マイクロチャンネルチップ反応制御システム、それを含むマイクロトータルリアクションシステムおよびマイクロトータルアナリシスシステム
【課題】 マイクロチャンネルチップの微小流路内での目的とする化学反応に関与する各種条件、例えば、反応領域の温度条件および試薬溶液の濃度や流量等を好適に調整できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供する。
【手段】 本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御システムは、試薬溶液A,Bを導入するための少なくとも2つの微小流路1a、1bおよびこれらが接合してなる微小流路1cを有するマイクロチャンネルチップ1と、微小流路1cから得られる生成物Cをサンプリングして分析する分析手段2と、分析手段2から得られる分析結果に基づいてマイクロチャンネルチップ1における反応条件を制御する制御手段3とを備えていることを特徴とする。
【手段】 本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御システムは、試薬溶液A,Bを導入するための少なくとも2つの微小流路1a、1bおよびこれらが接合してなる微小流路1cを有するマイクロチャンネルチップ1と、微小流路1cから得られる生成物Cをサンプリングして分析する分析手段2と、分析手段2から得られる分析結果に基づいてマイクロチャンネルチップ1における反応条件を制御する制御手段3とを備えていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの流路が接合してなる微小流路を有し、そこで合流する試薬溶液間の化学反応、例えば、所定の物質の生産を目的とした合成反応もしくは検査を目的とした試薬と被検体との反応を行わせるためのマイクロチャンネルチップにおいて、試薬流量、濃度および/または反応温度等の所定の反応条件を制御することができるマイクロチャンネルチップ反応制御システムに関する。
【0002】
また本発明は、温度条件を好ましく制御できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムにも関する。
【背景技術】
【0003】
近年、微小な流路断面積の流路(微小流路)を用いて試薬溶液を流通させながら種々の微小化学反応を起こさせるマイクロチャンネルチップが注目されている。このようなマイクロチャンネルチップには、例えば、流路断面積が微小であることから、試薬溶液、検体の体積が少量で十分であることに加え、流路を流れる比表面積(単位体積当たりの表面積)が大きくなるので、熱交換効率が極めて高く、温度制御を迅速に行うことが容易であるため、反応生成物の立体化学、幾何異性、および位置異性に対して高い選択性が得られ、反応を効率的に行わせることができる等のメリットがある。このためマイクロチャンネルチップは、所定物質の生産を目的とした合成反応(マイクロリアクションシステム)、あるいは検査を目的とした試薬溶液と検査体との反応を行わせる(マイクロトータルアナリシスシステム、μTAS)ために使用されることが多い。
【0004】
ここで一般的な化学反応においては、反応ごとに好適な温度条件が存在する。これは化学反応において温度を上げると、溶液中の粒子の熱運動エネルギが大きくなることに起因する。化学反応が起こるためには、原子、分子、イオンなどの粒子が衝突して粒子の間で原子の組替えが起こらなければならない。粒子間で起こる原子の組替えは、衝突した粒子のすべてに起こるわけではない。図1に示すように、活性化エネルギと呼ばれるある一定以上のエネルギをもつ粒子の間で、いったんエネルギの高い不安定な状態の活性錯合体がつくられて、活性錯合体を形成した粒子のみが生成物に変化する。なお、図1の縦軸はエネルギ、横軸は反応の進行方向を示す。ここで反応物より生成物のエネルギが低い場合が発熱反応、逆の場合が吸熱反応であり、図1は発熱反応の場合を示す。よって化学反応においては、温度を上げると反応速度が増加する傾向にある。この傾向は下記の式1に示すアレニウスの式によっても明確に示される。
【0005】
【数1】
【0006】
(ここでAは頻度因子、Eaは活性化エネルギであり、これらは反応に固有な定数である。またRは気体定数、Tは絶対温度である。さらにkは速度定数と呼ばれ、大きくなるほど反応速度は速くなる。)
【0007】
しかしながら、極端に高温な反応では、反応前の試薬を化学的に分解する等の好ましくない現象が生じる。そのため化学反応ごとに好適な温度条件が存在し、反応領域における温度管理は非常に重要である。温度管理が不十分であると、化学反応が予定通りに行われず、目的とする主生成物の収量低下などの生産性が悪いシステムを余儀なくされる。ところが、従来のようにフラスコ、ビーカー、および大きな反応槽を用いた化学反応では、ある程度の量の試薬溶液を用いて化学反応させるため反応領域全域を迅速に、かつ均一に温度調整することが非常に困難であった。これに対して、マイクロチャンネルチップにおける化学反応では、反応領域における試薬溶液の質量が極少であるため、温度設定を迅速に、かつ均一に行える。そのため化学反応に好適な温度条件を得ることが可能となる。
【0008】
また化学反応においては、所定物質の生成を目的として混合を行う際にも試薬溶液の濃度や混合比は、理論化学式における濃度および混合比で行うことが生成物の収量、および選択性において必ずしも良好とは言えない。また、化学反応の進行は反応領域の温度による影響の他に、反応領域における壁面の濡れ性、接触角などの配向因子、試薬溶液や生成物の粘度、密度、表面張力や流路に関する壁面と液体との界面張力等の種々の要素によっても微妙に変化してしまう。これら反応領域の温度や、試薬溶液や生成物の物理的な特性の違いによる化学反応への影響は、マイクロチャンネルチップ内での比表面積が大きな微小流路を用いた反応においては、より顕著に差異が生じると予測されるが、その際の対応指針は未だ検討されていない。
【0009】
さらに化学反応においては、副生成物や中間体が発生する場合が多い。ここで副生成物が固体(結晶)であることも多いため、流路に付着した該結晶が流路を局所的に狭めるため流量減少の原因となり、そのまま放置すれば流路の閉塞などの原因となる等の問題があった。また化学反応の際に水素や二酸化炭素等、各種のガスが発生する場合もある。マイクロチャンネルチップにおいては化学反応によって、たとえ少量のガスが発生した場合でも、試薬溶液および生成物の逆流などの深刻な問題が生じる。
【0010】
このためマイクロチャンネルチップを用いる化学反応においては、反応領域の温度、試薬溶液の濃度および流量などの、運転状態における各種パラメータを迅速に、かつ容易に決定する技術が求められている。さらに装置運転時においても、反応領域の温度を管理して、生成物の良好な収量や選択性の確保、および様々な擾乱に対応するために反応領域における試薬溶液の流量や濃度制御を精度良く行うことが従来から要望されている。
【0011】
上記のマイクロチャンネルチップにおける流量制御法を開示するものとして、例えば、特開2003−43052号公報(特許文献1)等が挙げられるが、この技術は単一流路内の流量制御法であるため、2つもしくはそれ以上の試薬溶液の濃度や混合比を調整したり、生成物の総量を増減したり、温度や圧力の変化に応じて流量制御を行う技術とはいえない。また前記特許文献以外においても、上述の問題を解決できる技術は見当たらない。
【0012】
これに対して、マイクロチャンネルチップにおける化学反応では、反応領域における溶液の質量が極少であるため、原理的には、温度設定を迅速にかつ均一に行うことができ、化学反応に好適な温度条件を得ることが可能となる。しかしながら、マイクロチャネルチップ中における極・微小な反応領域を、反応に好適な温度に管理・制御する技術は実現されていない。
【0013】
【特許文献1】特開2003−43052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来、前記のような問題があったため、マイクロチャンネルチップを用いた化学反応では、反応領域の温度、圧力、および混合する試薬溶液の濃度や混合比等の多くのパラメータを操作して、かつ試薬溶液や生成物の物性、およびチャンネル断面の寸法・形状を考慮して、膨大な予備実験により反応時の運転条件を決定する必要があった。さらに化学反応中における結晶の析出や、ガスの発生などにおいても、迅速に対応する必要があった。しかしながら、先行技術ではこれらの問題への対応がなされておらず、従って、マイクロチャンネルチップでの反応制御に関しては検討すべき課題が多々存在する。
【0015】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであり、膨大な予備実験を行わずに、マイクロチャンネルチップの微小流路内での目的とする化学反応に関与する各種条件、例えば、反応領域の温度条件および試薬溶液の濃度や流量等を好適に調整でき、かつ化学反応中に析出する固体や発生するガスによる不具合にも対応できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供することを課題とする。
【0016】
また本発明は、目的の反応に関与する条件のなかでも、特に微小な反応領域の温度を精密に制御して、目的とする反応生成物を効率良く生成、生産できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供することを課題とする。
【0017】
さらに本発明は、上記のマイクロチャンネルチップ反応制御システムを用いて、目的とする生成物を効率良く生産できるマイクロリアクションシステム、または良好な検査結果を得ることができるマイクロトータルアナリシスシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明は、試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの微小流路が接合してなる微小反応流路を有するマイクロチャンネルチップの反応制御システムであって、
前記微小反応流路内で合流した試薬溶液間の反応により生じた生成物を分析するための分析手段;および
該分析手段から得られた分析結果に基づいて前記微小反応流路内での反応に関与する条件を制御する制御手段;
を含むマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供する。
【0019】
本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御システムの或る態様では、その制御手段が、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力、特に好ましくは温度を制御可能である。
【0020】
上記システムの或る態様では、その制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度および/または周辺気圧に基づいて、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力を制御可能である。
【0021】
上記システムの或る態様では、その分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比を測定可能である。また、その分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の少なくとも1つの成分量を測定可能であってもよい。
【0022】
上記システムの或る態様では、その制御手段が、前記マイクロチャンネルチップの温度および前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比または成分量を常時もしくは一定時間モニタリングし、該モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である。
【0023】
さらに上記システムの或る態様では、その制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度、周辺気圧、および前記微小流路内の圧力を常時もしくは一定時間モニタリングし、モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である。
【0024】
温度制御に好適な本発明のシステムの一態様では、その微小反応流路の所定長さ部分に並列する熱媒体流路が設けられており、該熱媒体流路内に送られる熱媒体を介して反応領域の温度調整が行われる。
【0025】
上記システムの或る態様では、その熱媒体流路は、前記微小反応流路と同軸の二重管構造に形成されている。また、その熱媒体流路は、前記微小反応流路に沿って複数設けられていてもよい。
【0026】
上記システムの或る態様では、その微小反応流路に温度センサが設けられている。その温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含むものでもよい。
上記システムの或る態様では、その分析手段は、クロマトグラフィー装置を含むものでもよい。
【0027】
上記システムの或る態様では、その制御手段は、前記分析手段および温度センサの出力に基づいて、前記熱媒体流路に熱媒体を送る熱媒体送液手段の動作を制御可能である。その制御手段は、前記複数の熱媒体流路の温度を独立に調整可能であってもよい。
【0028】
温度制御に好適な本発明のシステムの別の態様では、微小反応流路にレーザー光を照射することにより反応領域の温度調整を行う温度調整装置が設けられている。
上記システムの或る態様では、微小反応流路に温度センサが設けられている。その温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含むものでもよい。
【0029】
上記システムの或る態様では、その制御手段は、前記レーザー光の出力を増減することかつ/または前記レーザー光の焦点距離を可変することにより反応領域の温度調整が行われる。
【0030】
上記システムの或る態様では、その温度調整装置は、前記マイクロチャネルチップ内の複数の領域にレーザー光を照射可能である。
また、本発明のマイクロチャネルチップ反応制御システムは、上記した構成のあらゆる組合せを含むシステムであり得る。すなわち、分析手段の構成、分析手段の分析対象、制御手段の構成、制御対象の条件(制御パラメータの種類やアクチュエータの種類)、温度調整手段の構成(温度センサの数や種類を含む)のあらゆる組合せが、本発明の適用範囲内である。
【0031】
さらに本発明は、上記したいずれかの態様のマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルリアクションシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける物質生産のための原料化合物間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルリアクションシステムをも提供する。
【0032】
さらに本発明は、上記したいずれかの態様のマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルアナリシスシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける試薬化合物と被検化合物との間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルアナリシスシステムをも提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御システムは、試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの微小流路が接合してなる微小流路を有するマイクロチャンネルチップと、前記接合した微小流路内で試薬溶液間の反応を起こした生成物をサンプリングして分析する分析手段と、該分析手段から得られる分析結果に基づいて前記微小流路内での反応に関与する条件を制御する制御手段とを備えた構成であるので、膨大な予備実験や経験則に依存することなく、前記微小流路内での化学反応が好ましい条件下で行われるように良好に制御することが可能となる。
【0034】
例えば、物質生産を目的とした合成反応または検査を目的とした試薬反応等のための反応条件を、実際に生成された生成物の分析結果に基づいて逐次好適化することができるので、所望の成分比や成分量で生成物を生成するような最適な反応条件を設定、維持することができる。
【0035】
特に、マイクロチャンネルチップは微小流路を用いた極小量での反応系であるため、試薬流量や濃度および反応領域の温度や圧力等の各種反応条件の僅かな変動によっても影響を受けやすい反面、その微小スケールゆえに反応条件に人為的変動を加えることは比較的容易である。本発明により、そのような微小反応系の特性が活かされ、効率的な物質生産等を実現するマイクロチャンネルチップ反応制御システムが提供される。
【0036】
温度制御のための熱媒体流路が設けられた構成の本発明によれば、反応流路の所定長さ部分に並列する熱媒体流路に温度を調整した熱媒体を供給することにより、反応領域ごとの温度調整を正確に均一にする、あるいは、異なる温度に調整する等のきめ細かい制御を行って、目的とする反応生成物を効率良く生成、生産できるマイクロチャンネルチップ反応制御システム、およびこれを使用したマイクロリアクションシステムが提供される。
【0037】
温度制御のために微小反応流路にレーザー光を照射する構成の本発明によれば、マイクロチャネルチップの反応流路に外部からレーザー光を照射して、任意の反応領域の温度調整を任意のタイミングで行うことにより、反応領域ごとの温度調整を正確に均一にする、あるいは、異なる温度に調整する等のきめ細かい制御を行い、目的とする反応生成物を効率良く生成、生産できるマイクロチャンネルチップ反応制御システム、およびこれを使用したマイクロリアクションシステムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図2は、本発明の実施形態の概略構成を模式的に示す。この実施形態のシステムでは、一般式“A+B→C”で表される合成反応を行うものとし、ここでAおよびBは試薬溶液、Cは主生成物を示す。
【0039】
本システムは、試薬溶液AおよびBを各々導入するための2つの微小流路1a,1b、およびこれら微小流路1a,1bが接合してなり、そこで試薬溶液A,Bの合流に起因し試薬化合物同士の化学反応が行われる反応微小流路1cを有するマイクロチャンネルチップ1と、反応微小流路1cから流れ出る生成物Cをサンプリングして分析するための成分測定装置2(分析手段)と、成分測定装置2から出力される成分測定結果(分析結果)に基づいて、反応微小流路1c内での化学反応に関与する諸条件を調整するための制御手段3とを備えている。
【0040】
2つの微小流路1a,1bの上流側には、マイクロチャンネルチップ1へ供給される試薬溶液A又はBを貯めておくA貯槽とB貯槽、各貯槽に溶媒を供給する溶媒槽、各溶媒槽からの流入量を変動させて各貯槽内の試薬濃度を調整するための濃度調整バルブ4、各貯槽から各試薬溶液をマイクロチャンネルチップ1へ送るためのポンプ、および試薬溶液A,Bの各流量を調整するための流量調整バルブ5が接続されている。それらポンプおよびバルブは、制御手段3に制御可能に接続されており、こうして各貯槽における各試薬濃度、および微小流路1a,1bへの試薬溶液A、Bの各駆動圧力と各流入量が制御手段3から繰り出される調整信号によって各々独立に制御可能な調節機構が構成される。
【0041】
マイクロチャンネルチップ1において、反応微小流路1cの壁面の複数箇所には、温度センサ(例えば、測温抵抗体や熱電対)および圧力センサが設けられている(図中の黒丸はそれらセンサの設置箇所を例示する)。また、マイクロチャンネルチップ1は電気ヒータ6上に設置されており、電気ヒータ6は、前記温度センサにより検出される温度実測値および設定された温度目標値に従って制御手段3から繰り出される温度調整信号によりフィードバック制御可能である。こうして反応微小流路1c内の温度を目的の反応にとって好適な温度に調整するための温度調整機構が構成される。また図示していないが、外乱に強いシステムを構築するためには、マイクロチャンネルチップ1の周囲温度や周囲気圧を検出するための温度センサおよび気圧センサを更に設けて、それらを前記の温度調整機構に接続してもよい。
【0042】
反応微小流路1cで生成された生成物流Cは、生成物貯槽に送られるが、その一部は成分測定装置2に、好ましくは脱気装置7を介して取り込まれ、サンプリングされる。成分測定装置2では、例えば、クロマトグラフィー装置(典型的にはHPLC)であり、サンプリングされた生成物中の成分比や成分量といった当該反応系における反応状態が分析される。なお脱気装置7は、超音波発生やヘリウム等を用いた手段により分析対象の生成物から脱気を行うものでよい。成分測定装置2において得られた成分測定結果(例えば、図中の波形のチャート)は、制御手段3の判断機構に取り込まれ、また必要に応じて図示しない記憶手段に格納される。
【0043】
制御手段3は、サンプリングされた生成物についての分析結果を判断する判断機構、判断機構の指示により上記システム各部の調整機構に対する調整具合を決定する決定機構、および決定機構の指示によりポンプの運転状態やバルブ開度を調整する調整機構を具備している。これらの機構は、例えば、1台のパーソナルコンピュータで兼用されるとしてもよい。制御手段3は、格納されているコンピュータプログラムに従って、あらゆる制御・調整を行うことができる。
【0044】
必要に応じて制御手段3では、任意のパラメータを目標値に向かわせる自動調整が行われる。例えば、決定機構では、成分測定装置2において実際に得られた分析結果を、所望される分析結果(例えば、最適な生成量または成分比)についての理論値(目標値)と比較し、そして、その差違を最小化して生成物の分析結果が前記理論値に近づくように、具体的には、各試薬溶液の濃度(バルブ4の開度)、流量(ポンプの回転数および/またはバルブ5の開度)、反応温度(電気ヒータ6への印加電流)等についての調整量を求めるための演算が行われる。調整機構は、指示された調整パラメータと調整量に従って各調整機構へ電気信号を繰り出す。
【0045】
また、温度センサおよび圧力センサから得られる検出値を一定時間または常時モニタリングし、反応領域の温度および流路内圧力を目標値に近づけるように電気ヒータ6およびポンプを介してフィードバック制御を行ってもよい。これに加えて、周囲温度や周囲気圧を検出する温度センサおよび気圧センサから得られる外乱データを一定時間または常時モニタリングし、当該システムへの外乱の影響の予測或いは即時対応を可能にするための制御を行ってもよい。さらに温度センサ又は圧力センサから異常値が検出された場合には図示しない警告手段を発動するとしてもよい。
【0046】
「微小流路」は、試薬溶液を流動させるための微小な流路断面積を持つ流路である。本発明による反応制御システムは、マイクロスケール下で扱われる微少量の液体間の反応制御に有効とされる。この見地から、本願明細書に使用される「微小流路」という用語は、微少量の液体間の厳密な反応制御が有効となるほどに小さな反応空間を持つ流路を意味する。微小流路は、フォトリソグラフィー技術などの微細加工技術を用いて形成され、例えば約10〜約100μmの幅および高さを有する。
【0047】
本願明細書に使用される「試薬溶液」という用語は、微小流路内において、目的の化学反応を起こすための反応性成分、典型的には合成反応のための原料化合物または検査反応のための試薬化合物もしくは被検化合物などを溶質として含有する溶液を意味する。その溶剤としては、使用される反応性成分との適合性又は適正な粘度等を考慮して適宜選択すればよい。本発明において使用される反応性成分および溶剤の種類は特に限定されない。
【0048】
本願明細書に使用される「微小反応流路内での反応に関与する条件」には、微小反応流路内の試薬溶液の流量、試薬濃度、温度、圧力、周囲温度および周囲圧力等が含まれる。特に本システムにおける反応制御に有力な条件の1つは温度である。厳密には試薬溶液の温度であるが、これは試薬溶液に接する微細反応流路の壁面およびその近傍の温度とみなせる。マイクロチャンネルチップでは、極めて微量の試薬溶液を扱うため、微細反応流路近傍の温度変化を介した試薬溶液の温度制御は応答性が高く、かつ温度変化が目的の反応に与える影響も大きい。
【0049】
試薬溶液の駆動方法は、本実施形態のようにポンプ駆動でもよいが、毛細管現象および電気浸透流を利用する方法であってもよい。
本発明に使用されるマイクロチャンネルチップは、当該技術分野における常法に従って製造することができる。典型的な製造方法は次の通りである。通常、マイクロチャンネルチップは2枚の基板で構成される。1枚の基板の片面には、フォトリソグラフィー技術を用いて所定のデザインに従って微小流路を掘り、もう1枚の基板には超音波加工などの機械加工を用いてリザーバー用の穴を開けて試薬溶液の供給口及び排出口を設ける。これら2枚の基板を、熱による溶融接合などの接着技術を用いて張り合わせると、所定の長さと流路断面を持つ微小流路を備えたマイクロチャンネルチップが得られる。基板の材質は、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂などから適宜選ぶことができる。
【0050】
次に、図3および図4の仮想データを参照し、本システムによる調整方法を説明する。
本システム運用中における、ある時点で成分測定装置から得られた分析結果として先ず図3の結果を仮定する。ここで図3の縦軸は成分量、横軸は保持時間である。各ピークは特定成分の溶出量および溶出時間の関数として示される。また成分測定装置としてクロマトグラフィー装置を用いる場合には、事前に検量線を求めるなどの標準化を行って、分析結果に対する生成物の成分量の換算を可能とする。
【0051】
なお、成分測定装置による生成物の成分比や成分量の測定は、反応中に常時モニタリングしていてもよいし、それら分析結果を得るために一定時間システム全体の起動・停止を行ってもよい。
【0052】
図3の結果から判断機構は「現状の運転条件では主生成物Cの生産量が少ないため、主生成物Cの増産を図る」と判断したと仮定する。判断機構の判断により決定機構は、システム各部のパラメータを再検討し、主生成物Cの生産量を増加するために調整すべきパラメータを策定し、それらの調整量を決定する。ここで具体的にパラメータとは、マイクロチャンネルチップ内の反応領域、特に反応微小流路1c近傍の温度、試薬溶液AおよびBの濃度および流量である。決定機構において調整すべきパラメータの策定や調整量は、各パラメータの変動量の相関関係についてあらかじめ経験的にデータが蓄積されているデータベースを利用してもよいし、逐次得られる測定結果について判断機構および決定機構による自動最適化を試みてもよい。もちろんデータベースと自動最適化を併用してもよい。ここで自動最適化とは、制御パラメータ群の変動に起因する主生成物Cの生成量等の設計評価関数の増減の傾向に基づいて、主生成物Cの生成量が適正となるように調整が必要なパラメータを策定し、調整量を決定する手法である。なお自動最適化のための計算アルゴリズムは一般に最適化アルゴリズムと呼ばれる。例えば仮に,主生成物Cの生成量を増加するための具体的な調整法としては、i)マイクロチャンネルチップ内における反応領域の温度を上昇させると主生成物Cの生成量が増加する傾向が得られた場合に、マイクロチャンネルチップ内の反応領域の温度上昇を試みる、或いはii)温度を上昇しても主生成物Cが増産傾向にならない場合には、試薬溶液AおよびBの流量や濃度の調整を試みる等が挙げられる。
【0053】
上記した通り温度調節は、電気ヒータやチラー等を用いて行うことができ、また、試薬溶液AおよびBの流量増減もポンプの回転速度の増減およびバルブ開度の調整により可能である。試薬溶液AおよびBの濃度調節は、溶媒の注入による希釈、および貯槽過熱による濃縮などにより可能である。
【0054】
上記のような一連の測定、判断、決定、および調整を、パーソナルコンピュータ等の最適化アルゴリズムにより適時自動的に繰返すことによって、マイクロチャンネルチップ内の反応領域の温度を化学反応に最適な条件に設定し、試薬溶液AおよびBを最適な流量および濃度でマイクロチャンネルチップに送ることが可能になる。このシステムでは、運転条件を決定するための膨大な予備実験が不要となる。
【0055】
次に図4の仮想データを用いて説明する。直感的に試薬溶液Aの流量や濃度が大きいと推察されるが、化学反応においては図4のような結果であっても、試薬溶液Aの流量や濃度をより増加したほうが主生成物Cの生産量が増大する場合も散見される。そのような場合もあるため、従来の化学反応における予備実験は、運転時の各パラメータ決定のために膨大な時間と労力を必要とした。本システムでは、反応が比較的早く進行するマイクロチャンネルチップを使用し、そこで自動的に運転条件を決定することができる。したがって、生成物Cの生成量が最適となる条件へ確実且つ速やかに調整することができ、予備実験の時間と労力を削減し、かつ運転時には安定した生成物の収量を確保することが可能になる。
【0056】
また化学反応においては副生成物として結晶の析出、もしくはガスの発生等もあり得る。結晶が析出し流路に付着した場合には、流量の減少や流路の閉塞などの問題が発生する。しかし、本システムにおいては、上記した通り、生成物の成分比および/または成分量を測定しているため、生成物の減少には試薬溶液AおよびBの流量増加を判断、決定し、流量を増加させるように調整機構が対応することができる。また流量の閉塞などにも、流量の激減として測定結果に現れるので、システム管理者が認知でき、早急に対策を行うことが可能である。ガスの発生に対しても、本システムにおいては、マイクロチャンネルチップ内の圧力を圧力センサ等で常時モニタリングすることにより、ポンプの吐出し圧を上げて逆流を防止するか、もしくは溶媒を多量に混入して発生したガスを溶解させる等の対策を行うことも可能である。
【0057】
さらにシステム周辺の気温変化や気圧変化等の外乱による反応への影響に関しても、生成物の成分比および/または成分量を測定し、上述のように判断、決定、および調整のための各機構を好適に制御できるので、外乱による影響への対応を含めてマイクロチャンネルチップ内の温度、試薬溶液AおよびBの流量、および濃度を良好に制御・管理することができる。このため主生成物Cの安定した生産が可能となる。
【0058】
上記の通り本システムによれば、サンプリングされた生成物の分析結果に基づき反応領域の温度制御、試薬溶液の流量調整および濃度調整を自動的に行うことができるので、生成物を安定的に効率良く生成することができ、或いは検査のための試薬反応を安定的に効率良く行うことができ、さらにはマイクロチャンネルチップ内の流路の閉塞や逆流といった不具合にも対処することが可能となる。
【0059】
既に述べたように、マイクロチャンネルチップにおける温度の制御応答性は高く、かつ温度が目的の反応に影響を与える有力な制約条件であることから、高精度な温度制御性を有するマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供することは重要である。
【0060】
以下では、微小反応流路の温度を制御するのに好適なマイクロチャンネルチップ反応制御システムの実施形態を説明する。
【0061】
図7は、温度制御に好適な本発明の実施形態のマイクロ生産システムまたはマイクロトータルアナリシスシステムを模式的に示すもので、このシステムは、A+B→Cという反応式に沿って、AおよびBを所定量含む試薬溶液を原料とし、やはり溶液状の主生成物Cを生成するシステムである。このシステムは、AとBを混合し反応を行わせるための反応空間を提供するマイクロチャネルチップ10と、マイクロチャネルチップ10内の反応領域温度を調整するための温度調整機構30と、マイクロチャネルチップ10やその下流側に設けた各種センサの測定結果に基づいて温度調整機構30の動作を調整する制御装置50を具備している。
【0062】
マイクロチャネルチップ10には、図8に示すように、平板状の複数(図では2枚)の基板11a,11bの表面に溝を形成し、互いに合流することによって内部に微細な流路または反応空間を構成している。この実施の形態では、長方形状のチップの1つの角部に原料流路12A,12B(すなわち、試薬溶液を導入するための微小流路)が開口して形成され、これらは合流部13でY字状に合流した後、蛇行する長い混合・反応流路14(すなわち、微小反応流路)となり、反対側の角部に開口する流出口15において外部流路16に連通している。混合・反応流路14に沿って、図8(b)または(c)に示すように、温度調整機構30から熱媒体の供給を受ける温度調整用の並列熱媒体流路18a,18b,18cが設けられている。並列熱媒体流路18a,18b,18cは混合・反応流路14に並列して所定長さが形成され、熱媒体と混合・反応流路14内の溶液との間の熱交換効率を高め、充分な温度制御が行える。この例では、マイクロチャネルチップ10の混合・反応流路14に3カ所に分散して設けられているが、数や配置は任意に設定可能である。
【0063】
マイクロチャネルチップ10には、混合・反応流路14内の温度を一箇所もしくはそれ以上の場所で個別に測定する例えば測温抵抗体や熱電対等の温度センサTs1〜Ts9が所定箇所に設けられている。また、混合・反応流路14の下流側の外部流路16には、クロマトグラフィー装置等の成分測定装置20が設けられている。これらのセンサの出力は、制御装置50に入力されるようになっている。
【0064】
温度調整機構30は、マイクロチャネルチップ10の並列熱媒体流路18a,18b,18cに連絡流路19を介して連通する熱媒体管路32と、熱媒体管路32の途中に設けられた所定温度の熱媒体源34と、熱媒体を圧送するポンプ36とを備えたものである。熱媒体源34は、例えば流体槽に温度調整用熱源を備えたものである。温度調整機構30は、熱媒体の温度を設定することにより、加熱だけでなく冷却も可能である。図8(b)に示す実施の形態では、熱媒体流路は混合・反応流路14を取り囲むように形成され、また、図8(c)に示す実施の形態では、2本の並列熱媒体流路18A,18Aが混合・反応流路14の両側を挟むように形成されているが、一方に隣接して形成してもよい。
【0065】
制御装置50は、温度センサTs1〜Ts9による温度測定結果や成分測定装置20による反応生成物の成分測定結果からシステムの状態を判断する判断部52と、判断部52の指示に基づいて温度調整機構30,40への指示を決定する決定部54と、決定部54の指示により温度調整機構30,40を調整する信号を出力する調整部56を具備している。これらの判断部52、決定部54、および調整部56は、個別のコンピュータチップとしてもよく、また、例えば一台のパーソナルコンピュータで兼用しても良い。
【0066】
以下、上記のマイクロリアクションシステム(またはマイクロトータルアナリシスシステム)の利点を具体的に示すために、このシステムを運用した際のプロセス例を説明する。図9はこの実施の形態のシステムが用いられるA+B→Cの反応の結果として得られたデータの典型的パターンを示すグラフであり、縦軸は成分量、横軸は保持時間を示す。成分測定装置20として、例えばクロマトグラフィー装置を用いる場合には、事前に検量線を求めるなどの標準化を行って、測定結果に対する生成物の成分量の換算を行う必要が有る。
【0067】
図9の結果から判断部52は「現状の運転条件では主生成物Cの生産量が少ないため、主生成物Cの増産を図る」と判断したと仮定する。前述のように化学反応における反応速度は、反応領域の温度により支配的に決定される。よって主生成物Cの増産を図るためには、反応領域の温度上昇を促せば可能であると予測され、判断部52の結果より決定部54は反応領域の温度上昇を決定する。
【0068】
判断部52の判断により決定部54は、反応領域の温度調整機構30に対して調整量を決定する。制御の方法は、調整量をあらかじめ用意された経験的なデータベースを用いて決めるオープン制御でも良いし、成分測定装置20の測定結果が目標値になるように判断部52、および決定部54により、自動調整するものでも良い。もちろんこれらを併用する制御方法でも良い。
【0069】
ここで自動調整とは、ある反応領域の温度調整をして、主生成物Cの生成量が増減した結果を基に更なる調整量を決定する。具体的には、反応のプロセスを記述する理論的または経験的に得られた制御演算式に基づいて、フィードバック制御を行う。制御演算式には、例えば、“(8)マイクロチャネルチップ10内における反応領域の温度を上昇した場合に、主生成物Cの生成量が増加する傾向が得られた場合に、よりマイクロチャネルチップ内反応領域の温度上昇を試みる。”“(b)化学反応が発熱反応のため温度暴走の危険性が生じた場合、反応領域の冷却を試みる。”等の原則を反映したものとなる。このように、制御装置50において、マイクロチャネルチップ10に設けられた温度センサTs1〜Ts9、および成分測定装置20の測定結果を基に、測定→判断→決定→調整を自動的に繰返すことによって、マイクロチャネルチップ10内の反応領域の温度を、化学反応に最適な条件に設定することが可能になり、よって生産性が高く、および温度暴走等を回避できる安全なシステムを構築することが可能となる。
【0070】
ここで、本発明のマイクロチャネルチップを用いた場合の従来の技術に対する優位性を示すために試算を行う。試算の条件としてマイクロチャネルチップで化学反応を行う試薬溶液の比熱を4.2[kJ/kg・K]、試薬溶液の比重を1000[kg/m3]、マイクロチャネルチップにおける化学反応部分の断面形状を100[μm]×40[μm]、および反応部分における試薬溶液の流速を0.001[m/s]とする。本条件でマイクロリアクターを運用中に、化学反応促進の為に反応領域における温度を20[K]上昇させる必要が生じた場合を仮定する。その際に、本発明によりマイクロチャネルチップに具備された温度調整機構30を用いて反応領域の試薬に投入すべき熱量Qは、
【0071】
【数2】
【0072】
といった、非常に低い熱量で達成できるため極めて簡単な温度調整機構30,40を用いれば良いことが推察される。また、マイクロリアクターの反応部は比表面積が大きいため、外部から熱量を与える際に、反応領域の温度を均一に保つことが容易である。
【0073】
比較のため、従来のフラスコやビーカーに100×10-6[m3]の試薬に対し、3.36×10-7[kW]の熱量を投入して試薬溶液の温度を20[K]上昇させる時間tを試算する。ただしここで試薬溶液の比熱や、比重は上記マイクロリアクターにおける試算と同一とする。この時間tは、
【0074】
【数3】
【0075】
となるため、とても現実的なシステムにならないことが分かる。したがって、従来のフラスコやビーカーにおける化学反応で温度調整を行う場合には、高出力で高価な温度調整機構を必要とする。
【0076】
さらに、従来のフラスコやビーカーのシステムでは、マイクロリアクターに比べて、比表面積が小さいため、試薬内で一様な温度分布を得ることが極めて困難である。その場合、試薬内の温度が局所的に低い場合には、十分に反応が進行せず、また局所的に試薬内の温度が上がりすぎれば、試薬内の反応物質が破壊されたりするなどの好ましくない現象が生じる危険性がある。
【0077】
以下、この実施の形態の温度調整機構30による温度調整方法を詳しく説明する。温度調整機構30は、熱媒体としては、適宜の温度の水やシリコンオイル等を流通させて反応領域における溶液の温度調整を試みるものである。以下の例では仮に反応速度上昇のために温水を用いたが、温度暴走などに対しては、冷水を用いて反応領域の冷却を試みる。
【0078】
ここでは、図8(b),(b)に示すような並列熱媒体流路18a,18b,18cを用いて、温度制御する為に必要な並列熱媒体流路18a,18b,18cの長さを試算する。並列熱媒体流路18a,18b,18cの単位長さあたりに授受できる熱量qを0.1[kW/m]とすると、上述の物性の流体を同じ条件で20[K]上昇するために必要な並列熱媒体流路18a,18b,18cの長さLは、
【0079】
【数4】
【0080】
となり、非常に微小な長さの並列熱媒体流路18a,18b,18cを用いて温度制御することが可能であると予測できる。なお本試算は、さまざまな仮定のうえで行ったものであり、チップの材質や実験条件によって温度制御に必要な並列熱媒体流路18a,18b,18cの長さを設計する必要があろう。
【0081】
なお、上記において、マイクロチャネルチップ10における並列熱媒体流路18a,18b,18cの具体的な経路については説明しなかったが、例えば、図10に示すように、1つのポンプ36に直列につなぐ簡単なもの、あるいは、図11に示すように、並列熱媒体流路18a,18b,18cに異なるポンプ36a,36b,36cと熱媒体源34a,34b,34cを設けて、独立に温度調整可能としたものが考えられる。図11では、戻り流路を省いて示している。この例では、熱媒体の温度と流量がともに可変なので、きめ細かい温度調整を行うことができる。いずれか一方が備わっていれば、独立な調整が可能である。ポンプ36を共通として、流量調整弁を設けるようにしてもよい。
【0082】
図12は、この発明の他の実施の形態を示すもので、温度調整機構以外は先の実施の形態と全く同じである。この実施の形態では、温度調整機構40は、マイクロチャネルチップ10の外部の光源から光を照射する光加熱装置である。これは、マイクロチャネルチップ10の表面に対向する位置に設けられた2基のレーザー光照射装置44と、このレーザー光照射装置44を支持し、その位置や向きを変える支持・駆動機構46と、ビームの強度、断面形状、焦点等を調整する照射制御手段(図示略)とを有している。このようにレーザー光を用いることで、マイクロチャネルチップ10の小さい領域を高強度で照射して、例えば、流路の特定箇所等において、局所的な温度制御を行うことができる。
【0083】
このレーザー光照射装置44においては、温度調整は、レーザー光出力を変化させることによって行っても良いし、レーザー光の焦点距離を変化させることによって行っても良い。図13に示すように、ビームを1つの箇所に絞ってピンポイントな加熱を行うことができるが、図14に示すように、混合・反応流路14に沿った帯状の領域にビームを照射して加熱することもできる。勿論、ビームの断面の形状や寸法を選択することにより、必要に応じて適宜の領域を加熱することができる。また、支持・駆動機構46を作動させて、ビームを必要な場所に向けることにより、加熱領域を容易に変更することができる。さらに、ビームが所定の帯域を往復するように支持・駆動機構46を作動させることもできる。このように、レーザー光照射装置44は外部からコヒーレントな光を照射するので、加熱箇所を容易に変更できるという利点が有る。
【0084】
次に、このレーザー光を用いる温度調整機構40の作用について説明する。これまでの試算と同じ条件で、図13もしくは図14のようにレーザーを用いて温度制御する場合を試算する。レーザー出力の80%が試薬温度を上昇するために吸収されると仮定すると、必要なレーザー出力Pは、
【0085】
【数5】
【0086】
となる。レーザー変位計などに用いられるような、比較的人体に安全なレーザー発信装置のレーザー出力は3[mW]程度である。よって本発明による温度制御法を用いれば、大出力のレーザー(レーザー加工などに用いられる炭酸ガスレーザーの出力は35[W]以上である。)を使用せずに、安全な温度制御システムを構築することが可能となる。なお本試算は、さまざまな仮定のうえで行ったものであり、チップの材質や実験条件によって温度制御に必要なレーザー出力を設定する必要があろう。
【0087】
さらに、図15に示すように、熱媒体を用いる温度調整機構30とレーザー光を用いる温度調整機構40を併用しても良い。これにより、例えば、前者を主体として用い、より局所的な調整を後者により行うことにより、さらに精密な調整が可能となる。また、マイクロチャネルチップ10内の溶液の流れ方向に対して、多種の温度条件を設けて化学反応を進行させる技術も可能となる。
【0088】
さらに、図16に示すように、対象とする化学反応に用いる試薬や熱媒体の比熱、熱伝導率、その他の物性値、および装置の制約等の理由から、レーザーを直接試薬に対して照射して温度制御を行うことが好ましくない場合には、熱媒体にレーザー光を照射して温度調整を行う場合もありうる。
【0089】
以下実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、下記実施例の記載は、本発明の実施可能性を例証するものであって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定解釈するために参照されるべきものではない。
【実施例】
【0090】
本発明を適用した化学反応の自動最適化の例としてスチレンの無触媒・熱開始重合をマイクロリアクターで行う実施例を示す。スチレンは加熱によりポリスチレンに重合する。この反応を実施する反応器を設計する際、従来は小型の封管重合による予備試験を行い、そこから反応速度のモデル式を決定し、反応器の設計パラメーターを算出していた。表1に純度100%のスチレンの封管重合による試験結果の例を示す。
【0091】
【表1】
【0092】
この結果から回帰分析により、反応速度式を決定すると次式のようになる。
【0093】
【数6】
【0094】
(ただし、n=1、k0=1.53x109、E=77200とし、rは反応速度[kgmol/h/m3]、Cはスチレンのモル濃度[kgmol/m3]、nは反応次数、k0はArrhenius式で表した速度定数、kは頻度因子[1/hr]、Eは活性化エネルギー[kJ/mol]、Rは定数8.314[kJ/mol/K]、Tは温度[K]である)
ここで、スチレン濃度Cの時間変化は次の微分方程式で表される。
【0095】
【数7】
【0096】
この微分方程式の解は、次式となる。
【0097】
【数8】
【0098】
(ただし、C0は初期モル濃度である)。
ポリスチレンの収率xは、スチレンの転化率と等価であり、次式となる。
【0099】
【数9】
【0100】
本発明による制御機構では、上述の化学反応速度式を決定する作業を経ずに設計評価関数の自動最適化が可能となる。
【0101】
ここで、この反応をマイクロリアクターで実施する場合を考える。リアクター体積をV[ml]、原料の投入体積流量をQ[ml/hr]とする。ここでプラグフロー型反応器を想定し、簡略化のため重合による溶液の密度変化を無視すればリアクターにおける反応時間はV/Q[hr]である。またポリスチレンの単位時間当りの収量Qxに比例する。ポリスチレンを生産する際の評価関数として、ポリスチレンの収量が大きいことと、精製の容易さから収率が大きいことを同程度に重視し、収量×収率Qx2という値を選ぶ。
【0102】
以下の例では設計変数として原料体積流量Qと反応器温度を選ぶ。反応器容積は1[ml]一定とする。体積流量の制御範囲は0.05〜2[ml/hr]、温度の制御範囲は120から160℃とする。このときQx2の応答曲面は図5のようになる。
【0103】
ここで、本発明による最適化手法を適用した場合、流量および収率センサーの出力からリアルタイムあるいは若干の遅れ時間で制御系は現在のQx2を算出する。そして流量と温度を設計された最適化アルゴリズムに従って変更し、その都度Qx2の値をモニターすることにより応答局面上の最適点を少ない試行で探索することが可能となる。この応答曲面上の探索軌道を図6に示す。
【0104】
最適化アルゴリズムとしては、既知の勾配法、焼き鈍し法、遺伝的アルゴリズム等どれを用いても良い。また評価関数は、計測される値と設定値の関数であれば任意であり目的に応じて反応器の運転を止めずに自在に変えることができる。また制御パラメータ(温度、流量等)に制約条件のある場合、その条件化での運転の最適化も可能である。
【0105】
以下、本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御に適用可能な最適化アルゴリズムについて例を挙げ、具体的に説明する。
【0106】
実際の多種多様な化学反応における反応条件の決定は収率、選択性、および収量の向上、さらには廃棄する試薬量の低減などをもたらすため、慎重に行う必要がある。しかしながら、従来の技術において化学反応の条件を規定する際には、経験的および膨大な実験的試行錯誤の後、決定している場合が多かった。
【0107】
そこで、本願では、数学的手法と自動制御の技術を組み合わせることによって、絨毯爆撃的な予備実験を行うことなく反応条件を求めることができるシステムを開示する。さらには、当初では予測もつかなかった反応条件の組み合わせを制御システムの探査により得られる可能性もあるため、より理想的な反応結果を得られる条件を選定することも可能となる。
【0108】
先ず、制約条件(試薬流量、圧力、温度、およびその他の化学反応の際に規定すべき条件)より、それら制約条件の変化に対する目的量(収率、選択性、収量、およびその他の化学反応の性能を示す指標)を評価関数として定式化する作業から行う。これらの条件を定式化すると、大抵の場合、制約条件や評価関数は非線形になる。
【0109】
例えば、化学反応において試薬流量を倍にする、もしくは温度を倍にする等の条件変更を行ったからといって、収率や収量が倍になるとは一概に言えないことからも感覚的に理解できる。例えば、マイクロリアクターを用いたペプチド合成反応結果の一例を図18に示す。図18中のグラフにおける縦軸は収率、横軸は試薬溶液の流量を示す。この結果より、マイクロリアクターにおいてペプチド合成を行う場合には、「最適な流量範囲」が存在することがわかる。また、試薬流量以外の各種反応条件(温度、圧力、試薬濃度、および流量等)を調整して、収率以外の化学反応の評価指針(収量、および選択性等)を最適な状態に制御することは、それらが複雑で非線形な関係にあるため極めて困難な作業である。
【0110】
これらの問題の中には線形近似によって解けるものもあるが、前述のペプチド合成結果のように非線形のままで取扱わざるを得ない場合も多い。非線形になると、求解に対する数学的困難が急激に増し、線形問題のように必ず解けるという保証はない。したがって解法にも万能の方法がなく、場合に応じていろいろな手法を用いなければならない。
【0111】
以下では、数理的な最適化手法として勾配法の一種である最急降下法(steepest-descent method)、および探索的な最適化手法としての解適応焼きなまし法(ASA:Adaptive Simulated Annealing)を例にとって説明する。
【0112】
数理的最適化手法
数理的最適化手法として評価関数の勾配ベクトルを用いる勾配法の中で、最も基本的な方法である最急降下法(steepest-descent method)を説明する。評価関数f(x1,x2,・・・,xn)の勾配ベクトルgは、
【0113】
【数10】
【0114】
(ただし、xnは各種の制約条件パラメータを示す。)
で求めることができる。
ここでgの方向は、fの変化率の最大の方向と一致するため、図19のように探索方向s(q)=-g(q)は最急降下の方向を示すベクトルである。図19の縦軸および横軸は各種制約条件パラメータであり、等高線は評価関数の値である。ここでステップ幅αを1以下にとり、
【0115】
【数11】
【0116】
として計算を進めて最適値を得ることができる。
しかし、最急降下法は、評価関数がひずんだ形状をもつ場合には収束しなくなることもある。
【0117】
図18のペプチド合成(試薬流量に対する収率)は、明らかに非線形性の結果を示している。本反応において極値は1つであり、制約条件(流量)もそれほど広範囲でないため、最適解を実験的に絨毯爆撃的に求めることは困難ではない。しかし、図18におけるペプチド合成反応においても試薬溶液の温度、濃度、流速、圧力等を可変させ、それぞれのパラメータが評価指針(収率、収量、および選択性等)に非線形に影響しあう場合には極値も複数存在する可能性が高い。またパラメータの増加に伴い、予備実験も膨大な数になるため絨毯爆撃的な手法と比較して、ここで説明したような数理的最適化手法を取り入れる効果は極めて大きい。
【0118】
さらに、上述のように非線形問題においては、万能な解法は存在しないため数理的最適化手法にはその他多くの手法が提案されている。本明細書に記載の制御法では、それぞれの化学反応に応じて好適な最適化手法を選定して対応することができる。参考までに代表的な数理的最適化手法の一覧を表2に示す。特に制約条件が多く各パラメータの範囲も広い場合には、最適条件選定の為に複数の数理的手法を組み合わせて用いれば好ましい。
【0119】
【表2】
【0120】
探索的最適化手法
非線形問題における最適化の際に困難な点の1つは、図20に示すように評価関数の極値が1つとは限らず、いくつもの山(あるいは谷)が存在することである。これらはそれぞれ局所最適値(local optimum)であって、必ずしも大域的最適値(global optimum)、つまり真の最適値とは一致しない。このようなことは評価関数の性質のほかに制約条件式、あるいはその両者の性質に伴っていくらでもおこる。局所最適値に陥らずに大域的最適値を求める方法として、本制御では探索的な最適化手法を用いても良い。
【0121】
ここでは代表的な探索的最適化手法として、解適応焼きなまし法(ASA:Adaptive Simulated Annealing)を例にとって説明する。
本手法は金属の焼きなまし(ゆっくり冷やすことは、高い状態にあった各分子エネルギは、一様に低い状態に落ち着く)をモデルとするアルゴリズムである。ASAによる収束のイメージを図21に示す。図21の縦軸は評価関数の値、および横軸は制約条件のパラメータ。ここで図21の例では、評価関数の値がより小さいものを最適値とする。先ず初期値から最適化を開始する。最適化探索の初期段階では、局所最適値を脱し得るだけのエネルギを与えておき、部分的には解の改悪を許して探索を進める。こうすることによって解の多様性を生み出し、大域探索を可能とする。探索を進めるにしたがって、エネルギを下げる。そうすることによって探索の最終段階では、大域的最適値付近で他の極値へ移動することも無く最適値を得ることが可能となる。
【0122】
探索的手法では、探索に用いる際の各種条件(初期値、およびエネルギの減少具合等)を化学反応ごとに好適に調整する必要があるが、局所的最適値を求めて最適化完了といった錯誤を防ぐことができる。ASA以外の探索的最適化手法として、GA(遺伝的アルゴリズム)などを用いても良い。
【0123】
画一的な最適化手法ばかりを用いている場合には、「収率は極端に高いが、収量が極めて低い」、「収量や収率は高いのだが、非常な高圧条件下でありランニングコストが高い。危険である。」等の、実際のマイクロリアクター運用に適さないような条件が得られる場合もありうる。これらの問題を回避するためには「収率、収量、および選択性は各々この範囲程度で、その範囲において最も好適な運転条件は?」といった、実際の運用に適した最適化(多目的最適化)が求められる。多目的最適化のためには画一的な最適化手法に固執すべきではなく、それぞれの化学反応に応じて複数の数理的手法と探索的手法を組み合わせれば、より好ましい結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】典型的な反応系における反応原理を説明するための線図である。
【図2】本実施形態のシステムの概略構成を示す模式図である。
【図3】本実施形態のシステムによる調整方法を説明するための仮想データを示す線図である。
【図4】本実施形態のシステムによる調整方法を説明するための別の仮想データを示す線図である。
【図5】実施例に係るポリスチレン重合反応の評価関数Qx2の応答曲線を示す図である。
【図6】実施例に係るQx2の最適点探索経路を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態のマイクロリアクションシステムを示す図である。
【図8】図7のマイクロリアクションシステムの、(a)はマイクロチャンネルチップの平面図、(b)は(a)におけるA−A矢視図、(c)は変形例のマイクロチャンネルチップのA−A矢視図である。
【図9】図7のマイクロリアクションシステムの使用の際の成分測定結果の例を示すグラフである。
【図10】図7のマイクロリアクションシステムの熱媒体の流れを示す例である。
【図11】図7のマイクロリアクションシステムの熱媒体の流れを示す他の例である。
【図12】本発明の第2の実施の形態のマイクロリアクションシステムを示す図である。
【図13】第2の実施の形態のマイクロリアクションシステムにおけるレーザー光の照射方法の例を示す図である。
【図14】第2の実施の形態のマイクロリアクションシステムにおけるレーザー光の照射方法の他の例を示す図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態のマイクロリアクションシステムを示す図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態のマイクロリアクションシステムの変形例を示す図である。
【図17】化学反応の際の粒子のエネルギー分布と反応の進行の関係を示すグラフである。
【図18】マイクロリアクターを用いたペプチド合成反応結果の一例を示す図である。
【図19】数理的最適化手法としての最急降下法によるイメージを示す図である。
【図20】評価関数が複数の極値を持つ例を示す図である。
【図21】探索的最適化手法としての解適応焼きなまし法による収束のイメージを示す図である。
【符号の説明】
【0125】
図1〜図6
A,B 試薬溶液
C 生成物
1 マイクロチャンネルチップ
1a,1b 試薬溶液を導入するための微小流路
1c 接合した微小流路
2 分析手段
3 制御手段
図7〜図16
10 マイクロチャネルチップ
12A,12B 原料流路
14 混合・反応流路
18a,18b,18c 並列熱媒体流路
18A 並列熱媒体流路
20 成分測定装置
30,40 温度調整機構
32 熱媒体管路
34,34a,34b,34c 熱媒体源
36,36a,36b,36c ポンプ
44 レーザー光照射装置
50 制御装置
Ts1−Ts9 温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの流路が接合してなる微小流路を有し、そこで合流する試薬溶液間の化学反応、例えば、所定の物質の生産を目的とした合成反応もしくは検査を目的とした試薬と被検体との反応を行わせるためのマイクロチャンネルチップにおいて、試薬流量、濃度および/または反応温度等の所定の反応条件を制御することができるマイクロチャンネルチップ反応制御システムに関する。
【0002】
また本発明は、温度条件を好ましく制御できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムにも関する。
【背景技術】
【0003】
近年、微小な流路断面積の流路(微小流路)を用いて試薬溶液を流通させながら種々の微小化学反応を起こさせるマイクロチャンネルチップが注目されている。このようなマイクロチャンネルチップには、例えば、流路断面積が微小であることから、試薬溶液、検体の体積が少量で十分であることに加え、流路を流れる比表面積(単位体積当たりの表面積)が大きくなるので、熱交換効率が極めて高く、温度制御を迅速に行うことが容易であるため、反応生成物の立体化学、幾何異性、および位置異性に対して高い選択性が得られ、反応を効率的に行わせることができる等のメリットがある。このためマイクロチャンネルチップは、所定物質の生産を目的とした合成反応(マイクロリアクションシステム)、あるいは検査を目的とした試薬溶液と検査体との反応を行わせる(マイクロトータルアナリシスシステム、μTAS)ために使用されることが多い。
【0004】
ここで一般的な化学反応においては、反応ごとに好適な温度条件が存在する。これは化学反応において温度を上げると、溶液中の粒子の熱運動エネルギが大きくなることに起因する。化学反応が起こるためには、原子、分子、イオンなどの粒子が衝突して粒子の間で原子の組替えが起こらなければならない。粒子間で起こる原子の組替えは、衝突した粒子のすべてに起こるわけではない。図1に示すように、活性化エネルギと呼ばれるある一定以上のエネルギをもつ粒子の間で、いったんエネルギの高い不安定な状態の活性錯合体がつくられて、活性錯合体を形成した粒子のみが生成物に変化する。なお、図1の縦軸はエネルギ、横軸は反応の進行方向を示す。ここで反応物より生成物のエネルギが低い場合が発熱反応、逆の場合が吸熱反応であり、図1は発熱反応の場合を示す。よって化学反応においては、温度を上げると反応速度が増加する傾向にある。この傾向は下記の式1に示すアレニウスの式によっても明確に示される。
【0005】
【数1】
【0006】
(ここでAは頻度因子、Eaは活性化エネルギであり、これらは反応に固有な定数である。またRは気体定数、Tは絶対温度である。さらにkは速度定数と呼ばれ、大きくなるほど反応速度は速くなる。)
【0007】
しかしながら、極端に高温な反応では、反応前の試薬を化学的に分解する等の好ましくない現象が生じる。そのため化学反応ごとに好適な温度条件が存在し、反応領域における温度管理は非常に重要である。温度管理が不十分であると、化学反応が予定通りに行われず、目的とする主生成物の収量低下などの生産性が悪いシステムを余儀なくされる。ところが、従来のようにフラスコ、ビーカー、および大きな反応槽を用いた化学反応では、ある程度の量の試薬溶液を用いて化学反応させるため反応領域全域を迅速に、かつ均一に温度調整することが非常に困難であった。これに対して、マイクロチャンネルチップにおける化学反応では、反応領域における試薬溶液の質量が極少であるため、温度設定を迅速に、かつ均一に行える。そのため化学反応に好適な温度条件を得ることが可能となる。
【0008】
また化学反応においては、所定物質の生成を目的として混合を行う際にも試薬溶液の濃度や混合比は、理論化学式における濃度および混合比で行うことが生成物の収量、および選択性において必ずしも良好とは言えない。また、化学反応の進行は反応領域の温度による影響の他に、反応領域における壁面の濡れ性、接触角などの配向因子、試薬溶液や生成物の粘度、密度、表面張力や流路に関する壁面と液体との界面張力等の種々の要素によっても微妙に変化してしまう。これら反応領域の温度や、試薬溶液や生成物の物理的な特性の違いによる化学反応への影響は、マイクロチャンネルチップ内での比表面積が大きな微小流路を用いた反応においては、より顕著に差異が生じると予測されるが、その際の対応指針は未だ検討されていない。
【0009】
さらに化学反応においては、副生成物や中間体が発生する場合が多い。ここで副生成物が固体(結晶)であることも多いため、流路に付着した該結晶が流路を局所的に狭めるため流量減少の原因となり、そのまま放置すれば流路の閉塞などの原因となる等の問題があった。また化学反応の際に水素や二酸化炭素等、各種のガスが発生する場合もある。マイクロチャンネルチップにおいては化学反応によって、たとえ少量のガスが発生した場合でも、試薬溶液および生成物の逆流などの深刻な問題が生じる。
【0010】
このためマイクロチャンネルチップを用いる化学反応においては、反応領域の温度、試薬溶液の濃度および流量などの、運転状態における各種パラメータを迅速に、かつ容易に決定する技術が求められている。さらに装置運転時においても、反応領域の温度を管理して、生成物の良好な収量や選択性の確保、および様々な擾乱に対応するために反応領域における試薬溶液の流量や濃度制御を精度良く行うことが従来から要望されている。
【0011】
上記のマイクロチャンネルチップにおける流量制御法を開示するものとして、例えば、特開2003−43052号公報(特許文献1)等が挙げられるが、この技術は単一流路内の流量制御法であるため、2つもしくはそれ以上の試薬溶液の濃度や混合比を調整したり、生成物の総量を増減したり、温度や圧力の変化に応じて流量制御を行う技術とはいえない。また前記特許文献以外においても、上述の問題を解決できる技術は見当たらない。
【0012】
これに対して、マイクロチャンネルチップにおける化学反応では、反応領域における溶液の質量が極少であるため、原理的には、温度設定を迅速にかつ均一に行うことができ、化学反応に好適な温度条件を得ることが可能となる。しかしながら、マイクロチャネルチップ中における極・微小な反応領域を、反応に好適な温度に管理・制御する技術は実現されていない。
【0013】
【特許文献1】特開2003−43052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来、前記のような問題があったため、マイクロチャンネルチップを用いた化学反応では、反応領域の温度、圧力、および混合する試薬溶液の濃度や混合比等の多くのパラメータを操作して、かつ試薬溶液や生成物の物性、およびチャンネル断面の寸法・形状を考慮して、膨大な予備実験により反応時の運転条件を決定する必要があった。さらに化学反応中における結晶の析出や、ガスの発生などにおいても、迅速に対応する必要があった。しかしながら、先行技術ではこれらの問題への対応がなされておらず、従って、マイクロチャンネルチップでの反応制御に関しては検討すべき課題が多々存在する。
【0015】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであり、膨大な予備実験を行わずに、マイクロチャンネルチップの微小流路内での目的とする化学反応に関与する各種条件、例えば、反応領域の温度条件および試薬溶液の濃度や流量等を好適に調整でき、かつ化学反応中に析出する固体や発生するガスによる不具合にも対応できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供することを課題とする。
【0016】
また本発明は、目的の反応に関与する条件のなかでも、特に微小な反応領域の温度を精密に制御して、目的とする反応生成物を効率良く生成、生産できるマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供することを課題とする。
【0017】
さらに本発明は、上記のマイクロチャンネルチップ反応制御システムを用いて、目的とする生成物を効率良く生産できるマイクロリアクションシステム、または良好な検査結果を得ることができるマイクロトータルアナリシスシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明は、試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの微小流路が接合してなる微小反応流路を有するマイクロチャンネルチップの反応制御システムであって、
前記微小反応流路内で合流した試薬溶液間の反応により生じた生成物を分析するための分析手段;および
該分析手段から得られた分析結果に基づいて前記微小反応流路内での反応に関与する条件を制御する制御手段;
を含むマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供する。
【0019】
本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御システムの或る態様では、その制御手段が、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力、特に好ましくは温度を制御可能である。
【0020】
上記システムの或る態様では、その制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度および/または周辺気圧に基づいて、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力を制御可能である。
【0021】
上記システムの或る態様では、その分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比を測定可能である。また、その分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の少なくとも1つの成分量を測定可能であってもよい。
【0022】
上記システムの或る態様では、その制御手段が、前記マイクロチャンネルチップの温度および前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比または成分量を常時もしくは一定時間モニタリングし、該モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である。
【0023】
さらに上記システムの或る態様では、その制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度、周辺気圧、および前記微小流路内の圧力を常時もしくは一定時間モニタリングし、モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である。
【0024】
温度制御に好適な本発明のシステムの一態様では、その微小反応流路の所定長さ部分に並列する熱媒体流路が設けられており、該熱媒体流路内に送られる熱媒体を介して反応領域の温度調整が行われる。
【0025】
上記システムの或る態様では、その熱媒体流路は、前記微小反応流路と同軸の二重管構造に形成されている。また、その熱媒体流路は、前記微小反応流路に沿って複数設けられていてもよい。
【0026】
上記システムの或る態様では、その微小反応流路に温度センサが設けられている。その温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含むものでもよい。
上記システムの或る態様では、その分析手段は、クロマトグラフィー装置を含むものでもよい。
【0027】
上記システムの或る態様では、その制御手段は、前記分析手段および温度センサの出力に基づいて、前記熱媒体流路に熱媒体を送る熱媒体送液手段の動作を制御可能である。その制御手段は、前記複数の熱媒体流路の温度を独立に調整可能であってもよい。
【0028】
温度制御に好適な本発明のシステムの別の態様では、微小反応流路にレーザー光を照射することにより反応領域の温度調整を行う温度調整装置が設けられている。
上記システムの或る態様では、微小反応流路に温度センサが設けられている。その温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含むものでもよい。
【0029】
上記システムの或る態様では、その制御手段は、前記レーザー光の出力を増減することかつ/または前記レーザー光の焦点距離を可変することにより反応領域の温度調整が行われる。
【0030】
上記システムの或る態様では、その温度調整装置は、前記マイクロチャネルチップ内の複数の領域にレーザー光を照射可能である。
また、本発明のマイクロチャネルチップ反応制御システムは、上記した構成のあらゆる組合せを含むシステムであり得る。すなわち、分析手段の構成、分析手段の分析対象、制御手段の構成、制御対象の条件(制御パラメータの種類やアクチュエータの種類)、温度調整手段の構成(温度センサの数や種類を含む)のあらゆる組合せが、本発明の適用範囲内である。
【0031】
さらに本発明は、上記したいずれかの態様のマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルリアクションシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける物質生産のための原料化合物間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルリアクションシステムをも提供する。
【0032】
さらに本発明は、上記したいずれかの態様のマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルアナリシスシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける試薬化合物と被検化合物との間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルアナリシスシステムをも提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御システムは、試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの微小流路が接合してなる微小流路を有するマイクロチャンネルチップと、前記接合した微小流路内で試薬溶液間の反応を起こした生成物をサンプリングして分析する分析手段と、該分析手段から得られる分析結果に基づいて前記微小流路内での反応に関与する条件を制御する制御手段とを備えた構成であるので、膨大な予備実験や経験則に依存することなく、前記微小流路内での化学反応が好ましい条件下で行われるように良好に制御することが可能となる。
【0034】
例えば、物質生産を目的とした合成反応または検査を目的とした試薬反応等のための反応条件を、実際に生成された生成物の分析結果に基づいて逐次好適化することができるので、所望の成分比や成分量で生成物を生成するような最適な反応条件を設定、維持することができる。
【0035】
特に、マイクロチャンネルチップは微小流路を用いた極小量での反応系であるため、試薬流量や濃度および反応領域の温度や圧力等の各種反応条件の僅かな変動によっても影響を受けやすい反面、その微小スケールゆえに反応条件に人為的変動を加えることは比較的容易である。本発明により、そのような微小反応系の特性が活かされ、効率的な物質生産等を実現するマイクロチャンネルチップ反応制御システムが提供される。
【0036】
温度制御のための熱媒体流路が設けられた構成の本発明によれば、反応流路の所定長さ部分に並列する熱媒体流路に温度を調整した熱媒体を供給することにより、反応領域ごとの温度調整を正確に均一にする、あるいは、異なる温度に調整する等のきめ細かい制御を行って、目的とする反応生成物を効率良く生成、生産できるマイクロチャンネルチップ反応制御システム、およびこれを使用したマイクロリアクションシステムが提供される。
【0037】
温度制御のために微小反応流路にレーザー光を照射する構成の本発明によれば、マイクロチャネルチップの反応流路に外部からレーザー光を照射して、任意の反応領域の温度調整を任意のタイミングで行うことにより、反応領域ごとの温度調整を正確に均一にする、あるいは、異なる温度に調整する等のきめ細かい制御を行い、目的とする反応生成物を効率良く生成、生産できるマイクロチャンネルチップ反応制御システム、およびこれを使用したマイクロリアクションシステムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図2は、本発明の実施形態の概略構成を模式的に示す。この実施形態のシステムでは、一般式“A+B→C”で表される合成反応を行うものとし、ここでAおよびBは試薬溶液、Cは主生成物を示す。
【0039】
本システムは、試薬溶液AおよびBを各々導入するための2つの微小流路1a,1b、およびこれら微小流路1a,1bが接合してなり、そこで試薬溶液A,Bの合流に起因し試薬化合物同士の化学反応が行われる反応微小流路1cを有するマイクロチャンネルチップ1と、反応微小流路1cから流れ出る生成物Cをサンプリングして分析するための成分測定装置2(分析手段)と、成分測定装置2から出力される成分測定結果(分析結果)に基づいて、反応微小流路1c内での化学反応に関与する諸条件を調整するための制御手段3とを備えている。
【0040】
2つの微小流路1a,1bの上流側には、マイクロチャンネルチップ1へ供給される試薬溶液A又はBを貯めておくA貯槽とB貯槽、各貯槽に溶媒を供給する溶媒槽、各溶媒槽からの流入量を変動させて各貯槽内の試薬濃度を調整するための濃度調整バルブ4、各貯槽から各試薬溶液をマイクロチャンネルチップ1へ送るためのポンプ、および試薬溶液A,Bの各流量を調整するための流量調整バルブ5が接続されている。それらポンプおよびバルブは、制御手段3に制御可能に接続されており、こうして各貯槽における各試薬濃度、および微小流路1a,1bへの試薬溶液A、Bの各駆動圧力と各流入量が制御手段3から繰り出される調整信号によって各々独立に制御可能な調節機構が構成される。
【0041】
マイクロチャンネルチップ1において、反応微小流路1cの壁面の複数箇所には、温度センサ(例えば、測温抵抗体や熱電対)および圧力センサが設けられている(図中の黒丸はそれらセンサの設置箇所を例示する)。また、マイクロチャンネルチップ1は電気ヒータ6上に設置されており、電気ヒータ6は、前記温度センサにより検出される温度実測値および設定された温度目標値に従って制御手段3から繰り出される温度調整信号によりフィードバック制御可能である。こうして反応微小流路1c内の温度を目的の反応にとって好適な温度に調整するための温度調整機構が構成される。また図示していないが、外乱に強いシステムを構築するためには、マイクロチャンネルチップ1の周囲温度や周囲気圧を検出するための温度センサおよび気圧センサを更に設けて、それらを前記の温度調整機構に接続してもよい。
【0042】
反応微小流路1cで生成された生成物流Cは、生成物貯槽に送られるが、その一部は成分測定装置2に、好ましくは脱気装置7を介して取り込まれ、サンプリングされる。成分測定装置2では、例えば、クロマトグラフィー装置(典型的にはHPLC)であり、サンプリングされた生成物中の成分比や成分量といった当該反応系における反応状態が分析される。なお脱気装置7は、超音波発生やヘリウム等を用いた手段により分析対象の生成物から脱気を行うものでよい。成分測定装置2において得られた成分測定結果(例えば、図中の波形のチャート)は、制御手段3の判断機構に取り込まれ、また必要に応じて図示しない記憶手段に格納される。
【0043】
制御手段3は、サンプリングされた生成物についての分析結果を判断する判断機構、判断機構の指示により上記システム各部の調整機構に対する調整具合を決定する決定機構、および決定機構の指示によりポンプの運転状態やバルブ開度を調整する調整機構を具備している。これらの機構は、例えば、1台のパーソナルコンピュータで兼用されるとしてもよい。制御手段3は、格納されているコンピュータプログラムに従って、あらゆる制御・調整を行うことができる。
【0044】
必要に応じて制御手段3では、任意のパラメータを目標値に向かわせる自動調整が行われる。例えば、決定機構では、成分測定装置2において実際に得られた分析結果を、所望される分析結果(例えば、最適な生成量または成分比)についての理論値(目標値)と比較し、そして、その差違を最小化して生成物の分析結果が前記理論値に近づくように、具体的には、各試薬溶液の濃度(バルブ4の開度)、流量(ポンプの回転数および/またはバルブ5の開度)、反応温度(電気ヒータ6への印加電流)等についての調整量を求めるための演算が行われる。調整機構は、指示された調整パラメータと調整量に従って各調整機構へ電気信号を繰り出す。
【0045】
また、温度センサおよび圧力センサから得られる検出値を一定時間または常時モニタリングし、反応領域の温度および流路内圧力を目標値に近づけるように電気ヒータ6およびポンプを介してフィードバック制御を行ってもよい。これに加えて、周囲温度や周囲気圧を検出する温度センサおよび気圧センサから得られる外乱データを一定時間または常時モニタリングし、当該システムへの外乱の影響の予測或いは即時対応を可能にするための制御を行ってもよい。さらに温度センサ又は圧力センサから異常値が検出された場合には図示しない警告手段を発動するとしてもよい。
【0046】
「微小流路」は、試薬溶液を流動させるための微小な流路断面積を持つ流路である。本発明による反応制御システムは、マイクロスケール下で扱われる微少量の液体間の反応制御に有効とされる。この見地から、本願明細書に使用される「微小流路」という用語は、微少量の液体間の厳密な反応制御が有効となるほどに小さな反応空間を持つ流路を意味する。微小流路は、フォトリソグラフィー技術などの微細加工技術を用いて形成され、例えば約10〜約100μmの幅および高さを有する。
【0047】
本願明細書に使用される「試薬溶液」という用語は、微小流路内において、目的の化学反応を起こすための反応性成分、典型的には合成反応のための原料化合物または検査反応のための試薬化合物もしくは被検化合物などを溶質として含有する溶液を意味する。その溶剤としては、使用される反応性成分との適合性又は適正な粘度等を考慮して適宜選択すればよい。本発明において使用される反応性成分および溶剤の種類は特に限定されない。
【0048】
本願明細書に使用される「微小反応流路内での反応に関与する条件」には、微小反応流路内の試薬溶液の流量、試薬濃度、温度、圧力、周囲温度および周囲圧力等が含まれる。特に本システムにおける反応制御に有力な条件の1つは温度である。厳密には試薬溶液の温度であるが、これは試薬溶液に接する微細反応流路の壁面およびその近傍の温度とみなせる。マイクロチャンネルチップでは、極めて微量の試薬溶液を扱うため、微細反応流路近傍の温度変化を介した試薬溶液の温度制御は応答性が高く、かつ温度変化が目的の反応に与える影響も大きい。
【0049】
試薬溶液の駆動方法は、本実施形態のようにポンプ駆動でもよいが、毛細管現象および電気浸透流を利用する方法であってもよい。
本発明に使用されるマイクロチャンネルチップは、当該技術分野における常法に従って製造することができる。典型的な製造方法は次の通りである。通常、マイクロチャンネルチップは2枚の基板で構成される。1枚の基板の片面には、フォトリソグラフィー技術を用いて所定のデザインに従って微小流路を掘り、もう1枚の基板には超音波加工などの機械加工を用いてリザーバー用の穴を開けて試薬溶液の供給口及び排出口を設ける。これら2枚の基板を、熱による溶融接合などの接着技術を用いて張り合わせると、所定の長さと流路断面を持つ微小流路を備えたマイクロチャンネルチップが得られる。基板の材質は、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂などから適宜選ぶことができる。
【0050】
次に、図3および図4の仮想データを参照し、本システムによる調整方法を説明する。
本システム運用中における、ある時点で成分測定装置から得られた分析結果として先ず図3の結果を仮定する。ここで図3の縦軸は成分量、横軸は保持時間である。各ピークは特定成分の溶出量および溶出時間の関数として示される。また成分測定装置としてクロマトグラフィー装置を用いる場合には、事前に検量線を求めるなどの標準化を行って、分析結果に対する生成物の成分量の換算を可能とする。
【0051】
なお、成分測定装置による生成物の成分比や成分量の測定は、反応中に常時モニタリングしていてもよいし、それら分析結果を得るために一定時間システム全体の起動・停止を行ってもよい。
【0052】
図3の結果から判断機構は「現状の運転条件では主生成物Cの生産量が少ないため、主生成物Cの増産を図る」と判断したと仮定する。判断機構の判断により決定機構は、システム各部のパラメータを再検討し、主生成物Cの生産量を増加するために調整すべきパラメータを策定し、それらの調整量を決定する。ここで具体的にパラメータとは、マイクロチャンネルチップ内の反応領域、特に反応微小流路1c近傍の温度、試薬溶液AおよびBの濃度および流量である。決定機構において調整すべきパラメータの策定や調整量は、各パラメータの変動量の相関関係についてあらかじめ経験的にデータが蓄積されているデータベースを利用してもよいし、逐次得られる測定結果について判断機構および決定機構による自動最適化を試みてもよい。もちろんデータベースと自動最適化を併用してもよい。ここで自動最適化とは、制御パラメータ群の変動に起因する主生成物Cの生成量等の設計評価関数の増減の傾向に基づいて、主生成物Cの生成量が適正となるように調整が必要なパラメータを策定し、調整量を決定する手法である。なお自動最適化のための計算アルゴリズムは一般に最適化アルゴリズムと呼ばれる。例えば仮に,主生成物Cの生成量を増加するための具体的な調整法としては、i)マイクロチャンネルチップ内における反応領域の温度を上昇させると主生成物Cの生成量が増加する傾向が得られた場合に、マイクロチャンネルチップ内の反応領域の温度上昇を試みる、或いはii)温度を上昇しても主生成物Cが増産傾向にならない場合には、試薬溶液AおよびBの流量や濃度の調整を試みる等が挙げられる。
【0053】
上記した通り温度調節は、電気ヒータやチラー等を用いて行うことができ、また、試薬溶液AおよびBの流量増減もポンプの回転速度の増減およびバルブ開度の調整により可能である。試薬溶液AおよびBの濃度調節は、溶媒の注入による希釈、および貯槽過熱による濃縮などにより可能である。
【0054】
上記のような一連の測定、判断、決定、および調整を、パーソナルコンピュータ等の最適化アルゴリズムにより適時自動的に繰返すことによって、マイクロチャンネルチップ内の反応領域の温度を化学反応に最適な条件に設定し、試薬溶液AおよびBを最適な流量および濃度でマイクロチャンネルチップに送ることが可能になる。このシステムでは、運転条件を決定するための膨大な予備実験が不要となる。
【0055】
次に図4の仮想データを用いて説明する。直感的に試薬溶液Aの流量や濃度が大きいと推察されるが、化学反応においては図4のような結果であっても、試薬溶液Aの流量や濃度をより増加したほうが主生成物Cの生産量が増大する場合も散見される。そのような場合もあるため、従来の化学反応における予備実験は、運転時の各パラメータ決定のために膨大な時間と労力を必要とした。本システムでは、反応が比較的早く進行するマイクロチャンネルチップを使用し、そこで自動的に運転条件を決定することができる。したがって、生成物Cの生成量が最適となる条件へ確実且つ速やかに調整することができ、予備実験の時間と労力を削減し、かつ運転時には安定した生成物の収量を確保することが可能になる。
【0056】
また化学反応においては副生成物として結晶の析出、もしくはガスの発生等もあり得る。結晶が析出し流路に付着した場合には、流量の減少や流路の閉塞などの問題が発生する。しかし、本システムにおいては、上記した通り、生成物の成分比および/または成分量を測定しているため、生成物の減少には試薬溶液AおよびBの流量増加を判断、決定し、流量を増加させるように調整機構が対応することができる。また流量の閉塞などにも、流量の激減として測定結果に現れるので、システム管理者が認知でき、早急に対策を行うことが可能である。ガスの発生に対しても、本システムにおいては、マイクロチャンネルチップ内の圧力を圧力センサ等で常時モニタリングすることにより、ポンプの吐出し圧を上げて逆流を防止するか、もしくは溶媒を多量に混入して発生したガスを溶解させる等の対策を行うことも可能である。
【0057】
さらにシステム周辺の気温変化や気圧変化等の外乱による反応への影響に関しても、生成物の成分比および/または成分量を測定し、上述のように判断、決定、および調整のための各機構を好適に制御できるので、外乱による影響への対応を含めてマイクロチャンネルチップ内の温度、試薬溶液AおよびBの流量、および濃度を良好に制御・管理することができる。このため主生成物Cの安定した生産が可能となる。
【0058】
上記の通り本システムによれば、サンプリングされた生成物の分析結果に基づき反応領域の温度制御、試薬溶液の流量調整および濃度調整を自動的に行うことができるので、生成物を安定的に効率良く生成することができ、或いは検査のための試薬反応を安定的に効率良く行うことができ、さらにはマイクロチャンネルチップ内の流路の閉塞や逆流といった不具合にも対処することが可能となる。
【0059】
既に述べたように、マイクロチャンネルチップにおける温度の制御応答性は高く、かつ温度が目的の反応に影響を与える有力な制約条件であることから、高精度な温度制御性を有するマイクロチャンネルチップ反応制御システムを提供することは重要である。
【0060】
以下では、微小反応流路の温度を制御するのに好適なマイクロチャンネルチップ反応制御システムの実施形態を説明する。
【0061】
図7は、温度制御に好適な本発明の実施形態のマイクロ生産システムまたはマイクロトータルアナリシスシステムを模式的に示すもので、このシステムは、A+B→Cという反応式に沿って、AおよびBを所定量含む試薬溶液を原料とし、やはり溶液状の主生成物Cを生成するシステムである。このシステムは、AとBを混合し反応を行わせるための反応空間を提供するマイクロチャネルチップ10と、マイクロチャネルチップ10内の反応領域温度を調整するための温度調整機構30と、マイクロチャネルチップ10やその下流側に設けた各種センサの測定結果に基づいて温度調整機構30の動作を調整する制御装置50を具備している。
【0062】
マイクロチャネルチップ10には、図8に示すように、平板状の複数(図では2枚)の基板11a,11bの表面に溝を形成し、互いに合流することによって内部に微細な流路または反応空間を構成している。この実施の形態では、長方形状のチップの1つの角部に原料流路12A,12B(すなわち、試薬溶液を導入するための微小流路)が開口して形成され、これらは合流部13でY字状に合流した後、蛇行する長い混合・反応流路14(すなわち、微小反応流路)となり、反対側の角部に開口する流出口15において外部流路16に連通している。混合・反応流路14に沿って、図8(b)または(c)に示すように、温度調整機構30から熱媒体の供給を受ける温度調整用の並列熱媒体流路18a,18b,18cが設けられている。並列熱媒体流路18a,18b,18cは混合・反応流路14に並列して所定長さが形成され、熱媒体と混合・反応流路14内の溶液との間の熱交換効率を高め、充分な温度制御が行える。この例では、マイクロチャネルチップ10の混合・反応流路14に3カ所に分散して設けられているが、数や配置は任意に設定可能である。
【0063】
マイクロチャネルチップ10には、混合・反応流路14内の温度を一箇所もしくはそれ以上の場所で個別に測定する例えば測温抵抗体や熱電対等の温度センサTs1〜Ts9が所定箇所に設けられている。また、混合・反応流路14の下流側の外部流路16には、クロマトグラフィー装置等の成分測定装置20が設けられている。これらのセンサの出力は、制御装置50に入力されるようになっている。
【0064】
温度調整機構30は、マイクロチャネルチップ10の並列熱媒体流路18a,18b,18cに連絡流路19を介して連通する熱媒体管路32と、熱媒体管路32の途中に設けられた所定温度の熱媒体源34と、熱媒体を圧送するポンプ36とを備えたものである。熱媒体源34は、例えば流体槽に温度調整用熱源を備えたものである。温度調整機構30は、熱媒体の温度を設定することにより、加熱だけでなく冷却も可能である。図8(b)に示す実施の形態では、熱媒体流路は混合・反応流路14を取り囲むように形成され、また、図8(c)に示す実施の形態では、2本の並列熱媒体流路18A,18Aが混合・反応流路14の両側を挟むように形成されているが、一方に隣接して形成してもよい。
【0065】
制御装置50は、温度センサTs1〜Ts9による温度測定結果や成分測定装置20による反応生成物の成分測定結果からシステムの状態を判断する判断部52と、判断部52の指示に基づいて温度調整機構30,40への指示を決定する決定部54と、決定部54の指示により温度調整機構30,40を調整する信号を出力する調整部56を具備している。これらの判断部52、決定部54、および調整部56は、個別のコンピュータチップとしてもよく、また、例えば一台のパーソナルコンピュータで兼用しても良い。
【0066】
以下、上記のマイクロリアクションシステム(またはマイクロトータルアナリシスシステム)の利点を具体的に示すために、このシステムを運用した際のプロセス例を説明する。図9はこの実施の形態のシステムが用いられるA+B→Cの反応の結果として得られたデータの典型的パターンを示すグラフであり、縦軸は成分量、横軸は保持時間を示す。成分測定装置20として、例えばクロマトグラフィー装置を用いる場合には、事前に検量線を求めるなどの標準化を行って、測定結果に対する生成物の成分量の換算を行う必要が有る。
【0067】
図9の結果から判断部52は「現状の運転条件では主生成物Cの生産量が少ないため、主生成物Cの増産を図る」と判断したと仮定する。前述のように化学反応における反応速度は、反応領域の温度により支配的に決定される。よって主生成物Cの増産を図るためには、反応領域の温度上昇を促せば可能であると予測され、判断部52の結果より決定部54は反応領域の温度上昇を決定する。
【0068】
判断部52の判断により決定部54は、反応領域の温度調整機構30に対して調整量を決定する。制御の方法は、調整量をあらかじめ用意された経験的なデータベースを用いて決めるオープン制御でも良いし、成分測定装置20の測定結果が目標値になるように判断部52、および決定部54により、自動調整するものでも良い。もちろんこれらを併用する制御方法でも良い。
【0069】
ここで自動調整とは、ある反応領域の温度調整をして、主生成物Cの生成量が増減した結果を基に更なる調整量を決定する。具体的には、反応のプロセスを記述する理論的または経験的に得られた制御演算式に基づいて、フィードバック制御を行う。制御演算式には、例えば、“(8)マイクロチャネルチップ10内における反応領域の温度を上昇した場合に、主生成物Cの生成量が増加する傾向が得られた場合に、よりマイクロチャネルチップ内反応領域の温度上昇を試みる。”“(b)化学反応が発熱反応のため温度暴走の危険性が生じた場合、反応領域の冷却を試みる。”等の原則を反映したものとなる。このように、制御装置50において、マイクロチャネルチップ10に設けられた温度センサTs1〜Ts9、および成分測定装置20の測定結果を基に、測定→判断→決定→調整を自動的に繰返すことによって、マイクロチャネルチップ10内の反応領域の温度を、化学反応に最適な条件に設定することが可能になり、よって生産性が高く、および温度暴走等を回避できる安全なシステムを構築することが可能となる。
【0070】
ここで、本発明のマイクロチャネルチップを用いた場合の従来の技術に対する優位性を示すために試算を行う。試算の条件としてマイクロチャネルチップで化学反応を行う試薬溶液の比熱を4.2[kJ/kg・K]、試薬溶液の比重を1000[kg/m3]、マイクロチャネルチップにおける化学反応部分の断面形状を100[μm]×40[μm]、および反応部分における試薬溶液の流速を0.001[m/s]とする。本条件でマイクロリアクターを運用中に、化学反応促進の為に反応領域における温度を20[K]上昇させる必要が生じた場合を仮定する。その際に、本発明によりマイクロチャネルチップに具備された温度調整機構30を用いて反応領域の試薬に投入すべき熱量Qは、
【0071】
【数2】
【0072】
といった、非常に低い熱量で達成できるため極めて簡単な温度調整機構30,40を用いれば良いことが推察される。また、マイクロリアクターの反応部は比表面積が大きいため、外部から熱量を与える際に、反応領域の温度を均一に保つことが容易である。
【0073】
比較のため、従来のフラスコやビーカーに100×10-6[m3]の試薬に対し、3.36×10-7[kW]の熱量を投入して試薬溶液の温度を20[K]上昇させる時間tを試算する。ただしここで試薬溶液の比熱や、比重は上記マイクロリアクターにおける試算と同一とする。この時間tは、
【0074】
【数3】
【0075】
となるため、とても現実的なシステムにならないことが分かる。したがって、従来のフラスコやビーカーにおける化学反応で温度調整を行う場合には、高出力で高価な温度調整機構を必要とする。
【0076】
さらに、従来のフラスコやビーカーのシステムでは、マイクロリアクターに比べて、比表面積が小さいため、試薬内で一様な温度分布を得ることが極めて困難である。その場合、試薬内の温度が局所的に低い場合には、十分に反応が進行せず、また局所的に試薬内の温度が上がりすぎれば、試薬内の反応物質が破壊されたりするなどの好ましくない現象が生じる危険性がある。
【0077】
以下、この実施の形態の温度調整機構30による温度調整方法を詳しく説明する。温度調整機構30は、熱媒体としては、適宜の温度の水やシリコンオイル等を流通させて反応領域における溶液の温度調整を試みるものである。以下の例では仮に反応速度上昇のために温水を用いたが、温度暴走などに対しては、冷水を用いて反応領域の冷却を試みる。
【0078】
ここでは、図8(b),(b)に示すような並列熱媒体流路18a,18b,18cを用いて、温度制御する為に必要な並列熱媒体流路18a,18b,18cの長さを試算する。並列熱媒体流路18a,18b,18cの単位長さあたりに授受できる熱量qを0.1[kW/m]とすると、上述の物性の流体を同じ条件で20[K]上昇するために必要な並列熱媒体流路18a,18b,18cの長さLは、
【0079】
【数4】
【0080】
となり、非常に微小な長さの並列熱媒体流路18a,18b,18cを用いて温度制御することが可能であると予測できる。なお本試算は、さまざまな仮定のうえで行ったものであり、チップの材質や実験条件によって温度制御に必要な並列熱媒体流路18a,18b,18cの長さを設計する必要があろう。
【0081】
なお、上記において、マイクロチャネルチップ10における並列熱媒体流路18a,18b,18cの具体的な経路については説明しなかったが、例えば、図10に示すように、1つのポンプ36に直列につなぐ簡単なもの、あるいは、図11に示すように、並列熱媒体流路18a,18b,18cに異なるポンプ36a,36b,36cと熱媒体源34a,34b,34cを設けて、独立に温度調整可能としたものが考えられる。図11では、戻り流路を省いて示している。この例では、熱媒体の温度と流量がともに可変なので、きめ細かい温度調整を行うことができる。いずれか一方が備わっていれば、独立な調整が可能である。ポンプ36を共通として、流量調整弁を設けるようにしてもよい。
【0082】
図12は、この発明の他の実施の形態を示すもので、温度調整機構以外は先の実施の形態と全く同じである。この実施の形態では、温度調整機構40は、マイクロチャネルチップ10の外部の光源から光を照射する光加熱装置である。これは、マイクロチャネルチップ10の表面に対向する位置に設けられた2基のレーザー光照射装置44と、このレーザー光照射装置44を支持し、その位置や向きを変える支持・駆動機構46と、ビームの強度、断面形状、焦点等を調整する照射制御手段(図示略)とを有している。このようにレーザー光を用いることで、マイクロチャネルチップ10の小さい領域を高強度で照射して、例えば、流路の特定箇所等において、局所的な温度制御を行うことができる。
【0083】
このレーザー光照射装置44においては、温度調整は、レーザー光出力を変化させることによって行っても良いし、レーザー光の焦点距離を変化させることによって行っても良い。図13に示すように、ビームを1つの箇所に絞ってピンポイントな加熱を行うことができるが、図14に示すように、混合・反応流路14に沿った帯状の領域にビームを照射して加熱することもできる。勿論、ビームの断面の形状や寸法を選択することにより、必要に応じて適宜の領域を加熱することができる。また、支持・駆動機構46を作動させて、ビームを必要な場所に向けることにより、加熱領域を容易に変更することができる。さらに、ビームが所定の帯域を往復するように支持・駆動機構46を作動させることもできる。このように、レーザー光照射装置44は外部からコヒーレントな光を照射するので、加熱箇所を容易に変更できるという利点が有る。
【0084】
次に、このレーザー光を用いる温度調整機構40の作用について説明する。これまでの試算と同じ条件で、図13もしくは図14のようにレーザーを用いて温度制御する場合を試算する。レーザー出力の80%が試薬温度を上昇するために吸収されると仮定すると、必要なレーザー出力Pは、
【0085】
【数5】
【0086】
となる。レーザー変位計などに用いられるような、比較的人体に安全なレーザー発信装置のレーザー出力は3[mW]程度である。よって本発明による温度制御法を用いれば、大出力のレーザー(レーザー加工などに用いられる炭酸ガスレーザーの出力は35[W]以上である。)を使用せずに、安全な温度制御システムを構築することが可能となる。なお本試算は、さまざまな仮定のうえで行ったものであり、チップの材質や実験条件によって温度制御に必要なレーザー出力を設定する必要があろう。
【0087】
さらに、図15に示すように、熱媒体を用いる温度調整機構30とレーザー光を用いる温度調整機構40を併用しても良い。これにより、例えば、前者を主体として用い、より局所的な調整を後者により行うことにより、さらに精密な調整が可能となる。また、マイクロチャネルチップ10内の溶液の流れ方向に対して、多種の温度条件を設けて化学反応を進行させる技術も可能となる。
【0088】
さらに、図16に示すように、対象とする化学反応に用いる試薬や熱媒体の比熱、熱伝導率、その他の物性値、および装置の制約等の理由から、レーザーを直接試薬に対して照射して温度制御を行うことが好ましくない場合には、熱媒体にレーザー光を照射して温度調整を行う場合もありうる。
【0089】
以下実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、下記実施例の記載は、本発明の実施可能性を例証するものであって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定解釈するために参照されるべきものではない。
【実施例】
【0090】
本発明を適用した化学反応の自動最適化の例としてスチレンの無触媒・熱開始重合をマイクロリアクターで行う実施例を示す。スチレンは加熱によりポリスチレンに重合する。この反応を実施する反応器を設計する際、従来は小型の封管重合による予備試験を行い、そこから反応速度のモデル式を決定し、反応器の設計パラメーターを算出していた。表1に純度100%のスチレンの封管重合による試験結果の例を示す。
【0091】
【表1】
【0092】
この結果から回帰分析により、反応速度式を決定すると次式のようになる。
【0093】
【数6】
【0094】
(ただし、n=1、k0=1.53x109、E=77200とし、rは反応速度[kgmol/h/m3]、Cはスチレンのモル濃度[kgmol/m3]、nは反応次数、k0はArrhenius式で表した速度定数、kは頻度因子[1/hr]、Eは活性化エネルギー[kJ/mol]、Rは定数8.314[kJ/mol/K]、Tは温度[K]である)
ここで、スチレン濃度Cの時間変化は次の微分方程式で表される。
【0095】
【数7】
【0096】
この微分方程式の解は、次式となる。
【0097】
【数8】
【0098】
(ただし、C0は初期モル濃度である)。
ポリスチレンの収率xは、スチレンの転化率と等価であり、次式となる。
【0099】
【数9】
【0100】
本発明による制御機構では、上述の化学反応速度式を決定する作業を経ずに設計評価関数の自動最適化が可能となる。
【0101】
ここで、この反応をマイクロリアクターで実施する場合を考える。リアクター体積をV[ml]、原料の投入体積流量をQ[ml/hr]とする。ここでプラグフロー型反応器を想定し、簡略化のため重合による溶液の密度変化を無視すればリアクターにおける反応時間はV/Q[hr]である。またポリスチレンの単位時間当りの収量Qxに比例する。ポリスチレンを生産する際の評価関数として、ポリスチレンの収量が大きいことと、精製の容易さから収率が大きいことを同程度に重視し、収量×収率Qx2という値を選ぶ。
【0102】
以下の例では設計変数として原料体積流量Qと反応器温度を選ぶ。反応器容積は1[ml]一定とする。体積流量の制御範囲は0.05〜2[ml/hr]、温度の制御範囲は120から160℃とする。このときQx2の応答曲面は図5のようになる。
【0103】
ここで、本発明による最適化手法を適用した場合、流量および収率センサーの出力からリアルタイムあるいは若干の遅れ時間で制御系は現在のQx2を算出する。そして流量と温度を設計された最適化アルゴリズムに従って変更し、その都度Qx2の値をモニターすることにより応答局面上の最適点を少ない試行で探索することが可能となる。この応答曲面上の探索軌道を図6に示す。
【0104】
最適化アルゴリズムとしては、既知の勾配法、焼き鈍し法、遺伝的アルゴリズム等どれを用いても良い。また評価関数は、計測される値と設定値の関数であれば任意であり目的に応じて反応器の運転を止めずに自在に変えることができる。また制御パラメータ(温度、流量等)に制約条件のある場合、その条件化での運転の最適化も可能である。
【0105】
以下、本発明のマイクロチャンネルチップ反応制御に適用可能な最適化アルゴリズムについて例を挙げ、具体的に説明する。
【0106】
実際の多種多様な化学反応における反応条件の決定は収率、選択性、および収量の向上、さらには廃棄する試薬量の低減などをもたらすため、慎重に行う必要がある。しかしながら、従来の技術において化学反応の条件を規定する際には、経験的および膨大な実験的試行錯誤の後、決定している場合が多かった。
【0107】
そこで、本願では、数学的手法と自動制御の技術を組み合わせることによって、絨毯爆撃的な予備実験を行うことなく反応条件を求めることができるシステムを開示する。さらには、当初では予測もつかなかった反応条件の組み合わせを制御システムの探査により得られる可能性もあるため、より理想的な反応結果を得られる条件を選定することも可能となる。
【0108】
先ず、制約条件(試薬流量、圧力、温度、およびその他の化学反応の際に規定すべき条件)より、それら制約条件の変化に対する目的量(収率、選択性、収量、およびその他の化学反応の性能を示す指標)を評価関数として定式化する作業から行う。これらの条件を定式化すると、大抵の場合、制約条件や評価関数は非線形になる。
【0109】
例えば、化学反応において試薬流量を倍にする、もしくは温度を倍にする等の条件変更を行ったからといって、収率や収量が倍になるとは一概に言えないことからも感覚的に理解できる。例えば、マイクロリアクターを用いたペプチド合成反応結果の一例を図18に示す。図18中のグラフにおける縦軸は収率、横軸は試薬溶液の流量を示す。この結果より、マイクロリアクターにおいてペプチド合成を行う場合には、「最適な流量範囲」が存在することがわかる。また、試薬流量以外の各種反応条件(温度、圧力、試薬濃度、および流量等)を調整して、収率以外の化学反応の評価指針(収量、および選択性等)を最適な状態に制御することは、それらが複雑で非線形な関係にあるため極めて困難な作業である。
【0110】
これらの問題の中には線形近似によって解けるものもあるが、前述のペプチド合成結果のように非線形のままで取扱わざるを得ない場合も多い。非線形になると、求解に対する数学的困難が急激に増し、線形問題のように必ず解けるという保証はない。したがって解法にも万能の方法がなく、場合に応じていろいろな手法を用いなければならない。
【0111】
以下では、数理的な最適化手法として勾配法の一種である最急降下法(steepest-descent method)、および探索的な最適化手法としての解適応焼きなまし法(ASA:Adaptive Simulated Annealing)を例にとって説明する。
【0112】
数理的最適化手法
数理的最適化手法として評価関数の勾配ベクトルを用いる勾配法の中で、最も基本的な方法である最急降下法(steepest-descent method)を説明する。評価関数f(x1,x2,・・・,xn)の勾配ベクトルgは、
【0113】
【数10】
【0114】
(ただし、xnは各種の制約条件パラメータを示す。)
で求めることができる。
ここでgの方向は、fの変化率の最大の方向と一致するため、図19のように探索方向s(q)=-g(q)は最急降下の方向を示すベクトルである。図19の縦軸および横軸は各種制約条件パラメータであり、等高線は評価関数の値である。ここでステップ幅αを1以下にとり、
【0115】
【数11】
【0116】
として計算を進めて最適値を得ることができる。
しかし、最急降下法は、評価関数がひずんだ形状をもつ場合には収束しなくなることもある。
【0117】
図18のペプチド合成(試薬流量に対する収率)は、明らかに非線形性の結果を示している。本反応において極値は1つであり、制約条件(流量)もそれほど広範囲でないため、最適解を実験的に絨毯爆撃的に求めることは困難ではない。しかし、図18におけるペプチド合成反応においても試薬溶液の温度、濃度、流速、圧力等を可変させ、それぞれのパラメータが評価指針(収率、収量、および選択性等)に非線形に影響しあう場合には極値も複数存在する可能性が高い。またパラメータの増加に伴い、予備実験も膨大な数になるため絨毯爆撃的な手法と比較して、ここで説明したような数理的最適化手法を取り入れる効果は極めて大きい。
【0118】
さらに、上述のように非線形問題においては、万能な解法は存在しないため数理的最適化手法にはその他多くの手法が提案されている。本明細書に記載の制御法では、それぞれの化学反応に応じて好適な最適化手法を選定して対応することができる。参考までに代表的な数理的最適化手法の一覧を表2に示す。特に制約条件が多く各パラメータの範囲も広い場合には、最適条件選定の為に複数の数理的手法を組み合わせて用いれば好ましい。
【0119】
【表2】
【0120】
探索的最適化手法
非線形問題における最適化の際に困難な点の1つは、図20に示すように評価関数の極値が1つとは限らず、いくつもの山(あるいは谷)が存在することである。これらはそれぞれ局所最適値(local optimum)であって、必ずしも大域的最適値(global optimum)、つまり真の最適値とは一致しない。このようなことは評価関数の性質のほかに制約条件式、あるいはその両者の性質に伴っていくらでもおこる。局所最適値に陥らずに大域的最適値を求める方法として、本制御では探索的な最適化手法を用いても良い。
【0121】
ここでは代表的な探索的最適化手法として、解適応焼きなまし法(ASA:Adaptive Simulated Annealing)を例にとって説明する。
本手法は金属の焼きなまし(ゆっくり冷やすことは、高い状態にあった各分子エネルギは、一様に低い状態に落ち着く)をモデルとするアルゴリズムである。ASAによる収束のイメージを図21に示す。図21の縦軸は評価関数の値、および横軸は制約条件のパラメータ。ここで図21の例では、評価関数の値がより小さいものを最適値とする。先ず初期値から最適化を開始する。最適化探索の初期段階では、局所最適値を脱し得るだけのエネルギを与えておき、部分的には解の改悪を許して探索を進める。こうすることによって解の多様性を生み出し、大域探索を可能とする。探索を進めるにしたがって、エネルギを下げる。そうすることによって探索の最終段階では、大域的最適値付近で他の極値へ移動することも無く最適値を得ることが可能となる。
【0122】
探索的手法では、探索に用いる際の各種条件(初期値、およびエネルギの減少具合等)を化学反応ごとに好適に調整する必要があるが、局所的最適値を求めて最適化完了といった錯誤を防ぐことができる。ASA以外の探索的最適化手法として、GA(遺伝的アルゴリズム)などを用いても良い。
【0123】
画一的な最適化手法ばかりを用いている場合には、「収率は極端に高いが、収量が極めて低い」、「収量や収率は高いのだが、非常な高圧条件下でありランニングコストが高い。危険である。」等の、実際のマイクロリアクター運用に適さないような条件が得られる場合もありうる。これらの問題を回避するためには「収率、収量、および選択性は各々この範囲程度で、その範囲において最も好適な運転条件は?」といった、実際の運用に適した最適化(多目的最適化)が求められる。多目的最適化のためには画一的な最適化手法に固執すべきではなく、それぞれの化学反応に応じて複数の数理的手法と探索的手法を組み合わせれば、より好ましい結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】典型的な反応系における反応原理を説明するための線図である。
【図2】本実施形態のシステムの概略構成を示す模式図である。
【図3】本実施形態のシステムによる調整方法を説明するための仮想データを示す線図である。
【図4】本実施形態のシステムによる調整方法を説明するための別の仮想データを示す線図である。
【図5】実施例に係るポリスチレン重合反応の評価関数Qx2の応答曲線を示す図である。
【図6】実施例に係るQx2の最適点探索経路を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態のマイクロリアクションシステムを示す図である。
【図8】図7のマイクロリアクションシステムの、(a)はマイクロチャンネルチップの平面図、(b)は(a)におけるA−A矢視図、(c)は変形例のマイクロチャンネルチップのA−A矢視図である。
【図9】図7のマイクロリアクションシステムの使用の際の成分測定結果の例を示すグラフである。
【図10】図7のマイクロリアクションシステムの熱媒体の流れを示す例である。
【図11】図7のマイクロリアクションシステムの熱媒体の流れを示す他の例である。
【図12】本発明の第2の実施の形態のマイクロリアクションシステムを示す図である。
【図13】第2の実施の形態のマイクロリアクションシステムにおけるレーザー光の照射方法の例を示す図である。
【図14】第2の実施の形態のマイクロリアクションシステムにおけるレーザー光の照射方法の他の例を示す図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態のマイクロリアクションシステムを示す図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態のマイクロリアクションシステムの変形例を示す図である。
【図17】化学反応の際の粒子のエネルギー分布と反応の進行の関係を示すグラフである。
【図18】マイクロリアクターを用いたペプチド合成反応結果の一例を示す図である。
【図19】数理的最適化手法としての最急降下法によるイメージを示す図である。
【図20】評価関数が複数の極値を持つ例を示す図である。
【図21】探索的最適化手法としての解適応焼きなまし法による収束のイメージを示す図である。
【符号の説明】
【0125】
図1〜図6
A,B 試薬溶液
C 生成物
1 マイクロチャンネルチップ
1a,1b 試薬溶液を導入するための微小流路
1c 接合した微小流路
2 分析手段
3 制御手段
図7〜図16
10 マイクロチャネルチップ
12A,12B 原料流路
14 混合・反応流路
18a,18b,18c 並列熱媒体流路
18A 並列熱媒体流路
20 成分測定装置
30,40 温度調整機構
32 熱媒体管路
34,34a,34b,34c 熱媒体源
36,36a,36b,36c ポンプ
44 レーザー光照射装置
50 制御装置
Ts1−Ts9 温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの微小流路が接合してなる微小反応流路を有するマイクロチャンネルチップの反応制御システムであって、
前記微小反応流路内で合流した試薬溶液間の反応により生じた生成物を分析するための分析手段;および
該分析手段から得られた分析結果に基づいて前記微小反応流路内での反応に関与する条件を制御する制御手段;
を含むマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項2】
前記制御手段が、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力を制御可能である、請求項1のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項3】
前記制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度および/または周辺気圧に基づいて、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力を制御可能である、請求項2のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項4】
前記分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比を測定可能である、請求項1〜3のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項5】
前記分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の少なくとも1つの成分量を測定可能である、請求項1〜4のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項6】
前記制御手段が、前記マイクロチャンネルチップの温度および前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比または成分量を常時もしくは一定時間モニタリングし、該モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である、請求項1〜5のいずれか1項のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項7】
前記制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度、周辺気圧、および前記微小流路内の圧力を常時もしくは一定時間モニタリングし、モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である、請求項6のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項8】
前記微小反応流路の所定長さ部分に並列する熱媒体流路が設けられており、該熱媒体流路内に送られる熱媒体を介して反応領域の温度調整が行われる、請求項1〜7のいずれか1項のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項9】
前記熱媒体流路は、前記微小反応流路と同軸の二重管構造に形成されている、請求項8のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項10】
前記熱媒体流路は、前記微小反応流路に沿って複数設けられている、請求項8または9のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項11】
前記微小反応流路に温度センサが設けられている、 請求項8〜10のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項12】
前記温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含む、請求項11のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項13】
前記分析手段は、クロマトグラフィー装置を含む、請求項8〜12のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項14】
前記制御手段は、前記分析手段および温度センサの出力に基づいて、前記熱媒体流路に熱媒体を送る熱媒体送液手段の動作を制御可能である、請求項8〜13のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項15】
前記制御手段は、前記複数の熱媒体流路の温度を独立に調整可能である、 請求項14のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項16】
前記微小反応流路にレーザー光を照射することにより反応領域の温度調整を行う温度調整装置が設けられている、請求項1〜7のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項17】
前記微小反応流路に温度センサが設けられている、 請求項16のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項18】
前記温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含む、請求項17のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項19】
前記制御手段は、前記レーザー光の出力を増減することかつ/または前記レーザー光の焦点距離を可変することにより反応領域の温度調整を行う、請求項16〜18のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項20】
前記温度調整装置は、前記マイクロチャネルチップ内の複数の領域にレーザー光を照射可能である、請求項16〜19のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項21】
請求項8〜15のいずれかの構成を更に含む、請求項16〜20のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルリアクションシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける物質生産のための原料化合物間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルリアクションシステム。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルアナリシスシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける試薬化合物と被検化合物との間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルアナリシスシステム。
【請求項1】
試薬溶液を導入するための少なくとも2つの微小流路および該少なくとも2つの微小流路が接合してなる微小反応流路を有するマイクロチャンネルチップの反応制御システムであって、
前記微小反応流路内で合流した試薬溶液間の反応により生じた生成物を分析するための分析手段;および
該分析手段から得られた分析結果に基づいて前記微小反応流路内での反応に関与する条件を制御する制御手段;
を含むマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項2】
前記制御手段が、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力を制御可能である、請求項1のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項3】
前記制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度および/または周辺気圧に基づいて、前記微小流路内および/または微小反応流路内における各試薬溶液の流量、濃度、温度および/または圧力を制御可能である、請求項2のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項4】
前記分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比を測定可能である、請求項1〜3のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項5】
前記分析手段が、前記微小反応流路内で生じた生成物中の少なくとも1つの成分量を測定可能である、請求項1〜4のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項6】
前記制御手段が、前記マイクロチャンネルチップの温度および前記微小反応流路内で生じた生成物中の成分比または成分量を常時もしくは一定時間モニタリングし、該モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である、請求項1〜5のいずれか1項のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項7】
前記制御手段が、さらに前記マイクロチャンネルチップの周辺温度、周辺気圧、および前記微小流路内の圧力を常時もしくは一定時間モニタリングし、モニタリング結果を随時フィードバックすることにより、前記マイクロチャンネルチップの温度、各試薬溶液の流量および/または濃度を制御可能である、請求項6のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項8】
前記微小反応流路の所定長さ部分に並列する熱媒体流路が設けられており、該熱媒体流路内に送られる熱媒体を介して反応領域の温度調整が行われる、請求項1〜7のいずれか1項のマイクロチャンネルチップ反応制御システム。
【請求項9】
前記熱媒体流路は、前記微小反応流路と同軸の二重管構造に形成されている、請求項8のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項10】
前記熱媒体流路は、前記微小反応流路に沿って複数設けられている、請求項8または9のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項11】
前記微小反応流路に温度センサが設けられている、 請求項8〜10のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項12】
前記温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含む、請求項11のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項13】
前記分析手段は、クロマトグラフィー装置を含む、請求項8〜12のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項14】
前記制御手段は、前記分析手段および温度センサの出力に基づいて、前記熱媒体流路に熱媒体を送る熱媒体送液手段の動作を制御可能である、請求項8〜13のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項15】
前記制御手段は、前記複数の熱媒体流路の温度を独立に調整可能である、 請求項14のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項16】
前記微小反応流路にレーザー光を照射することにより反応領域の温度調整を行う温度調整装置が設けられている、請求項1〜7のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項17】
前記微小反応流路に温度センサが設けられている、 請求項16のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項18】
前記温度センサは、測温抵抗体または熱電対を含む、請求項17のマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項19】
前記制御手段は、前記レーザー光の出力を増減することかつ/または前記レーザー光の焦点距離を可変することにより反応領域の温度調整を行う、請求項16〜18のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項20】
前記温度調整装置は、前記マイクロチャネルチップ内の複数の領域にレーザー光を照射可能である、請求項16〜19のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項21】
請求項8〜15のいずれかの構成を更に含む、請求項16〜20のいずれかのマイクロチャネルチップ反応制御システム。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルリアクションシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける物質生産のための原料化合物間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルリアクションシステム。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれかのマイクロチャンネルチップ反応制御システムを含むマイクロトータルアナリシスシステムであって、前記マイクロチャンネルチップにおける試薬化合物と被検化合物との間の反応条件を制御可能であるマイクロトータルアナリシスシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−145516(P2006−145516A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205689(P2005−205689)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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