説明

マイクロポンプ、及び、マイクロポンプを備える流体移送デバイス

【課題】 流体の定量移送が可能であり、移送流体が滞留しにくく、移送力が大きく、小型化が可能であり、操作及び製造が容易であり、これら総ての性能条件を満たすマイクロポンプ、及び、このマイクロポンプを利用した流体移送デバイスを提案する。
【解決手段】 流路1と、当該流路1の上流側及び下流側に設けられる一対の弁B1,B2とを備え、上流側の弁B1は、第1の隔膜6aにより当該流路と仕切られる第1の空間3aと、第1の隔膜6aの引き上げ及び押し下げを制御する制御手段4と、第1の隔膜6aの離接により当該流路1を開閉する流路内壁面の第1の突起3aとを備え、第1の空間3aは突起2aよりも下流側に及んでおり、
下流側の弁B2は、第2の隔膜6bにより当該流路と仕切られる第2の空間3bと、第2の隔膜6bの離接により流路1を開閉する流路内壁面の第2の突起2bとを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロデバイス上で微量な試料を用いて化学分析や化学反応を行う際に、微量な試料の流れを制御するために用いられるマイクロポンプ、及び、そのマイクロポンプを用いた流体移送デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学分析に必要な試料の前処理、試薬との反応、後処理、分離分析、検出などの一連の単位操作を、流路によりつながれた1枚の基板上の微小素子により連続的に行うマイクロデバイスの開発が積極的に行われている。このマイクロデバイスは装置の小型化のみならず、試薬の節約や廃液の削減、分析の高速化、低価格化、ディスポーザブル化、マイクロセンサや信号処理回路の集積化などに適するため、オンサイト分析、環境モニタリング、ベッドサイド診断などの新しい技術として期待されている。
【0003】
マイクロデバイス上に形成された流路に移送流体を流す流体駆動装置としては、電気浸透流ポンプ,ピエゾアクチュエータポンプ,ぜん動運動ポンプ,逆止弁ポンプなどが用いられており、これらはマイクロポンプと呼ばれている。
【0004】
たとえば、下記非特許文献1には、ぜん動運動ポンプの一例が開示されている。図7(a)は非特許文献1のぜん動運動ポンプの流路や通気路の位置を説明する説明図であり、(b)はその断面により動作を説明する説明図である。このぜん動運動ポンプは、下層に流路1が形成され、上層に流路1に交差するように上流から順に三つの通気路20a,20b,20cが形成され、流路1と通気路20a,20b,20cとの間には弾性体が介在する構成となっている。各通気路に気体を送り圧力を上げることにより弾性体を押し下げ、各通気路の箇所において流路1を遮断可能となっている。上流の通気路20aと下流の通気路20cが弁の機能を果たし、中流の通気路20bがダイアフラムの機能を果たす。移送流体の移送に際しては、次の操作を行う。1.上流の通気路20aの空圧を上げて流路を遮断し、中流及び下流の通気路20b,20cの空圧を下げて流路1を開放する。2.中流の通気路20bの空圧を上げて流路1を押し下げ、体積変化分だけの移送流体を移送する。3.下流の通気路20cの空圧を上げて流路を押し下げ、体積変化分だけの移送流体を移送する。4.上流及び中流の通気路20a,20bの空圧を下げて流路を開放し、移送流体の流入を促す。
【非特許文献1】FLEXIBLE METHODS FOR MICROFLUDICS,George M.Whitesides and Abraham D.Stroock,JUNE 2001,PHYSICS TODAY,P42−P47
【0005】
下記特許文献1には、電気浸透流ポンプの一例が開示されている。図8は、特許文献1の電気浸透流ポンプを示す図である。この電気浸透流ポンプは、二つの送液槽30に入れられた溶液中に各々電極31を浸漬させ、電気浸透流によりキャピラリー管32内の流体を移送するというものである。
【特許文献1】特開2003−279536
【0006】
下記特許文献2には、逆止弁ポンプの一例が開示されている。図9は、非特許文献3の逆止弁ポンプを示す図である。この逆止弁ポンプは、メサ40とダイアフラム41を有し、アクチュエータ42によってダイアフラム41を可動させて逆止弁を開閉させるものである。ダイアフラム41を押し下げると流体が導入口から流入して機密空間に溜まり、押し上げると流体が導出口から流出する。
【特許文献2】特開平11−257233
【0007】
下記特許文献3には、アクチュエータポンプの一例が開示されている。図10は、特許文献3のアクチュエータポンプを示す図である。このアクチュエータポンプは、複数のアクチュエータ50が流路を挟んで対向配置されている。対応配置されたアクチュエータを伸張させることにより流路を遮断し、収縮させることにより流路を開放可能となっている。流体の移送に際しては、上流側から下流側に向かって順にアクチュエータを収縮・伸張させて流路を開放・遮断することにより、流路を顫動運動させて移送流体の移送を行う。
【特許文献3】特開2004−316445号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかるマイクロポンプに要求される性能条件としては次のものが挙げられる。1.定量移送が可能。2.移送流体の滞留量が小さい。3.移送力が大きい。4.小型化が可能である。5.製造が容易である。6.操作が容易である。しかしながら、上記従来の各種マイクロポンプには各々に欠点があり、いずれのマイクロポンプも上記性能条件の総てを満たすものではない。
【0009】
上記ぜん動運動ポンプは、逆止弁としての機能を果たす上流と下流の二つの通気路と、ダイアフラムとしての機能を果たす中流の通気路の、三つの通気路20a,20b,20cの空圧をタイミング良く制御する必要があるため、操作が煩雑である。また、三つの通気路を形成する必要があり、小型化にも適さない。また、下流側の通気路20cが開閉するときに、出口側の下流の移送流体が移動するため、移送流体の不要な排出や引き込み等が起こり、問題になることがある。
【0010】
上記電気浸透流ポンプは、駆動に高電圧を必要とする。また、電気浸透流による移送流体の移動であるため、定量移送が困難であり、移送力も小さい。
【0011】
上記逆止弁ポンプは構造が複雑であるため製造が困難で、小型化にも不適である。また、上記逆止弁ポンプはメサ40の周りに隙間を有する構造である。この隙間には上流側や下流側から移送流体が流入し、その量も不安定であるため、移送量に影響を及ぼす。また、隙間に流入した移送流体は移送されることなく滞留し、経時的変化を起こすなどの問題が生じる場合がある。
【0012】
上記アクチュエータポンプは、複数のアクチュエータ50を精度良く配置する複雑な構成であり、製造が困難で、小型化にも不向きである。また、駆動に際しては、複数のアクチュエータ50の動作を制御する必要があり操作が煩雑である。
【0013】
そこで本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、1.流体の定量移送が可能であり、2.製造が容易であり、3.移送流体が滞留しにくく、4.移送力が大きく、5.小型化が可能であり、6.操作が容易であり、これら総ての性能条件を満たすことが可能なマイクロポンプ、及び、このマイクロポンプを利用した流体移送デバイスを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明のマイクロポンプは、流路と、当該流路の上流側及び下流側に設けられる一対の弁とを備え、前記上流側の弁は、第1の隔膜により当該流路と仕切られる第1の空間と、当該第1の隔膜の引き上げ及び押し下げを制御する制御手段と、当該第1の隔膜の離接により当該流路を開閉する流路内壁面の第1の突起とを備え、当該第1の空間は当該突起よりも下流側に及んでおり、
当該下流側の弁は、第2の隔膜により当該流路と仕切られる第2の空間と、当該第2の隔膜の離接により当該流路を開閉する流路内壁面の第2の突起とを備えることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、下流側の弁が第2の隔膜と第2の突起とを接触させて流路を閉塞した状態のまま、上流側の弁が制御手段により第1の隔膜を第1の空間の側に引き上げて流路を広げると、第1の隔膜と第1の突起が離れて上流側の弁が開き、流路の減圧により第2の隔膜が引き下げられ下流側の弁が開きにくくなり、広げられた流路空間に移送流体が上流側から流入する。つぎに、上流側の弁が制御手段により第1の隔膜を流路側に押し下げると、第1の隔膜と第1の突起とが接触して移送流路を閉塞するとともに、流路が狭窄されて流路体積が変化する。第1の隔膜には制御手段により押し下げる力が働いているため、上流側の弁は下流側の弁に比較して開きにくく、下流側の弁は上流側の弁に比べて開きやすい状態となる。体積変化分の移送流体は、下流側の第2の隔膜を第2の空間側に押し上げ、下流側の第2の隔膜と第2の突起との間に生じた隙間から移送流体が押し出される。体積変化分の移送流体の押し出しが終了すると、下流側の第2の隔膜の変形が戻って第2の突起に接触し、流路が閉塞される。上流側の弁の第1の隔膜を引き上げ・押し下げる1サイクルの制御のみで、体積変化分の定量の移送流体を移送することができる。移送流体が滞留するスペースもなく、滞留した移送流体による問題も生じない。多数の通気路やアクチュエータ等も不要であり、簡単な構成で実現可能である。体積変化分の移送流体が隔膜により強制的に押し出されるため、電気浸透流ポンプ等と比較して移送力も大きい。従来のぜん動運動ポンプのような下流側の弁の動作による移送流体の不要な排出や引き込みも起こらない。
【0016】
前記上流側の弁の制御手段は、前記第1の空間に連通して第1の空間への駆動流体の供給と排出を行う供給排出路であることが好ましい。これによれば、供給排出路からの減圧により第1の空間から駆動流体を排出すると第1の隔膜が引き上げられ、供給排出路からの加圧により駆動流体を供給すると隔膜が押し下げられる。したがって、供給排出路からの減圧・加圧による第1の空間への駆動流体の供給と排出という簡単な制御により、移送流体の移送が可能となる。また、第1の隔膜の制御が供給排出路を設ける簡単な構成で実現できる。
【0017】
前記上流側の弁の第1の空間は、上流側が幅狭であり、下流側が幅広であることが好ましい。これによれば、第1の隔膜の元の平坦な状態に戻ろうとする力が幅狭の部分では幅広の部分よりもより強いため、第1の隔膜が引き上げられた状態から押し下げたときに、上流側から下流側に向かって序々に押し下げられ、上流側の弁を閉じる。これにより移送流体を確実に移送方向に移送することができる。
【0018】
前記下流側の弁の第2の空間は、上流側が幅広であり、下流側が幅狭であることが好ましい。これによれば、第2の隔膜を移送流体の圧力により押し上げると、幅広側が押し上げやすく、幅狭側が押し上げにくいため、上流側から下流側に向かって序々に押し上げられやすくなっており、移送流体を確実に移送方向に移送することができる。また、第2の隔膜が押し上げられた状態から元の平坦な状態に引き下げると、幅狭側が引き下げられやすく、幅広側が引き下げられにくいため、下流側から上流側に序々に引き下げられ、下流側の弁を閉じる際に移送流体が余分に移送されるのを防止することができる。
【0019】
前記下流側の弁には、第2の空間に連通して第2の空間内の流体の供給と排出が可能な供給排出路が設けられていることが好ましい。これによれば、移送流体が下流側の弁の第2の隔膜を押し上げると、第2の空間内の流体が供給排出路を通って排出される。この排出により第2の隔膜の押し上げに必要な圧力を軽減でき、下流側の弁による下流方向への移送流体の移送が円滑に行われる。さらに、この供給排出路を減圧する減圧機構を設けることが好ましい。この減圧により強制的に下流側の弁を開くことができ、上流側の弁の減圧と組み合わせれば流路をスルー状態(全開の状態)にできる。
【0020】
二枚の基板が重ね合わせられ、一方の基板の対向面には前記流路となる凹部と前記両突起が設けられており、他方の基板の対向面には前記両空間となる凹部が設けられており、両基板の間には前記隔膜となる薄膜が配されていることが好ましい。これによれば、流路となる凹部が形成された基板と、空間となる凹部が形成された基板とを、凹部が形成された面を対向させて両基板を重ね合わせ、その間に薄膜を配するという簡単な構成とすることができる。
【0021】
本発明の流体移送デバイスは、本流路と、当該本流路から分岐するように設けられる一つ以上の分岐路とを備え、各分岐路には前記請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のマイクロポンプが接続されることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、本流路に第1の流体を流しながら、マイクロポンプにより移送流体として第2の流体を移送すると、第2の流体は分岐路から本流路に排出される。これにより、本流路に流れる第1の流体を第2の流体で分離したり、第1の流体に第2の流体を混合することができる。また、本流路に第1の流体を流しながら、マイクロポンプを吸入動作させると、第1の流体を分取することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロポンプによれば、上流の第1の隔膜の引き上げと押し下げの制御により、流路が狭窄されて常に体積変化分の流体が移送されるため、簡単な制御での定量移送が可能である。従来のように複雑な構造の逆止弁等も不要であり、構成が簡単で、小型化にも適する。移送流体が滞留するスペースもなく、滞留移送流体による成分変化等の問題も生じない。第1の隔膜の引き上げと押し下げの1サイクルの操作で1回の排出が可能であり、従来のぜん動運動ポンプのように不要な排出が起こることもない。第1の弁は隔膜の変形により強制的に移送流体を排出するため、移送力も大きい。とくに、基板間に薄膜を挟んで二枚の基板の張り合わることにより製造可能であり、容易に製造することができる。
【0024】
また、本発明の流体移送デバイスによれば、本流路に流れる流体とポンプにより供給する流体とを異ならせることにより、本流路を流れる流体をマイクロポンプからの流体により確実に分割したり、一定量の流体を混合したりできる。また、本流路に流れる流体をマイクロポンプにより吸入すれば、一定量の流体を分取することも可能である。いずれも本発明のマイクロポンプと本流路とを結合するだけであるため構成が簡単であり、製造が容易で且つ小型化にも適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るマイクロポンプP及びそのマイクロポンプを利用した流体移送デバイスDについて詳細に説明する。
【0026】
図1(a)はマイクロポンプPの流路や空間を説明する説明図であり、(b)は本発明のマイクロポンプPの断面図である。なお、説明の便宜上、(b)断面図には供給排出路4,5が基板の厚み方向に示されているが、本来は(a)に記載のように、基板面に沿って設けられている。マイクロポンプPは、二枚の基板L1,L3の間に弾性を有する薄膜L2が配された三層構造となっており、薄膜L2と基板L1の間に流路1が形成され、流路1の途中に上流側の弁B1と下流側の弁B2の一対の弁が形成されている。
【0027】
図2(a)は、一方の基板L1の上面図である。一方の基板L1の上面(他方の基板L3との対向面)には、流路1となる三つの凹部1a,1b,1cが流れ方向に直線状に並べられ、互いに間隔をあけて形成されている。上流側となる凹部1aと下流側となる凹部1cは一定幅と一定深さの溝である。凹部1aと凹部1cとの間に形成される凹部1bは他の凹部1a,1cと同一深さ及び同一幅であっても良いが、図4に示すように、幅広になっていることが好ましい。凹部1a,1bの下流側の端部は先端が尖形となっている。凹部1a,1b,1cの間の部分が、流路1の内壁面から突出する第1の突起2a及び第2の突起2bとなる。
【0028】
図2(b)は、他方の基板L3の上面図である。他方の基板L3の上面(対向面)には、上流側の弁B1の第1の空間3aとなる凹部と、下流側の弁B2の第2の空間3bとなる凹部とが形成されている。第1の空間3aとなる凹部は、流路1となる凹部1a,1b,1cよりも幅広であり、流路1に沿って細長く、下流側が幅広であり、上流側が序々に幅狭(尖形)となっている。上流側の弁B1の第1の空間3aとなる凹部に連通するように、駆動流体の供給排出路4となる凹部が形成されている。下流側の弁B2の第2の空間3bとなる凹部は、上流側の弁B1の第1の空間3aと同一幅及び同一高さであり、上流側が幅広であり下流側に向かって序々に幅狭となっている。本実施の形態では、一の頂点が流路に重ねられ、その頂点と対向する辺が流路に略直交するような略三角形状に形成されているが、略三角形状に限るものではない。下流側の弁B2の第2の空間3bとなる凹部に連通するように、第2の空間3b内の流体の排出と供給を行う供給排出路5となる凹部が形成されている。なお、第2の空間3bに連通する供給排出路5は備えなくとも良いが、備えることにより、流路1をスルー状態にすることができるなどの付加的な効果が得られる。
【0029】
マイクロポンプPは、両基板L1,L3を凹部が形成された面を対向させ、間に弾性を有する薄膜L2を配置して重ね合わせた三層構造となっている。図1(a)に示すように、一方の基板L1の凹部と薄膜L2とにより流路1が形成され、流路1の途中には上流側の弁B1と下流側の弁B2の一対の弁が形成される。
【0030】
上流側の弁B1は、上流側において流路1の一部を広げるように設けられた第1の空間3aと、第1の空間3aと流路1とを仕切る第1の隔膜6aと、第1の空間3aに駆動流体の供給と排出を行う供給排出路4と、第1の隔膜3aの離接により流路1を開閉する流路内壁面の第1の突起2aとを備える。第1の空間3aと供給排出路4は、他方の基板L3に設けられた凹部により形成されている。第1の空間3aは流路1よりも幅広であり、上流側が序々に幅狭(尖形)になっている。第1の空間3aの上流側端部は第1の突起2aよりも上流側におよび、下流側端部は突起2aよりも下流側に及んでおり、下流側端部は第2の空間3bに近接している。第1の隔膜6aは中間層として配される薄膜L2により形成されている。突起2aは一方の基板L1に設けられた流路1となる凹部1aと凹部1bの間の部分により形成される凸部分であり、流路1の深さと同じ高さを有し、先端が第1の隔膜6aと当接している。
【0031】
下流側の弁B2は、下流側において流路1の一部を広げるように設けられた第2の空間3bと、第2の空間3bと流路1とを仕切る第2の隔膜2bと、第2の隔膜3bの離接により流路1を開閉する流路内壁面の第2の突起2bとを備える。さらに、第2の空間3bに連通して第2の空間3b内の流体の供給と排出を行う供給排出路5が設けられていることが好ましい。第2の空間3bと供給排出路5は、他方の基板L3に設けられる凹部により形成されている。第2の空間3bは流路1よりも幅広であり、上流側が幅広で下流側が序々に幅狭(三角形)になっている。第2の空間3bの上流側端部は突起2bよりも上流側に及び、下流側端部は突起2bよりも下流側に及んでいる。第2の隔膜6bは中間層として配される薄膜L2により形成されている。第2の突起2bは一方の基板L1に設けられた流路1となる凹部1bと凹部1cの間の部分により形成される凸部であり、流路1の深さと同じ高さを有し、先端が隔膜6bに当接している。
【0032】
つぎに、マイクロポンプPの動作説明を行う。移送流体として水、駆動流体として空気を用いた場合を説明する。図3は、マイクロポンプPの動作を説明する説明図である。上流側の弁の供給排出路4は、吸気と排気により加圧減圧を行う手段(図示せず)が連結されて使用される。図3(a)に、上流側の供給排出路4からの減圧及び加圧を行っていない初期状態を示す。上流側及び下流側の弁B1,B2は突起2a,2bと隔膜6a,6bとが各々接触して閉じた状態であり、各弁B1,B2により流路1が閉塞されている。
【0033】
流体を移送する場合は、図3(b)に示すように、上流側の供給排出路4から駆動流体を吸引して減圧操作を行う。第1の空間3a内から駆動流体が排出され、第1の隔膜6aが第1の空間3a側に引き上げられる。第1の隔膜6aと第1の突起2aが離れて上流側の弁B1が開き、流路1の減圧により第2の隔膜6bが引き下げられ下流側の弁B2が開きにくくなり、広げられた流路空間に移送流体が上流側から流入する。
【0034】
つぎに、図3(c)に示すように、上流側の供給排出路4から駆動流体を供給して加圧を行う。第1の空間3a内に駆動流体が供給され、第1の隔膜6aが流路1側に押し下げられる。第1の突起2aと第1の隔膜6aとが接触して上流側の弁B1が閉じるとともに、流路1が狭窄されて流路1の体積が変化する。第1の隔膜6aには供給排出路4からの加圧により押し下げる力が働いているため、上流側の弁B1は下流側の弁B2に比較して開きにくく、下流側の弁B2は上流側の弁B1に比べて開きやすくなっている。そして、体積変化分の移送流体が下流側の弁B2の第2の隔膜6bを押し上げ、第2の突起2bと第2の隔膜6bとの間に隙間を形成しながら下流方向に移送される。移送流体が体積変化分だけ押し出されると、下流側の第2の隔膜6bに対する押し上げが解除され、第2の隔膜6bがフラットに戻って突起2bに接触し、下流側の弁B2が閉じる。
【0035】
このマイクロポンプPによれば、上流側の弁B1の第1の隔膜6aの引き上げ・押し下げの制御だけで、流路1内の移送流体を移送することができる。引き上げ・押し下げの1サイクルによる移送量は、常に第1の隔膜6aの変形による体積変化分であり、定量移送が可能である。体積変化分の移送流体が第1の隔膜6aにより強制的に押し出されるため、電気浸透流ポンプ等と比較して移送力も大きい。従来のぜん動運動ポンプのような下流側の弁の動作による移送流体の不要な排出や引き込みも起こらない。
【0036】
ここで、上流側の弁B1の第1の空間3aは、本実施の形態のように、上流側が幅狭であり、下流側が幅広とすることが望ましい。第1の隔膜6aの元の平坦な状態に戻ろうとする力が幅狭の部分では幅広の部分よりもより強いため、第1の隔膜6aが引き上げられた状態(図3(b))から押し下げたとき(図3(c))に、上流側から下流側に向かって序々に押し下げられ、上流側の弁を閉じる。これにより、移送流体を上流から下流へ移送することができる。
【0037】
また、下流側の弁B2の第2の空間3bは、本実施の形態のように、上流側が幅広であり、下流側が幅狭であることが望ましい。第2の隔膜6bを移送流体の圧力により押し上げると(図3(c))、幅広側が押し上げやすく、幅狭側が押し上げにくいため、上流側から下流側に向かって序々に押し上げられやすくなっており、移送流体を確実に移送方向に移送することができる。また、第2の隔膜6bが押し上げられた状態(図3(c))から元の平坦な状態に引き下げると(図3(a)(b))、幅狭側が引き下げられやすく、幅広側が引き下げられにくいため、下流側から上流側に序々に引き下げられ、下流側の弁を閉じる際に移送流体が余分に移送されるのを防止することができる。
【0038】
下流側の弁B2に連通して供給排出路5を設けることが好ましく、これにより、移送流体が下流側の弁B2の第2の隔膜6bを押し上げると、第2の空間3b内の流体が供給排出路5を通って排出される。この排出により第2の隔膜6bの押し上げに必要な圧力を軽減でき、下流側の弁B2による下流方向への移送流体の移送が円滑に行われる。さらに、この供給排出路5を減圧する減圧機構を設けることが好ましい。この減圧により強制的に下流側の弁B2を開くことができ、上流側の弁B1の減圧と組み合わせればポンプ部をスルーの状態にできる。
【0039】
また、移送流体が長期間滞留すると、滞留した移送流体が成分変化をおこしたり、滞留する移送流体の移動により移送量が不安定となるといった問題が生じるが、マイクロポンプPによれば、隔膜6a,6bは、流路側に押し下げられると、基板L1の対向面(流路1を除く)に隙間なく密着し、移送流体が滞留するスペースもなく、滞留した移送流体による問題が生じることもない。凹部を形成した基板と薄膜とを重ねる簡単な構成であり、小型化及び低コスト化が可能である。
【0040】
なお、移送流体や駆動流体は上記水や空気に限らず、他の流体であっても良い。また、移送流体は、流体に細胞などの固体が混合されたものであっても良い。また、本実施の形態では、制御手段として、上流側の弁B1の第1の空間3aに駆動流体を供給・排気する供給排気路4を例に説明したが、第1の隔膜2aを引き上げ・押し下げる制御が行えるものであればよく、これに限るものではない。たとえば、第1の空間3aを閉塞空間とし、加熱により体積が膨張する気体や液体を封入し、加熱温度や時間により第1の隔膜3aの引き上げ・押し下げを制御しても良い。
【0041】
第1の空間3aと流路1の重なった部分の体積(第1の隔膜6aの引き上げと押し下げによる流路1の体積変化分の量)が一サイクルあたりの吐出量となるため、望みの吐出量に合わせて、流路1の体積や第1の空間3aの体積を増減することにより、吐出量が調整可能である。たとえば、上記流路1は一定幅であるが、第1の突起2aと第2の突起2bの間を他の部分よりも幅広に形成しても良い。図4は、他の例を示す図である。流路1は、第1の突起2aと第2の突起2bとの間において、第1の空間3aと重なる領域が幅広となっている。その幅は第1の空間3aと同じである。中央央付近を幅広とすることにより、吐出量を増加させ、上流側の弁B1による流体の押し出しの圧力を大きくし、下流側の弁B2の第2の隔膜の押し上げによる流体の通過を円滑にすることができる。流路1の幅のほか、流路1や空間の深さにより体積を増減させても良い。また、両空間3aは、上記のような三角形や五角形などの幅広・幅狭に加工された形状が好ましいが、四角形状や他の形状でも良い。
【0042】
つぎに、マイクロポンプPの製造方法について説明する。図5は、マイクロポンプPの製造工程を説明する説明図である。一方の基板L1は次のように製造する。(L1−a)Siウエハーに有機感光剤(化薬マイクロケム社製SU−8)を所定の厚さでスピンコートし、(L1−b)光リソグラフィーにて流路1となる凹部1a,1b,1cを転写する。その後に、(L1−c)流路1が転写されたSiウエハー上に熱硬化性樹脂(PDMS:Polydimedhylsiloxane)を塗布して型取りを行い、(L1−d)型取りした熱硬化性樹脂を加熱して硬化させて基板L1とする。
【0043】
他方側の基板L1は次のように製造する。(L3−a)Siウエハーに有機感光剤(SU−8)を所定の厚さでスピンコートし、(L3−b)光リソグラフィーにて空間3a,3bと供給排出路4,5となる凹部を転写する。その後に、(L3−c)空間3a,3bとなる凹部が転写されたSiウエハー上に熱硬化樹脂(PDMS)を塗布して型取りを行い、(L3−d)型取りした熱硬化性樹脂を加熱して硬化させて基板L3とする。
【0044】
(L2−a)隔膜6a,6bとなる薄膜L2は次のように製造する。まず、シャーレに熱硬化性樹脂(PDMS)を入れてスピンコートし、(L2−b)加熱して硬化させ薄膜L2とする。
【0045】
こうして製造した一方の基板L1と他方の基板L3とを、各々凹部を形成した面が対向するようにし、流路1となる凹部と空間3a,3bとなる凹部とを位置合わせし、両基板L1,L3の間に薄膜L2配して、各々を接着する。接着は酸素プラズマ処理により行う。凹部を形成した二枚の基板L1,L3と一枚の薄膜L2を接着する簡単な工程により、マイクロポンプPを製造することができる。
【0046】
つぎに、マイクロポンプPを用いた流体移送デバイスDについて説明する。図6は、流体移送デバイスDを説明する説明図である。流体移送デバイスDは、サンプル入りの流体が流される本流路10と、本流路10から分岐するように設けられる複数(本実施の形態では三つ)の分岐路11a,11b,11cとを備え、各分岐路11a,11b,11cの途中にはマイクロポンプPa,Pb,Pcが接続されている。この送液デバイスは、各分岐路11a,11b,11cと本流路10との分岐点において各々異なる機能を有する。
【0047】
分岐路11aと本流路10との分岐点においては、本流路10に流れるサンプル入りの水をマイクロポンプPから排出されるオイルで分割する機能を有する。分岐路11aの分岐点よりも上流側に設けられたサンプル検出器12aがサンプルを検出すると、マイクロポンプPaが本流路10に定量のオイルを排出する。サンプルが検出されるたびに、本流路10に定量のオイルが排出されてサンプルとサンプルの間にオイルが注入され、サンプルごとに水が分割される。マイクロポンプPaは大きな移送力で常に一定量のオイルを排出可能であるため、サンプル入りの水をサンプルごとに確実に分割することができる。
【0048】
分岐路11bと本流路10との分岐点においては、本流路10に流れるサンプル入りの水にマイクロポンプPbから排出される試薬入りの水を混合する機能を有する。分岐路11bの分岐点よりも上流側に設けられた水検出器12bが水を検出するとマイクロポンプPbが本流路10に向かって試薬入りの水を移送する。水が検出されるたびに、マイクロポンプPbにより本流路10に試薬入りの水が移送され、分割された水ごとに一定量の試薬入りの水を確実に混合することができる。
【0049】
分岐路11cと本流路10との分岐点においてはマイクロポンプPcの吸引により本流路に流れるサンプル入りの水からサンプルを分取する機能を備える。分岐路11cの分岐点よりも上流側に設けられたサンプル検出器12cがサンプルを検出するとマイクロポンプPcが本流路10から本流路10に向かって減圧する。サンプルが検出されるたびに、マイクロポンプPcにより本流路10中のサンプルを分取することができる。
【0050】
この流体移送デバイスDを製造するときは、上記マイクロポンプPの一方の基板L1の対向面に、本流路10と各分岐路11a,11b,11cとなる凹部と、分岐路11a,11b,11cの途中にマイクロポンプPa,Pb,Pcの流路となる凹部を形成し、本流路10の分岐路11aの分岐点よりも上流側に本流路10に近接してサンプル検出器12aを埋め込み、分岐路11bの分岐点よりも上流側に本流路10に近接して水検出器12bを埋め込む。他方の基板L3にはマイクロポンプPa,Pb,Pcの空間や供給排出路となる凹部を形成し、互いに凹部が形成された面を対向させて位置合わせし、両基板L1,L3の間に隔膜となる薄膜L2を配して接着する。簡単な構成で分割や混合や分取などの様々な機能を有する流体移送デバイスを製造することができ、小型化及び低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)は本実施の形態のマイクロポンプの流路や供給排出路を説明する説明図であり、(b)はそのマイクロポンプの断面図である。
【図2】(a)は一方の基板の上面図であり、(b)は他方の基板の上面図である。
【図3】上記実施の形態のマイクロポンプの動作を説明する説明図である。
【図4】他の例のマイクロポンプの流路や供給排出路を説明する説明図である。
【図5】上記実施の形態のマイクロポンプの製造工程を説明する説明図である。
【図6】上記実施の形態のマイクロポンプを備える流体移送デバイスを示す概略図である。
【図7】従来のぜん動運動ポンプを説明する説明図である。
【図8】従来の電気浸透流ポンプを示す図である。
【図9】従来の逆止弁ポンプを示す図である。
【図10】従来のアクチュエータポンプを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
P,Pa,Pb,Pc マイクロポンプ
L1,L3 基板
L2 薄膜
B1 上流側の弁
B2 下流側の弁
1 流路
2a 上流側の弁の第1の突起
2b 下流側の弁の第2の突起
3a 上流側の弁の第1の空間
3b 下流側の弁の第2の空間
4 上流側の弁の供給排出路
5 下流側の弁の供給排出路
6a 上流側の弁の第1の隔膜
6b 下流側の弁の第2の隔膜
D 流体移送デバイス
10 本流路
11a,11b,11c 分岐路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、当該流路の上流側及び下流側に設けられる一対の弁とを備え、
前記上流側の弁は、第1の隔膜により当該流路と仕切られる第1の空間と、当該第1の隔膜の引き上げ及び押し下げを制御する制御手段と、当該第1の隔膜の離接により当該流路を開閉する流路内壁面の第1の突起とを備え、当該第1の空間は当該突起よりも下流側に及んでおり、
当該下流側の弁は、第2の隔膜により当該流路と仕切られる第2の空間と、当該第2の隔膜の離接により当該流路を開閉する流路内壁面の第2の突起とを備えることを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項2】
前記上流側の弁の制御手段は、前記第1の空間に連通して第1の空間への駆動流体の供給と排出を行う供給排出路であることを特徴とする請求項1記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
前記上流側の弁の第1の空間は、上流側が幅狭であり、下流側が幅広であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマイクロポンプ。
【請求項4】
前記下流側の弁の第2の空間は、上流側が幅広であり、下流側が幅狭であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項5】
前記下流側の弁には、前記第2の空間に連通して第2の空間内の流体の供給と排出が可能な供給排出路が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項6】
二枚の基板が重ね合わせられ、一方の基板の対向面には前記流路となる凹部と前記両突起が設けられており、他方の基板の対向面には前記両空間となる凹部が設けられており、両基板の間には前記隔膜となる薄膜が配されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項7】
本流路と、当該本流路から分岐するように設けられる一つ以上の分岐路とを備え、各分岐路には請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のマイクロポンプが接続されることを特徴とする流体移送デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−92694(P2007−92694A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285657(P2005−285657)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月29日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)春季 第52回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第0分冊、第3分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月23日 化学とマイクロ・ナノシステム研究会発行の「第11回 化学とマイクロ・ナノシステム研究会 講演予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月7日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)秋季 第66回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第0分冊、第3分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月28日 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学主催の「最新バイオ光学シーズ発表セミナー」において文書をもって発表
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】