説明

ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法とその装置

【課題】ポリ塩化ビフェニルで汚染された大型トランスのような機器類の処理方法とその装置に関し、水酸化カルシウムのような水溶性の成分を主成分とするソーダライムから、油溶性成分であるポリ塩化ビフェニルを除去することを可能とし、それによってソーダライムを含むトランスのようなポリ塩化ビフェニルの汚染物を処理することのできる処理方法と装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ソーダライムを含み、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を処理する処理方法であって、該汚染物中のソーダライムを、上側の油相と下側の水相とからなる処理液中に添加し、前記ソーダライム中に含有されているポリ塩化ビフェニルを、前記処理液の水相側から油相側に移行させて処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法とその装置、さらに詳しくは、ポリ塩化ビフェニル(以下、PCBともいう)で汚染された大型トランスのような機器類の処理方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、PCBは非常に安定で分解され難く、しかも絶縁性(電気抵抗)が高いことから、従前においては変圧器やコンデンサー等の絶縁材料に用いられていたが、現在では環境上の理由から使用が禁止されている。
【0003】
しかし、従前から用いられていたものが残存する等、現在でもコンデンサー等に微量成分として残存している場合があり、これらをどのように分解,処理するかは重要な課題となっている。
【0004】
このようなPCBで汚染された汚染物を処理する場合、たとえば下記特許文献1のように、汚染物の内部の絶縁油を抜き取る等の抜油を行い、抜油後の汚染物を解体、分別し、それぞれの汚染物を洗浄油で洗浄することによって処理がなされていた。
【0005】
しかしながら、一部のトランスには、紙や木等の含浸物、金属のような非含浸物の他に、ソーダライムのような固形物が含まれているものもあり、そのソーダライムのような固形物をどのように処理するかという問題がある。すなわち、このような一部のトランスの場合には、トランスに蓋体が取り付けられるとともに、その蓋体内にソーダライムが収容されており、トランスが異常に発熱したような場合に、上記蓋体が破損して、トランス内の膨張したガスを排出するとともに、トランスから排出されるガス中のPCB成分がソーダライムで吸収されてPCBの拡散等が未然に防止される措置がとられている。
【0006】
このソーダライムは隔壁を隔てることなくトランスの上部空間内に収容されているため、長年の利用により、絶縁油中のポリ塩化ビフェニルの一部は当然のことながらソーダライムに吸収されており、ソーダライム自体も汚染物として処理することが必要となる。しかし、ソーダライムのような固形物に対しては、上記のような洗浄手段をそのまま採用することはできない。
【0007】
すなわち、ソーダライムを洗浄油で洗浄しようとしても、ソーダライムはPCB等の吸着能力が強く、完全に洗浄するためには非常に時間を要する。PCBはソーダライムの内部まで浸透しているため、洗浄前にソーダライムを破砕する等、処理も煩雑となる。
【0008】
一方、ソーダライムは水には溶解するが、ソーダライムを水に溶解させるときに水和熱が発生し、その結果、ソーダライムに含有されていた水不溶性のポリ塩化ビフェニルが
水蒸気とともに容器等の外部に排出されて周辺に飛散するおそれがある。このため、ポリ塩化ビフェニルを含有するソーダライムは、水に溶解させることもできない。これらのことが、ポリ塩化ビフェニルを含有するソーダライムの処理を困難にする重要な要因となっていた。
【0009】
また、ソーダライムの処理を困難にする他の要因として、ソーダライムの長期保存により、炭酸カルシウムの不溶層が形成されることも挙げられる。すなわち、ソーダライムの主成分は水酸化カルシウムであり、その他に少量の水酸化ナトリウムを含むが、主成分である水酸化カルシウムは、空気中の二酸化炭素を吸収し、次式の反応によって炭酸カルシウムがどうしても生じることになる。
【0010】
Ca(OH)2+CO2 →CaCO3 +H2
炭酸カルシウムはもともと水に溶解しないものであるため、ソーダライムの長期保存中に、上記反応によって水酸化カルシウムの粒子を被覆して不溶層が形成されるため、ソーダライムを水中に浸漬させても、前記不溶層のためにソーダライムが水に溶解せずに、結果的にソーダライムの処理をすることができないこととなっていた。
【0011】
これらの要因により、ポリ塩化ビフェニルで汚染されたソーダライムに対しては、従来ではプラズマ溶融以外には適当な処理手段がないのが現状であった。しかし、プラズマ溶融は超高温で処理が行われるので、多大なエネルギーを要するとともに、大がかりな設備も必要とする。このような事態は、処理コストの面からも、決して好ましいものではない。
【0012】
【特許文献1】特開2003−318050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、水酸化カルシウムのような水溶性の成分を主成分とするソーダライムから、油溶性成分であるポリ塩化ビフェニルを除去することを可能とし、それによってソーダライムを含むトランスのようなポリ塩化ビフェニルの汚染物を処理することのできる処理方法と装置を提供することを課題とするものである。また他の課題は、ソーダライムの長期保存により水酸化カルシウムの粒子を被覆するように形成される炭酸カルシウムの不溶層を溶解させることができ、それによってソーダライムを含むトランスのようなポリ塩化ビフェニルの汚染物を処理することのできる処理方法と装置を提供することである。そして、これらの課題を解決することで、ソーダライムを含むトランスのようなポリ塩化ビフェニルの汚染物に対して、従来のようなプラズマ溶融のような処理方法に比べて、処理に要するエネルギーや処理コストを大幅に削減することのできる処理方法と装置を提供することを究極的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、このような課題を解決するために、ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法とその装置としてなされたもので、処理方法としての特徴は、ソーダライムを含み、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を処理する処理方法であって、該汚染物中のソーダライムを、上側の油相と下側の水相とからなる処理液中に添加し、前記ソーダライム中に含有されているポリ塩化ビフェニルを、前記処理液の水相側から油相側に移行させて処理することである。
【0015】
また、処理装置としての特徴は、ソーダライムを含み、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を処理する処理装置であって、上側の油相と下側の水相とからなる処理液を収容し、前記汚染物中のソーダライムを前記処理液に添加し、前記ソーダライム中に含有されているポリ塩化ビフェニルを、前記処理液の水相側から油相側に移行させて処理するための処理槽1を具備させたことである。
【0016】
処理液の水相に酸又は炭酸ガスを通じることによって、ソーダライム中で不溶層を形成している炭酸カルシウムを溶解させることも可能である。この場合、処理液の水相に通じる酸としては、たとえば塩酸が用いられる。塩酸を通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の塩化カルシウムが生成された後の水相に硫酸を添加し、硫酸カルシウムの不溶性塩を沈殿させるとともに、塩酸を再生して、処理液の水相に通じる酸として再利用することも可能である。
【0017】
また、炭酸ガスを通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の炭酸水素カルシウムが生成された後の水相に硫酸を添加することも可能であり、その場合には、炭酸ガスを再生して、処理液の水相に通じる炭酸ガスとして再利用することが可能となる。これらの場合、処理装置には、前記硫酸を添加して混合する混合槽や、その混合槽で生成される不溶性硫酸塩の沈殿と、処理液の水相に通じて再利用する塩酸又は炭酸とを分離するための分離槽が具備されることとなる。
【0018】
尚、処理液の水相に炭酸ガスを通じる場合、上記のような硫酸を添加する代わりに、水相を加熱し、その加熱によって生成する炭酸カルシウムの不溶性塩の沈殿を分離することも可能である。さらに、処理液の油相側に移行させたポリ塩化ビフェニルを、アルカリ金属で脱塩素化処理することも可能である。この場合、処理装置にはアルカリ金属で脱塩素化処理する脱塩素化処理設備が具備されることとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、上述のように、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物中のソーダライムを、上側の油相と下側の水相とからなる処理液中に添加し、ソーダライムの主成分である水酸化カルシウム等を処理液の水相側で溶解させることができるとともに、ソーダライム中に含有されていた油溶性成分であるポリ塩化ビフェニルを油相側に移行させることができるので、ポリ塩化ビフェニルをソーダライムから容易に分離させることができ、その結果、従来では困難とされていたソーダライムからのポリ塩化ビフェニルの除去を行うことができるので、ソーダライムを含むトランスのようなポリ塩化ビフェニルの汚染物を処理することが可能となった。
【0020】
また、水相に酸又は炭酸ガスを通じる場合には、ソーダライムの表面で不溶層を形成している炭酸カルシウムを溶解させることができ、ソーダライムの主成分である水酸化カルシウムが、長期保存中に空気中の二酸化炭素を吸収して生成され、従来においてその処理が困難となっていた炭酸カルシウムの不溶層を溶解して処理することが可能となった。
【0021】
この結果、従来のようなプラズマ溶融処理を行う必要がなく、処理のためのエネルギーや処理コストを大幅に低減することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面に従って説明する。
(実施形態1)
先ず、一実施形態としての、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置について説明する。汚染物としては、ポリ塩化ビフェニルで汚染されたトランスに収容されているソーダライムのようなものに適用される。ここで、ソーダライムとは水酸化カルシウムを主成分とする水酸化カルシウムと水酸化ナトリウムの混合物をいう。本実施形態の処理装置は、処理槽1と、混合槽2と、分離槽3と、脱塩素化処理設備4と、水和槽5と、分離槽6とを具備して構成されている。
【0023】
処理槽1は、前記汚染物中のソーダライムを処理する処理液を収容するためのものである。この処理液としては、上側に油相、下側に水相を有するものが用いられる。処理槽1に添加されるソーダライム(たとえば、トランスから回収されたもの)を添加すると主成分である水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムは油相を通過して水相へ到達し、水相でソーダライムは水に溶解する。ソーダライムに含有されていたポリ塩化ビフェニルは、オクタノール/水の分配係数が大きいため水相へほとんど溶解せずに、直ちに油相へ移行することとなる。油相には、たとえばトランスオイル等の絶縁油、重油、軽油、ノルマルパラフィン系炭化水素、ヘキサン、デカリン等のようなものが用いられる。また水酸化カルシウムの一部が炭酸カルシウムに変化している場合、水相には後述のように塩酸が通じられることとなる。水相部分の塩酸の濃度は特に限定されないが、水相に炭酸カルシウムが残存している場合、その炭酸カルシウムをすべて溶解させる程度の量の塩酸を添加することが望ましい。
【0024】
混合槽2は、前記処理槽1中の処理液における水相部分を抜き出して収容し、硫酸を添加して混合するためのものである。前記処理槽1では、処理液の水相部分の塩酸によって、不溶性の炭酸カルシウムを溶解されるとともに、水溶性の塩化カルシウムが生成されているが、混合槽2に硫酸が添加されることで、硫酸カルシウムの不溶性塩の沈殿
が生じることとなるのである。
【0025】
分離槽3は、前記混合槽2で生じた硫酸カルシウムの不溶性塩の沈殿と、塩化カルシウムと硫酸との反応によって再生された塩酸とを分離するためのもので、本実施形態では静置分離によって分離がなされる。ただし、遠心分離等の分離法を採用することも可能である。
【0026】
脱塩素化処理設備4は、前記処理槽1中の処理液における油相部分を抜き出して収容し、当初はソーダライムに含有されていて水相部分から油相部分に移行したポリ塩化ビフェニルを脱塩素化処理するための設備である。脱塩素化処理設備4においては、金属ナトリウムの微粒子を絶縁油、重油、軽油、ノルマルパラフィン系炭化水素等の有機溶媒に分散させたナトリウム分散体を添加して、前記処理槽1から供給される油相部分中のポリ塩化ビフェニルが分解して脱塩素化されることとなる。
【0027】
水和槽5は、前記脱塩素化処理設備4で消費されなかった過剰の金属ナトリウムを水和して消費させるものである。分離槽6は、前記水和槽15に添加された水、その他の水相部分と、前記脱塩素化処理設備4から水和槽15へ供給された油相部分とを油水分離するためのものである。
【0028】
次に、上記のような処理装置を用いて、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の一例としてのトランスを処理する処理方法の実施形態について説明する。
【0029】
先ず、処理対象物であるトランス、より具体的にはトランスの蓋体部分からソーダライムを回収し、処理槽1に添加する。処理槽1には、上側に油相、下側に水相を有する処理液が予め収容されている。ソーダライムを処理槽1に添加し、攪拌しながら塩酸を添加する。添加された塩酸は、水溶性のものであるので、油相部分を通過して水相に通じられることとなる。
【0030】
また処理槽1に添加されるソーダライムは、上述のように主成分である水酸化カルシウムの他、水酸化ナトリウムを含有成分とするが、水酸化カルシウムの長期保存によってその水酸化カルシウム粒子の表面が、不溶性の炭酸カルシウムによって被覆された状態となっている。このようなソーダライムは処理液の油相を通過して水相へ到達する。
【0031】
水酸化カルシウムの粒子に被覆されている炭酸カルシウムは、本来水不溶性のものであるので、そのままではもちろん水に溶解しないが、本実施形態では上述のように塩酸が添加されて処理液の水相部分に通じられるので、通じられた塩酸によって炭酸カルシウムが溶解することとなる。この場合、攪拌されるので、炭酸カルシウムの溶解は促進される。
その溶解反応は次式(1)に示すとおりである。
【0032】
CaCO3+2HCl →CaCl2+H2O+CO2 …(1)
この反応によって生じる塩化カルシウムは水溶性のものであるので、処理槽1中の処理液の水相部分においては沈殿が生じないこととなる。また、粒子表面に形成した不溶層が溶解するため、水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムも水に溶解する。
【0033】
一方、処理槽1に添加されたソーダライムに含有されていたポリ塩化ビフェニルは、オクタノール/水の分配係数が大きく親油性のものであるので、水相へ到達した後、直ちに油相へ移行することとなる。この場合において、ソーダライムが処理液の水相部分に溶解するとき、水和熱が発生するため、本来であればソーダライム中に含有されていたポリ塩化ビフェニルが水蒸気とともに処理槽1の外部に排出されるおそれがあるが、本実施形態においては、処理水を構成する水相の上部に油相が存在しているので、ポリ塩化ビフェニルが水相から油相へ移行することはあっても、水蒸気とともに処理槽1の外部に排出されて飛散するようなことは決してないのである。
【0034】
次に、上述のようにして炭酸カルシウムが溶解し、水溶性の塩化カルシウムが生成した
処理液の水相部分を、前記処理槽1から排出し、混合槽2へ供給する。尚、処理槽1の水相部分と油相部分は静置分離等によって容易に分離することができる。混合槽2では硫酸が添加され、それによって不溶性の硫酸カルシウムの沈殿が生じることとなる。その反応は次式(2)に示すとおりである。
CaCl2+H2SO4 →CaSO4+2HCl …(2)
【0035】
また混合槽2へ供給された水相中には、ソーダライムの主成分である水酸化カルシウムも残存しているので、混合槽2に添加された硫酸は、その水酸化カルシウムとも反応して
硫酸カルシウムの沈殿を生じさせる。その反応は次式(3)に示すとおりである。
Ca(OH)2+H2SO4 →CaSO4+2H2O …(3)
【0036】
次に、このように硫酸を添加した処理液の水相部分を混合槽2から排出し、分離槽3へ供給する。この分離槽3では上述のように静置分離が行われ、硫酸カルシウムの沈殿が回収されるとともに、上澄液も排出されて濾過される。この濾過によって上澄液中に残存している硫酸カルシウムが除去され、上記(2)、(3)式で得られた塩酸や水が、上記処理槽1へ返送されることとなる。
【0037】
返送される水相部分には、塩酸が含まれているので、その塩酸が、上記処理槽1に添加されるソーダライム中の不溶性の炭酸カルシウムを溶解させる酸として再利用されることとなるのである。従って、処理槽1に新たに塩酸を添加する量を低減でき、炭酸カルシウムの溶解のために用いる薬品量を節減することができる。
【0038】
一方、処理槽1の処理水における水相から移行したポリ塩化ビフェニルを含有するに至った油相部分は、脱塩素化処理設備4へ供給する。この脱塩素化処理設備4へは、金属ナトリウムの微粒子を絶縁油等中に分散させたナトリウム分散体が添加され、このナトリウム分散体中の金属ナトリウムが洗浄油中のポリ塩化ビフェニルと反応し、ポリ塩化ビフェニルが脱塩素化されて分解されることとなる。この場合、脱塩素化処理設備4には、さらに反応促進物質である水やイソプロピルアルコール等が添加される。脱塩素化の反応温度は、たとえば90〜190℃で行われる。
【0039】
脱塩素化処理設備4で消費されなかった過剰の金属ナトリウムは、水和槽5へ供給される。水和槽5では水が供給されて未消費の金属ナトリウムが水和されることとなる。
水和槽5での水和反応後の液は分離槽6へ供給され、その分離槽6で油水分離される。
油水分離後の水酸化ナトリウムを含む水相部分は廃アルカリとして回収され、油相部分は前記処理槽1へ返送されて、処理槽1における処理水の油相として再利用される。
【0040】
このように、本実施形態においては、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物であるトランスから取り出されたソーダライムを、上側の油相と下側の水相とからなる処理液を収容した処理槽1に添加し、ソーダライム中に含有されているポリ塩化ビフェニルを油相側に移行させるとともに、処理液の水相に塩酸を通じることによって、ソーダライム中で不溶層を形成している炭酸カルシウムを溶解させることができ、従来のようなプラズマ溶融処理を行う必要がなく、処理のためのエネルギーや処理コストを大幅に低減することが可能となった。
【0041】
特に、炭酸カルシウムを溶解させる酸として塩酸を用いているので、処理液の水相中にポリ塩化ビフェニルが残存する可能性が少ないという利点がある。さらに、油相部分のポリ塩化ビフェニルは、脱塩素化処理設備4で分解されて無害化されるので、ポリ塩化ビフェニルが系外に排出されることもない。
【0042】
さらに、水相部分からはカルシウムが硫酸塩として沈殿除去されるとともに、その分離後の塩酸が処理槽1に返送されてソーダライム中の不溶性の炭酸カルシウムを溶解させる酸として再利用されるので、炭酸カルシウムの溶解のための薬品量を節減することが可能となる。
尚、本実施形態においては、塩酸を再利用するために水相の一部を取り出し、硫酸を添加することとしたが、このような塩酸再利用のため硫酸の添加を行わず、水相部分を廃アルカリとして処理してもよい。また、ソーダライム中の水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化していない場合、水酸化カルシウムは水に溶解するため、塩酸を加えなくともよい。
(実施形態2)
【0043】
本実施形態の処理装置にも、図2に示すように処理槽1、混合槽2、分離槽3、脱塩素化処理設備4、水和槽5、分離槽6が具備され、装置の構成自体は上記実施形態1と同じである。
【0044】
しかしながら、本実施形態においては、不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるものとして、上記実施形態の塩酸に代えて炭酸ガスが用いられる。すなわち、処理槽1中の処理液の水相部分に炭酸ガスが通じられ、その炭酸ガスによって水酸化カルシウムの粒子に被覆されている炭酸カルシウムが溶解することとなる。その溶解反応は次式(4)に示すとおりである。
【0045】
CaCO3+H2O+CO2 →Ca(HCO32 …(4)
この反応によって生じる炭酸水素カルシウムも、実施形態1の塩酸を用いた場合に生じる塩化カルシウムと同様に水溶性のものであるので、処理槽1中の処理液の水相部分にすべて溶解する。
【0046】
そして、炭酸カルシウムを溶解させ、水溶性の炭酸水素カルシウムが生成した処理液の水相部分を、実施形態1と同様に混合槽2へ供給し、硫酸を添加する。その結果、実施形態1と同様に不溶性の硫酸カルシウムの沈殿が生じるが、その反応は実施形態1と相違し、
次式(5)に示すとおりである。
Ca(HCO32+H2SO4 →CaSO4+2H2O+2CO2 …(5)
【0047】
硫酸を添加した処理液の水相部分を混合槽2から排出して分離槽3へ供給し、分離槽3で静置分離が行い、硫酸カルシウムの沈殿を回収されるとともに、上澄液を排出して濾過する点も実施形態1と同様であるが、本実施形態では上記(5)式で得られた炭酸ガスや水が処理槽1へ返送されることとなるので、炭酸カルシウムを溶解させるための炭酸ガスが再利用されることとなるのである。
【0048】
このように、本実施形態においても、ソーダライム中の不溶性の炭酸カルシウムを好適に溶解させることができるので、実施形態1と同様に従来のようなプラズマ溶融処理を行う必要がなく、また不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるために用いた炭酸ガスを処理槽1へ返送することができるので、その炭酸ガスを有効に再利用することができる。
【0049】
また、本実施形態では炭酸ガスを用いるので、実施形態1の塩酸に比べて発熱反応を小さくすることができ、その分、処理槽1内での温度調整を容易に行うことができるという利点がある。
【0050】
尚、脱塩素化処理設備4での脱塩素化処理によるポリ塩化ビフェニルの分解、水和槽5での水和、分離槽6での油水分離については実施形態1と同様に行われるため、その説明は省略する。
本実施形態においても炭酸ガスの再生を行わない場合、硫酸を添加する必要はなく、処理槽1で排出される水相を廃アルカリとして処理してもよい。
【0051】
(実施形態3)
本実施形態の処理装置にも、図3に示すように処理槽1、分離槽3、脱塩素化処理設備4、水和槽5、分離槽6が具備されており、その点で上記実施形態1、2と同じである。
【0052】
しかしながら、本実施形態では上記実施形態1、2の混合槽2が設けられておらず、その混合槽2に代えて加熱槽7が設けられている点で上記実施形態1、2と相違する。
【0053】
処理槽1中の処理液の水相部分に炭酸ガスが通じられ、その炭酸ガスによって炭酸カルシウムが溶解する点は実施形態2と同様であり、従って処理槽1中では上記(4)式の反応が生じるが、本実施形態では処理槽1から排出された油相部分は加熱槽7へ供給されて加熱されるだけであり、上記実施形態2のように硫酸が添加されるわけではないので、加熱槽7では次式(6)のような反応が生じる。つまり、上記(4)式とは逆の分解反応が生じるのである。
Ca(HCO32 →CaCO3+H2O+CO2 …(6)
【0054】
従って、本実施形態では、上記実施形態2のような硫酸カルシウムが不溶性塩として生じるのではなく、炭酸カルシウムが不溶性塩として生じることとなり、この点で実施形態2と相違する。
【0055】
しかしながら、炭酸カルシウムとともに炭酸ガスや水も生成されるので、本実施形態においても炭酸カルシウムを溶解させるための炭酸ガスを再利用することができることとなる。また、不溶性の炭酸カルシウムを好適に溶解させることができるので、本実施形態においても従来のようなプラズマ溶融処理が不要となる。
【0056】
脱塩素化処理設備4での脱塩素化処理によるポリ塩化ビフェニルの分解、水和槽5での水和、分離槽6での油水分離については実施形態1、2と同様に行われるため、その説明は省略する。
尚、本実施形態においては、加熱により発生した炭酸ガスを再利用することとしたが、必ずしも再利用する必要はなく、加熱により炭酸カルシウムの沈殿物を除去するだけであってもよい。また、処理槽1から発生する水相を廃アルカリとして処理してもよい。
【0057】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態1では、不溶性の炭酸カルシウムを溶解させる酸として塩酸を用いたが、炭酸カルシウムを溶解させる酸の種類は実施形態1に限定されるものではなく、たとえば硝酸やシュウ酸などを用いることも可能である。ただし、実施形態1のような塩酸を用いた場合には、処理槽1内の処理液における水相中にポリ塩化ビフェニルが残存するおそれが少なく、処理コストも安いという利点がある。
【0058】
また、上記各実施形態では、処理槽1で不溶性の炭酸カルシウムを溶解させて処理した
処理後の水相部分を、混合槽2での硫酸添加若しくは加熱槽7での加熱によってカルシウム塩を沈殿させるとともに酸などを再生する処理を行ったが、このような硫酸添加や加熱以外の手段で処理することも可能である。
【0059】
さらに、上記各実施形態では、混合槽2や加熱槽7での処理後の分離槽3での分離を静置分離によって行ったが、静置分離以外の分離手段を採用することも可能である。
【0060】
尚、このような混合槽2、加熱槽7での処理や分離槽3での分離を行うことで、カルシウムの不溶性塩を除去することができるとともに、ソーダライム中の炭酸カルシウムを溶解させる酸などを再利用することができるという好ましい効果が得られたが、このような
混合槽2、加熱槽7での処理や分離槽3での分離を行うことは、本発明に必須の条件ではない。
【0061】
さらに、上記実施形態の脱塩素化処理設備4でポリ塩化ビフェニルの分解反応を行わせるものとして用いた金属ナトリウムは安価で一般的に入手し易い利点があるが、これに限らず、金属カリウム、金属ストロンチウム、金属リチウム等の他のアルカリ金属を用いることも可能である。また、反応助剤として、イソプロピルアルコールや水を添加してもよく、触媒を利用することも可能である。
【0062】
またアルカリ金属は、上記のような油等の分散媒に分散させた分散体としたものに限らず、塊状のものを用いることも可能である。さらに、このようなアルカリ金属を用いた処理以外に、触媒反応などを利用してポリ塩化ビフェニルを分解させることも可能である。
【0063】
また、上記のような脱塩素化処理設備4での脱塩素化処理を行うことで、ポリ塩化ビフェニルを好適に無害化できるという好ましい効果が得られるが、このような脱塩素化処理を行うことは本発明に必須の条件ではない。
【0064】
尚、本発明は、上記実施形態のトランスのような機器類を主たる対象とするものであるが、その処理対象物の種類は該実施形態に限定されるものではない。要は、ソーダライムを含み、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物であれば、本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】一実施形態としてのポリ塩化ビフェニル汚染物の処理装置の概略ブロック図。
【図2】他実施形態の処理装置の概略ブロック図。
【図3】他実施形態の処理装置の概略ブロック図。
【符号の説明】
【0066】
1…処理装置 2…混合槽
3…分離槽 4…脱塩素化処理設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーダライムを含み、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を処理する処理方法であって、該汚染物中のソーダライムを、上側の油相と下側の水相とからなる処理液中に添加し、前記ソーダライム中に含有されているポリ塩化ビフェニルを、前記処理液の水相側から油相側に移行させて処理することを特徴とするポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項2】
処理液の水相に酸又は炭酸ガスを通じることによって、ソーダライム中で不溶層を形成している炭酸カルシウムを溶解させる請求項1記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項3】
処理液の水相に通じる酸が、塩酸である請求項2記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項4】
塩酸を通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の塩化カルシウムが生成された後の水相に硫酸を添加し、硫酸カルシウムの不溶性塩を沈殿させるとともに、
塩酸を再生して、処理液の水相に通じる酸として再利用する請求項3記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項5】
炭酸ガスを通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の炭酸水素カルシウムが生成された後の水相に硫酸を添加し、硫酸カルシウムの不溶性塩を沈殿させるとともに、炭酸ガスを再生して、処理液の水相に通じる炭酸ガスとして再利用する請求項2記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項6】
炭酸ガスを通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の炭酸水素カルシウムが生成された後の水相を加熱し、炭酸カルシウムの不溶性塩を沈殿させる請求項2記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項7】
処理液の油相側に移行させたポリ塩化ビフェニルを、アルカリ金属で脱塩素化処理する請求項1乃至6のいずれかに記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項8】
ソーダライムを含み、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を処理する処理装置であって、上側の油相と下側の水相とからなる処理液を収容し、前記汚染物中のソーダライムを前記処理液に添加し、前記ソーダライム中に含有されているポリ塩化ビフェニルを、前記処理液の水相側から油相側に移行させて処理するための処理槽(1)を具備することを特徴とするポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項9】
処理槽(1)内に、塩酸又は炭酸ガスを通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の塩化カルシウム又は炭酸水素カルシウムが生成された後の水相を供給し、硫酸を添加して混合する混合槽(2)が、さらに具備されている請求項8記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項10】
混合槽(2)で硫酸が添加されて生成される不溶性塩の沈殿と、処理液の水相に通じて再利用する塩酸又は炭酸ガスとを分離するための分離槽(3)が、さらに具備されている請求項9記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項11】
処理槽(1)内に、炭酸ガスを通じて不溶性の炭酸カルシウムを溶解させるとともに、水溶性の炭酸水素カルシウムが生成された後の水相を供給して加熱する加熱槽(7)が、さらに具備されている請求項8記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項12】
加熱槽(7)で加熱されて生成される不溶性塩の沈殿と、処理液の水相に通じて再利用する炭酸ガスとを分離するための分離槽(3)が、さらに具備されている請求項11記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項13】
処理液の油相側に移行させたポリ塩化ビフェニルを、アルカリ金属で脱塩素化処理する
脱塩素化処理設備(4)が、さらに具備されている請求項8乃至12のいずれかに記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−272569(P2008−272569A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341589(P2006−341589)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】