説明

ポリ乳酸の酵素解重合法、及び解重合生成物を用いるポリ乳酸の製造方法

ポリ乳酸を有機溶媒又は超臨界流体中、加水分解酵素の存在下解重合させ、再重合可能なオリゴマーを生成させるポリ乳酸の解重合法、前記解重合法により得た再重合可能なオリゴマーを加水分解酵素又は重合触媒の存在下重合させるポリ乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、現在最も期待されている生分解性プラスチックである、ポリ乳酸及びポリ乳酸をベースとする共重合体を、加水分解酵素を用いることにより解重合して再重合性オリゴマーを得、これを再重合してポリ乳酸を製造する、という完全循環型高分子ケミカルリサイクル法に関する。
【背景技術】
近年地球温暖化など地球環境がますます悪化しつつある危機的状況において、限りのある炭素資源の有効利用と有限エネルギー資源の節約の観点から、サステイナブル材料利用システムの構築が急がれている。高分子製品についてみると、使用後はそのまま再使用されるか(この中にはPETボトルの繊維素材化などが含まれる)、リサイクルされるかあるいは廃棄されている。リサイクルの方法としては、マテリアルリサイクル法、ケミカルリサイクル法、サーマルリサイクル法などが用いられているが、マテリアルリサイクル法は分子量低下などの品質劣化を伴い、ケミカルリサイクル法はエネルギー多消費型であり、またサーマルリサイクル法は多量の炭酸ガスが発生するなど、それぞれ問題を内包している。
炭素資源の有効利用の観点からは、最終的にはケミカルリサイクル法により原料に戻すことが理想的である。ケミカルリサイクル法には、解重合反応によるモノマーの回収や化学的分解反応による原料モノマー回収が知られている。しかし、化学的分解や熱分解により解重合を行った場合、生成する低分子化合物の両末端は不規則であるので、これをそのまま再重合させることは不可能で、さらに異性化反応や精製等を行う必要がある。また、たとえばポリエステルをNaOHの存在下、高温・高圧で加水分解させると、得られるカルボン酸はNa塩として存在するので、これを酸により中和しなければならない。したがって、いずれの方法もエネルギー多消費型で、さらに無機塩(NaCl等)を排出するなど、環境に対する負荷は大きく、また一般に採算性はない。
また再利用の観点からははずれるが、環境に対する負荷が小さいポリマーとして、地中のバクテリア等により分解されるいわゆる生分解性ポリマーが注目され、種々の生分解性ポリマーが提案されている。たとえば生分解性ポリマーとして生分解性ポリエステル類が知られている。化学合成によって製造される生分解性ポリエステル類の代表的なものとしては、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体(PBS/A)等のジオールとコハク酸からの脂肪族ポリエステルが挙げられる。中でもポリブチレンサクシネート(PBS)は1,4−ブタンジオールとコハク酸から石油化学工業的プロセスにより得られることから、代表的な化学合成系生分解性プラスチックとしてポリ乳酸やポリカプロラクトンとともに実用化が図られている。
このうち、ポリ(L−乳酸)(PLA)は、再生可能資源であるとうもろこしデンプン等を発酵させて得られる乳酸を重合して得られるもので、最終的に生分解又は焼却しても、炭酸ガスのトータルな増加には直接にはつながらない環境低負荷型高分子であるということができる。原料となる乳酸又はその2量体まではすでに多年の研究、開発によって高効率で生産されている。
ポリ乳酸はポリエチレンやポリスチレンと遜色ない強度を有し、他の生分解性プラスチックに比べ高い透明性をもち、耐候性、耐熱性、加工性等に優れた生分解性プラスチックであり、既に農業用被覆資材、繊維、土止めネット、防草袋等に実用化されている。したがって、現在、ポリ乳酸は実用化に向けた開発が最も進んだ生分解性プラスチックである。
また、ポリ乳酸は、土の中では数年、また堆肥中では短期間に分解され、水と炭酸ガスになるので、野外で用いる農業用被覆資材等は使用後そのまま放置することができる。しかし、ポリ乳酸は、ポリカプロラクトンやポリヒドロキシ酪酸に比較すると生分解性能はかなり低く、ポリ乳酸の大量野外放置は新たな環境問題に発展する虞がある。
一方、ポリ乳酸を熱分解してモノマーを再生するケミカルリサイクル法があるが、この方法は270℃以上の高温を要するなどエネルギー多消費型であり、リサイクル性に優れているとは言い難い。また、ポリ乳酸がいかに再生可能資源から得られるといっても、原料澱粉を産生する植物の栽培、収穫、発酵生産など製造プロセスに投入されるエネルギーは無視できない。さらにポリ乳酸などの生分解性ポリマーは環境に対する負荷は小さいものの、その原料は回収されないため、炭素資源が有効利用される完全循環型再利用の範疇に入るものではなく、理想的なポリマー分解方法とは云い難い。
したがって、生分解性ポリマーと同様、石油エネルギー等の高エネルギーを必要とせずに低分子化合物に分解でき、しかも低分子化合物が有効利用でき、なお望むならばその低分子化合物から元のポリマーが同様に高エネルギーを消費せず得られるのであれば、低エネルギー消費型で完全循環型のポリマー製造・分解法を構築することができる。
ところで、リパーゼ等の酵素を用いて生分解性ポリマー類を分解させる方法として、特表2001−512504号公報には、緩衝剤が入っていてもよい酵素の水溶液中で、各種生分解性ポリマー、たとえば脂肪族もしくは部分芳香族ポリエステル類、尿素基を含んでいてもよい熱可塑性脂肪族もしくは部分芳香族ポリエステルウレタン類、脂肪族−芳香族ポリエステルカーボネート類及び/又は脂肪族もしくは部分芳香族ポリエステルアミド類等を分解させる方法が示されている。しかしながら、前記公報に記載の分解技術は、生分解性ポリマー類を酵素を用いて水溶液中で迅速に分解を行なわせ、たとえば生分解性ポリマーと他の有用材料(例えば金属)との複合体から生分解性ポリマーを分解除去して有用材料を容易に回収するなどの方法に利用するもので、分解後の生成物を再利用することに主眼をおくものではない。また、この方法で分解したものを再重合などで利用することは困難である。
また、前記公報には、生分解性ポリマーであるポリ乳酸の微細化粒子を燐酸カリウム緩衝液中で特定のリパーゼの存在下分解させることが示されている。しかし、ポリ乳酸は微生物が存在していても通常の条件下では分解せず、たとえば高温高湿という条件にしないと微生物による分解が生じないことはよく知られている事実で、これは高温高湿下ではポリ乳酸に先ず加水分解が起こって低分子量化し、次いで、加水分解が進行した段階で初めて微生物が関与して分解を始める(2段階反応)ためであるとされている(J.Lunt,Polymer Degradation and Stability 59,145−152(1998))。前記公報に記載の燐酸カリウム緩衝液中でのポリ乳酸のリパーゼ分解は、ポリ乳酸を極めて細かい粉末にしたことによりポリ乳酸が最初に加水分解を受け低分子化し、低分子化したポリ乳酸にリパーゼが作用したものと考えられる。(高分子量のポリ乳酸を分解する唯一の酵素としてはプロティナーゼKが知られているだけである。)
さらに堆肥(コンポスト)中におけるポリ乳酸の微生物による分解も、コンポスト中では高温高湿が保たれるため、前記のごとき2段階反応が生じて急速に分解が起こるものである。
したがって、ポリ乳酸に関してはこれに直接酵素を作用させて分解させようとすることはプロティナーゼK以外の酵素では不可能であるとみなされている。実質的に研究がなされているのは、堆肥(コンポスト)中におけるポリ乳酸の分解に関するものが主流で、ポリ乳酸に直接酵素を作用させて分解させる研究は、先のプロティナーゼKを使用した簡易生分解性評価に用いられる以外はなされていないのが現状である。しかもポリ乳酸を酵素で解重合して再重合可能なオリゴマーを回収するという考えに基づいての研究もこれまでになされていない。したがって、未だポリ乳酸を酵素により解重合して、再重合可能なオリゴマーを得るケミカルリサイクル法は提案されていない。
これに対し、本発明者は先にポリマーの解重合によって生成する解重合生成物が再重合性を有する、酵素によるポリマーの解重合法を提案した。特開2002−17385号公報には、カプロラクトン重合体の加水分解酵素による解重合法が記載され、この解重合によりジカプロラクトンが高収率で生成し、生成したジカプロラクトンは酵素により再重合させることができる。また、特願2001−131768号は、ポリアルキレンアルカノエート又はポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)を加水分解酵素の存在下、解重合させることにより、再重合可能な環状体を主成分とするオリゴマーを製造する方法である。さらに特願2002−193114号は、ポリエステル又はポリカーボネートを加水分解酵素の存在下、超臨界流体中で、解重合させる方法に関するもので、また、環状オリゴマーを超臨界流体中で酵素により再重合させることができる。
これらのポリマーは元来生分解性ポリマーとして微生物による分解が容易なものとしてよく知られているものであり、ポリ乳酸とは微生物に対する挙動が大きく異なるものである。
【発明の開示】
本発明は前記のごとき要請に基づいてなされたものであり、その目的は、ポリ乳酸を酵素により解重合して再重合可能なオリゴマーを得、また、前記再重合可能なオリゴマーを再重合させることによりポリ乳酸を得るという、ポリ乳酸の完全循環型利用方法を提供することにある。
前記課題は、以下の解重合法及び再重合法を提供することにより解決される。
本発明の第1の解重合法は、ポリ乳酸を有機溶媒中、加水分解酵素の存在下解重合させ、再重合可能なオリゴマーを生成させるものである。
本発明の第2の解重合法は、ポリ乳酸を超臨界流体中、加水分解酵素の存在下解重合させ、再重合可能なオリゴマーを生成させるものである。
また、本発明の第1の再重合法は、前記第1又は第2の解重合で得た再重合可能なオリゴマーを加水分解酵素の存在下重合させるものである。
本発明の第2の再重合法は、前記第1又は第2の解重合で得た再重合可能なオリゴマーを重合触媒の存在下重合させるものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の解重合の前後におけるGPCの変化を示すグラフである。
図2は、実施例1における解重合生成物のAPCI MS[cyclic M+HO(18)]を示すグラフである。
図3は、実施例1における解重合生成物のH−NMRを示すグラフである。
図4は、実施例4における有機溶媒組成とオリゴマー転化率との関係を示すグラフである。
図5は、実施例5の解重合におけるオリゴマー転化率の経時変化を示すグラフである。
図6は、実施例5における解重合生成物のH−NMRを示すグラフである。
図7は、実施例6における解重合生成物のMALDI−TOF MSを示すグラフである。
図8は、実施例8における解重合生成物のMALDI−TOF MSを示すグラフである。
図9は、実施例10の解重合における分子量の経時変化を示すグラフである。
図10は、実施例11の解重合の前後におけるGPCの変化を示すグラフである。
図11は、実施例12の再重合の前後におけるGPCの変化を示すグラフである。
図12は、実施例14の再重合の前後におけるGPCの変化を示すグラフである。
図13は、実施例15の再重合の前後におけるGPCの変化を示すグラフである。
図14は、実施例16の再重合の前後におけるGPCの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明者は、ポリ乳酸の完全循環型リサイクルを目指して鋭意研究を行ない、従来のポリ乳酸の酵素分解に関して一般的であった常識を覆し、一定の条件のもとにおいて、ポリ乳酸が酵素によりオリゴマーに解重合可能であり、かつ生成オリゴマーは再重合性オリゴマー混合物であり、容易にポリ乳酸に再重合可能であることを見い出した。生成オリゴマーは種々の低分子化合物からなる混合物であるが、この混合物を再重合させることによりポリ乳酸を得ることができる。前記再重合は、加水分解酵素を用いる重合の他、化学合成的に、すなわち、触媒を用いる重合であってもよい。
本発明の加水分解酵素を用いるポリ乳酸の解重合法及び重合方法は、ワンポットによる簡便な操作でよい他、反応条件は温和でありまた低エネルギー消費でもある。また、化学的分解や熱分解により解重合を行った場合、生成する低分子化合物の両末端は不規則で、これを再重合させて高分子化することは不可能であるが、本発明の解重合法により、容易に再重合可能なオリゴマー混合物が生成する。そして、前記オリゴマー混合物は、加水分解酵素の存在下又は化学合成的に容易に再重合して高分子化する。
また、この再重合性オリゴマー混合物は回収が容易で特に煩雑な精製工程を必要としない。さらに、解重合又は重合を行うのに用いる加水分解酵素は、回収して繰り返し用いることができ、その際酵素としての活性の減少は実質的にないという有利な点を有する。さらに、ポリ乳酸が共重合体の場合には、ポリ乳酸共重合体を解重合して得た再重合性オリゴマー混合物を再重合させることにより、元のポリ乳酸共重合体と同様の組成のものを再生することができる。
したがって、本発明により、環境受容型であり、かつ炭素資源を完全再利用することが可能な、完全循環型の高分子材料利用システムを構築することが可能になる。
以下に、本発明のポリ乳酸の解重合法及び解重合により生成するオリゴマーからポリ乳酸を再重合する方法について詳述する。
[ポリ乳酸の解重合法]
本発明のポリ乳酸の解重合法は、ポリ乳酸を有機溶媒中、加水分解酵素の存在下解重合させることを特徴とする。
本発明の解重合法において用いられるポリ乳酸は、フィルム、繊維等の成形体等に用いられるポリ乳酸又はポリ乳酸共重合体が特に制限なく用いることができる。例えば、ホモポリマーとしては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(DL−乳酸)、シンジオタクチックポリ(DL−乳酸)、アタクチックポリ(DL−乳酸)等が挙げられる。
また、ポリ乳酸共重合体としては、前記のごときポリ乳酸に、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン(β−BL)、ε−カプロラクトン(ε−CL)、11−ウンデカノリド、12−ウンデカノリドなどの中〜大員環ラクトン類、トリメチレンカーボネート(TMC)やメチル置換トリメチレンカーボネートなどの環状カーボネートモノマー及びこれらのオリゴマー、環状エステルオリゴマー、リシノール酸のごときヒドロキシ酸類及びそのエステル類、線状カーボネートオリゴマー、線状エステルオリゴマー、エステル−カーボネートオリゴマー、エーテル−エステルオリゴマー等の、ラクチドと共重合可能でかつ加水分解酵素の作用を受け得る結合を生成するコモノマーを共重合させたものが挙げられる。これらのコモノマーは共重合体中、50モル%以下含むことが好ましい。ポリ乳酸共重合体を解重合する際、酵素等を適切に選択すると、オリゴマー中のコモノマー組成比をポリ乳酸共重合体中のコモノマー組成比と略同じにすることができる。したがって、ポリ乳酸共重合体を解重合して得た再重合性オリゴマー混合物を再重合させることにより、元のポリ乳酸共重合体と同様の組成のものを再生することができる。従来のリサイクル法では、元のポリマーと同じ組成のものを得るためには、それぞれのモノマーを回収し、これを元のポリマーと同様な方法により重合させなければならず、技術的に困難であったり非常なコスト高になったりして現実的な方法とはいえない。
ポリ乳酸及びポリ乳酸共重合体(以下において、これらを単にポリ乳酸ということがある。)の分子量(Mn)に特に制限はないが、一般的に10,000〜1,000,000程度のものが適切である。
本発明のポリ乳酸の解重合は、ポリ乳酸を適当な溶剤に溶解し、それに加水分解酵素を加えて解重合溶液を調製し、該溶液を適切な温度に保持しつつ、好ましくは攪拌しながら、適切な時間解重合反応をさせることにより行われる。
本発明の解重合に用いる酵素は、エステル結合に作用する加水分解酵素であれば特に制限なく使用される。また、酵素は、固定化していても固定化していなくてもよいが、オリゴマーの回収や酵素の再利用の観点からは固定化しているものが有利である。加水分解酵素としては入手のしやすさと酵素の熱安定性によりリパーゼが好ましく、中でもCandida antarctica由来のリパーゼや、Rhizomucor miehei由来のリパーゼが好ましい。例えば、Candida antarctica由来の固定化酵素としては、ノボザイムズジャパン(株)の「Novozym 435(商品名)」、Rhizomucor miehei由来のリパーゼとしてはノボザイムズジャパン(株)の「Lipozyme RM IM(商品名)」等を挙げることができる。この他に、Bacillus subtilis由来のプロテアーゼであるナガセケムテックス(株)の「Bioprase(商品名)」も、加水分解酵素として同様に用いることができる。
本発明の解重合における酵素(固定化酵素を含む)の添加量は、ポリ乳酸当たり酵素を少なくとも0.05質量%、好ましくは、0.1質量%以上である。0.05質量%未満では、反応速度は著しく低下するので前記添加量が適切である。また、酵素の添加量を多くすると反応は速くなるが、余り多くても実際的ではないので、多くとも50質量%程度が適切である。(なお、前記酵素の添加量は、固定化酵素の場合ポリ乳酸に対し通常1〜1000質量%に相当する。)
前記溶媒としてはO−キシレン、トルエン、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ヘキサンなど、ポリ乳酸を部分的にでも溶解し、かつ酵素を失活させない溶媒であれば制限なく使用することができる。中でもO−キシレンやトルエンが解重合に有効な溶媒であることが確認された。また、有機溶媒を各種、特定の組成比で組合わせることにより、有機溶媒を単独で用いる場合より転化率を上げることができる。例えば、クロロホルムは単独で用いることは余り好ましくないが(酵素を失活させる)、ヘキサンにクロロホルムを少量混合すると、ヘキサン100%の場合よりも転化率が改善される。また、O−キシレンやトルエンを単独で用いるより、ヘキサンをそれぞれ加える方が転化率が向上する。
水は、生成するオリゴマーの酵素分解を引き起こすので好ましくない。ポリ乳酸は有機溶媒への溶解性が比較的低いので、混合溶媒系を用いたり、最初にクロロホルム等の易溶解性の溶媒を用いてポリ乳酸を溶解しこれに上記のごとき溶媒を加え、その後クロロホルムを留去する(酵素を失活させないため)などの工夫をすることが望ましい。
一般的に、解重合反応溶液中に含まれるポリ乳酸の濃度は、0.1〜100g/l、中でも0.5〜50g/lが適切である。0.1g/lより低い濃度の場合は、収率自体は特に低くないが濃度が低いため得られるオリゴマーの量を十分に確保しにくく、また100g/Lを超えるとオリゴマーへの変換率が低下するので、前記範囲が好ましい。
さらに、溶媒としては水は適切ではないが、解重合の系の中に全く水が存在しないと加水分解酵素の活性が保てないので、系に微量の水分を添加することが好ましい。酵素自体が水分を保持している場合には、水を添加する必要はない。酵素の活性を保つための水分は、反応系中ポリ乳酸に対して0.05〜100質量%程度である。
解重合の温度は30〜120℃、好ましくは40〜100℃である。30℃より低い温度では解重合速度が小さく、また120℃を超えると酵素の失活が起こり易いので前記範囲が適切である。
また、解重合の反応時間は6〜48時間程度であることが望ましい。6時間より短いと十分解重合が進行せず、一方、48時間以上行ってもそれ以上解重合は進行せず経済的に不利となるので前記範囲が適切である。
本発明においては、解重合溶媒として超臨界流体を用いることができる。用いられる超臨界流体としては、二酸化炭素やフロロホルム(CHF)などが挙げられるが、二酸化炭素は、無害、安価、不燃性であり、また、その臨界点は、31℃、7.4MPa程度であるので、臨界点に達し易く、本発明の解重合及び重合に用いる媒体として好適である。二酸化炭素は比較的疎水性分子を扱うのに適し、フロロホルムは比較的親水性分子を扱うのに適している。
ポリ乳酸の解重合は、ポリ乳酸と加水分解酵素を耐圧反応管に入れ、これに液化炭酸を、送液ポンプにより加圧しながら注入することにより、二酸化炭素を超臨界状態にし、超臨界二酸化炭素を適切な温度に保持しつつ、好ましくは攪拌しながら、適切な時間解重合反応をさせることにより行われる。解重合の際の超臨界二酸化炭素の温度は、40〜90℃程度が好ましく、また、圧力は7.2〜30MPa程度が好ましい。また、解重合の反応時間は少なくとも3時間であることが望ましい。反応時間の上限は特にないが、48時間以上行ってもそれ以上解重合は進行せず経済的に不利となる。
また、超臨界流体中におけるポリ乳酸の濃度は0.5〜50g/l程度にすることが好ましい。ポリ乳酸に対する加水分解酵素の添加量は0.05〜50質量%程度(固定化酵素の場合は1〜1000質量%程度)が適しており、また、酵素活性を保つための反応系中の水分量はポリ乳酸に対し0.1〜100質量%程度が適している。
また、本発明において、有機溶媒として前記のごときO−キシレン、トルエン、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ヘキサン等の有機溶媒又は超臨界流体に、エタノールを少量、即ち0.05〜5vol%程度添加すると、解重合速度が向上する。
本発明の解重合により得られる再重合性のオリゴマーは、有機溶媒又は超臨界流体にエタノールを添加しない場合は、環状体を主成分とする再重合性オリゴマー混合物が得られる。環状体を主成分とする再重合性オリゴマーは、酵素重合に適するモノマーであり、酵素により、簡便な操作でかつ温和な条件で容易に重合可能であり、容易に元のポリマーを製造することができる。またその際,他のモノマーと共重合させることも可能である。また、前記環状オリゴマーは酵素によるだけでなく、化学合成的に、すなわち、重合触媒の存在下重合させることが可能であり、その際、無溶媒で重合させることができ、重合時間も短縮される。さらに、前記環状オリゴマーの重合は、開環重合であるため、水等の脱離成分がなくこれらを反応系外に出す必要もないので、重合反応操作が簡便で排気設備が不要であり、また同時成型も可能となる。
また、前記のごとき有機溶媒又は超臨界流体にエタノールを添加すると、末端の1つがエチルエステル化された線状の再重合性オリゴマーが主成分として得られる。
また、前記環状体を主成分とする再重合性オリゴマー混合物の中にはマイナー成分として線状オリゴマーが含まれているが、加水分解酵素の存在下又は化学合成的に容易に再重合して高分子化する。
[解重合生成物の再重合]
本発明の解重合により得られる再重合性オリゴマー混合物は、加水分解酵素又は化学触媒を用いて容易に再重合させることができる。この際、再重合性オリゴマー混合物に、コモノマーとして環状ラクトンモノマー又はオリゴマー、環状又は線状カーボネートモノマー又はオリゴマー、環状又は線状エステルオリゴマー、ヒドロキシ酸、及びヒドロキシ酸エステルから選ばれるモノマー又はオリゴマーを1種以上加えることにより、ポリマー物性を変えた共重合体とすることができる。
加水分解酵素を用いる再重合は、再重合性オリゴマー混合物を適当な溶剤に溶解し、それに加水分解酵素を加えて重合溶液を調製し、該溶液を適切な温度に保持しつつ、好ましくは攪拌しながら、適切な時間重合反応をさせることにより行われる。加水分解酵素は、解重合の際に用いる加水分解酵素を同様に用いることができる。
本発明の再重合性オリゴマー混合物の重合における加水分解酵素(固定化酵素を含む)の添加量は、再重合性オリゴマー混合物当たり加水分解酵素0.05〜50質量%程度(固定化酵素の場合は1〜1000質量%程度)、好ましくは、0.1〜20質量%程度である。0.05質量%未満では、重合速度が低下し、モノマー変換率も低くなりやすく、また、50質量%を超えると生成するポリマーの分子量が低くなりやすいので、前記範囲が適切である。
再重合性オリゴマー混合物を溶解させる溶媒としては、解重合の際の溶媒が同様に用いられる。
重合の温度は、30ないし120℃が可能であるが、特に50ないし90℃の範囲内で行うことが好ましい。30℃より低いと反応速度が小さくなり、また、120℃を超えると、酵素の失活が生ずるので、重合温度は前記範囲が適している。
反応時間は、1〜72時間が適当である。1時間より短いと十分反応が進行せず、また、72時間以上行なってもそれ以上重合は進行せず経済的に不利となるので、前記時間範囲が好ましい。
化学触媒を用いる方法は、通常の乳酸の重合方法が適用可能である。
さらに、本発明の再重合性オリゴマー混合物を再重合する際、解重合の場合と同様に超臨界流体を反応媒体として用いることができる。超臨界流体中における再重合性オリゴマー混合物の濃度は0.1〜50g/l、中でも1〜20g/l程度にすることが好ましい。
再重合性オリゴマー混合物に対する加水分解酵素の添加量は0.1〜50質量%程度が適している。また、重合の温度は、30ないし90℃程度にすることが可能であり、また、重合時間は、1〜48時間程度が適当である。
超臨界流体を用いる解重合法及び重合方法は、超臨界流体を反応溶媒として用いるため、反応後に系の圧力を常圧に戻すだけで、反応溶媒を系外に容易に放出することができ、系から生成物を分離することが容易である。また、放出された反応溶媒を回収して再利用することも可能である。特に超臨界流体として二酸化炭素を用いた場合には、溶媒が反応系外に漏れた場合でも環境を汚染する虞はない。
さらに、通常の有機溶媒を用いた解重合法及び重合方法に比較して、解重合及び重合の反応効率に遜色はない。
【実施例】
以下に実施例を示し本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「転化率」とは原料ポリマーに対し、オリゴマー化されたポリマーの割合(質量%)をいう。
【実施例1】
−ポリ(L−乳酸)(PLLA)の解重合−
PLLA(Mn=110,000)を150mg、固定化酵素であるNovozym 435を150mg、O−キシレンを300ml量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、100℃で1日間攪拌し、解重合させた。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、転化率90%で環状体を主成分とするオリゴマーを得た。
図1に解重合前後のGPCを、図2に解重合反応途中で分析したAPCI MS[cyclic M+HO(18)]を示す。図1のGPCから検量線を用いて求めた、環状オリゴマーにおける乳酸ユニットの数は3量体程度であることが認められた。さらに、生成オリゴマーが環状であることは、図2のグラフに示されるように分解過程においても低分子から比較的高分子の分解物が環状乳酸オリゴマーであることと、図3で示す分解最終生成物のH−NMRから、末端基に帰属されるピークが認められないことからも確認した。
H−NMR:(300MHz,CDCl)δ=1.49−1.52(CH),5.05−5.13ppm(CH)
【実施例2】
−ポリ(L−乳酸)(PLLA)の解重合−
PLLA(Mn=110,000)10mgをクロロホルム0.5mlに溶解し、次いでこれにO−キシレンを2ml加え、その後クロロホルムを減圧留去し、これに固定化酵素であるNovozym 435を90mg添加し、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、65℃で2日間攪拌した。転化率18%で環状体を主成分とするオリゴマーを得た。
【実施例3】
−ポリ(L−乳酸)の解重合−
PLLA(Mn=110,000)10mgをクロロホルム0.5mlに溶解し、次いでこれにO−キシレンを2ml加え、その後クロロホルムを減圧留去し、これに水50μlとBioprase 10mgを添加し、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、40℃で2日間攪拌した。転化率19%で環状体を主成分とするオリゴマーを得た。
【実施例4】
−ポリ(DL−乳酸)(PDLLA)の解重合−
PDLLA(M=140,000)を10mg、固定化酵素Lipozyme RM IMを30mg、ヘキサンにクロロホルム、トルエン又はo−キシレンを種々の組成比で混合した混合有機溶媒2mlを量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンに置換した後、60℃で1日間撹拌し、解重合させた。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、環状体を主成分とするオリゴマーを得た。結果を図4に示す。
図4に示されるように、ヘキサンとクロロホルムを7対3(体積比)で混合した混合溶媒中で、環状オリゴマーへの最も高い転化率(82%)が得られた。また、ヘキサンとトルエンを1対1(体積比)で混合した混合溶媒や、ヘキサンとo−キシレンを3対7(体積比)で混合した混合溶媒中においても環状オリゴマーへの高い転化率が得られた(転化率それぞれ72%、65%)。
【実施例5】
−ポリ(DL−乳酸)(PDLLA)の解重合−
PDLLA(M=140,000)10mgと、固定化酵素Lipozyme RM IM 10mg(100%)とを、クロロホルムとヘキサンを3:7(体積比)で混合したものに、エタノールを1vol%加えた混合溶媒2mlに加え、磁気撹拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンに置換した後、60℃で撹拌し、解重合させ、経時的にオリゴマー収量についてGPCにより測定を行った。また、Lipozyme RM IMの添加量を30mg(300%)に変更する他は同様にして解重合させた。
図5に、解重合におけるオリゴマー転化率の経時変化を示す。図5が示すように、固定化酵素が100%及び300%のいずれの場合においても、少量のエタノール添加により解重合速度は格段に上昇し、4時間程度でオリゴマー転化率は90%以上に達した。また、GPC分析の結果から1時間程度で元のポリマー部分は完全に消失していた。
また、図6に得られたオリゴマーのH NMRを示す。得られたオリゴマーは線状であり、この線状オリゴマーはほぼ完全にモノエチルエステル体として生成していることが認められた。また、主なオリゴマーはnが5の7量体であった。
【実施例6】
−ヘテロタクチックポリ(DL−乳酸)(PDLLA)の解重合−
ヘテロタクチックPDLLA(Mw=140,000)を10mg、固定化酵素Lipozyme RM IMを90mg、及びO−キシレンを2ml量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、65℃で24時間攪拌した。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、転化率97%で環状8量体を主成分とするオリゴマー(線状オリゴマーも含み8量体が主成分)を得た(Mn=510、Mw/Mn=1.5)。図7に解重合生成物のMALDI−TOF MSを示す。図7中、C8とは乳酸ユニットが8個(m=8)の環状オリゴマーを指し、L8とは乳酸ユニットが8個(n=8)の線状オリゴマーを指す。なお、グラフ中、Liは、解析を容易にするために、MALDI−TOF MS測定の際の分子イオンにLiイオンを付加させたものであることを意味する。
H−NMR:(300MHz,CDCl)δ=1.4−1.7(m,3H,CH),5.1−5.3ppm(m,1H,CH)
また、前記のLipozyme RM IMをNovozym 435に代える他は同様にしてヘテロタクチックPDLLAを解重合したところ、転化率70%で環状体を主成分とするオリゴマーを得た。
前記のように、ヘテロタクチックPDLLAとO−キシレンの組み合わせにより、良好なオリゴマー化が達成されることが確認された。
【実施例7】
−シンジオタクチックポリ(DL−乳酸)の解重合−
シンジオタクチックPDLLA(Mw=140,000)を5mg、固定化酵素Lipozyme RM IMを30mg、O−キシレンを1ml量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、50℃で1日攪拌した。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、環状体を主成分とするオリゴマーを転化率100%で得た。
また、Novozym 435によっても転化率100%で環状体を主成分とするオリゴマーを得ることができた。
【実施例8】
−ポリ(L−乳酸−ε−カプロラクトン)共重合体[P(LLA−CL)]の解重合−
P(LLA−CL)(Mn=50,000;L−LAとCLのモル比6/4)を30mg、Novozym 435を30mg、トルエン1ml及びP(LLA−CL)に対して10質量%の水を量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、70℃で1日攪拌した。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、重合度で4〜10量体の環状体を主成分とするオリゴマー混合物を転化率ほぼ100%で得た。前記オリゴマー中のL−LAとCLの組成比は、ほぼ仕込みポリマー中の組成比に従って分布していた。図8に解重合生成物のMALDI−TOF MS(Na付加物)を示す。図8中、LAはオリゴマー中の乳酸ユニットを、CLはオリゴマー中のカプロラクトンユニットを指し、その横の数字は各ユニットの数を示す。
H−NMR:(300MHz,CDCl)δ=1.4−1.7(LA,CH;CL,CHCHCH),2.3−2.5(LA,CHC=0),4.05−4.2(LA,OCH),5.1−5.3(LA,CH)
トルエン以外の溶剤としてO−キシレンを用いた場合でも同様の結果が得られた。また、Novozym 435を使用した場合には、アセトニトリル中でも分解が進行した。
用いる酵素は、Novozym 435とLipozyme RM IMのいずれでも速やかに環状オリゴマーが生成した。分解オリゴマーの組成は、基本的にはL−LAとCLの組成比に応じた組成で環状オリゴマーが生成するが、Novozym 435を用いた場合、CL含有量の高いコポリマーではCLの環状2量体であるジカプロラクトンの生成が認められという若干の違いが認められた。
解重合温度は70〜100℃が可能であり、この範囲であれば結果に大きな差異はない。
P(LLA−CL)中のCL含有量は20モル%以上であることが望ましく、これより少ないと分解度が低下し、オリゴマーの分子量は大きくなり、また分子量分布が広くなってしまう。表1に代表的なものを示す。解重合条件は、P(LLA−CL)を30mg、Novozym 435を30mg、トルエン1mlの溶液を70℃で24時間攪拌した。

また、種々の有機溶媒を用いた際の解重合生成物の分子量への影響を表2に示す。解重合条件は、P(LLA−CL)(L−LAとCLのモル比6/4、Mn=50,000、Mw/Mn=1.8)を20mg、Novozym 435を20mg、水8mg、有機溶媒1mlの溶液を、表2に示す温度で24時間攪拌した。

【実施例9】
−ポリ(L−乳酸−トリメチレンカーボネート)共重合体[P(LLA−TMC)]の解重合−
P(LLA−TMC)(Mn=17,000;L−LAとTMCのモル比6/4)を20mg、O−キシレンを1ml、水8mg及びNovozym 435を20mg量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、70℃で2日間攪拌した。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮した。転化率100%で環状体を主成分とするオリゴマーを得た。
【実施例10】
−ポリ(L−乳酸−トリメチレンカーボネート)共重合体[P(LLA−TMC)]の解重合−
P(LLA−TMC)(Mn=16,000;L−LAとTMCのモル比67/33)を20mg、トルエンを1ml、Novozym 435を20mg及び水を8mg量りとり、磁気攪拌子を備えたネジキャップ付き耐圧小試験管に入れ、アルゴンにより置換した後、70℃で1日間攪拌した。次いでこれにクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮した。LA及びTMCユニットを含むオリゴマー混合物(分子量Mn=6,000)を転化率75%で得た。前記オリゴマー混合物は、環状オリゴマーを主成分とし若干の線状オリゴマーを含んでいた。図9にP(LLA−TMC)のオリゴマーへの分子量の経時変化(解重合の経時変化)を示す。
【実施例11】
−超臨界流体を用いる、ポリ(L−乳酸−ε−カプロラクトン)共重合体[P(LLA−CL)]の解重合−
P(LLA−CL)(Mn=50,000、L−LAとCLのモル比7/3)を25mg、固定化酵素であるNovozym 435を10mg、及び水12mgを、10mlステンレス製耐圧反応管に量りとり、次いで液化炭酸を18MPaで充填し、超臨界二酸化炭素中、磁気攪拌子を用いて70℃で24時間、18MPaで攪拌を行い分解を行った。反応終了後、反応管をドライアイス−メタノール浴で冷却し、ガス導入用コックを開け、徐々に炭酸ガスを排気した。常圧に戻した後、反応管中に残った分解物にクロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼをセライトを用いて濾別し、濾液より溶媒をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、L−LAとCLユニットからなり環状体を主成分とするオリゴマーを転化率70%で得た。図10に酵素解重合前後のGPCの変化を示す。
【実施例12】
−実施例1で得た再重合性オリゴマー混合物の再重合−
実施例1(PLLA(Mn=110,000)の酵素解重合)で得た再重合性オリゴマー混合物50mgに、SnCl・2HO/p−TSA・HO(モル比1/1)を0.25mg添加し、180℃で10時間、10mmHgの減圧下で重合を行なった。反応終了後、クロロホルムを少量加え溶解し、これをヘキサン−エーテル(l/l、v/v)に加え、ポリマーを沈殿させる再沈殿法により精製し、分子量(Mw)が約22,000のPLLAを得た。図11に再重合前後のGPCの変化を示す。
【実施例13】
−実施例6で得た再重合性オリゴマー混合物の再重合−
実施例6(ヘテロタクチックPDLLA(Mw=140,000)の解重合)において得た再重合性オリゴマー混合物20mgに、リパーゼPSを2mg添加し、85℃で5日間、40mmHgの減圧下で重合を行なった。反応終了後、クロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、これをヘキサン−エーテル(l/l、v/v)に加え、ポリマーを沈殿させる再沈殿法により精製し、分子量(Mw)が約20,000のPDLLAを得た。
【実施例14】
−実施例6で得た再重合性オリゴマー混合物の再重合−
実施例6(ヘテロタクチックPDLLA(Mw=140,000)の解重合)において得た再重合性オリゴマー混合物を含む溶液400mgに、SnCl・2HO/p−TSA・HO(モル比1/1)を2mg添加し、180℃で10時間、10mmHgの減圧下で重合を行なった。反応終了後、クロロホルムを少量加え溶解し、これをヘキサン−エーテル(l/l、v/v)に加え、ポリマーを沈殿させる再沈殿法により精製し、分子量(Mw)が約25,000のPDLLAを得た。図12に再重合前後のGPCの変化を示す。
【実施例15】
実施例5で得た末端がエチルエステルの線状オリゴマー400mgに、0.4質量%のSnCl・2HO/p−TSA・HO(モル比1/1)を加え、10mmHgの減圧下、180℃で撹拌、重合を行った。反応終了後、クロロホルムを少量加え溶解し、これをヘキサン−エーテル(l/l,v/v)に加えてポリマーを沈殿させる再沈殿法により精製し、分子量(Mw)が約20,000のPDLLAを得た。図13に、再重合の前後におけるGPCの変化を示す。収率(ポリマー転化率)は14.3%であった。
【実施例16】
−実施例8で得た再重合性オリゴマー混合物の再重合−
実施例8[(P(LLA−CL)(Mn=50,000、L−LAとCLのモル比6/4)の解重合]で得た再重合性オリゴマー混合物300mgをトルエン1mlに溶解し、これに固定化酵素であるNovozym 435を30mg添加し、Dean−Starkトラップを付した反応フラスコ中で、140mmHg減圧下70℃で6時間環流させ、重合を行なった。反応後、クロロホルムを少量加え、不溶の固定化リパーゼを濾別し、再生共重合体P(LLA−CL)(L−LAとCLのモル比6/4)をほぼ定量的に得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた分子量(Mw)は約20,000であった。図14に再重合前後のGPCの変化を示す。
【産業上の利用可能性】
本発明の加水分解酵素を用いるポリ乳酸の解重合法及び重合方法は、ワンポットによる簡便な操作でよい他、反応条件は温和でありまた低エネルギー消費でもある。また、化学的分解や熱分解により解重合を行った場合、生成する低分子化合物の両末端は不規則で、これを再重合させて高分子化することは不可能であるが、本発明の解重合法により、再重合性オリゴマー混合物が生成し、この再重合性オリゴマーは、加水分解酵素の存在下又は化学合成的に容易に再重合して高分子化する。さらに、解重合又は重合を行うのに用いる加水分解酵素は、回収して繰り返し用いることができ、その際酵素としての活性の減少は実質的にないという有利な点を有する。したがって、本発明により、環境受容型であり、かつ炭素資源を完全再利用することが可能な、完全循環型の高分子材料利用システムを構築することが可能であり、本発明の産業上の利用価値は極めて大きい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を有機溶媒中、加水分解酵素の存在下解重合させ、再重合可能なオリゴマーを生成させるポリ乳酸の解重合法。
【請求項2】
ポリ乳酸を超臨界流体中、加水分解酵素の存在下解重合させ、再重合可能なオリゴマーを生成させるポリ乳酸の解重合法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸がポリ(L−乳酸)であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項4】
前記ポリ乳酸がポリ(L−乳酸)であることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項5】
前記ポリ乳酸がポリ(DL−乳酸)であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項6】
前記ポリ乳酸がポリ(DL−乳酸)であることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項7】
前記ポリ乳酸がポリ乳酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項8】
前記ポリ乳酸がポリ乳酸共重合体であることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項9】
加水分解酵素がリパーゼであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項10】
加水分解酵素がリパーゼであることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸の解重合法。
【請求項11】
請求項1に記載の解重合法により得た再重合可能なオリゴマーを加水分解酵素の存在下重合させるポリ乳酸の製造方法。
【請求項12】
請求項2に記載の解重合法により得た再重合可能なオリゴマーを加水分解酵素の存在下重合させるポリ乳酸の製造方法。
【請求項13】
加水分解酵素がリパーゼであることを特徴とする請求項11に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項14】
加水分解酵素がリパーゼであることを特徴とする請求項12に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項15】
コモノマーとして環状ラクトンモノマー又はオリゴマー、環状又は線状カーボネートモノマー又はオリゴマー、環状又は線状エステルオリゴマー、ヒドロキシ酸、及びヒドロキシ酸エステルから選ばれるモノマー又はオリゴマーを1種以上用いることを特徴とする請求項11に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項16】
コモノマーとして環状ラクトンモノマー又はオリゴマー、環状又は線状カーボネートモノマー又はオリゴマー、環状又は線状エステルオリゴマー、ヒドロキシ酸、及びヒドロキシ酸エステルから選ばれるモノマー又はオリゴマーを1種以上用いることを特徴とする請求項12に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項17】
請求項1に記載の解重合法により得た再重合可能なオリゴマーを重合触媒の存在下重合させるポリ乳酸の製造方法。
【請求項18】
請求項2に記載の解重合法により得た再重合可能なオリゴマーを重合触媒の存在下重合させるポリ乳酸の製造方法。
【請求項19】
コモノマーとして環状ラクトンモノマー又はオリゴマー、及び環状カーボネートモノマー又はオリゴマーから選ばれるモノマー又はオリゴマーを1種以上用いることを特徴とする請求項17に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項20】
コモノマーとして環状ラクトンモノマー又はオリゴマー、及び環状カーボネートモノマー又はオリゴマーから選ばれるモノマー又はオリゴマーを1種以上用いることを特徴とする請求項18に記載のポリ乳酸の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/013217
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525800(P2004−525800)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009676
【国際出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】