説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】可撓性及び耐熱性に優れるポリ乳酸樹脂組成物、及び該組成物を成形することにより得られるポリ乳酸樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂、及び、ポリアゾール等の繊維原料を液晶紡糸したりすることにより得られる有機繊維であるポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(PBO繊維と記載することもある)を含有してなるポリ乳酸樹脂組成物、ならびに該ポリ乳酸樹脂組成物を成形してなるポリ乳酸樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物に関する。更に詳しくは、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等として好適に使用し得るポリ乳酸樹脂組成物、及び該組成物を成形することにより得られるポリ乳酸樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂の中でもポリ乳酸樹脂は、原料となるL−乳酸がトウモロコシ、芋等から抽出した糖分を用いて発酵法により生産されるため安価であること、原料が植物由来であるため石油資源を原料とする樹脂に比べて製造工程中に発生する二酸化炭素排出量が少ないこと、また樹脂の特性として剛性が強く透明性が高いことが挙げられるため、現在その利用が期待されている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸樹脂は、上記特性に加えて、脆く、硬いことから、可撓性に欠けるという特性も有するため、その用途は限定されており、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等の分野における使用実績はほとんどない。また、射出成形体等に成形した場合も、可撓性が不足したり、折り曲げたときの白化やヒンジ特性が劣るなどの問題が生じたりするため、使用されていないのが現状である。
【0004】
一方で、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅く、延伸などの機械的工程を行わない限り射出成形後は非晶状態を有する。また、ポリ乳酸樹脂のガラス転移点(Tg)が60℃と低いため、温度が55℃以上となる環境下では一般に使用できず、耐熱性の点で劣るという問題がある。
【0005】
更に、家電部品や自動車部品のような耐久材としての利用には、良好な剛性、及び耐熱性を備えた上で、ある程度の可撓性を有することが求められる。
【0006】
これに対して、ポリ乳酸樹脂を硬質分野に応用する技術として、補強材を添加する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2005−23250号公報
【特許文献2】特開2007−100068号公報
【特許文献3】国際公開第2007/015371号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術に拠って、補強材を添加することで、ポリ乳酸樹脂の耐熱性や機械的強度等の剛性を向上させることは可能となる。しかし、可撓性及び耐熱性の両立は困難であり、優れた可撓性及び耐熱性を有するポリ乳酸樹脂組成物の開発が求められている。
【0008】
本発明の課題は、可撓性及び耐熱性に優れるポリ乳酸樹脂組成物、及び該組成物を成形することにより得られるポリ乳酸樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂組成物にポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有させることにより、ポリ乳酸樹脂と該繊維との良好な親和性により、可撓性及び耐熱性に優れるポリ乳酸樹脂組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
〔1〕 ポリ乳酸樹脂、及び、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有してなるポリ乳酸樹脂組成物、ならびに
〔2〕 前記〔1〕記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形してなるポリ乳酸樹脂成形体
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、可撓性及び耐熱性に優れるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂に加えて、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有することに大きな特徴を有する。ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維は非常に切れにくく、かつ、剛直な繊維であるためポリ乳酸樹脂組成物の可撓性だけでなく剛性をも向上させることが可能となり、可撓性及び耐熱性を兼ね備えたポリ乳酸樹脂組成物が得られることになる。なお、本明細書において、「可撓性」とは、「曲げ破断歪み率」及び「耐衝撃性」により表される特性のことを意味し、「曲げ破断歪み率」、「耐衝撃性」及び「耐熱性」の評価は、後述の実施例に記載の試験方法に従って行うことができる。
【0013】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、及び、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有する。
【0014】
ポリ乳酸樹脂は、原料モノマーとして乳酸成分のみを縮重合させて得られるポリ乳酸、及び/又は、原料モノマーとして乳酸成分と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸成分(以下、単に、ヒドロキシカルボン酸成分ともいう)とを用い、それらを縮重合させて得られるポリ乳酸を含有する。
【0015】
乳酸には、L−乳酸(L体)、D−乳酸(D体)の光学異性体が存在する。本発明では、乳酸成分として、いずれかの光学異性体のみ、又は双方を含有してもよいが、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに生産性の観点から、いずれかの光学異性体を主成分とする光学純度が高い乳酸を用いることが好ましい。なお、本明細書において「主成分」とは、乳酸成分中の含有量が80モル%以上である成分のことをいう。
【0016】
乳酸成分のみを縮重合させる場合の乳酸成分におけるL体又はD体の含有量、即ち、前記異性体のうちいずれか多い方の含有量は、80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましく、99〜100モル%がさらに好ましい。なお、乳酸成分におけるL体及びD体の総含有量は、実質的に100モル%であることから、前記異性体のうちいずれか少ない方の含有量は、乳酸成分中、0〜20モル%が好ましく、0〜10モル%がより好ましく、0〜1モル%がさらに好ましい。
【0017】
乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分とを縮重合させる場合の乳酸成分におけるL体又はD体の含有量、即ち、前記異性体のうちいずれか多い方の含有量は、85〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましい。なお、乳酸成分におけるL体及びD体の総含有量は、実質的に100モル%であることから、前記異性体のうちいずれか少ない方の含有量は、乳酸成分中、0〜15モル%が好ましく、0〜10モル%がより好ましい。
【0018】
一方、ヒドロキシカルボン酸成分としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等のヒドロキシカルボン酸化合物が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて利用することができる。これらのなかでも、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0019】
また、本発明においては、上記乳酸及びヒドロキシカルボン酸化合物の2量体が、それぞれの成分に含有されてもよい。乳酸の2量体としては、乳酸の環状二量体であるラクチドが例示され、ヒドロキシカルボン酸化合物の2量体としては、グリコール酸の環状二量体であるグリコリドが例示される。なお、ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド、及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがあり、本発明ではいずれのラクチドも用いることができるが、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び剛性、ならびにポリ乳酸樹脂の生産性の観点から、D−ラクチド及びL−ラクチドが好ましい。なお、乳酸の2量体は、乳酸成分のみを縮重合させる場合、及び乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分とを縮重合させる場合のいずれの場合の乳酸成分に含有されていてもよい。
【0020】
乳酸成分のみの縮重合反応、及び、乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分との縮重合反応は、特に限定はなく、公知の方法を用いて行うことができる。
【0021】
かくして、原料モノマーを選択することにより、例えば、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの成分85モル%以上100モル%未満とヒドロキシカルボン酸成分0モル%超15モル%以下からなるポリ乳酸が得られるが、なかでも、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトンを原料モノマーとして用いて得られるポリ乳酸が好ましい。
【0022】
また、本発明において、ポリ乳酸として、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに成形性の観点から、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸を用いてもよい。
【0023】
ステレオコンプレックスポリ乳酸を構成する一方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(A)と記載する〕は、L体90〜100モル%、D体を含むその他の成分0〜10モル%を含有する。他方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(B)と記載する〕は、D体90〜100モル%、L体を含むその他の成分0〜10モル%を含有する。なお、L体及びD体以外のその他の成分としては、2個以上のエステル結合を形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられ、また、未反応の前記官能基を分子内に2つ以上有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等であってもよい。
【0024】
ステレオコンプレックスポリ乳酸における、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)の重量比〔ポリ乳酸(A)/ポリ乳酸(B)〕は、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに成形性の観点から、10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましい。
【0025】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に用いられるポリ乳酸樹脂における、ポリ乳酸の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに成形性の観点から、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%であることが望ましい。
【0026】
なお、ポリ乳酸樹脂は、上記方法により合成することができるが、市販の製品としては、例えば、レイシアH−100、H−280、H−400、H−440等の「レイシアシリーズ」(三井化学社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D等の「Nature Works」(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU'z S−09、S−12、S−17等の「エコプラスチックU'zシリーズ」(トヨタ自動車社製)が挙げられる。これらのなかでも、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性の観点から、レイシアH−100、H−280、H−400、H−440(三井化学社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU'z S−09、S−12、S−17(トヨタ自動車社製)が好ましい。
【0027】
ポリ乳酸樹脂の融点(Tmr)(℃)は、可塑剤及び結晶核剤等の分散性の観点、ならびにポリ乳酸樹脂組成物の劣化、生産性の観点から、好ましくは140〜250℃、より好ましくは150〜240℃、さらに好ましくは160〜230℃である。なお、本明細書において、ポリ乳酸樹脂が2種以上のポリ乳酸からなる場合も、融点が上記範囲内となることが好ましい。その場合の融点とは、混合物の融点として、あるいは、加重平均融点として求めることができる。各成分の融点は、JIS−K7121に基づく示差走査熱量測定(DSC)の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度より求められる値である。
【0028】
また、本明細書において、ポリ乳酸樹脂のガラス転移点は、動的粘弾性測定における損失弾性率(E'')のピーク温度より求められる値であり、その値は、実施例に記載された動的粘弾性の測定法より測定される値である。
【0029】
ポリ乳酸樹脂組成物には、前記ポリ乳酸樹脂以外に、他の樹脂が本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。他の樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、スチレン、ポリカーボネート、ABS等が挙げられ、ポリ乳酸樹脂とこれら樹脂とを混練して得られるポリマーアロイとして用いても良い。前記ポリ乳酸樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ乳酸樹脂組成物中、50重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0030】
ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(以下、PBO繊維と記載することもある)とは、ポリアゾール等からなる繊維であり、液晶紡糸することにより得られる。
【0031】
PBO繊維の形態は、ステープル、カットフィラメント、チョップドストランド、チョップドストランドマット、パルプ等、任意の形態をとることができる。
【0032】
PBO繊維の市販品としては、東洋紡績社製「ザイロン」等が挙げられる。
【0033】
PBO繊維の直径は、嵩密度の上昇による作業性の向上や繊維の価格等の経済性の観点から、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。また、ポリ乳酸樹脂の優れた強度改良効果を得る観点から、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。かかる観点から、PBO繊維の直径は1〜50μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。
【0034】
なお、PBO繊維の直径は、当該繊維断面を顕微鏡にて拡大して顕微鏡写真を撮影後、この顕微鏡写真に写っている各繊維の直径を50点測定し、これらの相加平均によって求めることができる。
【0035】
PBO繊維の長さは、ポリ乳酸樹脂の優れた耐熱性や強度改良効果を得る観点から、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましく、2.0mm以上がさらに好ましい。また良好な作業性や溶融特性を得る観点から、10mm以下が好ましく、6mm以下がより好ましく、4mm以下がさらに好ましい。かかる観点から、PBO繊維の長さは0.5〜10mmが好ましく、1.0〜6mmがより好ましく、2.0〜4mmがさらに好ましい。
【0036】
なお、PBO繊維の長さは、当該繊維を顕微鏡にて拡大して顕微鏡写真を撮影後、この顕微鏡写真に写っている各繊維の長さを50点測定し、これらの相加平均によって求めることができる。
【0037】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、上記PBO繊維以外に、他の有機繊維が本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。他の有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、PET繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維等が挙げられる。PBO繊維の含有量は、特に限定されないが、用いられる有機繊維の総量中、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。
【0038】
PBO繊維の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに成形性の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、2〜50重量部が好ましく、3〜30重量部がより好ましく、5〜20重量部がさらに好ましい。
【0039】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、前記ポリ乳酸樹脂、PBO繊維以外に、さらに、可塑剤、結晶核剤、無機充填剤、難燃剤、加水分解抑制剤等が適宜含有されていてもよい。
【0040】
可塑剤としては、特に限定はないが、式(I):
A−B (I)
[式中、Aは、炭素数1〜10の、結合手が2〜10価の脂肪族炭化水素基(但し、エーテル基を含んでいてもよい)、Bは、式(II):
−COO−(R1O)−R2 (II)
〔式中、R1Oはアルキレンオキシ基を示し、R1は炭素数2〜4のアルキレン基、cはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0〜5の数であり(但し、c個のR1は同一でも異なっていてもよい)、R2は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基又はアリールアルキル基、あるいは水素原子を示す〕
で表される脂肪族有機基、あるいは、式(III):
−(OR3)−OCO−R4 (III)
〔式中、OR3はアルキレンオキシ基を示し、R3は炭素数2〜4のアルキレン基、dはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0〜5の数であり(但し、d個のR3は同一でも異なっていてもよい)、R4は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基又はアリールアルキル基、あるいは水素原子を示す〕
で表される脂肪族有機基を示し、bは2〜10の整数であり、(Aの炭素数−b)≦4である]
で表される化合物を含有することが好ましい。
【0041】
上記化合物は、特定の炭素数のアルキレン基が付加したアルキレンオキシ基と、エステル基とが連結した構造を、繰り返し構造として有する官能基を有するが、詳細な理由は不明なるも、その特異な構造によりポリ乳酸樹脂とPBO繊維との相互作用を促進することにより、親和性が向上し、得られるポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立が可能となるものと考えられる。
【0042】
式(I)におけるAは、炭素数1〜10の、結合手が2〜10価の脂肪族炭化水素基、即ち、炭素数1〜10の、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基から2〜10個の水素原子を除いた残基が挙げられる。このような残基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、ネオペンタン、n−ヘキサン、3−メチルペンタン、2−エチルヘキサン、n−オクタン、4−メチルオクタン、n−デカンが挙げられる。また、該残基はエーテル基を含んでいてもよく、かかる例としては、モノエーテル、ジエーテル、トリエーテル等が挙げられる。Aの炭素数は1〜10であるが、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性の観点から、2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜4がさらに好ましい。
【0043】
式(I)におけるBは、前記式(II)又は式(III)で表される脂肪族有機基である。一方、bは2〜10の整数であるが、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性の観点から、2〜4が好ましく、2〜3がより好ましい。また、bはAの炭素数と次の関係、(Aの炭素数−b)≦4を満足するが、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立の観点から、0≦(Aの炭素数−b)≦3が好ましい。
【0044】
式(II)において、R1Oはアルキレンオキシ基を示し、R1は炭素数2〜4のアルキレン基であるが、ポリ乳酸樹脂とPBO繊維との親和性、可塑剤の耐揮発性ならびにポリ乳酸樹脂組成物の可撓性の観点から、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレン基がより好ましい。cはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0.5〜5の数であるが、同様の観点から、1〜4が好ましく、2〜3がより好ましい。なお、c個のR1は同一でも異なっていてもよいが、ポリ乳酸樹脂とPBO繊維との親和性、可塑剤の耐揮発性ならびにポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立の観点から、同一であることが好ましい。また、R2は炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子であるが、可塑剤の耐ブリード性の観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜2のアルキル基がより好ましい。
【0045】
式(III)において、R3Oはアルキレンオキシ基を示し、R3は炭素数2〜4のアルキレン基であるが、ポリ乳酸樹脂とPBO繊維との親和性、可塑剤の耐揮発性ならびにポリ乳酸樹脂組成物の可撓性の観点から、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレン基がより好ましい。dはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0.5〜5の数であるが、同様の観点から、1〜4が好ましく、2〜3がより好ましい。なお、d個のR3は同一でも異なっていてもよいが、ポリ乳酸樹脂とPBO繊維との親和性、可塑剤の耐揮発性ならびにポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立の観点から、同一であることが好ましい。また、R4は炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子であるが、可塑剤の耐ブリード性の観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜2のアルキル基がより好ましい。
【0046】
上記式(I)で表される化合物の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸等の多塩基酸と、式(IV):
O−(RO)−H (IV)
(式中、R、R及びcは前記と同じ)
で表されるヒドロキシ化合物、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとのエステル化合物;グリセリン、ポリグリセリン、炭素数2又は3のアルキレングリコールあるいはこれらのアルキレンオキサイド(アルキレン基の炭素数2又は3)付加物と式(V):
COOH (V)
(式中、Rは前記と同じ)
で表されるカルボン酸とのエステル化合物、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコールに、エチレンオキシ基及び/又はプロピレンオキシ基を付加させたアルキレンオキサイド付加物と、酢酸等のアセチル基を有する化合物とのエステル化合物を挙げることができ、これらの化合物は、1種又は2種以上を併せて使用することができる。これらの中では、ポリ乳酸樹脂組成物の柔軟性及び可塑剤の耐揮発性の観点から、コハク酸、アジピン酸又は1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とポリアルキレン(アルキレン基の炭素数2又は3)グリコールモノメチルエーテルとのエステル化合物、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、コハク酸、アジピン酸又は1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル化合物、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、コハク酸、アジピン酸又は1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル化合物、及び酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド付加物とのエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、コハク酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル化合物がさらに好ましい。
【0047】
上記式(I)で表される化合物の調製方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。式(I)におけるBが式(II)で表される脂肪族有機基である場合、例えば、パラトルエンスルホン酸一水和物、硫酸等の酸触媒や、ジブチル酸化スズ等の金属触媒の存在下、炭素数3〜12の飽和多塩基酸又はその無水物とポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとを直接反応させるか、炭素数3〜12の飽和多塩基酸の低級アルキルエステルとポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとをエステル交換することにより得られる。より具体的には、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、飽和二塩基酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル/飽和二塩基酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=2〜4/1/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエンなどの溶媒の存在下又は非存在下、好ましくは非存在下に、常圧又は減圧下、好ましくは減圧下(300〜1500Pa)、温度100〜130℃で脱水を行うことにより、式(I)におけるBが式(II)で表される脂肪族有機基である化合物を得ることができる。
【0048】
また、式(I)におけるBが式(III)で表される脂肪族有機基である場合、例えば、アルカリ金属触媒存在下、オートクレーブを用いて温度120〜160℃で、グリセリンに炭素数2〜3のアルキレンオキシ基をグリセリン1モルに対し3〜9モル付加させる。そこで得られたグリセリンアルキレンオキサイド付加物1モルに対し、無水酢酸3モルを110℃で滴下し、滴下終了後から110℃、2時間熟成を行い、アセチル化を行う。その生成物を減圧下で水蒸気蒸留を行い、含有する酢酸及び未反応無水酢酸を留去することにより、式(I)におけるBが式(III)で表される脂肪族有機基である化合物を得ることができる。
【0049】
式(I)で表される化合物の平均分子量は、ポリ乳酸樹脂組成物の柔軟性、透明性と可塑剤の耐ブリード性、耐揮発性の観点から250以上が好ましく、250〜800がより好ましく、300〜700がさらに好ましく、330〜600がさらに好ましい。なお、平均分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求めることができる。
平均分子量=56,108×(エステル基の数)/鹸化価
【0050】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、上記式(I)で表される化合物以外に、他の可塑剤が本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。上記式(I)で表される化合物の含有量は、特に限定されないが、可塑剤中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらにより好ましい。
【0051】
上記式(I)で表される化合物の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、5〜50重量部が好ましく、7〜30重量部がより好ましく、8〜20重量部がさらに好ましい。
【0052】
結晶核剤としては、脂肪酸モノアミド、脂肪酸ビスアミド、芳香族カルボン酸アミド、ロジン酸アミド等のアミド類;ヒドロキシ脂肪酸エステル類;芳香族スルホン酸ジアルキルエステルの金属塩、フェニルホスホン酸金属塩、リン酸エステルの金属塩、ロジン酸類金属塩等の金属塩類;カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、有機顔料類等が挙げられる。なかでも、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、結晶核剤は、分子中に水酸基とアミド基とを有する有機化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、これらの少なくとも1種とフェニルホスホン酸金属塩とを含有することがより好ましく、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物とフェニルホスホン酸金属塩を含有することがさらに好ましい。
【0053】
分子中に水酸基とアミド基とを有する有機化合物の具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。これらのなかでも、ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させる観点から、水酸基を2つ以上有し、アミド基を2つ以上有する脂肪酸ビスアミドが好ましく、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐熱性、可撓性及び結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のアルキレンビスヒドロキシステアリン酸アミドがより好ましく、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドがさらに好ましい。
【0054】
分子中に水酸基とアミド基とを有する有機化合物の融点は、混練時の結晶核剤の分散性を向上させ、またポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度を向上させる観点から、65℃以上が好ましく、70〜220℃がより好ましく、80〜190℃がさら好ましい。
【0055】
ヒドロキシ脂肪酸エステルの具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、12−ヒドロキシステアリン酸ジグリセライド、12−ヒドロキシステアリン酸モノグリセライド、ペンタエリスリトール−モノ−12−ヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトール−ジ−12−ヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトール−トリ−12−ヒドロキシステアレート等のヒドロキシ脂肪酸エステルが挙げられる。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、可撓性、耐熱性及び結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドが好ましい。
【0056】
フェニルホスホン酸金属塩は、置換基を有しても良いフェニル基とホスホン基(−PO(OH)2)を有するフェニルホスホン酸の金属塩であり、フェニル基の置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜10のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。フェニルホスホン酸の具体例としては、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられ、無置換のフェニルホスホン酸が好ましい。
【0057】
フェニルホスホン酸の金属塩としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バリウム、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の塩が挙げられ、亜鉛塩が好ましい。
【0058】
本発明において結晶核剤、分子中に水酸基とアミド基とを有する有機化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種と、フェニルホスホン酸金属塩とを含有する場合、これらの割合は、本発明の効果を発現する観点から、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種/フェニルホスホン酸金属塩(重量比)=20/80〜80/20が好ましく、30/70〜70/30がより好ましく、40/60〜60/40がさらに好ましい。
【0059】
結晶核剤における、分子中に水酸基とアミド基とを有する有機化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルの総含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%であることが望ましい。
【0060】
また、結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、可撓性、及び耐熱性を得る観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましく、0.10〜3重量部がより好ましく、0.20〜2重量部がさらに好ましい。
【0061】
無機充填剤としては、タルク、スメクタイト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト等のケイ酸塩、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物や、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、ワラスナイト、チタン酸カリウムウィスカー、珪素系ウィスカー等の繊維状無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤の平均粒径は、良好な分散性を得る観点から、0.1〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。また、繊維状の無機充填剤のアスペクト比は、剛性向上の観点から5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。無機充填剤の中でも、ポリ乳酸樹脂成形体の成形性及び耐熱性の観点からケイ酸塩が好ましく、タルク又はマイカがより好ましく、タルクがさらに好ましい。また、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性及び透明性の観点からは、シリカが好ましい。
【0062】
無機充填剤の平均粒径は、回折・散乱法によって体積基準のメジアン径を測定することにより求めることができる。例えば市販の装置としてはコールター社製レーザー回折・光散乱法粒度測定装置LS230等が挙げられる。
【0063】
無機充填剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、1〜200重量部が好ましく、3〜50重量部がより好ましく、5〜40重量部がさらに好ましい。
【0064】
また、繊維状無機充填剤を用いる場合には、PBO繊維、及び、繊維状無機充填剤の総含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0065】
可撓性と耐熱性を向上させる観点から、PBO繊維と繊維状無機充填剤の重量比(PBO繊維/繊維状無機充填剤)は、1/9〜9/1が好ましく、8/2〜2/8がより好ましい。
【0066】
難燃剤としては、ハロゲン系の臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、ノンハロゲン系の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウムアルミネートシリケート、ホウ酸亜鉛等を好適に用いることができる。難燃剤の含有量は、難燃剤の効果を見ながら決められるが、良好な難燃効果を得、また加工時の流動特性や、成形体の強度や、組成物の可撓性、及び耐熱性の低下を抑制する観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、10〜60重量部が好ましく、15〜55重量部がより好ましい。
【0067】
加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物が挙げられ、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性の観点からポリカルボジイミド化合物が好ましく、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、モノカルボジイミド化合物が好ましい。
【0068】
上記カルボジイミド化合物は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、可撓性、耐熱性及び結晶核剤の耐ブルーム性を満たすために、単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0069】
加水分解抑制剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.05〜3重量部が好ましく、0.10〜2重量部がより好ましい。
【0070】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、上記以外に、更にヒンダードフェノール又はフォスファイト系の酸化防止剤、又は炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤等の他の成分を含有することができる。酸化防止剤、及び滑剤のそれぞれの含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.05〜3重量部が好ましく、0.10〜2重量部がより好ましい。
【0071】
さらに、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記以外の他の成分として、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0072】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前記ポリ乳酸樹脂、及び、PBO繊維を含有するものであれば特に限定なく調製することができる。
【0073】
ポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移点(Tgc)(℃)は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性の観点から、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜45℃、さらに好ましくは20〜40℃である。なお、本明細書において、ポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移点は、動的粘弾性測定における損失弾性率(E'')のピーク温度より求められる値であり、その値は、実施例に記載された動的粘弾性の測定法より測定される値である。
【0074】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、加工性が良好で、例えば200℃以下の低温で加工することができるため、可塑剤の分解が起こり難い利点があり、フィルムやシートに成形して、各種用途に用いることができる。
【0075】
<ポリ乳酸樹脂成形体及びその製造方法>
本発明のポリ乳酸樹脂成形体は、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を成形することにより得られる。具体的には、例えば、押出し機等を用いてポリ乳酸樹脂、及び、PBO繊維を溶融させながら、必要により、可塑剤、結晶核剤や無機充填剤等を混合し、次に得られた溶融物を射出成形機等により金型に充填して成形する。
【0076】
本発明のポリ乳酸樹脂成形体の好ましい製造方法は、ポリ乳酸樹脂、及び、PBO繊維を含有するポリ乳酸樹脂組成物を溶融混練する工程(以下工程(1)という)と、工程(1)で得られた溶融物を110℃以下の金型内に充填して成形する工程(以下工程(2)という)を含む方法である。
【0077】
工程(1)の具体例としては、例えば、ポリ乳酸樹脂、及び、PBO繊維を、溶融混練機を用いて160〜250℃で溶融混練する工程等が挙げられる。溶融混練機としては、特に限定はなく、2軸押出機等が例示される。また、溶融混練温度は、ポリ乳酸樹脂組成物の成型性及び劣化防止の観点から、160〜250℃が好ましく、170〜240℃がより好ましく、175〜230℃がさらに好ましい。
【0078】
工程(2)の具体例としては、例えば、射出成形機等によりポリ乳酸樹脂組成物を110℃以下の金型内に充填し、成形する工程等が挙げられる。工程(2)における金型温度は、結晶化速度向上、ポリ乳酸樹脂組成物の可撓性及び耐熱性の両立、ならびに作業性向上の観点から、110℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。また30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。かかる観点から、金型温度は30〜110℃が好ましく、40〜90℃がより好ましく、60〜80℃がさら好ましい。
【実施例】
【0079】
〔ポリ乳酸樹脂の融点〕
ポリ乳酸樹脂の融点は、JIS−K7121に基づく示差走査熱量測定DSC、パーキンエルマー社製ダイアモンドDSC)の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度より求められる。融点の測定は、昇温速度10℃/分で20℃から250℃まで昇温して行う。
【0080】
〔ポリ乳酸樹脂のガラス転移点〕
ポリ乳酸樹脂のガラス転移点は、動的粘弾性測定(DMS、セイコーインスツル社製DMS6100)における損失弾性率(E'')のピーク温度より求められる値であり、動的粘弾性測定は、昇温速度2℃/分で-100℃から150℃まで昇温して行う。
【0081】
〔可塑剤の平均分子量〕
平均分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求める。
平均分子量=56,108×(エステル基の数)/鹸化価
【0082】
〔PBO繊維の繊維長さ及び繊維直径〕
PBO繊維の繊維長さ及び繊維直径は、当該繊維を顕微鏡にて拡大して顕微鏡写真を撮影後、この顕微鏡写真に写っている各繊維について、繊維長さは各繊維の長さ、繊維直径は各繊維の断面直径をそれぞれ50点測定し、これらの相加平均によって求めることができる。
【0083】
〔結晶核剤の融点〕
融点は、DSC装置(パーキンエルマー社製、ダイアモンドDSC)を用い、昇温速度10℃/分で20℃から500℃まで昇温して測定を行う。
【0084】
<可塑剤の製造例1(コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル)>
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに、無水コハク酸500g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル2463g、パラトルエンスルホン酸一水和物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下(4〜10.7kPa)、110℃で15時間反応させた。反応液の酸価は1.6(KOHmg/g)であった。反応液に吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業社製)27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温115〜200℃、圧力0.03kPaでトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルを得た。得られたジエステルは、酸価0.2(KOHmg/g)、鹸化価276(KOHmg/g)、水酸基価1以下(KOHmg/g)、色相APHA200であった。
【0085】
<可塑剤の製造例2(酢酸とグリセリンにエチレンオキサイドを3モル付加させたエチレンオキサイド付加物とのトリエステル)>
オートクレーブに花王社製化粧品用濃グリセリン1モルに対しエチレンオキサイド3モルのモル比で規定量仕込み、1モル%のKOHを触媒として反応圧力0.3MPaの定圧付加し、圧力が一定になるまで150℃で反応した後、80℃まで冷却し、触媒未中和の生成物を得た。この生成物に触媒の吸着剤としてキョーワード600S(協和化学工業社製)を触媒重量の8倍添加し、窒素微加圧下で80℃、1時間吸着処理をおこなった。さらに処理後の液をNo.2のろ紙にラジオライト#900をプレコートしたヌッツェで吸着剤を濾過し、グリセリンエチレンオキサイド3モル付加物(以下POE(3)グリセリンという)を得た。これを四つ口フラスコに仕込み、105℃に昇温して300r/minで攪拌し、無水酢酸をPOE(3)グリセリン1モルに対し3.6モルの比率で規定量を約1時間で滴下し反応させた。滴下後110℃で2時間熟成し、さらに120℃で1時間熟成した。熟成後、減圧下で未反応の無水酢酸及び副生の酢酸をトッピングし、さらにスチーミングして、POE(3)グリセリントリアセテートを得た。
【0086】
実施例1〜10及び比較例1〜2
表1に示すポリ乳酸樹脂組成物の原料を、2軸押出機(池貝鉄工社製、PCM-45)にて190℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物A〜L(実施例1〜10及び比較例1〜2)のペレットを得た。なお、得られたペレットは、70℃減圧下で1日乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0087】
得られたペレットを、シリンダー温度を200℃とした射出成形機(日本製鋼所製 J75E-D)を用いて射出成形し、金型温度80℃、成形時間10分でテストピース〔角柱状試験片(125mm×12mm×6mm、及び、63mm×12mm×5mm)〕を成形し、実施例1〜10及び比較例1〜2のポリ乳酸樹脂組成物の成形体を得た。
【0088】
なお、表1における原料は以下の通りである。
〔ポリ乳酸樹脂〕
LACEA H−400:三井化学社製、融点166℃、ガラス転移点62℃
〔PBO繊維〕
ザイロン(3):ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、東洋紡社製、繊維長さ3mm、繊維直径12μm
ザイロン(6):ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、東洋紡社製、繊維長さ6mm、繊維直径12μm
〔有機繊維(芳香族ポリアミド繊維)〕
テクノーラ:テクノーラ ZCF 3−12 T322EH(帝人テクノプロダクツ社製、アラミド繊維、繊維長さ3mm、繊維直径12μm)
〔無機充填剤(ガラス繊維)〕
T187:日本電気硝子社製、繊維長さ3mm、繊維直径12μm
〔可塑剤〕
(MeEO)SA:コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル化合物、平均分子量410
(AcEO)Gly:酢酸とグリセリンにエチレンオキサイドを3モル付加させたエチレンオキサイド付加物とのトリエステル化合物、平均分子量503
DAIFATY−101:アジピン酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル/ベンジルアルコール=1/1混合ジエステル(大八化学工業社製)、平均分子量338
PL−019:アセチル化モノグリセリン(理研ビタミン社製)、平均分子量134
〔結晶核剤〕
スリパックスH:エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成社製、融点145℃)
エコプロモート:無置換のフェニルホスホン酸亜鉛塩(日産化学工業社製、融点無し)
【0089】
実施例1〜10及び比較例1〜2のポリ乳酸樹脂組成物の成形体の物性を、以下の試験例1〜3の方法に従って調べた。結果を表1に示す。
【0090】
〔試験例1〕(曲げ破断歪み率)
角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)について、JIS K7203に基づいて、テンシロン(オリエンテック製テンシロン万能試験機 RTC−1210A)を用いて、クロスヘッド速度を3mm/minに設定して曲げ試験を行い、曲げ破断歪み率を求めた。曲げ破断歪み率は、数値が高いほど優れていることを示し、測定範囲内の荷重をかけて破断しなかったものは、破断せずとした。
【0091】
〔試験例2〕(耐衝撃性)
角柱状試験片(63mm×12mm×5mm)について、JIS K7110に基づいて、衝撃試験機(株式会社上島製作所製 863型)を使用して、Izod衝撃強度(J/m)を測定した。Izod衝撃強度(J/m)が高いほど耐衝撃性に優れることを示す。
【0092】
〔試験例3〕(耐熱性)
角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)について、JIS K7191に基づいて、熱変形温度測定機(東洋精機製作所製 B-32)を使用して、荷重1.81MPaにおいて0.25mmたわむときの温度(℃)(熱変形温度)を測定した。この熱変形温度(℃)が高い方が耐熱性に優れていることを示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1の結果から明らかなように、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有した本発明のポリ乳酸樹脂組成物(実施例1〜10)の成形体は、高い曲げ破断歪み、耐衝撃性及び熱変形温度を示している。また実施例1と2の結果から、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維の添加量を増量すると、曲げ破断歪み、耐衝撃性及び熱変形温度を更に向上させることが可能であることがわかる。更にポリ乳酸樹脂、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、可塑剤及び結晶核剤を含有したポリ乳酸樹脂組成物(実施例4〜9)の成形体は、結晶核剤の併用により、更に曲げ破断歪み、耐衝撃性、及び熱変形温度を向上させることができた。また、更にガラス繊維を含有したポリ乳酸樹脂組成物(実施例10)の成形体は、熱変形温度をより向上させることができた。
【0095】
一方、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有せず、ガラス繊維やアラミド繊維を含有したポリ乳酸樹脂組成物(比較例1〜2)の成形体は、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維と比較しても、曲げ破断歪み、耐衝撃性、及び熱変形温度を向上させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等の様々な工業用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂、及び、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含有してなるポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、可塑剤を含有してなる、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
可塑剤が式(I):
A−B (I)
[式中、Aは、炭素数1〜10の、結合手が2〜10価の脂肪族炭化水素基(但し、エーテル基を含んでいてもよい)、Bは、式(II):
−COO−(R1O)−R2 (II)
〔式中、R1Oはアルキレンオキシ基を示し、R1は炭素数2〜4のアルキレン基、cはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0〜5の数であり(但し、c個のR1は同一でも異なっていてもよい)、R2は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基又はアリールアルキル基、あるいは水素原子を示す〕
で表される脂肪族有機基、あるいは、式(III):
−(OR3)−OCO−R4 (III)
〔式中、OR3はアルキレンオキシ基を示し、R3は炭素数2〜4のアルキレン基、dはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0〜5の数であり(但し、d個のR3は同一でも異なっていてもよい)、R4は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基又はアリールアルキル基、あるいは水素原子を示す〕
で表される脂肪族有機基を示し、bは2〜10の整数であり、(Aの炭素数−b)≦4である]
で表される化合物を含有してなる、請求項2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、結晶核剤を含有してなる、請求項1〜3いずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
結晶核剤が、分子中に水酸基とアミド基とを有する有機化合物、及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有してなる、請求項4記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維の含有量が、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して2〜50重量部である、請求項1〜5いずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形してなるポリ乳酸樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−37437(P2010−37437A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202079(P2008−202079)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】