
簡潔に述べると、マルチアームPEG試薬、4−アーム−PEG20k−グリシンを、従来のカップリング試薬であるジシクロヘキシルカルボジイミドおよびジメチルアミノピリジン(DCC/DMAP)を使用して、ドセタキセルと反応させた。反応は、(i)相当量の副生物であるN−アシル尿素を生成し、(ii)分析および精製が困難であった。
【0073】
まず候補小分子であるドセタキセルがリンカーであるグリシン(Fmoc−グリシン)で改変され、続いてPEG試薬に共有結合する、望ましい生成物を生成させる代替的な方法が試みられた(実施例1B)。残念ながら、精製後に、望ましい2’−グリシン修飾ドセタキセルの収率は、約20%と非常に低く、いくつかの異なる位置異性体の形成を伴った。
【0074】
合成方法
とりわけ上述の技術的問題を打開するために、発明者らは、1つ以上の保護基を有する活性剤から開始する必要なく(つまり、非保護出発物質を使用する)、不要な副反応を抑制し、高い収率且つ純度の望ましい生成物の形成を促進するPEG複合体を調節するためのカップリング反応を開発した。
【0075】
本明細書に提供される合成方法は、4−(ジメチルアミノ)ピリジンおよびp−トルエンスルホン酸により形成された分子錯体を使用し、高い収率且つ純度のPEG複合体の形成をもたらす。本明細書に記載される合成経路は、不要な副反応を抑制するのに効果的であり、粗生成物は、大抵、単純な沈殿により精製することができる。
【0076】
特に、本明細書は、ポリエチレングリコールポリマーを活性剤に共有結合させる方法を提供する。本方法には、(i)例えば、アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシル(およびそれらの活性同等物)から選択される第1の官能基を含む活性剤を提供するステップと、(ii)活性剤を第1の官能基と反応する第2の官能基を含むポリエチレングリコールに反応させるステップが含まれる。反応には、第1と第2の官能基との間の反応を促進するのに効果的な条件下で、結合剤および4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)の存在下で実施され、ポリエチレングリコール−活性剤複合体を形成する。
【0077】
ポリエチレングリコール試薬
ポリエチレングリコール試薬は、多くの形状、例えば直鎖、分枝、叉状、およびマルチアームポリエチレングリコールのいずれかを有することができる。PEG試薬は、少なくとも1つの活性剤上の官能基との反応に適切な官能基(本明細書において、概して、活性剤に含有される1つ以上の官能基とそのような官能基を区別するために「第2の官能基」という)を含み、望ましい複合体を形成する。活性剤に結合するための典型的な官能基には、アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシルが含まれ、適用できる場合には、それらの活性型を含むことを意図する
使用に適したPEG試薬には、Nektar Advanced PEGylation Catalog、2005−2006に記載される試薬、NOF社から販売される活性PEG等が含まれる。
【0078】
本方法の特定の一実施形態において、ポリエチレングリコールは、約3から約25のアームを有するマルチアームポリマー、さらに好ましくは、3、4、5、6、7、8、9、および10のアームから選択される数のアームを有するマルチアームポリマーである。
【0079】
マルチアームポリマーは、米国特許第2005/0112088号に記載されるポリマーコア等の、ポリオールまたはポリアミンコア等の多くの異なるポリマーコアのいずれかを含み得る。1つ以上のPEGアームが広がるマルチアームポリマーコアを形成するのに好ましいポリオールには、グリセロール、トリメチロールプロパン、ソルビトールまたはペンタエリスリトール等の還元糖、およびヘキサグリセロール等のグリセロールオリゴマーが含まれる。
【0080】
典型的に、ポリエチレングリコール試薬の総数平均分子量は、約800ダルトン(Da)から約100、000Da、さらに好ましくは、約10、000Daから約60、000Da、最も好ましくは、約15、000から約60、000Daである。とりわけ、約5、000Da、約8、000Da、約10、000Da、約12、000Da、約15、000Da、約20、000Da、約25、000Da、約30、000Da、約35、000Da、約40、000Da、約45、000Da、約50、000Da、約60、000Daの数平均分子量を有するポリマーが、特に好ましい。ポリマーがマルチアームポリマーである場合において、マルチアームポリマーの実際の分子量は、当然のことながら、ポリマーアームの数、および全体のマルチアームポリマーにおける各ポリマーアームの分子量、ならびに、ポリマーの多分散性の程度により異なる。
【0081】
典型的に、ポリエチレングリコールは、約1から約10の第2の官能基を含む。例えば、ポリエチレングリコールは、多くの1、2、3、4、5、および6から選択される数の第2の官能基を含む。
【0082】
本発明の方法における使用に適した具体的なマルチアームポリマー試薬ならびにそれらに対応する複合体は、米国特許第2005/0112088号に記載される。
【0083】
本方法の使用に好ましいマルチアームポリマーは、以下を含み、以下の構造は、1つ以上のPEGアーム(理想的には各PEGアーム)を活性剤に連結する付加的リンカーまたは官能基をさらに含む。
【0084】
【化2】

【0085】
および
【0086】
【化3】

【0087】
nは、典型的に約5から約400の範囲であり、mは、0から約5の範囲である。
【0088】
特に好ましいマルチアーム試薬の1つは、グリシンリンカーが別の適切なリンカーにより置換される場合もあるが、4−アーム−PEG−グリシン(構造を以下に示す)である。
【0089】
【化4】

【0090】
本方法により形成することが出来る理想的複合体に対応する具体的構造を、親ポリオール内の各ヒドロキシルはポリマーアームに変換され、各ポリマーアームはそこに共有結合された薬剤を有することを仮定して、以下に提供する。以下の具体的な実施例において、典型的にQはOに対応するが、同様にS、−NH−、または−NH−C(O)−に対応するように考慮される場合があり、POLYはポリエチレングリコールに対応する。
【0091】
【化5】

【0092】
【化6】

【0093】
前述の具体的な構造に関して、Xは、典型的に、ほとんどの加水分解結合が活性剤Dに直接結合する加水分解結合を有するスペーサーを表す。ポリマーと各薬剤の分子との間の全体的な連結は、好ましくは、エステル連結等の加水分解で分解可能な部分を含み、それにより、活性剤がマルチアームポリマーコアから時間と共に放出される。スペーサーが具体的に何であるかは、少なくとも部分的に、本方法に使用される特定のPEG試薬により異なる。
【0094】
多くの場合、加水分解連結の少なくとも1つの原子が、非修飾型で活性剤に含有され、加水分解連結の加水分解がX内に含まれる際に、活性剤Dが放出される。一般的に言えば、スペーサーは、約4原子から約50原子、または好ましくは約5原子から約25原子、またはさらに好ましくは約5原子から約20原子の長さの原子を有する。典型的に、スペーサーは、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、および20から成る群から選択される原子の長さである。原子の鎖長を考えると、全体の距離に寄与する原子のみが考えられる。例えば、−(O)−H−(O)−−の構造を有するスペーサーは、置換基がスペーサーの長さに有意に寄与すると考えられないため、11原子の鎖長を有する。
【0095】
活性剤
本方法の使用に適した活性剤には、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチド、小分子、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、および脂質が含まれる。好ましくは、活性剤は、ヒドロキシルまたはカルボキシル、あるいはポリエチレングリコール試薬との共有結合に適した他の任意の部分のいずれかである第1の官能基を含む小分子である。ある例においては、活性剤は、1つより多い第1の官能基を有することができる。本明細書に提供される方法は、そのような活性剤に特に有利である。
【0096】
特定の実施形態において、活性剤部分は、約1000未満の分子量を有する小分子である。さらにさらなる実施形態において、小分子薬剤は、約800未満、またはさらに約750未満の分子量を有する。さらに別の実施形態において、小分子薬剤は、約500未満、または一部の例において、さらに約300未満の分子量を有する。
【0097】
好ましい活性剤部分は、抗癌剤を含む。少なくとも1つのヒドロキシル基を有する腫瘍崩壊剤が特に好ましい。
【0098】
特に好ましい小分子は、タキサン(例えば、ドセタキセルまたはパシリタキセル)およびカンプトセシンを含む。
【0099】
本明細書において「カンプトセシン化合物」という用語は、植物性アルカロイド20(S)−カンプトセシン、ならびにその薬学的に活性誘導体、アナログおよび代謝体を含む。カンプトセシン誘導体の例には、9−ニトロ−20(S)−カンプトセシン、9−アミノ−20(S)−カンプトセシン、9−メチル−カンプトセシン、9−クロロ−カンプトセシン、9−フルオロ−カンプトセシン、7−エチルカンプトセシン、10−メチル−カンプトセシン、10−クロロ−カンプトセシン、10−ブロモ−カンプトセシン、10−フルオロ−カンプトセシン、9−メトキシ−カンプトセシン、11−フルオロ−カンプトセシン、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトセシン(SN38)、10、11−メチレンジオキシカンプトセシン、および10、11−エチレンジオキシカンプトセシン、および7−(4−メチルピペラジノメチレン)−10、11−メチレンジオキシカンプトセシン、7−エチル−10−(4−(1−ピペリジン)−1−ピペリジン)−カルボニロキシ−カンプトセシン、9−ヒドロキシ−カンプトセシン、および11−ヒドロキシ−カンプトセシンが含まれるがそれらに限定されない。特に好ましいカンプトセシン化合物には、カンプトセシン、イリノテカン、およびトポテカンを含む。
【0100】
ある種の好ましいカンプトセシン化合物は、以下の一般化された構造に対応する。
【0101】
【化7】

【0102】
式中、R−Rは、水素、ハロ、アシル、アルキル(例えば、C1−C6アルキル)、置換アルキル、アルコキシ(例えば、C1−C6アルコキシ
、置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アジド、アミド、ヒドラジン、アミノ、置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ)、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、カルバモイルオキシ、アリールスルホニルオキシ、アルキルスフホニルオキシ、−C(R)=N−(O)−R(式中、Rは、H、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、またはアリールであり、iは、0または1であり、Rは、H、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、または複素環である)RC(O)O−(式中、Rはハロゲン、アミノ、置換アミノ、複素環、置換複素環である)、または、R10−O−(CH2)−(mは、1から10の整数であり、R10は、アルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、複素環、または置換複素環である)から成る群からそれぞれ個別に選択され、あるいは、
はRと共に、または、RはRと共に置換または非置換メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、またはエチレンオキシを形成し、
は、HまたはOR’であり、R’は、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキル、またはヒドロキシアルキルである。
【0103】
典型的な置換基には、ヒドロキシル、アミノ、置換アミノ、ハロ、アルコキシ、アルキル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、アリール(例えば、フェニル)、複素環、およびグリコシル基を含む。
【0104】
特に好ましい一実施形態において、Dは、イリノテカンであり、20−位ヒドロキシル上のHは、最終のマルチアームプロドラッグ複合体に存在しない。
【0105】
【化8】

【0106】
さらに別の実施形態において、Dは、パシリタキセルまたはドセタキセルである。1つの特に好ましいDは、ドセタキセルであり、2’位のHは、最終のマルチアームポリマー複合体に存在しない。
【0107】
【化9】

【0108】
好ましくは、本発明に使用するための活性剤は、ポリマーへの共有結合に適する、少なくとも1つの遊離ヒドロキシル、カルボキシル、チオ、アミノ基等(つまり、「ハンドル」)を有する。好ましくは、活性剤は、ポリエチレングリコール試薬と反応する際に、加水分解連結を形成するのに適した少なくとも1つの官能基を有するが、2、3、4、またはそれ以上のそのような官能基を有することもできる。好ましくは、ポリマーは、活性剤内のそのような活性基の1つのみに結合される(つまり、単一部位にのみ結合される)。
【0109】
小分子(またはいかなる分子)内の望ましい結合点が立体的に妨害される場合、単一ステップの共役反応は、有意な収率で得ることは困難な場合がある。そのような場合において、分子内の望ましい結合点(例えば、ドセタキセル内の2’ヒドロキシル)、またはPEG試薬のいずれかは、短いリンカーまたはスペーサー部分との反応により官能化することができる。そのような方法は、多くの小分子、特に反応ポリマーがアクセスできない共有結合部位を有する小分子に適用することができる。使用するのに望ましいリンカーはt−BOC−グリシン、または保護アミノ基および使用可能なカルボン酸基を有する別のアミノ酸を含む(Zalipsky et al.,“Attachment of Drugs to Polyethylene Glycols”,Eur.Polym.J.,Vol.19,No.12,pp.1177−1183(1983)を参照されたい)。例えば、本明細書の実施例1Aおよび1Bを参照されたい。好ましいアミノ酸には、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、およびバリンを含む。
【0110】
別の適切なスペーサーは、上述のアミノ酸の代わりに使用することもできる。
【0111】
結合試薬
本発明の方法における使用に好ましいカップリング試薬は、カルボジイミドである。代表的なカップリング剤は、とりわけ、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)、N−tert−ブチル−N’−メチルカルボジイミド(TBMC)、N−tert−ブチル−N’−エチルカルボジイミド(TBEC)、および1、3−ジ−パラ−トリルカルボジイミドから成る群から選択される薬剤を含む。そのようなカップリング剤は、例えばSigma−Aldrich社から販売されている。
【0112】
1つの特に好ましいカップリング剤は、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミドである。
【0113】
4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−)p−トルエンスルホナート(DPTS)
カップリング反応は、典型的に、4−(ジメチルアミノ)ピリジンおよびパラ−トルエンスルホン酸によって形成される1:1の分子錯体である、4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−)p−トルエンスルホナートの存在下で実施される(Jeffrey S.Moore and Samuel I.Stupp、Macromolecules、1990、23、65−70)。好ましくは、試薬は使用前に新しく調製される。
【0114】
試薬は、含水ではなく、室温で長期間保存することができる。
【0115】
反応条件
カップリング反応は、典型的に、有機溶剤内で実施される。適した溶剤は、とりわけ、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、およびテトラヒドロフランを含む。
【0116】
典型的に、カップリング反応は、約0℃から約100℃の範囲の温度で実施される。好ましくは、反応は、室温で実施され(つまり加熱または冷却がない)、撹拌を伴うことがある。室温は、典型的に、約18℃から約23℃の範囲である。
【0117】
概して、DPTSの量は、第1の官能基に対して約0.05から約0.75当量の範囲(つまり、活性剤内の望ましい結合部分)であり、さらに好ましくは、第1の官能基に対して約0.10から約0.60当量の範囲である。カップリング試薬の量は、概して、第1の官能基に対して約1.25から5当量の範囲である。好ましい第1の官能基は、ヒドロキシルおよびカルボキシルである。
【0118】
好ましい第2の官能基(つまり、ポリエチレングリコール試薬内に存在する反応基)は、アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシル、ならびにそれらの活性化した同等物を含み、当然のことながら、第1および第2の官能基は、互いに反応するように選択される。
【0119】
好ましくは、第1と第2の官能基との間の反応は、エステル連結の形成をもたらす(例えば、カルボン酸または活性カルボン酸とアルコールのヒドロキシル基との反応によりもたらされる)。
【0120】
特定の例において、活性剤は、1つより多い第1の官能基を含み、その方法は、保護するステップを含まず(または存在しない)、それにより複合生成物は、「第1の官能基」部位のみで改変される。
【0121】
この方法の著しい利点の1つは、カルボジイミドカップリング剤から生じるN−アシル尿素副生物が僅かであることである。概して、本方法は、約15%未満のN−アシル尿素副生物、好ましくは、約10%未満のN−アシル尿素副生物、さらに好ましくは、5%未満のN−アシル尿素副生物の形成をもたらすのに効果的である。合成方法が、検知可能な量のN−アシル尿素副生物が存在しない、ドセタキセル上の単一ヒドロキシル部位(例えば、2’ヒドロキシル部位)に、エステル連結を介する、共有結合するポリエチレングリコールを有するドセタキセル−ポリエチレン複合体の形成をもたらす実施例2を参照されたい。
【0122】
この方法により調製された望ましいポリエチレングリコール−活性剤の収率は、典型的に、約70%を上回り、好ましくは、約75%を上回り、さらに好ましくは、約80%を上回り、さらに好ましくは85%を上回り、最も好ましくは90%を上回る。
【0123】
プロドラッグ生成物は、さらに精製することができる。精製方法および単離方法は、沈殿後のろ過および乾燥、ならびにクロマトグラフィーを含む。適切なクロマトグラフ法は、ゲルろ過クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【0124】
実用性
本明細書に提供される方法は、多くのPEG複合体のいずれの調製にも適しており、複数の保護/脱保護ステップ、低い収率を回避し、不要な副反応を最小限に抑えながら、1つより多い反応部位を有する分子内の単一の反応部位に共有結合するPEGを有する複合体の調製に特に有利である。本明細書に提供される合成方法は、非常に効果的であり、大規模な製造への適応に適している。
【0125】
加えて、本明細書に提供される方法に従い生成された典型的な4−アームPEG−グリシン−ドセタキセル複合体は、抗癌剤として特に有用であることが明らかになっている。例えば、実施例3、4および5を参照されたい。そのような具体的な複合体は、マウスの体内研究における代表的な肺、前立腺、および乳房癌で明らかなように、特定の固形癌腫瘍の成長を有意に低下させるのに効果的である。
【0126】
発明は、その好ましい特定の実施形態に関連して記載され、前述の説明ならびにその後に続く実施例は、説明を目的としており、本発明の範囲を制限するものではないことを理解するものとする。本発明の範囲内の他の態様、利益および修正は、本発明が関連する当業者に明らかである。
【0127】
本明細書で参照される全ての論文、本、特許明細書、および他の出版物は、参照することによりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0128】
特に指示がない限り、本発明の実行は、当業者のレベル内である有機合成等の従来の技術を用いる。そのような技術は、本明細書に詳しく説明されていないものについては、文献に十分に記載されている。具体的にそれに反する記述がない限り、試薬および物質は、市販されている。例えば、J.March、Advanced Organic Chemistry:Reactions Mechanisms and Structure、4th Ed.(New York:Wiley−Interscience、1992)(前出)、 および、Comprehensive Organic Functional Group Transformation II、Volumes 1−7、Second Ed.:
A Comprehensive Reviews of the Synthetic Literature 1995−2003(Organic Chemistry Series)、Eds.Katritsky、A.R.et al.、Elsevier Sienceを参照されたい。
【0129】
以下の実施例において、使用する数字(例えば、量、温度等)に関する正確度を確実にするために努力がなされているが、一部の実験誤差および偏差が考慮されるべきである。特に指示がない限り、温度は摂氏温度であり、圧力は海抜における気圧、あるいはその気圧に近いものである。
【0130】
当業者に周知の他の略語が参照され、他の試薬および物質が使用され、当業者に周知の他の方法が使用されるが、以下のリストおよび方法の説明は利便性のために提供される。
【0131】
略語
CM カルボキシメチルまたはカルボキシメチレン(−CH2COOH)
DCC 1、3−ジシクロヘキシルカルボジイミド
DCM 塩化メチレン
DIC N、N’ジイソプロピルカルボジイミド
DPTS 4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−p−トルエンスルホナート
DMF ジメチルホルムアミド
DMAP 4−(N、N−ジメチルアミノ)ピリジン
DMSO ジメチルスルホキシド
Dl 脱イオン
HCl 塩酸
HOBT ヒドロキシベンジルトリアゾール
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
IPA イソプロピルアルコール
KまたはkDa キロダルトン
MALDI−TOF マトリクス補助レーザー脱離イオン化飛行時間
MeOH メタノール
MW 分子量
NMR 核磁気共鳴
RT 室温
SCM サクシンイミジルカルボキシメチル(−CH−COO−N−サクシンイミジル)
SDS−PAGE ドデシル硫酸ナトリウム−硫酸−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SEC サイズ排除クロマトグラフィー
TFA トリフルオロ酢酸
THF テトラヒドロフラン
TLC 薄層クロマトグラフィー
材料と方法
ドセタキセル(タキソテール(登録商標))は、中国(CHINA)のHangzhou HETD Pharm&Chem社から購入した。
【0132】
4−アーム−PEG20K−CMおよび4−アーム−PEG20K−SCMは、4−アーム−PEG20K−OH(Nektar社、アラバマ州アンツヴィル)から調製された。
【0133】
以下の試薬の供給源は次のとおりである。グリシンtert−ブチルエステル(98%、Aldrich)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、99%、Aldrich)、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC、99%、Acros)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、99%、Acros)N,N’−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、99%、Aldrich)、およびp−トルエンスルホン酸(PTSA、98.5%,Aldrich)。全ての試薬は入手したままの状態で使用された。溶剤を使用前に乾燥した。
【0134】
DPTS:p−トルエンスルホン酸をベンゾール溶液の共沸蒸留に続いて、ベンゾール中のDMAPの等モル溶液の添加により乾燥した。得られた懸濁液は、室温で冷却され、吸引ろ過により固体が収集された。
【0135】
4−アーム−PEG20K−グリシンは、以下の構造を有する。
【0136】
【化10】

【0137】
全てのHNMRデータは、Bruker社製造の300または400MHz NMR分光器により得られた。
【0138】
実施例1
A.4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの合成:DMAP−DCCカップリング
4−アーム−PEG20K−グリシン(500mg、0.025mmol)を、10mLの塩化メチレン(DCM)中に溶解した。4−ジメチルアミノピリジン(19mg、0.15mmol)およびDCC(32mg、0.15mmol)を、PEG溶液に撹拌して添加した。5分後に、ドセタキセル(121mg、0.15mmol)を添加し、反応混合物を室温でさらに24時間撹拌し続けた。終了次第、反応混合物を、エーテル/IPA(1:1)の混合溶液系内で沈殿させた。得られた白色固体を、吸引ろ過により収集し、DCM(2mL)中に溶解し、吸引ろ過後にジエチルエーテル(100mL)の単一溶液系を使用して沈殿しさせ、望ましい生成物を得た。
【0139】
H NMR分析は、有意な量のN−アシル尿素(δ1−2.5ppm)副生物の存在を示した。HPLCにより検査されたその後の薬物放出は、約40%のPEG(各ポリマー分子の1つ以上のカルボキシ基)が、部分的にN−アシル尿素副生物(DMAP−DCCカップリング試薬における一般的な副生物)に変換されたことを明らかにした。N−アシル尿素副生物は加水分解して従来のPEG出発物質に戻ることができないため、生成物純度の形状は、非常に複雑である。その上、PEG出発物質は、N−アシル尿素に変換された部分については復元することはできない。生成混合物のさらなる特性、すなわち、構造、薬物負荷、放出率の解析は、実施されなかった。
【0140】
B.代替方法:
グリシンリンカーのドセタキセルへの共有結合
低い収率および実施例1Aで形成された混合物から望ましい複合生成物を精製する際の問題を考慮して、望ましい複合体を精製するための代替方法が試みられた。
【0141】
カップリング試薬の存在下における4−アーム−PEG20K−グリシンとドセタキセルの直接的反応ではなく、むしろドセタキセルの2’位でのグリシンの共有結合を試み、続いて、対応するPEG試薬にカップリングして、望ましい4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルを形成した。
【0142】
2’位以外の部位での改変を最小限に抑えるために、保護されたFmoc−グリシンの同等物の1つが使用された。反応条件を、以下の反応スキームに示す。
【0143】
【化12】

シリカゲルカラムの精製に続き、望ましい複合体(A)の収率は、20%のみであった。2’−改変ドセタキセルの低い収率および形成された複数の反応性生物により、4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルへのさらなる変換は実施されなかった。
【0144】
実施例2
4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの合成
【0145】
【化13】

4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの全般的な合成は、上記のスキームに示される。「4*」は、完全な薬物負荷を想定した4−アーム−ポリマーのドセタキセル分子の理論数を表す。
【0146】
A.4−アーム−PEG20K−グリシンt−ブチルエステルの調製
4−アーム−PEG20K−CM(12.5g、0.625mmol)を100ml DCM中に溶解した。それから、4−ジメチルアミノピリジン(610mg、5.00mmol)およびDCC(625mg、3.00mmol)を、撹拌して溶液に添加した。5分間撹拌した後、グリシンt−ブチルエステル−HCI(503mg、3.00mmol)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌し続けた。終了次第、反応混合物をエーテル/IPA(1:1)の混合溶液系を使用して沈殿し、吸引ろ過後に、所望の4−アーム−PEG20K−グリシンt−ブチルエステル生成物を得た(10.5g、0.525mmol、収率84%)。
【0147】
H NMR(CDCI)δ4.11(d、8H)、4.05(s、8H)、3.90−3.37(m、約1900H)、1.48(s、36H)
B.4−アーム−PEG20K−グリシンt−ブチルエステルの4−アーム−PEG20K−グリシンへの脱保護
4−アーム−PEG20K−グリシンt−ブチルエステルを、トリフルオロ酢酸/塩化メチレン(TFA/DCM、3:1)を使用し、室温で3時間撹拌して脱保護した。生成物を、エーテル(600mL)を反応混合物に添加して沈殿させ、吸引ろ過後に、所望の4−アーム−PEG20K−グリシン(9.2g)を得た。
【0148】
H NMR(CDCI)δ4.11(d、8H})、4.05(s、8H)、3.90−3.37(m、約1900H)。
【0149】
C・4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの調製
ドセタキセル(776mg、0.96mmol)および4−アーム−PEG20K−グリシン(4.0g、0.2mmol)を50mlのDCM中に溶解し、それから、新たに調製したDPTS(155mg、0.53mmol)、(Jeffrey S.Moore and Samuel I. Stupp、Macromolecules,1990、23、65−70)およびDIC(404mg、3.2mmol)を撹拌して添加した。反応混合物を室温で24時間撹拌し続けた。反応混合物を、エーテル/IPA(1:1)の混合溶液系を使用して沈殿させた。得られた白色固体を、吸引ろ過により収集し、5mlのDCM中に溶解し、エーテルの単一の溶液系(300mL)を使用して沈殿させ、吸引ろ過後に、所望の4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルを得た。収率(ステップC)90%。
【0150】
H NMR(CDCI)δ8.12(d、8H)、7.73(m、4H)、7.61(m、4H)、7.52(m、8H)、7.41(m、8H)、7.33(m、8H)、6.20(t、4H)、5.69(m、8H)、5.60(m、4H)、5.36(s、4H)、5.22(m、4H)、4.97(d、4H)、4.33(m、8H)、4.30(m、12H)、4.06(d、8H)、3.98(s、8H)、3.90−3.24(m、約1900H)、2.60(m、4H)、2.36(m、20H)、1.96(s、12H)、1.86(m、8H、1.75(s、12H)、1.68(m、8H)、1.35(s、36H)、1.25(s、12H)、1.13(s、12H)。全ての化学シフト値はppmである。(δ)
D.4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの薬物負荷および加水分解
薬物負荷は、H NMR(8%)およびRP−HPLC(6.2%)分析手法により決定され、加水分解率(リン酸緩衝液中)は、RP−HPLCにより単独に決定された。
【0151】
H NMRによる薬物負荷の算定:
異なるPEG−ドセタキセル濃度の試料を用意し、スキャン数は試料の濃度により異なった。得られた全てのスペクトラムの平均プロトンピーク積分を基に、薬物負荷が決定された。
【0152】
HPLCによる薬物負荷および加水分解率の算定
機器:HP1100
カラム:C18カラム
移動相:A:HO中の0.1%TFA、B:アセトニトリル
流率:0.5mL/分
勾配表:
【0153】
【化14】

薬物負荷の決定:薬物負荷および加水分解率は以下の通り実験的に決定された。上述のHPLC方法を使用し、10.8mgのドセタキセルをアセトニトリル/PBS(1:1、10mL、pH7.4)の混合溶液系中に溶解した。この原液を、以下の濃度のドセタキセル溶液を得るために連続的にさらに希釈した。540μg/mL、405μg/mL、300μg/mL、216μg/mL、108μg/mLおよび54μg/mL。各濃度のピーク面積を得、標準曲線を作成した。それから、30.4mgの4−アーム−PEG20K−ドセタキセルを10mLのPBS、pH7.4中に溶解した。この溶液をろ過し、それから、0.3mLの一定分量を10個の個別のHPLCバイアルに入れた。これらのバイアルを37℃で保管し、試料内に存在する全てのPEG−ドセタキセルおよび浮遊ドセタキセルが確実に溶解されるように、使用前に0.3mLのアセトニトリルを添加した。各注入に1つのバイアルを使用し、200時間(8.3日)の間に様々な時点で注入が行われた。PEG−複合体から放出された遊離薬物の出現は、監視され、終了時点に標準曲線に対する最終濃度が決定された。
【0154】
薬物負荷値は、4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセル生成物内のポリマーに共有結合したドセタキセル分子の平均数をいう。4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセル生成物の算出された分子量は、4−アーム−ポリマー当たり4ドセタキセル分子と想定して、およそ23、232である。ドセタキセルの分子量は、808である。完全な薬物負荷(ポリマー当たり4ドセタキセル)を想定すると、生成物に含有される薬物の理論的重量百分率は、(3232/23232)100または13.9%である。HPLCにより決定された、実際に確認された薬物重量は、ポリマー当たりのドセタルの平均数1.78に相当する、6.2%であった。H NMRで決定された薬物負荷値は、ポリマー当たりのドセタキセル分子の平均数約2.3に相当する8%であった。したがって、本調製では、両方の方法の平均を基にすると、ポリマー当たりのドセタキセル分子の平均数は、2.00よりやや高い。
【0155】
半減期の決定。半減期として報告される加水分解率の決定には、薬物負荷において上述したのと同様の分析手法を用いた。薬物放出が完了した時点で、半減期は、遊離薬物の濃度(面積%)が50%と同等になる時間を測定する、または完全な直鎖の場合は、プロットの勾配(1−S%対時間)を測定して算出され、以下の式を用いた。
【0156】
半減期=In(2)/スロープ
4−アーム−PEG20K−ドセタキセルの半減期は、15.3時間と決定された。
【0157】
実施例3
NCI−H460肺腫瘍が移植されたマウスにおける4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの抗腫瘍活性
ヒトNCI−H460肺腫瘍(それぞれ30から40断片)が、マウスの右腋窩部位付近に皮下的に移植された(Charles Rivers Labs:NCr nu/nu)。移植日を、0日とし、腫瘍は、治療前に体重につき100−245mgの重量に到達するまで放置した。
【0158】
動物は、治療初日の平均腫瘍重量が互いにできるだけ近くなるような形で、無作為にグループに分けられた。
【0159】
治療:マウスは、試験化合物または媒体(生理食塩水)の1回または2回の静脈内投与を受けた。
【0160】
腫瘍測定:初回の注射投与後に週2回、動物の体重および腫瘍が測定された。腫瘍量は、キャリパー測定(mm)により測定され、以下の楕円球体の式を使用した:LxW/2=mm、式中、LおよびWは、各測定で収集されたより大きい方の、およびより小さい方の垂直の寸法を指す。この式は、単位密度(1mm=1mg)を想定して、腫瘍重量を算出するためにも使用された。
【0161】
研究期間:瀕死状態のいかなる動物、または腫瘍が4000mgに到達した、潰瘍がある、または剥がれ落ちた動物を研究終了前に安楽死させた。
【0162】
結果 2つの異なる有効性に関する研究が行われた。第1の研究は、H460 NSCLC腫瘍に対する4−アーム−PEG20K−ドセタキセルおよびドセタキセルの効果を評価した。図16A〜図16Cは、腫瘍増殖への各化合物の単一投与の効果を示す。20および40mg/kgのPEG化されたドセタキセルの投与は、PEG化されていない浮遊化合物よりも向上した抗腫瘍効果を提供したことが認められた。10mg/kgの投与は、2つの化合物との間で有意な差異を示した。
【0163】
第2の研究において、抗腫瘍効果(H460 NSCLC腫瘍)は、無胸腺ヌードマウスにおいて最大許容投与量まで測定された。動物は、最大30mg/kgのドセタキセルおよび最大60mg/kgのPEG−ドセタキセルに耐えた。
【0164】
図1は、腫瘍成長への各化合物の2回の容量(q7d×2)の効果を示す。PEG化された化合物は、ドセタキセル化合物よりも向上した抗腫瘍効果を提供することは、結果から再び明らかである。容量反応は、3つのPEG化されていない薬物投与量を比較した際、3つのPEG化された薬物投与量の中で明確である。
【0165】
実施例4
DU−145前立腺腫瘍が移植されたマウスにおける4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの抗腫瘍活性
研究は、使用された腫瘍がDU−145前立腺腫瘍であったことを除き、実施例3に記載の通りに実施された。
【0166】
抗腫瘍効果は、前立腺腫瘍(DU−145)に対して、各化合物の最大許容量まで測定された。動物は、最大30mg/kgのドセタキセルおよび最大60mg/kgのPEG−ドセタキセルに耐えた。
【0167】
図2は、各化合物の2回の容量(q7d×2)の抗腫瘍効果を示す。PEG化された化合物は、78日間の観察期間中、全ての試験された3回の容量において腫瘍成長を完全に抑制したことが、結果から再び明らかである。ドセタキセル化合物は、優れた活性を示したが、腫瘍は回復し、30〜50日後に成長した。
【0168】
実施例5
MCF−7乳房腫瘍が移植されたマウスにおける4−アーム−PEG20K−グリシン−ドセタキセルの抗腫瘍活性
最大100匹のマウス(Charles Rivers Labs:CD−1 Fox nl nu)が、細胞摂取の少なくとも2日前に、皮下の17β−エストラジオール(エストロゲン)ペレット(1.00mg/ペレット、Innovative Research of America、米国フロリダ州サラソタ)を、頸部態様に外科的に移植された。これらのペレットは、移植後、90日間で0.011mg/日の率でエストロゲンを放出する。手術後、0.1mLのリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)/マトリゲル(登録商標)(1:1v/v)中のおよそ1x10MCF−7細胞が、右脇腹に皮下的に注入された。腫瘍は、50−150mmの範囲に到達するまで放置された。本研究における0日は、投与の初日に相当する。
【0169】
動物は、治療初日の平均腫瘍重量が互いにできるだけ近くなるような形で、無作為にグループに分けられた。
【0170】
治療:マウスは、試験化合物または媒体(生理食塩水)の1回または2回の静脈内投与を受けた。
【0171】
腫瘍測定:初回の注射投与後に週2回、動物の体重および腫瘍が測定された。腫瘍量は、キャリパー測定(mm)により測定され、以下の楕円球体の式を使用した。LxW/2=mm、式中、LおよびWは、各測定で収集されたより大きい方、およびより小さい方の垂直の寸法を指す。この式は、単位密度(1mm=1mg)を想定して腫瘍重量を算出するためにも使用された。
【0172】
研究期間:瀕死状態のいかなる動物、または腫瘍が1500ccに到達した、潰瘍がある、または剥がれ落ちた動物を研究終了前に安楽死させた。
【0173】
結果:抗腫瘍効果は、10、20および30mg/kgの容量で乳房腫瘍(MCF−7)に対して測定された。結果は、2つの高用量において、試験された両方の化合物で腫瘍成長の完全な抑制を示した。図3は、10mg/kg容量(q7d×2)の抗腫瘍効果を示す。
【0174】
前の説明に提示された教示の恩恵を有する、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明の多くの修正および他の実施形態を思いつくであろう。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態に制限されるものではなく、修正および他の実施形態は、付属の請求項の範囲内に含まれることを目的とすることを理解するものとする。本明細書において、特定の用語が使用されているが、一般的且つ記述的にのみ使用されており、制限する目的はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールポリマーを活性剤に共有結合させる方法であって、
アミノ、ヒドロキシルおよびカルボキシルから選択される第1の官能基を含む活性剤を提供するステップと、
前記活性剤を、カップリング試薬および4−(ジメチルアミノ)−ピリジニウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)の存在下で前記第1の官能基と反応する第2の官能基を含むポリエチレングリコールと、前記第1と第2の官能基との間の反応を促進し、それによりポリエチレングリコール活性剤複合体を形成するために効果的な条件下で、反応させるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記カップリング試薬は、カルボジイミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カップリング試薬は、シクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)、N−tert−ブチル−N’−メチルカルボジイミド(TBMC)、およびN−tert−ブチル−N’−エチルカルボジイミド(TBEC)から成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記カップリング試薬は、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応させるステップは、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、テトラヒドロフランから成る群から選択される有機溶剤内で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応させるステップは、0℃から100℃の範囲の温度で実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応させるステップは、室温で実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応させるステップにおけるDPTSの量は、前記第1の官能基に対して約0.05から0.75当量の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応させるステップにおけるDPTSの量は、前記第1の官能基に対して約0.10から0.60当量の範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記カップリング試薬の量は、前記第1の官能基に対して約1.25から5当量の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の官能基は、アミノ、ヒドロキシル、およびカルボキシルから成る群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記活性剤は、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチド、小分子、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、および脂質から成る群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記活性剤は、タンパク質またはポリペプチドである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記活性剤は、小分子である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記活性剤は、ヒドロキシルまたはカルボキシルである第1の官能基を含む小分子である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記活性剤は、1つより多い前記第1の官能基を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1と第2の官能基との間の反応は、エステル連結の形成をもたらす、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記小分子は、タキサンまたはカンプトセシンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記小分子は、ドセタキセルまたはパクリタキセルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記反応は、エステル連結を介し、ドセタキセル上の単一のヒドロキシル部位に共有結合したポリエチレングリコールを有するドセタキセル−ポリエチレン複合体の形成をもたらす、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記単一部位は、ドセタキセルの2’−ヒドロキシル基である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリエチレングリコールは、直鎖、分枝、叉状、およびマルチアームポリエチレングリコールから成る群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリエチレングリコールは、3から25本のアームを備える、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリエチレングリコールは、3、4、5、6、7、8、9、および10本から選択される数のアームを備える、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリエチレングリコールは、ポリオールまたはポリアミンコアを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリエチレングリコールは、グリセロール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ヘキサクリセロール、およびペンタエリトリトールから選択されるポリオールコアを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリエチレングリコールは、約1から約10の前記第2の官能基を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリエチレングリコールは、1、2、3、4、5および6から選択される数の前記第2の官能基を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリエチレングリコールは、以下から選択される構造を備え、
【化15】


および
【化16】


式中、
nは、約5から約400の範囲であり、
mは、0から5の範囲であり、
マルチアームポリマーの総分子量は、約1500から約60、000ダルトンである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記活性剤は、1つより多い前記第1の官能基を備え、前記方法は、保護ステップを含まない、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記活性剤は、ドセタキセルである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリエチレングリコールは、
【化17】


である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記反応させるステップは、その2’位のみで前記ポリエチレングリコールに共有結合したドセタキセルを有する複合体を形成する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記反応させるステップは、約2.1から3.75の範囲の、ポリエチレングリコール当たりのドセタキセル分子の平均数を有する複合体を形成する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記反応させるステップは、約2.3から3.2の範囲の、ポリエチレングリコール当たりのドセタキセル分子の平均数を有する複合体を形成する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記反応させるステップは、約15%未満のN−アシル尿素副生物の形成をもたらす、請求項16に記載の方法。
【請求項37】
前記反応させるステップは、約10%未満のN−アシル尿素副生物の形成をもたらす、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記反応させるステップは、約5%未満のN−アシル尿素副生物の形成をもたらす、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記複合体の収率は、約70%を上回る、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−511744(P2010−511744A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539338(P2009−539338)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/024620
【国際公開番号】WO2008/066902
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(500321438)ネクター セラピューティックス エイエル,コーポレイション (18)
【Fターム(参考)】