説明

マイクロウエーブセンサ

【課題】 屋外設置時の近距離の草木などによる誤報を極力回避するとともに、侵入者が遠距離で監視対象領域を横切るように動いた場合などでも的確に検出することが可能なマイクロウエーブセンサを提供する。
【解決手段】 検知エリアに向けて周波数の異なる複数のマイクロ波を送信し、この検知エリア内に存在する物体からの各マイクロ波の反射波に基づいて物体検知動作を行うマイクロウエーブセンサ1において、上記検知エリア内の物体までの「相対距離」を求める距離認識手段41と、上記検知エリア内の物体の「単位時間当たりの移動距離」を求める移動距離認識手段42と、距離認識手段41および移動距離認識手段42の出力を受け、上記検知エリア内の物体までの「相対距離」が長いほど、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」を小さく設定して物体検知判定動作を行う物体判定手段43とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロウエーブセンサに関し、特に、検知すべきターゲットのみをより的確に検出するとともに誤報の発生を極力回避して信頼性を向上させたマイクロウエーブセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防犯装置の一つとして、マイクロ波を検知エリアに向けて送信し、検知エリア内に人体(侵入者)が存在する場合には、その人体からの反射波(ドップラー効果によって変調したマイクロ波)を受信して人体を検知するマイクロウエーブセンサが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
さらに、マイクロウエーブセンサの1タイプとして、周波数の異なる複数のマイクロ波を利用して検知エリア内に存在する人体等の物体(以下、ターゲットと呼ぶ)までの距離を計測するようにしたものも知られている。この種のセンサは、例えば周波数の異なる2種類のマイクロ波を検知エリアに向けて送信し、それぞれの反射波に基づく2つのIF信号の位相差を検出するようになっている。この位相差は、ターゲットまでの距離に相関があり、ターゲットまでの距離が大きいほど位相差も大きくなる傾向がある。つまり、この位相差を求めることによりターゲットまでの距離を計測することが可能である。また、この位相差の時間的な変化を認識することにより検知エリア内のターゲットが移動しているか否かを判定することも可能である。これにより、例えば検知エリア内で移動しているターゲットのみを、検知すべきターゲット(侵入者)として判定することが可能になる。
【0004】
以下、この種のセンサにおけるIF信号の位相差検出動作について説明する。
【0005】
周波数の異なる2種類のマイクロ波の反射波に基づくIF信号が図3(a)に示すような正弦波IFout1、IFout2(ターゲットまでの距離に応じた位相差を有している)である場合、これらIF信号から成形される矩形波W1、W2は、それぞれ図3(b)に示すようになる。そして、これらの矩形波W1、W2の位相差(図中における矩形波の立ち上がり部分の時間差Δtから換算)を検出することによってターゲットまでの距離を計測することが可能になる。また、この矩形波W1、W2の位相差の時間的な変化を認識することにより、検知エリア内のターゲットの移動(センサに近づいているのか遠ざかっているのか)を認識することが可能である。
【0006】
ところで、この種のセンサを防犯用センサとして使用し、上記位相差の時間的な変化を認識して、検知エリア内で移動しているターゲットのみを検知すべきターゲット(侵入者)であると判定するようにした場合、以下に述べるような問題点があった。
【0007】
つまり、この種のセンサを屋外に設置した場合に、風による草木などの揺れによって上記矩形波W1、W2に位相差が生じ、これによって草木などを、検知すべきターゲットであると誤検知して誤報を発してしまう可能性がある。同様に、この種のセンサを屋内に設置した場合に、換気用のファンの回転動作や、風によるブラインドやカーテンの揺れによっても上記矩形波W1、W2に位相差が生じ、この場合にも人体以外の物体を、検知すべきターゲットであると誤検知して誤報を発してしまう可能性がある。
【0008】
そこで、本発明の発明者は、人体などの検知すべきターゲットとそうでない物体(草木やファン等)との判別を正確に行って誤報を回避する技術について既に提案している(特許文献2参照。)。
【0009】
この提案は、各反射波に基づいて検知エリア内に存在するターゲットまでの相対距離の単位時間当たりの変化量を計測し、その変化量が所定の閾値以上であるときにのみ、そのターゲットを、検知すべきターゲットであると判定するものである。つまり、風によって揺れている草木や回転しているファン等は移動距離が僅かであるのに対し、検知すべき人体等は移動距離が大きい。この差を認識することでターゲットが検知すべきものであるか否かを判定するようにしている。なお、以下の説明では上記の閾値を「草木対策レベル」と記すこととする。
【特許文献1】特開平7−37176号公報
【特許文献2】特開2003−207462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のマイクロウエーブセンサ100が屋外に設置されているとき、監視対象領域10の周辺にフェンス用の草木などがあったり、マイクロウエーブセンサ100が監視対象領域10の周辺に設置されたりする場合が多い。結果として、マイクロウエーブセンサ100の近辺に草木などが存在する場合が多いことになる。マイクロウエーブセンサ100の近辺にある物体ではその検知レベルが高くなるため、これらの草木などは誤報の原因となりやすい。そこで、このような誤報を極力回避するため、草木などが揺らいでも発生し得ないような距離の変化量として、上記の「草木対策レベル」を例えば「1秒間の移動距離:50cm」と定めて対応していた。
【0011】
次に、この「草木対策レベル」が進入者検知へ及ぼす影響を、図4を参照して説明する。ここで、図4は、従来のマイクロウエーブセンサ100における草木対策レベルd100と侵入者の動きの関係の説明図である。
【0012】
(1)侵入者がほぼ正面から接近してくる場合
まず、侵入者がマイクロウエーブセンサ100のほぼ正面から接近してくる場合を考える。
【0013】
侵入者がマイクロウエーブセンサ100から比較的近い所定距離の線11上のほぼ正面の位置からM1aのように接近すると、マイクロウエーブセンサ100はほぼM1aの長さに等しい値をターゲットまでの距離の変化量として得ることになる。
【0014】
同様に、侵入者がマイクロウエーブセンサ100から比較的遠い所定距離の線102上のほぼ正面の位置からM2a(長さはM1aと同じ)のように接近すると、マイクロウエーブセンサ100はほぼM2aの長さに等しい値をターゲットまでの距離の変化量として得ることになる。
【0015】
いずれの場合も、ターゲットまでの距離の変化量が草木対策レベルd100を超えるので、マイクロウエーブセンサ100は侵入者を検出することが可能である。
【0016】
(2)侵入者が監視対象領域10を横切るような動きをする場合
次に、侵入者がマイクロウエーブセンサ100の監視対象領域10の側方(図4では上方または下方に相当)から現れ、マイクロウエーブセンサ100にはほとんど接近せずに監視対象領域10を横切るような動きをする場合を考える。
【0017】
侵入者がマイクロウエーブセンサ100から比較的近い所定距離の線11上の一側方(図4では上方)の位置からM1bのように接近すると、マイクロウエーブセンサ100がターゲットまでの距離の変化量として得る値は、M1bの長さにほぼ等しい値ではなく、M1bのマイクロウエーブセンサ100方向の成分に対応する値となる。このような場合でも、マイクロウエーブセンサ100方向とM1bの方向とがなす角度が比較的小さければ、ターゲットまでの距離の変化量が草木対策レベルd100を超え、マイクロウエーブセンサ100は侵入者を検出することが可能である。
【0018】
ところが、侵入者がマイクロウエーブセンサ100から比較的遠い所定距離の線12上の一側方(図4では上方)の位置からM2bのように接近すると、マイクロウエーブセンサ100方向とM2bの方向とがなす角度が大きくなって直交状態に近くなる。マイクロウエーブセンサ100がターゲットまでの距離の変化量として得る値は、M2bのマイクロウエーブセンサ100方向の成分に対応する値であるのでかなり小さくなり、ターゲットまでの距離の変化量が草木対策レベルd100を超えず、マイクロウエーブセンサ100は侵入者を検出できないことになってしまう。
【0019】
つまり、従来のマイクロウエーブセンサ100において、屋外設置時の近距離の草木などによる誤報を極力回避できるように草木対策レベルd100を大きめに定めると、侵入者がマイクロウエーブセンサ100から比較的遠いところを監視対象領域10を横切るように動いた場合などに、侵入者が的確に検出できなくなってしまう可能性がある。
【0020】
従来技術のこのような課題に鑑み、本発明の目的は、屋外設置時の近距離の草木などによる誤報を極力回避するとともに、侵入者が遠距離で監視対象領域を横切るように動いた場合などでも的確に検出することが可能なマイクロウエーブセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明のマイクロウエーブセンサは、検知エリアに向けて周波数の異なる複数のマイクロ波を送信し、この検知エリア内に存在する物体からの各マイクロ波の反射波に基づいて物体検知動作を行うマイクロウエーブセンサにおいて、上記各反射波に基づいて上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」を求める距離認識手段と、上記検知エリア内に存在する上記物体の「単位時間当たりの移動距離」を求める移動距離認識手段と、上記距離認識手段および上記移動距離認識手段の出力を受け、上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」が所定値以上である場合には、この「相対距離」が所定値を越えない場合よりも、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」を小さく設定して物体検知判定動作を行う物体判定手段とを備えていることを特徴とする。
【0022】
ここで、上記距離認識手段は、上記検知エリア内に存在する上記物体からの各マイクロ波の反射波の位相差に基づいて上記物体までの相対距離を計測するよう構成してもよい。また、上記移動距離認識手段は、上記距離認識手段からの出力を受けて、上記物体までの相対距離の単位時間当たりの変化量を計測するよう構成してもよい。
【0023】
この発明のマイクロウエーブセンサによれば、上記物体までの相対距離が遠い場合は、近い場合に比べて、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」が低く設定される。これにより、近距離においては、本来の検知対象ではない物体までの相対距離の変化が検出されることによる誤報を極力回避しつつ、本来の検知対象である物体は確実に検出することを可能となり、遠距離においては、本来の検知対象である物体が相対距離の変化があまり大きくならないような方向の動きをした場合であっても的確な検出をすることが可能となる。例えば、この発明のマイクロウエーブセンサが屋外に設置された場合であれば、設置位置付近の草木などによる誤報を極力回避するとともに、侵入者が遠距離で監視対象領域を横切るように動いた場合などでも的確に検出することが可能となる。
【0024】
あるいは、本発明のマイクロウエーブセンサは、検知エリアに向けて周波数の異なる複数のマイクロ波を送信し、この検知エリア内に存在する物体からの各マイクロ波の反射波に基づいて物体検知動作を行うマイクロウエーブセンサにおいて、上記各反射波に基づいて上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」を求める距離認識手段と、上記検知エリア内に存在する上記物体の「単位時間当たりの移動距離」を求める移動距離認識手段と、上記距離認識手段および上記移動距離認識手段の出力を受け、上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」が長いほど、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」を小さく設定して物体検知判定動作を行う物体判定手段とを備えていることを特徴とする。
【0025】
この発明のマイクロウエーブセンサによれば、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」が、上記物体までの相対距離に応じて、相対距離が長いほど小さくなるように設定される。これにより、近距離においては、本来の検知対象ではない物体までの相対距離の変化が検出されることによる誤報を極力回避しつつ、本来の検知対象である物体は確実に検出することを可能となり、遠距離においては、本来の検知対象である物体が相対距離の変化があまり大きくならないような方向の動きをした場合であっても的確な検出をすることが可能となり、さらに中間の距離においても、誤報の回避と本来の検知対象の的確な検出が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のマイクロウエーブセンサによれば、近距離においては、本来の検知対象ではない物体までの相対距離の変化が検出されることによる誤報を極力回避しつつ、本来の検知対象である物体は確実に検出することを可能となり、遠距離においては、本来の検知対象である物体が相対距離の変化があまり大きくならないような方向の動きをした場合であっても的確な検出をすることが可能となる。
【0027】
なお、この発明のマイクロウエーブセンサが屋外に設置された場合には、設置位置付近の草木などによる誤報を極力回避するとともに、侵入者が遠距離で監視対象領域を横切るように動いた場合などでも的確に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。ここでは、マイクロウエーブセンサを防犯センサとして使用した場合であって、周波数の異なる2種類のマイクロ波を利用して検知対象物体(侵入者等)を判定するようにしたマイクロウエーブセンサに本発明を適用した場合について説明する。
【0029】
<マイクロウエーブセンサ1の回路構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロウエーブセンサ1の回路構成の概略図である。この図に示すように、マイクロウエーブセンサ1は、RFモジュール2および信号処理部3を備えている。
【0030】
RFモジュール2は、マイクロ波を発振する発振器21、この発振器21から発振されるマイクロ波の周波数を切り換えるための変調器22、発振器21から発振されたマイクロ波を検知エリアに向けて送信する送信アンテナ23、人体等の物体によって反射したマイクロ波の反射波を受信する受信アンテナ24、この受信されたマイクロ波と発振器21の電圧波形とをミキシングして出力するミキサ25を備えている。つまり、送信アンテナ23から検知エリアに向けて送信されたマイクロ波は、検知エリア内に人体等が存在する場合、ドップラー効果によりその人体等からの反射波の周波数が変調されて受信アンテナ24に受信される。この受信された反射波はミキサ25によって発振器21の電圧波形とミキシングされた後、RFモジュール2の出力側2aからIF出力信号(IFout0)として信号処理部3に出力されるようになっている。
【0031】
一方、信号処理部3は、送信アンテナ23から送信する各周波数のマイクロ波毎に対応して、IFアンプ34およびコンパレータ36を有する第1出力ラインL1と、IFアンプ35およびコンパレータ37を有する第2出力ラインL2と、コンパレータ36、37の基準電圧となる電源33とを備えている。さらに、RFモジュール2が2種類のマイクロ波を発振するための電源31、32が備えられ、コンパレータ36、37の出力側には本実施形態の特徴とする距離認識手段41、移動距離認識手段42、物体判定手段43が設けられている。なお、これらの各手段については後述する。
【0032】
IFアンプ34、35は、第1スイッチSW1を介してRFモジュール2の出力側2aに接続されている。この第1スイッチSW1は、上記2種類のマイクロ波のうち一方が送信アンテナ23から送信されている場合には第1出力ラインL1に接続し、他方のマイクロ波が送信アンテナ23から送信されている場合には第2出力ラインL2に接続するように切り換えられる。つまり、一方のマイクロ波の送信時に人体等によって反射された反射波に係るIF出力信号は第1出力ラインL1に出力され、他方のマイクロ波の送信時に人体等によって反射された反射波に係るIF出力信号は第2出力ラインL2に出力される構成となっている。
【0033】
また、電源31、32は、上記第1スイッチSW1に連動する第2スイッチSW2を介してRFモジュール2の入力側2bに接続されている。この第2スイッチSW2も、2種類のマイクロ波のうちいずれのマイクロ波を送信アンテナ23から送信するかによって、電源31、32に対する接続状態が切り換わるようになっている。つまり、この第2スイッチSW2が一方の電源31に接続している状態と他方の電源32に接続している状態とで、変調器22がマイクロ波の周波数を切り換え、これによって送信アンテナ23から送信されるマイクロ波の周波数が切り換えられる構成となっている。
【0034】
このようにして、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2の切り換え動作に伴い、2つの処理動作(第1処理動作および第2処理動作)が所定時間間隔(例えば数msec間隔)をもって切り換えられるようになっている。ここで、第1処理動作とは、一方の周波数のマイクロ波が送信アンテナ23から検知エリアに向けて送信され、その反射波に基づくIF出力信号が信号処理部3の第1出力ラインL1に出力されてこの第1出力ラインL1において信号処理が行われる動作である。第2処理動作とは、他方の周波数のマイクロ波が送信アンテナ23から検知エリアに向けて送信され、その反射波に基づくIF出力信号が信号処理部3の第2出力ラインL2に出力されてこの第2出力ラインL2において信号処理が行われる動作である。そして、第1処理動作では、RFモジュール2から出力されたIF出力信号がIFアンプ34によって増幅され、このIFアンプ34からの出力(IFout1)がコンパレータ36によって矩形波W1に成形された後に距離認識手段41に出力される。同様に、第2処理動作では、RFモジュール2から出力されたIF出力信号がIFアンプ35によって増幅され、このIFアンプ35からの出力(IFout2)がコンパレータ37によって矩形波W2に成形された後に距離認識手段41に出力されるようになっている。
【0035】
さらに、上記各処理動作について詳述すると、検知エリア内に人体等の物体が存在していない場合には、送信アンテナ23から送信されたマイクロ波の周波数と受信アンテナ24に受信されたマイクロ波の周波数は等しいため、IFアンプ34、35からの出力信号におけるIF周波数は「0」となり、コンパレータ36、37からは信号が出力されない。
【0036】
これに対し、検知エリア内に人体等が存在する場合には、送信アンテナ23から送信されたマイクロ波の周波数に対して、受信アンテナ24に受信されたマイクロ波は変調されて周波数が異なっているため、コンパレータ36、37の出力信号波形には変化が生じ、この矩形波が距離認識手段41に出力されるようになっている。
【0037】
<距離認識手段41、移動距離認識手段42、物体判定手段43>
次に、コンパレータ36、37からの出力信号波形に基づいて物体判定を行うための距離認識手段41、移動距離認識手段42、物体判定手段43について説明する。
【0038】
距離認識手段41は、コンパレータ36、37からの出力信号波形を受け、これら出力信号波形に基づいて検知エリア内に存在する物体までの相対距離を求める。つまり、検知エリア内に存在する物体からの各マイクロ波の反射波の位相差に基づいて物体までの相対距離を計測するよう構成されている。詳しくは、上述したように、2つのIF出力信号(IFout1、IFout2)の位相差は、物体(ターゲット)までの距離に相関があり、物体までの距離が大きいほど位相差も大きくなる傾向がある。つまり、距離認識手段41は、この位相差を求めることにより物体までの距離を計測するよう構成されている。
【0039】
移動距離認識手段42は、検知エリア内に存在する物体の単位時間当たりの移動距離(速度ではなく、例えば1秒間に物体が実際に移動した距離)を求めるものである。つまり、上記距離認識手段41からの出力を受け、物体までの相対距離の単位時間当たりの変化量を計測してその物体の単位時間当たりの移動距離を求めるよう構成されている。
【0040】
物体判定手段43は、上記距離認識手段41および移動距離認識手段42の出力を受け、検知すべきターゲットであるか、それとも風によって揺れている草木などであるかを判定するための上述の「草木対策レベル」を、検知エリア内に存在する物体までの相対距離が長いほど低く設定して物体検知判定動作を行うように構成されている。つまり、検知エリア内の物体の位置がマイクロウエーブセンサ1から比較的近い位置である場合には、「草木対策レベル」は草木が風によって揺れることではあり得ないような移動距離に対応した値とする。これに対し、検知エリア内の物体の位置がマイクロウエーブセンサ1から比較的遠い位置である場合には、「草木対策レベル」をより小さな値とする。
【0041】
なお、マイクロウエーブセンサ1から物体までの相対距離は以下の数式(1)により算出することができる。
【0042】
R=c・Δφ/4π・Δf ・・・(1)
ここで、Rは物体までの相対距離、cは光速、Δφは矩形波W1、W2の位相差、Δfは発振器21から発振される2種類のマイクロ波の周波数差である。
【0043】
上記距離認識手段41は、この数式(1)によって所定時間毎に物体までの距離を算出していく。また、移動距離認識手段42は、この物体までの距離の単位時間当たりの変化量を計測する。そして、物体判定手段43は、物体までの相対距離に応じて予め設定されている「草木対策レベル」に比べて、上記変化量(物体の移動距離)が大きいとき、その物体は検知すべき物体(人体)であると判定して、物体検知信号Doutを出力する。
【0044】
<マイクロウエーブセンサ1の草木対策レベルd1の設定例>
図2は、本実施形態に係るマイクロウエーブセンサ1における草木対策レベルd1の設定例と侵入者の動きの関係の説明図である。ここでは、近距離における草木対策レベルd1を、図4に示した従来のマイクロウエーブセンサ100における草木対策レベルd100と同じ「1秒間の移動距離:50cm」とし、遠距離における草木対策レベルd1を例えば「1秒間の移動距離:15cm」とするが、このような設定に限るわけではない。
【0045】
(1)侵入者がほぼ正面から接近してくる場合
まず、侵入者がマイクロウエーブセンサ1のほぼ正面から接近してくる場合を考える。
【0046】
侵入者がマイクロウエーブセンサ1から比較的近い所定距離の線11上のほぼ正面の位置からM1aのように接近すると、マイクロウエーブセンサ1は、ほぼM1aの長さに等しい値をターゲットまでの距離の変化量として得ることになる。
【0047】
同様に、侵入者がマイクロウエーブセンサ1から比較的遠い所定距離の線12上のほぼ正面の位置からM2a(長さはM1aと同じ)のように接近すると、マイクロウエーブセンサ1は、ほぼM2aの長さに等しい値をターゲットまでの距離の変化量として得ることになる。
【0048】
いずれの場合も、ターゲットまでの距離の変化量が草木対策レベルd1を超えるので、マイクロウエーブセンサ1は侵入者を検出することが可能である。
【0049】
(2)侵入者が監視対象領域10を横切るような動きをする場合
次に、侵入者がマイクロウエーブセンサ1の監視対象領域10の側方(図2では上方または下方に相当)から現れ、マイクロウエーブセンサ1にはほとんど接近せずに監視対象領域10を横切るような動きをする場合を考える。なお、侵入者の検出は、監視対象領域10に侵入してくる最初の時点で確実に行うことを想定している。
【0050】
侵入者がマイクロウエーブセンサ1から比較的近い所定距離の線11上の一側方(図2では上方)の位置からM1bのように接近するとき、近距離における草木対策レベルd1が図4に示した従来のマイクロウエーブセンサ100における草木対策レベルd100と同じであるので、従来のマイクロウエーブセンサ100と同様に侵入者を検出することが可能である。
【0051】
一方、侵入者がマイクロウエーブセンサ1から比較的遠い所定距離の線12上の一側方(図2では上方)の位置からM2bのように接近すると、マイクロウエーブセンサ1方向とM2bの方向とがなす角度が大きくなって直交状態に近くなる。マイクロウエーブセンサ1がターゲットまでの距離の変化量として得る値は、M2bのマイクロウエーブセンサ1方向の成分に対応する値であるためかなり小さくなるが、遠距離においては草木対策レベルd1も小さく設定されているため、ターゲットまでの距離の変化量が草木対策レベルd1を超え、マイクロウエーブセンサ100は侵入者を検出することが可能になる。
【0052】
以上の説明では、「草木対策レベル」の設定を近距離と遠距離とで切り替える例を示したが、これに限るものではない。例えば、3以上の複数距離区間に分割して、近距離の区間側から遠距離の区間側へ段階的に小さくなるように設定してもよい。あるいは、近距離側の値よりも小さな値を遠距離側に設定するとともに、中間距離域では補間計算によって設定するようにしてもよいが、これらの設定方法に限るものではない。
【0053】
以上で説明した本実施形態の構成によれば、マイクロウエーブセンサ1から比較的近い距離では、草木などが風によって揺れたとしても、検出される相対距離の単位時間当たりの変化量は「草木対策レベル」を超えないので、誤報を招くことが極力回避される。侵入者が現れた場合には、検出される相対距離の単位時間当たりの変化量は「草木対策レベル」を通常超えるので、失報につながることはまずない。一方、マイクロウエーブセンサ1から比較的遠い距離では、風によって揺れている草木のような比較的小さな物体はその反射波が弱いため、「草木対策レベル」が小さな値に設定されていても誤報につながる可能性はあまりない。また、侵入者(人体)のように比較的大きな物体であればその反射波は強いため、その物体までの相対距離が確実に検出され、さらに「草木対策レベル」が小さな値に設定されているので、侵入者が監視対象領域を横切るように動いた場合などでも的確に検出することが可能となる。
【0054】
<その他の実施形態>
本発明の適用は、周波数の異なる2種類のマイクロ波を利用して検知対象物体を判定するようにしたマイクロウエーブセンサに限るものではなく、周波数の異なる3種類以上のマイクロ波を利用して検知対象物体を判定するようにしたマイクロウエーブセンサに適用してもよい。また、検出対象との相対距離を検出するようなタイプのセンサ、例えば、超音波センサなどにも応用が可能である。
【0055】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロウエーブセンサの回路構成の概略図である。
【図2】本実施形態に係るマイクロウエーブセンサにおける草木対策レベルの設定例と侵入者の動きの関係の説明図である。
【図3】従来の2周波数タイプのマイクロウエーブセンサにおける信号波形であり、(a)は各IF信号を示し、(b)はそれらより得られた矩形波を示している。
【図4】従来のマイクロウエーブセンサにおける草木対策レベルと侵入者の動きの関係の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 マイクロウエーブセンサ
10 監視対象領域
2 RFモジュール
21 発振器
22 変調器
23 送信アンテナ
24 受信アンテナ
25 ミキサ
3 信号処理部
31、32、33 電源
34、35 IFアンプ
36、37 コンパレータ
41 距離認識手段
42 移動距離認識手段
43 物体判定手段
100 マイクロウエーブセンサ(従来技術)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知エリアに向けて周波数の異なる複数のマイクロ波を送信し、この検知エリア内に存在する物体からの各マイクロ波の反射波に基づいて物体検知動作を行うマイクロウエーブセンサにおいて、
上記各反射波に基づいて上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」を求める距離認識手段と、
上記検知エリア内に存在する上記物体の「単位時間当たりの移動距離」を求める移動距離認識手段と、
上記距離認識手段および上記移動距離認識手段の出力を受け、上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」が所定値以上である場合には、この「相対距離」が所定値を越えない場合よりも、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」を小さく設定して物体検知判定動作を行う物体判定手段とを備えていることを特徴とするマイクロウエーブセンサ。
【請求項2】
検知エリアに向けて周波数の異なる複数のマイクロ波を送信し、この検知エリア内に存在する物体からの各マイクロ波の反射波に基づいて物体検知動作を行うマイクロウエーブセンサにおいて、
上記各反射波に基づいて上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」を求める距離認識手段と、
上記検知エリア内に存在する上記物体の「単位時間当たりの移動距離」を求める移動距離認識手段と、
上記距離認識手段および上記移動距離認識手段の出力を受け、上記検知エリア内に存在する上記物体までの「相対距離」が長いほど、物体検知判定のための閾値である「単位時間当たりの移動距離値」を小さく設定して物体検知判定動作を行う物体判定手段とを備えていることを特徴とするマイクロウエーブセンサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロウエーブセンサにおいて、
上記距離認識手段は、上記検知エリア内に存在する上記物体からの各マイクロ波の反射波の位相差に基づいて上記物体までの相対距離を計測するよう構成されていることを特徴とするマイクロウエーブセンサ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマイクロウエーブセンサにおいて、
上記移動距離認識手段は、上記距離認識手段からの出力を受けて、上記物体までの相対距離の単位時間当たりの変化量を計測するよう構成されていることを特徴とするマイクロウエーブセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−23239(P2006−23239A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203444(P2004−203444)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000103736)オプテックス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】