説明

ポンプシステム

【課題】簡単な構成で複数台のポンプを偏り無く駆動することが可能なポンプシステムを提供する。
【解決手段】複数台のポンプ装置11のそれぞれに対して、揚水管15の適所に空気抜弁26を接続し、更に該空気抜弁26に先発設定弁27、揚水開始水位調整弁28、逆止弁29を並列的に接続する。そして、最初に作動させるポンプ装置11の先発設定弁27を開とし、それ以外の先発設定弁27を閉とする。また、揚水開始水位調整弁28の設定圧力を調整することにより、ポンプ14内の空気圧力を調整する。従って、吸水槽12内の水位が上昇すると、各ポンプ装置11毎に、水位を押し下げる力が相違するので、各ポンプ装置11による揚水開始水位が異なるようにできる。このため、揚水を開始する順序を任意に設定することが可能となり、各ポンプを偏り無く駆動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台のポンプを用いて吸水槽に流入する水を速やかに送り出すポンプシステムに係り、特に、各ポンプを均一に運転することにより各ポンプの消耗が偏らないようにする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大都市の雨水ポンプ場では、大雨により吸水槽に雨水が流入し、水位があるレベルに達した場合には、ポンプを作動させて流入した雨水を排出する。雨水の排出には、通常複数台のポンプが用いられ、吸水槽の水位に応じて順次ポンプを運転することにより流入量に応じた排出を行っている。
【0003】
従来におけるポンプシステムとして、例えば、図11に示すように、吸水槽101の内部に3台のポンプ装置102A,102B,102Cを設置し、吸水槽101の水位に応じて、順次ポンプ装置102A,102B,102Cを駆動することにより、流水量に応じた排水を行うものが知られている。
【0004】
以下、図11に示すポンプシステムについて説明すると、吸水槽101の内部に設けられる3台のポンプ装置102A,102B,102Cは、それぞれポンプ103A,103B,103Cの高さが異なるように設定されており(例えば、50cm間隔)、ポンプ103Aが最も低い位置に設置され、ポンプ103B,103Cの順に設置位置が高くなるように設定されている。そして、吸水槽101の水位がDWL(A)に達するとポンプ103Aによる揚水が開始され、DWL(B)に達するとポンプ103Aに加えてポンプ103Bによる揚水が開始され、更に、DWL(C)に達するとポンプ103A,103Bに加えてポンプ103Cによる揚水が開始される。これにより、水位に応じて作動させるポンプ数を変更することが可能となる。
【0005】
ところが、図11に示すポンプシステムでは、羽根車が最も低い位置に設置されるポンプ103Aが初めに作動し、その後、順次ポンプ103B,103Cの順に作動するので、ポンプ103Aの作動時間が最も長くなり、ポンプ103Cの作動時間が最も短くなる。従って、各ポンプ103A,103B,103C毎にポンプの作動時間に偏りが生じ、特に水中軸受等の消耗品は摩耗量に大きな相違が発生する。このため、各ポンプ毎に消耗品の交換時期が異なり、その都度に運転停止を要し、ポンプの分解、組立作業に多くの労力を要するという問題が生じる。
【0006】
更に、3台のポンプ103A,103B,103Cのうちの1台が故障すると、円滑な排水ができなくなるという欠点がある。例えば、最下段に設置されるポンプ103Aが故障した場合には、他のポンプ103B,103Cが正常な場合であっても、排水開始レベルがDWL(B)となってしまい、速やかな排水ができなくなるという問題が生じる。
【0007】
この問題を解決するために、例えば、特開2010−138876号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。該特許文献1では、送風機よりポンプケーシング内に空気を供給することにより、各ポンプの揚水開始水位、及び揚水停止水位を決めることができるので、各ポンプの運転順序を任意に設定することが可能となり、各ポンプの作動時間を均一化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−138876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された従来例では、ポンプケーシング内に空気を供給するための送風機、及び該送風機を作動させるための電力が必要となるので、システム全体が大規模化し、更に消費電力が増大するという問題が発生する。また、水位検知装置あるいは圧縮空気供給源が故障もしくは電源喪失すると、ポンプシステム全体が機能しなくなるという問題が発生する。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成で複数台のポンプを偏り無く駆動することが可能なポンプシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、吸水槽内に設けられ、該吸水槽に流入する水を外部に排出するポンプシステムにおいて、前記吸水槽内に設置される複数のポンプ装置(11)を備え、前記各ポンプ装置は、導入側に吸込管が接続され、且つ送出側に揚水管が接続され、前記吸水槽に流入する水を略鉛直方向に揚水する立軸型のポンプ(14)と、前記揚水管下流側の吐出口に設けられ、該吐出口を気密的に封止する封止手段(例えば、吐出弁17,フラップ弁18)と、前記封止手段にて前記吐出口が封止されている際に、前記ポンプ内部の空気圧力を所望の圧力に設定する圧力調整手段(例えば、空気抜弁26、揚水開始水位調整弁28、逆止弁29)と、を有し、前記圧力調整手段により、各ポンプ装置毎にポンプ内部の空気圧力が異なるように設定することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記圧力調整手段は、前記揚水管に接続された空気抜弁、及び該空気抜弁に接続され互いに並列配置された複数の弁からなる弁群を有し、前記弁群は、外気から前記空気抜弁側へ空気を流入すると共に、空気抜弁側から外気への空気の流出を阻止する逆止弁と、外気から空気抜弁側への空気の流入を阻止すると共に、前記ポンプ内部の空気圧力が予め設定した圧力閾値に達した場合に、空気抜弁側から外気へ空気を流出する揚水開始水位調整弁と、を備え、各ポンプ毎に、前記揚水開始水位調整弁の圧力閾値が異なるように設定することを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記揚水開始水位調整弁は、手動操作により設定圧力を調整でき、設定圧力を調整することにより、任意に揚水開始水位を設定することを特徴とする。 請求項4に記載の発明は、前記弁群は、前記逆止弁、及び揚水開始水位調整弁に加えて、先発設定弁(27)を更に有し、前記複数のポンプ装置のうち、前記吸水槽の水位が上昇した際に、最初に揚水を開始するポンプ装置に設けられる前記先発設定弁のみを開放し、それ以外のポンプ装置に設けられる先発設定弁を閉鎖することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記各ポンプ装置は、前記吸込管に連通する吸気管を有し、該吸気管の端部に、前記吸込管内へ流入する空気量を調整する吸気弁(揚水遮断水位調整弁25)と、外気から前記吸込管側へ空気を流入すると共に、吸込管側から外気への空気の流出を阻止する逆止弁を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記吸気弁は、手動操作により弁開度の調整が可能であり、各ポンプ装置毎に任意に揚水遮断水位を設定できることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、前記封止手段は、前記揚水管より送水されない場合には該揚水管の吐出口を気密的に封止し、前記揚水管より送水された場合に、この水圧により開放されるフラップ弁であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、前記封止手段は、電動で駆動する弁(吐出弁17)であり、前記ポンプが揚水を開始する前には前記吐出口を封止し、揚水が開始された場合には吐出口を開放することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るポンプシステムでは、各ポンプ装置が圧力調整手段を備えており、該圧力調整手段により、ポンプ内部の空気圧を設定することができる。従って、複数台のポンプ装置の空気圧力がそれぞれ異なるように設定することにより、各ポンプ装置が水を吸引する際の水位を調整することができるので、各ポンプ装置の揚水開始順序を任意に決めることが可能となる。従って、従来のように、複数台のポンプ装置のポンプ高さを異ならせる必要がなく、全てのポンプ装置の仕様、形状、設置条件を統一しても、圧力調整手段を調整することにより揚水開始順序を決定できるので、特定のポンプ装置の作動時間が長くなる等の作動時間の偏りを解消することができ、各ポンプ装置を均一に作動させることができる。
【0019】
その結果、メンテナンス周期を略一定とすることができる。また、複数台のポンプ装置のうちの一台が故障した場合であっても、他のポンプ装置で代用することが可能となるので、融通性に富み円滑な排水処理を行うことができる。複数台のポンプ装置が同一仕様のため、設計・製作に要する時間とコストを削減できる。
【0020】
更に、特許文献1に開示された従来例のように、送風機を用いる構成ではないので、装置が大規模化するという問題や、電源喪失や制御系統の故障によるポンプシステムの機能停止を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに用いられるポンプ装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位が低い場合の状態を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がDWL(A)に達した場合の状態を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がDWL(B)に達した場合の状態を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がDWL(C)に達した場合の状態を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がAWLに達した場合の状態を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がAWLを下回った場合の状態を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がSWL(C)まで低下した場合の状態を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がSWL(B)まで低下した場合の状態を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るポンプシステムに係り、吸水槽の水位がSWL(A)まで低下した場合の状態を示す説明図である。
【図11】従来におけるポンプシステムの構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
[本実施形態の構成説明]
図1は、本発明の一実施形態に係るポンプシステムに用いられるポンプ装置を模式的に示す説明図である。本実施形態では、後述するように、図1に示すポンプ装置を並列的に3台設置し、これらの作動開始順序を適宜変更することにより、各ポンプ装置の作動時間が均一となるように調整する。
【0024】
図1に示すように、ポンプ装置11は、降雨時に雨水が流入する吸水槽12内に設けられ、吸水槽12の水位が高くなった際に水を汲み上げて外部へ排出する装置であり、吸水槽12内の水を揚水する立軸型のポンプ14と、該ポンプ14の導入側(図中下側)に接続される吸込管13と、ポンプ14の送出側(図中上側)に接続される揚水管15とを備えている。
【0025】
吸込管13は、下側がベル状に広がるように構成され、その端面が吸水槽12の底面から所定の高さとなるように配置されている。揚水管15は、上方が略直角に屈曲しており、管路には吐出弁17が設けられ、更にその下流側にはフラップ弁18が設けられている。該フラップ弁18の下流側は吐出流路(図示省略)に接続されている。
【0026】
ポンプ14は、例えばモータ等の駆動装置(図示省略)の回転動力を伝達する主軸19と、該主軸19の先端部に設けられ、吸水槽12に流入する水を揚水管15に揚水する羽根車16と、軸受20,21と、羽根車16の周囲を覆うポンプケーシング22を有している。そして、モータを回転駆動させると、主軸19を介して回転動力が羽根車16に伝達され、該羽根車16の回転により羽根車16の高さに達する水を上方に揚水する。
【0027】
また、羽根車16のやや下方の吸込管13には吸気管23が連通しており、該吸気管23の先端部は、逆止弁24及び揚水遮断水位調整弁25(吸気弁)を介して、外気に開放されている。逆止弁24は、外気側から吸気管23側への空気の流入を開放し、吸気管23側から外気側への空気の流出を阻止する。また、揚水遮断水位調整弁25は、手動操作での開度調整が可能であり、開度調整により吸込管13内へ流入する空気量の調整が可能となる。具体的には、開度を大きくすることにより吸気管23内の配管抵抗を小さくして吸込管13内へ多くの空気を流入させることができ、開度を小さくすることにより吸気管23内の配管抵抗を大きくして吸込管13内へ多くの空気が流入しないように設定することができる。
【0028】
即ち、揚水遮断水位調整弁25は、吸気管23内の配管抵抗を異ならせることにより吸込管13内への空気の流入量を調整し、それぞれのポンプ装置11で揚水遮断水位を任意に設定できるものである。
【0029】
更に、揚水管15の先端部で吐出弁17のやや上流側となる部位には、空気抜弁26が連通しており、更に、該空気抜弁26は、先発設定弁27と揚水開始水位調整弁28と逆止弁29の並列接続(弁群)が設けられている。
【0030】
空気抜弁26は、ポンプ14による揚水が行われていない場合には「開」とされ、ポンプ14による揚水が開始され、揚水管15に水が流入した場合に「閉」となるように動作する。空気抜き弁26として、例えばボール状の浮き球を設置し、揚水管15に水が流入して浮き球が浮き上がることを利用して空気の流路を遮断する弁を用いることができる。
【0031】
先発設定弁27は、手動操作により開閉状態を設定可能であり、後述するように複数のポンプ装置11のうち、最初に作動させるポンプ装置11に設けられる先発設定弁27のみを「開」に設定し、それ以外のポンプ装置11(2番目以降に作動させるポンプ装置)の先発設定弁27を「閉」に設定する。
【0032】
揚水開始水位調整弁28は、手動操作で容易に設定圧力を調整でき、揚水管15内の空気圧力を所望の圧力に設定することで、任意に揚水開始水位を調整することが可能である。また、外気から揚水管15側への空気の流入を阻止する。
【0033】
逆止弁29は、外気側から揚水管15側への空気の流入を開放し、揚水管15側から外気側への空気の流出を阻止する。
【0034】
即ち、弁群は、外気から空気抜弁26側へ空気を流入させ、且つ、空気抜弁26側から外気への空気の流出を阻止する逆止弁29と、ポンプ内部の空気圧力が予め設定した圧力閾値に達した場合に、空気抜弁26側から外気へ空気を流出させ、且つ、外気から空気抜弁26側への空気の流入を阻止する揚水開始水位調整弁28を備えている。更に、弁群は、は、先発設定弁27を有し、複数のポンプ装置のうち、吸水槽12の水位が上昇した際に、最初に揚水を開始するポンプ装置に設けられる先発設定弁27のみを開放し、それ以外のポンプ装置に設けられる先発設定弁27を閉鎖する。
【0035】
そして、空気抜弁26、及び上記の弁群により、ポンプ14内部の空気圧力を所望の圧力に設定する圧力調整手段が構成される。
【0036】
フラップ弁18は、排水時を除いて「閉」とされてポンプ14内の気密性を保持しており、ポンプ14が作動し揚水管15より水が送出された場合に「開」となって、送水された水を下流側の吐出流路へ送り出す。
【0037】
吐出弁17は、電動で開閉する弁であり、常時「開」状態としている。即ち、吐出弁17、及びフラップ弁18は、揚水管15の吐出口に設けられ、該吐出口を気密的に封止する封止手段としての機能を備えている。
【0038】
次に、図2に示すように、上述のように構成されたポンプ装置11を3台設置し、各ポンプ装置11を用いて吸水槽12内に流入する水を排出する際の動作について説明する。なお、以下では3台のポンプ装置11にそれぞれ符号A,B,Cを付して各ポンプ装置11を区別する。また、特に区別する必要のない場合には符号A,B,Cを付さずに表記する。初めに、運転開始前の初期設定操作について説明する。
【0039】
[初期設定操作]
本実施形態では、吸水槽12内に設置される3台のポンプ装置11の揚水遮断水位調整弁25の開度が異なるように設定する。具体的には、ポンプ装置11Cの揚水遮断水位調整弁25Cの開度を最も大きくし、揚水遮断水位調整弁25B、25Aの順に開度を小さく設定する。このように設定することにより、後述するように、各ポンプ装置11毎に揚水を遮断する際の水位が異なるように設定することができる。
【0040】
また、図2に示すように、ポンプ装置11Aの先発設定弁27Aを「開」とし、ポンプ装置11B,11Cの先発設定弁27B,17Cを「閉」とする。この設定は、操作者が初期的に行うことができるので、先発設定弁27Bを「開」とし、それ以外を「閉」とすることや、先発設定弁27Cを「開」とし、それ以外を「閉」とすることで、最初に作動させるポンプ装置11を決めることが可能である。
【0041】
更に、ポンプ装置11Bの揚水開始水位調整弁28Bの設定圧力を調整し、ポンプ14B内の空気圧力の最大値がPb[mAq](圧力閾値)となるように設定する。即ち、吸水槽12の水位が上昇してポンプ14B内の空気圧力が上昇し、圧力Pbを超える場合には揚水開始水位調整弁28Bを経由して揚水管15B内の空気が外気に流出し、ポンプ14B内部の空気圧力がPbとなるように調整する。
【0042】
同様に、ポンプ装置11Cの揚水開始水位調整弁28Cの圧力調節により、ポンプ14C内の空気圧力の最大値がPc[mAq](圧力閾値)となるように設定する。即ち、吸水槽12の水位が上昇してポンプ14C内の空気圧力が上昇し、圧力Pcを超える場合には揚水開始水位調整弁28Cを経由して揚水管15C内の空気が外気に流出し、ポンプ14C内部の空気圧力がPcとなるように調整される。この際、Pb<Pcとされている。
【0043】
なお、ポンプ装置11Aについては、先発設定弁27Aが「開」とされているので、揚水開始水位調整弁28Aの圧力調整は不要である。
【0044】
[排水開始時の動作]
次に、運転開始時の動作について説明する。図2は、吸水槽12内に流入している水量が少ない場合を示しており、吸水槽12の水位は、各ポンプ装置11の吸込管13の下端面よりも若干高い位置となっている。そして、吸水槽12の付近で大雨が降った情報等の、吸水槽12内に大量の水が流入する可能性が高くなる情報が入手された場合には、各ポンプ装置11のポンプ14を作動させる。従って、図2に示すように、各ポンプ14の羽根車16が回転を開始する。この際、吸水槽12の水位は各ポンプ14の羽根車16の高さに達していないので、3台のポンプ14は全て気中待機運転となり、揚水は行われない。
【0045】
そして、上述した初期設定により、ポンプ14A内部は大気圧とされるので、吸込管13A内には、吸水槽12と同一の水位まで水が流入しており、ポンプ14B,14Cについては、ポンプ14B,14C内部の空気圧力Pb、Pcにより水面が押し下げられるので、吸込管13B,13C内には水は流入していない。具体的には、Pb、Pc[mAq]で、それぞれPb、Pc[m]押下げられる。
【0046】
次に、吸水槽12内の水位が上昇し、図3に示すようにポンプ14Aの羽根車16Aが接水する水位(これを、ポンプ装置11Aによる揚水開始水位DWL(A)とする)に達すると、ポンプ装置11Aによる揚水が開始される。この際、ポンプ14Aが吸込管13Aから水を吸引することにより、吸気管23A内の空気圧力が負圧となるので、揚水遮断水位調整弁25Aより吸気管23A内に外気が流入し、更に、吸込管13A内に流入する。従って、ポンプ14Aは気水混合運転となって揚水管15Aに水を揚水する。
【0047】
そして、気水混合運転とすることにより、水位が低いことによるポンプの不安定な作動を回避することができる。即ち、仮に吸気管23Aより空気が流入されない場合には、水位が羽根車16Aが接水するギリギリの高さとなっているとき、ポンプ14Aが揚水、遮断を繰り返すことにより不安定となってしまう。これに対し、吸気管23Aより空気を導入して気水混合運転とすることにより、ポンプ14Aによる揚水開始時の動作を安定化させることができる。
【0048】
その後、揚水管15Aに揚水された水は吐出弁17Aを介してフラップ弁18Aに達し、該フラップ弁18Aは水圧により開放されるので、ポンプ14Aにより揚水された水は下流側の吐出流路(図示省略)へと送り出されることになる。また、揚水管15Aに水が揚水されることにより、空気抜弁26Aは「閉」とされ、揚水管15A内への外気の導入が遮断される。
【0049】
一方、ポンプ装置11Bは、ポンプ14B内の空気圧力が上述した圧力Pbに設定されているので、この圧力により吸込管13B内の水位が下方に押し下げられ、羽根車16Bの高さに達しない。ポンプ装置11Cについても同様に、吸込管13C内の水位が下方に押し下げられ、羽根車16Cの高さに達しない。
【0050】
従って、ポンプ装置11B,11Cは気中待機運転が継続されることになり、吸水槽12内に流入する水は、ポンプ装置11Aによってのみ排出されることとなる。
【0051】
次に、吸水槽12内の水位が更に上昇し、図4に示すようにポンプ装置11Bの羽根車16Bが接水する水位(これを、ポンプ装置11Bによる揚水開始水位DWL(B)とする)に達すると、ポンプ装置11Bによる揚水が開始される。この際、ポンプ14Bが水を吸引することにより、吸気管23B内の空気圧力が負圧となるので、揚水遮断水位調整弁25Bより吸気管23B内に外気が流入し、更に、吸込管13B内に流入する。従って、ポンプ14Bは気水混合運転となって揚水管15Bに水を揚水する。
【0052】
そして、気水混合運転とすることにより、ポンプ14Aの場合と同様に、水位が低いことによるポンプの不安定な作動を回避することができる。
【0053】
その後、揚水管15Bに揚水された水は吐出弁17Bを介してフラップ弁18Bに達し、該フラップ弁18Bは水圧により開放されるので、ポンプ14Bにより揚水された水は、下流側の吐出流路へと送り出される。また、揚水管15Bに水が揚水されることにより、空気抜弁26Bは「閉」とされ、揚水管15B内への外気の導入が遮断される。
【0054】
一方、ポンプ装置11Cは、空気圧力がPc(>Pb)とされているので水位が羽根車16Cの高さまで上昇せず、気中大気運転が継続されることになる。従って、吸水槽12内に流入する水は、ポンプ装置11A,11Bの2台によって排出されることとなる。
【0055】
その後、吸水槽12内の水位が更に上昇し、図5に示すようにポンプ装置11Cの羽根車16Cが接水する水位(これを、ポンプ装置11Cによる揚水開始水位DWL(C)とする)に達すると、ポンプ装置11Cによる揚水が開始される。
【0056】
この際、ポンプ14Cが水を吸引することにより、吸気管23C内の空気圧力が負圧となるので、揚水遮断水位調整弁25Cより吸気管23C内に外気が流入し、更に、吸込管13C内に流入する。従って、ポンプ14Cは気水混合運転となって揚水管15Cに水を揚水する。
【0057】
そして、気水混合運転とすることにより、ポンプ14A,14Bと同様に、水位が低いことによるポンプの不安定な作動を回避することができる。
【0058】
その後、揚水管15Cに揚水された水は吐出弁17Cを介してフラップ弁18Cに達し、該フラップ弁18Cは水圧により開放されるので、ポンプ14Cにより揚水された水は、下流側の吐出流路へと送り出される。また、揚水管15Cに水が揚水されることにより、空気抜弁26Cは「閉」とされ、外気の導入が遮断される。従って、吸水槽12内に流入する水は、全てのポンプ装置11A,11B,11Cによって排出されることとなる。
【0059】
そして、各ポンプ装置11が作動すると、各空気抜弁26は「閉」となるので、揚水開始水位調整弁28の設定圧力に関係無く、同一の条件で作動することになる。また、より一層水位が上昇し、図6に示すように全量排水水位AWL(>DWL(C))に達すると、各ポンプ装置11の吸気管23内の空気圧力が上昇し、大気圧との差が小さくなるので、各揚水遮断水位調整弁25より流入する空気が遮断される。従って、各ポンプ14は全量排水運転(空気が混合しない運転)に切り替えられる。
【0060】
このように、吸水槽12に雨水が流入し、水位が上昇した場合には、DWL(A)に達した時点でポンプ装置11Aによる揚水が開始され、その後更に水位が上昇してDWL(B)に達するとポンプ装置11Bによる揚水が開始される。また、更に水位が上昇してDWL(C)に達するとポンプ装置11Cによる揚水が開始される。従って、吸水槽12の水位に応じて3台のポンプ装置11を順次作動させて該吸水槽12内に流入した雨水を排出することができる。
【0061】
[排水停止時の動作]
次に、吸水槽12の水位が低下した場合の、各ポンプ装置11の停止動作について説明する。図6に示したように、3台の各ポンプ装置11が並行運転している状態で、吸水槽12の水位が低下し、全量排水水位AWLを下回ると、図7に示すように、各吸気管23内の空気圧力が負圧になるので、各ポンプ14は吸気管23から空気を吸い込みながら揚水することになる。即ち、気水混合運転となって揚水される。
【0062】
揚水が継続されることにより吸水槽12内の水位が低下すると、吸気管23からの空気の吸込量が増大する。そして、図8に示すように、吸水槽12内の水位がポンプ14Cの揚水遮断水位(以下、SWL(C)という)まで低下すると、ポンプ装置11Cの吸気管23Cから大量の空気を吸い込み、羽根車16Cの下部に空気で満たされる領域が生じ、水の吸込ができなくなり、ポンプ14Cは揚水を停止する揚水遮断運転に移行する。
【0063】
この際、上述したように、ポンプ装置11Cの揚水遮断水位調整弁25Cが最も開度が大きく、25B,25Aの順に開度が小さくなるように設定されているので、ポンプ装置11Cの揚水遮断水位SWL(C)が最も高い水位とされ、次いで、ポンプ装置11Bの揚水遮断水位(以下、SWL(B)という)が2番目に高い水位とされ、ポンプ装置11Aの揚水遮断水位(以下、SWL(A)という)が最も低い水位とされる。
【0064】
そして、ポンプ装置11Cが揚水遮断運転に移行すると、フラップ弁18Cは「閉」とされるので揚水管15Cの下流側からの空気の流入が阻止される。しかし、揚水管15C内の水面が下降することにより空気抜弁26Cが「開」となるので、逆止弁29Cを介して揚水管15C内に空気が流入する。従って、揚水管15C、及びポンプ14C内に滞留している水は、自重により徐々に吸水槽12内に落下することになる。
【0065】
その後、更に水位が低下し、図9に示すようにSWL(B)まで低下すると、ポンプ装置11Bの吸気管23Bから大量の空気を吸い込み、羽根車16Bの下部に空気で満たされる領域が生じ、水の吸込ができなくなり、ポンプ14Bは揚水を停止する揚水遮断運転に移行する。
【0066】
そして、ポンプ装置11Bが揚水遮断運転に移行すると、フラップ弁18Bは「閉」とされるので揚水管15Bの下流側からの空気の流入が阻止される。しかし、揚水管15B内の水面が下降することにより空気抜弁26Bが「開」となるので、逆止弁29Bを介して揚水管15B内に空気が流入する。従って、揚水管15B、及びポンプ14B内に滞留している水は、自重により徐々に吸水槽12内に落下することになる。
【0067】
更に水位が低下し、図10に示すようにSWL(A)まで低下すると、ポンプ装置11Aの吸気管23Aから大量の空気を吸い込み、羽根車16Aの下部に空気で満たされる領域が生じ、水の吸込ができなくなり、ポンプ14Aは揚水を停止する揚水遮断運転に移行する。
【0068】
そして、ポンプ装置11Aが揚水遮断運転に移行すると、フラップ弁18Aは「閉」とされるので揚水管15Aの下流側からの空気の流入が阻止される。しかし、揚水管15A内の水面が下降することにより空気抜弁26Aが「開」となるので、先発設定弁27A、及び逆止弁29Aを介して揚水管15A内に空気が流入する。従って、揚水管15A、及びポンプ14A内に滞留している水は、自重により徐々に吸水槽12内に落下することになる。その後、時間が経過すると、各ポンプ装置11の揚水管15及びポンプ14に滞留した水は全て吸水槽12内に落下し、各ポンプ装置11は待機状態となる。
【0069】
こうして、各ポンプ装置11毎に、揚水遮断水位調整弁25の開度が異なるように設定することにより、吸水槽12の水位が低下した場合の、各ポンプ装置11の停止順序を決定することができるのである。
【0070】
このようにして、本実施形態に係るポンプシステムでは、各ポンプ装置11の揚水管15に空気抜弁26を接続し、更に、該空気抜弁26に、先発設定弁27、揚水開始水位調整弁28、及び逆止弁29を並列的に接続している。そして、先発設定弁27、及び揚水開始水位調整弁28を調整することにより、吸水槽12の水位が上昇した場合の、各ポンプ装置11の作動開始順序を設定している。
【0071】
即ち、先発設定弁27を「開」とすることにより、最初に作動するポンプ装置11を決めることができ、更に、揚水開始水位調整弁28の設定圧力を調整することにより、ポンプ14内の空気圧力を設定することができるので、2番目、3番目に作動するポンプ装置11を決定することができる。換言すれば、作業者が各先発設定弁27の開閉状態、及び各揚水開始水位調整弁28の設定圧力を調整することにより、各ポンプ装置11の作動順序を決定することができる。
【0072】
従って、各ポンプ装置11の作動頻度に応じて、適宜作動順序を変更することにより、各ポンプ装置11の累積作動時間が均一となるように調整することが可能となるので、各ポンプ装置11に設けられる消耗品等の劣化の度合いを合わせることができる。このため、メンテナンスの手間を大幅に軽減することが可能となる。
【0073】
また、3台のポンプ装置11のうちの一台が故障し作動させることができなくなった場合であっても、他の2台のポンプ装置11の揚水開始水位調整弁28の圧力を再設定することでそれぞれの揚水開始水位を任意に決定し、速やかな排水を行うことができる。更に、ポンプ14内の空気圧力を調整するための各弁は、手動操作で調整可能であるので、制御装置等の電気的な制御手段が不要となり、装置構成を簡素化できる。
【0074】
なお、本実施形態では、揚水管15の先端部にフラップ弁18を設け、ポンプ14による揚水が行われない場合には、該フラップ弁18により揚水管15及びポンプ14内を気密的に封止する構成としたが、フラップ弁18により気密性を維持することができない場合には、吐出弁17を電気的に開閉動作させることにより、揚水管15及びポンプ14内の気密性を維持することができる。これは、例えば、揚水管15の適所に水位センサを設置し、該水位センサにて水が揚水されていることが検知されない場合には、吐出弁17を全閉状態として気密性を維持し、揚水されていることが検知された場合には、吐出弁17を全開状態として揚水された水を下流側の送水路に送り出すようにすれば良い。
【0075】
また、本実施形態では、最初に作動させるポンプ装置11の先発設定弁27を「開」とすることにより、該ポンプ装置11内の空気圧力が大気圧となるように設定したが、先発設定弁27を設置せず、揚水開始水位調整弁28の圧力調整により、ポンプ装置11内の空気圧力を大気圧に設定することも可能である。即ち、揚水開始水位調整弁28を全開状態とすることにより、実質的に先発設定弁27を「開」とすることと同等の役目を果たすようにすることも可能である。
【0076】
以上、本発明のポンプシステムを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0077】
例えば、本実施形態に係るポンプシステムでは、一例として3台のポンプ装置11を設置する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2台、或いは4台以上とすることも可能である。
【0078】
また、本実施形態では、ポンプ装置11A、11B、11Cの順で揚水を開始し、ポンプ装置11C、11B、11Aの順で揚水を停止する例について説明したが、開始時の順序と停止時の順序は任意に設定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、吸水槽に流入する雨水の水位が上昇した際に、上昇した水位に応じてポンプ装置を作動させて水を排出することに利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
11 ポンプ装置
12 吸水槽
13 吸込管
14 ポンプ
15 揚水管
16 羽根車
17 吐出弁
18 フラップ弁
19 主軸
20,21 軸受
22 ポンプケーシング
23 吸気管
24 逆止弁
25 揚水遮断水位調整弁
26 空気抜弁
27 先発設定弁
28 揚水開始水位調整弁
29 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水槽内に設けられ、該吸水槽に流入する水を外部に排出するポンプシステムにおいて、
前記吸水槽内に設置される複数のポンプ装置を備え、
前記各ポンプ装置は、
導入側に吸込管が接続され、且つ送出側に揚水管が接続され、前記吸水槽に流入する水を略鉛直方向に揚水する立軸型のポンプと、
前記揚水管下流側の吐出口に設けられ、該吐出口を気密的に封止する封止手段と、
前記封止手段にて前記吐出口が封止されている際に、前記ポンプ内部の空気圧力を所望の圧力に設定する圧力調整手段と、を有し、
前記圧力調整手段により、各ポンプ装置毎にポンプ内部の空気圧力が異なるように設定することを特徴とするポンプシステム。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、前記揚水管に接続された空気抜弁、及び該空気抜弁に接続され互いに並列配置された複数の弁からなる弁群を有し、
前記弁群は、外気から前記空気抜弁側へ空気を流入すると共に、空気抜弁側から外気への空気の流出を阻止する逆止弁と、
外気から空気抜弁側への空気の流入を阻止すると共に、前記ポンプ内部の空気圧力が予め設定した圧力閾値に達した場合に、空気抜弁側から外気へ空気を流出する揚水開始水位調整弁と、を備え、
各ポンプ毎に、前記揚水開始水位調整弁の圧力閾値が異なるように設定することを特徴とする請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項3】
前記揚水開始水位調整弁は、手動操作により設定圧力を調整でき、設定圧力を調整することにより、任意に揚水開始水位を設定することを特徴とする請求項2に記載のポンプシステム。
【請求項4】
前記弁群は、前記逆止弁、及び揚水開始水位調整弁に加えて、先発設定弁を更に有し、
前記複数のポンプ装置のうち、前記吸水槽の水位が上昇した際に、最初に揚水を開始するポンプ装置に設けられる前記先発設定弁のみを開放し、それ以外のポンプ装置に設けられる先発設定弁を閉鎖することを特徴とする請求項2または請求項3のいずれかに記載のポンプシステム。
【請求項5】
前記各ポンプ装置は、前記吸込管に連通する吸気管を有し、
該吸気管の端部に、前記吸込管内へ流入する空気量を調整する吸気弁と、
外気から前記吸込管側へ空気を流入すると共に、吸込管側から外気への空気の流出を阻止する逆止弁を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポンプシステム。
【請求項6】
前記吸気弁は、手動操作により弁開度の調整が可能であり、各ポンプ装置毎に任意に揚水遮断水位を設定できることを特徴とする請求項5に記載のポンプシステム。
【請求項7】
前記封止手段は、前記揚水管より送水されない場合には該揚水管の吐出口を気密的に封止し、前記揚水管より送水された場合に、この水圧により開放されるフラップ弁であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポンプシステム。
【請求項8】
前記封止手段は、電動で駆動する弁であり、前記ポンプが揚水を開始する前には前記吐出口を封止し、揚水が開始された場合には吐出口を開放することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポンプシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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