説明

ポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法およびかかる方法により得られる成形品

【課題】加熱による収縮が著しく抑制されると共に、ポリ乳酸樹脂の欠点であった耐熱性が大幅に向上された、ポリ乳酸樹脂組成物成形品を製造する方法を提供すること。
【解決手段】1)ポリ乳酸樹脂、およびポリ乳酸樹脂100重量部に対して7〜50重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練してポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物を得る工程、2)工程1)で得られた組成物を溶融加工して、成形品を得る工程、および、3)工程2)で得られた成形品を102〜140℃の温度下で5〜55分間加熱処理する工程、を含むポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含むポリ乳酸樹脂組成物を溶融加工してなるポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法に関する。具体的には本発明は、加熱による収縮が著しく抑制され、かつ耐熱性が向上したポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポリマーの殆どは石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するおそれがあること、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。このような地球環境保護の見地から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、各種環境対応型製品への適用が検討されている。
【0003】
中でも、最近では温暖化防止の観点から、バイオマスよりなるポリマーが注目されている。バイオマスよりなるポリマーは、もともと植物が光合成により二酸化炭素を同化して作り上げたバイオマスを原料としてなるため、その生産が自然の物質循環サイクルに適合しているだけでなく、使用後に焼却処理をしても大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させることにはならない。
【0004】
このようなバイオマスよりなるポリマーとして、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンスクシネート、ポリ乳酸などが知られている。これらの中で、ポリ乳酸は、原料である乳酸あるいはラクチドが天然植物から比較的効率よく製造することが可能であるため、単なる生分解性ポリマーとしてだけではなく、その強靭性や高い透明性を生かして汎用性ポリマーとしての幅広い利用が計られている。
【0005】
しかし、ポリ乳酸の融点はおよそ170℃であり、汎用ポリマーとして用いるには、十分であるとは言い難く、機械特性や耐熱性の向上が求められている。
【0006】
このため、ポリ乳酸と汎用の樹脂材料をブレンドし、上記欠点を補う検討が行われている。特許文献1では石油資源由来のポリエステルとポリ乳酸とのポリマーアロイについて開示されているが、ポリ乳酸含有量は少量であり環境低負荷性の観点において十分とは言えない。また特許文献2〜4において、ポリ乳酸にポリブチレンテレフタレートやポリアミドなどを分散させ、機械特性、耐熱性を改良した樹脂組成物について開示されているが、機械特性、耐熱性は十分とは言えない。
【0007】
さらに特許文献5において、ポリ乳酸と結晶性の芳香族ポリエステルをブレンドして、芳香族ポリエステルが連続相、ポリ乳酸が分散相となる相構造の熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかし、この様な特殊な相構造を形成させるためには、ポリ乳酸と芳香族ポリエステルとのブレンドにおいて、両者の粘度比を特定の範囲に調整する必要があったり、溶融混練を行う際に特殊な構成のスクリューが必要になるなど、製造工程が煩雑となり、またポリ乳酸の含有量や耐熱性においても十分満足できるものではない。
【0008】
このようなポリ乳酸の欠点を改善するために、本出願人は以前に、ポリ乳酸に液晶ポリマーを配合することにより、耐熱性を向上させたポリ乳酸樹脂組成物を提案した(特許文献6)。液晶ポリマーを配合することによりポリ乳酸樹脂組成物は実用レベルまで耐熱性が高められたが、種々の成形品用途に使用するためには更なる改良の余地のあるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−200593号公報
【特許文献2】特開2005−42045号公報
【特許文献3】特開2003−238775号公報
【特許文献4】特開2004−51835号公報
【特許文献5】特開2007−224290号公報
【特許文献6】特開2010−180373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、加熱による収縮が著しく抑制されると共に、ポリ乳酸樹脂の欠点であった耐熱性が大幅に向上された、ポリ乳酸樹脂組成物成形品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ポリ乳酸樹脂の性能向上について鋭意検討した結果、ポリ乳酸樹脂に所定量の液晶ポリマーを配合して得られる組成物を溶融加工して成形品を得た後、さらに所定条件で加熱処理することによって、得られる成形品の加熱による収縮が著しく抑制され、かつ耐熱性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
1)ポリ乳酸樹脂、およびポリ乳酸樹脂100重量部に対して7〜50重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練してポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物を得る工程、
2)工程1)で得られた組成物を溶融加工して、成形品を得る工程、および、
3)工程2)で得られた成形品を102〜140℃の温度下で5〜55分間加熱処理する工程、
を含むポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、上記製造方法により得られたポリ乳酸樹脂組成物成形品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法は、簡単なプロセスで、実用レベルに適した成形品を製造することができる。また、本発明の製造方法により得られたポリ乳酸樹脂組成物成形品は、加熱による収縮が著しく抑制され、かつポリ乳酸樹脂の欠点であった耐熱性が大幅に向上しているため、種々の成形用途、特に加熱下での寸法安定性が要求される成形品用途に供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「ポリ乳酸樹脂」とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とし、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよいポリマーをいう。乳酸以外の他の共重合成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂を構成する単量体、すなわち、L−乳酸および/またはD−乳酸と、他の共重合成分の合計量に対して、30モル%以下であり、10モル%以下であることが好ましい。
【0016】
本明細書および特許請求の範囲において、重量部に関して言及するとき、「ポリ乳酸樹脂」の重量部とは、「L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とし、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよいポリマーであって、L−乳酸および/またはD−乳酸と、他の共重合成分の合計量に対して、他の共重合成分が30モル%以下である樹脂」の重量部をいう。
【0017】
乳酸以外の他の共重合成分としては、エチレングリコール、ロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。
【0018】
本発明において用いる、ポリ乳酸樹脂は、相溶性の点から、乳酸成分の光学純度が高いものが好ましい。すなわち、ポリ乳酸樹脂に含まれる総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれるものが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれるものがさらに好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれるものが特に好ましい。なお、本発明においてはL体またはD体を主成分とする光学純度の高いポリ乳酸を単独で使用してもよいし、それらの混合物を使用してもよい。
【0019】
また、本発明で使用されるポリ乳酸樹脂として、L−乳酸単位からなるセグメント(ポリL−乳酸)とD−乳酸単位からなるセグメント(ポリD−乳酸)により構成されるポリ乳酸のブロック共重合体を使用することもできる。
【0020】
このようなポリ乳酸ブロック共重合体としては、特開2002−356543号公報や国際公開WO2008/081617号に記載されるブロック共重合体が挙げられる。
【0021】
ポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布については、溶融による成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常10,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは80,000以上であるものが望ましい。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の分子量をいう。
【0022】
ポリ乳酸樹脂の融点については、特に制限されるものではないが、120〜240℃であるものが好ましく、160〜230℃であるものがより好ましい。
【0023】
ポリ乳酸樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、例えば、乳酸からの直接重合法、およびラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0024】
本発明において、ポリ乳酸樹脂に配合される液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0025】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0026】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する主たる繰返し単位は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位から選択される1種以上とする。
【0027】
また、本発明に用いる液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、上記の主たる繰り返し単位以外の繰り返し単位を構成成分として含んでいてもよく、例えば、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの主たる繰り返し単位以外の繰り返し単位を与える単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える主たる単量体の合計量に対して10モル%以下とする。
【0028】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0029】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、パラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や結晶融解温度を調整しやすいという点から好ましい。
【0030】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0031】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、ハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性や得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0032】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0035】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0036】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族オキシジカルボン酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0037】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が170〜250℃、好ましくは180〜230℃であるものが好適である。結晶融解温度が170〜250℃の範囲にある液晶ポリマーを用いれば、ポリ乳酸の分解を抑制しつつ液晶ポリマーをポリ乳酸樹脂に配合することができ、ポリ乳酸連続相中に液晶ポリマーが均一に分散したポリ乳酸樹脂組成物が得られる。
【0038】
液晶ポリマーの結晶融解温度が170℃を下回る場合、溶融混練時に攪拌モーターへの負荷が大きくなり混練機を破損してしまうおそれがあり、たとえ混練が可能であったとしてもポリ乳酸連続相中での液晶ポリマー相の分散が不均一となる傾向がある。また、250℃を上回る場合、ポリ乳酸の分解が顕著となり、十分な性能が得られなくなる傾向がある。
【0039】
170〜250℃の結晶融解温度の範囲を満たす液晶ポリマーとして、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成される液晶ポリエステルが特に好適に使用される。
【0040】
本明細書および特許請求の範囲において、「以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成され」とは、液晶ポリマーがその構成成分として式[I]〜[IV]で示される繰返し単位の他に、液晶ポリマーの結晶融解温度が170〜250℃の範囲となる限り他の繰り返し単位を含有していてもよいことを意味する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、p+q+r+s=100モル%である。
【0041】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、「2価の芳香族基」とは、エステル結合またはアミド結合を形成することができる置換基を2つ有する芳香族基を意味する。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


[ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2≦r≦15、および
2≦s≦15]。
【0042】
p、q、r、sの好ましい範囲としては以下の式を満たすものである。
35≦p≦48、
35≦q≦48、
2≦r≦15、および
2≦s≦15。
【0043】
また、式[III]および式[IV]において、ArおよびArの好ましいものは、
Arが、
【化5】

および/または
【化6】

であり、
Ar2が、
【化7】

および/または
【化8】

であるものである。
【0044】
本発明における液晶ポリマーは、成形時の流動性を改良するなどの目的で、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものを用いてもよい。
【0045】
以下、本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0046】
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0047】
溶融アシドリシス法とは、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリマーを得る方法であり、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法として好ましい方法である。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0048】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0049】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0050】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0051】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0052】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0053】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0054】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0055】
なお、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーは、それらの性質を損なわない範囲で、それぞれポリ乳酸樹脂および液晶ポリマー以外のポリマーや、粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を添加したものを配合に供してもよい。これらの添加物のポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーに対する配合量は、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマー100重量部に対して、それぞれ0.1〜20重量部までとする。
【0056】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法は、
1)ポリ乳酸樹脂、およびポリ乳酸樹脂100重量部に対して7〜50重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練してポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物を得る工程、
2)工程1)で得られた組成物を溶融加工して、成形品を得る工程、および、
3)工程2)で得られた成形品を102〜140℃の温度下で5〜55分間加熱処理する工程、
を含むものであるが、好ましくは、上記製造方法において、工程1)において得られる組成物が、該組成物を溶融加工して127(縦)×12.7(横)×3.2(厚み)mmの短冊状試験片に成形し、該試験片を、110℃の温度下で30分間加熱処理した場合の、下記式で表される収縮率が1%未満である組成物であることを特徴とする:
収縮率(%)=[加熱前の縦方向の長さ(mm)−加熱後の縦方向の長さ(mm)]
/加熱前の縦方向の長さ(mm)×100。
【0057】
ポリ乳酸樹脂を単独で成形加工した場合、その成形品は加熱によって収縮するという問題があり、例えば上記と同じ形状の試験片を作成した場合、収縮率は2〜5%と高いものであるため、耐熱用途への成形品に適さないものであった。
【0058】
一方、本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法により得られた本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品は、加熱による収縮が著しく抑制され、寸法精度の優れた成形品を提供することができるものである。
【0059】
上記の収縮率は1%未満であるのが好ましく、0.8%未満であるのがより好ましく、0.5%未満であるのがさらに好ましい。
【0060】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品は、上述の短冊状試験片について、加熱前の荷重たわみ温度(T1)と加熱後の荷重たわみ温度(T2)とを測定した結果、両者の比(T2/T1)が1.3以上、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.6以上である。これは、ポリ乳酸樹脂組成物を溶融加工して成形品とした後に加熱処理を施こすことによって、荷重たわみ温度が大幅に向上したことを示すものである。(T2/T1)の上限は2.5程度である。
【0061】
短冊状試験片の加熱後の荷重たわみ温度(T2)は、70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上に向上し、成形後加熱処理を施すことによって、実用レベルまで耐熱性が向上し、耐熱用途の成形品に適用できるものとなる。T2の上限は150℃程度である。
【0062】
一方、ポリ乳酸樹脂を単独で成形加工した場合、その成形品を単独で加熱処理しても、T2/T1は1.2程度と荷重たわみ温度はそれほど向上せず、加熱後の荷重たわみ温度(T2)も65℃程度と耐熱用途への使用に難のあるものである。
【0063】
以下、本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法について説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法においては、まず、工程1)において、上述したポリ乳酸樹脂に、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して7〜50重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練して、ポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物を得る。
【0064】
ポリ乳酸樹脂100重量部に対する液晶ポリマーの配合量は、7〜50重量部であり、好ましくは8〜45重量部であり、より好ましくは10〜43重量部であり、さらに好ましくは11〜25重量部であるのが良い。
【0065】
ポリ乳酸樹脂100重量部に対する液晶ポリマーの配合量が7重量部を下回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物成形品の収縮抑制効果および耐熱性向上効果が十分に望めない。液晶ポリマーの配合量が50重量部を上回ると、バイオマスの利用量が低下し、大気中の二酸化炭素濃度上昇抑制に貢献するポリマーを提供するという本発明の趣旨から逸脱することとなる。
【0066】
溶融混練温度が170℃を下回ると、混練時に攪拌モーターへの負荷が大きくなり混練機を破損してしまうおそれがあり、また、たとえ混練が可能であったとしても液晶ポリマー相の分散が不均一となる傾向がある。一方、溶融混練温度が250℃を超えると、ポリ乳酸の分解が顕著となり、十分な性能が得られなくなる傾向がある。
【0067】
工程1)のポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーの溶融混練に際しては、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などの混練機が使用される。例えば、二軸押出し機を用いた場合などは、比エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW・h/kg))0.1〜0.25で、ベントポートを真空にしながら行うのがよいが、これに限らず、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0068】
このように溶融混練して得られたポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物は、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された後、次いで工程2)に供される。
【0069】
工程2)は工程1)で得られた組成物を溶融加工して、成形品を得る工程である。工程2)においては、従来公知の溶融加工法、例えば200〜250℃の温度での射出成形によって所望の形状・大きさの固体形態の成形品とされ、次いで工程3)に供される。
【0070】
工程3)は工程2)で得られた成形品を102〜140℃の温度下で5〜55分間加熱処理する工程である。かかる加熱処理工程では、上記で溶融加工された所望の形状・サイズの固体形態の成形品を、その固体形態が維持されるように102〜140℃の温度下で5〜55分間加熱処理する。加熱温度は、好ましくは102〜130℃、より好ましくは102〜120℃であるのが良い。加熱時間は、好ましくは10〜50分間、より好ましくは15〜45分間であるのが良い。加熱温度が102℃あるいは加熱時間が5分を下回ると、加熱による耐熱性向上効果が十分に発揮されず、また、加熱温度が140℃あるいは加熱時間が55分を上回ると、溶融または分解するおそれがある。
【0071】
工程3)の加熱処理は、オーブンなどの加熱手段を用いて行われ、常圧下または減圧下のいずれの条件下であってもよく、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行うのがよい。
【0072】
以上のように、ポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーを溶融混練して得られた組成物を溶融加工して成形品とした後、加熱処理を施すことによって、得られるポリ乳酸樹脂組成物成形品は、加熱による収縮が抑制されると共に耐熱性が大幅に向上するものである。これは、ポリ乳酸樹脂を単独で成形加工した成形品を加熱処理した場合に比べて飛躍的に優れるものである。
【0073】
本発明の製造方法の工程1)および/または工程2)において、ポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーの相溶性を向上させる目的で、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、さらに0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の相溶化剤を配合してもよい。
【0074】
相溶化剤の配合量が0.5重量部より少ないと、十分な相溶性向上効果が得られず、10重量部を上回ると、工程1)により得られるポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下する傾向がある。
【0075】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、相溶化剤とは、ブレンドポリマーを構成する各ポリマーの相の界面に局在し、それらの相間の界面張力を低下させる機能を有するものをいう。
【0076】
相溶化剤の好ましい例としては、カルボキシル基反応性化合物、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーなどを挙げることができる。
【0077】
本発明において、相溶化剤として使用されるカルボキシル基反応性化合物としては、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端基と反応性のある化合物であれば特に限定されるものではないが、ポリ乳酸樹脂の熱分解や加水分解などで生成する酸性低分子化合物のカルボキシル基とも反応性を有するものであればより好ましく、熱分解により生成する酸性低分子化合物のヒドロキシル基末端基とも反応性を有する化合物であることがより好ましい。
【0078】
このようなカルボキシル基反応性化合物としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン等のビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物、2つ以上のエポキシ基を含有する多官能エポキシ化合物、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物、オキサジン化合物、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物などから選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することが好ましく、なかでも多官能エポキシ化合物、エポキシ基、イソシアネート基を有する有機シラン化合物、カルボジイミド化合物が好ましく、特に好ましくは多官能エポキシ化合物、カルボジイミド化合物である。上記カルボキシル基反応性化合物は、一種または二種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
【0079】
また、予めこれらの相溶化剤として使用されるカルボキシル基反応性化合物に、乳酸および/または液晶ポリマーを構成するカルボキシル基を有する化合物を反応させた形態で配合に供してもよい。
【0080】
本発明において相溶化剤として使用される、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーとしては、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、二重結合を有する高分子の二重結合部をエポキシ化したエポキシ基含有高分子化合物、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させたノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0081】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法においては、必要により、工程1)および/または工程2)において、更に無機充填材および/または有機充填材を配合してもよい。
【0082】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法において配合してもよい、無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0083】
無機充填材および/または有機充填材の配合量は、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して、0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量であるのがよい。
【0084】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法においては、必要により、工程1)および/または工程2)において、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマー以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0085】
他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは0.1〜80重量部となる範囲で配合するのが良い。
【0086】
また本発明のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法においては、工程1)および/または工程2)において、ポリ乳酸樹脂の結晶核の形成を促進する結晶核剤を添加することができる。
【0087】
本発明で使用される結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などを挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。無機系結晶核剤の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、テレフタル酸ジアニリドなどの有機カルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸などのポリマー、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩またはカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
【0088】
本発明の製造方法において使用する結晶核剤としては、上記に例示したもののなかでも、特にタルク、有機カルボン酸金属塩および有機カルボン酸アミドから選択された少なくとも1種が好ましい。好ましいタルクとしては、平均粒径0.5〜7μmであり、かつ燃焼時の損失分を除いた成分中のSiOとMgOの割合が93重量%以上であるタルクを挙げることができる。結晶核剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0089】
結晶核剤の配合量は、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.05〜20重量部がより好ましく、0.1〜15重量部が特に好ましい。
【0090】
以上説明した、相溶化剤、無機充填材および/または有機充填材、他の樹脂成分および結晶核剤は、工程1)において、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーと共に、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによってポリ乳酸樹脂組成物に配合してもよく、あるいは、工程2)においてポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーを含む組成物を溶融加工する際に配合してもよい。
【0091】
本発明の製造方法により得られたポリ乳酸樹脂組成物成形品は、加熱による収縮が抑制され、かつ耐熱性が優れることから、機械部品、電気・電子部品、建築・土木部材、家庭・事務用品、家具用部品および日用品など各種用途に利用することができる。特に、コネクター、リレー、スイッチなどの電気・電子部品、コンピューター関連部品、モーター部品、カメラ、時計などの光学機器、精密機械関連部品等の、加熱下での寸法精度が求められる用途に好適である。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
実施例および比較例において、ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマーは、以下のものを使用した。
ポリ乳酸樹脂:ネイチャーワークス社製ポリL−乳酸、IngeoTM3001D(数平均分子量76000、重量平均分子量146000、結晶融解温度169℃)。
液晶ポリマー:上野製薬株式会社製芳香族液晶ポリエステル(パラヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体、結晶融解温度220℃)。
【0094】
(収縮率の測定)
加熱前の試験片の縦方向の長さ[D1]、および加熱後の試験片の縦方向の長さ[D2]をそれぞれ測定し、下記式にて算出した。
収縮率(%)=[加熱前の縦方向の長さ(mm)−加熱後の縦方向の長さ(mm)]
/加熱前の縦方向の長さ(mm)×100
【0095】
(荷重たわみ温度の測定)
ASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0096】
(引張強度および伸び)
INSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離64mm、引っ張り速度5mm/minで測定した。
【0097】
(曲げ強度)
3点曲げ試験をINSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離50mm、圧縮速度1.3mm/minで行った。
【0098】
(曲げ弾性率)
ASTM D790に準拠して測定した。
【0099】
(Izod衝撃強度)
ASTM D256に準拠して測定した。
【0100】
(実施例1)
ポリ乳酸樹脂27.0g、液晶ポリマー3.0gを混合し、80℃で10時間減圧乾燥した。この乾燥物を株式会社池貝社製二軸押出機PM30を使用し、シリンダー温度220℃で、スクリュー回転速度150rpmで混練しながら押し出し、ポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物を作成した。
【0101】
次いで、この組成物を、型締め圧110トンの射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 UH1000−110)を用いてシリンダ温度240℃、金型温度40℃で射出成形し、127×12.7×3.2mmの短冊状試験片A(未加熱処理試験片)を作成した。
【0102】
次いで、試験片Aを、オーブンにより110℃で30分間加熱処理し、試験片B(加熱処理試験片)を作成した。
【0103】
得られた試験片AおよびBについて各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例2〜4、比較例1〜2)
ポリ乳酸樹脂および液晶ポリマ−の配合量を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にして試験片AおよびBをそれぞれ作成し、各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
実施例1〜4の成形品は、いずれも収縮率が0.5%以下であり、加熱による収縮が著しく抑制されたものであった。また、加熱前後における荷重たわみ温度の比(T2/T1)が1.5以上であり、加熱による耐熱性向上効果が顕著であった。
【0106】
一方、比較例1〜2の成形品は、収縮率が1%を上回るものであり、加熱による収縮が抑制されないものであり、また、加熱前後における荷重たわみ温度の比(T2/T1)も1.3未満であり、耐熱性向上効果も少ないものであった。
【0107】
表1
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ポリ乳酸樹脂、およびポリ乳酸樹脂100重量部に対して7〜50重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練してポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含む組成物を得る工程、
2)工程1)で得られた組成物を溶融加工して、成形品を得る工程、および、
3)工程2)で得られた成形品を102〜140℃の温度下で5〜55分間加熱処理する工程、
を含むポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項2】
工程1)において得られる組成物が、該組成物を溶融加工して127(縦)×12.7(横)×3.2(厚み)mmの短冊状試験片に成形し、該試験片を、110℃の温度下で30分間加熱処理した場合の、下記式で表される収縮率が1%未満である組成物であることを特徴とする、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法:
収縮率(%)=[加熱前の縦方向の長さ(mm)−加熱後の縦方向の長さ(mm)]
/加熱前の縦方向の長さ(mm)×100。
【請求項3】
該短冊状試験片を110℃の温度下で30分間加熱処理する前の荷重たわみ温度(T1)と同条件で加熱処理した後の荷重たわみ温度(T2)との比(T2/T1)が1.3以上である、請求項2記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項4】
該短冊状試験片を110℃の温度下で30分間加熱処理した後の荷重たわみ温度(T2)が70℃以上である、請求項2または3に記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項5】
液晶ポリマーが、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が170〜250℃であるものである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項6】
液晶ポリマーが、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成される液晶ポリエステルである、請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法:
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


[ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2≦r≦15、および
2≦s≦15]。
【請求項7】
式[I]〜[IV]で表される繰返し単位の組成比が以下の式を満たすものである、請求項6記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法:
35≦p≦48、
35≦q≦48、
2≦r≦15、および
2≦s≦15。
【請求項8】
Arが、
【化5】

および/または
【化6】

であり、
Ar2が、
【化7】

および/または
【化8】

である、請求項6または7記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの方法により得られた、ポリ乳酸樹脂組成物成形品。
【請求項10】
成形品が、電気・電子部品、コンピューター関連部品、モーター部品、または光学機器・精密機械関連部品である、請求項9記載のポリ乳酸樹脂組成物成形品。

【公開番号】特開2012−149122(P2012−149122A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6907(P2011−6907)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】