説明

ポリ乳酸成形物およびその加工方法

【構成】 ポリ乳酸成形物は、可塑剤を加えてガラス転移温度を30℃〜45℃にし、冷結晶化開始温度を90℃〜100℃にしたポリ乳酸によって形成される。ポリ乳酸成形物は、1次成形物として、たとえば円筒形の直管に形成される。ポリ乳酸成形物を使用する際には、所望の形状の2次成形物に加工した後に使用する。ポリ乳酸成形物を2次成形物に加工するときには、先ず、ポリ乳酸成形物をガラス転移温度以上に加熱して軟化させ、所望の形状に変形させる。その後、冷結晶化開始温度以上に加熱することによってポリ乳酸成形物を結晶化させ、その所望の形状で固化させて、所望の形状の2次成形物とする。
【効果】 製造後に適切な温度で所望の形状に変形でき、かつその所望の形状で形状固定できる。したがって、多種のポリ乳酸成形物を製造する必要がないので、製造コストを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はポリ乳酸成形物およびその加工方法に関し、特にたとえば、可塑剤を加えたポリ乳酸によって形成される、ポリ乳酸成形物およびその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりから、植物を原料とする生分解性プラスチックであるポリ乳酸が注目され、様々な分野においてポリ乳酸の利用が開始されている。また、ポリ乳酸は、剛性に富む一方で柔軟性に乏しいため、ポリ乳酸に柔軟性を付加するための技術の開発も進んでいる。たとえば、特許文献1に開示される発明では、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸に対して、ポリグリセリン酢酸エステルおよびグルセリン酢酸脂肪酸エステル等の可塑剤を添加し、脂肪族ポリエステルに柔軟性を付与している。この脂肪族ポリエステル組成物は、フィルム、シートおよび袋などの成形物に使用し得る。
【特許文献1】特開2003−73532号公報[C08L 67/00]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の発明によれば、柔軟性、或いは可撓性を有するポリ乳酸成形物を成形できる。しかし、ある程度の剛性を必要とする排水管等の成形物においては、単に成形物に対して柔軟性を付与するだけでは、使用時に成形物が変形する等の不具合が生じる恐れがある。たとえば、柔軟性を有するポリ乳酸管を成形し、これを用いて排水路を形成する場合には、水勾配をとるための傾斜部等においてポリ乳酸管が撓んでしまい、円滑な排水の流れに支障をきたす恐れがある。
【0004】
また、排水路は、直管、エルボおよびS字管等を組み合わせて形成されるが、排水路の構成は各施工現場によって異なる。このため、各施工現場に合わせた多種のポリ乳酸管を用意する必要があるが、多種のポリ乳酸管の製造には、製造コストがかかる。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、ポリ乳酸成形物およびその加工方法を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、製造コストを低減できる、ポリ乳酸成形物およびその加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0008】
請求項1の発明は、可塑剤を加えてガラス転移温度を30℃〜45℃にしたポリ乳酸によって形成される、ポリ乳酸成形物である。
【0009】
請求項1の発明では、ポリ乳酸成形物は、可塑剤を加えてガラス転移温度を30℃〜45℃、好ましくは38℃〜42℃に調整したポリ乳酸によって形成される。このポリ乳酸成形物は、たとえば、1次成形物として円筒状の直管に形成(製造)され、その後、2次成形物に加工されて使用される。たとえば、ガラス転移温度を40℃程度に調整したポリ乳酸によってポリ乳酸成形物を形成した場合には、42℃程度の湯につけることで、ポリ乳酸成形物をガラス転移温度以上に加熱でき、軟化させることができる。この42℃程度の湯とは、作業者が手をつけて作業を行うことが可能な温度であるので、作業者は、湯に手をつけてポリ乳酸成形物を所望の形状に変形させる作業を行うことができる。その後、所望の形状に変形したポリ乳酸成形物を冷結晶化開始温度以上に加熱すれば、ポリ乳酸成形物の結晶化が進み、ポリ乳酸成形物はその所望の形状で形状固定されて、所望の形状の2次成形物を得ることができる。
【0010】
請求項1の発明によれば、製造後に適切な温度で所望の形状に変形でき、かつその所望の形状で形状固定できる。したがって、多種のポリ乳酸成形物を製造する必要がないので、製造コストを低減できる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明に従属し、ポリ乳酸の冷結晶化開始温度が90℃〜100℃である。
【0012】
請求項2の発明では、ポリ乳酸成形物は、可塑剤を加えて冷結晶化開始温度を90℃〜100℃、好ましくは95℃〜98℃に調整したポリ乳酸によって形成される。たとえば、100℃の湯につけることで、ポリ乳酸成形物を冷結晶化開始温度以上に加熱でき、ポリ乳酸成形物を結晶化させて、所望の形状で形状固定できる。したがって、特別な機器を用いることく、ポリ乳酸成形物を形状固定して2次成形物を得ることができるので、製造コストを低減できる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のポリ乳酸成形物の加工方法であって、(a)ポリ乳酸成形物をそのポリ乳酸成形物が有するガラス転移温度以上に加熱して軟化させ、(b)ステップ(a)で軟化させたポリ乳酸成形物を所望の形状に変形し、そして(c)ステップ(b)で所望の形状に変形したポリ乳酸成形物をそのポリ乳酸成形物が有する冷結晶化開始温度以上に加熱することによって、当該ポリ乳酸成形物を当該所望の形状で形状固定する、ポリ乳酸成形物の加工方法である。
【0014】
請求項3の発明では、可塑剤を加えてガラス転移温度や冷結晶化開始温度を適切に調整したポリ乳酸によって形成されるポリ乳酸成形物を所望の形状に加工する。ステップ(a)では、たとえば、ポリ乳酸成形物のガラス転移温度以上の湯にポリ乳酸成形物を浸漬することによって、ポリ乳酸成形物をそのポリ乳酸成形物が有するガラス転移温度以上に加熱して軟化させる。ステップ(b)では、ステップ(a)で軟化させたポリ乳酸成形物を曲げる等して所望の形状に変形する。そして、ステップ(c)では、ステップ(b)で所望の形状に変形したポリ乳酸成形物を、たとえば、ポリ乳酸成形物の冷結晶化開始温度以上の湯に浸漬することによって、このポリ乳酸成形物を冷結晶化開始温度以上に加熱して結晶化させ、ポリ乳酸成形物を所望の形状で形状固定する。このように、たとえば湯に浸漬するという簡単な作業で、ポリ乳酸成形物の軟化および形状固定が実行できるので、作業性に優れる。また、特別な機器を必要としないので、この加工作業を施工現場で行うこともできる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、製造後に適切な温度で所望の形状に変形でき、かつその所望の形状で形状固定できる。したがって、多種のポリ乳酸成形物を製造する必要がないので、製造コストを低減できる。
【0016】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の一実施例であるポリ乳酸成形物は、可塑剤を加えてガラス転移温度および冷結晶化開始温度を適切に下げた(調整した)ポリ乳酸によって形成される。ポリ乳酸成形物は、たとえば、押し出し成形などによって、1次成形物として円筒状の直管に形成(製造)され、その後、2次成形物に加工されて使用される。
【0018】
ポリ乳酸成形物の主成分となるポリ乳酸としては、市販のポリ乳酸樹脂を用いることができる。この実施例では、三井化学株式会社製のポリ乳酸樹脂である「レイシア」(登録商標)、「H−400」(銘柄)を用いた。なお、ポリ乳酸には、ポリL−乳酸やポリD−乳酸等のポリ乳酸ホモポリマ、ポリL/D−乳酸共重合体、およびこれらの混合体等が存在するが、これらのいずれを用いてもよい。また、ポリ乳酸には、後述する可塑剤の他に、アンチブロッキング剤、滑剤、帯電防止剤、および熱安定剤などの添加材を適宜添加することもできる。
【0019】
ポリ乳酸に加える可塑剤としては、ポリグリセリン酢酸エステルや下記一般式(1)で表されるグリセリン酢酸脂肪酸エステル等を用いることができる。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(1)において、R、RおよびRの少なくとも1つは、炭素数8〜22のアシル基であり、残りがアセチル基または水素原子である。好ましくは、R、RおよびRの少なくとも1つが、炭素数8〜18のアシル基であり、残りがアセチル基であるエステルである。特に好ましい化合物として、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンジアセトモノ(C8,C10)エステル等が挙げられる。この実施例では、主成分がグリセリンジアセトモノ(C8,C10)エステルであり、ポリ乳酸に特に相溶性を合わせてある、理研ビタミン株式会社製の可塑剤、「リケマール PL−019」(商品名)を用いた。
【0022】
上述したように、この実施例のポリ乳酸成形物は、可塑剤(リケマール PL−019)を加えてそのガラス転移温度および冷結晶化開始温度を調整したポリ乳酸によって形成される。表1は、ポリ乳酸成形物における可塑剤の含有量とその熱的性質との関係を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1を参照して、ここでは、複数の可塑剤添加量からなる9つのポリ乳酸のサンプル、つまりサンプルNo.1−No.9を用意し、各サンプルを用いて成形したポリ乳酸成形物の熱的性質を調べた。具体的には、サンプルNo.1は、可塑剤の添加量が0%であり、熱的性質を調べる際には、三井化学株式会社製のポリ乳酸樹脂「レイシアH−400」のペレットをそのまま使用した。サンプルNo.9は、可塑剤の添加量が20%であり、熱的性質を調べる際には、理研ビタミン株式会社製のマスターバッチペレットをそのまま使用した。サンプルNo.2−No.5は、可塑剤の添加量がそれぞれ5%、7%、8%および10%であり、熱的性質を調べる際には、押出機によって円筒状(パイプ状)に成形したものを使用した。また、サンプルNo.6−No.8は、可塑剤の添加量がそれぞれ7%、8%および9%であり、熱的性質を調べる際には、ミキシングロールによって混練して成形したものを使用した。なお、この実施例では、「%」は重量比率で示している。
【0025】
また、成形後の可塑剤含有量は、押出機やミキシングロールを用いて成形した後の可塑剤の含有量、すなわちポリ乳酸成形物(1次成形物)に含まれる可塑剤の含有量を示す。このように成形後の可塑剤の含有量を示すのは、可塑剤(リケマール PL−019)の沸点が低く、成形中にその一部が揮発する可能性が高いため、可塑剤の量とポリ乳酸成形物の熱的性質との関係をより厳密に表すためには、可塑剤の添加量よりも成形後の可塑剤の含有量を用いる方が適切だからである。
【0026】
成形後の可塑剤含有量の分析手順としては、先ず、ポリ乳酸成形物を加熱してプレスし、シート状にする。次に、シート状にしたものを裁断してポリ乳酸成形物を採取し、それに溶剤を加えて超音波振動を与えた後、しばらく静置して可塑剤を抽出する。次に、他の溶剤を加えてポリマを再沈殿させ、ろ過によってゲル状の沈殿物を取り除く。そして、ろ液から溶剤を留去してその抽出物の全量をさらに他の溶剤に溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ分析)によって濃度分析を行い、ポリ乳酸成形物に含まれる可塑剤の含有量を得た。
【0027】
また、ポリ乳酸成形物の熱的性質として、ガラス転移温度、冷結晶化開始温度および冷結晶化温度を測定した。これらの熱的性質は、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC2010を用いて、DSC測定を行うことによって求めた。具体的には、約5mgの試験片を試料容器に密閉し、あらかじめ10℃/分で融点よりも50℃以上高い温度まで昇温して5分間保持した後、一旦装置から取り出して液体窒素で急冷することによりガラス状態のサンプルを得る。その後、JIS K 7121に基づいて、このサンプルの加熱時のガラス転移温度、冷結晶化開始温度および冷結晶化温度を求めた。なお、冷結晶化開始温度および冷結晶化温度については、JIS K 7121 9.1項に記載の「融解温度の求め方」に準拠して求めており、この項の融解温度を冷結晶化温度と読み替えている。
【0028】
図1に示すように、可塑剤の含有量(濃度)が増加するに伴い、ガラス転移温度および冷結晶化開始温度が低下することがわかる。また、ガラス転移温度(Tg)の変化は、数1に示すCouchman式にも良好に一致することがわかる。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、Xiは、i成分の重量組成比(%)を示し、ΔCpiは、ガラス転移における比熱容量変化(j/g・K)を示し、Tgiは、ガラス転移温度(K)を示す。
【0031】
このように、可塑剤を添加することによって、ポリ乳酸のガラス転移温度および冷結晶化開始温度を適切に調節できることがわかる。そこで、この実施例では、ガラス転移温度を30℃〜45℃、好ましくは38℃〜42℃に調節し、冷結晶化開始温度を90℃〜100℃、好ましくは95℃〜98℃に調節したポリ乳酸によって、ポリ乳酸成形物を形成する。なお、上述の可塑剤(リケマール PL−019)では、成形後の可塑剤含有量を7%〜10%にするとよく、好ましくは8%〜9%にするとよい。具体的には、上述の表1を参照して、サンプルNo.3−No.8のサンプルを用いることができる。
【0032】
このようなポリ乳酸成形物は、上述したように、1次成形物として、たとえば押し出し成形などによって円筒状の直管に形成される。そして、所望の形状の2次成形物に加工された後に、排水管等として使用される。ポリ乳酸成形物を2次成形物に加工するときには、先ず、ポリ乳酸成形物をガラス転移温度以上に加熱して軟化させ、所望の形状に変形させる。その後、冷結晶化開始温度以上に加熱することによってポリ乳酸成形物を結晶化させ、その所望の形状で固化(形状固定)させて、所望の形状の2次成形物とする。
【0033】
具体的には、たとえば、ガラス転移温度を40℃程度、冷結晶化開始温度を95℃程度に調整したポリ乳酸によってポリ乳酸成形物(たとえば直管)を形成した場合には、42℃程度の湯を入れた浴槽を用意し、その湯にたとえば30秒間、ポリ乳酸成形物を浸漬する。この42℃の湯は、作業者が手をつけて作業できる温度の湯である。ポリ乳酸成形物を42℃の湯に浸漬し、ポリ乳酸成形物がガラス転移温度以上に加熱されると、ポリ乳酸成形物は軟化し、作業者の手で所望の形状に変形可能となる。作業者は、ポリ乳酸成形物が軟化した状態で、ポリ乳酸成形物を所望の形状に変形し、一旦室温で放冷して、所望の形状に変形したポリ乳酸成形物を仮固化させる。そして、予め用意した95℃以上の熱湯を入れた浴槽に、仮固化させたポリ乳酸成形物をたとえば3分間浸漬する。所望の形状に変形したポリ乳酸成形物は、冷結晶化開始温度以上に加熱されると、結晶化し、その所望の形状で形状固定される。このようにポリ乳酸成形物を加工することによって、所望の形状の2次成形物を得ることができる。
【0034】
この実施例によれば、可塑剤を加えてガラス転移温度および冷結晶化開始温度を適切に調整したポリ乳酸によってポリ乳酸成形物を形成したので、製造後に適切な温度で所望の形状に変形でき、かつその所望の形状で形状固定できる。たとえば、ポリ乳酸成形物として円筒状の直管を形成(製造)すれば、その直管を任意の角度に湾曲させ、その形状で形状固定できる。つまり、ポリ乳酸成形物を製造後に、所望の形状の2次成形物に容易に加工できるので、複数種類のポリ乳酸成形物を用意する必要が無く、製造コストも削減できる。
【0035】
また、S字状などの任意の形状の排水路を形成する際には、1本の直管を製造しておけば、それをS字状などの任意の形状に加工(湾曲)できるので、直管や管継手等の複数の管部材を接続して任意の形状を形成する手間が省ける上に、細かな角度調節も可能である。したがって、施工性に優れる。
【0036】
さらに、結晶化させて形状固定したポリ乳酸成形物(2次成形物)は、その後冷却して、再びガラス転移温度以上に加熱、たとえば70℃に加熱しても軟化することは無い。したがって、この2次成形物は、高温の湯が流れる可能性のある排水管としても十分に使用可能である。
【0037】
また、ガラス転移温度を45℃以下、冷結晶化開始温度を100℃以下に調整したポリ乳酸によってポリ乳酸成形物を形成したので、ポリ乳酸成形物を加工して形状固定する際には、浴槽の湯に浸漬するという簡単な作業で、ポリ乳酸成形物の軟化および固化を実行することができる。特に、ガラス転移温度を45℃以下に調整することで、ゴム手袋などを装着した作業者が手をつけることができる温度の湯で、ポリ乳酸成形物を軟化させて所望の形状に変形できるようになる。さらに、ガラス転移温度を42℃以下に調整すれば、作業者が素手でも手をつけることができる温度の湯で加工作業を行うことができるので、作業性が向上し、より細かな2次加工が可能となる。また、冷結晶化開始温度を98℃以下に調整すれば、一旦沸騰させたお湯の温度が若干下がっても使用できる。このように、特別な機器を用いることなく、簡単な作業でポリ乳酸成形物の加工を実行できるので、この加工作業は、施工現場で行うことができる。もちろん、製造工程内、つまり工場内で加工作業を行うこともできる。
【0038】
また、ガラス転移温度を30℃以上に調整したポリ乳酸によってポリ乳酸成形物を形成したので、ポリ乳酸成形物(1次成形物)を常温で保管することができる。ただし、夏場などには、気温が30℃以上になる場合があるので、ポリ乳酸成形物は冷暗所に保管することが望ましい。ガラス転移温度を38℃以上に調整すれば、夏場でもポリ乳酸成形物を冷暗所に保管する必要はなくなる。
【0039】
なお、この実施例で用いた可塑剤(リケマール PL−019)でガラス転移温度を30℃より低い温度に調整しようとすると、ポリ乳酸の溶融粘度が下がりすぎ、成形機でのポリ乳酸成形物の成形ができなかった。また、リケマール PL−019を用いて、ガラス転移温度を30℃以上に調整すると、冷結晶化開始温度は90℃以上になり、ガラス転移温度を38℃に調整すると、冷結晶化開始温度は95℃となった。
【0040】
なお、上述の実施例では、ポリ乳酸成形物を円筒状の直管、つまりパイプとして形成したが、これに限定されず、ポリ乳酸成形物は1次成形物として様々な形状に形成することができる。たとえば、1次成形物としてシート状に形成することもできる。また、ポリ乳酸成形物を任意の形状に加工することによって、日用品等を含む様々なポリ乳酸成形品を得ることができる。
【0041】
また、上述の実施例では、ポリ乳酸成形物を浴槽の湯に浸漬することによって加熱したが、加熱方法はこれに限定されない。たとえば、ポリ乳酸成形物を冷結晶化開始温度以上に加熱して形状固定する場合には、水蒸気によって加熱することもできる。水蒸気を用いることによって、ポリ乳酸成形物をより高温に加熱することができ、比較的高い冷結晶化開始温度(たとえば100℃)を有するポリ乳酸によって形成されるポリ乳酸成形物にも対応できる。
【0042】
上述の実施例では、冷結晶化開始温度にてポリ乳酸成形物を結晶化させたが、この場合は、やや結晶化までに時間がかかる。そこで、水蒸気やオーブンなどを用いて、ポリ乳酸成形物を冷結晶化温度(表1および図1参照)まで加熱すれば、ポリ乳酸成形物の冷結晶化現象はより早く進むので、結晶化工程時間を短縮することができる。
【0043】
さらに、上述の実施例では、軟化させたポリ乳酸成形物を作業者の手によって所望の形状に変形(加工)するようにしたが、この際には、適宜治具等を使用してポリ乳酸成形物を変形してもよい。また、所望の形状を有する金型に密着させることによって、ポリ乳酸成形物を所望の形状に変形することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】ポリ乳酸成形物における可塑剤含有量と、ガラス転移温度、冷結晶化開始温度および冷結晶化温度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤を加えてガラス転移温度を30℃〜45℃にしたポリ乳酸によって形成される、ポリ乳酸成形物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸の冷結晶化開始温度が90℃〜100℃である、請求項1記載のポリ乳酸成形物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリ乳酸成形物の加工方法であって、
(a)前記ポリ乳酸成形物をそのポリ乳酸成形物が有するガラス転移温度以上に加熱して軟化させ、
(b)前記ステップ(a)で軟化させた前記ポリ乳酸成形物を所望の形状に変形し、そして
(c)前記ステップ(b)で所望の形状に変形した前記ポリ乳酸成形物をそのポリ乳酸成形物が有する冷結晶化開始温度以上に加熱することによって、当該ポリ乳酸成形物を当該所望の形状で形状固定する、ポリ乳酸成形物の加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−248127(P2008−248127A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92333(P2007−92333)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【Fターム(参考)】