説明

ポリ乳酸組成物および成形品

【課題】本発明の目的は、本発明の目的は、耐熱性に優れ、E−ゾール不溶の異物量が少なく、光透過性の良好な成形品を与える組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、L−乳酸単位を90モル%以上含有するポリ乳酸(B)およびD−乳酸単位を90モル%以上含有するポリ乳酸(C)を含有し、前者(B)/後者(C)の重量比が10/90〜90/10であり、下記要件(a)〜(c)を同時に満足する組成物(A)である。
(a)重量平均分子量が8万以上50万以下。
(b)示差走査熱量計(DSC)で測定したステレオ化度(S)が80%以上である。
(c)組成物(A)をE−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光透過性および耐熱性に優れた成形品を与えるポリ乳酸組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化などの環境問題、石油枯渇への懸念や産油国の供給事情などにより石油価格が高騰し非石油系樹脂の開発が必要とされている。その中でもポリ乳酸は石油系樹脂の代替と成りうる可能性をもつだけではなく、その透明性や低屈折率などの光学特性に特徴があり、それを活かした用途展開も期待されている。
しかし、ポリ乳酸は通常、結晶融点が160℃程度と低く、融解や変形などの耐熱性に課題があった。また生分解性や湿熱環境下での劣化が比較的速く進行するため、物性の安定性に課題があり、用途が限定される等の欠点を有していた。
他方で、L−乳酸単位からなるポリL−乳酸とD−乳酸単位からなるポリD−乳酸を溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されることが知られている(特許文献1および非特許文献1)。このステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリL−乳酸やポリD−乳酸に比べて、200〜230℃と高融点であり、高結晶性を示す等、興味深い現象が発見されている。
このステレオコンプレックスポリ乳酸を使用することで高温加工や耐熱用途での使用が可能となり、さらに生分解性や湿熱環境下における耐久性の向上、その透明性を生かした光学用フィルム、包装用フィルムなどの高透明フィルムでの長寿命化が期待されている。
【0003】
またステレオコンプレックスポリ乳酸について、溶融成形法、溶液キャスト法などでの成形方法が提案されている。中でも生産性に優れる溶融成形法により、実用的利用に耐えるコストで、良好な品質の成形品を製造することが期待されている。
しかし、ポリ乳酸は脂肪族ポリエステルの一種であり、耐熱性が低く、加熱により熱分解反応、劣化反応が進行し、ポリ乳酸の良溶媒であるE−ゾールにも不溶の異物が生成する場合が少なくない。かかるE−ゾール不溶の異物は、それ自体が成形品中で光散乱を引き起こし、光透過性を悪化させるのみならず、異物を含有する組成物は溶融成形時、溶融樹脂の流動性が不均一となり成形品に流動斑を発生し成形品の光透過性を悪化させることがある。
このような流動斑による成形品の光散乱、光透過性の悪化は深刻な結果をもたらすことが多く、光透過性良好な成形品を得るためには異物含有量を適切にコントロールする必要がある。しかし、ポリ乳酸およびその成形品のE−ゾール不溶量と成形品物性とりわけ光透過性の両立を図る提案はいまだなされていない。
【0004】
また成形品に関し、優れた機械的物性を得るためには、ポリ乳酸の重量平均分子量が高いほうが好ましいが、ステレオコンプレックスの生成は重量平均分子量が高いほど進行し難くなり、より高温度での熱処理が必要となり、また該組成物の溶融成形においても、より高温が必須となる。かかる高温度での熱処理、溶融成形により前述の傾向は一層促進されることとなり、重量平均分子量とE−ゾール不溶物量との両立を図る必要があるが、かかる技術的カテゴリーでの提案は未だなされていない。
【特許文献1】特開昭63−241024号公報
【非特許文献1】Macromolecules,24,5651(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、E−ゾール不溶の異物量が少なく、光透過性の良好な成形品を与える組成物を提供することにある。また本発明の目的は、該組成物よりなる成形品、とりわけフィルムを提供することにある。さらに本発明の目的は、該フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、L−乳酸単位を90モル%以上含有するポリ乳酸(B)およびD−乳酸単位を90モル%以上含有するポリ乳酸(C)を含有し、前者(B)/後者(C)の重量比が10/90〜90/10であり、下記要件(a)〜(c)を同時に満足する組成物(A)である。
(a)重量平均分子量が8万以上50万以下である。
(b)示差走査熱量計(DSC)で測定したステレオ化度(S)が80%以上である。
ここでステレオ化度(S)は、下記式(1)で表される。
S={△Hmsc/(△Hmsc+△Hmh)}×100 (1)
(式中、△Hmhは、DSC測定における190℃未満の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。△Hmcsは、DSC測定における190℃以上の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。)
(c)組成物(A)をE−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下である。
【0007】
また本発明は、該組成物(A)よりなり、下記要件(d)〜(f)を同時に満足する成形品である。
(d)重量平均分子量が8万以上50万以下である。
(e)E−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下である。
(f)厚さ1mmの成形品の波長400nm〜700nm光線透過率が80%以上である。
【0008】
また本発明は、組成物(A)をダイより溶融押出しすることからなり、溶融押出し時の組成物(A)の温度(℃)がTmsc〜(Tmsc+100)の範囲であるフィルムの製造方法を包含する。ここで、Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。
【0009】
本発明は、組成物(A)からなる光学用フィルムまたは包装用フィルムを包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、耐熱性に優れ、E−ゾール不溶の異物量が少なく、光透過性の良好な成形品を与える。本発明の成形品、特にフィルムは、耐熱性および光透過性に優れる。本発明によれば、透明性が良好な光学用または包装用のフィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<組成物(A)>
本発明の組成物(A)は、ポリ乳酸(B)およびポリ乳酸(C)を含有する。ポリ乳酸(B)とポリ乳酸(C)との重量比は、前者(B)/後者(C)が10/90〜90/10、好ましくは40/60〜60/40である。
(ポリ乳酸(B))
ポリ乳酸(B)は、L−乳酸単位を90モル%以上含有する。このポリ乳酸(B)のL−乳酸単位の含有量は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%である。ポリ乳酸(B)は、L−乳酸単位以外の成分を0〜10モル%含有していてもよい。L−乳酸単位以外の単位の含有量は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
共重合できる成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、D−乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマーを選ぶことが出来る。
ポリ乳酸(B)は、その重量平均分子量が10万〜50万の範囲であることが好ましく、14万〜25万であることがより好ましい。
ポリ乳酸(B)は、結晶性を有し、その融点が150℃〜190℃であることが好ましく、さらには160℃〜190℃であることがより好ましい。この範囲に入るポリ乳酸(B)を用いると、組成物(A)が高融点のステレオコンプレックス結晶を形成し、且つ、結晶化度を上げることが出来る。
【0012】
(ポリ乳酸(C))
ポリ乳酸(C)は、L−乳酸単位を90モル%以上含有する。このポリ乳酸(B)のL−乳酸単位の含有量は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%である。ポリ乳酸(C)は、L−乳酸単位以外の成分を0〜10モル%含有していてもよい。L−乳酸単位以外の単位の含有量は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。共重合できる成分は、ポリ乳酸(B)と同じものを例示できる。
ポリ乳酸(C)は、その重量平均分子量が10万〜50万の範囲であることが好ましく、14万〜25万であることがより好ましい。
ポリ乳酸(C)は、結晶性を有し、その融点が150〜190℃であることが好ましく、さらには160〜190℃であることがより好ましい。この範囲に入るポリ乳酸(C)を用いると、組成物(A)が高融点のステレオコンプレックス結晶を形成し、且つ、結晶化度を上げることが出来る。
【0013】
ポリ乳酸(B)およびポリ乳酸(C)を製造する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法で好適に製造することができる。例えばそれぞれの種類の乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、それぞれの乳酸を一度脱水環化してラクチドとした後に開環重合する方法で製造したりしてもよい。
【0014】
これらの製造法において使用する触媒は、ポリL―乳酸成分やポリD―乳酸成分が上記の所定の特性を有するように重合させることが出来るものであれば、いずれも用いることができるが、オクチル酸スズ、塩化スズ、スズのアルコキシドなどの2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ブチルスズ、酸化エチルスズなど4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、ランタニド化合物などを好適なものとして例示することが出来る。
触媒の使用量はラクチド1Kgあたり0.42×10−4〜840×10−4(モル)でありさらに反応性、得られるポリ乳酸の色調、安定性、組成物(A)および該組成物成形品のE−ゾール不溶異物生成能を考慮すると1.68×10−4〜42.1×10−4モル、特に好ましくは2.53×10−4〜16.8×10−4モル使用される。
【0015】
ポリ乳酸(B)およびポリ乳酸(C)は、その重合触媒を従来公知の方法、例えば、溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を失活即ち不活性化しておくのが組成物(A)および成形品の溶融安定性、湿熱安定性およびE−ゾール不溶異物を抑制するために好ましい。
例えば金属含有触媒の存在下、溶融開環重合されたポリ乳酸の場合、触媒失活に使用される失活剤としては以下の化合物が例示される。
【0016】
すなわちイミノ基を有し、且つ特定金属系重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンドおよびジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III,III)、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式xHO.yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸およびこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸、およびこれらの酸の一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテルが例示される。触媒失活能からリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類が好適に使用される。
これらの失活剤は単独で使用しても良いし場合によっては、複数併用使用することもできる。これらの失活剤は、前述の金属含有触媒の金属元素1当量あたり0.3〜20当量、さらに好ましくは、0.5〜15当量、より好ましくは0.5〜10当量、特に好ましくは0.6〜7当量使用される。失活剤の使用量が少なすぎると触媒金属の活性を十分低下させることができないしまた過剰に使用すると失活剤が樹脂の分解を引き起こす可能性があり好ましくない。
【0017】
また本発明に用いるポリ乳酸(B)およびポリ乳酸(C)は、260℃において溶融させた場合の重量平均分子量の低下(以下溶融安定性と略称することがある。)が20%以下であることが好ましい。高温での分子量低下が激しいと、溶融成形が困難になるばかりでなく、得られた成形品の物性が低下し、好ましくない。前記失活処理により好適に、溶融安定性の向上を計ることができる。
組成物(A)の重量平均分子量は、8万〜50万である。かかる分子量範囲において、組成物(A)は、ステレオ化度が高く、透明性良好な成形品、とりわけフィルムを生成するに好適であり、しかも機械的物性良好な組成物(A)成形品、なかでもフィルムを与えることができる。
【0018】
成形品の耐熱性、機械的物性を高めるためには、重量平均分子量は高いほうが好ましいが、組成物(A)の重量平均分子量が上記範囲を超えて大きいと、熱処理によりステレオコンプレックス構造を生成しがたく、ステレオコンプレックス生成に高温を必要とし、ポリ乳酸成分をはじめとするステレオコンプレックスポリ乳酸の熱分解をひきおこし、E−ゾール不溶の異物の生成を促進するようになる。
またかかる熱分解が進行すると、組成物(A)の色相を悪化し、はなはだしい場合、工業的使用に適さないほど着色した組成物(A)を生成することもあり、この問題も重要な課題である。
【0019】
重量平均分子量の観点より機械的物性、異物生成抑制能を両立させる提案は従来なされたことはなく、本発明者らが今回初めて明らかにするものである。即ち、上記観点より重量平均分子量は好ましくは8万〜30万、より好ましくは9万〜25万、特に好ましくは10万〜20万の範囲が選択される。また重量平均分子量が7万未満であると成形品の成形が困難であると同時に機械物性が不良になる場合が発生する。
【0020】
本発明の組成物(A)は、DSC測定において下記式(1)で表されるステレオ化度(S)が80%以上である。
S={△Hmsc/(△Hmsc+△Hmh)}×100 (1)
式中、△Hmhは、DSC測定における190℃未満の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。△Hmcsは、DSC測定における190℃以上の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。
かかるステレオ化度を有する組成物(A)は、高い割合でステレオコンプレックスポリマーを形成しており、高耐熱性で透明性の良好な成形品、とりわけフィルムとすることができる。ステレオ化度が低いと、溶融成形時、ステレオコンプレックス結晶構造が発現しにくく、成形品の耐熱性、機械強度が発現され難い。
【0021】
本発明において組成物(A)は、E−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下である。上記範囲を超えてE−ゾール不溶物が存在すると、組成物(A)の成形品とりわけフィルムの光透過性が不良となる場合が多くなり、組成物(A)を透明用途とするのは不適の範囲となる。即ち0.1重量%を超過して不溶物が存在すると、混在異物のため、光透過率が悪化するのみならず、溶融成形時、溶融成形機の流動域において均一な流動が妨げられ、成形品に流動斑が発生する原因となることがある。E−ゾールは、テトラクロロエタン/フェノール=(6/4:重量)混合溶媒である。
E−ゾール不溶物量は少ないほうがいいが、実質ゼロにするのに必要なコストを考えると工業的には困難であるが、E−ゾール不溶物量は0.1重量%〜0.0001重量%の範囲にすることが好ましい。さらに好ましくは0.08重量%〜0.0001重量%、より好ましくは0.07重量%〜0.0003重量%の範囲である。かかる異物量範囲にあれば、溶融成形品、とりわけフィルムの透明性を良好にすることが可能である。
【0022】
本発明の組成物(A)は、ポリ乳酸(B)とポリ乳酸(C)とを共存させ、混合し、230〜300℃で熱処理することにより得ることができる。より好ましくは剪断条件下、両成分を溶融混練することにより得ることができる。
ここで溶融混練に用いる混合装置としては、バッチ式の攪拌翼がついた反応器、連続式の反応器のほか、二軸あるいは一軸のエクストルーダー、さらに好ましくはミキシング部を有するエクストルーダー、セルフクリーニング能を有する例えば、三菱重工製のN−SCR,フィニッシャータイプの無軸篭型攪拌装置などを挙げることができる。
セルフクリーニング能を有する融混練機であるエクストルーダーとしては、ミキシング部例えばフルート溝付バリア型ミキシングスクリュー或いはスパイラルバリア型ミキシングスクリューを有するエクストルーダーが、ステレオコンプレックス化を効果的に推進でき、溶融混練時間を一定にして、E−ゾール不溶物の生成を抑制できるので好ましい。
かかる混合熱処理装置材質、特に表面材質としては、ポリ乳酸の分解、劣化を促進しないものがE−ゾール不溶物の生成を抑制するために好ましい。例えば、SUS316等の名称で知られるオーステナイト、チタン、ニッケル、クロムなどの金属またはこれらを含有する合金、タングステンカーバイドなどの炭化物、窒化チタンなど窒化物、ホーローなどのセラミックスなどが好ましい材質として例示される。
【0023】
これらの材質を使用し装置本体を製造してもよいし、これらの材質で樹脂と接触する可能性のある装置表面を被覆することも好ましい対応である。
溶融混練に先立ち固体状態で存在する両成分をタンブラー式の粉体混合器、連続式の粉体混合器、各種のミリング装置などを使用して混合、両者を均一にかつ緊密に混合しておくことが好ましい。
【0024】
ここで230〜300℃での熱処理とは、ポリ乳酸(B)とポリ乳酸(C)とを230℃〜300℃の温度領域で接触、維持することをいう。E−ゾール不溶の異物生成能を考慮すると、熱処理の温度は好ましくは240〜295℃である。より好ましくは250℃〜293℃の範囲である。特に好ましくは260℃〜285℃の範囲である。300℃を超えると、異物の生成および分解反応を抑制するのが難しくなるので好ましくない。230℃より低いとステレオコンプレックスの生成が低い場合が発生する。
熱処理の時間はステレオコンプレックスの生成およびE−ゾール不溶物を両立させるため、熱処理温度との関係で決定されるが、240℃程度の低い熱処理温度では0.1〜30分間、好ましくは5〜10分間、さらにこのましくは1〜10分の範囲である。また290℃程度の温度では、0.1分〜10分、好ましくは0.5分〜8分、さらに好ましくは1分〜5分の範囲である。
熱処理は不活性ガス雰囲気下、常圧、加圧または減圧のいずれの雰囲気でも適用可能である。組成物(A)中のE−ゾール不溶物を0.1重量%以下にするためには、樹脂溶融処理領域のほか、原料樹脂保存領域、輸送領域、供給領域、樹脂加熱領域、溶融押し出しダイ中およびダイを出てなおかつ組成物(A)が溶融状態にある冷却領域を不活性ガス雰囲気に保つことが好ましい。このとき不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10mmp以下の低い水準にコントロールすることが薦められる。
不活ガス雰囲気ガス中の酸素濃度をかかる範囲に制御するには、酸素含有量が10ppm或いはそれ以下の高純度不活性ガスを雰囲気ガスとして使用すると同時に不活性ガス雰囲気領域の酸素ガスとの遮断性を良好にすることが好ましい。さらに不活性ガスでの置換速度を十分早くすること、例えば1回/分〜100回/分、好ましくは3回/分〜50回/分、さらに好ましくは5回/分〜40回/分にすることが好ましい。
【0025】
さらに、原料ポリ乳酸(B)、(C)および各種添加剤を使用に先立ち不活性ガス雰囲気下に保存したり、保存中あるいは使用に先立ち真空処理、不活性ガス置換などの脱酸素処理を行うこともE−ゾール不溶物を減少させるのに好ましい。
なお不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、炭酸ガス、有機ガス或いはこれらの混合ガスが使用可能であるが、純度、コストの面より、工業的には窒素ガスが好適に使用する事が出来る。
【0026】
本発明の組成物(A)および成形品には、従来公知の結晶化核剤の適用がステレオコンプレックス生成、ステレオ化度向上および成形品のステレオ結晶化度コントロールのため好ましい。かかる結晶化核剤を存在させると、組成物(A)および成形品のステレオ化度を90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上とすることができる。
【0027】
特にDSC測定でステレオコンプレックスポリ乳酸に起因する高融点ピークの単一ピークとなるステレオ化度を100%とするために有効である。
かかるステレオ化度の組成物より、結晶化度の高い、即ちステレオ結晶化度30%〜60%の高い範囲の成形品を得ることができる。かかる範囲の結晶化度が実現されることは、成形品の耐熱性を高いレベルに到達させるために好適である。
【0028】
結晶化度が上記範囲をはずれる成形品は、耐熱性がポリ乳酸ホモポリマーの耐熱性に接近し、ステレオコンプレックス生成の意味が小さなものとなってしまう。またポリ乳酸ホモポリマーとステレオコンプレックスポリ乳酸は平衡組成物として共存しているので、結晶化度を、60%を超えて上昇させることは多大の努力が必要とされコストの面より薦められない。即ち、かかる範囲のステレオ化度、低いE−ゾール不溶物生成能の組成物は、優れた耐熱性、機械的物性および光透過性を有する成形品を実現するのに好適である。
結晶化核剤は、従来公知の結晶化核剤、たとえば特開2003−192884号公報などに記載の結晶化核剤を好適に使用することが出来る。
本発明においては、これらの結晶化核剤の中でも、明確な作用機作は不明であるが、ステレオ化度を向上させ、成形品の透明性、耐熱性を向上させるに好適な三斜晶結晶粒子およびまたは燐酸エステル金属塩が好ましく使用される。
【0029】
かかる無機核剤としては例えば、ワラストナイト(wollasutonite)、ゾノトライト(xonotollite)、硼酸石、炭酸水素マグネシウムカリウム、メタ珪酸カルシウム(α)、メタ珪酸カルシウム(β)メタ珪酸マンガン、硫酸カルシウム、硫酸セリウム(III)、燐酸亜鉛、燐酸二水素亜鉛、燐酸二水素カルシウム、アルミノ珪酸アルミニウム、アルミノ珪酸カリウムなどが例示される。
これらのうち、ステレオ化度の向上、透明性向上の観点よりワラストナイト、硫酸カルシウム、メタ珪酸カルシウムが、なかでもワラストナイト、メタ珪酸カルシウム(α)などが好ましいものとして挙げられる。
これらのうち、ステレオ化度の向上、染色堅牢度向上の観点よりワラストナイト、硫酸カルシウム、メタ珪酸カルシウムが、なかでもワラストナイト、メタ珪酸カルシウム(α)などが好ましいものとして挙げられる。
【0030】
本発明で使用する燐酸エステル金属塩として好ましいものとして、下記式(3)、(4)で表される芳香族有機燐酸エステル金属塩が挙げられる。
芳香族有機燐酸エステル金属塩は1種類のものあるいは複数種類のもの或いは各種剤を含有するものを併用することもできる。
【0031】
【化1】

【0032】
式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。
【0033】
【化2】

【0034】
式中R、RおよびRは各々独立に、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表しMはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。芳香族有機燐酸エステル金属塩は1種類のものあるいは複数種類のものを併用することもできる。
式(3)においてRは水素原子、または炭素数1〜4個のアルキル基を表す。Rで表される炭素原子数1〜4個のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル,iso−ブチル、などが例示される。R、Rは各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。
炭素数1〜12個のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル,iso−ブチル、tert−ブチル、アミル、tert−アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、iso−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、iso−ノニル、デシル、iso−デシル、tert−デシル、ウンデシル、ドデシル、tert−ドデシル基などが挙げられる。
はNa,K,Liなどのアルカリ金属原子、Mg,Ca等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表す。pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子の時は0を、Mがアルミニウム原子のときは1または2を表す。
式(3)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、たとえばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0035】
式(4)においてR、R、Rは各々独立に水素原子、炭素数1〜12個のアルキル基を表す。R、R、Rで表される炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル,iso−ブチル、tert−ブチル、アミル、tert−アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、iso−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、iso−ノニル、デシル、iso−デシル、tert−デシル、ウンデシル、ドデシル、tert−ドデシルなどが挙げられる。
はNa,K,Liなどのアルカリ金属原子、Mg,Ca等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表す。pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子の時は0を、Mがアルミニウム原子のときは1または2を表す。
式(4)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、たとえばR、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0036】
燐酸エステル金属塩のうち市販されているもの、たとえば旭電化(株)製の商品名、アデカスタブNA−10,NA−11,Na−21,NA−30、NA−35なども本発明の燐酸エステル金属塩として所望の目的に有効に使用できる。これらのうち、燐酸エステルアルミニウム塩と有機助剤を含有するNa−21が成形品なかでも繊維物性の点から好ましい物として例示される。
かかる結晶化核剤の使用量は、組成物(A)100重量部あたり0.01〜5重量部の範囲である。0.01重量部より少量であると所望の効果がほとんど認められないか、実用に供するにはあまりに小さいものでしかない。また5重量部より多量に使用すると成形品形成時、熱分解を起こしたり、劣化着色が起きたりする場合があり好ましくない。
したがって好ましくは0.05〜4重量部の範囲が特に好ましくは0.1〜3重量部の範囲が選択される。
【0037】
また本発明に使用される結晶核剤は粒径ができるだけ小さいもの、特に10μm超の大型粒子の含有割合の少ないものがポリ乳酸成形品の成形性、透明性の観点から好ましいが、実用上は0.01〜10μmのものが好適に使用される。さらに好ましくは0.05〜7μmのものが選択される。10μm超の大型粒子の含有割合が20%を超えるとポリ乳酸成形品の欠陥割合が高まり好ましくない。
かかる粒径の結晶核剤は、ボールミル、サンドミル、ハンマーククラッシャー、アトマイザーにより、市販の結晶核剤を粉砕し、各種分級機により分級することにより容易に得ることができる。結晶核剤の粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、また実用上それほど小さくする必要もない。しかし粒径が10μmより大きい或いは大きいものの含有割合が高いと、成形品欠陥率が高まる問題が大きくなり好ましくない。
【0038】
本発明の組成物(A)および成形品は、カルボキシ末端基濃度が0.1〜60当量/トンであることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜40当量/トン、より好ましくは0.2〜20当量/トン、特に好ましくは0.3〜10当量/トンの範囲である。
この範囲を超えてカルボキシ基が存在すると樹脂組成物、或いは成形品の湿熱条件下での耐久性、或いは溶融安定性を悪化させ、使用時、或いは溶融成形時、樹脂が劣化、分子量が低下したり着色したりする場合が起こり好ましくない。また上記範囲以下にカルボキシ基を低下させても、前述の湿熱安定性、溶融安定性の向上は実用的に意味を有するほど良化しないことが多い。
【0039】
組成物(A)および成形品のカルボキシ基濃度を0.1〜60当量/トンとするには、固相重合によりカルボキシ基濃度の減少したポリ乳酸(B)、(C)を使用することも好ましい実施態様であるが、本発明においては、カルボキシ基封止剤を適用するのが好ましい。両者を併用することも好ましい態様のひとつである。
カルボキシ基封止剤はポリ乳酸樹脂のカルボキシ末端基を封止するのみでなく、ポリ乳酸樹脂や各種添加剤の分解反応で生成するカルボキシ基やラクチド、乳酸、ギ酸、ピルビン酸などの低分子化合物のカルボキシ基を封止し樹脂を安定化することができる利点も有する。
さらに、上記酸性低分子化合物がポリ乳酸を分解して生成する水酸基末端、あるいは樹脂組成物中に侵入する水分を防止する利点もまた有する。
【0040】
かかるカルボキシ基封止剤としては、従来公知のカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物などが好ましいものとして例示される。
中でもカルボジイミド化合物が好適に使用することができる。本発明で使用するカルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有し、好ましくはイソシアネート基を0.1〜5重量%含有し、カルボジイミド当量が200〜500の化合物である。
カルボジイミド化合物中にイソシアネート基が少量存在すると、イソシアネート化合物併用の効果が現れるのみならず、カルボジイミド基とイソシアネート基がより緊密に存在することにより、湿熱耐久性の向上に一層効果が発揮される。
またカルボジイミド化合物としては、市販のポリカルボジイミド化合物は、合成する必要もなく好適に使用することができる。かかる市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡(株)より市販されているカーボジライトの商品名で販売されているカーボジライトLA−1、あるいはHMV−8CAなどを例示することができる。
【0041】
本発明においてカルボキシ基封止剤の使用量は組成物(A)100重量部あたり0.01〜10重量部が好ましく、0.03〜5重量部がさらに好ましい
本発明においてはフィルムキャスティング時、スルホン酸四級ホスホニウム塩を組成物(A)に適用することにより、溶融押し出し時、静電密着法による冷却ロールとの密着性を良好としフィルムの平坦性、厚み均一性が良好となりピン状欠陥などの表面欠陥もなく、色相も良好なものとすることができる。
【0042】
本発明においてスルホン酸四級ホスホニウム塩としては例えば式(5)で表される化合物および式(6)で表される化合物が好ましく使用できる。
【0043】
【化3】

【0044】
式中nは、1または2であり、X、Xは同一または異なっていてもよい水素原子またはエステル形成性官能基であり、Aは(n+2)価の炭素数2〜18の脂肪族基または芳香族基であり、R、R、R、Rは同一または異なっていてもよい炭素数1〜18のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜12のアリール基である。ただし、X、Xは同時に水素原子であることはない。
【0045】
【化4】

【0046】
式中mは、1または2であり、Aはm価の炭素数4〜18の脂肪族基または芳香族基であり、R、R、R、Rは同一または異なっていてもよい炭素数1〜18の一価の炭化水素基である。
上記式(5)中X、Xは同一または異なっていてもよい水素原子またはエステル形成性官能基である。エステル形成性官能基としては、例えばカルボキシル基、アルコキシカルボニル基、水酸基などを挙げることができる。ただし、X、Xは同時に水素原子であることはない。R、R、R、Rは同一または異なっていてもよい炭素数1〜18のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜12のアリール基である。
【0047】
炭素数1〜18のアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。具体的にはメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル,t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−ペンタデシル、n−オクタデシル基などを挙げることができる。
炭素数7〜12のアラルキル基としては例えばベンジル、2,−メチルベンジル、4−メチルベンジル、2,4−ジメチルベンジル、4−エチルベンジル基等を挙げることができる。炭素数6〜12のアリール基としては例えば、フェニル、トリル、キシリル、2−メチルフェニル、4−メチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、ナフチル、ビフェニル基などをあげることができる。
nは1または2である。Aは(n+2)価、すなわち3価または4価の炭素数2〜18の脂肪族基または芳香族基である。Aの具体例としては以下に記載する式(1)の化合物の具体例から明らかとなろう。
【0048】
かかるスルホン酸四級ホスホニウムのうち前記式(5)で示したスルホン酸四級ホスホニウム塩が冷却ドラムとの密着性が良好となり好ましく、特に3,5−カルボキシベンゼンー4−スルホン酸テトラブチルホスホネートが好ましい。
尚、スルホン酸四級ホスホニウム塩は1種のみで使用することもできるが、フィルムの耐熱性、潤滑性、透明性など所望の目的を達成するため、2種以上併用することも好ましい使用法である。
スルホン酸四級ホスホニウム塩の含有量は好ましくは0.003〜0.5重量%であり、より好ましくは0.005〜0.1重量%である。この割合が0.003重量%より少ないとポリ乳酸フィルムと冷却ドラムとの密着が不十分なものとなり目的を達成することができない。またこの割合が0.5重量%を超えるとポリ乳酸中のスルホン酸四級ホスホニウム塩の分散性が悪くなりフィルムにフィッシュアイが発生したり、或いは溶融製膜する際にスルホン酸四級ホスホニウム塩の熱分解やポリ乳酸の熱分解が顕著になりフィルムの着色が著しくなる。
【0049】
さらに本発明フィルムにおいては、フィルム巻取り、走行性を改良する目的で,本発明の目的に反しない範囲で、組成物(A)中に潤滑剤を適用することも好ましい実施態様である。
本発明の組成物(A)には所望により、本発明の趣旨に反しない範囲においてポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、軟質熱可塑性樹脂、耐衝撃改良剤、結晶化促進剤、結晶化核剤、静電密着法による製膜性改良剤、可塑剤、潤滑剤、有機、無機の滑剤、有機、無機充填剤、フェノール系、リン系およびイオウ系などの酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤,熱安定剤、離型剤、防曇剤、帯電防止剤、難燃剤、耐衝撃性強化剤、発泡剤、抗菌抗カビ剤、有機、無機系の染料、顔料、を含む着色剤、天然或いはポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ABSなどの合成高分子などの、1種あるいは2種以上を含有させることができる。
【0050】
本発明の組成物(A)に、上記添加剤を適用するには、ポリ乳酸の重合開始より溶融成形前の間の任意の段階で剤を配合することにより、適用することができる。
重合開始から終了までの間に剤を添加する場合、通常の剤投入法を使用することで剤含有ポリ乳酸を製造することができる。
また剤をポリ乳酸に添加するには、従来公知の各種方法を好適に使用することができる。たとえば、ポリ乳酸と燐酸エステル金属塩をタンブラー、V型ブレンンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサーバンバリーミキサー、混練ロール、1軸または2軸の押出機等で混合する方法が適宜用いられる
かかるポリ乳酸(B)、(C)よりなる組成物(A)はそのまま溶融成形することも可能であるが、一度固化しペレット化した後、成形加工することも好ましい実施例態様のひとつである。ペレットの形状は、ペレットを各種成形方法で成形するに好適な形状を有するもの、具体的にはペレット長は1〜7mm程度、長径3〜5mm程度、短径1〜4mm程度のものが好ましい。またかかるペレット形状は、ばらつきの少ないものが好ましい。
【0051】
<成形品>
本発明の組成物(A)は、従来公知の射出成形法、ガス支援射出成形法、Push−Pull射出成形法、SPモールド法、ゲートシール法、中空射出成形法、押し出し成形法、ブロー成形法、射出ブロー成形法、回転成形法、スタンパブル成形、真空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、圧空.真空成形法、熱加工法、冷間加工法、インフレーション成形法などの方法によって各種成形品に加工することができる。
射出成形時、成形品の結晶化、成形サイクルを上げる観点から金型温度は30℃以上が好ましく、60℃以上がさらに好ましく、70℃以上がより好ましい。しかし製品の変形を防ぐ意味において、140℃以下に設定する必要がある。さらに好ましくは120℃以下、特に好ましくは110℃以下が選択される。かかる温度範囲において使用装置の特性を勘案し適当な温度に設定するのが実用的に好ましい。
成形品は、組成物(A)よりなり、下記要件(d)〜(f)を同時に満足することが好ましい。
(d)重量平均分子量が8万以上50万以下である。
(e)E−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下である。
(f)厚さ1mmの成形品の波長400nm〜700nm平均光線透過率が80%以上である。
【0052】
成形品は、DSCで測定したステレオ化度(S)が80%以上、結晶化度(Cr)が30%〜60%であることが好ましい。但し結晶化度(Cr)は下記式(2)で表される。
Cr=(△Hmsc/142)×100 (2)
式中△Hmcsは、DSC測定における190℃以上の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。
【0053】
成形品としてパソコン、ワープロ、ファクス、コピー機、プリンター等のOA機器のハウジングおよびシャーシ、CD−ROMのトレー、ターンテーブル、ピックアップシャーシ、各種ギア等のOA内部部品、テレビ、ビデオ、電気洗濯機、電気乾燥機、電気掃除機等の家庭電器製品のハウジングや部品、電気鋸、電動ドリル等の電動工具、望遠鏡鏡筒、顕微鏡鏡筒、カメラボディ、カメラハウジング、カメラ鏡筒等の光学機器部品、ドアーハンドル、ピラー、バンパー、計器パネル等の自動車用部品などを好適に製造することが出来る。特に機械的強度、耐薬品性、湿熱疲労性などが要求される自動車部品(アウタードアハンドル、インナードアハンドルなど)や機械部品(電動工具カバーなど)などの射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品に好適である。
またボトルなどブロー成形品、包装用フィルム、コンデンサー用フィルム(たとえば肉厚3μm以下のフィルム)、プリンターリボン用フィルム(たとえば肉厚5μm程度のフィルム)、感熱孔版印刷用フィルム、磁気記録フィルム(たとえばQICテープ用:コンピューター記録用フィルム1/4インチテープ)、モングレアフィルム、偏光板の保護フィルム、反射防止フィルムや防眩フィルム等などのフィルム、シート、不織布、繊維、捲縮糸、これらの繊維よりの布、他の材料との複合体、農業用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品またはその他の成形品を得ることができ、成形は常法により行うことができる。
【0054】
<フィルム>
フィルムは、組成物(A)を、ダイより溶融押出しして製造することができる。溶融押出し時の組成物(A)の温度(℃)は、Tmsc〜(Tmsc+100)の範囲であることが好ましい(ここで、Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す)。溶融押出し時の組成物(A)の温度は、好ましくは流動斑が生成しにくい240〜300℃、さらに好ましくは245〜280℃、特に好ましくは250〜275℃である。
溶融押出しは、組成物(A)をダイより冷却ドラム上に押し出し、フィルムを回転する冷却ドラムに密着させ冷却することによって行なうことが好ましい。
フィルムキャスティング時、静電密着法により電極より静電荷を印加させながら冷却ドラムにて冷却固化させることが好ましい。この時、静電荷を印加する電極はワイヤー状或いはナイフ状の形状のものが好適に使用される。
また該電極の表面物質が白金であることが好ましい。即ち、長時間にわたり製膜を続けるとき、フィルムより昇華する不純物が電極表面に付着したり、電極表面が変質したりして静電気の印加能力が低下する懸念があるが、高温空気流を電極或いはその近傍に噴きつけ電極上部に排気ノズルを設置することにより不純物の付着を防ぐことができる。また白金を電極表面物質とし、放電電極を170〜350℃に保つことにより、上記問題をより効率的に防ぐことができる。
押出機に供給する組成物(A)は、溶融時の分解を抑制するため、押出機供給前に乾燥しておくことが好ましい。水分含有量は100ppm以下であることが特に好ましい。組成物(A)は、所望により前述の結晶化核剤、カルボキシ基封止剤、スルホン酸四級ホスホニウム塩、潤滑剤などを含有していてもよい。
【0055】
得られる未延伸フィルムは、必要に応じてさらに一軸方向或いは二軸方向に延伸して、一軸延伸フィルム或いは二軸延伸フィルムとすることができる。かかる一軸延伸フィルム或いは二軸延伸フィルムを得るには、上記未延伸フィルムを延伸可能な温度、即ちポリ乳酸のガラス転移温度(以下Tgと記すことがある。)以上Tg+80℃以下の温度に加熱し、少なくとも一軸方向に延伸する。
延伸倍率は一軸延伸フィルムで2〜12倍、二軸延伸フィルムでは延伸面積倍率で5〜50倍の範囲で選択される。二軸延伸フィルムは、例えば未延伸フィルムを縦方向にまず延伸し、ついで横方向に延伸する縦−横逐次延伸法、縦方向と横方向とを同時に延伸する同時に軸延伸法などにより製造することができる。この二軸延伸フィルムは、さらに縦方向あるいは横方向の一軸方向に、或いは縦方向および横方向の二軸方向に再延伸して二軸再延伸フィルムとすることもできる。
【0056】
一軸延伸フィルム或いは二軸延伸フィルムは延伸処理後、熱処理することが好ましい。組成物(A)の結晶融解ピーク温度(Tmsc)以下の温度で熱処理することが好ましい。また組成物(A)のTmh〜Tmscの範囲で熱処理することにより、フィルムの破断も少なく、熱固定効果も十分たかくなり、寸法安定性の良好なフィルムとすることができる。ここで、Tmhは、DSC測定における190℃未満の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。
即ち、フィルムは、溶融押出して得られた未延伸フィルムを一軸または二軸延伸し、その後、Tmh〜Tmscの温度(℃)で熱処理することにより製造することができる。
かくして得られた一軸延伸フィルム或いは二軸延伸フィルムには、所望により従来公知の方法で、例えば特公昭56−18381号、特公昭57−30854号に記載の方法に準拠し、表面活性化処理、たとえばプラズマ処理、アミン処理、コロナ処理を施すことも可能である。
【0057】
本発明のフィルムは、厚さ50μmでの波長400nm〜700nmの平均光透過率が90%以上あることが好ましい。本発明のフィルムは、組成物(A)をダイより溶融押出して得られるフィルムであり、溶融押出し時の組成物(A)の温度(℃)がTmsc〜(Tmsc+100)であることが好ましい。本発明のフィルムは、一軸または二軸延伸した後に、Tmh〜Tmscの温度範囲で熱処理して得られることが好ましい。
【0058】
本発明のE−ゾール不溶性異物が少なく、透明性良好で、耐熱性良好なフィルムは、包装用フィルム、コンデンサー用フィルム(たとえば肉厚3μm以下のフィルム)、プリンターリボン用フィルム(たとえば肉厚5μm程度のフィルム)、感熱孔版印刷用フィルム、磁気記録フィルム(たとえばQICテープ用:コンピューター記録用フィルム1/4インチテープ)、モングレアフィルム(たとえば肉厚50μm以下のフィルム)に有用である。本発明のフィルムは、包装用フィルム、光学用フィルムに好適である。特にヘーズ1%以下のフィルムは光学用途に有用である。
【0059】
光学用フィルムとしては、偏光板の保護フィルム、反射防止フィルムや防眩フィルム等に使用できる。ポリ乳酸フィルムは光学弾性率が低いという特徴があり、例えば大面積の液晶画面の端などでかかる応力により光学特性の変化が少ないため、均一な画面が得られる。さらに、偏光板の保護フィルムとしてポリ乳酸フィルムを使用した場合は、その複屈折率が低く抑えられることで光学特性を安定して得ることができる。
さらにステレオコンプレックスポリ乳酸の強みとして延伸倍率により屈折率が変化しにくい傾向にあるため、延伸斑によるレターデーションの斑が発生しにくくなるメリットがある。
また、その水蒸気透過性により、水系のキャスティングフィルムであるポリビニルアルコール(PVA)を十分に乾燥することが可能であり、トリアセチルセルロース(TAC)の代替として使用可能である。ステレオコンプレックスポリ乳酸を使用することにより、耐湿熱性が向上し改良される。
さらに、食品用包装フィルムとして使用する場合は、内容物が可視であるだけでなく、ステレオコンプレックスポリ乳酸の高融点のため加熱殺菌が可能となることや電子レンジでの加熱が可能になる等のメリットがでてくる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。実施例中の各値は以下の方法により求めた。
(1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn):
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。GPC測定器は、以下のものを用い、クロロホルム溶離液を使用、カラム温度40℃、流速1.0ml/minで流し、濃度1mg/ml(1%ヘキサフルオロイソプロパノール含有クロロホルム)の資料10μlを注入し測定した。
検出器:示差屈折計 (株)島津製作所製 RID−6A
ポンプ:(株)島津製作所製 LC−9A
カラム:(株)東ソーTSKgelG3000HXL,TSKgelG4000HXL,TSKgelG5000HXLとTSKguardcokumnHXL−Lを直列に接続。
【0061】
(2)結晶融解ピーク温度、結晶融解熱、ステレオ化度および結晶化度:
パーキンエルマー(株)製DCS7示差走査熱量計(DSC)により以下の測定をおこなった。試料10mgを窒素雰囲気下、1st RUNにて昇温速度20℃/分で、30℃から250℃に昇温し、低温結晶融解ピーク温度(Tmh、℃)および高温結晶融解ピーク温度(Tmsc、℃)、低温結晶融解熱(△Hmh(J/g))および高温結晶融解熱(△Hms(J/g))を測定した。
ステレオ化率(S)は、190℃以下の低温相結晶融解熱(△Hmh(J/g))および190℃以上の高温相結晶融解熱(△Hmsc(J/g))より下記式(1)により求めた。
S=△Hmsc/(△Hmh+△Hmsc)×100(%) (1)
また結晶化度(Cr)は、下記式(2)により求めた。
Cr=(△Hmsc/142)×100 (2)
(式中、142(J/g)はステレオコンプレックスポリ乳酸完全結晶の結晶融解熱である。)
【0062】
(3)E−ゾール不溶物:
試料10mgをE−ゾール;〔テトラクロロエタン/フェノール=(6/4)wt混合溶媒〕1000mLに35℃、1hrで溶解、旭製作所(株)販売のテフロン(登録商標)フィルターフィルム(平均穴径25ミクロン)で濾過、残渣をクロロホルムで洗浄、乾燥後、E−オール不溶物重量を精密天秤で測定した。
(4)溶融安定性(%):
試料を窒素雰囲気下、260℃、10分間保持後の還元粘度の保持率を測定した。ポリ乳酸樹脂(A)をフィルム化するとき、溶融安定性が80%以上であれば通常の溶融押しが問題なくでき、溶融安定性合格と判断した。
(5)還元粘度(ηsp/c)の測定:
還元粘度は、試料1.2mgをE−ゾール、100mlに溶解、35℃においてウベローデ粘度管を使用して測定した。
(6)湿熱安定性(%):
試料を80℃、90%RHで11hr保持し、還元粘度(ηsp/c)の保持率(%)を測定、湿熱安定性とし耐久性のパラメーターとした。該パラメーターが80%以上であれば、ポリ乳酸樹脂組フィルムを通常の湿熱条件下で安定的に使用でき耐久性合格と判定した。また90%以上であれば特別に良好と判断した。
【0063】
(7)ペレット色相;
組成物(A)のペレット色相を日本電色(株)製Z−1001DP色差計により、カラーL/b値を測定した。カラーb値が大きいほど色相が悪いことを示す。カラーb値が10超のペレットは商業用途に不適と判断した。
(8)成形性
厚さ3mmのASTM測定用の成形片を住友重機(株)製ネオマットN150/75射出成形機によりシリンダー温度260℃、金型温度60℃、成形サイクル150秒で100ショット成形し、最終10ショットの成形品のゆがみ、黒色異物の有無を目視判定した。ゆがみ、黒色異物が認められないランは合格(OK)、明白なゆがみ、黒色異物の認められるランは不合格(×)とした。微小な異物、微細なゆがみの見られるランは保留(△)とした。成形性不合格の組成物(A)は工業的使用には不適と判断した。
(9)成形品の光透過性
成形性評価と同様にして厚さ1mmの成形板を作成し、分光光度計UV−3100PC(島津製作所(株)製)を用いて波長400nm〜800nmまでの光透過率を測定、平均値を光線透過率とし、以下のように合否を判定した。
合格;光線透過率が80%以上であり、450nmと750nmの光線透過率の差が10%以下の時。
不合格(×);上記条件を満たさないとき。
【0064】
(10)フィルムの光透過性
分光光度計UV−3100PC(島津製作所(株)製)を用いて波長400nm〜800nmまでの光透過率を測定、平均値を光線透過率とし光線透過率が90%以上のとき合格、90%未満を不合格(×)と判定した。
(11)成形品の耐熱性
成形性評価用の結晶化成形板をASTM D648(0.45Ma)に準じて、熱変形温度を測定、110℃未満の試料を耐熱性不合格、110℃以上の試料を耐熱性合格と判断した。
(12)フィルムの耐熱性
厚さ15ミクロンのフィルムを150℃の熱収縮率にて判定した。収縮率5%超の試料、或いは融解した試料を耐熱性不合格、収縮率5%未満の試料を耐熱性合格と判定した。
【0065】
(合成例1−1)ポリL−乳酸の合成
真空配管、および窒素ガス配管、触媒、L−ラクチド溶液添加配管、アルコール開始剤添加配管を具備したフルゾーン翼具備縦型攪拌槽(40L)を窒素置換後、L−ラクチド30Kg、ステアリルアルコール0.90kg(0.030モル/kg)、オクチル酸スズ6.14g(5.05×10−4モル/1Kg)を仕込み、窒素圧106.4kPaの雰囲気下、150℃に昇温した、内容物が溶解した時点で、攪拌を開始、内温をさらに190℃に昇温した。内温が180℃を超えると反応が始まるので冷却を開始し、内温を185℃〜190℃に保持し1時間反応を継続した。さらに攪拌しつつ、窒素圧106.4kPa、内温200℃〜210℃で、1時間反応を行なった後、リン系失活剤を添加し10分間攪拌を継続した。攪拌を停止し、さらに20分間静置して気泡除去をおこなった後、内圧を窒素圧で2から3気圧に昇圧しプレポリマーをチップカッターに押し出し重量平均分子量12万、分子量分散1.8のプレポリマーをペレット化した。
さらに、ペレットを押出機で溶解させ無軸籠型反応装置に15kg/hrで投入し1.03kPaに減圧し残留するラクチドを低減処理し、それを再度チップ化しポリL−乳酸を得た。得られたポリL−乳酸は、重量平均分子量12.3万、分子量分散1.8、カルボキシ基濃度、30当量/トン、低分子量化合物含有量0.05重量%であった。
(合成例1−2)ポリD−乳酸の合成
合成例1においてL−ラクチドの代りにD−ラクチドを使用し、重量平均分子量12.4万、分子量分散1.8、カルボキシ基濃度、32当量/トン、低分子量化合物含有量0.03重量%のポリD−乳酸を得た。
【0066】
(合成例2−1)ポリL−乳酸の合成
開始剤のステアリルアルコールを表1に示す量にし、内温200℃〜210℃での反応時間を3時間に変更した以外は合成例1と同じ操作を行いポリL−乳酸を合成した。得られたポリL−乳酸の重量平均分子量は7.2万、分子量分散は1.3、カルボキシ基濃度は32当量/トン、低分子量化合物の含有量は0.031重量%であった。
(合成例2−2)ポリD−乳酸の合成
合成例2−1においてL−ラクチドの代りにD−ラクチドを使用しポリD−乳酸を合成した。得られたポリD−乳酸は重量平均分子量6.5万、分子量分散は1.4、カルボキシ基濃度は32当量/トン、低分子量化合物含有量は0.033重量%であった。
【0067】
(合成例3−1)ポリL−乳酸の合成
合成例1−1で製造したポリ乳酸プレポリマーを150℃〜220℃で固相重合しポリL−乳酸を製造した。得られたポリL−乳酸の重量平均分子量は55万、カルボキシ基濃度は10等量/トン、低分子量含有量は0.03%であった。
(合成例3−2)ポリD−乳酸の合成
合成例1−2で製造したポリ乳酸プレポリマーを150℃〜220℃で固相重合しポリD−乳酸を製造した。得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は56万、カルボキシ基濃度は10等量/トン、低分子量含有量は0.03%であった。
【0068】
(実施例1)
合成例1−1で製造したポリL−乳酸と、合成例1−2で製造したポリD−乳酸とを重量比1/1で混合し、120℃で5時間乾燥した。その後、カルボキシ基封止剤として、日清紡(株)製カルボジライトLA−1を混合物に対し、0.3重量%添加し、原料供給槽から溶融混練域を酸素ガス分圧50ppm以下の窒素ガス雰囲気とし、高質クロムめっきしたSUS316製二軸混練機で、シリンダー温度280℃、滞留時間5分で溶融混練し、チップカッターでペレット化し組成物(A)のペレットを5時間にわたり製造した。得られた5時間目のサンプルにつき分析し、結果を表1中に示す。
組成物(A)のE−ゾール不溶分は0.01重量%以下、耐熱性、成形性、色相良好であった。
【0069】
(比較例1)
実施例1において窒素ガス雰囲気条件を空気雰囲気条件に変更して、組成物(A)を製造した。結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1において、シリンダー温度のみを240℃に変更し、そのほかは同一条件で組成物(A)を製造した。ステレオ化度76%であった。結果を表1に記載する。
(比較例3)
合成例3−1で製造したポリL−乳酸、合成例3−2で製造したポリD−乳酸を使用し、実施例1と同様にして組成物(A)を製造した。結果を表1に示す。得られた組成物は、E−ゾール不溶分は0.15重量%で不合格であった。またポリマー色相、カラーb値は12と黄色味が強く、この点でも商品化不合格のレベルであった。
【0070】
(実施例2)
実施例1において、カルボキシ封止剤に加え結晶化核剤として、平均粒径0.1μm以下の燐酸エステル金属塩(旭電気化学工業製、NA−21を粉砕したもの)を、表中の量、添加し、その他は同じ条件で組成物を製造した。組成物のステレオ化度は100%、でありまたE−ゾール不溶分量は0.01重量%以下であった。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
(実施例3および4、比較例4〜6)
実施例1、2および比較例1〜3の組成物を成形し成形性を評価した。また同試料により耐熱性、光透過性を評価した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
(実施例5)
実施例1で製造した組成物(A)のペレット100重量部を120℃で5時間乾燥した後、旭電気化学工業(株)製、燐酸エステル金属塩Na21を粉砕した平均粒径0.1μm以下のものを、0.2重量部を配合し2軸押出機で溶融混練した。得られた溶融混練物をダイ温度260℃で、キャステング速度40m/分で210μmのフィルム状に溶融押し出し、白金コート線状電極を用い、静電キャスト法によって鏡面冷却ドラム表面に密着させ固化させた。得られた未延伸フィルムを120℃で、縦方向に3.6倍、横方向に3.9倍延伸し、180℃で熱固定を行い厚さ15μmの2軸延伸フィルムとした。得られたフィルムの特性を表3に示す。E−ゾール不溶物は0.01重量%以下、光透過性、耐熱性は合格であった。
(比較例7〜9)
比較例1〜3の組成物を実施例5と同様にして製膜した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−乳酸単位を90モル%以上含有するポリ乳酸(B)およびD−乳酸単位を90モル%以上含有するポリ乳酸(C)を含有し、前者(B)/後者(C)の重量比が10/90〜90/10であり、下記要件(a)〜(c)を同時に満足する組成物(A)。
(a)重量平均分子量が8万〜50万である。
(b)示差走査熱量計(DSC)で測定したステレオ化度(S)が80%以上である。
ここでステレオ化度(S)は、下記式(1)で表される。
S={△Hmsc/(△Hmsc+△Hmh)}×100 (1)
(式中、△Hmhは、DSC測定における190℃未満の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。△Hmcsは、DSC測定における190℃以上の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。)
(c)組成物(A)をE−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下である。
【請求項2】
結晶化核剤として三斜晶結晶粒子および/または燐酸エステル金属塩を含有する請求項1項記載の組成物(A)。
【請求項3】
請求項1記載の組成物(A)よりなり、下記要件(d)〜(f)を同時に満足する成形品。
(d)重量平均分子量が8万〜50万である。
(e)E−ゾールに溶解した時の未溶解分が組成物(A)を基準として0.1重量%以下である。
(f)厚さ1mmの成形品の波長400nm〜700nm光線透過率が80%以上である。
【請求項4】
DSCで測定したステレオ化度(S)が80%以上、結晶化度(Cr)が30%〜60%である請求項3記載の成形品。
但し結晶化度(Cr)は次式(2)で表される。
Cr=(△Hmsc/142)×100 (2)
(式中△Hmcsは、DSC測定における190℃以上の融解ピークの結晶融解熱(J/g)を表す。)
【請求項5】
フィルムである請求項3記載の成形品。
【請求項6】
厚さ50μmでの波長400nm〜700nmの光透過率が90%以上である請求項5記載のフィルム。
【請求項7】
組成物(A)をダイより溶融押出しして得られるフィルムであり、溶融押出し時の組成物(A)の温度(℃)がTmsc〜(Tmsc+100)である請求項5記載のフィルム。
(ここで、Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。)
【請求項8】
一軸または二軸延伸した後に、Tmh〜Tmscの温度範囲で熱処理して得られる請求項5記載のフィルム。
(ここでTmhは、DSC測定における190℃未満の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。)
【請求項9】
組成物(A)をダイより溶融押出しすることからなり、溶融押出し時の組成物(A)の温度(℃)がTmsc〜(Tmsc+100)の範囲であるフィルムの製造方法。
(ここで、Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。)
【請求項10】
溶融押出して得られた未延伸フィルムを一軸または二軸延伸し、その後、Tmh〜Tmscの温度(℃)で熱処理することを特徴とする請求項9記載のフィルムの製造方法。(ここでTmhは、DSC測定における190℃未満の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。Tmscは、DSC測定における190℃以上の結晶融解ピークの温度(℃)を表す。)
【請求項11】
請求項1記載の組成物(A)からなる光学用フィルム。
【請求項12】
請求項1記載の組成物(A)からなる包装用フィルム。

【公開番号】特開2009−249583(P2009−249583A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102070(P2008−102070)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】