説明

ポリ乳酸異型断面繊維および布帛および繊維製品

【課題】本発明の目的は、生物由来繊維でありながら強度および耐熱性に優れ、しかもソフト感がありかつベトツキ感のない布帛を得ることが可能なポリ乳酸異型断面繊維および布帛および繊維製品を提供することにある。
【解決手段】ポリL−乳酸(A成分)、ポリD―乳酸(B成分)、およびA成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の特定の燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物で、単繊維横断面形状が異型断面であるポリ乳酸異型断面繊維を形成し、必要に応じて布帛を得た後、必要に応じて繊維製品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実用的な繊維強度と耐熱性を有し、ソフト感がありかつベトツキ感のない布帛を得ることが可能なポリ乳酸異型断面繊維、および該ポリ乳酸異型断面繊維を用いてなる布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の目的から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、世界中で研究されている。生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸などが知られている。なかでもポリ乳酸は、ポリ乳酸の原料である乳酸またはラクチドが天然物から製造できるので、単なる生分解性ポリマーとしてではなく、地球環境に配慮した汎用性ポリマーとして利用も検討されている。ポリ乳酸のような生分解性ポリマーは透明性が高く強靭であるが、水の存在下では容易に加水分解され、廃棄後には環境を汚染することなく分解するので、環境負荷の少ない汎用ポリマーとして期待されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルに比べて融点や強度が低いという欠点を有している。このため、L−乳酸単位のみからなるポリL−乳酸とD−乳酸単位のみからなるポリD−乳酸とを溶液または溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸を形成し融点や強度を高めることが検討されている(例えば特許文献1〜6、非特許文献1,2参照)。
【0004】
また、ポリ乳酸はポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルと比較すると摩擦係数が高いため、ポリ乳酸からなる繊維を用いて衣料を縫製し着用すると、ベトツキ感が大きいため着用快適性が損われるだけでなく、繊維の紡糸・延伸・加工工程において糸を数百〜数千m/分で走行させると、糸とガイド類の摩擦により毛羽や糸切れが発生しやすく、また、製織編の際には糸と糸との摩擦により、毛羽や糸切れによる停台や布帛欠点が発生しやすいといった問題があった。
【0005】
他方、ソフト感のある布帛を得るために繊維の単繊維断面形状を扁平断面にしたり、布帛の防視認性を高めるために繊維の単繊維断面形状をくびれ付扁平断面にすることは知られている(例えば、特許文献7〜9参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−241024号公報
【特許文献2】特開2003−293220号公報
【特許文献3】特開2005−023512号公報
【特許文献4】特開2002−030523号公報
【特許文献5】特開2003−138437号公報
【特許文献6】特開2003−192884号公報
【特許文献7】特許第3895227号公報
【特許文献8】特開2006−70397号公報
【特許文献9】特開2007−131985号公報
【非特許文献1】Macromolecules,24,5651(1991)
【非特許文献2】Seni Gakkai Preprints (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、生物由来繊維でありながら強度および耐熱性に優れ、しかもソフト感がありかつベトツキ感のない布帛を得ることが可能なポリ乳酸異型断面繊維および布帛および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−成分(B成分)とを特定の燐酸エステル金属塩(C成分)の存在下で紡糸、延伸すると、生物由来繊維でありながら強度および耐熱性に優れた繊維が得られること、また、その際、単繊維の横断面形状を異型断面とすることにより、ソフト感がありかつベトツキ感のない布帛を得ることが可能であることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩を含有するポリ乳酸組成物からなり、単繊維横断面形状が異型断面であることを特徴とするポリ乳酸異型断面繊維。」が提供される。
【0010】
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0011】
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0012】
その際、前記ポリ乳酸組成物がポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシ末端封止剤を含有してなることが好ましい。また、単繊維横断面形状の外接円直径と内接円直径との比が2.5〜10.0の範囲内であることが好ましい。特に、単繊維横断面形状が、2箇所以上のくびれ部を有する扁平断面度2〜6の扁平断面であることが好ましい。また、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上であることが好ましい。また、広角X線回折法(XRD)測定によるステレオ化率が90%以上であることが好ましい。また、引張強度が2.3cN/dtex以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、前記のポリ乳酸異型断面繊維を用いてなる布帛が提供される。また、本発明によれば、かかる布帛を用いてなる、スポーツ衣料、ユニフォーム、紳士衣料品、婦人衣料品、インナー、裏地、帽子、トーブ、民族衣装、インテリア用カーテン、インテリア用ロールブラインド、インテリア用パーテション、および車両内装材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生物由来繊維でありながら強度および耐熱性に優れた繊維であり、ソフト感がありかつベトツキ感のない布帛を得ることが可能なポリ乳酸異型断面繊維および布帛および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリL−乳酸(A成分)は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。D−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0016】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0017】
ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリL−乳酸(A成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明で用いるポリD−乳酸(B成分)は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。L−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0019】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0020】
ポリD−乳酸(B成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリD−乳酸(B成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0021】
ポリL−乳酸(A成分)またはポリD−乳酸(B成分)は、L−乳酸またはD−乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、L−乳酸またはD−乳酸を一度脱水環化してラクチドとした後に開環重合したりする方法で製造することができる。これらの方法に用いる触媒として、オクチル酸スズ、塩化スズ、スズのアルコキシドなどの2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ブチルスズ、酸化エチルスズなど4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、ランタニド化合物などを例示することができる。
【0022】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)は、重合時使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を不活性化しておくのが好ましい。触媒活性を不活性化するには、触媒失活剤を用いることができる。
【0023】
触媒失活剤として、イミノ基を有し且つ金属重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび式(3)で表される有機リンオキソ酸化合物群から選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒失活剤は、重合終了の時点において触媒中の金属元素1当量あたり、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.4〜15当量、さらに好ましくは0.5〜10当量配合する。
−P(=O)(OH)(OX2−n (3)
式中、mは0または1、nは1または2、XおよびXは各々独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
【0024】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)中の金属イオン含有量は20ppm以下であることが繊維の耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。金属イオン含有量は、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンから選ばれる金属の各々の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明で用いる燐酸エステル金属塩(C成分)は、下記式(1)または(2)で表される化合物である。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
【0026】
【化3】

【0027】
式(1)において、Rは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rで表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基などが例示される。
、Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0028】
式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
式(2)においてR、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0031】
式(2)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基のものが挙げられる。燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
【0032】
特開2003−192884号公報に記載のように、式(1)または(2)で表される化合物はポリ乳酸の結晶核剤として知られた化合物である。しかし、本発明において、式(1)、式(2)中のMおよびMは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であることを特徴とする。式(1)、式(2)中のMおよびMが、アルミニウムなどの他の金属である場合、化合物自体の耐熱性が低く、紡糸時に昇華物が発生し、紡糸することが困難な場合がある。
【0033】
燐酸エステル金属塩(C成分)は、平均一次粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
【0034】
燐酸エステル金属塩(C成分)の含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との合計100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。0.01重量部より少量であると所望の効果がほとんど認められない。また5重量部より多量に使用すると繊維形成時、熱分解を起こしたり、断糸が起きたりする場合があり好ましくない。
【0035】
ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との比は、A成分/B成分(重量)で、好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは50/50である。
【0036】
A成分、B成分およびC成分の混合は、従来公知の各種方法を使用することができる。例えば、A成分、B成分およびC成分を、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、1軸または2軸の押出機等で混合することができる。
【0037】
こうして得られるポリ乳酸組成物は、溶融混合され、そのまま、または計量ポンプなどを経由して紡糸装置に移送することもできる。溶融混合する温度は、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の融点より高い温度であることが好ましく、220℃よりも高いことが好ましい。また、一旦ペレット状にしてから紡糸装置に供給することもできる。ペレット長は1〜7mm、長径3〜5mm、短径1〜4mmのものが好ましい。ペレットの形状は、ばらつきのないものが好ましい。ペレット化された組成物は、プレッシャーメルター型や1軸あるいは2軸エクストルーダー型などの通常の溶融押出し機を使用して紡糸装置に移送することもできる。ステレオコンプレックス結晶の形成にあたっては、A成分およびB成分を十分に混合することが重要であり、とりわけ剪断応力下、混合することが好ましい。
【0038】
前記のポリ乳酸組成物には、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基末端封止剤が好適に適用できる。かかるカルボキシ末端封止剤としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、耐湿熱性改善の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0039】
ここで、エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0040】
また、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
【0041】
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0042】
また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0043】
市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡績株式会社より市販されている「カルボジライト」を用いることができ、具体的にはポリ乳酸樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはポリエステル樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」HMV−8CA等を例示することができる。
【0044】
カルボジイミド化合物は、従来公知の方法により製造することもできる。例えば触媒として有機リン化合物または有機金属化合物を使用して、有機イソシアネートを70℃以上の温度で無溶媒あるいは不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応に附することにより製造することができる。またポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミド化合物の製造法、例えば米国特許2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621等により製造することができる。
【0045】
カルボキシル基末端封止剤の含有量は、ポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。かかる範囲のカルボキシル基末端封止剤を含有するポリ乳酸繊維は、100℃の沸水中30分間の処理後の分子量保持率が95%以上となり、さらに好ましい繊維を得ることができる。
【0046】
本発明のポリ乳酸異型断面繊維は前記のポリ乳酸組成物からなり、単繊維横断面形状が異型断面である。異型断面の形状は特に限定されるものではないが、光沢や風合い、機能を発現するためには、繊維横断面形状の外接円と内接円との比が2.5〜10であることが好ましい。2.5未満では光沢や風合い、機能などの発現が弱くなるおそれがある。逆に、外接円と内接円との比が10を超えると製糸および織編染加工を安定に行うことが困難となるおれがある。
【0047】
ここで、単繊維横断面形状が扁平である偏平断面糸の場合、曲げ特性の影響から織編物にした際にソフトな風合いが得られ、また、織編物の空隙を小さくしやすいため低通気性や防透性が得られる。しかしながら、偏平断面糸は触ったときの皮膚に接触する単位繊度あたりの面積が丸断面糸に比べて大きくなり、特有のベトツキ感が発生する。さらに、ポリ乳酸繊維はポリエチレンテレフタレートなど汎用ポリエステル繊維と比較すると摩擦係数が高い傾向にあるため、このベトツキ感がより大きくなるだけでなく、糸を数千m/分で走行させると、糸とガイド類の摩擦により毛羽や糸切れが発生しやすい。加えて、製織編の際には糸と糸との摩擦により、毛羽や糸切れによる停台や布帛欠点が発生しやすい。
かかる問題を解消してベトツキ感の少ない偏平断面繊維を糸切れ少なく製糸・製織編するためには、2箇所以上のくびれ部を有する扁平断面度2〜6の扁平断面とすることが好ましい。具体的には、下記(1)、(2)を同時に満足する断面形状とすることが好ましい。
(1)最大径の長さB(長軸)と該長軸に直行する最大径の長さC1(短軸)との比B/C1で表される偏平度が2〜6である。
(2)短軸の最大径C1と最小径C2(丸断面単糸の接合部で最小の径)との比C1/C2で表される異形度が1より大きくかつ5未満である。
【0048】
比B/C1が2より小さい場合は、ソフト感が低下する傾向にあり、6より大きい場合は、ベトツキ感が生じる傾向にある。また、比C1/C2が1の場合は単なる偏平繊維となり、ベトツキ感が生じ、摩擦係数が高く、吸水性も無くなる。比C1/C2が5以上の場合にはベトツキ感は無く、吸水性も付与できるが、丸断面同士の接合部が短くなり過ぎ、偏平断面繊維の強度が低下し、断面が割れ易くなる等、別の欠点が生じる。このため、1<比C1/C2<5とするのが好ましく、より好ましくは1.1≦比C1/C2≦2である。
【0049】
本発明のポリ乳酸異型断面繊維において、広角X線回折法(XRD)測定によるステレオ化率が90%以上であることが好ましい。また、繊維強度としては、引張強度で2.3cN/dtex以上であることが好ましい。また、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上であることが好ましい。
【0050】
このようなポリ乳酸異型断面繊維は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、前記ポリ乳酸組成物をエクストルーダー型やプレッシャーメルター型の溶融押出し機で溶融した後、ギヤポンプにより計量し、パック内で濾過した後、口金に設けられたノズルからモノフィラメンント、マルチフィラメント等として吐出され紡糸する。その際、口金の形状は異型(中空丸型も含む)用口金であればいずれも採用することができる。吐出孔数は特に制限されるものではない。吐出された糸は直ちに冷却・固化された後集束され、油剤を付加されて巻き取られる。紡糸速度は特に限定されるものではないがステレオコンプレックス結晶が形成され易くなることより300〜5000m/分の範囲が好ましい。特に延伸性の観点から未延伸糸のステレオ化率が0%となる紡糸速度が好ましい。巻き取られた未延伸糸はその後延伸工程に供されるが、紡糸工程と延伸工程は必ずしも分離する必要はなく、紡糸後いったん巻き取ることなく引続き延伸を行う直接紡糸延伸法を採用してもよい。かかる未延伸糸は、広角X線回折法の測定では実質的に非晶性である。また、示差走査熱量計(DSC)測定を行った際に、低温結晶融解相(A)と高温結晶融解相(B)の少なくとも2つの吸熱ピークを示すことはなく、実質的にステレオコンプレックス結晶の単一融解ピークを示す。かかる融解ピーク温度は195℃以上である。すなわち、未延伸糸は非晶性のステレオコンプレックスを形成しているが、低温結晶相を形成可能なポリL−乳酸相およびまたはポリD−乳酸相を含有してないものと推定する。これらの特徴は、繊維が燐酸エステル金属塩(C成分)を含有していることに起因し、従来まったく予想されなかった有用な特性である。
【0051】
未延伸糸の段階でポリL−乳酸またはポリD−乳酸の結晶相を有しないことは、溶融紡糸工程の段階で異型断面を形成させ、その後の延伸工程以降に高いステレオ化率を得るのに有効である。
【0052】
延伸は、1段でも、2段以上の多段延伸でも良く、高強度の繊維を製造する観点から、延伸倍率は、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは3〜10倍である。しかし、延伸倍率が高すぎると繊維が失透し白化するため、繊維の強度が低下する。延伸の予熱は、ロールの昇温のほか、平板状あるいはピン状の接触式加熱ヒータ、非接触式ヒータ、熱媒浴などにより行うことができる。延伸温度は、好ましくは70〜140℃、より好ましくは80〜130℃である。延伸糸においても、低温結晶融解相(A)は実質的に全く観察されず、高温結晶融解相(B)の単一融解ピークのみが見られる。また、延伸糸の高温結晶融解相(B)の融解開始温度は190℃以上、好ましくは200℃以上である。加えて、延伸糸の広角X線回折測定によるステレオコンプレックス結晶回折ピークの積分強度よりもとめたステレオ化率(Sc率)は90%以上と高い水準にある。
【0053】
さらに、かかる延伸糸を熱処理することが好ましい。熱処理は170〜220℃(好ましくは180〜200℃)で行う。熱処理はテンション下で行うことが好ましい。熱処理は、ホットローラー、接触式加熱ヒータ、非接触式熱板などで行うことができる。熱処理することにより、高いステレオ化率を有し、耐熱性や耐アイロン性に優れ、強度2.3cN/dTex以上の繊維を得ることができる。
【0054】
次いで、本発明の布帛は、前記のポリ乳酸異型断面繊維からなる糸条を用いてなる布帛である。ここで、かかる糸条において、布帛の風合いの点で、単糸繊度が0.01〜20dtex(より好ましくは0.1〜7dtex)、総繊度が30〜500dtex、フィラメント数が20〜200本の範囲内のマルチフィラメント(長繊維)であることが好ましい。また、該糸条に撚糸や空気加工、仮撚捲縮加工など施してもよい。特に、該ポリ乳酸異型断面繊維に100〜600T/m程度の撚糸が施されていると布帛の耐摩耗性が向上するだけでなく、布帛を製編織する際の取扱い性が向上し好ましい。また、本発明の布帛には前記のポリ乳酸異型断面繊維からなる糸条が少しでも含まれておればよいが、布帛全重量に対して前記のポリ乳酸異型断面繊維からなる糸条が50重量%以上含まれることが好ましい。特に、前記糸条(ポリ乳酸異型断面繊維)のみを用いて布帛を構成することが最も好ましい。布帛の環境負荷が大きくなるおそれがある。
【0055】
また、前記の布帛において、布帛構造は特に限定されないが、通常の織機または編機により製編織された織物または編物であることが好ましい。もちろん、不織布や、マトリックス繊維と熱接着性繊維とからなる繊維構造体でもよい。例えば、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(よこ編物)であってもよいしたて編物であってもよい。丸編物(よこ編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
【0056】
かかる布帛は染色されていることが好ましい。その際、染色の方法は特に制限されず、染色加工の方法としては、ビーム染色、チーズ染色、パッケージ染色、液流染色など従来公知の染色加工方法でよい。また、染色加工条件としては、温度110〜140℃、20〜40分間の範囲が好ましい。なお、染色加工の際、染色浴中に分散染料だけでなく助剤や各種機能剤が含まれていてもよい。
【0057】
また、染色工程の前に、温度50〜100℃で弱アルカリ下の精錬や温度80〜100℃でアルカリ条件下で減量加工を行ってもよい。また、染色の前および/または後に温度140〜180℃で乾熱処理することは好ましいことである。また、染色工程の後に、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの樹脂をパデング法などにより布帛に付与すると、布帛の耐摩耗性が向上し好ましい。その際、樹脂の付着量は布帛重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲が好ましい。さらには、染色工程の前および/または後に、吸水加工、撥水加工、起毛加工、難燃剤、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0058】
かくして得られた布帛において、布帛に含まれるポリ乳酸異型断面繊維の繊維強度(引張強度)が2.3cN/dtex以上であることが好ましい。特に、染色前のポリ乳酸異型断面繊維の糸強度に対して90%以上保持されることが好ましい。
【0059】
また、かかる布帛において、目付けとしては、30〜1000gr/mの範囲内であることが好ましい。また、布帛が織物である場合は、下記式により算出されるカバーファクター(CF)が500〜4000(より好ましくは1500〜3000)であることが布帛のソフト感、風合い、防視認性の点で好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0060】
また、前記布帛が編物である場合には、30〜100コース/2.54cm、20〜60ウエール/2.54cmの密度であると、布帛の布帛のソフト感、風合い、防視認性の点で好ましい。
【0061】
かかる布帛は前記のポリ乳酸異型断面繊維を用いているので、ソフト感に優れ、かつベトツキ感がなく着用快適性に優れるものである。かかる布帛は、シャツ、ブルゾン、パンツ、コートといった衣料用途、カップ、パッド、靴表皮、中敷等の衣料資材用途、カーテン、カーペット、マット、家具等のインテリア用途、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター、スレーキ、ティーバッグ等の産業資材および一般資材用途、車両内装用途にも好適に使用することができる。特に、ソフト感に優れ、かつベトツキ感がないので、スポーツ衣料、ユニフォーム、紳士衣料品、婦人衣料品、インナー、裏地、帽子、トーブ、民族衣装、インテリア用カーテン、インテリア用ロールブラインド、インテリア用パーテション、車両内装材などの繊維製品として好適に使用される。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何等限定を受けるものではない。また実施例中における各値は下記の方法で求めた。
【0063】
(1)還元粘度:
ポリマー0.12gを10mLのテトラクロロエタン/フェノール(容量比1/1)に溶解し、35℃における還元粘度(mL/g)を測定した。
【0064】
(2)重量平均分子量(Mw):
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0065】
(3)ステレオ化率(Sc化率)
理化学電気社製ROTA FLEX RU200B型X線回折装置用いて透過法により、以下条件でX線回折図形をイメージングプレートに記録した。得られたX線回折図形において赤道方向の回折強度プロファイルを求め、ここで2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近に現れるステレオコンプレックス結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣISCiと、2θ=16.5°付近に現れるホモ結晶に由来する回折ピークの積分強度IHMから下式に従いステレオ化率(Sc化率)を求めた。尚、ΣISCiならびにIHMは図1に示すように、赤道方向の回折強度プロファイルにおいてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって見積もった。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×70mA
スリット: 1mmΦ〜0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 長さ3cm、35mg
Sc化率=ΣISCi/(ΣISCi+IHM)×100
ここで、ΣISCi=ISC1+ISC2+ISC3
SCi(i=1〜3)はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、
24.0°付近の各回折ピークの積分強度
【0066】
(4)融点、結晶融解ピーク、結晶融解開始温度、結晶融解エンタルピー測定:
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解ピーク、ホモ結晶融解(開始)温度、ホモ結晶融解エンタルピーおよびステレオコンプレックス結晶融解ピーク、ステレオコンプレックス結晶融解(開始)温度およびステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーを求めた。
【0067】
(5)強度、伸度
(株)オリエンテック社製“テンシロン”引っ張り試験機にて試料長25cm、引張速度30cm/分の条件で強度(引張強度)と伸度を測定した。
【0068】
(6)耐アイロン性
テストする繊維にて10cm角の布巾を作成し表面温度170℃に調整したアイロンで
30秒アイロン掛けを行い、布巾形状、寸法、風合いの変化より耐熱性を判定した。判定は以下の基準で行った。
合格: ○ 単糸の融着もなく処理前の布巾の形状、寸法、風合いを良好に保つ。
不合格:× 単糸の融着あるいは処理前の布巾の熱変形、ごわごわした風合いへの変化がみられた。
【0069】
(7)150℃での熱収縮率の測定
JIS L−1013 8.18.2項a)により測定した。
【0070】
(8)ソフト性
試験者3人が触感による官能評価を行い、3級:柔らかく極めて良好、2:良好、1:粗硬感あり不良と3段階に評価した。
【0071】
(9)防視認性
繊維糸条に100回/mの甘撚をかけた繊維糸条を経糸に、無撚の繊維糸条を緯糸に用いて、カバーファクター2000として製織し、平織物とした後、生機を、照度300〜700ルクスの机上にて新聞紙の上に置き、新聞紙の文字が視認できるか否かについて判定した。なお、判定は試験者5人により行い、4人以上が視認不可と判定した時、良とした。
【0072】
(10)吸水性
JIS1096「バイレック法」により測定した。
【0073】
(11)通気性
JIS L−1096−79−6.27 通気性A法に準拠し、フラジール型通気量測定器を用いて測定した。
【0074】
(製造例1:ポリマーA1の製造)
光学純度99.8%のL−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)100重量部を重合容器に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2重量部、触媒としてオクチル酸スズ0.05重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリマーA1を得た。得られたポリマーA1の還元粘度は2.92(mL/g)、重量平均分子量は19万であった。融点(Tm)は168℃であった。結晶化点(Tc)は122℃であった。
【0075】
(製造例2:ポリマーA2の製造)
光学純度99.8%のD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)100重量部を重合容器に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2重量部、触媒としてオクチル酸スズ0.05重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリマーA2を得た。得られたポリマーA2の還元粘度は2.65(mL/g)、重量平均分子量は20万であった。融点(Tm)は176℃であった。結晶化点(Tc)は139℃であった。
【0076】
[実施例1]
(溶融紡糸)
ポリマーA1およびポリマーA2のチップを作成し、ポリマーA1/ポリマーA2=50/50(重量比)の割合でV型ブレンダーを使用してチップブレンドした後、110℃で5時間減圧乾燥した。このチップ100重量部に、燐酸2,2―メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)ナトリウム塩(平均粒径5μm)0.5重量部を加え、2軸ルーダー付溶融紡糸機を用い260℃で溶融し、図3に示す断面形状となる吐出孔を30個有した口金から吐出させ、紡糸筒により冷却した後、油剤を付加して、500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。この未延伸糸はSc化率0%で、示差走査熱量計(DSC)で224℃にステレオコンプレックスに由来する単一の結晶融解ピークを有していた。
【0077】
(延伸、熱処理)
この未延伸糸を予熱温度80℃で3.6倍延伸し、更に1.4倍で延伸し(都合5倍延伸)、引続き180℃で熱処理を行い、84dtex/30filの繊維として巻き取った。得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸およびポリD―乳酸からなるステレオコンプレックス結晶の単一融解ピークを示し、融点が224℃であった。また、広角X線回折測定でのSc化率100%、繊維の強度3.1cN/dtex、伸度31%、150℃熱収縮率10%であった。得られた繊維を筒網にして、170℃でアイロン掛けテストをおこなったところ、破れ、穴あき、融着、粗硬化、寸法変化などは みられず、判定は良好であった。
得られた繊維に100回/mの甘撚をかけた繊維を経糸に、無撚の繊維を緯糸に用いて、カバーファクター2000として製織し、平織物とした後、染色加工をし、得られた布帛について評価を行った結果、ソフト性、ベトツキ感、防視認性が全て良好であることが判った。結果を表1および表2に示す。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、溶融紡糸の後、一旦捲取ることなく直接延伸したこと以外は実施例1と同様にした。本例でも、ソフト性、ベトツキ感、防視認性が全て優れていることが判った。結果を表1および表2に示す。
【0079】
[実施例3]
紡糸口金を変更し、繊維糸条の総繊度/単糸数を40dtex/36filに変更すること以外は実施例1と同様にした。本例では、ベトツキ感、防視認性に優れ、実施例1よりも更にソフト性に優れる薄手の布帛となった。結果を表1および表2に示す。
【0080】
[実施例4〜6]
紡糸口金および紡糸条件を変更し、偏平断面の異型度を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にした。結果を表1および表2に示す。
【0081】
[比較例1]
燐酸エステル金属塩を使用しないことした以外は実施例1と同じ操作を行った。本例では、ステレオコンプレックス結晶の比率が低く、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸の結晶相が混在しているため、延伸後熱処理温度180℃ではポリL−乳酸、ポリD−乳酸の結晶相融解に起因する単糸融着、断糸が顕著となり正常に捲取不可能であり、製織編以降を実施できなかった。結果を表1および表2に示す。
【0082】
[比較例2]
繊維断面を丸断面としたこと以外は実施例1と同様にした。本例では、特に防視認性およびソフト性に劣ることが判った。結果を表1および表2に示す。
【0083】
[比較例3]
燐酸エステル金属塩として、アルミニウム2,2―メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニルホスフェート)ハイドロオキサイドを用いたこと以外は実施例1と同様に実施したところ、紡糸の際に昇華物が激しく発生し、紡糸することが困難であった。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、生物由来繊維でありながら強度および耐熱性に優れ、しかもソフト感がありかつベトツキ感のない布帛を得ることが可能なポリ乳酸異型断面繊維および布帛および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例において、ステレオ化率(Sc率)を求めるための赤道方向の回折強度プロファイルの一例を示す。
【図2】本発明において、採用することのできる異型断面形状を模式的に示す。
【図3】くびれ部を説明するための説明図であり、当図はくびれ部が3箇所の場合を図示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなり、単繊維横断面形状が異型断面であることを特徴とするポリ乳酸異型断面繊維。
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【請求項2】
前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシ末端封止剤を含有してなる、請求項1に記載のポリ乳酸異型断面繊維。
【請求項3】
単繊維横断面形状の外接円直径と内接円直径との比が2.5〜10.0の範囲内である、請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸異型断面繊維。
【請求項4】
単繊維横断面形状が、2箇所以上のくびれ部を有する扁平断面度2〜6の扁平断面である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸異型断面繊維。
【請求項5】
示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸異型断面繊維。
【請求項6】
広角X線回折法(XRD)測定によるステレオ化率が90%以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸異型断面繊維。
【請求項7】
引張強度が2.3cN/dtex以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸異型断面繊維。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸異型断面繊維を用いてなる布帛。
【請求項9】
請求項8に記載の布帛を用いてなる、スポーツ衣料、ユニフォーム、紳士衣料品、婦人衣料品、インナー、裏地、帽子、トーブ、民族衣装、インテリア用カーテン、インテリア用ロールブラインド、インテリア用パーテション、および車両内装材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−179923(P2009−179923A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22737(P2008−22737)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】