説明

マイクロリアクター及びその製造方法

【課題】反応物含有流体を流通させる際の圧損が小さく、しかも、高い触媒活性を有するマイクロリアクター及びその製造方法を提供する。
【解決手段】触媒金属を含むアルミナよりなる厚さ0.5〜10μmの触媒層3が内壁に形成された、内径10〜1000μmの親水性キャピラリー1よりなるマイクロリアクターであって、該親水性キャピラリー内壁に、アルミニウムと触媒金属の複合酸化物よりなる酸化物層を形成し、次いで上記触媒金属の酸化物の少なくとも一部を還元して金属化することによって製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なマイクロリアクター及びその製造方法に関する。詳しくは、親水性キャピラリー内部に、触媒金属を含有したアルミナの多孔質体よりなる層を均一に保持させることにより、高い反応物流速が得られると共に、有効な触媒活性を有するマイクロリアクター及びその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の分離および合成等のマイクロ合成プロセスに組込んで使用されるマイクロリアクターは、従来、金属、ガラス、そしてシリコン等耐薬品性高分子の基板上にミクロンオーダーの微小な流路を形成し、該流路内壁に必要な表面化学修飾あるいは活性物質の固定化を施して構成されていた。例えば、触媒反応に係る微量合成の場合、ガラス基板に微小流路となる凹部を刻み、これにもう一枚のガラス基板を張り合わせて作成されることが多い。
【0003】
しかしながら、上記マイクロリアクターは、触媒層の均質な担持、流路設計、加工の複雑さ、圧力損失の増大等、改善余地が残されている。
【0004】
一方、キャピラリー内空間に、細孔直径0.1〜100μm程度のマクロ細孔よりなる三次元網目状に連続した貫通孔と、細孔径が数nmから数十nmのナノ細孔とを有する二元細孔シリカを形成したロッド状二元細孔溶融石英キャピラリーカラムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このロッド状の二元細孔シリカを内蔵したキャピラリーカラムは、マクロ細孔よりなる三次元網目状に連続した貫通孔とナノ細孔との二種類の細孔を有する二元細孔構造を有するものである。そして、かかる複雑なマクロ細孔構造と、これに連続するナノ細孔構造を利用して、ガスクロマトグラフや液クロマトグラフ用或いは固相抽出用のカラムとしての用途が示されている。
【0006】
しかし、前記キャピラリーカラム全体に二元細孔シリカを形成したマイクロリアクターを使用した場合、複雑なマクロ細孔構造により、反応物を含む流体(以下、反応物含有流体ともいう)の圧損が高く、該流体の高い流速を達成し難く、これによる反応の高効率化が達成し難く、また、触媒金属の不存在により、高活性化を達成し得る高性能なマイクロリアクターを得ることが困難である。
【0007】
また、キャピラリー内壁に多孔質シリカゲル層を形成させる手法による、ガスクロマトグラフ用キャピラリーカラムや、触媒金属として金属銅を担持させたマイクロリアクターが報告されている(非特許文献1,2)。しかしながら、上記マイクロリアクターは、担体がシリカゲルベースであるため、アルカリに対する耐性等の問題により、用途が限定されるという欠点があった。
【0008】
一方、アルミナは安定であり、メタノールのスチームリフォーミング用の触媒担体としても広く用いられており、アルミナを主成分とした触媒層を有するマイクロリアクターは携帯用燃料電池用の水素製造などに利用されることが期待される。
【0009】
【特許文献1】特開平11−287791号公報
【非特許文献1】J.Ceram.Soc.Japan,113(2005)634〜636
【非特許文献2】Chem.Lett,35(2006)1078〜1079
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、キャピラリータイプのマイクロリアクターにおいて、金属触媒の担体としてアルミナを使用し、しかも、キャピラリー内に反応物含有流体を通過せしめる際の圧損が低く、これにより高い反応物流速を達成すると共に、高活性を達成できる、高性能なマイクロリアクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねてきた結果、後述する特定の方法により、親水性キャピラリー内壁に、アルミニウムと他の金属の複合酸化物よりなる厚さ1〜5μmの酸化物層を形成し、次いで、上記他の金属の酸化物の少なくとも一部を還元して金属化することにより、かかる目的を全て達成し得る高性能なマイクロリアクターを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、触媒金属を含有するアルミナよりなる厚さ0.5〜10μmの触媒層が内壁に形成された、内径10〜1000μmの親水性キャピラリーよりなることを特徴とするマイクロリアクターである。
【0013】
また、本発明は、上記マイクロリアクターの製造方法として、内径10〜1000μmの親水性キャピラリー内壁に、アルミニウムと触媒金属の複合酸化物の多孔質体よりなる厚さ0.5〜10μmの酸化物層を形成し、次いで、上記他の金属の酸化物の少なくとも一部を還元して金属化することを特徴とするマイクロリアクターの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明のマイクロリアクターによれば、親水性キャピラリー内に、反応物含有流体の流路となる適度な径の中空貫通孔を有するため、該反応物含有流体を通過せしめる際の圧損が小さい。しかも、触媒金属を均一に含有するアルミナよりなるため、アルミナに触媒金属を後から担持させたものに対して、アルミナの細孔の内部まで均一に触媒金属が存在しているものと推定され、これにより、高活性化を達成することが可能である。
【0015】
また、本発明のマイクロリアクターは、筒状体であるため、異なる触媒金属を担持した複数のマイクロリアクターを直列に接続することにより、逐次反応、分離等、複数の機能を連続して発現すべくマイクロリアクターの集積化およびプロセス構成が可能となる。
【0016】
更に、同種の触媒金属を担持した複数のマイクロリアクターを並列に配置することにより、反応量をも調整することができる。
【0017】
従って、携帯用燃料電池、コンビナトリアルケミストリー用反応器等のマイクロリアクターを必要とする用途において、極めて有用な発明であるといえる。
【0018】
更にまた、本発明のマイクロリアクターの製造方法は、前記特殊な構造のマイクロリアクターを簡易に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のマイクロリアクターにおいて、親水性キャピラリーの内径(直径)は、10〜1000μmの範囲内にあり、望ましくは100〜500μmであり、更に望ましくは200〜500μmの範囲にある。即ち、キャピラリーの内径が1000μmよりも大きい場合、マイクロリアクター内を通過する反応物含有流体と触媒層との接触が不十分となり、ショートパス量が増加するなどして、触媒活性が低下するおそれがある。また、後述する製造方法においても、金属水酸化物の沈降によって触媒層の厚みに偏りができ、均一な触媒層を形成することが困難と成る。一方、キャピラリー内径が前記範囲より小さい場合、反応物含有流体の圧損を低く確保するために、担持される触媒層の厚みを十分とることが困難となり、触媒層の機能が低下するおそれがある。
【0020】
また、多孔質アルミナ層を有するキャピラリーの長さは特に限定されないが、1mm〜50mの範囲内になることが望ましく、特に、リアクターにセッティングする場合は、5mm〜5m、好ましくは、0.5〜4mの範囲内にあることが望ましい。
【0021】
更に、親水性キャピラリーは、少なくとも内壁が親水性を有し、且つ、後述する製造方法における熱処理に対して耐久性を有する材質よりなるものであれば特に制限なく、公知のガラス、例えば、溶融石英ガラス、ソーダガラス等によって成形されたものでもよいし、金属管よりなるものであってもよい。
【0022】
本発明のマイクロリアクターの最大の特徴は、上記親水性キャピラリーの内壁に、触媒金属を含有するアルミナよりなる厚さ1〜5μmの触媒層が形成されたことにある。即ち、上記触媒層は、アルミナの内部に触媒金属が分散して存在する。そのため、かかる触媒層は、アルミナに触媒金属を後から担持させる従来の触媒層に比べて、高い触媒活性を示す。
【0023】
尚、アルミナの内部に触媒金属が存在することは、後述する製造方法により確定することもでき、また、蛍光X線分析、X線回折、或いは、SEM−EDX(電子顕微鏡とX線分析)などによって確認することができる。
【0024】
本発明の触媒層を形成する上記アルミナは、触媒金属以外に、後述する製造方法において、該触媒金属の酸化物を還元する際に残存する、アルミナ以外の金属酸化物を含有していてもよい。
【0025】
かかる触媒層において、親水性キャピラリーの内壁に形成されるアルミナは、後述の製造方法に示すように、水酸化物粒子を堆積せしめ、それを焼成して得られるものであるため、ナノレベルの細孔を有する多孔質体を構成する。その多孔質体の細孔平均細孔径(直径)は、2〜15nmであると推定される。このことは、同様の反応によって得られた、触媒金属を含有するアルミナの細孔容積を測定することによって確認された。また、上記細孔の容積は、一般に、0.1〜1.5cc/gである。
【0026】
かかる触媒層が、高活性を示す作用として、上記ナノレベルの細孔を有するアルミナの骨格に、触媒機能を有する金属(触媒金属)が分散して存在し、アルミナの全ての細孔の表面において、触媒金属が均一に露出して反応点或いは吸着点として作用することによるものと推定している。
【0027】
上記触媒層において、触媒金属は、反応に応じて、公知のものが制限なく使用される。代表的なものを例示すれば、白金、ロジウム、パラジウム、銅、ニッケル、亜鉛等が挙げられる。これらの触媒金属は、単独、或いは、二種以上を組み合わせて使用される。そのうち、例えば、エチレンの水素化反応においては、銅が好ましく、また、メタノール合成の反応、メタノールのスチームリフォーミングによる水素生成反応においては、銅−亜鉛の組合せが好ましい。
【0028】
また、触媒層に存在させる触媒金属の存在割合は、触媒金属の種類、対象とする反応物等によって異なり、一概に限定することはできないが、一般に、0.1〜85質量%、特に、0.3〜70質量%の濃度で存在させることが好ましい。
【0029】
本発明のマイクロリアクターにおいて、前記触媒層の厚みは、良好な触媒反応率を発現するためには、一般に0.5〜10μmの範囲内にあることが望ましく、特に望ましくは1〜5μmの範囲内である。即ち、触媒層の厚みが、0.5μmより薄い場合、触媒反応率が低下し、また、10μmを超える場合、触媒反応率の向上効果は頭打ちとなり、逆に、該触媒層によって形成される中空貫通孔の径を小さくし、反応物含有流体の通過時の圧損を上昇させる傾向がある。
【0030】
尚、前記触媒層の厚みは、後述する実施例に示すように、筒状多孔質シリカの断面の電子顕微鏡観察像或いは後述する圧力損失評価法により求めることができる。
【0031】
本発明のマイクロリアクターは、前記触媒層によって囲まれた、直管状の中空貫通孔を有している。そのため、従来のキャピラリーの全空間に二元細孔シリカをロッド状に形成したマイクロリアクターに比べて、抵抗が小さい上、各ロット毎の反応物(反応化学種)の滞在時間のばらつきが著しく小さいというメリットを有する。例えば、複数本を並列に使用する場合、それぞれのマイクロリアクター間での反応率の差などを軽減することもできる。
【0032】
本発明において、触媒層の断面形状及び中空貫通孔の断面形状は特段に制限されるものではない。一般に、かかる形状は、親水性キャピラリーの内面の断面形状によって決定される。一般に、中空貫通孔の断面形状は円形が望ましく、触媒層の断面形状もこれに対応して円形であることが好ましい。このように対応させることで、断面上の周方向に沿って触媒層に一定の厚みを持たせることができ、反応の均一性を図ることができる。
【0033】
中空貫通孔の他の形状としては、用途に応じて様々選択が可能であって、例えば三角、四角若しくはそれ以上の多角形、又は楕円等も選択可能である。
【0034】
図1は、本発明のマイクロリアクターの代表的な態様を示す概略図である。
【0035】
図に従って説明すれば、本発明のマイクロリアクター1は、ナノ細孔を有する触媒層3が親水性キャピラリー4の内壁に均一に形成され、流路となる中空貫通孔2が形成される。
【0036】
本発明のマイクロリアクターにおいて、触媒層に存在する金属触媒の割合量は、触媒活性、反応の条件等によって異なり、一概に限定されないため、実験によって求めることができる金属触媒の最低量を下限に、また、多孔質構造を失わない量を上限として適宜決定される。
【0037】
(マイクロリアクターの製造方法)
本発明のマイクロリアクターの製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、内径10〜1000μmの親水性キャピラリー内壁に、アルミニウムと触媒金属の複合酸化物よりなる厚さ1〜5μmの酸化物層を形成し、次いで、上記他の金属の酸化物の少なくとも一部を還元して金属化する方法が挙げられる。
【0038】
以下、上記製造方法について詳細に説明する。
【0039】
1.アルミニウムと触媒金属の複合酸化物の形成
アルミニウムと触媒金属の複合酸化物は、前記親水性キャピラリー中に、水溶性のアルミニウム化合物、及び、水溶性の触媒金属化合物と尿素などの熱分解により塩基性化合物を生成する化合物とを含む水溶液を充填した後、加熱することによってアルミニウム及び触媒金属の金属水酸化物を生成せしめ、この金属水酸化物のガラス内壁との親和性により、該内壁に均質に付着させ、次いで、該金属水酸化物を乾燥・焼成することによって、アルミニウムと触媒金属の複合酸化物よりなる層が親水性キャピラリーの内壁に形成される。
【0040】
尚、親水性キャピラリー内に、前記水溶液を充填する方法は、特に制限を受けるものでないが、例えば、キャピラリー内を減圧し前記水溶液を吸入させる方法は、内径の小さなキャピラリーへも充填させることができ好適である。
【0041】
また、前記方法において使用する、水溶性のアルミニウム化合物としては、硝酸アルミニウムや硫酸アルミニウムなどの水溶性塩が挙げられる。また、均質溶液を得られる範囲にあって、アルミニウムブトキシドなどのアルコキシドを用いても良い。添加する水溶性の触媒金属化合物も均質溶液を得られれば特に限定されないが、焼成後に不純物が残らないため、触媒金属の硝酸塩が望ましい。
【0042】
また、前記熱分解により塩基性化合物を生成する化合物は、金属塩を含む溶液が弱酸性であるため、このpHを水酸化物沈殿が形成する領域まで増加せしめることが可能であれば、特に限定されないが、価格や取扱の容易さの点でも尿素が望ましい。
【0043】
本発明において、前記水溶性のアルミニウム化合物、水溶性の触媒金属化合物、熱分解により塩基性化合物を生成する化合物の割合は、均一溶液が得られ、加熱による熱分解により塩基性化合物を生成する化合物の熱分解によってpH制御が可能であればよく、水溶性のアルミニウム化合物、及び、水溶性の触媒金属化合物の濃度を制御することにより触媒層の厚みが制御できる。また、熱分解により塩基性化合物を生成する化合物、特に、尿素の量については、一部の金属イオンではアンモニアと錯体を形成したりして一度形成した水酸化物が再溶解する場合があるため、添加量と加熱条件を制御する必要がある場合もある。
【0044】
一般には、水溶性のアルミニウム化合物、及び、水溶性の触媒金属化合物の濃度は1〜100mmol/L、好ましくは5〜50mmol/Lであり、熱分解により塩基性化合物を生成する化合物の量は金属塩の濃度と同程度であればよい。
【0045】
前記金属水酸化物の沈殿を進行させる代表的方法としては、キャピラリー両端を密閉して、熱分解により塩基性化合物を生成する化合物の分解温度以上、例えば、尿素においては、80〜120℃の範囲内、より望ましくは80〜100℃の範囲内で1時間〜1週間放置することが望ましく、より望ましくは上記いずれかの温度範囲内で2時間〜24時間の範囲内で放置することである。
【0046】
尚、上述したように、均一沈殿形成には熱分解により塩基性化合物を生成する化合物の熱分解により溶液のpHが、金属水酸化物が生成する領域まで上昇することが必要である。一方、熱分解により塩基性化合物を生成する化合物として尿素を使用する場合、過剰のアンモニアが生成してアンミン錯体を形成して沈殿が再溶解しないような条件を得るため、予め実験を行い、所望の厚みの層が高収量で得られるよう、尿素の添加量および加熱温度・時間を決定することが好ましい。
【0047】
また、上記のようにして得られた金属水酸化物の乾燥は、30〜80℃の範囲内で数時間〜数十時間の範囲内で放置することにより行うことが好ましい。また、乾燥後、上記水酸化物を酸化物とするために焼成する温度の範囲としては100〜1100℃が望ましく、より望ましくは200〜700℃の範囲内である。
【0048】
2.触媒層の形成
前述のとおりキャピラリー内での均一沈殿生成では、キャピラリー表面との相互作用により、金属水酸化物の複合沈殿がキャピラリー内壁に均一に堆積するように進行し、その後、これを乾燥・焼成して、アルミニウムと触媒金属の複合酸化物の多孔質体が形成される。
【0049】
本発明のマイクロリアクターの触媒層は、上記アルミニウムと触媒金属の複合酸化物の少なくとも一部を還元することにより、上記触媒金属の酸化物の少なくとも一部を還元して金属化することによって得ることができる。
【0050】
具体的には、前記複合酸化物を水素気流下で熱処理して、触媒金属酸化物の少なくとも一部を触媒金属に還元する。上記水素気流下での熱処理における水素流量、熱処理温度は特に限定されず、該触媒金属酸化物の処理量等を勘案して適宜決定される。
【0051】
図2は、本発明のマイクロリアクターを組み込んだ簡単な反応装置の一例を示す。図2において、触媒層を有するマイクロリアクター1は、必要に応じて、ヒーター8により加熱されると共に、1種以上の反応原料7がラインより供給される。反応原料は、マイクロリアクターの中空貫通孔にて反応後、ラインによりタンク6に戻され、その一部が製品5として取り出され、必要に応じて精製される。
【0052】
本発明のマイクロリアクターの使用条件は、反応物、金属触媒の種類によって適宜決定されるが、下記の傾向を考慮して決定することが好ましい。即ち、反応物含有流体の流速、即ち、キャリアガス流速は、速くし過ぎると反応物と触媒層の接触時間が短くなるため、転化率が低下する傾向がある。また、反応物含有流体中の反応物の濃度を高くし過ぎると転化率が減少する傾向にある。更に、本発明のマイクロリアクターにおいて、転化率は反応温度が上がると共に増加する傾向があり、後述する実施例の反応においては、反応温度150℃付近で転化率100%となる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0054】
(触媒層の組成)
触媒層の組成は、エネルギー分散型蛍光X線分析法(島津製作所EDX−900HS)により、CuO:ZnO:Alの比として測定した。
【0055】
(圧力損失評価)
触媒層を有するキャピラリーの圧力損失評価は、50mmの長さに切断したものを測定試料とした。前記キャピラリーに圧縮空気を流すことによる生じる中空貫通孔を通過前後の圧力差を差圧計により、また、通過後の圧縮空気の流量を流量計により測定した。
【0056】
測定した流量と単位長さ当たりの圧力損失をプロットし、Hargen−Poiseuilleの計算式により筒状多孔質シリカの中空貫通孔の直径を求めた。
【0057】
Hargen−Poiseuille式:
△P/L=32μu/D
(μ:空気の粘度=1.81×10−5、u:流速、D:中空貫通孔の直径)
u=Q/(π(D/2))であるから△P/L=(128μ/πD)・Qと表せ、流量と単位長さあたりの圧力損失のプロットから得られる傾きがこの式の中カッコであり、D=(128μ/π(傾き))1/4から中空貫通孔の直径Dが求まる。
【0058】
(結晶系の確認)
X線回折装置(島津製作所XRD7000)により焼成後、還元後の試料の測定を行い、回折ピークより存在する結晶相の同定を行った。
【0059】
(触媒活性評価)
本実施形態に係るマイクロリアクターの触媒性能を調べるためにFIDガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC−14B)を用い、下記反応におけるエタンへの転化率を測定した。
【0060】
+ H → C
FIDガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC−14B)
・分離カラム J.Ceram.Soc.Japan,113(2005)634−636.に記載の方法と同様にして作製されたものを使用し、その長さは、エタンとエチレンの分離が可能な長さである5mとした。
【0061】
・キャリアガス H(20kPa)
・分離カラム温度 室温
上記ガスクロマトグラフィーによる分析結果はパソコンによりモニターし、専用ソフト(Graph Analyzer)を用いて、ピーク面積、半値幅を求めた。また、FIDガスクロマトグラフィーにおいてピーク面積は専用のインテグレーター(島津社製C−R6A Chromatopac)により測定した。
【0062】
エタンへの転化率(%)=(消費エチレン)/(供給エチレン)×100
実施例1
市販の溶融石英キャピラリー(0.530mm(内径)×0.750mm(外径)、1m(長さ)、ジーエルサイエンス製)を用いた。
【0063】
試薬グレードの硝酸銅3.91g、硝酸亜鉛1.60g、硝酸アルミニウム2.02g(いずれも結晶水含む)を水に溶かし50mlとし、モル数で硝酸イオンの3倍量に相当する尿素を加えた。この溶液をアスピレーターで溶融石英キャピラリー内に導入した。溶融石英キャピラリーの両末端をシリコン栓とエポキシ樹脂で密閉し、温度80℃で20時間静置して尿素を熱分解して、水酸化物の均一沈殿を形成した。静置後の溶液のpHは6.2であった。沈殿はキャピラリーの内壁に均一に層を作るように形成された。内部の溶液を除去した後、50℃で1週間乾燥させた。上記乾燥後250℃で1時間焼成した。
【0064】
上記方法により得られた溶融石英キャピラリーの内壁には、酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウム(アルミナ)の多孔質複合酸化物が約2μmの厚みで均一に存在していることを電子顕微鏡で確認した。
また、蛍光X線分析の結果より多孔質複合酸化物の組成は、モル比でCu:Zn:Al=3:1:1であり、仕込みの組成比と一致した。
【0065】
次いで、上記250℃焼成した後、200℃で水素還元して得られた触媒層のX線回折パターンを図3に示す。焼成によりCuOが、還元によりCu金属結晶が生成していることが確認できた。
【0066】
このようにして得られた、触媒層の厚みは、還元前とほぼ同じく、約2μmであり、また、マイクロリアクターの圧力損失は、触媒層を形成する前のキャピラリーのそれとほぼ一致し、触媒層の形成が流体の流動抵抗にほとんど影響しないことが確認された。
【0067】
尚、本実施例において作成された触媒層を有するマイクロリアクターの断面を図4に示す。
【0068】
作成したマイクロリアクターを、リアクター長0.3mに切り出し、予め水素により、水素流量30cm/min、200℃の温度で1時間還元した後、該マイクロリアクターをアダプターによりシリカゲルの分離カラムと接続し、水素をキャリアとし、FID−GCを用いて、反応温度150℃で、エチレンの水素化によるエタンへの転化率を測定した。
【0069】
上記反応において、リアクターに供給するガス流速を表1に示すように変えて、転化率を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
比較例1
実施例1において、銅、亜鉛を担持しなかった以外は、同様にして、エチレンの水素化によるエタンへの転化率を測定した結果、転化率は0%であった。
【0071】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明にかかるマイクロリアクターの概略図
【図2】マイクロリアクターを使用したプロセスの概略図
【図3】焼成試料、還元試料のX線回折パターン
【図4】マイクロリアクター断面構造を示す電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0073】
1 マイクロリアクター
2 中空貫通孔
3 多孔質シリカ
4 キャピラリー
5 製品
6 タンク
7 反応原料
8 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属を含有するアルミナよりなる厚さ0.5〜10μmの触媒層が内壁に形成された、内径10〜1000μmの親水性キャピラリーよりなることを特徴とするマイクロリアクター。
【請求項2】
触媒層の厚さが1〜5μmである請求項1記載のマイクロリアクター。
【請求項3】
内径10〜1000μmの親水性キャピラリー内壁に、アルミニウムと触媒金属の複合酸化物の多孔質体よりなる厚さ1〜5μmの酸化物層を形成し、次いで、上記触媒金属の酸化物の少なくとも一部を還元して金属化することを特徴とするマイクロリアクターの製造方法。
【請求項4】
酸化物層が、前記キャピラリー内に、アルミニウムおよび他の金属の金属塩と熱分解により塩基性化合物を生成する化合物とを含む水溶液を充填した後、加熱して金属水酸化物沈殿をキャピラリー内壁に堆積せしめ、次いで、該金属水酸化物沈殿を焼成して酸化物とすることによって形成された、請求項3記載のマイクロリアクターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−68241(P2008−68241A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251825(P2006−251825)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】