説明

マイクロリアクタモジュール及びその製造方法

【課題】プレート積層型マイクロリアクタモジュールにおいて、流体の流路となるチャネル面積を大きくした場合でも、拡散接合によってプレート同士を強度良く接合できるものを提供する。
【解決手段】熱媒体循環ユニット100は、下部プレート10と、上部プレート20とが接合されて構成されている。下部プレート10の上面には、外周部12よりも内側の領域に、凹部13が形成されており、当該凹部13の底面から複数のリブ11が立設されている。上部プレート20の下面にも、外周部22よりも内側の領域に凹部23が形成されており、当該凹部23の底面から複数のリブ21が立設されている。下部プレート10と上部プレート20とは、外周部12と外周部22とが接触し、複数のリブ11の天面と複数のリブ21の天面とが接触した状態で積層され、接触した箇所で拡散接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタモジュール及びその製造方法に関し、特に、複数のプレートを積層して拡散接合することによって作製されるマイクロリアクタモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリアクタは、流路幅が数μm〜1mm程度のオーダーである微少な流路を有し、この流路に導かれた複数種類の流体を互いに接触させ、マイクロスケールの空間内で混合または化学反応を生混合、化学反応、分離などを行う装置であって、反応釜(フラスコ)を用いた従来のバッチ方式と比較して、有利な点を多く有する。
例えば、複数の流体の混合や化学反応を短時間且つ微量の試料で行えること、装置が小型であること、実験室レベルで生成物の製造技術を確立できればナンバリングアップを行うことで容易に量産用の設備ができること、爆発などの危険を伴う反応にも適用可能であること、多品種少量生産を必要とする化合物の生成などにも素早く適応できること、需要量に合わせた生産量の調整が容易にできることなどである。
【0003】
このため、マイクロリアクタは、化学工業や医薬品工業の分野で、流体の混合または反応を行い材料や製品を開発・製造するための好適な装置として注目され、近年、その研究開発が盛んに行われている。
なお、一般にその用途が混合である場合はマイクロミキサと呼び、化学反応である場合はマイクロリアクタと呼び、熱交換器をマイクロ熱交換器と呼ぶが、本願では総称してマイクロリアクタと呼称記載する。
【0004】
このようなマイクロリアクタの構造の一つとして、従来からプレートタイプのものが好まれて開発されてきた。特許文献1にその例が開示されている。その概要を説明すると、幾枚もの薄プレートを積層し、これらを互いに接合することで所期の内部流路構造を有したリアクタモジュールを構築する。そして、反応空間と熱媒流通空間とが上下に積層された構造を実現し、混合・反応と同時に熱交換も並行して行える熱交換器付のプレート積層型リアクタモジュールを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US6537506B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来例のようなプレート積層型リアクタモジュールには、いくつかの課題がある。
まず、プレート同士を簡便に接合する方法としていわゆるロウ付けを挙げることができるが、この手法では、マイクロチャネルの表面にもロウ付けの素材が露出することになり、もともとの材質の特性が活かされない結果となり、品質的な問題を抱えることになりかねない。また、この手法では、温度をかけてロウ(銀など)を溶融させるので、溶融した銀がマイクロチャネル内を塞ぐ可能性もあり、製法として再現性が担保されない。
【0007】
このような課題を克服する接合手法として拡散接合が挙げられる。この手法では、積層したプレートを高温の炉に入れ不活性ガス雰囲気下でプレートの表面部を溶融させてプレート同士を直接接合させるため、上記ロウ付けの場合のような問題は生じない。
しかしながら、形成するチャネルパターンによって、プレート同士の接合が甘い箇所が生じて、流通させる液体が漏れるケースも確認される。特に、熱媒体用のユニットでは、チャネルの開口面積が大きいため、プレート同士の接合強度を確保しにくい。
【0008】
そこで、本発明は、プレート積層型マイクロリアクタモジュールにおいて、流体の流路となるチャネル面積を大きくした場合でも、拡散接合によってプレート同士を強度良く接合できるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明にかかるマイクロリアクタモジュールは、以下の構成をとる。
(1)主面の外周部を除く領域に第1凹部が凹設された第1プレートと、主面の外周部を除く領域に第2凹部が凹設された第2プレートとが、第1凹部と第2凹部とが対向するように積層され、当該第1凹部及び第2凹部によって形成される内部空間に流体を流通させる流体ユニットを備え、第1凹部の底面から複数の第1リブを立設させると共に、当該複数の第1リブの立設位置に合わせて第2凹部の底面から複数の第2リブを立設させ、第1リブと第2リブとを互いの天面どうしで接触させ、当該接触面で拡散接合することとした。
【0010】
(2)上記複数の第1リブ及び複数の第2リブは、各々を柱状に形成し、前記第1凹部の底面及び第2凹部の底面に沿って二次元的に分散して配設することが好ましい。特に、複数の第1リブ及び複数の第2リブを、マトリックス状に配列することが好ましい。
(3)上記流体ユニットに、内部空間に流体を導入する導入口と、内部空間から流体を導出する導出口とを設け、内部空間における導入口に近接する入口領域および導出口に近接する出口領域では、入口領域と出口領域に挟まれた中央領域と比べて、第1リブ及び第2リブが配設される密度を低く設定することが好ましい。
【0011】
(4)上記複数の第1リブ及び複数の第2リブは、各プレート上で隣り合うリブ同士の間隔を、各リブの径以上に規定することが好ましい。
(5)上記マイクロリアクタモジュールにおいて、流体ユニットを、熱媒体を流通させる熱媒体ユニットとして用い、更に、内部に反応液を流通させるマイクロ流路を有する反応ユニットを設け、熱媒体ユニットと反応ユニットとを、互いに拡散接合してもよい。
【0012】
また上記目的を達成するために、本発明にかかるマイクロリアクタモジュールの製造方法は、以下の構成をとる。
(6)流体を流通させる流体ユニットを作製する際に、主面の外周部を除く領域に第1凹部を凹設するとともに当該第1凹部の底面から複数の第1リブを立設して第1プレートを作製する第1プレート作製工程と、主面外周部を除く領域に第2凹部を凹設するとともに前記複数の第1リブの立設位置に合わせて第2凹部の底面から複数の第2リブを立設して第2プレートを作製する第2プレート作製工程と、第1プレートと第2プレートとを、第1凹部と第2凹部とが対向するように、且つ複数の第1リブと第2リブとが互いの天面どうしで接触するように積層する積層工程と、第1リブと第2リブとの接触面を拡散接合法によって接合する接合工程とを設けた。
【0013】
(7)上記マイクロリアクタモジュールの製造方法において、第1プレート作製工程では、プレート材に対して、第1リブを設ける領域を除いて、第1凹部に相当する領域を削り取る加工を施し、第2プレート作製工程では、プレート材に対して、第2リブを設ける領域を除いて、第2凹部に相当する領域を削り取る加工を施せばよい。
(8)上記第1プレート作製工程および第2プレート作製工程では、プレート材に対して、ファトレジスト法を用いて、上記加工を施すことが好ましい。
【0014】
(9)上記積層工程において、第1プレートおよび第2プレートに加えて、マイクロ流路に対応する開口を有したプレートを含む複数枚の反応ユニット用プレートを積層し、接合工程では、第1リブと第2リブとの拡散接合に加えて、上記複数枚の反応ユニット用プレートを互いに拡散接合してもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記(1)の発明によれば、第1プレートと第2プレートとを、第1凹部と第2凹部とが対向するように積層させて、第1凹部及び第2凹部によって形成される内部空間に流体を流通させる流体ユニットを構成し、且つ、第1凹部の底面から立設した複数の第1リブと、第2凹部の底面から立設した複数の第2リブとを、天面同士を拡散接合している。
このように、流体ユニットを構成する第1プレートと第2プレートとが、複数の第1リブおよび第2リブを介して接合されているので、プレート間の接合が補強される。従って、流体ユニットにおいて液漏れが起こりにくい、高品質・高性能な積層型のマイクロリアクタモジュールが実現される。
【0016】
また、この流体ユニットにおいては、接合された複数の第1リブおよび第2リブが、内部空間を積層方向に貫いて、第1プレートの凹部底面と第2プレートの凹部底面との間を支える支柱のように存在しているので、第1プレート及び第2プレートに外力が加わってもたわみ変形が生じにくい(剛性が向上する)。
よって、流体ユニットにおけるプレートの接合強度と変形に対する強度が向上する。
【0017】
このような流体ユニットにおいて、リブとリブとの間隙が流体の流通路となるが、流体とリブとの間でも熱交換されるので、マイクロ熱交換器として用いれば熱交換性が優れたものとなる。
ここで、(2)複数の第1リブ及び複数の第2リブの各々を柱状に形成し、前記第1凹部の底面及び第2凹部の底面に沿って二次元的に分散して配設すれば、内部空間全体にわたって流体を流通させることができ、且つ第1プレート及び第2プレートの接合強度と剛性を向上させる効果が大きい。特に、複数の第1リブ及び複数の第2リブを、マトリックス状に配列すれば、リブ同士の空隙を流体が流れる際の圧力損失を下げ、プレートどうしの接合強度も向上させることができる。
【0018】
また、(3)上記流体ユニットに、内部空間に流体を導入する導入口と、内部空間から流体を導出する導出口とを設け、内部空間における導入口に近接する入口領域および導出口に近接する出口領域では、入口領域と出口領域に挟まれた中央領域と比べて、第1リブ及び第2リブが配設される密度を低く設定すれば、内部空間全体に流体を均一的に流通させることができる。
【0019】
また、(4)複数の第1リブ及び複数の第2リブは、各プレート上で隣り合うリブ同士の間隔を、各リブの径以上に規定すれば、流体がリブ同士の空隙を流れる際の圧力損失を下げ、流体をよりスムースに流通させることができる。
上記マイクロリアクタモジュールにおいて、(5)流体ユニットを、熱媒体を流通させる熱媒体ユニットとして用い、更に、内部に反応液を流通させるマイクロ流路を有する反応ユニットを設け、熱媒体ユニットと反応ユニットとを、互いに拡散接合させれば、反応ユニットと熱交換器とが一体となり且つ接合強度も優れた高品質なマイクロリアクタモジュールを実現することができる。
【0020】
製造方法に関する上記(6)の発明によって製造されたマイクロリアクタモジュールにおいても、(1)と同様、流体ユニットを構成する第1プレートと第2プレートとが、複数の第1リブおよび第2リブを介して接合されるので、流体ユニットにおけるプレートの接合強度と変形に対する強度が向上する。
このマイクロリアクタモジュールの製造方法において、(7)第1プレート作製工程では、プレート材に対して、第1リブを設ける領域を除いて、第1凹部に相当する領域を削り取る加工を施し、第2プレート作製工程では、プレート材に対して、第2リブを設ける領域を除いて、第2凹部に相当する領域を削り取る加工を施せば、凹部形成とリブ形成とを1つの工程で同時に行うことができる。
【0021】
ここで、(8)上記第1プレート作製工程および第2プレート作製工程では、プレート材に対して、ファトレジスト法を用いて加工を施せば、第1凹部および第2凹部と第1リブおよび第2リブとを簡易・迅速に精度よくパターニング形成することができる。また、次の積層工程でも、第1リブと第2リブとを精度よく位置合わせして接触させることができ、接合工程も迅速に行うことができる。
【0022】
従って、製造工程の簡略化に寄与し、製造コスト低減にも寄与する。
上記マイクロリアクタモジュールの製造方法において(9)上記積層工程において、第1プレートおよび第2プレートに加えて、マイクロ流路に対応する開口を有したプレートを含む複数枚の反応ユニット用プレートを積層し、接合工程では、第1リブと第2リブとの拡散接合に加えて、上記複数枚の反応ユニット用プレートを互いに拡散接合すれば、(5)と同様に、反応ユニットと熱交換器とが一体となり且つ接合強度も優れた高品質なマイクロリアクタモジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態にかかるマイクロリアクタモジュールの分解斜視図である。
【図2】上記マイクロリアクタモジュールに用いるプレートの構成を示す平面図である。
【図3】上記マイクロリアクタモジュールに用いるプレートの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本実施形態にかかるマイクロリアクタモジュールの構造を示す分解斜視図である。
本実施形態にかかるマイクロリアクタモジュール1は、図1に示すとおり、複数のプレートが積層されてなる積層型モジュールであって、反応ユニット300と、この反応ユニット300を挟むように配された熱媒体循環ユニット100と熱媒体循環ユニット200とから構成されている。
【0025】
熱媒体循環ユニット100は、1対のプレート10とプレート20が接合されて構成され、熱媒体循環ユニット200は、1対のプレート60とプレート70とが接合されて構成されている。
反応ユニット300は、3枚のプレート30、40、50が接合されて構成されている。
(反応ユニット300)
はじめに反応ユニット300について、図1を参照しながら説明する。
【0026】
反応ユニット300は、プレート40が、プレート30とプレート50とで上下から挟まれて構成されている。
中央に位置するプレート40には、反応用液が流通する流路となる開口部41,42,43が蛇行して形成されている。
すなわち、予熱通路となる開口部41,42が、始点部41S,42Sから蛇行して終点部41E,42Eに到るまで形成され、当該開口部41,42は、各終点部41E,42Eにおいて合流している。そして、当該合流点を始点して、終点部43Eに到るまで、反応液の通路となる開口部43が蛇行状に開設されている。
【0027】
また、プレート30には、予熱用通路の始点部41S,42Sと位置整合するように、反応液用の開口部31,32が開口され、プレート50には、開口部43の終点部43Eと整合する位置に、反応液導出用の開口部51が開口されている。
このような反応ユニット300において、中央のプレート40に形成された反応液流路用の開口部41,42,43、及び当該開口部に臨むプレート30,50の壁面とが、反応液の流路空間を形成する。
【0028】
なお、反応ユニット300において、熱媒体を積層方向に流通させる経路を形成するため、プレート40には、左右両端部に熱媒体を流通させる熱媒体用の開口部44,45が開設され、これと整合する位置に、プレート30及びプレート50の左右両端にも、熱媒体用の開口部33,34が開設されている。
(熱媒体循環ユニット100,200)
ここでは、主に熱媒体循環ユニット100について説明する。
【0029】
図1に示すように、熱媒体循環ユニット100は、下部プレート10と、上部プレート20とが接合されて構成されている。図2は、熱媒体循環ユニット100を構成する上部プレート20および下部プレート10の平面図であって、(a)は上部プレート20の下面側を示し、(b)は下部プレート10の上面側を示している。
下部プレート10の上面には、外周部12よりも内側の領域に、一定の深さで凹部13が形成されており、当該凹部13の底面から複数の微小なリブ11が立設されている。
【0030】
各リブ11の高さは外周部12と同じ高さである(リブ11の天面が外周部12と同一面上にある)。
一方、図2に示すように、上部プレート20の下面にも、外周部22よりも内側の領域に、一定の深さで凹部23が形成されており、当該凹部23の底面から複数の微小なリブ21が立設されている。各リブ21の高さは外周部22と同じ高さである(リブ21の天面が外周部22と同一面上にある)。
【0031】
ここで、凹部23は、下部プレート10に形成された凹部13と鏡対称の形状に形成され、また複数のリブ21も、下部プレート10に配設された複数のリブ11と鏡対称の形状に配置されており、下部プレート10と上部プレート20とを積層させたときに、凹部13と凹部23とが整合し、複数のリブ11と複数のリブ21とが整合する(積層方向に投影したときに、凹部13と凹部23とは重なり合い、複数のリブ11も複数のリブ21と重なり合う)。
【0032】
このようにして、下部プレート10と上部プレート20とは、外周部12と外周部22とが接触し、複数のリブ11の天面と複数のリブ21の天面とが接触した状態で積層され、接触した箇所で拡散接合されている。
なお、熱媒体循環ユニット100において、熱媒体を導入・導出する経路を形成するために、下部プレート10には、凹部13の左端部に、熱媒体導入用の開口部16が開設され、上部プレート20には、凹部23の左端部に熱媒体用の開口部26が、右端部に熱媒体用の開口部27が開設されている。
【0033】
また、反応液用の経路を形成するために、下部プレート10には、上記反応ユニット300の始点部41S,42Sと整合する位置に導管部14,15が立設され、上部プレート20にも導管部24,25が立設されている。
熱媒体循環ユニット200は、上記熱媒体循環ユニット100とほぼ同様の構成である。
【0034】
すなわち、熱媒体循環ユニット200は、図1に示すように、下部プレート60と、上部プレート70とから構成され、下部プレート60の上面には、外周部62よりも内側の領域に、一定の深さで凹部63が形成されており、当該凹部63の底面から複数の微小なリブ61が立設され、上部プレート70の下面には、外周部よりも内側の領域に、一定の深さで凹部73が形成されており、当該凹部73の底面から複数の微小なリブ71が立設されている(図3参照)。
【0035】
そして、熱媒体循環ユニット200において、熱媒体を導入・導出する経路を形成するために、下部プレート60には、凹部63の左端部に熱媒体導入用の開口部65、右端部に熱媒体用の開口部66が開口され、上部プレート70には、凹部73の右端部に熱媒体導出用の開口部75が開口されている。
また、反応液用の経路を形成するために、上記反応ユニット300の終点部43Eと整合する位置に、下部プレート60には導管部64が立設され、上部プレート70にも導管部74が立設されている。
(マイクロリアクタモジュールの機能)
このマイクロリアクタモジュールにおいて、図1に矢印で示すように、反応液Aは、導管部14から導入され、次いで、導管部24,開口部31を経由して、上記予熱用の開口部41を流れる。一方、反応液Bは、図1に矢印で示すように、導管部15から導入され、次いで、導管部25 開口部32を経由して、予熱用の開口部42を流れる。そして、Y字状の合流部で混合された後、混合された反応液Cは、図中矢印で示すように、開口部43を蛇行状に流通し、開口部51,導管部64を経由して、導管部74から導出される。
【0036】
熱媒体Dは、図1に矢印で示すように、下部左端にある開口部16から導入され、その一部は熱媒体循環ユニット100の内部空間を流れ、開口部27,34,45、53,66を経由して、上方右端にある開口部75から導出され、残りは、開口部26,33,44,52経由して、開口部65から熱媒体循環ユニット200の内部空間を流れて、開口部75から導出される。
【0037】
このように熱媒体Dは、反応ユニット300を上下から挟み込む熱媒体循環ユニット100と熱媒体循環ユニット200の各内部空間を流通しながら熱交換を行う。
(プレートの材質,開口部形成法)
上記各プレート10,20,30,40,50、60,70を作製するためのプレート材としては、凹部形成加工、開口成形が可能な素材で、かつ表面部が所定の温度で加熱したときに溶融状態になり得る素材であれば、いずれをも用いることができる。その例としてステンレス、ハステロイ(ヘインズ社の登録商標)をはじめとするニッケル合金、ガラス、樹脂、セラミックス素材などが挙げられ、中でも、ステンレス、ハステロイ、ガラス、樹脂が好ましい。
【0038】
プレート材に対する開口部の形成は、例えば、レーザにより所定の寸法・パターンでプレート材をカットする方法(レーザ法)を用いて形成することができる。
(凹部およびリブのパターニング)
プレート10,20,60,70を作製する際の凹部およびリブの形成方法について説明する。
【0039】
プレート材主面における、複数のリブ並びに外周部を残した領域に対して、公知の方法を用いて、プレート材に対して所定のパターンで削り取る加工を施すことによって凹部およびリブを同時に形成することができる。
一例として、感光剤を用いるフォトレジスト法が挙げられる。
プレート面にレジスト剤を塗布して、上面にマスクをあてがった状態で露光することによって、リブ及び外周部を形成する領域だけにレジスト膜をパターン成形し、レジスト膜が形成されていない領域のプレート材をエッチングなどで削り取る手法である。ポジ法、ネガ法何れでも可能である。
【0040】
ここで、互いに接合する上下のプレートには、貼り合わせたときに同一位置に整合するように各リブを形成することが肝要であるが、同一形状のマスクを用いてフォトレジスト法で形成すればそれが可能である。
(プレートの積層と拡散接合)
上記各プレート10,20,30,40,50、60,70を、位置整合するように互いに積層し、拡散接合処理する。
【0041】
すなわち、反応ユニット300においては、各導管部31,32と、始点部41S、42Sとが位置整合し、導管部51と終点部43Eとが位置整合するよう積層する。
熱媒体循環ユニット100,200においては、各リブ同士、残余面部(外周面)同士が、導管部同士が、それぞれ位置整合しかつそれらの対向する面部が接触した状態で積層する。図3(a),(b)では、熱媒体循環ユニット200を構成する下部プレート60、上部プレート70が積層される際に、位置整合した複数のリブ61と複数のリブ71とが突き合わされて、天面61aと天面71aが接触する様子、位置整合した外周部62と外周部72が接触する様子、導管部64と導管部74が接触する様子が示されている。
【0042】
そして、このように積層したプレート同士を加圧して密着させて、加熱すると、接触部分で相互拡散が生じて拡散接合がなされる。これによって、各ユニット100,200,300が形成され、ユニット100,200,300同士も、各導管部同士が位置整合された状態で互いに接合される。
(リブによる効果)
上記のように、熱媒体循環ユニット100,200は、リブの天面同士が接合されるので、各プレートに形成されている凹部が広面積であっても、高い接合強度が確保される。
【0043】
更に、特筆すべきは、熱媒体循環ユニット100,200だけでなく、その上部(下部)に積層されている反応ユニット300を構成するプレート30,40,50同士の接合強度向上にも寄与する点である。
つまり、熱媒体循環ユニット100,200にリブが設けられているので、拡散接合を実施するときに、プレート10,20,30,40,50、60,70の積層体を上下から押圧する際に、その押圧力が熱媒体循環ユニット100,200は無論、反応ユニット300にも確実に伝達され、反応ユニット300を構成するプレート同士が密に接触した状態で拡散接合反応がなされるため、それらプレート同士の接合強度も向上する。
【0044】
この結果、熱媒体循環ユニット100,200の熱媒体流路および反応ユニット300の反応液流路のいずれにおいても、耐圧性に優れ、液漏れが起こり難い高品質・高性能のリアクタモジュールが実現される。
(リブの配置形態)
熱媒体循環ユニット100,200におけるリブの配置形態などについて詳細に説明する。
【0045】
各プレート10,20,60,70において、凹部の底面に立設する各リブの形状は、円柱形状、角柱形状など、柱状であることが好ましい。
また、対向するリブの天面どうしを拡散接合させるため、各リブの天面は平坦であることが望ましい。
プレートどうしの接合強度を高めるためには、凹部の底面から立設させるリブの数は多く設定することが好ましいが、凹部の底面に対するリブの占有面積を大きくすると、熱媒体の流路面積が確保しにくい。従って、図2に示すように、各リブを、平面視したときに微小なドット状に形成し、これを多数、凹部の底面に分散して配置することが望ましい。これによって、熱媒体の流路面積を確保しながら、接合強度が優れたモジュールを実現できる。
【0046】
ここで熱媒体を流通させたときの圧力損失を考慮すると、リブ同士の間隔は、リブの径以上に確保することが望ましい。
ドット状のリブを配置するパターンについては、規則的(マトリックス状)に配列してもよいし不規則的に配列してもよいが、ドット状のリブを規則的なパターンで配置する方が、不規則的に配置するよりも、流体の流れをスムーズに整えることができる。
【0047】
内部空間にリブが存在することは、熱交換効率の向上にも貢献する。つまり、熱媒体が流通する内部空間内にリブが存在することによって、熱媒体と内部空間壁面との接触面積が増大するので、熱媒体と反応液との間で熱伝達が迅速に行われる。そしてこの熱交換性は、リブの数を多くするほど向上する。従って、複数のリブを微細なドット状に形成することで熱交換性が飛躍的に向上することになる。
【0048】
また、ある程度以上に接合強度を確保しつつ圧力損失を低くするため、図3に示すようにプレート60,70の中央部にリブ61,71よりも天面積の大きなリブ61L、71Lを形成し、これらの天面同士を接合させることもできる。そうすると、中央部での接合強度が向上する。その分、リブ61,71の個数を減らせば、熱媒体の流通圧力損失を低減することもできる。
【0049】
リブ径(リブが円柱状の場合は底面の直径、角柱状の場合は底面に外接する円の直径)、及びリブ間隔(隣り合うリブどうしの間隔)としては、リブ径100μm〜1500μm、リブ間隔500μm〜1500μmの範囲が好ましく、より好ましい範囲は、リブ径500μm〜1000μm、リブ間隔500μm〜1000μmである。
ここで、図2に示すとおり、下部プレート10の中央部に、管部17を形成し、その管部17に、組み立て時にセンサ(熱電対)を挿入するための貫通孔を設け、プレート20にも、管部17と整合する位置に管部17が嵌合する孔部Pを形成することもできる。
【0050】
このようにすれば、反応液が流れる流路近傍にセンサ先端部が位置するように温度センサを挿入できるので、その部位の反応液の温度を正確に測定することができる。
次に、熱媒体循環ユニット100,200において、内部空間にリブを配置する密度分布について記載する。
【0051】
図2(b)に示すように下部プレート10においては、凹部13の中で、左右方向両端部に近い領域F,G(すなわち開口部16及び導出口の近傍)では相対的にリブ11が粗(低密度)に配され、左右方向中央領域Hでは相対的に密(高密度)に配されている。また、凹部13の左右方向中央領域Hの中において、周縁部(図中I,J)では、リブ11が相対的に粗に配置されている。
【0052】
上部プレート20におけるリブ21の配置パターンも、図2(a)に示されるように同様である。
内部空間における熱媒体の流れを図2(b)に矢印Eで示している。
開口部16から内部空間に導入された熱媒体の多くは、リブが低密度に形成されている領域Fおよび領域Iに広がるように分配され、分配された熱媒体は、中央領域Hにおけるリブが高密度に配されている領域を並行して横断するように通過し、リブが低密度に形成されている出口側の領域J、Gに到り、集合して出口から導出される。
【0053】
このようにして、熱媒体は、凹部13全体にわたって均一的に流れ、且つスムーズな流れが形成される。
次に、熱媒体循環ユニット100,200を、各々、上下2枚のプレートを貼り合わせて形成した点について説明する。
反応ユニット300を構成するプレート30の下面およびプレート50の上面に、凹部およびリブを形成したプレートをそれぞれ1枚だけ貼り合わせて熱媒体循環ユニットを形成することもできるが、その場合、1つの凹部で熱媒体循環通路を確保するために、プレートの厚みを厚くして凹部の深さを深く設定しなければならない。そのため、プレートの強度が確保しにくい。これに対して、本実施形態のように凹部およびリブを形成したプレートを2枚貼り合わせて形成すれば、各プレートに形成する凹部の深さは半分でも、同等の熱媒体循環通路空間を確保することができる。従って、プレートの強度を確保できる点、並びに凹部を容易に形成する点で望ましい。
【0054】
(変形例など)
以上の説明では、凹部内にリブを設けたプレートを貼り合わせて熱媒体用ユニットを形成したが、凹部内にリブを設けたプレートを貼り合わせて反応ユニットを形成することも可能である。すなわち、反応ユニットを、熱媒体循環ユニット100を同様の構造にして、その内部空間に、混合した反応液を流通させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、複数のプレートを積層してなる積層型のマイクロリアクタモジュールにおいて、各プレート同士の接合強度が優れたものを実現することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 マイクロリアクタモジュール
100,200 熱媒体循環ユニット
300 反応ユニット
10,20 熱媒体循環ユニット100を構成するプレート
30,40,50 反応ユニット300を構成するプレート
60,70 熱媒体循環ユニット200を構成するプレート
11,21,61,71 リブ
61a,71a リブの天面
13,23,63,73 凹部
63b,73b 凹部の底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面の外周部を除く領域に第1凹部が凹設された第1プレートと、主面の外周部を除く領域に第2凹部が凹設された第2プレートとが、第1凹部と第2凹部とが対向するように積層され、当該第1凹部及び第2凹部によって形成される内部空間に流体を流通させる流体ユニットを備え、
前記流体ユニットは、
前記第1凹部の底面から複数の第1リブが立設されるとともに、当該複数の第1リブの立設位置に合わせて前記第2凹部の底面から複数の第2リブが立設され、当該第1リブと第2リブとが互いの天面どうしで接触し、当該接触面で拡散接合されていることを特徴とするマイクロリアクタモジュール。
【請求項2】
前記複数の第1リブ及び複数の第2リブは、各々が柱状であって、
前記第1凹部の底面及び第2凹部の底面に沿って二次元的に分散して配設されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロリアクタモジュール。
【請求項3】
前記流体ユニットには、
前記内部空間に流体を導入する導入口と、前記内部空間から流体を導出する導出口とが設けられ、
前記内部空間における前記導入口に近接する入口領域および前記導出口に近接する出口領域では、当該入口領域と出口領域に挟まれた中央領域と比べて、
第1リブ及び第2リブが配設される密度が低く設定されていることを特徴とする請求項2に記載のマイクロリアクタモジュール。
【請求項4】
前記複数の第1リブ及び複数の第2リブは、
各プレート上で隣り合うリブ同士の間隔が、各リブの径以上に規定されている請求項2に記載のマイクロリアクタモジュール。
【請求項5】
前記流体ユニットは、前記流体として熱媒体を流通させる熱媒体ユニットであって、
前記マイクロリアクタモジュールは、更に、
内部に反応液を流通させるマイクロ流路を有する反応ユニットを備え、
前記熱媒体ユニットと反応ユニットとは、互いに拡散接合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロリアクタモジュール。
【請求項6】
流体を流通させる流体ユニットを備えるマイクロリアクタモジュールの製造方法であって、
主面の外周部を除く領域に第1凹部を凹設するとともに当該第1凹部の底面から複数の第1リブを立設して第1プレートを作製する第1プレート作製工程と、
主面外周部を除く領域に第2凹部を凹設するとともに前記複数の第1リブの立設位置に合わせて第2凹部の底面から複数の第2リブを立設して第2プレートを作製する第2プレート作製工程と、
前記第1プレートと第2プレートとを、第1凹部と第2凹部とが対向するように、且つ前記複数の第1リブと第2リブとが互いの天面どうしで接触するように積層する積層工程と、
前記第1リブと第2リブとの接触面を拡散接合法によって接合する接合工程と経ることにより前記流体ユニットを製造することを特徴とするマイクロリアクタモジュールの製造方法。
【請求項7】
前記第1プレート作製工程では、
プレート材に対して、第1リブを設ける領域を除いて、第1凹部に相当する領域を削り取る加工を施し、
前記第2プレート作製工程では、
プレート材に対して、第2リブを設ける領域を除いて、第2凹部に相当する領域を削り取る加工を施すことを特徴とする請求項6に記載のマイクロリアクタモジュールの製造方法。
【請求項8】
前記第1プレート作製工程および第2プレート作製工程では、
プレート材に対して、ファトレジスト法を用いて、上記加工を施すことを特徴とする請求項7に記載のマイクロリアクタモジュールの製造方法。
【請求項9】
前記積層工程において、
前記第1プレートおよび第2プレートに加えて、
マイクロ流路に対応する開口を有したプレートを含む複数枚の反応ユニット用プレートを積層し、
前記接合工程では、
第1リブと第2リブとの拡散接合に加えて、前記複数枚の反応ユニット用プレートを互いに拡散接合することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のマイクロリアクタモジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172803(P2010−172803A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16615(P2009−16615)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(390024442)株式会社ワイエムシィ (22)
【Fターム(参考)】