説明

ポルフィラジン色素、インク組成物、記録方法及び着色体

【課題】シアンインクとして良好な色相を有し、耐光性、耐オゾン性及び耐湿性に優れたインクジェット記録に適したインクを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表され、且つ、400nmから800nmの波長範囲における分光光度計を用いた吸収波長の測定を行ったとき、598nm以上606nm以下の範囲に最大吸収波長を有するポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物、


[式中、環A乃至Dはそれぞれ独立にベンゼン環又はピリジン環]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポルフィラジン色素、これを含有するインク組成物、このインク組成物を用いたインクジェット記録方法及びこれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流である。具体的には、インクジェット方式、電子写真方式等の方式に用いる記録材料;感熱転写型画像記録材料;転写式ハロゲン化銀感光材料;印刷インク;記録ペン;等において、カラー画像の記録材料が盛んに利用されている。また、ディスプレイではLCD(液晶ディスプレイ)やPDP(プラズマディスプレイパネル)において、また撮影機器ではCCD(撮動素子)等の電子部品において、カラーフィルターが使用されている。これらの画像記録材料やカラーフィルターでは、フルカラー画像を再現あるいは記録するために、加法混色法や減法混色法の3原色の色素として、染料や顔料が適宜使用されている。しかしながら、好ましい色再現域を実現できる光波長の吸収特性を有し、且つさまざまな使用条件に耐えうる堅牢性に優れた色素がないのが実状であり、改善が強く望まれている。
【0003】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法、すなわちインクジェット記録方法は、インクの吐出方式が各種開発されている。その方式は、いずれもインクの液滴を発生させ、これを種々の被記録材、例えば、紙、フィルム、布帛等に付着させて記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材とが直接接触しないため、音の発生がなく静かである。また小型化、高速化、カラー化が容易という特長のため、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、色素として水溶性の染料を水性媒体に溶解したインクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性の有機溶剤が添加されている。これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また形成される記録画像にブロンズ現象が生じないこと、さらには耐水性、耐湿性、耐光性、及び耐ガス性等の各種堅牢度が求められている。また水、溶剤や添加剤に対する高い溶解性も色素に求められる性質の1つである。
【0004】
ブロンズ現象とは、色素の会合やインクの吸収不良等を原因とし、被記録材の表面上で色素が金属片状になり、ぎらつく現象のことを言う。この現象が起こると光沢性、印字品位、印字濃度の全ての点で劣るものとなる。特に色素として金属フタロシアニン系色素を使用した場合に「赤浮き現象」として現れることが多く、画像全体としての色バランスが不均一となり、その品質を低下させる。また、近年では銀塩写真に近い風合いを有する記録媒体として光沢紙が多く使用されているが、ブロンズ現象が発生すると記録物表面での光沢感にバラツキが生じ、画像の風合いを著しく損ねてしまう。このような観点から、ブロンズ現象を生じない色素が強く望まれている。
【0005】
インクジェットプリンタの用途はOA用小型プリンタから産業用の大型プリンタにまで拡大されてきており、耐水性、耐湿性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度に優れることが、これまで以上に求められている。耐水性ついては多孔質シリカ、カチオン系ポリマー、アルミナゾル又は特殊セラミック等インク中の色素を吸着し得る無機微粒子をPVA樹脂等とともに被記録材の表面にコーティングする方法により改良されてきてはいる。しかしながら、例えば表面にコーティング処理が施されていない普通紙等の被記録材を用いる機会も多いため、耐水性に優れる色素の開発が望まれている。耐湿性とは着色された被記録材を高湿度の雰囲気下に保存した際に、被記録材中の色素が滲んでくるという現象に対する耐性のことである。色素の滲みがあると、特に写真調の高精細な画質を求められる画像においては著しく画像品位が低下するため、できるだけこの様な滲みを少なくすることが重要である。耐光性については大幅に改良する技術は未だ確立されておらず、その改良が課題の一つとなっている。又、最近のデジタルカメラの浸透と共に、家庭でも写真画質でのインクジェット記録をする機会が増しており、得られた記録物の保管時における、空気中の酸化性ガスによる画像の変退色も問題視されている。この酸化性ガスは、記録紙上又は記録紙中で色素と反応し、記録された画像を変退色させる。酸化性ガスの中でも、オゾンガスはインクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主要な原因物質とされている。この変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾン(ガス)性の向上も重要な課題となっている。
【0006】
インクジェット記録用のシアンインクに用いられる水溶性シアン色素としては、フタロシアニン系やトリフェニルメタン系が代表的である。このうち、代表的なフタロシアニン系色素としては、以下のA〜Hで分類されるフタロシアニン誘導体が知られている。
【0007】
A:Direct Blue 86、Direct Blue 87、Direct Blue 199、Acid Blue 249又はReactive Blue 71等のC.I.(カラーインデックス)番号を有する公知のフタロシアニン系色素。
【0008】
B:特許文献1〜3等に記載のフタロシアニン系色素、[例えば、Cu−Pc−(SO3Na)m(SO2NH2)n ; m+n=1〜4の混合物]。
【0009】
C:特許文献4等に記載のフタロシアニン系色素、[例えば、Cu−Pc−(CO2H)m(CONR12)n ; m+n=0〜4の数]。
【0010】
D:特許文献5等に記載のフタロシアニン系色素、[例えば、Cu−Pc−(SO3H)m(SO2NR12)n ; m+n=0〜4の数、且つ、m≠0]
【0011】
E:特許文献6等に記載のフタロシアニン系色素、[例えば、Cu−Pc−(SO3H)l(SO2NH2)m(SO2NR12)n ; l+m+n=0〜4の数]。
【0012】
F:特許文献7等に記載のフタロシアニン系色素、[例えば、Cu−Pc−(SO2NR12)n ; n=1〜5の数]。
【0013】
G:特許文献8、9、及び12等に記載のフタロシアニン系色素、[置換基の置換位置を制御したフタロシアニン化合物、β−位に置換基が導入されたフタロシアニン系色素]。
【0014】
H:特許文献10、13、14〜16等に記載のピリジン環とベンゼン環を有するベンゾピリドポルフィラジン系色素。
【0015】
現在、インクジェット記録用として広く用いられているC.I.Direct Blue 86又はC.I.Direct Blue 199に代表されるフタロシアニン系色素は、一般的にマゼンタ色素やイエロー色素に比べて耐光性に優れるという特徴がある。しかし、フタロシアニン系色素は酸性条件下ではグリーン味の色相であり、シアンインクとしては余り好ましい色相ではない。そのためこれらの色素をシアンインクに用いる場合には、中性からアルカリ性の条件下で使用するのが好ましい。しかしながら、インクが中性からアルカリ性であっても、例えば被記録材が酸性紙である場合、記録物の色相が大きく変化してしまうことがある。
【0016】
また、フタロシアニン系色素をシアンインクとして用いた場合、昨今環境問題として取り挙げられることの多い酸化窒素ガスやオゾン等の酸化性ガスによっても、記録物の色相がグリーン味に変色すると共に、消色又は褪色等も起こるため、記録物の印字濃度が低下するという現象が生じる。
【0017】
一方、トリフェニルメタン系色素については、色相は良好であることが知られているが、耐光性、耐オゾン性及び耐湿性においてフタロシアニン系色素より非常に劣る。
【0018】
今後、インクジェット記録の使用分野が拡大して、広告等の展示物にも広く使用されるようになると、そこに使用される色素及びインクは光;及び環境中のオゾンガス等の酸化性ガス;等に曝される機会も多くなる。このため、インクジェット記録用のシアン色素としては、良好な色相を有し、安価であることと共に、前記のような各種の堅牢性に優れることがますます強く望まれている。しかしながら、これらの要求を高いレベルで満たすシアン色素及びシアンインクを開発することは難しいとされている。これまでにも、耐オゾン性を付与したフタロシアニン系色素は、特許文献3、8〜12、14〜17等に開示されているが、色相、印字濃度、耐光性、耐オゾン性、耐湿性及びブロンズ現象を起こさない等すべての品質を満足させ、さらには安価に製造可能なシアン色素はいまだ得られていない。よってまだ市場の要求を充分に満足させるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭62−190273号公報
【特許文献2】特開平7−138511号公報
【特許文献3】特開2002−105349号公報
【特許文献4】特開平5−171085号公報
【特許文献5】特開平10−140063号公報
【特許文献6】特表平11−515048号公報
【特許文献7】特開昭59−22967号公報
【特許文献8】特開2000−303009号公報
【特許文献9】特開2002−249677号公報
【特許文献10】特開2003−34758号公報
【特許文献11】特開2002−80762号公報
【特許文献12】国際公開第2004/087815号パンフレット
【特許文献13】国際公開第2002/034844号パンフレット
【特許文献14】特開2004−75986号公報
【特許文献15】国際公開第2007/091631号パンフレット
【特許文献16】国際公開第2007/116933号パンフレット
【特許文献17】国際公開第2008/111635号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、耐オゾン性に優れるインクジェット記録に適したライトシアンインク用のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物、及びこれを含有するインク組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、高い耐オゾン性を有するライトシアンインク用の色素を詳細に検討したところ、下記式(1)で表され、且つ、特定の最大吸収波長を有するポルフィラジン色素が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、1)下記式(1)で表され、且つ、400nmから800nmの波長範囲における分光光度計を用いた吸収波長の測定を、下記の測定条件下に行ったとき、598nm以上606nm以下の範囲に最大吸収波長を有するポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物、
【0022】
【化1】

【0023】
[式(1)中、環A乃至Dはそれぞれ独立に、ポルフィラジン環に縮環したベンゼン環又はピリジン環を表し、該ピリジン環の個数は平均値で0.0より大きく3.0以下であり、残りはベンゼン環であり、EはC2−C4アルキレンを表し、Xはスルホ基を有するアニリノ基を表し、該アニリノ基は、さらにカルボキシ基を有しても良い。R1はスルホ基、カルボキシ基又は水素原子を表し、aは1又は2の整数を表す。bは平均値で0.0以上3.9未満であり、cは平均値で0.1以上1.2以下であり、且つb及びcの和は、平均値で1.0以上4.0未満である。]、 測定条件:色素濃度が0.02g/リットル、pHが7〜8に調整された、式(1)で表される色素若しくはその塩の混合物の水溶液を調製し、光源がD65、視野角が2°、透過光路長が10mm、測定セルの温度が25℃で測定を行う。なお、該水溶液の調製にはイオン交換水を用いる、
【0024】
2)インク組成物の総質量に対して、前記1)に記載のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物を0.1〜2.5質量%含有するインク組成物、3)さらに水溶性有機溶剤を含有する前記2)に記載のインク組成物、4)インクジェット記録に用いる前記2)又は3)に記載のインク組成物、5)前記2)乃至4)のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法、6)被記録材が情報伝達用シートである前記5)に記載のインクジェット記録方法、7)情報伝達用シートが表面処理されたシートであって、支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有するシートである前記6)に記載のインクジェット記録方法、8)前記2)乃至4)のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器、9)前記8)に記載の容器が装填されたインクジェットプリンタ、10)前記2)乃至4)のいずれか一項に記載のインク組成物により着色された着色体、11)前記5)に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体、12)色素濃度の異なる2種類以上のシアンインクを有するインクセットであって、該シアンインクの少なくとも1つが前記2)乃至4)のいずれか一項に記載のインク組成物であるインクセット、13)下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物又はその塩とを、アンモニア存在下に反応させる、前記1)に記載のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物の製造方法、
【化2】

[式(2)中、nは平均値で1.0以上4.0未満の数を表す。]、
【化3】

[(式(3)中、EはC2−C4アルキレンを表し、Xはスルホ基を有するアニリノ基を表し、該アニリノ基は、さらにカルボキシ基を有しても良い。R1はスルホ基、カルボキシ基又は水素原子を表し、aは1又は2の整数を表す。]、に関する。
【発明の効果】
【0025】
耐オゾン性に優れるインクジェット記録に適したライトシアンインク用のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物、及びこれを含有するインク組成物が提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。コンピューターのカラーディスプレイ上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラーで記録するには、一般にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色が用いられ、これにより記録画像がカラーで表現される。CRT(ブラウン管)ディスプレイ等におけるレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)による加法混色画像を、減法混色画像で出来るだけ忠実に再現するには、インクに使用される各色素、中でもY、M、Cのそれぞれが、標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。ここで、前記のY、M、C及びKの4色のインクの他に、一般に「特色」と呼ばれるインクを追加した4色以上のインクセットを用いることにより、4色では表現が困難な、より高精細な画像を記録する方法が提案されてきた。このような「特色」インクの代表的なものとして、ライトマゼンタ及びライトシアン等のインクが挙げられる。
【0027】
シアンインクとライトシアンインクとの違いとして、各インクに使用するシアン色素が異なるものもある。しかしながら、通常は同一の色素を使用し、各インクの総質量に対する色素の含有量のみを変える場合が多い。すなわち、同一のシアン色素を使用し、シアンインクにおいてはインクの総質量に対するシアン色素の含有量をおおよそ5〜8質量%程度とし、ライトシアンインクにおいては同様に1〜2質量%程度として、インクジェット記録に用いることがよく行われてきた。しかしながら、従来のシアン色素は、色素の含有量がより高いシアンインクを用いた記録画像においては優れた堅牢性を発揮するものの、色素の含有量がより低いライトシアンインクとした場合、十分な堅牢性を発揮できないものであった。このため、ライトシアンインクとして用いた際に、記録画像の堅牢性に優れるシアン色素の開発が強く要望されている。本発明は、ライトシアンインクに好適な、シアン色素若しくはその塩の混合物及びこれを含有する各種の堅牢性、特に耐オゾン性に優れるインク組成物を見出したものである。
【0028】
特に断りの無い限り、以下の本明細書においては煩雑さを避けるため、「色素若しくはその塩の混合物」の全てを含めて、以下「色素」と簡略化して記載する。本発明の色素は、前記式(1)で表される水溶性の色素、すなわち染料であり、且つ、特定の最大吸収波長を有することを特徴とする。
【0029】
前記式(1)で表される色素について説明する。
【0030】
前記式(1)中、破線で表される環A乃至D(環A、B、C及びDの4つの環)はそれぞれ独立に、ポルフィラジン環に縮環したベンゼン環又はピリジン環を表す。環A乃至Dがピリジン環のとき、そのポルフィラジン環への縮環位置は特に制限されないが、ピリジン環を構成する窒素原子の位置を1位として、2位及び3位;又は、3位及び4位;で縮環するものが好ましい。このうち、後者の方が各種の堅牢性に優れ、また緑味の色相となる傾向がある。環A乃至Dにおけるピリジン環の個数は、いずれも平均値で通常0.0より大きく3.0以下、好ましくは0.6以上2.2以下、より好ましくは0.8以上2.0以下、さらに好ましくは1.0以上1.8以下の範囲である。残りの環A乃至Dはベンゼン環であり、環A乃至Dにおけるベンゼン環は、いずれも平均値で通常、1.0以上4.0未満、好ましくは1.8以上3.4以下、より好ましくは2.0以上3.2以下、さらに好ましくは2.2以上3.0以下である。また、本明細書においては特に断りの無い限り、環A乃至Dにおけるピリジン環の個数は、小数点以下2桁目を四捨五入して1桁目までを記載する。但し、例えばピリジン環の個数が1.35、ベンゼン環の個数が2.65のとき、両者を四捨五入すると前者が1.4、後者が2.7となり、両者の合計が環A乃至Dの合計の4.0を超えてしまう。このような場合には、便宜上、ピリジン環側の小数点以下2桁目は切り捨て、ベンゼン環側のみ四捨五入することにより、前者を1.3、後者を2.7として記載する。環A乃至Dにおけるピリジン環の個数が増えるにしたがって、耐オゾン性は向上するが、ブロンズ現象は生じやすくなる傾向にある。ピリジン環の個数は耐オゾン性とブロンズ現象の発生を考慮しながら適宜調節し、バランスの良い比率を選択すれば良い。
【0031】
式(1)中、Eは直鎖又は分岐鎖のC2−C4アルキレンを表し、直鎖のものが好ましい。具体例としては、エチレン、プロピレン、ブチレンといった直鎖のもの;2−メチルエチレンといった分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましくはエチレン又はプロピレンであり、特に好ましくはエチレンである。
【0032】
前記式(1)中、Xは、スルホ基を有するアニリノ基を表す。スルホ基の数は通常1つ乃至5つ、好ましくは1つ乃至4つ、より好ましくは1つ乃至3つ、さらに好ましくは1つ又は2つ、特に好ましくは2つである。Xにおけるスルホ基を有するアニリノ基は、さらにカルボキシ基を有してもよい。このときのカルボキシ基の数は通常1つ又は2つ、好ましくは1つである。前記のうち、Xとしてはカルボキシ基を有しないものが好ましい。Xの具体例としては、2−スルホアニリノ、3−スルホアニリノ、4−スルホアニリノといったスルホ基を1つ有するもの;2,3−ジスルホアニリノ、2,4−ジスルホアニリノ、2,5−ジスルホアニリノ、3,4−ジスルホアニリノ、3,5−ジスルホアニリノといったスルホ基を2つ有するもの;2−カルボキシ−4−スルホアニリノ、2−カルボキシ−5−スルホアニリノ等の、スルホ基及びカルボキシ基を1つずつ有するもの;等が挙げられる。具体例のうちでは、スルホ基を1つ有するもの;又はスルホ基を2つ有するものが好ましく、中でも2,5−ジスルホアニリノが特に好ましい。
【0033】
前記式(1)中、R1はスルホ基、カルボキシ基又は水素原子を表す。スルホ基又は水素原子が好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0034】
前記式(1)中、R1の置換位置は特に制限されない。「(CH2)a」との結合位置を1位として、Rの置換位置は2位、3位、又は4位が挙げられ、4位が好ましい。
【0035】
前記式(1)中、aは、「(CH2)」の繰返し数、すなわちアルキレンの長さを表し、通常1又は2の整数、好ましくは1の整数である。
【0036】
前記式(1)におけるb、c及び、b及びcの和は、いずれも平均値である。bは0.0以上3.9未満であり、cは0.1以上1.3未満であり、b及びcの和は、平均値で1.0以上4.0未満である。このとき、環A乃至Dにおけるピリジン環は、平均値で0.0より大きく3.0以下、同様にベンゼン環は1.0以上4.0未満である。好ましくは、環A乃至Dにおけるピリジン環が0.6以上2.2以下、ベンゼン環が1.8以上3.4以下のとき、bが0.6以上3.0以下であり、cが0.4以上1.2以下、b及びcの和は、1.8以上3.4以下である。より好ましくは、環A乃至Dにおけるピリジン環が0.5以上1.1以下、ベンゼン環が2.0以上3.2以下のとき、bが0.9以上2.7以下であり、cが0.5以上1.1以下、b及びcの和は、2.0以上3.2以下である。さらに好ましくは、環A乃至Dにおけるピリジン環が1.0以上1.8以下、ベンゼン環が2.2以上3.0以下のとき、bが1.6以上3.0以下であり、cが0.6以上1.0以下、b及びcの和は、2.2以上3.0以下である。bが大きくなるにつれて、耐オゾン性は向上する傾向にあるが、ブロンズ現象は生じやすくなる傾向にある。耐オゾン性とブロンズ現象の発生を考慮しながら、b及びcの数を適宜調節し、バランスの良い比率を選択すれば良い。なお、b及びcでそれぞれの置換数を表される非置換スルファモイル基及び置換スルファモイル基はいずれも、環A乃至Dがベンゼン環である場合に、該ベンゼン環上に置換する基であり、環A乃至Dがピリジン環である場合には置換しない。なお、本明細書においては、b、c及び、b及びcの和は、いずれも小数点以下2桁目を四捨五入して、1桁目までを記載する。但し、式(1)の環A乃至Dにおけるピリジン環の個数について前記したのと同様に、b及びcの和が、該非置換スルファモイル基及び該置換スルファモイル基が置換し得るベンゼン環の個数を超えてしまう場合においては、bの小数点以下2桁目を切り捨て、cのみ四捨五入して記載する。
【0037】
式(1)中、前記環A乃至D、E、X、R1、a、b及びcにおいて、好ましいもの同士を組み合わせた色素はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせた色素はさらに好ましい。さらに好ましいもの同士、好ましいものとより好ましいものの組み合わせ等についても同様である。
【0038】
前記式(1)で表される色素の製造方法を説明する。前記式(1)で表される色素は、下記式(2)で表される化合物と、前記式(3)で表される化合物とを、アンモニア存在下に反応させることにより得ることができる。下記式(2)で表される化合物は、いずれも公知の方法又はそれに準じて、下記式(4)で表される化合物を合成した後、これをクロロスルホニル化することにより得ることができる。
【0039】
【化2】

【0040】
前記式(2)中、環A乃至Dは前記式(1)におけるのと、好ましいもの及び好ましい個数の範囲等を含めて同じ意味を表し、nは式(1)におけるb及びcの和と同じ意味を表す。
【0041】
下記式(4)で表される化合物は、例えば、国際公開第2007/091631号パンフレット及び国際公開第2007/116933号パンフレットに開示された公知の方法に準じて合成することができる。これらの公知文献は、環A乃至Dにおけるピリジン環の個数が1未満の化合物に関する製造方法を開示していない。しかし、公知のニトリル法又はワイラー法にて合成を行う際に、反応原料として使用するピリジン環ジカルボン酸誘導体と、フタル酸誘導体の配合比率を変化させることにより、環A乃至Dにおけるピリジン環の個数が1未満である式(4)で表される化合物も合成することができる。なお、得られる式(4)で表される化合物は、環A乃至Dにおけるピリジン環の置換位置、及びピリジン環中の窒素原子の置換位置に関する位置異性体の混合物となることも、前記公知文献に記載の通りである。
【0042】
【化4】

【0043】
前記式(4)中、環A乃至Dは、前記式(1)におけるのと、好ましい個数の範囲等を含めて同じ意味を表す。
【0044】
式(2)で表される化合物は、式(4)で表される化合物の合成におけるのと同じ前記国際公開パンフレットに開示された公知の方法に従って、式(4)で表される化合物をクロロスルホニル化することにより得ることができる。式(2)におけるクロロスルホニル基は、環A乃至Dにおけるベンゼン環上に導入され、環A乃至Dがピリジン環に相当する場合には導入されない。ベンゼン環上には通常1つのクロロスルホニル基が導入されるので、式(2)におけるnの数は、環A乃至Dにおけるベンゼン環の数以内である。従って、式(2)におけるクロロスルホニル基の数「n」は、式(2)で表される化合物のベンゼン環の数に応じて1.0以上4.0未満である。式(2)で表される化合物の別合成方法としては、予めスルホ基を有するスルホフタル酸とキノリン酸等のピリジンジカルボン酸誘導体とを縮合閉環させることにより、スルホ基を有するポルフィラジン化合物を合成し、その後、該スルホ基を、塩化チオニル等の適当な塩素化剤でクロロスルホニル基へと変換する方法が挙げられる。この場合、合成原料であるスルホフタル酸のスルホ基の置換位置が3位のものと4位のものとを選択することにより、式(2)で表される化合物上に導入されるスルホ基の置換位置を制御することができる。即ち、3−スルホフタル酸を用いれば下記式(5)における「α」位に、又、4−スルホフタル酸を用いれば同様に「β」位に、それぞれ選択的にスルホ基を導入することができる。なお本明細書においては特に断りの無い限り、「ポルフィラジン環のα位」又は「ポルフィラジン環のβ位」との用語は、下記式(5)における相当する位置を意味する。
【0045】
【化5】

【0046】
前記式(3)で表される化合物又はその塩も、公知の方法で製造することができる。例えば、Xに対応するスルホ基を有するアニリン0.9〜1.2モルと、2,4,6−トリクロロ−S−トリアジン(シアヌルクロライド)1モルを、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物により、反応液をおおよそpH1〜5に調整し、0〜40℃、2〜12時間の条件下に反応させて、1次縮合物を得る。次いで、下記式(12)で表される化合物0.9〜1.5モルを加え、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物により、反応液をおおよそpH5〜10に調整し、5〜80℃、0.5〜12時間反応させることにより2次縮合物を得る。
【0047】
【化12】

【0048】
前記式(12)中、R1はスルホ基、カルボキシ基又は水素原子を表し、aは1又は2の整数を表す。
【0049】
得られた2次縮合物1モルと、Eに対応するアルキレンジアミン類(「H2N−E−NH2」なるアミン)1〜50モルとを、おおよそpH9〜12、5〜90℃、0.5〜8時間反応させることにより、前記式(3)で表される化合物が得られる。各縮合反応のpH調整には、通常水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;等が用いられる。なお、縮合の順序はシアヌルクロライドと縮合する各種化合物の反応性に応じて適宜決めるのが良く、前記の順序に限定されない。
【0050】
式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物との反応は、アンモニア存在下に、含水溶媒(好ましくは水)中で、おおよそpH8〜10、5〜70℃、1〜20時間反応させることにより行われ、目的の式(1)で表される本発明のポルフィラジン色素が得られる。反応に用いられる「アンモニア」は、通常アンモニア水を意味する。しかし、中和や分解により、アンモニアを発生する化学物質であれば、これを用いることができる。アンモニアを発生する化学物質としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩の様に中和によりアンモニアを発生するもの;尿素等の熱分解によりアンモニアを発生するもの;アンモニアガス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該「アンモニア」としてはアンモニア水が好ましく、市販品として入手できる濃アンモニア水(通常は、およそ28%のアンモニア水として市販されている)、又はこれを必要に応じて水により希釈して使用すれば良い。
【0051】
式(3)で表される化合物の使用量は、通常式(2)で表される化合物1モルに対して、理論値[目的とする式(1)で表される色素におけるcの値を得るのに必要な、計算上の式(3)で表される化合物のモル数]の1モル以上であるが、用いる有機アミンの反応性、反応条件により異なり、これらに限定されるものではない。通常は前記理論値の1〜3モル、好ましくは1〜2モル程度である。
【0052】
また前記式(1)で表される色素は、前記式(2)と、式(3)で表される化合物とから、含水有機溶剤(好ましくは水)中で合成される。このため式(2)におけるクロロスルホニル基が一部、反応系内に存在する水により加水分解を受けてスルホン酸へと変換された化合物が副生し、この結果、該副生成物が、目的とする式(1)で表される色素に混入することが理論上考えられる。しかしながら質量分析において無置換スルファモイル基とスルホ基とを識別することは困難であり、本発明においては式(3)で表される化合物と反応させたもの以外の式(2)におけるクロロスルホニル基については、全て無置換スルファモイル基へと変換されたものとして記載する。
【0053】
さらに前記式(1)で表される色素は一部、2価の連結基(L)を介して銅ポルフィラジン環(Pz)が2量体(例えばPz−L−Pz)又は3量体を形成した不純物が副生し、反応生成物中に混入することもある。前記Lで表される2価の連結基としては−SO2−、−SO2−NH−SO2−等があり、3量体の場合にはこれら2つのLが組み合わされた副生成物が形成される場合も有る。
【0054】
前記の方法で合成される色素は、その合成反応における最終工程の反応液から、酸析又は塩析等により析出する固体を濾過分離等により、固体として単離することができる。塩析は、例えば酸性〜アルカリ性、好ましくはpH1〜11の範囲で行うことが好ましい。塩析の際の温度は特に限定されないが、通常40〜80℃、好ましくは50〜70℃に加熱後、塩化ナトリウム等を加えて塩析するのが好ましい。
【0055】
前記の方法で合成される色素は、遊離酸若しくはその塩として得られる。該色素を遊離酸として単離する方法としては、例えば酸析が挙げられる。また、塩として単離する方法としては、塩析するか、塩析によって所望の塩が得られないときには、例えば得られた塩を遊離酸に変換した後、所望の有機又は無機の塩基を加えて造塩する方法、又は公知の塩交換法等が挙げられる。
【0056】
前記式(1)で表される色素の塩としては、無機又は有機陽イオンとの塩が挙げられる。無機陽イオンの塩の具体例としてはアルカリ金属塩、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩;及びアンモニウム塩(NH4+)が挙げられる。また、有機陽イオンとしては、たとえば下記式(13)で表される4級アンモニウムが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0057】
【化13】

【0058】
前記式(13)中、Z1〜Z4はそれぞれ独立に水素原子、C1−C4アルキル基、ヒドロキシC1−C4アルキル基又はヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基を表わし、Z1〜Z4の少なくとも1つは水素原子以外の基である。
【0059】
ここで、Z1〜Z4におけるC1−C4アルキル基の例としてはメチル、エチル等が挙げられる。同様に、ヒドロキシC1−C4アルキル基の例としてはヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等が挙げられる。同様に、ヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−(ヒドロキシエトキシ)プロピル、3−(ヒドロキシエトキシ)ブチル、2−(ヒドロキシエトキシ)ブチル等が挙げられる。
【0060】
前記塩のうち好ましいものとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの塩等の有機4級アンモニウム塩;及び、アンモニウム塩;等が挙げられる。これらのうち、より好ましいものとして、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩が挙げられる。中でもナトリウム塩が特に好ましい。
【0061】
当業者においては明らかなように、前記式(1)で表される色素の塩又は遊離酸は、以下の方法等により容易に得ることができる。例えば、式(1)で表される色素の合成反応における、最終工程終了後の反応液、あるいは式(1)で表される色素の塩を含む水溶液等に、例えばアセトンやC1−C4アルコール等の水溶性有機溶剤を加える方法;塩化ナトリウムを加えて塩析する方法;等の方法によって析出した固体を濾過分離することにより、前記式(1)で表される色素のナトリウム塩等をウェットケーキとして得ることができる。また、得られたナトリウム塩のウェットケーキを水に溶解後、塩酸等の酸を加えてそのpHを適宜調整し、析出した固体を濾過分離することにより、前記式(1)で表される色素の遊離酸を、あるいは式(1)で表される色素の一部がナトリウム塩である遊離酸とナトリウム塩の混合物を得ることもできる。また、得られたナトリウム塩のウェットケーキ又はその乾燥固体を水に溶解後、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩を添加し、塩酸等の酸を加えてそのpHを適宜、例えばpH1〜3に調整し、析出した固体を濾過分離することにより、前記式(1)で表される色素のアンモニウム塩を得ることができる。添加する塩化アンモニウムの量又は/及びpHを適宜調整することにより、式(1)で表される色素のアンモニウム塩と式(1)で表される色素のナトリウム塩との混合物;又は式(1)で表される色素の遊離酸とアンモニウム塩との混合物;等を得ることもできる。また、後記するように前記反応終了後の反応液に、鉱酸(例えば塩酸、硫酸等)を加えて直接遊離酸の固体を得ることもできる。この場合には、式(1)で表される色素の遊離酸のウェットケーキを水に加えて撹拌し、例えば、水酸化カリウム;水酸化リチウム;アンモニア水;又は式(13)の有機4級アンモニウムの水酸化物;等を添加して造塩することにより、各々添加した化合物に応じたカリウム塩;リチウム塩;アンモニウム塩;又は4級アンモニウム塩;等を得ることもできる。遊離酸のモル数に対して、加える前記の水酸化物等のモル数を制限することにより、例えばリチウム塩とナトリウム塩の混塩等;さらにはリチウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩の混塩等;も調製することが可能である。前記式(1)で表される色素の塩は、その塩の種類により溶解性等の物理的な性質、あるいはインクとして用いた場合のインクの性能が変化する場合もある。このため目的とするインク性能等に応じて塩の種類を選択することも好ましく行われる。
【0062】
前記式(1)で表される色素は、その合成反応における最終工程の終了後、塩酸等の鉱酸の添加により固体の遊離酸として単離することができ、得られた遊離酸の固体を水又は例えば塩酸水等の酸性水で洗浄すること等により、不純物として含有する無機塩(無機不純物)、例えば塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等を除去することができる。前記のようにして得られる本発明の化合物の遊離酸は、前記の通り、得られたウェットケーキやその乾燥固体を、水中で所望の無機又は有機塩基と処理することにより、対応する化合物の塩の溶液を得ることができる。無機塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;及び水酸化アンモニウム(アンモニア水);等が挙げられる。有機塩基の例としては、例えば前記式(13)で表される4級アンモニウムに対応する有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0063】
前記のようにして得られた式(1)で表される色素は、これを乾燥した状態で、水(イオン交換水、蒸留水及び純水を含む)に対して3〜10質量%の溶解性を示す。
【0064】
本発明の色素は、前記式(1)で表され、且つ、400nmから800nmの波長範囲における分光光度計を用いた吸収波長の測定を、特定の測定条件下に行ったとき、598nm以上606nm以下に最大吸収波長(以下「λmax」とも記載する)を有するものである。このうち、λmaxを600nm以上604nm以下に有するものは、耐オゾン性において特に好ましい。特定の測定条件とは、すなわち、色素濃度が0.02g/リットル、pHが7〜8に調整された、式(1)で表される色素若しくはその塩の混合物の水溶液を調製し、光源がD65、視野角が2°、透過光路長が10mm、測定セルの温度が25℃で、測定を行う条件である。なお、吸収波長の測定に用いる色素水溶液の調製には、イオン交換水を用いる。なお、λmaxについては、小数点以下1桁目まで測定し、この小数点以下1桁目を四捨五入して求める。前記式(1)で表される色素であっても、λmaxが598nmよりも短波長に存在するものは水への溶解性が極端に低下し、インクジェットインクとして用いるときにはインク粘度の上昇等を生じるため吐出(安定)性の不良、ノズルの目詰まり等の不具合が生じやすくなる。一方、λmaxが606nmより長波長のものは、耐オゾン性が不十分となる傾向にある。
【0065】
前記式(1)中、環A乃至D、E、X、R1、a、b及びcにおいて好ましく挙げたものや、これらの好ましいもの同士を組み合わせた色素等は、このλmaxの範囲を満たすものとしても同様に、好ましいもの及び好ましい組み合わせ等として挙げることができる。また、前記式(1)中、環A乃至D、E、X、R1、a、b及びcにおいて好ましく挙げたものや、これらの好ましいもの同士を組み合わせた色素等と、さらに前記λmaxの範囲について好ましく挙げたものとを組み合わせた色素は、特に好ましい。
【0066】
本発明の色素は、天然及び合成繊維材料又は混紡品の染色、さらには、筆記用インク及びインクジェットインクの製造に適している。例えば、本発明の色素の合成反応における、最終工程終了後の反応液は、本発明のインク組成物の製造に直接使用することもできる。しかし、例えば前記の方法や、スプレー乾燥等の方法により反応液等を乾燥して該色素を単離した後、得られた色素をインク組成物に加工することもできる。
【0067】
本発明のインク組成物は、本発明の色素を水又は、水と水溶性有機溶剤(水との混和が可能な有機溶剤)との混合溶液(水性媒体ともいう)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、不純物として含有する金属陽イオンの塩化物、例えば塩化ナトリウム;硫酸塩、例えば硫酸ナトリウム;等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。この場合、例えば塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量は、本発明の色素の総質量に対して1質量%以下程度であり、下限値は0質量%、すなわち検出機器の検出限界以下で良い。無機不純物の少ない化合物を製造する方法としては、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法;又は、本発明の化合物の乾燥品あるいはウェットケーキを、例えばアセトンやC1−C4アルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等)等の水溶性有機溶剤、又は含水水溶性有機溶剤中に加え、懸濁精製又は晶析する方法;等の方法が挙げられ、これらの方法により脱塩処理等をすれば良い。本発明のインク組成物は水系インク組成物であり、該インク組成物の総質量に対して、本発明の色素を通常0.1〜2.5質量%、好ましくは0.3〜2.0質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%含有する。本発明のインク組成物には、さらに必要に応じて、水溶性有機溶剤を本発明により得られる効果を阻害しない範囲において含有してもよい。水溶性有機溶剤は、該インク組成物における色素の溶解、乾燥の防止、粘度の調整、浸透の促進、表面張力の調整、消泡等の効果を期待して使用され、該インク組成物中に含有する方が好ましい。インク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等の公知の添加剤が挙げられる。本発明のインク組成物の総質量に対して、水溶性有機溶剤の含有量は通常0〜60質量%、好ましくは10〜50質量%;インク調製剤の含有量は通常0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%である。また、これら以外の残部は水である。
【0068】
前記の水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルコール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はチオジグリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;γ−ブチロラクトン;又はジメチルスルホキシド;等が挙げられる。
【0069】
なお、前記の水溶性有機溶剤には、例えばトリメチロールプロパン等のように、常温で固体の物質も含まれている。しかし、該物質等は固体であっても水溶性を示し、さらに該物質等を含有する水溶液は水溶性有機溶剤と同様の性質を示し、同じ効果を期待して使用することができる。このため本明細書においては、便宜上、このような固体の物質であっても前記同じ効果を期待して使用できる限り、水溶性有機溶剤の範疇に含む。
【0070】
本発明のインクにおいて、水溶性有機溶剤として好ましいものは、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンであり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0071】
前記の防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、及び無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤として酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等が;さらにはアーチケミカル社製の商品名プロクセルRTMGXL(S)及びプロクセルRTMXL−2(S);等が、それぞれ挙げられる。なお、本明細書中において、上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0072】
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);又は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;等が挙げられる。
【0073】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0074】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどが挙げられる。
【0075】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物が挙げられる。またベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0076】
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物があげられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0077】
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0078】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。
【0079】
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などが挙げられる。
【0080】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0081】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等がある。
【0082】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等がある。
【0083】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学工業株式会社製の商品名サーフィノールRTM104、同82、同465、オルフィンRTMSTG;SIGMA−ALDRICH社製の商品名TergitolRTM15−S−7;等が挙げられる。
【0084】
消泡剤としては、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物が挙げられる。
【0085】
これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。なお、本発明のインク組成物の表面張力は通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜60mN/mであり、粘度は30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
【0086】
本発明のインク組成物の製造において、添加剤等の各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。インク組成物の調製に用いる水は、イオン交換水又は蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。また、必要に応じインク組成物の調製後に、メンブランフィルター等を用いて精密濾過を行って、インク組成物中の夾雑物を除いても良い。特に、本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用する場合には、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは0.8μm〜0.1μmである。
【0087】
本発明のインク組成物は、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、又は記録(印刷)、特にインクジェット記録における使用に適する。また本発明のインク組成物は、インクジェットプリンタの記録ヘッドのノズル付近における乾燥に対しても固体の析出は起こりにくく、この理由により該記録ヘッドの閉塞もまた起こしにくい。
【0088】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物が充填された容器をインクジェットプリンタの所定位置に装填し、本発明のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行う方法である。インクジェットプリンタには、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等を利用したものがある。本発明のインクジェット記録方法は、いかなる方式であっても使用が可能である。
【0089】
本発明のインクジェット記録方法に用いる被記録材としては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられ、情報伝達用シートが好ましい。情報伝達用シートとしては、特に制限はなく、普通紙はもちろん、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたもの等が用いられる。インク受容層とは、インクを吸収してその乾燥を早める等の作用を有する層である。インク受容層は、例えば前記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工する方法;又はインク中の色素を吸収し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に、前記基材の表面に塗工する方法;等により設けられる。前記のインク中の色素を吸収し得る無機微粒子の材質としては、多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等が挙げられる。このようなインク受容層を有する情報伝達用シートは、通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙、又は光沢フィルム等と呼ばれる。インク受容層を有する情報伝達用シートの代表的な市販品の例としては、キヤノン(株)製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー、キヤノン写真用紙・光沢プロ[プラチナグレード]、及び光沢ゴールド;セイコーエプソン(株)製、商品名写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢);日本ヒューレット・パッカード(株)製、商品名アドバンスフォト用紙(光沢);富士フィルム(株)製、商品名画彩 写真仕上げPro;ブラザー工業株式会社製、商品名:写真光沢紙BP71G;等が挙げられる。また、普通紙とは、特にインク受容層を設けていない紙のことを意味し、用途によってさまざまなものが数多く市販されている。市販されている普通紙のうち、インクジェット記録用としては、両面上質普通紙(セイコーエプソン株式会社製);PB PAPER GF−500(キヤノン株式会社製);Multipurpose Paper、All−in−one Printing Paper(Hewlett Packard社製);等が挙げられる。また、特に用途をインクジェット記録に限定しないプレーンペーパーコピー(PPC)用紙等も普通紙である。
【0090】
本発明の着色体は、本発明のインク組成物により着色された物質を意味する。着色される物質には特に制限はなく、例えば前記の被記録材等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは前記の被記録材が着色されたものが挙げられる。物質への着色方法は特に制限されないが、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷方法、及び本発明のインクジェット記録方法等が挙げられ、本発明のインクジェット記録方法が好ましい。前記着色体の中でも、本発明のインクジェット記録方法により着色された着色体が好ましい。
【0091】
本発明のインク組成物は、単色のライトシアンインクとして使用することができる。しかし、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各インクと併用することにより、この4色では表現が困難な、より広い可視領域の色調を表現することを可能とする。さらに、必要に応じて、ライトマゼンタ、グリーン、レッド、オレンジ、ブルー、ダークイエロー、グレー等の色相から選択されるインクと併用することにより、極めて高精細な、例えば写真調の画像を表現することもできる。
【0092】
本発明の色素を含有するインク組成物は、より高精細な記録画像を得ることを目的として、少なくとも2種類のシアンインクをインクセットとして用いる際に、色素濃度が0.1〜2.5質量%程度のライトシアンインクとして好適に使用することができる。このインクセットとして使用する際には、インクセットの少なくとも1つに本発明のインク組成物を使用するのが堅牢性等の観点から好ましく、残りのインクには公知のインク(組成物)を使用しても良い。
【0093】
本発明の色素の色相を、より好みの色相に微調整する等の目的で、本発明の色素の混合物に、本発明により得られる効果を阻害しない範囲で公知のシアン色素を配合して用いてもよい。公知のシアン色素としては、例えばC.I.Direct Blue 86、C.I.Direct Blue 87、C.I.Direct Blue 199、C.I.Acid Blue 9、C.I.Acid Blue 249、及びC.I.Reactive Blue 71等が挙げられる。また、特許文献1〜17に開示されたシアン色素も同様に配合して用いてもよい。
【0094】
本発明のインクは、鮮明なシアン色であり、ライトシアンインクとして使用したときに、特に耐オゾン性に優れた記録画像を得ることができる。また、耐光性、耐水性、耐湿性等の各種の堅牢性においても優れ、ブロンジング現象を生じにくいという特徴も有する。さらに、本発明のインク組成物は、貯蔵中に沈澱、分離することがない。また、本発明によるインクをインクジェット印捺において使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は、連続式インクジェットプリンタに使用した際の比較的長い時間一定の再循環下;又は、オンデマンド式インクジェットプリンタにおける断続的な使用;等の使用環境においても、物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0095】
以下に本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準であり、また反応温度は内温である。実施例中で得た化合物の各化学構造式において、スルホ基等の酸性官能基は遊離酸の形で記載した。なお、実施例中で使用した「レオコールRTMTD−90」は商品名であり、ライオン株式会社製の界面活性剤である。
【0096】
[実施例1](工程1)下記式(4)において、環A乃至Dのうち1.4が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.6がベンゼン環で表される化合物の合成。
【0097】
【化4】

【0098】
スルホラン375部に、無水フタル酸29.16部、キノリン酸17.23部、尿素108部、塩化銅(II)10.1部、及びモリブデン酸アンモニウム1.5部を加え、200℃まで昇温し、同温度で5時間反応させた。反応液を65℃まで冷却し、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)50部を加え、析出固体を濾過分離した。得られた固体をDMF50部で洗浄し、ウェットケーキ75.1部を得た。得られたウェットケーキをDMF450部に加え、110℃に昇温し、同温度で一時間攪拌した。固体を濾過分離し、水200部で洗浄しウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを5%塩酸450部中に加え、60℃に昇温し、同温度で1時間攪拌した。固体を濾過分離し、水200部で洗浄してウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを5%アンモニア水450部中に加え、60℃で1時間攪拌し、固体を濾過分離し、水200部で洗浄し、ウェットケーキ78.6部を得た。得られたウェットケーキを80℃で乾燥し、目的化合物23.1部を青色固体として得た。
【0099】
(工程2)下記式(2)において、環A乃至Dのうち1.4が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.6がベンゼン環であり、nが2.6である化合物の合成。
【0100】
【化2】

【0101】
室温下、クロロスルホン酸46.2部中に、60℃を超えないように実施例1(工程1)で得た式(4)の化合物5.8部を徐々に加えた後、140℃で4時間反応させた。得られた反応液を70℃まで冷却し、塩化チオニル17.9部を30分間で滴下し、70℃でさらに3時間反応させた。反応液を30℃以下に冷却し、氷水800部中にゆっくりと注ぎ、析出固体を濾過分離し、冷水200部で洗浄することにより、目的化合物のウェットケーキ33.0部を得た。
【0102】
(工程3)下記式(10)で表される化合物[前記式(3)におけるEがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子である化合物]の合成。
【0103】
【化10】

【0104】
氷水100部中に塩化シアヌール18.4部、レオコールRTMTD−90(0.05部)を加え10℃以下で30分間攪拌した。この液に2,5−ジスルホアニリン(純度88.4%の市販品を使用)31.7部を加え、10%水酸化ナトリウム水溶液で反応液をpH2.0〜3.0に保持しながら0〜10℃で2時間、25〜30℃で1時間反応を行った。得られた反応液にベンジルアミン10.9部を加え、10%水酸化ナトリウム水溶液で反応液をpH7.0〜8.0に保持しながら25〜30℃で1時間、30〜40度で1時間反応を行い、反応液を得た。氷120部にエチレンジアミン60.1部を加えた水溶液に、得られた反応液を徐々に加え、室温で1時間攪拌した。この液に氷150部、濃塩酸200部を加え、pH1.0に調整した。このとき液量は700部であった。得られた液に塩化ナトリウム140部を加え、一晩撹拌し固体を析出させた。析出固体を濾過分離しウェットケーキ70.0部を得た。得られたウェットケーキを水280部に加え、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0として溶液を得た。このとき液量は360部であった。この溶液を濃塩酸でpH1.0に調整し、塩化ナトリウム70部を加え、一晩撹拌し固体を析出させた。析出固体を濾過分離しウェットケーキ60.3部を得た。得られたウェットケーキをメタノール255部、水45部の混合溶媒中に加え、50℃で1時間攪拌した後、固体を濾過分離しウェットケーキ50.3部を得た。得られたウェットケーキを乾燥させ、目的化合物15.3部を白色粉末として得た。(工程4)下記式(11)で表される本発明の色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち1.4が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.6がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子、bが1.8、cが0.8である色素の遊離酸]の合成。
【0105】
【化11】

【0106】
実施例1(工程3)で得た式(10)の化合物3.71部を、28%アンモニア水1部及び水40部の混合液に溶解し、溶液を調製した。一方、氷水100部中に実施例1(工程2)で得たウェットケーキ33.0部を加え、5℃以下で10分撹拌懸濁した。この液に、10℃以下で、先に調製した式(10)の化合物を含有する溶液を加え、28%アンモニア水で反応液をpH9.0に保持しながら0.5時間反応させた。同pHを保持したまま、反応液を20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。この時の液量は225部であった。反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム45部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH7.0に調整し、析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ124.3部を得た。得られたウェットケーキを水100部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム50部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH7.0に調整し、析出固体を濾過分離し、10%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ54.5部を得た。得られたウェットケーキを水150部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム12.5部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH1.0に調整し、析出固体を濾過分離し、5%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ76.3部を得た。イソプロピルアルコール320部及び水80部の混合液に得られたウェットケーキを加えて50℃で1時間攪拌し、固体を濾過分離してウェットケーキ32.1部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的とする本発明の色素の遊離酸9.1部を青色粉末として得た。λmax:602nm。
【0107】
[実施例2]前記式(11)で表される本発明のポルフィラジン色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち1.4が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.6がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子、bが1.6、cが1.0である色素の遊離酸]の合成。実施例1(工程3)で得た式(10)の化合物4.95部を、28%アンモニア水1部及び水40部の混合液に溶解し、溶液を調製した。一方、氷水100部中に実施例1(工程2)と同様にして得たウェットケーキ33.0部を加え、5℃以下で10分撹拌懸濁した。この液に、10℃以下で、先に調製した式(10)の化合物を含有する溶液を加え、28%アンモニア水で反応液をpH9.0に保持しながら0.5時間反応させた。同pHを保持したまま、反応液を20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。この時の液量は225部であった。反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム45部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH7.0に調整し、析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ104.3部を得た。得られたウェットケーキを水230部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は375部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム18.7部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH3.0に調整し、析出固体を濾過分離し、5%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ54.5部を得た。イソプロピルアルコール320部及び水80部の混合液に得られたウェットケーキを加えて50℃で1時間攪拌し、固体を濾過分離してウェットケーキ38.8部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的とする本発明の色素の遊離酸10.3部を青色粉末として得た。λmax:604nm。[実施例3]前記式(11)で表される本発明のポルフィラジン色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち1.4が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.6がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子、bが1.8、cが0.8である色素の遊離酸]の合成。実施例1(工程3)で得た式(10)の化合物3.71部を、28%アンモニア水1部及び水40部の混合液に溶解し、溶液を調製した。一方、氷水100部中に実施例1(工程2)と同様にして得たウェットケーキ33.0部を加え、5℃以下で10分撹拌懸濁した。この液に、10℃以下で、先に調製した式(10)の化合物を含有する溶液を加え、28%アンモニア水で反応液をpH9.0に保持しながら0.5時間反応させた。同pHを保持したまま、反応液を20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。この時の液量は225部であった。反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム45部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH7.0に調整し、析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ124.3部を得た。得られたウェットケーキを水100部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム50部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH7.0に調整し、析出固体を濾過分離し、10%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ54.5部を得た。得られたウェットケーキを水100部に加え、25%水酸化カリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化カリウム25部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH1.0に調整し、析出固体を濾過分離し、10%塩化カリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ71.3部を得た。得られたウェットケーキを水200部に加え、25%水酸化カリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は300部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化カリウム15部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてpH1.0に調整し、析出固体を濾過分離し、1%塩化カリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ62.2部を得た。イソプロピルアルコール320部及び水80部の混合液に得られたウェットケーキを加えて50℃で1時間攪拌し、固体を濾過分離してウェットケーキ32.1部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的とする本発明の色素の遊離酸9.6部を青色粉末として得た。λmax:600nm。[実施例4](工程1)前記式(4)における環A乃至Dのうち0.7が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り3.3がベンゼン環で表される化合物の合成。
【0108】
スルホラン375部に、無水フタル酸36.1部、キノリン酸9.4部、尿素108部、塩化銅(II)10.1部、及びモリブデン酸アンモニウム1.5部を加え、200℃まで昇温し、同温度で5時間反応した。反応液を65℃まで冷却し、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)50部を加え、析出固体を濾過分離した。得られた固体をDMF50部で洗浄し、ウェットケーキ75.1部を得た。得られたウェットケーキをDMF450部に加え、110℃に昇温し、同温度で一時間攪拌した。固体を濾過分離し、水200部で洗浄してウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを5%塩酸450部中に加え、60℃に昇温して同温度で1時間攪拌し、固体を濾過分離し、水200部で洗浄してウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを5%アンモニア水450部中に加え、60℃で1時間攪拌し、固体を濾過分離し、水200部で洗浄し、ウェットケーキ78.6部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的化合物32.6部を青色固体として得た。
【0109】
(工程2)前記式(2)における環A乃至Dのうち0.7が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り3.3がベンゼン環であり、nが3.3である化合物の合成。
【0110】
室温下、クロロスルホン酸46.2部中に、60℃を超えないように実施例4(工程1)で得た式(4)の化合物5.8部を徐々に加えた後、140℃で4時間反応させた。得られた反応液を70℃まで冷却し、塩化チオニル17.9部を30分間で滴下し、70℃でさらに3時間反応させた。反応液を30℃以下に冷却し、氷水800部中にゆっくりと注ぎ、析出固体を濾過分離し、冷水200部で洗浄することにより、目的化合物のウェットケーキ32.2部を得た。
【0111】
(工程3)前記式(11)で表される本発明のポルフィラジン色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち0.7が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り3.3がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子、bが2.5、cが0.8である色素の遊離酸]の合成。実施例1(工程3)で得た式(10)の化合物3.71部を、28%アンモニア水2部及び水30部の混合液に溶解し、溶液を調製した。一方、氷水100部中に実施例1(工程2)と同様にして得たウェットケーキ32.2部を加え、5℃以下で10分攪拌懸濁した。この液に、10℃以下で、先に調製した式(10)の化合物を含有する溶液を加え、28%アンモニア水で反応液をpH9.0に保持しながら10時間反応させた。同pHを保持したまま、反応液を20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。このときの液量は225部であった。反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム45部を加え、10分攪拌した後、濃塩酸でpH7.0に調整した。析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液200部で洗浄し、ウェットケーキ65.3部を得た。得られたウェットケーキに水200部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は300部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム15gを加え30分攪拌した後、濃塩酸でpH1.0に調整した。析出固体を濾過分離し、5%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ53.5部を得た。水64部及びイソプロピルアルコール256部の混合液に得られたウェットケーキを加えて50℃で1時間攪拌し、固体を濾過分離し、ウェットケーキ27.8部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的とする本発明の色素の遊離酸10.4部を青色粉末として得た。λmax:606nm。
【0112】
[比較例1](工程1)前記式(11)で表される比較用のポルフィラジン色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち0.7が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り3.3がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子、bが1.8、cが1.5である色素]の合成。実施例1(工程3)で得た式(10)の化合物7.4部を、28%アンモニア水2部及び水30部の混合液に溶解し、溶液を調製した。一方、氷水100部中に実施例1(工程2)と同様にして得たウェットケーキ32.2部を加え、5℃以下で10分攪拌懸濁した。この液に、10℃以下で、先に調製した式(10)の化合物を含有する溶液を加え、28%アンモニア水で反応液をpH9.0に保持しながら0.5時間反応させた。同pHを保持したまま、反応液を20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。このときの液量は225部であった。反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム45部を加え、10分攪拌した後、濃塩酸でpH4.5に調整した。析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液200部で洗浄し、ウェットケーキ42.8部を得た。得られたウェットケーキに水200部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は260部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム50gを加え30分攪拌した後、析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液200部で洗浄し、ウェットケーキ36.24部を得た。得られたウェットケーキに水200部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム12.5gを加え30分攪拌した後、濃塩酸でpH1.0に調整した。析出固体を濾過分離し、5%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ41.4部を得た。水40部及びイソプロピルアルコール160部の混合液に得られたウェットケーキを加えて50℃で1時間攪拌した後、固体を濾過分離し、ウェットケーキ31.3部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的とする比較用の色素の遊離酸12.5部を青色粉末として得た。
【0113】
[比較例2](工程1)下記式(24)で表される化合物の合成。
【0114】
【化24】

【0115】
スルホラン750部に、4−スルホフタル酸320.0部(3−スルホフタル酸20%を含有し、50%水溶液として得られる市販品を使用)、28%アンモニア水47.3部を加え、160℃に昇温し、同温度で2時間反応した。その後65℃まで冷却し、キノリン酸25.1部、尿素288部、酢酸銅(II)36.4部、及びモリブデン酸アンモニウム4部を加え、再度200℃まで昇温し、同温度で5時間反応した。反応終了後90℃まで冷却し、35%塩酸180部を加え、90℃で一時間撹拌した。反応液にメタノール440部を添加して、析出した固体を濾過分離した。得られた固体をメタノール400部で洗浄し、ウェットケーキ531部を得た。水184.8部、及び35%塩酸40.2部の混合液中に得られたウェットケーキを加え、60℃に昇温し、同温度で一時間攪拌して溶液を得た。得られた液にメタノール60部と2−プロパノール500部を添加し、析出した固体を濾過分離し、20%含水2−プロパノール400部で洗浄し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを28%アンモニア水106部、メタノール750部の混合液中に加え、60℃に昇温し、同温度で1時間攪拌した。固体を濾過分離し、メタノール400部で洗浄し、ウェットケーキ361部を得た。得られたウェットケーキを80℃で乾燥し、目的とする前記式(24)で表される化合物142.1部を青色固体として得た。
【0116】
(工程2)下記式(25)で表される化合物の合成。
【0117】
【化25】

【0118】
室温下、クロロスルホン酸53.2部中に、60℃を超えないように比較例2(工程1)で得た式(24)の化合物8.9部を徐々に加えた後、この液を120℃に昇温して4時間反応した。得られた反応液を70℃まで冷却し、塩化チオニル25.0部を30分間で滴下した後、80℃でさらに3時間反応した。反応液を30℃以下に冷却し、氷水800部中にゆっくりと注ぎ、析出固体を濾過分離し、冷水200部で洗浄することにより、目的化合物のウェットケーキ40.1部を得た。
【0119】
(工程3)前記式(11)で表される比較用のポルフィラジン色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち0.7が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り3.3がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、R1が水素原子、bが2.0、cが1.3である色素]の合成。
【0120】
実施例1(工程3)で得た式(10)の化合物6.2部を、28%アンモニア水2部及び水30部の混合液に溶解し、溶液を調製した。一方、氷水100部中に比較例2(工程2)で得たウェットケーキ40.1部を加え、5℃以下で10分攪拌懸濁した。この液に、10℃以下で、先に調製した式(10)の化合物を含有する溶液を加え、28%アンモニア水で反応液をpH8.0に保持しながら0.5時間反応させた。同pHを保持したまま、反応液を20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。このときの液量は225部であった。反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム45部を加え、10分攪拌した後、濃塩酸でpH5.0に調整した。析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液200部で洗浄し、ウェットケーキ30.1部を得た。得られたウェットケーキに水200部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム25gを加え30分攪拌した後、濃塩酸でpH4.0に調整した。析出固体を濾過分離し、10%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ45.3部を得た。得られたウェットケーキに水200部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は300部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム15gを加え30分攪拌した後、濃塩酸でpH1.0に調整した。析出固体を濾過分離し、5%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ59.4部を得た。水64部及びイソプロピルアルコール256部の混合液に得られたウェットケーキを加えて50℃で1時間攪拌したあと、析出固体を濾過分離し、ウェットケーキ28.1部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、目的とする比較用の色素の遊離酸11.6部を青色粉末として得た。
【0121】
(A)ライトシアンインクの調製[実施例5〜8]下記表1に記載の各成分を混合溶解し、0.45μmのメンブランフィルター(アドバンテック社製)で濾過することにより試験用のインクを得た。尚、水はイオン交換水を使用した。又、インクのpHが8〜10、総量が100部になるように水、及び12.5%水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えた。実施例1で得た色素の混合物を用いたインクの調製を実施例5とし、実施例2乃至4で得た色素の混合物をそれぞれ用いたインクの調製を、実施例6乃至8とする。但し、実施例3で得た色素の混合物を用いた実施例7については、12.5%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、12.5%水酸化カリウム水溶液を使用してpHの調整を行った。なお、下記表1中、「界面活性剤」は、日信化学株式会社製、商品名サーフィノールRTM104PG50を使用した。
【0122】
【表1】

【0123】
[比較例3及び4]各実施例で合成した色素の混合物の代わりに、比較例1又は2で合成した色素の混合物をそれぞれ用いる以外は実施例5と同様にして、比較用のライトシアンインクをそれぞれ調製した。比較例1で合成した色素の混合物を用いたインクの調製を比較例3、比較例2で合成した色素の混合物を用いたインクの調製を比較例4とする。
【0124】
(B)インクジェット記録 各実施例、及び比較例で調製したインクをインクジェットプリンタ(キヤノン社製、商品名PIXUSRTM ip4500)を用いて、下記光沢紙(A)及び(B)の2種類の光沢紙にインクジェット記録を行なった。
【0125】
光沢紙(A):セイコーエプソン(株)製、写真用紙クリスピア(光沢)。光沢紙(B):キヤノン(株)製、写真用紙・光沢プロ プラチナグレード。
【0126】
インクジェット記録の際は、100%、85%、70%、55%、40%、25%濃度の6段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの記録物を得て、これを試験片とした。耐オゾン性試験の際には、試験前の記録物の印字濃度(Dc)を測定し、Dc=1.0に最も近い階調部での色素残存率を求めた。 また、反射濃度は測色システム(X−rite社製、商品名SpectroEye)を用いて測色した。測色は、濃度基準にDIN、視野角2°、光源D65の条件で行なった。記録画像の各種試験方法及び試験結果の評価方法を以下に記載する。
【0127】
(C)記録画像の評価[耐オゾン性試験]各試験片を、オゾンウェザーメーター(スガ試験機社製、型式OMS−H)を用い、オゾン濃度12ppm、槽内温度23℃、湿度50%RHで24時間放置した。各試験片について、試験前後の反射濃度を前記の測色システムを用いて測色し、色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求めた。試験結果の実測値を下記表2に示す。
【0128】
(D)最大吸収波長(λmax)の測定実施例1乃至4、及び比較例1乃至3で合成した各色素の混合物の最大吸収波長は、以下の方法で測定した。(D−1)測定用の試料の調製各色素の混合物0.1gを秤量し、12.5%水酸化ナトリウム水溶液0.1gを加えて溶液とした後、500ミリリットルのメスフラスコにイオン交換水で洗いこみながら移し、さらにイオン交換水を加えて500ミリリットルの水溶液を調製した。得られた水溶液から10mlをホールピペットで分取し、100ミリリットルのメスフラスコに移し、イオン交換水を加えて100mlの水溶液を調製することにより、色素濃度が0.02g/リットルであり、pHが7〜8である、最大吸収波長測定用の試料を調製した。(D−2)吸収波長の測定方法前記(D−1)にて得た各試料を、定法に従い、SHIMADZU社製の分光光度計UV−2550にて、光源がD65、視野角が2°、透過光路長10mm、測定セルの温度が25℃の条件下にて、400nmから800nmの波長範囲における吸収波長を測定した。測定結果を下記表2に示す。
【0129】
【表2】

【0130】
表2の結果から明らかなように、598nm以上606nm以下の範囲に最大吸収波長を有する各実施例は、この範囲に最大吸収波長を有しない各比較例に対して優れた耐オゾン性を示すことが確認された。また各実施例の中では、600nm以上604nm以下の範囲に最大吸収波長を有するものは、耐オゾン性において特に優れ、ライトシアンインクとして極めて有用であることがわかる。
【0131】
[実施例9](工程1)前記式(4)における環A乃至Dのうち1.2が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.8がベンゼン環で表される化合物の合成。
【0132】
スルホラン375部に、無水フタル酸31.11部、キノリン酸15.04部、尿素108部、塩化銅(II)10.1部、及びモリブデン酸アンモニウム1.5部を加え、200℃まで昇温し、同温度で5時間反応させた。反応液を65℃まで冷却し、DMF50部を加え、析出固体を濾過分離した。得られた固体をDMF50部で洗浄し、ウェットケーキ75.1部を得た。得られたウェットケーキをDMF450部に加え、110℃に昇温し、同温度で一時間反応させた。この反応液から析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄しウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを5%塩酸450部中に加え、60℃に昇温し、同温度で1時間攪拌した。得られた液から析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄してウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを5%アンモニア水450部中に加え、60℃で1時間攪拌し、析出固体を濾過分離し、水200部で洗浄し、ウェットケーキ78.6部を得た。得られたウェットケーキを80℃で乾燥し、目的化合物24.9部を青色固体として得た。
【0133】
(工程2)前記式(2)における環A乃至Dのうち1.2が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.8がベンゼン環であり、nが2.8である化合物の合成。
【0134】
室温下、クロロスルホン酸46.2部中に、60℃を超えないように実施例9(工程1)で得た式(4)の化合物5.8部を徐々に加えた後、140℃で4時間反応させた。得られた反応液を70℃まで冷却し、この液に塩化チオニル17.9部を30分間で滴下した後、70℃でさらに3時間反応させた。反応液を30℃以下に冷却した後、氷水800部中にゆっくりと注ぎ、析出固体を濾過分離してウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを冷水200部で洗浄することにより、目的化合物のウェットケーキ38.2部を得た。
【0135】
(工程3)
前記式(11)で表される本発明のポルフィラジン色素[前記式(1)における環A乃至Dのうち1.2が2位及び3位で縮環したピリジン環、残り2.8がベンゼン環、Eがエチレン、Xが2,5−ジスルホアニリノ、aが1の整数、基Fがフェニル、Rが水素原子である色素]の合成。
【0136】
氷水200部中に実施例9(工程2)で得たウェットケーキ38.2部を加え、5℃以下で撹拌懸濁した。10分後、10℃以下を保持しながら、実施例1(工程3)で得た式(10)の有機アミン3.7部を28%アンモニア水1.5部及び水40部の混合液に溶解した溶液をこの縣濁液に加え、28%アンモニア水でpH9.0を保持しながら一晩反応させた。得られた液のpHを9.0に保持したまま20℃まで昇温し、同温度でさらに一晩反応させた。この時の液量は250部であった。この反応液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム50部を加えて30分撹拌した後、濃塩酸にてこの液をpH5.0に調整し、析出固体を濾過分離した。得られた固体を20%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ24.2部を得た。得られたウェットケーキを水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整することにより溶液とした。このときの液量は250部であった。この溶液を50℃に昇温し、塩化ナトリウム50部を加え30分撹拌した後、濃塩酸にてこの液をpH5.0に調整し、析出固体を濾過分離した。得られた固体を20%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、ウェットケーキ20.1部を得た。得られたウェットケーキをメタノール340部及び水60部の混合液に加えて懸濁液とし、50℃で1時間攪拌した後に、固体を濾過分離してウェットケーキ13.9部を得た。得られたウェットケーキを乾燥し、前記式(11)で表される本発明の色素の遊離酸10.8部を青色粉末として得た。λmax:602nm。なお、得られた本発明の色素を用い、前記の実施例5乃至実施例8と同様にしてライトシアンインクを調製し、(C)記録画像の評価[耐オゾン性試験]を実施した。その結果、実施例9(工程3)で得られた色素を用いたライトシアンインクも、実施例5乃至実施例8と同等の耐オゾン性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物、及びこれを含有するインク組成物は各種の記録用、特にインクジェット記録用のライトシアンインクとして極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、且つ、400nmから800nmの波長範囲における分光光度計を用いた吸収波長の測定を、下記の測定条件下に行ったとき、598nm以上606nm以下の範囲に最大吸収波長を有するポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物、
【化1】

[式(1)中、環A乃至Dはそれぞれ独立に、ポルフィラジン環に縮環したベンゼン環又はピリジン環を表し、該ピリジン環の個数は平均値で0.0より大きく3.0以下であり、残りはベンゼン環であり、EはC2−C4アルキレンを表し、Xはスルホ基を有するアニリノ基を表し、該アニリノ基は、さらにカルボキシ基を有しても良い。R1はスルホ基、カルボキシ基又は水素原子を表し、aは1又は2の整数を表す。bは平均値で0.0以上3.9未満であり、cは平均値で0.1以上1.2以下であり、且つb及びcの和は、平均値で1.0以上4.0未満である。]。 測定条件:色素濃度が0.02g/リットル、pHが7〜8に調整された、式(1)で表される色素若しくはその塩の混合物の水溶液を調製し、光源がD65、視野角が2°、透過光路長が10mm、測定セルの温度が25℃で測定を行う。なお、該水溶液の調製にはイオン交換水を用いる。
【請求項2】
インク組成物の総質量に対して、請求項1に記載のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物を0.1〜2.5質量%含有するインク組成物。
【請求項3】
さらに水溶性有機溶剤を含有する請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
インクジェット記録に用いる請求項2又は3に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項6】
被記録材が情報伝達用シートである請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
情報伝達用シートが表面処理されたシートであって、支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有するシートである請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器。
【請求項9】
請求項8に記載の容器が装填されたインクジェットプリンタ。
【請求項10】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載のインク組成物により着色された着色体。
【請求項11】
請求項5に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体。
【請求項12】
色素濃度の異なる2種類以上のシアンインクを有するインクセットであって、該シアンインクの少なくとも1つが請求項2乃至4のいずれか一項に記載のインク組成物であるインクセット。
【請求項13】
下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物又はその塩とを、アンモニア存在下に反応させる、請求項1に記載のポルフィラジン色素若しくはその塩の混合物の製造方法、
【化2】

[式(2)中、nは平均値で1.0以上4.0未満の数を表す。]、
【化3】

[(式(3)中、EはC2−C4アルキレンを表し、Xはスルホ基を有するアニリノ基を表し、該アニリノ基は、さらにカルボキシ基を有しても良い。R1はスルホ基、カルボキシ基又は水素原子を表し、aは1又は2の整数を表す。]。

【公開番号】特開2012−25938(P2012−25938A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136180(P2011−136180)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】